説明

セルロースエステルの製造方法

【課題】 従来公知のセルロースエステルの製造における欠点を解消し、高品質なセルロースエステル組成物を得ることのできる製造方法を提供する。
【解決手段】 有機酸中でアシル化剤として酸無水物から少なくとも一種を用い、セルロースをアシル化するに際して、反応液中のセルロース濃度が7〜14重量%であり、1槽に2本以上の撹拌軸を持つ竪型攪拌槽を用いることを特徴とするセルロースエステルの製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はセルロースエステルの製造方法に関する。より詳しくは、有機酸中でアシル化剤として酸無水物一種以上を用い、セルロースをアシル化するに際して、反応液中のセルロース濃度が7〜14重量%であり、1槽に2本以上の撹拌軸を持つ竪型撹拌槽を用いるセルロースエステルの製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
セルロース及びセルロースエステル、セルロースエーテル等のセルロース誘導体は、地球上で再生産可能なバイオマス材料として、また、環境中にて生分解可能な材料として昨今の大きな注目を集めつつある。
【0003】
セルロースを出発物質としたセルロースアセテート、セルロースアセテートプロピオネート、セルロースアセテートブチレートなどのセルロースエステルの製造方法は、長年に渡り研究されている。
【0004】
現在、工業的に生産されるセルロースアセテートの製造方法にあたっては、汎用性が高いこと、低コストであることおよび温和な条件で反応が進行することから、アシル化剤として無水酢酸、溶媒として酢酸、触媒として硫酸が用いられている(非特許文献1参照)。セルロースアセテートの製造工程はセルロースを活性化する前処理工程、セルロースをアシル化するアシル化工程、セルロースエステルの置換度を調整する熟成工程、及びフレークを単離精製する工程と大きく4つに分けることができる。
【0005】
アシル化工程の初期段階は溶媒である酢酸にセルロースが溶解しないが、反応の進行につれてセルロースの水酸基がほぼアシル化されたセルロースエステルは溶媒である酢酸に溶解していくため、アシル化工程は反応系の状態が不均一系から均一系に変化する工程である。そのため、上述したセルロースアセテートの4つの製造工程中、アシル化工程は最も状態の変化が顕著な工程である。さらに、セルロースの反応の終了点では、反応液は非常に粘稠なドープになる。該反応液は非常に高粘度になるために均一に撹拌することが難しい。しかし、均一に撹拌を行えないと得られたセルロースエステル中に未反応のセルロースが残存する等の品質のばらつき及び反応時間の増大、製品品質の劣化等の問題が生じる。そのため、アシル化工程に用いる装置は種々検討がなされ、内部に攪拌翼を持つ捏和機と酢化機自体が回転する回転円筒式の装置が開発され、今日まで長年に渡り用いられてきている。
【0006】
捏和機とはいわゆるニーダーのことであり、強制的な混合が行われるので高粘度のドープでも効率良く撹拌を行うことができる。例えば、ニーダーを用いれば、反応に用いるセルロースの割合が18重量%という高濃度での反応が可能であることが知られている(非特許文献1)。ニーダーを用いると高濃度での反応が可能であるが、装置が複雑になるため装置の大型化が困難であり、生産性を向上することができない。
【0007】
一方、回転円筒式の装置を用いた製造法では、装置が単純であるため大型化が可能であるが、粘度が高いと撹拌効率が下がるため、ニーダーよりも粘度が低いセルロース濃度6.7重量%で反応を行う方法が採用されている(非特許文献1)。
【0008】
他に高濃度で反応を行うアプローチ法としては、アシル化反応時に酢酸エチル及びジクロロメタン等の希釈剤を用いる方法が採られている(特許文献1参照)。しかし、アシル化工程の次の工程である熟成工程において、酢酸エチル、ジクロロメタン等の希釈剤が反応液中に残存しているとセルロースエステル側鎖の加水分解が不均一になり、均一な物性を有するセルロースエステルが得られないという問題点がある。そのため、及び希釈剤を様々な方法で除去することが試みられているが、粘度が高い溶液から希釈剤を除去するのが困難であるという問題点がある。さらには、アシル化反応の有機酸溶媒等は回収して再利用されるが、希釈剤が含まれると溶媒の回収工程がより複雑になるという問題もある。これらのことより、希釈剤を用いる方法は高濃度で反応を行うには有利な方法であるが、生産性の良い方法とは言えない。
【0009】
近年までに多くの1本の撹拌軸を有する竪型撹拌槽が開発されてきた。竪型撹拌槽は構造が単純であるため、大型化が容易であるが、1本の撹拌軸を有する竪型撹拌槽で高粘度ドープを撹拌すると槽中央部、あるいは内壁面で滞留部分が生じ、撹拌効率が悪いという問題があり、セルロースエステルの高濃度での製造に該撹拌槽を用いることは好ましくない。
【0010】
より撹拌効率の良い竪型撹拌槽として、2本以上の撹拌軸を有する竪型撹拌槽が開発されており、例えば、微粒子表面に高粘性物質をコーティングする用途に用いられている(特許文献2参照)。しかし、セルロースエステルのアシル化工程に用いた例は知られていない。
【0011】
