説明

セルロースエステルフィルム、それを用いた位相差フィルム、偏光板、及び液晶表示装置

【課題】製造時の工程汚染が少なく生産効率が高い、優れたセルロースエステルフィルム、優れた特性の位相差フィルム、及びこれらを用いた偏光板、液晶表示装置を提供する。
【解決手段】下記一般式(I)で表される重量平均分子量700以上1500以下の重縮合体を少なくとも一種と、少なくとも2つの芳香環を有する化合物とを含有するセルロースエステルフィルム。
一般式(I) M−(G−A)−G−M
(一般式(I)中、Aは芳香族ジカルボン酸に由来する基を表し、Gは炭素数の平均が2.0〜3.0の脂肪族ジオールに由来する基を表し、Mは脂肪族モノカルボン酸残基を表し、同一でも異なっていても良い。nは1以上の整数を表す。)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、セルロースエステルフィルム、それを用いた位相差フィルム、偏光板、及び液晶表示装置に関する。
【背景技術】
【0002】
セルロースエステルからは平面性や均一性の点でより優れたフィルムを製造することができるため、光学用途のフィルムとして広く採用されている。例えば、適切な透湿度を有するセルロースエステルフィルムは、最も一般的なポリビニルアルコール(PVA)/ヨウ素からなる偏光膜とオンラインで直接貼り合わせることが可能である。そのため、セルロースエステル、特にセルロースアセテートは偏光板の保護フィルムとして広く採用されている。
【0003】
セルロースエステルフィルムを、位相差フィルム、位相差フィルムの支持体、偏光板の保護フィルム、および液晶表示装置のような光学用途に使用する場合、その光学異方性の制御は、表示装置の性能(例えば、視認性)を決定する上で非常に重要な要素となる。
【0004】
一方、光学用途に用いるセルロースエステルフィルムを製造する方法としては、溶液製膜法が広く利用されている。この場合には、高速製膜適性を付与する目的で、可塑剤を添加することがある。これは、可塑剤を添加することによって、溶液製膜時の乾燥の際に溶媒を短時間で揮発させることができるためである。しかしながら、通常用いられている可塑剤を含むセルロースエステルフィルムは、製造工程中に過酷な条件で処理しようとすると望ましくない現象が生じたり、フィルムに悪影響が及んだりすることがある。例えば、透明ポリマーフィルムを高温で処理しようとすると発煙が生じたり、揮散した油分で汚染されたりすることがある(工程汚染)。このため、可塑剤を用いたセルロースエステルフィルムに対する製造条件や処理条件には自ずと制約があった。
【0005】
高分子の可塑剤としてポリエステル、ポリエステルエーテルを添加する技術が開示されている(特許文献1参照)。さらに、芳香環を有するポリエステルを含有するセルロースエステルフィルムが開示されており(例えば特許文献2)、また末端構造が芳香環であるポリエステル可塑剤を含有するフィルムが開示されている(例えば特許文献3)。しかしながらこれらの化合物においても、製造時の工程汚染、偏光板形態での経時性能の点で満足できるものではなかった。
【0006】
一方、液晶表示装置において、視野角の拡大、画像着色の改良、及びコントラストの向上のため光学補償フィルムを使用することは広く知られた技術である。最も普及しているVA(Vertically Aligned)モード(垂直配向モード)、TNモード等では特に光学特性の大きい光学補償フィルムが求められている。
VAモードに適した光学特性の調整には、セルロースエステルフィルムを加熱かつ延伸処理を行う必要があり、この際揮散した油分が製造時設備に付着し、フィルムの面状故障となる場合があり、対策が強く求められていた。
【0007】
【特許文献1】特開平5−197073号公報
【特許文献2】特開昭61−276836号公報
【特許文献3】特開2007−3767号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の目的は、製造時の工程汚染が少なく生産効率が高い、優れたセルロースエステルフィルムを提供することにある。
本発明の他の目的は、上記セルロースエステルフィルムを用いた、面状が良好で、Re値およびRth値を所望の値に制御できる位相差フィルム及び偏光板を提供することにある。
本発明のさらなる目的は、上記偏光板を用いた表示品質の良好な液晶表示装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは鋭意検討した結果、以下の手段によって上記課題が解決されることを見出した。
1. 下記一般式(I)で表される重量平均分子量700以上1500以下の重縮合体を少なくとも一種と、少なくとも2つの芳香環を有する化合物とを含有するセルロースエステルフィルム。
一般式(I) M−(G−A)−G−M
(一般式(I)中、Aは芳香族ジカルボン酸に由来する基を表し、Gは炭素数の平均が2.0〜3.0の脂肪族ジオールに由来する基を表し、Mは脂肪族モノカルボン酸残基を表し、同一でも異なっていても良い。nは1以上の整数を表す。)
2. 前記一般式(I)におけるMのうち少なくとも1つが、酢酸エステル残基である上記1に記載のセルロースエステルフィルム。
3. 前記セルロースエステルフィルムが、アシル置換度が2.00〜2.95であるセルロースアシレートを含む上記1または2に記載のセルロースエステルフィルム。
4. 前記セルロースエステルフィルムが、アシル基の総置換度が2.10〜2.90であり、かつプロピオニル基の置換度が0.5〜1.5であるセルロースアセテートプロピオネートを含む上記1または2に記載のセルロースエステルフィルム。
5. 上記1〜4のいずれかに記載のセルロースエステルフィルムを延伸して得られるフィルムであって、該延伸倍率が、搬送方向に対して垂直な方向(幅方向)に5%以上100%以下であるセルロースエステルフィルム。
6. 偏光子の両側に保護フィルムが貼り合わされた偏光板であって、該保護フィルムの少なくとも1枚が上記1〜5のいずれかに記載のセルロースエステルフィルムである偏光板。
7. 液晶セル及び該液晶セルの両側に配置された2枚の偏光板を有する液晶表示装置であって、少なくとも1枚の偏光板が上記6に記載の偏光板である液晶表示装置。
8. 前記液晶セルが、垂直配向モードの液晶セルである上記7に記載の液晶表示装置。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば製造時の工程汚染が少なく生産効率が高く、面状が良好で、Re値およびRth値を所望の値に制御できる、優れたセルロースエステルフィルム、位相差フィルム及び偏光板を提供することができる。また、上記フィルムまたは偏光板を用いた表示品質の良好な液晶表示装置を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、本発明をより詳細に説明する。なお、本明細書において、数値が物性値、特性値等を表す場合に、「(数値1)〜(数値2)」及び「(数値1)乃至(数値2)」という記載は「(数値1)以上(数値2)以下」の意味を表す。
【0012】
本発明のセルロースエステルフィルムは、下記一般式(I)で表される重量平均分子量700以上1500以下の重縮合体を少なくとも一種と、少なくとも2つの芳香環を有する化合物とを含有する。
一般式(I) M−(G−A)−G−M
(一般式(I)中、Aは芳香族ジカルボン酸に由来する基を表し、Gは炭素数の平均が2.0〜3.0の脂肪族ジオールに由来する基を表し、Mは脂肪族モノカルボン酸残基を表し、同一でも異なっていても良い。nは1以上の整数を表す。)
【0013】
[重縮合体]
一般式(I)で表される重量平均分子量700以上1500以下の重縮合体は、少なくとも一種の芳香環を有するジカルボン酸(芳香族ジカルボン酸とも呼ぶ)と、平均炭素数が2.0以上3.0以下の脂肪族ジオールとから得られる。
【0014】
重量平均分子量が700未満であるとセルロースエステルフィルム製膜時に重縮合体の揮発が問題となるため好ましくない。また、分子量が1500を超えるとブリードアウト等が発生し好ましくない。
【0015】
重縮合体の重量平均分子量は700〜1500であり、800〜1400が好ましく、900〜1200がより好ましい。
【0016】
重縮合体の重量平均分子量はゲルパーミエーションクロマトグラフィーによって測定、評価することができる。標準ポリマーとして市販のポリスチレンを使用することが好ましい。測定には、例えば東ソー株式会社製有機溶媒系高速GPC用充填カラムなど市販のカラムを使用することができる。
【0017】
芳香族ジカルボン酸としては、フタル酸、テレフタル酸、イソフタル酸、1,5−ナフタレンジカルボン酸、1,4−ナフタレンジカルボン酸、1,8−ナフタレンジカルボン酸、2,8−ナフタレンジカルボン酸または2,6−ナフタレンジカルボン酸等が好ましく用いられ、フタル酸、テレフタル酸がより好ましい。
【0018】
重縮合体を形成する脂肪族ジオールとしては平均炭素数が2.0以上3.0以下のジオールである。脂肪族ジオールの平均炭素数が3.0より大きいと重縮合体の加熱減量が増大し、セルロースアシレートウェブ乾燥時に揮散して設備への付着が起こり、フィルムの面状故障につながる場合がある。また、脂肪族ジオールの平均炭素数が2.0未満では合成が困難となるため、使用できない。
脂肪族ジオールとしては、アルキルジオールまたは脂環式ジオール類を挙げることができ、例えばエタンジオール、1,2−プロパンジオール、1,3−プロパンジオール、1,2−ブタンジオール、1,3−ブタンジオール、2−メチル−1,3−プロパンジオール、1,4−ブタンジオール、1,5−ペンタンジオール、2,2−ジメチル−1,3−プロパンジオール(ネオペンチルグリコール)、2,2−ジエチル−1,3−プロパンジオール(3,3−ジメチロ−ルペンタン)、2−n−ブチル−2−エチル−1,3プロパンジオール(3,3−ジメチロールヘプタン)、3−メチル−1,5−ペンタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、2,2,4−トリメチル−1,3−ペンタンジオール、2−エチル−1,3−ヘキサンジオール、2−メチル−1,8−オクタンジオール、1,9−ノナンジオール、1,10−デカンジオール、1,12−オクタデカンジオール、ジエチレングリコール等があり、エタンジオール、1,2−プロパンジオール、1,3−プロパンジオールを用いるか、エタンジオールとともに1種または2種以上の混合物として使用されることが好ましい。
【0019】
好ましい脂肪族ジオールとしては、エタンジオール、1,2−プロパンジオール、1,3−プロパンジオールであり、特に好ましくはエタンジオールである。
【0020】
重縮合体の末端構造は脂肪族モノカルボン酸残基である。一般式(I)中、Mで表される脂肪族モノカルボン酸残基は各々同一でも異なっていてもよいが、好ましくは同一である。
