説明

センシング方法、およびそれに用いられるセンシングキット

【課題】散乱光測定を用いたセンシング方法において、S/N比を向上させより定量性の高いセンシングを可能とする。
【解決手段】被検出物質Aの量を検出するセンシング方法であって、散乱体Fを含む標識複合体を形成するための第1のキャプチャ物質B1が固定された、透明担体10表面上のセンサ部14に、被検出物質Aの量に応じた量の標識複合体をセンサ部14に形成せしめ、透明担体10の少なくともセンサ部14を含む表面上の屈折率を、1.35以上かつ透明担体14の屈折率未満となるように調整し、散乱光測定を行う。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、散乱体によるエバネッセント光の散乱光を検出し、被検出物質の量を検出するセンシング方法、およびそれに用いられるセンシングキットに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、タンパク質やDNA等を検出するバイオ測定において、全反射照明を利用したセンシング方法が注目されている。このセンシング方法は、屈折率の異なる界面で測定光が全反射する際に界面からしみ出す光、すなわちエバネッセント光と、試料中に含まれる被検出物質あるいはこの被検出物質に付けられている標識との散乱、吸収、発光等の光学的な相互作用を分析ことにより、上記被検出物質の存在またはその量を検出する方法である。
【0003】
このようなセンシング方法の一例としては、蛍光性標識を用いた蛍光検出法がある。
蛍光検出法は、冷却CCD等光検出器の高性能化と相まって、バイオ研究には欠かせない道具となっている。また、蛍光性標識に用いる材料においても、特に可視領域では蛍光量子収率の高い蛍光色素、例えばFITC(蛍光:525nm、蛍光量子収率:0.6)やCy5(蛍光:680nm、蛍光量子収率:0.3)のような実用の目安となる0.2を超える蛍光色素が開発され広く用いられている。さらに、表面プラズモンによる電場の増強を用いて、蛍光信号を増大することにより、1pM(ピコモーラ)を切るような高感度検出も実現されている。
【0004】
しかしながら、蛍光色素は、光を吸収及び発光する性質上、化学構造的に弱いπ結合を有するため、強度の強い光による不可逆的破壊や雰囲気中の酸素やオゾンとの化学反応により変質してしまうという問題がある。これにより、蛍光色素全体から発せられる総蛍光量が経時的に減少する、いわゆる褪色を招いてしまうため、測定光の強度を一定以上あげることが出来ず、高感度化に限界がある。
【0005】
そこで、全反射照明を利用したセンシング方法の別の例として、特許文献1および特許文献2に示すような散乱性標識を用いた散乱光検出法が挙げられる。
【0006】
散乱光検出法は、金属微粒子等の散乱性標識によるエバネッセント光の散乱を利用しており、検出した散乱光の波長や強度に基づいて被検出物質の量を検出している。このような散乱光検出法は、上記のような褪色の問題が存在せず、さらに蛍光色素を用いた一般的な蛍光検出法よりも得られる検出光量が大きいため、より高い検出感度が要求されるような場合に用いる方法として利用されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特許第3608665号公報
【特許文献2】特表2007−525651号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、上記のような散乱光検出方法において、試料中に含まれる或いは透明担体上に存在する夾雑物により生じるエバネッセント光のノイズ的な散乱光が問題となっている。これは、ノイズ的な散乱光が、本来検出対象としている散乱性標識による散乱光に対するバックグラウンドを上昇させてしまうために、S/N比が低下し散乱光検出の定量性を失わせるためである。
【0009】
本発明は上記問題に鑑みてなされたものであり、S/N比を向上させ、より高い定量性を備えたセンシング方法、およびそれに用いられるセンシングキットの提供を目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するために、本願発明者は、透明担体の表面上の屈折率を空気(屈折率1.00)や水(屈折率1.33)よりも大きくすると、ある範囲の屈折率ではセンシングにおけるS/N比を向上させることが可能であることを見出し、本発明に至った。
【0011】
すなわち、本発明に係るセンシング方法は、
被検出物質の量を検出するセンシング方法であって、
散乱体を含む標識複合体を形成するための第1のキャプチャ物質が固定された、透明担体表面上のセンサ部に、被検出物質を含み得る試料を供給し、
被検出物質の量に応じた量の標識複合体をセンサ部に形成せしめ、
透明担体の少なくともセンサ部を含む表面上の屈折率を、1.35以上かつ透明担体の屈折率未満となるように調整し、
透明担体に測定光を照射してセンサ部にエバネッセント光を生じせしめ、
散乱体によるエバネッセント光の散乱光を検出することを特徴とするものである。
【0012】
ここで、「被検出物質の量を検出する」とは、被検出物質の存在の有無の検出を含み、定性的な量のみならず、定量的な量、または活性の程度を検出することも意味するものとする。
【0013】
散乱体を含む「標識複合体」とは、標識としての散乱体と第1のキャプチャ物質とを含み、センサ部上に被検出物質の量に応じた量だけ形成される集合体を意味するものとする。すなわち、例えばサンドイッチ法によるアッセイを行う場合には、標識複合体は、語述するように第1のキャプチャ物質−被検出物質−第2のキャプチャ物質のサンドイッチ構造を有する集合体を意味する。一方、競合法によるアッセイを行う場合には、標識キャプチャ物質は、標識複合体は、語述するように第1のキャプチャ物質−第3のキャプチャ物質という構造を有する集合体を意味する。
【0014】
「キャプチャ物質」とは、ある特定の対象物質と特異的に結合する物質を意味するものとする。例えば、特定の対象物質として抗原を考える場合には、キャプチャ物質としてこの抗原と特異的に結合する抗体が挙げられる。そして、上記の場合において、抗原と競合して上記抗体と特異的に結合する別の抗体もキャプチャ物質である。
【0015】
「センサ部」とは、透明担体表面上の第1のキャプチャ物質が固定されている領域を意味するものとする。
【0016】
「被検出物質の量に応じた量」の標識複合体とは、試料中に含まれる被検出物質の量に相関する量の標識複合体を意味するものとする。これにより、散乱体からの散乱光量から被検出物質の量を推量する。
【0017】
さらに、本発明に係るセンシング方法において、屈折率を1.38以上かつ1.51以下となるように調整することが好ましく、1.42以上かつ1.49以下となるように調整することがより好ましい。
【0018】
