説明

セルロース多孔体ゲル

【課題】本発明の目的は、含水前にはシート形状をよく維持することで使用時の利便性を向上させ、比較的低置換度でも均一かつ高性能なゲル化性能を持たせ、反応に要する時間やエネルギーを減らし安価に製造でき、かつセルロースの安全性や生分解性を損なわず広範囲な用途に適用可能な高性能セルロースゲルを提供することにある。
【解決手段】グルコース残基中のC−6位のみが酸化されたセルロース繊維の不織布およびこれに吸収された液体を含むセルロース多孔体ゲルであって、該酸化されたセルロース繊維の置換度が0.01〜0.5であるセルロース多孔体ゲル。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、セルロース系不織布を出発物質とした高吸液性セルロース多孔体ゲルに関する。さらに詳しくは、化粧用パック材、衛生材料、工業用ワイパー、医療分野、活性汚泥処理剤や土壌保水剤、植生保護用途などとして有効に利用できる水、生理食塩水、海水等に対する吸水性能および生分解性に優れた高吸液性セルロース多孔体ゲルに関する。
【背景技術】
【0002】
高い吸液性を示し、ゲル状となって保水作用を示す多孔体は、衛生材分野、湿布剤や創傷被服等の医療分野、化粧用パック材やフェイスマスクなどのコスメティック分野、活性汚泥処理剤、土壌保水剤等の農業・園芸分野、クリーンルームでの工業用ワイパーや食品分野、土木・建築分野、塗料・接着剤分野など、多種多様な分野に利用されている。
【0003】
従来より、含水ゲルの素材として種々の高分子が利用されている。天然高分子では、例えば、ゼラチン、デンプン、アルギン酸ソーダ、寒天、カラギーナン、セルロース等(特許文献1:特開昭61−252246号公報)、天然高分子誘導体では、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース等、(特許文献2:特開平2−180988号公報)、合成高分子ではポリビニルアルコール、ポリアクリル酸、ポリビニルピロリドン等(特許文献3:特開平1−121317号公報)がよく利用されている。
【0004】
また、メチルセルロース、エチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、アセチルセルロース等による高吸液性のゲルが提案されている(特許文献4:特開平5−239263号公報)が、いずれも出発物質は粉末状であったり綿状であったりといったシート状以外での提案であり、上記用途に使用するにあたって、乾燥状態での施用や肌への貼付、溶剤の拭き取りのための適切な形態をとることが困難であった。
【0005】
また、カルボキシメチルセルロースのゲルを用いた身体貼付用のシートが提案されているが(特許文献5:特開2009−173649号公報)、製造されたカルボキシメチルセルロースゲルを水溶性フィルムに塗工することでシート形状を得る手法であり、加工が煩雑になりコストが高くなるという欠点があった。
【0006】
これらのセルロース誘導体では、実用及び工業生産に足るセルロースゲルは殆ど存在しなかった。
【0007】
一方、セルロースなどの多糖類を、N−オキシル化合物(2,2,6,6−テトラメチル−1−ピペリジン−N−オキシルなど、以下TEMPO触媒と称する)と、臭化物(臭化ナトリウムなど)又はヨウ化物との共存下、反応開始剤を用いて、グルコース残基の1級水酸基をカルボキシル化する方法が開示されている(非特許文献1:繊維学会誌、2001年、第57巻、第6号)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開昭61−252246号公報
【特許文献2】特開平2−180988号公報
【特許文献3】特開平1−121317号公報
【特許文献4】特開平5−239263号公報
【特許文献5】特開2009−173649号公報
