説明

タイヤ製造工程の管理方法

【課題】グリーンタイヤの予測断面形状に基づいて故障原因を効果的に究明し、タイヤ製造故障の発生を未然に防ぐことを可能にしたタイヤ製造工程の管理方法を提供する。
【解決手段】タイヤ構成部材の物性条件及び成形条件に基づいて算出されるグリーンタイヤTの予測断面形状からタイヤ外表面の座標点Pをタイヤ径方向に等間隔で抽出し、隣り合う座標点Pを直線で結んで輪郭線Lを描画し、該輪郭線Lの各線分Sのタイヤ軸方向に対する傾斜角度θを求め、隣り合う線分Lの傾斜角度θの差から各座標点Pでの凹凸の大きさを求め、該凹凸の大きさをタイヤ製造工程における故障原因の指標として用いる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、グリーンタイヤの予測断面形状を利用してタイヤ製造工程を管理する方法に関し、更に詳しくは、グリーンタイヤの予測断面形状に基づいて故障原因を効果的に究明し、タイヤ製造故障の発生を未然に防ぐことを可能にしたタイヤ製造工程の管理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
タイヤの製造故障は、タイヤサイズや補強構造や断面形状によって、その発生部位や頻度が異なっている。そのため、タイヤサイズや補強構造や断面形状が種々異なるタイヤについて、一定の理論に基づいて故障対策を行うことが強く求められている。
【0003】
ところで、タイヤ製造において、タイヤ構成部材の物性条件及び成形条件に基づいてグリーンタイヤの断面形状を予測する技術が提案されている(例えば、特許文献1参照)。この技術においては、カーカスの物性条件及び成形条件に基づいて特定の工程でのカーカスの断面形状を算出し、そのカーカスの断面形状を基準として他の構成部材をカーカスの内外に幾何学的に配置することにより、グリーンタイヤの予測断面形状を求めている。
【0004】
このようにグリーンタイヤの予測断面形状を求めることにより、設計段階で適切なベントホール位置を決定することが可能になり、また、グリーンタイヤの予測断面形状は故障原因の究明にも利用可能である。しかしながら、上記文献においては、グリーンタイヤの予測断面形状に基づいて故障原因を効果的に究明する方法を教えていない。
【特許文献1】特開2006−168294号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、グリーンタイヤの予測断面形状に基づいて故障原因を効果的に究明し、タイヤ製造故障の発生を未然に防ぐことを可能にしたタイヤ製造工程の管理方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するための本発明のタイヤ製造工程の管理方法は、タイヤ構成部材の物性条件及び成形条件に基づいて算出されるグリーンタイヤの予測断面形状からタイヤ外表面の座標点をタイヤ径方向に等間隔で抽出し、隣り合う座標点を直線で結んで輪郭線を描画し、該輪郭線の各線分のタイヤ軸方向に対する傾斜角度を求め、隣り合う線分の傾斜角度の差から各座標点での凹凸の大きさを求め、該凹凸の大きさをタイヤ製造工程における故障原因の指標として用いることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0007】
本発明では、グリーンタイヤの予測断面形状からタイヤ外表面の座標点をタイヤ径方向に等間隔で抽出し、隣り合う座標点を直線で結んで得られる輪郭線の各線分の傾斜角度を求め、隣り合う線分の傾斜角度の差から各座標点での凹凸の大きさを求めることにより、その凹凸の大きさに基づいてタイヤ製造工程における故障原因の予測や特定を視覚的に簡単に行うことができる。
【0008】
本発明において、サイズや断面形状が異なるタイヤも同等に比較するためにタイヤ外表面の座標点を等間隔で抽出することが必要であるが、その精度を高めるためにグリーンタイヤの径方向の全範囲において100点以上の座標点を設定することが好ましい。つまり、より多くの座標点を抽出することにより、凹凸をより正確に検出することができる。凹凸の大きさはサイン成分、コサイン成分又はタンジェント成分からなる無次元量として扱うことができる。
【0009】
本発明では、複数種類のタイヤについて凹凸の大きさを求める一方で、これら複数種類のタイヤの任意部位の故障率を求め、各座標点における凹凸の大きさと故障率との相関係数を求め、これら凹凸の大きさと故障率との相関性が高い部位を特定することが好ましい。凹凸が大きいと、それが故障原因となる傾向があるが、必ずしも凹凸の大きさと故障率とが比例関係にあるわけではない。そこで、凹凸の大きさと故障率との相関性が高い部位を特定することにより、故障原因の予測や特定を更に効果的に行うことができる。その場合、複数種類のタイヤは、サイズ、断面形状及び補強構造の少なくとも1つが共通するものであることが好ましい。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、本発明の構成について添付の図面を参照しながら詳細に説明する。図1はタイヤ構成部材の物性条件及び成形条件に基づいて算出されるグリーンタイヤの予測断面形状を示す図である。図1に示すように、グリーンタイヤTは、ビード部に配置されるビードコア1と、一対のビードコア1に跨がるように装架されるカーカス層2と、カーカス層2の内面に配置されるインナーライナー層3と、ビードコア1上に配置されるビードフィラー4と、ビードコア1を包み込むように配置されるチェーファー層5と、トレッド部に埋設されるベルト層6と、トレッド部に配置されるトレッドゴム層7と、サイド部に配置されるサイドゴム層8と、ビード部に配置されるリムクッションゴム層9とを備えている。
