説明

セルロース繊維強化環状オレフィン系樹脂組成物及び当該樹脂組成物を成形してなる成形品

【課題】低比重、剛性、耐衝撃性等の物性に優れ、環境に配慮した天然繊維を含む環状オレフィン系樹脂組成物を提供する。
【解決手段】(a)環状オレフィン系樹脂とセルロース繊維とを含む(b)セルロース繊維強化環状オレフィン系樹脂組成物であって、上記(a)環状オレフィン系樹脂のガラス転移点が100℃以下であり、上記(b)セルロース繊維の含有量が、上記(a)環状オレフィン系樹脂100質量部に対して、10質量部から150質量部の環状オレフィン系樹脂組成物を用いる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、セルロース繊維強化環状オレフィン系樹脂組成物及び当該樹脂組成物を成形してなる成形品に関する。
【背景技術】
【0002】
環状オレフィン系樹脂は、主鎖に環状のオレフィン骨格を持った非晶性で熱可塑性のオレフィン系樹脂である。この環状オレフィン系樹脂は、透明性に加え、低複屈折性、軽量性、寸法安定性、低吸水性、耐加水分解性、耐薬品性、低誘電率・低誘電損失等の特徴を有する。このような特徴を活かし、環状オレフィン系樹脂は、光ディスク、レンズ、導光板といった光学用途をはじめ、プレフィルドシリンジ、輸液の容器や活栓といった医薬関連器材、高周波電子部品等の用途に用いられている。また、環状オレフィン系樹脂は、溶融加工性、流動性、熱収縮性、印刷特性等にも優れる。このため、環状オレフィン系樹脂は、フィルム状又はシート状の成形品や、食品の包装材料等にも利用されている。
【0003】
近年、環境・資源問題として、二酸化炭素等の温室効果ガスの増加、将来の化石資源の枯渇への対応策が社会的に求められている。このため、化石原料をベースとしたプラスチックに対して、ポリ乳酸等のバイオベースプラスチックや天然繊維を配合化する検討が進められている。また、プラスチックや製品中に含まれる植物由来成分の含有量を植物度として表す検討も行われている。
【0004】
環状オレフィン系樹脂についても、バイオベースプラスチックを配合した検討例が散見される。例えば、特許文献1では、ポリ乳酸樹脂と特定の熱可塑性ノルボルネン系樹脂とを含むポリ乳酸系樹脂が開示されている。
【0005】
また、環状オレフィン系樹脂に対して、天然繊維を配合する検討も行われている。例えば、特許文献2では、ペーパースラッジと熱可塑性樹脂とを配合した熱可塑性樹脂組成物が開示されている。また、特許文献3では、熱可塑性樹脂に特定の木粉を配合した熱可塑性樹脂組成物が開示されている。また、特許文献4では、解繊されたセルロース繊維を含有する樹脂組成物を製造するためのセルロース繊維含有熱可塑性樹脂組成物の製造方法が開示されている。しかしながら、いずれの特許文献においても、低比重、剛性、耐衝撃性等の物性に優れ、環境に配慮した天然繊維を含む環状オレフィン系樹脂組成物は開示されていない。したがって、環状オレフィン系樹脂に対して、天然繊維を配合する検討は不十分であるといえる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2005−344059号公報
【特許文献2】特開平09−067520号公報
【特許文献3】特開平09−143378号公報
【特許文献4】特開2007−084713号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は以上のような課題を解決するためになされたものであり、その目的は、低比重、剛性、耐衝撃性等の物性に優れ、環境に配慮した天然繊維を含む環状オレフィン系樹脂組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意研究を重ねた。その結果、(a)環状オレフィン系樹脂とセルロース繊維とを含む(b)セルロース繊維強化環状オレフィン系樹脂組成物であって、上記(a)環状オレフィン系樹脂のガラス転移点が100℃以下であり、上記(b)セルロース繊維の含有量が、上記(a)環状オレフィン系樹脂100質量部に対して、10質量部から150質量部であれば上記課題を解決できることを見出し、本発明を完成するに至った。より具体的には本発明は以下のものを提供する。