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】繊維学会誌、2001年、第57巻、第6号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明の目的は、吸液前にはシート形状をよく維持することで使用時の利便性を向上させ、比較的低置換度でも均一かつ高性能なゲル化性能を持たせ、反応に要する時間やエネルギーを減らし安価に製造でき、かつセルロースの安全性や生分解性を損なわず広範囲な用途に適用可能な高性能セルロース多孔体ゲルを提供することにある。
【0011】
更に本発明の目的は、乾燥時はシート状を維持することで、加工性や貼付、施工性などを向上させ、吸液時にはさまざまな液体に対して均一で優れた吸液性とゲル化による保液性を持ち、安全性や強度、優れた生分解性を持った安価なセルロース多孔体ゲルを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者は、上記課題を解決するために鋭意検討を加えた結果、特定の要件を満たすセルロース多孔体ゲルが上記課題を解決し得ることを見出し、本発明を完成させるに到った。
本発明は、セルロース系不織布を利用し、その特定の水酸基を接点としてカルボキシル基を化学的に導入することで、均一なゲル化能を短時間で付与でき、比較的低置換度で充分なゲル化性能が得られ、乾燥後のセルロース不織布が形態を維持することが可能であることを見出したものである。
【0013】
すなわち本発明は、セルロース不織布のC−6位のメチロール基のみを特異的に酸化し、置換度をコントロールすることによって不織布形状を維持し、またこれを使用するに際して水または所望の溶液を付与することにより、その優れた吸液性やゲル化能を発揮させて上記課題を達成できることを見出したものである。
さらに本発明は、TEMPO触媒によるラジカル反応を利用することで、ごく短時間で誘導体化を可能とし、それにより安価なセルロース多孔体ゲルを得ることができることを見出したものである。
【0014】
すなわち、本発明の構成は以下のとおりである。
(1)グルコース残基中のC−6位の一級水酸基のみが酸化されたセルロース繊維の不織布およびこれに吸収された液体を含むセルロース多孔体ゲルであって、該酸化されたセルロース繊維の置換度が0.01〜0.6であるセルロース多孔体ゲル。
(2)前記の不織布と前記の液体とが体積比で1:5〜1:65の範囲にある、(1)に記載のセルロース多孔体ゲル。
(3)前記の不織布の純水を用いて測定した吸液倍率が10〜65倍である、(1)に記載のセルロース多孔体ゲル。
(4)前記の酸化されたセルロース繊維が連続長繊維からなる、(1)〜(3)のいずれか1項に記載のセルロース多孔体ゲル。
(5)前記の不織布を得るために用いる不織布を構成する繊維の単糸太さが0.1〜3dtexであり、前記の不織布の目付けが12〜150g/mである、(1)〜(4)のいずれか1項に記載のセルロース多孔体ゲル。
(6)前記の不織布が、更に酸化されていないセルロース繊維および/または合成繊維を混合した不織布である、(1)〜(5)のいずれか1項に記載のセルロース多孔体ゲル。
【発明の効果】
【0015】
本発明により、セルロース多孔体自身が基材としての役割を果たすだけでなく、さまざまな液体に対する均一で優れた吸液性とゲル化による保液性を持たせることで、安全性や強度、優れた生分解性を持った安価なセルロース多孔体ゲルを提供できる。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明に用いられる高吸液性セルロース多孔体は、セルロースまたはセルロース誘導体の含有量が50質量%以上、好ましくは70質量%以上であることが必要である。セルロースまたはセルロース誘導体の含有量が50質量%未満である場合には、吸液性能が低下する。
【0017】