【0011】
これらビードコア1、カーカス層2、インナーライナー層3、ビードフィラー4、チェーファー層5、ベルト層6、トレッドゴム層7、サイドゴム層8、リムクッションゴム層9からなるタイヤ構成部材は、いずれも曲げ剛性等の物性条件が把握されたものである。そのため、これらタイヤ構成部材の物性条件、及び、これらタイヤ構成部材を用いてグリーンタイヤを成形する際の成形条件に基づいてグリーンタイヤTの断面形状を予測することが可能である。具体的な予測方法としては、特開2006−168294号公報に記載される手法を採用することが可能であるが、これと同様にグリーンタイヤTの断面形状を予測可能であれば、他の手法を採用しても良い。
【0012】
なお、図1に示すグリーンタイヤTの予測断面形状は、加硫機でグリーンタイヤTがシェーピングされた状態での予測断面形状であるが、異なるタイヤについて条件を統一する限りにおいて、任意の状態での予測断面形状を採用することが可能である。
【0013】
図2は図1のグリーンタイヤの予測断面形状から抽出したタイヤ外表面の座標点に基づいて描画された輪郭線を示す図であり、図3は図2のA部の拡大図である。ここで、X軸はタイヤ軸方向の位置を示し、Y軸はタイヤ径方向の位置を示す。上述したグリーンタイヤTの予測断面形状は多数の座標点の集合体であるが、その予測断面形状からタイヤ外表面の座標点をタイヤ径方向に等間隔で抽出し、隣り合う座標点を直線で結んで輪郭線Lを描画すると図2のようになる。
【0014】
図3に示すように、輪郭線Lには複数の座標点P(Pi ,Pi+1 ,Pi+2 ,Pi+3 ,Pi+4 )及び複数の線分S(Si ,Si+1 ,Si+2 ,Si+3 ,Si+4 )が含まれている。各線分Sはタイヤ軸方向に対して傾斜角度θ(θi ,θi+1 ,θi+2 ,θi+3 ,θi+4 )をもって傾斜している。隣り合う線分の傾斜角度の差が小さいときタイヤ表面は平坦であり、隣り合う線分の傾斜角度の差が大きいときタイヤ表面には凹凸が存在する。例えば、隣り合う線分Si ,Si+1 は直線状に繋がっているため、これら線分Si ,Si+1 の傾斜角度の差(θi+1 −θi )は相対的に小さくなる。一方、隣り合う線分Si+2 ,Si+3 は屈曲しながら繋がっているため、これら線分Si+2 ,Si+3 の傾斜角度の差(θi+3 −θi+2 )は相対的に大きくなる。このようにして隣り合う線分の傾斜角度の差から各座標点での凹凸の大きさを求めることができる。
【0015】
図2において、各座標点での凹凸の大きさを精度良く検出するために、グリーンタイヤTの径方向の全範囲において100点以上、より好ましくは、300点以上の座標点が設定されている。座標点が100点未満であると座標点の間隔が広過ぎるため正確な凹凸情報が得られなくなる場合がある。
【0016】
凹凸の大きさは隣り合う線分の傾斜角度を基準とするが、その傾斜角度から得られるサイン成分(sinθ)、コサイン成分(cosθ)又はタンジェント成分(tanθ)からなる無次元量を用いても良い。各線分について無次元量を求めたとき、隣り合う線分の無次元量の差を各座標点での凹凸の大きさと見做すことができる。
【0017】
図4は図2の輪郭線における凹凸の大きさを示す図である。図4において、凹凸の大きさは隣り合う線分の傾斜角度から得られる無次元量(cosθ)の差にて表されている。また、図4において、縦軸はタイヤ径方向の位置を示し、下側がビード側であり、上側がトレッド側である。図4のB部には異常なピークが示されているが、このような異常なピークが存在する部位、即ち、図2のB部には製造故障が発生する傾向がある。従って、このような凹凸の大きさをタイヤ製造工程における故障原因の指標として用いることにより、故障原因の予測や特定を視覚的に簡単に行うことができる。
【0018】
上述のように凹凸の大きさをタイヤ製造工程における故障原因の指標とするにあたって、凹凸が大きいと、それが故障原因となる傾向があるが、必ずしも凹凸の大きさと故障率とが比例関係にあるわけではない。そこで、共通の構成を有する複数種類のタイヤについて凹凸の大きさを求める一方で、これら複数種類のタイヤの任意部位の故障率を求め、各座標点における凹凸の大きさと故障率との相関係数を求め、これら凹凸の大きさと故障率との相関性が高い部位を特定することは、故障原因の予測や特定を行うに際して極めて有意義である。
【0019】
