説明

セルロースアシレートドープの製造方法及び溶液製膜方法

【課題】支持体からのセルロースアシレートフィルムの剥離性を向上させるとともに、二酸化ケイ素微粒子の凝集を抑制する。
【解決手段】二酸化ケイ素微粒子と25℃の水中における酸解離定数(pKa)が1.9〜4.5である酸とのいずれか一方を、ポリマーとしてセルロースアシレートを用いたポリマー溶液22に混合して第1液47とし、この第1液に前記微粒子と酸とのうちの他方を添加してドープとする。あるいは、溶剤と二酸化ケイ素微粒子と前記酸とを、酸の濃度が0.5重量%となるように混合して第2液とし、この第2液を送液されているセルロースアシレート溶液にインライン添加してドープとする。これらの方法により、セルロースアシレートフィルムは良好に支持体から剥離されるとともに微粒子の凝集が抑制されるので、光学的特性に優れたフィルムを高速で製造することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、セルロースアシレートドープの製造方法及び溶液製膜方法に関するものであり、特に、光学用セルロースアシレートフィルムを製造するためのセルロースアシレートドープの製造方法及び溶液製膜方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
セルロースアシレートフィルムは、その光学的性質や適度な透湿性、光学的等方性、機械的特性等の諸特性により偏光板や液晶表示装置等に多く用いられており、通常は溶液製膜方法により製造される。
【0003】
溶液製膜方法は、セルロースアシレートと添加剤等とを溶媒に溶解あるいは分散させたドープと呼ばれる液を、流延ダイから走行する支持体上に流延して流延膜とし、これをフィルムとして剥がして所定の条件下で乾燥させ、連続的に巻き取る方法である。なお、巻き取ったフィルムが接着してしまうことを防止するために、フィルムには所定の微粒子をマット剤として添加させることが多く、この微粒子としては、フィルムの透明性やコスト等の観点からSiO2 微粒子が用いられる。
【0004】
近年では、液晶表示装置の需要拡大に応じるために、セルロースアシレートフィルムの生産性を上げる必要性が非常に大きくなっており、そのためには流延速度を向上させねばならない。流延の高速化に応じて、支持体に流延されているドープ(以降、流延膜と称する。)を支持体から剥離する速度を大きくする必要があるが、この剥ぎ取り性が悪いとフィルムの面状故障が発生してしまうという問題が発生する。
【0005】
流延膜の支持体からの剥ぎ取り性向上については、セルロースアシレートと支持体との密着力を低減させるという方法がある(例えば、特許文献1参照)。流延膜と支持体との密着性は、セルロースアシレートと支持体表面の金属との水素結合、及び、原料であるセルロースアシレート中に含まれているカルシウムイオンを介しての流延膜と支持体とのイオン結合に起因しており、特に、後者の結合力は前者の結合力に比べて非常に強い。特許文献1では、この後者のイオン結合力を弱くするために、所定の強さの酸をドープ中に添加している。
【特許文献1】特開平10−316701号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1の方法によると、支持体との密着力を制御して流延膜の支持体からの剥離性は向上するが、SiO2 微粒子が凝集してしまう傾向が強くなる。SiO2 微粒子が凝集した状態でフィルムに含まれると、フィルムの透明性等の光学的性質が悪化してしまうという問題が発生する。そこで、本発明は、酸の存在によりSiO2 微粒子が凝集してしまう現象を発現させることなく、酸とSiO2 微粒子とを含むセルロースアシレートドープを製造する方法を提案することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、本発明のセルロースアシレートドープの製造方法は、二酸化ケイ素を含む微粒子と25℃の水中における酸解離定数(pKa)が1.9〜4.5である酸とのいずれか一方をセルロースアシレートと溶剤との溶液に混合して第1液とし、前記微粒子と前記酸とのうちの他方が前記第1液に添加されることを特徴として構成されている。
【0008】
そして、前記微粒子と前記酸とは、送液されている前記溶液にインライン添加されることが好ましい。
【0009】
また、本発明は、溶剤と二酸化ケイ素を含む微粒子と25℃の水中における酸解離定数(pKa)が1.9〜4.5である酸とを前記酸の濃度が0.5重量%よりも大きくならないように混合して第2液とし、この第2液を送液されているセルロースアシレート溶液にインライン添加することを特徴として含んで構成されている。
【0010】
上記の各方法においては、酸は多価カルボン酸エステルであることが好ましく、この多価カルボン酸エステルがクエン酸エステルであることがより好ましい。前記クエン酸エステルは、トリエステル含有比率が10重量%以下であるとともに不純物としてのクエン酸の含有比率が5重量%以下であることが好ましい。
【0011】
さらに、本発明は、流延ダイから走行する支持体上に複層の流延膜を形成するように複数のセルロースアシレートドープを流延して複層のフィルムとして剥がし、剥がされた前記複層フィルムを乾燥させる溶液製膜方法において、上記のセルロースアシレートドープ製造方法により得られたドープで、前記流延膜の各層のうち前記支持体と接触する層を形成することを特徴として含んで構成されている。
【発明の効果】
【0012】
酸の存在により微粒子が凝集してしまう現象を発現させることなく、酸と微粒子とを含むセルロースアシレートドープを製造することができる。これにより、支持体からの流延膜の剥離性を向上させて高速のフィルム製造をすることができるとともに、マット剤等の微粒子の凝集を抑制して光学的特性を維持したフィルムを製造することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下に、本発明の実施様態について詳細に説明する。ただし、本発明はここに挙げる実施様態に限定されるものではない。
【0014】
[原料]
本実施形態のセルロースアシレートとしては、トリアセチルセルロース(TAC)が特に好ましい。このTACとしては、リンター綿とパルプ綿とのいずれから得られたものでもよいが、好ましくはリンター綿から得られたものである。そして、セルロースアシレートの中でも、セルロースの水酸基の水素に置換されているアシル基の置換度が下記式(I)〜(III)の全てを満足するものがより好ましい。なお、以下の式(I)〜(III)において、Aはセルロースの水酸基の水素に対するアセチル基の置換度、またBはセルロースの水酸基の水素に対する炭素原子数3〜22のアシル基の置換度である。なお、TACの90質量%以上が0.1mm〜4mmの粒子であることが好ましい。
(I) 2.5≦A+B≦3.0
(II) 0≦A≦3.0
(III) 0≦B≦2.9
【0015】
セルロースを構成し、β−1,4結合しているグルコース単位は、2位、3位および6位に遊離の水酸基を有している。セルロースアシレートは、これらの水酸基の一部または全部の水素を炭素数2以上のアシル基により置換してエステル化した重合体(ポリマー)である。アシル置換度は、2位、3位および6位の水酸基がエステル化している割合であって、各水酸基が100%エステル化していると各置換度は1である。したがって、3つの水酸基がすべて100%エステル化しているとアシル基置換度は3となる。
【0016】
ここで、グルコース単位の2位の水酸基の水素にアシル基が置換した割合(以下、「2位のアシル置換度」とも言う)をDS2とし、3位の水酸基の水素にアシル基が置換した割合(以下、「3位のアシル置換度」とも言う)をDS3とし、6位の水酸基の水素にアシル基が置換した割合(以下、「6位のアシル置換度」とも言う)をDS6とする。全アシル置換度、即ち、DS2+DS3+DS6は2.00〜3.00が好ましく、より好ましくは2.22〜2.90であり、特に好ましくは2.40〜2.88である。また、D6S/(DS2+DS3+DS6)は0.32以上が好ましく、より好ましくは0.322以上、特に好ましくは0.324〜0.340である。
【0017】