本発明に用いられる酸化されたセルロース不織布は、該不織布の全部または一部を構成するセルロース分子中のC−6位が、メチロール基から、カルボキシル基または、そのアルカリ金属塩(例えばCOO−Na基)に置換されたものである。従って、本発明に用いられる酸化されたセルロース不織布は、該不織布の全部または一部を構成するセルロース分子中のC−6位に、カルボキシル基、またはそのアルカリ金属塩、例えば−COO−Na基、−COO−Li基、−COO−K基、−COO−Rb基等を有しており、カルボキシル基または、−COO−Na基であることが好ましい。なお、この不織布は架橋構造を有していてもよい。
【0018】
本発明に用いられるセルロース不織布の繊維素材には特に制限はなく、銅アンモニアレーヨン、ビスコースレーヨン、コットン、パルプ、リンター、ポリノジック、リヨセル(テンセル)(登録商標)などの公知の繊維が用いられる。該繊維は連続長繊維でも短繊維でもよいが、連続長繊維不織布は、酸化処理時に短繊維が崩壊することがないため好ましい。不織布を構成する繊維の単糸太さは、0.1〜3dtex程度が好ましい。またバインダーを付与した不織布は溶液の浸透速度が遅く、またバインダー成分の溶出が懸念されるため、ノーバインダーの不織布を用いるのが好ましい。ゲルに好適な繊維構造として好ましいのは、湿式紡糸による連続長繊維不織布や溶融紡糸によるメルトブロウン等によるセルロース不織布があげられる。これらは、繊維を形成する際に、隣接する糸条が融着しながら水素結合を形成するため、酸化処理時の崩壊が起こりにくく、吸液時のゲル化に際しても強度を保持しやすく、崩壊しにくい。柱状流やニードルパンチによる物理的交絡では、吸液時のゲル化で、隣接する繊維同士の相互作用が弱くなり、崩壊しやすくなることがある。
【0019】
好ましいセルロース不織布としては、特公昭52−6381号公報に開示された、銅アンモニアレーヨンの連続フィラメントからなる、単糸2dtex前後の多数の連続フィラメントを交絡させて接着剤を用いることなく多孔性に形成した不織布が挙げられる。このセルロース不織布は、重合度が500前後と高いため引張強度も高く、充填性に富み、風合いも良好であり、さらにセルロース不織布を酸化や架橋処理しても引張強度の低下が少なく、組織の破壊や柔軟性の著しい低下が生じにくい点で好ましい。他の短繊維セルロース不織布には、重合度の低いセルロース素材を使用したものがあったり、短繊維であることから、置換度を高くすると、繊維が分解しやすく、極力低い置換度に抑える必要があるのに対し、銅アンモニアレーヨンの連続フィラメントを用いると、重合度が高く、さらに連続長繊維であることから、比較的高置換度においても崩壊しにくいという利点がある。そのため、幅広い置換度を選択することが可能である。またこのセルロース不織布を酸化したものは好ましくは、質量比で、純水の吸液倍率10〜65倍より好ましくは10〜60倍、生理食塩水の吸液倍率7〜50倍を示し、さらに架橋構造化されたものは純水の吸液倍率12〜80倍、生理食塩水の吸液倍率10〜70倍を示す。
本発明のセルロース多孔体ゲルは、水の場合には可視光線透過率が80%以上の透明な性状を示す。
【0020】
セルロース不織布には、本発明の目的を害さない範囲でセルロース繊維以外の繊維、例えば、ポリエステル繊維、ポリプロピレン繊維、ナイロン繊維等の疎水性の合成繊維が含まれていてもよい。該合成繊維は連続長繊維でも短繊維でもよい。
【0021】
セルロース不織布の酸化は、2,2,6,6−テトラメチル−1−ピペリジン−N−オキシル(以下TEMPO触媒と略する)を触媒とし、臭化アルカリの存在下で酸化剤を用いる酸化反応である公知の手法によってセルロース不織布のセルロースを酸化することで行なうことができる。この手法であればセルロース分子鎖を構成するグルコース残基中のC−2、C−3、C−6位の3つの反応サイトのうち、1級水酸基をもつ、C−6位のみを特異的に酸化することが可能となる。これにより、比較的低い置換度でも高い吸液性と吸液後のゲルの高い透明性を得ることが可能となる。置換度のコントロールは、反応温度、時間と並んで、TEMPO触媒濃度によって実施することが可能である。また不織布の架橋処理も従来公知の架橋剤を用いて公知の方法で行うことができる。
