説明

セルロース成形物の製造方法及びセルロース成形物

【課題】セルロース粒子又はセルロース繊維から成る耐衝撃性が向上されたセルロース成形物の製造方法を提供する。
【解決手段】セルロース粒子を、未架橋のエラストマーが分散されている分散液に浸漬して、前記粒子内に5重量%以上の未架橋のエラストマーを含浸し、次いで、前記エラストマーの架橋剤を前記粒子内に含浸した後、前記粒子内の未架橋のエラストマーを架橋し、ネット状に架橋されているゴム成分を前記粒子内に形成することを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はセルロース成形物の製造方法及びセルロース成形物に関し、更に詳細には耐衝撃性が向上されたセルロース成形物の製造方法及びセルロース成形物に関する。
【背景技術】
【0002】
下記特許文献1には、セルロース溶液を高速で回転する回転容器に供給し、この回転容器に形成した直径0.1〜5.0mmの範囲内の吐出孔から、遠心加速度10〜1000Gの遠心力でセルロース溶液を飛散させて液滴を形成し、この液滴を凝固液に捕捉させて凝固するセルロース粒子の製造方法が提案されている。
【特許文献1】特許第3177587号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
特許文献1のセルロース粒子の製造方法で得られたセルロース粒子は、真球度が高く且つ粒度分布の小さいセルロース粒子であるため、樹脂成型品のバリ取用や樹脂成型金型の掃除用のブラスト粒子として用いることができる。
しかし、ブラスト粒子としてのセルロース粒子は、耐衝撃性が乏しいため、その交換頻度が高く、現在では、ブラスト粒子として工業的に使用されていない。
また、レーヨン糸等のセルロース繊維は、静電気が発生し難いため、低温雰囲気下でのバッグフィルタに適している。
しかし、バッグフィルタでも、内部に溜まった捕捉物を除去すべく、外部から間歇的に衝撃を与えているため、耐衝撃性の乏しいセルロース繊維をバッグフィルタに用いることは困難である。
そこで、本発明の課題は、セルロース粒子又はセルロース繊維から成る耐衝撃性が向上されたセルロース成形物の製造方法及びセルロース成形物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明者は、前記課題を解決するには、セルロース粒子又はセルロース単繊維内にゴム成分を含浸させることが有効であると考え検討した結果、本発明に到達した。
すなわち、本発明は、セルロースから成るセルロース成形物である粒子又は単繊維を、未架橋のエラストマーが分散されている分散液に浸漬して、前記粒子又は単繊維内に5重量%以上の未架橋のエラストマーを含浸し、次いで、前記エラストマーの架橋剤を前記粒子又は単繊維内に含浸した後、前記粒子又は単繊維内の未架橋のエラストマーを架橋し、ネット状に架橋されているゴム成分を前記粒子又は単繊維内に形成することを特徴とするセルロース成形物の製造方法にある。
かかるセルロース成形物の製造方法に係る本発明において、未架橋のエラストマーとして、天然ゴム又は合成ゴムの未架橋のエラストマーを用い、架橋剤を用いることによって、セルロース粒子又はセルロース単繊維内に天然ゴム又は合成ゴムをネット状に架橋でき、生分解性のセルロース粒子又はセルロース単繊維であることを維持できる。
特に、未架橋のエラストマーとして、平均分子量が7000以下の未架橋エラストマーを用いることによって、セルロース粒子又はセルロース単繊維内に未架橋エラストマーを容易に含浸させることができる。
この未架橋のエラストマーの低分子化は、未架橋のエラストマーに機械的な剪断力を付与することによって行うことができる。
【0005】
また、本発明は、セルロースから成るセルロース成形物が粒子又は単繊維であって、前記粒子又は単繊維内に、ゴム成分が5重量%以上含浸されていると共に、前記ゴム成分がネット状に架橋されていることを特徴とするセルロース成形物でもある。