【0009】
(1) (a)環状オレフィン系樹脂とセルロース繊維とを含む(b)セルロース繊維強化環状オレフィン系樹脂組成物であって、前記(a)環状オレフィン系樹脂は、ガラス転移点が100℃以下であり、前記(b)セルロース繊維の含有量が、前記(a)環状オレフィン系樹脂100質量部に対して、10質量部から150質量部であるセルロース繊維強化環状オレフィン系樹脂組成物。
【0010】
(2) (c)α,β−モノオレフィン性不飽和カルボン酸の酸無水物の重合体又はその共重合体、イソシアネート化合物又はその変性体、イソチオシアネート化合物又はその変性体、及び熱可塑性ポリウレタン樹脂からなる群より選択される少なくとも1種類の化合物を、前記(a)環状オレフィン系樹脂100質量部に対して0.001質量部から10質量部更に含有する(1)に記載のセルロース繊維強化環状オレフィン系樹脂組成物。
【0011】
(3) 前記(a)環状オレフィン系樹脂が、(a1)環状オレフィンの付加重合体又はその水素添加物、(a2)環状オレフィンとα−オレフィンの付加共重合体又はその水素添加物、(a3)環状オレフィンの開環(共)重合体又はその水素添加物、及び(a4)上記(a1)から(a3)の樹脂に更に極性基を有する不飽和化合物のグラフト体及び/又は共重合体からなる群より選択される少なくとも1種類の環状オレフィン系樹脂である請求項(1)又は(2)に記載のセルロース繊維強化環状オレフィン系樹脂組成物。
【0012】
(4) レーザー回折・散乱法で測定されるセルロース繊維の平均粒径が5μm以上100μm未満となるセルロース繊維を含んでなる(1)から(3)のいずれかに記載のセルロース繊維強化環状オレフィン系樹脂組成物。
【0013】
(5) (1)から(4)のいずれかに記載のセルロース繊維強化環状オレフィン系樹脂組成物を成形してなる成形品。
【0014】
(6) 前記セルロース繊維強化環状オレフィン系樹脂組成物の比重が1.2以下であり、ISO178に準拠して測定した曲げ弾性率が3000MPa以上である(5)に記載の成形品。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、ガラス転移点が100℃以下の環状オレフィン系樹脂を用い、セルロース繊維の含有量を環状オレフィン系樹脂100質量部に対して10質量部から150質量部に調整することで、このセルロース繊維を含む環状オレフィン系樹脂組成物を成形してなる成形品は低比重、剛性、耐衝撃性等の物性に優れる。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の実施形態について詳細に説明するが、本発明は、以下の実施形態に何ら限定されるものではなく、本発明の目的の範囲内において、適宜変更を加えて実施することができる。なお、説明が重複する箇所については、適宜説明を省略する場合があるが、発明の要旨を限定するものではない。
【0017】
<セルロース繊維強化環状オレフィン系樹脂組成物>
本発明のセルロース繊維強化環状オレフィン系樹脂組成物は、ガラス転移点が100℃以下の環状オレフィン系樹脂を含むことと、セルロース繊維の含有量が環状オレフィン系樹脂100質量部に対して10質量部から150質量部であることが特徴である。
【0018】
[(a)環状オレフィン系樹脂]
本発明に用いられる(a)環状オレフィン系樹脂は、環状オレフィン成分を共重合成分として含むものであり、環状オレフィン成分を主鎖に含むポリオレフィン系樹脂であれば、特に限定されるものではない。
【0019】