従って、大型化が可能な単純形状の装置である竪型撹拌機を用いた経済的かつ高品質なセルロースエステルの製造方法はないというのが現状である。
【非特許文献1】「醋酸繊維−その製造と利用」−昭和28年5月10日丸善株式会社発行
【特許文献1】特公昭35−16044号公報
【特許文献2】特開平5−212347号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明の課題は、上記のような問題点を克服し、経済的かつ高品質なセルロースエステルの製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上述した本発明の課題は、有機酸中でアシル化剤として酸無水物から少なくとも一種を用い、セルロースをアシル化するに際して、反応液中のセルロース濃度が7〜14重量%であり、1槽に2本以上の撹拌軸を持つ竪型攪拌槽を用いることを特徴とするセルロースエステルの製造方法によって解決することができる。
【発明の効果】
【0014】
本発明により、高粘度でも撹拌効率の高い1槽に2本以上の撹拌軸を持つ竪型撹拌槽を用いて高濃度で反応を行うことで、経済的に高品質なセルロースエステルの製造方法を提供することが可能となる。得られるセルロースエステルは、バイオマス材料であることを活かした分野、すなわち、農業用資材、林業用資材、水産資材、土木資材、衛生資材、日用品、衣料用繊維、産業用繊維および不織布などとして好適に用いることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
本発明において、セルロースエステルは、有機酸中でアシル化剤として酸無水物から少なくとも一種を用いてセルロースをアシル化するに際して、反応液中のセルロース濃度が7〜14重量%であり、1槽に2本以上の撹拌軸を持つ竪型攪拌槽を用いることにより得ることができる。
【0016】
本発明で用いるセルロースとしては、種々のセルロース材料を用いることができるが、副反応を抑制するためセルロース材料のαセルロース含有率は85重量%以上であることが好ましく、90重量%以上であることがより好ましい。さらに好ましくは95重量%以上である。具体的には、溶解パルプ、機械パルプなどの木材パルプ、コットンリンター、再生セルロース及びバクテリアセルロース等が挙げられる。汎用性の点から、木材パルプが好ましい。また、不純物が少ないという点からコットンリンターが好ましい。
【0017】
セルロースは前処理なくパルプ状のセルロースを用いることもできるが、次のようなセルロースの処理を行っても良い。例えば、ボールミルなどの乾式粉砕器にて粉砕する方法がある。これは、機械的な粉砕によりセルロースの結晶構造が破壊され、セルロースの結晶化度が低下して反応溶媒中に溶解しやすくなるため好ましい。また例えば、セルロースと水を混合し、続いて水から濾別したセルロースを反応系に用いる酢酸などの有機溶媒と接触させて、セルロースを溶媒置換する方法がある。この処理を行うことによってセルロースが液相中に分散しやすくなり、活性化させることができる。また、セルロースを反応系に用いる酢酸などの有機酸中で加熱処理を行う方法がある。このようにしてセルロースに前処理をすることにより、セルロースのアシル化をさらに効率的に行うことができ好ましい。
【0018】
本発明においてアシル化剤は酸無水物から選ばれる少なくとも一種以上を用いる。また、アシル化剤として無水酢酸及び炭素数が3以上の酸無水物からなる群より選ばれる少なくとも1種以上を用いるのが好ましい。炭素数が3以上の有機酸無水物は具体的には無水プロピオン酸、無水酪酸、無水吉草酸、無水カプロン酸、無水エナント酸、無水カプリル酸、無水ペラルゴン酸、無水カプリン酸、無水ラウリン酸、無水ミリスチン酸、無水パルミチン酸、無水ステアリン酸、無水フタル酸、無水マレイン酸、無水コハク酸が好ましい。中でも、反応性が高く、汎用性があり、低コストであることから無水プロピオン酸または無水酪酸であることがより好ましい。また、アシル化剤の組み合わせとして、無水酢酸と無水プロピオン酸、無水酢酸と無水酪酸がさらに好ましい。
【0019】
無水酢酸と炭素数が3以上の酸無水物はその合計がセルロースのグルコース単位に対して3当量以上であるとセルロースに対する反応性が増加し、9当量以下であれば反応液中のセルロース濃度を高くすることができるため、3〜9当量用いることが好ましい。より好ましくは3〜6当量である。また、無水酢酸と炭素数が3以上の酸無水物の割合は、任意でよい。
【0020】
本発明では反応系の液相に有機酸溶媒を用いる。有機酸は液相中の少なくとも90重量%以上が好ましく、95重量%以上が好ましい。さらい好ましくは99重量%以上である。有機酸溶媒は酢酸及び炭素数が3以上の有機酸からなる群から選ばれる少なくとも一つを用いる。また、有機酸溶媒は酢酸及び炭素数が3以上の有機酸からなる群から選ばれる少なくとも二つを用いるのが好ましい。炭素数が3以上の有機酸は、アシル化剤として用いている酸無水物と同一の炭素数を有する酸を用いるのがより好ましい。反応によって副生する酸と溶媒が同一であるため分離回収工程が簡易になる。また、液相に有機酸溶媒のみを用いて酢酸エチル、ジクロロメタン、ベンゾールに代表される希釈剤を用いないことによって、アシル化工程に続く熟成工程においてこれらの希釈剤を除去する必要がなく、均一な物性を有するセルロースエステルを得ることができ、液相の分離回収工程は簡易なものとなる。
