説明

セレンに富むバイオマス、その調製方法ならびに前記バイオマスを含むプロバイオティック製品および栄養補助製品

本発明は、ラクトバチルス・ロイテリ、ラクトバチルス・フェリントシェンシス、ラクトバチルス・ブーフネリ/パラブーフネリおよびそれらの組合せからなる群から選択される生きた微生物を含むセレンに富むバイオマス、前記セレンに富むバイオマスの調製方法、ならびに前記バイオマスを含む食品調製物、栄養補助製品および食品補助剤に関する。さらに、非常に大量にセレンを濃縮する能力を有しており、したがって本発明の方法における使用に特に有用であるラクトバチリスの新しい株について記載する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、セレンに富むバイオマス、その調製方法、ならびに前記バイオマスを含むプロバイオティック製品および栄養補助製品に関する。本発明はさらに、本発明の方法における使用に適した、ラクトバチリス属に属する新しい微生物株に関する。
【背景技術】
【0002】
セレンは、主にセレノシステインとしてグルタチオンペルオキシダーゼおよびI型5’−ヨードチロシン脱ヨウ素酵素などの重要な酵素の組成に含まれているので、動物およびヒトのどちらにおいても必須の元素である。前者の酵素はヒドロペルオキシドの還元を触媒して細胞変性およびヒドロキシルラジカルの形成を防ぎ、後者はサイロキシンを甲状腺ホルモンの代謝に重要な活性ホルモンであるトリヨードサイロニンへと変換する。
【0003】
ヒトにおける重篤なセレン欠乏状態が、癌、心血管病、高血圧、脳卒中、ならびに腎臓および肝臓の疾患などの病態の危険性の上昇に関連していることが観察されている。しかし、このような欠乏状態は、セレンに富んだ食事を用いて、または例えば食品補助剤を用いて無機もしくは有機型のセレンを投与することによって、補正することができる。また、セレンの投与は、細胞変性のプロセスおよびフリーラジカル形成に対抗することに有効であることが判明している。
【0004】
人体によるセレン酸塩または亜セレン酸塩の利用はセレン化物の形成に伴う還元性プロセスによって行われ、これらはその後、従来にないアミノ酸、具体的にはSe−メチオニンおよびSe−システイン中に取り込まれる。
【0005】
多くの微生物(細菌、酵母および真菌)は亜セレン酸塩の存在下で増殖し、タンパク質中にセレン−アミノ酸として取り込むためにそれをセレン元素またはセレン化物へと還元することができる。
【0006】
セレンを含む生体分子を合成する能力は、ラクトバチリス属の一部の乳酸菌について記載されている(Calomme他、J.Appl.Microbiol.、1995;Andreoni他、Ann.Microbiol.、2000;50、77〜88)。
【0007】
したがって、ラクトバチリスの株が現在プロバイオティック目的で用いられており、これらの微生物が有機型のセレンを濃縮する能力により、それらの補助剤としての使用が拡張され得る。V.Andreoni他、Ann.Microbiol、2000;50、77〜88は、様々な起源由来の一部のラクトバチリスがセレンを蓄積する能力について記載している。
【0008】
今回、本発明者らは、驚くべきことに、ヒトの糞便試料から単離した、ラクトバチルス・ブーフネリ/パラブーフネリ(Lactobacillus buchneri/parabuchneri)種、ラクトバチルス・フェリントシェンシス(Lactobacillus ferintoshensis)種およびラクトバチルス・ロイテリ(Lactobacillus reuteri)種に属する微生物が文献中に報告されている株(Calomme他、J.Appl.Microbiol.、1995;Andreoni他、Ann.Microbiol.Enzimol.、2000)と比較して平均して10倍以上高い量でセレンを蓄積する能力を有することを発見した。したがって、これらのラクトバチリス種は、特に前記バイオマスのプロバイオティック剤および/または栄養補助剤としての使用を視野に入れた場合に、セレンに富むバイオマスの調製に特に適している。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
したがって、本発明の第1の目的は、セレンに富むバイオマスの調製方法であって、前記バイオマスを
(i)ラクトバチルス・ロイテリ、ラクトバチルス・フェリントシェンシス、ラクトバチルス・ブーフネリ/パラブーフネリおよびそれらの組合せからなる群から選択される微生物を、前記微生物がセレンを蓄積するようにセレン塩を含む栄養培地中で培養すること;ならびに
