説明

セルロースアシレートフィルムおよびその製造方法、偏光板および液晶表示装置

【課題】偏光板裁断時におけるデラミやクラックの発生が改善され、鹸化時の白化が抑制されたセルロースアシレートフィルムを提供する。
【解決手段】下記式Iを満たすセルロースアシレートおよび可塑剤を含むコア層1と、下記式IIを満たすセルロースアシレートを含み、かつ、フィルムの少なくとも一方の表面を構成する表層2を含むことを特徴とするセルロースアシレートフィルム3。2.8≦B≦3.0・・・I。0.01≦B−A<0.10・・・II。(式中、Aは表層に含まれるセルロースアシレートの総アシル基置換度を表し、Bはコア層に含まれるセルロースアシレートの総アシル基置換度を表す。)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、セルロースアシレートフィルムおよびその製造方法、偏光板および液晶表示装置に関する。より詳しくは、偏光板を構成する偏光子保護フィルムまたは光学補償フィルムなどに用いられるセルロースアシレートフィルム及びその溶液製膜方法、そのセルロースアシレートフィルムを用いた偏光板および液晶表示装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、液晶表示装置のTV用途が進行し、画面サイズの大型化に伴い高画質化と低価格化が益々求められている。このような液晶表示装置は一般的に液晶セルを2枚の偏光板で挟んだ構成となっている。また、偏光板の構成は、一般にはポリビニルアルコール等からなる偏光子の両面に、偏光板の保護フィルム(偏光子保護フィルム)としてセルロースアシレートフィルムが貼り合わされたものとなっている。
【0003】
セルロースアシレートフィルムは、透明性、適度な透湿性を有し、硬く割れにくく、かつ、寸法安定性の湿度及び温度に対する依存性が低いことから、広く光学材料の支持体等として広く用いられ、液晶表示装置を構成する偏光板の保護フィルムとしても使用されている。特に、偏光板を保護する用途に求められる性能としては、強度や硬度を大きくすることが求められている。
【0004】
しかし、より硬度を上げたセルロースエステルフィルムを用いて大判で作成した偏光板は、液晶表示装置用にパネルのサイズに合わせて打ち抜き加工などによって裁断する際に、セルロースエステルフィルムに従来よりも大きな応力がかかる。この応力が原因で、セルロースエステルフィルムと偏光子との界面で剥がれ(デラミ)が生じたり、偏光子に亀裂(クラック)が入ってしまったりすることがある。このようなデラミやクラックは、打ち抜き加工などによる裁断で製造した偏光板の端部(四辺)に発生するため、デラミやクラックが生じた箇所をなくすように各辺を研磨して使用しているのが現状であり、歩留まりの発生と製造コストの問題があった。
【0005】
ここで、一般的にセルロースアシレートフィルムの硬度を調節する方法としては、可塑剤をセルロースアシレート溶液(ドープ)に添加した上で、溶液流延製膜する方法が知られている。しかしながら、偏光板保護フィルムとして近年求められている硬度を達成しつつ、デラミやクラックの発生を抑制することは困難であった。また、可塑剤などの添加剤はセルロースアシレートとの相溶性の問題もあり、添加量を増やすとフィルムからブリードアウトしたり、ブリードアウトしない場合でもフィルムを偏光子に貼り付けるときの鹸化工程において白化したりしてしまうなどの問題もある。そのため、可塑剤の添加量の調整のみによって、最適なセルロースアシレートフィルムの硬度を達成しつつ、デラミやクラックの発生を抑制することは困難であった。
【0006】
一方、セルロースアシレートフィルムの様々な特性を改良する方法として、2層以上の積層構造にする方法が知られている(特許文献1〜3参照)。例えば、特許文献1では、表層のセルロースアシレートの総アシル置換度Aを2.35〜2.85、コア層のセルロースアシレートの総アシル置換度Bを2.75〜2.95とし、かつ置換度A<置換度Bを満たすように低置換度のセルロースアシレートを表層に用いる例が開示されている。同文献では、このような構成により、物性及び光学特性を劣化させることなく、フィルム表面へのハードコート層など他の機能層の塗布加工性(塗布はじき)を改善でき、フィルム表面の分子配高性が高いため吸湿性が良好にできることが開示されている。
特許文献2には、表層のセルロースアシレートのアセチル置換度を0.5以上2.2未満、コア層のセルロースアシレートのアセチル置換度を2.5〜3.0とした例が開示されており、このような構成により親水性ポリマーに対する接着性に優れるセルロースアセテートフィルムを提供できることが開示されている。
特許文献3には、互いに異なるアシル置換度のセルロースアシレートを用い、表層のセルロースアシレーとのアシル置換度をコア層よりも非常に低くした(同文献[0029]段落参照)積層構造のセルロースアシレートフィルムの例が開示されている。同文献では、このような構成により、鹸化処理を施すことなく親水性材料との密着性を付与することができることが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2003−103693号公報
【特許文献2】特開2004−284355号公報
【特許文献3】特開2002−192656号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明者が各特許文献に記載の方法を検討したところ、特許文献1に記載の発明は規定している表層側にハードコートなどの塗布を行うことを想定しているため、フィルム表層を偏光子に貼り合せることを想定していない。そのため、同文献には実施例で検討されているセルロースアシレートフィルム自体の強度をそれ以上高める思想は開示も示唆もされておらず、ハードコートなどの塗布をせずにフィルム表層を偏光子に貼り合せた場合の偏光板裁断時に起こるデラミやクラックの発生については検討対象となっていなかった。また、同文献実施例では、表層とコア層への可塑剤の添加量は同じであった。
一方、特許文献2および3では、フィルムの低置換度層側の表面を偏光子に貼り合せることを想定しているが、非常に低い置換度の表層と偏光子を貼り合せることを想定しており、可塑剤によるフィルム白化や、偏光板裁断時に起こるデラミやクラックの発生の調整については考慮されていなかった。
【0009】
本発明はこのような事情に鑑みなされたものであり、本発明が解決しようとする課題は、偏光板裁断時におけるデラミやクラックの発生が改善され、鹸化時の白化が抑制されたセルロースアシレートフィルムおよびその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者が上記の課題を解決すべく鋭意検討した結果、偏光子と貼り合わせる表層に含まれるセルロースアシレートのアシル置換度をコア層に含まれるセルロースアシレートのアシル置換度より特定の範囲だけ小さくし、かつ、コア層に含まれるセルロースアシレートのアシル置換度を特性の範囲に制御することで、鹸化時の白化が改善され、かつ、セルロースフィルム全体の強度を落とさずに偏光板製造時の打ち抜き加工などの裁断工程におけるデラミおよびクラックの発生が改善されたセルロースアシレートフィルムが得られることを見出すに至った。すなわち、上記課題は、以下の手段によって解決される。
【0011】
[1] 下記式(I)を満たすセルロースアシレートおよび可塑剤を含むコア層と、下記式(II)を満たすセルロースアシレートを含み、かつ、フィルムの少なくとも一方の表面を構成する表層を含むことを特徴とするセルロースアシレートフィルム。
2.8≦B≦3.0・・・(I)
0.01≦B−A<0.10・・・(II)
(式中、Aは表層に含まれるセルロースアシレートの総アシル基置換度を表し、Bはコア層に含まれるセルロースアシレートの総アシル基置換度を表す。)
[2] 下記式(III)を満たすことを特徴とする[1]に記載のセルロースアシレートフィルム。
2.75≦A<2.85・・・(III)
(式中、Aは表層に含まれるセルロースアシレートの総アシル基置換度を表す。)
[3] 下記式(IV)を満たすことを特徴とする[1]または[2]に記載のセルロースアシレートフィルム。
0<X<Y・・・(IV)
(式中、Xは表層に含まれるセルロースアシレートに対する、表層に含まれる全ての可塑剤の含有量(単位:質量%)を表す。Yはコア層に含まれるセルロースアシレートに対する、コア層に含まれる全ての可塑剤の含有量(単位:質量%)を表す。)
[4] 前記表層が下記式(V)を満たすことを特徴とする[1]〜[3]のいずれか一項に記載のセルロースアシレートフィルム。
0<X<10・・・(V)
(式中、Xは表層に含まれるセルロースアシレートに対する、表層に含まれる全ての可塑剤の含有量(単位:質量%)を表す。)
[5] 前記可塑剤が、非リン酸エステル系であることを特徴とする[1]〜[4]のいずれか一項に記載のセルロースアシレートフィルム。
[6] 前記可塑剤が、分子量420以上であることを特徴とする[1]〜[5]のいずれか一項に記載のセルロースアシレートフィルム。
[7] 前記コア層が下記式(VI)を満たすことを特徴とする[1]〜[6]のいずれか一項に記載のセルロースエステルフィルム。
|SP(CC)−SP(CP)|≦2.5MPa1/2・・・(VI)
(式中、SP(CC)はコア層に含まれるセルロースアシレートのSP値を表し、SP(CP)はコア層に含まれる各可塑剤のSP値を表す。)
[8] 前記コア層が下記式(VII)を満たすことを特徴とする[1]〜[7]のいずれか一項に記載のセルロースエステルフィルム。
0.2≦|SP(SC)−SP(CP)|≦1.5MPa1/2・・・(VII)
(式中、SP(SC)は表層に含まれるセルロースアシレートのSP値を表し、SP(CP)はコア層に含まれる各可塑剤のSP値を表す。)
[9] 下記式(I)を満たすセルロースアシレートおよび可塑剤を含むコア層用ドープと、下記式(II)を満たすセルロースアシレートを含む表層用ドープを、前記表層用ドープが、フィルムの少なくとも一方の表面を構成するように支持体上に共流延することを特徴とするセルロースアシレートフィルムの製造方法。
2.8≦B≦3.0・・・(I)
0.01≦B−A<0.10・・・(II)
(式中、Aは表層に含まれるセルロースアシレートの総アシル基置換度を表し、Bはコア層に含まれるセルロースアシレートの総アシル基置換度を表す。)
[10] 下記式(III)を満たすことを特徴とする[9]に記載のセルロースアシレートフィルム。
2.75≦A<2.85・・・(III)
(式中、Aは表層に含まれるセルロースアシレートの総アシル基置換度を表し、Bはコア層に含まれるセルロースアシレートの総アシル基置換度を表す。)
[11] 前記表層用ドープ中に含まれる可塑剤の量が、前記表層用ドープ中に含まれるセルロースアシレートに対して5質量%以下であることを特徴とする[9]または[10]に記載のセルロースアシレートフィルムの製造方法。
[12] 前記コア層用ドープと前記表層用ドープのうち、前記コア層用ドープのみが前記可塑剤を含むことを特徴とする[9]〜[11]のいずれか一項に記載のセルロースアシレートフィルムの製造方法。
[13] 前記コア層用ドープ中に含まれる可塑剤の量が、前記コア層用ドープ中に含まれるセルロースアシレートに対して5質量%〜20質量%であることを特徴とする[9]〜[12]のいずれか一項に記載のセルロースアシレートフィルムの製造方法。
[14] 前記可塑剤が、分子量420以上であることを特徴とする[9]〜[13]のいずれか一項に記載のセルロースアシレートフィルムの製造方法。
[15] 前記支持体の温度を0℃未満に制御して共流延することを特徴とする[9]〜[14]のいずれか一項に記載のセルロースアシレートフィルムの製造方法。
[16] [9]〜[15]のいずれか一項に記載のセルロースアシレートフィルムの製造方法で製造されたことを特徴とするセルロースアシレートフィルム。
[17] 偏光子と、[1]〜[8]および[16]のいずれか一項に記載のセルロースアシレートフィルムを少なくとも1つ含み、前記表層と前記偏光子とが直接貼り合わせられていることを特徴とする偏光板。
[18] [1]〜[8]および[16]のいずれか一項に記載のセルロースアシレートフィルムまたは[17]に記載の偏光板を少なくとも1つ有することを特徴とする液晶表示装置。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、偏光板裁断時におけるデラミやクラックの発生が改善され、鹸化時の白化が抑制されたセルロースアシレートフィルムを提供することができる。また、本発明によれば、該セルロースアシレートフィルムを簡便で安定に製造でき、製造コストも低い。さらに本発明によれば、該セルロースアシレートフィルムを用いることで、該セルロースアシレートフィルムを用いた歩留まりが高く良好な特性を有する偏光板や液晶表示装置を、低い製造コストで提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明の液晶表示装置の一例の断面を表した概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下において、本発明のセルロースアシレートフィルムやその製造方法、それに用いる添加剤などについて詳細に説明する。
以下に記載する構成要件の説明は、本発明の代表的な実施態様に基づいてなされることがあるが、本発明はそのような実施態様に限定されるものではない。なお、本明細書において「〜」を用いて表される数値範囲は、「〜」の前後に記載される数値を下限値および上限値として含む範囲を意味する。
本明細書中、可塑剤とは、「添加することによりセルロースアシレートの可塑性を増加させることができる添加剤」のことを言う。なお、後述の本発明実施例で使用している紫外線吸収剤は、セルロースアシレーとの可塑性を増加させないため、可塑剤に含まれない。
【0015】
