説明

ソーナー装置用カバーの音響特性シミュレーション方法

【課題】ソーナー装置用カバーの音響特性シミュレーションに要する時間を低減すること。
【解決手段】ソーナー装置用カバーの音響特性シミュレーション方法は、カバーを複数のファセットで分割して表現する手順と、トランスデューサが射出した音波を音線として取り扱い、音線の進行方向を設定する手順と、音線の進行方向と、ファセットの座標とに基づいて、音線とファセットとの交点を求める手順と、音線の進行方向と、ファセットを表現する情報とに基づいて、交点でのファセットに対する音線の入射角度を求める手順と、音線の入射角度と音線の透過率との関係を示す透過情報と、ファセットに交わる音線の入射角度とから音線の透過損失を求める手順とを含むことを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ソーナー装置用カバーの音響特性をシミュレーションによって試験する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
船に設けられるソーナー装置は、音波を送受するトランスデューサと、トランスデューサを覆うカバーとが含まれる。音波はカバーを透過する際に、カバーの表面で反射して減衰することがある。よって、カバーは、実際に搭載される前に、あらかじめ自身の音響特性を試験されている必要がある。ここでいう音響特性とは、音波がカバーを透過する前後での音響損失や、カバーを音波が透過した後の音場を合成して得られるビームパターンのことをいう。
【0003】
一般的にソーナー装置は大型であるため、カバーも大型となる。よって、カバーの音響特性を実寸大の試作品で試験するとなると、試験に要する手間、費用が増大する。そこで、例えば、非特許文献1には、有限要素法(FEM:Finite Element Method)を用いて、トランスデューサの音響特性を解析するためのシミュレーション手法が開示されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】著者:Jaehwan Kim and Heung Soo Kim 題名:Finite element analysis of piezoelectric underwater transducers for acoustic characteristics 出典:Journal of Mechanical Science and Technology, Volume 23, Number 2 / 2009
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
FEMを用いたシミュレーションによってカバーの音響特性を試験する場合、カバーは、1つのファセット(要素)の大きさが、音波の波長の1/10程度の大きさになるように要素分割される必要がある。上述のように、一般的にカバーは大型である。よって、FEMを用いたシミュレーションによってカバーの音響特性を試験する場合、ファセットの数が多いために、シミュレーションに膨大な時間を要することがある。
【0006】
本発明は、上記に鑑みてなされたものであって、ソーナー装置用カバーの音響特性シミュレーションに要する時間を低減することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上述した課題を解決し、目的を達成するために、本発明に係るソーナー装置用カバーの音響特性シミュレーション方法は、音波を射出するトランスデューサを覆うカバーの音響特性を試験するシミュレーション方法であって、前記カバーを複数のファセットで分割して表現する第1手順と、前記トランスデューサが射出した音波を音線として取り扱い、前記音線の進行方向を設定する第2手順と、前記音線の前記進行方向と、前記ファセットの座標とに基づいて、前記音線と前記ファセットとの交点を求める第3手順と、前記音線の前記進行方向と、前記ファセットを表現する情報とに基づいて、前記交点での前記ファセットに対する前記音線の入射角度を求める第4手順と、前記音線の前記入射角度と前記音線の透過率との関係を示す透過情報と、前記入射角度とから前記音線の透過損失を求める第5手順と、を含むことを特徴とする。
【0008】
上記構成により、本発明に係るソーナー装置用カバーの音響特性シミュレーション方法を用いれば、FEMを用いた音響特性シミュレーション方法よりも、カバーを表現するファセットの数を低減できるため、シミュレーションに要する計算量を低減できる。よって、本発明に係るソーナー装置用カバーの音響特性シミュレーション方法を用いれば、ソーナー装置用カバーの音響特性シミュレーションに要する時間を低減できる。
【0009】
上述した課題を解決し、目的を達成するために、本発明に係るソーナー装置用カバーの音響特性シミュレーション方法は、音波を射出するトランスデューサを覆うカバーの音響特性を試験するシミュレーション方法であって、前記カバーを関数で表現する第1手順と、前記トランスデューサが射出した音波を音線として取り扱い、前記音線の進行方向を設定する第2手順と、前記音線の前記進行方向と、前記カバーを表現する前記関数とに基づいて前記音線と前記カバーとの交点を求める第3手順と、前記音線の前記進行方向と、前記カバーを表現する前記関数とに基づいて、前記交点での前記カバーに対する前記音線の入射角度を求める第4手順と、前記音線の前記入射角度と前記音線の透過率との関係を示す透過情報と、前記入射角度とから前記音線の透過損失を求める第5手順と、を含むことを特徴とする。
【0010】
上記構成により、本発明に係るソーナー装置用カバーの音響特性シミュレーション方法を用いれば、カバーを関数で表現するため、カバーを複数のファセットで表現する場合よりも、シミュレーションに要する計算量を低減できる。よって、本発明に係るソーナー装置用カバーの音響特性シミュレーション方法を用いれば、ソーナー装置用カバーの音響特性シミュレーションに要する時間を低減できる。