かかるセルロース成形物に係る本発明において、ゴム成分を天然ゴム成分又は合成ゴム成分とすることによって、生分解性のセルロース粒子又はセルロース単繊維であることを維持できる。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、セルロース粒子又はセルロース単繊維内にゴム成分をネット状に架橋できるため、セルロース粒子又はセルロース単繊維の耐衝撃性を向上できる。
その結果、セルロース粒子は、従来用いることができなかった、樹脂成型品のバリ取用や樹脂成型金型の掃除用のブラスト粒子として用いることができ、セルロース繊維は、フィルタ等の工業用途に用いることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
本発明で用いるセルロース成型物としては、セルロースから成る粒子又は単繊維(以下、セルロース粒子又はセルロース単繊維と称することがある)である。
かかるセルロース粒子又はセルロース単繊維としては、ビスコース(セルロースキサントゲン酸ナトリウムを水又は水酸化ナトリウム溶液に溶かした溶液)やセルロース銅アンモニア溶液等のアルカリ型セルロース溶液を、硫酸、塩酸等の無機酸から成る凝固液内に所定の吐出口から粒状又は繊維状に吐出して得たものを用いることができる。特に、セルロース粒子としては、上述した特許文献1に記載されている製造方法で得られたセルロース粒子は粒径が均斉であり、好適に用いることができる。
セルロース単繊維としては、市販されているレーヨン繊維等の再生セルロース繊維や木綿等の植物セルロース繊維を用いることができる。
【0008】
かかるセルロース粒子又はセルロース単繊維を、未架橋のエラストマーが分散されている分散液に浸漬して、セルロース粒子又はセルロース単繊維内に未架橋のエラストマーを含浸する。
この未架橋のエラストマーとしては、合成ゴム及び天然ゴムのいずれのものであってもよいが、天然ゴムのエラストマーを用いた場合には、耐衝撃性を向上したセルロース粒子又はセルロース単繊維を全て自然界に存在する材料で構成することができて好ましい。
かかる未架橋のエラストマーを分散した分散液は、ベンゼン等の炭化水素系溶剤に添加し攪拌して得ることができる。また、分散液として、水を用いることもできる。
これらの分散液中には、未架橋のエラストマーを2重量%以上、好ましくは4重量%以上、特に好ましくは5重量%以上添加する。特に、分散液として、水を用いた場合には、未架橋のエラストマーとしては、微細で且つ粒度の揃った未架橋のエラストマー、例えば粒度分布を測定したとき、一個のピークを持った正規分布に近似した未架橋のエラストマーを用いることが好ましい。
得られた未架橋のエラストマーの分散液には、架橋促進剤が溶解された架橋促進剤溶液を添加することができる。
架橋促進剤としては、酸化亜鉛を好適に用いることができる。この酸化亜鉛は、塩化アンモン、メタノール、グリセリン及びイソプロピルアルコールから成る溶媒に溶解することによって架橋促進剤溶液を得ることができる。かかる架橋促進剤溶液には、促進助剤や帯電防止剤を添加してもよい。
尚、未架橋のエラストマーを分散した分散液に架橋促進剤溶液を添加する際に、途中で液相が不安定となるような場合には、弗素系界面活性剤又はノニオン系の浸透剤を少量添加してもよい。
【0009】
この様にして得られた未架橋のエラストマーの分散液に、セルロース粒子又はセルロース単繊維を浸漬して攪拌しつつ、セルロース粒子又はセルロース単繊維内に、未架橋のエラストマーを4重量%以上、好ましくは5重量%以上含浸させることが必要である。この未架橋のエラストマーの含浸量が4重量%未満の場合は、セルロース粒子又はセルロース単繊維の耐衝撃性を充分に向上することが困難である。
