説明

セルロース系材料の炭酸塩前処理およびパルプ化の方法

粉砕されたセルロース系繊維性材料を処理する方法であって、炭酸ナトリウムによって処理し、その後、その前処理された材料を、アントラキノン(AQ)の存在の下で蒸解する方法である。これによって生成されたパルプは、従来技術によって生成されたパルプと比較すると、より高い収率、強い強度、及び、よりよい漂白性を有する。AQは、炭酸塩前処理段階で導入することができる。この方法は、さらに、酸前処理を含むものとすることができ、生成されたパルプにより高められた特性をもたらす。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アントラキノン(AQ)の存在下、蒸解化学薬品でセルロース系材料を蒸解(cooking)する前に、粉砕されたセルロース系繊維性材料、例えば木材チップを、炭酸塩前処理で処理するための方法に関する。
【背景技術】
【0002】
化学パルプ化の分野では、紙およびその他の製品の製造に使用されるパルプを生成するために、木材チップなどのセルロース系材料をパルプ化薬品で処理する。当技術分野では、バッチ式および連続式の両方の蒸煮釜における、ソーダ蒸解と呼ばれている苛性ソーダ(即ち、パルプ化薬品としての水酸化ナトリウム[NaOH])の使用が周知である。ソーダ蒸解には、回収ボイラの設計圧力を上昇できることから回収ボイラの効率およびプロセスにおける硫黄の除去の向上が図られることを含めた多くの利点がある。数ある利益の中でも、蒸解プロセスにおける硫黄の除去によって、黒液ガス化システムの使用が可能になる。黒液ガス化の使用の結果、その発電量は、硫黄ベースシステムを使用して発生させた電力の何倍にもなる。
【0003】
ソーダ蒸解の1つの欠点には、クラフト蒸解、即ち、パルプ化薬品として水酸化ナトリウム(NaOH)および硫化ナトリウム(NaS)を使用した蒸解によって実現されたものよりも、低いパルプ収率であること(針葉樹および広葉樹の両方に関して)がある。しかし、ソーダ蒸解にアントラキノン(AQ)を添加すると、パルプ収率が改善し、したがってパルプ収率が、クラフト蒸解の場合に匹敵することが示されている。しかし、AQを添加した場合であっても、ソーダ蒸解プロセスから得たパルプは、クラフト蒸解に比べてパルプ強度が弱く、漂白が不十分である。
【0004】
しかし、クラフト蒸解と比較すると、ソーダアントラキノン(SAQ)蒸解にも欠点が認められる。例えばSAQ蒸解は、より多くの量のNaOHを必要とし、SAQパルプ化プロセスから生成されたパルプを漂白することは、より難しい。例えば、より多くのNaOHが必要になるほど、より多くの再苛性化が必要になる。当技術分野で知られているように、NaOHを再生するための炭酸ナトリウムの再苛性化は、下式1および2に示されるように進行する。
式1:NaCO+CaO+HO→2NaOH+CaCO
式2:CaCO→CaO+CO
【0005】
必要とされる木材パルプ1トン当たりのNaOHの体積は、SAQ蒸解の場合、クラフト蒸解に必要とされるNaOHに比べて高い。SAQ蒸解で必要とされるより高い体積のNaOHは、クラフト蒸解では存在するがSAQ蒸解では存在することのない硫化ナトリウムを補うのに必要である。当技術分野で知られているように、クラフト蒸解で存在する硫化ナトリウム(NaS)は、NaSHおよびNaOHに加水分解し、したがってクラフト蒸解中に、セルロース系材料の蒸解に影響を及ぼす。ソーダAQ蒸解に必要とされるNaOHの体積は、クラフト蒸解よりも約20%から40%高い。NaOHに対する要件がより高くなると、回収ボイラから得た炭酸ナトリウム(NaCO)を、蒸煮釜で使用されるNaOHおよび繊維ラインのその他の部分に変換しまたは苛性化するためのエネルギー要件もより高くなる。
【0006】
例えば、NaO 16.0%および硫化度30%の活性アルカリ(AA=NaOH+NaS(NaOベースで))をクラフトパルプ化に使用する場合、AAの11.2%はNaOH由来であり、AAの4.8%はNaS由来である。クラフト回収では、硫黄の全てがNaSとして回収される場合、所望の11.2%のNaOが新しいチップで実現されるように、NaOHに変換するのに再苛性化が必要と考えられる。広葉樹のSAQパルプ化は、クラフトパルプ化とほぼ同じ有効アルカリ(EA=NaOH+1/2NaS(NaOベース))を必要とする。上記クラフトパルプ化の例では、EAはNaOが13.6%であったが、同様の量のアルカリがSAQパルプ化に必要と考えられ、その全てはNaOH由来と考えられる。
【0007】
さらに、ヘミセルロースは、ソーダ、クラフト、およびSAQパルプ化で素早く溶解し、加えられたNaOHのかなりの量が、ヘミセルロースを低分子量(MW)生成物に分解するのに消費されることが周知である。これらの低MW有機物は、当技術分野で「黒液」と呼ばれるパルプ化流出液から回収することが難しく、高い発熱量を持たない。回収炉から得られる緑液は、SAQプロセスが使用される場合に主にNaCOであることも知られている。
【0008】
Lo−Solids(登録商標)蒸解法(参照によりその全体が本明細書に組み込まれている、米国特許第5,489,363号;第5,536,366号;第5,547,012号;第5,620,562号;第5,662,775号;第5,824,188号;第5,849,150号;第5,849,151号;第6,086,712号;第6,132,556号;第6,159,337号;第6,280,568号;第6,346,167号に記載されている)および蒸解化学薬品としてソーダ−AQ(SAQ)を使用して加工された広葉樹材料から得られたパルプは、従来のクラフト蒸解によって生成されたものよりも良好な強度を有するパルプになることが示されている。さらに、蒸解化学薬品としてソーダ−AQを用いるLo−Solids(登録商標)蒸解法を使用して加工された、広葉樹材料から生成されたパルプは、従来のソーダ−AQよりも良好な最終白色度を得ることができるが、クラフト蒸解から生成されたパルプほど白色ではない。Lo−Solidsソーダ−AQによる漂白化学薬品消費量は、所与の最終白色度に関して従来のソーダ−AQよりも良好であるが、パルプは依然として、クラフト蒸解によって生成されたパルプよりも多量の漂白化学薬品を必要とする。
【0009】
これらおよびその他の理由で、クラフト蒸解(およびその多くの硫黄に関連した問題)は、産業において広く行き渡ったパルプ化プロセスである。しかし、出願人は、実質的に硫黄を含まない(<1g/l 全硫黄)炭酸塩溶液でセルロース系材料を前処理し、次いでSAQを実施することによって、SAQパルプ化の欠点を克服することができることを見出した。
【0010】
米国特許第1,887,241号(参照によりその全体が本明細書に組み込まれる)は、炭酸ナトリウムを用いて予備蒸解とも呼ばれる前処理をセルロース系材料に行い、その後、得られた材料をソーダまたはクラフト蒸解で処理することについて論じている。第’241号特許に開示されているプロセスでは、蒸された木材チップは、華氏約330度の温度で、即ち摂氏約165度(C)の温度で、この炭酸塩前処理を受けることができる。第’241号特許によれば、炭酸ナトリウムを使用する前処理段階は、必要とされるNaOHの量を低下させる。例えば、米国特許第1,887,241号に開示されているように、従来のソーダ蒸解には約25%のNaOHが添加されるのに比べ、15%のNaOHと共に対木材量10%の炭酸ナトリウムが使用される。約165℃での炭酸ナトリウムによる前処理が、上述の特許に開示されているが、第’241号特許(1932年公開)に開示された高温処理は、様々な理由でパルプ化産業に受け入れられておらず、現在一般的には行われていない。また第’241号特許に開示されている処理では、どの加工段階においてもアントラキノンは使用されていない。
【0011】
