説明

セルロースエステル微細多孔質膜の製造方法および製造装置

【課題】省スペースで製造することが可能であり、面状欠点の少ない核酸の分離精製に適した孔径に製造することができる微細多孔質膜の製造方法及び装置を提供する。
【解決手段】水平方向に走行する帯状基材1に、水と水よりも低沸点な溶剤とアセチルセルロースとを少なくとも含有する製膜原液を流延して前記帯状基材1上に流延膜を形成する流延工程と、該流延膜を乾燥する乾燥工程と、を有するセルロースエステル微細多孔質膜の製造方法において、前記乾燥工程のうち、前記帯状基材1に流延膜を形成した直後から15分以内の初期乾燥においては、前記流延膜を無風状態で20〜40℃の雰囲気温度で乾燥する無風乾燥工程を行うことを特徴とするセルロースエステル微細多孔質膜の製造方法である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、セルロースエステル微細多孔質膜の製造方法および製造装置に関し、特に、核酸の分離精製のために用いることができるセルロースエステル微細多孔質膜の製造方法および装置に関する。
【背景技術】
【0002】
セルロースアセテート微細多孔質膜は、古くから製品化されており、ろ過用フィルタとして広く使用されている。そして、その製造方法として、様々な提案がなされている。
【0003】
ところで、周知のように、核酸は様々な分野で種々の形態で使用されている。例えば、組換え核酸技術の分野においては、核酸をプローブやゲノム核酸、プラスミド核酸の形状で用いることが要求されている。
【0004】
核酸は、診断分野においても種々の方法で用いられており、例えば、核酸プローブは、ヒトの病原体の検出および診断のために広く用いられている。また、核酸は、遺伝障害の検出や、食品汚染物質の検出にも用いられている。さらに、核酸は、遺伝地図の作製やクローニング、遺伝子組換えによる形質発現におよぶ種々の目的のために、所定の核酸に関する位置確認や同定、単離において日常的に用いられている。
【0005】
しかし、多くの場合、核酸は極めて少量でしか入手することができず、そして、その単離と精製との操作が、煩雑であり多くの時間を要する。この時間を要する煩雑な工程は、核酸の損失に結びつきやすいという問題がある。また、例えば、血清、尿およびバクテリアのカルチャーから得られた試料における核酸の精製においては、コンタミネーションが発生するなど、疑陽性の結果を招くという問題も加わる。
【0006】
上記問題を解決し、簡便かつ効率よく核酸を分離精製する方法の一つとして、セルロースのような、表面に水酸基を有する有機高分子により構成される多孔質膜に核酸を吸着、ならびに脱着させる方法が、提案されている(例えば、特許文献1参照。)。また、このようなセルロース膜の製造方法としては、例えば、図5に示す流延バンドを用いた製造装置を挙げることができる。図5は従来の多孔質膜の製造装置200の概略図である。図5に示すように、従来の多孔質膜の製造装置200においては、流延工程、および乾燥工程の初期段階において、流延バンドを用いて製造している。そして、この流延バンド211は、バンド長が約28mあり、乾燥工程の初期段階で、約14mのスペースが必要であり、さらに、熱風による乾燥工程、けん化工程、が行われるため、装置全体として広いスペースが必要であった。
【特許文献1】特開2003−128691号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、従来の製造方法は、流延バンドを用いて製造しているため、製造装置に広大なスペースが必要であった。また、多孔質膜の孔径をコントロールできる製造方法も望まれていた。さらに、セルロース多孔質膜の面状欠点が多いと、核酸の分離・精製に用いるためのカートリッジの生産性が悪いという問題があった。
【0008】
本発明はこのような課題に鑑みてなされたものであり、省スペースおよび核酸の分離精製に適した孔径に製造することができ、面状欠点の少ない微細多孔質膜の製造方法および装置を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の請求項1は前記目的を達成するために、水平方向に走行する帯状基材に、水と水よりも低沸点な溶剤とアセチルセルロースとを少なくとも含有する製膜原液を流延して前記帯状基材上に流延膜を形成する流延工程と、該流延膜を乾燥する乾燥工程と、を有するセルロースエステル微細多孔質膜の製造方法において、前記乾燥工程のうち、前記帯状基材に流延膜を形成した直後から15分以内の初期乾燥においては、前記流延膜を無風状態で20〜40℃の雰囲気温度で乾燥する無風乾燥工程を行うことを特徴とするセルロースエステル微細多孔質膜の製造方法を提供する。
