説明

センサキャップの製造方法

【課題】センサキャップをプレス加工によって形成するに際し、ダイアフラムと接触するフランジ部の接触面の平坦度を高めることができるセンサキャップの製造方法を提供する。
【解決手段】ダイアフラム型圧力センサのセンサキャップ10であり、有底筒状のキャップ部11と、キャップ部11の開口端から突出するフランジ部12と、フランジ部12の表面の外周側の面によって構成されたダイアフラムの接触面13と、接触面13の内側に設けられたダイアフラムの逃がし部14とを有するセンサキャップ10、の製造方法であって、プレス加工によって平板状の金属板1からキャップ部11とフランジ部12とを有する中間成形品2を形成した後に、単一のプレス加工によって、逃がし部14を形成すると同時に、フランジ部12の接触面13の裏側に規則的に配設された多数のディンプル15を形成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、センサキャップの製造方法に関するものであり、詳しくは、ダイアフラムの変形によって流体圧の変化を検出するダイアフラム型圧力センサに用いられるセンサキャップの製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
流体経路において流体圧の変化を検出する圧力センサとしては種々のものがあるが、中には、例えば図3に示すように、薄い金属板からなるダイアフラム130を用い、このダイアフラム130の変形によって流体圧が所定以上に高くなったことや所定以下に低くなったことを検出するダイアフラム型圧力センサ100がある。
【0003】
このダイアフラム型圧力センサ100は、螺着や溶着等によって流体経路に取付けられて内面に流体圧が加わる筒状のセンサ本体110と、このセンサ本体の端部に張設されたダイアフラム130とを備えるものであり、流体圧の変化によって生じるダイアフラム130の変形を歪みセンサ140によって感知するものである。
【0004】
なお、図3においては、ダイアフラム130に搭載した歪みセンサ140によってダイアフラム130の変形を感知するタイプのダイアフラム型圧力センサ100を例示しているが、ダイアフラム型圧力センサ100としては、これに限らず、歪みセンサ140を内蔵したダイアフラム130を用いたものや、歪みセンサ140自体がシート状であり、この歪みセンサ140によってダイアフラム130が構成されたもの等、種々のタイプのものがある。
【0005】
ところで、この種のダイアフラム型圧力センサ100では、ダイアフラム130や歪みセンサ140を保護するためにセンサキャップ120が取付けられている。そして、センサキャップ120は、有底筒状のキャップ部121と、このキャップ部121の開口端から径方向に突出するフランジ部122とを有するものであり、フランジ部122がダイアフラム130の外周縁部分に当接するものである。
【0006】
また、センサキャップ120のフランジ部122の表面においては、ダイアフラム130が流体圧の変化によって的確に変形するようダイアフラム130の十分な有効面積を確保すべく、キャップ部121の開口周りである内周側にダイアフラム130と非接触になる逃がし部124が設けられており、この逃がし部124周りのフランジ部122表面、すなわちフランジ部122の外周側の面が、ダイアフラム130と接触する接触面123になっている。
【0007】
なお、図3に示したダイアフラム型圧力センサ100では、センサ本体10の端面とセンサキャップ120のフランジ部122との間にダイアフラム130が配置され、センサ本体110、ダイアフラム130及びセンサキャップ120の外周縁をレーザー加工等によって溶着することで(図3における薄墨部分A)、センサ本体110とセンサキャップ120との間にてダイアフラム130が挟持されるように、センサ本体110、ダイアフラム130及びセンサキャップ120が一体化されている。
【0008】
また、センサ本体110は、センサキャップ120と同様に、筒状の本体部111の端部にフランジ部112を有するものであり、センサ本体110のフランジ部112の表面には、内周側に逃がし部114が設けられており、逃がし部114周りの面がダイアフラム130の接触面113になっている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