パルプ産業での最近の有益な技術には、炭酸ナトリウム含有溶液を使用して、セルロース系材料からシリカを除去するための方法がある(参照によりその全体が本明細書に含まれている、米国出願第2006/0225852参照)。第0225852号出願に開示されている方法は、セルロース系材料に含有されるシリカのほぼ100%の除去に関するもので、そのような除去は、従来の方法を使用した繊維性材料の加工の前に行われる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明の態様は、従来技術の方法の欠点および難点を克服する、セルロース材料を加工するための方法を提供する。例えば、本発明のいくつかの態様は、パルプ化産業で長く放置されたままであり未だ解決されていない要求、即ち、パルプ工場から得られる硫黄の存在を最小限に抑え、またはなくし、それと同時に商業的に実現可能な生成物を生成するための手段を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明の、その多くの態様は、実質的に硫黄を含まない(<1g/l 全硫黄)炭酸ナトリウム(NaCO)などの炭酸塩を用いて、セルロース系材料の前処理を行い、その後に、水酸化ナトリウム単独(即ち、「ソーダ」プロセス)、また水酸化ナトリウムおよび硫化ナトリウム(即ち、「クラフト」プロセス)、またはソーダおよびクラフトの組合せなどのパルプ化薬品と、追加的におよび少なくとも1種のアントラキンノン、即ちアントラキノンまたは2−メチルアントラキノンなどの置換アントラキノンとの存在下で、前処理されたセルロース系材料を蒸解することに関する。AQは、プロセス中のどの時点でも添加してよい。例えばAQは、前処理段階、蒸解段階、または前処理段階および蒸解段階の両方の段階、並びに各段階の前または後に、添加してよい(蒸解段階へのAQの添加は、参照によりその全体が本明細書に組み込まれている米国特許第6,569,289号に記載されるように、行うことができる)。
【0014】
本発明の一態様は、粉砕されたセルロース系繊維性材料を処理する方法であって、a)実質的に硫黄を含まない炭酸塩含有溶液などの炭酸塩含有溶液で、前記セルロース系繊維性材料を処理して、前処理されたセルロース系材料を生成する工程、b)前処理されたセルロース系材料を、セルロースパルプを生成するのに十分な時間および十分な温度で、パルプ化薬品を用いて処理する工程からなり、a)およびb)の少なくとも一方で、セルロース系繊維性材料が少なくとも1種のアントラキノンで処理される方法である。この方法では、セルロース系繊維性材料を、a)、b)、または、a)およびb)の両方において、アントラキノンを用いて処理してもよい。一態様では、炭酸塩含有溶液は、炭酸ナトリウム含有溶液からなるものとすることができる。別の態様では、パルプ化薬品が、水酸化ナトリウムからなるものとすることができる。さらに、活性パルプ化薬品は、実質的に水酸化ナトリウムからなるものとできる。
【0015】
上記方法の一態様は、a)の前に追加工程を含み、前記粉砕された繊維性材料は、c)酸性溶液で処理され、c)の後に、d)前記セルロース繊維性材料から酸性溶液の少なくとも一部の抽出するものとすることができる。
【0016】
別の態様では、この方法は、a)が行われない場合に生成されるパルプに比べ、より低い不良率%およびより高いスクリーン後収率を有するパルプを生成する。
【0017】
本発明の一態様はさらに、酸素脱リグニン処理並びに少なくとも1つの漂白段階を含むものとすることができ、その方法は、88%エルレフォよりも高い白色度を有するセルロース系パルプを生成する。酸素脱リグニン処理が行われる場合、この方法は、a)を行わずに生成されたパルプに比べ、所定のスクリーン後収率で、酸素脱リグニン処理の後により低いカッパー価を有するパルプを生成することができる。当技術分野で知られるように、カッパー価は、脱リグニン度を定めるのに使用される。カッパー価は、化学薬品消費量50%に修正されたパルプの修正済み過マンガン酸試験値を指す。カッパー価は、広範囲にわたってリグニン含量に対し直線関係になるという利点を有し、例えば、カッパー価×0.15%=パルプ中のリグニン%である。
【0018】
本発明の追加の態様は、粉砕されたセルロース系繊維性材料を処理する方法に関するもので、炭酸塩含有溶液でセルロース系繊維性材料を処理して前処理されたセルロース系材料を生成し、前処理されたセルロース系材料を十分な時間をかけて十分な温度において、パルプ化薬品で処理してセルロースパルプおよび使用済みパルプ化薬品を含有する液体を生成し、使用済みパルプ化薬品を含有する液体を処理し使用済みパルプ化薬品から炭酸塩含有溶液を生成し、上述の方法のa)における炭酸塩含有溶液として、使用済みパルプ化薬品から生成された炭酸塩含有溶液を使用するものである。
【0019】
本発明の別の態様は、粉砕されたセルロース系繊維性材料を処理する方法であって、a)酸溶液でセルロース系繊維性材料を処理する工程、b)炭酸塩含有溶液で前記セルロース系繊維性材料を処理して前処理されたセルロース系材料を生成する工程、及び、c)十分な時間および十分な温度で、硫黄含有パルプ化薬品を用い、前処理されたセルロース系材料を処理してセルロースパルプを生成する工程を含み、b)およびc)の少なくとも一方で前記セルロース系繊維性材料がアントラキノンで処理される方法からなる。硫黄含有パルプ化薬品は、典型的には水酸化ナトリウムおよび硫化ナトリウムを含有するものとすることができる。
【0020】
本発明のさらに別の態様は、上述の方法の1つから生成されたパルプであって、従来技術の方法から生成されたものよりも高い収率を有するパルプを含む。本発明によるこれらおよびその他の態様および利点は、下記の図面の説明に照らしてより完全に理解することができる。
【0021】
本発明は、以下に示される詳細な説明と、単に例示したものであって本発明を限定するものではない添付図面から、より良く理解されよう。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本発明の態様によるパルプ化プロセスを示す概略図である。
【図2】本発明の態様において使用することができる、化学的回収システムを示す概略図である。
【図3】本発明の態様によって生成されたパルプのスクリーン後収率を、従来技術によって生成されたパルプと比較してプロットした図である。
【図4】本発明の態様によって生成されたパルプの光吸収係数値を、従来技術によって生成されたパルプと比較してプロットした図である。
【図5】本発明の態様によって高められた、アントラキノンによる、リグニンと炭水化物との反応の触媒作用を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
本出願人は、炭酸塩化合物、例えば実質的に硫黄を含まない炭酸ナトリウムを用いた第1の前処理段階で、及びその後の第2のパルプ化段階、例えばアントラキノン(任意のアントラキノンを記号で表すのに、AQを使用する)の存在下でのソーダパルプ化段階で、木材チップなどの粉砕されたセルロース系繊維性材料を処理することによって、改善されたパルプを生成することができることを見出した。改善されたパルプは、パルプが第1の前処理段階の前に酸処理を受け、その後にアントラキノンの存在下でクラフトパルプ化を行った場合にも生成される。例えば生成されたパルプは、数ある有益な性質の中でも、よりよいパルプ収率、向上した漂白性、より高い強度、およびより低い不良率によって特徴付けられる。
【0024】
さらに、パルプ化薬品でチップを処理する前に、炭酸塩含有溶液でチップを処理することによって、所望の処理のためにパルプ化プロセスで必要とされるパルプ化薬品の量を減少させることができる。この新事実は、硫黄含有パルプ化薬品、その最も代表的なものとして硫化ナトリウム(NaS)の含量を、減少させまたはなくそうとする試みに著しい影響を与える可能性がある。上述のように、ソーダプロセスやSAQプロセスなどの非硫黄パルプ化プロセスは、硫黄保持クラフトプロセスに比べ、生成されたパルプの品質が比較的不十分であるので、産業においてその受入れが限られている。さらに、典型的にはソーダおよびSAQプロセスは、クラフトプロセスに比べて、大量のパルプ化薬品、即ち水酸化ナトリウム(NaOH)を必要とする。以下に論じられるように、本発明の態様は、これらの限界を克服すると共に経済的に実現可能なパルプを生成する。
【0025】
本発明の追加の態様は、粉砕されたセルロース系繊維性材料を処理する方法に関するものであって、実質的に硫黄を含まない炭酸塩含有溶液でセルロース系繊維性材料を処理して前処理されたセルロース系材料が生成する工程、十分な時間および十分な温度で、アルカリ性パルプ化薬品などのパルプ化薬品を用いて、前処理されたセルロース系材料を処理してセルロースパルプおよび使用済みパルプ化薬品を含有する液体を生成する工程、使用済みパルプ化薬品を含有する液体を処理して使用済みパルプ化薬品から炭酸塩含有溶液が生成する工程、及び、上記段落16に記述されたa)において、炭酸塩含有溶液として、使用済みパルプ化薬品から生成された炭酸塩含有溶液を使用する工程からなる。炭酸塩含有溶液は、NaOとして対チップ約1%から約12%の炭酸ナトリウムを含む、炭酸ナトリウムを含有してよい。上記方法は、酸素脱リグニン処理を含んでもよい。