(ii)セレンに富む微生物を培地から分離すること
によって得ることを特徴とする調製方法である。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の方法では、以下に報告する研究から明らかなように、細胞中に蓄積された大量のセレンを含む微生物を含むバイオマスが得られる。さらに、これらの研究により、バイオマスによって蓄積されたセレンの一定割合が有機型、具体的にはSe−メチオニンおよびSe−システインの形態であること、また、これが、Se−アミノ酸の形態にありセレン含有タンパク質中に取り込まれているセレンは人体に容易に吸収されるので、バイオマスをプロバイオティック剤として用いることを視野に入れた場合の一利点を構成することが実証されている。
【0011】
セレンに富むバイオマスを調製する本発明の方法は、ラクトバチリス属の微生物の増殖に適した、セレン塩、例えば亜セレン酸塩、好ましくは亜セレン酸ナトリウムを添加した栄養培地中で微生物を培養する、発酵の第1段階を企図する。栄養培地は、炭素源、例えばグルコース、スクロースおよび/またはラクトース;窒素源、例えばペプトン、カゼインの加水分解物、肉エキスおよび/または酵母抽出物;無機塩;微量元素源ならびにビタミン、例えばコーンスティープリカーなどを含む液体培地であることが好ましい。
【0012】
発酵は、好ましくは25℃〜45℃、より好ましくは32℃〜40℃の温度で行う。液体培地のpH値は、好ましくは2.5〜8.0、より好ましくは3.5〜7.5である。発酵時間は、好ましくは6〜40時間、より好ましくは8〜36時間である。発酵は、好気性、微好気性および/または嫌気性条件で行うことができる。
【0013】
バイオマスの増殖および細胞中でのセレンの蓄積が起こる発酵段階ののち、得られたバイオマスを、培地から、好ましくは遠心分離または精密濾過によって、細胞が無傷に保たれるように分離する。したがって、本発明の方法は、生きた微生物を含む、セレンに富む微生物のバイオマスを得ることを可能にする。
【0014】
所望する場合は、次いで、得られたバイオマスを従来の方法に従って凍結乾燥または乾燥の操作に供することができる。
【0015】
さらに、本発明者らは、ヒト糞便試料から、それぞれLB2BM、LB6BMおよびLB26BMと呼ばれる、ラクトバチリス属に属する3つの新しい微生物株を単離し、これらは、セレン、特にSe−メチオニンおよびSe−システインの形態での濃縮について高い能力を有するので、本発明の方法における使用に特に有利であることが判明した。これらの株は、ラクトバチルス・ロイテリ種(LB2BM)、ラクトバチルス・フェリントシェンシス種(LB6BM)およびラクトバチルス・ブーフネリ/パラブーフネリ種(LB26BM)に属するものであると同定された(実施例11参照)。これら微生物株の培養物は、特許手続上の微生物の寄託の国際的承認に関するブダペスト条約の下、国際寄託当局Deutsche Sammlung fur Mikroorganismen und Zellkulturen(DSMZ、Braunschweig、ドイツ)に寄託されている:
【0016】
【表1】

【0017】
既に記載したように、本発明の方法によって得ることができるセレンに富むバイオマスは、無機型および有機型のセレンをどちらも高濃度で含むので、プロバイオティック剤としての使用に特に適している。
【0018】
この目的のために、バイオマスを様々な形態で調製することができる。例えば、これを食物製品、好ましくは乳またはヨーグルトなどの乳製品に加えて、プロバイオティック活性を有する食品調製物を得ることができる。あるいは、これを、プロバイオティック活性を有する組成物、例えば栄養補助調製物などの経口投与するための食品補助剤もしくは非食品調製物を調製するために、適切なビヒクルおよび/または賦形剤と組み合わせて用いることができる。この目的のためには、バイオマスを凍結乾燥または乾燥した組成物の形態で用いることが好ましい。
【0019】
プロバイオティック組成物または栄養補助組成物中で用いる凍結乾燥または乾燥した生成物の細菌負荷は、好ましくは少なくとも1010CFU/g〜1011CFU/gである。
【0020】
凍結乾燥または乾燥した組成物の調製には、脱脂乳、ラクトース、グルコース、酵母抽出物、ジャガイモデンプン、グルタミン酸ナトリウム、イノシトール、クエン酸ナトリウム、ゼラチン、マルトデキストリン、ステアリン酸マグネシウム、アスコルビン酸、ステアリン酸およびそれらの組合せなどの保護剤を加えて、湿バイオマスを液体培地、例えば水または滅菌した生理溶液中に懸濁させる。