【0021】
液相に用いる有機酸溶媒の量はセルロースに対して400〜1300重量%が好ましい。400重量%以上であるとセルロースの反応が進行するにつれて、系が均一になりやすく反応性が増加し、1300重量%以下であれば反応系中のアシル化剤の濃度が高くなるため反応性が増加すると同時に経済的である。
【0022】
本発明において、セルロースとアシル化剤の反応を促進するものとして触媒を加えることができる。セルロースのアシル化触媒として硫酸、過塩素酸ナトリウムが知られているが、反応性の点から硫酸が好ましい。
【0023】
触媒の添加量はセルロースに対して1〜15重量%が好ましい。1重量%以上であるとセルロースの反応性を促進し、15重量%以下であれば例えば触媒として硫酸を用いたとき、加熱時の着色及び分子量低下等のポリマー劣化に寄与するセルロースの硫酸エステルを除去しやすいため、高品質のセルロースエステルが得られるため好ましい。
【0024】
また、液相に対するセルロース、アシル化剤及びアシル化触媒の添加方法に関しては、液相にセルロースを浸漬させてからアシル化剤及びアシル化触媒を添加することが好ましいが、より経済的にセルロースエステル組成物を製造するために液相にセルロースを浸漬させる前にアシル化剤及びアシル化触媒を全量または分割して液相に添加してもよい。
【0025】
また、セルロースとアシル化剤との反応温度は、0℃以上であると反応が活性化され、40℃以下であればセルロースの主鎖の分子量低下を抑制し、かつ着色を抑えることができる。そこで、0〜40℃にて反応を行うことが好ましい。さらに好ましくは10〜30℃である。
【0026】
反応時間は0.5〜5時間が好ましい。0.5時間以上であると置換度が上がり、5時間以下であればセルロースの重合度低下を抑制し、生産性も向上する。さらに好ましくは1〜3時間である。
【0027】
セルロースは液相である有機酸に溶解しないため、反応の初期段階は固液不均一系で進行するが、反応が進行してセルロースの水酸基がほぼアシル化されてセルロースエステルに変換されると、これらは液相に均一に溶解する不均一反応である。反応の終了点では、液相に繊維状のセルロースが検出できなくなることで判断できる。
【0028】
本発明における反応液中のセルロース濃度は7〜14重量%である。反応液中のセルロース濃度とは、アシル化時に用いる酸無水物、液相に用いるカルボン酸、触媒及び種々添加剤、セルロースからなる反応液中に含まれる、反応液中に投入したセルロースの割合を表すものである。7重量%以上であると反応液中のセルロースエステルの濃度が高いため経済性が良い。14重量%以下であれば反応液の粘度が低くなり、製造時の撹拌効率が高く均一な物性を有するセルロースエステルを得ることができる。8重量%以上が好ましく、10重量%以上がさらに好ましい。また、13重量%以下が好ましく、12重量%以下がさらに好ましい。
【0029】
反応の終了点での反応ドープの溶液粘度は500〜1200Pa・secが好ましい。500Pa・sec以上であれば、セルロースの分子量を低下させることなくアシル化反応を行うことができ、1200Pa・sec以下であれば、アシル化反応時の撹拌効率が高く、均一な物性を有するセルロースエステルを得ることができるので好ましい。600Pa・sec以上であることがより好ましく、700Pa・sec以上であることがさらに好ましい。また、1000Pa・sec以下であることがさらに好ましい。
【0030】
また、本反応において、アシル化剤、液相である有機酸以外にも反応性を向上させるために添加剤を用いることができる。
【0031】
反応に用いる沸点60℃以下の化合物は10重量%以下であることが好ましい。反応液の粘度を低くするために、沸点60℃以下の化合物、例えば酢酸エチル、ジクロロエタンを用いることが一般的に知られている。これらの化合物を10重量%以下であれば、反応時の揮発等を抑制できること及びアシル化反応後の加水分解時に該低沸点物質を除去することが容易になり好ましい。5重量%以下がより好ましく、1重量%以下がさらに好ましい。
【0032】
本発明のセルロースをアシル化する工程では、1槽に2本以上の撹拌軸を持つ竪型攪拌槽を用いる。
【0033】
撹拌軸は装置を単純化することができるため、2〜3本が好ましく、2本がさらに好ましい。
【0034】
1槽に2本以上の撹拌軸を持つ竪型撹拌槽の具体例としては多軸型攪拌機(青木株式会社製)、スーパーブレンド(住友重機械工業株式会社製)、レーディゲミキサー(ドイツ レーディゲ社製)、ターボスフェアーミキサー(フランス モリッツ社製)が挙げられるが、これらに限定されない。
【0035】
2本以上の撹拌軸の芯は同一でも異なっていても良い。
【0036】
例えば、2本以上の撹拌軸が同芯の竪型撹拌槽を用いた場合には、内側の軸についている撹拌翼によって反応槽中央部分の滞留部分をなくし、外側の軸についている撹拌翼によって、反応槽の内壁面をかきとることにより、内壁面の滞留部をなくすことができる。また、ドープが異なる軸についているそれぞれの撹拌翼の間で剪断力を受けることで、高粘度品でも撹拌効率が向上する。
【0037】
