説明

セルロース繊維の脱ガム方法

【課題】溶解パルプの形成に用いられるセルロース繊維の品質を高める方法を提供する。
【解決手段】繊維を過酸化水素とアンモニアを含む液で処理することによってパルプのヘミセルロース含量を減少させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リグノセルロース繊維の脱ガム方法、特に、溶解パルプ繊維の製法に関する。
【背景技術】
【0002】
パルプは、いろいろな種類の植物材料を化学的及び/又は機械的に処理することを含む複雑な製造工程から得られる広範囲の技術的に異なる生産物の総称である。現在、世界的パルプ生産の約90%が木材に基づき、残りの10%は、わら、竹、バガス、ケナフ、亜麻、ヘンプ、綿等として始めるものである。パルプは、主に、紙やボール紙の製造において主成分として用いられている。パルプのより少量が、多様な製品-レーヨン、写真用フィルム、セロハン、火薬になっている。
最高級のパルプは、化学グレード又は溶解グレードのパルプである。溶解パルプは、付加価値製品、例えば:
・ビスコース繊維(レーヨン)又はフィルム、パルプをアルカリ二硫化炭素(キサントゲン化)に溶解するので、中間生成物としてキサントゲン酸塩を形成し、この溶液をオリフィスを通って酸浴槽へ進めることによって製造されるもの。
・セルロース誘導体、例えば、セルロースアセテート、エチルセルロース、セルロースナイトレート(ニトロセルロース、綿火薬)、カルボキシメチルセルロース(CMC)
の製造に用いられる。
【0003】
溶解パルプの製造は、通常、木材(針葉樹と広葉樹双方)のクラフトパルプ化或いは亜硫酸パルプ化、又は綿リンタのソーダパルプ化を用いる。溶解パルプのために木材をパルプ化する場合、より純粋なパルプを得るために漂白された収量はわずか32〜36%である。セルロース含量は、一般に88〜93%(商品グレードのビスコースの場合)であるが、より厳しい最終使用(例えば: タイヤコード)の場合は98%程度である場合がある。抽出成分、リグニン、鉄及び灰分の含量も低い。粘度(即ち: DP)は、他の重要な性質であり、実際のレベルはパルプの最終使用に左右される。商品グレードのビスコースの場合、粘度は、約350〜約550ml/gであってもよい。高級溶解パルプは、700ml/gを超える場合がある。
溶解パルプを生成するために、従来のクラフトパルプ化は、主蒸解の前に、ヘミセルロースが加水分解され除去される前加水分解段階を含むように変更される。この前加水分解段階には、希酸又は希アルカリが用いられるか、又は直接蒸気が用いられる。この追加の段階は、正常なクラフト蒸解に相対して合計蒸解時間がほぼ倍になる。漂白シーケンスの冷アルカリ抽出段階は、更に、非セルロース成分を除去する。
酸性亜硫酸塩パルプ化は、高温及び低pHで行われて、所望のヘミセルロース分解を達成する。漂白は、非セルロース成分を更に除去する高温アルカリ抽出段階を含む。
溶解パルプが漂白された広葉樹クラフト市場パルプか又は広葉樹繊維が豊富な高品質木材パルプから得られる可能性があることを一部の研究が示した。シーケンスとしては、キシラナーゼ処理が間にある二つの冷アルカリ抽出段階が含まれたものである。[Jackson, L.S. et al. Production of dissolving pulp from recovered paper using enzymes. TAPPI Journal, March 1998]。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
