説明

タキソイドの経口投与用自己乳化および自己ミクロ乳化製剤

タキソイドの経口投与用自己乳化および自己ミクロ乳化製剤が開示されている。本発明は経口投与用タキソイドの新規製剤に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はタキソイドの経口製剤に関する。本発明の製剤で使用されるタキソイドは好ましくは一般式(I)
【化1】

[式中、R1はH、アシル(C2−C4)、アルキル(C1−C3)であり、
R2はOH、アルコキシであるか、またはR2およびR3はメチレンであり、
R3はCH3であるか、またはR2およびR3はメチレンであり、
R4はOCOCH3またはOCOOCH3であり、
Rはフェニル、アルコキシ(C3−C4)またはアルケニルオキシ(C3−C4)、好ましくはフェニルまたはt−ブトキシであり、
R'は場合により置換されるアリール、好ましくはフェニル、またはアルキル(C2−C4)もしくはアルキレン(C2−C4)である]の化合物である。
【0002】
本発明の製剤で使用されるタキソイドは、例えば、下記式(Ia)〜(If):
【化2】

【化3】

のタキソイドである。
【背景技術】
【0003】
一般式(Ia)〜(If)のタキソイドおよびそれらの用途は知られている。これらのタキソイドは化学療法剤として使用するのに特に有利である。
【0004】
残念ながら、タキソイドは難水溶性の化合物である。分子は比較的高分子量であり、僅かに親油性である。今まで、タキソイドは特に高い含有量のPS80またはクレモフォールからなる製剤を使用して静脈内的に投与される。本発明の目的は経口投与用タキソイド製剤を開発することであった。
【0005】
タキソイドのPS80またはクレモフォール製剤の経口投与はおそらく高い代謝率のために、例えばイヌのような動物で極めて低い生体利用性をもたらした。さらに、高い含有量のPS80からなる製剤(例えば1gのPS80あたり40mg未満のタキソイド)は腸粘膜に接触するとPS80の潜在的な毒性を示すため経口投与するのに望ましくない。その上、投与量増加試験は胃腸液中でのタキソイドのPS80可溶化能力が限られているため溶解限度により予想された投与量を可能にしないであろう。最終的に、投薬形態の製薬上の開発が主要な問題となるであろう:実際に、PS80溶液の水性溶媒による即時希釈は細胞毒性薬の経口投与を想定することができない。
【0006】
数多くの文献が疎水性の活性成分を可溶化し、そして/またはその生体利用性を高めるのに適した系を開示している。しかしながら、試験された系は安定で生体利用可能なタキソイドを含有し、タキソイドを有効な濃度で経口的に投与することができる医薬組成物の製造には効果がないことがこれまで証明されている。
【0007】
WO 95/24893は疎水性薬剤のためのデリバリーシステムを開示している。この出願は疎水性の活性成分の製剤化およびそれらの生体利用性の増強のために意図された消化できる油、親油性界面活性剤および親水性界面活性剤を含有する組成物を開示している。
WO 99/49848は抗ガン剤、例えば活性薬剤が安定な自己乳化性プレ濃縮物として製剤化されるパクリタキセルの薬物投与形態を開示している。WO 99/49848はトリ−、ジ−またはモノグリセリド、遊離脂肪酸、脂肪酸エステルまたはその誘導体から選択される少なくとも1種の疎水性成分;ヒドロキシアルカン、ジヒドロキシアルカンまたはポリエチレングリコール(PEG)から選択される親水性成分;および少なくとも1種の界面活性剤からなる担体系中における抗ガン剤を含有する組成物を開示している。
【0008】
EP 0 152 945 B1は油成分、界面活性剤、補助界面活性剤、場合により水で構成される系中に1種または数種の活性成分を含有する薬学的に使用される透明な多成分系を開示している。
EP 0 670 715 B1はマイクロエマルジョンを生成することができ、少なくとも1種の活性成分、親油性相、界面活性剤、補助界面活性剤(co-surfactant)および親水性相を特定の組成で含有する薬学的に使用される摂取可能な組成物を開示している。
EP 0 334 777 B1は水溶性相および脂質相からなり、少なくとも1種のポリエチレングリコール系界面活性剤および少なくとも1種のポリグリセロール系補助界面活性剤を含有する薬学的に使用されるマイクロエマルジョンを開示している。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
今般、本発明の主題を構成するもの、すなわち化学的かつ物理的に安定な経口投与用タキソイド製剤を製造することができることを見い出した。本発明は少なくとも1種のタキソイドと好ましくはラブラゾル(Labrasol)(登録商標)(PEGおよび飽和脂肪酸のグリセリド)である親水性を有する少なくとも1種の両親媒性界面活性剤を含有するタキソイドの経口投与用自己乳化製剤に関する。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の好ましい態様において、製剤は1mlのラブラゾル(登録商標)あたり200mgまでのタキソイド、例えば1mlのラブラゾル(登録商標)あたり150mgのタキソイド、好ましくは1mlのラブラゾル(登録商標)あたり5〜100mg、例えば5mg/ml、10mg/ml、20mg/ml、30mg/ml、40mg/ml、50mg/ml、60mg/ml、70mg/ml、80mg/ml、90mg/mlまたは100mg/mlのタキソイドを含有する。
【0011】
タキソイド/ラブラゾル(登録商標)製剤はさらに特定の添加剤を含有することができ、それらは安定剤、保存剤、粘度を調整することができる物質、または例えば官能特性を変性することができる物質である。