また、2本以上の撹拌軸が異なる芯を有する竪型撹拌槽を用いた場合には、2本以上の撹拌軸に設けられた撹拌翼によって、反応槽の中心部と外側の混合をより効率よく行うことができるため好ましい。
【0038】
撹拌翼の形状は、公知の撹拌翼を用いれば良く、特に限定されない。一般的な撹拌翼として二枚羽根型、門型、錨型に代表されるカイ型、プロペラ型、タービン型、ヘリカルリボン型、フック型、スクリュービーター型が挙げられる。これらを組み合わせて用いることができる。2本以上ある撹拌軸に設けられた撹拌翼は、同じ形状を用いても良いし、異なる組み合わせでも良い。
【0039】
少なくても1つの撹拌軸に設けられた撹拌翼によって形成される回転面は、他の撹拌軸に設けられた撹拌翼によって形成される回転面と交叉することが、反応溶液により剪断をかけることができるため好ましい。
撹拌軸の回転速度は少なくとも1つの回転軸の撹拌速度が20〜200rpmであることが好ましい。20rpm以上であると、撹拌効率があがり、200rpm以下であれば、剪断熱を抑制することができる。より好ましくは40〜100rpmである。
2つ以上の撹拌軸のうち、少なくとも1つの撹拌軸の回転方向が逆向きであることが好ましい。逆向きにすることで、複数の撹拌翼の間でより剪断がかかりやすくなり、撹拌効率がより向上し、反応が均一に行われることができるため好ましい。
【0040】
反応槽は竪型反応槽である。撹拌軸が少なくとも1回転した時に、液面以下の内壁と撹拌翼の隙間の最小値がいずれも1cm〜10cmであるのが好ましい。1cm以上であると、ドープ中に存在する未反応セルロースの塊による軸ぶれを防止することができ、10cm以下であれば、内壁の滞留部を少なくすることができるため好ましい。5cm以下がより好ましく、3cm以下がさらに好ましい。
【0041】
槽本体には、温度を調整するジャケットをつけることができる。また、アシル化剤、触媒及び有機酸に代表される試薬類の添加口及び反応液の抜き出し口を設けることができる。また、槽内にはじゃま板、コイル、ドラフトチューブ、スパージャー等をつけることができる。撹拌部の軸封部はグランドシール、メカニカルシールのいずれでも構わない。撹拌槽は大気開放型でも良いし密閉型のいずれでも良いが、周辺環境面から考えると密閉型であることが好ましいが、限定されない。
【0042】
以下本発明の実施態様を図面によって説明する。
【0043】
図1、図2は本発明の具体例を示す反応装置の断面図であり、図3は従来から使用されている反応装置の断面図である。
【0044】
図において、1は竪型反応装置、2は反応物仕込み口、3は反応物取り出し口、4は揮発性成分出口、5、6は攪拌軸、7、8は攪拌翼である。
【0045】
図において、セルロース及びカルボン酸、酸無水物、触媒等を仕込み口2から竪型反応装置1にいれることができる。得られた反応物は取り出し口3より反応装置1から反応物を取りだすことができる。反応中に生じた揮発成分は4から反応系外に除くことができる。
【0046】
本発明における1槽に2本以上の撹拌軸を持つ竪型攪拌槽とは、図1,2における少なくとも2本の撹拌軸5、6と竪型反応槽1からなる。竪型撹拌槽とは撹拌翼7を有する撹拌軸5及び6を回転させることで、竪型反応槽1内の反応物を混合するものをいう。
【0047】
撹拌軸5、6と水平面の間との角度θが80〜100度であるものをいう。85〜95度であるのがさらに好ましい。
【0048】
図において、撹拌軸5に設けられた撹拌翼7によって生じる滞留部分を、他の撹拌軸6に設けられた撹拌翼8によって混合することで、滞留部分をなくす効果を有する。また、異なる軸に設けられた撹拌翼7と攪拌翼8の間で剪断が加わり、さらに効率よく反応液を混合することができる。
【0049】
また、攪拌翼7,8は二枚羽根型、門型、錨型に代表されるカイ型、プロペラ型、タービン型、ヘリカルリボン型、フック型、スクリュービーター型を用いて良いが、図1に示した錨型、図2に示したスクリュー型とプロペラ型を組み合わせても良い。
【0050】
本発明では、アシル化反応終了後に公知の方法を用いてセルロースエステルの側鎖のアシル基を加水分解することで、セルロースエステルの置換度を低くすることができる。このことにより、得られたセルロースエステルは溶剤溶解性、可塑剤との相溶性が向上し、熱可塑化しやすくなるため好ましい。該工程において、添加する酢酸、水、硫酸触媒の量は任意に添加することができ、反応時間、温度により、任意の置換度を有するセルロースエステルを得ることができる。該反応は、アシル化反応と同じ撹拌槽を用いても良いし、加水分解の始まる前、あるいは途中で他の容器に移しても良い。
【0051】
反応終了後に反応停止剤である水あるいは有機酸を添加することができる。このことにより、アシル化に関与しなかった過剰量のアシル化剤は加水分解して対応する有機酸を副成する。この加水分解反応は激しい発熱を伴い、反応系内の温度が上昇する。反応停止剤の添加速度が大きいと、反応系内温度が急激に発熱し、セルロース主鎖の重合度低下が進行する。そこで、系中の温度が40℃を超えないように、時間をかけて反応停止剤を添加するのが好ましい。
【0052】
本発明で得られるセルロースエステルの分離回収は、例えば反応溶液を再沈殿溶媒に滴下する方法、反応溶液中に再沈殿溶媒を滴下する方法など公知の方法で行うことができる。いずれも析出したセルロースエステル組成物を液相からの濾別により得ることができる。再沈殿溶媒として液相である有機酸が可溶で、セルロースエステル及び可塑剤が不溶な溶媒を用いることができる。再沈殿溶媒として水を用いるのが好ましいが、特に限定されない。
【0053】
本発明で得られたセルロースエステルとは、セルロースの水酸基の少なくとも一部がアセチル基または炭素数が3以上のアシル基によって置換されているものをいう。
【0054】
本発明で得られたセルロースエステルの置換度(DSace+DSacy)は下記式を満たすことが好ましい。
【0055】
(I)3.0≧DSace+DSacy≧2.2
良好な熱流動性を得るためには、置換度は例えば2.2〜3.0であることが好ましく、目的によって適宜決定することができる。2.8以下であることが好ましい。
【0056】
本発明で得られるセルロースエステルの重量平均分子量は10万〜20万であることが好ましい。10万以上であると、セルロースエステルの良好な力学特性を活かした分野に用いることができるため好ましい。20万以下であれば、ドープの粘度を低くすることができ、均一な物性を有するセルロースエステルを得ることができるため好ましい。
重量平均分子量が13万以上であることがより好ましく、15万以上であることがさらに好ましい。18万以下であることがより好ましく、16万以下であることがさらに好ましい。
【0057】
本発明では、反応終了後のセルロースエステルに、副次的添加物を加えていろいろな改質を行うことができる。副次的添加剤の例としては、例えば、可塑剤、紫外線吸収剤、顔料、着色料、各種フィラー、静電剤、離型剤、香料、抗菌剤、核形成剤、酸化防止剤、着色防止剤や調整剤などの安定剤、およびその他の類似のものが挙げられる。さらに、本発明により得られたセルロースエステルのアシル化されていない水酸基に、さらに化合物を反応させて利用することも可能である。
【0058】
本発明により得られるセルロースエステルは繊維製品、たとえば繊維、平面形成物、たとえば織物、フェルト、フリース、いわゆるバックシート、繊維複合材料、フロック、詰綿、ならびに線状形成物、たとえば繊維、糸、ロープ、綱などの製造にも適している。また、シート、パイプ、棒、工具類、食器類、包装材、電子部品材、玩具など生分解性プラスチック材料として多岐にわたり使用できると共に、物性が優れていることもあり、さらに眼鏡枠、自動車ハンドル、医療用器具等を加えた多くの一般用途にプラスチック材料として使用しうる。
【実施例】
【0059】
以下に実施例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0060】
なお、セルロースエステルの置換度は以下の方法で評価した。
【0061】
評価方法
(1)セルロースエステルの置換度
セルロースエステル3gをクロロホルム300mlに溶解し、不溶物を濾過した後、クロロホルムを留去して、クロロホルムに可溶なセルロースエステルを得た。その後、乾燥したセルロースエステル0.9gを秤量し、アセトン35mlとジメチルスルホキシド15mlを加え溶解した後、さらにアセトン50mlを加えた。撹拌しながら0.5N−水酸化ナトリウム水溶液30mlを加え、2時間ケン化した。熱水50mlを加え、フラスコ側面を洗浄した後、フェノールフタレインを指示薬として0.5N−硫酸で滴定した。別に試料と同じ方法で空試験を行った。滴定が終了した溶液の上澄み液を100倍に希釈し、イオンクロマトグラフを用いて、有機酸の組成を測定した。測定結果とイオンクロマトグラフによる酸組成分析結果から、下記式により置換度を計算した。
【0062】
TA=(B−A)×F/(1000×W)
DSace=(162.14×TA)/[1−(Mwace−(16.00+1.01))×TA+{1−(Mwacy−(16.00+1.01))×TA}×(Acy/Ace)]
DSacy=DSace×(Acy/Ace)
TA:全有機酸量(ml)
A:試料滴定量(ml)
B:空試験滴定量(ml)
F:硫酸の力価
W:試料重量(g)
DSace:アセチル基の置換度
DSacy:アシル基の置換度
Mwace:酢酸の分子量
Mwacy:他の有機酸の分子量
Acy/Ace:酢酸(Ace)と他の有機酸(Acy)とのモル比
162.14:セルロースの繰り返し単位の分子量
16.00:酸素の原子量
1.01:水素の原子量
(2)ドープの粘度
ブルックフィールド社製デジタル粘度計(DV−II+Pro)を用い、スピンドルはSC4−29、回転数1rpm、温度は20℃で測定した。サンプルは反応終了時のドープを用いた。
(3)未溶解物
得られたセルロースエステル1gをクロロホルム100mlに溶解した後、不溶物を10ミクロンの濾紙で濾別した。セルロースエステル1g中の不溶成分の割合を未溶解物(%)とした。
(4)分子量
(1)と同様にクロロホルム可溶なセルロースエステルを得た。Waters(株)製Waters2690を用い、ポリスチレンを内部標準とし、カラム温度40℃、移動層はテトラヒドロフランあるいはクロロホルム、流速1ml/分で測定した。サンプルは絶乾状態としたのち、溶媒濃度は0.5%(w/v)に調製した。分子量の値として、重量平均分子量(Mw)を用いた。
