説明

タキサン医薬製剤、固形タキサン組成物、前記固形タキサン組成物の調製方法、前記固形タキサン組成物を可溶化するための組成物および注射可能なタキサン製剤のための構成要素のセット(キット)

哺乳動物、特にヒトに投与することを意図されたタキサンの医薬製剤であって、投与前に混合される2つの組成物を含んでなり、沈殿を生じない透明な溶液を形成し、前記組成物は、凍結乾燥されたタキサンの固体組成物を含んでなり、界面活性剤、油、ポリマー、溶解性増強剤、保存剤および賦形剤を含まず、前記凍結乾燥されたタキサンの固体組成物の可溶化組成物は少なくとも1の界面活性剤を含んでなる医薬製剤。前記製剤は、ポリソルベート80およびポリオキシエチル化ヒマシ油を含まない。凍結乾燥有機溶媒中のタキサンの凍結乾燥による、前記固体組成物の調製方法。予め充填されたシリンジを含んでなる、タキサンの注射可能な製剤のためのキット。灌流のための、有機溶媒を含まない薬学的なタキサン溶液。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水への溶解性に乏しい医薬製剤の分野に属する。特に腫瘍の薬剤に関し、前記薬剤はタキサン群に属する。より具体的には、本発明は、ドセタキセルおよびパクリタキセルを用いた腫瘍化学療法の典型である非経口的な注入方法のための製剤に向けられている。
【背景技術】
【0002】
水性媒体への溶解性に乏しい薬物の医薬製剤は、ここ数十年にわたり大規模に研究されてきた。それらの薬物療法学的特性を改善し、副作用を改善する目的で、それらの薬物を哺乳動物に注入するための多数の方法が開発されてきた。
【0003】
長期間の非経口注入、特に腫瘍の化学療法のために溶液の調製に適した製剤に関して、技術的な問題が生じる、すなわち、通常の注入プロトコルについて少なくとも4時間、継続的な注入ポンプによる投与に対して少なくとも72時間、非経口注入の水溶液中においてこれらの薬物をどのように維持するかということである。述べられているもう1つの問題は、インサイチューゲル化であり、高い張力濃度の存在下で薬物溶液を注入する場合に、非経口注入の容器内において生じる。この現象は、張力ゲル化について不可逆的であると述べられており、非経口的な溶液に溶解しない。
【0004】
本発明について特に興味深いものは、タキサンファミリーの化合物、パクリタキセルのような西洋イチイ(Taxus BaccataおよびTaxusファミリーの他の種)として一般に知られている木の葉および樹皮から抽出される生成物、ならびにドセタキセルのようなイチイから抽出されたバッカチンIIIまたは10-デアセチルバッカチンIIIから得られる半合成生成物である。これらの生物工学的な方法で得られるタキサンも、本発明に関係する。
【0005】
タキサンの医療的な使用は多様である;それらの抗腫瘍効果は他でも述べられている。ドセタキセルで治療することができる癌のいくつかの例は、局所的に進行した癌または転移性の癌、乳癌、非小細胞肺癌、ホルモン不応性の前立腺癌および卵巣癌、ならびに胃癌である。
【0006】
米国特許第4814470(Colin, Michel et al., Rhone-Poulenc Sante (Courbevoie, FR))は、10-デアセチルバッカチンIII誘導体から得られるタキサン医薬組成物、特にドセタキセルについて言及している。この文献は、結晶化で終わる合成および非イオン性界面活性剤およびアルコールの等量混合物において得られる結晶の溶解を含んでなる製剤について述べている。この製剤は、非経口輸液バッグに注入されるときにゲル化する。
【0007】
Rhone-Poulenc Sante会社(Courbevoie, FR)からの一連の特許は、ドセタキセルの最近の製剤を保護している(US5438072、US5698582、US5714512およびUS5750561)。この技術は、2つの溶液、すなわち、1つはアルコールおよびポリソルベート80におけるタキサン(非常に低い濃度で存在してよい)、他は水およびエタノールを有する製剤により、インサイチューの沈殿およびゲル化の問題を解決する。これらの文献は、タキソテール 10 mg/mlの溶液(2〜25℃で4時間安定)を作るための、激しい撹拌をすることなく両方の溶液を混合することからなる調製方法について述べており、そのような溶液を水性5%デキストロース溶液または通常の0.9%の塩化ナトリウムの生理食塩水に希釈して、0.3〜0.74mg/mlの濃度の注入溶液(2〜25℃で8時間安定)を得ることにより、インサイチューゲル化の問題を解決する。
【0008】
ポリソルベート80中のドセタキセルの液体製剤(アルコールの存在下または非存在下)は、いずれ安定性の問題を生じる;その保存について、2〜25℃の室温が推奨される。その上、ポリソルベート80の存在は、高い濃度における前記界面活性剤(溶液において薬物を維持するために必要)の血流への組み込みにより、既知の有害な副作用を引き起こす。商業的に入手可能なパクリタキセルの製剤でも同じことが起こり、高い濃度のクレモフォア(Cremophor)を必要とする。現在入手可能なタキサン製剤、特にドセタキセルおよびパクリタキセルに存在するこれらの界面活性剤により引き起こされる有害な副作用は、以下の文献で述べられているような腫瘍の化学療法の前に、ステロイドまたは抗ヒスタミン薬による前治療を必要とする:ten Tije AJ, Verweij J, Loos WJ, Sparreboom A. Pharmacological Effects of Formulation Vehicles: Implications for Cancer Chemotherapy. Clin Pharmacokinet 2003; 42: 665-685'; 'Rowinsky EK, Eisenhauer EA, Chaudhry V et al. Clinical toxicities encountered with paclitaxel (Taxol). Semin Oncol 1993, 20: 1-15'; 'Bernstein B. Docetaxel as an Alternative to Paclitaxel after Acute Hypersensitivity Reactions. Ann Pharmacother 2000; 34:1332-1335'; 'Novel Formulations of Taxanes: A review. Old Wine in a New Bottle? K. L. Hennenfentl & R. Govindan Annals of Oncology 17: 735-749, 2006 doi: 10.1093/annonc/mjd 100 Published on line 19 December, 2005。
【0009】
同様に、現在商業的に入手可能なドセタキセルの製剤は、使用のために、いくつかのステップを必要とし、投与に関係する医師および看護師に対するある一定のリスクを有する。これらのステップは、この薬物の適切な投与を保証することを目的としている:アンプルから溶媒を抽出し、それをドセタキセル溶液を含むバイアルに入れ、穏やかに撹拌して溶液を均質化し、気泡を消すために静置する時間をとり、混合物を抽出し、生理食塩水またはデキストロースを充填した輸液バッグまたはフラスコにそれを注入し、均質化し、最後に、患者に投与する前に予想される沈殿形成について点検する(沈殿が現れた場合、溶液は結果として得られる経済的な負の影響と共に処分しなければならない)。
【0010】
全体の工程は、無菌的に行われなければならない。コンタミネーションのリスクが高く、操作は訓練された作業員および相当な時間を必要とする。薬物のエアロゾル化により、扱う細胞毒性溶液と接触するため、医療提供者に対する汚染のリスクもある。
【0011】
現在、灌流製剤の調製時間を短くするため、および伴うリスクを低下させるために、そのような投与の工程を単純化する必要性がある。
【0012】
ポリオキシエチル化ヒマシ油(エマルフォア(Emulphor;登録商標)もしくはクレモフォア(Cremophor;登録商標))またはポリソルベート80(ツイーン80(登録商標))のような、ドセタキセルおよびパクリタキセルの製剤において使用される界面活性剤の有毒な影響が既知である。これらの界面活性剤により引き起こされる薬理学的および生物学的な効果は、急性の過敏反応、末梢神経障害、累積的な体液貯留症候群(cumulative fluid retention)等として述べられている。例えば、過敏症の患者、腎機能障害の患者、高齢の患者、心疾患に罹患している患者のような多くの患者は、そのような界面活性剤の副作用が原因で治療することができない。これらの界面活性剤は、可溶化され、静脈内投与される薬物の利用能にも影響を与える。
【0013】
これが、前記界面活性剤を使用しない製剤または減少させた製剤を見出すために科学的な分野で多大な努力がなされている理由である。背景技術で述べた方法の中で、我々は、アルブミンナノ粒子、ポリグルタミン酸、タキサン類似体、プロドラッグ、エマルジョン、リポソーム等の開発について言及することができる。
【0014】