【0010】
請求項1によれば、流延工程において、従来のように流延バンドを使用せずに、水平方向に走行する帯状基材に製膜原液を流延するようにしたので、流延バンドを使用した従来に比べて装置の占めるスペースが少ない省スペースな製造方法を構成することができる。
【0011】
また、流延工程直後の流延膜は、流動性を有しており、風が当たると流延膜の面状が悪くなるだけでなく、形成される微細孔の径も変動し易くなる。本発明によれば、無風乾燥工程で流延膜を無風状態で乾燥するようにしたので、流延膜の面状を良好に維持できるとともに、形成された微細孔の孔径も変動しない。そして、流延膜の流動性がほとんどなくなったところで最後に熱風乾燥工程で、流延膜中に残存する溶剤および水を完全に飛ばすことにより、乾燥を行うことができる。
【0012】
無風乾燥工程は、流延膜を20〜40℃のマイルドな乾燥温度条件でゆっくりと溶剤を蒸発させている。したがって、流延膜の面状を維持することができ、形成された微細孔の孔径も変動しにくい。
【0013】
請求項2は請求項1において、前記無風乾燥工程を、ISO 14644に規定されるクラス7以上の清浄度を有するクリーンルーム内で行うことを特徴とする。
【0014】
請求項2によれば、無風乾燥工程をISO 14644に規定されるクラス7以上の清浄度を有するクリーンルーム内で行うため、多孔質膜上に塵埃が付着することを防止することができ、面状欠点の少ない微細多孔質膜を製造することができる。
【0015】
請求項3は請求項1または2において、前記帯状基材がポリエステルフィルムであることを特徴とする。
【0016】
ポリエステルフィルムは、加工性および機械特性に優れるため、帯状基材の材料として、好適に用いることができる。
【0017】
請求項4は請求項1から3に記載のセルロースエステル微細多孔質膜の製造方法により製造されたセルロースエステル微細多孔質膜を用いた核酸吸着用の濾過フィルタを提供する。
【0018】
本発明の製造方法により、製造されたセルロースエステル微細多孔質膜は核酸吸着用の濾過フィルタとして好適に用いることができるからである。
【0019】
請求項5は上記目的を達成するために、水平方向に走行する帯状基材に、水と水よりも低沸点な溶剤とアセチルセルロースとを少なくとも含有する製膜原液を流延して前記帯状基材上に流延膜を形成する流延手段と、該流延膜を乾燥する乾燥手段と、を備えるセルロースエステル微細多孔質膜の製造装置において、前記乾燥手段は、前記帯状基材に流延膜を形成した直後から15分以内の初期乾燥において、前記流延膜を20〜40℃の雰囲気温度および無風状態で乾燥する無風乾燥ゾーンを備えることを特徴とするセルロースエステル微細多孔質膜の製造装置を提供する。
【0020】
請求項6は請求項5において、前記無風乾燥手段が,ISO 14644に規定されるクラス7以上の清浄度を有するクリーンルーム内に備えられていることを特徴とする。
【0021】
請求項5および6は、製造方法の発明を製造装置として展開したものである。本発明の製造装置によれば、製造方法と同様の効果をえることができる。
【発明の効果】
【0022】
本発明の製造方法によれば、流延工程直後の乾燥工程を無風状態で行っているため、流延膜の面状を良好に保つことができ、形成された微細孔の孔径を変動させることなく乾燥することができる。したがって、核酸の分離・精製のために適切な孔径で、面状も良好な微細多孔質膜を形成することができる。また、流延バンドを用いることなく、微細多孔質膜を製造することができるので、省スペースで製造することが可能であり、製造装置のコストを下げることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
以下、添付図面により本発明のセルロースエステル微細多孔質膜の製造方法および装置の好ましい実施の形態について詳説する。
【0024】
[セルロースエステル微細多孔質膜の製造装置の全体構成]