そして、屈折率を調整するための調整液で透明担体の表面を満たし、調整液の屈折率をもってこの表面の屈折率を調整することが好ましい。この場合、調整液は、水と混ざり合う有機溶媒、または屈折率の高い溶質の水溶液であることが好ましい。或いは、屈折率を調整するための粘着性物質またはゴム性物質を透明担体の表面に接触させ、粘着性物質またはゴム性物質の屈折率をもってこの表面の屈折率を調整することが好ましい。
【0019】
また、第2のキャプチャ物質が、被検出物質と特異的に結合するものであり、第2のキャプチャ物質と第2のキャプチャ物質が修飾された散乱体とからなる標識キャプチャ物質を、第1のキャプチャ物質に結合した被検出物質に特異的に結合させることにより、標識複合体を形成することが好ましい。或いは、第3のキャプチャ物質が、被検出物質と競合して第1のキャプチャ物質と特異的に結合するものであり、第3のキャプチャ物質と第3のキャプチャ物質が修飾された散乱体とからなる標識キャプチャ物質を、第1のキャプチャ物質に特異的に結合させることにより、標識複合体を形成することが好ましい。
【0020】
ここで、「標識キャプチャ物質」とは、センサ部上に固定され被検出物質と特異的に結合する第1のキャプチャ物質を介して、被検出物質の量に応じた量だけセンサ部上に結合する、散乱体によって標識されたキャプチャ物質を意味するものとする。すなわち、例えばサンドイッチ法によるアッセイを行う場合には、標識キャプチャ物質は、被検出物質と特異的に結合する第2のキャプチャ物質と、この第2のキャプチャ物質が修飾された散乱体とから構成される。これにより、第1のキャプチャ物質−被検出物質−第2のキャプチャ物質のサンドイッチ構造が作られ、標識キャプチャ物質がセンサ部上に結合する。ここで、被検出物質の第1のキャプチャ物質に対する結合部位と第2のキャプチャ物質に対する結合部位とは異なる。一方、競合法によるアッセイを行う場合には、標識キャプチャ物質は、被検出物質と競合して上記第1のキャプチャ物質と特異的に結合する第3のキャプチャ物質と、この第3のキャプチャ物質に修飾された散乱体とから構成される。これにより、第1のキャプチャ物質−第3のキャプチャ物質の結合が作られ、標識キャプチャ物質がセンサ部上に結合する。
【0021】
そして、散乱体は、金属性、金属酸化物性、金属窒化物性の微粒子であることが好ましく、この場合微粒子の粒径は、30nm以上300nm以下であることが好ましい。
【0022】
ここで、微粒子の「粒径」とは、その分散液中、通常は水溶液中において独立して動く固体の直径を指し、単粒子で分散している場合はその粒子の直径、複数の粒子が凝集した状態で安定に分散している場合はその凝集塊の直径を指す。粒径は例えば動的光散乱法で測定することができる。動的光散乱によって粒子の水中粒径を測定する方法としては、具体的には大塚電子製のDLS-8000シリーズ、DLS-6500シリーズ、FPAR-1000、Malvern製ゼータサイザーナノシリーズ、Beckman Coulter製Delsa Nano Sなどの装置を用い、各装置の取扱説明書に従って測定することができる。また、微粒子がロッド形状の場合、粒径は短軸の長さを指す。
【0023】
さらに、本発明に係るセンシングキットは、
試料を注入するための注入口と、注入口から注入された試料を流すための流路と、試料が流れるように空気を抜くための空気口と、散乱体を含む標識複合体を形成するための第1のキャプチャ物質が固定された、流路表面上のセンサ部とを有する透明担体チップ、および
流路の表面上の屈折率を調整するための、屈折率が1.35以上かつ透明担体チップの屈折率未満である調整液を備え、
被検出物質を含み得る試料をセンサ部に供給し、被検出物質の量に応じた量の標識複合体をセンサ部に形成せしめ、透明担体チップに測定光を照射してセンサ部にエバネッセント光を生じせしめ、散乱体によるエバネッセント光の散乱光を検出し、被検出物質の量を検出するセンシング方法に用いられることを特徴とするものである。
【0024】
或いは、本発明に係るセンシングキットは、
散乱体を含む標識複合体を形成するための第1のキャプチャ物質が固定されたセンサ部を有する透明担体チップ、および
透明担体チップの表面上の屈折率を調整するための、屈折率が1.35以上かつ透明担体チップの屈折率未満である調整液を備え、
被検出物質を含み得る試料をセンサ部に供給し、被検出物質の量に応じた量の標識複合体をセンサ部に形成せしめ、透明担体チップに測定光を照射してセンサ部にエバネッセント光を生じせしめ、散乱体によるエバネッセント光の散乱光を検出し、被検出物質の量を検出するセンシング方法に用いられるものであることを特徴とするものである。
【0025】
或いは、本発明に係るセンシングキットは、
散乱体を含む標識複合体を形成するための第1のキャプチャ物質が固定されたセンサ部を有する透明担体チップ、および
透明担体チップの表面上の屈折率を調整するための、屈折率が1.35以上かつ透明担体チップの屈折率未満である粘着性物質またはゴム性物質を備え、
被検出物質を含み得る試料をセンサ部に供給し、被検出物質の量に応じた量の標識複合体をセンサ部に形成せしめ、透明担体チップに測定光を照射してセンサ部にエバネッセント光を生じせしめ、散乱体によるエバネッセント光の散乱光を検出し、被検出物質の量を検出するセンシング方法に用いられることを特徴とするものである。
【0026】
そして、本発明に係るセンシングキットにおいて、
被検出物質と特異的に結合する第2のキャプチャ物質と、第2のキャプチャ物質が修飾された散乱体とからなる標識キャプチャ物質を備えることが好ましい。或いは、被検出物質と競合して第1のキャプチャ物質と特異的に結合する第3のキャプチャ物質と、第3のキャプチャ物質が修飾された散乱体とからなる標識キャプチャ物質を備えることが好ましい。
【発明の効果】
【0027】
本発明に係るセンシング方法、およびそれに用いられるセンシングキットは、透明担体又は流路の少なくともセンサ部を含む表面上の屈折率を、1.35以上かつ透明担体の屈折率未満となるように調整し、散乱光を検出している。すなわち、通常センサ部上が空気(屈折率1.00)や水(屈折率1.33)である従来法に比して、本発明はセンサ部上の屈折率を大きくしてセンシングを行っている。本願発明者は、透明担体の表面上の屈折率を空気や水よりも大きくするとある範囲の屈折率では、検出対象とする散乱光が増加しノイズ的な散乱光が減少するという現象を見出した。したがって、透明担体の表面上の屈折率を空気や水よりも大きくすることにより、S/N比を従来法に比して向上させることが可能となる。これにより、本発明に係るセンシング方法、およびそれに用いられるセンシングキットによって、より高い定量性を備えたセンシングを行うことが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1A】センシング方法の一工程を示す概略図(その1)
