説明

タイダウンフック構造

【課題】 車両前後方向への荷重だけでなく、車両左右方向への荷重にも耐え得るタイダウンフック構造の提供。
【解決手段】 フック穴41aを有するタイダウンフック本体部41の上部に二股状に分かれた分割片42、43が延設され、両分割片42、43の二股状基部に略三角形状の開放断面部44を残して該両分割片42、43の上端部の固定部42b、43bをサイドメンバ1の左右両側壁11、11の外面に3本の締結ボルト5a、5b、5cで締結固定した構成とすることで、略三角形状の開放断面部44における左右両片42a、43aが左右方向への変形を互いに支え合う形にする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両輸送時に車両固定用ワイヤを連結するタイダウンフック構造に関する。
【背景技術】
【0002】
従来のタイダウンフック構造としては、垂直な板状の第1フック部と該第1フック部の下半側面に溶接固定された第2フック部とから構成され、該第2フック部と第1フック部が溶接固定された本体部分の下端にはフック穴が形成され、第2フック部はその上端縁部から外向きに略水平に(又は「直角に」)折曲された水平固定部を有し、この水平固定部をサイドメンバの底面にボルト締めすると共に、第1フック部における水平固定部より上方の垂直固定部をサイドメンバの側面にボルト締めした状態で取り付けるようにした構造のものが知られている(例えば、特許文献1参照)。
【特許文献1】特開2003−160068号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、上述の従来の技術にあっては、上述のように、フック穴が形成されたタイダウンフックの本体部分は車両前後方向に幅を有する板状であるため、車両前後方向の荷重に対しては強く形成できて耐え得るが、車両左右方向への荷重に対しては比較的弱くなるという問題がある。
【0004】
即ち、タイダウンフックのフック穴に通したワイヤの両端をトレーラの荷台フックに連結して締め上げた車両の固定状態では、輸送中に車両が横揺れすることでタイダウンフックの本体部分にワイヤを介して大きな左右方向荷重が作用する。そして、この左右方向荷重が第2フック部の上端縁部から外向きに略水平に(又は「直角に」)折曲された水平固定部の折曲部分に曲げ荷重として加えられるためである。
【0005】
本発明は、上述のような従来の問題点に着目して成されたもので、車両前後方向への荷重だけでなく、車両左右方向への荷重にも耐え得るタイダウンフック構造を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上述の目的を達成するために、本発明のタイダウンフック構造は、タイダウンフック本体部の上部に二股状に分かれた分割片が延設され、該両分割片の二股状基部に略三角形状の開放断面部を残して該両分割片の上端部をサイドメンバの左右両側壁外面に固定したことを特徴とする手段とした。
【発明の効果】
【0007】
本発明に係るタイダウンフック構造では、上述のように、該両分割片の二股状基部に略三角形状の開放断面部を残して該両分割片の上端部をサイドメンバの左右両側壁外面に固定した構成とすることで、略三角形状の開放断面部における両分割片が左右方向への変形を互いに支え合う形になる。
【0008】
従って、車両前後方向への荷重だけでなく、車両左右方向への荷重にも耐えることができるようになる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下に、本発明の実施例を図面に基づいて説明する。
【実施例1】
【0010】
図1は実施例1のタイダウンフックのサイドメンバへの取付状態を示す車両後方からの斜視図、図2は図1のS2−S2線における拡大縦断面図、図3は図1のS3―S3線における拡大縦断面図、図4は図1の分解斜視図、図5は実施例1のタイダウンフック構造を示す車両後方からの斜視図、図6は実施例1のタイダウンフック構造を示す車両前方からの斜視図である。
【0011】
この実施例1のタイダウンフック構造は、図4に示すように、サイドメンバ1と、レインフォース2と、クロージングプレート3と、タイダウンフック4と、締付ボルト5a、5b、5cと、カラー6と、カラー用ブラケット7と、前側レインフォース8と、後側レインフォース9と、を備えている。
【0012】
上記レインフォース2は、図2、3に示すように、サイドメンバ1の内面に沿って装着固定されるもので、サイドメンバ1と同様に上面開口の略コ字状断面に形成されている。