図1は、本発明のセルロースエステル微細多孔質膜の製造装置100の概略図である。図1に示すように、本発明のセルロースエステル微細多孔質膜の製造装置100は、帯状基材1を送り出す送り出し機10、走行する帯状基材1に製膜原液を流延する流延手段20、流延した流延膜を乾燥し流延膜中の溶媒を蒸発させることにより、微細孔を形成する乾燥ゾーン30、および微細孔が形成されたセルロースエステル微細多孔質膜を巻き取る巻き取り機40とで構成されている。
【0025】
[送り出し機]
送り出し機10は、帯状基材1を送り出す装置である。帯状基材1の搬送速度は、0.4m/分以上0.6m/分以下であることが好ましく、より好ましくは0.5m/分である。搬送速度を上記範囲とすることにより、搬送による風の影響を受けることなく、微細多孔質膜を製造することができる。
【0026】
[流延手段]
流延手段20は、送り出し機10から送り出された帯状基材1に、アセチルセルロースを原料とする製膜原液を流延する装置である。流延手段としては、特に限定されず、流延ダイなどを用いることができる。また、本発明に用いられる流延手段は、吐出口が重力方向に向いており、帯状基材に対して垂直に流延することが好ましい。後述するように、本発明の製造方法に用いられる製膜原液は、固形分濃度を4〜10質量%とすることが好ましいため、溶媒量の多い溶液である。したがって、帯状基材を水平とすることにより、液垂れを防止することができる。
【0027】
[乾燥手段]
乾燥手段30は、流延手段20により帯状基材1に流延された製膜原液を乾燥し、溶媒を蒸発させ、製膜原液を乾燥するとともに、微細孔を形成する手段である。乾燥手段30は、孔径決定工程を行う孔径決定ゾーン31、無風乾燥工程を行う無風乾燥ゾーン32、および熱風乾燥工程を行う第一乾燥ゾーン33、第二乾燥ゾーン34から構成される。
【0028】
≪孔径決定ゾーン≫
本発明の製造装置は流延工程直後において、帯状基材の裏面を保温する保温手段60を備える孔径決定ゾーン31を有することが好ましい。この孔径決定ゾーン31の温度条件を設定することにより、微細孔の孔径を決定することができる。温度の範囲としては、帯状基材1の表面温度を、流延膜のゲル化温度を超えて発泡温度未満とすることが好ましい。具体的には、20℃以上30℃以下であることが好ましい。より好ましくは、20℃以上25℃以下である。帯状基材1の表面温度が流延膜のゲル化温度より低いと、流延膜のゲル化が急速に進むために流延膜に形成される孔の径が成長しないため、核酸の分離精製のための適切な孔径を形成できない。また、発泡温度以上とすると溶剤や水が急速に蒸発するため、適切な孔径を形成できない。
【0029】
また、孔径決定ゾーン31は、流延手段20による流延直後から40秒以下の範囲であることが好ましく、より好ましくは流延直後から30秒以下である。孔径決定ゾーン31が40秒より長いと、流延膜がゲル化し、孔径がつぶれるため好ましくない。
【0030】
図1においては、孔径決定ゾーン31と無風乾燥ゾーン32は異なるゾーンとして構成されているが、無風乾燥ゾーン32の初期段階において孔径決定ゾーンを備える構成とすることが好ましい。孔径決定ゾーン31を無風で行うことにより、安定して孔径を形成することができる。
【0031】
[保温手段]
図2および3に帯状基材1の裏面を保温する保温手段の例を示す。図2は、保温手段として温水プレート61を用いた流延手段の側面図、図3は、エンドレス支持体62を用いた側面図を示す。また、図4は、温水プレート61の斜視図を示す。
【0032】
保温手段60の第一実施形態として、図2に示すように、流延直後の帯状基材1の裏面に温水プレート61を設置し、保温を行う手段が挙げられる。この温水プレート61は図4に示すように、温水プレート61内部に温水を循環させることにより、プレートを温め、帯状基材1を保温する。温水プレート61の大きさは、特に限定されないが、帯状基材1が一定温度で保温できるとともに、帯状基材1が振動しない程度に平面性を有していることが好ましい。そのため、温水プレート61表面に鏡面仕上げを施すことが好ましい。鏡面仕上げを施すことにより、帯状基材裏面と温水プレートとの接触による、振動を抑制することができ、帯状基材上に均一に製膜原液を流延することができる。
【0033】