【0011】
本発明の好ましい態様としては、前記第2手順では、前記トランスデューサを複数の素子に分割し、前記音線は、前記複数の素子からそれぞれ少なくとも1つ射出されるものとして取り扱い、前記第5手順では、前記複数の素子からそれぞれ射出される前記音線の透過損失をそれぞれ求め、前記第5手順の後に、複数の前記透過損失を合計することで総合透過損失を算出する第6手順をさらに含むことが望ましい。
【0012】
本発明の好ましい態様としては、前記第6手順では、さらに、前記音線が前記カバーを透過した後の音場を合成してビームパターンを計算することが望ましい。
【0013】
本発明の好ましい態様としては、前記音線の進行方向に前記素子を投影したときの投影面積が大きい前記素子ほど、前記音線のレベルを補正するための重み付け係数を大きく設定し、前記第5手順では、前記複数の素子からそれぞれ射出される前記音線のレベルに、前記素子別に設定された前記重み付け係数を乗算して前記透過損失をそれぞれ求めることが望ましい。
【0014】
本発明の好ましい態様としては、前記重み付け係数には、前記トランスデューサから射出される前記音波のビームパターンのうち、サイドローブを低減するための係数が含まれることが望ましい。
【0015】
本発明の好ましい態様としては、前記音線には、前記カバーで反射した反射音線も含まれることが望ましい。
【0016】
本発明の好ましい態様としては、前記第2手順では、前記トランスデューサを複数の素子に分割し、前記素子は、それぞれ複数の音線を射出するものとして取り扱い、前記第5手順では、前記透過率に基づいて、1つの素子から射出された前記複数の音線を、前記カバーを完全に透過する透過音線と、前記カバーで完全に反射する反射音線とに分類して前記透過損失を求めることが望ましい。
【0017】
本発明の好ましい態様としては、前記カバーは、前記トランスデューサが射出する前記音波の波長の5倍以上の寸法となる部分を有することが望ましい。
【発明の効果】
【0018】
本発明は、ソーナー装置用カバーの音響特性シミュレーションに要する時間を低減できる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】図1は、ソーナー装置を示す斜視図である。
【図2】図2は、実施形態1のソーナー装置用カバーの音響特性シミュレーション方法を示すフローチャートである。
【図3】図3は、実施形態1のシミュレーション装置が有する機能を示すブロック図である。
【図4】図4は、ワイヤーフレームで表現されたノーズコーンを示す斜視図である。
【図5】図5は、ファセット化されたノーズコーンの三次元モデルを示す斜視図である。
【図6】図6は、トランスデューサの三次元モデルを示す斜視図である。
【図7】図7は、走査角度を示す説明図である。
【図8】図8は、放射ビームパターンを示す説明図である。
【図9】図9は、送受波素子から射出された音線がファセットと交わる様子を示す説明図である。
【図10】図10は、透過損失実測方法を示すフローチャートである。
【図11】図11は、実施形態2のソーナー装置用カバーの音響特性シミュレーション方法を示すフローチャートである。
【図12】図12は、近傍界での音線を示す説明図である。
【図13】図13は、ファセットで音線が反射する様子を示す説明図である。
【図14】図14は、ファセットで音線BMが反射する様子を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明につき図面を参照しつつ詳細に説明する。なお、下記の実施の形態により、本発明が限定されるものではない。また、下記実施の形態における構成要素には、当業者が容易に想定できるものまたは実質的に同一のものが含まれる。
【0021】
(実施形態1)
図1は、ソーナー装置を示す斜視図である。図1に示す本実施形態のソーナー装置1は、船に設けられて水中で使用される。ソーナー装置1は、トランスデューサ10と、ノーズコーン20とを備える。トランスデューサ10は、音波を発生する。また、トランスデューサ10は、音波を受ける。本実施形態のトランスデューサ10は、音波を発生する時期と、音波を受ける時期とで2つの機能をタイムシェアする。トランスデューサ10の形状は限定されないが、本実施形態では例えば、円筒の中心線CLを含む仮想平面、または前記中心線CLに平行な仮想平面で円柱を切った形状である。
【0022】
トランスデューサ10は、曲面部分が送受波部11として機能する。トランスデューサ10は、送受波部11が振動することで送受波部11から音波を発生する。また、トランスデューサ10は、送受波部11が音波を受けると、音波によって送受波部11が振動させられる。トランスデューサ10は、この送受波部11の振動を電気信号に変換する。なお、トランスデューサ10は、ソーナーや、センサーや、送受波器と呼ばれることもある。
【0023】
ノーズコーン20は、トランスデューサ10を覆うカバーである。ノーズコーン20の材料は、例えば、ゴムや、ガラス繊維強化プラスチック(GFRP;Glass Fiber Reinforced Plastics)である。トランスデューサ10を覆うカバーは、ノーズコーン20に限定されず、半球形状のカバーでもよい。このようなカバーは、ドームと呼ばれる。また、トランスデューサ10が船底に埋め込まれることもある。この場合、船底のうちトランスデューサ10と対向する部分にカバーが設けられる。このようなカバーは、ウインドウと呼ばれる。本実施形態のソーナー装置用カバーの音響特性シミュレーション方法を用いれば、ノーズコーン20や、ドーム、ウインドウなど、形状に関わらずにカバーの音響特性を試験できる。次に、本実施形態のソーナー装置用カバーの音響特性シミュレーション方法を説明する。
【0024】