ダイアフラム型圧力センサのセンサ本体は切削加工によって形成されるのが通常であり、センサキャップも、切削加工によって形成されるのが一般的であるが、近年においては、プレス加工によって形成したセンサキャップもある。
【0010】
しかしながら、センサキャップをプレス加工品によって形成すると、次のような問題が生じる。
【0011】
ダイアフラムに接触してセンサ本体とでダイアフラムを挟持するフランジ部の接触面において、切削加工であれば、高度な平坦度を確保することができるのであるが、プレス加工品では、高度な平坦度を確保することが困難である。この理由は、平板状の金属板をプレス加工によって端部にフランジ部を有する筒状に形成するには、複数段階のプレス加工を経る絞り加工が行われるのであるが、このような複数段階のプレス加工を経る絞り加工によると、フランジ部の表面にショックラインが生じるためである。
【0012】
また特に、図3及び図4に示すように、フランジ部122の表面の内周側にダイアフラム130の逃がし部124を有するセンサキャップ120では、逃がし部124をプレス加工によって形成する際に、フランジ部122表面の外周側の面である接触面123の材料、所謂「肉」が逃がし部124側に引っ張られてしまう。よって、高度な平坦度が要求されるフランジ部122の接触面123において、要求される平坦度を得ることは非常に困難である。
【0013】
従って、図5に示すように、プレス加工によって単に形成しただけの従来のセンサキャップ120では、ダイアフラムと接触するフランジ部122の接触面123全体が高度な平坦面になっておらず、最も端側の面である最端面(クロスハッチング部分B)の外側や内側がわずかに後退した面になっており、ダイアフラムと接触してダイアフラムを挟持する接触面123の実質的な有効幅が狭くなっていた。また、ダイアフラムと実際に接触する接触面123の形状も高度な円形状ではなかった。
【0014】
このようにフランジ部の接触面の有効幅が狭く、また、ダイアフラムと実際に接触する接触面の形状が高度な円形状でないセンサキャップによると、流体圧の変化に応じて変形するダイアフラムが設定通りに変形しないといった問題や、変形の際に周方向に均一な応力が加わらずに破損し易くなるといった問題が生じる。よって、センサキャップにおいては、フランジ部の接触面において高度な平坦度が要求されるのであるが、センサキャップをプレス加工によって単に形成するだけでは、この要求を十分に満たすことができなかった。
【0015】
本発明は、上記実状を鑑みてなされたものであり、センサキャップをプレス加工によって形成するに際して、ダイアフラムと接触してダイアフラムを挟持するフランジ部の接触面の平坦度を高めることができるセンサキャップの製造方法の提供を課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0016】
上記課題を解決するために本発明の採った主要な手段は、
「ダイアフラム型圧力センサのセンサキャップであり、有底筒状のキャップ部と、該キャップ部の開口端から径方向に突出するフランジ部と、該フランジ部の表面の外周側の面によって構成されたダイアフラムの接触面と、該接触面の内側に設けられたダイアフラムの逃がし部とを有するセンサキャップ、の製造方法であって、
プレス加工によって平板状の金属板から前記キャップ部と前記フランジ部とを有する中間成形品を形成した後に、単一のプレス加工によって、前記逃がし部を形成する逃がし部形成加工を行うと同時に、前記フランジ部の前記接触面の裏側に規則的に配設された多数のディンプルを形成するディンプル形成加工を行うことを特徴とするセンサキャップの製造方法」
である。
【0017】
ここで、ディンプルの具体的な形状としては、円形状、より具体的に、円柱状、円錐状、半球状等の形状を例示することができるが、これに限らず、三角形や四角形等の角形状、楕円形状、長円形状等であってもよい。
【0018】
また、多数のディンプルを規則的に配設する配設パターンとしては、同一円周上においての所定ピッチ角度で多数のディンプルを配設した円周配設パターン、この円周配設パターンを同心円状に複数列、配列した同心円周配設パターン、格子状のパターン、千鳥状のパターン等を例示することができる。
【0019】