未架橋のエラストマーのセルロース粒子又はセルロース単繊維内への含浸量を4重量%以上とするには、平均分子量が7000以下、特に3000以下の未架橋エラストマーを用いることが好ましい。このことは、合成ゴムの未架橋のエラストマーであって、平均分子量が15000のエラストマーと平均分子量が3000のエラストマーとを用い、同一条件下でセルロース粒子又はセルロース単繊維内に未架橋エラストマーを含浸させて、セルロース粒子又はセルロース単繊維内への含浸したとき、平均分子量が15000のエラストマーでは、その含浸量は1〜2重量%であったが、平均分子量が3000のエラストマーでは、その含浸量を5重量%以上とすることができたことから明らかである。
【0010】
この様に、低分子化したエラストマーを得るには、未架橋のエラストマーにステアリン酸等のしゃく解剤を添加してもよく、ミキサー等によるビータ等の機械的な剪断力を付与して分子鎖を切断して低分子化することが好ましい。かかるビータ等の機械的な剪断力を付与してエラストマーの低分子化を図る際には、ビータ等の機械的な剪断力を付与する時間と、エラストマーの平均分子量との関係を予め求めておき、ビータ等の機械的な剪断力を付与する時間によって、エラストマーの平均分子量を調整することが好ましい。
得られた未架橋のエラストマーの分散液に、セルロース粒子又はセルロース単繊維を浸漬する。この際のセルロース粒子又はセルロース単繊維と分散液との浴比は5以上とすることが、溶液の安定性の観点から好ましい。
また、セルロース粒子又はセルロース単繊維を、セルロース粒子又はセルロース単繊維が通過できない目開のメッシュ状の網体で形成し袋内に充填して分散液に浸漬して攪拌することが、浸漬終了した際に、セルロース粒子又はセルロース単繊維を容易に回収できる。
【0011】
更に、セルロース粒子又はセルロース単繊維を浸漬した分散液を、加熱して昇温した後に所定温度まで冷却する操作を複数回繰り返すことによって、セルロース粒子又はセルロース単繊維内に分散液を充分に浸透させることができる。かかる加熱温度としては60℃程度が好ましく、冷却温度としては15℃程度とすることが好ましい。
かかる含浸処理は、大気圧下でもよいが、減圧下又は加圧下で行うことによって、大気圧下で含浸処理を施した場合に比較して、含浸時間を短縮できる。
分散液の含浸処理を終了したセルロース粒子又はセルロース単繊維は、分散液から取り出して、表面に付着した分散液を洗浄除去する洗浄処理を施す。セルロース粒子又はセルロース単繊維のブロッキング防止のためである。
かかる洗浄処理では、分散液としてベンゼン等の炭化水素系溶剤を用いた場合には、ベンゼン等の炭化水素溶媒とイソプロピルアルコール等のアルコールとの混合液に、浴比10以上となるようにセルロース粒子又はセルロース単繊維を添加して洗浄した後、ノニオン洗剤と弱塩基性洗剤との洗剤混合液に浴比10以上となるようにセルロース粒子又はセルロース単繊維を添加して洗浄する。
更に、洗剤混合液がセルロース粒子又はセルロース単繊維に残らないように水洗したセルロース粒子又はセルロース単繊維に遠心脱水処理を施した後に乾燥を施す。
また、分散液として水を用いた場合、分散液を分離したセルロース粒子又はセルロース単繊維を水洗することによって洗浄でき、その後、遠心脱水処理を施してから乾燥を施す。
【0012】
この様にして、内部に未架橋のエラストマーが含浸されたセルロース粒子又はセルロース単繊維には、未架橋のエラストマーの架橋反応を促進させるために、必要に応じて架橋剤を含浸させる。かかる架橋剤は、溶媒に溶解して得た架橋剤溶液に、内部に未架橋のエラストマーが含浸されたセルロース粒子又はセルロース単繊維を浸漬することによって、セルロース粒子又はセルロース単繊維内に含浸させることができる。
ここで、天然ゴムの未架橋のエラストマーをセルロース粒子又はセルロース単繊維内に含浸させた場合には、架橋剤として硫黄を用いることができる。硫黄をセルロース粒子又はセルロース単繊維内に含浸するには、粉末硫黄を二硫化炭素に溶解した溶液に、天然ゴムのエラストマーが含浸されたセルロース粒子又はセルロース単繊維を浸漬することによって行うことができる。
次いで、硫黄の含浸処理が終了したセルロース粒子又はセルロース単繊維は、溶液から取り出して、水洗・乾燥を施す。
