説明

ソイルセメント壁の設計方法

【課題】断面計算上必要とされる性能と、モーメントの釣り合い上必要とされる根入れ長を確保した上で、可能な限り応力材の使用量を低減するソイルセメント壁の設計方法を提供すること。
【解決手段】根入れ深さが異なるように応力材を混在配置するソイルセメント壁の設計方法であって、各応力材の根入れ部分における深さ方向の差の範囲でのソイル強度を判定する工程、を少なくとも含むことを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ソイルセメント壁の設計方法に関し、より詳しくは、ソイルセメント壁を形成する各応力材の根入れ長さ並びに配置態様を決定するための設計方法に関する。
【背景技術】
【0002】
土留壁等で用いるソイルセメント壁は、土圧や水圧による断面力を、H鋼などの応力材が負担するため、応力材の長さやサイズ、配置間隔等の諸条件は、予想される断面力に耐えることができるよう、適宜設計することが求められる。
その一方で、応力材の使用量は材料費や施工費の増減に直接影響を及ぼす為、前記断面力に耐えうる範囲で、応力材のサイズダウンや短尺化、或いは応力材の配置間隔の拡長化等が求められる。
【0003】
上記の要求に応える技術として、例えば、挿入する応力材の一部を通常より短くし、該応力材を通常の応力材と根入れ深さが揃うように地表(GL)から打ち下げて配置することにより、打ち下げた部分の応力材の節減を図る技術が知られている。
【0004】
また、特許文献1に記載の発明では、全ての応力材の長さを通常よりも短くし、それら芯材の挿入深さを交互に異ならせるように配置する技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平8−177043号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、上記従来の技術には以下に示すような問題がある。
(1)応力材をどの程度短くするか、或いはその短くした応力材をどのように配置するかは、作業者の経験に基づいて感覚的に行われている傾向が高く、それらの設計手法が確立されていないため、完成した土留壁に確実な保証が得られない。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決することを目的とした本願の第1発明は、根入れ深さが異なるように応力材を混在配置するソイルセメント壁の設計方法であって、各応力材の根入れ部分における深さ方向の差の範囲でのソイル強度を判定する工程、を少なくとも含むことを特徴とする、ソイルセメント壁の設計方法を提供するものである。
【0008】
また、本願の第2発明は、根入れ深さが異なるように応力材を混在配置するソイルセメント壁の設計方法であって、断面計算上必要とされる根入れ深さ以上の根入れ長を少なくとも有するように、各応力材の配置態様を設定する工程と、前記配置態様に基づき、各応力材の根入れ部分における深さ方向の差の範囲でのソイル強度を算定する工程と、前記ソイル強度が所定の値を満足した時に、前記配置態様を確定する工程と、を少なくとも含むことを特徴とする、ソイルセメント壁の設計方法を提供するものである。
【発明の効果】
【0009】
本願発明によれば、以下に示す効果のうち、少なくとも何れか一つを得ることができる。
(1)断面計算上必要とされる性能と、モーメントの釣り合い上必要とされる根入れ長を確保した上で、可能な限り応力材の使用量を低減するよう、各応力材の構成及び配置態様を設計することができる。
(2)応力材の長さを極力短く設計することにより、応力材の部材費用、応力材の連結治具等の部材費用などを圧縮でき、施工費用の低減に寄与する。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明におけるソイルセメント壁の配置態様を示した概略図。
【図2】図1でのI−Iでの断面を示す部分拡大図。
【図3】切梁式土留壁における根入れ長計算のモデル図。
【図4】図3における各応力材の長さ並びに第2の応力材の配置間隔の設計手順を示すフロー図。
【図5】ソイルセメント壁の強度計算に使用するモデル図。
【図6】自立式土留壁における、モーメントの釣り合いからなる根入れ長計算のモデル図。
【図7】自立式土留壁における、Chang式からなる根入れ長計算のモデル図。
【図8】図7における各応力材の長さ並びに第2の応力材の配置間隔の設計手順を示すフロー図。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、図面を参照しながら本発明の実施の形態について説明する。
【0012】
<1>全体構成