【0013】
上記クロージングプレート3は、レインフォース2の車両後端開口部を塞ぐ状態で取り付けることでサイドメンバ1のねじれを防ぐプレートである。
このクロージングプレート3は、図4に示すように、レインフォース2の後端開口縁部の3辺からそれぞれ内向きに折曲形成された3つの固定片21と、サイドメンバ1における左右両側壁11、11の後端開口縁部からそれぞれ外向きに折曲形成された固定片12、12に対しそれぞれスポット溶接によって固定されている。
【0014】
上記タイダウンフック4は、車両輸送時に車両固定用ワイヤを連結する部材であり、図1に示すように、3本の締付ボルト5a、5b、5cでサイドメンバ1に締結固定されるようになっている。
【0015】
このタイダウンフック4は、図2、5、6に示すように、左右2枚の板材の下端側が接合一体化されたタイダウンフック本体部41にフック穴41aが形成されて、タイダウンフック本体部41の上部は二股状に分かれた左右の分割片42、43が延設されている。
【0016】
この分割片42、43の二股状基部に略三角形状の開放断面部44を残して該両分割片42、43の上端部がサイドメンバ1の左右両側壁11、11の外面に沿うように略垂直な固定部42b、43bに形成されている。
【0017】
そして、この実施例1では、図2に示すように、開放断面部44を構成する両分割片42、43部分の一方(右側)の片43aがタイダウンフック本体部41から一方(右側)の分割片43の上端部である略垂直固定部43bまで連続した略垂直に形成されている。また、他方(左側)の片42aが一方(右側)の片43aから離間する方向へ向けて傾斜状に形成されている。これにより、開放断面部44とタイダウン本体部41が略逆ト字状に形成されている。
【0018】
図4に示すように、上記サイドメンバ1の左右両側壁11、11と、レインフォース2の左右両側壁22、22と、タイダウンフック4の左右両固定部42b、43bには、3本の締結ボルト5a、5b、5cを挿通するための挿通孔11a、11a、22a、22a、42c、43cが3箇所に形成されている。
【0019】
3本の締結ボルト5a、5b、5cは、図1、3、4に示すように、車両前後方向に並んで配置されるが、中央の締結ボルト5bは両端の締結ボルト5a、5cより低い位置で締結されるように、3箇所の挿通孔11a、11a、22a、22a、42c、43cの位置が設定されている。
また、フック穴41aと車両前後方向においてほぼ一致するように車両最後端の締結ボルト5cが配置されている。
【0020】
上記カラー6は、レインフォース2の左右両側壁22、22間に介装されるもので、3箇所の挿通孔11a、11a、22a、22a、42c、43cと同心円状にそれぞれ配置される。
【0021】
上記カラー用ブラケット7は、3つのカラー6を上記所定の位置に位置決めした状態でレインフォース2内に組み付けるためのブラケットである。
このカラー用ブラケット7は、図4に示すように、上面開口の略コ字状断面に形成され、その左右両側壁71、71の上縁部に形成された半円状切欠部71a、71aに3つのカラー6がそれぞれ装着固定される。
【0022】
そして、底板72の車両前後端部72a、72aをレインフォース2の底板23にスポット溶接することにより、図1に示すように、位置決め固定されている。
【0023】
なお、タイダウンフック4の左側の固定部42bにおける挿通孔42cの外側(車両内側)には、締結ボルト5a、5b、5cを締結するためのウエルドナット45がそれぞれ固定されている。
【0024】
上記前側レインフォース8及び後側レインフォース9は、図5、6に示すように、開放断面部44における両分割片42、43を車両前後両端縁部においてつなぐ役目をなす。
そして、図3、5に示すように、後側のレインフォース9の上端にはサイドメンバ1における底板13の裏面(外面)に当接する支持フランジ部91が車両前方へ向けて折曲延設されている。
【0025】
次に、実施例1の作用・効果について説明する。
【0026】
この実施例1のタイダウンフック構造では、上述のように構成されるため、図1〜3に示すように、車両右側から3箇所の挿通孔11a、11a、22a、22a、42c、43c及びカラー6内に締結ボルト5a、5b、5cを挿通し、ウエルドナット45に対し螺合して締め付けることにより、カラー6の両端面とウエルドナット45及び締結ボルト5a、5b、5cの頭部との間にレインフォース2の左右側壁22、22とサイドメンバ1の左右側壁11、11と、タイダウンフック4の左右固定部42b、43bが締め付け挟持された状態となり、これにより、サイドメンバ1に対しタイダウンフック4が強固に取り付けられた状態になる。