封止に用いるモノカルボン酸としては炭素数3以下の脂肪族モノカルボン酸が好ましく、酢酸、プロピオン酸、ブタン酸がより好ましく、酢酸が最も好ましい。重縮合エステルの両末端に使用するモノカルボン酸類の炭素数が3以下であると、化合物の加熱減量が大きくならず、面状故障が発生しない。
【0021】
(重縮合エステルの具体例)
以下の表1に重縮合体の具体例を記すが、これらに限定されるものではない。
【0022】
【表1】

【0023】
重縮合体の合成は、常法により上記芳香族ジカルボン酸と脂肪族ジオールと末端封止用のモノカルボン酸とのポリエステル化反応またはエステル交換反応による熱溶融縮合法か、あるいはこれら酸の酸クロライドとグリコール類との界面縮合法のいずれかの方法によっても容易に合成し得るものである。例えば、村井孝一編者「可塑剤 その理論と応用」(株式会社幸書房、昭和48年3月1日初版第1版発行)に詳細な記載がある。また、特開平05−155809号、特開平05−155810号、特開平5−197073号、特開2006−259494号、特開平07−330670号、特開2006−342227号、特開2007−003679号各公報などに記載されている素材を利用することもできる。
【0024】
重縮合体の添加量は、セルロースエステル量に対し0.1〜25質量%であることが好ましく、1〜20質量%であることがさらに好ましく、3〜15質量%であることが最も好ましい。
【0025】
重縮合体が含有する未反応の原料、ジカルボン酸エステル、またはジオールエステルのセルロースエステルフィルム中の含有量は、1%未満が好ましく、0.5%未満がより好ましい。
【0026】
[少なくとも2つの芳香環を有する化合物]
本発明のセルロースエステルフィルムは、少なくとも2つの芳香環を有する化合物を含有する。
少なくとも2つの芳香環を有する化合物の分子量は、300〜1200であることが好ましく、400〜1000であることがより好ましい。
【0027】
少なくとも二つの芳香環を有する化合物としては、例えば特開2003−344655号公報に記載のトリアジン化合物、特開2002−363343号公報に記載の棒状化合物、特開2005−134884及び特開2007−119737号公報に記載の液相性化合物、特開2003−12823号公報に記載の多価アルコール安息香酸エステル、WO2007/125764A1に記載のフラノース構造またはピラノース構造を有する安息香酸エステル、特開2006−282979号公報に記載の紫外線吸収剤(ベンゾフェノン、ベンゾトリアゾール、トリアジン)等が挙げられる。
【0028】
少なくとも2つ以上の芳香環を有する化合物は一様配向した場合に光学的に正の1軸性を発現してもよい。
【0029】
セルロースエステルフィルムが位相差フィルムまたは光学補償フィルムとして偏光板の液晶セルに接した側に用いられる場合、該化合物は上記トリアジン化合物、棒状化合物、安息香酸エステルが好ましく、安息香酸エステルであることがより好ましい。
【0030】
少なくとも2つの芳香族環を有する化合物は2種以上を併用して用いることもできる。
【0031】
少なくとも2つの芳香族環を有する化合物の添加量はセルロースエステルに対して質量比で0.05%以上10%以下が好ましく、0.5%以上8%以下がより好ましく、1%以上5%以下がさらに好ましい。
【0032】
次に、セルロースエステルについて詳しく説明する。
【0033】
[セルロースエステル]
セルロースエステルとしては、セルロースエステル化合物、および、セルロースを原料として生物的或いは化学的に官能基を導入して得られるエステル置換セルロース骨格を有する化合物が挙げられる。
【0034】
前記セルロースエステルは、セルロースと酸とのエステルである。前記エステルを構成する酸としては、有機酸が好ましく、カルボン酸がより好ましく、炭素原子数が2〜22の脂肪酸がさらに好ましく、炭素原子数が2〜4の低級脂肪酸であるセルロースアシレートが最も好ましい。
【0035】
原料のセルロースとしては、綿花リンタや木材パルプ(広葉樹パルプ,針葉樹パルプ)などがあり、何れの原料セルロースから得られるセルロースエステルでも使用でき、場合により2種以上を混合して使用してもよい。これらの原料セルロースについての詳細な記載は、例えば「プラスチック材料講座(17)繊維素系樹脂」(丸澤、宇田著、日刊工業新聞社、1970年発行)や発明協会公開技報2001−1745(7頁〜8頁)に記載のセルロースを用いることができるが、特に限定されるものではない。
【0036】
[セルロースアシレート置換度]
次に上述のセルロースを原料に製造される本発明において好適なセルロースアシレートについて記載する。
本発明に用いられるセルロースアシレートはセルロースの水酸基がアシル化されたもので、好ましくは、その置換基はアシル基の炭素数が2のアセチル基から炭素数が22のものまでいずれも用いることができる。セルロースアシレートにおける、セルロースの水酸基への置換度については特に限定されない。
セルロースの水酸基に置換する酢酸及び/又は炭素数3〜22の脂肪酸の結合度を測定し、計算によって置換度を得ることができる。測定方法としては、ASTM D−817−91に準じて実施することができる。
【0037】
セルロースの水酸基へのアシル基の置換度が2.00〜2.95であることが好ましい。
【0038】
セルロースの水酸基に置換する酢酸及び/又は炭素数3〜22の脂肪酸のうち、炭素数2〜22のアシル基としては、脂肪族基でもアリル基でもよく特に限定されず、単一でも2種類以上の混合物でもよい。それらは、例えばセルロースのアルキルカルボニルエステル、アルケニルカルボニルエステル、芳香族カルボニルエステル、又は芳香族アルキルカルボニルエステルなどであり、それぞれさらに置換された基を有していてもよい。これらの好ましいアシル基としては、アセチル、プロピオニル、ブタノイル、へプタノイル、ヘキサノイル、オクタノイル、デカノイル、ドデカノイル、トリデカノイル、テトラデカノイル、ヘキサデカノイル、オクタデカノイル、i−ブタノイル、t−ブタノイル、シクロヘキサンカルボニル、オレオイル、ベンゾイル、ナフチルカルボニル、シンナモイル基などを挙げることができる。これらの中でも、アセチル、プロピオニル、ブタノイル、ドデカノイル、オクタデカノイル、t−ブタノイル、オレオイル、ベンゾイル、ナフチルカルボニル、シンナモイルなどが好ましく、アセチル、プロピオニル、ブタノイルがより好ましい。最も好ましい基はアセチル、及びプロピオニルである。
【0039】
上記のセルロースの水酸基に置換するアシル置換基のうちで、実質的にアセチル基、プロピオニル基からなる場合においては、その全置換度が2.10〜2.90であることが好ましく、より好ましいアシル置換度は2.30〜2.80であり、さらに好ましくは2.40〜2.70である。
【0040】
アシル置換基にプロピオニル基を使用する場合には、プロピオニル基の置換度が0.5〜1.5であるセルロースアセテートプロピオネートであることが好ましい。プロピオニル基の置換度はさらに好ましくは、0.7〜1.2である。
【0041】
上記のセルロースアシレートのアシル置換基が、アセチル基のみからなる場合においては、その全置換度が2.00〜2.95であることが好ましい。さらには置換度が2.40〜2.95であることが好ましく、2.85〜2.95であることがより好ましい。
【0042】
[セルロースアシレートの重合度]
本発明で好ましく用いられるセルロースアシレートの重合度は、粘度平均重合度で180〜700であり、セルロースアセテートにおいては、180〜550がより好ましく、180〜400が更に好ましく、180〜350が特に好ましい。重合度が該上限値以下であれば、セルロースアシレートのドープ溶液の粘度が高くなりすぎることがなく流延によるフィルム作製が容易にできるので好ましい。重合度が該下限値以上であれば、作製したフィルムの強度が低下するなどの不都合が生じないので好ましい。平均重合度は、宇田らの極限粘度法{宇田和夫、斉藤秀夫、「繊維学会誌」、第18巻第1号、105〜120頁(1962年)}により測定できる。この方法は特開平9−95538号公報にも詳細に記載されている。
【0043】
セルロースエステルの分子量分布は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィーによって評価される。その多分散性指数Mw/Mn(Mwは質量平均分子量、Mnは数平均分子量)としては、1.0〜4.0であることが好ましく、2.0〜4.0であることがさらに好ましく、2.3〜3.4であることが最も好ましい。
セルロースエステルの数平均分子量(Mn)は、30000〜300000であることが好ましく、50000〜200000であることがさらに好ましい。
【0044】
[セルロースアシレートフィルムの製造]
本発明のセルロースアシレートフィルムは、ソルベントキャスト法により製造する。ソルベントキャスト法では、セルロースアシレートを有機溶媒に溶解した溶液(ドープ)を用いてフィルムを製造する。
有機溶媒は、炭素原子数が3乃至12のエーテル、炭素原子数が3乃至12のケトン、炭素原子数が3乃至12のエステルおよび炭素原子数が1乃至6のハロゲン化炭化水素から選ばれる溶媒を含むことが好ましい。
エーテル、ケトンおよびエステルは、環状構造を有していてもよい。エーテル、ケトンおよびエステルの官能基(すなわち、−O−、−CO−および−COO−)のいずれかを二つ以上有する化合物も、有機溶媒として用いることができる。有機溶媒は、アルコール性水酸基のような他の官能基を有していてもよい。二種類以上の官能基を有する有機溶媒の場合、その炭素原子数はいずれかの官能基を有する溶媒の上記した好ましい炭素原子数範囲内であることが好ましい。
【0045】
炭素原子数が3乃至12のエーテル類の例には、ジイソプロピルエーテル、ジメトキシメタン、ジメトキシエタン、1,4−ジオキサン、1,3−ジオキソラン、テトラヒドロフラン、アニソールおよびフェネトールが含まれる。
炭素原子数が3乃至12のケトン類の例には、アセトン、メチルエチルケトン、ジエチルケトン、ジイソブチルケトン、シクロヘキサノンおよびメチルシクロヘキサノンが含まれる。
炭素原子数が3乃至12のエステル類の例には、エチルホルメート、プロピルホルメート、ペンチルホルメート、メチルアセテート、エチルアセテートおよびペンチルアセテートが含まれる。
二種類以上の官能基を有する有機溶媒の例には、2−エトキシエチルアセテート、2−メトキシエタノールおよび2−ブトキシエタノールが含まれる。
ハロゲン化炭化水素の炭素原子数は、1または2であることが好ましく、1であることが最も好ましい。ハロゲン化炭化水素のハロゲンは、塩素であることが好ましい。ハロゲン化炭化水素の水素原子が、ハロゲンに置換されている割合は、25乃至75モル%であることが好ましく、30乃至70モル%であることがより好ましく、35乃至65モル%であることがさらに好ましく、40乃至60モル%であることが最も好ましい。メチレンクロリドが、代表的なハロゲン化炭化水素である。
二種類以上の有機溶媒を混合して用いてもよい。
【0046】
0℃以上の温度(常温または高温)で処理することからなる一般的な方法で、セルロースアシレート溶液を調製することができる。溶液の調製は、通常のソルベントキャスト法におけるドープの調製方法および装置を用いて実施することができる。なお、一般的な方法の場合は、有機溶媒としてハロゲン化炭化水素(特にメチレンクロリド)を用いることが好ましい。
セルロースアシレートの量は、得られる溶液中に10乃至40質量%含まれるように調整する。セルロースアシレートの量は、10乃至30質量%であることがさらに好ましい。有機溶媒(主溶媒)中には、後述する任意の添加剤を添加しておいてもよい。
溶液は、常温(0乃至40℃)でセルロースアシレートと有機溶媒とを攪拌することにより調製することができる。高濃度の溶液は、加圧および加熱条件下で攪拌してもよい。具体的には、セルロースアセテートと有機溶媒とを加圧容器に入れて密閉し、加圧下で溶媒の常温における沸点以上、かつ溶媒が沸騰しない範囲の温度に加熱しながら攪拌する。
加熱温度は、通常は40℃以上であり、好ましくは60乃至200℃であり、さらに好ましくは80乃至110℃である。
【0047】
各成分は予め粗混合してから容器に入れてもよい。また、順次容器に投入してもよい。容器は攪拌できるように構成されている必要がある。窒素ガス等の不活性気体を注入して容器を加圧することができる。また、加熱による溶媒の蒸気圧の上昇を利用してもよい。あるいは、容器を密閉後、各成分を圧力下で添加してもよい。
加熱する場合、容器の外部より加熱することが好ましい。例えば、ジャケットタイプの加熱装置を用いることができる。また、容器の外部にプレートヒーターを設け、配管して液体を循環させることにより容器全体を加熱することもできる。
容器内部に攪拌翼を設けて、これを用いて攪拌することが好ましい。攪拌翼は、容器の壁付近に達する長さのものが好ましい。攪拌翼の末端には、容器の壁の液膜を更新するため、掻取翼を設けることが好ましい。
容器には、圧力計、温度計等の計器類を設置してもよい。容器内で各成分を溶剤中に溶解する。調製したドープは冷却後容器から取り出すか、あるいは、取り出した後、熱交換器等を用いて冷却する。
【0048】
冷却溶解法により、溶液を調製することもできる。冷却溶解法では、通常の溶解方法では溶解させることが困難な有機溶媒中にもセルロースアシレートを溶解させることができる。なお、通常の溶解方法でセルロースアシレートを溶解できる溶媒であっても、冷却溶解法によると迅速に均一な溶液が得られるとの効果がある。
冷却溶解法では最初に、室温で有機溶媒中にセルロースアシレートを撹拌しながら徐々に添加する。
セルロースアシレートの量は、この混合物中に10乃至40質量%含まれるように調整することが好ましい。セルロースアシレートの量は、10乃至30質量%であることがさらに好ましい。さらに、混合物中には後述する任意の添加剤を添加しておいてもよい。
【0049】
次に、混合物を−100乃至−10℃(好ましくは−80乃至−10℃、さらに好ましくは−50乃至−20℃、最も好ましくは−50乃至−30℃)に冷却する。冷却は、例えば、ドライアイス・メタノール浴(−75℃)や冷却したジエチレングリコール溶液(−30乃至−20℃)中で実施できる。冷却によりセルロースアシレートと有機溶媒の混合物は固化する。
冷却速度は、4℃/分以上であることが好ましく、8℃/分以上であることがさらに好ましく、12℃/分以上であることが最も好ましい。冷却速度は、速いほど好ましいが、10000℃/秒が理論的な上限であり、1000℃/秒が技術的な上限であり、そして100℃/秒が実用的な上限である。なお、冷却速度は、冷却を開始する時の温度と最終的な冷却温度との差を冷却を開始してから最終的な冷却温度に達するまでの時間で割った値である。
【0050】
さらに、これを0乃至200℃(好ましくは0乃至150℃、さらに好ましくは0乃至120℃、最も好ましくは0乃至50℃)に加温すると、有機溶媒中にセルロースアシレートが溶解する。昇温は、室温中に放置するだけでもよく、温浴中で加温してもよい。
加温速度は、4℃/分以上であることが好ましく、8℃/分以上であることがさらに好ましく、12℃/分以上であることが最も好ましい。加温速度は、速いほど好ましいが、10000℃/秒が理論的な上限であり、1000℃/秒が技術的な上限であり、そして100℃/秒が実用的な上限である。なお、加温速度は、加温を開始する時の温度と最終的な加温温度との差を加温を開始してから最終的な加温温度に達するまでの時間で割った値である。
以上のようにして、均一な溶液が得られる。なお、溶解が不充分である場合は冷却、加温の操作を繰り返してもよい。溶解が充分であるかどうかは、目視により溶液の外観を観察するだけで判断することができる。
【0051】
冷却溶解法においては、冷却時の結露による水分混入を避けるため、密閉容器を用いることが望ましい。また、冷却加温操作において、冷却時に加圧し、加温時に減圧すると、溶解時間を短縮することができる。加圧および減圧を実施するためには、耐圧性容器を用いることが望ましい。
なお、セルロースアセテート(酢化度:60.9%、粘度平均重合度:299)を冷却溶解法によりメチルアセテート中に溶解した20質量%の溶液は、示差走査熱量計(DSC)による測定によると、33℃近傍にゾル状態とゲル状態との疑似相転移点が存在し、この温度以下では均一なゲル状態となる。従って、この溶液は疑似相転移温度以上、好ましくはゲル相転移温度プラス10℃程度の温度で保持する必要がある。ただし、この疑似相転移温度は、セルロースアセテートの酢化度、粘度平均重合度、溶液濃度や使用する有機溶媒により異なる。
【0052】
調製したセルロースアシレート溶液(ドープ)から、ソルベントキャスト法によりセルロースアシレートフィルムを製造する。ドープにはレターデーション上昇剤を添加することが好ましい。
ドープは、ドラムまたはバンド上に流延し、溶媒を蒸発させてフィルムを形成する。流延前のドープは、固形分量が18乃至35%となるように濃度を調整することが好ましい。ドラムまたはバンドの表面は、鏡面状態に仕上げておくことが好ましい。ドープは、表面温度が10℃以下のドラムまたはバンド上に流延することが好ましい。
【0053】
本発明では、ドープ(セルロースアシレート溶液)をバンド上に流延する場合、剥ぎ取り前乾燥の前半において10秒以上90秒以下、好ましくは15秒以上90秒以下の時間、実質的に無風で乾燥する工程を行う。また、ドラム上に流延する場合、剥ぎ取り前乾燥の前半において1秒以上10秒以下、好ましくは2秒以上5秒以下の時間、実質的に無風で乾燥する工程を行う。
本発明において、「剥ぎ取り前乾燥」とはバンドもしくはドラム上にドープが塗布されてからフィルムとして剥ぎ取られるまでの乾燥を指すものとする。また、「前半」とはドープ塗布から剥ぎ取りまでに要する全時間の半分より前の工程を指すものとする。「実質的に無風」であるとは、バンド表面もしくはドラム表面から200mm以内の距離において0.5m/s以上の風速が検出されない(風速が0.5m/s未満である)ことである。
剥ぎ取り前乾燥の前半は、バンド上の場合通常30〜300秒程度の時間であるが、その内の10秒以上90秒以下、好ましくは15秒以上90秒以下の時間、無風で乾燥する。ドラム上の場合は通常5〜30秒程度の時間であるが、その内の1秒以上10秒以下、好ましくは2秒以上5秒以下の時間、無風で乾燥する。雰囲気温度は0℃〜180℃が好ましく、40℃〜150℃がさらに好ましい。無風で乾燥する操作は剥ぎ取り前乾燥の前半の任意の段階で行うことができるが、好ましくは流延直後から行うことが好ましい。無風で乾燥する時間が、バンド上の場合に10秒未満(ドラム上の場合に1秒未満)であると、添加剤がフィルム内に均一に分布することが難しく、90秒を超えると(ドラム上の場合10秒を超えると)乾燥不十分で剥ぎ取られことになり、フィルムの面状が悪化する。
剥ぎ取り前乾燥における無風で乾燥する以外の時間は、は不活性ガスを送風することにより乾燥を行なうことができる。このときの風温は0℃〜180℃が好ましく、40℃〜150℃がさらに好ましい。
【0054】
ソルベントキャスト法における乾燥方法については、米国特許2336310号、同2367603号、同2492078号、同2492977号、同2492978号、同2607704号、同2739069号、同2739070号、英国特許640731号、同736892号の各明細書、特公昭45−4554号、同49−5614号、特開昭60−176834号、同60−203430号、同62−115035号の各公報に記載がある。バンドまたはドラム上での乾燥は空気、窒素などの不活性ガスを送風することにより行なうことができる。
【0055】
得られたフィルムをドラムまたはバンドから剥ぎ取り、さらに100から160℃まで逐次温度を変えた高温風で乾燥して残留溶剤を蒸発させることもできる。以上の方法は、特公平5−17844号公報に記載がある。この方法によると、流延から剥ぎ取りまでの時間を短縮することが可能である。この方法を実施するためには、流延時のドラムまたはバンドの表面温度においてドープがゲル化することが必要である。
【0056】
調製したセルロースアシレート溶液(ドープ)を用いて二層以上の流延を行いフィルム化することもできる。この場合、ソルベントキャスト法によりセルロースアシレートフィルムを作製することが好ましい。ドープは、ドラムまたはバンド上に流延し、溶媒を蒸発させてフィルムを形成する。流延前のドープは、固形分量が10乃至40%の範囲となるように濃度を調整することが好ましい。ドラムまたはバンドの表面は、鏡面状態に仕上げておくことが好ましい。
【0057】
二層以上の複数のセルロースアシレート液を流延する場合、複数のセルロースアシレート溶液を流延することが可能で、支持体の進行方向に間隔をおいて設けられた複数の流延口からセルロースアシレートを含む溶液をそれぞれ流延させて積層させながらフィルムを作製してもよい。例えば、特開昭61−158414号、特開平1−122419号、および、特開平11−198285号の各公報に記載の方法を用いることができる。また、2つの流延口からセルロースアシレート溶液を流延することによってもフィルム化することもできる。例えば、特公昭60−27562号、特開昭61−94724号、特開昭61−947245号、特開昭61−104813号、特開昭61−158413号、および、特開平6−134933号の各公報に記載の方法を用いることができる。また、特開昭56−162617号公報に記載の高粘度セルロースアシレート溶液の流れを低粘度のセルロースアシレート溶液で包み込み、その高、低粘度のセルロースアシレート溶液を同時に押し出すセルロースアシレートフィルムの流延方法を用いることもできる。
【0058】
また、二個の流延口を用いて、第一の流延口により支持体に成形したフィルムを剥ぎ取り、支持体面に接していた側に第二の流延を行うことにより、フィルムを作製することもできる。例えば、特公昭44−20235号公報に記載の方法を挙げることができる。
流延するセルロースアシレート溶液は同一の溶液を用いてもよいし、異なるセルロースアシレート溶液を用いてもよい。複数のセルロースアシレート層に機能をもたせるために、その機能に応じたセルロースアシレート溶液を、それぞれの流延口から押し出せばよい。さらに本発明のセルロースアシレート溶液は、他の機能層(例えば、接着層、染料層、帯電防止層、アンチハレーション層、紫外線吸収層、偏光層など)と同時に流延することもできる。
【0059】
従来の単層液では、必要なフィルムの厚さにするためには高濃度で高粘度のセルロースアシレート溶液を押し出すことが必要である。その場合セルロースアシレート溶液の安定性が悪くて固形物が発生し、ブツ故障となったり、平面性が不良となったりして問題となることが多かった。この問題の解決方法として、複数のセルロースアシレート溶液を流延口から流延することにより、高粘度の溶液を同時に支持体上に押し出すことができ、平面性も良化し優れた面状のフィルムが作製できるばかりでなく、濃厚なセルロースアシレート溶液を用いることで乾燥負荷の低減化が達成でき、フィルムの生産スピードを高めることができる。
【0060】
本発明のセルロースエステルフィルムの好ましい幅は0.5〜5mであり、より好ましくは0.7〜3mである。フィルムの好ましい巻長は300〜30000mであり、より好ましくは500〜10000mであり、さらに好ましくは1000〜7000mである。
【0061】
(膜厚)
本発明のセルロースエステルフィルムの膜厚は20μm〜180μmが好ましく、30μm〜160μmがより好ましく、40μm〜120μmがさらに好ましい。膜厚が20μm以上であれば偏光板等に加工する際のハンドリング性や偏光板のカール抑制の点で好ましい。また、本発明のセルロースエステルフィルムの膜厚むらは、搬送方向および幅方向のいずれも0〜2%であることが好ましく、0〜1.5%がさらに好ましく、0〜1%であることが特に好ましい。
【0062】
(添加剤)
セルロースエステルフィルムには、劣化防止剤(例、酸化防止剤、過酸化物分解剤、ラジカル禁止剤、金属不活性化剤、酸捕獲剤、アミン)を添加してもよい。劣化防止剤については、特開平3−199201号、同5−1907073号、同5−194789号、同5−271471号、同6−107854号の各公報に記載がある。劣化防止剤の添加量は、効果の発現及びフィルム表面への劣化防止剤のブリードアウト(滲み出し)の抑制の観点から、調製する溶液(ドープ)の0.01乃至1質量%であることが好ましく、0.01乃至0.2質量%であることがさらに好ましい。
特に好ましい劣化防止剤の例としては、ブチル化ヒドロキシトルエン(BHT)、トリベンジルアミン(TBA)を挙げることができる。
【0063】
本発明には紫外線吸収剤を添加してもよい。紫外線吸収剤としては特開2006−282979号公報に記載の化合物(ベンゾフェノン、ベンゾトリアゾール、トリアジン)が好ましく用いられる。紫外線吸収剤は2種以上を併用して用いることもできる。
紫外線吸収剤としてはベンゾトリアゾールが好ましく、具体的にはTINUVIN328、TINUVIN326、TINUVIN329、TINUVIN571、アデカスタブLA−31等が挙げられる。
紫外線吸収剤の使用量はセルロースエステルに対して質量比で10%以下が好ましく、3%以下がさらに好ましく、2%以下0.05%以上が最も好ましい。
【0064】
(マット剤微粒子)
本発明のセルロースエステルフィルムは、マット剤として微粒子を含有することが好ましい。本発明に使用される微粒子としては、二酸化珪素、二酸化チタン、酸化アルミニウム、酸化ジルコニウム、炭酸カルシウム、炭酸カルシウム、タルク、クレイ、焼成カオリン、焼成珪酸カルシウム、水和珪酸カルシウム、珪酸アルミニウム、珪酸マグネシウム及びリン酸カルシウムを挙げることができる。微粒子は珪素を含むものが濁度が低くなる点で好ましく、特に二酸化珪素が好ましい。二酸化珪素の微粒子は、1次平均粒子径が20nm以下であり、かつ見かけ比重が70g/L以上であるものが好ましい。1次粒子の平均径が5〜16nmと小さいものがフィルムのヘイズを下げることができより好ましい。見かけ比重は90〜200g/Lが好ましく、100〜200g/Lがさらに好ましい。見かけ比重が大きい程、高濃度の分散液を作ることが可能になり、ヘイズ、凝集物が良化するため好ましい。
【0065】
これらの微粒子は、通常、平均粒子径が0.1〜3.0μmの二次粒子を形成しており、フィルム中では1次粒子の凝集体として存在して、フィルム表面に0.1〜3.0μmの凹凸を形成させる。2次平均粒子径は0.2μm以上1.5μm以下が好ましく、0.4μm以上1.2μm以下がさらに好ましく、0.6μm以上1.1μm以下が最も好ましい。1次、2次粒子径はフィルム中の粒子を走査型電子顕微鏡で観察し、粒子に外接する円の直径をもって粒径とした。また、場所を変えて粒子200個を観察し、その平均値をもって平均粒子径とした。
【0066】
二酸化珪素の微粒子は、例えば、「AEROSIL R972」、「AEROSIL R972V」、「AEROSIL R974」、「AEROSIL R812」、「AEROSIL 200」、「AEROSIL 200V」、「AEROSIL 300」、「AEROSIL R202」、「AEROSIL OX50」、「AEROSIL TT600」{以上、日本アエロジル(株)製}などの市販品を使用することができる。酸化ジルコニウムの微粒子は、例えば、「AEROSIL R976」及び「AEROSIL R811」{以上、日本アエロジル(株)製}の商品名で市販されており、使用することができる。
【0067】
これらの中では「AEROSIL 200V」及び「AEROSIL R972V」が、1次平均粒子径が20nm以下であり、かつ見かけ比重が70g/L以上である二酸化珪素の微粒子であり、光学フィルムの濁度を低く保ちながら、摩擦係数をさげる効果が大きいため特に好ましい。
【0068】
本発明において、2次平均粒子径の小さな粒子を有するセルロースエステルフィルムを得るため、微粒子の分散液を調製する際に、いくつかの手法が考えられる。例えば、溶媒と微粒子を撹拌混合した微粒子分散液を予め作製し、この微粒子分散液を、別途用意した少量のセルロースエステル溶液に加えて撹拌溶解し、さらにメインのセルロースエステルドープ液と混合する方法がある。この方法は二酸化珪素微粒子の分散性がよく、二酸化珪素微粒子が更に再凝集しにくい点で好ましい調製方法である。他にも、溶媒に少量のセルロースエステルを加え、撹拌溶解した後、これに微粒子を加えて分散機で分散を行い、これを微粒子添加液とし、この微粒子添加液をインラインミキサーでドープ液と十分混合する方法もある。本発明はこれらの方法に限定されないが、二酸化珪素微粒子を溶媒などと混合して分散するときの、二酸化珪素の濃度は5〜30質量%が好ましく、10〜25質量%が更に好ましく、15〜20質量%が最も好ましい。分散濃度が高い方が添加量に対する液濁度は低くなり、ヘイズ、凝集物が良化するため好ましい。最終的なセルロースアシレートのドープ溶液中でのマット剤の添加量は1m2当たり0.01〜1.0gが好ましく、0.03〜0.3gが更に好ましく、0.08〜0.16gが最も好ましい。
【0069】
使用される溶媒は低級アルコール類としては、好ましくはメチルアルコール、エチルアルコール、プロピルアルコール、イソプロピルアルコール、ブチルアルコール等が挙げられる。低級アルコール以外の溶媒としては特に限定されないが、セルロースエステルの製膜時に用いられる溶媒を用いることが好ましい。
【0070】
[延伸]
本発明のセルロースエステルフィルムは、延伸処理によりレターデーションを調整することができる。積極的に幅方向に延伸する方法は、例えば、特開昭62−115035号、特開平4−152125号、特開平4−284211号、特開平4−298310号、および特開平11−48271号の各公報などに記載されている。フィルムの延伸は、常温または加熱条件下で実施する。加熱温度は、フィルムのガラス転移温度を挟む±20℃であることが好ましい。これは、ガラス転移温度より極端に低い温度で延伸すると、破断しやすくなり所望の光学特性を発現させることができない。また、ガラス転移温度より極端に高い温度で延伸すると、延伸により分子配向したものが熱固定される前に、延伸時の熱で緩和し配向を固定化することができず、光学特性の発現性が悪くなる。
【0071】
さらに、延伸ゾーン(例えばテンターゾーン)において、フィルムを噛み込み、搬送し最大拡幅率を経た後に、通常緩和させるゾーンを設ける。これは軸ずれを低減するのに必要なゾーンである。通常の延伸ではこの最大拡幅率を経た後の緩和率ゾーンでは、テンターゾーンを通過させるまでの時間は1分より短く、フィルムの延伸は、搬送方向あるいは幅方向だけの一軸延伸でもよく同時あるいは逐次2軸延伸でもよいが、幅方向により多く延伸することが好ましい。延伸は5〜100%の延伸が好ましく、特に好ましくは5〜80%延伸を行う。また、延伸処理は製膜工程の途中で行ってもよいし、製膜して巻き取った原反を延伸処理しても良い。前者の場合には残留溶剤量を含んだ状態で延伸を行っても良く、残留溶剤量(残留溶剤量/(残留溶剤量+固形分量))が0.05〜50%で好ましく延伸することができる。残留溶剤量が0.05〜5%の状態で5〜80%延伸を行うことが特に好ましい。
【0072】
また本発明のセルロースエステルフィルムは、二軸延伸をおこなってもよい。
二軸延伸には、同時二軸延伸法と逐次二軸延伸法があるが、連続製造の観点から逐次二軸延伸方法が好ましく、ドープを流延した後、バンドもしくはドラムよりフィルムを剥ぎ取り、幅方向(長手方法)に延伸した後、長手方向(幅方向)に延伸される。
【0073】
これら流延から後乾燥までの工程は、空気雰囲気下でもよいし窒素ガスなどの不活性ガス雰囲気下でもよい。本発明に用いるセルロースエステルフィルムの製造に用いる巻き取り機は一般的に使用されているものでよく、定テンション法、定トルク法、テーパーテンション法、内部応力一定のプログラムテンションコントロール法などの巻き取り方法で巻き取ることができる。
【0074】
以下、アルカリ鹸化処理を例に、具体的に説明する。
セルロースエステルフィルムのアルカリ鹸化処理は、フィルム表面をアルカリ溶液に浸漬した後、酸性溶液で中和し、水洗して乾燥するサイクルで行われることが好ましい。
アルカリ溶液としては、水酸化カリウム溶液、水酸化ナトリウム溶液が挙げられ、水酸化イオン濃度は0.1乃至3.0モル/リットルの範囲にあることが好ましく、0.5乃至2.0モル/リットルの範囲にあることがさらに好ましい。アルカリ溶液温度は、室温乃至90℃の範囲にあることが好ましく、40乃至70℃の範囲にあることがさらに好ましい。
【0075】
固体の表面エネルギーは、「ぬれの基礎と応用」(リアライズ社1989.12.10発行)に記載のように接触角法、湿潤熱法、および吸着法により求めることができる。本発明のセルロースエステルフィルムの場合、接触角法を用いることが好ましい。