【0026】
一態様において、使用済みパルプ化薬品を含有する液体を処理する工程は、当該液体を十分に濃縮して燃焼を維持する工程、濃縮液を燃やして炭酸塩を含有するスメルトを生成する工程、および、当該スメルトに液体を導入して、使用済みパルプ化薬品から炭酸塩含有溶液を供給する工程を含む。
【0027】
本発明の別の態様は粉砕されたセルロース系繊維性材料を処理する方法からなり、a)酸溶液でセルロース系繊維性材料を処理する工程、b)炭酸ナトリウムなどの炭酸塩含有溶液でセルロース系繊維性材料を処理して前処理されたセルロース系材料を生成する工程、及び、c)十分な時間および十分な温度で、パルプ化薬品を用いて、前処理されたセルロース系材料を処理してセルロースパルプを生成する工程からなり、b)およびc)の少なくとも一方では、セルロース系繊維性材料がアントラキノンで処理されるものである。
【0028】
本発明の態様によるプロセスおよび方法を使用することにより、実験室試験からいくつかの驚くべき結果が見出された。これらの改善点には、予測されるよりも大きな、蒸解段階でのH因子の低下(第1段階処理からのH因子と蒸解からのH因子との合計は、同じカッパー価で第1段階炭酸塩処理のないH因子よりも少なく、これは下記の表2および3に示されている;パルプ収率の増加、高められた漂白度、増大した強度、及び、より低い不良率)が含まれる。当技術分野で知られているようにかつ本出願の目的で、H因子は、蒸解時間および温度を脱リグニンに関する単一の変数として表す方法を指す。
【0029】
図1は、本発明の態様を用いるパルプ化プロセス10の概略図であり、粉砕されたセルロース系繊維性材料12、例えば木材チップは、炭酸塩前処理段階14および蒸解またはパルプ化段階16において処理される。「木材チップ」という用語は本発明の考察を容易にするのに使用されるが、本発明の態様はチップの処理に限定するものではなく、広葉樹チップ、針葉樹チップ、おがくず、再生繊維、再生紙、バガスなどの農業廃棄物、およびその他の繊維性セルロース系材料を含むがこれらに限定するものではない、粉砕されたセルロース系繊維性材料の任意のものを処理するのに使用してよいことが、当業者に理解されよう。
【0030】
当技術分野でよく見られるように、プロセス10に導入される前に、チップ12は一般的に処理に先立って調整することができ、例えば蒸してチップを湿らし、チップを加熱し、可能な限り多くの空気およびその他のガスを除去して処理溶液の浸透を高めることができる。チップ12の水蒸気処理は、処理の前に、例えば共にニューヨーク州グレンズフォールズのAndritz Inc.によって提供される水平スチーム容器またはDiamondback(登録商標)スチーム容器で行うことができる。本発明の態様によれば、処理の炭酸塩段階14(c段階、前処理段階、または第1の段階とも呼ぶ)において、チップ12を炭酸塩含有溶液13で、典型的には炭酸ナトリウム溶液で処理するが、炭酸カリウムおよびマグネシウム溶液を利用することもできる。本発明の一態様では、この炭酸塩含有溶液は、実質的に硫黄を含まないものとすることができる。このように硫黄が存在しないということは、絶対的な意味で炭酸塩溶液中に硫黄が存在しないことを意味するのではなく、溶液は「実質的に」硫黄を含まないことを意味することが、当業者なら理解されよう。第1の段階14における処理の後、チップ12を第2のまたはパルプ化段階16で、即ち蒸解段階で、パルプ化薬品20を用い、セルロースパルプ18を生成するのに十分な時間および十分な温度で、処理する。パルプ18は、典型的には、さらなる処理に向けて、その他の従来の種々の処理のうち、例えば洗浄、漂白、またはスクリーニングに向けて、送られる。炭酸塩含有溶液13は、様々な供給源から入手可能であり、市販の炭酸塩、および関連プロセスから回収された炭酸塩、例えば化学的回収サイクルなど(例えば、図2に関して例示され以下に論じられる)から回収された炭酸塩があるがこれらに限定するものではない。
【0031】
本発明の態様によれば、炭酸塩含有溶液13は、対木材で約1%から約12%の炭酸塩(NaOとして表す)の濃度を有してよい。例えば炭酸塩含有溶液は、NaOとして対木材で約2%から約9%の濃度を有してよい。炭酸塩含有溶液は、典型的には水溶液として、即ち水に炭酸塩を加えた水溶液として提供されているが、その他の化合物も存在するであろう。当業者なら、炭酸塩%について記述するときの「約」という用語の使用を理解し、絶対測定値を有することが困難であり、かつ炭酸塩%について記述するときのこの用語の使用は当技術分野では至る所で見られることを認識していよう。NaCO 1kgモル(106kg)は、NaO 1kgモル(62kg)に等しい。カリウムやマグネシウムなどのその他の炭酸塩は、NaOモル当量として添加してよい。炭酸塩処理14は、典型的には、100℃よりも高い温度、例えば約120℃から約200℃の間で行われる。一態様では、炭酸塩処理14は、約120℃から約170℃の間、例えば約120℃から約150℃の間で行ってよい。当業者なら、温度範囲について記述するときの「約」という用語の使用を理解し、絶対測定値を有することが困難であり、かつ温度について記述するときの「約」という用語の使用は、当技術分野で至る所に見られることを認識してしよう。そのような「約」という用語の使用は、この開示全体を通して、圧力、時間、温度、パルプ化プロセスで使用される成分のパーセンテージ、およびその他の関連する測定値を含めた処理プロセスの任意のパラメータに関する測定範囲を定めることが、当業者に理解されよう。そのような温度では、処理14は、典型的には約50psigから約150psigの過圧状態で行ってよい。前処理段階14は、典型的には、プロセス10で結果的に生成されたパルプに少なくとも何らかの利益をもたらすのに十分な時間で行われる。例えば、前処理段階14は、少なくとも5分間行ってよいが、供給材料の性質、即ちチップ12の性質に応じて約15分から約6時間行ってもよいが、典型的には約15分から約120分行われる。
【0032】
本発明の一態様では、25によって示されるように、前処理14の後かつパルプ化段階16の前に、チップ12からチップに存在する液体のいくらかを除去または抽出することができる。一態様では、抽出された炭酸塩含有液体25を、例えば回収システム内で処理し、処分し、またはその他の方法で再使用してよい。例えば一態様では、炭酸塩含有液体を再循環させ、炭酸塩13の供給源としてまたは炭酸塩13への補給物として使用してよい。
【0033】
前処理段階14の後、炭酸塩前処理チップ12は、セルロースパルプ18が生成されるように十分な時間および十分な温度でパルプ化薬品を用い、パルプ化段階16で処理される。単一の段階16が図1に示されているが、しかし本発明の一態様によれば、1つまたは複数のパルプ化段階16を有することができる。本発明の一態様によれば、パルプ化段階16で使用されるパルプ化薬品20は、主に水酸化ナトリウム(NaOH)とすることができ、即ちパルプ化段階16は、「ソーダ」パルプ化段階とすることができる。本発明の別の態様では、パルプ化薬品20は、NaOHおよび硫化ナトリウム(NaS)を含むことができ、即ちパルプ化段階は、「硫酸塩」処理または「クラフト」処理といえる。パルプ化段階がクラフトパルプ化段階を含む場合、一態様では、炭酸塩段階13の前に酸段階22(以下に論じる)を行ってよい。しかし本発明の態様によれば、前処理されたチップ12のパルプ化は、少なくとも1種のアントラキノン(AQ)の存在下、パルプ化段階16で行われる。
【0034】
一態様において、AQの存在下でのチップ12のパルプ化は、米国特許第6,569,289号(その開示は、参照によりその全体が組み込まれている)に記載されているように行うことができる。本出願人は、炭酸塩、特にNaCOによるチップ12の前処理の後、SAQパルプ化を行うことによって、従来技術の処理によって得られたパルプに比べて向上した性質、例えば改善された収率、減少したリグニン、および高められた漂白度を有するパルプ18が得られることを見出した。例えば、本出願人によって行われた実験は、炭酸塩または炭酸塩−AQ前処理および本発明のパルプ化プロセスにおいて、典型的にはAQによる従来技術の処理から予測できない相乗効果が生じ得ることを示唆している。
【0035】
本発明の態様によれば、少なくとも1種のAQ、またはその誘導体もしくは均等物を、前処理段階14、パルプ化段階16、または両方の段階14および16に導入する。一態様では、AQは、その還元型(即ち、一般にAHQと呼ばれる化学薬品、図5参照)で供給され得る。一態様では、AQの水溶液を、炭酸塩前処理段階14に導入してよく(図1の破線17によって示されるように)、例えば前処理段階14の前、開始時、中間、終わり近く、またはこれらをいくつか組み合わせて導入してよい。段階14中に導入された水性AQの濃度は、対チップで約0.01重量%から約0.20重量%の間に及んでよいが、典型的には約0.05から約0.10重量%の間である。本出願の目的上、AQは、図1に示されるパルプ化プロセス中のいつでも添加することができる。
【0036】
一態様では、AQを、パルプ化段階16に導入してよく(図1の線21によって示されるように)、例えばこの段階の開始時、中間、終わり近く、またはこれらをいくつか組み合わせて導入してよい。パルプ化段階16中に導入された水性AQの濃度は、対チップで約0.01重量%から約0.20重量%の間に及んでよいが、典型的には、対チップで約0.05から約0.1重量%の間である。一態様では、AQを炭酸塩段階14で導入し、パルプ化段階16から除いてもよく、別の態様では、AQを炭酸塩段階14およびパルプ化段階16の両方に導入してもよい。
【0037】
本発明の態様によれば、炭酸塩含有溶液、例えば硫黄を含まない炭酸塩溶液として炭酸ナトリウム溶液を使用する第1の処理段階14の後、NaOH(例えば、対木材で約13%のNaOHの投入量で)およびAQ(即ち、SAQ蒸解段階)を用いる第2のパルプ化段階16を行う場合、驚くべき結果が実験室試験で確認された。対木材で13%のNaOH用量は、約10%のNaOに相当し、即ち、2kgモルまたは80kgのNaOHは、1kgモルまたは62kgのNaOに等しい。例えば、実験室試験では、第1の炭酸塩段階14の後に、AQの存在下で第2のソーダパルプ化段階16(対木材で13%のNaOHを使用)を行う場合、パルプ化処理は著しく低いNaOH要件を有し、不良率の上昇をもたらすことなく、クラフトパルプによって生成された場合に近い収率のパルプを生成した。
【0038】
本発明の別の態様では、前処理段階14の前に、酸段階22で、チップ12を酸性溶液19で処理することができる(図1の破線で示される)。AQの存在下でのクラフトパルプ化が使用されるパルプ化方法である場合、酸前処理22の後に炭酸塩処理14を行ってよい。任意の酸含有溶液を酸19として使用することができるが、一態様では、酸19は、非硫黄含有酸溶液、例えば有機酸(酢酸など)または無機酸(硝酸やフッ化水素酸など)が好ましい。一態様では、段階22を、天然に生ずる酸の存在下、即ち天然に生ずる木酢の存在下で行うことができる。酸溶液19は、約6またはそれ以下のpH、例えば約4から約6の間のpHを有する水性環境をチップ12の周りに生成するために使用することができる。酸処理は、50℃よりも高い温度、例えば約80℃から約160℃で行ってよい。酸処理段階22は、典型的には、プロセス10によって生成されたパルプに少なくともいくらかの利益を与えるのに十分な時間、行われる。例えば酸処理段階22は、少なくとも5分間行うことができるが、約30分から約6時間行ってもよく、典型的には、供給材料の性質、例えばチップ12のpHに応じて、約30分から約90分行われる。必要とされる酸の量は、120℃で、2から6%の酢酸と同じ効果を発揮するのに必要とされる任意の量とすることができる。
【0039】
図1に示されるように、本発明の一態様では、酸処理22の後および炭酸塩前処理14の前に、抽出段階23(図1中、破線で示される)によって示されるように、酸処理22の後にチップ12に存在する液体の少なくとも一部を除去または抽出してもよい。一態様では、抽出された酸含有液体23を、例えば回収システム内で処理し、処分し、または再使用してよい。例えば一態様では、酸含有液体を、酸19の供給源または補給物として再循環させ、再使用することができる。
【0040】
酸処理は、チップ12から供給することができ、例えば段階22の酸は、成熟木材(即ち、木材そのものから自然に生ずる酸性液を生成するのに十分な時間にわたって貯蔵された木材)から得られる酸でよい。別の態様では、段階22の酸は、従来の酸加水分解プロセスによって、例えばチップ12から金属およびその他の汚染物質を除去するのに使用されるプロセスによって、供給してよい。そのような1つのプロセスは、米国特許第5,338,366号(その開示は、参照によりその全体が本明細書に組み込まれている)に開示されている。
【0041】
本発明の態様によれば、酸処理段階22を、炭酸塩前処理段階14と、NaOH(ソーダ)およびAQ、またはNaOHおよびNaS(クラフト)およびAQ、またはソーダおよびAQおよびクラフトおよびAQの組合せのいずれかを有するパルプ化段階16とに組み合わせることによって、化学薬品消費量(例えば、必要とされるNaOHの量)を減少させ、得られるパルプ18の漂白度を高めることができる。即ち、所望の白色度を実現するのに必要とされる漂白化学薬品の量を、従来技術の処理に比べて減少させるこができる。本発明のいくつかの態様では、酸処理22の後に炭酸塩処理14を行い、その後にSAQを行うプロセスを使用した場合、パルプ収率に改善を見ることも可能である。漂白度の改善は、パルプ化段階16がクラフトプロセスである場合に観察される。SAQ蒸解の化学薬品消費量の欠点は、炭酸塩処理段階14によって対処することができ、本発明の態様は、パルプの漂白度を酸素、また二酸化塩素などのその他の一電子移動酸化剤によっても、改善することができる。酸処理段階22(A)は、さらに、ソーダ−AQおよびクラフトパルプの両方の漂白度を、特に酸素(O)脱リグニン段階の後に改善することができる。クラフト緑液(NaCO+NaS)は、パルプ化プロセス16がクラフトプロセスを含む場合、炭酸塩の供給源13として使用できる。
【0042】
図2は、本発明の態様で使用することができる化学的回収システム100の概略図である。化学的回収システム100は、とりわけ当技術分野で知られている黒液の燃焼生成物の中でも、炭酸ナトリウムおよび硫化ナトリウムを含有する(黒液がクラフト黒液を含む場合)化学スメルト(図示せず)を生成するために、濃縮された使用済み蒸解液112、例えば黒液を燃焼させるための、従来の回収炉またはガス化装置110を含む。従来の手法によれば、炭酸塩含有スメルトは、容器114内、即ち緑液タンク内の水に溶解して、炭酸塩を含有する水溶液(「緑液」として知られる)を生成する。一態様では、硫化物を含有する緑液は、パルプ化段階がクラフトパルプ化を含む場合に炭酸塩含有溶液に使用してよい。緑液による炭酸塩処理の前に、酸処理(図1の段階22)が行われ、その後にクラフトパルプ化が行われる。容器114は、緑液タンクまたは当技術分野で知られているその他の適切な容器でよい。従来技術の手法によれば、容器144内の水性炭酸ナトリウムは、典型的にはさらなる加工120、即ち苛性化へと進められ、それによって、例えば酸素脱リグニンのための蒸解または漂白に使用されることになるNaOHが再生される。本発明の態様によれば、容器114内の緑液の炭酸塩は、図1に示される前処理段階14のための、炭酸塩13の1つの供給源として使用することができる。
【0043】
本発明の態様によって提供された改善点および利点は、実験室バッチ処理容器、即ち実験室バッチ蒸煮釜で、本出願人が調査した。そのような1つの実験室試験の結果を、表1にまとめる。そのような容器は、一般に、連続式およびバッチ式蒸煮釜用のプロセスを開発するのに使用される。本発明では、連続式またはバッチ式蒸煮釜を使用してよい。
【0044】
表1に、処理条件と、バッチ式蒸煮釜を使用した一連の実験室試験によって得られた結果をまとめる。本発明は、表1の試験1、3、および4に該当し、少なくともいくらかの炭酸ナトリウムが第1の処理段階に供給され、その後、ソーダ−AQ(SAQ)パルプ化段階に供給される。実験番号2は、炭酸塩前処理のない、従来のSAQパルプ化段階に該当する参照試験であり、実験番号5は、AQのない従来のクラフト蒸解に該当する参照試験である。
【0045】
【表1】

【0046】