[セルロースアシレートフィルム]
本発明のセルロースアシレートフィルム(以下、本発明のフィルムとも言う)は、下記式(I)を満たすセルロースアシレートおよび可塑剤を含むコア層と、下記式(II)を満たすセルロースアシレートを含み、かつ、フィルムの少なくとも一方の表面を構成する表層を含むことを特徴とする。
2.8≦B≦3.0・・・(I)
0.01≦B−A<0.10・・・(II)
(式中、Aは表層に含まれるセルロースアシレートの総アシル基置換度を表し、Bはコア層に含まれるセルロースアシレートの総アシル基置換度を表す。)
このような構成である本発明のセルロースアシレートフィルムは、表層に含まれる可塑剤の量がコア層に含まれる可塑剤の量よりも少なくなるという機能を奏し、偏光板裁断時におけるデラミやクラックの発生が改善され、鹸化時の白化が抑制されている。
以下、本発明のフィルムの好ましい態様を参照しつつ、本発明を具体的に説明する。
【0016】
<セルロースアシレート>
本発明に用いられるセルロースアシレートは、各層に含まれるセルロースアシレートのアシル基の総アシル置換度がそれぞれ前記式(I)および(II)を満たす。アシレート原料のセルロースとしては、綿花リンタや木材パルプ(広葉樹パルプ,針葉樹パルプ)などがあり、何れの原料セルロースから得られるセルロースアシレートでも使用でき、場合により混合して使用してもよい。これらの原料セルロースについての詳細な記載は、例えば、丸澤、宇田著、「プラスチック材料講座(17)繊維素系樹脂」日刊工業新聞社(1970年発行)や発明協会公開技報公技番号2001−1745号(7頁〜8頁)に記載のセルロースを用いることができる。
【0017】
本発明のセルロースアシレートに用いられるアシル基は1種類だけでもよいし、あるいは2種類以上のアシル基が使用されていてもよい。本発明のセルロースアシレートは、炭素数2〜4のアシル基を置換基として有することが好ましい。2種類以上のアシル基を用いるときは、そのひとつがアセチル基であることが好ましく、炭素数2〜4のアシル基としてはプロピオニル基またはブチリル基が好ましい。これらのセルロースアシレートにより溶解性の好ましい溶液が作製でき、特に非塩素系有機溶媒において、良好な溶液の作製が可能となる。さらに粘度が低くろ過性のよい溶液の作成が可能となる。
【0018】
まず、本発明に好ましく用いられるセルロースアシレートについて詳細に記載する。セルロースを構成するβ−1,4結合しているグルコース単位は、2位、3位および6位に遊離の水酸基を有している。セルロースアシレートは、これらの水酸基の一部または全部をアシル基によりアシル化した重合体(ポリマー)である。アシル置換度は、2位、3位および6位に位置するセルロースの水酸基がアシル化している割合(各位における100%のアシル化は置換度1)の合計を意味する。
【0019】
本発明におけるセルロースアシレートの炭素数2以上のアシル基としては、脂肪族基でもアリル基でもよく特に限定されない。それらは、例えばセルロースのアルキルカルボニルエステル、アルケニルカルボニルエステルあるいは芳香族カルボニルエステル、芳香族アルキルカルボニルエステルなどであり、それぞれさらに置換された基を有していてもよい。これらの好ましい例としては、アセチル基、プロピオニル基、ブタノイル基、ヘプタノイル基、ヘキサノイル基、オクタノイル基、デカノイル基、ドデカノイル基、トリデカノイル基、テトラデカノイル基、ヘキサデカノイル基、オクタデカノイル基、イソブタノイル基、tert−ブタノイル基、シクロヘキサンカルボニル基、オレオイル基、ベンゾイル基、ナフチルカルボニル基、シンナモイル基などを挙げることができる。これらの中でも、アセチル基、プロピオニル基、ブタノイル基、ドデカノイル基、オクタデカノイル基、tert−ブタノイル基、オレオイル基、ベンゾイル基、ナフチルカルボニル基、シンナモイル基などがより好ましく、特に好ましくはアセチル基、プロピオニル基、ブタノイル基(アシル基が炭素原子数2〜4である場合)であり、より特に好ましくはアセチル基(セルロースアシレートが、セルロースアセテートである場合)である。
【0020】
セルロ−スのアシル化において、アシル化剤としては、酸無水物や酸クロライドを用いた場合、反応溶媒である有機溶媒としては、有機酸、例えば、酢酸、メチレンクロライド等が使用される。
【0021】
触媒としては、アシル化剤が酸無水物である場合には、硫酸のようなプロトン性触媒が好ましく用いられ、アシル化剤が酸クロライド(例えば、CH3CH2COCl)である場合には、塩基性化合物が用いられる。
【0022】
最も一般的なセルロ−スの混合脂肪酸エステルの工業的合成方法は、セルロ−スをアセチル基および他のアシル基に対応する脂肪酸(酢酸、プロピオン酸、吉草酸等)またはそれらの酸無水物を含む混合有機酸成分でアシル化する方法である。
【0023】
本発明のフィルムは、コア層に含まれるセルロースアシレートの総アシル置換度Bが式(I)を満たす。
2.8≦B≦3.0・・・(I)
このようにコア層に含まれるセルロースアシレートの総アシル基置換度Bが2.8以上であることがドープ状態でのゲル化性能やフィルムに製膜された際の光学性能や透湿性の観点から重要である。コア層に含まれるセルロースアシレートの総アシル基置換度Bは、2.82〜2.95であることが好ましく、2.83〜2.91であることがより好ましい。
【0024】
本発明のフィルムは、表層に含まれるセルロースアシレートの総アシル基置換度Aと、コア層に含まれるセルロースアシレートの総アシル置換度Bが式(II)の関係を満たす。
0.01≦B−A<0.10・・・(II)
B−Aが0.01以上であると、後述する本発明の製造方法で少なくともコア層用ドープに添加した可塑剤がコア層から表層へ拡散を抑制することができ、表層とコア層との間の可塑剤の分布を表層に含まれる可塑剤の方が少なくなるように制御することができ、得られたフィルムの表層における可塑剤の含有量を顕著に低下させることができる。B−Aが0.10未満であると、可塑剤を添加した場合に、得られたセルロースアシレートフィルムを鹸化処理したときに白化を抑制することができ、フィルム全体の強度や耐水性の観点からも好ましい。
B−Aの値は、0.01〜0.09であることが好ましく、0.01〜0.05であることがより好ましく、0.02〜0.05であることが特に好ましい。
【0025】
本発明のフィルムは、表層に含まれるセルロースアシレートの総アシル基置換度Aが、下記式(III)を満たすことが光学性能の観点、本発明のフィルムの表層と偏光子とを直接貼り合わせるときに好ましい。
2.75≦A<2.85・・・(III)
表層に含まれるセルロースアシレートの総アシル基置換度Aは、2.77〜2.84であることがより好ましく、2.79〜2.84であることが特に好ましく、2.79〜2.83であることがより特に好ましく、2.81〜2.82であることがさらに好ましい。
【0026】
本発明に用いるセルロースアシレートは、例えば、特開平10−45804号公報に記載されている方法により合成できる。
セルロースアシレートには主に製造過程に起因する微量金属成分が含まれることが知られている。
これら微量金属成分は成膜時に流延支持体表面上の汚れの原因になって、膜品質や製造上の不具合を引き起こすため、低い事が好ましいことが知られている。
これらの微量金属成分は、被対象となるセルロースアシレートをサンプルとして、イオンクロマトグラフィー、原子吸光スペクトル、ICP、ICP−MS等の分析方法により定量できる。
【0027】
<可塑剤>
本発明のセルロースアシレートフィルムは、可塑剤を含むコア層を有する。また、本発明のフィルムは、表層にも可塑剤を含んでいてもよい。
さらに、本発明のフィルムに添加する可塑剤の添加量は、可塑剤の種類によって好ましい範囲が変わることもあるが一般に以下の範囲であることが好ましい。
【0028】
まず本発明のフィルムは、下記式(IV)を満たすことが、表層の可塑剤量が少なくなり、本発明の効果をより得られる観点から好ましい。
0<X<Y・・・(IV)
式中、Xは表層に含まれるセルロースアシレートに対する、表層に含まれる全ての可塑剤の含有量(単位:質量%)を表す。Yはコア層に含まれるセルロースアシレートに対する、コア層に含まれる全ての可塑剤の含有量(単位:質量%)を表す。
ここで、表層の可塑剤量はすくないほど好ましいが、コア層からの拡散が生じるため、0%にはならなくてもよい。
その中でも、本発明のフィルムは、前記表層が下記式(V)を満たすことがより好ましい。
0<X<10・・・(V)
表層に含まれるセルロースアシレートに対する、表層に含まれる全ての可塑剤の含有量X(単位:質量%)は、8質量%未満であることがより好ましく、6質量%未満であることが特に好ましい。
【0029】
一方、本発明のフィルムは、前記コア層に含まれるセルロースアシレートに対する、コア層に含まれる全ての可塑剤の含有量Y(単位:質量%)が、5質量%〜30質量%であることが好ましく、5〜20質量%であることが好ましく、15〜20質量%であることが特に好ましい。
なお、本発明に含まれる可塑剤の量は公知の方法で測定することができ、特に制限はないが、本発明で用いた測定方法については実施例の説明中に記載する。
【0030】
本発明に用いられる可塑剤としては、セルロースアシレートの可塑剤として知られる多くの化合物も有用に使用することができる。可塑剤としては、リン酸エステルまたは非リン酸エステル系の化合物が用いられる。本発明では、可塑剤として、非リン酸エステル系の化合物を用いることが、可塑剤のコア層から表層への拡散や、表層からの揮散性を抑える観点から好ましい。
【0031】
(リン酸エステル)
リン酸エステルの例には、トリフェニルホスフェート(TPP)、ビフェニルジフェニルホスフェート(BDP)およびトリクレジルホスフェート(TCP)が含まれる。
【0032】
「非リン酸エステル系の化合物」とは、「エステル結合を有する化合物であって、該エステル結合に寄与する酸がリン酸以外である化合物」のことを言う。すなわち、「非リン酸エステル系の化合物」は、リン酸を含まず、エステル系である、化合物を意味する。
また、前記非リン酸エステル系の化合物は、低分子化合物であっても、ポリマー(高分子化合物)であってもよい。以下、ポリマー(高分子化合物)である非リン酸エステル系の化合物のことを、非リン酸エステル系ポリマーとも言う。
【0033】
前記非リン酸エステル系の化合物としては、カルボン酸エステル、糖エステル化合物、多価アルコールエステル、重縮合エステル化合物などを挙げることができる。
【0034】
(カルボン酸エステル)
前記カルボン酸エステルとしては、フタル酸エステルおよびクエン酸エステルが代表的である。
フタル酸エステルの例には、ジメチルフタレート(DMP)、ジエチルフタレート(DEP)、ジブチルフタレート(DBP)、ジオクチルフタレート(DOP)、ジフェニルフタレート(DPP)およびジエチルヘキシルフタレート(DEHP)が含まれる。
クエン酸エステルの例には、O−アセチルクエン酸トリエチル(OACTE)およびO−アセチルクエン酸トリブチル(OACTB)が含まれる。その他のカルボン酸エステルの例には、オレイン酸ブチル、リシノール酸メチルアセチル、セバシン酸ジブチル、種々のトリメリット酸エステルが含まれる。フタル酸エステル系可塑剤(DMP、DEP、DBP、DOP、DPP、DEHP)が好ましく用いられる。DEPおよびDPPが特に好ましい。
【0035】
(糖エステル化合物)
−糖残基−
前記糖エステル化合物とは、該化合物を構成する多糖中の置換可能な基(例えば、水酸基、カルボキシル基)の少なくとも1つと、少なくとも1種の置換基とがエステル結合されている化合物のことを言う。すなわち、ここで言う糖エステル化合物には広義の糖誘導体類も含まれ、例えばグルコン酸のような糖残基を構造として含む化合物も含まれる。すなわち、前記糖エステル化合物には、グルコースとカルボン酸のエステル体も、グルコン酸とアルコールのエステル体も含まれる。
前記糖エステル化合物を構成する多糖中の置換可能な基は、ヒドロキシル基であることが好ましい。
【0036】
前記糖エステル化合物中には、糖エステル化合物を構成する多糖由来の構造(以下、糖残基とも言う)が含まれる。前記糖残基の単糖当たりの構造を、糖エステル化合物の構造単位と言う。前記糖エステル化合物の構造単位は、ピラノース構造単位またはフラノース構造単位を含むことが好ましく、全ての糖残基がピラノース構造単位またはフラノース構造単位であることがより好ましい。また、前記糖エステルが多糖から構成される場合は、ピラノース構造単位またはフラノース構造単位をともに含むことが好ましい。
【0037】
前記糖エステル化合物の糖残基は、5単糖由来であっても6単糖由来であってもよいが、6単糖由来であることが好ましい。
【0038】
前記糖エステル化合物中に含まれる構造単位の数は、2〜4であることが好ましく、2〜3であることがより好ましく、2であることが特に好ましい。すなわち、前記糖エステル化合物を構成する糖が2糖類〜4糖類であることが好ましく、2糖類〜3糖類であることがより好ましく、2糖類であることが特に好ましい。
【0039】
本発明では、前記糖エステル化合物はヒドロキシル基の少なくとも1つがエステル化されたピラノース構造単位またはフラノース構造単位を2〜4個含む糖エステル化合物であることがより好ましく、ヒドロキシル基の少なくとも1つがエステル化されたピラノース構造単位またはフラノース構造単位を2個含む糖エステル化合物であることがより好ましい。
【0040】