図2は、実施形態1のソーナー装置用カバーの音響特性シミュレーション方法を示すフローチャートである。図3は、実施形態1のシミュレーション装置が有する機能を示すブロック図である。図2に示す各手順は、図3に示すシミュレーション装置40によって実行される。シミュレーション装置40は、コンピュータである。シミュレーション装置40は、1つの装置が図3に示す各機能を実現してもよいし、図3に示す各機能をそれぞれ別個に実現する複数の装置が電気的に接続されることで各機能を実現してもよい。なお、計算量によっては手動により以下の各手順を実行してもよいが、各手順に含まれる計算量は膨大になる傾向がある。よって、以下に説明する各手順は、コンピュータであるシミュレーション装置40によって処理されると、ソーナー装置用カバーの音響特性をより迅速に試験できる。
【0025】
図3に示すように、シミュレーション装置40は、処理部41と、記憶部47とを備える。記憶部47は、処理部41が実行する手順を示すプログラムや、処理部41によって生成された情報や、シミュレーション装置40の入出力部(I/O:Input/Output)に電気的に接続される入力装置で入力された情報などを記憶する。処理部41は、記憶部47から必要な情報を取得したり、記憶部47に情報を記憶させたりする。また、処理部41は、三次元モデルを作成したり、ファセットを作成したり、必要な演算を行ったり、各種値を設定したり、次に実行する手順を判定したりする。
【0026】
具体的には、処理部41は、三次元モデル作成部42と、ファセット作成部43と、演算部44と、各種値設定部45と、判定部46とを含む。三次元モデル作成部42は、トランスデューサ10や、ノーズコーン20の三次元モデルを作成する。ファセット作成部43は、三次元モデル作成部42が作成した三次元モデルを複数のファセットで表現する。演算部44は、記憶部47に記憶されている式に値を代入することで演算を行う。各種値設定部45は、シミュレーションに必要なパラメータ値を決定したり変更したりする。判定部46は、シミュレーション装置40が次にどの手順を実行するかを判定する。以下、シミュレーション装置40が実行する一連の手順を説明する。
【0027】
図4は、ワイヤーフレームで表現されたノーズコーンを示す斜視図である。図5は、ファセット化されたノーズコーンの三次元モデルを示す斜視図である。図2に示すステップST101で、図3に示す三次元モデル作成部42は、図4に示すようなノーズコーン20の三次元モデル21を作成する。ここで、例えば、シミュレーション装置40の記憶部47には、コンピュータ支援設計(CAD:Computer Aided Design)を実現するためのプログラムがインストールされている。三次元モデル作成部42は、このプログラム(CAD)を記憶部47から取得して図4に示す三次元モデル21を作成する。
【0028】
次に、ステップST102で、図2に示すファセット作成部43は、図4に示す三次元モデル21を図5に示すように、複数のファセット22で分割して表現する。ファセット22は、三角形または四角形の要素である。本実施形態では、ファセット22は、三角形である。ここで、例えば、シミュレーション装置40の記憶部47には、FEMプリポストプロセッサを実現するためのプログラムがインストールされている。三次元モデル作成部42は、このプログラム(FEMプリポストプロセッサ)を記憶部47から取得して、ノーズコーン20を図5に示すように複数のファセット22で分割して表現する。
【0029】
図6は、トランスデューサの三次元モデルを示す斜視図である。ここで、本実施形態では、トランスデューサ10が円柱形状であると仮定した場合のトランスデューサ10の中心線CLに平行な軸をY軸とし、Y軸と直交すると共に送受波部11の周方向の中央と中心線CLとを結ぶ軸をZ軸とし、Y軸とZ軸とに直交する軸をX軸とする。図2に示すステップST103で、図3に示す演算部44は、図6に示すように、トランスデューサ10の送受波点13の座標を決定する。ここで、トランスデューサ10は、複数の送受波素子12によって送受波部11が構成される。本実施形態では、トランスデューサ10は、Y方向にn個、曲面部分の周方向に沿ってm個の送受波素子12が配列されて送受波部11が形成される。
【0030】
送受波点13は、例えば、各送受波素子12の図心である。送受波点13は、各送受波素子12中の1点であればよく、送受波素子12の図心に限定されない。本実施形態では、トランスデューサ10は、複数の送受波点13から、それぞれ1本ずつ音線を射出するものとして取り扱われる。送受波点13の座標を決定するためには、例えば、まず、三次元モデル作成部42は、トランスデューサ10の三次元モデルを作成する。次に、演算部44は、作成した三次元モデルに基づいて、各送受波点13のX、Y、Zそれぞれの座標を算出する。なお、ソーナー装置用カバーの音響特性シミュレーション方法で必要な情報は各送受波点13の座標である。三次元で表現されたトランスデューサ10のモデルは、シミュレーションによる試験には用いられない。よって、トランスデューサ10の形状が複雑でないのであれば、手動の計算によって各送受波点13のX、Y、Zそれぞれの座標を算出して決定してもよい。
【0031】
図7は、走査角度を示す説明図である。次に、図2に示すステップST104で、各種値設定部45は、走査角度を設定する。ここで、走査角度について説明する。図7に示すように、トランスデューサ10の送受波部11は、円弧状である。よって、各送受波点13から同じタイミングで音波が射出されると、中心線CLを中心に走査線が広がることになる。しかしながら実際には、所望の方向をより精度よく探査するために、トランスデューサ10は、前記所望の方向に向かう音波が、他の方向に向かう音波よりも強くなるように工夫される。以下、前記所望の方向を走査方向DDという。この走査方向DDは、音線BMの進行方向と一致する。トランスデューサ10は、図6に示す各送受波点13から音波を射出するタイミングがそれぞれ調節されることにより、走査方向DDが調節される。すなわち、トランスデューサ10は、図7に示す走査角度が調節される。