参考にする目的で、最近の発展および臨床試験の詳細な説明を提供するために参考文献が提供されている:Novel formulations of taxanes: A Review. Old Wine in a New Bottle?’ K. L. Hennenfentl & R.. Govidan 2 1st Louis college Pharmacy. Ortho Biotech Clinical Affairs, LLC, St Louis MO; 2 Alvin J Siteman Cancer Center, Washington University School of Medicine, St. Louis, MO, USA accepted 7 November, 2005。これらの問題に対する解決に貢献する他の研究を以下に示す: Castro CA et al. Pharmacol Biochem Behav, 1995 Apr; 50(4):521-6; Sanzgiri UY et al., Fundam Appl Toxicol, 1997 Mar; 36(1):54-61; ten Tije AJ et al., Clin Pharmacokinet. 2003; 42(7):65-85’:’ Constantine JW et al., Experientia. 1979 Mar 15;35(3):338-9:Van Zuylen L et al., Invest New Drugs 2001 may;19(2):125-41:Bergh M et al., Contact Dermatitis. 1997 Jul; 37(1):9-18)。
【0015】
WHOは、ポリソルベート80の最大1日用量は体重kg当り25mgであると見積もっている(FAO WHO. Tech. Rep. Ser. Wld. Hlth. Org. 1974, N 539)。それ故、体重75kgの男性は、1日当り1.875gのポリソルベート80を投与されてよく;すなわち、肺癌または前立腺癌に対して一般に使用されるm2当り75mgのタキソテール(登録商標)の剤形について、身長1.75m、体重75kgの男性は体表面積が1.90m2であり、約3.6gのポリソルベート80と共に143mgのドセタキセルが投与される(ツイーン80(登録商標)1ml当り40mgのドセタキセル)、すなわち、WHOにより推奨されるポリソルベート80の最大1日投与量のほぼ2倍である。
【0016】
一方、ある注射可能な薬物の凍結乾燥製剤は、特に、凍結乾燥された溶液がより高い化学的および物理的な安定性を有する、すなわちより長い有効期間を有し、国際調和委員会(International Committee for Harmonization;ICH)によるとゾーン4に属する領域の温暖な気候において、より高い温度に対する耐性を有する場合、注射可能な液体製剤よりも有益である傾向がある。
【0017】
特に、凍結乾燥の標準技術は水溶液を凍結することおよびそれらを減圧して昇華を達成することからなるため、水に対する溶解性に乏しい薬物、主にタキサンの凍結乾燥工程は非常に難しい。水を除いて、許容可能な薬学的な(pharmacotechnical)条件下でこの方法を可能にする溶媒は多くはない。凍結乾燥するために、よい製剤は、「パッフィング(puffing)」問題を有さないべきである、すなわち、凍結する場合に、昇華において気泡を生じる可塑性の固体を形成すべきでない。さらに、それはよい熱伝導体であるべきであり、前記溶媒は、適切な薬学的な特性の凍結乾燥されたプラグ(plug)を形成すべきである。さらに、物質構造は、ケーク(cake)を通して溶媒の昇華により産生された気体の拡散を許容する空隙を有する条件に合致すべきである。さらに、前記プラグは、必要な場合に賦形剤の助けを受けて、それ自体の構造を支持するのに十分強固であるべきである。
【0018】
非イオン性界面活性剤の毒性の問題を解決するために、当該分野において多くの試みがなされ、タキサンの凍結乾燥製剤が提案されている。例えば、Geczy, J (Thissen Laboratories S.A.)によるWO 99/24073は、ドセタキセルおよびパクリタキセルを、これらの薬物およびシクロデキストリンの水性アルコール溶液から開始して凍結乾燥することを提案している。この溶液は、凍結乾燥された粉末シクロデキストリンと混合されたタキサンを含有する凍結乾燥産物(liophilisate)を得ることを可能にする(ドセタキセルについて2ヒドロキシプロピルβ-シクロデキストリンを使用し、活性成分:シクロデキストリンは約1:100の質量比である)。この凍結乾燥産物は、すぐ灌流できる1mg/ml以下の水溶液に溶解することができる。これは、非イオン性界面活性剤の使用を排除するが、この製剤は、血流に取り込まれると、タキサンとシクロデキストリンとの複合体は、タキサンの過飽和水溶液の沈殿に関して安定性を増大させるだけでなく、タキサンの有意な薬力学的性質を修飾する。それ故、毒性学的および臨床的な研究は、タキサンとシクロデキストリンとのこの新しい複合体の使用を推奨する必要がある。さらに、それは複合体生成工程を含む。
【0019】
タキサン凍結乾燥産物を得るための他の試みは当該分野で、例えばChen, Andrewによる米国特許出願第20030099674号に示されており、界面活性剤としてレシチンを使用し、抗接着剤としてショ糖を使用してo/w型エマルジョンから凍結乾燥されたタキサンを得ることを提案している。胆汁酸塩は、記載された界面活性剤の中の1つである。タキサンはエタノールおよび水に溶解され、その後溶媒は凍結乾燥により除去され、水を用いて再構築する場合にタキサンリポソームが生じる。
【0020】
さらに、Jeong, Seo Youngによる米国特許出願第20030099675号は、有機溶媒、乳化剤およびモノグリセリドを有する液体製剤を提案する。それは、液体製剤から水中のエマルジョンを形成することおよびそれを凍結乾燥することも提案する。パクリタキセルのような活性薬物の使用は、この文書において言及されている。
【0021】
最後の2つの出願において、水に対して良好な溶解性を有するタキサン凍結乾燥産物が得られる。しかしながら、前記タキサン凍結乾燥産物は、その薬力学を修飾することができるタキサンエマルジョンの使用に関して前に述べたのと同様の問題を有する。本来、エマルジョンおよびリポソームのようなミクロエマルジョンは、静脈内に投与された場合、マクロファージにより攻撃され、自己免疫反応を生じ、一般的にステロイドまたは抗ヒスタミン薬での前治療を必要とすることの他に、望ましい作用に対して利用することができない薬剤の重要な部分をもたらす。
【0022】
ACS DOBFAR S.A.からのZenoni Mauricio, et al.による米国特許出願第20030187062号に記載されているような他の技術的な発展は、パクリタキセルおよびアルブミンを凍結乾燥することによりミクロまたはナノ粒子を得られることを示す。
【0023】
欧州特許第1332755号のように、タキサンリポソームについて述べている多くの文献があり、パクリタキセルの凍結乾燥産物は、通常水溶液から凍結乾燥されるリポソームを続いて得るために、イソプロパノールまたはエタノールの溶液中におけるレシチンまたはコレステロールのような化合物を用いて得られる。これらの開発の欠点の1つは、薬物の効果をずいぶん低下させるマクロファージの攻撃を生じることおよび免疫反応を生じることの他に、それらがタキサンの薬力学を修飾することであり、それらは使用期間が短く、保存に対してコールドチェーンを必要とする。
【0024】
文献においてポリマーミセルについて権利請求している多くの特許があり、例えば、米国特許第5543158号および米国特許第6322805号である。特に、米国特許第6322805号は、両親媒性のブロック共重合体を含んでなる疎水性の薬物を可溶化することができる生分解性の重合体ミセルを得ることを示し、親水性ポリアルキルオキシドならびにポリ乳酸、ポリグリコール酸、ポリ乳酸-co-グリコール酸(polylactic-co-glycolic acid)、ポリ(ε-カプロラクトン)誘導体およびそれらの混合物からなる群より選択される生分解性の親水性ポリマーを有する。疎水性の薬物が共有結合の非存在下でどのようにミセル中に捕捉されるかについて記載されている。これらのミセルは、可溶化剤として作用する水溶液を形成する。この溶液は、凍結乾燥され、保存され、水または等張溶液で再構築される。この特許は、タキサン自体の溶解性を増大させる問題を解決しないが、タキサンミセルを作る特定のコポリマーの合成の複雑な工程を示している。安定性の特徴に関して保証する試験を行うにもかかわらず、薬物に成分が加えられ、バイオアベイラビリティだけでなくタキサン自体の動態も完全に変化させる。この特許は、再構築により無菌溶液を得る方法については記載していない。
【0025】