前記単糖または2〜4個の単糖単位を含む糖類の例としては、例えば、エリトロース、トレオース、リボース、アラビノース、キシロース、リキソース、アロース、アルトロース、グルコース、フルクトース、マンノース、グロース、イドース、ガラクトース、タロース、トレハロース、イソトレハロース、ネオトレハロース、トレハロサミン、コウジビオース、ニゲロース、マルトース、マルチトール、イソマルトース、ソホロース、ラミナリビオース、セロビオース、ゲンチオビオース、ラクトース、ラクトサミン、ラクチトール、ラクツロース、メリビオース、プリメベロース、ルチノース、シラビオース、スクロース、スクラロース、ツラノース、ビシアノース、セロトリオース、カコトリオース、ゲンチアノース、イソマルトトリオース、イソパノース、マルトトリオース、マンニノトリオース、メレジトース、パノース、プランテオース、ラフィノース、ソラトリオース、ウンベリフェロース、リコテトラオース、マルトテトラオース、スタキオース、バルトペンタオース、ベルバルコース、マルトヘキサオース、キシリトール、ソルビトールなどを挙げることができる。
【0041】
好ましくは、リボース、アラビノース、キシロース、リキソース、グルコース、フルクトース、マンノース、ガラクトース、トレハロース、マルトース、セロビオース、ラクトース、スクロース、スクラロース、キシリトール、ソルビトールであり、さらに好ましくは、アラビノース、キシロース、グルコース、フルクトース、マンノース、ガラクトース、マルトース、セロビオース、スクロースであり、特に好ましくは、キシロース、グルコース、フルクトース、マンノース、ガラクトース、マルトース、セロビオース、スクロース、キシリトール、ソルビトールである。
【0042】
前記糖エステル化合物の置換基の好ましい例としては、アルキル基(好ましくは炭素数1〜22、より好ましくは炭素数1〜12、特に好ましくは炭素数1〜8のアルキル基、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、ヒドロキシエチル基、ヒドロキシプロピル基、2−シアノエチル基、ベンジル基など)、アリール基(好ましくは炭素数6〜24、より好ましくは6〜18、特に好ましくは6〜12のアリール基、例えば、フェニル基、ナフチル基)、アシル基(好ましくは炭素数1〜22、より好ましくは炭素数2〜12、特に好ましくは炭素数2〜8のアシル基、例えばアセチル基、プロピオニル基、ブチリル基、ペンタノイル基、ヘキサノイル基、オクタノイル基、ベンゾイル基、トルイル基、フタリル基など)、アミド基(好ましくは炭素数1〜22、より好ましくは炭素数2〜12、特に好ましくは炭素数2〜8のアミド、例えばホルムアミド基、アセトアミド基など)、イミド基(好ましくは炭素数4〜22、より好ましくは炭素数4〜12、特に好ましくは炭素数4〜8のアミド基、例えば、スクシイミド基、フタルイミド基など)を挙げることができる。その中でも、アルキル基またはアシル基がより好ましく、メチル基、アセチル基、ベンゾイル基がより好ましく、ベンゾイル基およびアセチル基のうち少なくとも一方であることが特に好ましく、ベンゾイル基がより特に好ましい。
【0043】
前記糖エステルの中でも、本発明では、下記一般式(1)で表される芳香族糖エステル化合物と下記一般式(2)で表される脂肪族糖エステル化合物を含有することが好ましい。
一般式(1) (HO)m−G−(L−R1)n
一般式(2) (HO)t−G’−(L’−R2)r
(一般式(1)および(2)中、GおよびG’はそれぞれ独立に単糖残基または二糖残基を表す。R1はそれぞれ独立に脂肪族基または芳香族基を表し、少なくとも1つは芳香族基を表す。R2はそれぞれ独立に脂肪族基を表す。LおよびL’はそれぞれ独立に2価の連結基を表す。m、n、rおよびtは0以上の整数を表す。但し、m+nおよびr+tはそれぞれ前記Gが残基ではなく同じ骨格の環状アセタール構造の無置換の糖類であると仮定した場合のヒドロキシル基の数と等しい。)
【0044】
本発明に用いることができる前記一般式(1)および(2)で表される前記糖エステル化合物は、フラノース構造もしくはピラノース構造を有する化合物であることが好ましい。
なお、前記m+nおよびr+tの上限値は、前記GまたはG’の種類によって定まる値を採用することができ、GまたはG’が単糖残基であれば5、二糖残基であれば8となる。
【0045】
前記一般式(1)および(2)で表される前記糖エステル化合物は、フラノース構造もしくはピラノース構造を1個有する前記GまたはG’が単糖残基である化合物(A)中の、又は、フラノース構造もしくはピラノース構造の少なくとも1種を2個結合した前記GまたはG’が二糖残基である化合物(B)中の、OH基の全て又は一部をエステル化したエステル化化合物であるのが好ましい。
【0046】
化合物(A)の例としては、グルコース、ガラクトース、マンノース、フルクトース、キシロース、あるいはアラビノースが挙げられるが、これらに限定されるものではない。
化合物(B)の例としては、ラクトース、スクロース、ニストース、1F−フラクトシルニストース、スタキオース、マルチトール、ラクチトール、ラクチュロース、セロビオース、マルトース、セロトリオース、マルトトリオース、ラフィノースあるいはケストースが挙げられる。このほか、ゲンチオビオース、ゲンチオトリオース、ゲンチオテトラオース、キシロトリオース、ガラクトシルスクロースなども挙げられが、これらに限定されるものではない。
これらの化合物(A)及び化合物(B)の中で、特にフラノース構造とピラノース構造の双方を有する化合物が好ましい。例としては、スクロース、ケストース、ニストース、1F−フクラトシルニストース、スタキオースなどが好ましく、更に好ましくは、スクロースである。また、化合物(B)において、フラノース構造もしくはピラノース構造の少なくとも1種を2個結合した化合物であることも、好ましい態様の1つである。
【0047】
化合物(A)及び化合物(B)中のOH基の全てもしくは一部をエステル化するのに用いられる置換基としては、特に制限はない。その中でも、モノカルボン酸を用いることが好ましい。すなわち、前記一般式(1)中の前記R1、および前記一般式(2)中の前記R2が、それぞれ独立にアシル基を表すことが好ましい。
前記モノカルボン酸としては、特に制限はなく、公知の脂肪族モノカルボン酸、脂環族モノカルボン酸、芳香族モノカルボン酸等を用いることができる。用いられるカルボン酸は1種類でもよいし、2種類以上の混合であってもよい。前記R1または前記R2が複数ある場合は、互いに同一であっても異なっていてもよい。
【0048】
一方、前記一般式(1)中の前記L、および前記一般式(2)中の前記L’が、それぞれ独立に単結合、−O−、−CO−、−NR11−(R11は1価の置換基を表す)のいずれか一つを表すことが好ましく、また、前記L1または前記L’が複数ある場合は、互いに同一であっても異なっていてもよい。その中でも、前記L1または前記L’が−O−を表すことが、前記R1およびR2としてアシル基で容易に置換できる観点から好ましい。
【0049】
−芳香族糖エステル化合物−
次に、前記一般式(1)で表される芳香族糖エステル化合物の好ましい態様について説明する。
前記一般式(1)中、前記R1はそれぞれ独立に脂肪族基または芳香族基を表し、少なくとも1つは芳香族基を表す。その中でも、前記R1はそれぞれ独立に芳香族基のみを表すことが好ましく、全て同一の芳香族基を表すことがより好ましい。
【0050】
前記一般式(1)で表される芳香族糖エステル化合物は複数種を用いてもよい。その場合は、同じ置換基を有し、置換度の異なる種類の芳香族糖エステルを併用することが好ましい。
【0051】
さらに、前記一般式(1)中の前記Gがスクロース骨格であり、前記一般式(1)で表される芳香族糖エステル化合物の平均エステル置換度が5〜7.5であることが、偏光板に組み込んだときの湿熱環境下での直交透過率の経時変化を小さくできる観点からより好ましく、5.5〜7.0であることが特に好ましい。
【0052】
また、前記一般式(1)中において、m、nはそれぞれ独立に0以上の整数を表す。
【0053】
一方、本発明では、前記一般式(1)で表される芳香族糖エステル化合物は、前記Gが二糖残基の場合、nが3以上であることが好ましく、5以上であることも好ましい。すなわち、本発明では、少なくとも前記芳香族糖エステル化合物混合体に含まれる芳香族糖エステル化合物は、少なくとも3置換体以上であることが好ましく、少なくとも5置換体以上であることも好ましい。
【0054】
1によって置換されるときに用いられる好ましい芳香族モノカルボン酸の例としては、安息香酸、トルイル酸等の安息香酸のベンゼン環に、アルキル基又はアルコキシ基を導入した芳香族モノカルボン酸;ケイ皮酸;ベンジル酸、ビフェニルカルボン酸、ナフタリンカルボン酸、テトラリンカルボン酸等のベンゼン環を2個以上有する芳香族モノカルボン酸;及びこれらの誘導体;を挙げることができ、より、具体的には、キシリル酸、ヘメリト酸、メシチレン酸、プレーニチル酸、γ−イソジュリル酸、ジュリル酸、メシト酸、α−イソジュリル酸、クミン酸、α−トルイル酸、ヒドロアトロパ酸、アトロパ酸、ヒドロケイ皮酸、サリチル酸、o−アニス酸、m−アニス酸、p−アニス酸、クレオソート酸、o−ホモサリチル酸、m−ホモサリチル酸、p−ホモサリチル酸、o−ピロカテク酸、β−レソルシル酸、バニリン酸、イソバニリン酸、ベラトルム酸、o−ベラトルム酸、没食子酸、アサロン酸、マンデル酸、ホモアニス酸、ホモバニリン酸、ホモベラトルム酸、o−ホモベラトルム酸、フタロン酸、p−クマル酸を挙げることができるが、特に安息香酸が好ましい。すなわち、前記一般式(1)中の前記R1が、ベンゾイル基を表すことが好ましい。
【0055】
複数の前記エステル置換度が異なる芳香族糖エステル化合物を混合する方法としては、特に制限はなく、公知の方法を用いることができる。また、複数の前記エステル置換度が異なる芳香族糖エステル化合物の混合のタイミングは、例えば溶液製膜法を採用する場合、セルロースエステルドープに添加する前であってもよく、セルロースエステルドープに複数の糖エステル化合物を個別に添加した後でもよい。
【0056】
−脂肪族糖エステル化合物−
次に、前記一般式(2)で表される脂肪族糖エステル化合物の好ましい態様について説明する。前記一般式(2)中、前記R2はそれぞれ独立に脂肪族基を表す。
【0057】
2によって置換されるときに用いられる好ましい脂肪族モノカルボン酸としては、酢酸、プロピオン酸、酪酸、イソ酪酸、吉草酸、カプロン酸、エナント酸、カプリル酸、ペラルゴン酸、カプリン酸、2−エチル−ヘキサンカルボン酸、ウンデシル酸、ラウリン酸、トリデシル酸、ミリスチン酸、ペンタデシル酸、パルミチン酸、ヘプタデシル酸、ステアリン酸、ノナデカン酸、アラキン酸、ベヘン酸、リグノセリン酸、セロチン酸、ヘプタコサン酸、モンタン酸、メリシン酸、ラクセル酸等の飽和脂肪酸;ウンデシレン酸、オレイン酸、ソルビン酸、リノール酸、リノレン酸、アラキドン酸、オクテン酸等の不飽和脂肪酸;等を挙げることができる。
【0058】
好ましい脂環族モノカルボン酸の例としては、シクロペンタンカルボン酸、シクロヘキサンカルボン酸、シクロオクタンカルボン酸、又はそれらの誘導体を挙げることができる。
【0059】
前記R2は、それぞれ独立に非環式脂肪族基を表すことが好ましく、全てのR2が非環式脂肪族基を表すことが好ましい。
前記R2は、2種以上の脂肪族基を表すことが好ましい。
脂肪族モノカルボン酸の中でも、前記一般式(2)で表される脂肪族糖エステル化合物は、少なくとも酢酸で置換されていることが好ましい。すなわち、前記一般式(2)中の前記R2の少なくとも1つがアセチル基を表すことが好ましい。
一方、前記R2のうち少なくとも1種が、分岐状の脂肪族基を表すことがより好ましく、前記R2が2種以上の脂肪族基を表す場合において1種のみが分岐状の脂肪族基を表すことが特に好ましい。その中でも、前記一般式(2)で表される脂肪族糖エステル化合物は、酢酸の他にイソ酪酸でも置換されていることが好ましい。すなわち、前記一般式(2)中の前記R2がアセチル基とイソブチリル基を含むことが好ましく、アセチル基とイソブチリル基のみを含むことが光学性能経時変化の観点から好ましい。
【0060】
前記一般式(2)中の前記G’は二糖残基を表すことが、得られるセルロースエステルフィルムの面状故障を改善し、かつ、偏光板耐久性を改善する観点から好ましい。
【0061】
前記一般式(2)中の前記R2がアセチル基とイソブチリル基のみからなる場合、例えば前記G’が二糖残基のとき、その割合はアセチル基/イソブチリル基=1/7〜4/4であることが好ましく、1/7〜3/5であることがより好ましく、2/6であることが特に好ましい。
【0062】
これら脂肪族モノカルボン酸で置換された脂肪族糖エステル化合物の製造方法は、例えば、特開平8−245678号公報に記載されている。
【0063】
前記糖エステル化合物の製造例の一例は、以下の通りである。
グルコース(29.8g、166mmol)にピリジン(100ml)を加えた溶液に無水酢酸(200ml)を滴下し、24時間反応させた。その後、エバポレートで溶液を濃縮し氷水へ投入した。1時間放置した後、ガラスフィルターにてろ過し、固体と水を分離し、ガラスフィルター上の固体をクロロホルムに溶かし、これが中性になるまで冷水で分液した。有機層を分離後、無水硫酸ナトリウムにより乾燥した。無水硫酸ナトリウムをろ過により除去した後、クロロホルムをエバポレートにより除き、更に減圧乾燥することによりグリコースペンタアセテート(58.8g、150mmol、90.9%)を得た。尚、上記無水酢酸の替わりに、上述のモノカルボン酸を使用することができる。
【0064】
芳香族糖エステル化合物と脂肪族糖エステル化合物を併用する場合、これらの化合物の添加割合としては特に制限はないが、質量比で芳香族糖エステル化合物/脂肪族糖エステル化合物が1/1以上であることが好ましく、1/2〜1/5であることがより好ましく、1/2〜1/4であることが特に好ましい。
【0065】
以下に、本発明に用いることができる一般式(1)および(2)で表される糖エステル化合物の具体例を挙げるが、本発明はこれに限定されるものではない。また、下記の具体例には各糖エステル化合物のエステル置換度を記載していないが、本発明の趣旨に反しない限りにおいて任意のエステル置換度の糖エステル化合物を用いて、糖エステル化合物混合体として用いてもよい。
【0066】
【化1】