【0032】
走査角度は、図6に示すように、YZ走査角度θと、XZ走査角度φとが含まれる。例えば、図7に示すように、X軸方向の一方側Aに配置される送受波点13よりも早いタイミングで、他方側Bに配置される送受波点13から音波を射出すると、トランスデューサ10は、他方側Bから一方側Aに傾いた方向に向かって音波を発生させることになる。このとき、音波が進む方向とZ軸との成す狭角がXZ走査角度φである。また、送受波部11のX軸方向の中央部に配置される送受波点13よりも早いタイミングで、一方側A及び他方側Bの両端側に配置される送受波点13から音波を射出すると、トランスデューサ10は、Z軸方向、つまりトランスデューサ10の正面方向に向かって音波を発生させることになる。トランスデューサ10の真正面に向かってトランスデューサ10が音波を発生する場合、XZ走査角度φは0度である。
【0033】
また、図6に示す複数の送受波点13のうち、Y軸方向の一方側Cに配置される送受波点13よりも早いタイミングで、他方側Dに配置される送受波点13から音波を射出すると、トランスデューサ10は、他方側Dから一方側Cに傾いた方向に向かって音波を発生させることになる。このとき、音波が進む方向とZ軸との成す狭角がYZ走査角度θである。また、送受波部11のY軸方に配列される各送受波点13から同じタイミングで音波を射出すると、トランスデューサ10は、Z軸方向、つまりトランスデューサ10の正面方向に向かって音波を発生させることになる。トランスデューサ10の真正面に向かってトランスデューサ10が音波を発生する場合、YZ走査角度θは0度である。
【0034】
次に、図2に示すステップST105で、各種値設定部45は、図6に示す各送受波点13の重み付け係数WFを設定する。重み付け係数WFは、送受波素子12を走査方向DDに投影したときの送受波素子12の投影面積に基づいて設定される。例えば、各送受波素子12の面積が同じでも、図7に示すXZ走査角度φが0度の時、送受波部11の中央部に配置される送受波素子12の投影面積は、送受波部11の両端側に配置される送受波素子12の投影面積よりも大きくなる。投影面積が大きくなればなるほど、走査方向DDに向かう音波の強さも大きくなる。よって、例えば、XZ走査角度φが0度の場合は、送受波部11の中央部に配置される送受波点13の重み付け係数WFは、送受波部11の両端側に配置される送受波点13の重み付け係数WFよりも大きく設定される。
【0035】
図8は、放射ビームパターンを示す説明図である。重み付け係数WFは、図8に示すサイドローブBPsを低減するための係数が考慮されてもよい。サイドローブBPsとは、放射ビームパターンのうち、メインローブBPm以外のローブである。メインローブBPmとサイドローブBPsとの差が大きくなるほど、ソーナー装置1は、走査方向DDの探査をより精度よく行える。ソーナー装置1が実際に使用される際は、図6に示す複数の送受波素子12で送受する音波のレベルを、各送受波素子12で異ならせることでサイドローブBPsの低減を図っている。ソーナー装置用カバーの音響特性シミュレーション方法では、各送受波点13の重み付け係数WFを調節することで、サイドローブBPsの低減を模擬する。重み付け係数WFをサイドローブBPsの低減を考慮した値とすることで、ソーナー装置1の実際の使用状況に近い設定でシミュレーションによる試験ができる。この場合、重み付け係数WFは、例えば、各送受波素子12の投影面積に応じた係数と、サイドローブBPsの低減を目的とする係数とを乗算した値である。
【0036】
図9は、送受波素子から射出された音線がファセットと交わる様子を示す説明図である。図2に示すステップST106で、図3に示す演算部44は、図9に示すように、トランスデューサ10の複数の送受波素子12のうちの1つから射出された音線BMがノーズコーン20と交わる交点を算出する。すなわち、複数のファセット22のうち音線BMと交わるファセット22を特定する。音線BMは、複数の送受波素子12のうちの1つから、ステップST104で設定された走査方向DDに向かって直進するものとして取り扱われる。音線BMがノーズコーン20と交わる交点は、音線BMが射出された送受波点13の座標と、YZ走査角度θ及びXZ走査角度φと、複数のファセット22の位置情報とに基づいて算出される。ここでいう位置情報とは、各ファセット22の位置を示す情報であって、例えば、三角形である各ファセット22の頂点の座標である。
【0037】
次に、図2に示すステップST107で、図3に示す演算部44は、図9に示すように音線BMとノーズコーン20との交点での、ノーズコーン20に対する音線BMの入射角度αを算出する。入射角度αは、音線BMとノーズコーン20との交点での法線V1と、音線BMとが成す狭角である。ここで、ノーズコーン20は、曲面ではなく平面であるファセット22によって表現されている。よって、入射角度αは、音線BMが交わるファセット22に直交する仮想線(V1)と、音線BMとが成す狭角となる。入射角度αは、音線BMが交わるファセット22の傾きと、YZ走査角度θ及びXZ走査角度φとに基づいて算出される。
【0038】
