説明

タイヤ用ゴム組成物及び空気入りタイヤ

【課題】耐摩耗性を維持しつつ、湿潤路面における制動性(ウェットグリップ性)及び低燃費性(低転がり性)を向上することができるゴム組成物、及び空気入りタイヤを提供する。
【解決手段】スチレンブタジエンゴム(SBR)を70質量%以上含むジエン系ゴム100質量部に対し、補強用充填剤としてのシリカ30〜95質量部と、シリカ配合量の3〜15質量%のシランカップリング剤と、最大発泡温度が200℃以上、発泡開始温度が170℃以下であるバルーン状の発泡性微粒子0.3〜20質量部とを配合してなるゴム組成物である。また、該ゴム組成物からなるトレッドを備えた空気入りタイヤである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、タイヤ用ゴム組成物に関し、より詳細には、例としてタイヤのトレッドに好適に用いることのできるゴム組成物、及び、同ゴム組成物を用いてなる空気入りタイヤに関するものである。特には、タイヤのトレッドに用いることで、耐摩耗性を維持しつつ、湿潤路面における制動性(ウェットグリップ性)及び低燃費性(低発熱性、低転がり性)を改良することができるゴム組成物及び該組成物をトレッドに用いた空気入りタイヤに関する。
【背景技術】
【0002】
自動車の安全性に対する要求は近年ますます高まり、湿潤路面における制動性(ウェットグリップ性)を向上することが強く求められている。一方、自動車の低燃費化の要求も近年ますます高まっている。低燃費性能と制動性とを高度に両立するものが必要とされている。なお、転がり抵抗は、加硫後のゴム組成物の発熱性と関係しているので、低燃費化のためには、一般に、加硫後のゴム組成物のヒステリシスロスを低減すること、すなわち、損失係数(tanδ)を低く抑えることが求められる。
【0003】
かかる要求に応えるため、下記特許文献1には、ガラス転移点が比較的高いスチレンブタジエンゴム(SBR)をゴム成分とするとともに、軟化点が60℃〜100℃の樹脂を配合することが提案されている(例えば0004段落)。また、これにより、「サーキット走行などの厳しい条件下での耐ブローアウト性」(0002段落)を「損なうことなく、高グリップ性能を得られる」(0005段落)としている。
【0004】
一方、下記特許文献2には、「比較的大粒径でかつ表面活性の大きいシリカを用いる」(0008段落)ことが提案されている。また、「シリカの粒子特性として、比表面積が比較的小さいが、ストラクチャーが高く、表面活性が大きいものを使用することにより、シリカが物理的又は化学的にポリマーと結合し、低い転がり抵抗でありながら、耐摩耗性の低下を抑制することができる。また、ポリマーとシリカの結合量が多くなることで、シリカの再凝集を抑制することによるミクロ分散性が向上し、湿潤路面の水膜とシラノール基のOH部との相互作用により、耐摩耗性やウエットグリップ性の低下を抑制しながら、低温性能を向上することができる。」(0020段落)としている。なお、全ての実施例では、ゴム成分100質量部に対してシリカを75質量部配合している。
【0005】
しかし、これらの従来技術は湿潤路面における制動性の改良効果を示すものの、低燃費性、耐摩耗性及び加工性(省コスト性)を含めた総合的な性能において、最近益々厳しくなる市場の要求に対し、必ずしも十分なレベルに達しているとは言えない。
【0006】
一方、特許文献3には、種々のバルーン状発泡微粒子の製造方法が示されている。(メタ)アクリロニトリルモノマー、メタクリレートモノマー、架橋性アクリレートモノマーを共重合させるとともに、ペンタンやオクタンを包摂させることとで、発泡開始温度が170℃前後、最大熱膨張温度が214〜225℃の発泡性中空粒子を得ている。なお、バルーン状発泡微粒子は、一般に、樹脂材料に配合し、軽量化や、断熱性または防音性の付与などの目的で検討されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平10−204216号公報
【特許文献2】特開2003−155384号公報