【0067】
【化2】

【0068】
【化3】

【0069】
【化4】

【0070】
【化5】

【0071】
以下の構造式中、Rはそれぞれ独立に任意の置換基を表し、複数のRは同一であっても、異なっていてもよい。
【0072】
【化6】

【0073】
【表1】

【0074】
【化7】

【0075】
【表2】

【0076】
【化8】

【0077】
【表3】

【0078】
その他、前記糖エステル化合物としては、特開2001−247717号公報、特表2005−515285号公報、国際公開WO2007/125764号公報、国際公開WO2009/011228号公報、国際公開WO2009/031464号公報などに記載の糖エステル化合物を用いることもできる。
【0079】
前記糖エステル化合物の入手方法としては、市販品として(株)東京化成製、アルドリッチ製等から商業的に入手可能であり、もしくは市販の炭水化物に対して既知のエステル誘導体化法(例えば、特開平8−245678号公報に記載の方法)を行うことにより合成可能である。
【0080】
前記糖エステル化合物は、数平均分子量が、好ましくは200〜3500、より好ましくは420〜3000、特に好ましくは450〜2000の範囲が好適である。
【0081】
前記糖エステル化合物は、セルロースアシレートに対し2〜30質量%含有することが好ましく、5〜20質量%含有することがより好ましく、10〜20質量%含有することが特に好ましく、12〜18質量%含有することより特に好ましい。
また、後述するポリエステル系可塑剤を前記糖エステル化合物と併用する場合は、ポリエステル系可塑剤の添加量(質量部)に対する前記糖エステル化合物の添加量(質量部)は、2〜10倍(質量比)加えることが好ましく、3〜8倍(質量比)加えることがより好ましい。
【0082】
本発明では、前記糖エステル化合物が、エステル置換度が異なる糖エステル化合物を複数含むことも好ましい。前記エステル置換度が異なる複数の糖エステル化合物の平均エステル置換度が38〜98%であることが好ましい。
【0083】
前記エステル置換度が異なる複数の糖エステル化合物の平均エステル置換度は50〜95%であることがより好ましく、56〜90%であることが特に好ましく、60〜80%であることがより好ましい。前記エステル置換度が異なる複数の糖エステル化合物の平均エステル置換度を上記範囲に制御することは、前記エステル置換度が異なる複数の糖エステル化合物中の構造単位当たりのヒドロキシル基の平均の数を対応する範囲に制御することを意味する。前記糖エステル化合物中の構造単位当たりのヒドロキシル基の平均の数を制御することで、高温高湿経時における糖エステル化合物の偏光子層への移動およびPVA−ヨウ素錯体の破壊を抑制し、高温高湿経時における偏光子性能の劣化を抑制することができ、好ましい。
【0084】
複数の前記エステル置換度が異なる糖エステル化合物を混合する方法としては、特に制限はなく、公知の方法を用いることができる。また、複数の前記エステル置換度が異なる糖エステル化合物の混合のタイミングは、例えば溶液製膜法を採用する場合、セルロースアシレートドープに添加する前であってもよく、セルロースアシレートドープに複数の糖エステル化合物を個別に添加した後でもよい。
【0085】
(多価アルコールエステル)
前記多価アルコールエステルは次の一般式(A)で表される。
【0086】
一般式(A) R31−(OH)p
(但し、R31はp価の有機基、pは2以上の正の整数を表す)
好ましい前記多価アルコールエステルの例としては、例えば以下のようなものを挙げることが出来るが、これらに限定されるものではない。アドニトール、アラビトール、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、1,2−プロパンジオール、1,3−プロパンジオール、ジプロピレングリコール、トリプロピレングリコール、1,2−ブタンジオール、1,3−ブタンジオール、1,4−ブタンジオール、ジブチレングリコール、1,2,4−ブタントリオール、1,5−ペンタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、ヘキサントリオール、ガラクチトール、マンニトール、3−メチルペンタン−1,3,5−トリオール、ピナコール、ソルビトール、トリメチロールプロパン、トリメチロールエタン、キシリトール等を挙げることが出来る。特に、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、ジプロピレングリコール、トリプロピレングリコール、ソルビトール、トリメチロールプロパン、キシリトールが好ましい。
【0087】
中でも前記多価アルコールエステルとしては、炭素数5以上の多価アルコールエステルを用いた多価アルコールエステルが好ましい。特に好ましくは炭素数5〜20である。
【0088】
前記多価アルコールエステルに用いられるモノカルボン酸としては、特に制限はなく、公知の脂肪族モノカルボン酸、脂環族モノカルボン酸、芳香族モノカルボン酸等を用いることが出来る。脂環族モノカルボン酸、芳香族モノカルボン酸を用いると透湿性、保留性を向上させる点で好ましい。
【0089】
好ましい前記多価アルコールエステルに用いられるモノカルボン酸の例としては以下のようなものを挙げることが出来るが、これに限定されるものではない。
【0090】
前記脂肪族モノカルボン酸としては、炭素数1〜32の直鎖または側鎖を有する脂肪酸を好ましく用いることが出来る。炭素数は1〜20であることが更に好ましく、1〜10であることが特に好ましい。酢酸を含有させるとセルロース誘導体との相溶性が増すため好ましく、酢酸と他のモノカルボン酸を混合して用いることも好ましい。
【0091】
好ましい前記脂肪族モノカルボン酸としては、酢酸、プロピオン酸、酪酸、吉草酸、カプロン酸、エナント酸、カプリル酸、ペラルゴン酸、カプリン酸、2−エチル−ヘキサンカルボン酸、ウンデシル酸、ラウリン酸、トリデシル酸、ミリスチン酸、ペンタデシル酸、パルミチン酸、ヘプタデシル酸、ステアリン酸、ノナデカン酸、アラキン酸、ベヘン酸、リグノセリン酸、セロチン酸、ヘプタコサン酸、モンタン酸、メリシン酸、ラクセル酸等の飽和脂肪酸、ウンデシレン酸、オレイン酸、ソルビン酸、リノール酸、リノレン酸、アラキドン酸等の不飽和脂肪酸等を挙げることが出来る。
【0092】
好ましい前記脂環族モノカルボン酸の例としては、シクロペンタンカルボン酸、シクロヘキサンカルボン酸、シクロオクタンカルボン酸、またはそれらの誘導体を挙げることが出来る。
【0093】
好ましい前記芳香族モノカルボン酸の例としては、安息香酸、トルイル酸等の安息香酸のベンゼン環にアルキル基を導入したもの、ビフェニルカルボン酸、ナフタリンカルボン酸、テトラリンカルボン酸等のベンゼン環を2個以上有する芳香族モノカルボン酸、またはそれらの誘導体を挙げることが出来るが、特に安息香酸が好ましい。
【0094】
前記多価アルコールエステルの分子量は特に制限はないが、300〜3000であることが好ましく、350〜1500であることがさらに好ましく、420〜1500であることがより好ましい。分子量が大きい方が揮発し難くなるため好ましく、透湿性、セルロース誘導体との相溶性の点では小さい方が好ましい。
【0095】
前記多価アルコールエステルに用いられるカルボン酸は1種類でもよいし、2種以上の混合であってもよい。また、前記多価アルコールエステル中のヒドロキシル基は、全てエステル化してもよいし、一部をヒドロキシル基のままで残してもよい。
【0096】
以下に、前記多価アルコールエステルの具体的化合物を示す。
【0097】
【化9】

【0098】
【化10】

【0099】
【化11】

【0100】
【化12】

【0101】
(重縮合エステル化合物)
前記重縮合エステル系化合物は、少なくとも一種の芳香環を有するジカルボン酸(芳香族ジカルボン酸とも呼ぶ)と少なくとも一種の平均炭素数が2.5〜8.0の脂肪族ジオールとから得られることが好ましい。また、芳香族ジカルボン酸と少なくとも一種の脂肪族ジカルボン酸との混合物、と少なくとも一種の平均炭素数が2.5〜8.0の脂肪族ジオールとから得られることも好ましい。
【0102】
前記ジカルボン酸残基の平均炭素数の計算は、ジカルボン酸残基とジオール残基で個別に行う。
前記ジカルボン酸残基の組成比(モル分率)を構成炭素数に乗じて算出した値を平均炭素数とする。例えば、アジピン酸残基とフタル酸残基が50モル%ずつから構成される場合は、平均炭素数7.0となる。
また、前記ジオール残基の場合も同様で、ジオール残基の平均炭素数は、ジオール残基の組成比(モル分率)を構成炭素数に乗じて算出した値とする。例えばエチレングリコール残基50モル%と1,2−プロパンジオール残基50モル%から構成される場合は平均炭素数2.5となる。
【0103】
前記重縮合エステルの数平均分子量は500〜2000であることが好ましく、600〜1500がより好ましく、700〜1200がさらに好ましい。重縮合エステルの数平均分子量は600以上であれば揮発性が低くなり、セルロースアシレートフィルムの延伸時の高温条件下における揮散によるフィルム故障や工程汚染を生じにくくなる。また、2000以下であればセルロースアシレートとの相溶性が高くなり、製膜時及び加熱延伸時のブリードアウトが生じにくくなる。
前記重縮合エステルの数平均分子量はゲルパーミエーションクロマトグラフィーによって測定、評価することができる。また、末端が封止のないポリエステルポリオールの場合、重量あたりのヒドロキシル基の量(以下、水酸基価とも言う)により算出することもできる。本明細書中において、水酸基価は、ポリエステルポリオールをアセチル化した後、過剰の酢酸の中和に必要な水酸化カリウムの量(mg)を測定する。
【0104】
芳香族ジカルボン酸と脂肪族ジカルボン酸との混合物をジカルボン酸成分として用いる場合は、ジカルボン酸成分の炭素数の平均が5.5〜10.0のジカルボン酸であることが好ましく、より好ましくは5.6〜8である。
炭素数の平均が5.5以上であれば耐久性に優れた偏光板を得ることができる。炭素数の平均が10以下であればセルロースアシレートへの相溶性が優れ、セルロースアシレートフィルムの製膜過程でブリードアウトの発生を抑制することができる。
【0105】
ジオールと、芳香族ジカルボン酸を含むジカルボン酸とから得られた重縮合エステルには、芳香族ジカルボン酸残基が含まれる。
本明細書中では、残基とは、重縮合エステルの部分構造で、重縮合エステルを形成している単量体の特徴を有する部分構造を表す。例えばジカルボン酸HOOC−R−COOHより形成されるジカルボン酸残基は−OC−R−CO−である。
前記重縮合エステルの芳香族ジカルボン酸残基比率は40mol%以上であることが好ましく、40mol%〜95mol%であることがより好ましい。
芳香族ジカルボン酸残基比率を40mol%以上とすることで、十分な光学異方性を示すセルロースアシレートフィルムが得られ、耐久性に優れた偏光板を得ることができる。また、95mol%以下であればセルロースエステルとの相溶性に優れ、セルロースアシレートフィルムの製膜時及び加熱延伸時においてもブリードアウトを生じにくくすることができる。
【0106】
前記重縮合エステル系化合物の形成に用いることができる芳香族ジカルボン酸としては、例えば、フタル酸、テレフタル酸、イソフタル酸、1,5−ナフタレンジカルボン酸、1,4−ナフタレンジカルボン酸、1,8−ナフタレンジカルボン酸、2,8−ナフタレンジカルボン酸又は2,6−ナフタレンジカルボン酸等を挙げることができる。その中でもフタル酸、テレフタル酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸が好ましく、フタル酸、テレフタル酸がより好ましく、テレフタル酸がさらに好ましい。
前記重縮合エステルには、混合に用いた芳香族ジカルボン酸に由来する芳香族ジカルボン酸残基が形成される。
すなわち、前記芳香族ジカルボン酸残基は、フタル酸残基、テレフタル酸残基、イソフタル酸残基の少なくとも1種を含むことが好ましく、より好ましくはフタル酸残基、テレフタル酸残基の少なくとも1種を含み、さらに好ましくはテレフタル酸残基を含む。
前記重縮合エステルの形成における混合に、芳香族ジカルボン酸としてテレフタル酸を用いることで、よりセルロースアシレートとの相溶性に優れ、セルロースアシレートフィルムの製膜時及び加熱延伸時においてもブリードアウトを生じにくいセルロースアシレートフィルムとすることができる。また、前記芳香族ジカルボン酸は1種でも、2種以上を用いてもよい。2種用いる場合は、フタル酸とテレフタル酸を用いることが好ましい。
フタル酸とテレフタル酸の2種の芳香族ジカルボン酸を併用することにより、常温での重縮合エステルを軟化することができ、ハンドリングが容易になる点で好ましい。
前記重縮合エステルのジカルボン酸残基中における、テレフタル酸残基の含有量は40mol%〜100mol%であることが好ましい。
テレフタル酸残基比率を40mol%以上とすることで、十分な光学異方性を示すセルロースアシレートフィルムが得られる。
【0107】
ジオールと、脂肪族ジカルボン酸を含むジカルボン酸とから得られた重縮合エステルには、脂肪族ジカルボン酸残基が含まれる。
前記重縮合エステル系化合物を形成することができる脂肪族ジカルボン酸としては、例えば、シュウ酸、マロン酸、コハク酸、マレイン酸、フマル酸、グルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ドデカンジカルボン酸又は1,4−シクロヘキサンジカルボン酸等が挙げられる。
重縮合エステルには、混合に用いた脂肪族ジカルボン酸に由来する脂肪族ジカルボン酸残基が形成される。
脂肪族ジカルボン酸残基は、平均炭素数が5.5〜10.0であることが好ましく、5.5〜8.0であることがより好ましく、5.5〜7.0であることがさらに好ましい。脂肪族ジカルボン酸残基の平均炭素数が10.0以下であれば化合物の加熱減量が低減でき、セルロースアシレートウェブ乾燥時のブリードアウトによる工程汚染が原因と考えられる面状故障の発生を防ぐことができる。また、脂肪族ジカルボン酸残基の平均炭素数が5.5以上であれば相溶性に優れ、重縮合エステルの析出が起き難く好ましい。
前記脂肪族ジカルボン酸残基は、具体的には、コハク酸残基を含むことが好ましく、2種用いる場合は、コハク酸残基とアジピン酸残基を含むことが好ましい。
すなわち、重縮合エステルの形成における混合に、脂肪族ジカルボン酸を1種用いても、2種以上を用いてもよく、2種用いる場合は、コハク酸とアジピン酸を用いることが好ましい。重縮合エステルの形成における混合に、脂肪族ジカルボン酸を1種用いる場合は、コハク酸を用いることが好ましい。脂肪族ジカルボン酸残基の平均炭素数を所望の値に調整することができ、セルロースアシレートとの相溶性の点で好ましい。
【0108】
重縮合エステルの形成における混合には、ジカルボン酸を2種又は3種を用いることが好ましい。2種を用いる場合は脂肪族ジカルボン酸と芳香族ジカルボン酸とを1種ずつ用いることが好ましく、3種を用いる場合は脂肪族ジカルボン酸を1種と芳香族ジカルボン酸を2種又は脂肪族ジカルボン酸を2種と芳香族ジカルボン酸を1種用いることができる。ジカルボン酸残基の平均炭素数の値を調整しやすく、かつ芳香族ジカルボン酸残基の含有量を好ましい範囲とすることができ、偏光子の耐久性を向上し得るためである。
【0109】
ジオールとジカルボン酸を含むジカルボン酸とから得られた重縮合エステルには、ジオール残基が含まれる。
本明細書中では、ジオールHO−R−OHより形成されるジオール残基は−O−R−O−である。
重縮合エステルを形成するジオールとしては、芳香族ジオール及び脂肪族ジオールが挙げられ、前記可塑剤に用いられる重縮合エステルは少なくとも脂肪族ジオールから形成されることが好ましい。
前記重縮合エステルは、平均炭素数が2.5〜7.0の脂肪族ジオール残基を含むことが好ましく、より好ましくは平均炭素数が2.5〜4.0の脂肪族ジオール残基を含む。前記脂肪族ジオール残基の平均炭素数が7.0より小さいとセルロースアシレートとの相溶性が改善され、ブリードアウトが生じにくくなり、また、化合物の加熱減量が増大しにくくなり、セルロースアシレートウェブ乾燥時の工程汚染が原因と考えられる面状故障が発生し難くなる。また、脂肪族ジオール残基の平均炭素数が2.5以上であれば合成が容易である。
前記重縮合エステル系化合物を形成することができる脂肪族ジオールとしては、アルキルジオール又は脂環式ジオール類を好ましい例として挙げることができ、例えばエチレングリコール、1,2−プロパンジオール、1,3−プロパンジオール、1,2−ブタンジオール、1,3−ブタンジオール、2−メチル−1,3−プロパンジオール、1,4−ブタンジオール、1,5−ペンタンジオール、2,2−ジメチル−1,3−プロパンジオール(ネオペンチルグリコール)、2,2−ジエチル−1,3−プロパンジオール(3,3−ジメチロ−ルペンタン)、2−n−ブチル−2−エチル−1,3−プロパンジオール(3,3−ジメチロールヘプタン)、3−メチル−1,5−ペンタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、2,2,4−トリメチル−1,3−ペンタンジオール、2−エチル−1,3−ヘキサンジオール、2−メチル−1,8−オクタンジオール、1,9−ノナンジオール、1,10−デカンジオール、1,12−オクタデカンジオール、ジエチレングリコール、シクロヘキサンジメタノール等が好ましい。これらはエチレングリコールとともに1種又は2種以上の混合物として使用されることが好ましい。
【0110】
より好ましい前記脂肪族ジオールとしては、エチレングリコール、1,2−プロパンジオール、及び1,3−プロパンジオールの少なくとも1種であり、特に好ましくはエチレングリコール、及び1,2−プロパンジオールの少なくとも1種である。前記脂肪族ジオールを2種用いて前記重縮合エステルを形成する場合は、エチレングリコール、及び1,2−プロパンジオールを用いることが好ましい。1,2−プロパンジオール、又は1,3−プロパンジオールを用いることにより重縮合エステルの結晶化を防止することができる。
前記重縮合エステルには、混合に用いたジオールによりジオール残基が形成される。
すなわち、前記重縮合エステルは、ジオール残基としてエチレングリコール残基、1,2−プロパンジオール残基、及び1,3−プロパンジオール残基の少なくとも1種を含むことが好ましく、エチレングリコール残基又は1,2−プロパンジオール残基であることがより好ましい。
前記重縮合エステルに含まれる脂肪族ジオール残基には、エチレングリコール残基が10mol%〜100mol%含まれることが好ましく、20mol%〜100mol%含まれることがより好ましい。
【0111】
前記重縮合エステルの末端は、封止せずにジオールあるいはカルボン酸のままとしてもよく、さらにモノカルボン酸類又はモノアルコール類を反応させていわゆる末端の封止を実施してもよい。
封止に用いるモノカルボン酸類としては酢酸、プロピオン酸、ブタン酸、安息香酸等が好ましい。封止に用いるモノアルコール類としてはメタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノール、ブタノール、イソブタノール等が好ましく、メタノールが最も好ましい。重縮合エステルの末端に使用するモノカルボン酸類の炭素数が7以下であると、化合物の加熱減量が大きくならず、面状故障が発生しない。
前記重縮合エステルの末端は、封止せずにジオール残基のままであることか、酢酸またはプロピオン酸又は安息香酸によって封止されていることがさらに好ましい。
前記重縮合エステルの両末端は、それぞれ、封止の実施の有無が同一であることを問わない。
縮合体の両末端が未封止の場合、重縮合エステルはポリエステルポリオールであることが好ましい。
前記重縮合エステルの態様の一つとして脂肪族ジオール残基の炭素数が2.5〜8.0であり、重縮合エステルの両末端は未封止である重縮合エステルを挙げることができる。
重縮合エステルの両末端が封止されている場合、モノカルボン酸と反応させて封止することが好ましい。このとき、該重縮合エステルの両末端はモノカルボン酸残基となっている。本明細書中では、モノカルボン酸R−COOHより形成されるモノカルボン酸残基はR−CO−である。重縮合エステルの両末端がモノカルボン酸で封止されている場合、前記モノカルボン酸は脂肪族モノカルボン酸残基であることが好ましく、モノカルボン酸残基が炭素数22以下の脂肪族モノカルボン酸残基であることがより好ましく、炭素数3以下の脂肪族モノカルボン酸残基であることがさらに好ましい。また、炭素数2以上の脂肪族モノカルボン酸残基であることが好ましく、炭素数2の脂肪族モノカルボン酸残基であることが特に好ましい。
前記重縮合エステルの態様の一つとして脂肪族ジオール残基の炭素数が2.5より大きく7.0以下であり、重縮合エステルの両末端がモノカルボン酸残基で封止されている重縮合エステルを挙げることができる。
重縮合エステルの両末端を封止しているモノカルボン酸残基の炭素数が3以下であると、揮発性が低下し、重縮合エステルの加熱による減量が大きくならず、工程汚染の発生や面状故障の発生を低減することが可能である。
すなわち、封止に用いるモノカルボン酸類としては脂肪族モノカルボン酸が好ましく、モノカルボン酸が炭素数2から22の脂肪族モノカルボン酸であることがより好ましく、炭素数2〜3の脂肪族モノカルボン酸であることがさらに好ましく、炭素数2の脂肪族モノカルボン酸残基であることが特に好ましい。
例えば、酢酸、プロピオン酸、ブタン酸、安息香酸及びその誘導体等が好ましく、酢酸又はプロピオン酸がより好ましく、酢酸が最も好ましい。
封止に用いるモノカルボン酸は2種以上を混合してもよい。
前記重縮合エステルの両末端は酢酸又はプロピオン酸による封止が好ましく、酢酸封止により両末端がアセチルエステル残基(アセチル残基と称する場合がある)となることが最も好ましい。
前記重縮合エステルの両末端を封止した場合は、常温での状態が固体形状となりにくく、ハンドリングが良好となり、また湿度安定性、偏光板耐久性に優れたセルロースアシレートフィルムを得ることができる。
【0112】
下記表4に前記重縮合エステルの具体例A−1〜A−34を記すが、これらに限定されるものではない。
【0113】
【表4】

【0114】
上記表4中の略称は、それぞれ以下の化合物を表す。PA:フタル酸、TPA:テレフタル酸、AA:アジピン酸、SA:コハク酸、2,6−NPA:2,6−ナフタレンジカルボン酸。
【0115】
前記重縮合エステルの合成は、常法によりジオールとジカルボン酸とのポリエステル化反応又はエステル交換反応による熱溶融縮合法か、あるいはこれら酸の酸クロライドとグリコール類との界面縮合法のいずれかの方法によっても容易に合成し得るものである。また、前記重縮合エステルについては、村井孝一編者「可塑剤 その理論と応用」(株式会社幸書房、昭和48年3月1日初版第1版発行)に詳細な記載がある。また、特開平05−155809号、特開平05−155810号、特開平5−197073号、特開2006−259494号、特開平07−330670号、特開2006−342227号、特開2007−003679号各公報などに記載されている素材を利用することもできる。
【0116】
前記可塑剤は、揮発性が低い方が、コア層から表層に可塑剤が移動しないようにする観点から好ましい。同様の観点から、前記可塑剤は、分子量が420以上であることが好ましく、500以上であることがより好ましく、550以上であることが特に好ましく、600以上であることがより特に好ましい。
【0117】
<セルロースアシレートと添加剤のSP値>
本明細書中、SP値とは、Hoy法によって算出した溶解度パラメータの値のことを言い、Hoy法は、POLYMER HANDBOOK FOURTH EDITIONに記載がある。分割された原子団のSP値は、結合を切断した部分にメチル基を付加させた構造を用いて算出する。
【0118】
(ΔSP値)
本発明では、前記セルロースアシレートの溶解度パラメータと前記可塑剤の溶解度パラメータの差(以下、溶解度パラメータの差をΔSP値とも言う)が特定の範囲であることが好ましい。
本発明のフィルムは、コア層において、下記(VI)を満たすことが好ましい。
|SP(CC)−SP(CP)|≦2.5MPa1/2・・・(VI)
(式中、SP(CC)はコア層に含まれるセルロースアシレートのSP値を表し、SP(CP)はコア層に含まれる各可塑剤のSP値を表す。)
コア層に含まれるセルロースアシレートとコア層に含まれる各可塑剤のΔSPが2.5MPa1/2以下であれば、セルロースアシレートと可塑剤の相溶性が良化し、白化、泣き出しが生じにくくなる上、コア層から表層への可塑剤の移動が起こりにくくなる。コア層に含まれるセルロースアシレートとコア層に含まれる各可塑剤のΔSPの値は、より好ましくは2.0MPa1/2以下であり、特に好ましくは1.5MPa1/2以下である。
本発明のフィルムは、表層において、下記(VII)を満たすことが好ましい。
0.2≦|SP(SC)−SP(CP)|≦1.5MPa1/2・・・(VII)
(式中、SP(SC)は表層に含まれるセルロースアシレートのSP値を表し、SP(CP)はコア層に含まれる各可塑剤のSP値を表す。)
表層に含まれるセルロースアシレートとコア層に含まれる各可塑剤のΔSPが0.2MPa1/2以上であればコア層から表層への可塑剤の移動が起こりにくくなる一方、1.5MPa1/2以下であれば可塑剤の相溶性が白化、泣き出しが生じにくくなる程度となる。表層に含まれるセルロースアシレートとコア層に含まれる各可塑剤のΔSPの値は、より好ましくは0.2〜1.3MPa1/2であり、特に好ましくは0.2〜0.7MPa1/2である。
前記セルロースアシレートフィルムに添加する可塑剤が2種類以上の場合、全ての可塑剤の溶解度パラメータが、上記範囲を満たすことが好ましい。
【0119】
<その他の添加剤>
本発明のフィルム中には、前記可塑剤以外の添加剤として、紫外線吸収剤;剥離促進剤;マット剤;酸化防止剤;レターデーション調整剤(レターデーション発現剤およびレターデーション低減剤)などの添加剤を加えることもできる。
【0120】
(紫外線吸収剤)
本発明においてはセルロースアシレート溶液に、偏光板または液晶等の劣化防止の観点から、紫外線吸収剤が好ましく用いられる。紫外線吸収剤としては、波長370nm以下の紫外線の吸収能に優れ、かつ良好な液晶表示性の観点から、波長400nm以上の可視光の吸収が少ないものが好ましく用いられる。本発明に好ましく用いられる紫外線吸収剤の具体例としては、例えばヒンダードフェノール系化合物、ヒドロキシベンゾフェノン系化合物、ベンゾトリアゾール系化合物、サリチル酸エステル系化合物、ベンゾフェノン系化合物、シアノアクリレート系化合物、ニッケル錯塩系化合物などが挙げられる。ヒンダードフェノール系化合物の例としては、2、6−ジ−tert−ブチル−p−クレゾール、ペンタエリスリチル−テトラキス〔3−(3、5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート〕、N、N’−ヘキサメチレンビス(3、5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシ−ヒドロシンナミド)、1、3、5−トリメチル−2、4、6−トリス(3、5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)ベンゼン、トリス−(3、5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)−イソシアヌレイトなどが挙げられる。ベンゾトリアゾール系化合物の例としては、2−(2′−ヒドロキシ−5′−メチルフェニル)ベンゾトリアゾール、2、2−メチレンビス(4−(1、1、3、3−テトラメチルブチル)−6−(2H−ベンゾトリアゾール−2−イル)フェノール)、(2、4−ビス−(n−オクチルチオ)−6−(4−ヒドロキシ−3、5−ジ−tert−ブチルアニリノ)−1、3、5−トリアジン、トリエチレングリコール−ビス〔3−(3−tert−ブチル−5−メチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート〕、N、N’−ヘキサメチレンビス(3、5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシ−ヒドロシンナミド)、1、3、5−トリメチル−2、4、6−トリス(3、5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)ベンゼン、2(2’−ヒドロキシ−3’、5’−ジ−tert−ブチルフェニル)−5−クロルベンゾトリアゾール、(2(2’−ヒドロキシ−3’、5’−ジ−tert−アミルフェニル)−5−クロルベンゾトリアゾール、2、6−ジ−tert−ブチル−p−クレゾール、ペンタエリスリチル−テトラキス〔3−(3、5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート〕などが挙げられる。これらの紫外線防止剤の添加量は、セルロースアシレートフィルムの各層中にセルロースアシレートに対する質量割合で1ppm〜5質量%が好ましく、0.1〜5質量%がより好ましく、1〜3質量%が特に好ましい。
【0121】
(剥離促進剤)
本発明のフィルムには、剥離促進剤を含むことが、より剥離性と高める観点から好ましい。剥離促進剤としては、公知のものが採用でき、有機、無機の酸性化合物、界面活性剤、キレート剤等を使用することができる。中でも、多価カルボン酸およびそのエステルが効果的であり、特に、クエン酸のエチルエステル類が効果的に使用することができる。
本発明のフィルムには、後述する本発明の製造方法において支持体に接している側のドープ中に剥離促進剤を含むことが好ましい。
【0122】
(マット剤)
本発明のフィルムは、後述する本発明の製造方法において支持体に接している側のドープ中にマット剤を含有することが、フィルムすべり性、および安定製造の観点から好ましい。前記マット剤は、無機化合物のマット剤であっても、有機化合物のマット剤であってもよい。
前記無機化合物のマット剤の好ましい具体例としては、ケイ素を含む無機化合物(例えば、二酸化ケイ素、焼成ケイ酸カルシウム、水和ケイ酸カルシウム、ケイ酸アルミニウム、ケイ酸マグネシウムなど)、酸化チタン、酸化亜鉛、酸化アルミニウム、酸化バリウム、酸化ジルコニウム、酸化ストロングチウム、酸化アンチモン、酸化スズ、酸化スズ・アンチモン、炭酸カルシウム、タルク、クレイ、焼成カオリン及びリン酸カルシウム等が好ましく、更に好ましくはケイ素を含む無機化合物や酸化ジルコニウムであるが、セルロースアシレートフィルムの濁度を低減できるので、二酸化ケイ素が特に好ましく用いられる。前記二酸化ケイ素の微粒子としては、例えば、アエロジルR972、R974、R812、200、300、R202、OX50、TT600(以上日本アエロジル(株)製)等の商品名を有する市販品が使用できる。前記酸化ジルコニウムの微粒子としては、例えば、アエロジルR976及びR811(以上日本アエロジル(株)製)等の商品名で市販されているものが使用できる。
前記有機化合物のマット剤の好ましい具体例としては、例えば、シリコーン樹脂、弗素樹脂及びアクリル樹脂等のポリマーが好ましく、中でも、シリコーン樹脂が好ましく用いられる。シリコーン樹脂の中でも、特に三次元の網状構造を有するものが好ましく、例えば、トスパール103、トスパール105、トスパール108、トスパール120、トスパール145、トスパール3120及びトスパール240(以上東芝シリコーン(株)製)等の商品名を有する市販品が使用できる。
【0123】
<セルロースアシレートフィルムの層構造>
本発明のフィルムは、前記式(I)を満たすセルロースアシレートおよび可塑剤を含むコア層と、前記式(II)を満たすセルロースアシレートを含み、かつ、フィルムの少なくとも一方の表面を構成する表層とが積層している。
【0124】
本発明のフィルムは、表層とコア層の2層からなっていてもよい。一方、本発明のフィルムは3層以上の積層構造を有していることも、寸法安定性や環境湿熱変化に伴うカール量低減の観点から好ましい。また、前記低置換度層の両面に前記高置換度層を有する場合、光学補償フィルムとして所望の光学特性を実現させる工程における自由度向上の観点から好ましい。
本発明のフィルムが3層構造であるとき、両面の表層に含まれるセルロースアシレートは同じアシル置換度のセルロースアシレートを用いることが、製造コスト、寸法安定性および環境湿熱変化に伴うカール量低減の観点から好ましい。
【0125】
(膜厚)
本発明のフィルムは、全体の膜厚が30〜100μmであることが好ましく、30〜80μmであることがより好ましく、40〜60μmであることが特に好ましい。40μm以上とすることにより、ウェブ状のフィルムを作製する際のハンドリング性が向上し好ましい。また、60μm以下とすることにより、湿度変化に対応しやすく、光学特性を維持しやすい。
本発明のフィルムは前記コア層の平均膜厚が25〜95μmであることが好ましく、25〜75μmであることがより好ましく、35〜55μmであることがさらに好ましい。
【0126】
本発明のフィルムは、前記表層の膜厚が0.5〜20μmであることが好ましく、1〜10μmであることがより好ましく、3〜7μmであることが特に好ましい。
【0127】
(フィルム幅)
本発明のフィルムは、フィルム幅が700〜3000mmであることが好ましく、1000〜2800mmであることがより好ましく、1500〜2500mmであることが特に好ましい。
また、本発明のフィルムは、フィルム幅が700〜3000mmであり、かつΔReが10nm以下であることが好ましい。
【0128】
[セルロースアシレートフィルムの製造方法]
本発明のセルロースアシレートフィルムの製造方法(以下、本発明の製造方法とも言う)は、下記式(I)を満たすセルロースアシレートおよび可塑剤を含むコア層用ドープと、下記式(II)を満たすセルロースアシレートを含む表層用ドープを、前記表層用ドープが、フィルムの少なくとも一方の表面を構成するように支持体上に共流延することを特徴とする。
2.8≦B≦3.0・・・(I)
0.01≦B−A<0.10・・・(II)
(式中、Aは表層に含まれるセルロースアシレートの総アシル基置換度を表し、Bはコア層に含まれるセルロースアシレートの総アシル基置換度を表す。)
以下、本発明の製造方法について詳細に説明する。
【0129】
前記セルロースアシレートフィルムは、ソルベントキャスト法により製造されるのが好ましい。ソルベントキャスト法を利用したセルロースアシレートフィルムの製造例については、米国特許第2,336,310号、同2,367,603号、同2,492,078号、同2,492,977号、同2,492,978号、同2,607,704号、同2,739,069号及び同2,739,070号の各明細書、英国特許第640731号及び同736892号の各明細書、並びに特公昭45−4554号、同49−5614号、特開昭60−176834号、同60−203430号及び同62−115035号等の公報を参考にすることができる。また、前記セルロースアシレートフィルムは、延伸処理を施されていてもよい。延伸処理の方法及び条件については、例えば、特開昭62−115035号、特開平4−152125号、同4−284211号、同4−298310号、同11−48271号等の各公報を参考にすることができる。
【0130】
(流延方法)
溶液の流延方法としては、調製されたドープを加圧ダイから金属支持体上に均一に押し出す方法、一旦金属支持体上に流延されたドープをブレードで膜厚を調節するドクターブレードによる方法、逆回転するロールで調節するリバースロールコーターによる方法等があるが、加圧ダイによる方法が好ましい。加圧ダイにはコートハンガータイプやTダイタイプ等があるが、いずれも好ましく用いることができる。またここで挙げた方法以外にも、従来知られているセルローストリアセテート溶液を流延製膜する種々の方法で実施することができ、用いる溶媒の沸点等の違いを考慮して各条件を設定することにより、それぞれの公報に記載の内容と同様の効果が得られる。
【0131】
本発明の製造方法では、前記コア層用ドープ中に含まれる可塑剤の量が、前記コア層用ドープ中に含まれるセルロースアシレートに対して5質量%〜30質量%であることが好ましく、7質量%〜20質量%であることがより好ましく、10質量%〜20質量%であることが特に好ましく、12〜18質量%であることがより特に好ましい。
【0132】
本発明の製造方法では、前記表層用ドープ中に含まれる可塑剤の量が、前記表層用ドープ中に含まれるセルロースアシレートに対して10質量%以下であることが好ましく、5質量%以下であることがより好ましい。本発明の製造方法では、前記コア層用ドープと前記表層用ドープのうち、前記コア層用ドープのみが前記可塑剤を含むことが、製膜後に表層に含まれる可塑剤の量を少なくする観点から好ましい。
【0133】
(共流延)
本発明のフィルムの形成においては共流延法、逐次流延法、塗布法などの積層流延法を用いることが好ましく、特に同時共流延法を用いることが、安定製造および生産コスト低減の観点から特に好ましい。
共流延法および逐次流延法により製造する場合には、先ず、各層用のセルロースアセテート溶液(ドープ)を調製する。共流延法(重層同時流延)は、流延用支持体(バンドまたはドラム)の上に、各層(3層あるいはそれ以上でも良い)各々の流延用ドープを別のスリットなどから同時に押出す流延用ギーサからドープを押出して、各層同時に流延し、適当な時期に支持体から剥ぎ取って、乾燥しフィルムを成形する流延法である。このような共流延は、例えば特開2010−030225号公報の図1に記載の共流延ギーサを用いて行うことができる。
【0134】
逐次流延法は、流延用支持体の上に先ず第1層用の流延用ドープを流延用ギーサから押出して、流延し、乾燥あるいは乾燥することなく、その上に第2層用の流延用ドープを流延用ギーサから押出して流延する要領で、必要なら第3層以上まで逐次ドープを流延・積層して、適当な時期に支持体から剥ぎ取って、乾燥しフィルムを成形する流延法である。塗布法は、一般的には、コア層のフィルムを溶液製膜法によりフィルムに成形し、表層に塗布する塗布液を調製し、適当な塗布機を用いて、片面ずつまたは両面同時にフィルムに塗布液を塗布・乾燥して積層構造のフィルムを成形する方法である。
【0135】
本発明のフィルムを製造するのに使用される、エンドレスに走行する金属支持体としては、表面がクロムメッキによって鏡面仕上げされたドラムや表面研磨によって鏡面仕上げされたステンレスベルト(バンドといってもよい)が用いられる。本発明の製造方法では、前記支持体の温度を0℃未満に制御して共流延することが好ましく、−20℃以上0℃未満に制御することがより好ましく、−15〜−5℃に制御することが特に好ましい。特開2003−103693号公報[0045]では支持体の温度を0℃〜溶剤の沸点未満に制御しているが、本発明では、上記温度範囲に支持体の温度を制御することが セルロースアシレート溶液の冷却時のゲル化性能の観点から好ましい。
使用される加圧ダイは、金属支持体の上方に1基又は2基以上の設置でもよい。好ましくは1基又は2基である。2基以上設置する場合には、流延するドープ量をそれぞれのダイに種々な割合にわけてもよく、複数の精密定量ギアポンプからそれぞれの割合でダイにドープを送液してもよい。流延に用いられるセルロースアシレート溶液の温度は−10〜55℃が好ましく、より好ましくは25〜50℃である。その場合、工程のすべての溶液温度が同一でもよく、又は工程の各所で異なっていてもよい。異なる場合は、流延直前で所望の温度であればよい。
【0136】
(延伸処理)
本発明の製造方法では、製膜されたセルロースアシレートフィルムを延伸してもよく、延伸氏無くてもよい。延伸の方法については特に制限はなく、公知の方法を用いることができる。
【0137】
幅方向に延伸する方法は、例えば、特開昭62−115035号、特開平4−152125号、同4−284211号、同4−298310号、同11−48271号などの各公報に記載されている。長手方向の延伸の場合、例えば、フィルムの搬送ローラーの速度を調節して、フィルムの剥ぎ取り速度よりもフィルムの巻き取り速度の方を速くするとフィルムは延伸される。幅方向の延伸の場合、フィルムの巾をテンターで保持しながら搬送して、テンターの巾を徐々に広げることによってもフィルムを延伸できる。フィルムの乾燥後に、延伸機を用いて延伸すること(好ましくはロング延伸機を用いる一軸延伸)もできる。
【0138】
(乾燥)
本発明の製造方法では、セルロースアシレートフィルムを乾燥する工程を含むことが好ましい。また、乾燥後のセルロースアシレートフィルムをTg−10℃以上の温度で延伸する工程を含むことが、レターデーション発現性の観点から好ましいが、本発明の製造方法は延伸工程を含まなくてもよい。
【0139】
セルロースアシレートフィルムの製造に係わる、金属支持体上におけるドープの乾燥は、一般的には、金属支持体(ドラム又はベルト)の表面側、つまり金属支持体上にあるウェブの表面から熱風を当てる方法、ドラム又はベルトの裏面から熱風を当てる方法、温度コントロールした液体をベルトやドラムのドープ流延面の反対側である裏面から接触させて、伝熱によりドラム又はベルトを加熱し表面温度をコントロールする裏面液体伝熱方法などがあるが、裏面液体伝熱方式が好ましい。流延される前の金属支持体の表面温度は、ドープに用いられている溶媒の沸点以下であれば何度でもよい。しかし乾燥を促進するためには、また金属支持体上での流動性を失わせるためには、使用される溶媒の内の最も沸点の低い溶媒の沸点より1〜10℃低い温度に設定することが好ましい。なお流延ドープを冷却して乾燥することなく剥ぎ取る場合はこの限りではない。
【0140】
フィルム厚さの調整は、所望の厚さになるように、ドープ中に含まれる固形分濃度、ダイの口金のスリット間隙、ダイからの押し出し圧力、金属支持体速度等を調節すればよい。
【0141】
以上のようにして得られた、セルロースアシレートフィルムの長さは、1ロール当たり100〜10000mで巻き取るのが好ましく、より好ましくは500〜7000mであり、さらに好ましくは1000〜6000mである。巻き取る際、少なくとも片端にナーリングを付与するのが好ましく、ナーリングの幅は3mm〜50mmが好ましく、より好ましくは5mm〜30mm、高さは0.5〜500μmが好ましく、より好ましくは1〜200μmである。これは片押しであっても両押しであってもよい。
【0142】
一般的に、大画面表示装置において、斜め方向のコントラストの低下及び色味付きが顕著となるので、本発明のフィルムは、特に大画面液晶表示装置に用いるのに適している。大画面用液晶表示装置用の光学補償フィルムとして用いる場合は、例えば、フィルム幅を1470mm以上として成形するのが好ましい。また、本発明の光学補償フィルムには、液晶表示装置にそのまま組み込むことが可能な大きさに切断されたフィルム片の態様のフィルムのみならず、連続生産により、長尺状に作製され、ロール状に巻き上げられた態様のフィルムも含まれる。後者の態様の光学補償フィルムは、その状態で保管・搬送等され、実際に液晶表示装置に組み込む際や偏光子等と貼り合わされる際に、所望の大きさに切断されて用いられる。また、同様に長尺状に作製されたポリビニルアルコールフィルム等からなる偏光子等と、長尺状のまま貼り合わされた後に、実際に液晶表示装置に組み込む際に、所望の大きさに切断されて用いられる。ロール状に巻き上げられた光学補償フィルムの一態様としては、ロール長が2500m以上のロール状に巻き上げられた態様が挙げられる。
【0143】
[偏光板]
また、本発明は、本発明のフィルムを少なくとも一枚用いることを特徴とする偏光板にも関する。
本発明の偏光板は、偏光子と、本発明のセルロースアシレートフィルムを少なくとも1つ含み、前記表層と前記偏光子とが直接貼り合わせられている。このように偏光子に本発明のフィルムの表層側を、ハードコート層など他の機能層を本発明のフィルムの表層上にさらに設置せずに、直接貼り合わせてあることが、デラミ・クラックの性能の観点から好ましい。また、本発明のセルロースアシレートフィルムの表層側はアシル置換度が低過ぎないため、該表層側と偏光子と直接貼り合わせてあってもデラミ・クラックの性能の問題が生じにくく、好ましい。なお、ここでいう直接貼り合わせてあるとは、表面処理をしてから貼り合わせてある態様や、一般的な接着剤や粘着剤などを介して貼り合わせてある態様も含む。セルロースアシレートフィルムの表層を表面処理(アルカリ鹸化、グロー放電、コロナ放電;最も好ましいのはアルカリ鹸化)を施し、表面処理した面を接着剤や粘着剤を用いて偏光子に貼り合せて偏光板を作成することが特に好ましい。本発明の光学補償フィルムと同様、本発明の偏光板の態様は、液晶表示装置にそのまま組み込むことが可能な大きさに切断されたフィルム片の態様の偏光板のみならず、連続生産により、長尺状に作製され、ロール状に巻き上げられた態様(例えば、ロール長2500m以上や3900m以上の態様)の偏光板も含まれる。大画面液晶表示装置用とするためには、上記した通り、偏光板の幅は1470mm以上とすることが好ましい。このように一度ロール状に巻き上げられた態様の偏光板であっても、本発明の効果を奏することができる。
本発明の偏光板の具体的な構成については、特に制限はなく公知の構成を採用できるが、例えば、図1に記載した偏光板3の構成、すなわち、本発明のセルロースアシレートフィルム3の表層1が偏光子10に接着剤または粘着剤を用いて貼り合わせられている態様を挙げることができる。また、本発明の偏光板は、前記偏光子の少なくとも一方の面に本発明のセルロースアシレートフィルムを配置した構成であり、前記偏光子の両面に本発明のセルロースアシレートフィルムを配置した構成であることがより好ましい。その他、特開2008−262161号公報の図6に記載の構成を採用することもできる。
【0144】
[液晶表示装置]
本発明は、本発明のセルロースアシレートフィルムまたは本発明の偏光板を有する液晶表示装置にも関する。
本発明の液晶表示装置は液晶セルと該液晶セルの両側に配置された一対の偏光板を有する液晶表示装置であって、前記偏光板の少なくとも一方が本発明の偏光板であることを特徴とするIPS、OCBまたはVAモードの液晶表示装置であることが好ましい。また、本発明の液晶表示装置は、前記偏光板の両方が本発明の偏光板であることがより好ましい。
本発明の液晶表示装置の具体的な構成としては特に制限はなく公知の構成を採用できるが、例えば図1に記載の構成とした例を採用することができる。また、特開2008−262161号公報の図2に記載の構成も好ましく採用することができる。
【実施例】
【0145】
以下に実施例を挙げて本発明をさらに具体的に説明する。以下の実施例に示す材料、試薬、物質量とその割合、操作等は本発明の趣旨から逸脱しない限り適宜変更することができる。従って、本発明の範囲は以下の具体例に制限されるものではない。
【0146】
(セルロースアシレートの調製)
特開平10−45804号公報、同08−231761号公報に記載の方法で、セルロースアシレートを合成し、その置換度を測定した。具体的には、触媒として硫酸(セルロース100質量部に対し7.8質量部)を添加し、アシル置換基の原料となるカルボン酸を添加し40℃でアシル化反応を行った。この時、カルボン酸の種類、量を調整することでアシル基の種類、置換度を調整した。またアシル化後に40℃で熟成を行った。さらにこのセルロースアシレートの低分子量成分をアセトンで洗浄し除去した。
【0147】
(コア層用ドープの調製)
下記の組成物をミキシングタンクに投入し、撹拌して、各成分を溶解し、コア層用ドープとしてセルロースアシレート溶液を調製した。各セルロースアシレート溶液の固形分濃度が23.5質量%となるように溶剤(塩化メチレン/メタノール/ブタノール=84/15/1)の量は適宜調整した。
・セルロースアシレート(下記表5に記載の置換度) 100.0質量部
・下記表5に記載の可塑剤 下記表5に記載の量(質量部)
・紫外線吸収剤(下記UV−1) 2.0質量部
・溶剤 365.5質量部
【0148】
(表層用ドープの調製)
下記の組成物をミキシングタンクに投入し、撹拌して、各成分を溶解し、表層用ドープとしてセルロースアシレート溶液を調製した。各セルロースアシレート溶液の固形分濃度が18.0質量%となるように溶剤(塩化メチレン/メタノール/ブタノール=84/15/1)の量は適宜調整した。
・セルロースアシレート(下記表5に記載の置換度) 100.0質量部
・下記表5に記載の可塑剤 下記表5に記載の量(質量部)
・紫外線吸収剤(下記UV−1) 1.0質量部
・紫外線吸収剤(下記UV−2) 1.0質量部
・紫外線吸収剤(下記UV−3) 1.0質量部
・溶剤 365.5質量部
【0149】
【化13】

【0150】
(セルロースアシレート試料の作成)
−10℃に冷却された金属バンド支持体上に接するように前記コア層用ドープを膜厚35μmのコア層になるように、コア層用ドープの上に前記表層用ドープを膜厚5μmの表層になるように、支持体上にコア層用ドープが接するように、ダイから共流延した。得られたウェブ(フィルム)をバンドから剥離し、30〜40℃で搬送しながら乾燥させた後、枠張りして130℃で20分間後乾燥させた。
なお、比較例4〜6、8、9および11は表層用ドープを用いずに、コア層用ドープのみを35μmの厚みで製膜した以外は同様にして、製膜した。
【0151】
(スクロースベンゾエートの平均置換度の測定法)
以下のHPLC条件下での測定により保持時間が31.5min付近にあるピークを8置換体、27〜29min付近にあるピーク群を7置換体、22〜25min付近にあるピーク群を6置換体、15〜20min付近にあるピーク群を5置換体、8.5〜13min付近にあるピーク群を4置換体、3〜6min付近にあるピーク群を3置換体としてそれぞれの面積比を合計した値に対する平均置換度を算出した。
《HPLC測定条件》
カラム:TSK−gel ODS−100Z(東ソー)、4.6*150mm、ロット番号(P0014)
溶離液A:H2O=100、 溶離液B:AR=100。A,BともにAcOH、NEt3各0.1%入り
流量:1ml/min、カラム温度:40℃、波長:254nm、感度:AUX2、注入量:10μl、リンス液:THF/ H2O=9/1(vol比)
サンプル濃度:5mg/10ml(THF)
【0152】
【化14】