その後、所定温度で所定時間加熱処理することによって、セルロース粒子又はセルロース単繊維内に含浸した未架橋のエラストマーを架橋することができる。
未架橋のエラストマーとして、合成ゴムの未架橋のエラストマーを用いた場合は、130〜170℃(好ましくは140〜160℃)で10〜30分程度の加熱処理のみによって架橋反応を充分に惹起できるものが多い。
一方、天然ゴムの未架橋のエラストマーを用いた場合には、架橋剤を用いることによって架橋反応を促進できる。かかる架橋剤として硫黄を用いた場合の架橋条件としては、150〜170℃(好ましくは160〜165℃)で1時間程度保持することが好ましい。
尚、架橋条件としては、使用した架橋剤に応じて最適な条件を採用できる。
【0013】
この様にして未架橋のエラストマーを架橋することによって、ネット状に架橋されているゴム成分をセルロース粒子又はセルロース単繊維内に形成できる。かかるセルロース粒子又はセルロース単繊維内には、セルロース粒子又はセルロース単繊維内に、ゴム成分が5重量%以上含浸されており、このゴム成分がネット状に架橋されている。
このため、セルロース粒子又はセルロース単繊維に衝撃力が繰り返し加えられても、ゴム成分がセルロース粒子又はセルロース単繊維内で衝撃力を吸収でき、セルロース粒子又はセルロース単繊維の耐衝撃性を向上できる。
従って、かかるセルロース粒子は、樹脂成型品のバリ取用や樹脂成型金型の掃除用のブラスト粒子として工業的に用いることができる。また、セルロース単繊維も、バッグフィルタ等の工業用途に用いることができる。
ここで、セルロース粒子又はセルロース単繊維内に含浸されているゴム成分が5重量%未満の場合は、セルロース粒子又はセルロース単繊維の耐衝撃性を充分に向上できない。
かかるゴム成分としては、天然ゴム成分であっても、合成ゴム成分であってもよいが、天然ゴム成分とすることによって、耐衝撃性を向上したセルロース粒子又はセルロース単繊維を全て自然界に存在する材料で構成することができ、生分解性の特性を維持できる。
【実施例1】
【0014】
(1)セルロース粒子の準備
ビスコースを塩酸溶液中に吐出して平均粒径が200μmのセルロース粒子を、浴比10〜15倍の弱アルカリ洗剤とノニオン洗剤とが添加された洗浄液で精練・洗浄した後、絶乾に近い状態まで乾燥した。
(2)未架橋のエラストマーの分散液の準備
(a)素練りした天然ゴム2.5gをミキサー((株)タイガー製、SKO−B700)に投入し、天然ゴムの分子鎖を切断すべく、ミキサーの回転翼を回転数16,500rpmで回転して天然ゴムに対して90秒間の高速ビータを与えた。
ミキサーから取り出したエラストマー10重量部を、ベンゼン90重量部中に添加し撹拌して未架橋のエラストマーが10重量%含有の分散液を得た。
(b)かかる未架橋のエラストマーの分散液とは別に、架橋促進剤としての酸化亜鉛を溶解した架橋促進剤溶液を準備した。かかる架橋促進剤溶液は、酸化亜鉛1重量部を、塩化アンモン1重量部、メタノール4重量部及びグリセリン2重量部の溶液中に添加した後、弗素系界面活性剤としの4フッ化エチレンを少量滴下し、撹拌しつつイソプロピル3重量部を添加する。
更に、帯電防止剤として、市販の導電性樹脂1重量部をイソプロピル7.8重量部に溶解した溶液を添加した。
(c)この様にして調整した未架橋のエラストマーの分散液50重量部にベンゼン25重量を加えた溶液に、架橋促進剤溶液25重量部を添加する。最終的に得られた未架橋のエラストマーの分散液中には、天然ゴムのエラストマーが5重量%分散されている。
尚、この際に、液相が不安定となって分離が心配される場合には、弗素系界面活性剤として4フッ化エチレン又はノニオン系の浸透剤を少量添加することによって、液相の安定化を図った。
【0015】
(3)セルロース粒子の浸漬
(1)で精練・洗浄・絶乾したセルロース粒子を挿入した目開き4,000メッシュの袋を、架橋促進剤溶液が添加された(2)で得られた未架橋のエラストマーの分散液中に浸漬した。この場合の浴比は5とした。
次いで、分散液を大気圧下で攪拌しつつ60℃まで加温した後、自然冷却によって15℃まで冷却し、再度、冷却した分散液を攪拌しつつ60℃まで再加温した後、15℃まで再冷却した。この様な分散液の加温及び冷却を4〜5回ほど繰り返して行った。
(4)浸漬したセルロース粒子の洗浄
エラストマーの分散液から取り出したセルロース粒子を、ベンゼン70重量部とイソプロピルアルコール30重量部との混合有機洗浄液に浴比10で浸漬して洗浄した後、ノニオン洗剤(1〜2重量%)と弱塩基性洗剤(2〜3重量%)とが混合された混合洗浄液に浴比10で浸漬して洗浄した。この洗浄は、セルロース粒子の表面にエラストマーの分散液が残留し、セルロース粒子同士がブロッキングすることを防止するためのものである。
更に、セルロース粒子を洗剤が残留しないように充分に水洗した後、遠心脱水処理を施してから乾燥(120℃、2.5時間)した。
(5)架橋
二硫化炭素に粉末硫黄を添加して得た、硫黄が3重量%の溶液に、(4)で得たエラストマーを含浸させたセルロース粒子を浴比10で浸漬し、大気圧・室温下で2〜4時間保持した。
溶液から取り出したセルロース粒子を水洗して、二硫化炭素及び表面に析出した硫黄を除去した後、乾燥した。
次いで、硫黄と天然ゴムのエラストマーとが含浸されているセルロース粒子を、雰囲気温度が165℃に加熱されているオーブン中に挿入して1時間保持して、セルロース粒子中に含有されているエラストマーに架橋を施した。
得られたセルロース粒子は、表面が若干褐色となった粒子であった。このセルロース粒子内に含浸されたゴム成分量は、分散液に浸漬する前のセルロース粒子の重量と架橋処理終了後のセルロース粒子の重量とから計算すると、6.8重量%であった。
尚、内部に天然ゴム成分が架橋されているセルロース粒子は、地中に埋めると、秋季で約3月程度で消滅していた。
【実施例2】
【0016】
実施例1で得たゴム成分が含浸されたセルロース粒子の耐衝撃性を測定した。測定装置の概要を図1に示す。図1に示す測定装置は、金属製の臼体10の直径9mmで深さ20mmの凹部12内に実施例1で得たセルロース粒子0.2gを充填し、重さ100gの杵体14を自然落下させてセルロース粒子に衝撃を与えた。かかる杵体14の落下回数をカウントした。
杵体14の自然落下回数が20000回に到達したとき、セルロース粒子の状態を電子顕微鏡観察したところ、図2(a)に示す様に、セルロース粒子は変形しているものの、割れているものは殆どなかった。
次に、実施例1の(1)で精練・洗浄・絶乾したセルロース粒子を用いた他は、図1に示す測定装置を用いて同様にして耐衝撃性を調査した。
すなわち、杵体14の落下回数が20000回に到達したとき、セルロース粒子の状態を顕微鏡観察したところ、図2(b)に示す様に、殆どのセルロース粒子にクラックや割れが発生していた。
【実施例3】
【0017】
実施例1において、セルロース粒子に代えてセルロース繊維としてのレーヨン糸(75デニール、7フィラメント)の精練糸を用いた他は、実施例1と同様にしてセルロース単繊維内にゴム成分が含浸された加工糸を得た。
得られた加工糸は、表面が若干褐色となった糸であって。得られた加工糸の単繊維内に含浸されたゴム成分量は、分散液に浸漬する前の原糸又は精練糸の重量と架橋処理終了後の加工糸の重量とから計算すると、6.5〜7.8重量%であった。
【0018】
次に、得られた加工糸の耐衝撃性を測定した。測定装置の概要を図3に示す。図3に示す測定装置では、一端が固定された加工糸16の他端に、15gの重り18を取り付けて、加工糸16に所定の張力を付与した。この様に、所定の張力が付与された加工糸16の途中は、基台上に固定された台20の上面上に位置し、台20の上面には、重さ100gで直径6.5mmの杵体22が設けられている。この杵体22は、自然落下して加工糸16に衝撃を与える。
かかる衝撃を加工糸16が切断するまで繰り返し与え、加工糸16が切断するまでの杵体22の自然落下回数をカウントした。
また、未架橋のエラストマーが分散された分散液に浸漬処理する前のレーヨン糸(75デニール、7フィラメント)の原糸及び精練糸についても、図3に示す測定装置を用い、原糸及び精練糸の各々が切断するまでの杵体22の自然落下回数をカウントした。
原糸が切断するまでの杵体22の自然落下回数を1として、精練糸及び加工糸の各々が切断するまでの杵体22の自然落下回数を、下記の表1に示す。
【0019】
【表1】

表1から明らかな様に、加工糸の耐衝撃性は、原糸の約17倍にも向上している。
【実施例4】
【0020】
実施例1において、セルロース粒子に代えてセルロース繊維としての木綿糸(75デニール、7本)の精練糸を用いた他は、実施例1と同様にしてセルロース単繊維内にゴム成分が含浸された加工糸を得た。
得られた加工糸は、表面が若干褐色となった糸であって。得られた加工糸の単繊維内に含浸されたゴム成分量は、分散液に浸漬する前の精練糸の重量と架橋処理終了後の加工糸の重量とから計算すると、6.8〜8.2重量%であった。
次に、得られた加工糸、未架橋のエラストマーが分散された分散液に浸漬処理する前の木綿糸(40番手双糸)の原糸及び精練糸ついての耐衝撃性の測定を、実施例3と同様に行った。
原糸が切断するまでの杵体22の自然落下回数を1として、精練糸及び加工糸の各々が切断するまでの杵体22の自然落下回数を、下記の表2に示す。
【0021】
【表2】

表1から明らかな様に、加工糸の耐衝撃性は、原糸の約17倍にも向上している。
【実施例5】
【0022】
(1)セルロース繊維
実施例3に用いたレーヨン糸(75デニール、7フィラメント)の精練糸と実施例4で用いた木綿糸(40番手双糸)の精練糸とを用いた。
(2)分散液の準備
市販されている天然ゴムの未架橋のエラストマー(粒状品:粒度分布測定の結果、粒径200dnmと1000dnmとにピークが存在した)を水で希釈して固形分15%とし、フッ素系界面活性剤を少量添加した。
(3)浸漬処理
調整した分散液を貯留した二個の容器を準備し、準備したレーヨン糸と木綿糸との各々を単独で浸漬した。この浸漬処理では、浴比を20とし、分散液の温度で45℃2時間保持した後、10時間徐冷する加熱・徐冷操作を3回繰り返して行った。
次いで、レーヨン糸と木綿糸との各々を約15kgのローラで絞った後、水洗を行った。水洗したレーヨン糸と木綿糸との表面に未架橋のエラストマーが存在しないことを確認した。
更に、水洗したレーヨン糸と木綿糸とを5〜10%のアルコール液に浸漬し、残存している未架橋のエラストマーを完全に凝固させた後、24時間の風乾を行った。
(4)架橋
風乾したレーヨン糸と木綿糸とを90℃で120分間加熱処理し、未架橋のエラストマーを架橋して、加工糸を得た。得られた加工糸の単繊維内に含浸されたゴム成分量は、分散液に浸漬する前の原糸又は精練糸の重量と架橋処理終了後の加工糸の重量とから計算すると、2.0〜8.8重量%であった。
(5)耐衝撃性
得られた加工糸の耐衝撃性について、実施例3と同様にして測定した。その結果を表3に示す。
【0023】
【表3】

表3から明らかな様に、加工糸の耐衝撃性は原糸よりも、大きく向上していることが判る。特に、木綿糸の耐衝撃性の向上は大きい。木綿糸の単繊維は中空状であるため、単繊維の中空内に未架橋のエラストマーが進入し、架橋されたものと考えられる。
【実施例6】
【0024】
(1)実施例5において、分散液を下記に示す分散液及び浸漬処理に変更した他は、実施例5と同様にして浸漬処理を施した。
[分散液]
市販されている合成ゴムの未架橋のエラストマー(粒状品:粒度分布測定の結果、粒径210dnmのみにピークが存在する正規分布状の粒径分布であった)を水で希釈して固形分10%と15%とし、フッ素系界面活性剤を少量添加した。
[浸漬処理]
調整した分散液を貯留した4個の容器を準備し、準備したレーヨン糸と木綿糸との各々を単独で浸漬した。この浸漬処理では、浴比を15とし、分散液の温度で45℃2時間保持した後、10時間徐冷する加熱・徐冷操作を3回繰り替えて行った。
次いで、レーヨン糸と木綿糸との各々を手絞りした後、約15kgのローラで絞り、水洗を行った。水洗したレーヨン糸と木綿糸との表面に未架橋のエラストマーが存在しないことを確認した。
更に、水洗したレーヨン糸と木綿糸とに、1%塩化カルシウム液に浸漬し、残存している未架橋のエラストマーを完全に凝固させた後、24時間の風乾を行った。
(2)架橋
風乾したレーヨン糸と木綿糸とを162℃で10分間加熱処理し、未架橋のエラストマーを架橋して、加工糸を得た。得られた加工糸の単繊維内に含浸されたゴム成分量は、分散液に浸漬する前の原糸又は精練糸の重量と架橋処理終了後の加工糸の重量とから計算すると、5.9〜14重量%であった。
(3)耐衝撃性
得られた加工糸の耐衝撃性について、実施例3と同様にして測定した。その結果を表4に示す。
【0025】
【表4】

表4から明らかな様に、加工糸の耐衝撃性は原糸よりも、大きく向上していることが判る。特に、固形分が15%の分散液を用いた水準の耐衝撃性の向上が大きく、就中、木綿糸の耐衝撃性の向上は著しく大きい。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】セルロース粒子の耐衝撃性を測定する測定装置を説明するための概略図である。
【図2】臼体10の凹部12に充填されたセルロース粒子に対し、杵体14の自然落下による衝撃を20000回与えた後のセルロース粒子の状態を示す顕微鏡写真である。
【図3】糸の耐衝撃性を測定するための測定装置を説明するための概略図である。
【符号の説明】
【0027】
10 臼体
12 凹部
14,22 杵体
16 加工糸
18 重り
20 台

【特許請求の範囲】
【請求項1】
セルロースから成るセルロース成形物である粒子又は単繊維を、未架橋のエラストマーが分散されている分散液に浸漬して、前記粒子又は単繊維内に5重量%以上の未架橋のエラストマーを含浸し、
次いで、前記エラストマーの架橋剤を前記粒子又は単繊維内に含浸した後、前記粒子又は単繊維内の未架橋のエラストマーを架橋し、ネット状に架橋されているゴム成分を前記粒子又は単繊維内に形成することを特徴とするセルロース成形物の製造方法。
【請求項2】
未架橋のエラストマーとして、天然ゴム又は合成ゴムの未架橋のエラストマーを用い、架橋剤を用いる請求項1記載のセルロース成形物の製造方法。
【請求項3】
未架橋のエラストマーとして、平均分子量が7000以下の未架橋エラストマーを用いる請求項1又は請求項2記載のセルロース成形物の製造方法。
【請求項4】
未架橋のエラストマーとして、機械的な剪断力を付与して低分子化した未架橋エラストマーを用いる請求項1〜3のいずれか一項記載のセルロース成形物の製造方法。
【請求項5】
セルロースから成るセルロース成形物が粒子又は単繊維であって、前記粒子又は単繊維内に、ゴム成分が5重量%以上含浸されていると共に、
前記ゴム成分がネット状に架橋されていることを特徴とするセルロース成形物。
【請求項6】
ゴム成分が、天然ゴム成分又は合成ゴム成分である請求項5記載のセルロース成形物。

【図1】
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【図3】
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【図2】
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【公開番号】特開2007−297614(P2007−297614A)
【公開日】平成19年11月15日(2007.11.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−98801(P2007−98801)
【出願日】平成19年4月4日(2007.4.4)
【出願人】(306003545)
【Fターム(参考)】