本発明に好ましく用いられる(a)環状オレフィン系樹脂として、例えば、(a1)環状オレフィンの付加重合体又はその水素添加物、(a2)環状オレフィンとα−オレフィンの付加共重合体又はその水素添加物、(a3)環状オレフィンの開環(共)重合体又はその水素添加物、(a4)上記(a1)〜(a3)の樹脂に更に極性基を有する不飽和化合物のグラフト体及び/又は共重合体等を挙げることができる。ここで、極性基としては、カルボキシル基、酸無水物基、エポキシ基、アミド基、エステル基、ヒドロキシル基等が例示され、極性基を有する不飽和化合物としては、(メタ)アクリル酸、マレイン酸、無水マレイン酸、無水イタコン酸、グリシジル(メタ)アクリレート、(メタ)アクリル酸アルキル(炭素数1〜10)エステル、マレイン酸アルキル(炭素数1〜10)エステル、(メタ)アクリルアミド、(メタ)アクリル酸−2−ヒドロキシエチル等を挙げることができる。
【0020】
特に、本発明においては、環状オレフィンとα−オレフィンの付加共重合体又はその水素添加物を好ましく用いることができる。
【0021】
また、本発明に用いられる環状オレフィン成分を共重合成分として含む(a)環状オレフィン系樹脂としては、市販の樹脂を用いることも可能である。市販されている(a)環状オレフィン系樹脂としては、例えば、TOPAS(登録商標)(Topas Advanced Polymers社製)、アペル(登録商標)(三井化学社製)、ゼオネックス(登録商標)(日本ゼオン社製)、ゼオノア(登録商標)(日本ゼオン社製)、アートン(登録商標)(JSR社製)等を挙げることができる。
【0022】
本発明の組成物に好ましく用いられる環状オレフィンとα−オレフィンの付加共重合体としては、特に限定されるものではない。特に好ましい例としては、〔1〕炭素数2〜20のα−オレフィン成分と、〔2〕下記一般式(I)で示される環状オレフィン成分と、を含む共重合体を挙げることができる。
【化1】

(式中、R1〜R12は、それぞれ同一でも異なっていてもよく、水素原子、ハロゲン原子、及び、炭化水素基からなる群より選ばれるものであり、R9とR10、R11とR12は、一体化して2価の炭化水素基を形成してもよく、R9又はR10と、R11又はR12とは、互いに環を形成していてもよい。また、nは、0又は正の整数を示し、nが2以上の場合には、R5〜R8は、それぞれの繰り返し単位の中で、それぞれ同一でも異なっていてもよい。)
【0023】
〔〔1〕炭素数2〜20のα−オレフィン成分〕
本発明に好ましく用いられる環状オレフィン成分とエチレン等の他の共重合成分との付加重合体の共重合成分となる炭素数2〜20のα−オレフィンは、特に限定されるものではない。例えば、特開2007−302722号公報と同様のものを挙げることができる。また、これらのα−オレフィン成分は、1種単独でも2種以上を同時に使用してもよい。これらの中では、エチレンの単独使用が最も好ましい。
【0024】
〔〔2〕一般式(I)で示される環状オレフィン成分〕
本発明に好ましく用いられる環状オレフィン成分とエチレン等の他の共重合成分との付加重合体において、共重合成分となる一般式(I)で示される環状オレフィン成分について説明する。
【0025】
一般式(I)におけるR1〜R12は、それぞれ同一でも異なっていてもよく、水素原子、ハロゲン原子、及び、炭化水素基からなる群より選ばれるものである。
【0026】
R1〜R8の具体例としては、例えば、水素原子;フッ素、塩素、臭素等のハロゲン原子;メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基等の低級アルキル基等を挙げることができ、これらはそれぞれ異なっていてもよく、部分的に異なっていてもよく、また、全部が同一であってもよい。
【0027】