図3は、保温手段の別の実施形態として、保温手段として金属製バンドを用いたエンドレス支持体62を示す。この態様においては、エンドレス支持体62を搬送するために、保温ドラム63を用いる。これにより、保温ドラム63に温水を通し、金属性バンド、帯状基材1を20〜30℃に保温することができる。金属性バンドの大きさは、温水プレート61と同様に、帯状基材1を保温でき、流延時に発生する振動をおさえることができれば特に限定されず用いることができる。好ましくは、金属性バンドの長さが40〜60cmの範囲である。
【0034】
≪無風乾燥ゾーン≫
無風乾燥ゾーン32は、流延直後または孔径決定ゾーンを通過した帯状基材1を無風状態で乾燥する区間である。本発明において、製膜原液は、固形分濃度が少ないため、乾燥の初期段階においては、液体を多く含んでいる。したがって、この段階で乾燥風を供給することにより、流延後に形成された微細孔を塞いでしまう可能性がある。また、乾燥風の影響により、流延膜の表面に乾燥ムラが発生する可能性がある。したがって、初期乾燥を無風で行うことにより、流延膜の面状を良好に維持できるとともに、形成された微細孔の孔径を変動させることなく、乾燥することができる。
【0035】
なお、本発明において、「無風乾燥ゾーン」とは、乾燥風を供給しないゾーンのことをいう。流延および乾燥時にはラインが動いているために帯状基材に同伴する風が進行方向に発生するが、乾燥風を供給していなければ、その乾燥ゾーンは、本発明において「無風乾燥ゾーン」と称する。この無風乾燥ゾーンの風速をライン停止時に風速計で測定すると0.1m/s以下の風速が検知されることがあるが、風速が検知されても本発明では「無風乾燥ゾーン」と称することとする。
【0036】
無風乾燥ゾーン32は、温度20〜40℃の範囲で乾燥することが好ましく、より好ましく20〜30℃である。上記範囲内で乾燥を行うことにより、流延膜のゲル化、発泡による細孔の形成を防止することができる。
【0037】
また、無風乾燥ゾーン32は、ISO(The International Organization for Standard)が規定する14644規格において、ISO7またはそれ以上の清浄度を示すクリーンルームとされている。これにより、得られるセルロースエステル微細多孔質膜への汚染物の付着を防止することができるので、この微細多孔質膜を核酸分離抽出用のフィルタとして用いると、核酸精製時のコンタミネーションを防止し、核酸をより高い得率で得ることができる。
【0038】
無風乾燥ゾーン32と次工程の第一乾燥ゾーン33との切り替えは、例えば、蒸発するガスのガス濃度により判断することができる。本発明の製造方法に用いられる製膜原液の溶媒は、アセチルセルロースに対して溶解度の大きい良溶媒と、溶解度の小さい貧溶媒の2種類の溶媒を用いて製造される。無風乾燥ゾーンにおいて乾燥を開始すると、まず、沸点に関わらず、良溶媒に比べ貧溶媒が多く蒸発し始める。そして、乾燥が進むにつれて、蒸発するガス濃度中に、良溶媒が多く蒸発し始める。これ以降を第一乾燥ゾーンとすることが好ましい。無風乾燥ゾーン32の長さとしては、2〜10mであることが好ましく、より好ましくは、3〜5mである。また、流延直後から15分以内とすることが好ましい。
【0039】
≪第一乾燥ゾーン≫
無風乾燥ゾーン32の通過後は、第一乾燥ゾーン33および第二乾燥ゾーン34において乾燥風を供給し、微細孔多孔質膜の乾燥を行う。無風乾燥ゾーン32では、乾燥ゾーン内の温度も低く、面状維持を目的としているため、無風乾燥ゾーン32を通過した帯状基材の流延膜は、まだ流動性を有している。したがって、第一乾燥ゾーン33においては、乾燥風を供給し、流動性がなくなるまで流延膜の乾燥を行うことを目的とする。
【0040】
第一乾燥ゾーン33には、ガイドローラ70が設けられており、第一乾燥ゾーン33内にて、帯状基材の裏面側(流延膜が形成されていない側)がガイドローラ70によって直接接触して、ガイドされて搬送される。なお、ガイドローラ70の個数および配置は、図1に限定されるものではなく、製造方法または、製造設備により、適宜変更が可能である。
【0041】
また、乾燥風を供給する乾燥風供給手段80および排気口81を備える。第一乾燥ゾーン33においては、流延膜の面状が安定しているため、乾燥風を供給することにより、乾燥速度を速めることができる。乾燥風の風速としては、1m/s以上10m/s以下であることが好ましい。より好ましくは2m/s以上4m/s以下である。乾燥風の速度が、1m/sより遅いと、乾燥速度が遅くなるため、好ましくない。また、10m/sより速いと乾燥風の影響により風ムラができるため、好ましくない。乾燥風供給手段80は、図1においては、帯状基材の上部に形成されているが、これに限定されず設けることができる。