【図1B】センシング方法の一工程を示す概略図(その2)
【図2A】設計変更に係るセンシング方法の一工程を示す概略図(その1)
【図2B】設計変更に係るセンシング方法の一工程を示す概略図(その2)
【図3】第1の実施形態に係るセンシング方法における散乱光測定を示す概略図
【図4】第2の実施形態に係るセンシング方法における散乱光測定を示す概略図
【図5】第1の実施形態に係るセンシングキットを示す概略図
【図6A】第1の実施形態に係るキットを用いたセンシング方法を示す概略図(その1)
【図6B】第1の実施形態に係るキットを用いたセンシング方法を示す概略図(その2)
【図7】第1の実施形態に係るキットを用いた散乱光測定を示す概略図
【図8A】第2の実施形態に係るセンシングキットを示す概略図
【図8B】第3の実施形態に係るセンシングキットを示す概略図
【図9】屈折率と信号またはS/N比との関係を示す概略図
【図10】抗原濃度と信号との関係を示す概略図
【図11】実施例における測定イメージを示す概略図
【発明を実施するための形態】
【0029】
以下、本発明の実施形態について図面を用いて説明するが、本発明はこれに限られるものではない。
【0030】
「センシング方法」
<センシング方法の第1の実施形態>
まず、本実施形態に係るセンシング方法について説明する。このセンシング方法は、サンドイッチ形式のセンシング方法である。図1は、本実施形態に係るセンシング方法の工程の一部を示す概略図である。
【0031】
図1Aおよび図1Bに示すように、センシング方法は、透明担体上の所定領域に被検出物質と特異的に結合する第1のキャプチャ物質を固定してセンサ部を形成し(Step1a)、被検出物質を含みうる試料をセンサ部に供給し(Step1b)、被検出物質を第1のキャプチャ物質に結合せしめた後センサ部上を洗浄し(Step1c)、次いで被検出物質と特異的に結合する標識キャプチャ物質をセンサ部上に供給し(Step1d)、標識キャプチャ物質を第1のキャプチャ物質に結合した被検出物質に結合せしめた後センサ部上を洗浄し(Step1e)、そして、センサ部上にギャップカバーグラス12を乗せてその隙間に屈折率調整用の調整液を注入し(Step1f)、その後散乱光測定を行うものである。ここで、標識キャプチャ物質は、被検出物質と特異的に結合する第2のキャプチャ物質と、第2のキャプチャ物質が修飾された散乱体とからなる。また、別法としてStep1cを行わずにStep1bとStep1dを同時に行う方法、つまり被検出物質を含み得る試料と標識キャプチャ物質を予め混合してからセンサ部上に供給する方法も挙げられる。
【0032】
透明担体10は、その一表面の所定領域にセンサ部が形成されたものである。透明担体10は、例えば透明樹脂やガラス等の透明材料から形成されたものである。樹脂製基板を用いた場合には、基板が安価であるという利点があり、ガラス製基板を用いた場合には、不純物や表面凹凸による散乱(この散乱は検出信号に対するノイズとなる)が小さいという利点があるため、用途および検出条件に合わせ適宜選択することが望ましい。このような透明担体においては、透明担体の屈折率はおおむね1.5〜1.6となる。透明担体10を形成する樹脂の材料としては、ポリメチルメタクリレート(PMMA)、ポリカーボネート(PC)、シクロオレフィンを含む非晶性ポリオレフィン(APO)等が好ましい。透明担体は、散乱光測定において全反射照明についての導波路となる。ここで「導波路」とは、光が多重点で内部全反射し、全表面又はほぼ全表面に実質的に均質なエバネッセント光を形成するような二次元内部全反射素子を意味するものとする。二次元導波路の構造は平面状でも曲面状でもよい。
【0033】
センサ部は、透明担体表面上の第1のキャプチャ物質が固定されている領域である。センサ部は、1つであっても複数であっても構わない。センサ部が複数ある場合には、複数の被検出物質を検出することができるため、いわゆる多項目アレイ検出が可能となる。センサ部が複数ある場合は、それらのセンサ部は、非センサ部(すなわち、第1のキャプチャ物質が固定されていない領域)によって、分離されていることが好ましい。また、センサ部の2次元形状は、棒状、円形状等特に限定されるものではない。
【0034】
第1のキャプチャ物質は、被検出物質に対して特異的に結合するキャプチャ物質である。このようなキャプチャ物質は、特に制限されるものではなく、検出条件(特に被検出物質2)に応じて適宜選択することができる。例えば被検出物質が抗原である場合は、このようなキャプチャ物質としてそれに対する抗体が挙げられる。例えば、抗原がhCG抗原(分子量38000 Da)の場合、この抗原と特異的に結合するモノクロナール抗体等を用いることができる。固定化方法としては、透明担体に対して物理的に吸着させる方法、透明担体に表面修飾を施すことによってカルボキシル基、アミノ基、チオール基、などの官能基を導入し、そこに静電的にまたは化学結合を介して固定化する方法、キャプチャ分子に結合する構造を予め導入して固定化する方法などが挙げられる。化学結合の方法として例えば、透明担体をカルボキシル基化し、更に活性化させることによって第1のキャプチャ物質のアミノ基と結合させる、所謂アミンカップリング法を用いることができる。また、第1のキャプチャ物質と表面担体の間にリンカーやゲルなどの層を介する方法も挙げられる。
【0035】
標識キャプチャ物質は、被検出物質Aの量に応じた量だけセンサ部14上に結合する、散乱体により標識されたキャプチャ物質である。標識キャプチャ物質は、図1に示すように、サンドイッチ法によるアッセイを行う場合には、被検出物質Aと特異的に結合するキャプチャ物質と散乱体とから構成されるものである。また、標識キャプチャ物質は、後記する競合法によるアッセイを行う場合には、被検出物質と競合するキャプチャ物質と散乱体とから構成されるものである。より具体的には、透明担体10としてセンサ部14に被検出物質Aと特異的に結合する第1のキャプチャ物質B1が固定されてなるものを用いた場合、サンドイッチ法における標識キャプチャ物質BFは、被検出物質Aと特異的に結合する第2のキャプチャ物質B2と、この第2のキャプチャ物質B2が修飾された散乱体とからなるものである。一方同様の場合、競合法における標識キャプチャ物質は、被検出物質と競合して第1のキャプチャ物質と特異的に結合する第3のキャプチャ物質と、この第3のキャプチャ物質が修飾された散乱体とからなるものである。被検出物質Aが抗原である場合、第1、第2のキャプチャ物質として抗体を用いればよい。
【0036】