これらの実験室試験では、サトウカエデ(Acer saccharum)チップ(広葉樹)0.8kgを実験室蒸煮釜に投入した。表1にまとめた炭酸塩前処理は、NaCO用量を、対チップNaOとして4.0〜6.0%、即ち6.8〜10.3%のNaCOを使用して、165℃および170℃で行った。実験1、3、および4では、炭酸塩前処理(CPC=炭酸塩予備蒸解)の後に、対チップNaOとして10%のみのNaOH用量を用いて、ソーダ−AQパルプ化を行った。初期試験方法は、炭酸塩前処理の後、バッチ蒸煮釜を減圧し(即ち、「蒸煮釜のブローイング」)、炭酸塩段階のオフガスを凝縮する(即ち、流出液)。NaOHおよびAQを、凝縮流出液に添加し、NaOHおよびAQを有する流出液を、チップサンプルが入っている蒸煮釜に再び投入した。次いで蒸煮釜を、元のようにパルプ化温度まで加熱した。
【0047】
表1は、試験の前処理および蒸解段階に関する「H因子」を含む。当技術分野で知られているように、H因子は、処理温度に対するアルカリ性脱リグニン率を正規化する。典型的には、H因子が高くなるにつれ、処理はより過酷になる。第2の加熱上昇中のH因子は、その全体がSAQ蒸解に含まれる。表1は、炭酸塩前処理後とソーダ−AQ処理後の、蒸煮釜内の液のpHも提供する。
【0048】
本発明の利点は、表1に示される「スクリーン後収率」、「不良率」、および「カッパー価」のデータに反映される。当技術分野で知られているように、スクリーン後収率は、処理後、およびチップ、細粒、ピンなどであってプロセスで十分にパルプ化されなかったもの、およびその他の非繊維性破片が除去されるようにパルプがスクリーニングされた後に、パルプ化されたチップ中に存在する当初のチップの%である。当技術分野で知られているように、より高い相対スクリーン後収率が好ましい。不良率は、スクリーニングによる単離などのプロセスによって、当初のチップのどの程度が完全には蒸解されなかったかを示すものである。不良率が低いほど、廃棄されまたは再処理される木材も少なくなる。やはり当技術分野で知られているように、カッパー価は、得られたパルプ中に存在する望ましくないリグニンの量を、相対的に示すものである。典型的には、カッパー価がより高くなるほど、パルプ中に存在するリグニンがより多くなり、かつ所望の漂白後の白色度を実現するためにより多くの漂白化学薬品が必要になる。従って、より低いカッパー価が好ましい。
【0049】
表1のデータは、本発明の利点を裏付けている。表1に示されるデータは、図1に示される方法によって、従来のソーダ−AQパルプ化が劇的に改善することを示す。例えば、図1に示されるように、不良率の値は、本発明の態様の利点を最も明瞭に示すものである。表1によれば、炭酸塩前処理およびソーダ−AQパルプ化に該当する実験番号4は、不良率に関する値0.3およびスクリーン後収率55.3%を示す。これに較べて、従来技術のSAQパルプ化を表す実験番号2は、不良率に関する値27.0%および著しく低いスクリーン収率28.4%を示す。これは、本発明の態様が、高収率によって明らかにされるように、セルロースのかなりの部分を保持しながら、より多くのチップをより効率的に蒸解してパルプを生成することを意味する。即ち、不良率が低くなるほど、蒸解プロセスはより効率的になる。また表1のデータは、4つのケース全てにおいて、NaOHの適用が対木材で10%NaOであったとしても、実験番号2(従来技術のSAQプロセスに該当する)が実験1、3、および4(本発明の態様を表す)よりも低いSAQ最終pHをもたらすことを示す。本出願人は、従来技術のSAQプロセスのより低いpHは、不経済な炭水化物分解反応のNaCOを凌ぐより強い塩基であるNaOに起因すると理論付ける。NaCOは、SAQ蒸解で溶液であり続け、リグニン解重合および可溶化に必要なアルカリ性再配列を引き起こすほど十分強力な塩基ではない。NaCOそれだけを前処理で添加する場合、これは存在する唯一のアルカリであるので、反応性炭水化物がこれと反応する。本発明の態様によれば、リグニン解重合または分解に向けてより多くのNaOHを段階16に添加し、したがってより効果的なパルプ化プロセスが提供される。
【0050】
本発明の態様と比較するためのベースを得るために、炭酸塩前処理がない蒸解についても実験室試験で調査した。これらの試験の結果を表2にまとめる。これらの試験では、一連のクラフトおよびSAQパルプを、炭酸塩予備蒸解なしにサトウカエデチップから調製した。クラフトパルプ化試験の1つは、より高い硫化度およびより低い有効アルカリ(NaOHから対チップ10%NaO、およびNaSからの対チップ5%NaO)で行ったが、表2のデータの第2行を参照されたい。このクラフトパルプ化試験(表2の第2行)は、より高いEAを有するクラフト試験に比べてより高いスクリーン後収率(対チップで約1.0%高いスクリーン後収率)をもたらし、即ち、NaOHからの対チップ12%NaOおよびNaSからの対チップ4%NaOであった(表2のデータの第1行参照)。両方のパルプは、ほぼ同じ非漂白カッパー価(即ち、17.4および17.8)を有していた。しかし、以下に論じられるように、より低いEA(即ち、10%NaOHおよび5%NaS、表2の第2行)を使用して生成されたパルプは、より高いEA(12%NaOHおよび4%NaS)を有するように生成されたパルプよりも、酸素(O)脱リグニンに対してそれほど応答しないようであった。本出願人は、これらのパルプ同士のポストOカッパー価の差が著しくなることを理解する。やはり表2に示されるように、一連のSAQ試験も行った。示されるように、対チップで0.1%の様々なEAおよびAQチャージを有する試験は、不良率が相対的に低く、カッパー価が15.2と低いパルプを生成した。
【0051】
【表2】

【0052】
本発明の一態様による炭酸塩予備蒸解について、実験室試験で調査した。これらの試験の結果を表3にまとめる。表3は、炭酸塩でのチップの前処理の後、SAQ処理(実験1〜5)およびクラフト処理(実験6および7)を行う処理条件を提供する。本発明の態様による炭酸塩予備蒸解の利点は、表2に示される結果(従来技術)を表3に示される結果と比較することによって、明らかである。例えば、表3の実験1を表2の従来のSAQ(表2の第5行)と比較すると、165℃での30分の炭酸塩段階(「C条件」、表3の脚注2および3参照)で、SAQ段階のアルカリ要件が、NaOとして14.0%(表2中)から10%(表3中)に低下したことがわかる。生成されたカッパー価の比較では、炭酸塩前処理で生成された非漂白パルプが、そのカッパー価をわずかに低下させ(18.4対19.3)、一方、炭酸塩前処理でもたらされたスクリーン後収率がわずかに高くなったこと(53.1%対52.8%)が示されている。本発明の態様による炭酸塩−SAQ(例えば、表3の実験5)を、炭酸塩−クラフト(例えば、表3の実験7)と比較すると、炭酸塩−クラフト処理に比べて炭酸塩−SAQに関し、より高い収率(対チップ1.0%)が得られることがわかる。より高い収率では、より効率的なプロセスになり、したがって高いスクリーン後収率が望まれる。
【0053】
本発明の態様は、予測されるよりも大きな、蒸解段階でのH因子の低下をもたらす可能性がある。表2に示される結果を表3に示される結果と比較すると、炭酸塩前処理なしで行われた処理で得られたH因子は、同じカッパー価に対し、炭酸塩前処理および蒸解に関する全H因子よりも高いことが明らかである。例えば、前処理されていないパルプのH因子(表2の第3〜5行)は、SAQに関して1600を超えていた。最初の2つの炭酸塩(C)前処理パルプに関するSAQ段階のH因子(表3の実験1〜2)は1239、C段階H因子は358で、炭酸塩およびSAQ処理の組合せに関しては合計1597であった。カッパー価18.4の、結果的に得られた炭酸塩前処理パルプ(表3の第1行)は、改善されたスクリーン後収率、改善された漂白度を有し、前処理されていないパルプよりもより低い不良率をもたらした。本発明の態様の利点を示すさらなる比較は、以下に論じられるように図3に見出すことができる。
【0054】
【表3】

【0055】
