説明

セルロースアシレートフィルムの製造方法

【課題】プレートアウトの発生を抑え、かつ、黄変化がないセルロースアシレートフィルムの製造方法を提供する。
【解決手段】カルシウム量とマグネシウム量と硫酸量とが所定の範囲ないしは所定の関係を有するセルロースアシレート、および下記式(I)で表される骨格を有する化合物を含むドープ24を、流延ドラム82の上に流延して流延膜24aを形成する。この流延膜24aを流延ドラム24aから剥ぎ取り、乾燥してセルロースアシレートフィルム62とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はセルロースアシレートフィルムの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
溶液製膜方法は、周知の通り、ポリマーを溶剤に溶解したドープを、支持体上に流延して流延膜を形成し、この流延膜を湿潤フィルムとして剥がして乾燥することにより、フィルムを製造する方法である。光学用途に多く使われるセルロースアシレートフィルムは、このような溶液製膜方法で製造されている。近年では、液晶ディスプレイの急速な市場拡大に伴い、液晶ディスプレイを構成する視野角拡大フィルムや偏光板保護フィルム等としてのセルロースアシレートフィルムの需要も急速に増加している。そこで、既存設備での製造量を大幅に増加させる必要がある。
【0003】
既存の溶液製膜設備でフィルムを増産するためには、支持体としてのベルトあるいはドラムをより高速で動かすことになる。そして、支持体ではドープの流延と流延膜の剥ぎ取りとが繰り返し行われ、単位時間におけるこの繰り返し回数が、フィルムの生産速度を速めるに従い多くなる。ドープの組成や、流延条件、剥ぎ取り条件等によりばらつきがあるものの、フィルムの生産速度を速めるにつれて、支持体はよりはやく汚れていくことになる。
【0004】
支持体の汚れとしては、流延膜に含まれていた物質が目視では確認されない程度で徐々に増えていき曇りとなって確認されるようになるものがある。以降の説明においては、このように確認される曇り現象をプレートアウトと称する。このプレートアウトを防止する方法としては様々な提案がこれまで為されており、例えば、特許文献1では、特定の抽出条件によりセルロースアシレートから抽出される化合物の濃度、さらには、セルロースアシレート溶液に含まれるカルシウム、マグネシウム、硫酸等の濃度が特定の範囲であることにより、ドラム上に生成する汚れの量を低減することができるセルロースアシレートフィルムの製造方法が開示されている。なお、カルシウム、マグネシウム、硫酸が、セルロースアシレートに含まれるのは、セルロースアシレートを合成する過程には、触媒として硫酸を用いる工程と、この硫酸が存在することからアルカリ土類金属塩を用いてセルロースアシレートを洗浄する工程とがあるからである。アルカリ土類金属塩に代えて、あるいは加えてマグネシウム塩やアルカリ金属塩を用いると、セルロースアシレート中には、アルカリ土類金属に代えて、あるいは加えてマグネシウムやアルカリ土類金属類が存在することになる。
【0005】
【特許文献1】特開2006−199029号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1に記載されているようにカルシウムの濃度が低いセルロースアシレートを用いることにより、プレートアウトを防止することができる。このプレートアウトは、脂肪酸塩が、冷却された支持体である例えばドラムの周面で、溶剤から析出することによる現象である。カルシウムの水酸化物の塩の使用量を従来よりも少なくすると、カルシウム以外のものの水酸化物の塩も用いる必要が生じるが、例えば、マグネシウムの水酸化物の塩を使用することにより、プレートアウトを同様に抑制することができる。これは、溶剤への溶解性につき、脂肪酸のカルシウム(Ca)塩の方が、脂肪酸のマグネシウム(Mg)塩よりも低いためである。しかし、Caの濃度を抑制したセルロースアシレートからセルロースアシレートフィルムを製造すると、製造されたフィルムが着色することが分かった。
【0007】
光学用途、特に液晶ディスプレイ用途においては、セルロースアシレートフィルムに対して、色味をこれまで以上に無くすことと、透明性が経時的に落ちないようにすることとが望まれている。セルロースアシレートフィルムは、わずかに黄色味を帯びた状態で製造される場合があったり、あるいは、製造されたときには無色透明ではあるが、その後、経時的に黄色味を帯びていき、その濃さのレベルが高くなっていき不透明になっていく場合があり、黄色味が薄く、透明であるもの、つまり、より無色透明に近いものほど好ましい。なお、本明細書においては、黄色味が帯びることと黄色が濃くなっていくことをあわせて「黄変化」と称する。
【0008】
そこで、本発明は、プレートアウトの発生を抑え、かつ、黄変化がないセルロースアシレートフィルムの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは上記課題を解決すべく、鋭意、検討した結果、セルロースアシレート中のカルシウム量(濃度)、および、セルロースアシレートフィルムを製造する際に使用する特定の骨格を有する化合物、カルシウム、マグネシウムおよび硫酸の量の関係を特定することにより、プレートアウトの発生を抑え、かつ、黄変化や濃色化がないセルロースアシレートフィルムを製造できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0010】
すなわち、本発明は、セルロースアシレートおよび下記式(I)で表される骨格を有する化合物を含むドープを、支持体の上に流延して流延膜を形成し、この流延膜を前記支持体から剥ぎ取り、乾燥させるセルロースアシレートフィルムの製造方法において、前記セルロースアシレートが、0≦C1≦10と、8≦C2+C3−C4≦88との条件を満たすことを特徴として構成されている。ここで、C1は、前記セルロースアシレート中に残存するカルシウムの、前記セルロースアシレート1gに対する量(単位;μmol)であり、C2は、前記セルロースアシレート中に残存する前記カルシウムの、前記化合物1gに対する量(単位;μmol)であり、C3は、前記セルロースアシレートに残存するマグネシウムの、前記化合物1gに対する量(単位;μmol)であり、C4は、前記セルロースアシレートに残存する硫酸の、前記化合物1gに対する量(単位;μmol)である。
【0011】
【化3】

【0012】
上記の製造方法では、前記化合物が下記一般式(II)で表されることが好ましい。なお、一般式(II)中で、XとYとZとは、夫々独立に、水素原子、アルキル基、ハロゲン原子、アルコキシル基、水酸基、アミノ基またはアミド基である。
【0013】
【化4】

【0014】
前記化合物は、2−(2’−ヒドロキシ−3’−t−ブチル−5’−メチルフェニル)−5−クロロベンゾトリアゾール、または2−(2’−ヒドロキシ−3’−tert−ブチル−5’−t−ブチルフェニル)−5−クロロベンゾトリアゾールであることが好ましい。
【0015】
前記セルロースアシレートは、水酸化カルシウムを使用する工程を経て得られることが好ましく、前記セルロースアシレートは、酢酸マグネシウムを使用する工程を経て得られることが好ましい。
【発明の効果】
【0016】
本発明によると、プレートアウトの発生を抑え、かつ、黄変化がないセルロースアシレートフィルムを製造することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下に、本発明の実施様態について詳細に説明する。ただし、本発明はここに挙げる実施様態に限定されるものではない。
【0018】
[原料]
本発明に係るセルロースアシレートはリンター綿とパルプ綿とのいずれから得られたセルロースを原料としてもよい。そして、セルロースアシレートの中でも、セルロースの水酸基の水素をアシル基で置換している割合、つまりアシル基の置換度(以下、アシル置換度と称する)が下記式(I)〜(III)の全ての条件を満足するものがより好ましい。なお、(I)〜(III)において、Aはアセチル基の置換度、Bは炭素原子数3〜22のアシル基の置換度である。
2.5≦A+B≦3.0・・・(I)
0≦A≦3.0・・・(II)
0≦B≦2.9・・・(III)
【0019】
セルロースを構成しβ−1,4結合しているグルコース単位は、2位、3位および6位に遊離の水酸基を有している。セルロースアシレートは、これらの水酸基の一部または全部がエステル化されて、水素が炭素数2以上のアシル基に置換された重合体(ポリマー)である。なお、水酸基のエステル化が100%されていると置換度は1であるので、セルロースアシレートの場合には、2位、3位および6位の水酸基がそれぞれ100%エステル化されていると置換度は3となる。