散乱体Fは、特に制限なく検出条件によって適宜選択されるが、散乱性および直径制御の観点から、金属微粒子、金属酸化物微粒子または金属窒化物微粒子であることが好ましい。さらに金属微粒子については、Au、Ag、Cu、Pt、Pd、Rh、Ru、Co、Fe、Niからなる群より選択される少なくとも1種以上の金属にて構成される金属微粒子であることがより好ましい。また、金属酸化物微粒子または金属窒化物微粒子の材料の例としては、シリカ、アルミナ、チタニア、ジルコニア、ゼオライト、酸化亜鉛、酸化イットリウム、酸化セリウム、酸化錫、酸化鉄、窒化ケイ素、窒化アルミニウム、窒化チタン、窒化クロムおよび窒化鉄等を挙げることができる。ここで、微粒子の粒径は、散乱強度の観点から、30nm以上、より好ましくは50nmが良く、単位面積当たりの散乱体の最大結合量の観点、引いてはダイナミックレンジの観点から300nm以下、より好ましくは200nm以下であることが好ましい。
【0037】
第2のキャプチャ物質は、被検出物質に対して特異的に結合するキャプチャ物質であって、散乱体を修飾しているキャプチャ物質である。ここで、第1および第2のキャプチャ物質は、被検出物質のそれぞれ異なる結合部位(抗体の場合にはエピトープ)に結合する。これにより、本実施形態に係るセンシング方法は、第1のキャプチャ物質−被検出物質−第2のキャプチャ物質のサンドイッチ構造を形成するサンドイッチ形式となる。また、サンドイッチ形式で複数の被検出物質を複数のセンサ部で検出する場合、第2のキャプチャ物質として複数の被検出物質の共通構造に特異的に結合する物質を用いることができる。具体的には、被検出物質として特定抗原に対する抗体を検出する場合、第2のキャプチャ物質として、抗体のFc部のような共通構造に結合する物質を用いることができる。
【0038】
調整液は、透明担体表面上の屈折率を調整するためのものである。調整液は、屈折率が1.35以上かつ透明担体チップの屈折率未満であることが好ましい。この調整液をセンサ部上に配置することにより、この調整液の屈折率をもって、透明担体表面上の屈折率を調整する。さらに、調整液は、屈折率が1.38以上かつ1.51以下であることが好ましく、1.42以上かつ1.49以下であることがより好ましい。例えば、下記表1に示すものの中から種々の屈折率を有する物質を適宜選択することができる。ただし、屈折率を調整するための調整液は、下記の物質に限定されるものではない。
【表1】

【0039】
また、調整液は、透明担体表面上の必要以上に広範囲に配置せず、少なくともセンサ部を含むセンサ部の近傍の範囲のみに配置することが好ましい。全反射照明型の測定を行う場合、透明担体の屈折率とその表面上の屈折率が近くなることで、エバネッセント光として光エネルギーが漏れやすくなり、光エネルギーの利用効率が低下するためである。
【0040】
次に、センシング方法における散乱光測定について図3を用いて説明する。図3は、散乱光測定に用いられる検出装置を示す概略断面図である。図3に示す検出装置は、センサ部を有する透明担体と、センサ部を覆うギャップカバーグラスと、センサ部の屈折率を調整するようにギャップカバーグラス内に注入された調整液と、透明担体の端面へ向けて測定光を照射する光源と、測定光が上記端面のみを透過し透明担体中を導波するように透明担体の端部に配置された遮光板と、測定光の導波に起因して生じるエバネッセント光の散乱光を検出する光検出器とを備えている。そして図3中には、センサ部に固定された第1のキャプチャ物質、この第1のキャプチャ物質に結合した被検出物質、およびこの被検出物質に結合した標識キャプチャ物質も示されている。
【0041】
測定光は、例えばレーザ光源等から得られる単波長光でも白色光源等から得られるブロード光でもよく、特に制限はないが、検出条件に応じて適宜選択することができる。本実施形態に係る検出装置では、透明担体の端面から測定光を照射し透明担体を導波させるため、容易にエバネッセント波を生じせしめることが可能である。測定光Loの波長は、可視、紫外および近赤外領域の値を用いることができ、特に制限されない。
【0042】
光源21は、例えばレーザ光源等でもよく、特に制限はないが、検出条件に応じて適宜選択することができる。また必要に応じて、光源21は、測定光Loを透明担体10の表面に対して、この表面で全反射条件を満たすように誘電体透明担体10を通して入射させるために、測定光を導光するためのミラーやレンズ等の導光系等を適宜組み合わせることができる。また、遮光板は、光源から発生する迷光の影響を最小限に抑えるためのものである。遮光板は、吸光材を使用するとより効果的である。
【0043】
光検出器30としては、CCD、PD(フォトダイオード)、フォトマルチプライア、c−MOS等を適宜用いることができる。特に検出感度の観点から、冷却CCDを用いることが好ましい。また、光検出器30は、検出条件に応じて光学フィルタや分光器等の分光手段と組み合わせて用いることができる。好ましい光検出器30として、例えば富士フイルム株式会社製 LAS-1000 plus(商品名)等を挙げることができる。
【0044】
本願発明者は、透明担体の表面上の屈折率を空気や水よりも大きくするとある範囲の屈折率では、検出対象とする散乱光が増加しノイズ的な散乱光が減少するという現象を見出した。通常透明担体の屈折率とその表面上の屈折率とが近づくと、エバネッセント光の強度が増大することが知られている。したがって、技術常識的には検出対象とする散乱光(すなわち、散乱体からの散乱光)の強度が増大し、ノイズ的な散乱光(すなわち、透明担体表面の夾雑物等からの散乱光)の強度も増大すると考えられる。しかしながら、本願発明者は、特に「ノイズ的な散乱光が減少する」という驚くべき現象を見出した。これにより後述するように、本発明に係るセンシング方法によって、S/N比を格段に向上させることができる。
【0045】
本発明に係るセンシング方法は、透明担体の少なくともセンサ部を含む表面上の屈折率を、1.35以上かつ透明担体の屈折率未満となるように調整し、散乱光を検出している。すなわち、通常センサ部上が空気(屈折率1.00)や水(屈折率1.33)である従来法に比して、本発明はセンサ部上の屈折率を大きくしてセンシングを行っている。したがって、透明担体の表面上の屈折率を空気や水よりも大きくすることにより、S/N比を従来法に比して向上させることが可能となる。これにより、本発明に係るセンシング方法、およびそれに用いられるセンシングキットによって、より高い定量性を備えたセンシングを行うことが可能となる。
【0046】
<設計変更>
また、上記において、サンドイッチ形式のセンシング方法について説明してきたが、本発明は上記の態様に限られない。すなわち、図2Aおよび図2Bに示すように、競合形式のセンシング方法とすることも可能である。
【0047】
この場合、センシング方法は、透明担体上の所定領域に被検出物質と特異的に結合する第1のキャプチャ物質を固定してセンサ部を形成し(Step2a)、被検出物質を含みうる試料をセンサ部に供給し(Step2b)、被検出物質を第1のキャプチャ物質に結合せしめた後センサ部上を洗浄し(Step2c)、次いで被検出物質と競合して第1のキャプチャ物質と特異的に結合する標識キャプチャ物質をセンサ部上に供給し(Step2d)、標識キャプチャ物質を第1のキャプチャ物質に結合せしめた後センサ部上を洗浄し(Step2e)、そして、センサ部上にギャップカバーグラスを乗せてその隙間に屈折率調整用の調整液を注入し(Step2f)、その後散乱光測定を行うものである。
【0048】
<センシング方法の第2の実施形態>
まず、本実施形態に係るセンシング方法について説明する。このセンシング方法は、サンドイッチ形式のセンシング方法である。本実施形態に係るセンシング方法は、第1の実施形態に係るセンシング方法と同様の構成であるが、屈折率が1.35以上かつ透明担体チップの屈折率未満である粘着性物質またはゴム性物質を用いて、透明担体表面上の屈折率を調整している点で異なる。したがって、第1の実施形態に係るセンシング方法と同様の構成要素についての説明は、特に必要のない限り省略する。
【0049】
粘着性物質またはゴム性物質は、透明担体表面上の屈折率を調整するためのものである。使用上容易なことから、支持体とその支持体上に形成された粘着性物質層またはゴム性物質層とからなるテープ状のもの(調整テープ)が好ましい。ここで、光検出の観点から、支持体は透明であることが好ましい。ただし、必ずしも透明である必要はない。この場合、この調整テープの粘着性物質層またはゴム性物質層が形成されている側をセンサ部に接触させることにより、これら粘着性物質またはゴム性物質の屈折率をもって、透明担体表面上の屈折率を調整する。粘着性物質またはゴム性物質は、屈折率が1.35以上かつ透明担体チップの屈折率未満であることが好ましい。さらに、粘着性物質またはゴム性物質は、屈折率が1.38以上かつ1.51以下であることが好ましく、1.42以上かつ1.49以下であることがより好ましい。
【0050】
本実施形態に係るセンシング方法も、透明担体の少なくともセンサ部を含む表面上の屈折率を、1.35以上かつ透明担体の屈折率未満となるように調整し、散乱光を検出している。すなわち、通常センサ部上が空気(屈折率1.00)や水(屈折率1.33)である従来法に比して、本発明はセンサ部上の屈折率を大きくしてセンシングを行っている。したがって、第1の実施形態と同様の効果を得ることが可能となる。
【0051】
「センシングキット」
<センシングキットの第1の実施形態>
本実施形態のセンシングキット60aについて説明する。図5はセンシングキット60aの構成を示す模式図である。センシングキット60aは、流路と、センサ部と、センサ部の上流側に乾燥固定された標識キャプチャ物質とを有する透明担体チップ、および流路表面上の屈折率を調整するための調整液を備えている。ここで、調整液についてはセンシング方法の第1の実施形態の場合と同様である。また、図5では、調整液63はアンプル62に入れられ密閉されている。
【0052】
透明担体チップ50は、誘電体プレートからなる基台51と、基台51上に液体試料Sを保持し、液体試料Sの流路52を形成するスペーサ53と、試料Sを注入する注入口54aおよび流路52を流下した試料を排出する排出口となる空気孔54bを備えたガラス板からなる上板54とから構成され、流路52の注入口54aと空気孔54bとの間の試料接触面となる基台51の所定領域上に設けられたセンサ部58、59が備えられている。また、注入口54aから流路52に至る箇所にはメンブレンフィルター55が備えられ、流路52下流の空気孔54bに接続する部分には廃液だめ56が形成されている。そして、センサ部の上流側には標識キャプチャ物質が乾燥固定されている。
【0053】
本発明のセンシング方法において、本実施形態のセンシングキット60aを用い、血液(全血)中に被検出物質である抗原を含むか否について、サンドイッチ法によるアッセイを行う手順について図6Aおよび図6Bを参照して説明する。
step6a:注入口54aから検査対象である血液(全血)Soを注入する。ここでは、この血液So中に被検出物質である抗原Aが含まれている場合について説明する。図6A中において血液Soは網掛け領域で示している。
step6b:血液Soはメンブレンフィルター55により濾過され、赤血球、白血球などの大きな分子が残渣となる。
step6c:血漿S(メンブレンフィルター55で血球分離された血液)が毛細管現象で流路52に染み出す。または反応を早め、検出時間を短縮するために、空気孔54bにポンプを接続し、血漿Sをポンプの吸引、押し出し操作によって流下させてもよい。図6A中において血漿Sは斜線領域で示している。
step6d:流路52に染み出した血漿Sと抗体Bが付与された散乱体(標識抗体BF、すなわち標識キャプチャ物質)とが混ぜ合わされ、血漿S中の抗原Aが標識抗体BFと結合する。
step6e:血漿Sは流路52に沿って空気孔54b側へと徐々に流れ、標識抗体BFと結合した抗原Aが、第1の測定エリア58上に固定されている固定化抗体Bと結合し、抗原Aが固定化抗体Bと標識抗体BFで挟み込まれたいわゆるサンドイッチが形成される。
step6f:抗原Aと結合しなかった標識抗体BFの一部は第2の測定エリア59上に固定されている固定化抗体Bと結合する。さらに抗原Aまたは固定化抗体Bと結合しなかった標識抗体BFが測定エリア上に残っている場合があっても、後続の血漿Sが洗浄の役割を担い、プレート上に浮遊および非特異吸着していた標識抗体BFを洗い流す。
step6g:流路表面上の屈折率を調整するための調整液を注入口54aから注入する。
step6h:調整液が毛細管現象で流路52に染み出す。先ほどと同様に、検出時間を短縮するために、空気孔54bにポンプを接続し、調整液をポンプの吸引、押し出し操作によって流下させてもよい。
step6i:調整液がセンサ部をほぼ覆ったところで、流路表面の屈折率の置換が完了する。
【0054】
その後、図7に示すような検出装置を用いて、散乱光測定を行う。この検出装置は、透明担体チップを収容する収容部19と、センサ部14に測定光Loを照射する励起光照射光学系20と、測定光Loの照射により生じる、被検出物質Aに応じた量の光を検出する光検出手段30とを備えている。
【0055】
励起光照射光学系20は、測定光Loを出力する半導体レーザ(LD)等からなる光源21と、透明担体チップ10に一面が接触するように配置されたプリズム22とを備えている。プリズム22は、透明担体10の界面で測定光Loが全反射するように透明担体チップ10内に測定光Loを導光するものである。なお、プリズム22と透明担体チップ10とは、屈折率マッチングオイルを介して接触されている。光源21は、プリズム22の他の一面からセンサチップ10の試料接触面で測定光Loが全反射角以上で入射するように配置されている。さらに、光源21とプリズム22との間に必要に応じて導光部材を配置してもよい。
【0056】
収容部19は、透明担体10を収容する際に、透明担体のセンサ部14がプリズム22上に配置され、光検出器30で散乱光が検出できるよう構成されている。収容部19に対し透明担体10は、図中矢印X方向に出し入れすることができる。