【0022】
TEMPO酸化により製造されたセルロース不織布を用いた多孔体ゲルは、特定の反応部位(C−6位)のみが酸化されており、セルロース鎖のβ−1,4−グリコシド結合を加水分解することがなく、重合度低下が殆ど起こらないことから、ゲル構造が崩壊しにくい特徴がある。また、C−6位のメチロール基はセルロース分子鎖の外側に位置するため、これが酸化されることで、他のC−2、C−3位が酸化される場合と比べて、低い置換度で高い吸液性能を示す。
【0023】
従来の、カルボキシメチル化やカルボキシエチル化、アセチル化等のセルロース誘導体からなるゲルは、グルコース残基中の3つ存在する反応サイトである水酸基がランダムに置換するため、ゲル化し易い箇所とそうでない箇所のバラツキが大きく、不均一な吸液性を示すなどの問題点があった。これを避けるためには高い置換度を選択せざるを得ないため、乾燥状態でのシート形状が保てない、吸液時においてゲルが崩壊し易いなどの問題が起こりやすい。
また、上記のセルロース誘導体化を行うためには、苛性ソーダをはじめとしたアルカリ溶媒に長時間浸漬し膨潤させた後にセルロース鎖を解く工程が必要となる。また、エーテル化などの誘導体化にも長時間を要するため、非常に反応時間が長く、生産性が悪いという難点がある。加えて、アルカリセルロース化、エーテル化、洗浄といった殆どの工程でセルロースの溶解を防ぐために多量の有機溶媒を用いるため、コストも高くなってしまう問題があった。
【0024】
TEMPO酸化にはアルカリ処理の工程が不要で、ラジカル反応を用いることからも反応時間が非常に短時間で済むという利点がある。また、反応停止まで有機溶媒を必要としない点でも経済的である。
本発明のセルロース多孔体ゲルを得る条件であれば、殆どの酸化反応は30分以内で完了することが出来るのに対して、上記誘導体化は2時間以上を要する。
【0025】
本発明において、酸化されたセルロース不織布におけるセルロースの置換度は、基材の湿潤性、ゲル化能、保液性等の点から、構成するグルコースユニットに対して0.01〜0.6の範囲であり、好ましくは0.02〜0.5、さらに好ましくは0.05〜0.3である。また酸化されたセルロース不織布には、上述した酸化されていないセルロース繊維や合成繊維が混合、例えば混繊または混抄されていてもよい。この場合の繊維は連続長繊維でも短繊維でもよい。これらの繊維は、不織布の形態で積層されていても、またはスライバーのようなヤーンとして混合されていてもよい。前述の合成繊維との混合は基材の強度を向上させる点で好ましい。他の繊維等と混合する場合には、酸化されたセルロース不織布の使用量は、その用途に応じて選定するのが好ましく、通常は8〜100質量%の範囲で選択される。好ましい範囲は50質量%以上、より好ましくは70質量%以上、100質量%以下である。
【0026】
酸化されたセルロース不織布の目付は12〜150g/mが好ましく、より好ましくは18〜120g/mである。該不織布の目付が12g/m未満では、吸液した際の形態保持が困難な場合があり、150g/mを超えると不織布そのものの製造が困難で、他の繊維と混合する場合等に技術的問題を生じることがある。
【0027】
本発明の酸化セルロース不織布の製造方法は特に限定されないが、例えば以下の製造方法によって製造することができる。
【0028】
セルロース系繊維の不織布に対し酸化触媒として0.001〜0.2mmol/gのN−オキシル化合物を用いて、酸化セルロース不織布とする。N−オキシル化合物としては特に限定されるものではないが、2,2,6,6−テトラメチル−1−ピペリジン−N−オキシルが好ましい。N−オキシル化合物の使用量は、セルロース系繊維の不織布1gに対して、0.001〜0.2mmol/gであることが好ましく、更には0.01〜0.1mmol/gであることがより好ましい。N−オキシル化合物が0.001mmol/g未満の場合、反応が進行しにくくなり、また、0.2mmol/gを超える場合、不織布の形状を維持することができなくなる場合がある。