【0020】
ここで、グルコース単位の2位のアシル置換度をDS2、3位のアシル置換度をDS3、6位のアシル置換度をDS6とする。DS2+DS3+DS6で求められる全アシル置換度は2.00〜3.00であることが好ましく、2.22〜2.90であることがより好ましく、2.40〜2.88であることがさらに好ましい。また、DS6/(DS2+DS3+DS6)は0.32以上であることが好ましく、0.322以上であることがより好ましく、0.324〜0.340であることがさらに好ましい。
【0021】
アシル基は1種類だけでもよいし、あるいは2種類以上であってもよい。アシル基が2種類以上であるときには、そのひとつがアセチル基であることが好ましい。2位、3位及び6位の水酸基の水素のアセチル基による置換度の総和をDSAとし、2位、3位及び6位におけるアセチル基以外のアシル基による置換度の総和をDSBとすると、DSA+DSBの値は2.2〜2.86であることが好ましく、2.40〜2.80であることが特に好ましい。DSBは1.50以上であることが好ましく、1.7以上であることが特に好ましい。そして、DSBはその28%以上が6位水酸基の置換基であることが好ましいが、より好ましくは30%以上、さらに好ましくは31%以上、特に好ましくは32%以上が6位水酸基の置換基であることが好ましい。また、セルロースアシレートの6位のDSA+DSBの値が0.75以上であることが好ましく、0.80以上であることがより好ましく、0.85以上であることが特に好ましい。
【0022】
炭素数が2以上であるアシル基としては、脂肪族基でもアリール基でもよく、特に限定されない。例えばセルロースのアルキルカルボニルエステル、アルケニルカルボニルエステルあるいは芳香族カルボニルエステル、芳香族アルキルカルボニルエステルなどがあり、これらは、それぞれさらに置換された基を有していてもよい。プロピオニル基、ブタノイル基、ペンタノイル基、ヘキサノイル基、オクタノイル基、デカノイル基、ドデカノイル基、トリデカノイル基、テトラデカノイル基、ヘキサデカノイル基、オクタデカノイル基、iso−ブタノイル基、t−ブタノイル基、シクロヘキサンカルボニル基、オレオイル基、ベンゾイル基、ナフチルカルボニル基、シンナモイル基などを挙げることが出来る。これらの中でも、プロピオニル基、ブタノイル基、ドデカノイル基、オクタデカノイル基、t−ブタノイル基、オレオイル基、ベンゾイル基、ナフチルカルボニル基、シンナモイル基などがより好ましく、プロピオニル基、ブタノイル基が特に好ましい。
【0023】
本発明においては、下記式(I)で表される骨格を有する化合物(以下、化合物Aと称する)を原料として用いる。
【0024】
【化5】

【0025】
化合物Aは、セルロースアシレートフィルムにおいては、例えば紫外線吸収剤として用いられるものであり、式(I)をその基本骨格として有する。式(I)の骨格を有する紫外線吸収剤は、特開2001−187825号、特開2002−350644号等に開示されており、本発明においては好適に使用することができる。上記骨格は置換基を有していてもよく、置換基の種類、数、位置は、特に制限されるものではなく、紫外線吸収剤としての効果を有するものが好ましい。さらに、本発明の製造方法においては、使用する化合物Aは、一種類であっても複数種類であってもよい。
【0026】
式(I)で表される骨格に対する置換基としては、アルキル基、アルコキシル基、ハロゲン原子、水酸基、アミノ基またはアミド基が好ましく、アルキル基、アルコキシル基またはハロゲン原子がより好ましく、アルキル基またはハロゲン原子が更に好ましい。
【0027】
また、化合物Aは下記一般式(II)で表される化合物であることがより好ましい。なお、一般式(II)中、XとYとZとは、夫々独立に、水素原子、アルキル基、ハロゲン原子、アルコキシル基、水酸基、アミノ基またはアミド基であることが好ましく、アルキル基、アルコキシル基またはハロゲン原子であることがより好ましく、アルキル基またはハロゲン原子であることがさらに好ましい。特に、Xがハロゲン原子、YとZとがそれぞれ独立にアルキル基であることが好ましく、一般式(II)で表される化合物は、2−(2’−ヒドロキシ−3’−t−ブチル−5’メチルフェニル)−5−クロロベンゾトリアゾールまたは2−(2’−ヒドロキシ−3’−tert−ブチル−5’−t−ブチルフェニル)−5−クロロベンゾトリアゾールであることがより好ましい。
【0028】
【化6】

【0029】
前記置換基においては、アルキル基は特に制限されるものではなく、直鎖および分鎖(分岐鎖)のいずれであってもよい。アルキル基の炭素数は好ましくは1〜10、より好ましくは1〜6、更に好ましくは1〜5である。具体的には、メチル基、エチル基、プロピル基またはブチル基が好ましい。なお、アルコキシル基を構成するアルキル基も同様に、直鎖および分鎖(分岐鎖)のいずれであってもよい。炭素数は好ましくは1〜10、より好ましくは1〜6、更に好ましくは1〜5である。アルコキシル基を構成するアルキル基としては、具体的には、メチル基、エチル基、プロピル基またはブチル基が好ましい。また、前記置換基において、ハロゲン原子は特に制限されるものではなく、塩素原子または臭素原子が好ましく、塩素原子がより好ましい。
【0030】
本発明においては、化合物Aをドープに含ませる。ドープにおける化合物Aの質量は、セルロースアシレートの質量を基準にして決定される。セルロースアシレートの質量x1に対する化合物Aの質量y1の比率(y1/x1)は、好ましくは0.001以上0.1以下であり、より好ましくは0.005以上0.05以下であり、さらに好ましくは0.01以上0.03以下である。化合物Aは、紫外線吸収剤として用いられる場合が多いが、紫外線吸収剤以外の目的で用いられる場合であってもよい。そして、y1/x1で求める上記比率の範囲は、化合物Aを使用する目的と化合物Aの構造等を考慮し、決定することができる。
【0031】
セルロースアシレートは、前述のように、セルロースからの合成過程により、通常は、カルシウムやマグネシウム等の塩基性物質と、硫酸とを含有するが、本発明におけるセルロースアシレートは以下の(1)および(2)の条件を満たすものである。なお、下記の(1)及び(2)においては、C1は、セルロースアシレートに残存するカルシウムの、セルロースアシレート1gに対する量(単位;μmol)であり、C2は、セルロースアシレートに残存するカルシウムの、化合物Aに対する量(単位;μmol)であり、C3は、セルロースアシレートに残存するマグネシウムの、化合物A1gに対する量(単位;μmol)であり、C4は前記セルロースアシレートに残存する硫酸の、化合物A1gに対する量(単位;μmol)である。
0≦C1≦10・・・(1)
8≦C2+C3−C4≦88・・・(2)
【0032】
プレートアウトの発生を抑制しながらも、後述のように流延膜や湿潤フィルムを乾燥する際に、これらを加熱しても、これらが黄変化しない、という効果がある。そして、従来よりも無色に近いセルロースアシレートフィルム(以下、単にフィルムと称する)を製造することができるとともに、偏光板や液晶表示装置等を製造する際に熱がかけられても黄変化することがないフィルムを製造することができる。また、このようなフィルムを形成するドープは、無色透明であり、保存中等において経時的に黄変化することがない。
【0033】
なお、(1)の条件の中でも、0≦C1≦5がより好ましく、0≦C1≦1が更に好ましい。また、(2)の条件の中でも、15≦C2+C3−C4≦80がより好ましく、20≦C2+C3−C4≦77が更に好ましい。
【0034】
(1)の条件を満たすセルロースアシレートを用いることにより、プレートアウトを抑制することが可能となる。用いるセルロースアシレートのカルシウム濃度C1が10μmolよりも高い場合には、プレートアウトを抑制することができない。また、(2)の条件を満たすセルロースアシレートを用いることにより、セルロースアシレートフィルムの黄変化を抑制することができる。フィルムの黄変化は、式(I)中の水酸基とCaイオンおよびMgイオンとの相互作用により、化合物Aの可視光領域よりも短い領域にあった吸収波長が、可視光領域である長波長側にシフトすることがその原因であると推定される。なお、CaイオンおよびMgイオンは硫酸により中和されるために、(2)のC2+C3−C4の条件は、CaイオンおよびMgイオンの合計の近似値を意味する。C2+C3−C4が88μmolを超えているセルロースアシレートを用いると、フィルムは黄変化することが多く、8μmolよりも少ないセルロースアシレートを用いると、セルロースアシレート合成時の硫酸の中和が不十分となり、セルロースアシレートまたはそれにより得られたフィルムに悪影響を与えるおそれがある。