【0012】
他の見地において、本発明は少なくとも1種のタキソイド、クレモフォールEL(Cremophor EL)(登録商標)(POE硬化ヒマシ油)、少なくとも1種の補助界面活性剤および少なくとも1種の油を含有するタキソイドの経口投与用自己ミクロ乳化(SMES)製剤に関する。
【0013】
補助界面活性剤はHLB(HLBは親水性−親油性バランスを意味する)が10未満の親油性を有する両親媒性界面活性剤である。補助界面活性剤は好ましくはペセオール(Peceol)(登録商標)(グリセリルモノオレエート)、ラウログリコール129(Lauroglycol 129)(登録商標)(PGモノラウレート)、カプリオール90(Capryol 90)(登録商標)(ポリエチレングリコールモノカプリレート)、マイシン35−1(Maisine 35-1)(登録商標)(グリセリルモノ−ジカプリレート)およびインウィター988(Imwitor 988)(登録商標)(グリセリルモノ−ジカプリル)から選択される。
【0014】
油は好ましくは中鎖トリグリセリドである。中鎖トリグリセリドは好ましくはミグリオール812N(Miglyol 812N)(登録商標)である。
補助界面活性剤の量は好ましくは(重量パーセントで)50%未満、より好ましくは40%未満、例えば35%、30%、25%、20%、15%、10%または5%である。油濃度は好ましくは40%未満、より好ましくは30%未満、例えば25%、20%、15%、10%または5%である。本発明の好ましい態様において、界面活性剤と補助界面活性剤の比率は3:1またはそれ以上(すなわち5:1または6:1)であり、そして油濃度は20%である。
本発明の好ましい態様において、SMES製剤は5〜50mg/g、好ましくは50mg/gに近い量でタキソイドを含有する。
【0015】
本発明の好ましい態様において、製剤は次の組成の1つを有する:
・クレモフォールEL/マイシン/ミグリオール812N、または
・クレモフォールEL/ラウログリコール90/ミグリオール812N、または
・クレモフォールEL/カプリオール90/ミグリオール812N、または
・クレモフォールEL/ペセオール/ミグリオール812N、または
・クレモフォールEL/インウィター988/ミグリオール812N
【0016】
本発明の好ましい態様において、製剤は次の組成の1つを有する:
・50mg/gのクレモフォールEL/マイシン/ミグリオール812Nまたは
・50mg/gのクレモフォールEL/ラウログリコール90/ミグリオール812Nまたは
・50mg/gのクレモフォールEL/カプリオール90/ミグリオール812Nまたは
・50mg/gのクレモフォールEL/ペセオール/ミグリオール812Nまたは
・50mg/g SMES(5)のクレモフォールEL/インウィター988/ミグリオール812N
【0017】
本発明の好ましい態様において、SMESは1gの製剤あたり50mgのタキソイドを含有し、当該製剤は60重量%のクレモフォールEL、20重量%のインウィター888および20重量%のミグリオール812Nを含有する。
【0018】
タキソイド/SMES製剤はさらに特定の添加剤を含有することができ、それらは安定剤、保存剤、粘度を調整することができる物質、または例えば官能特性を変性することができる物質である。
【0019】
他の見地において、本発明は、適当ならば固体または半固体の賦形剤の場合は必要に応じて加熱後に主要な賦形剤を混合し、次に必要に応じて追加の添加剤と混合し、次にタキソイドと混合されて製造され、そして均質な混合物とするために攪拌が維持される前記自己乳化製剤の製造法に関する。
【0020】
戦略法は生体内でコロイド系(微細なエマルジョンまたはミセル溶液)を生成することができる両親媒性物質および脂質を基剤とする製剤を使用することにより水性溶媒中でのタキソイドの可溶化を高めることができる製剤を得ることである。
【0021】
両親媒性物質および脂質を基剤とする製剤のうち3種類が特定された:
両親媒性ポリマー(ミセルまたはエマルジョン生成)
リン脂質(脂質小胞生成)
SMES(自己ミクロ乳化系):油+界面活性剤+補助界面活性剤(マイクロエマルジョン生成)
【0022】
(安全性および開発可能性に関して)適切な賦形剤を最初に選択した後、賦形剤に対するタキソイドの溶解度は、賦形剤およびプロトタイプを選択するための最初のスクリーニング工程であった。次に、プロトタイプ(液体または半固体)を製造し、模擬GI液における試験管内での作用および化学的安定性に関して特徴付けた。最後に、半固体プロトタイプの物理的特性および安定性を調べた。
【0023】
両親媒性物質および脂質を基剤とする製剤の成分として文献に記載の異なる種類の賦形剤をタキソイドの溶解度について試験した:
1. 油(中鎖トリグリセリド、脂肪酸、...)
2. 親水性を有する両親媒性界面活性剤(HLB>10)(PEOソルビタン脂肪酸、ヒマシ油エトキシレート、脂肪酸エトキシレート)
3. 親油性を有する両親媒性界面活性剤(HLB<10)(脂肪酸のグリセリド:グリセリルオレイン酸/リノール酸、オレオイルマクロゴールグリセリド;プロピレングリコール誘導体:PGカプリル酸/リノール酸)
4. リン脂質(レシチン)
5. 親水性溶媒(PEG 400、...)
【0024】
すべての選択された賦形剤は経口投与するのに安全であると記載されており、(単独または混合物で)医薬投薬形態(軟質または硬質カプセル剤)として開発可能である。
室温での液体形態の選択された賦形剤の化学組成および式Ibのタキソイドの溶解度を下記の表1に記載する。
【0025】
【表1】