セルロースアシレートのアシル基は1種類だけでもよいし、あるいは2種類以上であってもよい。アシル基が2種類以上であるときには、そのひとつがアセチル基であることが好ましい。2位、3位及び6位の水酸基の水素がアセチル基により置換された割合(置換度)の総和をDSAとし、アセチル基以外のアシル基による2位、3位及び6位の水酸基の水素の置換度の総和をDSBとすると、DSA+DSBの値は、より好ましくは2.2〜2.86であり、特に好ましくは2.40〜2.80である。また、DSBは1.50以上であることが好ましく、特に好ましくは1.7以上である。さらにDSBはその28%以上が6位水酸基の置換基であるが、より好ましくは30%以上が6位水酸基の置換基であり、31%以上がさらに好ましく、特には32%以上が6位水酸基の置換基であることも好ましい。また更に、セルロースアシレートの6位のDSA+DSBの値が0.75以上であることが好ましく、さらに好ましくは0.80以上であり、特に好ましくは0.85以上である。これらのセルロースアシレートを用いることにより溶解性の好ましい溶液(ドープ)を製造することができ、特に、非塩素系有機溶媒において溶解性が良好な溶液の製造が可能となる。さらに、上記のようなセルロースアシレートにより、粘度が低く濾過性の良い溶液の製造が可能となる。
【0018】
セルロースアシレートの炭素数2以上のアシル基としては、脂肪族基でもアリール基でもよい。それらは、例えばセルロースのアルキルカルボニルエステル、アルケニルカルボニルエステルあるいは芳香族カルボニルエステル、芳香族アルキルカルボニルエステルなどであり、それぞれさらに置換された基を有していてもよい。これらの好ましい例としては、プロピオニル基、ブタノイル基、ペンタノイル基、ヘキサノイル基、オクタノイル基、デカノイル基、ドデカノイル基、トリデカノイル基、テトラデカノイル基、ヘキサデカノイル基、オクタデカノイル基、iso−ブタノイル基、t−ブタノイル基、シクロヘキサンカルボニル基、オレオイル基、ベンゾイル基、ナフチルカルボニル基、シンナモイル基などを挙げることが出来る。これらの中でも、プロピオニル基、ブタノイル基、ドデカノイル基、オクタデカノイル基、t−ブタノイル基、オレオイル基、ベンゾイル基、ナフチルカルボニル基、シンナモイル基などがより好ましく、特に好ましくはプロピオニル基、ブタノイル基である。
【0019】
また、ドープを調製するための溶媒としては、芳香族炭化水素(例えば、ベンゼン,トルエン等)、ハロゲン化炭化水素(例えば、ジクロロメタン,クロロベンゼン等)、アルコール(例えば、メタノール,エタノール,n−プロパノール,n−ブタノール,ジエチレングリコール等)、ケトン(例えば、アセトン,メチルエチルケトン等)、エステル(例えば、酢酸メチル,酢酸エチル,酢酸プロピル等)及びエーテル(例えば、テトラヒドロフラン,メチルセロソルブ等)等が例示される。なお、ここで、ドープとはポリマーを溶媒に溶解または分散して得られるポリマー溶液または分散液である。
【0020】
これらの溶媒の中でも炭素原子数1〜7のハロゲン化炭化水素が好ましく用いられ、ジクロロメタンが最も好ましく用いられる。そして、セルロースアシレートの溶解性、流延膜の支持体からの剥ぎ取り性、フィルムの機械的強度、フィルムの光学特性等の種々の特性の観点から、炭素原子数1〜5のアルコールを一種ないし数種類を、ジクロロメタンに混合して用いることが好ましい。このとき、アルコールの含有量は、溶媒全体に対し2質量%〜25質量%であることが好ましく、5質量%〜20質量%であることがより好ましい。アルコールの具体例としては、メタノール,エタノール,n−プロパノール,イソプロパノール,n−ブタノール等が挙げられるが、中でも、メタノール,エタノール,n−ブタノール、あるいはこれらの混合物がより好ましく用いられる。
【0021】
ところで、最近、環境に対する影響を最小限に抑えることを目的に、ジクロロメタンを使用しない場合の溶媒組成についても検討が進み、この目的に対しては、炭素原子数が4〜12のエーテル、炭素原子数が3〜12のケトン、炭素原子数が3〜12のエステルが好ましく、これらを適宜混合して用いることがある。これらのエーテル、ケトン及びエステルは環状構造を有していてもよい。また、エーテル、ケトン及びエステルの官能基(すなわち、−O−,−CO−及び−COO−)のいずれかを二つ以上有する化合物も、溶媒として用いることができる。また、溶媒は、例えばアルコール性水酸基のような他の官能基を化学構造中に有していてもよい。
【0022】
本発明における微粒子としては二酸化ケイ素(SiO2 )の微粒子が用いられている。本実施形態において用いるSiO2 は市販品であり、ドープ製造に供するときの粒子状態は、凝集がほとんど起こっていない一次粒子である。従来の方法によると、これが溶媒やセルロースアシレート溶液に分散している間に凝集して二次粒子を形成してしまい、酸が共存しているときにはさらに凝集が進行しやすく大きな粒子となってしまうが、以下に説明するような本発明の方法によると一次粒子径をほぼ維持するようになる。
【0023】
酸としては、25℃の水中における酸解離定数(pKa)が1.9〜4.5であるものを用いる。そしてこのような酸としては、多価カルボン酸エステルが好ましく、この多価カルボン酸エステルがクエン酸エステルであることがより好ましい。
【0024】
ところで、多価カルボン酸エステルは、通常、原材料である多価カルボン酸を含んでしまっている。これは、カルボン酸のエステル化反応が可逆反応であることに起因する。カルボン酸は、支持体からの剥離性を向上させるという意味では含まれていてもよいのであるが、セルロースアシレート中に含まれているカルシウムと反応してカルシウム塩を生成してしまう。こうして生成したカルシウム塩は、沈殿物として生成してフィルム中に不純物として残ってしまう、あるいは支持体上に接着して、流延膜生成の際にその面状を荒らしてしまうという問題を引き起こす。したがって、多価カルボン酸エステル中における不純物としての多価カルボン酸の含有率は低いほど好ましく、具体的には5重量%以下であることが好ましい。したがって、多価カルボン酸エステルとしてクエン酸エステルを用いた場合には、不純物として含まれているクエン酸の含有率は5重量%以下であることが好ましいことになる。
【0025】
また、多価カルボン酸エステルの中でもその平均エステル化率が100%であるエステルは、カルボキシル基がないので分子間力が小さすぎ、そのため流延膜やフィルムからの揮散性が部分的にエステル化されたものよりも高いという性質がある。流延膜やフィルムからの揮散性が高いと、これが、製造工程を汚染してしまい、設備の連続稼働時間を短くしてしまったり、フィルムの面状故障を起こしてしまうという問題が生じる。したがって、多価カルボン酸エステルの中でも、平均エステル化率が100%に近いエステルの含有率は少ないほど好ましく、具体的には10重量%以下であることが好ましい。したがって、多価カルボン酸エステルとしてクエン酸エステルを用いる場合には、1価あるいは2価のエステルが多いほど本発明では好ましく、トリエステルが10重量%以下であることが好ましいことになる。
【0026】
なお、セルロースアシレートの詳細については、特開2005−104148号公報の[0140]から[0195]に記載されており、これらの記載は本発明にも適用することができる。また、溶媒及び可塑剤,劣化防止剤,紫外線吸収剤,光学異方性コントロール剤,染料,マット剤,剥離剤,レタデーション制御剤等の添加剤についても、同じく特開2005−104148号公報の[0196]から[0516]に詳細に記載されている。
【0027】
本発明のセルロースアシレートドープから製造されるフィルムは、その高い寸法安定性から偏光板または液晶表示用部材等に使用されうるが、偏光板または液晶ディスプレイ等使用環境下での劣化防止の観点から、紫外線吸収剤がドープ中に添加されることが好ましい。この紫外線吸収剤としては、波長370nm以下の紫外線の吸収能に優れ、かつ良好な液晶表示性の観点から、波長400nm以上の可視光の吸収が少ないものが好ましく用いられる。本発明に好ましく用いられる紫外線吸収剤の具体例としては、例えばオキシベンゾフェノン系化合物、ベンゾトリアゾール系化合物、サリチル酸エステル系化合物、ベンゾフェノン系化合物、シアノアクリレート系化合物、ニッケル錯塩系化合物などが挙げられる。
【0028】
[ドープ製造方法]