【0035】
セルロースアシレート中には、これをセルロースからの合成の際に触媒として用いられた硫酸がそのまま含まれている他に、この硫酸が生成の基となった硫酸塩、スルホン酸塩、セルロースアシレートに結合したスルホン酸基が含まれる。硫酸塩、スルホン酸塩、セルロースアシレートに結合したスルホン酸基等を含む硫酸は、極性溶媒によって容易に電離する性質をもち、また、エステル系ポリマーのドープをつくる場合には極性溶媒が用いられる。したがって、これらはドープ中で電離してSO2−やHSOを生じさせる。本明細書においては、「硫酸」とは、上記のいずれの態様も含むものとする。また、セルロースアシレート合成の際に硫酸の中和剤として使用される水酸化カルシウム、酢酸マグネシウムは、セルロースアシレート生成物中に残存しており、ドープ中では夫々遊離して存在している。本明細書におけるカルシウム、マグネシウムとは、遊離しているものも遊離していないものも、いずれの態様も含むものとする。
【0036】
[硫酸量の測定方法]
(1)1%過酸化水素水にメチルレッドとメチレンブルーとの混合指示薬を加えて、0.01mol/l(=0.01×10mol/m)のNaOH水溶液で赤紫色から若干赤みが残る程度まで中和して吸収液を調製する。
(2)酸素導入口と吸収瓶とをセットした管状炉を、1250℃〜1350℃となるように加熱する。
(3)セルロースアシレートから、硫酸の含有する割合を測定する試料として1.0g採取する。この試料を第1試料と称する。この第1試料を燃焼ボートに載せ、この燃焼ボートを管状炉の入り口付近にセットする。また、吸収瓶に吸収液を80ml入れたものを用意してから、管状炉の一端にガラス管の一端を挿しこむと同時に、ガラス管の片端を吸収瓶に差し込んで、管状炉内と吸収瓶とをつなぐ。
(4)管状炉内に酸素を2000ml/分〜2500ml/分の流量で流しながら、燃焼ボートを石英棒で徐々に管状炉内に押し込んで、第1試料を炭化させる。
(5)第1試料が炭化した後に、管状炉中心部まで燃焼ボートを押し込んで、第1試料を完全に灰化させる。このとき、第1試料が灰化するまでに発生する気体は、ガラス管を通じて吸収瓶の中に流れ込む。
(6)吸収瓶内への気体の流入が終了した時点(試料が灰化した後)で、酸素の供給を止める。続いて、吸収液をビーカにうつす。このとき、吸収瓶は蒸留水を廻しかけながら洗うようにし、この洗液もビーカにうつす。
(7)得られた吸収液を、70ml〜80mlになるまで電熱器により加熱して濃縮する。濃縮後、メチルレッドとメチレンブルーとの混合指示薬を濃縮液に加えて、0.01mol/l(=0.01×10mol/m)のNaOH水溶液で滴定する。このとき、わずかに橙色がかった薄黄色となった点を終点として、このときのNaOH水溶液の量(Aml(=Acm))を測定する。
(8)同様にして、空の燃焼ボートを加熱してブランク試験を行い、加熱後の滴定に要したNaOH水溶液の量(Bml(=Bcm))を測定する。
(9)下記の式を用いて、第1試料における硫酸の濃度を求める。
硫酸濃度(ppm)=
[{(A−B)×F×0.048}/W]×{100/(100−M)}
(ここで、Wは第1試料の重量(g)、Mは第1試料の水分量(%)であり、Fは0.01mol/l(=0.01×10mol/m)のNaOH水溶液の力価である。)
得られた硫酸濃度を、化合物A1gあたりに計算することにより、本発明に係る硫酸量を求めることができる。
【0037】
[カルシウムおよびマグネシウム量の測定方法]
(1)セルロースアシレートを乾燥させたものから試料として所定量採取する。この試料を第2試料と称し、その採取量をy1(g)とする。次に、第2試料を所定容量の容器に入れる。なお、本実施形態では、y1=3.0とし、容器として、磁性るつぼを用いたが、これに限定されるものではない。
(2)加熱装置により容器を加熱し、第2試料を炭化させる。本実施形態では、電気炉により800℃±50℃の温度で約2時間加熱した。加熱装置は、本実施形態では電熱器と電気炉とを用いたが、第2試料を炭化することができるものであれば、様態は特に限定はされない。
(3)第2試料を室温程度にまで冷却後、ここに、所定濃度の塩酸を所定量加え、攪拌し、さらに加熱装置にかけて徐々に加熱し溶解させて、溶解液Yを作製する。なお、塩酸の濃度および添加量は、第2試料の採取量y1に応じて適宜決定される。
(4)炭化した第2試料が完全に溶解または混合したことを目視により確認した後、これを室温程度まで冷却する。冷却後、溶解液Yを所定容量の容器に入れ、蒸留水をまわし掛けながら、溶解液Yを希釈して希釈溶液Zを作製する。本実施形態では、溶解液Yを入れた容器を200mlのメスフラスコとし、蒸留水を加えて溶解液Yを200mlにまで希釈して希釈溶液Zを作製した。
(5)原子吸光光度計により、希釈溶液Z中のCaの吸光度を測定して、この値をセルロースアシレートに含まれるカルシウムの濃度(ppm)とする。
【0038】
なお、カルシウムの濃度を求める方法としては、上記の方法に代えて、例えば、炭化させた第2試料を、上記と同じように溶剤と混合してサンプル液とした後に、このサンプル液に含まれるCaの濃度を赤外線分光装置により求める方法が挙げられ、本発明に適用することが出来る。得られたカルシウム濃度(ppm)から、適宜、セルロースアシレート1gに対するカルシウム量(μmol)および化合物A1gあたりのカルシウム量を(μmol)を計算することができる。また同様の方法にてマグネシウム量も求めることができる。
【0039】
セルロースアシレートの残存するカルシウム及びマグネシウムは、主に、セルロースアシレートの合成過程において必要とされる中和剤(または、安定化剤)をその由来とするものがあり、もしくはこれらに代わる他の安定化剤は、セルロースアシレートの合成過程において必要とされるものであり、使用量をゼロとすることはできない。カルシウムおよびマグネシウムの由来となる化合物は特に制限されるものではないが、残存するMgが、酢酸マグネシウム由来であるものが好ましく、残存するカルシウムが、水酸化カルシウム由来のものが好ましい。なお、残存するカルシウムおよびマグネシウムは、必ずしも、セルロースアシレートの合成過程において必要とされる中和剤(または安定化剤)由来のものである必要はなく、セルロースアシレートにもともと含まれていた物質やセルロースアシレートの合成過程で加えられた他の物質が反応して生成したものである場合もある。本発明では、セルロースアシレートが水酸化カルシウムを使用する工程と酢酸マグネシウムを使用する工程との少なくともいずれか一方を経て得られたものであることが好ましい。すなわち、セルロースアシレートを製造する工程が、水酸化カルシウムを使用する工程を含むことが好ましく、また、本発明の製造方法に係るセルロースアシレートを製造する工程が、酢酸マグネシウムを使用する工程を含むことが好ましい。
【0040】
本発明の製造方法に係るセルロースアシレートは、合成の際に使用する硫酸の量や、中和工程に使用するカルシウム成分を含む中和剤(水酸化カルシウム等)およびマグネシウム成分を含む中和剤(酢酸マグネシウム等)の量および比率等を調整し、更に、中和工程の後の水洗工程での水洗回数を調整することにより、製造することができる。例えば、マグネシウムを増やしたい場合には、例えば、マグネシウム成分を含む中和剤(酢酸マグネシウム等)の量を増やしたり、洗浄工程において洗浄回数を減らすとよい。カルシウムおよびマグネシウムの割合を調整したい場合には、中和工程において使用するカルシウム成分を含む中和剤およびマグネシウム成分を含む中和剤の割合を調整することにより、合成することができる。
【0041】
カルシウム、マグネシウムおよび硫酸の量を求めた後には、このデータをセルロースアシレートのロット毎に記録及び管理し、製造すべきフィルムの用途に合わせてロットを選ぶとよい。製造すべきフィルムの用途に応じて、化合物Aの添加の有無や添加量に違いがあるからである。さらに、ドープの保存期間の見込みに応じてもロットを選ぶとよい。すなわち、保存期間がより長期となる見込みがある場合ほど、ドープにおける塩基含有率がより低くなるようなロットのセルロースアシレートを使用するとよい。
【0042】