【0026】
【表2】

【0027】
室温での半固体形態の選択された賦形剤の化学組成および式Ibのタキソイドの溶解度を下記の表2に記載する。賦形剤を予め70℃まで溶かして薬剤を溶解した。
【0028】
【表3】

【0029】
室温での式Ibのタキソイドの溶解度をX線回折により定量した。式Ibのタキソイドの溶解度を考慮して3種類のドラッグデリバリーシステムについて次の賦形剤を残した:
脂質小胞生成のためにフォーザル75 SAおよびホスホリポン90H
エマルジョン生成のためにラブラゾル
マイクロエマルジョン生成:界面活性剤としてマイリジ45、PS 80、クレモフォールEL、ラブラゾル;補助界面活性剤としてマイシン、 カプリオール90、ペセオール、ラウログリコール90、インウィター 988;油としてミグリオール812N、エデノール。
【0030】
最初の2種類について、賦形剤を次の濃度で薬剤との2成分系として製剤化した:
フォーザル75 SA(溶液):1gの製剤あたり100mg
ホスホリポン90H(固体粉末):1gの製剤あたり50、100mg
ラブラゾル(溶液):1gの製剤あたり50、100、200mg
【0031】
SMES種(3成分系)について、水で無限希釈した後にマイクロエマルジョン(液滴の大きさ<30nm)を生成することができる製剤を特定するために、活性成分なしで様々な割合で組合せた油、界面活性剤(HLB>10)および補助界面活性剤(HLB<10)としての賦形剤の最初のスクリーニングが必要であった。このスクリーニングで次のSMESが特定された:
50mg/gのクレモフォールEL/マイシン/ミグリオール812N
50mg/gのクレモフォールEL/ラウログリコール90/ミグリオール812N
50mg/gのクレモフォールEL/カプリオール90/ミグリオール812N
50mg/gのクレモフォールEL/ペセオール/ミグリオール812N
50mg/gのクレモフォールEL/インウィター988/ミグリオール812N
【0032】
保持された製剤中の賦形剤間の割合は以下の通りであった:
界面活性剤:補助界面活性剤比 3:1、油濃度20%。
【0033】
投与量は治療する症状の程度または性質に応じて変動することは理解されよう。したがって、本発明の組成物中における活性成分の量は適当な投与量が処方され得るように決定される。結果として、タキソイドの量は混合物に対する溶解度の関数として、また患者を治療するのに適した投与量の関数として変動する。好ましくは、マイクロエマルジョンの不安定化が起こるのを回避するために10%w/wより多いタキソイドを加えないように注意を払う必要がある。
【0034】
ヒトでは最も適当な1日投与量を選択するために、患者の体重、全身の健康状態、年齢および治療効果に影響を与え得るすべての要因を考慮する必要があることは理解されよう。好ましくは、組成物は投与単位が0.1〜50mgの活性成分を含有するように製造される。
【0035】
別法として、第2の活性成分が導入される場合、本組成物は0.2〜50mgを含有する。しかしながら、この量は場合により低めであってよく、0.2〜10mgと変動する。
本組成物がさらに特定の添加剤を含有する場合、それは安定剤、保存剤、粘度を調整することができる物質、または例えば官能特性を変性することができる物質であってよい。
【0036】
安定剤は例えば特にα−トコフェロール、パルミチン酸アスコルビル、BHT(ブチルヒドロキシトルエン)、BHA(ブチルヒドロキシアニソール)、没食子酸プロピルまたはリンゴ酸から選択される抗酸化剤である。
保存剤は例えばメタ重亜硫酸ナトリウム、プロピレングリコール、エタノールまたはグリセリンから選択される。
【0037】
粘度を調整することができる物質は例としてレシチン、リン脂質、アルギン酸プロピレングリコール、アルギン酸ナトリウムまたはグリセリンが挙げられる。
組成物の官能特性を変性することができる物質は例えばリンゴ酸、フマル酸、グリセリン、バニリンまたはメントールである。
このような添加剤が使用される場合、それは全組成物の0.001〜5重量%を構成し得る。
【0038】
本発明によれば、医薬組成物は適当ならば(固体または半固体の賦形剤の場合、必要に応じて加熱後に)主要な賦形剤を混合し、次に必要に応じて追加の添加剤と混合し、次にタキソイドを加え、そして均質な混合物とするために攪拌を維持することにより得られる。
【0039】
本発明の組成物は液体状態で提供することができる。これらは硬質ゼラチンカプセル剤もしくは軟質ゼラチンカプセル剤の形態、または経口液剤の形態で提供するのに特に適している。
本発明の組成物はそれらの物理的かつ化学的に良好な安定性、およびタキソイドの経口投与によりもたらす生体利用性の増大のため特に有利である。
【0040】
次の実施例により本発明の製剤を詳しく説明するが、これらに限定されない。
【実施例】
【0041】
実施例1:プロトタイプの製造
1.1 原料
式Ibのタキソイド
ミグリオール812N(コンディ・ビスタ社、ニュージャージ州クランフォード、米国)
ラブラゾル(ガットフォセ、サン・プリースト、フランス)
クレモフォールEL(BASF AG、ルートウィヒスハーフェン、ドイツ)
カプリオール90(ガットフォセ、サン・プリースト、フランス)
ラウログリコール90(ガットフォセ、サン・プリースト、フランス)
ペセオール(ガットフォセ、サン・プリースト、フランス)
マイシン35−1(ガットフォセ、サン・プリースト、フランス)
インウィター988(コンディ・ビスタ社、ニュージャージ州クランフォード、米国)
フォーザル75SA(ナッターマン、ケルン、ドイツ)
ホスホリポン90H(ナッターマン、ケルン、ドイツ)
PS80 VG DF(セピック、パリ、フランス)
【0042】
1.2 溶液の調製
計量した薬剤を賦形剤中で分散させ、次に完全に溶解するまで(約3〜5時間)機械的に撹拌した。SMES製剤の場合、薬剤を予め互いに均質化した3種の賦形剤の混合物中に溶解した。
【0043】
1.3 固体分散体の調製
薬剤および賦形剤(ホスホリポン90H)をバルーン反応器において無水エタノール中で分散させ(0.1gの薬剤、0.9gの賦形剤、6gのエタノール)、次に溶解するまで50℃で加熱した。溶媒を回転蒸発器(150〜200ミリバール、1時間30分、110rpmの回転)により蒸発させてフワフワした白い粉末を生成した。
【0044】
1.4 化学的安定性
様々な製剤の化学的安定性は重要なパラメーターである。プロトタイプをまとめて(ガラスビンに)60%(±5%)の相対湿度(RH)において+5℃(±3℃)、25℃(±2℃)および30℃(±2℃)で、また75%(±5%)のRHにおいて40℃(±2℃)で3ヶ月まで保存した。安定性はHPLCにより定量される効力で評価し、さらに比較物質もまた評価した。薬剤の投与量および安定性試験について分析したプロトタイプを下記の表に示す。
【表4】

【0045】
SMES製剤を除けば、すべての製剤が75%のRHにおいて40℃で3ヶ月間安定である。実際に、SMESは25℃で1ヶ月間安定であるが、40℃で式Ibのタキソイドの不純物(加水分解)
が現れる(補助界面活性剤の性質に応じてt1ヶ月で1.15〜3.88%)。試料を3ヶ月間分析することにより、この不純物の増加が重要であるかどうかを評価することができた:3ヶ月後、式Ibのタキソイドの不純物含有量の増加が確認された。SMESは5℃で7ヶ月間安定である。
【0046】
実施例2:模擬gi液を使用する試験管内での作用
模擬gi液でインキュベーションした後の放出特性
模擬溶液の組成
本実験のために次の模擬液を選択した:
胃液USP、pH1.2
絶食腸液、pH6.8(参照文献:DressmanらのPharm. Res., 1998)
摂食腸液、pH5(参照文献:DressmanらのPharm. Res., 1998)
【0047】
【表5】

【0048】
2.1 実験条件
実験の最初の工程において、製剤(1gの製剤あたり100mgの薬剤、硬質ゼラチンカプセル中における500mgの製剤)を胃液(1個のカプセル/250mL)で1:500に希釈し、次にUSP標準溶解装置において撹拌下(50rpm)、37℃で2時間インキュベートした。放出特性に関して薬剤/賦形剤および賦形剤/溶液の比率の効果を試験するために低い濃度の製剤(1gの製剤あたり50mgの薬剤)を入れた2個のカプセルを使用して同じ実験を胃液で行なった。実験の第2工程において、胃内容排出過程をシミュレートするために胃液で最初のインキュベーションを1時間行ない、次に絶食腸液または摂食腸液でインキュベーションを2時間行なった。
【0049】
試料を5分、15分、30分、60分および2時間後に採取した。遠心(6000rpm、10分)後に薬剤濃度をHPLCにより定量した。溶液の均質性を容器の下部、中間部および上部で試料採取することにより評価した。
【0050】
2.2 結果
100mg/gの製剤による胃液での薬剤放出特性を図1に示す。フォーザルからの製剤データで得られた特性はこれらの製剤がインキュベーション後に非常に不均質な混合物を生成したため典型的とは言えない。ラブラゾル製剤は遠心後に回収した薬剤の量が低い(放出特性を参照)にも関らず、胃液との非常に均質なエマルジョンを生成し、このことは粗いエマルジョンについて、遠心(エマルジョンの崩壊を決める)がその試験管内での作用を推測できることを示唆している。ホスホリポン90Hでの実験は粉末の浮遊により均質な懸濁液を生成しなかったために停止した(データ収集なし)。
【0051】
試験したすべての5種の自己ミクロ乳化系(SMES)の試験管内での特性は数分で100%の“放出”を示した(図2を参照)。しかしながら、遠心によりSMESの水相および油相を分離することができないという事実はSMESが遠心後にまだ水相(胃液)中に微細分散しており、薬剤がまだ極めて小さなマイクロエマルジョンの液滴中に可溶化していることを意味している。にも関らず、SMES系はその化学的安定性が問題(調べる薬剤の化学的安定性に対する吸湿性界面活性剤または補助界面活性剤の存在の影響)であっても明らかに極めて興味深い。
【0052】
実施例3:胃液(USP)でインキュベートした後の粒径分析
本試験のこの部分の目的は粒径を測定することにより胃液でインキュベートした後の式Ibのタキソイド製剤のエマルジョン/マイクロエマルジョン/ミセル溶液のコロイド安定性および自己乳化性を評価することであった。
【0053】
3.1 実験条件
製剤(濃度:1gの製剤あたり100mgの薬剤、100mgの製剤)を胃液(50mL)で1:500に希釈し、次に機械的撹拌下(300rpm)、37℃で2時間インキュベートした。粒径を測定するために試料をすぐに水で希釈し、または必要に応じて2μmのフィルター上でろ過した。ろ過により>2μmの油滴および>2μmの薬剤結晶を保持することができ、QELS(準弾性光散乱)(ナノサイザーN4+、ベックマン−コールター)により粒径を測定することができた。
【0054】
3.2 結果
図3および4を見てわかるように、活性成分の濃度が50mg/gの製剤の場合だけ<50nmの粒径が得られた:5種のマイクロエマルジョン(それらの組成に関らず)。
これらの結果は生体内でより良好な作用を示すために胃液中で単分散の小滴を生成することができる製剤を使用することを示唆している。さらに、製剤の大きさおよびコロイド安定性に関する胆汁塩(biliary salts)の効果を評価するために模擬腸液での実験を行なうべきである。
【0055】
3.3 式Ibのタキソイド製剤の評価に関する予備的な結論
式Ibのタキソイドの経口投与用製剤の模擬GI液における試験管内での作用および促進条件下での化学的安定性に関するすべての結果を下記の表に要約する。
【0056】
【表6】