【0029】
前記工程において、セルロース系繊維の不織布に対し水中で0.5〜10mmol/gのハロゲン化物存在下、0.1〜5mmol/gの反応開始剤を用いて、酸化セルロース不織布とする。ハロゲン化物としては、臭化物又はヨウ化物が好ましく、例えば、臭化アルカリ金属やヨウ化アルカリ金属を挙げることができる。より好ましくは、臭化ナトリウムである。ハロゲン化物の使用量は、セルロース系繊維の不織布1gに対して、0.5〜10mmol/gであることが好ましい。ハロゲン化物が0.5mmol/g未満の場合、反応が進行しにくくなり、また、10mmol/gを超える場合、不織布の形状を維持することが困難となる場合がある。反応開始剤としては、ハロゲン、次亜ハロゲン酸,亜ハロゲン酸や過ハロゲン酸又はそれらの塩、ハロゲン酸化物、窒素酸化物、過酸化物等が挙げられる。好ましくは、次亜塩素酸ナトリウムである。充分な反応速度を得ることと反応中に溶解等のために酸化セルロース不織布が崩壊、流出しないこと考えれば、反応開始剤の使用量は、セルロース系繊維の不織布1gに対して、0.1〜5mmol/gであることが好ましく、更には1〜3mmol/gであることがより好ましい。反応開始剤が0.1mmol/g未満の場合、反応が進行しにくくなり、また、5mmol/gを超える場合、反応が過剰に進行し、不織布の形状を維持することができなくなる場合がある。
【0030】
酸化セルロースの官能基の置換度は主に反応に用いられる酸化触媒や反応開始剤で制御することができる。また、反応時間や温度によっても制御可能である。反応に用いられる酸化触媒の使用量、反応開始剤の使用量、反応時間、反応温度は置換度とほぼ比例の関係にあり、酸化触媒の使用量、反応開始剤の使用量、反応時間、反応温度が大きければ置換度は高くなる。
【0031】
本発明で架橋剤を用いる場合は、ジビニルスルホン、エピクロロヒドリン、多官能エポキシ化合物の群の中から選ばれる少なくとも1種の架橋剤を用いる。
【0032】
多官能エポキシ化合物としては、エチレングリコールジグリシジルエーテル、ポリエチレングリコールジグリシジルエーテル、グリセロールポリグリシジルエーテル、ジグリセロールジグリシジルエーテル、ジグリセロールポリグリシジルエーテル、ポリグリセロールポリグリシジルエーテル、ソルビトールポリグリシジルエーテル、ペンタエリシトールジグリシジルエーテル、トリメチロールプロパンポリグリシジルエーテル、プロピレングリコールジグリシジルエーテル、ポリプロピレングリコールジグリシジルエーテル等が挙げられる。水溶性の高さ、吸液性能、ゲル強度の観点から、ジビニルスルホンおよびエチレングリコールジグリシジルエーテル、グリセロールポリグリシジルエーテル、ポリグリセロールポリグリシジルエーテルが好ましい。
【0033】
架橋剤の使用量は、セルロース中の水酸基やカルボキシル基等、架橋剤と反応し得る官能基のモル数に対して、0.1〜50モル%、好ましくは1〜20モル%の範囲である。架橋剤の使用量が、0.1モル%未満の場合、得られる高吸液性セルロース多孔体の溶解分が増加し、ゲル強度が低下する。また、架橋剤の使用量が50モル%を超える場合、得られる高吸液性セルロース多孔体の吸液性能が低下する。
【0034】
また、金属イオン架橋剤も好適に用いられ、アルミニウム、マグネシウム、カリウム、鉄、銅等を含む酸化物、水酸化物、塩類を用いることが出来る。
【0035】
ゲル化時に吸液することが出来る液体としては、特に限定されないが、水や有機溶媒およびそれらに用途に応じた薬剤等を溶解させた溶液例えば、水道水、純水、超純水、注射用水などの水、海水、生理食塩水、血液、体液、アルコール類たとえば、メタノール、エタノール、2−プロパノール、1−ブタノール等、その他の有機溶媒としてアセトン、エチルメチルケトン、ヘキサン、クロロホルム、ベンゼン、シンナー、ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン、アセトニトリル、塩化メチレン、グリセリン等、アルコール水に乳化剤、香料、防腐剤、ヒアルロン酸、コラーゲン、アミノ酸、ビタミン類等を溶解させた化粧水等があげられる。