上記にて論じられかつ表2および表3にまとめられた蒸解試験の後、セルロース系材料を漂白した。実験室試験で使用される漂白順序は、ODEpDであった(Oはアルカリ性O段階; Dは、最終pHが2〜3の二酸化塩素脱リグニン; Epは、漸進的脱リグニン化のための水酸化ナトリウムおよび過酸化水素によるアルカリ抽出; Dは、最終pHが3.4〜4.5の二酸化塩素増白である)。D段階での二酸化塩素の適用は、式:対パルプ二酸化塩素の重量%=0.076×Oパルプのカッパー価に基づいている。行われた実験室試験によれば、本出願人は、ソーダ−AQパルプ試験で生成された21.5カッパー価パルプ(即ち、表2の第4行のデータ)は、12.5%NaOで生成することができるが、このパルプは、14.0%NaOを使用したとき(即ち、表2の第5および第6行のデータ)に生成されたパルプよりも漂白するのが難しいことを見出した。Oに起因するカッパー価の低下は、典型的には、漂白の容易さの尺度である。本発明の態様によれば、ソーダ−AQパルプの漂白度は、炭酸塩前処理によって改善される。この特定の漂白順序が本発明の調査で使用されたが、本発明の態様によれば、任意の適切な公知の漂白プロセスを使用できるが、これには塩素化化合物を除去する漂白プロセス、即ち塩素原子が排除されている完全無塩素(TCF)漂白プロセス、即ち塩素原子のない(ECF)漂白プロセスを含むことを、当業者は理解するであろう。
【0056】
図3は、本発明の態様による、酸素脱リグニン化後のカッパー価の関数としてのスクリーン収率を、従来技術と比較するプロットを示す。図示されるように、本発明の態様は、従来技術の方法に比べてより容易に漂白されるパルプを提供する。当技術分野で知られているように、スクリーン収率%は、生産されたパルプをスクリーニングして、節、断片、およびその他の望ましくない材料を除去した後の、プロセスから生産されたパルプの重量の、プロセスに投入された木材の重量に対する比である。より高いスクリーン収率が好ましい。Oカッパー価は、蒸解されかつ酸素脱リグニン化されたパルプの、リグニン含量に関係する。当技術分野で知られているように、より低いカッパー価が好ましい。図3および4に関して、下記の表記が使用される:A=酸;C=炭酸塩前処理;Kr=クラフト処理;SAQ=ソーダアントラキノン処理。「(M+N)」という表示は、NaOとして対木材でM%NaOH、およびNaOとして対木材でN%NaSで、処理が行われたことを意味する。本発明の方法はさらに酸素脱リグニン処理を含み、これにより、前処理段階14を行わない方法によって生成されたパルプに比べ、所定のスクリーン後収量で、酸素脱リグニン処理後により低いカッパー価を有するパルプを生成する。
【0057】
図3に示されるように、前処理なしのソーダ−AQパルプ(「▲」SAQ)に比べ、炭酸塩前処理がなされたソーダ−AQ(「X」C−SAQ)には、劇的な改善が見られる。図3の結果によれば、炭酸塩前処理およびその後のソーダAQ(「X」C−SAQ)蒸解によって得られたカッパー価では、前処理なしのソーダ−AQパルプ(「▲」SAQ)のカッパー価よりも低い、O漂白後カッパー価が実現される。例えば、C−SAQ(「X」)のOカッパー価は、スクリーン後収率が52%超の場合にちょうど8カッパーを超えるものであり、SAQ(「▲」)のOカッパー価は、約52.5%という同等のスクリーン後収率の場合に約10.5カッパーである。即ち同等のスクリーン後収率では、本発明の態様は、従来技術に比べて低いカッパー価を示す。したがって、炭酸塩処理はカッパー価を低下させる(非漂白およびO段階後の両方で)。
【0058】
これらの実験室試験では、酸素段階全てにおける収率損失は、対パルプ約1.4〜1.8%であった。O段階中の収率損失の小さな差は、「対チップ%」ベースに変換した場合に取るに足らないものになる。炭酸塩処理または酸処理の後に炭酸塩前処理(即ち、「AC前処理」)を行った場合、クラフトパルプ化の繊維収率は改善されなかった。しかし、図3に示されるように、炭酸塩および酸+炭酸塩前処理(「X」C−SAQおよび「*」AC−SAQ)は、SAQパルプ化(「▲」)の収率を明らかに改善した。即ち本発明の態様によれば、従来のSAQパルプ化法に比べ、より高いスクリーン後収率が提供される。
【0059】
図4は、本発明による、酸素脱リグニン後カッパー価の関数としての十分に漂白されたパルプと、従来技術とを比較したプロットを示す。図4の縦軸は、ODEpD漂白後の完全漂白パルプの光吸収係数(LAC)値であり、横軸は、O後カッパー価である。図4を検討すると、従来のソーダ−AQパルプ(「▲」)は、クラフトパルプ(「◆」)よりも多くの色を含有する(即ち、より高いLAC値を有する)ことが明らかになる。しかし、本発明の態様による、酸(A)および炭酸塩(C)前処理(「△」および「◇」)後のソーダ−AQパルプは、前処理なしのクラフトパルプに等しいかまたはそれよりもわずかに低い色含量を有していた。
【0060】
漂白済みクラフト、漂白済み酸炭酸塩クラフト、および漂白酸炭酸塩ソーダアントラキノンパルプの性質を比較するために、さらなる実験室試験を行った。サトウカエデチップからの、従来技術による漂白済みクラフトパルプ、本発明の態様による酸炭酸塩(AC)−クラフトパルプ、および本発明の態様による酸炭酸塩(AC)−SAQパルプのいくつかの性質を、表4に記載する。表4に示されるように、酸および炭酸塩処理の両方によって前処理されたソーダAQパルプは、改善された収率をもたらした。スクリーン収率は、従来技術のクラフトおよびACクラフトパルプの両方に関する収率が52よりも低いのに比べ、AC−SAQに関しては最も高く、その値は53.2であった。AC前処理は、クラフトパルプの最終白色度を91.0から92.6に上昇させた。
【0061】
【表4】

【0062】
図1に示したように、本発明の態様により蒸解した場合、A段階(酸段階)流出液の少なくとも一部、例えばA段階流出液全体の50%から75%が、炭酸塩含有溶液に取って代わる。一態様では、炭酸塩段階流出液の少なくとも一部、及び、おそらくは全てを、チップと共にクラフトまたはSAQ段階に移してよい。これまで報告された実験室試験では、炭酸塩段階流出液は、凝縮器内を通過した後に回収した。NaOHは、ペレットとして流出液中に導入し、AQ粉末は、凝縮流出液中に溶解した。次いで炭酸塩およびAQ含有流出液を、SAQ段階用の実験室蒸煮釜に戻した。クラフトパルプ化の場合には、硫化ナトリウム溶液およびNaOHペレットを、炭酸塩段階流出液に添加した。本出願において、白色度は、エルレフォ%である。
【0063】
本出願人は、炭酸塩段階流出液の一部または全ての使用が、本発明の態様にとって、例えば炭酸塩SAQプロセスにとって重要になり得ると推測する。その理由は、おそらく、炭酸塩流出液が、還元末端基を有する多くの低分子量炭水化物を含有し得る可能性があるからと本出願人は考える。炭酸塩段階中の炭水化物の溶解は、当初のチップ質量の約5%(オーブン乾燥ベースで)と推定される。本出願人は、炭水化物のランダム加水分解が予測され、新たな還元末端基の形成がそれぞれの加水分解ごとに起こり得ると考える。還元末端基の濃度がより高いと、より速い速度でAQが減少して、AHQ(アントラヒドロキノン)、即ち活性脱リグニン触媒を形成すると考えられる。AQ/AHQ触媒サイクルを、図5に概略的に示す。また、固相中の還元末端基が酸化されてカルボン酸になると、炭水化物の分子量を低下させかつパルプ収率を低下させる、アルカリ性剥離反応が起き難くなる。上記仮説は、炭酸塩段階がなぜSAQパルプ化のパルプ収率を改善し、クラフトパルプ化の収率を改善しないのか、説明することができる。還元末端基からカルボン酸への酸化は、クラフトプロセスまたはAQ添加のないソーダプロセスで、有意な反応であることが(または生ずることさえも)知られていない。
【0064】
本発明の態様の利点をさらに裏付けるものとして、混合木材から得たチップに関し、さらなる実験室研究を行った。例えば、ハコヤナギ(Populus deltoids)のクローンを約60%、シラカバ(Betula papyrifera)を約20%、およびサトウカエデ約20%を含むチップ混合物を使用した。従来技術のクラフトパルプ化、従来技術のソーダ−AQパルプ化、および本発明の態様によるパルプ化、即ち酸および酸/炭酸塩前処理を行うものに関する結果を、表5に示す。酸前処理条件は以下の通りである。
:対チップ1.5%の酢酸(最終pH約3.5)を用いて150℃で20分、および
:3.0%の酢酸(最終pH3.2)を用いて120℃で60分、
であった。
【0065】