米国特許第6780324号には、生物学的に活性のある疎水性の薬物の溶液が分散剤と有機溶媒または水が含まれてよい混合物とを組み合わせて作られる方法が記載されている。この混合物は、凍結乾燥され、再溶解され、ナノ分散またはミセル溶液を形成する。薬物は、この工程の間に失われず、ろ過により滅菌される。再構築により透明な溶液が得られるが、凍結乾燥産物は薬物以外に他の成分を有するため、その化学的安定性だけでなくそのバイオアベイラビリティについてもリスクを有する。一方、前記方法は、ミセルを破壊することができるか、またはタキサン分解を引き起こすことができる凍結乾燥される溶液を得るために、超音波処理、激しい撹拌および加熱のような操作を必要とすることを示している。
【0026】
Julie Straub et al.による米国特許第6610317 B2は、有機溶媒、特にエタノールに溶解したタキサンをポリソルベート80、他の界面活性剤およびマンニトールのような賦形剤と混合し、さらに噴霧乾燥により溶媒を蒸発させることにより作られるパクリタキセルの多孔性マトリックスについて記載している。この製剤は、その製剤中にポリソルベート80により生じるような副作用を引き起こし得る成分を有する可溶性の固体である。さらに、乾燥のために薬物を加熱することを示しており、当該分野で既知の分解産物を生成する。一方、前記特許の技術に従って作ることができるパクリタキセル溶液は、80%のエタノールを含有し、提案された固体製剤を作るために凍結乾燥の工程を適用することができなくなる。
【0027】
Evan Charles Unger, et al.による米国特許出願US2004/0247624 A1には、水に対する溶解性に乏しい薬物を製剤化する他の方法について記載されている。有機溶媒のろ液、溶解性に乏しい薬物および薬物との共有結合を有さない少なくとも1の安定化剤を凍結乾燥して固体組成物を作ることを提案する。パクリタキセルについての唯一の実施例(実施例3)は、可溶化するまで、高濃度の2つのポリマー、t-ブタノールおよび薬物の混合物を超音波処理および加熱する複雑な方法について記載している。続いて、粉末を得るための凍結乾燥が提案されている。最後に、目に見える粒子が存在すると述べているように、最終的に全てが溶解しない他の界面活性溶液を用いたそのような粉末の再溶解について述べている。さらに、前記溶液における薬物の60℃での加熱は、パクリタキセルの分解を引き起こす。Marc Besman et al.による米国特許出願US2005/0152979号は、水に対する溶解性に乏しい薬物の凍結乾燥組成物であって、前記薬物、ポリマーおよび再構築を改善する薬剤を含む組成物について権利請求している。本発明により使用されるのに適した薬物としてパクリタキセルおよびドセタキセルを権利請求する代わりに、試験はα-ポリ-(L)グルタミン酸とパクリタキセルのエステル接合体であるCT-2103と呼ばれるパクリタキセル接合体を用いて行われ、パクリタキセル自体より水溶液においてずっと高い溶解性を有する。パクリタキセルもドセタキセルも、この文献に記載されている賦形剤および界面活性剤を含むリン酸ナトリウム水溶液に溶解しない。
【0028】
Andrew Chenによる特許出願US2003/0099674 A1には、油中の薬物のエマルジョンを凍結乾燥することにより産生され、抗付着剤を含有する水に溶解するタキサン組成物について記載されている。油中のタキサンの重要な分解は、この特許において、60℃の温度で1ヶ月置いた場合に観察されている。この技術は、安定性および哺乳動物の体内に注入されたエマルジョンの存在下におけるマクロファージ反応に関して上述した問題を有する。
【0029】
タキサン接合体において使用される他の技術は、Chun Li et al.による米国特許出願第2003/0147807号のような文献に記載されており、水に溶解するタキサン組成物を特徴付ける。しかしながら、ポリグルタミン酸、ポリアスパラギン酸等の可溶性ポリマーに結合したパクリタキセルおよびドセタキセルの接合体について言及する。
【0030】
本発明に関連する技術文献として評価される他の特許は、US2005/0191323、WO9814174、US6630121、US6607784、WO2005/044225、US2006/0127420、US2006/0078619、US2004/0091541、US2003/0215496、US2001/0018072、US5922754およびWO2005025499である。
【0031】
当該分野は最近、水に対する溶解性が低い薬物の製剤を得るための非常に多くの溶液を提供している。しかしながら、前記溶液中で他の化合物、主に保存の間に薬力学的および化学的な安定性を修飾するような化合物を含まない凍結乾燥されたタキサンの組成物を得ることはできなかった。
【0032】
これらの水性媒質に対する溶解性に乏しい薬物の可溶化を達成するために、当該分野で多くの方法が提案され、例えば、激しい撹拌、加熱、超音波処理、溶媒蒸発、透析、噴霧乾燥、乳化/蒸発、微粉化等である。既に述べられた方法の一部としての凍結乾燥を含む提案は、他の成分の中で、有機溶媒、水、ポリマー、賦形剤、界面活性剤、脂質、およびリポタンパク質を含む混合物から一般的に開始する。これらの混合物は、通常、乳化または希釈の複合的な工程に関与し、他の方法の中で、加熱、超音波処理、激しい撹拌および特別に設計されたポリマーの使用を必要とする。
【0033】
本発明は、2つの成分の医薬製剤を提供し、1つはタキサン固体組成物、特に凍結乾燥されたドセタキセルおよびパクリタキセルにより構築され、他の成分は液体可溶化組成物により構築される。
【0034】
さらに、本発明は、市場で入手可能な薬学的な活性成分(無水物または多水和物)と比較して顕著な希釈特性を有する前記タキサン、特にドセタキセルおよびパクリタキセルの固体組成物を提供する。前記固体組成物は、賦形剤、ポリマーまたは界面活性剤を含有し、他の成分を含まない。この固体組成物は、ポリオキシエチル化ヒマシ油またはポリソルベート80を含まない。さらに、加熱、超音波処理または激しい撹拌を必要とせず、繰り返すのが容易であり、薬学的な活性物質および凍結乾燥のための有機溶媒の2つの成分のみを含むため、単純な方法により得られる。本発明の固体組成物は、1分未満で、有機溶媒の添加なく、界面活性剤水溶液に完全に溶解する。
【0035】
本発明は、有機溶媒中のタキサン溶液からの凍結乾燥を可能にする革新的な方法を提供し、前記溶液は、外部の、機械的な、または熱的な媒体を必要とせずに得られ、迅速かつ完全な溶解を達成する。前記溶液は凍結乾燥され、凍結乾燥されたケークが得られ、前記タキサンおよび微量の凍結乾燥溶媒のみを含有する。それ故、高い比面積および非常に増強された溶解性の薬学的な活性成分が非常に単純な方法により得られる。
【0036】
先行技術において多くのタキサン可溶化法があるが、全ての場合において、活性医薬成分(API)は、有機溶媒、一般的にエタノールに溶解され、続いて他の成分、すなわち界面活性剤、水、賦形剤等が加えられる。パクリタキセルおよびドセタキセルが有機溶媒の非存在下で水溶液に可溶化されることを推測するような文献は見つかっていない。
【0037】
さらに、エタノールのような有機溶媒の添加は、タキサンの溶解性を増強するが、灌流の水溶液に構築される場合に予測される薬物の沈殿を支持するそれらの安定性に影響を与える。
【0038】
本発明は、薬物およびそれを操作する医療スタッフを汚染するリスクを低下させるために、薬剤安全な使用を可能にするキットも提供する一方、薬物投与の操作も促進する。前記キットは、無菌画分に含まれる言及された2つの組成物を含んでなり、相互に分離されている。前記キットは、シリンジも提供する。
【0039】
本発明の好ましい形態において、前記シリンジは予め充填され、前記無菌画分を含んでなる。それ故、灌流製剤の調製は、穏和な動きにより両方の画分が接触するように単純化され、凍結乾燥された固体のタキサン組成物の溶解は、最終的に生理食塩水またはデキストロースを含む輸液バッグまたはフラスコに注入される前記可溶化組成物において達成される。
【0040】
この予め充填されたシリンジは、灌流溶液の調製の操作を非常に簡単にし、生成物または技術者および患者に対する汚染のリスクをかなりの程度排除することにより、実施時間を顕著に減少させ、生成物を広く入手可能にする。
【0041】
本発明の製剤は、習慣的な抗ヒスタミン前処理の排除を可能にする。これは、この製剤がポリソルベート80およびポリオキシエチル化ヒマシ油を含まないという事実による。さらに、ポリソルベート80の存在により長い灌流時間が必要とされるため、この製剤は、通常の実務で示されるよりも短い時間での投与を可能にする。それ故、本発明の製剤を用いたタキサンの投与に対して必要とされる時間は30分未満である。
【0042】
灌流溶液の調製に対する操作時間の減少および本発明の製剤の投与の間の灌流時間の減少は共に、以下の利点を示す:衛生的な資源のよりよい利用および前記操作に関与する医療従事者の安全(医療従事者の皮膚または粘膜に保存液が接触するリスクは、ほぼゼロに減少する)の優先により、デイケア病院において現在の保健制度の腫瘍の臨床サービス(公的または私的)を受けているより多くの患者が治療され、医療経済に基づく操作コストが減少する。
【0043】
多くの負の副作用がポリソルベート80に起因するため、この新規の製剤は、今日それを受けられていない患者、すなわち、腎臓病、心疾患、加齢、およびポリソルベート80過敏症等の患者にも投与することができる。それは、体液貯留症候群を引き起こすポリソルベート80を含有しないため、腎臓癌に罹患している患者にも投与することができる。