【0057】
そして、所定領域に測定光を全反射照射して、エバネッセント光Dを生じせしめ、標識抗体中の散乱体によるこのエバネッセント光の散乱光を検出することにより、被検出物質の量を検出することが可能となる。
【0058】
このように、血液Soを注入口54aから注入し、第1の測定エリア58上に抗原Aが固定化抗体Bと標識抗体BFで挟まれたサンドイッチが形成されるまでのstep6aからStep6iの後、第1の測定エリア58からの散乱光信号(以下、検出信号)を検出することにより、抗原の有無および/またはその濃度を検出することができる。その後、第2の測定エリア59からの検出信号を検出できるように試料セル50をX方向に移動させ、第2の測定エリア59からの検出信号を検出する。標識抗体BFと結合する固定化抗体Bを固定している第2の測定エリア59からの検出信号は、標識抗体BFの流下した量、活性などの反応条件を反映した信号であると考えられ、この検出信号をリファレンスとして、第1の測定エリア58からの検出信号を補正することにより、より精度の高い検出結果を得ることができる。また、第2の測定エリア59に既知量の標識物質(光散乱物質、金属微粒子)をあらかじめ固定した場合であっても、同様に、第2の測定エリア59からの光信号をリファレンスとして第1の測定エリア58からの検出信号を補正することができる。
【0059】
本発明に係るセンシングキットは、流路の少なくともセンサ部を含む表面上の屈折率を、1.35以上かつ透明担体の屈折率未満となるように調整し、散乱光を検出するものである。すなわち、通常センサ部上が空気(屈折率1.00)や水(屈折率1.33)である従来法に比して、本発明はセンサ部上の屈折率を大きくしてセンシングを行っている。したがって、透明担体の表面上の屈折率を空気や水よりも大きくすることにより、S/N比を従来法に比して向上させることが可能となる。これにより、本発明に係るセンシング方法、およびそれに用いられるセンシングキットによって、より高い定量性を備えたセンシングを行うことが可能となる。
【0060】
<センシングキットの第2の実施形態>
本実施形態のセンシングキット60bについて説明する。図8Aはセンシングキット60bの構成を示す模式図である。センシングキット60bは、センサ部を有する透明担体、および透明担体表面上の屈折率を調整するための調整液、および標識キャプチャ物質を含む標識液を備えている。ここで、調整液についてはセンシング方法の第1の実施形態の場合と同様である。また、標識キャプチャ物質は、第2のキャプチャ物質とこの第2のキャプチャ物質が修飾された散乱体とから構成されている。さらに、図8Aでは、調整液63および標識液65は、それぞれアンプル62および64に入れられ密閉されている。
【0061】
本実施形態に係るセンシングキットによって、<センシング方法の第1の実施形態>で述べたセンシング方法と同様のセンシングを行うことができる。
【0062】
本発明に係るセンシングキットも、透明担体の少なくともセンサ部を含む表面上の屈折率を、1.35以上かつ透明担体の屈折率未満となるように調整し、散乱光を検出するものである。すなわち、通常センサ部上が空気(屈折率1.00)や水(屈折率1.33)である従来法に比して、本発明はセンサ部上の屈折率を大きくしてセンシングを行っている。したがって、センシングキットの第1の実施形態と同様の効果を得ることができる。
【0063】
<センシングキットの第3の実施形態>
本実施形態のセンシングキット60cについて説明する。図8Bはセンシングキット60cの構成を示す模式図である。センシングキット60cは、センサ部を有する透明担体、および透明担体表面上の屈折率を調整するための調整テープ66、および標識キャプチャ物質を含む標識液65を備えている。ここで、調整テープ66についてはセンシング方法の第2の実施形態の場合と同様である。また、標識キャプチャ物質は、第2のキャプチャ物質とこの第2のキャプチャ物質が修飾された散乱体とから構成されている。さらに、図8Bでは、標識液65はアンプル64に入れられ密閉されている。
【0064】
本実施形態に係るセンシングキットによって、<センシング方法の第2の実施形態>で述べたセンシング方法と同様のセンシングを行うことができる。
【0065】
本発明に係るセンシングキットも、透明担体の少なくともセンサ部を含む表面上の屈折率を、1.35以上かつ透明担体の屈折率未満となるように調整し、散乱光を検出するものである。すなわち、通常センサ部上が空気(屈折率1.00)や水(屈折率1.33)である従来法に比して、本発明はセンサ部上の屈折率を大きくしてセンシングを行っている。したがって、センシングキットの第1の実施形態と同様の効果を得ることができる。
【実施例】
【0066】
本発明に係るセンシング方法の実施例を以下に示す。
【0067】
<実施例1>
実施例1は以下の工程により行われた。MASガラススライド(松浪硝子工業製)上にφ5mmの穴の空いたPDMS板を乗せてウェルを作製し、PBSで洗浄を2回行った。そして、100nM 抗hCG抗体のPBS溶液を8ul分注して室温で1時間静置し、その後PBS−Tで3回洗浄を行った。次いで、カゼイン1%のTBS溶液を20ul分注して室温で1時間静置し、その後PBS−Tで3回洗浄を行った。1nMもしくは10nMの hCG抗原PBS溶液、もしくはPBSのみを20ul分注して室温で1時間静置し、PBS−Tで4回洗浄を行った。次いで、抗hCG抗体固定化金コロイド懸濁液(水中粒径50nm、520nmの吸光度が3.46の懸濁液をPBS2%PBS溶液で10倍希釈したもの)を10ulずつ分注して室温で1時間静置した。PBS−Tで4回、純水で1回洗浄を行って液を完全に取り除いた。そして、ウェルを形成していたPDMS板を剥がし、ギャップカバーグラスを乗せてその隙間にイソプロピルアルコール(IPA)を注入した。最後に、ガラススライドの側面からスライド内を全反射で伝播するように測定光を照射し、抗体を固定化したセンサ部における散乱光強度を冷却CCDで検出した。本実施例では、透明担体表面上の屈折率が1.377に調整される。
【0068】
<実施例2>
IPAの代わりにDMFを用いること以外は上記実施例1の工程と同様の工程で実施した。本実施例では、透明担体表面上の屈折率が1.427に調整される。
【0069】
<実施例3>
IPAの代わりにDMSOを用いること以外は上記実施例1の工程と同様の工程で実施した。本実施例では、透明担体表面上の屈折率が1.478に調整される。
【0070】
<実施例4>
IPAの代わりにマッチングオイルを用いること以外は上記実施例1の工程と同様の工程で実施した。本実施例では、透明担体表面上の屈折率が1.510に調整される。
【0071】
<比較例1>