【0042】
また第一乾燥ゾーン33の乾燥条件としては、温度は20℃〜50℃の範囲であることが好ましく、より好ましくは20℃〜40℃、さらに好ましくは25℃〜30℃である。上記範囲内で乾燥を行うことにより、流延面の面状を良好に保ったまま、乾燥を行うことができる。乾燥温度が、20℃より低い場合は、十分に乾燥が行われないため好ましくない。また、50℃を超える場合は、流延膜中に残存している溶媒が発泡し、面状を悪化させるため好ましくない。
【0043】
第一乾燥ゾーン33は、流延膜の流動性がなくなるまで乾燥できればよく、ゾーンの長さは特に限定されないが、好ましくは、1m以上10m以下、より好ましくは3m以上5m以下である。ゾーンの長さを、上記範囲内とすることにより、効率よく乾燥を行うことができる。また、ゾーンの長さが、1mより短いと乾燥が不十分であり、次工程である第二乾燥ゾーンにおいて、液ダレや、残存する溶媒分が発泡し、面状が悪化するため好ましくない。また、10mより長いと、乾燥に時間がかかるため好ましくない。
【0044】
≪第二乾燥ゾーン≫
第二乾燥ゾーン34は、第一乾燥ゾーン33を通過した帯状基材上に形成された流延膜の溶剤を完全に蒸発させる工程である。流延膜は、第一乾燥ゾーン33において、流動性がなくなるまで乾燥されているため、水平を維持する必要がなく、第二乾燥ゾーン34内の温度をさらに高くし、高沸点の溶剤を乾燥させることができる。具体的には、図1に示すように複数のガイドローラ70を用いて帯状基材を往復させて乾燥させることができる。
【0045】
第二乾燥ゾーン34の乾燥条件としては、温度は、50℃〜100℃の範囲であることが好ましい。より好ましくは、60℃〜80℃である。温度を上記範囲とすることにより、溶媒を完全に蒸発させることができ、微細多孔質膜を製造することができる。
【0046】
また第二乾燥ゾーン34の長さも溶剤を完全に揮発させることができれば、特に限定されないが、好ましくは10m以上20m以下、より好ましくは15m以上20m以下である。ゾーンの長さを、上記範囲とすることにより、効率よく乾燥することができる。
【0047】
第二乾燥ゾーン34で乾燥し、形成された微細多孔質膜は、巻き取り機40で巻き取られ製造される。
【0048】
[けん化手段]
巻き取られた微細多孔質膜は、帯状基材からはがされ、図示しないけん化装置、中和装置、水洗装置、乾燥装置によりけん化処理が施される。けん化装置内には、けん化槽が備えられており、微細多孔質膜をけん化してけん化膜とするためのアルカリ性水溶液が備えられる。
【0049】
中和装置には、中和処理槽が備えられており、けん化によって生成したけん化膜の表面あるいは内部に残留するアルカリ性水溶液を中和するための酸性溶液が、この中和処理槽に備えられる。また、水洗装置には、攪拌機を有する水洗器が備えられており、乾燥装置は、けん化膜を加熱する加熱手段を備える。
【0050】
[除塵手段]
また、本発明の製造装置は、流延手段20により流延する前に、図1に示すように除塵手段50を備え、帯状基材の流延面を除塵することが好ましい。除塵手段50としては、図1に示すように粘着性ゴムによる粘着ロールが好ましい。このような粘着ロールとしては、「MIMOSA B」(宮川ローラー(株)製)、「MIMOSA B19」(宮川ローラー(株)製)などをあげることができる。
【0051】
また、帯状基材の裏面側に帯電防止層を付与することも好ましい。これにより、帯状基材の表面側に塵埃が付着することを防ぐことができるため、流延膜の面状を良好なものにすることができる。帯電防止層としては、種々のものを使用することができるが、例えば、ASEC(Sb、Sn酸化物)Vとバインダー(GEL)を組み合わせた組成物、または、カーボンブラック層を付与することにより、形成することができる。
【0052】
また、帯電防止層が付与された帯状基材の裏面側の電気抵抗値(SR)は、30%RHの条件下で、1×10〜1010Ω/mの範囲であることが好ましく、より好ましくは1×10〜1010Ω/mである。電気抵抗値を上記範囲とすることにより、帯状基材の表面に塵埃が付着することなく、流延を行うことができ、面状の良好な微細多孔質膜を製造することができる。