【0021】
その後、凍結乾燥について上述したもののうちから不活性物質を用いて凍結乾燥および/または乾燥した組成物をプロバイオティックの調製用に希釈し、好ましくは少なくとも10CFU/gの細菌負荷を得る。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
以下の実施例は例示目的で提供し、いかなる様式でも本発明の範囲を限定することを意図しない。
【0023】
実施例1
8mg/lの亜セレン酸Na(NaSeO)を加えた200mlのMRS培地を500mlのフラスコ中で滅菌した。18時間、37℃で攪拌せずに事前に増殖させたラクトバチルス・ブーフネリ/パラブーフネリLb26BM−DSM16341の種培養液を、5%の量でフラスコに播種した。その後、培養物をシェーカー内で24時間、80rpmで増殖させた。培養の完了後、遠心分離によってバイオマスを収穫した。実施例9に記載の技法によってバイオマスの処理および分析を行った。細胞によって蓄積された全セレン量は1.87mg/gd.w.であった;Se−メチオニンの量は36.57ng/mgd.w.であり、Se−システインの量は135.70ng/mgd.w.であった。
【0024】
実施例2
実施例1に記載のようにラクトバチルス・フェリントシェンシス(Lactobacillus ferinthoshensis)Lb6BM−DSM16144を培養した。24時間培養したのち、蓄積された全セレン量は1.1mg/gd.w.であった;Se−メチオニンの量は12.63ng/mgd.w.であり、Se−システインの量は6.60ng/mgd.w.であった。
【0025】
実施例3
実施例1に記載のようにラクトバチルス・ロイテリLb2BM−DSM16143を培養した。24時間培養したのち、蓄積された全セレン量は0.7mg/gd.w.であった;Se−メチオニンの量は11.39ng/mgd.w.であり、Se−システインの量は83.78ng/mgd.w.であった。
【0026】
実施例4
ラクトバチルス・ブーフネリ/パラブーフネリLb26BM−DSM16341を、15L/10Lの5%のコーンスティープリカー(pH7.0、100℃、15分間で前処理したもの)および8mg/lの亜セレン酸Naを加えたMRS培地を含む発酵槽中で培養し、その後、log6(すなわち発酵開始から6時間後)から4時間毎に5mg/lを4回加えた。発酵槽にlog16の種の5%を播種し、pH6.6でlog20まで維持した。0.51/l/分の空気流を用いて培養物をゆっくりと攪拌し(60rpm)、log25で完了したとみなした。遠心分離によってバイオマスを収穫し、4.2g/lの乾重量を得た。全セレン蓄積量2.21mg/gd.w.が得られた。
【0027】
実施例5
実施例4に示したように、ラクトバチルス・フェリントシェンシスLb6BM−DSM16144を15Lの発酵槽中で培養した。4.8gd.w.のバイオマスが得られた。蓄積された全セレン量は2.09mg/gd.w.であった。
【0028】
実施例6
実施例4に示したように、ラクトバチルス・ロイテリLb2BM−DSM16143を15Lの発酵槽中で培養した。4.1gd.w.のバイオマスが得られた。蓄積された全セレン量は1.91mg/gd.w.であった。
【0029】
実施例7
28.1gd.w.のラクトバチルス・フェリントシェンシスLb6BM−DSM16144に等しい100gの湿バイオマスを滅菌した生理溶液で洗浄し、3%のアスコルビン酸、3%のグルタミン酸Na、および4%のイノシトールを含み、NaOHでpH6.2に調節した溶液520mlに再懸濁させ、その後、凍結乾燥した。4.3×1011CFU/gの細菌負荷を有する54gの凍結乾燥した組成物が得られた。
【0030】
実施例8
実施例7に記載のように28.1gd.w.のラクトバチルス・ロイテリLb2BM−DSMZ16143に等しい100gの湿バイオマスを調製し、3%のアスコルビン酸および3%のグルタミン酸Naを含む水溶液に約40%(w/v)の濃度で再懸濁させた。「噴霧乾燥機」を用いて懸濁液を乾燥させ、3.4×1010CFU/gの細菌負荷を有する乾燥した組成物が得られた。
【0031】
実施例9
分析方法
細胞によって蓄積されたセレン
実施例1、2および3から得られたバイオマスを、消耗した培地から遠心分離によって分離した。バイオマスを洗浄し、洗浄水を消耗した培地に加えた。次いで、時間ゼロ(T)および24時間の発酵後(T24)における培地中のセレンの量、ならびに細胞によって蓄積されたセレンの量を決定した。得られた結果を以下の表に示した。
【0032】
【表2】

