説明

ゾル状液の紡糸方法

【課題】本発明の課題は、細繊維化ができ、繊維径のばらつき低減が可能なシリカ含有繊維を得ることができる紡糸方法を提供することにある。
【解決手段】以下の成分(a)、(b)及び(c)を含む混合液を、粘性ゾル化させ、得られるゾル状紡糸液を、電荷付与電極と対向電極との間の電位差によって形成された電界中で静電噴霧法により紡糸する、シリカ含有繊維の紡糸:
(a)テトラアルコキシシラン及び/又はその縮合物;
(b)以下の式で表わされるアミノ基を含むシラン化合物
4−n−Si−(OR’)
(式中、Rはアミノ基含有の有機基を表わし、R’はメチル基、エチル基またはプロピル基を表わし、nは1〜3から選択される整数を表わす);及び
(c)ホウ酸。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シリカ繊維の製造方法に関する。更に詳細には、本発明は、テトラアルコキシシラン及び/又はその縮合物とアミノ基を含むシラン化合物とホウ酸とを含む混合液を、粘性ゾル化させ、得られるゾル状紡糸液を、電荷付与電極と対向電極との間の電位差によって形成された電界中で静電噴霧法により紡糸する、シリカ含有繊維の紡糸方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、シリカ繊維の製造方法として、特許文献1に記載のように、テトラエトキシシランと水とエタノール混合液をゾル状にして、静電噴霧法により紡糸し、不織布を得る技術が知られている。
【0003】
しかし、特許文献1は、静電紡糸法の記載はあるが、極細の繊維を得ることが困難であり、繊維径のばらつきが大きいと考えられる。
【特許文献1】特開2007−63683号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、細繊維化ができ、繊維径のばらつき低減が可能なシリカ含有繊維を得ることができる紡糸方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、以下の成分(a)、(b)及び(c)を含む混合液を、粘性ゾル化させ、得られるゾル状紡糸液を、電荷付与電極と対向電極との間の電位差によって形成された電界中で静電噴霧法により紡糸する、シリカ含有繊維の紡糸方法に関する:
(a)テトラアルコキシシラン及び/又はその縮合物;
(b)以下の式で表わされるアミノ基を含むシラン化合物
4−n−Si−(OR’)
(式中、Rはアミノ基含有の有機基を表わし、R’はメチル基、エチル基またはプロピル基を表わし、nは1〜3から選択される整数を表わす);及び
(c)ホウ酸。
【0006】
更に本発明は、前記混合液には、さらに、(d)有機酸を含む、前記のシリカ含有繊維の紡糸方法に関する。
更に本発明は、前記混合液には、さらに、(e)電解質を含む、前記のシリカ含有繊維の紡糸方法に関する。
更に本発明は、前記の紡糸方法によりシリカ含有繊維を紡糸し、前記対向電極面上で前記シリカ含有繊維を堆積させる、シリカ含有繊維からなる不織布の製造方法に関する。
更に本発明は、前記対向電極面に多孔質シート材を張り合わせ、前記の紡糸方法によりシリカ含有繊維を紡糸し、前記シート材に前記シリカ含有繊維を堆積させる、シート材とシリカ含有繊維不織布からなる複合シート材の製造方法に関する。
更に本発明は、前記の製造方法により得られた不織布または複合シート材を含むフィルターに関する。
更に本発明は、前記の方法により不織布を得て、さらに該不織布に樹脂を含浸する積層体の製造方法に関する。
更に本発明は、前記の方法により複合シート材を得て、さらに該複合シート材に樹脂を含浸する積層体の製造方法に関する。
【発明の効果】
【0007】
本発明のシリカ含有繊維の紡糸方法によれば、上記成分(a)、(b)及び(c)を含む混合液は、安定したゾル状紡糸液を得ることができ、それにより、細繊維化ができ、繊維径のばらつきが低減されたシリカ含有繊維を得ることができる。
更に本発明は、前記のシリカ含有繊維からなる不織布、シート材と前記のシリカ含有繊維不織布からなる複合シート材、前記の不織布または複合シート材を含むフィルター、前記の不織布または複合シート材に樹脂を含浸する積層体、を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
以下に、本発明の実施の形態について、適宜図面を参照しながら説明する。なお、本発明は、これらに限定されるものではない。