これらの溶解パルプを製造する従来の技術の方法は、多量の薬品とエネルギーを使用し、且つ複雑な黒液再生利用プロセスを必要とする。アルカリ脱ガムの後には別個の漂白工程が必要とされる。
それ故、従来の技術の欠点を改善する溶解パルプの製造に適した脱ガムパルプの製造方法が求められている。
【課題を解決するための手段】
【0005】
一態様において、本発明は、セルロース繊維を脱ガムする方法であって、繊維を約5%〜約30%(v:v)のアンモニア水と約0.5%〜3%(OD繊維に対して)の過酸化水素を含む脱ガム液で、約50℃〜約200℃の温度において、約3:1〜約20:1の液と固形分の濃度(consistency)(v/w)で処理する工程を含む、前記方法を含む。脱ガム液は、更に、0%〜10%(OD繊維に対して)の水酸化カリウムと0%〜0.2%(OD繊維に対して)のアントラキノンを含んでいてもよい。
一実施態様において、セルロース繊維は、広葉樹、針葉樹、及び靭皮繊維植物、例えば、ヘンプ、亜麻、ケナフ、亜麻仁、ジュート、ラミー、繊維性師部を有する他の双子葉植物、例えば、穀物、多年生草、又はマメ科植物を含んでいてもよい。
一実施態様において、脱ガム液は脱ガム後に回収され、水性部分は再生利用されて、アンモニアを供給し、固体部分は廃棄物回収流れ(stream)において回収される。一実施態様において、固体部分は、回収され処理されて、肥料を形成する。
脱ガムされた繊維は、漂白されて、溶解パルプを形成することになる。
【0006】
他の態様において、本発明は、靭皮繊維植物から溶解パルプを形成する方法であって:
(a)植物繊維をアンモニアと過酸化水素を含む脱ガム液でパルプ化する工程;
(b)工程(a)から水性部分を回収し再生利用する工程;
(c)パルプ化された繊維を回収し、漂白して、溶解パルプを得る工程
を含む、前記方法を含む。
靭皮繊維植物繊維は、ヘンプ、亜麻、ケナフ、亜麻仁、ジュート、又はラミーの繊維を含んでいてもよい。
図において、同様の要素は、同様の符号に割り当てられている。図面は、必ずしも一定の比率でなく、代わりに本発明の原理に重点が置かれている。更に、示された実施態様の各々は、本発明の基本的な概念を用いる多くの可能な配置の一つにすぎない。図面を以下のように簡単に記載する:
【図面の簡単な説明】
【0007】
【図1】図1は、本発明の一実施態様の概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
本発明は、セルロース繊維を脱ガムする方法、特に高品質溶解パルプを製造する方法に関する。本発明を記載する場合、本明細書に定義されないすべての用語は当該技術において認識されている共通の意味を有する。以下の説明が本発明の個々の実施態様或いは具体的な使用である限りにおいて、これは一例にすぎないものであり、特許請求の範囲に記載されている発明を制限するものではない。以下の説明は、添付の特許請求の範囲に定義されるように、本発明の真意及び範囲に包含されるすべての変更、修正及び等価物に及ぶものである。
【0009】
一般に、本発明は、アンモニアを用いてセルロース繊維を脱ガムする方法を含むものである。脱ガムされた繊維は、次に、当該技術において周知のプロセス、例えば、塩素漂白、元素の塩素を含まない(“ECF”)漂白又は塩素を一切含まない(“TCF”)漂白を用いて漂白されてもよい。ECF及びTCFの漂白の環境上の利点を考えれば、好ましい実施態様は、これらの技術を用いる。