【特許文献3】特開2007−191690号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、上記従来技術の問題点に鑑みてなされたものであり、耐摩耗性を維持しつつ、湿潤路面における制動性(ウェットグリップ性)及び低燃費性(低転がり性)を向上することができるゴム組成物、及び空気入りタイヤを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は、上記課題に鑑み、様々な物質をゴム組成物中に配合し、鋭意検討していく中で、スチレンブタジエンゴム及びシリカからなるタイヤのトレッドゴムに、熱膨張特性が互いに異なる種々の熱膨張性中空ポリマー粒子を配合して見た。その結果、熱膨張特性が特定の条件を満たすものを用いることで、氷上制動性能を顕著に向上させることができることを見出した。すなわち、トレッドゴムを得るための各加工段階を経た後も、充分な程度の膨張度及び形状を保持するようにすることで、所望の湿潤路面制動性及び低燃費性が得られるとともに、必要な程度の耐久性及び加工性を維持することができた。
【0010】
本発明に係るゴム組成物は、一の好ましい態様において、スチレンブタジエンゴム(SBR)を70質量%以上含むジエン系ゴム100質量部に対し、補強用充填剤としてのシリカ30〜95質量部と、シリカ配合量の3〜15質量%のシランカップリング剤と、最大発泡温度が200℃以上、発泡開始温度が170℃以下であるバルーン状の発泡性微粒子0.3〜20質量部とを配合してなるものである。また、本発明に係る空気入りタイヤは、一の好ましい態様において、かかるゴム組成物からなるトレッドを備えるものである。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、耐摩耗性を維持しつつ、湿潤路面における制動性(ウェットグリップ性)及び低燃費性(低転がり性)を向上することができる。また、部材の軽量化をも実現できる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】実施例及び比較例により得られる湿潤路面制動性と低燃費性との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の実施に関連する事項について詳細に説明する。
【0014】
本発明のゴム組成物において、ゴム成分をなすジエン系ゴムは、スチレンブタジエンゴム(SBR)を主体とする。ジエン系ゴム中のスチレンブタジエンゴム(SBR)の含量は、50質量%以上、好ましくは60質量%以上、より好ましくは70質量%以上、さらに好ましくは80質量%以上である。スチレンブタジエンゴム(SBR)は、溶液重合及び乳化重合のいずれによって製造されたものでも良く、その他の重合方法やスチレン量、ビニル含量などのミクロ構造、分子量、或いは水酸基やアミノ基等の官能基による末端変性の有無などにより制限されることはない。スチレンブタジエンゴム(SBR)は、特に制限されないが、好ましい一実施形態において、結合スチレン量が15〜50質量%、ビニル含量が60%以下であり、特には溶液重合により得られたものである。また、好ましい一実施形態において、スチレンブタジエンゴム(SBR)のガラス転移点(Tg)は、−50〜−10℃の範囲内にある。このようなスチレンブタジエンゴム(SBR)を用いるならば、耐摩耗性を維持しつつ低転がり性(低燃費性)と湿潤路面制動性とをいずれも優れたものとする上で好ましい。また、該一実施形態において、このような特定のスチレンブタジエンゴムが、ジエン系ゴム中に、好ましくは50質量%以上、より好ましくは60質量%以上含まれるのが好ましく、他のスチレンブタジエンゴム、例えばエマルション重合により得られたものを上記の特定のスチレンブタジエンゴムとともに配合することができる。
【0015】
ゴム成分をなすジエン系ゴムには、スチレンブタジエンゴム(SBR)とともに、例えば、天然ゴム(NR)、イソプレンゴム(IR)、ブタジエンゴム(BR)、ススチレン−イソプレン共重合体ゴム、ブタジエン−イソプレン共重合体ゴム、スチレン−イソプレン−ブタジエン共重合体ゴムなど、タイヤトレッド用ゴム組成物において通常使用される各種ジエン系ゴムを配合することができる。このような、SBR以外のジエン系ゴムは、いずれか1種単独、又は2種以上の組み合わせで配合することができる。
【0016】
本発明のゴム組成物には、ジエン系ゴム100質量部に対し、各粒子内に1つの空洞を有する熱膨張性微粒子、すなわち、バルーン状の発泡微粒子が配合される。本発明における発泡微粒子は、熱軟化性の樹脂からなる殻(シェル)と、この殻の中に封入されて加熱時に内部からの膨張圧を供給する膨張剤とからなる。本発明で用いる発泡微粒子は、発泡開始温度が170℃以下、好ましくは150〜170℃、より好ましくは160〜170℃であり、最大熱膨張温度は、好ましくは200℃以上、より好ましくは200〜240℃、さらに好ましくは210〜230℃である。発泡開始温度及び最大熱膨張温度の測定は、熱機械分析装置(TMA;例えばTA instruments社製TMA2940)を用い、例えば0.1Nの加重を加えつつ5℃/分の昇温速度で80〜250℃にわたって測定を行うことができる。具体的には、例えば、試料25μgを直径7mm、深さ1mmのアルミ製容器に入れ、上から0.1Nの力を加えた状態で、5℃/minの昇温速度で80℃から250℃まで加熱し、測定端子の垂直方向における変位を測定し、変位が上がり始める温度を発泡開始温度、その変位の最大値を最大変位量とし、最大変位量における温度を最大発泡温度とする。
【0017】
本発明における発泡微粒子は、好ましい実施形態において、タイヤトレッド用ゴム組成物に、ジエン系ゴム100質量部(ゴム組成物全体では、約250質量部)に対し5質量部(ゴム組成物全体に対しては約2質量部)となるように添加した場合に、加硫後のゴムにおける後述の発泡率(面積ベースの空隙率)が10〜60%、好ましくは15〜50%、さらに好ましくは20〜40%となるものである。すなわち、混練及び加硫成形の際の加圧条件下でも、殻(シェル)をなす樹脂の6倍以上、好ましくは10〜30倍の空隙を生成し、このような膨張状態を維持できるものである。また、本発明における発泡微粒子は、加硫後のゴム部材の貯蔵弾性率を、添加しない場合に比べて、例えば10〜40%増加させるものである。本発明における発泡微粒子は、殻(シェル)の軟化点以下の温度でガス状をなす揮発性の膨張剤が殻(シェル)内に封入されたものである。好ましい実施形態において、膨張剤として、炭素数3〜8の直鎖状または分岐状の脂肪族または脂環族炭化水素といった低沸点の炭化水素が殻(シェル)内に封入される。また、殻(シェル)をなす熱軟化性樹脂は、好ましい実施形態において、部分的に多官能性モノマーによる架橋、及び、アイオノマー架橋を有している。多官能性モノマーによる架橋点は、特には200℃以上に加熱された条件において、膨張剤としてのガスの散逸を防止することで、最大膨張状態を維持するようにするとともに、最大膨張状態に達するまでの膨張を徐々に行わせる役割を果たすと考えられる。一方、アイオノマー架橋は、発泡開始温度を適宜に高めて上記の温度範囲とするとともに、発泡開始温度以上の領域での膨張抵抗性をも高めることにより昇温に伴って徐々に膨張が行われるようにするものと考えられる。
【0018】
本発明で用いる発泡微粒子の殻(シェル)をなす熱軟化性樹脂は、好ましい実施形態において、原料となるモノマー成分が、60質量%以上のニトリル系モノマーと、0.1〜10質量%の金属カチオンと、1〜20質量%のカルボキシル基を有する不飽和重合性モノマーと、0.1〜5質量%の多官能性モノマーとを含む。また、発泡微粒子の殻(シェル)をなす熱軟化性樹脂は、好ましくは、ニトリル系モノマーに由来するセグメントと、カルボキシレート残基を除いた炭素数が3〜8のカルボキシレート基含有不飽和重合性モノマーに由来するセグメントとからなる。また、好ましい一実施形態において、金属カチオンとして2〜3価のものを用いることができる。本発明で用いる発泡微粒子の製造は、例えば、次のようにして行うことができる。まず、金属カチオンを添加する前の上記のモノマー成分に重合開始剤を添加して均一に混合する。次いで、熱膨張剤としての上記炭化水素を加えて混合した後、上記の金属カチオン及び分散剤を含む水系分散媒体を加えて攪拌しつつ加熱し重合を行う。上記のニトリル系モノマーは、好ましい実施形態において、アクリロニトリル、メタクリロニトリル、またはこれらの混合物である。カルボキシル基を有する不飽和重合性モノマーとしては、好ましい実施形態において、アクリル酸(AA)、メタクリル酸(MAA)、イタコン酸などを用いることができ、カルボキシレート残基を除いた炭素数が3〜8のカルボキシレート基含有不飽和重合性モノマーとしては、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、n−ブチル(メタ)アクリレート、イソブチル(メタ)アクリレート、t−ブチル(メタ)アクリレート、シクロヘキシルアクリレート、ベンジルアクリレートなどを用いることができる。すなわち、例えばメチル(メタ)アクリレートを用いることで、カルボキシレート残基を除いた炭素数が3〜8のカルボキシレート基含有不飽和重合性モノマーが、金属カチオンとのアイオノマーを生成するためのカルボキシル基を有する不飽和重合性モノマーの全部または一部をなすことができる。なお、水系分散媒体などに添加しておく金属カチオン種としては、ナトリウム塩、カリウム塩などの1価のものを用いることができる他、カルシウム塩、アルミニウム塩などといった2〜3価の金属カチオンのものを用いることで、架橋性を高め、最大膨張状態を維持するのにさらに有利になるようにすることができる。
【0019】
本発明で用いる発泡微粒子を製造するにあたり、コロイダルシリカや水酸化マグネシウムといった無機微粒子を添加することができ、これらは、水系分散媒体中での分散安定剤の役割をも果たす。一方、好ましい熱膨張安定剤としては、ブタン、シクロブタン、イソブタン、ペンタン、シクロペンタン、ネオペンタン、イソペンタン、ヘキサン、シクロヘキサン、2−メチルペンタン、などを挙げることができる。以上のような製造方法により、球殻状の発泡微粒子であって、所望の発泡開始温度及び最大発泡温度、並びに、加熱状態及び発泡後の所望の強度を有するものを容易に得ることができる。
【0020】
本発明で用いる発泡微粒子の平均粒子径は、発泡前の状態で、5〜100μmであることが好ましく、より好ましくは10〜50μm、更に好ましくは15〜45μmである。また、加硫ゴム製品中に含まれる状態で、10〜150μmであることが好ましく、より好ましくは10〜100μm、更に好ましくは20〜80μmである。平均粒子径がこの範囲よりも大きいと、トレッドから過度に脱落しやすくなるために耐摩耗性が低下する傾向にある。平均粒子径がこの範囲よりも小さいと、氷上制動性能の低下を招く。これは、平均粒子径が過度に小さくなった場合、引っ掻き効果が低下する傾向にあるためと考えられる。なお、本発明において、平均粒子径は、レーザ回折・散乱法により測定される値であり、下記実施例では、光源として赤色半導体レーザ(波長680nm)を用いる島津製作所製のレーザ回折式粒度分布測定装置「SALD−2200」を用いて乾式により測定した。また、加硫ゴム製品中での粒子径は、下記の空隙を求める方法と同一の方法で、加硫ゴムサンプル表面をカラーレーザー顕微鏡(KEYENCE VK-8510)で観察し、画像解析により数平均粒子径を求めることにより得ることができる。
【0021】
本発明のゴム組成物をタイヤのトレッドとして用いる場合に、耐摩耗性及び加工性を維持しつつ湿潤路面制動性及び低燃費性を向上できる理由について、現在のところ、以下のように考えている。発明のように加硫ゴム製品中にてバルーン形状を少なくとも部分的に維持するような耐熱かつ比較的高強度のバルーン状発泡微粒子を用いるならば、充填剤が添加されたSBRからなる比較的高弾性のゴム相の中に、容易に弾性変形なバルーン形状の島相が散在することとなると推測される。なお、これら島相自身は変形時の損失係数が非常に小さいと考えられる。そのため、フィラーのネットワーク構造は、あまり発熱を伴わずに、変形を行うとともに、全体が柔軟であるためにグリップ性が改善されたものと推測される。なお、発泡微粒子は、上記のように比較的高強度であるために、中空であっても磨耗性を増大することがなかったと推測される。また、上記の発泡微粒子は、吸水効果を発揮することにより、さらに湿潤路面制動性を向上させているのではないかと考えられる。
【0022】
なお、本発明のゴム組成物をタイヤのトレッドとして用いる場合に、氷上制動性能もを発揮することが期待される。すなわち、本発明で用いる発泡微粒子が、同一の粒子でもって、引っ掻き効果と吸水効果との両方の役割を担うと推測される。例えば、ジエン系ゴム100質量部に対し5質量部の上記発泡微粒子を配合した場合、クルミ殻粉砕物などと、竹炭粉砕物などとをトータルで5質量部添加する場合に比べて、すぐれた性能を発揮することが可能であると考えられる。
【0023】
本発明における発泡微粒子は、ジエン系ゴム100質量部に対して、0.3〜20質量部、好ましくは1〜15質量部、より好ましくは2〜15質量部、更に好ましくは2〜10質量部が配合される。該配合量が0.3質量部未満では、添加効果が不十分であり、逆に20質量部を超えると、耐摩耗性が悪化する。
【0024】
本発明のゴム組成物には、好ましくはシリカが配合される。好ましい実施形態において、記ジエン系ゴム成分100質量部に対して、シリカが30〜95質量部、好ましくは40〜90質量部配合される。このような範囲の配合量を採用するならば、低燃費性や耐摩耗性に関連したゴム中のシリカネットワーク形成が良好となる。また、大過剰に配合する場合のように加工時の粘度の過度の上昇、及び、得られた加硫ゴム部材の損失係数(tanδ)が上昇してしまうということがない。一方、ゴム組成物に配合するシリカとしては、特に限定されないが、湿式シリカ、乾式シリカ、コロイダルシリカ、沈降シリカなどが挙げられ、特に含水珪酸を主成分とする湿式シリカを用いることが好ましい。シリカの平均粒径を反映したBET比表面積(JIS Z 8830の1点法)は、好ましくは90〜250m2/g、より好ましくは150〜230m2/gである。
【0025】
シリカが配合される場合、好ましくはシランカップリング剤が配合される。シランカップリング剤は、上記シリカの配合量の3〜15質量%、好ましくは5〜10質量%配合される。使用可能なカップリング剤の例としては、ビス(3−トリエトキシシリルプロピル)テトラスルフィド、ビス(3−トリエトキシシリルプロピル)ジスルフィド、ビス(2−トリエトキシシリルエチル)テトラスルフィド、3−メルカプトプロピルトリメトキシシラン、3−メルカプトプロピルトリエトキシシラン、3−ニトロプロピルトリメトキシシラン、γ−アミノプロピルトリエトキシシランなどを挙げることができる。
【0026】
上記のようにシリカが配合される場合、好ましくは、上記ジエン系ゴム成分100質量部に対して、カーボンブラックが5〜30質量部、より好ましくは15〜25質量部配合される。カーボンブラックをさらに配合することにより、耐摩耗性などを向上させることができる。加硫後のゴム部材の耐摩耗性などの観点から、窒素吸着比表面積(N2SA)(JIS K 6217−2)が70〜150m2/gであり、かつDBP吸油量(JIS K 6217−4)が100〜150ml/100gであるものが好ましく用いられる。具体的にはSAF,ISAF,HAF級のカーボンブラックが例示される。なお、本発明において、他の無機充填剤により、上記シリカの全部または一部を置き換えることも可能であり、また、カーボンブラックをシリカに代えて、またはシリカよりも多量に配合することも可能である。ジエン系ゴム100質量部に対する充填剤の総配合量は、例えば、35〜130質量部とすることができる。
【0027】
本発明のゴム組成物は、上記した各成分に加え、通常のゴム工業で使用されているカーボンブラックやシリカなどの補強剤や充填剤、プロセスオイル、亜鉛華、ステアリン酸、軟化剤、可塑剤、老化防止剤(アミン−ケトン系、芳香族第2アミン系、フェノール系、イミダゾール系等)、加硫剤、加硫促進剤(グアニジン系、チアゾール系、スルフェンアミド系、チウラム系等)などの配合薬品類を通常の範囲内で適宜配合することができる。
【0028】
本発明のゴム組成物は、通常に用いられるバンバリーミキサー、ロール、ニーダなどの混合機を用いて混練し作製することができる。該ゴム組成物は、スタッドレスタイヤ、スノータイヤなどの冬用タイヤ(ウインタータイヤ)のトレッド部のためのゴム組成物として好適に用いられる。
【0029】
本発明の空気入りタイヤは、上記ゴム組成物を用いてゴム用押し出し機などによりタイヤのトレッド部を作製し未加硫タイヤを成型した後、常法に従い加硫工程を経ることで製造することができる。キャップベース構造のタイヤに適用される場合は、接地面側のキャップトレッドにのみ本発明のゴム組成物を適用すればよい。
【0030】
このようにして得られた本発明の空気入りタイヤは、上記の高強度かつ高中空度の発泡微粒子を用いることにより、各発泡微粒子が、高い靭性・強度を有することで、充填剤とSBRからなるネットワーク構造中に散在して、非発熱性の弾性変形を担う部分となる。これにより、耐摩耗性をある程度維持しつつ、湿潤路面での制動性と、低転がり抵抗性とを発揮することができる。さらには、発泡微粒子が、トレッド面にて吸水効果をも発揮することで、湿潤面での制動性をたかめ、また、氷上制動性をもある程度発揮することが期待される。しかも、発泡微粒子は、加硫成形中の発泡倍率を、例えば5倍以上とすることができるので、比較的少量の配合により効果を発揮できる。しかも、アクリル樹脂その他の樹脂材料より形成できるため、道路の損傷やアスファルトの粉塵を発生させることがない。
【実施例】
【0031】
以下、本発明の実施例を示すが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0032】
バンバリーミキサーを使用し、下記表1に示す配合に従い、タイヤ用トレッドゴム組成物を調製した。表1中の各成分は以下の通りである。
【0033】
・スチレンブタジエンゴムSBR(1):ランクセス社製の「Buna(商標)VSL 5025-0 HM」(スチレン含量25質量%、ビニル含量50質量%、Tg=−22℃、非油展、溶液重合)、
・スチレンブタジエンゴムSBR(2):JSR(株)製の「JSR 1502」(スチレン含量23.5質量%、非油展、乳化重合)、
・カーボンブラック:東海カーボン(株)製「N339シーストKH」(HAF‐HS級、窒素吸着比表面積BET=約90m2/g)、
・シリカ:東ソー・シリカ株式会社製湿式シリカ「ニップシールAQ」、
・シランカップリング剤:デグサ社製「Si75」、
・オイル:(株)ジャパンエナジー製「プロセスNC140」。
【0034】
・発泡微粒子1:積水化学工業(株)、アドバンセルEM501。膨張開始温度165℃、最大膨張温度217℃、平均粒子径約30μm。;
・発泡微粒子2:積水化学工業(株)、アドバンセルEHM401。膨張開始温度147℃、最大膨張温度178℃、平均粒子径約30μm。;
*発泡微粒子1及び発泡微粒子2は、いずれも、以下の処方またはこれに類似の処方で合成したものと考えられる。二トリル系モノマー約65質量%と、メタクリル酸またイタコン酸約約32質量%と、架橋性モノマー約3質量%とからなるモノマー組成物を、イソペンタンの存在下に、水系分散媒体と混合しつつ重合させる。この際、モノマー組成物100質量部に対して約0.5質量部の塩化亜鉛に約2質量部の水酸化ナトリウムを予め添加しておいたものを金属カチオン供給体として用いた。膨張前及び膨張後のいずれにも、単独では、真球状の球殻をなしており、粒径も均一である。
【0035】
・発泡微粒子3:松本油脂製薬(株)、松本マイクロスフェアーF100。;
*発泡微粒子3は、メタクリル酸メチル架橋ポリマーであり、各粒子が一つの大きい中空部を有する球殻状をなす。粒径20〜50μm、平均粒子径は約40μm。
【0036】
各ゴム組成物には、共通配合として、ジエン系ゴム100質量部に対し、下記の薬剤を下記の配合量にて配合した。:
・ステアリン酸:花王(株)製「ルナックS−20」2質量部、
・亜鉛華:三井金属鉱業(株)製「亜鉛華1号」3質量部、
・老化防止剤:住友化学(株)製「アンチゲン6C」2質量部、
・ワックス:日本精鑞(株)製「OZOACE0355」2質量部、
・加硫促進剤:N−シクロヘキシル−2−ベンゾチアゾリルスルフェンアミド(住友化学(株)製「ソクシノールCZ」)1.5質量部、
・硫黄:鶴見化学工業(株)製「5%油処理粉末硫黄」2.1質量部。
【0037】
各ゴム組成物を用いてスタッドレスタイヤを作製し、耐摩耗性と、氷上路面における制動性能(氷上制動性能)を評価した。タイヤサイズは195/65R15として、そのトレッドに各ゴム組成物を適用し、常法に従い加硫成形することにより製造した。この際、原材料を混練するにあたっては、バンバリーミキサーを用いて、まず、硫黄及び加硫促進剤以外の成分を1ステップまたは2ステップで混合し、この後のステップで、硫黄及び加硫促進剤を混合した。混練の際の到達温度は、150℃前後であった。また、加硫成形は、ほぼ180℃10分に相当する条件で行った。なお、各使用リムは15×5.5JJとした。各測定・評価方法は次の通りである。
【0038】
・加工性:JIS K 6300に準拠して、未加硫のゴム組成物について、100℃でムーニー粘度(ML1+4)を測定し、比較例1の値を100とした指数で表示した。指数が小さいほど粘度が低く加工性が良好であることを示す。指数が小さいほど、粘度が低く加工性に優れることを示す。
【0039】
・湿潤路面制動性(ウェット指標):上記タイヤを排気量2000ccの4WD車に装着し、90km/hでABS作動させ20km/hまで減速時の制動距離を測定した。この制動距離の逆数をとり、比較例1を100として指数で表示した。値が大きいほど、制動距離が短く、湿潤路面制動性が良好である。
【0040】
・低転がり抵抗(RR)性:上記タイヤを装着し、空気圧230kPa、荷重4.4kNとして、転がり抵抗測定用の1軸ドラム試験機にて、室温23℃の条件の下で80km/hで走行させたときの転がり抵抗を測定した。この転がり抵抗の逆数をとり、比較例1を100として指数表示した。数値が大きいほど、転がり抵抗が低く、良好であることを示す。
【0041】
・耐摩耗性:上記タイヤを2000ccの4WD車に装着し、2500km毎に左右ローテーションして、10000km走行後の残溝(4本のタイヤの残溝の平均値)を測定し、比較例1の値を100とした指数で表示した。指数が大きいほど耐摩耗性が良好であることを示す。
【0042】
・発泡率:上記のとおり加硫を行った加硫ゴムサンプルについて、表面をカラーレーザー顕微鏡(KEYENCE VK-8510)で観察し、単位面積当たりの空隙率を算出して発泡率(%)とした。
【0043】
・ミクロ強度(貯蔵弾性率E'):東洋精機(株)製の粘弾性試験機を使用し、周波数10Hz,静歪10%,動歪±0.25%,温度−5℃の貯蔵弾性率E'を測定し、比較例1の値を100とした指数で示した。指数が大きいほど、貯蔵弾性率E'が大きく、ミクロレベルの強度が高いことを示す。即ち、配合されている粒子の強度が高いことを意味する。
【0044】
・耐摩耗性:上記タイヤを2000ccの4WD車に装着し、2500km毎に左右ローテーションして、10000km走行後の残溝(4本のタイヤの残溝の平均値)を測定し、比較例1の値を100とした指数で表示した。指数が大きいほど耐摩耗性が良好であることを示す。
【0045】
【表1】

【0046】
表1のタイヤ評価結果のうち、まず、発泡率の結果について説明する。実施例1及び比較例2〜3は、いずれも発泡微粒子を5質量部(phr)加えているが、発泡率は、大きく異なる。まず、「発泡微粒子1」を用いた実施例1では発泡率が32%であったのに対し、「発泡微粒子2」を用いた比較例1では3%に過ぎず、「発泡微粒子3」を用いた比較例2では0%であった。すなわち、この結果により、「発泡微粒子1」を用いた場合にのみ、充分にバルーン状の微粒子として加硫ゴム中に存在すると考えられた。一方、「発泡微粒子1」を、それぞれ、0.1,1,15及び30質量部(phr)加えた比較例4、実施例1、実施例3及び比較例5では、発泡率が、それぞれ5%,16%,45%及び70%となり、配合量を増やすに連れて発泡率が増大した。
【0047】
なお、データは省略するが、別の基本配合を有するタイヤトレッド用のゴム組成物に、「発泡微粒子1」〜「発泡微粒子3」をそれぞれ5質量部(phr)配合し、上記のとおり加硫成形を行った後、ガラスナイフで切断した面を走査電子顕微鏡で観察したところ、発泡率の結果と符合する結果が得られている。実施例1と同様に「発泡微粒子1」を配合した場合、各発泡微粒子は、ある程度の変形を受けているものの、発泡後のバルーンの径及び形状をかなり保っており、バルーンが完全に押しつぶされたものや割れてちぎれたものは見られなかった。そのため、粒子径のばらつきは比較的少なかった。一方、比較例2と同様に「発泡微粒子2」を配合した場合、バルーン形状を維持しているものよりも押しつぶされたものの方が多く、完全に押しつぶされて点状に収縮(シュリンク)したものも多数見られた。また、比較例3と同様に「発泡微粒子3」を配合した場合、バルーン形状を維持している粒子の割合は、かなり低く、シュリンクした粒子の他、未発泡の粒子も少なからず見られた。未発泡の粒子は、発泡の際の膨張圧が、混練の際の成形圧、または、加硫成形の際の成形圧より小さかったか、または、発泡(膨張)の初期に殻(シェル)に亀裂が生じてガスが散逸したために生じたと考えられる。
【0048】
なお、上記発泡率と関連して、表1中にも示した「発泡微粒子1」〜「発泡微粒子3」の発泡開始温度及び最大発泡温度についてさらに説明する。発泡開始温度及び最大発泡温度は、熱機械分析装置により5℃/分の昇温速度で80〜250℃にわたって測定を行って得られるものであり、具体的な手順は、発泡開始温度及び最大発泡温度を測定するための前述の具体例のとおりである。なお、実施例で用いた「発泡微粒子1」の場合、165℃で徐々に発泡が開始した後、217℃まで、ほぼ直線的に膨張率が増大し、この後、230℃前後までは、膨張率があまり減少しない。ゴム材料の混練の条件及び加硫成形の条件では、局所的にも最大発泡温度を超えることがなく、また、加硫ゴム材内のいずれの箇所でも所望の発泡が行われる程度の加熱(温度及び該温度での保持時間)が行われると考えられる。これに対し、「発泡微粒子2」では147℃で発泡が開始してから比較的急激に膨張が起こり、178℃で膨張率が最大となる。そして、この後、200℃に達するまでにかなりの収縮が生じている。すなわち、一般的な混練条件で発泡がかなりの程度進行し、混練の際のせん断力や圧力により、膨らみ始めたバルーンの破壊が進行すると推測される。また、「発泡微粒子3」では、この傾向が、より顕著になり、未発泡粒子の残留が生じたと考えられる。
【0049】
なお、データは示さないが、ミクロ強度(貯蔵弾性率E')を評価したところ、「発泡微粒子1」をそれぞれ1,5及び15質量部(phr)配合した実施例2、実施例1及び実施例3において、「発泡微粒子1」の配合量が増えるにつれて、ミクロ強度が増大した。発泡率の評価結果と併せて考えた場合、発泡率が増加しているに関わらず、ミクロな弾性(貯蔵弾性)が増大していることが知られた。
【0050】
続いて、加工性の評価結果について説明する。「発泡微粒子1」を5質量部(phr)配合した実施例1では、発泡微粒子を添加しなかった比較例1の場合に比べて、未加硫ゴムの粘度上昇は見られなかった。また、粘度上昇は、15質量部配合した実施例3でも、問題とならない程度であり、30質量部配合した比較例5でも、大きくなかった。これに対し、シリカ配合量を100質量部(phr)とした比較例6では、粘度が大きく上昇し、加工性の低下が見られた。以上の結果から、本発明の効果を発揮させる程度の「発泡微粒子1」の添加は、加工性にさほど影響を与えないのに対し、シリカの増量が加工性に大きく影響すると考えられた。
【0051】
以上に説明した発泡率、ミクロ強度及び加工性評価の結果を踏まえつつ、基本的な目標性能である湿潤路面制動性、低転がり抵抗性及び耐摩耗性の評価結果について説明する。まず、「発泡微粒子1」を1質量部(phr)配合した実施例2では、比較例1に比べ、低転がり抵抗性及び湿潤路面制動性の有意な向上が見られた。また、耐摩耗性に大差はなかった。次に「発泡微粒子1」を5質量部(phr)配合した実施例1では、低転がり抵抗性が大幅に向上するとともに、湿潤路面制動性の顕著な向上が見られた。また、耐摩耗性の低下も問題にならない程度と考えられた。一方、「発泡微粒子1」を15質量部配合した実施例3では、低転がり抵抗性及び湿潤路面制動性がさらに大きく向上した。但し、耐摩耗性の低下はさらに大きくなった。他方、「発泡微粒子1」を30質量部配合した比較例5では、低転がり抵抗性及び湿潤路面制動性が一層大きく向上したものの、耐摩耗性の低下が大きかった。実施例1〜3で見られた低転がり抵抗性及び湿潤路面制動性の向上は、発泡率及びミクロ強度(貯蔵弾性)の向上と考え合わせるならば、充填剤を含むゴム相からなるネットワーク構造におけるバルーンによる島状部分の増大、及び、バルーンの比較的強靭な非ゴム性の樹脂殻による弾性付与により説明可能と思われる。
【0052】
一方、「発泡微粒子2」及び「発泡微粒子3」をそれぞれ添加した比較例2及び3では、湿潤路面制動性、低転がり抵抗性及び耐摩耗性の全ての基本性能指標において、発泡微粒子を配合しない比較例1よりも低下した。これは、上記のように、加硫後のゴム部材中にてバルーン形状をほとんどまたは全く維持していないためであると考えられる。
【0053】
図1には、表1の評価結果中、湿潤路面制動性と、低転がり抵抗性との関係を図示した。図1に示すように、実施例1〜3並びに比較例5では、湿潤路面制動性の向上と、低転がり抵抗性の向上とが、直線的な関係になっている。一方、「発泡微粒子2」及び「発泡微粒子3」を用いた比較例2〜3も、同一の直線上にある。
【0054】
なお、「発泡微粒子1」を0.1質量部(phr)配合した比較例4では、比較例1に比べ、低転がり抵抗性に大差はなかったが、湿潤路面制動性が若干向上した。また、耐摩耗性は若干低下した。
【産業上の利用可能性】
【0055】
本発明の空気入りタイヤは、乗用車用を始めとし、ライトトラック用、トラック・バス用の大型車両用タイヤなどタイヤサイズに関わらず各種用途の車両に装着し使用することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
スチレンブタジエンゴム(SBR)を70質量%以上含むジエン系ゴム100質量部に対し、補強用充填剤35〜130質量部と、発泡開始温度が170℃以下であるバルーン状の発泡性微粒子0.3〜20質量部とを配合してなることを特徴とするゴム組成物。
【請求項2】
ジエン系ゴム100質量部に対し、補強用充填剤としてのシリカ30〜95質量部と、シリカ配合量の3〜15質量%のシランカップリング剤とが配合されたことを特徴とする請求項1に記載のゴム組成物。
【請求項3】
前記発泡性微粒子は、殻(シェル)をなす熱軟化樹脂として、60質量%以上のニトリル系モノマーと、0.1〜10質量%の金属カチオンと、1〜20質量%のカルボキシル基を有する不飽和重合性モノマーと、0.1〜5質量%の多官能性モノマーとからなるモノマー成分を重合して得られるものを用い、殻(シェル)中にこの軟化点以下の温度でガス状になる膨張剤が封入されていることを特徴とする請求項1または2に記載のゴム組成物。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれかに記載のゴム組成物からなるトレッドを備えた空気入りタイヤ。

【図1】
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【公開番号】特開2012−201708(P2012−201708A)
【公開日】平成24年10月22日(2012.10.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−64691(P2011−64691)
【出願日】平成23年3月23日(2011.3.23)
【出願人】(000003148)東洋ゴム工業株式会社 (2,711)
【Fターム(参考)】