【0009】
(a)成分のテトラアルコキシシラン及び/又はその縮合物は、液体であることが好ましい。アルコキシ基としては、メトキシ、エトキシ、プロポキシ、ブトキシ、及びそれ以上の炭素数を有するアルコキシ基を挙げることができる。メトキシ、エトキシ、プロポキシ、及びブトキシが好ましく、メトキシ及びエトキシがより好ましい。
【0010】
(a)成分のテトラアルコキシシランの具体例としては、テトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン、テトラプロポキシシラン、テトラブトキシシランなどを挙げることができる。その中でも、より好ましいものとしては、テトラエトキシシラン及びテトラメトキシシランを挙げることができる。
【0011】
(a)成分のテトラアルコキシシラン及び/又はその縮合物の使用量は、成分(a)、(b)及び(c)を含む混合液中で、30〜80重量%含有するのが好ましい。より好ましくは、40〜70重量%である。(a)成分の添加量が多すぎる場合には、硬度が低下する傾向があり、逆に、少なすぎる場合には、Si含有量が少なくなるので用途によっては硬度が低下したり、化学的耐久性の問題が発生することがある。また、(a)成分の添加量が多すぎる場合には、混合液のゾル化時間が長くなることがある。逆に、少なすぎる場合には,混合液が固化することがある。
【0012】
(a)成分のテトラアルコキシシランの縮合物としては、上記テトラアルコキシシランの2量体〜20量体を挙げることができる。その中でも、5量体が特に好ましい。
【0013】
(b)成分は、以下の式で表わされるアミノ基を含むシラン化合物である。
4−n−Si−(OR’)
(式中、Rはアミノ基含有の有機基を表わし、R’はメチル基、エチル基またはプロピル基を表わし、nは1〜3から選択される整数を表わす。)
【0014】
ここで、Rはアミノ基含有の有機基を表わすが、たとえば、モノアミノメチル、ジアミノメチル、トリアミノメチル、モノアミノエチル、ジアミノエチル、トリアミノエチル、テトラアミノエチル、モノアミノプロピル、ジアミノプロピル、トリアミノプロピル、テトラアミノプロピル、モノアミノブチル、ジアミノブチル、トリアミノブチル、テトラアミノブチル、及び、これらよりも炭素数の多いアルキル基またはアリール基を有する有機基を挙げることができるが、それらに限定されない。γ−アミノプロピルや、アミノエチルアミノプロピルが特に好ましく、γ−アミノプロピルが最も好ましい。
【0015】
(b)成分中のR’はメチル基、エチル基またはプロピル基を表わす。その中でも、メチル基及びエチル基が好ましい。
【0016】
(b)成分中のnは1〜3から選択される整数を表わす。その中でも、nは2〜3であるのが好ましく、nは3であるのが特に好ましい。
すなわち、(b)成分としては、モノアミノシランが好ましく、γ−アミノプロピルトリエトキシシラン、N−β−(アミノエチル)−γ−アミノプロピルトリメトキシシランが特に好ましい。
【0017】
(b)成分の使用量は、成分(a)、(b)及び(c)を含む混合液中で、10〜40重量%含有するのが好ましい。より好ましくは、20〜35重量%である。
【0018】
本発明において、(c)成分のホウ酸の使用量は、成分(a)、(b)及び(c)を含む混合液中で、0.1〜10重量%含有するのが好ましい。より好ましくは、5〜12重量%である。
【0019】
本発明において混合液を得るための方法は、特に限定されない。例えば、(a)成分、(b)成分及び(c)成分の混合条件(温度、混合時間、混合方法など)は、適宜選択することができる。
【0020】
テトラアルコキシシラン及び/又はその縮合物は、エタノールなどの有機溶剤や水に溶解させると、通常、加水分解と縮合反応によりゾル化して、増粘する。しかし、本発明において、混合液は安定したゾル液とすることができる。これは、(b)成分のアミノ基を含むシラン化合物が活性剤として機能していると考えられ、(a)成分のテトラアルコキシシラン及び/又はその縮合物分子量増加のばらつきを低減すること、及び、加水分解が平衡反応として進行するために、安定したゾル液とすることができると考えられる。また、(c)成分のホウ酸は、4配位のホウ素として(b)成分の安定した架橋剤として機能する。
【0021】
本発明において、前記混合液の粘性ゾル化により、100cP〜500cP(100mPa・s〜500mPa・s)の粘度を有するゾル状紡糸液とするのが好ましい。