また、R9〜R12の具体例としては、例えば、水素原子;フッ素、塩素、臭素等のハロゲン原子;メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、ヘキシル基、ステアリル基等のアルキル基;シクロヘキシル基等のシクロアルキル基;フェニル基、トリル基、エチルフェニル基、イソプロピルフェニル基、ナフチル基、アントリル基等の置換又は無置換の芳香族炭化水素基;ベンジル基、フェネチル基、その他アルキル基にアリール基が置換したアラルキル基等を挙げることができ、これらはそれぞれ異なっていてもよく、部分的に異なっていてもよく、また、全部が同一であってもよい。
【0028】
R9とR10、又はR11とR12とが一体化して2価の炭化水素基を形成する場合の具体例としては、例えば、エチリデン基、プロピリデン基、イソプロピリデン基等のアルキリデン基等を挙げることができる。
【0029】
R9又はR10と、R11又はR12とが、互いに環を形成する場合には、形成される環は単環でも多環であってもよく、架橋を有する多環であってもよく、二重結合を有する環であってもよく、またこれらの環の組み合わせからなる環であってもよい。また、これらの環はメチル基等の置換基を有していてもよい。
【0030】
一般式(I)で示される環状オレフィン成分の具体例としては、特開2007−302722と同様のものを挙げることができる。
【0031】
これらの環状オレフィン成分は、1種単独でも、また2種以上を組み合わせて使用してもよい。これらの中では、ビシクロ[2.2.1]ヘプタ−2−エン(慣用名:ノルボルネン)を単独使用することが好ましい。
【0032】
〔1〕炭素数2〜20のα−オレフィン成分と〔2〕一般式(I)で表される環状オレフィン成分との重合方法及び得られた重合体の水素添加方法は、特に限定されるものではなく、公知の方法に従って行うことができる。ランダム共重合であっても、ブロック共重合であってもよいが、ランダム共重合であることが好ましい。
【0033】
また、用いられる重合触媒についても特に限定されるものではなく、チーグラー・ナッタ系、メタセシス系、メタロセン系触媒等の従来周知の触媒を用いて周知の方法により得ることができる。本発明に好ましく用いられる環状オレフィンとα−オレフィンの付加共重合体又はその水素添加物は、メタロセン系触媒を用いて製造されることが好ましい。
【0034】
メタセシス触媒としては、シクロオレフィンの開環重合用触媒として公知のモリブデン又はタングステン系メタセシス触媒(例えば、特開昭58−127728号公報、同58−129013号公報等に記載)が挙げられる。また、メタセシス触媒で得られる重合体は無機担体担持遷移金属触媒等を用い、主鎖の二重結合を90%以上、側鎖の芳香環中の炭素−炭素二重結合の98%以上を水素添加することが好ましい。
【0035】
〔その他共重合成分〕
(a)環状オレフィン系樹脂は、上記の〔1〕炭素数2〜20のα−オレフィン成分と、〔2〕一般式(I)で示される環状オレフィン成分以外に、本発明の目的を損なわない範囲で、必要に応じて他の共重合可能な不飽和単量体成分を含有していてもよい。
【0036】
任意に共重合されていてもよい不飽和単量体としては、特に限定されるものではないが、例えば、炭素−炭素二重結合を1分子内に2個以上含む炭化水素系単量体等を挙げることができる。炭素−炭素二重結合を1分子内に2個以上含む炭化水素系単量体の具体例としては、特開2007−302722号公報と同様のものを挙げることができる。
【0037】
本発明の(a)環状オレフィン系樹脂のガラス転移点(Tg)は100℃以下であり、より好ましくは30℃から80℃である。ガラス転移点が100℃を超える場合、樹脂組成物の溶融加工温度が高温化し、溶融押出時の目ヤニの発生やペレットの割れ、色相悪化、耐衝撃性の低下が顕著となり、また、30℃を下回る場合、樹脂組成物の剛性の低下が顕著となるため、いずれも好ましくない。なお、本発明において定義するガラス転移点は、DSC法(JIS K7121記載の方法)によって昇温速度10℃/分の条件で測定した値である。
【0038】
<(b)セルロース繊維>
(b)成分のセルロース繊維は、天然物でも工業製品でもよく、麻繊維、竹繊維、綿繊維、木材繊維、ケナフ繊維、ヘンプ繊維、ジュート繊維、バナナ繊維、ココナツ繊維等のセルロース繊維を用いることができる。また、古紙をベースにしたものであってもよい。
【0039】
その形状としては、パウダー形状としたもの、あるいは、特開2007−084713号公報や特開2009−001597号公報で提案されているような回転羽根を有するミキサー又は解繊機でセルロース繊維集合体を解繊させたもの等が挙げられる。
【0040】
また、(b)成分のセルロース繊維は、カップリング剤(アミノ基、置換アミノ基、エポキシ基、グリシジル基等の官能基を有するシランカップリング剤等)で表面処理されていてもよい。
【0041】
特に、成形加工性(流動性)が要求される場合はパウダー形状セルロース繊維が好ましく用いられる。パウダー形状セルロース繊維の具体例としては、日本製紙ケミカル社製のKCフロックW−50GK、W−200、W−400G、W−10MG2等が挙げられる。本発明は、繊維径の短いセルロース繊維を用いても、環状オレフィン系樹脂の使用により、低比重、剛性、耐衝撃性等の物性に極めて優れた成形品を得ることができる。
【0042】
レーザー回折・散乱法(マイクロトラック法)によって測定されるパウダー形状セルロース繊維の平均粒径は、5μm以上100μm未満であるものが好ましい。100μm未満であれば本発明の組成物は流動性、成型加工性に優れる傾向にあるため好ましい。また、本発明の組成物を成形してなる成形品の外観が優れるため好ましい。5μm以上とすることで、本発明の組成物を成形してなる成形品の剛性、衝撃特性が高まりやすいので好ましい。特に、ガラス転移点100℃以下(好ましくは30℃から80℃)の上記環状オレフィン系樹脂と上記平均粒径のセルロース繊維とを組み合わせることで、環境に配慮しつつ、低比重、剛性、耐衝撃性等の物性に極めて優れた成形品を得ることができる。なお、レーザー回折・散乱法(マイクロトラック法)による平均粒径は、水又は有機溶媒を媒体としてセルロース繊維を分散させた状態で球体近似における粒径分布を測定することにより、平均値として算出することができる。
【0043】
本発明の組成物中の(b)成分のセルロース繊維の含有量は、(a)成分の環状オレフィン系樹脂100質量部に対して10質量部から150質量部であり、好ましくは15質量部から120質量部である。含有量が過少及び過多の場合には、本発明の効果が十分に得られないため好ましくない。
【0044】
<(c)その他の成分>
本発明の組成物は(a)環状オレフィン系樹脂と(b)セルロース繊維との密着性等の改善のために、更に、(c)α,β−モノオレフィン性不飽和カルボン酸の酸無水物の重合体又はその共重合体、イソシアネート化合物又はその変性体、イソチオシアネート化合物又はその変性体、及び熱可塑性ポリウレタン樹脂からなる群より選択される少なくとも1種類の化合物を使用することができる。
【0045】
α,β−モノオレフィン性不飽和カルボン酸の酸無水物の重合体及び共重合体の例としては、無水マレイン酸等の不飽和カルボン酸の酸無水物の重合体、スチレン系単量体(例えば、スチレン、ビニルトルエン、α−メチルスチレン、クロロスチレン等)と無水マレイン酸等の不飽和カルボン酸の酸無水物との共重合体、エチレン及び/又はプロピレン系単量体等と無水マレイン酸等の不飽和カルボン酸の酸無水物との共重合体等が挙げられる。
【0046】
イソシアネート化合物の例としては、一般式O=C=N−R−N=C=O(R:2価の基)で表されるイソシアネート化合物、例えば、4,4’−メチレンビス(フェニルイソシアネート)、2,4−トリレンジイソシアネート、2,6−トリレンジイソシアネート、キシレンジイソシアネート、1,6−ヘキサメチレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、1,5−ナフタレンジイソシアネート、2,2,4−トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート、2,4,4−トリメチルヘキサメチレンジイソシアネートが挙げられる。またイソチオシアネート化合物の例としては、一般式S=C=N−R−N=C=S(R:2価の基)で表されるイソチオシアネート化合物であり上記イソシアネート化合物に対応する化合物が挙げられる。また変性体としてはこれらのイソシアネート化合物あるいはイソチオシアネート化合物の二量体、三量体、更にはイソシアネート基あるいはイソチオシアネート基が何らかの形で保護されている化合物等が挙げられる。これらはいずれも有効であるが、溶融処理等の変色度等の諸性質、あるいは取扱い上の安全性を考慮すると、4,4’−メチレンビス(フェニルイソシアネート)、イソホロンジイソシアネート、1,5−ナフタレンジイソシアネート、1,6−ヘキサメチレンジイソシアネート、2,4−トリレンジイソシアネート、2,6−トリレンジイソシアネート並びにこれらの二量体、三量体等の変性体(又は誘導体)が好ましい。
【0047】
また、熱可塑性ポリウレタン樹脂の例としては、(i)ジイソシアネート化合物、(ii)分子量が500から5000の高分子量ポリオール、(iii)分子量が60から500の低分子量ポリオール及び/又はポリアミンを構成成分とする反応生成物等が挙げられる。
【0048】
本発明の組成物中での、これらの成分(c)の好ましい使用量は1種又は2種以上を併せ、(a)環状オレフィン系樹脂100質量部に対して0.001質量部から10質量部であり、更に好ましくは0.002質量部から8質量部である。
【0049】
更に本発明の組成物には目的とする用途に応じてその物性を改善するため、公知の各種の添加物を配合し得る。例えば、酸化防止剤、紫外線吸収剤、光安定剤等の安定剤、帯電防止剤、滑剤、離型剤、染料や顔料等の着色剤、潤滑剤、可塑剤、界面活性剤、及び、無機、有機、金属等の繊維状、粉粒状、板状の充填剤が挙げられ、これらの1種又は2種以上を混合使用できる。
【0050】
また、他の樹脂成分として熱可塑性樹脂(例えば、アクリル樹脂、フッ素樹脂、ポリスチレン、ポリアセタール、ポリスルホン、ポリフェニレンオキサイド、ポリアミド、ポリカーボネート、ポリエステル、(a)、(c)以外のポリオレフィン等)、軟質熱可塑性樹脂(例えばエチレン/エチルアクリレート、エチレン/酢酸ビニル共重合体、ポリエステルエラストマー等)、熱硬化性樹脂(例えばフェノール樹脂、メラミン樹脂、エステル樹脂、シリコーン樹脂、エポキシ樹脂等)の1種又は2種以上を添加することもできる。
【0051】
<環状オレフィン系樹脂組成物の調製方法>
本発明の環状オレフィン系樹脂組成物は、上記の(a)環状オレフィン系樹脂100質量部に対して、(b)セルロース繊維10質量部から150質量部を含有させることにより組成物を調製する。また、好ましくは、更に(c)α,β−モノオレフィン性不飽和カルボン酸の酸無水物の重合体又はその共重合体、イソシアネート化合物又はその変性体、イソチオシアネート化合物又はその変性体、及び熱可塑性ポリウレタン樹脂からなる群より選択される少なくとも1種類の化合物を、上記の成分(a)、(b)とともに含有させることにより、組成物を調製する。
【0052】
本発明の調製方法の具体的態様は特に限定するものではなく、一般に合成樹脂組成物又はその成形品の調製法として公知の設備と方法により調製することができる。即ち、必要な成分を混合し、1軸又は2軸の押出機又はその他の溶融混練装置を使用して混練し、成形用ペレットとして調製することができる。また、押出機又はその他の溶融混練装置は複数使用してもよい。また、特開2007−084713号公報や特開2009−001597号公報で提案されているような回転羽根を有するミキサー又は解繊機を使用し調製することもできる。
【0053】
また、上記添加物を配合する場合には、任意のいかなる段階、例えば、(a)環状オレフィン系樹脂に一旦加えても、あるいは樹脂組成物の調製時に加えてもよく、また最終成形品を得る直前で、添加、混合することも可能である。
【0054】
<環状オレフィン系樹脂組成物の成形方法並びに用途>
以上のような方法にて本発明の環状オレフィン系樹脂組成物は、従来の環状オレフィン系樹脂に近い比重を有し、低比重を保持しつつ剛性や耐衝撃性等に優れた特長を有する。また、焼却時の残渣も少なく、再生資源型の植物繊維を配合した環境に配慮した材料である。
【0055】
ここで、樹脂組成物の好ましい比重の値を定義するならば、1.2以下であり、特に好ましくは1.1以下である。樹脂組成物の比重が1.2を上回る場合には、環状オレフィン系樹脂の持つ低比重の特性を損なうため好ましくない。なお、ここでの比重とは実施例に記載の方法で測定した比重を指す。
【0056】
また、好ましい曲げ弾性率(ISO178に準拠して測定)の値を定義するならば、3000MPa以上である。曲げ弾性率が3000MPaを下回る場合には、機械物性の改良効果が乏しいため、本発明の効果を十分得られず好ましくない。
【0057】
本発明の環状オレフィン系樹脂組成物は、従来公知の成形方法(例えば、射出成形、押出成形、圧縮成形、ブロー成形、真空成形、発泡成形、回転成形、ガスインジェクション成形等の方法)で、種々の成形品を成形することができる。また、これらの成形品は、自動車部品、電気・電子部品、建材、生活関係部品・化粧関係部品・医用関係部品等各種用途に利用することができる。
【実施例】
【0058】
以下に、実施例に基づいて本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例によって限定されるものではない。
<実施例1〜5、比較例1〜3>
(a)環状オレフィン系樹脂と(b)パウダー形状セルロース繊維とを、二軸押出機で溶融混錬し、ペレット状の環状オレフィン系樹脂組成物を調製した。また、(c)その他の成分を更に使用した環状オレフィン系樹脂組成物についても調製した。得られたペレットを用いて、射出成形機により、各試験に必要な大きさの試験片を成形し、後述する試験評価を行った。環状オレフィン系樹脂組成物の組成及び評価結果を表1に示す。なお、使用した成分、押出機条件、成形機条件、試験方法は以下の通りである。ただし、比較例1、2は押出機での溶融混練はせずに環状オレフィン系樹脂ペレットをそのまま射出成形し、各種評価を行った。
【0059】
[材料]
使用した成分の詳細は、以下の通りである。
(a)環状オレフィン系樹脂
(a−1)TOPAS8007F−04(Topas Advanced Polymers社製)
(a−2)TOPAS9506F−04(Topas Advanced Polymers社製)
(a−3)TOPAS5013S−04(Topas Advanced Polymers社製)
(b)パウダー形状セルロース繊維
(b−1)KCフロック W−200、レーザー回折・散乱法(マイクロトラック法)によって測定される平均粒径:約32μm(日本製紙ケミカル社製)
(b−2)KCフロック W−50GK、レーザー回折・散乱法(マイクロトラック法)によって測定される平均粒径:約45μm(日本製紙ケミカル社製)
(c)その他の成分
(c−1)無水マレイン酸変性ポリオレフィン樹脂「NタフマーMP0610」(三井化学社製)
(c−2)無水マレイン酸変性ポリオレフィン樹脂「ユーメックス1010」(三洋化成工業社製)
【0060】
[押出機条件](実施例1〜5、比較例3)
押出機:TEX−30α(L/D=38.5)、日本製鋼所社製
吐出量:15kg/h(一括でC1から原料供給)
スクリュー回転数:129rpm
バレル温度:C2=180℃、C3〜C6=200℃、C7〜C11・ダイ=200℃
(C1〜C11は押出機のフィード口からダイまでの位置を順番に表している。)
なお、比較例3では次の温度パターンを使用した。
バレル温度:C2=220℃、C3〜C6=260℃、C7〜C11・ダイ=250℃
【0061】
[成形機条件](実施例1〜5、比較例1〜3)
成形機:ROBOSHOT S2000i100B、スクリュー径28mm、ファナック社製
射出速度:26mm/s
保圧:60MPa×30sec
シリンダ温度:220℃
金型温度:40℃
なお、各樹脂は60℃・80mmHg以下の圧力下で12時間乾燥後に成形を行った。ただし、比較例3のみは100℃・8時間の送風乾燥後に成形を行った。
【0062】
[試験方法]
試験方法の詳細は、以下の通りである。
(1)ガラス転移点
DSC装置(パーキンエルマー社製DSC7)を用い、試料(アルミニウムパンに閉封)を10℃/分の速度で昇温して測定した。
(2)比重
試験片の容積(水中浸漬による増加分を測定)と試験片の重量により算出した。
(3)曲げ特性
ISO178に準拠し、曲げ弾性率(MPa)を測定した。
(4)シャルピー衝撃強さ(ノッチ付)
ISO179/1eAに準拠しシャルピー衝撃強さ(ノッチ付)(kJ/m)を測定した。
(5)植物度
組成物に占めるセルロース繊維の重量%を算出した。
【0063】
【表1】

【0064】
実施例1〜5に示されるように、本発明の環状オレフィン系樹脂組成物は、従来の環状オレフィン系樹脂に近い比重を有するとともに、剛性(曲げ特性)、耐衝撃性(シャルピー衝撃強さ)等に優れる。また、一定の植物度を有し、環境に配慮した材料である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)環状オレフィン系樹脂とセルロース繊維とを含む(b)セルロース繊維強化環状オレフィン系樹脂組成物であって、
前記(a)環状オレフィン系樹脂は、ガラス転移点が100℃以下であり、
前記(b)セルロース繊維の含有量が、前記(a)環状オレフィン系樹脂100質量部に対して、10質量部から150質量部であるセルロース繊維強化環状オレフィン系樹脂組成物。
【請求項2】
(c)α,β−モノオレフィン性不飽和カルボン酸の酸無水物の重合体又はその共重合体、イソシアネート化合物又はその変性体、イソチオシアネート化合物又はその変性体、及び熱可塑性ポリウレタン樹脂からなる群より選択される少なくとも1種類の化合物を、前記(a)環状オレフィン系樹脂100質量部に対して0.001質量部から10質量部更に含有する請求項1に記載のセルロース繊維強化環状オレフィン系樹脂組成物。
【請求項3】
前記(a)環状オレフィン系樹脂が、
(a1)環状オレフィンの付加重合体又はその水素添加物、
(a2)環状オレフィンとα−オレフィンの付加共重合体又はその水素添加物、
(a3)環状オレフィンの開環(共)重合体又はその水素添加物、及び
(a4)上記(a1)から(a3)の樹脂に更に極性基を有する不飽和化合物のグラフト体及び/又は共重合体
からなる群より選択される少なくとも1種類の環状オレフィン系樹脂である請求項1又は2に記載のセルロース繊維強化環状オレフィン系樹脂組成物。
【請求項4】
レーザー回折・散乱法で測定されるセルロース繊維の平均粒径が5μm以上100μm未満となるセルロース繊維を含んでなる請求項1から3のいずれかに記載のセルロース繊維強化環状オレフィン系樹脂組成物。
【請求項5】
請求項1から4のいずれかに記載のセルロース繊維強化環状オレフィン系樹脂組成物を成形してなる成形品。
【請求項6】
前記セルロース繊維強化環状オレフィン系樹脂組成物の比重が1.2以下であり、
ISO178に準拠して測定した曲げ弾性率が3000MPa以上である請求項5に記載の成形品。

【公開番号】特開2011−6518(P2011−6518A)
【公開日】平成23年1月13日(2011.1.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−149126(P2009−149126)
【出願日】平成21年6月23日(2009.6.23)
【出願人】(390006323)ポリプラスチックス株式会社 (302)
【Fターム(参考)】