具体的には、表面エネルギーが既知である2種の溶液をセルロースエステルフィルムに滴下し、液滴の表面とフィルム表面との交点において、液滴に引いた接線とフィルム表面のなす角で、液滴を含む方の角を接触角と定義し、計算によりフィルムの表面エネルギーを算出できる。
【0076】
[フィルムのレターデーション]
本明細書において、Re、Rthは各々、波長λにおける面内のレターデーションおよび厚さ方向のレターデーションを表す。ReはKOBRA 21ADH(王子計測機器(株)製)において波長λnmの光をフィルム法線方向に入射させて測定される。Rthは前記Re、面内の遅相軸(KOBRA 21ADHにより判断される)を傾斜軸(回転軸)としてフィルム法線方向に対して+40°傾斜した方向から波長λnmの光を入射させて測定したレターデーション値、および面内の遅相軸を傾斜軸(回転軸)としてフィルム法線方向に対して−40°傾斜した方向から波長λnmの光を入射させて測定したレターデーション値の計3つの方向で測定したレターデーション値を基にKOBRA 21ADHが算出する。ここで平均屈折率の仮定値はポリマーハンドブック(JOHN WILEY&SONS,INC)、各種光学フィルムのカタログの値を使用することができる。平均屈折率の値が既知でないものについてはアッベ屈折計で測定することができる。主な光学フィルムの平均屈折率の値を以下に例示する:セルロースアシレート(1.48)、シクロオレフィンポリマー(1.52)、ポリカーボネート(1.59)、ポリメチルメタクリレート(1.49)、ポリスチレン(1.59)である。これら平均屈折率の仮定値と膜厚を入力することで、KOBRA 21ADHはnx、ny、nzを算出する。この算出されたnx,ny,nzよりNz=(nx−nz)/(nx−ny)が更に算出される。
【0077】
本発明のセルロースエステルフィルムは偏光板の保護フィルムとして用いられ、特に、様々な液晶モードに対応した位相差フィルムとしても好ましく用いることができる。
本発明のセルロースエステルフィルムを位相差フィルムとして用いる場合、セルロースエステルフィルムの好ましい光学特性は液晶モードによって異なる。
【0078】
VAモード用としてはReは20〜150のものが好ましく、50〜130のものがより好ましく、70〜120のものがさらに好ましい。Rthは100〜300のものが好ましく、120〜280のものがより好ましく、150〜250のものがさらに好ましい。
TNモード用としてはReは0〜100のものが好ましく、20〜90のものがより好ましく、50〜80のものがさらに好ましい。Rthは20〜200のものが好ましく、30〜150のものがより好ましく、40〜120のものがさらに好ましい。
TNモード用では前記レターデーション値を有するセルロースエステルフィルム上に光学異方性層を塗布して位相差フィルムとして使用できる。
【0079】
(フィルムのヘイズ)
本発明のセルロースエステルフィルムのヘイズは、0.01〜2.0%であることが好ましい。より好ましくは0.05〜1.5%であり、0.1〜1.0%であることがさらに好ましい。光学フィルムとしてフィルムの透明性は重要である。ヘイズの測定は、本発明のセルロースエステルフィルム試料40mm×80mmを、25℃、60%RHでヘイズメーター“HGM−2DP”{スガ試験機(株)製}を用いJIS K−6714に従って測定した。
【0080】
(分光特性、分光透過率)
セルロースエステルフィルムの試料13mm×40mmを、25℃、60%RHで分光光度計“U−3210”{(株)日立製作所}にて、波長300〜450nmにおける透過率を測定した。傾斜幅は72%の波長−5%の波長で求めた。限界波長は、(傾斜幅/2)+5%の波長で表した。吸収端は、透過率0.4%の波長で表す。これより380nm及び350nmの透過率を評価した。
本発明のセルロースエステルフィルムにおいては、波長380nmにおける分光透過率が45%以上95%以下であり、かつ波長350nmにおける分光透過率が10%以下であることが好ましい。
【0081】
[光弾性]
本発明のセルロースエステルフィルムの光弾性係数は60×10−8cm/N以下が好ましく、20×10−8cm/N以下がさらに好ましい。光弾性係数はエリプソメーターにより求めることができる。
【0082】
[ガラス転移温度]
本発明のセルロースエステルフィルムのガラス転移温度は120℃以上が好ましく、更に140℃以上が好ましい。
ガラス転移温度は、示差走査型熱量計(DSC)を用いて昇温速度10℃/分で測定したときにフィルムのガラス転移に由来するベースラインが変化しはじめる温度と再びベースラインに戻る温度との平均値として求めることができる。
また、ガラス転移温度の測定は、以下の動的粘弾性測定装置を用いて求めることもできる。本発明のセルロースエステルフィルム試料(未延伸)5mm×30mmを、25℃60%RHで2時間以上調湿した後に動的粘弾性測定装置(バイブロン:DVA−225(アイティー計測制御(株)製))で、つかみ間距離20mm、昇温速度2℃/分、測定温度範囲30℃〜250℃、周波数1Hzで測定し、縦軸に対数軸で貯蔵弾性率、横軸に線形軸で温度(℃)をとった時に、貯蔵弾性率が固体領域からガラス転移領域へ移行する際に見受けられる貯蔵弾性率の急激な減少を固体領域で直線1を引き、ガラス転移領域で直線2を引いたときの直線1と直線2の交点を、昇温時に貯蔵弾性率が急激に減少しフィルムが軟化し始める温度であり、ガラス転移領域に移行し始める温度であるため、ガラス転移温度Tg(動的粘弾性)とする。
【0083】
(フィルムの平衡含水率)
本発明のセルロースエステルフィルムの平衡含水率は、偏光板の保護膜として用いる際、ポリビニルアルコールなどの水溶性ポリマーとの接着性を損なわないために、膜厚のいかんに関わらず、25℃、80%RHにおける平衡含水率が、0〜4%であることが好ましい。0.1〜3.5%であることがより好ましく、1〜3%であることが特に好ましい。平衡含水率が4%以下であれば、光学補償フィルムの支持体として用いる際に、レターデーションの湿度変化による依存性が大きくなりすぎることがなく好ましい。
含水率の測定法は、本発明のセルロースエステルフィルム試料7mm×35mmを水分測定器、試料乾燥装置“CA−03”及び“VA−05”{共に三菱化学(株)製}にてカールフィッシャー法で測定した。水分量(g)を試料質量(g)で除して算出した。
【0084】
(フィルムの透湿度)
フィルムの透湿度は、JIS Z−0208をもとに、60℃、95%RHの条件において測定される。
透湿度は、セルロースエステルフィルムの膜厚が厚ければ小さくなり、膜厚が薄ければ大きくなる。そこで膜厚の異なるサンプルでは、基準を80μmに設け換算する必要がある。膜厚の換算は、下記数式に従って行うことができる。
数式:80μm換算の透湿度=実測の透湿度×実測の膜厚(μm)/80(μm)。
【0085】
透湿度の測定法は、「高分子の物性II」(高分子実験講座4 共立出版)の285頁〜294頁「蒸気透過量の測定(質量法、温度計法、蒸気圧法、吸着量法)」に記載の方法を適用することができる。
【0086】
本発明のセルロースエステルフィルムの透湿度は、400〜2000g/m2・24hであることが好ましい。400〜1800g/m2・24hであることがより好ましく、400〜1600g/m2・24hであることが特に好ましい。透湿度が2000g/m2・24h以内であれば、上記フィルムを用いて作製した偏光板の経時による劣化が小さく好ましい。
【0087】
(フィルムの寸度変化)
本発明のセルロースエステルフィルムの寸度安定性は、60℃、90%RHの条件下に24時間静置した場合(高湿)の寸度変化率、及び90℃、5%RHの条件下に24時間静置した場合(高温)の寸度変化率が、いずれも0.5%以下であることが好ましい。より好ましくは0.3%以下であり、さらに好ましくは0.15%以下である。
【0088】
具体的な測定方法としては、セルロースエステルフィルム試料30mm×120mmを2枚用意し、25℃、60%RHで24時間調湿し、自動ピンゲージ{新東科学(株)製}にて、両端に6mmφの穴を100mmの間隔で開け、パンチ間隔の原寸(L0)とした。1枚の試料を60℃、90%RHにて24時間処理した後のパンチ間隔の寸法(L1)を測定、もう1枚の試料を90℃、5%RHにて24時間処理した後のパンチ間隔の寸法(L2)を測定した。全ての間隔の測定において最小目盛り1/1000mmまで測定し、下記数式(15)及び(16)に従って寸度変化率を求めた。
数式(15):60℃、90%RH(高湿)の寸度変化率={|L0−L1|/L0}×100、
数式(16):90℃、5%RH(高温)の寸度変化率={|L0−L2|/L0}×100。
【0089】
(フィルムの弾性率)
本発明のセルロースエステルフィルムの弾性率は、200〜500kgf/mm2であることが好ましい、より好ましくは240〜470kgf/mm2であり、さらに好ましくは270〜440kgf/mm2である。具体的な測定方法としては、東洋ボールドウィン(株)製万能引っ張り試験機“STM T50BP”を用い、23℃、70RH%雰囲気中、引張速度10%/分で0.5%伸びにおける応力を測定し、弾性率を求めた。
【0090】
(引裂き強度)
フィルムの引裂き強度は、JIS K−7128−2:1998の引裂き試験方法に基づく方法(エルメンドルフ引裂き法)により測定される。本発明のセルロースエステルフィルムの引裂き強度は、膜厚20〜80μmの範囲において2g以上であることが好ましい。より好ましくは、5〜25gであり、更には6〜25gである。また60μm換算では8g以上であることが好ましく、より好ましくは8〜15gである。具体的には、セルロースエステルフィルム試料片50mm×64mmを、25℃、65%RHの条件下に2時間調湿した後に、軽荷重引裂き強度試験機を用いて測定できる。
【0091】
(セルロースエステルフィルムの構成)
本発明のセルロースエステルフィルムは単層構造であっても複数層から構成されていても良いが、単層構造であることが好ましい。ここで、「単層構造」のフィルムとは、複数のフィルム材が貼り合わされているものではなく、一枚のセルロースエステルフィルムを意味する。そして、複数のセルロースエステル溶液から、逐次流延方式や共流延方式を用いて一枚のセルロースエステルフィルムを製造する場合も含む。
【0092】
この場合、添加剤の種類や配合量、セルロースエステルの分子量分布やセルロースエステルの種類等を適宜調整することによって厚み方向に分布を有するようなセルロースエステルフィルムを得ることができる。また、それらの一枚のフィルム中に光学異方性部、防眩部、ガスバリア部、耐湿性部などの各種機能性部を有するものも含む。
【0093】
(表面処理)