(5)生産性
反応液中のセルロース濃度7重量%以上10重量%未満である場合を生産性が良好として○として、セルロース濃度10重量%以上をさらに生産性が良好であるため◎とした。一方、セルロース濃度7重量%未満を本発明において好ましくない範囲であるとして、生産性×とした。
(6)撹拌性
反応液の粘度が高いため撹拌翼が動かない場合、あるいは撹拌翼が動いても翼周りに高粘度ドープが付着することに起因するドープの分離がみられ、撹拌されない状態を本発明において好ましくない範囲であるとして、×とした。撹拌性に全く問題がない場合を○、反応液が透明なドープになった後の高粘度化する段階でドープの分離が見られる場合を△とした。○、△は問題のないレベルである。
(7)品質
得られたセルロースエステル中に(3)で測定した未溶解物が1%以下の場合を◎、5%以下の場合を○とした。
【0063】
実施例1
図1に示すフック型の撹拌翼を設けた撹拌軸A、Bの2つの撹拌軸を有し、撹拌軸A、Bの芯が異なる竪型撹拌槽を50℃に加熱し、セルロース(日本製紙(株)製溶解パルプ)(αセルロース92wt%)を1.80kg添加した。続いて、有機酸として酢酸7.87kgを加え、50℃で30分混合してセルロースの活性化を行った。続いて、反応液を20℃まで冷却した後、アシル化剤として無水酢酸6.80kgと触媒として硫酸0.13kgの混合物を、反応液の温度が40℃を超えないように少しずつ添加し、アシル化を行った。混合液の添加終了後、反応液の温度が35〜40℃を保つように、撹拌槽を冷却及び加熱制御した。反応には沸点60℃以下の化合物は用いなかった。それぞれの攪拌軸を40rpmで撹拌を行った。また、攪拌軸A、Bはそれぞれの攪拌翼の間で剪断がかかるように逆方向に回転させた。反応液中のセルロース濃度は10.8wt%という高濃度での反応であり生産性が良好であった。
【0064】
120分間撹拌することで反応液中の繊維状物質はみられなくなり反応液は高粘度なドープとなった。さらに攪拌を続けると粘度の上昇が見られるため、攪拌速度を20rpmに落として攪拌を続けると攪拌可能であった。攪拌性は問題のないレベルである。さらに30分撹拌したところを反応の終点として、反応液をサンプリングした。サンプリングした反応液の溶液粘度は890Pa・secであった。続いて、反応停止剤として、酢酸と水の混合溶液を反応液中に20分間かけて添加して、過剰の酸無水物を加水分解した。その後、酢酸と水の混合溶液をさらに加えて60℃の温度で1時間加熱撹拌を行った。反応終了後、酢酸マグネシウムを含む25%水溶液を加えて触媒である硫酸を中和した後、水を加えてセルロースアセテートを析出させて濾別した。
得られたセルロースアセテートを水で洗浄した後、80℃の温度で4時間乾燥した。得られたセルロースアセテートのクロロホルム可溶分のアセチル置換度(DSace)は2.95であり、Mwは16.3万であった。また、得られたセルロースアセテート中のクロロホルム不溶分の割合は1.1%であり、非常に品質が良いものであった。
【0065】
実施例2
ヘリカルリボン翼を設けた撹拌軸Aと錨型を設けた撹拌軸Bの2本の撹拌軸を有し、2つの撹拌軸が同芯である竪型撹拌槽を用いて反応を行った。また、攪拌は内軸15rpm、外軸60rpmで行った。
【0066】
セルロース1.30kg、有機酸として酢酸8.94kgをセルロースの活性化に用い、アシル化時にアシル化剤として無水酢酸を4.92kg、触媒として硫酸を0.09kg用いた以外は実施例1と同様に反応を行った。
【0067】
反応液中のセルロース濃度は8.5wt%という高濃度での反応であり生産性が良好であった。
【0068】
120分間攪拌をすることで、反応液中に繊維状物質は見られなくなり反応液は高粘度なドープとなった。攪拌性は非常に良好である。さらに30分撹拌したところを反応の終点として、反応液をサンプリングした。サンプリングした反応液の溶液粘度は713Pa・secであった。続いて、実施例1と同様に反応を停止して、セルロースアセテートを得た。得られたセルロースアセテートのクロロホルム可溶分のアセチル置換度(DSace)は2.95であり、Mwは17.3万であった。また、得られたセルロースアセテート中のクロロホルム不溶分の割合は0.7%であり品質が良いものであった。
【0069】
実施例3
ヘリカルリボン翼を設けた撹拌軸Aと門型を設けた撹拌軸Bの2本の撹拌軸を有し、2つの撹拌軸が同芯である竪型撹拌槽を用いて反応を行った。また、攪拌は内軸15rpm、外軸60rpmで行った。
【0070】
セルロース1.80kg、有機酸として酢酸4.18kgとプロピオン酸3.68kgの混合物をセルロースの活性化に用い、アシル化時にアシル化剤として無水酢酸3.96kgと無水プロピオン酸3.61kg、触媒として硫酸0.13kgを用いた以外は実施例1と同様に反応を行った。
【0071】
反応液中のセルロース濃度は10.4wt%という高濃度での反応であり生産性が良好であった。
【0072】