表5に示すように、A前処理は、漂白済み(即ち、「最終」)白色度がクラフト(89.9)よりも高いソーダ−AQパルプ(90.8)を生成したが、パルプ収率はいくらか低かった。より穏やかな、酸炭酸塩−SAQによるA前処理は、従来のクラフトパルプ化およびSAQパルプ化の両方よりも高いパルプ収率(54.2%)を示した。またAC−SAQ処理は、漂白済み白色度がSAQパルプ化(88.4)よりも高いがクラフトパルプ化(89.9)よりも低い値(89.2)をもたらした。本発明の一態様において、本出願人は、酸(A)段階の過酷さは、このチップ供給材料に関しては、A酸処理よりも高く、しかしA酸処理よりも低くことが好ましいと考える。また表5に示されるように、2000PFI回転の精製後に引張り強さが現れる速度は、「引張り指数」によって示されるように、酸クラフトパルプ化(78.3)および酸−SAQパルプ化(86.1)に関してはクラフトパルプ化(94.4)よりも低かった。しかし、酸−炭酸塩−SAQは最高速度(即ち、100.2)を有しており、本発明の態様の利点をさらに強調している。表5に示される結果から、より高い収率およびおそらくはより多くのヘミセルロースを有するパルプは、精製をそれほど必要としないようである。引張り−引裂き曲線には、有意な差はなかった。
【0066】
【表5】

【0067】
さらに、炭酸塩−SAQパルプ化の利点を十分に理解し、本発明と、アントラキノンを用いない第’241号特許の先行する研究との相違を明かにするために、より穏やかな炭酸塩段階条件について研究した。この調査の結果を表6にまとめる。サトウカエデ50%、ハコヤナギ40%、およびシラカバ10%からなるチップ供給材料を調製した。本発明の態様による炭酸塩処理段階は、対木材で3.0または5.0%のNaCO投入(NaOとして)し、130℃および140℃で、かつ30または60分間にわたって行った。これらの試験では、最高温度に達するのに約30〜35分を要した。炭酸塩段階流出液の約70%は、炭酸塩処理の後に排出され廃棄された。炭酸塩流出液は、パルプ化薬品をSAQまたはクラフト蒸解に加えたときに、蒸留水と交換された。
【0068】
【表6】

【0069】
表6に示される結果によれば、対チップNaCO(NaOとして)を3%とし、140℃で所要時間を60分とする炭酸塩段階を有する炭酸塩−SAQ処理において、最良の結果が得られた(例えば、実験5参照)。実験5から得たパルプは、対チップスクリーン後収率が、実験8(基準のクラフト蒸解)よりも約2.0%高く、酸素脱リグニン後の損失は、実験8に比べて1.7カッパー単位に過ぎなかった。前処理を行ったクラフトパルプ(実験6)とを比較した場合、炭酸塩−SAQパルプ(実験5)は、その収率が、対チップで約1.0%良好であった。この良好な収率は、典型的な化学パルプ工場における年約$4Mの利益の純増加に相当すると考えられる。
【0070】
さらに、実験5において炭酸塩(C)およびソーダ−AQ段階で組み合わせたH因子は、897(81+816)であり、前処理を行わないがH因子が992である従来技術のSAQで生成されたパルプ(実験9)に比べてほぼ同じカッパー価(23.1対22.6)、より高い収率(55.8対54.2)、およびより低い不良率(0.6対1.0)を有するパルプが生成された。炭酸塩段階で費やされる時間は、得られるパルプに著しい影響を及ぼすと考えられる。実験室試験では、pH約8で炭酸塩段階をさらに30分間行った(実験4対実験5参照)結果、ソーダ−AQおよび酸素脱リグニン後に1.6カッパー単位良好になった。炭酸塩段階をさらに30分延ばすことにより、より高いスクリーン後収率が得られた。さらに、炭酸塩段階でこの延長の30分間が費やされたことによって、より多くの還元末端基が生成され、全蒸解時間を長くすることによって、より多くの不良率がスクリーン済み繊維に変換されたと考えられる。
【0071】
本発明の態様は、バッチ式(従来のSuperBatch(登録商標)やRapid Displacement Heatingなどがあるが、これらに限定されるものではない)または連続式(従来のソーダ、従来のクラフト、Lo−Solids(登録商標)Cooking、EMCC(登録商標)Cooking、ITC(登録商標)Cooking、およびCompact Cookingなどがあるが、これらに限定されるものではない)の装置であって、その加圧装置(炭酸塩処理に必要とされる)が酸、炭酸塩、および蒸解の段階のいずれかまたは全てで使用される装置で行うことができる。本発明の態様は、例えば、参照によりその開示が本明細書に組み込まれている米国特許第6,55,462号に記載されているように、粉砕された繊維性材料の輸送または貯蔵中に前処理を行うこともできる。バッチ式システムでは、容器内に液をポンプ送出するなどの従来の手段を使用して、蒸煮釜内の液体を移すことができ、または、液を、液本来の圧力またはポンプ送出手段によって蒸煮釜から排出し、その後に、新しい蒸解液を蒸煮釜に加えることができる。SuperBatchまたはRDH法から抽出された液など全ての液体は、当技術分野で公知の方法を使用して、予熱することができる。さらに、液体の加熱は、循環ループまたは直接的な水蒸気添加によって、容器内で実現することができる。
【0072】
本明細書に記述されている本発明の態様は、セルロース系材料の前処理プロセスと、木材チップ及びこれに関連する粉砕された材料の従来技術の処理に対して有利な改善をもたらすパルプ化プロセスとを提供する。本明細書に示される試験データから明らかなように、アントラキノンを存在させまたは存在させない状態での、炭酸塩溶液による木材チップの前処理により、より高い収率、より低い不良率、より大きな強度を有するセルロースパルプを生成することができ、また生成しかつ漂白するための化学薬品を少なくすることができる。
【0073】
本発明のいくつかの態様について、本明細書に記述し図示してきたが、同じ目的を達成するために、当業者によって代替の態様が示されることもあるであろう。従って、添付の特許請求の範囲は、本発明の真の精神および範囲内に含まれる代替の態様の全てが包含されるものとする。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
粉砕されたセルロース系繊維性材料を処理する方法であって、
a)硫黄を含まない炭酸塩含有溶液で、前記セルロース系繊維性材料を処理して、前処理されたセルロース系材料を生成する工程と、
b)前記前処理されたセルロース系材料を、セルロースパルプを生成するのに十分な時間および十分な温度で、パルプ化薬品を用いて処理する工程
からなり、少なくともa)およびb)の一方において、前記セルロース系繊維性材料がアントラキノンで処理される方法。
【請求項2】
前記セルロース系繊維性材料がa)において、アントラキノンを用で処理されることを特徴とする請求項1記載の方法。
【請求項3】
前記前処理されたセルロース系繊維性材料がb)において、アントラキノンで処理されることを特徴とする請求項1又は2記載の方法。
【請求項4】
前記炭酸塩含有溶液が、炭酸ナトリウム含有溶液からなることを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載の方法。
【請求項5】
前記炭酸塩含有溶液が、対木材でNaOとして1%から12%の炭酸塩濃度を有する水溶液からなることを特徴とする請求項1乃至4のいずれかに記載の方法。
【請求項6】
前記濃度が、NaOとして対木材で3%から9%であることを特徴とする請求項5記載の方法。
【請求項7】
前記硫黄を含まない炭酸塩含有溶液が、硫黄を含まない炭酸ナトリウム溶液からなることを特徴とする請求項1記載の方法。
【請求項8】
前記パルプ化薬品が、水酸化ナトリウムからなるものであることを特徴とする請求項1乃至7のいずれかに記載の方法。
【請求項9】
前記パルプ化薬品が、水酸化ナトリウムであることを特徴とする請求項1乃至8のいずれかに記載の方法。
【請求項10】
さらに、a)の前に、c)酸性溶液で前記粉砕された繊維性材料を処理する工程を含むことを特徴とする請求項1乃至9のいずれかに記載の方法。
【請求項11】
さらに、c)の後であってa)の前に、d)前記セルロース繊維性材料から酸性溶液の少なくとも一部を抽出する工程を含むことを特徴とする請求項1乃至10のいずれかに記載の方法。
【請求項12】
前記炭酸ナトリウム溶液が、NaOとして対チップで1%から12%の炭酸ナトリウムからなることを特徴とする請求項4記載の方法。
【請求項13】
前記炭酸ナトリウムが、NaOとして対チップで2%から7%の炭酸ナトリウムからなることを特徴とする請求項12記載の方法。
【請求項14】