【0036】
本発明のセルロース多孔体ゲルを構成するセルロース繊維の不織布とセルロース多孔体ゲル中に吸収された液体との比率は体積比で、好ましくは1:5〜1:65、より好ましくは1:5〜1:60の範囲であり、最も好ましくは1:12〜1:35の範囲である。この体積比は、吸収した液体の体積の、セルロース繊維の質量および密度から求めた体積に対する比率である。吸収された液体の比率が5よりも小さいと液体を吸液したことによる本発明の様々な効果が発現されにくく、またこの比率が60を超えると多孔体ゲルの形態を維持することが困難になる場合がある。
【0037】
本発明のセルロース多孔体ゲルは、紙オムツや生理用品等の衛生分野、湿布剤や体液吸水剤等の医療分野、泥水シールド工法の逸泥防止用の汚泥ゲル化剤、シーリング材、結露防止材等の土木・建築分野、野菜、肉や魚等の鮮度保持材等の食品分野、農業用の土壌保水剤や種子コーティング剤等の農業・園芸分野、化粧用パック材やフェイスマスクなどのコスメティック分野や化粧品、保冷材、芳香剤・消臭剤、雑貨等の化粧品・トイレタリー分野、電気・電子材料分野、塗料・接着剤分野等、さらには、油水分離材や廃液吸収剤、防振材、防音材、玩具等多種多様な分野に利用することができる。
【実施例】
【0038】
以下に本発明を実施例により詳細に説明するが、本発明はこれらによって限定されるものではない。
なお、例中の引張強力はJIS−L1085に準じて測定した。
また、吸液倍率は次のようにして測定した。すなわち、標準状態下の不織布から10cm×10cmの試料を切り取り、質量を正確に測定する。該試料をメッシュ(10メッシュ、線径0.5mm)上に載せ、これをバットに入れた水または水溶液等の中に入れて30秒間浸漬する。その後、メッシュを引き上げて10分間放置した後、過剰な水、水溶液を濾紙等で拭き取り、試料の質量を測定し、次式により吸液倍率を算出する。
【0039】
【数1】

【0040】
また、本発明の置換度は下記により測定を行った。
酸化セルロース不織布および比較例のセルロース誘導体100mgを9質量%のアルカリ性重水溶液2mLに溶かし、その溶液の13Cを核磁気共鳴BRUKER NMR AVANCE 400にて測定した。セルロースのグルコースユニットの1位炭素の積分値Aに対する置換した6位のカルボキシル基中のカルボニルの炭素の積分値Bから置換度を次式により算出した。
置換度=B/A
【0041】
可視光透過率は、島津製作所のデジタルダブルビ−ム分光光度計を用いて、厚さ0.2mmに調整されたゲルフィルムについて測定されたものである。
【0042】
(実施例1)酸化セルロース不織布の作製
未酸化セルロース不織布として、特公昭52−6381号公報に開示の銅アンモニアレーヨンの連続フィラメントからなる不織布を用いた。これは単糸0.2〜2.2dtex(デシテックス)前後の多数の連続フィラメントを交絡させて多孔性に形成したものであり、綿ガーゼ様の風合いを有する。この未酸化セルロース不織布の目付は100g/m、厚みは0.38mmであった。また該不織布の引張強力はタテが197(N)、ヨコが31(N)で、吸水倍率は6.6倍であった。この不織布を用いて、下記のように酸化を行った。
【0043】
TEMPO触媒0.56g、臭化ナトリウム7.2gを500mLの水に溶解しておく。平均目付100g/mの再生セルロース連続長繊維不織布(キュプラ不織布)24gを500mLの水中に分散させ、前記TEMPO溶液と混合する。次に次亜塩素酸ナトリウム溶液(Cl=5%)94mLを添加し酸化反応を開始する。反応温度は室温で、反応中は系内のpHが低下するが、0.5Nの水酸化ナトリウム水溶液を逐次添加し、pH10付近に調整した。10分後、メタノールを添加して反応を停止させ、水・アルコール洗浄した後、80℃で乾燥させた。得られた酸化セルロース不織布の置換度は0.40であった。乾燥終了までの全処理時間は28分間であった。