ドープを製造するための溶剤としては、芳香族炭化水素(例えば、ベンゼン,トルエンなど)、ハロゲン化炭化水素(例えば、ジクロロメタン,クロロベンゼンなど)、アルコール(例えば、メタノール,エタノール,n−プロパノール,n−ブタノール,ジエチレングリコールなど)、ケトン(例えば、アセトン,メチルエチルケトンなど)、エステル(例えば、酢酸メチル,酢酸エチル,酢酸プロピルなど)及びエーテル(例えば、テトラヒドロフラン,メチルセロソルブなど)などが例示される。
【0043】
セルロースアシレートを溶かす溶剤としては、これらの溶媒の中でも炭素原子数1〜7のハロゲン化炭化水素が好ましく、ジクロロメタンが最も好ましい。そして、TACの溶解性、流延膜の支持体からの剥ぎ取り性、フィルムの機械的強度、フィルムの光学特性等の特性の観点から、炭素原子数1〜5のアルコールを一種ないし数種類を、ジクロロメタンに混合して用いることが好ましい。このとき、アルコールの含有量は、溶媒全体に対し2重量%〜25重量%であることが好ましく、5重量%〜20重量%であることがより好ましい。アルコールの好ましい具体例としては、メタノール,エタノール,n−プロパノール,イソプロパノール,n−ブタノール等が挙げられるが、中でも、メタノール,エタノール,n−ブタノール、あるいはこれらの混合物が好ましく用いられる。
【0044】
環境に対する影響を最小限に抑えることを目的にした場合には、ジクロロメタンを用いずにドープを製造してもよい。この場合の溶媒としては、炭素原子数が4〜12のエーテル、炭素原子数が3〜12のケトン、炭素原子数が3〜12のエステルが好ましく、これらを適宜混合して用いることがある。これらのエーテル、ケトン及びエステルは、環状構造を有するものであってもよい。また、エーテル、ケトン及びエステルの官能基(すなわち、−O−,−CO−及び−COO−)のいずれかを二つ以上有する化合物も、溶媒として用いることができる。また、溶媒は、例えばアルコール性水酸基のような他の官能基を化学構造中に有するものであってもよい。
【0045】
溶媒及び可塑剤,劣化防止剤,紫外線吸収剤,光学異方性コントロール剤,染料,マット剤,剥離剤等の添加剤についても、同じく特開2005−104148号公報の[0196]段落から[0516]段落に詳細に記載されており、これらの記載も本発明に適用することができる。
【0046】
[ドープ製造方法]
図1にドープ製造設備を示す。ただし、本発明はここに示すドープ製造装置及び方法に限定されない。ドープ製造設備10は、溶媒を貯留するための溶媒タンク11と、セルロースアシレートを供給するためのホッパ12と、添加剤を貯留するための添加剤タンク15と、溶媒とセルロースアシレートと添加剤とを混合して混合液16とする混合タンク17と、混合液16を加熱するための加熱装置18と、加熱された混合液16の温度を調整するための温度調整器21と、温度調整器21からの混合液16をろ過するろ過装置22と、ろ過装置22からのドープ24の濃度を調整するためのフラッシュ装置26と、濃度調整されたドープ24をろ過するためのろ過装置27と、を備える。そしてドープ製造設備10には、さらに、溶媒を回収するための回収装置28と、回収された溶媒を再生するための再生装置29とが備えられてある。そして、このドープ製造設備10は、ストックタンク32を介して溶液製膜設備40に接続される。なお、送液量を調節するためのバルブ36〜38と、送液用のポンプ41,42とがドープ製造設備10には設けられるが、これらが配される位置及びポンプ数の増減については適宜変更される。
【0047】
ドープ製造設備10によりドープ24は以下の方法で製造される。バルブ37を開とすることにより、溶媒は溶媒タンク11から混合タンク17に送られる。セルロースアシレートはホッパ12から混合タンク17に送り込まれる。このとき、セルロースアシレートは、計量と送出とを連続的に行う送出手段により混合タンク17に連続的に送りこまれてもよいし、計量して所定量を送出するような送出手段により混合タンク17に断続的に送り込まれてもよい。
【0048】
化合物Aを始めとする添加剤は、溶剤に溶かされた溶液(以下、添加剤液と称する)として添加剤タンク15に入れられてある。なお、添加剤は、必ずしも溶剤に完全にとかされずともよく、この態様に変えて、分散媒に分散された状態とされてもよい。添加剤タンク15の添加剤液はバルブ36の開閉操作により必要量が混合タンク17に送り込まれる。
【0049】
添加剤は、常温で液体である場合には、その液体状態のままで添加剤タンク15から混合タンク17に送り込んでもよい。また、添加剤が固体の場合には、混合タンク17にホッパ(図示せず)を設けて、このホッパから混合タンク17に案内してもよい。添加剤を複数種類添加する場合には、複数種類の添加剤をひとつの溶剤に溶解させてこの溶液を添加剤タンク15の中に収容しておいてもよいし、または、添加剤の種類毎に溶液をつくって、各溶液を複数の添加剤タンクに独立して収容し、各添加剤タンクから混合タンク17に独立して案内してもよい。
【0050】
前述した説明においては、溶媒、セルロースアシレート、添加剤液を混合タンク17に入れる順序は特に限定されない。また、添加剤液は必ずしも混合タンク17でセルロースアシレート及び溶媒と混合せずともよく、例えば、後の工程でセルロースアシレートと溶媒との混合物にインライン混合方式等で混合されてもよい。
【0051】
混合タンク17には、伝熱媒体が供給されるジャケット46を外表に備える。混合タンク17は、ジャケット46の内側に流れ込む伝熱媒体により温度調整され、その好ましい温度範囲は−10℃〜55℃の範囲である。また、混合タンク17には、モータ47により回転する第1攪拌機48と、モータ51により回転する第2攪拌機52が取り付けられていることが好ましい。第1攪拌機48は、アンカー翼を有するものであることが好ましく、第2攪拌機52は、ディゾルバータイプの偏芯型攪拌機であることが好ましい。この混合タンク17で、セルロースアシレートが溶媒により膨潤した混合液16を得る。
【0052】
次に、混合液16は、ポンプ41により加熱装置18に送られる。加熱装置18は、混合液16を通す管本体(図示せず)とこの管本体との間に伝熱媒体を通すためのジャケットとを有するジャケット付き管であることが好ましく、さらに、混合液16を加圧する加圧部(図示せず)を有することが好ましい。このような加熱装置18を用いることにより、加熱下または加圧加熱件下で混合液16中の固形分を効果的かつ効率的に溶解させることができる。以下、このように加熱により固形成分を溶媒に溶解する方法を加熱溶解法と称する。加熱溶解法においては、混合液16を0℃〜97℃となるように加熱することが好ましい。
【0053】
なお、加熱溶解法に代えて冷却溶解法により固形成分を溶媒に溶解させてもよい。冷却溶解法とは、混合液16を温度保持した状態またはさらに低温となるように冷却しながら溶解を進める方法である。冷却溶解法では、混合液16を−100℃〜−10℃の温度に冷却することが好ましい。以上のような加熱溶解法または冷却溶解法によりセルロースアシレートを溶媒に十分溶解させることが可能となる。
【0054】
混合液16を温度調整器21により略室温とした後に、ろ過装置22によりろ過して不純物や凝集物等の異物を取り除きドープ24とする。ろ過装置22に使用されるフィルタは、その平均孔径が100μm以下であることが好ましい。ろ過流量は、50リットル/hr.以上であることが好ましい。
【0055】
ろ過後のドープ24は、バルブ38によりストックタンク32に送られて一旦貯留された後、フィルムの製造に用いられる。
【0056】
ところで、上記のように、固形成分を一旦膨潤させてから、溶解して溶液とする方法は、セルロースアシレートの溶液における濃度を上昇させる場合ほど、ドープ製造に要する時間が長くなり、製造効率の点で問題となる場合がある。そのような場合には、目的とする濃度よりも低濃度のドープを一旦つくり、その後に目的の濃度とする濃縮工程を実施することが好ましい。例えば、バルブ38により、ろ過装置22でろ過されたドープ24をフラッシュ装置26に送り、このフラッシュ装置26でドープ24の溶媒の一部を蒸発させることによりドープ24を濃縮することができる。濃縮されたドープ24はポンプ42によりフラッシュ装置26から抜き出されてろ過装置27へ送られる。ろ過の際のドープ24の温度は、0℃〜200℃であることが好ましい。ろ過装置27で異物を除去されたドープ24は、ストックタンク32へ送られ一旦貯留されてからフィルム製造に用いられる。なお、濃縮されたドープ24には気泡が含まれていることがあるので、ろ過装置27に送る前に予め泡抜き処理を実施することが好ましい。泡抜き方法としては、例えばドープ24に超音波を照射する超音波照射法等の、公知の種々の方法が適用される。
【0057】