【0053】
[製膜原液]
次に本発明に用いられる製膜原液について説明する。製膜原液は、膜形成用ポリマーとしてアセチルセルロースを原料とする。このアセチルセルロースを、良溶媒と貧溶媒の混合溶媒に溶解することによって作製される。
【0054】
良溶媒としては、アセチルセルロースに対する溶解度が高い溶媒であればよく、例えば、ジメチルクロライドなど、または、これらの混合溶媒を挙げることができる。また、貧溶媒としては、アセチルセルロースに対する溶解度が低い溶媒であり、例えば、メタノール、エタノール、プロパノール、アセトン、グリセリンなど、または、これらの混合溶媒を挙げることができる。また、良溶媒、貧溶媒とも、2種以上の溶媒を混合して用いることができる。貧溶媒の良溶媒に対する割合は、混合液が均一状態を保てる範囲ならば如何なる範囲でもよいが、全溶媒量に対して、20〜50質量%が好ましい。
【0055】
また、製膜原液のアセチルセルロースの濃度は、4〜10質量%が好ましい。製膜原液の固形分の濃度を上記範囲とすることにより、良好な微細孔を有する微細多孔質膜を製造することができる。
【0056】
[帯状基材]
本発明の帯状基材の材料としては、例えば、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレンナフタレート(PEN)等のポリエステル類、ポリプロピレン等のポリオレフィン類、ニトロセルロース等のセルロース誘導体、ポリアミド、ポリイミド、ポリ塩化ビニル、ポリカーボネート、アラミド等の高分子類を用いることができる。なかでも、加工性や機械特性に優れ、コストも低いポリエステル類を用いることが好ましく、特に、ポリエチレンテレフタレートが好ましい。
【0057】
[微細多孔質膜]
本発明の製造方法および製造装置で製造された微細多孔質膜は、核酸の分離精製のための濾過用フィルタとして好適に用いることができる。
【実施例】
【0058】
以下に実施例により本発明の効果を具体的に説明する。
【0059】
まず、アセチルセルロースのドープを調節した。ドープ調剤における溶解方法では、まず、ポリマー成分を最初にメチレンクロライドに溶解し、この溶液にメタノールを少量ずつ添加した。そして、この溶液にさらにグリセリンと純粋とを少量ずつ添加して未溶解物がほとんどない状態のドープを得た。そしてドープを濾紙で濾過しドープを調整した。なお、ドープ調整における各成分の配合は以下の通りである。
ジアセチルセルロース(酢化度54.5%)・・・・・2.42重量%
トリアセチルセルロース(酢化度60.8%)・・・・3.43重量%
グリセリン・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・0.18重量%
メチレンクロライド・・・・・・・・・・・・・・・・54.20重量%
メタノール・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・33.22重量%
純水・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・6.35重量%
次に上記で調整したドープを、図1に示す製造装置にて、帯状基材としてポリエチレンテレフタレートを用いて、セルロースエステル微細多孔質膜を製造した。なお、孔径決定ゾーンは以下の条件で行った。
流延速度・・・・・・・・・・0.5m/分
ドープ濃度・・・・・・・・・6%
流延後からの時間・・・・・・20秒
ガス濃度・・・・・・・・・・メタノール:4000ppm
メチレンクロライド:1500ppm
帯状基材温度・・・・・・・・・23℃
[乾燥工程のガス濃度]
上記組成のドープにおいて、各乾燥ゾーンにおけるガス濃度を測定した。測定位置は、A0:流延手段20から10cmの位置、C6:A0から5mの位置(乾燥風供給手段80の先端)とし、B1〜B5は、A0〜C6間を等間隔に6等分した位置とした。結果を表1に示す。
【0060】
【表1】

【0061】
本実施例においては、A0、B1点において、メタノールのガス濃度が、4000〜5000ppmであり、塩化メチレンの濃度が1000〜3000ppmであり、貧溶媒であるメタノールの蒸発量が多かった。B2点以降は、塩化メチレンの蒸発量が多かった。このように、少なくとも良溶媒より貧溶媒の蒸発量が多い点までを無風乾燥ゾーンとすることが好ましい。