本発明におけるゾル状紡糸液は、純粋なシリカからなるシリカ繊維を製造するために有効である。しかし、用途に応じ、紡糸液に含まれる添加物として従来知られているもの、例えば、ポリエチレングリコール等の粘度調整剤、アルキルアルコキシシラン、粒状シリカ等を含んでもかまわない。
【0022】
本発明において、前記混合液を粘性ゾル化させてゾル状紡糸液を得る方法は、特に限定されない。例えば、同ゾル状紡糸液を得るために用いる装置としては、例えば、図1に示すような装置を用いることができる。図1において、エアポンプ1からバイアル2へ空気を送り込み、バイアル2からフラスコ5内へ加湿した空気を導入し、フラスコ5内で、粘性ゾル化反応が行われる。
【0023】
本発明においては、得られたゾル状紡糸液を紡糸するには、電荷付与電極と対向電極との間の電位差によって形成された電界中で静電噴霧法により紡糸する。このような静電噴霧法による紡糸手段は、特に限定されない。
このような静電噴霧法による紡糸手段として、例えば、ゾル状紡糸液を回転式の電荷付与電極の表面に供給し、回転している電荷付与電極上の表面であって対向電極に近付いた表面上に紡糸表面が発生し、その紡糸表面から対向電極に向かってゾル状紡糸液が紡糸される紡糸方法によって紡糸化させる手段とすることができる。
このような紡糸方法としては、例えば、図2に示すような装置を用いた方法が好ましいものとして挙げられる。図2においては、容器8中にゾル状紡糸液9を入れ、そのゾル紡糸液9に回転式の電荷付与電極10を部分的に浸漬させる。この電極10に電圧を印加し、この回転式の電荷付与電極10が回転することにより、その電極表面に付着したゾル状紡糸液11が電界中に導入され、回転式の電荷付与電極表面に付着したゾル状紡糸液が対向電極12に近づいて紡糸表面13が発生し、その紡糸表面から対向電極に向かってゾル状紡糸液14が吹き流されて紡糸される。このように、回転式の電荷付与電極を用いることにより、この電極の円周表面に付着したゾル状紡糸液が、電極の回転により対向電極に近づき、円周表面では電界集中の効果により強力な電界が発生し、ゾル状紡糸液表面に荷電を持つイオンが集まり、対向電極に引き寄せられて、紡糸化される。このように、回転式の電荷付与電極を用いることにより、高い紡糸能力が達成される。
また、ローラーからの紡糸の開始点を選択的または、積極的に作るためにローラーに凹凸をつけることがさらに望ましい。
また、ローラー側をマイナス、対向側をプラスに印加することも可能である。
【0024】
本発明では、図3に示したように、対向電極の表面上にシート15をあらかじめおき、そのシート15をベルトコンベア16でゆっくり動かし、回転式の電荷付与電極から対向電極に向かって噴射されるシリカ繊維をそのシートに付着させて膜、シートまたは不織布が形成されるように製造させることもできる。そのようなシートとしては、キャリアーフィルムが挙げられる。
また、回転式の電荷付与電極から対向電極に向かって空気が流れるようにして、回転式の電荷付与電極表面から対向電極に向かってゾル状紡糸液が紡糸されるのを促進し、紡糸されたシリカ繊維を乾燥させることもできる。
このような静電噴霧法による紡糸方法では、回転式の電荷付与電極と対向電極の距離は、通常、1cmから100cm、好ましくは、1.2cmから50cm、さらに好ましくは1.5cmから40cmであり、印加する電界強度は、通常、0.1kV/cmから25kV/cm、好ましくは0.5kV/cmから20kV/cmである。
以上に説明した静電噴霧法による紡糸方法は、WO 2005/024101A1が参照される。
【0025】
このようにして得られたゲル状のシリカ繊維を、例えば、600から1000℃で加熱焼成することによりガラス状のシリカ繊維を製造することができる。
【0026】
本発明における混合液は、粘性ゾル化のために増粘するには、数十時間もの長い時間かかることがある。そこで、同混合液は、上記の(a)成分、(b)成分及び(c)成分以外に、有機酸((d)成分)を含むことができ、これにより、約5〜30分で増粘することができる。(d)成分の有機酸としては特に限定されないが、例えば、クエン酸、フタル酸、マレイン酸、及び酢酸を挙げることができ、好ましくは、クエン酸を挙げることができる。(d)成分の使用量は、特に限定されないが、同混合液中で、0〜10重量%含有するのが好ましい。より好ましくは0.1〜10重量%、更に好ましくは、0.5〜8重量%である。(d)成分の添加により、径がより細い繊維(フィラメント)を容易に得ることができ、得られる繊維のばらつきも小さくなる傾向となる。これは、(d)成分の有機酸を添加することにより、(b)成分のアミノ基を含むシラン化合物の加水分解が進むことで、増粘時間が短縮できるとともに、(a)成分の加水分解も(b)成分の触媒的な働きにより促進させるからだと考えられる。これにより、分子量のばらつきが小さくなるため、紡糸条件による細いフィラメント径を得ることが容易になり、ばらつきも小さくなると考えられる。