【0033】
セレン含有量の決定
細胞質の可溶性画中および粒子状画分中のSe(IV)の量は、一定電流での電位差測定分析によって決定した。この分析は、Trace Lab PSU20を用いて行った。この機器ではppb未満のレベルでも微量元素が決定され、非常に好感度の分析方法が用いられている。分析には3つの標準電極が用いられている。それらは、ガラス質−炭素電極、白金電極およびカロメル電極である。
【0034】
ガラス質−炭素電極:これは、Seを測定する電極である。分析中、その先端は水銀の非常に薄い膜に覆われている。
【0035】
白金電極:これは、電気分解中に対極として役割を果たす。
【0036】
カロメル電極:これは参照電極であり、金属を吸収せず、飽和KClを含む。
【0037】
金属の性質および濃度次第で、後者は稼動中の電極上に別々に堆積される。水銀フィルム上に堆積される金属の量は、試料中の金属イオンの濃度および電気分解の時間に比例する(電極上に堆積される金属の量は、電気分解時間の増加に伴って増加する)。
【0038】
セレン含有量を決定するために用いた方法はSE−ADD方法であり、これには、250μlの標準物質(5ppmのSe)の添加が企図される。セレンの読取範囲は10ppb〜100ppbでなければならない。
【0039】
未加工の細胞抽出物の調製
Se−アミノ酸の含有量の決定には、まず未加工の細胞抽出物を調製した。これには、細胞ペレットを溶解液(50mMのトリスHCl−0.3mMのNaCl)に、pH8.0、1対5の比(5mlの溶解液中1gのペレット)で再懸濁させた。細胞壁の溶解を完了させるために、リゾチーム溶液(50mg/ml)をペレット1gあたり20μlの量で加えた。混合物を1時間、4℃で攪拌し、その後、8サイクルの超音波処理(30秒間のサイクル、氷中で1分間の休止を設ける)に供した(Bandelin HD 2070−U超音波処理器)。混合物を15000rpm(Beckman、JA20ローター)で1時間、5℃で遠心分離して、細胞質の可溶性画分を粒子状画分(膜および壁)から分離した。沈殿後、取り込まれたセレンおよびセレン含有アミノ酸の含有量について細胞質タンパク質の分析を行った。
【0040】
Se−アミノ酸の含有量の決定
Se−アミノ酸の含有量の決定には、1mlの蒸留水を各試料に加え、事前に無機化かつ凍結乾燥し、そのようにして得られた溶液のpHをNaOHで7.5に調節した。次に、プロテイナーゼKの水溶液を1対10の比で各試料に加えた。混合物を37℃で攪拌しながら24時間インキュベーションした。トリクロロ酢酸を10%の最終濃度まで加えることによってタンパク質を沈殿させた。懸濁液を遠心分離し、上清を採取し、使用時まで−20℃で保管した。試料の1つのアリコートで全セレン含有量を決定し、J.Agric.Food Chem.、2002;50、5722〜5728に記載のLC/MS方法を用いて、別のアリコートでSe−メチオニンおよびSe−システインの量を決定した。
【0041】
実施例10
胃液酸度および胆汁に対するラクトバチリスの耐性の決定
本発明の株の、酸度に対する耐性は、pH2.00の胃液と90分間接触させた後のその生存を評価することによって試験した(J.App.Microb.2001;90、268〜278)。MRS培地中、嫌気条件、37℃で18時間増殖した後に採取した細胞を、ペプトン水に再懸濁させた。等容積のこの細菌懸濁液(0.1ml)を、6mlの胃液および6mlの「対照管」溶液に加えて、約1×10CFU/mlの最終濃度を得た。どちらの微生物懸濁液についても37℃で90分間インキュベーションを行った。10倍希釈(decimal dilution)およびMRS寒天培地上にプレーティングを行うことによって、Tおよび90分後に採取した試料の生細胞の計数を行った。残りの容量は、9500rpm(Beckman、JA20ローター)で20分間、5℃で遠心分離して、胆汁に対する耐性を決定するために胆汁酸塩溶液中に懸濁させる細胞を得た。この目的のために、細胞を、ペプトン(1g/l)および胆汁(3g/l)を添加した6mlの0.1Mのリン酸緩衝液、pH6.5に再懸濁させ、37℃で3時間インキュベーションを行った。同時に、対照細胞を、同じ緩衝溶液であるが胆汁が存在しない緩衝溶液6mlに再懸濁させ、上述と同様にインキュベーションを行った。上述と同様に、Tおよび胆汁に3時間曝した後に採取した試料の細菌負荷の決定を実施した。
【0042】