IPA塗布を行わずセンサ部を乾燥させること以外は上記実施例1の工程と同様の工程で実施した。本実施例では、透明担体表面上の屈折率は1.000である。
【0072】
<比較例2>
IPAの代わりに純水を用いること以外は上記実施例1の工程と同様の工程で実施した。本実施例では、透明担体表面上の屈折率は1.333である。
【0073】
上記<実施例1>から<実施例4>、並びに<比較例1>および<比較例2>についての実施データを図9に示す。
【0074】
図9Aは、それぞれの実施例および比較例におけるセンサ部からの散乱光強度を示すグラフである。ここで、縦軸は透明担体表面上が空気である場合(屈折率:1.000)を基準に規格化して表示している。このグラフから、表面上の屈折率が増加するに従い、センサ部からの散乱光強度も増大することがわかる。
【0075】
図9Bは、それぞれの実施例および比較例における非センサ部からの(ノイズ的な)散乱光強度を示すグラフである。ここで、縦軸は透明担体表面上が空気である場合(屈折率:1.000)を基準に規格化して表示している。このグラフから、表面上の屈折率が増加するに従い、ノイズ的な散乱光強度はまず減少してから増大することがわかる。前述したように、通常透明担体の屈折率とその表面上の屈折率とが近づくと、ノイズ的な散乱光強度は増大すると考えられるため、この現象は驚くべき現象である。これは、透明担体表面上屈折率が増加することにより、表面上の夾雑物等がエバネッセント光に認識されなくなっていることに起因していると考えられる。すなわち、エバネッセント光の強度増大に伴うノイズの増加と、屈折率増加に伴う夾雑物等の非認識との間にトレードオフ的な関係が起因していると考えられる。
【0076】
図9Cは、それぞれの実施例および比較例におけるS/N比を示すグラフである。ここで、縦軸は透明担体表面上が空気である場合(屈折率:1.000)を基準に規格化して表示している。このグラフから、表面上の屈折率が増加するに従い、S/N比はまず増加しから減少することがわかる。特に、調整液としてDMF(屈折率:1.427)を用いた場合には、S/N比は12倍以上も向上している。すなわち、透明担体表面上の屈折率がある範囲においては、非常に高いS/N比で測定実施できるといえる。
【0077】
次に、屈折率を調整するための調整テープを用いた場合、および調整液を広い領域に渡り塗布した場合の実施例について説明する。
【0078】
<実施例5>
IPAを注入する代わりに粘着性テープ(アクリル樹脂系粘着テープ)をセンサ部上に貼ること以外は上記実施例1の工程と同様の工程で実施した。本実施例では、透明担体表面上の屈折率がおよそ1.4〜1.5に調整される。本実施形態においても、S/N比が9倍も向上するという結果を得た。これより、屈折率の調整は調整液以外にも、粘着性物質またはゴム性物質でも可能であることが示された。
【0079】
<実施例6>
ギャップカバーグラスを透明担体上に乗せてDMFを注入する領域を光照射側の非センサ部に拡大すること以外は上記実施例2の工程と同様の工程で実施した。本実施例では、透明担体表面上の屈折率が1.427に調整され、その調整の範囲が広範囲に渡っている。本実施形態においては、検出対象であるセンサ部からの散乱光が、上記実施例2に比して若干減少するという結果を得た。これは前述したように、測定光がセンサ部にまで導波する間に光エネルギーを損失しているからであると考えられる。しかしながら、それでも、S/N比は12倍近く向上するという結果を得た。したがって、本発明は光エネルギーの利用効率が若干劣る態様であっても、充分にS/N比を向上させることができる顕著な効果を有することが示された。
【0080】
さらに、CRP抗原とその抗体を用いた以下の実施例および比較例を示す。
【0081】
<実施例7>
実施例7は以下の工程により行われた。MASガラススライド(松浪硝子工業製)上にφ5mmの穴の空いたPDMS板を乗せてウェルを作製し、PBSで洗浄を2回行った。そして、100nM 抗CRP抗体のPBS溶液を8ul分注して室温で1時間静置し、その後PBS−Tで3回洗浄を行った。次いで、カゼイン1%のTBS溶液を20ul分注して室温で1時間静置し、その後PBS−Tで3回洗浄を行った。0, 9, 300, 9000pMの CRP抗原PBS溶液、もしくはPBSのみを20ul分注して室温で1時間静置し、PBS−Tで4回洗浄を行った。次いで、抗CRP抗体固定化金コロイド懸濁液(520nmの吸光度が3.46の懸濁液をPBS2%PBS溶液で10倍希釈したもの)を10ulずつ分注して室温で1時間静置した。PBS−Tで4回、純水で1回洗浄を行って液を完全に取り除いた。そして、ウェルを形成していたPDMS板を剥がし、ギャップカバーグラスを乗せてその隙間にDMFを注入した。最後に、ガラススライドの側面からスライド内を全反射で伝播するように測定光を照射し、抗体を固定化したセンサ部における散乱光強度を冷却CCDで検出した。本実施例では、透明担体表面上の屈折率が1.427に調整される。すなわち、CRP抗原とその抗体を用いること、濃度を0, 9, 300, 9000pMに設定したこと以外では、上記実施例2の工程と同様の工程で実施した。
【0082】
<比較例3>
DMF塗布を行わずセンサ部を乾燥させること以外は上記実施例7の工程と同様の工程で実施した。本実施例では、透明担体表面上の屈折率は1.000である。
【0083】
上記<実施例7>および<比較例3>についての実施データを図10および図11に示す。
【0084】
図10AおよびBは、それぞれ実施例7および比較例3についてのCRP抗原濃度変化に対する散乱強度変化を示している。一方、図11AからCは、それぞれ実施例7の測定イメージ画像、比較例3の測定イメージ画像、およびイメージ画像中の各センサ部の濃度情報を示している。これらにより、本発明に係るセンシング方法が、ノイズを低減し検出対象信号を増大させることにより、S/N比を格段に向上させる非常に顕著な効果を有する方法であることが示された。
【符号の説明】
【0085】
2 被検出物質
6 誘電体プリズム基板
9 励起光
10 透明担体
11 ウェル
12 ギャップカバーグラス
14 センサ部
19 収容部
20 励起光照射光学系
21 光源
22 プリズム
30 光検出器
60a センシングキット
60b センシングキット
60c センシングキット
63 調整液
65 標識液
66 調整テープ
A 被検出物質
BF 標識キャプチャ物質
D エバネッセント光
F 散乱体
Lo 測定光

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被検出物質の量を検出するセンシング方法であって、
散乱体を含む標識複合体を形成するための第1のキャプチャ物質が固定された、透明担体表面上のセンサ部に、前記被検出物質を含み得る試料を供給し、
前記被検出物質の量に応じた量の前記標識複合体を前記センサ部に形成せしめ、