本発明のセルロースアシレートドープの製造設備及び製造方法について以下に説明する。ただし、以下の実施様態は本発明の一例として挙げるものであって、本発明はこの実施様態に限定されるものではない。図1はドープ製造設備10の概略図である。ドープ製造設備10には、溶剤を貯留するための第1タンク11と、所定の添加剤を貯留するための第2タンク12と、TACを供給するためのホッパ15と、溶剤とTACと所定の添加剤とを混合するための溶解タンク16とが備えられ、さらに、溶解タンク16で撹拌されて得られた混合物17を加熱するための加熱装置21と、加熱された混合物17の温度を調整してポリマー溶液22が得られる温調装置23と、第1及び第2の濾過装置24,25と、ポリマー溶液22の濃度を調整するためのフラッシュ装置27とが配されている。
【0029】
さらに、ドープ製造設備10には、溶剤を回収するための回収装置31と、回収された溶剤を再生するための再生装置32とが備えられているとともに、ポリマー溶液22を貯留するための第4タンク33と、この第4タンク33から溶液製膜設備40までの3本の送液ラインのうち第1送液ラインL1にはそれぞれインライン接続する第5及び第6タンク36,37とが備えられ、また第2送液ラインL2にも第5タンク36がインライン接続している。第5タンク36はマット剤としての微粒子が貯留されており、本実施形態における微粒子は二酸化ケイ素である。そして、第6タンク37は剥離剤としての酸を貯留するためのものであり、本実施形態における酸はクエン酸エステルである。なお、第5、第6タンク36,37の微粒子と酸とは、微粒子及び酸のまま貯留されることもあるし、あるいは、所定の溶剤に分散された分散液や溶解された溶液として貯留されている場合もある。
【0030】
なお、前記第3タンク16には、図1に示すようにその外面を包み込んで伝熱媒体を流すためのジャケット16aと、モータ41により回転する第1攪拌機42とが備えられている。さらに、この第3タンク16には、モータ44により回転する第2攪拌機45が取り付けられている。なお、第1攪拌機42はアンカー翼が備えられたものであることが好ましく、第2攪拌機45はディゾルバータイプの偏芯型攪拌機であることが好ましい。また、このドープ製造設備10には、送液用の第1及び第2ポンプP1,P2とバルブV1〜V3とが備えられているが、ポンプ及びバルブを設ける位置や設置数等は適宜変更される。
【0031】
次に、このドープ製造設備10を用いた場合のドープ製造方法について説明する。まず、溶媒はバルブV1を開いて第1タンク11から第3タンク16に送られ、ホッパ15に供給されるTACは計量されながら第3タンク16に送り込まれる。添加剤は、溶剤に溶解した溶液状態、あるいは分散された分散状態で、バルブV2の開閉操作により必要量が第2タンク12から第3タンク16に送り込まれる。添加剤の溶剤は、通常は第1タンク11内の溶剤と同一のものとされるが、添加剤の種類等に応じて適宜代えることができる。
【0032】
添加剤が固体の場合には、第2タンク12に代えてホッパ等を用い、第3溶解タンク16に送り込むことも可能である。複数種類の添加剤を添加する場合には、それら複数の添加剤を溶解させた溶液を予め作っておき、それを第2タンク12から第3タンク16へ送液したり、あるいは、各添加剤の溶液を複数のタンクにそれぞれ入れて、それぞれ独立した送液管により第3タンク16に送り込む等の方法もある。また、添加剤が常温で液体の場合には、溶剤を使用せずに溶解タンク13に送り込むことが可能である。
【0033】
本実施形態においては、第3タンク16に入れる諸原料の順番は、溶媒、TAC、添加剤の順であったが、この順番に限定されるものではない。例えば、TAC、溶媒、添加剤の順等でもよい。なお、所定の添加剤は、ここでのタイミングでTAC及び溶媒と混合されずともよく、添加剤の種類及び性質とを考慮して、後の工程で混合してもよい。
【0034】
第3タンク16の内部温度は、ジャケット16aの内側を流れる伝熱媒体により制御されており、その好ましい温度範囲は−10℃〜55℃である。第1攪拌機42,第2攪拌機45のタイプやセルロースアシレートの種類、溶媒の種類等に応じて、セルロースアシレートの溶解性を調整することができる。したがって、本実施形態においては、混合物17はTACが溶媒中で膨潤した膨潤液22として得られるが、本発明はこの様態に限定されるものではない。
【0035】
次に、混合液17は、ポンプP1により加熱装置21に送られる。加熱装置21は、ジャケット付き配管であることが好ましく、加熱により、膨潤液状態の混合液17における固形分の溶解を進めることができる。この加熱装置21での溶解における温度は、0℃〜97℃であることが好ましい。したがって、ここでの加熱とは、室温以上の温度に加熱するという意味ではなく、第3タンクから送られてきた混合液17の温度を上昇させる意味であり、例えば、送られてきた混合液の温度が−7℃であるときにこれを0℃にする場合等も含められる。さらに、この加熱装置21には、混合液17を加圧するための加圧手段が備えられることがより好ましく、この加圧手段により、溶解をより効率的に進めることができる。
【0036】
なお、加熱装置21による加熱溶解に代えて、膨潤液である混合液17をさらに冷却して−100℃〜−10℃とする周知の冷却溶解法を適用することもでき、これらの加熱溶解法、冷却溶解法を、各原料の性状等に応じて適宜選択して実施することにより、溶解性を制御することができる。
【0037】
そして加熱された混合液17を、温調装置23により略室温としてポリマーが溶剤に溶解されたポリマー溶液22が得られる。ここでは温調装置23をでたときの液をポリマー溶液と称しているものの、TACは加熱装置22を経た段階で既に溶剤に溶解していることが多い。このポリマー溶液22は、第1濾過装置24により濾過されて未溶解物や不溶解物等が取り除かれる。この第1濾過装置24に使用されるフィルタは、その平均孔径が100μm以下のものであることが好ましい。第1濾過装置24での濾過流量は50リットル/hr.以上であることが好ましい。濾過後のポリマー溶液22は、バルブV3を介して、第4タンク33に送られて貯留される。
【0038】
ところで、上記のように一旦混合液17をつくってからポリマー溶液22とする方法は、高い濃度のポリマー溶液をつくる場合ほど要する時間が長くなり、そのため製造コストの点で問題となる場合がある。そこで、目的とする濃度よりも低濃度のポリマー溶液をつくってから、その後に目的の濃度とするための濃縮工程を行うことが好ましい。その方法としては、図1に示すように、所定の濃度よりも低濃度につくられたポリマー溶液22を、第1濾過装置24で濾過した後に、バルブV3を介してフラッシュ装置27に送り、このフラッシュ装置27でポリマー溶液の溶媒の一部を蒸発させる方法がある。蒸発により発生した溶媒ガスは、凝縮器(図示せず)により凝縮されて液体となり回収装置31により回収される。回収された溶媒は、再生装置32により再生されて再利用される。この方法により、上記の製造効率の向上と溶媒の再利用によるコストダウンとが図られる。
【0039】
上記のように濃縮されたポリマー溶液22は、ポンプP2によりフラッシュ装置27から抜き出される。さらに、ここで、ポリマー溶液22に発生した気泡を抜くために、泡抜き処理が行われることが好ましい。この泡抜き方法としては、公知の種々の方法が適用され、例えば超音波照射法が挙げられる。ポリマー溶液は、続いて第2濾過装置25に送られ、未溶解物や不溶解物等がさらに除去される。なお、第2濾過装置25におけるポリマー溶液22の温度は0℃〜200℃であることが好ましい。そして、ポリマー溶液22は第4タンク33に送られて貯蔵される。
【0040】
第4タンク33のポリマー溶液22には、流延するための溶液製膜設備40へ送液されているときに、第5タンク36からの微粒子と、第6タンク37からの酸とが図1に示すようにそれぞれ別の送液ラインを経てインライン添加される。なお、本明細書中では、ポリマー溶液22に微粒子が添加されたものを第1液と称し、この第1液に酸が添加されたものを第1ドープと称する。そして、図1においては、第1液と第1ドープとについてそれぞれ符号47,48を付した各送液方向としての矢線を示している。また、微粒子と酸とが添加された各位置の下流にはそれぞれインラインミキサ51,52が備えられており、それぞれの混合が効率よくなされるようになっている。ただし、本発明においては、微粒子と酸とのインライン添加の順序は、本実施形態の逆であってもよい。また、本実施形態においては、微粒子と酸とは、ポリマー溶液22への添加をできるだけ一定速度で実施できるように、分散媒に分散あるいは溶剤に溶解された状態でインライン添加されているが、必ずしも分散液や溶液の状態で添加される必要はない。なお、分散液や溶液を作る場合には、分散媒及び溶剤に代えてポリマー溶液22と同じあるいは近い組成の溶液等を使用してもよく、これにより、微粒子や酸のポリマー溶液22に対する混合効率が向上する。
