説明

タッチパネル、ならびにタッチ式入力装置およびその制御方法

【課題】ペンでも指でも検知が可能で、マルチタッチに対応でき、さらに押圧力検知が可能であり、透明電極の使用量を極力小さくすることができる、タッチパネルを提供する。
【解決手段】所定の延伸軸方向10を有するL型ポリ乳酸からなる圧電シート3を備える、タッチパネル1において、圧電シート3に形成された互いに対向する電極21a〜24aは、圧電シート3の全面を覆わず、離散的に複数箇所に分布するように複数組形成される。圧電シート3は、延伸軸方向10とは一致しない方向11aおよび11bに張力が付与される状態にされる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、タッチパネル、ならびにタッチ式入力装置およびその制御方法に関するもので、特に、圧電シートを用いたタッチパネル、ならびにこれを用いて構成されるタッチ式入力装置およびその制御方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、いわゆるタッチパネル方式を採用した入力装置、すなわちタッチ式入力装置が大幅に増加している。銀行ATMや駅の券売機のみならず、携帯電話機、携帯ゲーム機、携帯音楽プレーヤなどにおいて、薄型ディスプレイ技術の発展と相まって、入力インターフェースとしてタッチパネル方式が採用される機器が大幅に増加している。
【0003】
現在用いられているタッチパネルは、抵抗膜式や静電容量式が主流であるが、これ以外にも光学式、電磁誘導式、圧電による弾性表面波を利用したものなどがある。通常はこれらの方式を用いて位置情報を検出する。すなわち、タッチパネル上のどの位置を操作者がタッチ(押圧操作)したのかを座標情報として取得し、この情報をもとに指定された処理が実行される。銀行ATMに代表されるように、画面に表示されたボタンの部分を触れることにより、操作者はあたかも実際のボタンを押して操作したかのように機器を操作することができる。最近のグラフィックユーザーインターフェース(GUI)処理技術の発達の結果、操作者が画面上を撫でることにより、表示画像をスクロールさせたり、グラフィックとして表示されたスライドスイッチを指で直接コントロールしたりできるような装置もある。
【0004】
「i-phone」(Apple Inc. の商標)に代表されるような端末情報機器では、最近、2指を用いて操作する、マルチタッチという方式が主流になりつつある。今後、タッチパネルにはさらなる多様性が求められつつあり、最近では位置情報と併せて押圧力情報を同時に得たいという要望が高まっている。すなわち、操作者が画面のどの位置をどのぐらいの強さで触れたかという2種類の情報を検出できれば、さらなる操作性の向上が図られる。
【0005】
これに関する技術として、特開平5−61592号公報(特許文献1)には、位置検出用素子と感圧センサーとを重ねることにより、位置情報と押圧力情報とを同時に検出する技術が開示されている。
【0006】
また、特開2006−163618号公報(特許文献2)には、圧電シートを用いて押圧力情報を取得するとともに、この圧電シートに格子状に形成された複数の電極線のどの部分に検知電圧が現れたのかを検出して位置情報を取得する方式が開示されている。
【0007】
しかしながら、特許文献1に記載のタッチパネルでは、位置検出のみを行なう通常のタッチパネルの上にさらに、圧電シートや感圧抵抗体シートで形成された感圧センサーを重ねている。この感圧センサーはタッチパネルの全面を覆っている。
【0008】
通常のタッチパネルは、何らかの画像表示装置の上に設置されることが通例であり、高い透明度が要求される。位置検出用のタッチパネル、感圧センサーともそれぞれ複数のフィルムと電極層とを有する。この方式では、マルチタッチは検出できない。また、上記フィルムを透明とし、電極層に酸化インジウム錫(ITO)等の透明導電材料を用いれば、全体を透明性とすることができるが、積層数が多いため、光線透過率が低下するという問題があった。また、多数の部品とプロセスが必要であるため、コストアップの要因となる。さらに、位置情報と押圧力情報とが別々に検出されるため、信号処理が複雑となるといった問題もあった。
【0009】
他方、特許文献2に記載のタッチパネルでは、位置情報と押圧力情報とを同時に検出するために、圧電シートに対して格子状の微細配線電極を形成している。信号がこの格子状電極のどの電極から強く検出されたかによって位置情報を得るため、これらの微細配線のすべてを演算処理部に接続する必要があり、構造がかなり複雑となるといった問題があった。
【0010】
また、特開2006−39667号公報(特許文献3)には、抵抗膜式タッチパネルにおいてマルチタッチを可能にするという技術が記載されている。
【0011】