次に、図2に示すステップST108で、図3に示す演算部44は、音線BMが交わるファセット22での、音線BMの透過損失ILを算出する。透過損失ILとは、音線BMがノーズコーン20を透過する際に損失するレベルの割合を示す値である。本実施形態では、透過率Tは音圧で捉えられる。透過率Tが音圧で捉えられる場合、透過損失ILは、ノーズコーン20を透過する前の音線BMのレベルに、透過率Tを乗算することで求められる。一方、透過率Tがパワーで捉えられる場合、透過損失ILは、ノーズコーン20を透過する前の音線BMのレベルに、透過率Tの二乗を乗算することで求められる。透過率Tは、ノーズコーン20の材料と、図9に示す入射角度αとに基づいて変化する。透過率Tは、各種材料の特性を記載した文献に記載の理論値でもよいが、実測値であるとより好ましい。これは、ノーズコーン20は、複数の材料で構成されることがあるためである。複数の材料で構成される材料の場合、透過率Tの理論値は、透過率Tの実測値と異なる傾向がある。次に、透過率Tの実測値を計測する方法を説明する。
【0039】
図10は、透過損失実測方法を示すフローチャートである。図10に示すように、まず、ステップST201で、ノーズコーン20と同じ材料で平板を作成する。次に、ステップST202で、平板の一方側に設けられた音波発生装置の平板に対する角度βを調節する。角度βは、入射角度αに相当する。次に、ステップST203で、音波発生装置から音波を発生させ、平板の他方側、すなわち音波発生装置とは反対側に設けられた受波器で平板を透過した音波のレベルを計測する。次に、ステップST204で、受波器で受けた音波のレベル、すなわち平板を透過した後の音波のレベルを、平板を透過する前の音波のレベルで除算する。これにより、角度βでの透過率Tを算出する。
【0040】
次に、ステップST205で、すべての角度βでの透過率Tの算出が完了したか否かで次に実行するステップを決定する。すべての角度βでの透過率Tの算出が完了していない場合(ステップST205、No)、ステップST202で前回とは異なるように角度βを調節し、ステップST203以降の手順を実行する。すべての角度βでの透過率Tの算出が完了している場合(ステップST205、Yes)、ステップST206で、演算部44は、各角度βでの透過率Tの各値の間の値を補間する。各角度βでの透過率Tの各値の間は、直線で補間されてもよいし、スプラインによって補間されてもよい。次に、ステップST207で、各角度βのときの透過率Tを示す透過率情報を作成する。透過率情報は、角度βと、透過率Tとの関係を示す関数式でもよいし、角度βと、透過率Tとを対応づけたマップでもよい。以上により、一連の手順を終了する。
【0041】
ソーナー装置用カバーの音響特性シミュレーション方法の説明に戻る。図2にステップST108を実行すると、次に、ステップST109で、図3に示す判定部46は、すべての音線BMの透過損失ILの算出が完了したか否かで次に実行するステップを決定する。すべての音線BMの透過損失ILの算出が完了していない場合(ステップST109、No)、ステップST106に戻り、ステップST106以降の各手順を実行する。つまり、複数の送受波点13から射出されるすべての音線BMに対して透過損失ILを算出する。すべての音線BMの透過損失ILの算出が完了している場合(ステップST109、Yes)、図3に示す演算部44は、ステップST110を実行する。
【0042】
ステップST110で、演算部44は、総合透過損失ILtotalを算出する。総合透過損失ILtotalは、下記の式(1)で算出される。式(1)のWFiは、複数の送受波点13のうちのi番目の送受波点13に設定された重み付け係数WFである。ILiは、複数の送受波点13のうちのi番目の送受波点13から射出された音線BMの透過損失ILである。なお、式(1)の分母は、重み付け係数の総和であり、総合透過損失ILtotalを正規化するためのものである。
【0043】
【数1】

【0044】
また、ステップST110で、演算部44は、図8に示すようなビームパターンEtを形成する。ビームパターンEtは、下記の式(2)で算出される。式(2)のjは、虚数単位である。kは、2π/λである。λは音線BMの波長である。Xiは、音線BMを射出した送受波点13のX座標、Yiは、音線BMを射出した送受波点13のY座標である。θ及びφは、図6に示すように、走査方向DDを示す角度である。θは、走査方向DDをYZ平面に投影した際、YZ平面上で走査方向DDとZ軸とが成す狭角である。φは、走査方向DDをYXZ平面に投影した際、XZ平面上で走査方向DDとZ軸とが成す狭角である。なお、総合透過損失ILtotalのみが必要な場合は、演算部44は、ステップST110でビームパターンEtを形成する必要はない。本実施形態では、演算部44は、総合透過損失ILtotalの算出と、ビームパターンEtの形成との両方を実行するものとして説明する。
【0045】
【数2】

【0046】
次に、ステップST111で、判定部46は、すべての走査角度で、総合透過損失ILtotalの算出と、ビームパターンEtの形成とが完了したか否かで次のステップを決定する。本実施形態では、YZ走査角度θが90°〜±30°の値の場合と、XZ走査角度φが0°〜±30°の値の場合とを試験するものとする。すべての走査角度で総合透過損失ILtotalの算出と、ビームパターンEtの形成とが完了していない場合(ステップST111、No)、シミュレーション装置40は、ステップST104に戻り、ステップST104以降の各手順を実行する。すべての走査角度で総合透過損失ILtotalの算出と、ビームパターンEtの形成とが完了していない場合(ステップST111、Yes)、シミュレーション装置40は、一連の手順の実行を終了する。
【0047】
以上の一連の手順を実行することにより、シミュレーション装置40は、総合透過損失ILtotalを算出できると共に、ビームパターンEtを形成できる。ノーズコーン20の開発者は、この手法で算出された総合透過損失ILtotalと、この手法で形成されたビームパターンEtとに基づいて、ノーズコーン20の音響特性を評価できる。そして、それぞれ設計が異なる複数のノーズコーン20に対して、上述の一連の手順を実行することにより、ノーズコーン20の開発者は、複数のノーズコーン20の中から音響特性が良好なものを選定できる。