図1は、本発明におけるソイルセメント壁の配置態様を示した概略図である。
図1に示すように、本実施例でのソイルセメント壁Aは、長さの異なる2種類の応力材、すなわち、第1の応力材1と、該第1の応力材よりも長い第2の応力材2とから構成する。
【0013】
図1に示す応力材の配置態様は、削孔穴に配置する全ての応力材のうち、何本おきかに第2の応力材2を配置し、その他の削孔穴には第1の応力材1を配置する構成としている。各応力材の配置態様の詳細な設計方法については各実施例の欄にて後述する。
【0014】
図1に示す配置態様では、前記各応力材が地表(GL)近傍で天端が揃うように配置してあるため、前記第1の応力材1と前記第2の応力材2との長さの差の分だけ、根入れ深さが異なることとなる。
【0015】
<2>節減領域
図2は、図1でのI−Iでの断面を示す部分拡大図である。
本発明では、前記第2の応力材2のみが存する領域を節減領域Bと定義する。
前記節減領域Bでは、第1の応力材1が存在せず、第2の応力材2のみが夫々配してある状態であるため、第2の応力材2の配置間隔は、前記節減領域Bでのソイルセメント壁Aが、背面側の側圧と掘削側の側圧に対して、圧縮及びせん断強度が抵抗できる状態である範囲内で設定することが求められる。
【0016】
以下、土留壁の種類に応じた各応力材の根入れ長並びに配置態様の設計方法の実施例について説明する。
【実施例1】
【0017】
[切梁式土留壁の場合]
図3及び4を参照しながら、切梁式土留壁の場合において、モーメントの釣り合いを基準とした設計方法について説明する。
【0018】
図3は、切梁式土留壁における根入れ長計算のモデル図である。図3に示す各パラメータは以下の通りである。
Pa:土留壁背面側側圧の合力
Pp:土留壁掘削側側圧の合力
La:回転中心Oから土留壁背面側側圧合力の作用深さまでの距離
Lp:回転中心Oから土留壁掘削側側圧合力の作用深さまでの距離
Ld:モーメントの釣り合いによる根入れ長
Ma:背面側側圧合力によるモーメント
Mp:掘削側側圧合力によるモーメント
Fs:安全率
【0019】
図4は、切梁式土留壁における、各応力材の長さ並びに各応力材の配置態様の設計手順を示すフロー図である。図4を参照しながら、各手順について説明する。
【0020】
(1)基準根入れ長の計算(S100)
背面側及び掘削側の側圧合力によるモーメントの釣り合い深さから基準根入れ長Ldを算定する。すなわち、以下の式が満足する深さを基準根入れ長Ldとする。
Fs=Ma/Mp=Pa×La/(Pp×Lp)(Fs≧1.0)
この基準根入れ長Ldが、断面計算上必要とされる根入れ深さとなる。
【0021】
(2)第1の根入れ長の計算(S110)
次に、第1の応力材1の根入れ長Ld1を以下の式によって求める。
Fs1=Ma/Mp=Pa×La/(Pp×Lp)
このとき、Fs1≧Fs(なお、本実施例においては、Fs1=1.0)となるように根入れ長Ld1を算出する。
【0022】
(3)第2の根入れ長の計算(S120)
同様に、第2の応力材2の根入れ長Ld2を以下の式によって求める。
Fs2=Ma/Mp=Pa×La/(Pp×Lp)
このとき、Fs2>Fs1(なお、本実施例においては、Fs1=1.2)となるように根入れ長Ld2を算出する。
【0023】
(4)配置間隔の設定(S130)
次に、第2の応力材2の配置間隔(隔孔設置の態様)を設定(仮定)する。
本実施例では、第1の応力材1と第2の応力材2とを交互に配置した場合を設定する。
【0024】
(5)強度計算(S140)、強度判定(S150)
前記節減領域Bでのソイルセメント壁Aの強度を計算し、前記節減領域Bでのソイルセメント壁Aの強度が、所定の条件を満足するか否かを判定する。
なお、ソイルセメント壁Aの強度計算には各種の手法があるが、本願発明では何れかの手法に限定するものではない。
【0025】
図5に、強度計算の一例のモデル図を示す。本モデル図に示す各パラメータは以下の通りである。
1:I−I面でのせん断力(kN)
2:II−II面でのせん断力(kN)
V:支点反力(kN)
w:掘削側側圧と背面側側圧の差分(kN/m)
1:応力材間隔(m)
2:応力材内法間隔(m)
3:くびれ部分の間隔(m)
τ1:I−I面でのせん断応力度(kN/m2
τ2:II−II面でのせん断応力度(kN/m2
σ:圧縮応力度(kN/m2
b:深さ方向の長さ(=1m)
e1:I−I面の有効厚(m)
e2:II−II面の有効厚(m)
H:水平反力(kN)
N:アーチ軸力(kN)
D:ソイルセメント孔径(m)
f:アーチのライズ(m)
t:アーチの厚み(m)
s:許容せん断応力度(kN/m2
c:許容圧縮応力度(kN/m2
【0026】
上記モデルにおける応力の算定式は以下の通りである。