いずれにしても、特許文献1〜3に記載のものでは、ITOなどの透明電極を用いている。ITOはレアメタルであるインジウムを使用しており、枯渇による高騰のおそれがある。また、ITO以外の透明電極もあるが、樹脂フィルム全体に電極を構成するのは、手間も多く、透明電極といえども、透過率が100%ではないので、幾分かの透過率低下を招くことになる。
【0012】
なお、一般に、単なる抵抗膜式タッチパネルでは、マルチタッチを検出することができず、押圧力を検知することもできない。また、広い面積の透明電極を用いなければならないという問題も有している。
【0013】
また、一般に、単なる静電方式タッチパネルでは、マルチタッチは可能であるが、ペンを用いたタッチを適用することができず、押圧力を検知することもできない。また、広い面積の透明電極を用いなければならないという問題も有している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0014】
【特許文献1】特開平5−61592号公報
【特許文献2】特開2006−163618号公報
【特許文献3】特開2006−39667号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
そこで、この発明の目的は、上述したような問題を解決し得るもので、ペンでも指でも検知が可能で、マルチタッチに対応でき、さらに押圧力検知が可能であり、透明電極の使用量を極力小さくすることができる、タッチパネル、ならびにこれを用いて構成されるタッチ式入力装置およびその制御方法を提供しようとすることである。
【課題を解決するための手段】
【0016】
この発明は、所定の方向に向く延伸軸を有するL型ポリ乳酸からなる圧電シートと、圧電シートの互いに対向する第1および第2の主面上にそれぞれ形成された互いに対向する第1および第2の電極とを備える、タッチパネルにまず向けられるものであって、上述した技術的課題を解決するため、第1および第2の電極は、圧電シートの全面を覆わず、離散的に複数箇所に分布するように複数組形成されていることを特徴としている。
【0017】
この発明は、また、上記タッチパネルを備え、タッチパネルを押圧操作した際に、各組の電極に発生する電圧を比較することによって、押圧操作した位置および押圧力を演算するようにされた、タッチ式入力装置に向けられる。
【0018】
この発明に係るタッチ式入力装置は、タッチパネルの操作面に対し、格子状のマトリックス座標を設定する工程と、格子状のマトリックス座標の各格子点に対する所定の加重による押圧操作に関連して各組の電極に発生する電圧をそれぞれ測定する工程とを経て得られた電圧を、各格子点における基礎電圧として予め保管しておく記憶手段を備えている。
【0019】
さらに、この発明に係るタッチ式入力装置は、
タッチパネルの操作面に対する操作者による押圧操作に関連して各組の電極に発生する実際の測定電圧を求める手段と、
格子点の各々について、基礎電圧に対する測定電圧の比率を各組の電極毎に計算する手段と、
格子点の各々について、比率の平均を各組の電極毎に求める手段と、
格子点の各々について、比率の標準偏差を求める手段と、
標準偏差の小さい順に格子点を順位付けする手段と、
順位付けされた格子点の上位から所定のn個の格子点を選択する手段と、
選択された格子点の座標を(Xk,Yk)(k=1,2,…,n)、標準偏差をSk(k=1,2,…,n)としたとき、操作者による押圧操作の押圧位置の座標(X,Y)を、
X=Σ(Xk/Sk)/Σ(1/Sk)、Y=Σ(Yk/Sk)/Σ(1/Sk)
として決定する手段と、
順位付けの最上位の格子点の比率の平均を加重に乗じて、操作者による押圧操作の押圧力を求める手段と
を備えることを特徴としている。
【0020】
この発明は、さらに、上記タッチパネルを備え、タッチパネルを押圧操作した際に、各組の電極に発生する電圧を比較することによって、押圧操作した位置および押圧力を演算するようにされた、タッチ式入力装置の制御方法にも向けられる。この発明に係るタッチ式入力装置の制御方法は、
タッチパネルの操作面に対し、格子状のマトリックス座標を設定する第1の予備工程と、
格子状のマトリックス座標の各格子点に対する所定の加重による押圧操作に関連して各組の電極に発生する電圧をそれぞれ測定する第2の予備工程と、
第2の予備工程によって得られた電圧を、各格子点における基礎電圧としてメモリに保管しておく第3の予備工程と
をまず備えている。
【0021】
そして、さらに、実際の使用時において、
タッチパネルの操作面に対する操作者による押圧操作に関連して各組の電極に発生する実際の測定電圧を求める第1の実践工程と、
格子点の各々について、基礎電圧に対する測定電圧の比率を各組の電極毎に計算する第2の実践工程と、
格子点の各々について、比率の平均を各組の電極毎に求める第3の実践工程と、