【0057】
5種のSMESの試験管内での作用は殆んど同一であるため、さらに評価するために推奨されたSMESは補助界面活性剤としてインウィター988を含有するものであり、実際に、この賦形剤は一般に親水性界面活性剤(例えばクレモフォール)で起こる脂肪分解の阻害を防ぐことができるといわれ、薬剤を放出および吸収するための脂質(ミグリオール)の消化を可能にする。式Ibのタキソイドの吸収は重要な工程ではないため、(リンパ経路による完全な液滴の取り込みを高める)脂肪分解の遅延は望ましくない。
【0058】
【表7】

【0059】
100mg/gではラブラゾル製剤だけが(放出特性および液滴の大きさに関して)有望な作用を示した。
【0060】
4. 結論および詳細検討
【表8】

【0061】
実施例5:式Ibのタキソイド−ビーグル犬における様々な製剤の比較:
3匹の雄のビーグル犬を0.5mg/kgの投与量で次の製剤:ポリソルベート80;50mg/gの自己ミクロ乳化系(SMES)(組成:60%のクレモフォールEL、20%のインウィター988、20%のミグリオール812N);式Ibの14C−タキソイドのナノ結晶懸濁液で試験した。血漿中放射能特性はLSCにより測定した。
【0062】
結果:
ビーグル犬に式IbのC−14−タキソイドを0.5mg/kgのPS 80製剤で単回経口投与した後に血漿中放射能濃度を定量した(図5)。
ビーグル犬に式IbのC−14−タキソイドを0.5mg/kgのSMES製剤で単回経口投与した後に血漿中放射能濃度を定量した(図6)。
ビーグル犬に式IbのC−14−タキソイドを0.5mg/kgのナノ結晶製剤で単回経口投与した後に血漿中放射能濃度を定量した(図7)。
ビーグル犬No1に式IbのC−14−タキソイドを0.5mg/kgで単回経口投与した後に血漿中放射能濃度を定量した(図8)。
ビーグル犬No2に式IbのC−14−タキソイドを0.5mg/kgで単回経口投与した後に血漿中放射能濃度を定量した(図9)。
ビーグル犬No3に式IbのC−14−タキソイドを0.5mg/kgで単回経口投与した後に血漿中放射能濃度を定量した(図10)。
ビーグル犬に式IbのC−14−タキソイドを0.5mg/kgで単回経口投与した後に最大血漿中放射能濃度(Cmax)を定量した(図11)。PS 80およびSMES製剤に関して血漿中放射能Cmaxの違いはなかった。PS 80またはSMESおよびナノ結晶製剤に関しては有意な違いがあった。
ビーグル犬に式IbのC−14−タキソイドを0.5mg/kgで単回経口投与した後に血漿中の放射能量(AUC(0〜48時間))を定量した(図12)。PS 80およびSMES製剤に関して血漿中放射能AUCの違いはなかった。PS 80またはSMESの平均AUCはナノ結晶よりも1.6倍高かった。
【0063】
これらの結果は次のように要約することができる:
・PS 80および自己ミクロ乳化製剤に関して放射能の迅速な吸収(tmax 0.5〜2時間)および放射能濃度の低い変動性(Cmax についてC.V.<11%)が観察された。
・ナノ結晶製剤に関して放射能の迅速からゆっくりとした吸収(tmax 0.5〜4時間)および放射能濃度の高い変動性(Cmax についてC.V.<49%)が観察された。
・PS 80および自己ミクロ乳化製剤に関して血漿中放射能CmaxおよびAUC(それぞれ320±25対366±57ng eq.h/mL)の違いはなかった。
・PS 80または自己ミクロ乳化製剤に関して血漿中放射能の平均CmaxおよびAUCはナノ結晶より少なくとも1.6倍高い。
【図面の簡単な説明】
【0064】
【図1】模擬胃液における100mg/gの様々な製剤の式Ibのタキソイドの放出特性。