この不織布の目付は100g/cm、厚みは0.34mm、引張強力はタテが152(N)、ヨコが24(N)であり、吸水倍率は34.5倍であった。この不織布は水の吸収により透明なゲル状を示したが、形態は保持されていた。可視光線透過率は91%であった。
【0044】
(実施例2)
TEMPO触媒量を0.38gとした以外は実施例1と同様の条件、反応時間にて酸化を行った。得られた酸化セルロース不織布の置換度は0.20であった。
この不織布の目付は100g/cm、厚みは0.34mm、引張強力はタテが153(N)、ヨコが25(N)であり、吸水倍率は23.4倍であった。この不織布は水の吸収により透明なゲル状を示したが、形態は保持されていた。可視光線透過率は90%であった。
【0045】
(実施例3)
TEMPO触媒量を0.04gとした以外は実施例1と同様の条件、反応時間にて酸化を行った。得られた酸化セルロース不織布の置換度は0.09であった。
この不織布の目付は100g/cm、厚みは0.34mm、引張強力はタテが158(N)、ヨコが25(N)であり、吸水倍率は13.6倍であった。この不織布は水の吸収により透明なゲル状を示したが、形態は保持されていた。可視光線透過率は87%であった。
【0046】
(実施例4)
次亜塩素酸ナトリウム溶液(Cl=5%)を150mLとした以外は実施例1と同様の条件、反応時間にて酸化を行った。得られた酸化セルロース不織布の置換度は0.48であった。
この不織布の目付は100g/cm、厚みは0.34mm、引張強力はタテが50(N)、ヨコが1(N)であり、吸水倍率は59.1倍であった。この不織布は水の吸収により透明なゲル状を示したが、形態は保持されていた。可視光線透過率は91%であった。
【0047】
(比較例1)
未酸化セルロース不織布として、特公昭52−6381号公報に開示の銅アンモニアレーヨンの連続フィラメントからなる不織布を用いた。これは単糸2.2dtex前後の多数の連続フィラメントを交絡させて多孔性に形成したものであり、綿ガーゼ様の風合いを有する。この未酸化セルロース不織布の目付は100g/m、厚みは0.38mmであった。また該不織布の引張強力はタテが197(N)、ヨコが31(N)で、吸水倍率は6.6倍であった。
【0048】
(比較例2)
比較例1のセルロース不織布に下記の手法でカルボキシメチル化を施した。
直径60mm、長さ300mmの円筒外周壁に直径1mmの噴射孔を276個均一に分散させて設けた内噴式筒を用意し、この円筒に上記未CM化セルロース不織布を巻き付けてロール状とした。該不織布の幅は40cm、長さは30mであった。これを処理浴槽中に浸漬し、65℃まで加温して処理液を循環させてCMC−Na化を行った。処理液にはセルロース250gに対し、イソプロパノール10.3リットル、メタノール2.0リットル、水1.7リットルの溶液にNaOH濃度6.0質量%、モノクロル酢酸Na濃度0.6質量%になるように調整した溶液を用いた。また循環ポンプの送液圧は3〜4kg/cmであり、処理時間は3〜4時間とした。処理後、不織布を筒より外してセントル脱水機により含水率100〜150%程度まで脱水し、その後、メタノールによる洗浄を行い、完全にメタノール置換を行った後、乾燥してCM化セルロース不織布(CM化度は約0.19)を得た。乾燥終了までの全処理時間は102分間であった。この不織布の目付は100g/cm、厚みは0.37mm、引張強力はタテが132(N)、ヨコが23(N)であり、吸水倍率は14.9倍であった。この不織布は水の吸収により透明なゲル状を示したが、形態は保持されていた。可視光線透過率は87%であった。
【0049】
(比較例3)
比較例2のセルロース不織布においてモノクロル酢酸Na濃度を0.3質量%とする以外は同様の手法、反応時間でカルボキシメチル化を施した。CM化度は0.10であった。