120分間攪拌を行うことで、反応液中に繊維状物質は見られなくなり反応液は高粘度なドープとなった。さらに撹拌を続けると、粘度の上昇が見られるため、回転速度を内軸10rpm外軸40rpmまで速度を落として撹拌を続けた。攪拌性は問題のないレベルである。さらに30分撹拌したところを反応の終点として、反応液をサンプリングした。サンプリングした反応液の溶液粘度は843Pa・secであった。続いて、実施例1と同様に反応を停止して、セルロースアセテートプロピオネートを得た。得られたセルロースアセテートプロピオネートのクロロホルム可溶分のアセチル置換度(DSace)は2.05、プロピオニル置換度(DSacy)は0.91であり、Mwは15.6万であった。また、得られたセルロースアセテートプロピオネート中のクロロホルム不溶分の割合は1.9%であり品質が良いものであった。
【0073】
実施例4
錨型の撹拌翼を設けた撹拌軸A、プロペラ型の撹拌翼を設けた撹拌軸Bの2つの撹拌軸を有し、撹拌軸A、Bの芯が異なる竪型撹拌槽を用いて反応を行った。また、攪拌はそれぞれ40rpmで行った。
【0074】
セルロース1.30kg、有機酸として酢酸4.85kgとプロピオン酸4.28kgの混合物をセルロースの活性化に用い、アシル化時にアシル化剤として無水酢酸2.87kgと無水プロピオン酸2.61kg、触媒として硫酸0.09kgを用いた以外は実施例1と同様に反応を行った。
【0075】
反応液中のセルロース濃度は8.1wt%という高濃度での反応であり生産性が良好であった。
【0076】
攪拌性も良好であり、実施例1と同様に反応が進行し、サンプリングした反応液の溶液粘度は662Pa・secであった。続いて、実施例1と同様に反応を停止して、セルロースアセテートプロピオネートを得た。得られたセルロースアセテートプロピオネートのクロロホルム可溶分のアセチル置換度(DSace)は2.05、プロピオニル置換度(DSacy)は0.89であり、Mwは16.4万であった。また、得られたセルロースアセテートプロピオネート中のクロロホルム不溶分の割合は1.0%であり品質が良いものであった。
【0077】
実施例5
ヘリカルリボン翼を設けた撹拌軸Aと錨型を設けた撹拌軸Bの2本の撹拌軸を有し、2つの撹拌軸が同芯である竪型撹拌槽を用いて反応を行った。攪拌は内軸15rpm、外軸60rpmで行った。
【0078】
セルロース2.21kg、有機酸として酢酸4.11kgとプロピオン酸3.61kgの混合物をセルロースの活性化に用い、アシル化時にアシル化剤として無水酢酸3.89kgと無水プロピオン酸3.55kg、触媒として硫酸0.13kgを用いた以外は実施例1と同様に反応を行った。
【0079】
反応液中のセルロース濃度は12.6wt%という高濃度での反応であり生産性が良好であった。
【0080】
撹拌を120分行うと、反応液中に繊維状物質は見られなくなり反応液は高粘度なドープとなった。さらに撹拌を続けると、粘度があがってきたため、回転速度を内軸8rpm外軸32rpmまで速度を落として撹拌を続けた。攪拌性は問題のないレベルであった。さらに30分撹拌したところを反応の終点として、反応液をサンプリングした。サンプリングした反応液の溶液粘度は998Pa・secであった。続いて、実施例1と同様に反応を停止して、セルロースアセテートプロピオネートを得た。得られたセルロースアセテートプロピオネートのクロロホルム可溶分のアセチル置換度(DSace)は2.05、プロピオニル置換度(DSacy)は0.91であり、Mwは14.6万であった。また、得られたセルロースアセテートプロピオネート中のクロロホルム不溶分の割合は2.0%であり品質が良いものであった。
【0081】
【表1】

【0082】
比較例1
反応装置として、図3に示すヘリカルリボン型の撹拌翼を有する一軸竪型撹拌槽を用いて反応を行った。それ以外は実施例1と同様に反応を行った。攪拌は50rpmで行った。
【0083】
反応液中のセルロース濃度は実施例1と同様に8.5wt%で生産性は良好であったが、アシル化反応が進行してくると、撹拌翼の中心部分と外側にドープの分離が見られ、中心部分はほとんど撹拌されていない状態になり、攪拌性が不十分であった。
【0084】
反応開始から150分経過した時点で反応液をサンプリングして、溶液粘度を測定したところ、658Pa・secであった。実施例1と同様に反応を停止して、セルロースアセテートを得た。得られたセルロースアセテートのクロロホルム可溶分のアセチル置換度(DSace)は2.95であり、Mwは17.2万と実施例1とほぼ同様の物性であった。しかし、得られたセルロースアセテート中のクロロホルム不溶分の割合が12.1%と高く、未反応分が存在していることが分かった。
【0085】
比較例2
ヘリカルリボン翼を設けた撹拌軸Aと錨型を設けた撹拌軸Bの2本の撹拌軸を有し、2つの撹拌軸が同芯である竪型撹拌槽を用いて反応を行った。攪拌は内軸15rpm、外軸60rpmで行った。
【0086】
セルロース1.06kg、有機酸として酢酸7.26kgをセルロースの活性化に用い、アシル化時にアシル化剤として無水酢酸を7.01kg、触媒として硫酸を0.07kg、酢酸を0.81kg用いた以外は実施例1と同様に反応を行った。
【0087】
反応液中のセルロース濃度は6.5wt%での反応であり生産性に問題があった。
【0088】