【発明の概要】
【0044】
本発明の第1の目的は、先行技術文献に記載された問題を解決すること、ならびに熱帯および亜熱帯の気候における外界温度での保存を可能にする増大した安定性を有するタキサンの医薬製剤を提供することであり、輸液調製に対する操作を簡便にし、界面活性剤および有毒な賦形剤を含まず、特に、ポリオキシエチル化ヒマシ油およびポリソルベート80を含まない。前記製剤は、前記界面活性剤に対して過敏症を有する患者、体液保持症候群のような腎疾患に罹患している患者、高齢者および心疾患等を有する患者における治療が意図されている。前記製剤は、前記凍結乾燥されたタキサンの固体組成物および前記固体組成物の可溶化組成物を含んでなる。特に、哺乳動物、特にヒトにおける非経口的な注入溶液において使用するのに適したパクリタキセルまたはドセタキセルのようなタキサンの注射可能な製剤に向けられている。
【0045】
本発明の第2の目的は、高い温度(60℃)でも本質的に他の成分なしで個体の状態として優れた安定性を有し、その高い比面積およびその低い見かけ密度により増大された溶解性を有する医薬製剤を調製するのに適した前記タキサンの固体組成物を提供することであり、有機溶媒の非存在下で界面活性剤の水溶液により可溶化され得る。この固体組成物は、少なくとも有機溶媒中の前記タキサンの溶液に由来する凍結乾燥産物を含んでなる。
【0046】
本発明の第3の目的は、少なくとも1の低毒性の高分子界面活性剤を含んでなる非経口注入溶液に注入するのに適した前記凍結乾燥されたタキサン固体組成物の前記可溶化組成物を提供することである。
【0047】
本発明の第4の目的は、以下のステップを含んでなる前記凍結乾燥されたタキサン固体組成物を調製する方法である:
a)前記タキサンを凍結乾燥有機溶媒に溶解することと、
b)凍結乾燥することと、
c)任意に乾燥すること。
【0048】
好ましい実施形態において、前記方法は、滅菌ステップも含む。前記滅菌ステップは、好ましくは、前記ステップa)で得られた溶液の滅菌ろ過により行われる。
【0049】
本発明の第5の目的は、通常の生理食塩水またはデキストロース溶液中に1 mg/ml未満のタキサンを含む薬学的な灌流溶液であり、ソルトール(Solutol:登録商標)のみを含み、有機溶媒、他の界面活性剤、油、他のポリマー、溶解性増強剤、保存剤および賦形剤を本質的に含まない。
【0050】
本発明の第6の目的は、前記タキサンの固体組成物を含む第1の容器、前記タキサンの固体組成物の前記可溶化組成物を含む第2の容器およびシリンジを含んでなるキットを提供することである。
【0051】
本発明の第7の目的は、前記容器を含んでなる予め充填されたシリンジである。
【発明の簡単な説明】
【0052】
本発明の主要な目的である、哺乳動物、主にヒトに対して投与されるタキサンの医薬製剤は、好ましくはポリソルベート80を含まず、ポリエトキシル化を含まず、投与前に混合されて沈殿することなく透明な溶液を形成する2つの組成物を含んでなり、前記組成物は、好ましくは界面活性剤、油、ポリマー、溶解性増強剤、保存剤および賦形剤を含まない凍結乾燥されたタキサンの固体組成物ならびに少なくとも1の界面活性剤を含む前記凍結乾燥されたタキサンの固体組成物の可溶化組成物を含んでなる。前記固体組成物は、0.1g/ml未満、好ましくは0.004g/ml〜0.05g/ml、最も好ましくは0.006g/ml〜0.02g/mlの見かけ密度を示す。前記固体組成物は、ソルトール(登録商標)HS15の水溶液に、20%まで、1分未満で、付加的な有機溶媒の非存在下で溶解する。さらに、前記固体組成物は、60℃で少なくとも28日間、1%未満の分解で、化学的に安定である。さらに、本発明の固体組成物は、ジオキサン、酢酸、ジメチルスルホキシドまたはそれらの混合物を含んでなる群、好ましくはジオキサンまたは酢酸から選択される凍結乾燥有機溶媒、および0.1〜50%、好ましくは0.1〜6%の濃度のタキサンを、好ましくは界面活性剤、油、ポリマー、溶解性増強剤、保存剤および賦形剤の非存在下で含んでなる溶液の凍結乾燥により得られる。また、前記組成物は、8%未満、好ましくは3%未満の残留濃度の凍結乾燥有機溶媒を含んでなる。前記タキサンは、バッカチンIIIの誘導体、10-デアセチルバッカチンIIIならびにそれらの接合体、塩、水和物および溶媒和物からなる群より選択され、好ましくはドセタキサルおよびパクリタキセルである。前記可溶化組成物は、有機溶媒の非存在下で、1%〜100%、好ましくは5%〜40%の濃度の高分子界面活性剤および水を含んでなる。前記界面活性剤は、高分子であり、ソルトール(登録商標)のようなマクロゴールヒドロキシステアレート、ルトロール(Lutrol:登録商標)のようなポロキサマーおよびポリビニルピロリドンまたはそれらの混合物からなる群より選択される。本発明の好ましい可溶化組成物は、10〜50%のソルトール(登録商標)HS15および50%〜90%の水を含んでなる(P/P%)。前記可溶化組成物は、少なくとも2時間沈殿を生じることなく、少なくとも4mg/mlの濃度で前記固体組成物を溶解する。
【0053】
本発明のもう1つの目的は、哺乳動物、特にヒトに対する医薬製剤を調製するのに適した前記タキサンの固体組成物の調製方法であり、以下のステップを含んでなる:
a)ポリマー、界面活性剤、油または賦形剤の非存在下で、有機溶媒に前記タキサンを溶解することと、
b)無菌化することと、
c)凍結乾燥することと、
d)任意に乾燥すること。
【0054】
本発明のもう1つの目的は、通常の生理食塩水またはデキストロース溶液中に少なくとも1mg/mlのタキサンを含む薬学的な灌流溶液であり、それはソルトール(登録商標)のみを含み、有機溶媒、他の界面活性剤、油、他のポリマー、溶解性増強剤、保存剤および賦形剤を本質的に含まない。
【0055】
本発明のさらなる目的は、前記凍結乾燥されたタキサン固体組成物を含む第1の容器、前記タキサン固体組成物の前記可溶化組成物を含む第2の容器およびシリンジを含んでなるキットである。好ましくは、前記シリンジは、予め充填され、前記第1の容器および前記第2の容器を含んでなる。
【0056】
本発明のもう1つの目的は、哺乳動物、特にヒトに対する非経口的な注入溶液を調製するのに適した注射可能なタキサン製剤を調製するためのキットであり、前記タキサン凍結乾燥固体組成物;前記タキサンの固体組成物の可溶化組成物;前記可溶化組成物と前記タキサンの固体組成物とを混合し、少なくとも2時間沈殿することなく非経口的な注入のバッグに注入される、少なくとも4mg/mlの濃度の透明且つ安定な溶液を得ることを可能にするシリンジを含んでなる。
【発明の詳細な説明】
【0057】
調査および非常に多くの実験室での試験の結果として、水に対する溶解性に乏しい薬物、特にタキサンの新規の医薬製剤が開発された。本発明は、長期間にわたる活性物質の保存を達成し、保存のためにコールドチェーンで保存する必要なく、熱帯または亜熱帯の国においても、その保存寿命の間の安定性を維持することができる。前記新規の製剤は、生理食塩水またはデキストロース溶液を含有する灌流フラスコまたはバッグ中に注入する際に生じるインサイチュー沈殿またはゲル化に関して、当該分野におけるいくつかの製剤において今日直面する共通の問題を排除する。血液灌流による化学療法において、この新規の製剤は、前記タキサンがその溶解性またはバイオアベイラビリティを修飾する、または複合体を形成するもしくは共有結合的に薬剤を結合する成分の非存在下で、哺乳動物、特にヒトの体内に導入されることを可能にする。さらに、本発明の製剤は、滅菌ろ過法による無菌製剤である。前記タキサンの新規の医薬製剤は、本発明の主要な目的であり、凍結乾燥の有機溶媒の溶液から凍結乾燥された前記タキサンの固体組成物ならびに前記固体組成物の可溶化組成物の両方を含んでなる。本発明の本質的な特徴は、前記タキサンの固体組成物が、凍結乾燥有機溶媒中の前記タキサンの溶液の凍結乾燥により調製されることである。前記凍結乾燥有機溶媒は、相対的に高い融点(−10℃以上)を有し、凝固およびさらに凍結乾燥を可能にするが、25℃より低い場合、外界温度において液体として存在する。中でも、酢酸、ジオキサンおよびジメチルスルホキシドは、適切な凍結乾燥有機溶媒として言及され、加熱、超音波処理または強い撹拌をすることなくタキサンの容易且つ早い溶解を可能にする。化学的および物理的に安定な溶液が作られる場合、タキサンは、長期間沈殿を生じることなく、50%p/p以下の広範な濃度で前記凍結乾燥有機溶媒に溶解する。前記溶媒の混合物は、本発明の実施のために使用することができる。
【0058】
そのような凍結乾燥有機溶媒中のタキサン溶液は、その生成工程において、0.2μフィルターにより滅菌ろ過される。前記ろ過は、凍結乾燥の前に行われ、本発明の固体組成物として無菌の粉末を生成する。可溶化組成物も、ろ過により滅菌されてよい。それ故、固体滅菌を省略した場合、複雑で高価な方法を必要とし、薬物に対するリスクを有する。
【0059】
さらに、これらの凍結乾燥有機溶媒中のタキサン溶液は、凍結乾燥される容器中における液体形態で投与されてよく、容器当り5〜200mgを含み、注射の前に再構築されるようになっている。これらの凍結乾燥有機溶媒中のタキサン溶液から結果として生じる固形の凍結乾燥された組成物は、大きな比表面積を有する粉末であり、可溶化組成物中での完全且つ非常に速い溶解を可能にする。それ故、固体組成物は、25℃以上の高い温度下で長時間、良好な安定性の凍結乾燥されたケークまたはブロックとして得られ、コールドチェーンの必要なく適切な状態を維持する。安定性試験は、実施例6に示すように行われ、本発明の固体組成物が1%未満の分解で、60℃のオーダーの高温に少なくとも1ヶ月間耐えられることを示した。
【0060】
加えて、マンニトール、ラクトース、胆汁酸、ゼラチンのような、当該分野で通常使用される凍結乾燥賦形剤を使用できることを証明した。前記凍結乾燥賦形剤は、粉末または水溶液の形態で、凍結乾燥有機溶媒中のタキサン溶液に加えられてよい。これらの凍結乾燥有機溶媒中のタキサン溶液は、30%の濃度まで水の添加に耐えられる。
【0061】
水、凍結乾燥賦形剤または酸(クエン酸、乳酸、酒石酸、アスコルビン酸、酢酸、塩酸またはそれらの混合物のような)を加えることは可能であるが、添加は本発明の目的を達成するために不可欠なことではない。それ故、本発明の好ましい実施形態において、いずれのタイプの添加物がなくても、タキサン溶液のみが凍結乾燥有機溶媒中で凍結乾燥される。これは、大きな比面積、低い見かけ密度および他の成分と相互作用しないタキサンを有するタキサンの固体組成物を得ることを可能にする。
【0062】
バイアル中における凍結乾燥は、6mg/ml〜200mg/mlの濃度の凍結乾燥有機溶媒中の適切な凍結乾燥産物を得ることを可能にする。
【0063】
凍結乾燥産物の見かけ密度は、凍結乾燥ケークの重量(g)とその体積(ml)との商として定義される。この変数は注意深く計算され、無数の実験の後見かけ密度の値が得られ、本発明の技術的効果は、例えば有機溶媒を含まない水溶液中の前記凍結乾燥されたタキサン固体組成物の容易な再構築を可能にする。本発明の固体組成物の溶解性は、その見かけ密度が減少するにつれ改善することが証明された。それ故、凍結乾燥ケークの見かけ密度が低くなるほど、その溶解は速くなる。この効果は、実施例4の結果において観察される。同様に、見かけ密度が低すぎる場合、必要な容器の大きさは衛生的な操作に適合しない。
【0064】
これらの見かけ密度の値は、0.1gm/mlより低く、好ましくは0.004gm/ml〜0.05gm/mlであり、より好ましくは0.006gm/ml〜0.02gm/mlである。
凍結乾燥産物中の残留溶媒の量は、通常、8%未満であり、好ましくは3%未満である。
【0065】
凍結乾燥工程において、24時間の第2の乾燥段階を含み、残留溶媒の量は、酢酸について8%以下であり、ジオキサンについて3%以下である。これらの値は、乾燥温度を50℃まで上げ、乾燥時間をさらに24/48時間延長することにより、活性薬物の分解の問題を生じることなく3%および1%まで低下させることができる。
【0066】
実験室での試験は、商業的に入手可能な医薬活性成分、特にドセタキセルの三水和物または無水物が、界面活性剤水溶液にも純粋なポリソルベート80にも直接溶解しない一方、本発明の固体組成物はソルトール(登録商標)SH15の水溶液ならびに純粋なポリソルベート80に容易に溶解することを示した。また、本発明の固体組成物が、商業的に入手可能な無水ドセタキセル(API)とは異なり、ポリソルベート80(PS80):EtOH:水(25:9、75:65、25)に迅速に溶解することを示した。
【0067】
本発明の固体組成物の利点は、界面活性剤およびポリマーの群の溶媒に溶解する迅速さにおける顕著な改善である。それ故、前記凍結乾燥された固体組成物は、ルトロール(Lutrol:登録商標)F68、ルトロール(登録商標)E400、ソルトール(登録商標)HS15の混合物中に、ポリソルベート80を使用することなく容易に溶解することができる。
【0068】
本発明の目的の中で、現在市販されているドセタキサルおよびパクリタキセルの製剤中に存在するポリソルベート80、ポリオキシエチル化ヒマシ油およびエタノールのような有機溶媒を排除することを述べることができる。
【0069】
本発明の固体組成物は、凍結乾燥有機溶媒の溶液中のタキサンを凍結乾燥することにより得られ、有機溶媒の添加なく、前記タキサンを界面活性水溶液のみでなくポリソルベート80のような純粋な界面活性剤にも容易に可溶化することができる。また、ソルトール(登録商標)HS15、ルトロール(登録商標)F68、ポビドン、ルトロール(登録商標)E400およびそれらの混合物のようなポリマーの水溶液中に可溶化することも可能にする。これらの製剤は、エタノール、ポリソルベートおよびポリオキシエチル化ヒマシ油を完全に含まない。
【0070】
当該分野において、タキサンの可溶化工程を促進する通常の方法は、エタノールのような有機溶媒の使用である。これは、当該技術分野に属する大量の文献において多く使用されている代替方法である。第1のステップにおいて、タキサンは溶媒に溶解され、第2段階において、両親媒性のポリマー、界面活性剤(suefactantまたはtensoactive)およびそれらの混合物が添加される。この代替方法の不都合は、使用される溶媒の残留およびタキサンの溶液、特にエタノールの存在下におけるドセタキセルの低い安定性である。さらに、安定な溶液または分散を達成するために、長時間の可溶化、超音波処理、激しい撹拌、温度上昇および他の操作が必要とされる。それにもかかわらず、有機溶媒の使用は、本発明に対して不要であり、前記可溶化組成物の成分として利用することができる。
【0071】
本発明において前記可溶化組成物を構築するために使用されるのに適した界面活性剤は、数ある中で、ポリエチルグリコール、ポリビニルピロリドン、ポロキサマー、ヒドロキシプロピルセルロース、ポリメタクリテート、ポリシン(polysine)、ポリビニルアルコール、ポリアクリル酸、エチレンポリオキシド、ヒアルロン酸、硫酸デキストランおよびその誘導体、ステアリン酸カルシウム、グリセロンモノステアレート、ケトエステル(cetoestearilic)アルコール、ケトマクロゴール(cetomacrogol)のワックス、ソルビタンエステル、エチレンポリオキシドのアルコールエステル(alquilic eter)、ケトマクロゴール1000のようなマクロゴールエステル、リシン油ポリオキシエチレン(polyocyothylenic)の誘導体、ポリソルベート、ポリソルベート80、ポリオキシエチレンソルビタンの脂肪酸エステル(TWEEN)、ポリオキシエチレンのエステアレート、ドデシル硫酸ナトリウム、カルボキシメチルセルロースカルシウム、カルボキシメチルセルロースナトリウム、ヒドロキシプロピルメチルセルロースのメチルセルロースフタレート、非結晶性セルロース、トリトンであってよい。
【0072】
本発明の好ましい実施形態は、前記可溶化組成物に対する界面活性剤として、ソルトール(登録商標)HS15(ポリエチレングリコール15-ヒドロキシエステアレート)、マクロゴールヒドロキシエステアレート、ルトロール(登録商標)F68、堅いBASFにより提供されるポロキサマー、ポリビニルピロリドン、またはそれらの混合物を含んでなる。特に、ソルトール(登録商標)HS15、ルトロール(登録商標)F68またはそれらの混合物が好ましい。
【0073】
ソルトール(登録商標)HS15は、ヒドロキシステアレートマクロゴールである。以下の名称でも知られている:ポリエチレングリコール-15-ヒドロキシステアレート、ポリエチレングリコール660-12-ヒドロステアレート、マクロゴール-15-ヒドロキシステアレート、CAS No70142-34-6は、疎水性の活性成分を可溶化するため、ならびに沈降および再結晶を防ぐために注射において使用される高分子界面活性剤である。その低い毒性および顕著な可溶化力は、それを高い濃度で使用することを可能にする。ポリソルベートと比較して、哺乳動物への投与後に非常に低いヒスタミン放出が見られた(ソルトール(登録商標)HS15-APotent Solubiliser with a Low Toxicity’ F. Ruchatz)。いくつかの研究は、この可溶化剤は、望ましい副作用として、いくつかの発癌細胞の抗癌剤に対する複数の耐性の突然変異を示し得るということを提示する(K. H. Fromming et. al., Acta Pharm. Technol. 36(4). 1990, 214-220; J.S. Coon et. al., Cancer Res. 51 (3). 1991, 897-902; J.S. Coon, Proc. Am. Assoc. Cancer Res. 33.1992, 484; D. Hoover et. al., Fundam. Appl. Toxicol. 14 (1990), 589 pp)。
【0074】
本発明のタキサンの固体組成物の調製方法は、以下のステップを含んでなる:
a)前記タキサンを、ポリマー、界面活性剤、油または賦形剤の非存在下で凍結乾燥有機溶媒に溶解することと、
b)凍結乾燥することと、
c)任意に乾燥すること。
【0075】