酸性環境中でインキュベーションを行った細胞に対する乳の保護効果を、それぞれ胆汁酸塩への暴露および酸度に対して感受性のある2つの株、すなわちL.ロイテリLb2BMおよびL.ブーフネリ/パラブーフネリLb26BMについて評価した。この目的のために、pH2.0に酸性化した脱脂乳溶液中に細胞を播種し、この溶液(pH2.0に90分間)および胆汁酸塩溶液(180分間)に曝した後にCFU/mlの数を決定した。
【0043】
胃液酸度に対する耐性
【表3】

【0044】
胆汁酸塩の効果
【表4】

【0045】
pH2.0の脱脂乳および胆汁の存在下における株の応答
【表5】

【0046】
実施例11
株LB2BM、LB6BMおよびLB26BMの同定
本発明の株LB2BM、LB6BMおよびLB26BMはARDRA技法(増幅リボソームDNA制限分析)を用いて同定し、これには、ユニバーサルプライマーを用いて16SのrDNA遺伝子をコードしているDNA領域を増幅し、その後、得られた増幅産物を制限酵素で消化することが企図される。その後、制限断片の配列決定を行い、得られた配列とパーセント相同性に基づいて株を同定するための既知の配列とのアラインメントを行った。
【0047】
材料および方法
DNAの抽出
37℃で24時間インキュベーションを行った滅菌したMRS培地中のブロス培養物の細胞からDNAを抽出した。約2mlのブロス培養物を13000rpmで5分間遠心分離し、採取したペレットを1.85mlの細胞懸濁液に均一に再懸濁させた。50μlのRNaseミックスを混合物に加え、素早く攪拌した後、100μlの細胞溶解/変性溶液を加えた。懸濁液を55℃で15分間恒温装置に保持し、25μlのプロテアーゼミックスを添加し、55℃で2時間保持した。500の塩析混合物を加えた後、1.5mlを4℃で10分間保持し、13000rpmで10分間遠心分離した。2mlのTE(10mMのトリス−HClおよび1mMのEDTA、pH8、無菌的)ならびに8mlの100%エタノールを上清に加えた。ガラス棒で回収したDNA鎖に500μlの70%エタノールを添加し、11000rpmで30分間遠心分離した。水相を除去した後、これを37℃で24時間保持し、その後、TE(約200μl)に再懸濁させ、使用時まで−20℃で保管した。DNAの抽出は、1×TAE緩衝液中の0.7%アガロースゲル(w/v)での電気泳動によって確認した。
【0048】
ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)
ゲノムの特定の部分をPCR技術によって増幅した。PCR増幅反応は、滅菌した200μlエッペンドルフを用いて、事前に定義した25μlの反応容量で実施した。
【0049】
反応混合物は以下から構成されていた:
−最終反応容量の1/25の割合で用いた、ポリメラーゼ連鎖増幅反応を開始させる鋳型となる株のDNA(鋳型DNA);
−Taqポリメラーゼの酵素活性を安定化するのに必要なMg2+イオンを供給するMgCl(1.75mM)の溶液。
−相補的な配列点において事前に変性させたDNA相補鎖と対合する2つのオリゴヌクレオチドプライマー(0.2μM)、すなわち「順方向」反応(f)用に1つおよび「逆方向」反応(r)用に1つ。プライマーの3’遊離末端は、酵素活性の開始点を提供する。プライマーは増幅する領域に応じて変化し、以下に示す。
−デオキシリボヌクレオチド三リン酸(0.2mM)の混合物(dNTP=dAPT+dCTP+dGTP+dTTP)。
−開始鋳型上での新しいDNAの合成の反応を触媒する熱安定性酵素Taqポリメラーゼ(Bioline、英国);その活性の至適温度は70℃である;用いた酵素は5ユニット/μlの濃度で供給する。
−酵素反応に最適なイオン強度およびpHを作り出す機能を有する、トリス−HCl(100mM、pH8.3)およびKCl(500mM)からなる酵素Taqポリメラーゼの緩衝液、最終容量の1/10の割合で加えた。
−反応が起こる手段を表し、所望の容量に達することを可能にする、滅菌した蒸留水。
【0050】
外来性DNAによる反応物の汚染を防ぐために以下の注意を払った:
−滅菌フード、層流の下での反応混合物の調製;
−用いたすべての材料の滅菌;
−それぞれの増幅反応に、鋳型DNA以外のすべての反応物質を含む陰性対照を含めること。
【0051】
鋳型DNAとは別に上記で特定したすべての反応物質を適切な量で含む反応混合物を、1.5mlのエッペンドルフ中で調製した。その後、反応混合物を0.2mlのエッペンドルフ中でアリコートに分割し、次いでそれに鋳型を加えた。Taqポリメラーゼが非特異的に作用することを防ぐために、試料を迅速に氷中に置いた。
【0052】
増幅の結果は1.5%(w/v)アガロースゲルでの電気泳動によって確認した。陰性対照の電気泳動プロフィール中にバンドが存在しない場合は、反応物は汚染されていないとみなされた。