格子点の各々について、比率の標準偏差を求める第4の実践工程と、
標準偏差の小さい順に格子点を順位付けする第5の実践工程と、
順位付けされた格子点の上位から所定のn個の格子点を選択する第6の実践工程と、
選択された格子点の座標を(Xk,Yk)(k=1,2,…,n)、標準偏差をSk(k=1,2,…,n)としたとき、操作者による押圧操作の押圧位置の座標(X,Y)を、
X=Σ(Xk/Sk)/Σ(1/Sk)、Y=Σ(Yk/Sk)/Σ(1/Sk)
として決定する第7の実践工程と、
順位付けの最上位の格子点の比率の平均を加重に乗じて、操作者による押圧操作の押圧力を求める第8の実践工程と
を備えることを特徴としている。
【0022】
上述した第2の予備工程および第1の実践工程において、各電極に発生する電圧は、タッチパネルの操作面に対する押圧操作における、押圧方向(操作面に向かう方向)の動作時に検出されるようにしても、逆押圧方向(操作面から放す方向)の動作時に検出されるようにしてもよい。
【発明の効果】
【0023】
この発明に係るタッチパネルによれば、ペンでも指でも検知が可能で、マルチタッチに対応でき、さらに押圧力検知が可能なものとすることができる。また、圧電シートの全面を覆うように電極を形成しないので、高価な透明電極のための材料を大量に用いなくともよい。また、電極が離散的に複数箇所に分布するように形成されているので、電極の位置を工夫することにより、タッチパネルの光線透過性を高めることができる。
【0024】
たとえば、圧電シートの外周縁部に位置する電極については、特に透明性を与える必要がないので、電極材料として、透明電極材料に比べて安価なアルミニウム、銅、金またはニッケルのような金属を用いることができる。言い換えると、ディスプレイ面への視界を遮る位置に形成された電極についてのみ、必要に応じて、透明電極材料である、酸化インジウム錫、酸化インジウム・酸化亜鉛、酸化亜鉛またはポリチオフェンを主成分とするものを用いればよいことになる。
【0025】
この発明に係るタッチパネルにおいて、圧電シートが、延伸軸の方向とは一致しない方向に張力が付与される状態にされると、検出感度、特にマルチタッチに対しての検出感度を飛躍的に高めることができる。
【0026】
上記の場合、圧電シートが、延伸軸の方向とは一致しない方向に延びる領域では接着剤を介して表面保護フィルムと貼り合わされ、それ以外の領域では粘着剤を介して表面保護フィルムと貼り合わされていると、圧電シートの所定の方向に容易にかつ安定的に張力を付与することができる。
【0027】
この発明に係るタッチ式入力装置およびその制御方法によれば、圧電シート上に分布される電極の数が比較的少なくても、予め求められる基礎電圧といった離散的な基礎データに基づいて、非離散的な位置、すなわち全表面における任意の位置についての位置情報を得ることができ、同時に押圧力を検知することができる。
【0028】
この発明に係るタッチ式入力装置の制御方法における第2の予備工程および第1の実践工程において、各組の電極に発生する電圧のうち最も絶対値の大きい電圧の極性に基づいて、各組の電極に発生する電圧が、タッチパネルの操作面に対する押圧操作における、押圧方向動作時に検出されたものか、逆押圧方向動作時に検出されたものかを判断するようにすれば、より信頼性の高い判断が可能となる。
【0029】
この発明に係るタッチ式入力装置の制御方法における第2の実践工程において、基礎電圧のうち、所定の閾値より小さい電圧値を示す電極での基礎電圧を使用しないようにすれば、処理の信頼性を高めることができるとともに、処理能力の負荷を軽減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】この発明の第1の実施形態によるタッチ式入力装置に備えるタッチパネル1を示すもので、(A)は平面図であり、(B)は(A)の線B−Bに沿う断面図である。
【図2】PLLAの圧電性に関して説明するための図である。
【図3】図1に示したタッチパネル1の所定の箇所を押したときに電極21a〜24aの各々と電極21b〜24bの各々との間に生じる電圧を比較して示した図であり、(A)は押した位置を示し、(B)は(A)に示した位置に対応して生じる電圧を示す。
【図4】この発明の第2の実施形態によるタッチパネル1aを示す、図1(A)に対応する図である。
【図5】この発明の第3の実施形態によるタッチパネル1bを示す、図1(A)に対応する図である。
【図6】この発明の第4の実施形態によるタッチパネル1cに備える圧電シート3を示すもので、(A)は平面図、(B)は(A)の線B−Bに沿う断面図である。
【図7】図1に示したタッチパネル1を備えて構成されるタッチ式入力装置100の回路構成を示すブロック図である。