上記構成のセンサキャップの製造方法では、フランジ部の裏面に規則的に配設された多数のディンプルを形成することで、ディンプルの分だけフランジ部の裏面側の材料をフランジ部の表面側に流動させることができ、フランジ部の表面側のショックラインを消去することができる。よって、フランジ部の表面の平坦度を向上させるることができる。
【0020】
また、単一のプレス加工によって、フランジ部の表面側に逃がし部を形成すると同時にフランジ部の裏面側にディンプルを形成するため、逃がし部側に引っ張られて少なくなる接触面側の材料をフランジ部裏面のディンプルの形成によって補填することができる。よって、この点からも、フランジ部の内周側に逃がし部を形成しても、フランジ部の外周側の接触面において、平坦度を向上させることができる。
【0021】
ところで、ディンプルではなく、フランジ部の裏面に円環状の溝を形成することでフランジ部の表面の平坦化を図ることも想定できるが、円環状の溝では、円環状の溝の形状がフランジ部のショックラインと重なってショックラインの凹凸を助長させてしまい、逆に、フランジ部の表面の平坦度を低下させてしまう虞がある。
【0022】
これに対して本発明では、円環状の溝ではなく多数のディンプルにてフランジ部の表面の平坦化を図ることから、ショックラインと合致してショックラインの凹凸を助長することがない。よって、フランジ部表面の平坦化を的確に図ることができる。
【0023】
また、多数のディンプルは規則的に配設されていることから、ディンプル間において材料を均一に流動させることができる。よって、この点からも、フランジ部表面の平坦化を的確に図ることができる。
【0024】
上述した手段において、
「前記ディンプル形成加工において、前記フランジ部における前記逃がし部の裏側にも前記ディンプルを形成することを特徴とするセンサキャップの製造方法」
とするのが好適である。
【0025】
上記構成のセンサキャップの製造方法では、逃がし部の裏面にもディンプルを形成するため、逃がし部裏面側の材料をも接触面側に流動させることができる。よって、フランジ部の接触面の平坦度をより的確に向上させることができる。
【0026】
また、逃がし部裏面側の材料が接触面側に流動することから、接触面と逃がし部との境界部分の寸法形状として、高精度な寸法形状を実現することができる。
【発明の効果】
【0027】
上述した通り、本発明に係るセンサキャップの製造方法によれば、センサキャップをプレス加工によって形成するに際して、ダイアフラムと接触してダイアフラムを挟持するフランジ部の接触面の平坦度を高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】本発明に係るセンサキャップの製造方法の一例を示す説明図である。
【図2】本発明に係るセンサキャップの製造方法によって製造したセンサキャップの一例を示す図であり、(a)は平面図、(b)は底面図である。
【図3】ダイアフラム型圧力センサの一例を示す断面正面図である。
【図4】センサキャップの一例を示す斜視図である。
【図5】プレス加工によって製造した従来のセンサキャップの底面図である。
【発明を実施するための形態】
【0029】
本発明に係るセンサキャップの製造方法の実施形態としての一例を、以下、図面に従って詳細に説明する。
【0030】
なお、本例で説明するセンサキャップは、図3に示したダイアフラム型圧力センサ100に用いられるものであり、センサキャップとしての全体形状は、図4に示したセンサキャップ120と同様である。
【0031】
図1に示すように、まず、圧延鋼板等の適宜の金属素材を打ち抜いて所望形状の平板状の金属板1を形成する(a)。次に、平板状の金属板1をプレス加工することで、より具体的には、複数段階のプレス加工を経た絞り加工を行うことで、有底筒状のキャップ部11と、このキャップ部11の開口端から径方向に突出するフランジ部12とを有し、センサキャップ10としての所望の形状を呈する中間成形品2を形成する。
【0032】
このようにセンサキャップ10としての形状を呈する中間成形品2を形成した後、最終工程として、プレス加工によって、ダイアフラム側の面であるフランジ部12の表面の内周側にダイアフラムの逃がし部14を形成し、この逃がし部14の外側の面を、ダイアフラムと接触してダイアフラムを挟持する接触面13とする(c)。
【0033】
