説明

ゼオライト膜脱水設備における膜の洗浄・再生方法

【課題】ゼオライト膜表面に付着した不純物を除去しゼオライト膜を洗浄・再生することができる方法を提供する。
【解決手段】本発明は、膜モジュール(11)内に備えたゼオライト膜により気体状で製品と水を主成分とする透過成分とを分離するゼオライト膜脱水設備において、製品および水以外の不純物が付着したゼオライト膜表面上に、製品と水分を混合することにより作られた溶液を洗浄液として流すことを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エタノール等の有機溶剤の脱水などに用いられるゼオライト膜脱水設備における膜の洗浄・再生方法に関する。ゼオライト膜脱水設備に用いられるゼオライト無機膜は、セラミックス基材に薄膜のゼオライトをコーティングすることにより構成される。
【背景技術】
【0002】
通常の膜分離設備において、膜の汚れによる性能低下を回復させるために洗浄・再生する方法として主流なのは、逆洗浄(普段膜を透過させている流れ方向とは逆方向に流す洗浄)と言われる方法である。
【0003】
しかしながら、セラミックス基材表面にゼオライトがコーティングされているゼオライト膜の場合、逆洗浄方法を用いて洗浄しようとすると、ゼオライト膜がセラミックス基材表面から剥がれてしまうおそれが高いため、このような方法を用いて洗浄を行うことができない。
【0004】
また、膜を洗浄するために、膜モジュール内部に組み込まれている膜を1本ずつ取り外して洗浄するという方法もある。この方法は確実な方法ではあるものの、現実に取り外し−洗浄−取り付けを一貫して行うことは、非常に手間がかかり大変な作業である。
【0005】
特許文献1には、ゼオライト分離膜を備えた浸透式気化分離装置の上流に微生物除去装置を設置することにより、ゼオライト分離膜の寿命を延ばすことが記載されている。
【0006】
しかしながら、この方法は、ゼオライト分離膜について洗浄を行っておらず、微生物除去装置のフィルタ(平膜または中空系モジュール)を薬品で洗浄している。
【0007】
以上に説明したように、装置に組み込まれたゼオライト膜を洗浄・再生する方法は、実質的に存在しない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2010−253357号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、ゼオライト膜表面に付着した不純物を除去しゼオライト膜を洗浄・再生することができる方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するため、本発明は、膜モジュール内に備えたゼオライト膜により気体状で製品と水を主成分とする透過成分とを分離するゼオライト膜脱水設備において、製品および水以外の不純物が付着したゼオライト膜表面上に、製品と水分を混合することにより作られた溶液を洗浄液として流すことを特徴とする、ゼオライト膜脱水設備における膜の洗浄方法である。
【0011】
このような洗浄方法において、製品および水を主成分とする透過成分を、各々用のタンクに、洗浄液として使用する規定量を溜めた上で、膜脱水設備の膜脱水運転を停止させ、製品が溜められたタンクの製品を、透過液を溜めたタンクに送り込むことにより混合された洗浄用の溶液を作り、その溶液を、膜モジュール内に注ぎながら循環させて洗浄を行うことが好ましい。
【0012】
好ましくは、前記洗浄用の溶液は、製品成分を溶液全体に対して10〜50容積%の割合で含み、該溶液の液温は20〜50℃であり、前記膜表面を流れる溶液の流速は0.5〜2.0m/sであり、一定若しくは断続的(パルス状)である。
【0013】
好ましくは、前記膜モジュールに、超音波振動子を介して前記洗浄用の溶液に超音波を与える。
【0014】
好ましくは、前記洗浄用の溶液が循環するライン中に、不純物を吸着させる吸着剤または不純物を膜に無害な物質に変換することができる触媒を配置する。
【0015】
好ましくは、洗浄後の洗浄済溶液は、該脱水設備の前段に配置される蒸留設備に送られる。
【0016】
本発明において、前記製品として、水溶性有機溶剤が挙げられる。ここで、水溶性有機溶剤とは、水と任意の割合で混合し得る有機液体であり、具体的には、エタノールやIPA(イソプロピルアルコール)、アセトンなどが挙げられる。
【発明の効果】
【0017】
本発明は、膜の逆洗浄を行わない洗浄方法であり、膜脱水設備に含まれるタンクやポンプを使用し、一連の洗浄を出来る限り自動化して行うことで、新たに別の洗浄装置を設ける必要がない。