一実施態様において、脱ガム法は、セルロース繊維、例えば、広葉樹、針葉樹、靭皮繊維植物、例えば、ヘンプ、亜麻、ケナフ、亜麻仁、ジュート、ラミー、繊維性師部を有する他の双子葉植物、例えば、穀物、多年生草、又はマメ科植物に用いられる。一実施態様において、セルロース繊維は、ヘンプ又は亜麻繊維を含む。
植物茎から靭皮繊維を分離する方法は、当該技術において周知であり、本明細書に更に記載することを必要としない。靭皮繊維植物を剥皮する一例示的方法は、2008年5月23日に出願され“剥皮プロセス(Decortication Process)”と称する出願人の同時係属米国特許出願に記載されている。
本発明において、本発明者らは、驚くべきことに、従来技術に見られるより穏やかな条件によってもなお高品質溶解グレードパルプが得られることを見出した。
【0010】
一実施態様において、分離された靭皮繊維は、リアクタ(10)内で高温でアンモニアと混合される。一実施態様において、水酸化アンモニウムは、約5容積%〜30容積%の濃度で且つ約50℃〜約200℃の温度で用いられる。好ましくは、温度は、約90℃〜約150℃、例えば、90℃、100℃、120℃、又は150℃である。一実施態様において、繊維を同時に漂白する量の塩素を含まない漂白剤、例えば、過酸化水素を用いる。このアンモニア過酸化物脱ガムプロセスは、液:固形分比(v:w)が約3:1〜約20:1の濃度で約1時間〜6時間行われてもよい。当業者は、過度の実験をせずにこれらのパラメーターを変えることによって適切な条件を決定することができる。周知のように、一方のパラメーターの程度の増加はもう一方の程度の減少を可能にすることになる。例えば、より高温又はより高濃度のアンモニアの使用は、蒸解時間の短縮を可能にすることができる。或はまた、低濃度のアンモニアは、同様の結果を達成するために、より高温又はより長い蒸解時間を必要とすることになる。
過酸化水素の量は、(オーブン乾燥(OD)繊維の質量で)3%未満、好ましくは約2%未満、最も好ましくは約1%未満である。
一実施態様において、水酸化カリウム(KOH)、炭酸カリウム、又は水酸化マグネシウムのようなアルカリは、0%〜約10%(OD繊維に対して)の濃度で脱ガム液に添加されてもよい。脱ガム液は、更に、0%〜0.2%(OD繊維に対して)のアントラキノンを含んでもよい。アルカリとアントラキノンは共に、セルロース繊維の脱リグニンを援助し、それ故、木材繊維や穀物のわらのようなよりリグニン化された材料を処理するのに好ましい場合がある。
リアクタ内でパルプ化と脱ガム後、一実施態様において、液体が回収され、蒸発器(20)に送られ、そこで、アンモニアがアンモニア再生利用タンク(30)に回収され、リアクタ(10)のアンモニア源として用いられる。アンモニア補給源(40)が供給される。蒸発器(20)から残留する固形分は、リグニンとヘミセルロースを微量のアンモニアと共に含み、固形分回収タンク(50)に取り出され、廃棄物回収流れ(60)の肥料に加工することができる。
次に、パルプ化され脱ガムした繊維が洗浄タンク(70)内で水洗され、一実施態様において、中性pHになり、次に、得られた繊維は、漂白(80)に送られる。洗浄水は、アンモニアと過酸化物を含有し、次に、アンモニア再生利用タンク(30)に再生利用してもよい。
一実施態様において、溶解パルプの製法において、次に、脱ガムした繊維はTCF又はECF漂白プロセスにおいて漂白される。例えば、繊維を、冷アルカリ抽出が続けられる三又は四段階ECFプロセスで漂白してもよい。例示的な条件を以下の表1に示す:
【0011】
表1