図5は複数種類のタイヤの各座標点における凹凸の大きさと故障率との相関係数を示す図である。図5において、縦軸はタイヤ径方向の位置を示し、下側がビード側であり、上側がトレッド側である。図5を得るには、複数種類のタイヤについて図4のような凹凸の大きさに関するデータを作成する一方で、これら複数種類のタイヤの任意部位(例えば、サイド部)における故障率を求める。そして、複数種類のタイヤについて各座標点での凹凸の大きさと故障率との相関係数を求める。例えば、複数種類のタイヤについて最もビード側の座標点での凹凸の大きさと故障率との相関係数を求め、その値を図5の最も下側の位置にプロットする。このような計算を最もビード側の座標点から最もトレッド側の座標点まで個々に行うことにより、図5を描画することができる。
【0020】
図5において、相関係数が正である場合、凹凸が大きいほどサイド故障率が増加することを意味し、相関係数が負である場合、凹凸が大きいほどサイド故障率が減少することを意味する。特に、統計学的に見て相関係数の絶対値が0.55以上である場合、凹凸の大きさと故障率との相関性が高いと判断することができる。図5においては、タイヤ径方向の中央付近(C部)において相関係数が正の値で大きくなっており、この付近において凹凸の大きさと故障率との相関性が高くなっているので、それに対応する部位に大きな凹凸が認められる場合、その凹凸が故障原因になり易いと判断することができる。
【0021】
上述のような判断は共通の構成を有する複数種類のタイヤについて好ましく適用することができる。ここで、共通の構成を有する複数種類のタイヤとは、サイズ、断面形状及び補強構造の少なくとも1つが共通するものである。共通の構成を有するタイヤでは凹凸の大きさと故障率との相関性について同様の傾向が存在する。そのため、過去に製造されたタイヤに関するデータを蓄積することにより、それと共通の構成を有する新規なタイヤの製造故障を予測することが可能になる。
【0022】
図5のようなデータを作成する場合、10種類以上のタイヤについて、各座標点における凹凸の大きさと故障率との相関係数を求めることが好ましい。つまり、共通の構成を有する多種類のタイヤからデータを採取することにより、凹凸の大きさと故障率との相関性が高い部位を精度良く特定することができる。
【0023】
上述したタイヤ製造工程の管理方法によれば、グリーンタイヤの予測断面形状から得られる輪郭線における凹凸の大きさに基づいてタイヤ製造工程における故障原因の予測や特定を視覚的に簡単に行うことができる。従って、実際にタイヤを製造する以前のシミュレーションの段階で故障原因を予測し、その故障原因が無くなるようにタイヤ設計を行うことが可能になる。また、実際のタイヤ製造工程において製造故障が発生した場合、その故障原因を速やかに特定し、適切な処置をとることが可能になる。これにより、タイヤの生産効率を大幅に向上することが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】本発明において、タイヤ構成部材の物性条件及び成形条件に基づいて算出されるグリーンタイヤの予測断面形状を示す図である。
【図2】図1のグリーンタイヤの予測断面形状から抽出したタイヤ外表面の座標点に基づいて描画された輪郭線を示す図である。
【図3】図2のA部の拡大図である。
【図4】図2の輪郭線における凹凸の大きさを示す図である。
【図5】複数種類のタイヤの各座標点における凹凸の大きさと故障率との相関係数を示す図である。
【符号の説明】
【0025】
T グリーンタイヤ
P 座標点
L 輪郭線
S 線分
θ 傾斜角度

【特許請求の範囲】
【請求項1】
タイヤ構成部材の物性条件及び成形条件に基づいて算出されるグリーンタイヤの予測断面形状からタイヤ外表面の座標点をタイヤ径方向に等間隔で抽出し、隣り合う座標点を直線で結んで輪郭線を描画し、該輪郭線の各線分のタイヤ軸方向に対する傾斜角度を求め、隣り合う線分の傾斜角度の差から各座標点での凹凸の大きさを求め、該凹凸の大きさをタイヤ製造工程における故障原因の指標として用いることを特徴とするタイヤ製造工程の管理方法。
【請求項2】
前記グリーンタイヤの径方向の全範囲において100点以上の座標点を設定したことを特徴とする請求項1に記載のタイヤ製造工程の管理方法。
【請求項3】
前記凹凸の大きさをサイン成分、コサイン成分又はタンジェント成分からなる無次元量としたことを特徴とする請求項1又は請求項2に記載のタイヤ製造工程の管理方法。
【請求項4】
複数種類のタイヤについて前記凹凸の大きさを求める一方で、これら複数種類のタイヤの任意部位の故障率を求め、各座標点における凹凸の大きさと故障率との相関係数を求め、これら凹凸の大きさと故障率との相関性が高い部位を特定することを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載のタイヤ製造工程の管理方法。
【請求項5】
複数種類のタイヤは、サイズ、断面形状及び補強構造の少なくとも1つが共通するものであることを特徴とする請求項4に記載のタイヤ製造工程の管理方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2010−18003(P2010−18003A)
【公開日】平成22年1月28日(2010.1.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−182834(P2008−182834)
【出願日】平成20年7月14日(2008.7.14)
【出願人】(000006714)横浜ゴム株式会社 (4,905)
【Fターム(参考)】