また、フラッシュ装置26でのフラッシュ蒸発により発生した溶媒ガスは、凝縮器(図示せず)を備える回収装置28により凝縮されて液体となり回収される。回収された溶媒は、再生装置29によりドープ製造用の溶媒として再生されて再利用される。このような回収及び再生利用により、製造コストの点での利点があるとともに、閉鎖系で実施されるために人体及び環境への悪影響を防ぐ効果がある。
【0058】
以上の製造方法により、セルロースアシレート濃度が5重量%〜40重量%であるドープ24を製造することができる。セルロースアシレート濃度は15重量%以上30重量%以下の範囲とすることがより好ましく、17重量%以上25重量%以下の範囲とすることがさらに好ましい。また、添加剤の濃度は、固形分全体に対して1重量%以上20重量%以下の範囲とすることが好ましい。
【0059】
なお、TACフィルムを得る溶液製膜法における素材、原料、添加剤の溶解方法、ろ過方法、脱泡、添加方法については、特開2005−104148号公報の[0517]段落から[0616]段落が詳しく、これらの記載も本発明に適用することができる。
【0060】
[フィルム製造方法]
図2は溶液製膜設備40を示す概略図である。ただし、本発明は、この溶液製膜設備40に限定されるものではない。溶液製膜設備40には、ストックタンク32から送られてくるドープ24から異物を除去するろ過装置61と、このろ過装置61でろ過されたドープ24を流延してセルロースアシレートフィルム(以下、単にフィルムと称する)62とする流延室63と、フィルム62の両側端部を保持してフィルム62を搬送しながら乾燥するテンタ64と、フィルム62の両側端部を切り離す耳切装置67と、フィルム62を複数のローラ68に掛け渡して搬送しながら乾燥する乾燥室69と、フィルム62を冷却するための冷却室71と、フィルム62の帯電量を減らすための除電装置72と、側端部にエンボス加工を施すナーリング付与ローラ対73と、フィルム62を巻き取る巻取室76とが備えられる。
【0061】
ストックタンク32には、モータ77で回転する攪拌機78が取り付けられており、攪拌機78の回転によりドープ24が撹拌される。そしてポンプ80によりストックタンク32中のドープ24はろ過装置61に送られる。
【0062】
流延室63には、ドープ24を流出する流延ダイ81と、支持体としての流延ドラム82とを備える。流延ダイ81の材質としては、2相ステンレス鋼、または、析出硬化型のステンレス鋼が好ましく、その熱膨張率は2×10−5(℃−1)以下であることが好ましい。そして、電解質水溶液での強制腐食試験でSUS316と略同等の耐腐食性を有し、さらに、ジクロロメタン、メタノール、水の混合液に3ヵ月浸漬しても気液界面にピッティング(孔開き)が生じないような耐腐食性を有するものが好ましい。なお、流延ダイ81は、鋳造後1ヶ月以上経過した素材を研削加工することにより作製されることが好ましく、これにより、流延ダイ81の内部をドープ24が一様に流れ、流延膜24aにスジなどが生じることが防止される。流延ダイ81のドープ24と接するいわゆる接液面は、その仕上げ精度が表面粗さで1μm以下、真直度がいずれの方向にも1μm/m以下であることが好ましい。流延ダイ81のスリット(図示なし)のクリアランスは、自動調整により0.5mm〜3.5mmの範囲とされる。流延ダイ81のリップ先端の接液部の角部分について、その面取り半径Rは、流延ダイ81の全巾にわたり一定かつ50μm以下とされる。流延ダイ81の内部における剪断速度が1(1/sec)〜5000(1/sec)とされることが好ましい。流延ダイ81はコートハンガー型のダイが好ましい。
【0063】
流延ダイ81の幅は特に限定されるものではないが、最終製品となるフィルム62の幅の1.1倍〜2.0倍程度であることが好ましい。また、製膜の際のドープ24の温度が所定温度に保持されるように、流延ダイ81の温度を制御する温度コントローラ(図示なし)が流延ダイ81に取り付けられることが好ましい。さらに、流延ダイ81には、流出するときのビードの厚みを調整するために、流延ダイ81のスリットの隙間を調整する厚み調整ボルト(ヒートボルト)が幅方向に所定の間隔で複数備えられることが好ましく、ヒートボルトが自動厚み調整機構により制御されることが好ましい。ヒートボルトは予め設定されるプログラムによりポンプ(高精度ギアポンプが好ましい)81の送液量に応じて制御され、スリットの隙間のプロファイルが設定される。ドープ24の送り量を精緻に制御するために、ポンプ80は高精度ギアポンプであることが好ましい。また、溶液製膜設備40には、例えば赤外線厚み計のような厚み測定機を設け、フィルム62の厚みプロファイルに基づく調整プログラムと厚み測定機による検知結果とにより、自動厚み調整機構へのフィードバック制御を行ってもよい。製品としてのフィルム62の両側端を除く任意の2つの位置での厚み差が1μm以内となるように、先端リップのスリット間隔を±50μm以下に調整できる流延ダイ81を用いることが好ましい。
【0064】
流延ダイ81のリップ先端には硬化膜が形成されていることがより好ましい。硬化膜の形成方法は、特に限定されるものではないが、セラミックスコーティング、ハードクロムメッキ、窒化処理方法などが挙げられる。硬化膜としてセラミックスを用いる場合には、研削することができ気孔率が低く、脆くなく、耐腐食性に優れ、かつドープ24との親和性や密着性がないものが好ましい。具体的には、タングステン・カーバイド(WC)、Al、TiN、Crなどが挙げられるが、中でも特に好ましいものはWCである。WCコーティングは、溶射法で行うことができる。
【0065】
ドープ24が流延ダイ81のリップ先端で局所的に乾燥固化することを防止するために、リップ先端に溶媒を供給するための溶媒供給装置(図示しない)をリップ先端近傍に取り付けることが好ましい。溶媒が供給される位置は、流延ビードの両側端部とリップ先端の両側端部と外気とにより形成される三相接触線の周辺部が好ましい。供給される溶媒の流量は、片側それぞれに対し0.1mL/分〜1.0mL/分とすることが好ましい。この場合の溶媒は、ドープを可溶化する溶媒であり、ドープの固形分のほとんどがセルロースアシレートである場合には、例えば、ジクロロメタン86.5重量部とメタノール13重量部とn−ブタノール0.5重量部との混合物が好ましい。これにより、異物、例えばドープ24から析出した固形成分や外部から流延ビードに混入したものが流延膜24a中に混合してしまうことを防止することができる。なお、溶媒を供給するポンプとしては、脈動率が5%以下のものを用いることが好ましい。
【0066】
流延ダイ81の下方の流延ドラム82には、駆動制御部(図示無し)が備えられ、この駆動制御部が流延ドラム82の回転速度を制御する。
【0067】
流延ドラム82の幅は特に限定されるものではないが、ドープ24の流延幅の1.1倍〜2.0倍の範囲であることが好ましい。また、長さが20m〜200m、厚みが0.5mm〜2.5mmであり、表面粗さが0.05μm以下となるように研磨されている流延ドラム82が好ましく用いられる。回転速度むらが所定の回転速度の0.2%以内となるように高精度で回転できるものであることが好ましい。流延ドラム82は、表面の平均粗さが0.01μm以下であることが好ましく、表面がクロムメッキ処理等を施されているものが好ましい。これにより、十分な硬度と耐久性とを向上させることができる。
【0068】
流延ドラム82には、伝熱媒体を流延ドラム82に供給して流延ドラム82の表面温度を制御する伝熱媒体循環装置87が取り付けられることが好ましい。本実施形態では、流延ドラム82に伝熱媒体流路(図示せず)が形成されており、その流路中を、所定の温度に保持されている伝熱媒体が通過することにより、流延ドラム82の温度が所定の値に保持される。流延ドラム82の表面温度は、溶媒の種類、固形成分の種類、ドープ24の濃度、流延速度等に応じて適宜設定する。
【0069】
流延ドラム82に代えて連続走行する流延バンド(図示せず)を支持体として用いることもできる。この場合には、なお、流延ドラム82、流延ベルト及びこの流延ベルトが掛け渡される回転ローラは、表面欠陥が最小限に抑制されていることが好ましい。具体的には、30μm以上のピンホールが無く、10μm以上30μm未満のピンホールは1個/m以下であり、10μm未満のピンホールは2個/m以下であることが好ましい。
【0070】
流延ダイ81の近傍には、流延ダイ81から流延ドラム82にかけて形成される流延ビードの流延ドラム82回転方向における上流側を圧力制御するために減圧チャンバ90が備えられることが好ましい。
【0071】