【0062】
[乾燥工程初期の清浄度]
無風乾燥ゾーンにおけるクリーンルームの有無、清浄度を変更して試験を行った。結果を表3に示す。
【0063】
【表2】

【0064】
クリーンルームを備え、清浄度を7以上とした実施例1−3については、良好な面状の多孔質膜が得られた。また、クリーンルームを備えず、清浄度も1である比較例1は、複数の面状欠点が確認された。
【0065】
なお、表2における面状欠点の記号は以下の意味を示す。
【0066】
◎・・・・・10μm以上の欠点 1個以内/100mm
○・・・・・10μm以上の欠点 5個以内/100mm
×・・・・・10μm以上の欠点 5個以上/100mm
【図面の簡単な説明】
【0067】
【図1】本発明のセルロースエステル微細多孔質膜の製造装置を示す概念図である。
【図2】本発明の製造装置に温水プレートを組み込んだ流延、乾燥手段の一例を示す概念図である。
【図3】本発明の製造装置にエンドレス支持体を組み込んだ流延、乾燥手段の一例を示す概念図である。
【図4】温水プレートの斜視図である。
【図5】従来の製造装置を示す概念図である。
【符号の説明】
【0068】
1…帯状基材、10…送り出し機、20…流延手段、30…乾燥ゾーン、31…孔径決定ゾーン、32…無風乾燥ゾーン、33…第一乾燥ゾーン、34…第二乾燥ゾーン、31…孔径決定ゾーン、40…巻き取り機、50…除塵手段、60…保温手段、61…温水プレート、62…エンドレス支持体、63…保温ドラム、70…ガイドローラ、80…乾燥風供給手段、81…排気口、100…製造装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
水平方向に走行する帯状基材に、水と水よりも低沸点な溶剤とアセチルセルロースとを少なくとも含有する製膜原液を流延して前記帯状基材上に流延膜を形成する流延工程と、該流延膜を乾燥する乾燥工程と、を有するセルロースエステル微細多孔質膜の製造方法において、
前記乾燥工程のうち、前記帯状基材に流延膜を形成した直後から15分以内の初期乾燥においては、前記流延膜を無風状態で20〜40℃の雰囲気温度で乾燥する無風乾燥工程を行うことを特徴とするセルロースエステル微細多孔質膜の製造方法。
【請求項2】
前記無風乾燥工程を、ISO 14644に規定されるクラス7以上の清浄度を有するクリーンルーム内で行うことを特徴とする請求項1記載のセルロースエステル微細多孔質膜の製造方法。
【請求項3】
前記帯状基材がポリエステルフィルムであることを特徴とする請求項1または2に記載のセルロースエステル微細多孔質膜の製造方法。
【請求項4】
請求項1から3いずれかに記載のセルロースエステル微細多孔質膜の製造方法により製造されたセルロースエステル微細多孔質膜を用いた核酸吸着用の濾過フィルタ。
【請求項5】
水平方向に走行する帯状基材に、水と水よりも低沸点な溶剤とアセチルセルロースとを少なくとも含有する製膜原液を流延して前記帯状基材上に流延膜を形成する流延手段と、該流延膜を乾燥する乾燥手段と、を備えるセルロースエステル微細多孔質膜の製造装置において、
前記乾燥手段は、前記帯状基材に流延膜を形成した直後から15分以内の初期乾燥において、前記流延膜を20〜40℃の雰囲気温度および無風状態で乾燥する無風乾燥ゾーンを備えることを特徴とするセルロースエステル微細多孔質膜の製造装置。
【請求項6】
前記無風乾燥ゾーンが,ISO 14644に規定されるクラス7以上の清浄度を有するクリーンルーム内に備えられていることを特徴とする請求項5記載のセルロースエステル微細多孔質膜の製造装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2008−238410(P2008−238410A)
【公開日】平成20年10月9日(2008.10.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−77717(P2007−77717)
【出願日】平成19年3月23日(2007.3.23)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【Fターム(参考)】