【0048】
ここで、本実施形態のソーナー装置用カバーの音響特性シミュレーション方法は、FEMを用いたシミュレーション方法よりも1つのファセット22の大きさを大きくしても実用に足る精度を実現できる。例えば、FEMを用いたシミュレーション方法の場合、1つのファセットの1辺の大きさは、音波の波長の1/10以下が妥当である。しかしながら、本実施形態のソーナー装置用カバーの音響特性シミュレーション方法は、1つのファセット22の1辺の大きさが音波の波長以上の大きさであっても、音線BMのノーズコーン20に対する入射角を必要十分な精度で再現できる程度にノーズコーン20の形状を再現できていれば、必要十分な精度での試験を実現できる。よって、本実施形態のソーナー装置用カバーの音響特性シミュレーション方法を用いれば、ノーズコーン20を表現するために要するファセット22の数を低減できる。よって、本実施形態のソーナー装置用カバーの音響特性シミュレーション方法を用いれば、ソーナー装置用カバーの音響特性シミュレーションに要する時間を低減できる。
【0049】
ここで、本実施形態のソーナー装置用カバーの音響特性シミュレーション方法は、本来波である音波を線として取り扱う。よって、本実施形態のソーナー装置用カバーの音響特性シミュレーション方法は、試験対象であるノーズコーン20の大きさが大きいほど、より精度よくノーズコーン20の音響特性を試験できる。これは、試験対象が小さくなればなるほど、音波の粒子性よりも波動性が試験結果に影響を及ぼすためである。実用に足る精度を確保するためには、ノーズコーン20は、波長の5倍以上の寸法となる部分を有する程度の大きさであると好ましい。なお、水中での音速はおよそ1500m/sである。よって、音波の波長を50khzとすると、一波長はおおよそ30mmとなる。
【0050】
(実施形態2)
図11は、実施形態2のソーナー装置用カバーの音響特性シミュレーション方法を示すフローチャートである。図12は、実施形態2のシミュレーション装置が有する機能を示すブロック図である。以下、上述の実施形態とは異なる点について説明する。カバーの形状が図4に示すように複雑な場合は、図5に示すように複数のファセット22でカバーを分割して表現する。しかしながら、例えば、カバーが半球型のドームの場合や、一定の曲率を有する曲面で構成される場合のように、カバーの形状を関数で表現できる場合がある。このような場合は、図11に示す実施形態2のソーナー装置用カバーの音響特性シミュレーション方法を用いると好ましい。
【0051】
本実施形態のソーナー装置用カバーの音響特性シミュレーション方法は、図2に示すステップST101が省略され、ステップST102に代えてステップST301を含む。図11に示すステップST302からステップST310の各手順は、図2に示すステップST103からステップST111の各手順と同様である。図12に示す本実施形態のシミュレーション装置50は、図3に示すファセット作成部43に代えて、関数作成部53を有する。関数作成部53は、カバーの形状を表現する関数を作成する。
【0052】
まず、ステップST301で、図12に示す関数作成部53は、カバーの形状を表現する関数を作成する。そして、ステップST305では、演算部44は、前記関数と、音線BMが射出された送受波点13の座標と、YZ走査角度θ及びXZ走査角度φとに基づいて、トランスデューサ10の複数の送受波素子12のうちの1つから射出された音線BMがカバーと交わる交点を算出する。
【0053】
本実施形態のソーナー装置用カバーの音響特性シミュレーション方法では、カバーを複数のファセット22に分割して表現する必要がないため、必要な計算量をさらに低減できる。例えば、レイトレーシングにより交点を有するファセットを総当りで探索する場合、Mの射出点と、Nのファセットがあり、1つの交点あたりに要する探索単位時間をΔtとすると、探索時間は、M×N×Δt/2前後が期待される。一方、関数で形状を表現できる場合、探査時間は、M×Δt以内が期待できる。結果として、本実施形態のソーナー装置用カバーの音響特性シミュレーション方法を用いれば、ソーナー装置用カバーの音響特性シミュレーションに要する時間をさらに低減できる。なお、カバーの形状にもよるが、本実施形態のソーナー装置用カバーの音響特性シミュレーション方法を用いた場合、実施形態1のソーナー装置用カバーの音響特性シミュレーション方法よりもさらに、ソーナー装置用カバーの音響特性シミュレーションに要する時間を1/ファセット数〜1/0.1×ファセット数、程度に低減できる。
【0054】
(実施形態3)
図13は、近傍界での音線を示す説明図である。図13に示す仮想送受波部(仮想開口)31は、トランスデューサ10と観測点32とを結ぶ方向にトランスデューサ10を投影したときの投影図である。観測点32にはハイドロフォン(水中マイクロフォン)が設置されているものとする。図13では、仮想送受波部31が観測点32に向けて音線BMを射出するものとして取り扱う。仮想送受波部31は、平板であると仮定する。ここで、ソーナー装置による探査の観測点までの距離によっては、トランスデューサから射出される複数の音線がそれぞれ観測点に到着するまでに、音線ごとに位相差が発生することがある。図13に示すように、仮想送受波部31と観測点32との距離をRとする。観測点32から半径Rの円弧を描くと、円弧と仮想送受波部31との間に隙間が生じる。この隙間が各音線BMの位相差に相当する。
【0055】