【0053】
以下に示す表は、細菌リボソームの16Sサブユニットをコードしている16SのrDNA遺伝子を増幅するための反応混合物中で用いた反応物質の濃度を示している。
【0054】
真正細菌のユニバーサルプライマー27f5’−AGA GTT TGA TCC TGC CTC AG−3’(配列番号1)および1495r5’−CTA CGG CTA CCT TGT TAC GA−3’(配列番号2)(Invitrogel)を用いた。これらは、大腸菌の16SのrDNA遺伝子のそれぞれ第27個目および第1495個目のヌクレオチドに位置し、ほぼ完全な増幅を可能にする。
【0055】
【表6】

【0056】
ユニットは、30分間に74℃の温度で10ngのdNTPを取り込む酵素の量として定義される。酵素は熱安定性であり、開始鋳型上での新しいDNAの合成の反応を触媒する。
【0057】
調製の直後、反応物を含む試験管をPCR GeneAmp PCT System 2400(Perkin Elmer)用の熱サイクラーに入れ、以下の熱サイクルを適用した:95℃で3分間の変性;94℃で1分間、55℃で1分間、72℃で2分間を35サイクル;次いで72℃で15分間の最終伸長段階。
【0058】
増幅の結果は、1×TAE緩衝液中の1.5%(w/v)アガロースゲルでの電気泳動によって確認した。16SのrDNAの増幅はすべて、約1500個のヌクレオチドの増幅バンドの存在によって検出することができる。ゲル上で目に見えるバンドに対応するDNAの分子量は、100bpの倍数の長さを有するDNA断片の混合物であるLadder 100 bp Plusを流すことによって生じたバンドと比較することによって判明する。
【0059】
制限酵素を用いた消化
得られた増幅産物は、制限酵素HhaI、HinfI、Afaを用いて消化した。
【0060】
各株の16SのrDNAの消化反応は、10μlの容量で、以下の試薬を用いて実施した:
−増幅バンドの強度に応じて異なる量の増幅したDNA;
−各酵素10×の特異的緩衝液(Amersham Biosciences);
−制限酵素(Amersham Biosciences)(10U/μl);
−容量を10μlにするためのMilliQ水。
【0061】
以下の表は、16SのrDNA断片を消化するために反応混合物中で用いた試薬の量を示す。
【0062】
【表7】

【0063】
試薬をエッペンドルフに入れ、37℃で12時間インキュベーションを行った。試料を−20℃で保管し、その後、試料を特徴付けるバンドの重量を評価するためにLadder 50 bpを用いて、1×TAE緩衝液中の3%(w/v)アガロースゲルでの電気泳動によって分析した。
【0064】
16SのrDNAの酵素消化により、異なる分子量の様々なバンドから形成されたプロフィールが、分析した配列上に存在する酵素によって認識された部位の関数として作成される。バンドの合計は増幅した断片の長さ(1500bp)を超えてはならない。
【0065】
DNAのゲル電気泳動
操作条件には、0.04Mのトリス−塩基、0.02Mの氷酢酸、0.001MのNa−EDTA、pH8からなるトリス−酢酸−EDTA(TAE)ランニング緩衝液中での水平アガロースゲルの使用が企図される。室温で実行し、ゲルの寸法の関数として一定電位90V〜110Vを維持する。DNA断片がゲルの長さの約2/3を覆ったら実効を停止する。
【0066】
アガロースの濃度は、分離するDNA分子の大きさに応じて0.7%〜3%に変化する:
−DNAの抽出の確認には0.7%
−16SのrDNAの増幅の確認には1.5%
−制限酵素を用いたDNAの消化の確認には3%。
【0067】
電気泳動実行用のゲルは、アガロースを1×TAE緩衝液に溶かすことによって調製した。ウェルに載せる前に、DNAを1:5(v/v)の比で40%(w/v)のスクロース、0.05%(w/v)のブロモフェノールブルー、0.1MのEDTA、pH8、および0.5%(w/v)のドデシル硫酸ナトリウム(SDS)からなるゲルローディング溶液と混合した。
【0068】
ゲルの最初および最後のウェルには既知の分子量の分離したDNAバンドを含むマーカーを載せ、これを用いて、塩基対(bp)で表される試料の長さを評価する。実行が完了したのち、マーカーは既知のDNA長に対応する分離したバンドを有する電気泳動プロフィールを示す。
【0069】
バンドがゲルの約2/3まで進んだのち、ゲルを光から話して0.5mMの臭化エチジウム溶液(Sigma)に15〜30分間浸した。その後、ゲルを蒸留水で約15分間洗浄し、Gel Doc画像収集システム(Biorad)に接続したUVトランスイルミネータの光の中で写真撮影した。