好ましい実施形態において、前記方法は、ステップa)において得られた溶液の滅菌ろ過により好ましくは行われる滅菌を含む。前記滅菌ろ過は、本発明において使用される凍結乾燥有機溶媒に対して不活性である物質のろ過膜を用いて行われる。使用に適したろ過膜は、テフロン(登録商標)またはナイロンであり、好ましい孔サイズは0.22μmである。γ線、UV等の他の滅菌方法が使用されてもよい。
【0076】
本発明の方法のステップa)は、タキサンの可溶化を達成するために力強い撹拌、超音波処理、加熱、他の溶媒の添加または当該分野で使用される他の装置を必要としないため、非常に単純である。一度凍結乾燥有機溶媒中のタキサン溶液が得られると、凍結乾燥するためのバイアル中に分けられる。凍結乾燥有機溶媒中の溶液は通常のポリソルベート溶液(粘度:約400cps)よりずっと粘度が低いため(1.2cps)、このステップも当該分野で既知の方法より単純且つ早い。それ故、方法が単純なだけでなく、本発明の方法を適用することにより生成時間が短縮される。
【0077】
時間、温度、圧力等の凍結乾燥の操作に関する変数は、広範な値を適用することができる。
この操作を首尾よく行うための異なる方法は、当該分野で既知である。参考文献は、発明者により実際に、記述する目的のみで行われるため、この操作を行うための可能な特定の態様からなる。
【0078】
粉末のタキサンが凍結乾燥有機溶媒に溶解された後、この溶液は、凍結乾燥が行われる容器中で凍結され;前記凍結産物は、その特性を改善するために熟成され;凍結乾燥は、凍結産物の融点近くのトレー温度(一般に、−20℃〜20℃に達する)、蒸気の固体への昇華が起こる凝結温度(一般に−40℃〜−100℃)、および凍結乾燥容器中の溶媒の蒸気圧より低い冷却器の圧力で行われる。
【0079】
二次的な乾燥は、20〜50℃、特に25℃〜35℃のトレー温度、1mmHgより低い全圧で、8時間以上行われる。
【0080】
本発明の好ましい実施形態において、前記製剤は、滅菌された容器中における凍結乾燥されたタキサンの固体組成物および水中におけるソルトール(登録商標)HS15の可溶化組成物から開始して調製され、他方と混合された後、例えば通常の生理食塩水またはデキストロース溶液のような灌流溶液中に注入され、2時間以上安定なタキサン溶液が得られ、腫瘍の治療を行っている患者に注入される。
【0081】
本発明は、通常の生理食塩水またはデキストロース溶液中の1mg/ml未満のタキサンを含む薬学的な灌流溶液を含んでなり、ソルトール(登録商標)のみを含み、有機溶媒、他の界面活性剤、油、他のポリマー、溶解性増強剤、保存剤および賦形剤を本質的に含まない。この灌流溶液は、本発明のタキサンの医薬製剤を用いて調製されるものである。本質的に有機溶媒を含まないとは、溶解性を増大させるためのエタノールのような有機溶媒の添加がないということを意味し、本発明の固体組成物の調製方法において残留し得る低い濃度の凍結乾燥有機溶媒のみを含んでよい。さらに、癌の治療のための哺乳動物、特にヒトにおけるタキサンの注入のための前記薬学的な灌流溶液は、毒性が低く、灌流工程に対してより短い時間を必要とし(30分未満)、ポリソルベート80、ポリオキシエチル化ヒマシ油、エマルジョンまたは他の成分を含まないため、ステロイドまたは抗ヒスタミン薬での前治療を必要としない。
【0082】
本発明のもう1つの好ましい実施形態は、本発明の凍結乾燥されたタキサンの固体組成物を含む第1の容器、本発明の可溶化組成物を含む第2の容器およびシリンジを含むキットを含んでなる。
【0083】
本発明のもう1つの好ましい実施形態において、前記シリンジは予め充填され、前記容器を含み、相互に独立であり、投与前に前記容器を連結するための手段を有し、任意にフィルターを有する。
【0084】
本発明の製剤において活性物質として使用され得る他の薬物を強調することには価値がある:アルブテロール、アダパレン、ドキサゾシンメシレート、フロン酸モメタゾン、ウルソジオール、アンホテリシン、マレイン酸エナラプリル、フェロジピン、塩酸ネファゾドン、バルルビシン、アルベンダゾール、接合エストロゲン、酢酸メドロキシプロゲステロン、塩酸ニカルジピン、酒石酸ゾルピデム、ベシル酸アムロジピン、エチニルエストラジオール、オメプラゾール、ルビテカン、ベシル酸アムロジピン/塩酸ベナゼプリル、エトドラク、塩酸パロキセチン、アトバコン、フェロジピン、ポドフィロックス、パリカルシトール、二プロピオン酸ベタメタゾン、フェンタニル、二塩酸プラミペキソール、ビタミンD3群および関連する類似体、フィナステリド、フマル酸クエチアピン、アルプロスタジルカンデサルタン、シレキセチル、フルコナゾール、リトナビル、ブスルファン、カルバマゼピン、フルマゼニル、リスペリドン、カルベマゼピン、カルビドパ/レボドパ、ガンシクロビル、サキナビル、アンプレナビル、カルボプラチン、グリブリド、塩酸セルトラリン、ロフェコキシブカルベジロール、プロピオン酸ハロベタゾール、クエン酸シルデナフィル、セレコキシブ、クロロサリドン、イミキモド、シンバスタチン、シタロプラム、シプロフロキサシン、塩酸イリノテカン、スパルフロキサシン、エファビレンツ、シサプリド一水和物、ランソプラゾール、塩酸タムスロシン、モファフィニル、アジスロマイシン、クラリスロマイシン、レトロゾール、塩酸テルビナフィン、マレイン酸ロシグリタゾン、ジクロフェナクナトリウム、塩酸ロメフロキサシン、塩酸チロフィバン、テルミサルタン、ジアゼパム、ロラタジン、クエン酸トレミフェン、サリドマイド、ジノプロストン、塩酸メフロキン、トランドラプリル、ドセタキセル、塩酸ミトキサントロン、トレチノイン、エトドラク、酢酸トリアムシノロン、エストラジオール、ウルソジオール、メシル酸ネルフィナビル、インジナビル、二プロピオン酸ベクロメタゾン、オキサプロジン、フルタミド、ファモチジン、ニフェジピン、プレドニゾン、セフロキシム、ロラゼパム、ジゴキシン、ロバスタチン、グリセオフルビン、ナプロキセン、イブプロフェン、イソトレチノイン、クエン酸タモキシフェン、ニモジピン、アミオダロン、およびアルプラゾラム、アムホテリシンB、シクロスポリン、エトポシド、トポテカン、メルファラン、イダルビシン、ドキソルビシン、ビノレルビン、ビンブラスチン、ビンクリスチン。
【0085】
明示的な基準が他のタイプの大きさを示さない限り、ここで使用される濃度に対する基準は重量/重量(w/w)である。
本発明の技術的および機能的な側面のより良い理解のために、本明細書の範囲を制限することなく、本発明に包含されるいくつかの変形を含む一連の実施例および先行技術の見地から相違点を評価するための比較例を以下に示す。
【実施例】
【0086】
物質:実験において、ガラスバイアルタイプI、20mm-広口、円筒部径22mm、高さ27mm、Nuova Ompi、公称容量7mlが使用された。凍結乾燥のための20mm シリンジ(apyrogen)キャップは、Helvoet Pharmaからの臭化ブチルを用いて滅菌された。
【0087】
使用された溶媒は良質であり、酢酸, Merk, 品目1.000632511; ジオキサン TEDIA, 品目 DR-0480; エタノール, Merck, 品目 1.009832511であった。蒸留水は、USPおよびEPの明細書に従って、注射液(WFI)に対する良質の水であった。ソルトール(登録商標)HS 15 BASF Trade Mark, 品目 No 51633963; ルトロール(登録商標)F68 (ポロキサマー 188) BASF, 品目 No 51633115; ルトロール(登録商標)E400 BASF, 品目 No 51632267。
【0088】
凍結乾燥アッセイは、MENTORユニットにより動かされるVIRTIS ADVANTAGE凍結乾燥器において行われた。HPLCの測定は、HPLC BECKMAN System Gold、溶媒モジュールモデル118、ダイオード検出器モデル116およびオートインジェクターWilsonモデル234、またはHPLC Waters モデル1525、バイナリーポンプおよびダイオードアレイ検出器、モデル2996、強制循環オーブン(forced circulation oven)Alltech (カラムサーモスタットJetstream 2 Plus)および自動サンプラーWaters 717 Plusにおいて行われた。溶媒量は、インジェクターAGILENT TECHNOLOGIES 7683 Bシリーズ、サンプラーPERKIN ELMER Head Space Turbo Matrix 40 および質量選択的な検出器AGILENT TECHNOLOGIES 5973ネットワーク質量選択的な検出器(Mass selective Detector)を備えたガスクロマトグラフィーAGILENT TECHNOLOGIES 6890N GCシステムにより分析された。
【0089】
例1
389mgの量のドセタキセルを、氷酢酸(予め1%の水を加え、100℃で1時間保持し、存在する全ての無水酢酸を加水分解する)中に溶解し、7.78mlの溶液(5%w/v)を得た。0.20mlを量り、7mlのフラスコ当り10mgのドセタキセルを得、それを−18℃で10時間凍結させて凍結乾燥した。ケークの形態の凍結乾燥粉末により形成されるドセタキセルの固体組成物が得られた。
【0090】
例2
酢酸中のドセタキセル凍結乾燥産物の調製:無水ドセタキセル溶液は、酢酸中への直接希釈により調製され、50mg/ml、40 mg/ml、20mg/ml、13.3 mg/ml、10 mg/mlの濃度の溶液が得られた。これらの溶液は、バイアルに分けられ、個々の容量が20mgのドセタキセルがそれぞれの場合について得られた。その後、各濃度についてそれぞれ0.4ml、0.5ml、1 ml、1.5 mlおよび2 mlが量られ、凍結乾燥することにより、酢酸の量が3%未満であるバイアル当り20mgのドセタキセルが得られ、見かけ密度は、0.05、0.04、0.02、0.013および0.01であった。
【0091】
例3
ジオキサン中のドセタキセル凍結乾燥物の調製:同じ方法で、ドセタキセルの溶液が13.3 mg/mlおよび10 mg/mlの濃度で調製され、1.5 mlおよび2 mlを量り、3%未満のジオキサン量で、各バイアル当り20mgのドセタキセルが得られ、見かけ密度はそれぞれ0.013および0.01であった。
【0092】
例4
再構築または可溶化の試験は、上記例2および3で得られた固体の凍結乾燥組成物を用いて行われた。前記例で得られたそれぞれ20mgのドセタキセルを含むバイアルに、ポリソルベート80:エタノール:水(25:9.75:65.25)により作られた可溶化組成物を加え、各試験の時間は、前記固体組成物が完全に可溶化されるのに必要な時間とし、結果として、沈殿のない透明な液体が観察された。結果は以下の表に示す。
【表1】

【0093】
同じ試験が、20mgの市販の(無水)ドセタキセルを用いて行われ、それを希釈することはできず、強い撹拌を行っても固体の状態が残った。
【0094】
例5
無水ドセタキセル(1.02g)、純度98.2%を250mlの容器に入れ、最終容積が100mlになるようにジオキサン中に溶解した。溶解されると、2mlのこの溶液を7mlのバイアルに入れ、予めふたをし、−60℃で240分間の凍結段階、−3℃で1500分間、100℃で1500分間の凍結乾燥、30℃で2420分間の最終的な乾燥を含む凍結乾燥サイクルに従って凍結乾燥した。各サンプルは、壁への付着のない均質な状態の凍結乾燥産物として現れ、見かけ密度は0.01g/mlであり、以下の溶媒混合物に容易に溶解した。
【表2】

【0095】
2番目を除くこれらの可溶化組成物の全てにおいて、現在入手可能な製剤よりも少ないポリソルベートが使用された。3番目においては5倍少ない量が使用され、4番目および5番目においては半分の量のみが使用された。1番目および6番目の可溶化組成物は、ポリソルベート80を含まないので、本発明において好ましいものである。
【0096】
例6
本発明の固体組成物についての安定性試験は、タキサンとしてドセタキセルを用いて60℃で行われ、比較は、商業的に入手可能なポリソルベート80の溶液中におけるドセタキセルを用いて行った。ドセタキセルの純度は、HPLCを用いて測定された。ピーク面積のパーセンテージとして測定されたドセタキセルの純度結果は、以下の表に示す。
【表3】

【0097】
凍結乾燥されたドセタキセル(「lyoドセタキセル」)は、現在入手可能な製剤において使用されるようなポリソルベート80中のドセタキセルの溶液よりも安定性を有する。本発明の固体組成物は、現在製剤において使用されるようなポリソルベート80中のドセタキセル溶液よりも優れた安定性を有する。
【0098】
例7
異なる可溶化組成物を用いて例5において得られるドセタキセル固体組成物は、再構築される。1分未満で透明な液体を得た後、気泡をなくすために2分おき、得られた溶液を、生理食塩水またはデキストロースの灌流溶液を含む容器に注入した。
【表4】

【0099】
凍結乾燥されたドセタキセル20mgの固体組成物を含む各バイアルは、4mlの可溶化組成物で再構築された。
【0100】
例8
純度98.2%、量1.025gの無水ドセタキセルを250mlの容器に入れ、最終容積80mlの酢酸に溶解した。溶解後、この溶液1.6mlを7mlのバイアルに入れた。各20mgを48回分得た。予めふたをし、−60℃で240分間の凍結段階、−5℃で1500分間、5℃で1500分間の凍結乾燥、および30℃で2170分間の最終的な乾燥を含むサイクルに従って凍結乾燥が行われた。凍結乾燥産物は、壁に対する付着のない均質な形態のケークとして得られ、見かけ密度は0.0125g/mlであった。凍結乾燥の工程により得られたドセタキセルの純度は、パーセント面積として99.2%であり、232nmにおいてUVにより検出され、ステンレススチールカラムWaters Simmetry C18, 4.6 mm×15 cm, 5μmおよびろ過され、脱気された移動相アセトニトリル:メタノール:水(26:32:42, v:v:v)を用いたHPLCが使用された。
【0101】
例9
例8で得られた異なるバイアルの凍結乾燥されたドセタキセルの固体組成物は、注射のために水で再構築された可溶化溶液および0.45μの膜によりろ過された異なる濃度のソルトール(登録商標)に、21G 1:1/2針を用いて加えられた。異なる実験の物理的安定性についての結果は、以下の表に示す。前記固体組成物と可溶化組成物を混合後、ドセタキセルが沈降するまでにかかる時間は、最後の欄において見られる。
【表5】

【0102】
例10
21G 1:1/2針を用いて、例8で得られた異なるバイアルの凍結乾燥ドセタキセルに、0.45ミクロンの膜でろ過された異なる量のソルトール(登録商標)の水溶液を異なる量で加えた。1分未満の撹拌により得られる溶液を、約5分間静置し、気泡の量を減少させ、5%デキストロース溶液および生理食塩水(0.9%)に注入し、灌流できる0.5mg/mlのドセタキセル溶液を得た。異なる実験の物理的安定性についての結果は、以下の表に「ドセタキセル沈降時間」として示す。
【表6】

【0103】
例11
酢酸中の5%パクリタキセル溶液を調製した(無水酢酸を含まない)。5mlのバイアルにこの溶液を入れ;それぞれ10mgのパクリタキセルが得られ、続いてそれを−18℃で10時間凍結した。外界温度で10時間、油真空ポンプを用いてバイアルを凍結乾燥し、35℃で48時間乾燥し、パクリタキセル固体組成物をケークとして得た。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
哺乳動物、好ましくはヒトに投与するためのタキサンの医薬製剤であって、投与前に混合される2つの組成物を含んでなり、沈殿のない透明な溶液を形成する医薬製剤:
ここで、
a)前記組成物の一方は、凍結乾燥されたタキサンの固体組成物であり、界面活性剤を含まず、凍結乾燥有機溶媒およびタキサンを含んでなる溶液における凍結乾燥により得られ、
b)他方は、少なくとも1の界面活性剤を含んでなる前記凍結乾燥されたタキサンの固体組成物の可溶化組成物である。
【請求項2】
請求項1に記載の製剤であって、前記固体組成物は、界面活性剤、油、ポリマー、溶解性増強剤、保存剤および賦形剤を含まない製剤。
【請求項3】
請求項1に記載の製剤であって、前記固体組成物は0.1g/ml未満の見かけ密度を有する製剤。
【請求項4】
請求項1に記載の製剤であって、前記固体組成物は0.004g/ml〜0.05g/mlの見かけ密度を有する製剤。
【請求項5】
請求項1に記載の製剤であって、前記固体組成物は0.006g/ml〜0.02g/mlの見かけ密度を有する製剤。
【請求項6】
請求項1に記載の製剤であって、前記固体組成物は、付加的な有機溶媒の非存在下で、20%ソルトール(登録商標)HS15の水溶液に1分未満で溶解する製剤。
【請求項7】
請求項1に記載の製剤であって、前記固体組成物は、60℃で少なくとも28日間、1%未満の分解で化学的に安定である製剤。
【請求項8】
請求項1に記載の製剤であって、前記固体組成物は残存する凍結乾燥有機溶媒の濃度が8%未満である製剤。
【請求項9】
請求項1に記載の製剤であって、前記固体組成物は残存する凍結乾燥有機溶媒の濃度が3%未満である製剤。
【請求項10】
請求項1に記載の製剤であって、前記凍結乾燥有機溶媒は、ジオキサン、酢酸、ジメチルスルホキシドまたはそれらの混合物を含んでなる群より選択される製剤。
【請求項11】
請求項1に記載の製剤であって、前記タキサンは前記溶液において0.1〜50%の濃度である製剤。
【請求項12】
請求項1に記載の製剤であって、前記タキサンの濃度は前記溶液において0.1〜6%である製剤。
【請求項13】
請求項1に記載の製剤であって、前記溶液は、界面活性剤、油、ポリマー、溶解性増強剤、保存剤および賦形剤の非存在下で、前記有機溶媒および前記タキサンのみを含んでなる製剤。
【請求項14】
請求項1に記載の製剤であって、前記有機溶媒はジオキサンである製剤。
【請求項15】
請求項1に記載の製剤であって、前記有機溶媒は酢酸である製剤。
【請求項16】
請求項1〜15のいずれか1項に記載の製剤であって、前記タキサンは、バッカチンIII誘導体、10-デアセチルバッカチンIIIに由来する誘導体ならびにそれらの接合体、塩、水和物および溶媒和物を含んでなる群より選択される製剤。
【請求項17】
請求項1〜15のいずれか1項に記載の製剤であって、前記タキサンは、ドセタキセル、その塩、水和物または溶媒和物である製剤。
【請求項18】
請求項1〜15のいずれか1項に記載の製剤であって、前記タキサンは、パクリタキセル、その塩、水和物または溶媒和物である製剤。