【図2】模擬胃液における50mg/gの自己ミクロ乳化系(SMES)の式Ibのタキソイドの放出特性。
【図3】模擬胃液における式Ibのタキソイド製剤の粒径。
【図4】模擬胃液における50nm未満の液滴をもたらす式Ibのタキソイド製剤の粒径。
【図5】式Ibのタキソイド−PS80製剤のPK特性。
【図6】式Ibのタキソイド−SMES製剤のPK特性。
【図7】式Ibのタキソイド−ナノ結晶の式IbのタキソイドのPK特性。
【図8】式Ibのタキソイド−イヌNo.1における3種の製剤のPK特性。
【図9】式Ibのタキソイド−イヌNo.2における3種の製剤のPK特性。
【図10】式Ibのタキソイド−イヌNo.3における3種の製剤のPK特性。
【図11】式Ibのタキソイド−ビーグル犬における様々な製剤の血漿中放射能Cmaxの比較。
【図12】式Ibのタキソイド−ビーグル犬における様々な製剤の血漿中放射能AUCの比較。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも1種のタキソイド、少なくとも1種の補助界面活性剤、少なくとも1種の油および界面活性剤(クレモフォールEL(登録商標))を含有するタキソイドの経口投与用自己ミクロ乳化製剤。
【請求項2】
少なくとも1種のタキソイド、少なくとも1種の補助界面活性剤、少なくとも1種の油、1種の界面活性剤(クレモフォールEL(登録商標))、および安定剤、保存剤、粘度を調整することができる物質、または官能特性を変性することができる物質から選択される少なくとも1種の追加の添加剤を含有するタキソイドの経口投与用自己ミクロ乳化製剤。
【請求項3】
補助界面活性剤はHLBが10未満の親油性を有する両親媒性界面活性剤である、請求項1または2記載の自己ミクロ乳化製剤。
【請求項4】
補助界面活性剤はペセオール(登録商標)、ラウログリコール129(登録商標)、カプリオール90(登録商標)、マイシン35−1(登録商標)およびインウィター988(登録商標)から選択される、請求項1〜2の何れかの項記載の自己ミクロ乳化製剤。
【請求項5】
油はミグリオール812N(登録商標)である、請求項1〜4の何れかの項記載の自己ミクロ乳化製剤。
【請求項6】
補助界面活性剤の量は50重量%未満である、請求項1〜5の何れかの項記載の自己ミクロ乳化製剤。
【請求項7】
油濃度は40%未満である、請求項1〜6の何れかの項記載の自己ミクロ乳化製剤。
【請求項8】
界面活性剤と補助界面活性剤の比率は3:1であり、そして油濃度は20%である、請求項1〜7の何れかの項記載の自己ミクロ乳化製剤。
【請求項9】
タキソイド濃度は10%w/wを超えない、請求項1〜8の何れかの項記載の自己ミクロ乳化製剤。
【請求項10】
タキソイド濃度は1〜50mg/gである、請求項9記載の自己ミクロ乳化製剤。
【請求項11】
製剤は60重量%のクレモフォールEL、20重量%のインウィター888および20重量%のミグリオール812Nを含有する、請求項1〜10の何れかの項記載の自己ミクロ乳化製剤。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公表番号】特表2009−513557(P2009−513557A)
【公表日】平成21年4月2日(2009.4.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−519898(P2006−519898)
【出願日】平成16年7月15日(2004.7.15)
【国際出願番号】PCT/EP2004/008550
【国際公開番号】WO2005/014048
【国際公開日】平成17年2月17日(2005.2.17)
【出願人】(598006222)アベンティス・ファーマ・ソシエテ・アノニム (30)
【Fターム(参考)】