【0018】
また、洗浄に使用される液として、通常、脱水設備を通液している製品及び水分を利用していることから、特殊な洗浄液を使う場合と異なり、装置内に洗浄液が微量に残っても設備上問題とはならず洗浄後も直ぐに脱水運転を再開することができるとともに、洗浄液自体も製品として再利用することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明のゼオライト膜脱水設備における膜の洗浄・再生方法を説明するフロー図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明によるゼオライト膜脱水設備における膜の洗浄・再生方法について図面を参照しながら詳細に説明する。
【0021】
本発明によるゼオライト膜脱水設備における膜の洗浄・再生方法において、膜脱水処理を受ける対象となる製品として、エタノールやIPA(イソプロピルアルコール)、アセトン等が挙げられるが、以下、本実施の形態では、エタノール脱水に使用される設備を例として説明する。
【0022】
本発明のゼオライト膜脱水設備における膜の洗浄・再生方法は、ゼオライト膜脱水設備に用いられる構成を基本的に利用するので、本発明による膜の洗浄・再生の説明の前に、ゼオライト膜脱水設備の構成および脱水方法について簡単に説明する。
【0023】
なお、本発明の洗浄方法の操作に用いられる流れと脱水運転時の操作に用いられる流れとが明確に区別することができるように、図面上、洗浄方法の操作に用いられる流れを実線で、脱水運転時の操作に用いられる流れを点線で示している。
【0024】
脱水対象となる原液であるエタノールは、ライン(1)を介して原料タンク(2)に導入される。原料タンク(2)に溜められたエタノールは、ライン(3)を介して蒸発器(4)に導入される。ライン(3)には、原液ポンプ(5)および制御バルブ(6)が設置され、原液ポンプ(5)の駆動によりエタノールが蒸発器(4)まで送液され、制御バルブ(6)により蒸発器(4)への送液の開閉および流量が制御される。
【0025】
蒸発器(4)では、ライン(7)を介して導入されるスチームとの熱交換により、液状のエタノールが気化される。熱交換に用いられたスチームは凝縮して液状となりライン(8)を介して排出される。ライン(7)の途中に設置された制御バルブ(9)によりスチームの流量が制御され、手動バルブ(9b)により、スチーム導入が開閉される。
【0026】
蒸発器(4)にて気化されたエタノールは、ライン(10)を介して膜モジュール(11)に導入される。膜モジュール(11)は、セラミックス基材に薄膜のゼオライトがコーティングされたゼオライト無機膜を備えており、このゼオライト無機膜を、エタノールに少量含まれる水分が透過することにより、エタノールの脱水が行われる。
【0027】
ゼオライト無機膜を透過しないエタノールは、ライン(12)を経てエタノールコンデンサ(13)に通され、ここで、ライン(14)を介して送られる冷却水との熱交換により冷却されて液状となり、ライン(15)を介して製品エタノールとして取り出される。ライン(12)上の制御バルブ(16)は、通常は膜の一次側の圧力を制御するためのコントロール弁であるが、膜洗浄操作時に、洗浄液の流れを洗浄液循環ラインに切り替え、洗浄液が製品用のラインに流れることを防止するために設置されている。
【0028】
ライン(15)中に設置されるエタノールタンク(17)は、後述の本発明による膜洗浄に用いられる洗浄液用に所定量のエタノールを溜めて置くために設置され、エタノールポンプ(18)は製品エタノールを送液するため、制御バルブ(19)はエタノールの送液量を制御するため、手動バルブ(19b)は、エタノールの送液を開閉するために設置されている。
【0029】
膜モジュール(11)のゼオライト無機膜を透過した水を主成分とした透過蒸気は、ライン(20)を経て透過液コンデンサ(21)に通され、ここで、ライン(22)により、チラーユニット(23)、透過液コンデンサ(21)、ブラインタンク(24)、ブラインポンプ(25)を循環するブライン(不凍液)により冷却されて凝縮し、ライン(26)を経て透過液として排出される。
【0030】
ライン(26)中に設置される透過液タンク(27)は、後述の本発明による膜洗浄に用いられる洗浄液用に所定量の水を溜めて置くために設置され、透過液ポンプ(28)は、透過液を送液するため、制御バルブ(29)は、透過液または後述の本発明の膜洗浄に用いられる洗浄液の流量を調節するため、手動バルブ(29a)は、透過液の送液を開閉するために設置されている。