【0027】
また、上記モデルにおける判定式は以下の通りである。

【0028】
(6)最終決定(S160)
上記判定式を満足した場合には、前記(4)での設定による配置態様を確定してソイルセメント壁の設計を終了する。
上記判定式を満足しない場合には、前記(4)に戻って、計算をやり直す。
【0029】
以上の工程により、本実施例に示す設計方法によれば、節減領域に対する強度保証の根拠を明確としながら、各応力材の長さ並びに配置態様を設計することが可能となるため、作業者の経験に頼らずとも、一定の品質が保証されたソイルセメント壁を設計することができる。
【実施例2】
【0030】
[自立式土留壁(モーメントの釣り合い)の場合]
図6を参照しながら、自立式土留壁の場合にモーメントの釣り合いから各応力材を設計する方法について説明する。
【0031】
図6は、自立式土留壁における根入れ長計算のモデル図である。
各パラメータ及びは以下の通りである。
Pa:土留壁背面側側圧の合力
Pp:土留壁掘削側側圧の合力
La:回転中心Oから土留壁背面側側圧合力の作用深さまでの距離
Lp:回転中心Oから土留壁掘削側側圧合力の作用深さまでの距離
Ld:モーメントの釣り合いによる根入れ長
【0032】
前記パラメータに基づく、前記各応力材の長さ並びに配置間隔の計算方法は前述の実施例1と同様であるため、説明を省略する。
【実施例3】
【0033】
[自立式土留壁(Chang式)の場合]
図7及び8を参照しながら、自立式土留壁の場合に建築学会が示すChang式から各応力材を設計する方法について説明する。
【0034】
図7は、切梁式土留壁における根入れ長計算のモデル図である。
各パラメータは以下の通りである。
Pa:土留壁背面側側圧の合力
La:掘削底面から土留壁背面側側圧合力の作用深さまでの距離
Ld:特性値βによる根入れ長
【0035】
図7は、自立式土留壁における、各応力材の長さ並びに各応力材の配置態様の設計手順を示すフロー図である。図7を参照しながら、各手順について説明する。
【0036】
(1)第1の根入れ長の計算(S200)
以下の式により第1の応力材の根入れ長Ld1を求める。
Ld1≧2/β
β:特性値(m-1

【0037】
(2)第2の根入れ長の計算(S210)
以下の式により第2の応力材の根入れ長Ld2を求める。
Ld2>2/β
なお、Ld2は極力大きい値としないことが望ましい。
【0038】
(3)配置間隔の仮定(S220)〜最終決定(S250)
本工程は、実施例1におけるS130〜S160での手法と同様であるため、説明を省略する。
【実施例4】
【0039】
本発明は、各応力材は前記実施例1乃至3に示す2種類の根入れ長を有する態様に限定されるものではなく、3種類上の根入れ深さを有するように設計することもできる。このとき、応力材の全長自体を変えても良いし、同じ全長を有する応力材の打ち下げ深さを変えて、根入れ長を変えるように設計してもよい。
この場合、ソイルセメント壁の強度計算及びその判定は、混在配置した各応力材の配置態様から一番不利と想定される箇所で行えばよい。
【実施例5】
【0040】
上記実施例で示した設計方法は、各計算或いは判定に求められる諸条件を入力することにより、適宜、計算処理並びに判定処理を行う情報処理装置、或いは、該情報装置にインストールされるプログラムにて実現することができる。
なお、各応力材の配置態様を情報処理装置上で設定する場合には、情報処理装置にプリセットされている条件の中から適宜選択することもできる。このとき、配置態様が最終的に決定されるまで、前記情報処理装置にプリセットされている条件の中から異なる条件を自動で選択し直して計算をやり直すよう構成することもできる。
【符号の説明】
【0041】
1 第1の応力材
2 第2の応力材
A ソイルセメント壁
B 節減領域
C 切梁

【特許請求の範囲】
【請求項1】
根入れ深さが異なるように応力材を混在配置するソイルセメント壁の設計方法であって、
各応力材の根入れ部分における深さ方向の差の範囲でのソイル強度を判定する工程、を少なくとも含むことを特徴とする、
ソイルセメント壁の設計方法。
【請求項2】
根入れ深さが異なるように応力材を混在配置するソイルセメント壁の設計方法であって、
断面計算上必要とされる根入れ深さ以上の根入れ長を少なくとも有するように、各応力材の配置態様を設定する工程と、
前記配置態様に基づき、各応力材の根入れ部分における深さ方向の差の範囲でのソイル強度を算定する工程と、
前記ソイル強度が所定の値を満足した時に、前記配置態様を確定する工程と、を少なくとも含むことを特徴とする、
ソイルセメント壁の設計方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate