説明

タイヤトレッド用ゴム組成物およびそれからなる空気入りタイヤ

【課題】高温条件下におけるグリップ性能を向上させたタイヤを製造することができるタイヤトレッド用ゴム組成物およびそれからなる空気入りタイヤを提供する。
【解決手段】ジエン系ゴム成分、塩基性老化防止剤、および金属化合物からなるタイヤトレッド用ゴム組成物において、該金属化合物が、(1)有機カルボン酸金属塩、または(2)無機金属塩および酸からなる金属化合物であり、該塩基性老化防止剤を、ジエンゴム成分100重量部に対して5重量部より多く含有するタイヤトレッド用ゴム組成物、およびそれからなるタイヤトレッドを有する空気入りタイヤ。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、タイヤトレッド用ゴム組成物およびそれからなる空気入りタイヤに関する。
【背景技術】
【0002】
空気入りタイヤのトレッド部は車の走行とともに発熱が生じ、高温条件下となることでグリップ性能が低下するという問題があった。
【0003】
従来、それらの問題点を解決するために、ガラス転移温度の高いレジンをタイヤトレッド用ゴム組成物に配合すること、また、イミダゾール化合物をタイヤトレッド用ゴム組成物に配合することがなされてきたが、高温条件下におけるグリップ性能を充分に向上させることができなかった。
【0004】
特許文献1には、メタクリル酸マグネシウムまたはメタクリル酸亜鉛などの有機金属化合物を配合したタイヤ用ゴム組成物が開示されているが、該有機金属化合物の混練りの際にメタクリル酸が遊離することで架橋阻害が生じるため、高温条件下におけるグリップ性能を向上させることができないという問題があった。
【0005】
【特許文献1】特開2003−213045号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、高温条件下におけるグリップ性能を向上させたタイヤを製造することができるタイヤトレッド用ゴム組成物およびそれからなる空気入りタイヤを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、ジエン系ゴム成分、塩基性老化防止剤、および金属化合物からなるタイヤトレッド用ゴム組成物において、該金属化合物が、(1)有機カルボン酸金属塩、または(2)無機金属塩および酸からなる金属化合物であり、該塩基性老化防止剤を、ジエンゴム成分100重量部に対して5重量部より多く含有するタイヤトレッド用ゴム組成物に関する。
【0008】
有機カルボン酸金属塩(1)は、多重結合を含まないことが好ましい。
【0009】
また、本発明は、タイヤトレッド用ゴム組成物からなるタイヤトレッドを有する空気入りタイヤに関する。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、特定の金属化合物、および塩基性老化防止剤を特定量混練りすることにより、混練りの際に生じる酸に起因する架橋阻害を抑制し、さらに、混練りにより得られたゴム組成物をタイヤトレッドとして製造した空気入りタイヤは、特に高温環境において優れたグリップ性能を示すことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
本発明のタイヤトレッド用ゴム組成物は、ジエン系ゴム成分、金属化合物、および塩基性老化防止剤からなる。
【0012】
ジエン系ゴムとしては、天然ゴム(NR)、スチレンブタジエンゴム(SBR)、ブタジエンゴム(BR)、イソプレンゴム(IR)、ブチルゴム、アクリロニトリルブタジエンゴム(NBR)、エチレンプロピレンゴム(EPDM)、クロロプレンゴム(CR)などがあげられる。なかでもタイヤトレッド用ゴムとして充分な強度を有し、優れた耐摩耗性を示すことからSBR、NR、BRを用いることが好ましく、SBRを用いることがより好ましい。
【0013】
金属化合物は、(1)有機カルボン酸金属塩、または(2)無機金属塩および酸からなる金属化合物(以下、金属化合物(2))のいずれかである。
【0014】
これらの金属化合物はイオン結合を含む。このように、水素結合(窒素化合物と酸の結合)より結合力の強いイオン結合を含むことにより、より高い温度や大きな歪みによりロスを生み出す(tanDを発生させる)ことが可能であるため、高温でのグリップ性能を向上させることができる。さらに、金属化合物は、ガラス転移温度の変化が小さいので、脆化破壊の危険性が小さくなる。
【0015】
有機カルボン酸金属塩(1)としては、酢酸塩、アクリル酸塩、メタクリル酸塩、プロピオン酸塩などがあげられる。なかでも、アクリル酸塩、メタクリル酸塩などは二重結合を含むため、多重結合を含む有機カルボン酸金属塩に、また、酢酸塩、プロピオン酸塩などは二重結合などの多重結合を含まないため、多重結合を含まない有機カルボン酸金属塩に該当する。
【0016】
多重結合を含む有機カルボン酸金属塩のなかでも、高温におけるtanDを向上させるという効果が得られることから、メタクリル酸塩であることが好ましく、メタクリル酸マグネシウムおよびメタクリル酸亜鉛からなる群から選ばれる1種以上であることが好ましい。
【0017】
また、多重結合を含まない有機カルボン酸金属塩のなかでも、高温におけるtanDを向上させるという効果が得られることから酢酸金属塩が好ましく、酢酸マグネシウムがより好ましい。
【0018】
有機カルボン酸金属塩(1)としては、多重結合を含む有機カルボン酸金属塩よりも、多重結合を含まない有機カルボン酸金属塩であることが好ましい。多重結合を含まないことにより、架橋のばらつきを抑え、架橋密度を向上させることができる。
【0019】
有機カルボン酸金属塩(1)の含有量は、ジエン系ゴム成分100重量部に対して0.5重量部以上であることが好ましく、2重量部以上であることがより好ましい。また、有機カルボン酸金属塩(1)の含有量は、ジエン系ゴム成分100重量部に対して20重量部以下であることが好ましく、10重量部以下であることがより好ましい。有機カルボン酸金属塩(1)の含有量が20重量部をこえると、粘着が増大する傾向がある。
【0020】
金属化合物(2)は無機金属塩および酸からなる。無機金属塩としては、酸化マグネシウム、酸化カルシウムなどがあげられる。また、酸としては、水酸基、カルボキシル基などを含む有機化合物および一般的な酸とすることができ、具体的には、酢酸、プロピオン酸などがあげられる。
【0021】
金属化合物(2)において、無機金属塩は酸を発生しないように多く配合されるが、酸と無機金属塩の含有比を、電荷が等量になるように配合することもできる。例えば、酢酸と酸化マグネシウムの含有比はモル比で2:1とすることができる。
【0022】
無機金属塩の含有量は、ジエン系ゴム成分100重量部に対して0.2重量部以上であることが好ましく、0.7重量部以上であることがより好ましい。また、無機金属塩の含有量は、ジエン系ゴム成分100重量部に対して7.5重量部以下であることが好ましく、3.5重量部以下であることがより好ましい。無機金属塩の含有量が7.5重量部をこえると、粘着が増大する傾向がある。
【0023】
酸の含有量は、ジエン系ゴム成分100重量部に対して0.5重量部以上であることが好ましく、2重量部以上であることがより好ましい。また、酸の含有量は、ジエン系ゴム成分100重量部に対して20重量部以下であることが好ましく、10重量部以下であることがより好ましい。
【0024】
塩基性老化防止剤とは、塩基性を示す老化防止剤をいう。塩基性老化防止剤は、混練りの際に有機金属化合物から遊離した有機酸に起因して生じる高い酸性度を中和させるために配合される。
【0025】
塩基性老化防止剤としては、芳香族第2級アミン系、アミン−ケトン系、ベンズイミダゾール系、チオウレア系などのものがあげられる。
【0026】
芳香族第2級アミン系としては、N−フェニル−N’−(1,3−ジメチルブチル)−p−フェニレンジアミン、フェニル−α−ナフチルアミン、4,4’−ビス(α,α−ジメチルベンジル)ジフェニルアミン、アルキル化ジフェニルアミン、(p−トルエンスルフォニルアミド)ジフェニルアミンなどがあげられる。
【0027】
アミン−ケトン系としては、2,2,4−トリメチル−1,2−ジヒドロキノリン重合体、6−エトキシ−1,2−ジヒドロ−2,2,4−トリメチルキノリン、アニリンとケトンの縮合物、ジフェニルアミンとアセトンの縮合物などがあげられる。
【0028】
ベンズイミダゾール系としては、2−メルカプトベンズイミダゾール、2−メルカプトメチルベンズイミダゾール、2−メルカプトベンズイミダゾール亜鉛塩、2−メルカプトメチルベンズイミダゾール亜鉛塩などがあげられる。
【0029】
チオウレア系としては、1,3−ビス(ジメチルアミノプロピル)チオウレア、トリブチルチオウレアなどがあげられる。
【0030】
これらの塩基性老化防止剤は、それぞれ単独または組み合わせて使用することができるが、とくに芳香族第2級アミン系およびアミン−ケトン系を組み合わせて使用することが好ましく、とくにN−フェニル−N’−(1,3−ジメチルブチル)−p−フェニレンジアミンおよび2,2,4−トリメチル−1,2−ジヒドロキノリン重合体を組み合わせて使用することが好ましい。
【0031】
塩基性老化防止剤の含有量は、ジエン系ゴム成分100重量部に対して5重量部より大きく、好ましくは7重量部より大きい。塩基性老化防止剤の含有量が5重量部以下では、高い酸性度を充分中和することができず、架橋阻害が生じる。また、塩基性老化防止剤の含有量は、ジエン系ゴム成分100重量部に対して20重量部以下、好ましくは10重量部以下である。
【0032】
本発明のタイヤトレッド用ゴム組成物は、前記ジエン系ゴム成分、金属化合物および塩基性老化防止剤以外にも、カーボンブラックおよびシリカなどの補強剤、アロマオイルなどの軟化剤、ステアリン酸、酸化亜鉛、硫黄などの加硫剤、加硫促進剤など、一般的にタイヤ工業において使用される添加剤を適宜配合することができる。
【0033】
通常のタイヤ用ゴム組成物は、加硫剤および加硫促進剤以外の薬品を混練りする第一の工程、ならびに第一の工程により得られた混練り物に加硫剤および加硫促進剤をさらに添加して混練りする第二の工程からなる2つの混練り工程を用いて製造されることが一般的である。また、本発明のタイヤトレッド用ゴム組成物は、以下の3つの混練り工程により製造してもよい。
【0034】
第一の工程において、ジエン系ゴム、補強剤、塩基性老化防止剤、ステアリン酸、酸化亜鉛などを混練する。第二の工程において、軟化剤、金属化合物、塩基性老化防止剤などを混練する。第三の工程において、加硫剤、加硫促進剤などを混練する。
【0035】
このように軟化剤、金属化合物および塩基性老化防止剤の混練りを第二の工程とすることにより、金属化合物から遊離した酸を中和するという効果を防ぐという効果が得られるが、本発明においてはとくに限定しない。
【0036】
本発明の空気入りタイヤは、タイヤトレッド用ゴム組成物をタイヤのトレッドに用いて、通常の方法により製造される。すなわち、前記ゴム組成物を未加硫の段階でタイヤのトレッド部の形状に押し出し加工し、タイヤ成形機上で通常の方法により貼り合わせて未加硫タイヤを成形する。該未加硫タイヤを加硫機中で加熱・加圧して空気入りタイヤを得る。
【実施例】
【0037】
実施例をもとに本発明を詳細に説明するが、本発明はこれらのみに限定されるものではない。
【0038】
実施例において使用した各種薬品について、詳細に説明する。
SBR:旭化成(株)製のタフデン4350(結合スチレン量39%、ゴム固形分100重量部に対してオイル分50重量部含有)
カーボンブラック:三菱化学(株)製のダイヤブラックA(N110)
老化防止剤6C:フレキシス社製のサントフレックス13(N−フェニル−N’−(1,3−ジメチルブチル)−p−フェニレンジアミン)
老化防止剤224:フレキシス社製のノクラック224(2,2,4−トリメチル−1,2−ジヒドロキノリン重合体)
ステアリン酸:日本油脂(株)製のステアリン酸
酸化亜鉛:三井金属鉱業(株)製の酸化亜鉛2種
アロマオイル:(株)ジャパンエナジー製のプロセスX−260
メタクリル酸マグネシウム:三新化学工業(株)製のSK−13
酢酸マグネシウム:キシダ化学製
酢酸
酸化マグネシウム
硫黄:鶴見化学工業(株)製の粉末硫黄
加硫促進剤:大内新興化学工業(株)製のノクセラーNS
【0039】
実施例1〜5および比較例1〜4
(実施例1〜2および比較例1〜3のゴムサンプルの製造方法)
表1に示す配合量にしたがって、BP型バンバリーにて、アロマオイル、メタクリル酸マグネシウム、硫黄および加硫促進剤以外の各種薬品を3分間ベース練りし、さらにアロマオイル、メタクリル酸マグネシウムおよび老化防止剤6Cを添加し、4分間ベース練りして150℃にて排出し、混練り物を得た。前記混練り物に硫黄、加硫促進剤を加え、オープンロールで約5分間混練りし、得られたゴム組成物でシートを作製し、所定のモールドで170℃において12分間加硫することにより、実施例1〜2および比較例1〜3のゴムサンプルを製造した。なお、実施例2および比較例2については、再ロールをおこなった。ここで再ロールとは、バンバリーで混練したゴムをロールにかけ、熱入れをおこない、刺激を与えることで、酸を遊離させることをいう。
【0040】
(実施例3〜5および比較例4のゴムサンプルの製造方法)
表2に示す配合量にしたがって、BP型バンバリーにてアロマオイル、メタクリル酸マグネシウム、酢酸マグネシウム、酢酸、酸化マグネシウム、硫黄および加硫促進剤以外の各種薬品を3分間ベース練りし、さらにアロマオイル、メタクリル酸マグネシウム、酢酸マグネシウム、酢酸、酸化マグネシウム、および老化防止剤6Cを添加し3分間ベース練りして150℃にて排出し、混練り物を得た。前記混練り物に硫黄、加硫促進剤を加え、オープンロールで約5分間混練りし、得られたゴム組成物でシートを作製し、所定のモールドで170℃において12分間加硫することにより、実施例3〜5および比較例4のゴムサンプルを製造した。
【0041】
得られたゴムサンプルを用いて、以下の試験を行なった。
【0042】
(架橋度(SWELL))
ゴムサンプルをトルエン抽出することによりSWELLを評価した。測定値が大きいほど、架橋のばらつきが大きく好ましくないことを示す。
【0043】
(粘弾性)
(株)岩本製作所製の粘弾性スペクトロメーターを用いて10%初期歪みを与え、100℃で2%の動的歪みを与えたときの粘弾性(複素弾性率E'および損失係数tanD)を測定した。tanDの値が大きいほどグリップが高く、グリップ性能が優れていることを示す。
【0044】
(引張試験)
JIS引張試験法K6251に基づき、ダンベル3号サンプルにて試験を行い、比較例1または比較例4の値を100として、それぞれ指数表示した。M300(300%伸張時応力)が大きいほど耐アブレージョン摩耗性能が向上していることを示す。
【0045】
(実施例1および比較例1〜2のタイヤの製造方法)
表1に示す配合量にしたがって、BP型バンバリーにてアロマオイル、メタクリル酸マグネシウム、硫黄および加硫促進剤以外の各種薬品を3分間ベース練りし、さらにアロマオイル、メタクリル酸マグネシウムおよび老化防止剤6Cを添加し4分間ベース練りして150℃にて排出し、混練り物を得た。前記混練り物に硫黄、加硫促進剤を加え、オープンロールで約5分間混練りし、得られたゴム組成物でシートを作製し、所定の形状に貼り合わせて、実施例1および比較例1〜2の11×7.10−5サイズのカートタイヤを製造した。
【0046】
(実施例3〜5および比較例4のタイヤの製造方法)
表2に示す配合量にしたがって、BP型バンバリーにてアロマオイル、メタクリル酸マグネシウム、酢酸マグネシウム、酢酸、酸化マグネシウム、硫黄および加硫促進剤以外の各種薬品を3分間ベース練りし、さらにアロマオイル、メタクリル酸マグネシウム、酢酸マグネシウム、酢酸、酸化マグネシウム、および老化防止剤6Cを添加し4分間ベース練りして150℃にて排出し、混練り物を得た。前記混練り物に硫黄、加硫促進剤を加え、オープンロールで約5分間混練りし、得られたゴム組成物でシートを作製し、所定の形状に貼り合わせて、実施例3〜5および比較例4の11×7.10−5サイズのカートタイヤを製造した。
【0047】
得られたカートタイヤを車に装着して、以下の実車評価を行なった。
【0048】
(グリップ試験)
カートに前記タイヤを装着し、1周約2kmのコースを8周走行して評価した。比較例1のタイヤのグリップフィーリングを3点とし、5点満点で評価した。初期グリップは1〜4周目、後半グリップは5〜8周目とした。
【0049】
(摩耗外観)
カートに前記タイヤを装着し、1周約2kmのコースを8周走行して評価した。比較例1のタイヤの外観を3点とし、5点満点で相対評価した。
【0050】
各評価結果を表1および表2に示す。
【0051】
【表1】

【0052】
【表2】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
ジエン系ゴム成分、塩基性老化防止剤、および金属化合物からなるタイヤトレッド用ゴム組成物において、
該金属化合物が、(1)有機カルボン酸金属塩、または(2)無機金属塩および酸からなる金属化合物であり、
該塩基性老化防止剤を、ジエンゴム成分100重量部に対して5重量部より多く含有するタイヤトレッド用ゴム組成物。
【請求項2】
有機カルボン酸金属塩(1)が、多重結合を含まないことを特徴とする請求項1記載のタイヤトレッド用ゴム組成物。
【請求項3】
請求項1または2記載のタイヤトレッド用ゴム組成物からなるタイヤトレッドを有する空気入りタイヤ。

【公開番号】特開2006−124423(P2006−124423A)
【公開日】平成18年5月18日(2006.5.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−311017(P2004−311017)
【出願日】平成16年10月26日(2004.10.26)
【出願人】(000183233)住友ゴム工業株式会社 (3,458)
【Fターム(参考)】