【0070】
PCR産物の精製
QIAquickゲル抽出キットのプロトコルを用いて増幅産物の70bp〜10kbを精製した。精製した産物(約450μl)は、使用時まで−20℃で、2mlマイクロチューブ中で保管した。
【0071】
DNAの沈殿
酢酸Na(pH5、3M)を精製した産物に、得られたDNAの容量の1/10の割合で加え、その後、100%のエタノールをDNAの2.5倍容量の割合で加えた。
【0072】
上清を除去するためにこれを4℃で20分間、14000rpmで遠心分離した。500μlの70%エタノールを加えた後、沈殿物を4℃で15分間遠心分離した。上清を除去したのち、エッペンドルフ内に残留エタノールを恒温装置内、37℃で約15分間、その後フードの下で蒸発させた。沈殿物を23μlのTE、pH8に再懸濁させ、使用時まで4℃で保管した。
【0073】
DNAの定量
Gel Doc画像収集システム(Biorad)を用いて試料の蛍光を既知の濃度のマーカーの蛍光と比較することによって、増幅した産物を定量した。
【0074】
1.5%のアガロースゲルを調製した。ウェルに既知の分子量のマーカーの2つの混合物を載せた。これらはそれぞれ以下から形成される:
1)20μlのマーカーLow Range Mass Ruler(商標)(MBI Fermentas)
2)10μlのマーカーLow Range Mass Ruler(商標)(MBI Fermentas)。
【0075】
2μlの試料DNAを2μlのブロモフェノールブルーおよび6μlのMilliQ水と混合した。10μlの混合物をゲルに載せた。
【0076】
配列決定
配列決定反応は、200ngのPCR産物、6pmolのプライマー27fおよび1495r(Invitrogen)、4μlの緩衝液(2.5×)ならびに蛍光色素で標識したヌクレオチドの混合物を含む4μlの「DyeTerminator」プリミックス(Amersham Biosciences)を用いたPCR増幅によって実施した。最終容量は20μlであった。増幅反応にはBiometriaサーマルサイクラーを用い、以下の熱サイクルを適用した:95℃で2分間の変性;94℃で30秒間、55℃で30秒間、60℃で4分間を25サイクル;次いで60℃で15分間の最終伸長段階。次に、標識したヌクレオチドの精製を実施した:QUICK RUN試料を遠心分離し、1.5mlのエッペンドルフに移し、これに2μlの酢酸Naおよび80μlの100%エタノールを加えた。この全体を13000rpmで5分間遠心分離し、上清を除去したのち、1mlの70%エタノールを加えた。13000rpmで5分間遠心分離したのち、上清を除去し、混合物をフードの下に15分間置くことで残留エタノールを蒸発させた。残渣を約13μlのMega BAC緩衝液に再懸濁させ、これを20秒間ボルテックス攪拌した。QUICK RUNを遠心分離し、試料を1.5mlのエッペンドルフに移し、その後、Applied Biosystem310Aシーケンサーに入れ、Applied Biosystemキャピラリー電気泳動の実行を実施した。
【0077】
相同性の調査
Fasta3プログラムおよびGeneSteam Alignプログラムを用いて、得られた配列とGenBankおよびEMBLデータベースに存在する配列とのアラインメントを行った。各株用に用いた配列、配列決定された塩基の数、パーセント相同性および各株が帰因する種を以下に示す。
【0078】
LB2BM−DSM16143
ラクトバチルス・ロイテリ
配列決定された塩基の数 860
%相同性:99.5
LB2BM 順方向(配列番号3)
LB2BM 逆方向(配列番号4)
【0079】
LB6BM−DSM16144
ラクトバチルス・フェリントシェンシス
配列決定された塩基の数 748
%相同性:98.9
LB6BM 順方向(配列番号5)
LB6BM 逆方向(配列番号6)
【0080】
LB26BM−DSM16341
ラクトバチルス・ブーフネリ/パラブーフネリ
配列決定された塩基の数 485
%相同性:99.4
LB26BM 順方向(配列番号7)
LB26BM 逆方向(配列番号8)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
セレンに富むバイオマスの調製方法であって、前記バイオマスが
(i)ラクトバチルス・ロイテリ、ラクトバチルス・フェリントシェンシス、ラクトバチルス・ブーフネリ/パラブーフネリおよびそれらの組合せからなる群から選択された微生物を、前記微生物がセレンを蓄積するように、セレン塩を含む栄養培地中で培養すること;ならびに