【0041】
このように、微粒子と酸とを互いに直接接触させないことにより、微粒子の凝集を抑制している。この微粒の凝集を抑制する効果を得るためには、微粒子と酸とのいずれか一方がポリマー溶液22の中に均一に存在するように十分に混合されてから、他方が添加されることが好ましい。そのため本実施形態においては、微粒子が添加されると酸が添加される前にインラインミキサにて混合がなされる。また、本発明では、25℃の水中における酸解離定数(pKa)が1.9〜4.5である酸を上記のように添加することにより、後で述べる製膜設備の支持体とフィルムとの密着性を低減することができる。このように、フィルムを支持体から剥がし易くして、微粒子の凝集を抑制することによって、製膜速度を従来よりも大きくするとともにフィルムの品質を従来品よりも向上させることが可能となる。
【0042】
なお、インライン添加に代えて、微粒子と酸との少なくともいずれか一方を例えば別のタンク内あるいはひとつのタンク内でポリマー溶液22と順次混合させてもよい。具体的には、所定のタンクで微粒子とポリマー溶液22とを混合してから、そのタンク内に酸を添加する方法や、所定のタンクで微粒子とポリマー溶液22とを混合してからその液を別のタンクに移し、移された液に酸を添加する方法が例示され、このふたつを比べると製造効率としては後者の方が優れることは自明である。しかし、製造効率の点、つまり、両物質の添加の切り換えや製造の連続性という点では、このようなタンク内での添加よりもインライン添加方式の方がより優れる。特に、製造しようとするドープの種類に応じて微粒子または酸の種類を変更するときには、インライン添加方式によると、製造ラインを停止することなくその種類の切り換えを実施することができるという利点がある。
【0043】
本実施形態では、それぞれがポリマー溶液22に添加されているが、本発明はこの方法に限定されず、例えばそれぞれが混合物17に対して添加される方法であってもよい。ただし、本実施形態のように溶液製膜設備で使用される直前の液に対して添加されることが、微粒子の経時的凝集現象が現れる前に流延される点で特に効果がある。
【0044】
微粒子及び酸のポリマー溶液への混合には、図1に示すようなスタティックミキサ等のインラインミキサを用いることが好ましい。スタティックミキサとしてはねじれ羽根であるエレメントの数が6以上90以下であることが好ましく、6以上60以下であることがより好ましい。
【0045】
先にのべたように、溶液製膜設備40にて3層構造のフィルムを製造するためにドープ製造設備10では、第4タンク33から互いに異なる処方のドープが異なる送液ラインL1〜L3により溶液製膜設備40へ送られる。そして、上記のように微粒子と酸とが添加された第1ドープ48は、溶液製膜設備40における流延工程では流延支持体に接する側としての第1表面層を形成する。
【0046】
第2送液ラインL2に対しても第5タンク36の微粒子をインライン添加し、インラインミキサ53によりこの液を十分に撹拌分散する。インラインミキサ53により撹拌された液は、酸を添加されずにこのまま第2ドープとして溶液製膜設備40に送られ、反流延支持体側の第2表面層を形成する。また、微粒子を添加されずに第3送液ラインL3により溶液製膜設備40に送られる残りひとつの液は第3ドープとして第1表面層と第2表面層との間の中間層を形成する。なお4層以上の複層構造を有するフィルムを製造する場合であっても第1及び第2の表面層を形成するための第1及び第2ドープの製造方法は上記と同様であり、中間層を2層以上とするとよい。
【0047】
以上の方法により、TAC濃度が5質量%〜40質量%であるドープを製造することができる。なお、TACフィルムを得る溶液製膜法における素材、原料、添加剤の溶解方法、濾過方法、脱泡、添加方法については、特開2005−104148号公報の[0517]から[0616]が詳しく、これらの記載も本発明に適用することができる。
【0048】
図2は本発明の第2の実施形態を示しており、前実施形態(以下第1実施形態と称することがある。)とは異なるドープ製造設備の概略図である。図2においては、図1と同じ装置や部材を用いた場合には図1と同じ符号を付して説明を略すとともに、図2の第4タンク33に至る製造ラインについては図1に示すものと同じであるので説明及び図示を略す。本実施形態についても3層からなるフィルムを製造するための方法を例として説明する。ドープ製造設備60は、前実施形態と同様に、第4タンク33からの送液ラインを3本備える。第1の送液ラインL1には、第5タンク36中の微粒子と第6タンク37中の酸との混合物が流れる送液ラインが接続しており、第2の送液ラインL2には第5ランク36がインライン接続する。
【0049】
第5タンク36は、第6タンク37から前記第1送液ラインL1に至る送液ラインにインライン接続しており、その接続位置の直後にはインラインミキサ51が備えられている。そして、インラインミキサ51は前記第1の送液ラインL1にインライン接続し、その接続位置直後にはインラインミキサ52が備えられている。また、第5タンク36と前記第2の送液ラインとの接続位置直後にもインラインミキサ53が備えられる。第3の送液ラインは第4タンクから溶液製膜設備40に直接接続する。なお、本実施形態においては、微粒子は第5タンク36に分散液の状態で貯留されており、酸は第6タンクに溶液の状態で貯留されている。
【0050】
ドープ製造設備60を用いてドープを製造する方法は以下のとおりである。本実施形態における第6タンク37内の酸溶液については、酸の濃度が0重量%よりも大きく0.5重量%以下である。そして送液されている酸溶液に対して第5タンク36から微粒子分散液をインライン添加して両者をインラインミキサ51により十分に撹拌混合して第2液(矢線参照)とする。そして、この第2液を送液ラインL1中のポリマー溶液22にインライン添加して第1ドープ62(矢線参照)とする。
【0051】
本実施形態においては、第1実施形態とは異なり、微粒子と酸とを、ポリマー溶液22に混合する前に予め互いに接触させてはいるが、微粒子分散液と接触する酸溶液における酸の濃度を上記のような低濃度としておくことにより、微粒子が酸との接触作用により凝集してしまう減少が抑制される。酸との接触による微粒子の凝集現象を抑制するためには、酸溶液における酸の濃度は低いほど好ましく、具体的には0.3重量%以下がより好ましく0.1重量%以下が特に好ましい。ただし、流延支持体からのセルロースアシレートフィルムの剥離性を考慮すると、フィルムの剥離面の単位面積あたりに所定量以上の酸が含有されるようにしなければならない場合もある。そのような場合には、セルロースアシレート中に含まれるCa量に応じて酸の濃度を決定する、あるいは、酸溶液の濃度はできるだけ低くした状態で第5タンク36からの微粒子分散液の流量に対する第6タンク37からの酸溶液の流量の割合を大きくするとよい。なお、セルロースアシレートのCa含有量は、周知の各種分析法により測定することができる。
【0052】
この方法によると、第1実施形態のように微粒子と酸とを複数のインライン添加工程を用いて第1送液ラインL1に接続するという必要がなく、前記実施形態よりも設備を簡略化することができるという点で効果がある。また、本実施形態の方法は、微粒子と酸とを混合した段階でサンプリングしてそのサンプルにおける微粒子の分散状態を適宜確認することができるので、製造途中における品質管理の点で有効である。
【0053】
このように、酸溶液における酸の濃度を所定の値とすることにより微粒子と酸とは予め混合されてもよく、この考え方を利用すると、次に説明する方法も同様な効果があることが確認された。図3は、本発明の第3の実施形態であり、ドープ製造設備70の概略図である。図3においても図1と同様の装置及び部材については図1と同じ符号を付すとともに説明を略す。また、第2実施形態と同様に、第4タンクに至る工程は第1実施形態と同じであるので、図示及び説明を略すこととする。
【0054】
ドープ製造設備70は、第1及び第2前実施形態と同様に、第4タンク33からの送液ラインを3本備える。第1の送液ラインL1には、第2実施形態と同様に、第5タンク36中の微粒子と第6タンク37中の酸との混合物が流れる送液ラインが接続しており、第2の送液ラインL2には第5ランク36がインライン接続する。