前記透明担体の少なくとも前記センサ部を含む表面上の屈折率を、1.35以上かつ前記透明担体の屈折率未満となるように調整し、
前記透明担体に測定光を照射して前記センサ部にエバネッセント光を生じせしめ、
前記散乱体による該エバネッセント光の散乱光を検出することを特徴とするセンシング方法。
【請求項2】
前記屈折率を1.38以上かつ1.51以下となるように調整することを特徴とする請求項1に記載のセンシング方法。
【請求項3】
前記屈折率が1.42以上かつ1.49以下となるように調整することを特徴とする請求項2に記載のセンシング方法。
【請求項4】
前記屈折率を調整するための調整液で前記透明担体の表面を満たし、該調整液の屈折率をもって該表面の屈折率を調整することを特徴とする請求項1から3いずれかに記載のセンシング方法。
【請求項5】
前記調整液が、水と混ざり合う有機溶媒、または屈折率の高い溶質の水溶液であることを特徴とする請求項4に記載のセンシング方法。
【請求項6】
屈折率を調整するための粘着性物質またはゴム性物質を前記透明担体の表面に接触させ、該粘着性物質または該ゴム性物質の屈折率をもって該表面の屈折率を調整することを特徴とする請求項1から3いずれかに記載のセンシング方法。
【請求項7】
第2のキャプチャ物質が、前記被検出物質と特異的に結合するものであり、
該第2のキャプチャ物質と該第2のキャプチャ物質が修飾された前記散乱体とからなる標識キャプチャ物質を、前記第1のキャプチャ物質に結合した前記被検出物質に特異的に結合させることにより、前記標識複合体を形成することを特徴とする請求項1から6いずれかに記載のセンシング方法。
【請求項8】
第3のキャプチャ物質が、前記被検出物質と競合して前記第1のキャプチャ物質と特異的に結合するものであり、
該第3のキャプチャ物質と該第3のキャプチャ物質が修飾された前記散乱体とからなる標識キャプチャ物質を、前記第1のキャプチャ物質に特異的に結合させることにより、前記標識複合体を形成することを特徴とする請求項1から6いずれかに記載のセンシング方法。
【請求項9】
前記散乱体が、金属性、金属酸化物性、金属窒化物性の微粒子であることを特徴とする請求項1から8いずれかに記載のセンシング方法。
【請求項10】
前記微粒子の粒径が、30nm以上300nm以下であることを特徴とする請求項9に記載のセンシング方法。
【請求項11】
試料を注入するための注入口と、該注入口から注入された前記試料を流すための流路と、前記試料が流れるように空気を抜くための空気口と、散乱体を含む標識複合体を形成するための第1のキャプチャ物質が固定された、前記流路表面上のセンサ部とを有する透明担体チップ、および
前記流路の表面上の屈折率を調整するための、屈折率が1.35以上かつ前記透明担体チップの屈折率未満である調整液を備え、
被検出物質を含み得る前記試料を前記センサ部に供給し、前記被検出物質の量に応じた量の前記標識複合体を前記センサ部に形成せしめ、前記透明担体チップに測定光を照射して前記センサ部にエバネッセント光を生じせしめ、前記散乱体による該エバネッセント光の散乱光を検出し、前記被検出物質の量を検出するセンシング方法に用いられるものであることを特徴とするセンシングキット。
【請求項12】
散乱体を含む標識複合体を形成するための第1のキャプチャ物質が固定されたセンサ部を有する透明担体チップ、および
前記透明担体チップの表面上の屈折率を調整するための、屈折率が1.35以上かつ前記透明担体チップの屈折率未満である調整液を備え、
被検出物質を含み得る前記試料を前記センサ部に供給し、前記被検出物質の量に応じた量の前記標識複合体を前記センサ部に形成せしめ、前記透明担体チップに測定光を照射して前記センサ部にエバネッセント光を生じせしめ、前記散乱体による該エバネッセント光の散乱光を検出し、前記被検出物質の量を検出するセンシング方法に用いられるものであることを特徴とするセンシングキット。
【請求項13】
散乱体を含む標識複合体を形成するための第1のキャプチャ物質が固定されたセンサ部を有する透明担体チップ、および
前記透明担体チップの表面上の屈折率を調整するための、屈折率が1.35以上かつ前記透明担体チップの屈折率未満である粘着性物質またはゴム性物質を備え、
被検出物質を含み得る前記試料を前記センサ部に供給し、前記被検出物質の量に応じた量の前記標識複合体を前記センサ部に形成せしめ、前記透明担体チップに測定光を照射して前記センサ部にエバネッセント光を生じせしめ、前記散乱体による該エバネッセント光の散乱光を検出し、前記被検出物質の量を検出するセンシング方法に用いられるものであることを特徴とするセンシングキット。
【請求項14】
前記被検出物質と特異的に結合する第2のキャプチャ物質と、該第2のキャプチャ物質が修飾された前記散乱体とからなる標識キャプチャ物質を備えることを特徴とする請求項11から13いずれかに記載のセンシングキット。
【請求項15】
前記被検出物質と競合して前記第1のキャプチャ物質と特異的に結合する第3のキャプチャ物質と、該第3のキャプチャ物質が修飾された前記散乱体とからなる標識キャプチャ物質を備えることを特徴とする請求項11から13いずれかに記載のセンシングキット。

【図1A】
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【図1B】
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【図2A】
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【図2B】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6A】
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【図6B】
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【図7】
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【図8A】
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【図8B】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2010−210378(P2010−210378A)
【公開日】平成22年9月24日(2010.9.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−56107(P2009−56107)
【出願日】平成21年3月10日(2009.3.10)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【Fターム(参考)】