【0027】
以上詳細に説明してきたように、この実施例1のタイダウンフック構造では、両分割片42、43の二股状基部に略三角形状の開放断面部44を残して該両分割片42、43の上端部の固定部42b、43bをサイドメンバ1の左右両側壁11、11の外面に3本の締結ボルト5a、5b、5cで締結固定した構成とすることで、略三角形状の開放断面部44における左右両片42a、43aが左右方向への変形を互いに支え合う形になる。
【0028】
従って、車両前後方向への荷重だけでなく、車両左右方向への荷重にも耐えることができるようになるという効果が得られる。
【0029】
また、開放断面部44を構成する両分割片42、43部分の一方(右側)の片43aがタイダウンフック本体部41から一方(右側)の分割片43の上端部である略垂直固定部43bまで連続した略垂直に形成され、他方(左側)の片42aが一方(右側)の片43aから離間する方向に向けて傾斜状に形成されることで、開放断面部44とタイダウン本体部41が略逆ト字状に形成されている構成とすることで、略垂直に形成された一方(右側)の分割片43により、上下方向の荷重に確実に耐え得ることができる。
【0030】
また、サイドメンバ1の左右側壁11、11の内側に内装したレインフォース2の左右側壁22、22間にカラー6を介装させ、サイドメンバ1の両側壁11、11、レインフォース2の左右側壁22、22及びカラー6を貫通する締結ボルト5a、5b、5cで両分割片42、43の上端部の固定部42b、43bをサイドメンバ1の左右両側壁11、11外面に一体に締結固定した構成としたことで、タイダウンフック4における取り付け部の剛性を高めることができるようになる。
【0031】
また、カラー6を車両前後方向に複数介装させ、サイドメンバ1の両側壁11、11、レインフォース2の左右側壁22、22及びカラー6を貫通する3本の締結ボルト5a、5b、5cで両分割片42、43の上端部の固定部42b、43bをサイドメンバ1の左右両側壁11、11外面に一体に締結固定した構成としたことで、車両前後方向の荷重に対する回転モーメントを低減させ、耐久性を高めることができる。
【0032】
また、開放断面部44における両分割片42、43の上端部の固定部42b、43bを車両前後両端縁部においてつなぐレインフォース8、9が設けられている構成としたことで、開放断面部44の形状変形を防止して車両左右方向における荷重に対する耐久性をさらに高めることができるようになる。
【0033】
また、車両後側のレインフォース9の上端にサイドメンバ1の裏面(外面)に当接する支持フランジ部91が折曲延設されている構成としたことで、車両後方への荷重に対し、支持フランジ部91がサイドメンバ1の裏面(外面)に当接してタイダウンフック4が回転するのを防止する効果が得られる。
【0034】
次に、他の実施例について説明する。この他の実施例の説明にあたっては、前記実施例1と同様の構成部分については図示を省略し、もしくは同一の符号を付けてその説明を省略し、相違点についてのみ説明する。
【実施例2】
【0035】
この実施例2は、前記実施例1におけるタイダウンフック構造の変形例を示すものであり、図7の断面図に示すように、このタイダウンフック4は、左右2枚の板材の下端側が接合一体化されたタイダウンフック本体部41にフック穴41aが形成されて、タイダウンフック本体部41の上部は二股状に分かれた分割片42、43が延設されている。
【0036】
そして、この分割片42、43の二股状基部に略三角形状の開放断面部44を残して該両分割片42、43の上端部がサイドメンバ1の左右両側壁11、11の外面に沿うように略垂直な固定部42b、43bに形成されている点は上記実施例1と同様である。
【0037】
だだ、この実施例2では、開放断面部44を構成する両分割片42、43部分の双方の片42a、43aがいずれも互いに離間する方向に向けて傾斜状に形成されている。即ち、一方(右側)の片43a及び他方(左側)の片42aの双方の片がいずれも難いに離間する方向に向けて傾斜状に形成され、開放断面部44とタイダウン本体部41が略Y字状に形成されている点が上記実施例1とは相違したものである。
【0038】
従って、この実施例2では、前記実施例1とほぼ同様の効果が得られる他、車両左右方向荷重に対する耐久性を、左右均等にすることができる。
【0039】