【0027】
本発明における混合液は、更に、電解質((e)成分)を含むことができる。(e)成分の添加により、電気伝導度が上昇し、フィラメント径をより細くする(例えば、1μm以下にする)ことができる。(e)成分の電解質は特に限定されないが、例えば、ナトリウムエチラート及びNaClなどのNa化合物を挙げることができ、好ましくは、NaClメタノール溶液を挙げることができる。(e)成分の使用量は、特に限定されないが、同混合液中で、0〜2重量%含有するのが好ましい。より好ましくは、0.00001〜0.5重量%である。
【0028】
静電紡糸法は、電場によってノズル先端の気液界面上(半球状の液体表面)に誘起された帯電荷間の静電反発力に基づく紡糸法である。絶縁性の液体に比べると、ある程度電気伝導性のある液体の方が、電気抵抗が小さいため気液界面にかかる実効的な電場が大きくなり、その結果静電反発力が強くなるために、細径化が起こると考えられる。ただし、液体の電気伝導度が大きくなりすぎると、帯電した電荷が液体内で循環電流を形成し、静電反発力は反対に強くなる。
【0029】
このように、(a)成分及び(b)成分及び(c)成分を含む混合液を用いると、フィラメント径が1.0〜10μmのシリカ含有繊維フィラメントを得ることができるのに対し、(a)成分〜(e)成分を含む混合液を用いると、フィラメント径が1μm以下の非常に細く、フィラメント径のばらつきがより小さいフィラメントを得ることができる。本発明においては、前記混合液は、上記(a)成分〜(e)成分以外に、残余の水を含むことができる。
【0030】
本発明においては、上記の本発明の紡糸方法によりシリカ含有繊維を紡糸し、前記対向電極面上で前記シリカ含有繊維を堆積させることにより、シリカ含有繊維からなる不織布を製造することができる。当該堆積方法は特に限定されない。得られる不織布の単位重量は特に限定されず、どのようにでも制御可能であるが、実用上、1〜100g/m程度が好ましい。
【0031】
本発明においては、前記対向電極面に多孔質シート材を張り合わせ、上記の本発明の紡糸方法によりシリカ含有繊維を紡糸し、前記シート材に前記シリカ含有繊維を堆積させることにより、シート材とシリカ含有繊維不織布からなる複合シート材を製造することができる。当該多孔質シート材としては特に限定されないが、金属箔、樹脂シート、織布、不織布などを挙げることができ、好ましくは、ガラスクロスなどのガラス繊維織布及びガラス繊維不織布を挙げることができる。
【0032】
本発明より得られる前記シリカ含有繊維からなる不織布及び複合シート材は、従来公知の結合剤で補強してもよい。国際公開公報WO2006/129695A1の特許請求の範囲に記載の有機シラン化合物とホウ素化合物からなる高分子物質を結合剤として使用すると、屈折率をあわせることができるため、透明なシートを作製できるために、好ましい。
【0033】
本発明より得られる前記シリカ含有繊維は抗菌性を有し、また本発明における上記混合液または前記の結合剤に、銀イオン(硝酸銀など)を含有する抗菌剤を追加すれば、より抗菌性の効果が高い不織布や複合シート材を得ることができる。
【0034】
本発明においては、上記の本発明により得られた不織布または複合シート材を含むフィルターを得ることができる。このようなフィルターとしては、例えば、当該不織布を有機質繊維または無機質繊維の織布で挟み込んだフィルターや、当該複合シート材と有機質繊維または無機質繊維の織布を積層したフィルターなどを挙げることができる。
【0035】
本発明においては、上記の本発明により得られた不織布あるいは複合シート材に樹脂を含浸することにより、積層体を製造することができる。
【0036】
以下に、本発明を実施例および比較例により更に詳細に説明するが、本発明はこれらの例に何ら限定されるものではない。
【0037】
実施例
表1に示す各成分の添加量を配合し、それぞれのフィラメントを作製した。
【0038】
実施例1
(a)成分としてテトラエトキシシラン(TEOS)、(b)成分としてγ−アミノプロピルトリエトキシシラン、(c)成分としてホウ酸を用い、表1に示す添加量を配合して混合液を得、混合して粘性ゾル化させ、100cPまで増粘する時間を測定した。100cPまで増粘した後に、得られたゾル状紡糸液を、図2に示す装置を用いて静電噴霧法により紡糸し、シリカ含有繊維を得た。静電噴霧は、電圧20kV、電極基板間距離12cmで実施した。得られた繊維のフィラメント直径を測定した。このようにして得られた結果を、表1に示す。
【0039】
実施例2
(d)成分の有機酸としてクエン酸を用い、表1に示す添加量を配合した以外は、実施例1と同様にして実施した。得られた結果を、表1に示す。
【0040】
実施例3
(e)成分の電解質としてNaClを用い、表1に示す添加量を配合した以外は、実施例1と同様にして実施した。得られた結果を、表1に示す。
【0041】
実施例4
(d)成分の有機酸としてクエン酸を用い、(e)成分の電解質としてNaClを用い、表1に示す添加量を配合した以外は、実施例1と同様にして実施した。得られた結果を、表1に示す。
【0042】
比較例1
粘性ゾル化を10時間で中止し、70cPまで増粘した後に、得られたゾル状紡糸液を紡糸した以外は、実施例1と同様にして実施した。得られた結果を、表1に示す。
【0043】
【表1】

【0044】
実施例5(粘度の検討)
(a)成分としてTEOSの代わりにテトラエトキシシランの縮合物(5量体)を用い、以下の粘度(70cP、110cP、あるいは、300cP)まで増粘した後に、得られたゾル状紡糸液を紡糸した以外は、実施例1と同様にして実施した。
1−A: 70cP(比較例)
1−B:110cP
1−C:300cP
得られたシリカ含有繊維の写真を、図4に示す。低い粘度(70cP)では、繊維が作製できずに粒子形状しか得られなかったのに対し、粘度が上昇するにつれ(110cPあるいは300cP)、繊維形状を示した。
【0045】
実施例6((d)成分の添加量の検討)
実施例1で使用した混合液に、(d)成分としてクエン酸を以下の濃度添加して、紡糸した以外は、実施例1と同様にして実施した。なお、静電噴霧法により紡糸できるようになるまでのゾル状紡糸液の粘度(110cP〜200cP)となるまでの時間は、実施例1の30時間から、5〜30分に短縮できた。
2−A: 1.5 wt%
2−B: 2.0 wt%
2−C: 2.5 wt%
2−D: 3.0 wt%
得られたシリカ含有繊維の写真を、図5に示す。(d)成分を添加しない1−Bに比べてフィラメント径の細い繊維が得られた。また、より高い濃度(2−C及び2−D)では、より細く(平均繊維径は、2−Cでは1.2μm、2−Dでは、2.1μm)、より均一なファイバーが得られた。
【0046】
実施例7((e)成分の添加量の検討)
実施例6で使用した混合液(2−C)に、(e)成分としてNaClメタノール溶液をNaCl濃度として以下の濃度添加して、紡糸した以外は、実施例6と同様にして実施した。なお、110cP〜200cPの粘度を有するゾル状紡糸液を紡糸した。ここでは、ゾル状紡糸液に電解質を添加することによる細径化を試みた。
3−A: 16 mg/L
3−B: 3.4 g/L
得られたシリカ含有繊維の写真を、図6に示す。(e)成分を添加しない2−Cに比べてフィラメント径が細く(平均繊維径は、3−Aでは0.82μm、3−Bでは、0.42μm)、より均一な繊維(ファイバー)が得られた。
【0047】
実施例8((e)成分の添加量の検討)
添加した(e)成分のNaClの濃度を様々に変えた以外は、実施例7と同様にして実施した。得られたシリカ含有繊維の平均繊維径と、添加した(e)成分のNaClの濃度との関係を表わすグラフを、図7に示す。図7のグラフ(「NaCl添加による平均繊維径の変化」)において、横軸は、添加した(e)成分のNaClの濃度C(対数目盛)を表わし、縦軸は、得られたシリカ含有繊維の平均繊維径を表わす。NaCl濃度の増加と共に、得られたシリカ含有繊維の平均繊維径は、約0.4μm程度に接近した。
【0048】
実施例9((a)〜(c)成分の検討)
実施例1に対して(a)TEOS44.5重量%、(b)γ−アミノプロピルトリエトキシシラン44.5重量%、(c)ホウ酸11.1重量%の組成でゾル化を検討した。ゾル状紡糸液(110cP〜200cP)の粘度となるまでの時間に変化はなく、直径5μmの均一なファイバーが得られた。
【0049】
(試料の抗菌性についての効果)
実施例2及び4で得られた繊維を不織布にし、JIS L1902「繊維製品の抗菌性試験方法・抗菌効果」に準じ、黄色ブドウ球菌に対する抗菌性を確認したところ抗菌性が認められた。得られた結果を、表2に示す。
【0050】
【表2】

【産業上の利用可能性】
【0051】
本発明のシリカ含有繊維の紡糸方法によれば、安定したゾル状紡糸液を得ることができ、それにより、細繊維化ができ、繊維径のばらつきが低減されたシリカ含有繊維を得ることができる。
更に本発明によれば、前記のシリカ含有繊維からなる不織布、シート材と前記のシリカ含有繊維不織布からなる複合シート材、前記の不織布または複合シート材を含むフィルター、前記の不織布または複合シート材に樹脂を含浸する積層体、を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0052】
【図1】本発明におけるゲル紡糸液の一形態の製造装置の概略図である。
【図2】本発明の実施例1で用いた静電噴霧装置の概略図である。
【図3】シリカ繊維の製造に用いられる静電噴霧装置の概略図である。
【図4】本発明の実施例5で得られたシリカ含有繊維の写真を示す。
【図5】本発明の実施例6で得られたシリカ含有繊維の写真を示す。
【図6】本発明の実施例7で得られたシリカ含有繊維の写真を示す。
【図7】本発明の実施例8で得られたシリカ含有繊維の平均繊維径と、添加した(e)成分のNaClの濃度との関係を表わすグラフを示す。
【符号の説明】
【0053】
1 エアポンプ
2 バイアル
3 油浴
4 スターラ
5 フラスコ
6 冷却管
7 テトラエトキシシランの縮重合体を溶解させた混合溶媒
8 容器
9 ゾル状紡糸液
10 回転式の電荷付与電極
11 ゾル状紡糸液
12 対向電極
13 紡糸表面
14 ゾル状紡糸液
15 シート
16 ベルトコンベア

【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の成分(a)、(b)及び(c)を含む混合液を、粘性ゾル化させ、得られるゾル状紡糸液を、電荷付与電極と対向電極との間の電位差によって形成された電界中で静電噴霧法により紡糸する、シリカ含有繊維の紡糸方法:
(a)テトラアルコキシシラン及び/又はその縮合物;
(b)以下の式で表わされるアミノ基を含むシラン化合物
4−n−Si−(OR’)
(式中、Rはアミノ基含有の有機基を表わし、R’はメチル基、エチル基またはプロピル基を表わし、nは1〜3から選択される整数を表わす);及び
(c)ホウ酸。
【請求項2】
前記混合液には、さらに、(d)有機酸を含む、請求項1記載のシリカ含有繊維の紡糸方法。
【請求項3】
前記混合液には、さらに、(e)電解質を含む、請求項1又は2記載のシリカ含有繊維の紡糸方法。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか1項に記載の紡糸方法によりシリカ含有繊維を紡糸し、前記対向電極面上で前記シリカ含有繊維を堆積させる、シリカ含有繊維からなる不織布の製造方法。
【請求項5】
前記対向電極面に多孔質シート材を張り合わせ、請求項1〜3のいずれか1項に記載の紡糸方法によりシリカ含有繊維を紡糸し、前記シート材に前記シリカ含有繊維を堆積させる、シート材とシリカ含有繊維不織布からなる複合シート材の製造方法。
【請求項6】
請求項4により得られた不織布または請求項5により得られた複合シート材を含むフィルター。
【請求項7】
請求項4により不織布を得て、さらに該不織布に樹脂を含浸する積層体の製造方法。
【請求項8】
請求項5により複合シート材を得て、さらに該複合シート材に樹脂を含浸する積層体の製造方法。

【図7】
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【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2009−191408(P2009−191408A)
【公開日】平成21年8月27日(2009.8.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−34245(P2008−34245)
【出願日】平成20年2月15日(2008.2.15)
【出願人】(000003975)日東紡績株式会社 (251)
【出願人】(304021417)国立大学法人東京工業大学 (1,821)
【Fターム(参考)】