ここで、半径Rが大きいほど、円弧と仮想送受波部31との間の隙間は小さくなる。つまり、仮想送受波部31と観測点32との距離が大きくなるほど、各音線BMの位相差が小さくなる。これにより、試験の精度は上昇する。一方で、仮想送受波部31と観測点32との距離が小さくなるほど、各音線BMの位相差が大きくなる。よって、試験の精度は低下する。具体的には、半径Rが、仮想送受波部31のX方向の大きさである寸法Eの二乗を音波の波長λで除算した値以上であれば、各音線BMの位相差が最大でも1/8波長以内となる。よって、上述の実施形態1及び実施形態2のソーナー装置用カバーの音響特性シミュレーション方法でも実用に足る精度を実現できる。半径Rが、寸法Eの二乗を波長λで除算した値よりも小さくなる場合は、実施形態3のソーナー装置用カバーの音響特性シミュレーション方法を用いると好ましい。
【0056】
実施形態3のソーナー装置用カバーの音響特性シミュレーション方法が含む各手順は、図2や図11に示す各手順と同様であるが、図2に示すステップST110及び図11に示すステップST309で用いる式が異なる。実施形態3のソーナー装置用カバーの音響特性シミュレーション方法では、下記の式(3)を用いてビームパターンEtを形成する。式(3)のPx、Py、Pzは、それぞれ観測点32のX座標、Y座標、Z座標である。Xi、Yi、Ziはそれぞれ、音線BMを発射した送受波点13のX座標、Y座標、Z座標である。
【0057】
【数3】

【0058】
上記の式(3)を用いることにより、本実施形態のシミュレーション装置は、各送受波点13から観測点32までの距離の差を考慮してビームパターンEtを形成できる。よって、実施形態3のソーナー装置用カバーの音響特性シミュレーション方法を用いれば、仮想送受波部31と観測点32との距離が近傍である場合、すなわち半径Rが、寸法Eの二乗を波長λで除算した値よりも小さくなる場合であっても、実用に足る精度でカバーの音響特性をシミュレーションによって試験できる。
【0059】
(実施形態4)
図14は、ファセットで音線BMが反射する様子を示す説明図である。音波は、ノーズコーン20に当たると、その一部がトランスデューサ10側に向かって反射することがある。このノーズコーン20で反射した音波を反射音波とする。上述のように、トランスデューサ10は、音波を射出する時期と、音波を受ける時期とが別である。よって、音波を射出してから、音波を受ける機能に切り替わるまでの時間が、反射音波が減衰するのに要する時間よりも長く設定されていれば、反射音波に起因する探査精度の低下を抑制することはできる。しかしながら、より厳密にノーズコーン20の音響特性を試験するのであれば、反射音波を考慮したシミュレーション方法で試験すると好ましい。以下、反射音波を考慮したシミュレーション方法の一例を説明する。
【0060】
ここで、ノーズコーン20で音線BMが反射する場合、実際には、音線BMは、ノーズコーン20を透過する透過音線と、ノーズコーン20で反射する反射音線とに分割されることになる。透過音線のレベルと、反射音線のレベルとの比は、音線BMがノーズコーン20に衝突した入射角度αによって変化する。この現象をシミュレーションによる試験に取り込む。この場合、音線BMがノーズコーン20に最初に衝突した際に、音線BMは、透過音線と透過音線とに分割される。そして、反射音線が再度ノーズコーン20に衝突した際、反射音線はさらに透過音線と反射音線とに分割される。
【0061】
しかしながら、この場合、反射音線がノーズコーン20に衝突を繰り返すたびに音線が増加することになる。そこで、本実施形態のソーナー装置用カバーの音響特性シミュレーション方法では、モンテカルロ法が用いられる。具体的には、本実施形態では、音線BMは、送受波点13から複数射出されるものとして取り扱う。そして、送受波点13から射出された複数の音線BMは、図14に示すように、ノーズコーン20を完全に透過する透過音線BM2と、ノーズコーン20で完全に反射される反射音線BM1とに分類される。
【0062】
反射音線BM1と、透過音線BM2との比は、透過率Tに応じた値とする。つまり、例えば、透過率Tの二乗の絶対値である透過係数が60%であるならば、送受波点13から射出された複数の音線BMのうちのおよそ60%が透過音線BM2となり、およそ40%が反射音線BM1となる。なお、図14では、説明の便宜上、送受波素子12の異なる点から音線BMが射出されているが、実際は、音線BMは、送受波点13の一点から複数射出されるものとして取り扱われる。
【0063】
下記の式(4)は、複素透過係数を示す式である。下記の式(4)に示す複素透過係数のうち、exp(jα)が位相項となる。本実施形態のシミュレーション装置は、透過音線BM2に当該位相項を適用し、レイトレーシングを継続する。つまり、本実施形態のシミュレーション装置は、ノーズコーン20を透過後の透過音線BM2の軌跡を再現する。また、本実施形態のシミュレーション装置は、反射音線BM1に反射位相項であるexp(jπ)を適用してレイトレーシングを継続する。本実施形態では、透過率Tが音圧で捉えられるため、位相項は、透過率Tに乗算される。なお、透過率Tがパワーで捉えられる場合、位相項は、透過率Tの二乗に乗算される。
【0064】
【数4】

【0065】
これら反射音線BM1及び透過音線BM2のすべてに対して、図2や、図11に示す一連の手順を実行することにより、本実施形態のソーナー装置用カバーの音響特性シミュレーション方法を用いれば、ノーズコーン20で音波が反射する現象を考慮した総合透過損失ILtotalを算出し、ビームパターンEtを形成できる。よって、本実施形態のソーナー装置用カバーの音響特性シミュレーション方法を用いれば、より現実に近い現象を再現して、より好適にノーズコーン20の音響特性を試験できる。
【0066】
ここで、上記の各実施形態では、シミュレーション装置単体がすべての手順を実行するものとして説明したが、複数の装置で別々に各手順を実行してもよい。例えば、総合透過損失ILtotalを算出しビームパターンEtを形成する演算ソフトウェアがインストールされたコンピュータに、CADやFEMプリポストプロセッサがインストールされたコンピュータで作成されたデータを受け渡してもよい。また、一台のコンピュータに、前記演算ソフトウェアと、CADと、FEMプリポストプロセッサとが別個にインストールされ、これらのソフトウェア間でデータを受け渡すことで各手順を実行してもよい。