以上、本発明の実施例を図面に基づき説明してきたが、本発明は上述の実施例に限られるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲の設計変更等があっても、本発明に含まれる。
【0040】
例えば、実施例では、サイドメンバに対しタイダウンフックを締結ボルトで締結固定したが、溶接等で固定するようにしてもよい。また、締結ボルトの本数は任意である。
【図面の簡単な説明】
【0041】
【図1】実施例1のタイダウンフックのサイドメンバへの取付状態を示す車両後方からの斜視図である。
【図2】図1のS2−S2線における拡大縦断面図である。
【図3】図1のS3―S3線における拡大縦断面図である。
【図4】図1の分解斜視図である。
【図5】実施例1のタイダウンフック構造を示す車両後方からの斜視図である。
【図6】実施例1のタイダウンフック構造を示す車両前方からの斜視図である。
【図7】実施例2のタイダウンフックのサイドメンバへの取り付け状態を示す縦断面図である。
【符号の説明】
【0042】
1 サイドメンバ
11 左右側壁
11a 挿通孔
12 固定片
13 底板
2 レインフォース
21 固定片
22 側壁
22a 挿通孔
23 底板
3 クロージングプレート
4 タイダウンフック
41 タイダウンフック本体部
41a フック穴
42 左側の分割片
42a 他方(左側)の片
42b 固定部
42c 挿通孔
43 一方(右側)の分割片
43a 一方(右側)の片
43b 固定部
43c 挿通孔
44 開放断面部
45 ウエルドナット
5a 締結ボルト
5b 締結ボルト
5c 締結ボルト
6 カラー
7 カラー用ブラケット
71 側壁
71a 半円状切欠部
72 底板
72a 底板の車両前後端部
8 前側レインフォース
9 後側レインフォース
91 支持フランジ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
フック穴を有するタイダウンフック本体部の上部に二股状に分かれた分割片が延設され、
該両分割片の二股状基部に略三角形状の開放断面部を残して該両分割片の上端部をサイドメンバの左右両側壁外面に固定したことを特徴とするタイダウンフック構造。
【請求項2】
前記開放断面部を構成する両分割片部分の一方の片が前記タイダウンフック本体部から連続した略垂直で、他方の片が一方の片から離間する方向に向けて傾斜状に形成され、
前記開放断面部とタイダウン本体部が略逆ト字状に形成されていることを特徴とする請求項1に記載のタイダウンフック構造。
【請求項3】
前記開放断面部を構成する両分割片部分の双方の片がいずれも互いに離間する方向に向けて傾斜状に形成され、車両外側の片が車両外側に向けて傾斜状に形成され、
前記開放断面部とタイダウン本体部が略Y字状に形成されていることを特徴とする請求項1に記載のタイダウンフック構造。
【請求項4】
前記サイドメンバの左右両側壁間にカラーを介装させ、
前記サイドメンバの両側壁及び前記カラーを貫通するボルトで前記両分割片の上端部を前記サイドメンバの左右両側壁外面に一体に締結固定したことを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載のタイダウンフック構造。
【請求項5】
前記カラーを車両前後方向に複数介装させ、
前記サイドメンバの両側壁及び前記複数のカラーをそれぞれ貫通する複数のボルトで前記両分割片の上端部を前記サイドメンバの左右両側壁外面に一体に締結固定したことを特徴とする請求項4に記載のタイダウンフック構造。
【請求項6】
前記開放断面部分における前記両分割片を車両前後両端縁部においてつなぐレインフォースが設けられていることを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項または2に記載のタイダウンフック構造。
【請求項7】
前記車両後側のレインフォースの上端に前記サイドメンバの裏面に当接する支持フランジ部が延設されていることを特徴とする請求項6に記載のタイダウンフック構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2010−83419(P2010−83419A)
【公開日】平成22年4月15日(2010.4.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−257041(P2008−257041)
【出願日】平成20年10月2日(2008.10.2)
【出願人】(000003997)日産自動車株式会社 (16,386)
【Fターム(参考)】