a)が100℃よりも高い温度で行われることを特徴とする請求項1乃至13のいずれかに記載の方法。
【請求項15】
a)が120℃から170℃の間の温度で行われることを特徴とする請求項1乃至14のいずれかに記載の方法。
【請求項16】
a)が120℃から150℃の間の温度で行われることを特徴とする請求項1乃至15のいずれかに記載の方法。
【請求項17】
a)が15分から120分行われることを特徴とする請求項1乃至16のいずれかに記載の方法。
【請求項18】
a)を行わない方法で生成されたパルプと比較して、不良率が低く、スクリーン後収率が高いパルプを生成することを特徴とする請求項1乃至17のいずれかに記載の方法。
【請求項19】
継続して行われることを特徴とする請求項1乃至18のいずれかに記載の方法。
【請求項20】
さらに、酸素脱リグニン処理を含むものであり、a)を行わない方法で生成されたパルプと比較して、所定のスクリーン後収率において、酸素脱リグニン処理後のカッパー価が低いパルプを生成することを特徴とする請求項1乃至19のいずれかに記載の方法。
【請求項21】
前記アントラキノンを用いる処理が、対チップで0.01重量%から0.20重量%の間の濃度を有する水溶性アントラキノンからなることを特徴とする請求項1乃至20のいずれかに記載の方法。
【請求項22】
前記アントラキノンを用いる処理が、対チップで約0.05重量%から約0.10重量%の間の濃度を有する水溶性アントラキノンからなることを特徴とする請求項1乃至21のいずれかに記載の方法。
【請求項23】
前記アントラキノンがa)の後に導入され、対チップで0.01重量%から0.20重量%の濃度のアントラキノン水溶液からなるものであることを特徴とする請求項1乃至21のいずれかに記載の方法。
【請求項24】
パルプ化薬品を用いて、前処理されたセルロース系材料を処理する工程が、さらに、使用済みパルプ化薬品を含有する液体を生成する工程を有し、さらに、
使用済みパルプ化薬品を含有する液体を処理して使用済みパルプ化薬品から炭酸塩含有溶液を生成する工程、及び、
a)における炭酸塩含有溶液として、使用済みパルプ化薬品から生成された炭酸塩含有溶液を使用する工程からなるものであることを特徴とする請求項1乃至23のいずれかに記載の方法。
【請求項25】
前記使用済みパルプ化薬品を含有する液体の処理が、
燃焼を維持するのに十分な程当該液体を濃縮する工程、
濃縮液を燃焼させて炭酸塩を含有するスメルトを生成する工程、および、
当該スメルトに液体を導入して、使用済みパルプ化薬品からの炭酸塩含有溶液を供給する工程を含むことを特徴とする特徴とする請求項24記載の方法。
【請求項26】
前記炭酸塩含有溶液が、NaOとして対チップで2%から7%の炭酸ナトリウムからなることを特徴とする請求項24又は25記載の方法。
【請求項27】
前記パルプが、先行技術による生成されたパルプよりも高い収率を有するものであることを特徴とする請求項1乃至26のいずれかに記載の方法。
【請求項28】
さらに、酸素脱リグニン処理並びに少なくとも1つの漂白段階を含むものであり、88%エルレフォよりも高い白色度を有するセルロース系パルプを生成することを特徴とする請求項1乃至26のいずれかに記載の方法。
【請求項29】
粉砕されたセルロース系繊維性材料を処理する方法であって、
a)前記セルロース系繊維性材料を酸溶液で処理する工程、
b)炭酸塩含有溶液で前記セルロース系繊維性材料を処理して前処理されたセルロース系材料を生成する工程、及び、
c)十分な時間および十分な温度で、硫黄含有パルプ化薬品を用い、前記前処理されたセルロース系材料を処理してセルロースパルプを生成する工程を含み、
b)およびc)の少なくとも一方で前記セルロース系繊維性材料がアントラキノンで処理されることを特徴とする方法。
【請求項30】
前記セルロース系繊維性材料が、b)において、アントラキノンで処理されることを特徴とする請求項29記載の方法。
【請求項31】
前記前処理されたセルロース系繊維性材料が、c)において、アントラキノンで処理されることを特徴とする請求項29又は30記載の方法。
【請求項32】
前記炭酸塩含有溶液が、炭酸ナトリウム含有溶液からなることを特徴とする請求項29乃至31のいずれかに記載の方法。
【請求項33】
前記炭酸ナトリウム含有溶液がクラフト緑液からなることを特徴とする請求項29乃至32のいずれかに記載の方法。
【請求項34】
前記炭酸塩含有溶液が、対木材でNaOとして1%から12%の炭酸塩の濃度を有する水溶液からなることを特徴とする請求項29乃至33のいずれかに記載の方法。
【請求項35】
前記炭酸塩含有溶液が、対木材でNaOとして3%から9%の炭酸塩の濃度を有する水溶液からなることを特徴とする請求項29乃至34のいずれかに記載の方法。
【請求項36】
さらに、a)の後であってb)の前に、d)前記セルロース系繊維性材料から、酸性溶液の少なくとも一部を抽出する工程を含むことを特徴とする請求項29乃至35のいずれかに記載の方法。
【請求項37】
b)が100℃よりも高い温度で行われることを特徴とする請求項29乃至36のいずれかに記載の方法。
【請求項38】
b)が120℃から170℃の間の温度で行われることを特徴とする請求項29乃至37のいずれかに記載の方法。
【請求項39】
b)が120℃から150℃の間の温度で行われることを特徴とする請求項29乃至39のいずれかに記載の方法。
【請求項40】
b)が15分から120分行われることを特徴とする請求項29乃至40のいずれかに記載の方法。
【請求項41】
b)を行わない方法で生成されたパルプと比較して、不良率が低く、スクリーン後収率が高いパルプを生成することを特徴とする請求項29乃至40のいずれかに記載の方法。
【請求項42】
継続して行われることを特徴とする請求項29乃至41のいずれかに記載の方法。
【請求項43】
さらに、酸素脱リグニン処理を含むものであり、b)を行わない方法で生成されたパルプと比較して、所定のスクリーン後収率において、酸素脱リグニン処理後のカッパー価値が低いパルプを生成することを特徴とする請求項29乃至42のいずれかに記載の方法。
【請求項44】
アントラキノンを用いる処理が、対チップで0.01重量%から0.20重量%の間の濃度からなることを特徴とする請求項29乃至43のいずれかに記載の方法。
【請求項45】
アントラキノンを用いる処理が、対チップで0.05重量%から0.10重量%の間の濃度からなることを特徴とする請求項29乃至44のいずれかに記載の方法。
【請求項46】
前記アントラキノンがb)の後に導入され、アントラキノンを用いる処理が、対チップで0.01重量%から0.20重量%の間の濃度を有することを特徴とする請求項29乃至45のいずれかに記載の方法。
【請求項47】
硫黄含有パルプ化薬品を用いて、前記前処理されたセルロース系材料を処理する工程が、さらに、使用済みパルプ化薬品を含有する液体を生成する工程を有し、さらに、
当該使用済みパルプ化薬品を含有する液体を処理して使用済みパルプ化薬品から炭酸塩含有溶液が生成する工程、及び、
b)における炭酸塩含有溶液として、使用済みパルプ化薬品から生成された炭酸塩含有溶液を使用する工程からなるものであることを特徴とする請求項29乃至46のいずれかに記載の方法。
【請求項48】
前記使用済みパルプ化薬品を含有する液体の処理が、
燃焼を維持するのに十分な程当該液体を濃縮する工程、
濃縮液を燃焼させて炭酸塩を含有するスメルトを生成する工程、および、
当該スメルトに液体を導入して、使用済みパルプ化薬品からの炭酸塩含有溶液を供給する工程を含むことを特徴とする特徴とする請求項47記載の方法。



【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate


【公表番号】特表2009−537705(P2009−537705A)
【公表日】平成21年10月29日(2009.10.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−511236(P2009−511236)
【出願日】平成19年5月17日(2007.5.17)
【国際出願番号】PCT/US2007/069159
【国際公開番号】WO2007/137127
【国際公開日】平成19年11月29日(2007.11.29)
【出願人】(508342312)ザ リサーチ ファンデーション オブ ステート ユニヴァーシティ オブ ニューヨーク (1)
【Fターム(参考)】