【産業上の利用可能性】
【0067】
以上のように、本発明に係るソーナー装置用カバーの音響特性シミュレーション方法は、音波を射出するトランスデューサを覆うカバーの音響特性の試験に有用であり、特に、ソーナー装置用カバーの音響特性シミュレーションに要する時間を低減することに適している。
【符号の説明】
【0068】
1 ソーナー装置
10 トランスデューサ
11 送受波部
12 送受波素子
13 送受波点
20 ノーズコーン
21 三次元モデル
22 ファセット
31 仮想送受波部
32 観測点
40 シミュレーション装置
41 処理部
42 三次元モデル作成部
43 ファセット作成部
44 演算部
45 種値設定部
46 判定部
47 記憶部
50 シミュレーション装置
53 関数作成部
BM 音線
BM1 反射音線
BM2 透過音線
BPm メインローブ
BPs サイドローブ
CL 中心線
DD 走査方向
Et ビームパターン
IL 透過損失
ILtotal 総合透過損失
T 透過率
WF 重み付け係数
α 入射角度
β 角度
θ YZ走査角度
λ 波長
φ XZ走査角度

【特許請求の範囲】
【請求項1】
音波を射出するトランスデューサを覆うカバーの音響特性を試験するシミュレーション方法であって、
前記カバーを複数のファセットで分割して表現する第1手順と、
前記トランスデューサが射出した音波を音線として取り扱い、前記音線の進行方向を設定する第2手順と、
前記音線の前記進行方向と、前記ファセットの座標とに基づいて、前記音線と前記ファセットとの交点を求める第3手順と、
前記音線の前記進行方向と、前記ファセットを表現する情報とに基づいて、前記交点での前記ファセットに対する前記音線の入射角度を求める第4手順と、
前記音線の前記入射角度と前記音線の透過率との関係を示す透過情報と、前記入射角度とから前記音線の透過損失を求める第5手順と、
を含むことを特徴とするソーナー装置用カバーの音響特性シミュレーション方法。
【請求項2】
音波を射出するトランスデューサを覆うカバーの音響特性を試験するシミュレーション方法であって、
前記カバーを関数で表現する第1手順と、
前記トランスデューサが射出した音波を音線として取り扱い、前記音線の進行方向を設定する第2手順と、
前記音線の前記進行方向と、前記カバーを表現する前記関数とに基づいて前記音線と前記カバーとの交点を求める第3手順と、
前記音線の前記進行方向と、前記カバーを表現する前記関数とに基づいて、前記交点での前記カバーに対する前記音線の入射角度を求める第4手順と、
前記音線の前記入射角度と前記音線の透過率との関係を示す透過情報と、前記入射角度とから前記音線の透過損失を求める第5手順と、
を含むことを特徴とするソーナー装置用カバーの音響特性シミュレーション方法。
【請求項3】
前記第2手順では、前記トランスデューサを複数の素子に分割し、前記音線は、前記複数の素子からそれぞれ少なくとも1つ射出されるものとして取り扱い、
前記第5手順では、前記複数の素子からそれぞれ射出される前記音線の透過損失をそれぞれ求め、
前記第5手順の後に、複数の前記透過損失を合計することで総合透過損失を算出する第6手順をさらに含むことを特徴とする請求項1または請求項2に記載のソーナー装置用カバーの音響特性シミュレーション方法。
【請求項4】
前記第6手順では、さらに、前記音線が前記カバーを透過した後の音場を合成してビームパターンを計算することを特徴とする請求項3に記載のソーナー装置用カバーの音響特性シミュレーション方法。
【請求項5】
前記音線の進行方向に前記素子を投影したときの投影面積が大きい前記素子ほど、前記音線のレベルを補正するための重み付け係数を大きく設定し、
前記第5手順では、前記複数の素子からそれぞれ射出される前記音線のレベルに、前記素子別に設定された前記重み付け係数を乗算して前記透過損失をそれぞれ求めることを特徴とする請求項3または請求項4に記載のソーナー装置用カバーの音響特性シミュレーション方法。
【請求項6】
前記重み付け係数には、前記トランスデューサから射出される前記音波のビームパターンのうち、サイドローブを低減するための係数が含まれることを特徴とする請求項5に記載のソーナー装置用カバーの音響特性シミュレーション方法。
【請求項7】
前記音線には、前記カバーで反射した反射音線も含まれることを特徴とする請求項1から請求項6のいずれか一項に記載のソーナー装置用カバーの音響特性シミュレーション方法。
【請求項8】
前記第2手順では、前記トランスデューサを複数の素子に分割し、前記素子は、それぞれ複数の音線を射出するものとして取り扱い、
前記第5手順では、前記透過率に基づいて、1つの素子から射出された前記複数の音線を、前記カバーを完全に透過する透過音線と、前記カバーで完全に反射する反射音線とに分類して前記透過損失を求めることを特徴とする請求項7に記載のソーナー装置用カバーの音響特性シミュレーション方法。
【請求項9】
前記カバーは、前記トランスデューサが射出する前記音波の波長の5倍以上の寸法となる部分を有することを特徴とする請求項1から請求項8のいずれか一項に記載のソーナー装置用カバーの音響特性シミュレーション方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【公開番号】特開2011−106838(P2011−106838A)
【公開日】平成23年6月2日(2011.6.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−259335(P2009−259335)
【出願日】平成21年11月12日(2009.11.12)
【出願人】(000006714)横浜ゴム株式会社 (4,905)
【Fターム(参考)】