【0055】
第5タンク36と第6タンク37とは、第1送液ラインL1に接続する第7タンク71にそれぞれ接続している。第7タンクと第1送液ラインL1の接続位置の直後にはインラインミキサ52が備えられるとともに、第5タンク36と前記第2の送液ラインL2との接続位置直後にもインラインミキサ53が備えられる。第3の送液ラインL3は第4タンクから溶液製膜設備40に直接接続する。なお、本実施形態においては、微粒子は第5タンク36に分散液の状態で貯留されている。
【0056】
このドープ製造設備70を用いてドープを製造する場合も、微粒子が混合されるときの酸が、0重量%よりも大きく0.5重量%以下の濃度の溶液で調整される。本実施形態においては微粒子と酸とは、インライン添加方式ではなく、第7タンク71内で接触して混合されるので、微粒子と接触するときの酸が液中で上記濃度とされていればよく、微粒子については分散液の状態でもあるいは固体の状態で混合に供されてもよい。そして攪拌機72を備える第7タンク71では、微粒子と酸とを十分に撹拌し、第2液74(矢線参照)を得る。そしてこの第2液74を送液ラインL1中のポリマー溶液にインライン添加して第1ドープ75(矢線参照)とする。
【0057】
本実施形態においても、微粒子分散液と接触する酸溶液における酸の濃度を上記のような低濃度としておくことにより、微粒子が酸との接触作用により凝集してしまう現象が抑制される。
【0058】
以上の第1〜第3の実施形態で説明したように、本発明では、微粒子と酸とをポリマー溶液と混合する前に両者のみで互いに接触させない方法、あるいは接触させる場合には酸の濃度を所定の値とすることにより、微粒子の凝集を抑制する。
【0059】
[溶液製膜方法]
次に、上記で得られたドープを用いてフィルムを製造する方法を説明する。図4は溶液製膜設備40を示す概略図である。ただし、本発明は、図4に示すような溶液製膜設備に限定されるものではない。溶液製膜設備40は、ドープを流延するための流延部81と、流延部81から送られてきたフィルムを乾燥するための乾燥部82と、乾燥されたフィルムを巻き取るための巻取部83とを有している。しかし、これらは設備内で明確に区画されているわけではない。
【0060】
まず流延部81について説明する。流延部81には、バックアップローラ86,87の回転により連続走行する流延支持体88としてのバンドと、この流延支持体88上にドープを流延するための流延ダイ90と、流延されたドープをフィルムとして剥ぎ取るためのローラ91とが備えられているとともに、バックアップローラ86,87にはその表面温度を制御するための伝熱媒体循環装置54が取り付けられている。さらに、流延ダイ90から流延支持体88にかけて形成されるビードの背面部を圧力制御するための減圧チャンバ94が配されている。
【0061】
以上の流延ダイ90、流延支持体88等の流延用機器は流延室95に収められ、この流延室95には、その内部温度を制御する温度コントローラ96と、揮発した有機溶媒を凝縮するための凝縮器(コンデンサ)98とが設けられている。そして、流延室95の外部には、凝縮液化した有機溶媒を回収するための回収装置101が設けられている。
【0062】
また、流延室95には、流延膜102に送風するための送風機105,106,107を設けている。本実施形態においては、各送風機105,106,107の取り付け位置は、図4に示すように流延支持体88の上方上流側と下流側,及び流延支持体の下方としているが、本発明はこれに限定されるものではない。また、流延ダイ90の下流であって流延支持体88の近傍には、遮風装置109が備えられている。
【0063】
ここで、流延部81に備えられる各流延機器についてそれぞれ詳細に説明する。流延ダイ90は、図4及び図5に示すように、ドープが供給されるフィードブロック110が備えられている。流延ダイ90の材質としては、オーステナイト相とフェライト相との混合組成をもつ2相系ステンレス鋼が好ましく、その熱膨張率が2×10-5(℃-1)以下であることが好ましい。そして、電解質水溶液での強制腐食試験でSUS316と略同等の耐腐食性を有するものもこの流延ダイ90の材質として用いることができ、さらに、ジクロロメタン、メタノール、水の混合液に3ヵ月浸漬しても気液界面にピッティング(孔開き)が生じない耐腐食性を有するものが好ましい。流延ダイ90は、さらに、鋳造後1ヶ月以上経過したものを研削加工して作製されたものであることが好ましく、これにより流延ダイ90内を流れるドープの面状が一定に保たれる。流延ダイ90と後述するフィードブロック110との接液面の仕上げ精度は、表面粗さで1μm以下、真直度はいずれの方向にも1μm/m以下であることが好ましい。流延ダイ90のスリットのクリアランスは、自動調整により0.5mm〜3.5mmの範囲で調整可能とされている。流延ダイ90のリップ先端の接液部の角部分について、そのRは全巾にわたり50μm以下とされている。また、流延ダイ90の内部における剪断速度は、1(1/秒)〜5000(1/秒)となるように調整されていることが好ましい。
【0064】
流延ダイ90の幅は特に限定されるものではないが、最終製品となるフィルムの幅の1倍〜1.5倍程度であることが好ましい。また、製膜中の温度が所定温度に保持されるように、この流延ダイ90に温度コントローラ(図示なし)を取り付けることが好ましい。また、流延ダイ90としてはコートハンガー型ダイが好ましい。さらに、フィルムの厚みを調整するために、例えば厚み調整ボルト(ヒートボルト)を流延ダイ90の幅方向に所定の間隔で設けること等の自動厚み調整機構が、この流延ダイ90に備えられていることがより好ましい。ここでのフィルム厚みとは、厚み変動と、幅方向における平坦性とを含めて意味している。ヒートボルトについては、予め設定されるプログラムによりポンプ(高精度ギアポンプが好ましい)43の送液量に応じてプロファイルが設定されることが好ましい。また、赤外線厚み計等の厚み計(図示せず)のプロファイルに基づく調整プログラムによってヒートボルトの調整量をフィードバック制御してもよい。
【0065】
流延ダイ90のリップ先端には硬化膜が形成されていることがより好ましい。硬化膜の形成方法は、特に限定されるものではないが、セラミックスコーティング、ハードクロムメッキ、窒化処理方法などが挙げられる。硬化膜としてセラミックスを用いる場合には、研削でき気孔率が低く脆くなく耐腐食性が良いものが好ましい。具体的には、タングステン・カーバイド(WC),Al2 3 ,TiN,Cr2 3 などが挙げられるが、中でも特に好ましくはWCである。WCコーティングは、溶射法で行うことができる。
【0066】
また、流延ダイ90のスリット端に流出するドープが、局所的に乾燥固化することを防止するために、スリット端には溶媒供給装置(図示せず)を取り付けることが好ましい。この場合には、ドープを可溶化する溶媒(例えば、ジクロロメタン86.5質量部,アセトン13質量部,n−ブタノール0.5質量部の混合溶媒)がビードの両端部及びスリットと外気との両気液界面に供給されることが好ましい。そして溶媒は、片端部のそれぞれに0.01mL/分〜10mL/分で供給されることが好ましく、これにより、ビード両端部の固化を防止して流延膜中への固化物混入を防止することができる。なお、この溶媒供給のためのポンプとしては、脈動率が5%以下のものが好ましい。
【0067】
流延支持体88については、その幅は特に限定されるものではないが、流延幅の1.1倍〜1.5倍であることが好ましい。また、その表面は、粗さが0.05μm以下となるように研磨されていることが好ましい。流延支持体88は、ステンレス製であることが好ましく、十分な耐腐食性と強度とを有するようにSUS316製であることがより好ましい。
【0068】
なお、ドラムを流延支持体として用いることも可能である。この場合には、偏芯等による回転ムラが0.2mm以下となるように高精度で回転できる回転ローラを用いることが好ましく、その表面の平均粗さを0.01μm以下とすることが好ましい。そして、クロムメッキ処理などを行い十分な硬度と耐久性を持たせたドラムであることがより好ましい。以上のように流延支持体88についてはその表面欠陥を最小限に抑制する必要がある。具体的には、30μm以上のピンホールが無く、10μm以上30μm未満のピンホールは1個/m2 以下であり、10μm未満のピンホールは2個/m2 以下であることが好ましい。
【0069】
次に、乾燥部82について説明する。乾燥部82は、流延支持体88から剥離されて形成されたフィルム121を所定方向に延伸しながら乾燥するテンタ122と、テンタ122の下流に備えられてフィルム121の両側端部を切断する耳切装置123とを備えるとともに、側端部を切断除去されたフィルム121をローラ126で搬送しながら乾燥する乾燥装置127と、フィルムを冷却する冷却装置128とを備える。そして、乾燥装置127には溶媒ガスを吸着回収するための吸着回収装置131が取り付けられている。なお、前記耳切装置123には、切断されたフィルム側端部の屑を細かく切断するためのクラッシャ132が接続されている。また、フィルム121がテンタ122へ導入される前の渡り部133には、送風機136が備えられている。
【0070】
巻取部83には、フィルムの帯電圧値を所定の値となるように調整するための強制除電装置(除電バー)と、フィルム121の両側端部にエンボス加工をするためのナーリング付与ローラ138と、フィルム121を巻き取るための巻取ローラ141とが備えられ、巻取ローラ141は巻き取り時のフィルム張力を制御するためのプレスローラ142を備える。なお、巻取ローラ141とプレスローラ142とは、巻取室143の内部に備えられている。
【0071】
次に、上記の溶液製膜設備40によるフィルム製造方法を以下に説明する。流延ダイ90の下方のバックアップローラ86,87は、図示しない駆動装置により回転しており、この回転に伴い流延支持体88は無端走行する。そして、10m/分〜200m/分の流延速度とされることが好ましい。バックアップローラ86,87は、流延支持体88に生じるテンションが1.5×104 kg/mとなるように駆動を制御されることが好ましく、流延支持体88とバックアップローラ86,87との相対速度差が0.01m/分以下となるように調整されることが好ましい。そして、流延支持体88については、その速度変動を0.5%以下とするとともに、一回転する際に生じる幅方向の蛇行を1.5mm以内に抑制することが好ましい。この蛇行を抑制するために、流延支持体88の両側縁の位置を検出する検出器(図示せず)を設け、その測定値に基づきバンドの位置をフィードバック制御することがより好ましい。さらに、流延ダイ90直下における流延支持体88について、バックアップローラ86の回転に伴う上下方向の位置変動が200μm以下となるように調整することが好ましい。
【0072】
また、本実施形態では伝熱媒体循環装置92によりバックアップローラ86,87が温度調整されている。このバックアップローラ86,87からの伝熱により流延支持体88の表面温度が−20℃〜40℃に調整されることが好ましい。本実施形態におけるバックアップローラ86,87には伝熱媒体の流路(図示せず)が形成されており、その流路を、伝熱媒体循環装置92により所定温度に制御されている伝熱媒体が通過することにより、バックアップローラ86,87の温度が所定の値に保持される。
【0073】
本発明では、上記のように製造された第1〜第3のドープ48,111,112が、図5に示すように、流延支持体88に接する第1表面層と、反流延支持体88側の第2表面層と、第1と第2の表面層の間の中間層とをそれぞれ形成するように流延する。第1〜第3のドープ48,111,112は、流延時における温度が−10〜57℃とされることが好ましい。
【0074】
流延ダイ90から流延支持体88にかけて形成されるビードの背面部は減圧チャンバ94により圧力制御される。これによりビードの形成が安定化されるとともに、ビードの揺れ等を制御することができる。減圧チャンバ94の内部温度は特に限定されるものではなく、この内部温度制御のために減圧チャンバ94にジャケット等を設けることが好ましい。また、減圧チャンバ94には、ドープの流出口の両側端近傍に吸引装置(図示なし)をさらに設ける場合がある。これにより、ビードの両側端部を吸引してビードの形状をより安定化することができる。この場合には、吸引風力を1〜100L/分とすることが好ましい。
【0075】
流延支持体88上の流延膜97から揮発した有機溶媒は、凝縮器(コンデンサ)98により凝縮され、回収装置101により凝縮された有機溶媒が回収されドープ調製用溶媒として再利用される。
【0076】
また、流延膜102中の溶媒は、送風機105,106,107からの乾燥風により蒸発が促進させる。また、遮風装置109は、形成直後の流延膜102が乾燥風の吹き付けにより面状が変動してしまうことを抑制する。流延室95の内部温度は、温度コントローラ96により−10℃〜57℃とされることが好ましい。
【0077】
フィルム121は、送風機134から所定温度の乾燥風を必要に応じて吹き付けられることにより乾燥を進行されてテンタ122へ搬送される。送風機134からの乾燥風の温度は20℃〜250℃であることが好ましい。なお、渡り部133では、所定のローラの回転速度を、そのローラよりも上流側のローラの回転速度よりも大きくすることによりフィルム121に搬送方向における張力を付与させることが可能となっている。
【0078】
テンタ122に送られたフィルム121は、その両端部がクリップ等の保持部材で把持されて搬送されながら乾燥される。本実施形態におけるテンタ122は、フィルム121を幅方向に延伸させることができる。このように、渡り部133とテンタ122との少なくともいずれかひとつにおいては、フィルム121の流延方向と幅方向との少なくとも1方向について0.5%〜300%延伸することが好ましい。なお、テンタ122の区画することにより、その区画毎に温度等の乾燥条件を適宜調整することが好ましい。
【0079】
フィルム121は、テンタ122で所定の残留溶媒量となるまで乾燥された後、耳切装置123により両側端部を切断除去される。切断された両側端部は、カッターブロワ(図示なし)によりクラッシャ132に送られ、このクラッシャ132により粉砕されてチップとなる。このチップはドープ調製用として再利用されるので、製造コストの改善という観点から有効である。なお、この両側端部の切断工程については省略することもできるが、前記流延工程から巻取部83による巻き取り工程までのいずれかの工程で行うことが好ましい。
【0080】
両側端部を切断除去されたフィルム121は、乾燥装置127に送られてさらに乾燥される。乾燥装置127においては、フィルム121は、ローラ126に巻き掛けられながら搬送されており、乾燥装置127の内部温度は、特に限定されるものではないが、100〜150℃の範囲であることが好ましい。乾燥装置127によりフィルム121から蒸発して発生した溶媒ガスは、吸着回収装置131により吸着回収される。そして溶媒成分が除去された空気は乾燥風として乾燥装置127で再利用される。なお、乾燥装置127は、乾燥温度を変えるために複数の区画に分割されていることがより好ましい。また、耳切装置123と乾燥装置127との間に予備乾燥装置(図示せず)を設けて、この予備乾燥装置によりフィルム121を予備乾燥すると、フィルム121の温度が乾燥装置127で急激に上昇してしまうことを防止することができるので、フィルム121の形状変化をより抑制することができる。
【0081】
フィルム121は、冷却装置128において略室温にまで冷却される。なお、乾燥装置127と冷却装置128との間に調節手段としての調湿室(図示しない)等を設けてもよく、この調湿手段ではフィルム121に所望の湿度及び温度に調整された空気を吹き付けられることが好ましい。これにより、フィルム121のカール発生や巻き取り工程における巻き取り不良の発生を抑制することができる。
【0082】
続いてフィルム121は、強制除電装置(除電バー)137により所定の帯電圧値(例えば、−3kV〜+3kV)とされる。ただし、この除電の工程位置は、本実施形態に限定されるものではなく、例えば、乾燥部82の内部の所定位置やエンボスローラ138の下流位置等であってもよく、また、複数箇所であってもよい。そしてフィルム81は、図4に示すように、その両側端部がエンボスローラ138によりエンボス加工されてナーリングを付与されることが好ましく、施されたエンボスの凹凸差が1〜200μmであることが好ましい。
【0083】
最後に、フィルム121を巻取ローラ141で巻き取る。巻き取り時のフィルムは、プレスローラ142により所望のテンションを付与されながら巻き取られる。このテンションは、巻取開始時から終了時にかけて徐々に変化されることがより好ましい。本実施形態におけるフィルム121は、長手方向の長さが100m以上、幅が600mm以上とされている。
【0084】
本発明の溶液製膜方法において、複数のドープを共流延する方法としては、同時積層流延でもよいし逐次流延でもよく、双方を組み合わせてもよい。同時積層共流延を行う際には、本実施形態のようにフィードブロックを取り付けた流延ダイを用いても良いし、マルチマニホールド型流延ダイ(図示なし)を用いても良い。複層構造のフィルムは、反剥離面の層の厚さと支持体側の層の厚さとの少なくともいずれか一方が、フィルム全体の厚みの0.5%〜30%であることが好ましい。さらに、同時積層共流延を行う場合には、高粘度ドープが低粘度ドープにより包み込まれることが好ましく、具体的には表面層を形成するドープが、それらの表面層に挟まれる層を形成するドープよりも低粘度であることが好ましい。また、同時積層共流延を行なう場合には、ダイスリットから支持体にかけて形成されるビードのうち、外界と接するドープが内部のドープよりもアルコールの組成比が大きいことが好ましい。なお、上記の各実施形態では、複層のフィルムを製造する場合のドープ、具体的には、複層フィルムの表面に露出する層のドープの製造方法に関して説明しているが、本発明は単層フィルム用のドープを製造する際にも適用することができる。
【0085】
流延ダイ、減圧チャンバ、支持体などの構造、共流延、剥離法、延伸、各工程の乾燥条件、ハンドリング方法、カール、平面性矯正後の巻取り方法から、溶媒回収方法、フィルム回収方法まで、特開2005−104148号公報の[0617]から[0889]に詳しく記述されている。これらの記載も本発明に適用できる。
【0086】
[性能・測定法]
(カール度・厚み)
巻き取られたセルロースアシレートフィルムの性能及びそれらの測定法は、特開2005−104148号公報の[0112]から[0139]に記載されている。これらの性能及び測定法は本発明に適用することができる。
【0087】
[表面処理]
前記セルロースアシレートフィルムは、その少なくとも一方の面が表面処理されてから、種々の用途に用いられることが好ましい。表面処理としては、真空グロー放電処理、大気圧プラズマ放電処理、紫外線照射処理、コロナ放電処理、火炎処理、酸処理またはアルカリ処理の少なくとも一種が好ましい。
【0088】
[機能層]
(帯電防止・硬化層・反射防止・易接着・防眩)
前記セルロースアシレートフィルムは、その少なくとも一面に下塗り層がさらに設けられて各種用途に用いられても良い。
【0089】
さらに前記セルロースアシレートフィルムは、これをベースフィルムとし、このベースフィルムに他の機能性層を付与した機能性材料として好ましく用いることできる。前記機能性層が帯電防止層、硬化樹脂層、反射防止層、易接着層、防眩層及び光学補償層から選択される少なくとも1層であることが好ましい。
【0090】
前記機能性層が、少なくとも一種の界面活性剤を0.1mg/m2 〜1000mg/m2 含有することが好ましい。さらには、前記機能性層が、少なくとも一種の帯電防止剤を1mg/m2 〜1000mg/m2 の比率で含有することが好ましい。このような機能性層の付与方法としては、特開2005−104148号公報の[0890]から[1087]に詳細な条件、方法も含めて記載されていれており、本発明に適用することができる。
【0091】
(用途)
製造されたセルロースアシレートフィルムは、特に偏光板保護フィルムとして有用である。セルロースアシレートフィルムを偏光子に貼り合わせた偏光板を、液晶層に通常は2枚貼って液晶表示装置を作製する。ただし、液晶層と偏光板との配置は限定されるものではなく、周知の各種配置とすることができる。特開2005−104148号公報には、液晶表示装置として、TN型,STN型,VA型,OCB型,反射型、その他の例が詳しく記載されている。この方法は、本発明にも適用することができる。また、同出願には光学的異方性層を付与したセルロースアシレートフィルムや、反射防止、防眩機能を付与したセルロースアシレートフィルムについての記載もある。更には、適度な光学性能を付与した二軸性セルロースアシレートフィルムとして光学補償フィルムとしての用途も記載されている。これは、偏光板保護フィルムと兼用することもできる。これらの記載内容は、本発明にも適用することができる。特開2005−104148号公報の[1088]から[1265]に詳細が記載されている。
【0092】
本発明により、光学特性に優れるTACフィルムが得られる。このTACフィルムは、偏光板保護フィルムや写真感光材料のベースフィルムとして使用することができる。さらに、テレビ用途等の液晶表示装置の視野角依存性を改良するための光学補償フィルムとして、特に、偏光板の保護フィルムを兼ねる用途に効果的である。そのため、従来のTNモードだけでなく、IPSモード、OCBモード、VAモード等の液晶表示装置に適する。
【実施例1】
【0093】
実施例を以下に説明するが、本発明はここに挙げる実施例に限定されない。以下の各実験のうち、実験1−1〜1−5は本発明を例示するものであり、本発明との比較実験については比較実験1−1,1−2とする。なお、詳細な条件については実験1−1で説明し、実験1−2〜1−5及び比較実験1−1,1−2については実験1−1と異なる条件のみを説明する。
【0094】
[実験1−1]
ポリマー溶液22を以下の配合でそれぞれ作った。
(1)ポリマー溶液22
・セルロースアセテート 98.1重量部
・可塑剤a 7.6重量部
・可塑剤b 3.8重量部
・紫外線吸収剤a 0.7重量部
・紫外線吸収剤b 0.3重量部
・ジクロロメタン 320重量部
・メタノール 83重量部
・1−ブタノール 3重量部
なお、可塑剤aはトリフェニルフォスフェート(TPP)、可塑剤bはビフェニルジフェニルフォスフェート(BDP)、紫外線吸収剤aは2(2’−ヒドロキシ−3’,5’−ジ−tert−ブチルフェニル)ベンゾトリアゾール、紫外線吸収剤bは2(2’−ヒドロキシ−3’,5’−ジ−tert−アミルフェニル)ベンゾトリアゾールである。
【0095】
次に、微粒子分散液及び酸溶液をそれぞれ以下の配合でつくった。
(2)微粒子分散液
・SiO2 1.7重量部
・上記(1)に示すポリマー溶液22 98.3重量部
(3)酸溶液
・クエン酸エステル混合物 0.3重量部
・上記(1)に示すポリマー溶液22 99.7重量部
なお、SiO2 は、アルキル処理により疎水化されたものであり、クエン酸エステル混合物は、以下の各物質の混合物であり、25℃の水中におけるpKaが3.5である。
・クエン酸 1重量%
・クエン酸モノエチルエステル 30重量%
・クエン酸ジエチルエステル 67重量%
・クエン酸トリエチルエステル 2重量%
【0096】
ドープ製造設備10を用いた第1の実施形態に準じて、上記(1)〜(3)に示すポリマー溶液22、微粒子分散液、酸溶液から3種の液をつくった。第5タンク36には微粒子分散液が、また、第1送液ラインL1に対して第5タンク36よりも下流側で接続する第6タンク37には酸溶液が入れられてある。第5タンク36から第1送液ラインL1及び第2送液ラインL2に至る両送液ラインと、第6タンク37から第1送液ラインL1に至る送液ラインとは、流量を制御しながら送液するためのポンプ(図示なし)をそれぞれ備える。このポンプの駆動条件により、ポリマー溶液22と微粒子分散液と酸溶液との配合比率を制御する。表1には、第1ドープ48における微粒子の濃度(単位;重量%)と、第1ドープ48における酸の濃度(単位;重量%)とを示す。第2送液ラインL2を流れるポリマー溶液22には微粒子分散液をインライン添加したが酸溶液は添加しなかった。また、第3送液ラインL3を流れるポリマー溶液22には微粒子分散液と酸溶液とのいずれも添加しなかった。
【0097】
第1ドープ48を含む上記3種の液から、図4に示す溶液製膜設備40及び図5に示す流延ダイ90を用いて3層のフィルム121を製造した。第1ドープ48は流延支持体88に接する層を、微粒子分散液が添加された後に酸溶液が添加されなかった液は外部に露出する層を、微粒子分散液と酸溶液とのいずれも添加されなかった液は前記2層に挟まれる層をそれぞれ形成するようにして共流延を実施した。
【0098】
流延膜102の流延支持体88からの剥離性と、流延支持体88の汚れ度と、得られたフィルム121の性状との各評価を実施した。結果については表1に示す。剥離性については、剥離力と流延支持体88への剥げ残りとを評価した。剥げ残り評価は、流延膜102を流延支持体88から剥ぎとる際の、流延支持体88の表面を目視観察するという方法である。表1の剥げ残りの項目においては、剥げ残りが全く確認されないものをA、わずかに確認されたものをB、かなりの量を確認されたものをC、多量に確認されたものをDとした。流延支持体88の汚れ度においては、汚れが全く確認されなかった場合をA、かすかに確認された場合をB、はっきりと確認された場合をC、非常に汚れた場合をDとした。
【0099】
また、フィルム121の性状評価とは、フィルムの幅方向にのびて見られる段状のムラの有無及びその程度の評価と、フィルムの表面における異物発生状況の目視観察評価と、ヘイズ測定評価とである。表1の段状ムラの項目においては、段状ムラが全く確認されなかった場合をA、わずかに確認された場合をB、かなり確認された場合をC、非常に頻発して確認された場合をDとした。異物発生評価については、異物が全く確認されなかったものをA、わずかに確認されたものをB、散見されたものをC、多量に確認されたものをDとした。ヘイズは、ヘイズ計(型式;1001DP型、日本電色工業(株)製)により測定した。
【0100】
[実験1−2]
上記(3)に示す酸溶液は第5タンク36に、微粒子分散液は第6タンク37に入れて、ポリマー溶液22に対する添加順序を実験1と逆にした。その他の条件は実験1−1と同じである。
【0101】
[実験1−3]〜[実験1−5]
実験1−3〜1−5では、第1ドープ48における酸の濃度を表1に示す値にそれぞれした。これらの実験においては、他の条件は実験1−1と同じである。
【0102】
[比較実験1−1]
剥離剤としてのクエン酸エステルを酢酸に代えた。なお、25℃の水中における酢酸のpKaは4.76である。その他の条件は、実験1−5と同じである。
【0103】
[比較実験1−2]
剥離剤としてのクエン酸エステルを塩酸に代えた。なお、25℃の水中における塩酸のpKaは−7である。その他の条件は、実験1−5と同じである。
【0104】
【表1】

【実施例2】
【0105】
[実験2−1]
以下の各実験のうち、実験2−1〜2−3は本発明を例示するものであり、本発明との比較実験については比較実験2−1,2−2とする。
【0106】
図2に示すドープ製造設備60を用いた第2の実施形態に準じて、実施例1と同じポリマー溶液22、微粒子分散液、酸溶液から3種の液をつくった。第5タンク36には微粒子分散液が、また、第6タンク37には酸溶液が入れられてある。第6タンク37からインラインミキサ51に至る送液ラインと、この送液ラインに第5タンク36が接続するための送液ラインとには、流量を制御しながら送液するためのポンプ(図示なし)がそれぞれ備えられる。これらのポンプ及びインラインミキサ51の駆動条件を変えることにより、ポリマー溶液22と微粒子分散液と酸溶液との配合比率を制御する。表1には、第1ドープ48における微粒子の濃度(単位;重量%)と、第1ドープ48における酸の濃度(単位;重量%)とを示す。第1送液ラインL1を流れるポリマー溶液22には、微粒子分散液と酸溶液との混合物である第2液61をインライン添加し、第2送液ラインL2を流れるポリマー溶液22には微粒子分散液をインライン添加した。その他の条件については実施例1の実験1−1と同じである。
【0107】
[実験2−2],[実験2−3],[比較実験2−1],[比較実験2−2]
実験2−2,2−3,比較実験2−1では、第1ドープ62における酸の濃度を表1に示す値にそれぞれした。比較実験2−2では、酸溶液を使用せず、第1送液ラインL1を流れるポリマー溶液には微粒子分散液のみを添加した。これらの実験においては、他の条件は実験2−1と同じである
【実施例3】
【0108】
[実験3−1]
図3に示すドープ製造設備70を用いた第3の実施形態に準じて、実施例1と同じポリマー溶液22、微粒子分散液、酸溶液から3種の液をつくった。第5タンク36には微粒子分散液が、また、第6タンク37には酸溶液が入れられてある。第5タンク36及び第6タンク37から第7タンクに至る各送液ラインにはバルブが備えられ、微粒子分散液と酸溶液とは、それぞれ所定量が第7タンク71に送られるようにしてある。また、第7タンク71から第1送液ラインに至る送液ラインには、流量を制御しながら送液するためのポンプ(図示なし)がそれぞれ備えられる。このポンプにより、微粒子分散液と酸溶液との混合液と、ポリマー溶液22との配合比率を制御する。表1には、第1ドープ48における微粒子の濃度(単位;重量%)と、第1ドープ48における酸の濃度(単位;重量%)とを示す。第1送液ラインL1を流れるポリマー溶液22には、微粒子分散液と酸溶液との混合物である第2液72をインライン添加し、第2送液ラインL2を流れるポリマー溶液22には微粒子分散液をインライン添加した。その他の条件については実施例1の実験1−1と同じである。
【0109】
[実験3−2],[実験3−3],[比較実験3−1],[比較実験3−2]
実験3−2,3−3,比較実験3−1では、第1ドープ75における酸の濃度を表1に示す値にそれぞれした。比較実験3−2では、酸溶液を使用せず、第1送液ラインL1を流れるポリマー溶液には微粒子分散液のみを添加した。これらの実験においては、他の条件は実験3−1と同じである
【0110】
実験1からは、本発明によると、微粒子が酸との接触作用により凝集してしまう現象が抑制されることがわかる。また、実施例2及び3からは、微粒子と酸とがポリマー溶液に添加される前に、互いに接触しても、酸の濃度を低くすることにより、微粒子の分散が抑制されることがわかる。
【図面の簡単な説明】
【0111】
【図1】本発明を実施したドープ製造設備の概略図である。
【図2】別の実施形態であるドープ製造設備の要部概略図である。
【図3】さらに別の実施形態であるドープ製造設備の要部概略図である。
【図4】本発明を実施した溶液製膜設備の概略図である。
【図5】流延ダイから支持体上に3種類のドープを流延する際の説明図である。
【符号の説明】
【0112】
10,60,70 ドープ製膜設備
22 ポリマー溶液
47,62,75 第1液
48 ドープ
51〜53 インラインミキサ
40 溶液製膜設備
61,74 第2液


【特許請求の範囲】
【請求項1】
二酸化ケイ素を含む微粒子と25℃の水中における酸解離定数(pKa)が1.9〜4.5である酸とのいずれか一方をセルロースアシレートと溶剤との溶液に混合して第1液とし、
前記微粒子と前記酸とのうちの他方が前記第1液に添加されることを特徴とするセルロースアシレートドープの製造方法。
【請求項2】
前記微粒子と前記酸とは、送液されている前記溶液にインライン添加されることを特徴とする請求項1記載のセルロースアシレートドープの製造方法。
【請求項3】
溶剤と二酸化ケイ素を含む微粒子と25℃の水中における酸解離定数(pKa)が1.9〜4.5である酸とを混合して、前記酸の濃度C(単位;重量%)が0<C≦0.5の条件を満たす第2液とし、
この第2液を送液されているセルロースアシレート溶液にインライン添加することを特徴とするセルロースアシレートドープの製造方法。
【請求項4】
前記酸は、多価カルボン酸エステルであることを特徴とする請求項1ないし3いずれかひとつ記載のセルロースアシレートドープの製造方法。
【請求項5】
前記多価カルボン酸エステルがクエン酸エステルであることを特徴とする請求項4記載のセルロースアシレートドープの製造方法。
【請求項6】
前記クエン酸エステルは、トリエステル含有比率が10重量%以下であるとともに不純物としてのクエン酸の含有比率が5重量%以下であることを特徴とする請求項5記載のセルロースアシレートドープの製造方法。
【請求項7】
流延ダイから走行する支持体上に複層の流延膜を形成するように複数のセルロースアシレートドープを流延して複層のフィルムとして剥がし、剥がされた前記複層フィルムを乾燥させる溶液製膜方法において、
前記流延膜の各層のうち前記支持体と接触する層を、請求項1ないし6いずれかひとつ記載のドープ製造方法により得られたドープで形成することを特徴とする溶液製膜方法。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2006−117926(P2006−117926A)
【公開日】平成18年5月11日(2006.5.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−274047(P2005−274047)
【出願日】平成17年9月21日(2005.9.21)
【出願人】(000005201)富士写真フイルム株式会社 (7,609)
【Fターム(参考)】