【請求項19】
請求項1〜18のいずれか1項に記載の製剤であって、前記可溶化組成物は少なくとも1の界面活性剤を含んでなる製剤。
【請求項20】
請求項1〜19のいずれか1項に記載の製剤であって、前記可溶化組成物は、有機溶媒の非存在下で高分子界面活性剤および水を含んでなる製剤。
【請求項21】
請求項1〜20のいずれか1項に記載の製剤であって、前記可溶化組成物は1%〜100%の濃度で界面活性剤を含んでなる製剤。
【請求項22】
請求項1〜20のいずれか1項に記載の製剤であって、前記可溶化組成物は5%〜40%の濃度で界面活性剤を含んでなる製剤。
【請求項23】
請求項19〜22のいずれか1項に記載の製剤であって、前記界面活性剤は高分子であり、マクロゴールヒドロキシステアレート、ポロキサマー、ポリビニルピロリドンまたはそれらの混合物からなる群より選択される製剤。
【請求項24】
請求項1〜23のいずれか1項に記載の製剤であって、ポリソルベート80を含まない製剤。
【請求項25】
請求項1〜23のいずれか1項に記載の製剤であって、ポリオキシエチル化ヒマシ油を含まない製剤。
【請求項26】
請求項19〜22のいずれか1項に記載の製剤であって、前記界面活性剤はソルトール(登録商標)HS15である製剤。
【請求項27】
請求項26に記載の製剤であって、前記可溶化組成物は、10〜50%のソルトールHS15および50%〜90%の水(P/P%)を含んでなる製剤。
【請求項28】
請求項1〜27のいずれか1項に記載の製剤であって、前記可溶化組成物は、少なくとも2時間沈殿することなく、少なくとも4mg/mlの濃度で前記固体組成物を溶解する製剤。
【請求項29】
請求項1〜28のいずれか1項に記載の製剤であって、前記溶液は、前記タキサンの固体組成物と前記可溶化組成物とを混合することにより得られ、灌流のための生理食塩水またはデキストロース溶液に注入した場合、インサイチューゲル化することなく透明であり、少なくとも2時間沈殿することなく安定である製剤。
【請求項30】
哺乳動物、特にヒトに対する医薬製剤の調製に適したタキサンの固体組成物であって、凍結乾燥されたタキサンを含んでなり、界面活性剤、油、ポリマー、溶解性増強剤、保存剤および賦形剤を含まない固体組成物。
【請求項31】
請求項30に記載の固体組成物であって、見かけ密度は0.001g/ml〜0.1g/mlである固体組成物。
【請求項32】
請求項30に記載の固体組成物であって、見かけ密度は0.004g/ml〜0.05g/mlである固体組成物。
【請求項33】
請求項30に記載の固体組成物であって、見かけ密度は0.0067g/ml〜0.02g/mlである固体組成物。
【請求項34】
請求項30に記載の固体組成物であって、付加的な有機溶媒の非存在下で、20%ソルトール(登録商標)の水溶液に1分未満で溶解する固体組成物。
【請求項35】
請求項30に記載の固体組成物であって、60℃で少なくとも28日間、1%未満の分解で化学的に安定である固体組成物。
【請求項36】
請求項30に記載の固体組成物であって、凍結乾燥産物の残留有機溶媒濃度が8%未満である固体組成物。
【請求項37】
請求項30に記載の固体組成物であって、残留凍結乾燥有機溶媒の濃度が3%未満である固体組成物。
【請求項38】
請求項30に記載の固体組成物であって、凍結乾燥有機溶媒およびタキサンを含んでなる溶液の凍結乾燥により得られる固体組成物。
【請求項39】
請求項38に記載の固体組成物であって、前記凍結乾燥有機溶媒は、ジオキサン、酢酸、ジメチルスルホキシドまたはそれらの混合物からなる群より選択される固体組成物。
【請求項40】
請求項38に記載の固体組成物であって、前記凍結乾燥有機溶媒はジオキサンである固体組成物。
【請求項41】
請求項38に記載の固体組成物であって、前記凍結乾燥有機溶媒は酢酸である固体組成物。
【請求項42】
請求項38に記載の固体組成物であって、前記タキサンは、0.1〜50%の濃度で前記溶液中に存在する固体組成物。
【請求項43】
請求項38に記載の固体組成物であって、前記タキサンは0.1〜6%の濃度で前記溶液中に存在する固体組成物。
【請求項44】
請求項38に記載の固体組成物であって、前記溶液は、界面活性剤、油、ポリマー、溶解性増強剤、保存剤および賦形剤の非存在下で、前記凍結乾燥有機溶媒および前記タキサンのみを含んでなる固体組成物。
【請求項45】
請求項30〜44のいずれか1項に記載の固体組成物であって、前記タキサンは、バッカチンIII誘導体、10-デアセチルバッカチンIII誘導体ならびにそれらの接合体、塩、水和物および溶媒和物を含んでなる群より選択される固体組成物。
【請求項46】
請求項30〜44のいずれか1項に記載の固体組成物であって、前記タキサンは、ドセタキセル、その塩、その水和物または溶媒和物である固体組成物。
【請求項47】
請求項30〜44のいずれか1項に記載の固体組成物であって、前記タキサンは、パクリタキセル、その塩、水和物または溶媒和物である固体組成物。
【請求項48】
哺乳動物、主にヒトに対する医薬製剤を調製するのに適したタキサンの固体組成物の調製方法であって、
a)界面活性剤、油、ポリマー、溶解性増強剤、保存剤および賦形剤の非存在下で、凍結乾燥有機溶媒に前記タキサンを溶解することと、
b)凍結乾燥することと、
c)任意に乾燥すること
を含んでなる方法。
【請求項49】
請求項48に記載の方法であって、滅菌工程も含んでなる方法。
【請求項50】
請求項49に記載の方法であって、前記滅菌工程は、請求項48のステップa)で得られた溶液を滅菌ろ過することを含んでなる方法。
【請求項51】
請求項48に記載の方法であって、前記タキサンは、バッカチンIII誘導体、10-デアセチルバッカチンIII誘導体、それらの接合体、塩、水和物および溶媒和物からなる群より選択される方法。
【請求項52】
請求項48に記載の方法であって、前記タキサンは、ドセタキセル、その塩、その水和物およびその溶媒和物である方法。
【請求項53】
請求項48に記載の方法であって、前記タキサンは、パクリタキセル、その塩、その水和物または溶媒和物である方法。
【請求項54】
哺乳動物、主にヒトに非経口的に注入するための注射可能な医薬製剤を調製するのに適したタキサンの固体組成物の可溶化組成物であって、少なくとも1の界面活性剤を含んでなる可溶化組成物。
【請求項55】
請求項54に記載の可溶化組成物であって、有機溶媒の非存在下で、高分子非イオン性界面活性剤および水を含んでなる可溶化組成物。
【請求項56】
請求項54または55に記載の可溶化組成物であって、高分子非イオン性界面活性剤を0.1%〜50%の濃度で含んでなる可溶化組成物。
【請求項57】
請求項54または55に記載の可溶化組成物であって、高分子非イオン性界面活性剤を10%〜40%の濃度で含んでなる可溶化組成物。
【請求項58】
請求項54〜57のいずれか1項に記載の可溶化組成物であって、前記界面活性剤はソルトール(登録商標)HS15である可溶化組成物。
【請求項59】
生理食塩水またはデキストロース溶液中における1mg/ml未満のタキサンを含有し、ソルトール(登録商標)を含み、有機溶媒、他の界面活性剤、油、他のポリマー、溶解性増強剤、保存剤および賦形剤を含まない薬学的な灌流溶液。
【請求項60】
請求項59に記載の溶液であって、前記タキサンはドセタキセルである溶液。
【請求項61】
注射可能なタキサンの製剤のためのキットであって、請求項30〜47のいずれか1項に記載の凍結乾燥されたタキサンの固体組成物を含む第1の容器と、前記タキサンの固体組成物の可溶化組成物を含む第2の容器と、シリンジとを含んでなるキット。
【請求項62】
請求項61に記載のキットであって、前記シリンジは予め充填され、前記第1の容器および前記第2の容器を含んでなるキット。
【請求項63】
哺乳動物、好ましくはヒトに対する非経口的な注入溶液を調製するのに適したタキサンの注射可能な製剤を調製するためのキットであって、請求項30〜47のいずれか1項に記載の凍結乾燥されたタキサンの固体組成物、請求項54〜58のいずれか1項に記載の前記タキサンの固体組成物の可溶化組成物、およびシリンジを含んでなり、前記可溶化組成物と前記タキサンの固体組成物とを混合し、少なくとも2時間は沈殿を生じない、非経口的な輸液バッグに注入される少なくとも4mg/mlの濃度のタキサンの透明且つ安定な溶液を得るためのキット。

【公表番号】特表2009−523770(P2009−523770A)
【公表日】平成21年6月25日(2009.6.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−550785(P2008−550785)
【出願日】平成19年1月18日(2007.1.18)
【国際出願番号】PCT/ES2007/070012
【国際公開番号】WO2007/082978
【国際公開日】平成19年7月26日(2007.7.26)
【出願人】(508220353)エリオチェム・エス.エー. (1)
【氏名又は名称原語表記】ERIOCHEM S.A.
【住所又は居所原語表記】Ruta 12 km. 452,Colonia Avellaneda,Parana,Entre Rios, ARGENTINA
【Fターム(参考)】