この不織布の目付は100g/cm、厚みは0.37mm、引張強力はタテが135(N)、ヨコが27(N)であり、吸水倍率は10.3倍であった。この不織布は水の吸収によりほぼ透明なゲル状を示したが、形態は保持されていた。可視光線透過率は72%であった。
【0050】
(比較例4)
比較例2のセルロース不織布においてモノクロル酢酸Na濃度を1.0質量%とする以外は同様の手法、反応時間でカルボキシメチル化を施した。CM化度は0.42であった。
この不織布の目付は100g/cm、厚みは0.37mm、引張強力はタテが135(N)、ヨコが27(N)であったが、この不織布は水の吸収により崩壊してしまい、形態は保持できなかった。
【0051】
実施例、比較例において得られたセルロース不織布の置換度と吸液倍率を表1に示す。
【表1】

【0052】
表1より、酸化セルロース不織布が未置換及び他の誘導体化セルロース不織布よりも低置換度でより高い吸液性、および透明性を示すことがわかる。
【0053】
次に、実施例の酸化セルロース不織布および比較例の未置換セルロース不織布とCM化セルロース不織布について、下記に示す風乾試験により経時的な保液率を算出して保液性の評価を行った。まず、各不織布から18cm×15cmの試料を切り出してその質量(絶対質量:W)を測定し、次いで霧吹きを用いて各試料に自重の3倍程度の水を付与し、その質量(含水質量:W)を測定する。次に吸水した不織布を標準状態の恒温室でステンレスメッシュの上に静置し風乾させ、所定時間経過毎の不織布の質量(測定時間毎の質量:W)を測定し、下記式に基づいて各時間経過後の保液率(%)を算出した。
保液率=〔(W−W)/(W−W)〕×100
得られた結果を表2に示した。
【0054】
【表2】

【0055】
表2から、酸化セルロース不織布では、未置換セルロース不織布及び同置換度のCM化セルロース不織布に比べて時間が経過しても保液率の減少が少なく、ゲルとしての保液性が長時間維持できることがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0056】
本発明により、セルロース多孔体自身が基材としての役割だけでなく、さまざまな溶液に対する均一で優れた吸液性とゲル化による保液性を持たせることで、安全性や強度、優れた生分解性を持った安価なセルロース多孔体ゲルを提供できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
グルコース残基中のC−6位の一級水酸基のみが酸化されたセルロース繊維の不織布およびこれに吸収された液体を含むセルロース多孔体ゲルであって、該酸化されたセルロース繊維の置換度が0.01〜0.6であるセルロース多孔体ゲル。
【請求項2】
前記の不織布と前記の液体とが体積比で1:5〜1:65の範囲にある、請求項1に記載のセルロース多孔体ゲル。
【請求項3】
前記の不織布の純水を用いて測定した吸液倍率が10〜65倍である、請求項1に記載のセルロース多孔体ゲル。
【請求項4】
前記の酸化されたセルロース繊維が連続長繊維からなる、請求項1〜3のいずれか1項に記載のセルロース多孔体ゲル。
【請求項5】
前記の不織布を得るために用いる不織布を構成する繊維の単糸太さが0.1〜3dtexであり、前記の不織布の目付けが12〜150g/mである、請求項1〜4のいずれか1項に記載のセルロース多孔体ゲル。
【請求項6】
前記の不織布が、更に酸化されていないセルロース繊維および/または合成繊維を混合した不織布である、請求項1〜5のいずれか1項に記載のセルロース多孔体ゲル。

【公開番号】特開2011−127267(P2011−127267A)
【公開日】平成23年6月30日(2011.6.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−257209(P2010−257209)
【出願日】平成22年11月17日(2010.11.17)
【出願人】(303046303)旭化成せんい株式会社 (548)
【Fターム(参考)】