【0031】
本発明による膜洗浄方法は、上記のようなゼオライト膜脱水設備の構成を用いて行われる。
【0032】
上記構成のゼオライト膜脱水設備における膜の洗浄・再生方法を行う場合、その洗浄液として、エタノール水溶液を使用することになる。
【0033】
洗浄するときは稼働している脱水設備を当然停止させる必要があるが、通常の運転状態における透過液やエタノールを使用して洗浄液を作るため、脱水設備の停止方法も通常停止の場合から多少変更される。つまり、脱水設備の稼働を停止させようとした場合でも、膜モジュール(11)への原液の供給を直ぐに停止させるのではなく、透過液およびエタノールを外部に送り出さない状態、つまり、透過液ポンプ(28)とエタノールポンプ(18)を停止させ、各バルブ(29、19)を閉じて、洗浄液の必要量に応じた量の水およびエタノールを透過液タンク(27)およびエタノールタンク(17)に溜め、洗浄液となるエタノールおよび水を確保した上で、脱水設備を停止させる。
【0034】
次いで、エタノールタンク(17)に溜まったエタノールをライン(15)から透過液タンク(27)の方へ分枝するライン(30)を介して、この時、手動バルブ(19a)を開にして透過液タンク(27)に送ることにより、ここでエタノールと水の混合液である洗浄液を作製する。
【0035】
透過液タンク(27)内で作製された洗浄液は、洗浄液循環ライン(33、31)を介して、膜モジュール(11)に送られ、膜モジュール(11)内のゼオライト無機膜の洗浄に用いる。
【0036】
洗浄液循環ライン(33、31)中に、洗浄液は、透過液タンク(27)、透過液ポンプ(28)、制御バルブ(29)、手動バルブ(29b)、不純物除去手段(35)、加熱器(32)、膜モジュール(11)および透過液タンク(27)を順次通過する。
【0037】
加熱器(32)に達した洗浄液は、ここで、ゼオライト無機膜の洗浄に適した温度に加熱される。
【0038】
加熱器(32)にはスチームが導入され、スチームの熱により洗浄液は加熱される。このスチームは、膜脱水設備の稼働の際に熱交換により原液の気化のために蒸発器(4)に供されていたものであり、手動バルブ(9a)を開、手動バルブ(9b)を閉にすることにより供給される。
【0039】
上記のように、従来の脱水稼働において用いられる設備内のタンクやポンプを利用して洗浄液を作製し、これを利用してゼオライト無機膜を洗浄し、循環利用している。
【0040】
洗浄液を循環利用すると、洗浄の間にゼオライト無機膜に付着していた不純物が洗浄液に含有されることになる。このため、エタノールタンク(17)を経るように洗浄液を循環させるとすると、洗浄操作後に本来の脱水操作時に洗浄液に含有された不純物が製品エタノールに混入されることにつながり好ましくない。
【0041】
本実施形態では、このため、エタノールタンク(17)に溜まったエタノールを透過液タンク(27)に送り、ここで洗浄液を作製するようにすると共に、バルブ(16)を閉じることによって洗浄に用いた液体がエタノールタンク(17)に流入しないようにしている。
【0042】
透過液は、通常の脱水運転時においても再利用のため前段の蒸留工程に戻したり、あるいは、廃棄処理したりすることになるので、不純物が混入した洗浄済の液が透過液タンク(27)等に滞留することは何等問題にならない。
【0043】
また、洗浄液が本実施の形態のようにエタノールと水とを混合することにより作製したものではなく、特殊な媒体を用いた場合には、脱水装置内にその洗浄液が微量に残る可能性があり、その後の通常の脱水運転時を再開した場合においてその洗浄液がエタノールに混入することもあり得るので、洗浄液としてエタノールと水の混合液を用いることが望ましいのは言うまでもない。
【0044】
洗浄液は、好ましくは、エタノールを溶液全体に対して10〜50容積%の割合で含み、その液温は20〜50℃であり、ゼオライト無機膜表面を流れる液液の流速は0.5〜2.0m/sであり、一定若しくは断続的(パルス状)であるものが用いられる。
【0045】
洗浄液の濃度、温度および流速の各条件について考慮すると、上記条件から外れる場合には、以下のような弊害がある。
【0046】
(1)濃度
・水分濃度が高い場合:水分量が多いと、ゼオライト結晶の耐久性低下を招くおそれがある:
・水分濃度が低い場合:不純物をゼオライト膜から脱離させる効果が薄くなるおそれがある:
(2)温度:
・温度が高い場合:温度が高いと、ゼオライト結晶の耐久性低下を招くおそれがある:
・温度が低い場合:洗浄液の粘性が高くなり、不純物を除去しにくくなるおそれがある。