【0153】
【化15】

【0154】
【化16】

【0155】
[測定および評価]
実施例および比較例のフィルムの特性について、以下の測定および評価を実施した。
<可塑剤分布の測定>
上記で作製した各実施例および比較例のセルロースアシレートフィルムのコア層に含まれる可塑剤量と、表層に含まれる可塑剤量を、高速液体クラマトグラフィーを用いて以下の測定方法でそれぞれ測定した。
表層の可塑剤量はフィルム表面から1μm程度以内を削りとり、テトラヒドロフランによって可塑剤を抽出し定量した。
コア層の可塑剤量はフィルム表面から5μm以上内部を削りとり、テトラヒドロフランによって可塑剤を抽出し定量した。得られたコア層と表層に含まれる可塑剤量を、それぞれコア層に含まれるセルロースアシレート、表層に含まれるセルロースアシレートに対する質量%に換算し、その結果を表5に記載した。
また、コア層と表層に含まれる可塑剤添加量差Y−Xを計算し、あわせてその結果を表5に記載した。
【0156】
<デラミと鹸化時の白化評価>
(偏光板試料の作製1)
上記で作製した各実施例および比較例のセルロースアシレートフィルムの表面をアルカリ鹸化処理した。1.5規定の水酸化ナトリウム水溶液に55℃で2分間浸漬し、室温の水洗浴槽中で洗浄し、30℃で0.1規定の硫酸を用いて中和した。再度、室温の水洗浴槽中で洗浄し、さらに100℃の温風で乾燥した。続いて、厚さ80μmのロール状ポリビニルアルコールフィルムをヨウ素水溶液中で連続して5倍に延伸し、乾燥して厚さ20μmの偏光子を得た。ポリビニルアルコール(クラレ製PVA−117H)3%水溶液を接着剤として、前記のアルカリ鹸化処理した各実施例および比較例のセルロースアシレートフィルム2枚を用意し、これらの鹸化した面が偏光子側となるようにして偏光子を間に挟んで貼り合わせ、各実施例および比較例のセルロースアシレートフィルム、偏光子、各実施例および比較例のセルロースアシレートフィルムがこの順に貼り合わせてある偏光板をそれぞれ得た。この際、各セルロースアシレートフィルムのMD方向が、偏光子の吸収軸と平行になるように貼り付けた。
【0157】
(デラミ評価方法)
作成した各実施例および比較例の偏光板を80℃のセルコに24時間入れた後、温度25℃湿度60%の部屋で調湿を1時間行った後に、4×4cmのトムソンバーによる打ち抜き器によって5枚打ち抜きを行った。
打ち抜いた4×4cmの偏光板試料について、その各辺の剥がれ具合を、以下の基準に基づいて1試料当たり4点を最高点として点数化した。
0.00点:デラミ、クラックの発生がない。
0.25点:デラミ、クラックの発生がしている領域が、一辺の25%以下。
0.50点:デラミ、クラックの発生がしている領域が、一辺の25%超から50%以下。
0.75点:デラミ、クラックの発生がしている領域が、一辺の50%超から75%未満。
1.00点:デラミ、クラックの発生がしている領域が、一辺の75%超。
5枚の偏光板試料について点数を合計し、以下のように評価を行い、その結果を下記表5に記載した。
○:デラミ点数0〜5点
×:デラミ点数5〜10点
××:デラミ点数10〜20点
【0158】
(鹸化時の白化評価方法)
各実施例および比較例の偏光板を作製する際に、鹸化時に白化が生じるか否かを目視にて確認し、白化が生じたものについて、その旨を下記表5に記載した。
【0159】
【表5】


【0160】
上記表5より本発明のセルロースアシレートフィルムはいずれも各辺におけるデラミの発生が少なく、鹸化時に白化が生じないことがわかった。
一方、比較例1、2、10および12はコア層用ドープと表層用ドープにそれぞれ総アシル置換度が等しいセルロースアシレートを用いたものであり、いずれもデラミが発生してしまうことがわかった。比較例4〜6、8、9および11は表層を形成せずに単層で製膜したものであり、いずれもデラミが発生してしまうことがわかった。比較例3および7はコア層用ドープに含まれるセルロースアシレートの総アシル置換度と、表層用ドープに含まれるセルロースアシレートの総アシル置換度の差をそれぞれ0.40、0.20とし、本発明の式(II)を満たさないようにして従来公知のフィルムよりも可塑剤の添加量を増やしたものであり、鹸化時に白化が生じてしまうことがわかった。
【0161】
[実施例101〜111、比較例101〜111]
実施例11において、可塑剤1をP−1から、それぞれ下記表6に記載のP−2〜P−12に変更した以外は実施例11と同様にして実施例101〜111のセルロースアシレートフィルムを製造した。
また、比較例7において、可塑剤1をP−1から、それぞれP−2〜P−12に変更した以外は比較例7と同様にして比較例101〜111のセルロースアシレートフィルムを製造した。
【0162】


【表6】

上記表6中、化合物PAはテレフタル酸を表す。化合物TPAはテレフタル酸を表す。化合物AAはアジピン酸を表す。化合物SAはコハク酸を表す。
【0163】
実施例101〜111および比較例101〜111のセルロースアシレートフィルムについてデラミおよび鹸化時の白化を評価した結果、実施例11および比較例7と同じ傾向の結果であった。
【0164】
[実施例201]
(液晶表示装置の作製1)
VAモードの液晶TV(LCD−40MZW100、三菱(株)製)の表裏の偏光板および位相差板を剥がして、液晶セルとして用いた。偏光板試料の作製1で製造した各実施例および比較例の偏光板を用いて、図1の構成のように、フロント側から順に、各実施例および比較例のセルロースアシレートフィルム(外側保護フィルム)3、偏光子10、各実施例および比較例のセルロースアシレートフィルム3’、液晶セル20(上記のVA液晶セル)、各実施例および比較例のセルロースアシレートフィルム3’’、偏光子10’および各実施例および比較例のセルロースアシレートフィルム(外側保護フィルム)3’’’をこの順に粘着剤を用いて貼り合わせ、各実施例および比較例の液晶表示装置22を作製した。この際、上下の偏光板の吸収軸が直交するように貼り合わせた。なお、本発明のセルロースアシレートフィルムを構成する表層とコア層のうち、表層側を偏光子に貼り合わせた。
【0165】
[実施例202]
(偏光板試料の作製2)
上記で作製した各実施例および比較例のセルロースアシレートフィルムの表面をアルカリ鹸化処理した。1.5規定の水酸化ナトリウム水溶液に55℃で2分間浸漬し、室温の水洗浴槽中で洗浄し、30℃で0.1規定の硫酸を用いて中和した。再度、室温の水洗浴槽中で洗浄し、さらに100℃の温風で乾燥した。続いて、厚さ80μmのロール状ポリビニルアルコールフィルムをヨウ素水溶液中で連続して5倍に延伸し、乾燥して厚さ20μmの偏光子を得た。ポリビニルアルコール(クラレ製PVA−117H)3%水溶液を接着剤として、前記のアルカリ鹸化処理した各実施例および比較例のセルロースアシレートフィルムと、同様のアルカリ鹸化処理したフジタックTD80UL(富士写真フィルム社製)を用意し、これらの鹸化した面が偏光子側となるようにして偏光子を間に挟んで貼り合わせ、各実施例および比較例のセルロースアシレートフィルム、偏光子、TD80ULがこの順に貼り合わせてある偏光板をそれぞれ得た。この際、各セルロースアシレートフィルムのMD方向およびTD80ULの遅相軸が、偏光子の吸収軸と平行になるように貼り付けた。なお、本発明のセルロースアシレートフィルムを構成する表層とコア層のうち、表層側を偏光子に貼り合わせた。
【0166】
(液晶表示装置の作製2)
VAモードの液晶TV(LCD−40MZW100、三菱(株)製)の表裏の偏光板および位相差板を剥がして、液晶セルとして用いた。外側保護フィルム、偏光子、各実施例および比較例のセルロースアシレートフィルム、液晶セル(上記のVA液晶セル)、光学異方性フィルム(フジタックTD80UL)15、偏光子および外側保護フィルムをこの順に粘着剤を用いて貼り合わせ、各実施例および比較例の液晶表示装置を作製した。この際、上下の偏光板の吸収軸が直交するように貼り合わせた。
【0167】
<液晶表示装置の評価>
(パネルの色味視野角評価)
上記作製したVAモードの液晶表示装置1および2について、リア側(例えば、液晶表示装置1では図1中の偏光板3’’’側)にバックライトを設置し、各々について測定機(EZ−Contrast XL88、ELDIM社製)を用いて、暗室内で黒表示時および白表示時の輝度および色度を測定し、黒表示におけるカラーシフトおよびコントラスト比(CR)を算出した。
【0168】
その結果、本発明のセルロースアシレートフィルムを用いた液晶表示装置はいずれも良好な評価が得られた。
【符号の説明】
【0169】
1、1’、1’’、1’’’ コア層
2、2’、2’’、2’’’ 表層
3、3’、3’’、3’’’ 本発明のセルロースアシレートフィルム
10、10’ 偏光子
20、20’ 偏光板
21 液晶セル
22 液晶表示装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(I)を満たすセルロースアシレートおよび可塑剤を含むコア層と、
下記式(II)を満たすセルロースアシレートを含み、かつ、フィルムの少なくとも一方の表面を構成する表層を含むことを特徴とするセルロースアシレートフィルム。
2.8≦B≦3.0・・・(I)
0.01≦B−A<0.10・・・(II)
(式中、Aは表層に含まれるセルロースアシレートの総アシル基置換度を表し、Bはコア層に含まれるセルロースアシレートの総アシル基置換度を表す。)
【請求項2】
下記式(III)を満たすことを特徴とする請求項1に記載のセルロースアシレートフィルム。
2.75≦A<2.85・・・(III)
(式中、Aは表層に含まれるセルロースアシレートの総アシル基置換度を表す。)
【請求項3】
下記式(IV)を満たすことを特徴とする請求項1または2に記載のセルロースアシレートフィルム。
0<X<Y・・・(IV)
(式中、Xは表層に含まれるセルロースアシレートに対する、表層に含まれる全ての可塑剤の含有量(単位:質量%)を表す。Yはコア層に含まれるセルロースアシレートに対する、コア層に含まれる全ての可塑剤の含有量(単位:質量%)を表す。)
【請求項4】
前記表層が下記式(V)を満たすことを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載のセルロースアシレートフィルム。
0<X<10・・・(V)
(式中、Xは表層に含まれるセルロースアシレートに対する、表層に含まれる全ての可塑剤の含有量(単位:質量%)を表す。)
【請求項5】
前記可塑剤が、非リン酸エステル系であることを特徴とする請求項1〜4のいずれか一項に記載のセルロースアシレートフィルム。
【請求項6】
前記可塑剤が、分子量420以上であることを特徴とする請求項1〜5のいずれか一項に記載のセルロースアシレートフィルム。
【請求項7】
前記コア層が下記式(VI)を満たすことを特徴とする請求項1〜6のいずれか一項に記載のセルロースエステルフィルム。
|SP(CC)−SP(CP)|≦2.5MPa1/2・・・(VI)
(式中、SP(CC)はコア層に含まれるセルロースアシレートのSP値を表し、SP(CP)はコア層に含まれる各可塑剤のSP値を表す。)
【請求項8】
前記コア層が下記式(VII)を満たすことを特徴とする請求項1〜7のいずれか一項に記載のセルロースエステルフィルム。
0.2≦|SP(SC)−SP(CP)|≦1.5MPa1/2・・・(VII)
(式中、SP(SC)は表層に含まれるセルロースアシレートのSP値を表し、SP(CP)はコア層に含まれる各可塑剤のSP値を表す。)
【請求項9】
下記式(I)を満たすセルロースアシレートおよび可塑剤を含むコア層用ドープと、
下記式(II)を満たすセルロースアシレートを含む表層用ドープを、
前記表層用ドープが、フィルムの少なくとも一方の表面を構成するように支持体上に共流延することを特徴とするセルロースアシレートフィルムの製造方法。
2.8≦B≦3.0・・・(I)
0.01≦B−A<0.10・・・(II)
(式中、Aは表層に含まれるセルロースアシレートの総アシル基置換度を表し、Bはコア層に含まれるセルロースアシレートの総アシル基置換度を表す。)
【請求項10】
下記式(III)を満たすことを特徴とする請求項9に記載のセルロースアシレートフィルム。
2.75≦A<2.85・・・(III)
(式中、Aは表層に含まれるセルロースアシレートの総アシル基置換度を表し、Bはコア層に含まれるセルロースアシレートの総アシル基置換度を表す。)
【請求項11】
前記表層用ドープ中に含まれる可塑剤の量が、前記表層用ドープ中に含まれるセルロースアシレートに対して5質量%以下であることを特徴とする請求項9または10に記載のセルロースアシレートフィルムの製造方法。
【請求項12】
前記コア層用ドープと前記表層用ドープのうち、前記コア層用ドープのみが前記可塑剤を含むことを特徴とする請求項9〜11のいずれか一項に記載のセルロースアシレートフィルムの製造方法。
【請求項13】
前記コア層用ドープ中に含まれる可塑剤の量が、前記コア層用ドープ中に含まれるセルロースアシレートに対して5質量%〜20質量%であることを特徴とする請求項9〜12のいずれか一項に記載のセルロースアシレートフィルムの製造方法。
【請求項14】
前記可塑剤が、分子量420以上であることを特徴とする請求項9〜13のいずれか一項に記載のセルロースアシレートフィルムの製造方法。
【請求項15】
前記支持体の温度を0℃未満に制御して共流延することを特徴とする請求項9〜14のいずれか一項に記載のセルロースアシレートフィルムの製造方法。
【請求項16】
請求項9〜15のいずれか一項に記載のセルロースアシレートフィルムの製造方法で製造されたことを特徴とするセルロースアシレートフィルム。
【請求項17】
偏光子と、
請求項1〜8および16のいずれか一項に記載のセルロースアシレートフィルムを少なくとも1つ含み、
前記表層と前記偏光子とが直接貼り合わせられていることを特徴とする偏光板。
【請求項18】
請求項1〜8および16のいずれか一項に記載のセルロースアシレートフィルムまたは請求項17に記載の偏光板を少なくとも1つ有することを特徴とする液晶表示装置。

【図1】
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【公開番号】特開2012−66571(P2012−66571A)
【公開日】平成24年4月5日(2012.4.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−137307(P2011−137307)
【出願日】平成23年6月21日(2011.6.21)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【Fターム(参考)】