* 冷アルカリ抽出段階におけるNaOH濃度は、10% w/wであった。
“D”は、二酸化塩素の使用を意味する。
“Ep”は、過酸化水素によるアルカリ抽出を意味する。
“E”は、アルカリ抽出を意味する。
【0012】
一実施態様において、二酸化塩素が靭皮繊維原料中の非靭皮繊維を溶解すると考えられるので、ECFプロセスが好ましい。
得られた溶解パルプは、高品質である。ヘンプのような靭皮繊維植物からの溶解パルプは、55%を超える収量を得ることができ、約92% ISOより大きい白色度と、98%を超えるα-セルロース含量と650ml/gを超える粘度が、本発明の方法によって達成できる。
【実施例】
【0013】
以下に示される実施例において、“APパルプ化”は、アンモニア過酸化物パルプ化を意味し、略語“L:S”は、液体と固形分の比を意味し、略語“AQ”は、アントラキノン含量を意味する。
【0014】
実施例1
150℃の蒸解温度(cooking temperature)におけるヘンプ靭皮繊維のAPパルプ化
表1-1. APパルプ化条件

【0015】
表1-2. ECF漂白条件

* 冷アルカリ抽出段階におけるNaOH濃度は、10% w/wであった。
【0016】
表1-3.ヘンプ靭皮繊維溶解パルプの性質

【0017】
実施例2
90℃の蒸解温度におけるヘンプ靭皮繊維のAPパルプ化
表2-1. APパルプ化条件

【0018】
表2-2. ECF漂白条件

* 冷アルカリ抽出段階におけるNaOH濃度は、10% w/wであった。
【0019】
表2-3. ヘンプ靭皮繊維溶解パルプの性質

【0020】
本発明が関係する当該技術の状態をより完全に記載するために本出願においていくつかの文献又は特許が載せられている。可能な場合、これらの文献の各々の開示は、本明細書に完全に示されているかのように、本明細書によって組み込まれている。
“含む”という言葉は、限定されない意味で本明細書に用いられ、“他の変形例を制限又は排除せずに含む”ことを意味する。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
セルロース繊維を脱ガムする方法であって、該繊維を、約5%〜約30%(v:v)のアンモニア水と約0.5%〜3%(OD繊維に対して)の過酸化水素とを含む脱ガム液で、約50℃〜約200℃の温度において、約3:1〜約20:1の液と固形分の濃度(v/w)で処理する工程を含む、前記方法。
【請求項2】
前記脱ガム液が、更に、水酸化カリウムを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記脱ガム液が、更に、アントラキノンを含む、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
脱ガム後に前記脱ガム液を回収し、処理して、プロセスにおいて再利用するためのアンモニア流れと、固体画分に分離する、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
固体部分を回収し、処理して、肥料を形成する、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
脱ガムした繊維を漂白して、溶解パルプを形成する工程を更に含む、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
前記セルロース繊維が、靭皮繊維植物繊維を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項8】
前記靭皮繊維植物が、ヘンプ、亜麻、ケナフ、亜麻仁、ジュート、又はラミーのうちの一つである、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
前記靭皮繊維植物が、ヘンプである、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
前記靭皮繊維植物が、亜麻である、請求項8に記載の方法。
【請求項11】
靭皮繊維植物が、ケナフである、請求項8に記載の方法。
【請求項12】
前記セルロース繊維が、木材繊維、穀物わら繊維、多年生草繊維、又はマメ科植物繊維を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項13】
漂白工程が、ECF漂白工程又はTCF漂白工程を含む、請求項6に記載の方法。
【請求項14】
靭皮繊維植物から溶解パルプを形成する方法であって、
(a)植物繊維をアンモニアと過酸化水素とを含む脱ガム液でパルプ化する工程;
(b)工程(a)から水性部分を回収し再生利用する工程;
(c)パルプ化した繊維を回収し、漂白して、溶解パルプを生成する工程
を含む、前記方法。
【請求項15】
前記脱ガム液が、約5%〜約30%(v:v)のアンモニア水と約0.5%〜3%(OD繊維に対して)の過酸化水素を含む、請求項14に記載の方法。
【請求項16】
脱ガム工程が、約50℃〜約200℃の温度において、約3:1〜約20:1の液と固形分の濃度(v/w)で行われる、請求項14に記載の方法。
【請求項17】
最終の漂白工程が、ECF漂白プロセス又はTCF漂白プロセスを含む、請求項13に記載の方法。

【図1】
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【公表番号】特表2010−528191(P2010−528191A)
【公表日】平成22年8月19日(2010.8.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−508681(P2010−508681)
【出願日】平成20年5月23日(2008.5.23)
【国際出願番号】PCT/CA2008/001013
【国際公開番号】WO2008/141463
【国際公開日】平成20年11月27日(2008.11.27)
【出願人】(501253028)アルバータ リサーチ カウンシル インコーポレイテッド (3)
【Fターム(参考)】