【0047】
(3)流速
・流速が高い場合:エロージョンにより、ゼオライト結晶が剥離されるおそれがある:
・流速が低い場合:不純物の洗浄液中における拡散効果が薄い(濃度分極)。
【0048】
また、洗浄液により膜モジュール(11)を洗浄するに際して、膜モジュール(11)本体に超音波振動子(34)を取り付け、超音波を洗浄液に与えるようにすれば、洗浄がより効果的になると考えられる。ただし、このような超音波振動子(34)を用いることにより得られる効果は、プラスアルファの効果であり、超音波振動子は本発明の必須要件ではない。
【0049】
膜モジュール(11)から出た洗浄後の洗浄液は、不純物を含んでいるため、このような不純物を取り除くために、前記洗浄用の溶液が循環するライン中に不純物除去手段(35)を配置し、ここで不純物を吸着させる吸着剤または不純物を膜に無害な物質に変換することができる触媒により不純物を除去することが好ましい。
【0050】
このような吸着剤としては、例えば金属酸化物ZrOなどがあり、これによりアセトアルデヒドといった不純物を吸着することができる。またこのような触媒としては、WO/ZrOなどが挙げられる。吸着剤や触媒は洗浄時だけに利用されるため、通常の脱水操作の都合を気にすることなく、その性能が保持されているかどうかでいつでも取り替えることが可能である。
【0051】
洗浄後の洗浄済の溶液は、脱水設備の前段に配置される蒸留設備に送られるようにすることが好ましい。
【0052】
通常の脱水システムにおいて透過液は蒸留設備に返送されてエタノールが回収されることになっており、洗浄済液も透過液ポンプ(28)を使って通常運転時と同様の扱いをすればよい。
【0053】
またエタノールを回収しない場合においても、通常の脱水運転において得られる透過液は何等かの廃液処理がなされる必要があるので、洗浄操作後に生じる洗浄済液もそのままその処理方法を利用すればよい。仮に特殊な洗浄液を使用することになると、その洗浄済液も改めて何等かの形で処理が必要となるだろう。
【符号の説明】
【0054】
11 膜モジュール
12 ライン
17 エタノールタンク
27 透過液タンク
31 洗浄液循環ライン
32 加熱器
34 超音波振動子
35 不純物除去手段

【特許請求の範囲】
【請求項1】
膜モジュール内に備えたゼオライト膜により気体状で製品と水を主成分とする透過成分とを分離するゼオライト膜脱水設備において、製品および水以外の不純物が付着したゼオライト膜表面上に、製品と水分を混合することにより作られた溶液を洗浄液として流すことを特徴とする、ゼオライト膜脱水設備における膜の洗浄方法。
【請求項2】
製品および水を主成分とする透過成分を、各々用のタンクに、洗浄液として使用する規定量を溜めた上で、膜脱水設備の膜脱水運転を停止させ、製品が溜められたタンクの製品を、透過液を溜めたタンクに送り込むことにより混合された洗浄用の溶液を作り、その溶液を、膜モジュール内に注ぎながら循環させて洗浄を行う、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記洗浄用の溶液は、製品成分を溶液全体に対して10〜50容積%の割合で含み、該溶液の液温は20〜50℃であり、前記膜表面を流れる溶液の流速は0.5〜2.0m/sであり、一定若しくは断続的(パルス状)である、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
前記膜モジュールに、超音波振動子を介して前記洗浄用の溶液に超音波を与える、請求項1〜3のいずれか1つに記載の方法。
【請求項5】
前記洗浄用の溶液が循環するライン中に、不純物を吸着させる吸着剤または不純物を膜に無害な物質に変換することができる触媒を配置する、請求項2〜4のいずれか1つに記載の方法。
【請求項6】
洗浄後の洗浄済溶液は、該脱水設備の前段に配置される蒸留設備に送られる、請求項1〜5のいずれか1つに記載の方法。
【請求項7】
前記製品は、水溶性有機溶剤である、請求項1〜6のいずれか1つに記載の方法。

【図1】
image rotate


【公開番号】特開2012−187528(P2012−187528A)
【公開日】平成24年10月4日(2012.10.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−53912(P2011−53912)
【出願日】平成23年3月11日(2011.3.11)
【出願人】(000005119)日立造船株式会社 (764)
【Fターム(参考)】