攪拌性は良好であり、実施例1と同様に反応が進行し、サンプリングした反応液の溶液粘度は590Pa・secであった。続いて、実施例1と同様に反応を停止して、セルロースアセテートを得た。得られたセルロースアセテートのクロロホルム可溶分のアセチル置換度(DSace)は2.95であり、Mwは17.9万であった。また、得られたセルロースアセテート中のクロロホルム不溶分の割合は0.3%であり品質が大変良いものであった。
【0089】
比較例3
反応装置として、錨型の撹拌翼を有する一軸竪型撹拌槽を用いて反応を行った。それ以外は実施例4と同様に反応を行った。攪拌は50rpmで行った。
【0090】
反応液中のセルロース濃度は実施例4と同様に8.1wt%で生産性は良好であったが、アシル化反応が進行してくると、撹拌翼の中心部分と外側にドープの分離が見られ、外側部分はほとんど撹拌されていない状態になった。攪拌性に問題が見られた。
【0091】
反応開始から150分経過した時点で反応液をサンプリングして、溶液粘度を測定したところ、603Pa・secであった。実施例4と同様に反応を停止して、セルロースアセテートプロピオネートを得た。得られたセルロースアセテートプロピオネートのクロロホルム可溶分のアセチル置換度(DSace)は2.05、プロピオニル置換度(DSacy)は0.89であり、Mwは15.4万と実施例4とほぼ同様の物性であった。しかし、得られたセルロースアセテートプロピオネート中のクロロホルム不溶分の割合が10.1%と高く、未反応分が存在していることが分かった。
【0092】
比較例4
反応装置として、錨型の撹拌翼を有する一軸竪型撹拌槽を用いる以外は実施例3と同様に反応を行った。また、攪拌は50rpmで行った。
【0093】
反応液中のセルロース濃度は実施例3と同様に10.4wt%で生産性は非常に良好であったが、アシル化剤を全て添加しても流動性が低く、反応液の中心部分しか撹拌されず、外側部分は全く撹拌されていない状態になった。攪拌性に問題が見られた。
【0094】
反応開始から150分経過した時点で反応液の中心部分は透明な溶液になったが、外側は未反応セルロースが塊で存在しており、これ以上撹拌を続けても透明なドープが得られないため反応を中止した。
【0095】
比較例5
フック型の撹拌翼を設けた撹拌軸A、Bの2つの撹拌軸を有し、撹拌軸A、Bの芯が異なる竪型撹拌槽を用いて反応を行った。攪拌はA,B共に40rpmで行った。
【0096】
セルロース2.88kg、有機酸として酢酸4.47kgをセルロースの活性化に用い、アシル化時にアシル化剤として無水酢酸9.79kg、触媒として硫酸0.13kgを用いた以外は実施例1と同様に反応を行った。
【0097】
反応液中のセルロース濃度は16.7wt%で生産性は非常に良好であったが、アシル化剤を全て添加しても流動性が低く、撹拌翼が低速でも全く動かない状態となったため、反応を中止した。攪拌性に問題が見られた。
【0098】
【表2】

【産業上の利用可能性】
【0099】
本発明で得られるセルロースエステル組成物からなる繊維は、生分解性を活かした分野、すなわち、農業用資材、林業用資材、水産資材、土木資材、衛生資材、日用品、衣料用繊維、産業用繊維および不織布などとして好適に用いられる。
【図面の簡単な説明】
【0100】
【図1】本発明の具体例を示す反応装置の断面図
【図2】本発明の具体例を示す反応装置の断面図
【図3】従来から使用されている反応装置の断面図
【符号の説明】
【0101】
1:竪型反応装置
2:反応物仕込み口
3:反応物取り出し口
4:揮発性成分出口
5、6:攪拌軸
7、8:攪拌翼

【特許請求の範囲】
【請求項1】
有機酸中でアシル化剤として酸無水物一種以上を用い、セルロースをアシル化反応するに際して、反応液中のセルロース濃度が7〜14重量%であり、1槽に2本以上の撹拌軸を持つ竪型攪拌槽を用いることを特徴とするセルロースエステルの製造方法。
【請求項2】
酸無水物として無水酢酸及び炭素数が3以上の酸無水物からなる群から選ばれる少なくとも一つを用いることを特徴とする請求項1記載のセルロースエステルの製造方法。
【請求項3】
反応で得られたセルロースエステルを含むドープの粘度が500〜1200Pa・secであることを特徴とする請求項1または2記載のセルロースエステルの製造方法。
【請求項4】
反応に用いる沸点60℃以下の化合物が10重量%以下であることを特徴とする請求項1から3のいずれか一項記載のセルロースエステルの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2006−249347(P2006−249347A)
【公開日】平成18年9月21日(2006.9.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−70513(P2005−70513)
【出願日】平成17年3月14日(2005.3.14)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成16年度独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構「基盤技術研究促進事業(民間基盤技術研究支援制度)/溶融紡糸により得られる天然物由来新規繊維の研究」、産業活力再生特別措置法第30条の適用を受ける特許出願
【出願人】(000003159)東レ株式会社 (7,677)
【Fターム(参考)】