ここで、逃がし部14を形成する単一のプレス加工にて、逃がし部14を形成すると同時に、図2(a)に示すように、フランジ部12の裏面に多数のディンプル15を形成する。すると、フランジ部12の表面に生じていたショックラインが消去されて、ダイアフラムと接触してダイアフラムを挟持する接触面13の平坦度として、高度な平坦度を得ることができる。
【0034】
また、図2(b)に示すように、高度な平坦面となった接触面13全体が高精度でダイアフラムと密着する面となり、ダイアフラムと接触する十分な有効幅を有する接触面13(クロスハッチング部分C)を形成することができる。
【0035】
なお、本例では、外径25mm、内径17mm、厚さ1mmのフランジ部12において、外径21mm、深さ0.01〜0.1mm程度の逃がし部14を形成するにあたって、フランジ部12の裏面に、直径0.05〜0.3mm程度の微小な半球状のディンプル15を多数設けるようにしてある。
【0036】
また、多数のディンプル15は規則的に配設されたものであり、本例では、センサキャップ10の軸心回りに、同一円周上に所定ピッチ角度で多数のディンプル15が配置されている。また、同一円周上に所定ピッチ角度で配置された多数のディンプル15の円周パターン列として、この円周パターン列が同心円状に複数配列されている。
【0037】
ここで、ディンプル15の形状としては、上述のような半球状に限らず、四角形や三角形等、他の形状を採用することができるが、円形状のディンプル15とすると、ディンプル15周りに均一に材料を流動させることができることから好適である。
【0038】
また、ディンプル15を規則的に配設するパターンとしては、上述のパターンに限らず、格子状や千鳥状等、他の配列パターンであってもよいが、フランジ部12の接触面13が円環状であることから、多数のディンプル15を等間隔で円周上に配設するパターンが好適である。多数のディンプル15を等間隔で円周上に配設すれば、円環状の接触面13の周方向において、材料の流動を均一化できるからである。
【0039】
ところで、本例では、図2(a)に示すように、接触面13の裏面ばかりでなく、逃がし部14の裏面にもディンプル15を形成するようにしてある。これにより、逃がし部14裏面側の材料を接触面13側に流動させることができ、フランジ部12の接触面13において、より高度な平坦度を得ることができる。また、逃がし部14裏面側の材料が接触面13側に流動することから、接触面13と逃がし部14との境界部分の寸法形状として、高精度な寸法形状を実現することができる。
【0040】
以上、本発明に係るセンサキャップの製造方法の一例を示したが、本発明はこの例に限らず、本発明の要旨を逸脱しない範囲で適宜、変更してもよい。
【0041】
例えば、本例では多数のディンプルを同一形状、同一寸法としたが、フランジ部の内側のディンプルと外側のディンプルとで、例えば、内側のディンプルが小さく、外側のディンプルが大きくなるように、或いは、逆に、内側のディンプルが大きく、外側のディンプルが小さくなるように等、形状や寸法が異なるものとしてもよい。
【符号の説明】
【0042】
1 金属板
2 中間成形品
10 センサキャップ
11 キャップ部
12 フランジ部
13 接触面
14 逃がし部
15 ディンプル

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ダイアフラム型圧力センサのセンサキャップであり、有底筒状のキャップ部と、該キャップ部の開口端から径方向に突出するフランジ部と、該フランジ部の表面の外周側の面によって構成されたダイアフラムの接触面と、該接触面の内側に設けられたダイアフラムの逃がし部とを有するセンサキャップ、の製造方法であって、
プレス加工によって平板状の金属板から前記キャップ部と前記フランジ部とを有する中間成形品を形成した後に、単一のプレス加工によって、前記逃がし部を形成する逃がし部形成加工を行うと同時に、前記フランジ部の前記接触面の裏側に規則的に配設された多数のディンプルを形成するディンプル形成加工を行うことを特徴とするセンサキャップの製造方法。
【請求項2】
前記ディンプル形成加工において、前記フランジ部における前記逃がし部の裏側にも前記ディンプルを形成することを特徴とする請求項1に記載のセンサキャップの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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