本発明のセルロースエステルフィルムには、適宜、表面処理を行なうことにより、各機能層(例えば、下塗層、バック層、光学異方性層)の接着を改善することが可能となる。前記表面処理には、グロー放電処理、紫外線照射処理、コロナ処理、火炎処理、鹸化処理(酸鹸化処理、アルカリ鹸化処理)が含まれ、特にグロー放電処理およびアルカリ鹸化処理が好ましい。
【0094】
ここでいう「グロー放電処理」とは、プラズマ励起性気体存在下でフィルム表面にプラズマ処理を施す処理である。これらの表面処理方法の詳細は、発明協会公開技報(公技番号2001−1745、2001年3月15日発行、発明協会)に記載があり、適宜、使用することができる。
【0095】
フィルム表面と機能層の接着性を改善するため、表面処理に加えて、或いは表面処理に代えて、本発明の透明セルロースエステルフィルム上に下塗層(接着層)を設けることもできる。前記下塗層については、発明協会公開技報(公技番号2001−1745、2001年3月15日発行、発明協会)32頁に記載があり、これらを適宜、使用することができる。また、セルロースエステルフィルム上に設けられる機能性層について、発明協会公開技報(公技番号2001−1745、2001年3月15日発行、発明協会)32頁〜45頁に記載があり、これに記載のものを適宜、本発明の透明セルロースエステルフィルム上に使用することができる。
【0096】
[位相差フィルム]
本発明のセルロースエステルフィルムは、位相差フィルムとして用いることができる。なお、「位相差フィルム」とは、一般に液晶表示装置等の表示装置に用いられ、光学異方性を有する光学材料のことを意味し、位相差板、光学補償フィルム、光学補償シートなどと同義である。液晶表示装置において、位相差フィルムは表示画面のコントラストを向上させたり、視野角特性や色味を改善したりする目的で用いられる。
本発明の透明セルロースエステルフィルムを用いることで、Re値およびRth値を自在に制御した位相差フィルムを容易に作製することができる。
【0097】
また、本発明のセルロースエステルフィルムを複数枚積層したり、本発明のセルロースエステルフィルムと本発明外のフィルムとを積層したりしてReやRthを適宜調整して位相差フィルムとして用いることもできる。フィルムの積層は、粘着剤や接着剤を用いて実施することができる。
【0098】
また、場合により、本発明のセルロースエステルフィルムを位相差フィルムの支持体として用い、その上に液晶等からなる光学異方性層を設けて位相差フィルムとして使用することもできる。本発明の位相差フィルムに適用される光学異方性層は、例えば、液晶性化合物を含有する組成物から形成してもよいし、複屈折を持つセルロースエステルフィルムから形成してもよいし、本発明のセルロースエステルフィルムから形成してもよい。
前記液晶性化合物としては、ディスコティック液晶性化合物または棒状液晶性化合物が好ましい。
【0099】
[ディスコティック液晶性化合物]
本発明において前記液晶性化合物として使用可能なディスコティック液晶性化合物の例には、様々な文献(例えば、C.Destrade et al.,Mol.Crysr.Liq.Cryst.,vol.71,page 111(1981);日本化学会編、季刊化学総説、No.22、液晶の化学、第5章、第10章第2節(1994);B.Kohne et al.,Angew.Chem.Soc.Chem.Comm.,page 1794(1985);J.Zhang et al.,J.Am.Chem.Soc.,vol.116,page 2655(1994))に記載の化合物が含まれる。
【0100】
前記光学異方性層において、ディスコティック液晶性分子は配向状態で固定されているのが好ましく、重合反応により固定されているのが最も好ましい。また、ディスコティック液晶性分子の重合については、特開平8−27284公報に記載がある。ディスコティック液晶性分子を重合により固定するためには、ディスコティック液晶性分子の円盤状コアに、置換基として重合性基を結合させる必要がある。ただし、円盤状コアに重合性基を直結させると、重合反応において配向状態を保つことが困難になる。そこで、円盤状コアと重合性基の間に、連結基を導入する。重合性基を有するディスコティック液晶性分子については、特開2001−4387号公報に開示されている。
【0101】
[棒状液晶性化合物]
本発明において前記液晶性化合物として使用可能な棒状液晶性化合物の例には、アゾメチン類、アゾキシ類、シアノビフェニル類、シアノフェニルエステル類、安息香酸エステル類、シクロヘキサンカルボン酸フェニルエステル類、シアノフェニルシクロヘキサン類、シアノ置換フェニルピリミジン類、アルコキシ置換フェニルピリミジン類、フェニルジオキサン類、トラン類およびアルケニルシクロヘキシルベンゾニトリル類が含まれる。また、前記棒状液晶性化合物としては、以上のような低分子液晶性化合物だけではなく、高分子液晶性化合物も用いることができる。
【0102】
前記光学異方性層において、棒状液晶性分子は配向状態で固定されているのが好ましく、重合反応により固定されているのが最も好ましい。本発明に使用可能な重合性棒状液晶性化合物の例は、例えば、Makromol.Chem.,190巻、2255頁(1989年)、Advanced Materials 5巻、107頁(1993年)、米国特許第4,683,327号明細書、同5,622,648号明細書、同5,770,107号明細書、国際公開第95/22586号パンフレット、同95/24455号パンフレット、同97/00600号パンフレット、同98/23580号パンフレット、同98/52905号パンフレット、特開平1−272551号公報、同6−16616号公報、同7−110469号公報、同11−80081号公報、および特開2001−328973号公報等に記載の化合物が含まれる。
【0103】
[偏光板]
本発明のセルロースエステルフィルムまたは位相差フィルムは、偏光板(本発明の偏光板)の保護フィルムとして用いることができる。本発明の偏光板は、偏光膜とその両面を保護する二枚の偏光板保護フィルム(透明フィルム)からなり、本発明のセルロースエステルフィルムまたは位相差フィルムは少なくとも一方の偏光板保護フィルムとして用いることができる。
本発明のセルロースエステルフィルムを前記偏光板保護フィルムとして用いる場合、本発明のセルロースエステルフィルムには前記表面処理(特開平6−94915号公報、同6−118232号公報にも記載)を施して親水化しておくことが好ましく、例えば、グロー放電処理、コロナ放電処理、または、アルカリ鹸化処理などを施すことが好ましい。特に、本発明のセルロースエステルフィルムを構成するセルロースエステルがセルロースアシレートの場合には、前記表面処理としてはアルカリ鹸化処理が最も好ましく用いられる。
【0104】
また、前記偏光膜としては、例えば、ポリビニルアルコールフィルムを沃素溶液中に浸漬して延伸したもの等を用いることができる。ポリビニルアルコールフィルムを沃素溶液中に浸漬して延伸した偏光膜を用いる場合、接着剤を用いて偏光膜の両面に本発明の透明セルロースエステルフィルムの表面処理面を直接貼り合わせることができる。本発明の製造方法においては、このように前記セルロースエステルフィルムが偏光膜と直接貼合されていることが好ましい。前記接着剤としては、ポリビニルアルコールまたはポリビニルアセタール(例えば、ポリビニルブチラール)の水溶液や、ビニル系ポリマー(例えば、ポリブチルアクリレート)のラテックスを用いることができる。特に好ましい接着剤は、完全鹸化ポリビニルアルコールの水溶液である。
【0105】
一般に液晶表示装置は二枚の偏光板の間に液晶セルが設けられるため、4枚の偏光板保護フィルムを有する。本発明のセルロースエステルフィルムは、4枚の偏光板保護フィルムのいずれに用いてもよいが、本発明のセルロースエステルフィルムは、液晶表示装置における偏光膜と液晶層(液晶セル)の間に配置される保護フィルムとして、特に有利に用いることができる。また、前記偏光膜を挟んで本発明のセルロースエステルフィルムの反対側に配置される保護フィルムには、透明ハードコート層、防眩層、反射防止層などを設けることができ、特に液晶表示装置の表示側最表面の偏光板保護フィルムとして好ましく用いられる。
【0106】
[液晶表示装置]
本発明のセルロースエステルフィルム、位相差フィルムおよび偏光板は、様々な表示モードの液晶表示装置に用いることができる。以下にこれらのフィルムが用いられる各液晶モードについて説明する。これらのモードのうち、本発明のセルロースエステルフィルム、位相差フィルムおよび偏光板は特にVAモードおよびIPSモードの液晶表示装置に好ましく用いられる。これらの液晶表示装置は、透過型、反射型および半透過型のいずれでもよい。
【0107】
(TN型液晶表示装置)
本発明のセルロースエステルフィルムは、TNモードの液晶セルを有するTN型液晶表示装置の位相差フィルムの支持体として用いてもよい。TNモードの液晶セルとTN型液晶表示装置とについては、古くからよく知られている。TN型液晶表示装置に用いる位相差フィルムについては、特開平3−9325号、特開平6−148429号、特開平8−50206号および特開平9−26572号の各公報の他、モリ(Mori)他の論文(Jpn.J.Appl.Phys.Vol.36(1997)p.143や、Jpn.J.Appl.Phys.Vol.36(1997)p.1068)に記載がある。
【0108】
(STN型液晶表示装置)
本発明のセルロースエステルフィルムは、STNモードの液晶セルを有するSTN型液晶表示装置の位相差フィルムの支持体として用いてもよい。一般的にSTN型液晶表示装置では、液晶セル中の棒状液晶性分子が90〜360度の範囲にねじられており、棒状液晶性分子の屈折率異方性(Δn)とセルギャップ(d)の積(Δnd)が300〜1500nmの範囲にある。STN型液晶表示装置に用いる位相差フィルムについては、特開2000−105316号公報に記載がある。
【0109】
(VA型液晶表示装置)
本発明のセルロースエステルフィルムは、VAモードの液晶セルを有するVA型液晶表示装置の位相差フィルムや位相差フィルムの支持体として特に有利に用いられる。VA型液晶表示装置は、例えば特開平10−123576号公報に記載されているような配向分割された方式であっても構わない。これらの態様において本発明のセルロースエステルフィルムを用いた偏光板は視野角拡大、コントラスの良化に寄与する。
【0110】
(IPS型液晶表示装置およびECB型液晶表示装置)
本発明のセルロースエステルフィルムは、IPSモードおよびECBモードの液晶セルを有するIPS型液晶表示装置およびECB型液晶表示装置の位相差フィルムや位相差フィルムの支持体、または偏光板の保護フィルムとして特に有利に用いられる。これらのモードは黒表示時に液晶材料が略平行に配向する態様であり、電圧無印加状態で液晶分子を基板面に対して平行配向させて、黒表示する。これらの態様において本発明のセルロースエステルフィルムを用いた偏光板は視野角拡大、コントラスの良化に寄与する。
【0111】
(OCB型液晶表示装置およびHAN型液晶表示装置)
本発明のセルロースエステルフィルムは、OCBモードの液晶セルを有するOCB型液晶表示装置或いはHANモードの液晶セルを有するHAN型液晶表示装置の位相差フィルムの支持体としても有利に用いられる。OCB型液晶表示装置或いはHAN型液晶表示装置に用いる位相差フィルムには、レターデーションの絶対値が最小となる方向が位相差フィルムの面内にも法線方向にも存在しないことが好ましい。OCB型液晶表示装置或いはHAN型液晶表示装置に用いる位相差フィルムの光学的性質も、光学的異方性層の光学的性質、支持体の光学的性質および光学的異方性層と支持体の配置により決定される。OCB型液晶表示装置或いはHAN型液晶表示装置に用いる位相差フィルムについては、特開平9−197397号公報に記載がある。また、モリ(Mori)他の論文(Jpn.J.Appl.Phys.Vol.38(1999)p.2837)に記載がある。
【0112】
(反射型液晶表示装置)
本発明のセルロースエステルフィルムは、TN型、STN型、HAN型、GH(Guest−Host)型の反射型液晶表示装置の位相差フィルムとしても有利に用いられる。これらの表示モードは古くからよく知られている。TN型反射型液晶表示装置については、特開平10−123478号、国際公開第98/48320号パンフレット、特許第3022477号公報に記載がある。反射型液晶表示装置に用いる位相差フィルムについては、国際公開第00/65384号パンフレットに記載がある。
【0113】
(その他の液晶表示装置)
本発明のセルロースエステルフィルムは、ASM(Axially Symmetric Aligned Microcell)モードの液晶セルを有するASM型液晶表示装置の位相差フィルムの支持体としても有利に用いられる。ASMモードの液晶セルは、セルの厚さが位置調整可能な樹脂スペーサーにより維持されているの特徴がある。その他の性質は、TNモードの液晶セルと同様である。ASMモードの液晶セルとASM型液晶表示装置とについては、クメ(Kume)他の論文(Kume et al.,SID 98 Digest 1089(1998))に記載がある。
【0114】
(ハードコートフィルム、防眩フィルム、反射防止フィルム)
本発明のセルロースエステルフィルムは、場合により、ハードコートフィルム、防眩フィルム、反射防止フィルムへ適用してもよい。LCD、PDP、CRT、EL等のフラットパネルディスプレイの視認性を向上する目的で、本発明の透明セルロースエステルフィルムの片面または両面にハードコート層、防眩層、反射防止層の何れか或いは全てを付与することができる。このような防眩フィルム、反射防止フィルムとしての望ましい実施態様は、発明協会公開技報(公技番号2001−1745、2001年3月15日発行、発明協会)54頁〜57頁に詳細に記載されており、本発明のセルロースエステルフィルムにおいても好ましく用いることができる
【実施例】
【0115】
以下、実施例に基づいて本発明を具体的に説明する。しかしながら、本発明は以下の実施例に限定されることはない。
【0116】
[実施例1]
セルロースエステルフィルム試料101の作製
下記組成物をミキシングタンクに投入し、攪拌して各成分を溶解し、更に90℃で約10分間加熱した後、平均孔径34μmのろ紙および平均孔径10μmの焼結金属フィルターでろ過した。
【0117】
(セルロースアシレート溶液A−1)
セルロースアシレート 100.0質量部
(アセチル置換度2.86、平均重合度310)
前記重縮合体P−1 12.0質量部
メチレンクロライド 403.0質量部
メタノール 60.2質量部
【0118】
次に上記方法で作製したセルロースアシレート溶液A−1を含む下記組成物を分散機に投入し、マット剤分散液B−1を調製した。
【0119】
(マット剤分散液B−1)
平均粒径16nmのシリカ粒子
(AEROSIL R972 日本アエロジル(株)製 2.0質量部
メチレンクロライド 72.4質量部
メタノール 10.8質量部
セルロースアシレート溶液A−1 10.3質量部
【0120】
次に上記方法で作製したセルロースアシレート溶液A−1を含む下記組成物をミキシングタンクに投入し、加熱しながら攪拌して溶解し、レターデーション発現剤溶液C−1を調製した。
【0121】
(レターデーション発現剤溶液C−1)
下記例示化合物A 15.0質量部
下記例示化合物B 5.0質量部
メチレンクロライド 63.5質量部
メタノール 9.5質量部
セルロースアシレート溶液A−1 14.0質量部
【0122】
【化1】

【0123】
上記セルロースアシレート溶液A−1を100質量部、マット剤分散液B−1を1.35質量部、更にセルロースアシレートフィルム中のレターデーション発現剤がセルロースアシレート100質量部当たり、例示化合物Aが3.0質量部、例示化合物Bが2.0質量部となる量のレターデーション発現剤溶液C−1を混合し、製膜用ドープ(1)を調製した。
【0124】
(流延・延伸工程)
支持体として長さが100mのステンレス製のエンドレスバンドを利用した。前記流延ダイ及び支持体などが設けられている流延室の温度は、35℃に保った。製膜用ドープ(1)中の溶剤比率が乾量基準で45質量%になった時点で流延支持体からフィルムとして剥離した。この時の剥離テンションは8kgf/mであり、支持体速度に対して剥ぎ取り速度(剥取りロールドロー)は100.1%〜110%の範囲で適切に剥ぎ取れるように設定した。剥ぎ取られたフィルムは、クリップを有したテンターで両端を固定しながらテンターの乾燥ゾーン内を搬送し、テンター内を3ゾーンに分け、それぞれのゾーンの乾燥風温度を上流側から90℃、100℃、110℃とし、残留溶剤量が1%未満のセルロースアシレートフィルムを製造した。
【0125】
支持体上に形成されたフィルム中の残留溶剤量は次式で表される。
残留溶剤量=(残存揮発分質量/加熱処理後フィルム質量)×100%
尚、残存揮発分質量はフィルムを115℃で1時間加熱処理したとき、加熱処理前のフィルム質量から加熱処理後のフィルム質量を引いた値である。
次に、得られたフィルムを170℃の条件でテンターを用いて33%の延伸倍率まで、30%/分の延伸速度で搬送方向に対して垂直な方向(幅方向)に延伸した。出来上がったセルロースアシレートフィルムの膜厚は40μmであった。このフィルムをセルロースエステルフィルム試料101とした。
【0126】
セルロースエステルフィルム試料102の作製
下記の材料を、順次密閉容器中に投入し、容器内温度を15℃から75℃まで昇温した後、温度を75℃に保ったままで4時間攪拌を行って、セルロースエステルを完全に溶解した。その後、攪拌を停止し、液温を45℃まで下げた。このセルロースエステル溶液を濾紙(安積濾紙株式会社製、安積濾紙No.244)を使用して2回濾過しセルロースエステル溶液A−2を得た。尚、酸化ケイ素微粒子は添加する溶媒及び樹脂の一部で分散して添加した。
【0127】
(セルロースエステル溶液A−2)
セルロースエステル
(セルロースアセテートプロピオネート;アセチル基置換度1.7、プロピオニル基置換度0.9、Mw/Mn2.2)
前記重縮合体P−1
下記例示化合物C
“AEROSIL R972”、日本アエロジル(株)製
溶剤(メチレンクロライド 400質量部、エタノール 75質量部)
このとき、添加剤(例示化合物C、重縮合体P−1)は表3に示す組成となるように、AEROSIL R972はセルロースエステル100質量部あたり0.2質量部となるように調整した。
【0128】
【化2】

【0129】
【表2】

【0130】
次に、33℃に温度調整したセルロースエステル溶液A−2を、ダイに送液して、ダイスリットからステンレスベルト上に均一に流延した。ステンレスベルトの流延部は裏面から37℃の温水で加熱した。流延後、金属支持体上のドープ膜(ステンレスベルトに流延以降はウェブということにする)に44℃の温風を当てて乾燥させ、剥離の際の残留溶媒量が80質量%で剥離し、剥離の際の張力をかけて所定の縦延伸倍率となるように延伸し、次いで、テンターでウェブ端部を把持し、幅手方向に表に示した延伸倍率となるように延伸した。延伸後、その幅を維持したまま数秒間保持した後、幅方向の張力を緩和させた後、幅保持を解放し、更に110℃に設定された第3乾燥ゾーンで20分間搬送させて、乾燥を行い、幅1.5mでかつ端部に幅1.5cm、高さ8μmのナーリングを有する膜厚40μmのセルロースエステルフィルム試料102を作製した。
【0131】
試料102において添加剤(重縮合体または2つ以上芳香環を有する化合物)を下記表3に示したように変更した以外は同様にしてセルロースエステルフィルム103〜113を作製した。
【0132】
[重縮合体またはエステルの加熱減量]
使用した重縮合体の加熱減量を熱天秤法で測定した。140℃、60分間加熱したときの質量減少率を重縮合体の加熱減量として表3に示す。値が大きいとセルロースアシレートウェブの乾燥時に重縮合体が揮散し、製造装置に付着してフィルムを汚し、面状故障の原因となる場合がある。
【0133】
[面状故障]
得られたセルロースエステルフィルム試料をロール状に巻き取り、この元巻きから100mm×100mmのサイズを裁断し、偏光顕微鏡を用いてクロスニコル下で倍率30倍で観察し、異物発生箇所の個数で下記の評価を行った。ここで異物とはブリードアウト成分、表面の汚れ、あるいはフィルム内部または表面の析出物により、偏光顕微鏡下で輝点として観察される。
◎:異物の個数0〜4個
○:異物の個数5〜10個
△:異物の個数11〜50個
×:異物の個数51個以上
【0134】
[レターデーションの測定]
Re、及びRthは前記方法により自動複屈折率計(KOBRA−21ADH、王子計測機器(株)製)を用い、測定波長590nm、25℃60%RHで測定した。
【0135】
【表3】

【0136】
【化3】

【0137】
ジカルボン酸が脂肪族ジカルボン酸のみからなる重縮合体では、Re・Rthが小さく(試料112)、一般式(I)で表される重縮合体のみでRe・Rthを向上できるが不十分である(試料104)。一般式(I)で表される重縮合体と少なくとも2つ芳香環を有する化合物を併用するとRe・Rthがさらに向上し、Re・Rthを大きな値に調整することが可能である。少なくとも2つ芳香環を有する化合物は単独で増量(セルロースエステル100質量部に対し、10質量部以上)するとブリードアウトを起こす場合がある(試料113)。
また、ジオールの平均炭素数が3を超える場合(試料111)や、重縮合体の末端が芳香族カルボン酸エステルである場合、重縮合体に含有される低分子成分がフィルム製造の各過程で揮発し、装置への付着を通じて、フィルムを汚してしまい面状故障を起こしやすい。
一般式(I)で表される重縮合体と2つ以上芳香環を有する化合物を用いれば、面状故障による得率を損なうことなく、高いRe、Rth有し位相差フィルムに好適なセルロースアセテートフィルムを得ることができる。
【0138】
〔実施例2〕
下記の偏光板保護フィルムを作製し、これを用いて偏光板を作成し、偏光板の性能試験を行った。
【0139】
セルロースエステルフィルム試料201の作製
[セルロースアシレート溶液A−3の調製]
下記の組成物をミキシングタンクに投入し、加熱しながら攪拌して、各成分を溶解し、セルロースアシレート溶液A−3を調製した。
【0140】
{セルロースアシレート溶液A−3組成}
セルロースアシレート 100質量部
(アセチル置換度2.86、平均重合度310)
前記重縮合体P−1 12質量部
メチレンクロライド 384質量部
メタノール 69質量部
ブタノール 9質量部
【0141】
[マット剤分散液B−2の調製]
下記の組成物を分散機に投入し、攪拌して各成分を溶解し、マット剤溶液B−2を調製した。
【0142】
{マット剤分散液B−2組成}
シリカ粒子分散液(平均粒径16nm) 10.0質量部
“AEROSIL R972”、日本アエロジル(株)製
メチレンクロライド 72.8質量部
メタノール 3.9質量部
ブタノール 0.5質量部
セルロースアシレート溶液A−3 10.3質量部
【0143】
[紫外線吸収剤溶液C−2の調製]
下記の組成物を別のミキシングタンクに投入し、加熱しながら攪拌して、各成分を溶解し、紫外線吸収剤溶液C−2を調製した。
【0144】
(紫外線吸収剤溶液C−2組成)
紫外線吸収剤(UV−1) 10.0質量部
紫外線吸収剤(UV−2) 10.0質量部
メチレンクロライド 55.7質量部
メタノール 10質量部
ブタノール 1.3質量部
セルロースアシレート溶液A−3 12.9質量部
【0145】
【化4】

【0146】
セルロースアシレート溶液A−3を94.6質量部、マット剤分散液B−2を1.3質量部、セルロースアシレート100質量部当たり、紫外線吸収剤(UV−1)及び紫外線吸収剤(UV−2)がそれぞれ1.0質量部、重縮合体P−1が12質量部となるように、加熱しながら充分に攪拌して各成分を溶解し、ドープ(2)を調製した。得られたドープ(2)を30℃に加温し、流延ギーサーを通して直径3mのドラムである鏡面ステンレス支持体上に流延した。支持体の表面温度は−5℃に設定し、塗布幅は1470mmとした。流延部全体の空間温度は、15℃に設定した。そして、流延部の終点部から50cm手前で、流延して回転してきたセルロースエステルフィルムをドラムから剥ぎ取った後、両端をピンテンターでクリップした。剥ぎ取り直後のセルロースアシレートウェブの残留溶媒量は70%およびセルロースアシレートウェブの膜面温度は5℃であった。
【0147】
ピンテンターで保持されたセルロースアシレートウェブは、乾燥ゾーンに搬送した。初めの乾燥では45℃の乾燥風を送風した。次に110℃で5分、さらに140℃で10分乾燥し、巻き取り直前に両端(全幅の各5%)を耳切りした後、両端に幅10mm、高さ50μmの厚みだし加工(ナーリング)をつけた後、3000mのロール状に巻き取った。このようにして得た透明フィルムの幅は各水準とも1.45mであり、厚み60μmのセルロースアシレートフィルム試料201を作製した。
【0148】
セルロースエステルフィルム試料202〜205の作製
セルロースエステルフィルム試料201の作製において重縮合体P−1を用いる代わりに、表4に示す組成となるように前記表1及び表2の重縮合体を使用してドープを調整し、セルロースアシレートフィルム試料202〜205を作製した。
【0149】
【表4】

【0150】
[面状故障]
実施例1と同様に評価した。
【0151】
[偏光板性能]
1)フィルムのケン化
得られたフィルムを、55℃に保った1.5mol/LのNaOH水溶液(ケン化液)に2分間浸漬した後、フィルムを水洗し、その後、25℃の0.05mol/Lの硫酸水溶液に30秒浸漬した後、さらに水洗浴を30秒流水下で通して、フィルムを中性にした状態にした。そして、エアナイフによる水切りを3回繰り返し、水を落とした後に70℃の乾燥ゾーンに15秒間滞留させて乾燥し、ケン化処理したフィルムを作製した。
【0152】
2)偏光膜の作製
特開2001−141926号公報の実施例1に従い、延伸したポリビニルアルコールフィルムにヨウ素を吸着させて厚み20μmの偏光膜を作製した。
3)貼り合わせ
ポリビニルアルコール系接着剤を用いて、偏光膜の片側に実施例1のセルロースエステルフィルム試料105、もう一方に作製したセルロースエステルフィルム試料201を貼り付け、70℃で10分以上乾燥した。得られた偏光板を偏光板201とした。同様にしてセルロースエステルフィルム試料202〜205を用いて、偏光板202〜205を作製した。
【0153】
4)偏光板の評価
前記偏光板のセルロースエステルフィルム105側を粘着剤でガラス板に貼り合わせたサンプルを二組作製し、これをクロスニコルに配置して透過率を測定した(初期透過率、25℃60%RHにて測定)。さらに上記サンプルを60℃相対湿度90%の条件で1000時間放置し、その後さらに、25℃60%RHで5時間以上放置した後、再度クロスニコルに配置して透過率を測定した(経時透過率)。初期透過率と経時透過率の波長400nm〜700nmの範囲での最大変化幅に100を乗じた値を偏光板経時変化の指標とした。
透過率測定には分光光度計“U−3210”{(株)日立製作所}を用いた。結果を表4に示す。
【0154】
偏光板経時変化が小さいことを優先して、総合評価を示した。◎:非常に良好、○:良好、△:やや劣る、×:劣る。
【0155】
液晶セルとは反対側に使用される偏光板保護フィルムには、偏光子を光照射による劣化から防ぐために紫外線吸収機能が必要であり、市販の低分子紫外線吸収剤が用いられている。
実施例1で示したように、加熱減量はジカルボン酸が脂肪族ジカルボン酸である重縮合体においても十分小さく、含有成分に由来する面状故障は少ない。しかし、一般的に用いられている低分子の紫外線吸収剤と併用した場合、紫外線吸収剤の揮発が促進され、面状故障が起こる場合があった。また、該脂肪族ジカルボン酸からなる重縮合体は偏光板として液晶セルとは反対側(本実施例ではガラス板に貼り付けられていない側)に用いると、経時変化が極めて不十分であることが分かった。
本発明のジカルボン酸が芳香族ジカルボン酸からなる重縮合体を用いれば、紫外線吸収機能と偏光板の経時性能、及び面状故障の低減を達成できる。
【0156】
[実施例3]
(VAモード液晶表示装置への実装実験)
セルロースエステルフィルム試料105とセルロースエステルフィルム試料203からなる実施例2で作製した偏光板203を、偏光膜の透過軸と上記のように作製した位相差フィルムの遅相軸とが平行になるように配置した。偏光膜の透過軸と偏光板保護フィルムの遅相軸とは直交するように配置した。
【0157】
(液晶セルの作製)
液晶セルは、基板間のセルギャップを3.6μmとし、負の誘電率異方性を有する液晶材料(「MLC6608」、メルク社製)を基板間に滴下注入して封入し、基板間に液晶層を形成して作製した。液晶層のレターデーション(即ち、液晶層の厚さd(μm)と屈折率異方性Δnとの積Δn・d)を300nmとした。なお、液晶材料は垂直配向するように配向させた。
【0158】
(VAパネルへの実装)
上記の垂直配向型液晶セルを使用した液晶表示装置の上側偏光板と、下側偏光板(バックライト側)に上記位相差フィルム105を備えた偏光板203を2枚用いて、位相差フィルム105が液晶セル側となるように設置した。上側偏光板および下側偏光板は粘着剤を介して液晶セルに貼りつけた。上側偏光板の透過軸が上下方向に、そして下側偏光板の透過軸が左右方向になるように、クロスニコル配置とした。
液晶セルに55Hzの矩形波電圧を印加した。白表示5V、黒表示0Vのノーマリーブラックモードとした。黒表示の方位角45度、極角60度方向視野角における黒表示透過率(%)及び、方位角45度極角60度と方位角180度極角60度との色ずれを求めた。
また、透過率の比(白表示/黒表示)をコントラスト比として、測定機(EZ−Contrast160D、ELDIM社製)を用いて、黒表示(L1)から白表示(L8)までの8段階で視野角(コントラスト比が10以上で黒側の階調反転のない極角範囲)を測定した。
作製した液晶表示装置を観察した結果、本発明のフィルムを用いた液晶パネルは正面方向および視野角方向のいずれにおいても、ニュートラルな黒表示が実現できていた。
また、視野角(コントラスト比が10以上で黒側の階調反転のない極角範囲)は上下左右で極角80°以上であり、黒表示時の色ずれも0.02未満であり良好な結果を得た。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(I)で表される重量平均分子量700以上1500以下の重縮合体を少なくとも一種と、少なくとも2つの芳香環を有する化合物とを含有するセルロースエステルフィルム。
一般式(I) M−(G−A)−G−M
(一般式(I)中、Aは芳香族ジカルボン酸に由来する基を表し、Gは炭素数の平均が2.0〜3.0の脂肪族ジオールに由来する基を表し、Mは脂肪族モノカルボン酸残基を表し、同一でも異なっていても良い。nは1以上の整数を表す。)
【請求項2】
前記一般式(I)におけるMのうち少なくとも1つが、酢酸エステル残基である請求項1に記載のセルロースエステルフィルム。
【請求項3】
前記セルロースエステルフィルムが、アシル置換度が2.00〜2.95であるセルロースアシレートを含む請求項1または2に記載のセルロースエステルフィルム。
【請求項4】
前記セルロースエステルフィルムが、アシル基の総置換度が2.10〜2.90であり、かつプロピオニル基の置換度が0.5〜1.5であるセルロースアセテートプロピオネートを含む請求項1または2に記載のセルロースエステルフィルム。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれかに記載のセルロースエステルフィルムを延伸して得られるフィルムであって、該延伸倍率が、搬送方向に対して垂直な方向(幅方向)に5%以上100%以下であるセルロースエステルフィルム。
【請求項6】
偏光子の両側に保護フィルムが貼り合わされた偏光板であって、該保護フィルムの少なくとも1枚が請求項1〜5のいずれかに記載のセルロースエステルフィルムである偏光板。
【請求項7】
液晶セル及び該液晶セルの両側に配置された2枚の偏光板を有する液晶表示装置であって、少なくとも1枚の偏光板が請求項6に記載の偏光板である液晶表示装置。
【請求項8】
前記液晶セルが、垂直配向モードの液晶セルである請求項7に記載の液晶表示装置。

【公開番号】特開2010−31132(P2010−31132A)
【公開日】平成22年2月12日(2010.2.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−194185(P2008−194185)
【出願日】平成20年7月28日(2008.7.28)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【Fターム(参考)】