流延室63には、その内部温度を所定の値に保つための温調装置97と、揮発した有機溶媒を凝縮回収するための凝縮器(コンデンサ)98とが設けられる。そして、凝縮液化した有機溶媒を回収するための回収装置99が流延室63の外部には設けられてある。
【0072】
流延室63の下流の渡り部101には、送風機102が備えられる。また、耳切装置67には、切り取られたフィルム62の側端部屑を細かく切断処理するためのクラッシャ103が備えられる。
【0073】
乾燥室69には、フィルム62から蒸発して発生した溶媒ガスを吸着回収するための吸着回収装置106が取り付けられてある。乾燥室69の下流には冷却室71が設けられており、乾燥室69と冷却室71との間にフィルム62の含水量を調整するための調湿室(図示しない)がさらに設けられてもよい。除電装置72は、除電バー等のいわゆる強制除電装置であり、フィルム62の帯電圧を所定の範囲となるように調整する。除電装置72の位置は、冷却室71の下流側に限定されない。ナーリング付与ローラ対73は、フィルム62の両側端部にエンボス加工でナーリングを付与する。巻取室76の内部には、フィルム62を巻き取るための巻取ロール107と、その巻き取り時のテンションを制御するためのプレスローラ108とが備えられている。
【0074】
次に、フィルム62を製造する方法の一例を以下に説明する。ドープ24は、ストックタンク32に送られ、この中で攪拌機78の回転により常に均一にされる。これにより、流延に供されるまで、固形分の析出や凝集が抑制される。ドープ24には、この攪拌の際にも各種添加剤を適宜混合させることができる。そして、ろ過装置61でのろ過により、所定粒径以上のサイズの異物やゲル状の異物を取り除く。
【0075】
ろ過された後のドープ24は、流延ダイ81から流延ドラム82の周面に流延される。流延時におけるドープ24の温度は−10〜57℃の範囲で一定、流延ドラム82の表面温度は−20〜40℃の範囲で一定とされることが好ましい。また、流延室63の温度は、温調装置97により−10℃〜57℃とされることが好ましい。なお、流延室63の内部で蒸発した溶媒は回収装置99により回収された後、再生させてドープ製造用の溶媒として再利用される。
【0076】
流延ダイ81から流延ドラム82にかけては流延ビードが形成され、流延ドラム82上には流延膜24aが形成される。流延ビードの様態を安定させるために、このビードに関し上流側のエリアは、所定の圧力値となるように減圧チャンバ90で制御される。ビードに関して上流側のエリアの圧力は、下流側のエリアよりも2000Pa〜10Pa低くすることが好ましい。なお、減圧チャンバ90にジャケット(図示しない)を取り付けて、内部温度が所定の温度を保つようにすることが好ましい。この温度は、ドープの溶媒の凝縮点以上であることが好ましい。また、流延ビードを所望の形状に保つために、流延ダイ81のエッジ部に吸引装置(図示せず)を取り付けてビードの両側を吸引することが好ましい。この吸引風量は、1L/min.〜100L/min.の範囲であることが好ましい。
【0077】
流延膜24aは、自己支持性をもつようになった後に、剥取ローラ109で支持されながら流延ドラム82から剥ぎ取られる。剥ぎ取り時における流延膜24aの残留溶媒の重量は、固形分の重量を100としたときに20〜250であることが好ましい。溶媒を含んだ状態のフィルム62は、複数のローラに支持されて渡り部101を搬送された後に、テンタ64に送られる。渡り部101では、下流側のローラの回転速度を上流側のローラの回転速度よりも速くすることにより、フィルム62にドローテンションを付与させることが可能である。また、渡り部101では、送風機102から所望の温度の乾燥風がフィルム62近傍に送られ、またはフィルム62に直接吹き付けられ、フィルム62の乾燥を進行させる。このとき乾燥風の温度は、20℃〜250℃であることが好ましい。
【0078】
テンタ64に送られたフィルム62は、その両端部がピン型保持部材64aにより保持し、搬送されながら乾燥される。ピン型保持部材に代えてクリップ型保持部材を用い、このクリップ型保持部材でフィルムの側部を把持してもよい。また、テンタ64の内部は、フィルム62の搬送方向に区画され、区画毎に温度調整されることが好ましい。テンタ64では、フィルム62を幅方向に延伸させることが可能とされている。このように、渡り部101とテンタ64との少なくともいずれかひとつにおいては、フィルム62の流延方向と幅方向との少なくとも1方向を、延伸前の寸法に対し100.5%〜300%の寸法となるように延伸することが好ましい。
【0079】
フィルム62は、テンタ64で所定の残留溶媒量まで乾燥された後、その両側端部が耳切装置67により切断除去される。切り離された両側端部はカッターブロワ(図示なし)によりクラッシャ103に送られる。クラッシャ103により、側端部は粉砕されてチップとなる。このチップはドープ製造用に再利用されるので、原料の有効利用を図ることができる。なお、この両側端部の切断工程については省略することもできるが、前記流延工程から前記フィルムを巻き取る工程までのいずれかで行うことが好ましい。
【0080】
一方、両側端部を切断除去されたフィルム62は、乾燥室69に送られて、さらに乾燥される。乾燥室69では、フィルム62はローラ68に巻き掛けられながら搬送される。乾燥室69の内部温度は、特に限定されるものではないが、50〜160℃とすることが好ましい。なお、乾燥室69は、送風温度を変えるために、複数の区画に分割されていることがより好ましい。また、耳切装置67と乾燥室69との間に予備乾燥室(図示せず)を設けてフィルム62を予備乾燥すると、乾燥室69でフィルム温度が急激に上昇することが防止されるので、乾燥室69でのフィルム62の形状変化を抑制することができる。乾燥室69で蒸発して発生した溶媒ガスは、吸着回収装置106により吸着回収される。溶媒成分が除去された空気は、乾燥室69の内部に乾燥風として再度送られる。
【0081】
フィルム62は、冷却室71で略室温にまで冷却される。なお、乾燥室69と冷却室71との間に調湿室を設ける場合には、調湿室では所望の湿度及び温度に調整された空気をフィルム62に吹き付けることが好ましい。これにより、フィルム62のカールの発生や巻き取る際の巻き取り不良を抑制することができる。
【0082】
溶液製膜方法では、支持体から剥ぎ取られたフィルムを巻き取るまでの間に、乾燥工程や側端部の切除除去工程などの様々な工程が行われている。これらの各工程内、あるいは各工程間では、フィルムは主にローラにより支持または搬送されている。これらのローラには、駆動ローラと非駆動ローラとがあり、非駆動ローラは、主に、フィルムの搬送路を決定するとともに搬送安定性を向上させるために使用される。
【0083】
除電装置72により、フィルム62が搬送されている間の帯電圧を所定の値とする。除電後の帯電圧は−3kV〜+3kVとされることが好ましい。さらに、フィルム62は、ナーリング付与ローラ対73によりナーリングが付与されることが好ましい。なお、ナーリングされた箇所の凹凸の高さが1μm〜200μmであることが好ましい。
【0084】
フィルム62は、巻取室76の巻取ロール107で巻き取られる。プレスローラ108で所望のテンションをフィルム62に付与しつつ巻き取ることが好ましい。なお、テンションは巻取開始時から終了時まで徐々に変化させることがより好ましく、これによりフィルムロールにおける過度な巻き締めを防止することができる。巻き取られるフィルムの長さは100m以上とすることが好ましい。巻き取られるフィルム62の幅は600mm以上であることが好ましく、1400〜1800mm以下であることが好ましい。しかし、1800mmよりも幅が大きい場合でも本発明は適用される。また、本発明は、厚みが15μm以上100μm以下の薄いフィルムを製造する際にも本発明は適用される。
【0085】
本発明では、ドープ24を流延する際に、2種類以上のドープを同時積層共流延又は逐次積層共流延させる方法を用いてもよい。同時積層共流延を行う際には、フィードブロックを取り付けた流延ダイを用いても良いし、マルチマニホールド型流延ダイを用いても良い。共流延により多層からなるフィルムは、表面に露出する2層のうちいずれか一方の厚さが、フィルム全体の厚みの0.5%〜30%であることが好ましい。さらに、同時積層共流延を行う場合には、ダイスリットから支持体にドープを流延する際に、高粘度ドープが低粘度ドープにより包み込まれて流延されるように各ドープの濃度を予め調整しておくことが好ましい。また、同時積層共流延を行なう場合には、ダイスリットから支持体にかけて形成されるビードのうち、外界と接する、つまり露出するドープが内部のドープよりも貧溶媒の比率が大きい処方とされることが好ましい。
【0086】
流延ダイ、減圧チャンバ、支持体などの構造、共流延、剥離法、延伸、各工程の乾燥条件、ハンドリング方法、カール、平面性矯正後の巻取り方法から、溶媒回収方法、フィルム回収方法まで、特開2005−104148号公報の[0617]段落から[0889]段落に詳しく記述されている。これらの記載は本発明に適用することができる。
【0087】
[性能・測定法]
(カール度・厚み)
巻き取られたセルロースアシレートフィルムの性能及びそれらの測定法は、特開2005−104148号の[0112]段落から[0139]段落に記載されている。これらも本発明にも適用することができる。
【0088】
(用途)
前記セルロースアシレートフィルムは、特に偏光板保護フィルムとして有用である。セルロースアシレートフィルムを偏光子に貼り合わせて偏光板とし、液晶表示装置は、通常は、液晶層が2枚の偏光板で挟まれる構造である。ただし、液晶層と偏光板との配置は限定されるものではなく、周知の各種配置とすることができる。特開2005−104148号公報には、液晶表示装置として、TN型,STN型,VA型,OCB型,反射型、その他の例が詳しく記載されており、これは、本発明にも適用することができる。また、同公報には光学的異方性層を付与したセルロースアシレートフィルムや、反射防止、防眩機能を付与したセルロースアシレートフィルム、適度な光学性能を付与した二軸性セルロースアシレートフィルムとしてこれを光学補償フィルムとして用いる記載もある。これらは、偏光板保護フィルムと兼用することもできる。これらの記載内容は、本発明にも適用することができる。特開2005−104148号の[1088]段落から[1265]段落に詳細が記載されている。
【0089】
得られるフィルムは、偏光板保護フィルムとして用いることができる。さらにテレビ用途などの液晶表示装置の視野角依存性を改良するための光学補償フィルムとしても使用可能である。そのため、従来のTNモードだけでなくIPSモード、OCBモード、VAモードなどにも用いられる。また、前記偏光板保護膜用フィルムを用いて偏光板を構成しても良い。
【実施例1】
【0090】
[実験1]
本発明の実施例を説明する。マグネシウムが1.3μmol、カルシウムが0.0(ゼロ)μmol、硫酸が0.9μmol(紫外線吸収剤1gに対してマグネシウムが91.1μmol、カルシウムが0.0μmol、硫酸が65.6μmol)の質量比率であるセルロースアセテート(製造;ダイセル化学工業(株))を、セルロースアシレートとして選び、下記の配合でドープ24を製造した。なお、上記カルシウム量、マグネシウム量、硫酸量は、前述した方法により測定した。また、用いたTACには、酢酸マグネシウムと水酸化カルシウム以外の塩基性物質は含まれていなかった。
【0091】
[ドープ24の原料及び配合比]
・セルローストリアセテート(TAC) 100重量部
・可塑剤a 7重量部
・可塑剤b 3.5重量部
・UV剤a 0.3重量部
・UV剤b 1.1重量部
・ジクロロメタン(溶媒の第1成分) 81.44重量部
・メタノール(溶媒の第2成分) 17.74重量部
・ブタノール(溶媒の第3成分) 0.81重量部
【0092】
上記可塑剤aはトリフェニルフォスフェート(TPP)、可塑剤bはビフェニルジフェニルフォスフェート(BDP)、UV剤aは2−(2’−ヒドロキシ−3’−tert−ブチル−5’−メチルフェニル)−5−クロロベンゾトリアゾール、UV剤bは2−(2’−ヒドロキシ−3’−tert−ブチル−5’−tert−ブチルフェニル)−5−クロロベンゾトリアゾールである。なお、UV剤aおよびUV剤bは化合物Aである。
【0093】
[ドープ仕込み]
図1に示すドープ製造設備10を用いてドープ24をつくった。4000Lのステンレス製の溶媒タンク11で、第1〜第3の溶媒成分を混合してよく攪拌し、混合溶媒とした。なお、第1〜第3の溶媒成分は、すべてその含水率が0.5重量%以下のものである。次に、TACのフレーク状粉体をホッパ12から混合タンク17に徐々に送り、攪拌機48により30分間混合溶媒に分散された。分散開始時の温度は25℃であり、最終到達温度は48℃である。添加剤成分である可塑剤及び紫外線吸収剤を混合溶媒に予め混合して添加剤液をつくった。この添加剤液を添加剤タンク15から混合タンク17に送って、混合タンク17での全重量が2000kgとなるようした。添加剤液の分散を終了した後、高速攪拌を停止し、攪拌機48の回転速度を所定の値に設定してさらに100分間攪拌し、TACフレークを膨潤させて混合液16を得た。膨潤終了までは窒素ガスにより混合タンク17の内部が0.12MPaになるように加圧した。混合タンク17の内部は、酸素濃度が2vol%未満であり防爆上で問題のない状態に保った。また混合液16の水分含有率は0.3重量%であった。
【0094】
[溶解・ろ過]
混合液16を混合タンク17からジャケット付配管である加熱装置18に送った。加熱装置18では、混合液16を50℃にまで加熱して、さらに2MPaの加圧下で90℃にまで加熱し、TACを完全に溶解した。このときの加熱時間は15分であった。次に、溶解された液を、温度調整器21で36℃まで温度を下げ、公称孔径8μmのろ材を備えたろ過装置22を通過させた。この際、ろ過装置22における1次側圧力を1.5MPa、2次側圧力を1.2MPaとした。高温にさらされるフィルタ、ハウジング、及び配管としては、ハステロイ合金製で耐食性の優れたものを利用し保温加熱用の伝熱媒体を流通させるジャケットを備えたものを使用した。
【0095】
つぎに、このドープ24に弱い超音波を照射することによりさらに脱泡を行った。その後、ポンプを用いて1.5MPaに加圧した状態で、ろ過装置27を通過させた。ろ過装置27では、最初公称孔径10μmの焼結繊維金属フィルタ(日本精線(株)製、グレード;06N)を通過させ、ついで同じく10μmの焼結繊維フィルタを通過させた。それぞれの1次側圧力は1.5MPa、1.2MPaであり、2次側圧力は1.0MPa、0.8MPaであった。ろ過後のドープ温度を36℃にした後に、2000Lのステンレス製ストックタンク32にドープ24を送って貯蔵した。ストックタンク32は攪拌軸にアンカー翼を備えた攪拌機78を有しており、この攪拌機78により内部が常時攪拌される。
【0096】
[吐出・直前添加・流延・ビード減圧]
図2に示す溶液製膜設備40を用いてフィルム62を製造した。ドープ24を高精度ギアポンプ80でろ過装置61へ送った。このポンプ80は、ポンプ80の1次側を増圧する機能を有している。そして、1次側の圧力が0.8MPaになるようにインバーターモーターによりポンプ80の上流側に対するフィードバック制御を行った。ポンプ80の吐出圧力は1.5MPaであった。そして、ろ過装置61を経たドープ24を流延ダイ81に送った。
【0097】
乾燥された後のフィルム62の厚みが80μmとなるように、流延ダイ81の吐出口におけるドープ24の流量を調整して流延を行った。
【0098】
流延ダイ81からバンドにかけて形成されるビードの長さが所定の値となるように、ビードの上流側と下流側との圧力差を減圧チャンバ90により調整した。減圧チャンバ90には、その内部温度を所定の温度で一定にするためにジャケット(図示しない)が取り付けられており、そのジャケットの内側には所定温度に調整された伝熱媒体が供給される。
【0099】
[流延ダイ]
流延ダイ81の材質は、熱膨張率が2×10−5(℃−1)以下の2相ステンレス鋼である。流延ダイ81のリップ先端には、溶射法によりWC(タングステンカーバイド)コーティングをおこない硬化膜を設けてある。
【0100】
[流延ドラム]
流延ドラム82は、材質がSUS316製であり、所定の表面粗さになるように予め研磨してある。
【0101】
[流延乾燥]
流延ドラム82上での乾燥雰囲気における酸素濃度は所定の値に保持した。酸素濃度の調整は、窒素ガスによる空気の置換により実施した。
【0102】
流延膜24aが自己支持性をもった後に、この流延膜24aをドラム82から剥取ローラ65で支持しながらフィルム62として剥ぎ取った。なお、本明細書における溶媒含有率は、サンプリング時におけるフィルム重量をx、そのサンプリングフィルムを乾燥した後の重量をyとするとき{(x−y)/y}×100で求める値である。剥取不良を抑制するためにバンド82の速度に対する剥取速度を調整した。フィルム62を、ローラを介して搬送し、テンタ64に送った。渡り部101でのフィルム62には所定値のテンションが付与されている。
【0103】
[テンタ搬送・乾燥・耳切]
テンタ64において、フィルム62は、ピン型保持部材64aでその両端を保持されながら搬送され、この間、乾燥風により乾燥される。なお、ピン型保持部材64aは、伝熱媒体の供給により冷却された。ピン型保持部材64aの搬送にはチェーンが用いられる。テンタ64を出てきたフィルム62の残留溶媒量が所定値となるように、テンタ64の条件を設定した。そして、テンタ64から出たフィルム62の両側端部を耳切装置67により切断除去した。
【0104】
[後乾燥・除電]
フィルム62をローラ乾燥装置69で高温乾燥した。ローラ乾燥装置69をフィルム62の搬送方向に4区画に分割して、各区画では所定の温度の乾燥風を送風機(図示しない)から給気した。フィルム62のローラ62aによる搬送テンションは所定の値に制御され、残留溶媒量が所定値になるまでフィルム62を乾燥した。ローラ62aは、その材質がアルミ製もしくは炭素鋼製であり、その表面にハードクロムメッキが施されたものである。ローラ62aとしては、その表面が平滑なものとブラストによりマット化加工したものとを用いた。
【0105】
乾燥風に含まれる溶媒ガスは、吸着回収装置106を用いて吸着回収除去した。使用した吸着剤は活性炭であり、脱着は乾燥窒素を用いて行った。回収した溶媒は所定値以下の水分量にされてから、ドープ製造用溶媒として再利用された。乾燥風には溶媒ガスの他、可塑剤,UV吸収剤,その他の高沸点の物質が含まれるので、冷却器およびプレアドソーバーでこれらを除去して再生循環使用した。そして、最終的に屋外排出ガス中のVOC(揮発性有機化合物)が所定値以下となるよう、吸脱着条件を設定した。また、全蒸発溶媒のうち、ほとんどは凝縮法で回収し、残りのうちの大部分は吸着回収により回収した。
【0106】
ローラ乾燥装置と冷却室71との間には渡り部(図示せず)があり、この渡り部では110℃の乾燥風を送った。さらに、フィルム62のカールの発生を抑制するための調湿室(図示せず)にフィルム62を搬送した。調湿室では、フィルム62に風を直接あてた。
【0107】
[ナーリング、巻取条件]
調湿後のフィルム62を、冷却室71で冷却した後に、第2耳切装置72で側端部を除去した。搬送中のフィルム62の帯電圧が常時−3kV〜+3kVの範囲となるように強制除電装置を設置した。さらにフィルム62の両端にナーリング付与ローラでナーリングの付与を実施した。
【0108】
そして、フィルム62を巻取室76に搬送し、ロール状に巻き取った。巻取室76は、内部温度と湿度とが制御された。さらに、巻取室76の内部にはフィルム62の帯電圧が−1.5kV〜+1.5kVになるようにイオン風除電装置(図示しない)も設置した。巻き始めと巻き終わりとの各テンションが所定の値となるようにした。
【0109】
得られたフィルム62から5cm×5cmのサンプルを10枚切り出した。これらサンプルを恒温機の中に静置して140℃で加熱した。そして、加熱前と加熱開始から所定時間経過後とにおけるフィルムの色の濃さのレベルを以下の方法で評価した。表1において、「加熱時間」欄に示す数値は、140℃での加熱時間(単位;分)を示し、「0」とは加熱前であることを示す。
【0110】
10枚のサンプルを重ねて、色差計(日本電色工業株式会社製、分光式色差計)によりLab値を測定した。表1における数値はb値であり、このb値が大きいほど黄色が濃いことを意味する。
【0111】
【表1】

【0112】
[実験2]
実験1のTACを、マグネシウムが2.3μmol、カルシウムが0.0μmol、硫酸が0.9μmol(紫外線吸収剤1gに対してマグネシウムが164.6μmol、カルシウムが1.3μmol、硫酸が65.6μmol)含まれるTACに代えた。その他の条件は実験1と同じである。得られたフィルムについてのb値の測定結果は、表1に示す。
【0113】
[実験3]
実験1のTACを、マグネシウムが3.2μmol、カルシウムが0.0μmol、硫酸が1.0μmol(紫外線吸収剤1gに対してマグネシウムが229.2μmol、カルシウムが1.3μmol、硫酸が72.8μmol)含まれるTACに代えた。その他の条件は実験1と同じである。得られたフィルムについてのb値の測定結果は、表1に示す。
【実施例2】
【0114】
実施例1の実験1におけるTACを、マグネシウムの量とカルシウムの量と硫酸の量とが異なる他のTACに代えて11種類のフィルムを製造し、それぞれ実験1〜4,比較実験1〜8とした。比較実験1〜8は、本発明に対する比較のための実験である。なお、用いたTACには、酢酸マグネシウムと水酸化カルシウム以外の塩基性物質は含まれていなかった。そして、実施例1と同様の方法で、各フィルムの製造直後における色の濃さのレベルを測定した。その他の条件は実施例1と同様である。実験1〜4,比較実験1〜8のTACにおけるマグネシウムの量とカルシウムの量と硫酸の量とは、それぞれ、表2の「Ca量」欄と「Mg量」欄と「硫酸量」欄とに示す。また、表2における「塩基含有率」とはC2+C3−C4により求める値である。表2の「評価結果」欄の(1)は色についての評価結果としてのb値である。(2)はプレートアウトの有無である。なお、実験2,3で得られたフィルムは、目視によるとほぼ無色であったので、b値を測定せず、これらについては、表2の評価結果欄(1)に「−」と記載している。表2の評価結果欄(2)のプレートアウトについては、流延を開始してから2日経過した時点で、流延ドラム82の表面を目視で観察し、プレートアウトが確認されなかった場合を○、確認された場合を×とする。
【0115】
【表2】

【0116】
実施例1,2の結果より、本発明のセルロースフィルムの製造方法は、フィルム黄変化を防ぎながらプレートアウトを防止することができることがわかる。
【図面の簡単な説明】
【0117】
【図1】ドープ製造設備の概略図である。
【図2】溶液製膜設備の概略図である。
【符号の説明】
【0118】
24 ドープ
62 フィルム
69 ローラ乾燥装置
81 流延ダイ
82 流延バンド

【特許請求の範囲】
【請求項1】
セルロースアシレートおよび下記式(I)で表される骨格を有する化合物を含むドープを、支持体の上に流延して流延膜を形成し、前記流延膜を前記支持体から剥ぎ取り、乾燥させるセルロースアシレートフィルムの製造方法において、
前記セルロースアシレートが、0≦C1≦10と、8≦C2+C3−C4≦88との条件を満たすことを特徴とするセルロースアシレートフィルムの製造方法。
(ここで、
C1は、前記セルロースアシレート中に残存するカルシウムの、前記セルロースアシレート1gに対する量(単位;μmol)であり、
C2は、前記セルロースアシレート中に残存する前記カルシウムの、前記化合物1gに対する量(単位;μmol)であり、
C3は、前記セルロースアシレートに残存するマグネシウムの、前記化合物1gに対する量(単位;μmol)であり、
C4は、前記セルロースアシレートに残存する硫酸の、前記化合物1gに対する量(単位;μmol)である。)
【化1】

【請求項2】
前記化合物は、下記一般式(II)で表されることを特徴とする請求項1記載のセルロースアシレートフィルムの製造方法。
【化2】

(一般式(II)中で、XとYとZとは、夫々独立に、水素原子、アルキル基、ハロゲン原子、アルコキシル基、水酸基、アミノ基またはアミド基である。)
【請求項3】
前記化合物は、2−(2’−ヒドロキシ−3’−t−ブチル−5’−メチルフェニル)−5−クロロベンゾトリアゾール、または2−(2’−ヒドロキシ−3’−tert−ブチル−5’−t−ブチルフェニル)−5−クロロベンゾトリアゾールであることを特徴とする請求項2記載のセルロースアシレートフィルムの製造方法。
【請求項4】
前記セルロースアシレートは、水酸化カルシウムを使用する工程を経て得られることを特徴とする請求項1ないし3いずれか1項記載のセルロースアシレートフィルムの製造方法。
【請求項5】
前記セルロースアシレートは、酢酸マグネシウムを使用する工程を経て得られることを特徴とする請求項1ないし4いずれか1項記載のセルロースアシレートフィルムの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2009−161702(P2009−161702A)
【公開日】平成21年7月23日(2009.7.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−2695(P2008−2695)
【出願日】平成20年1月10日(2008.1.10)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【Fターム(参考)】