(ii)セレンに富む微生物を培地から分離すること
によって得られることを特徴とする調製方法。
【請求項2】
培地から分離した微生物をさらに凍結乾燥または乾燥の操作に供して、凍結乾燥または乾燥したセレンに富むバイオマスを得る、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
微生物がラクトバチルス・ロイテリDSM16143、ラクトバチルス・フェリントシェンシスDSM16144およびラクトバチルス・ブーフネリ/パラブーフネリDSM16341からなる群から選択される、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
セレン塩が亜セレン酸塩である、請求項1〜3いずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
培地が液体培地である、請求項1〜4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
培地が、無機塩、炭素源、窒素源、ビタミン源、微量元素源およびそれらの混合物からなる群から選択される、前記微生物を増殖するための通常の栄養素を含む、請求項1〜5のいずれか1項に記載の方法。
【請求項7】
前記培地のpHが2.5〜8、好ましくは3.5〜7.5の範囲である、請求項1〜6のいずれか1項に記載の方法。
【請求項8】
前記微生物を、前記培地中、25〜45℃、好ましくは32〜40℃の範囲の温度で培養する、請求項1〜7のいずれか1項に記載の方法。
【請求項9】
前記微生物を、前記培地中で6〜40時間、好ましくは8〜36時間培養する、請求項1〜8のいずれか1項に記載の方法。
【請求項10】
遠心分離または精密濾過によって前記微生物を培地から分離する、請求項1〜7のいずれか1項に記載の方法。
【請求項11】
請求項1〜10のいずれか1項に記載の方法によって得ることができる、セレンに富むバイオマス。
【請求項12】
生きた微生物を含む、請求項11に記載のバイオマス。
【請求項13】
2004年1月17日に寄託番号DSM16143の下でDSMZに寄託されたラクトバチルス・ロイテリ株LB2BM、2004年1月17日に寄託番号DSM16144の下でDSMZに寄託されたラクトバチルス・フェリントシェンシス株LB6BM、2004年4月5日に寄託番号DSM16341の下でDSMZに寄託されたラクトバチルス・ブーフネリ/パラブーフネリ株LB26BM、およびそれらの組合せからなる群から選択される微生物を含む、請求項11または12に記載のバイオマス。
【請求項14】
プロバイオティック剤としての請求項11〜13のいずれか1項に記載のセレンに富むバイオマスの使用。
【請求項15】
食品補助剤、栄養補助製品または食品調製物を調製するための、請求項14に記載の使用。
【請求項16】
請求項11〜13のいずれか1項に記載のセレンに富むバイオマスを、適切なビヒクルおよび/または賦形剤と組み合わせて含む、プロバイオティック活性を有する組成物。
【請求項17】
少なくとも10CFU/gの細菌負荷を有する、請求項16に記載の組成物。
【請求項18】
請求項16または17に記載のプロバイオティック活性を有する組成物を含む、食品調製物、食品補助剤または栄養補助製品。
【請求項19】
2004年1月17日に寄託番号DSM16143の下でDSMZに寄託されたラクトバチルス・ロイテリ株LB2BM、2004年1月17日に寄託番号DSM16144の下でDSMZに寄託されたラクトバチルス・フェリントシェンシス株LB6BMおよび2004年4月5日に寄託番号DSM16341の下でDSMZに寄託されたラクトバチルス・ブーフネリ/パラブーフネリ株LB26BMからなる群から選択される微生物。

【公表番号】特表2008−501329(P2008−501329A)
【公表日】平成20年1月24日(2008.1.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−513919(P2007−513919)
【出願日】平成17年5月24日(2005.5.24)
【国際出願番号】PCT/EP2005/052361
【国際公開番号】WO2005/118776
【国際公開日】平成17年12月15日(2005.12.15)
【出願人】(506402230)バイオマン・ソシエタ・ア・レスポンサビリタ・リミタータ (2)
【氏名又は名称原語表記】BIOMAN S.r.l.
【Fターム(参考)】