【図8】タッチパネル1の操作面に対して設定される格子状のマトリックス座標を説明するための図である。
【図9】図7に示した演算部103が実行する座標検知アルゴリズムを示すフロー図である。
【図10】図9に示した座標検知アルゴリズムを用いて実施される押圧操作点の座標決定のイメージを説明するための図である。
【図11】この発明の比較例となるもので、マルチタッチ対応に関して不備な構成とされたタッチパネル1dを示す、図1(A)に対応する図である。
【図12】図11に示したタッチパネル1dについて、タッチパネル1dにおける、対角線に沿う2点を同時にタッチした場合の発生電圧の比率を示す図である。
【図13】図12に示した発生電圧を得るために押圧操作した位置を示す、図11に対応する図である。
【図14】図1に示したタッチパネル1について2点を同時にタッチした場合に発生電圧の比率を示す図である。
【図15】図14に示した発生電圧を得るために押圧操作した位置を示す、図1(A)に対応する図である。
【図16】この発明の第5の実施形態によるタッチパネル1eを示すもので、(A)は平面図、(B)は平面図中央横断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0031】
図1は、この発明の第1の実施形態によるタッチパネル1を示すもので、図1において、(A)は平面図であり、(B)は(A)の線B−Bに沿う断面図である。
【0032】
タッチパネル1は、図1(B)に示すように、表面保護フィルム2、圧電性を有する圧電シート3、ゴム状弾性体4、および基体5がこの順で積層された断面構造を有している。より詳細には、圧電シート3は、表面保護フィルム2と貼り合わされ、ゴム状弾性体4は、表面保護フィルム2と基体5との間に配置される。なお、ゴム状弾性体4は、圧電シート3の変形を許容するもので、エラストマーやゲル材から構成されるが、圧電シート3と基体5との間は、空間として残されてもよい。
【0033】
タッチパネル1は、通常、液晶ディスプレイや有機ELディスプレイ、プラズマディスプレイ、電子ペーパー等のフラットパネルディスプレイ(FPD)の表面に配置される。よって、タッチパネル1を構成する各要素は、好ましくは、透明性を有する材料から構成される。また、この場合、前述した基体5はFPDによって構成されてもよい。以下においては、基体5がFPDによって構成されているとして説明を進める。
【0034】
表面保護フィルム2は、操作者による押圧操作が及ぼされるべき操作面を構成するもので、たとえば、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリカーボネート、ポリプロピレン等からなるフィルムから構成される。表面保護フィルム2の表面には、図示を省略するが、反射防止膜や傷防止や汚れ防止のためハードコート層、またはこれらが複合された層が形成されてもよい。なお、図1(A)は、表面保護フィルム2を除去した状態で図示されている。
【0035】
圧電シート3は、一軸延伸されたL型ポリ乳酸(PLLA)から構成される。図1(A)において、矢印10によってPLLAの延伸軸方向が示されている。PLLAは、透明性が高いという利点を有している。
【0036】
圧電シート3の第1の主面3a上には、第1の電極21a〜25aが形成され、これら第1の電極21a〜25aの各々と圧電シート3を介して対向するように、圧電シート3の第1の主面3aに対向する第2の主面3b上には、第2の電極21b〜25bが形成されている。なお、第2の電極21b〜25bについては、電極25bのみが図1(B)に示されている。
【0037】
図1(B)の断面図では、各要素の厚みは誇張して表わされている。実際には、圧電シート3の厚みは50〜100μm程度である。もっとも、圧電シート3全体の大きさや圧電シート3の圧電特性自体を鑑みて、これを超える厚みであっても、これ未満の厚みであってもよい。いずれの要素の厚みについても、全体の設計に応じて決定されるべき設計事項である。
【0038】
圧電シート3は、図示されていない強度のある枠体に対して、矢印11aおよび11bの方向が束縛されながら、固定されている。これによって、圧電シート3は、矢印11aおよび11b方向の張力が付与される状態となっている。
【0039】
図2は、PLLAの圧電性に関して説明するための図である。PLLAからなる正方形状の圧電シート30に、シンボル32で示される方向に電場をかけると、実線31で示されるような略菱形となるような変形が生じる。なお、図2では、この変形をかなり誇張して表わしている。
【0040】
図2において、矢印33はPLLAの延伸軸方向を表わしている。このような変形は、PLLAの圧電定数d14に由来する変形である。簡単に言うと、圧電シート30は、延伸軸方向33と略45度をなす方向(対角線方向)の軸に沿って伸び、その方向から90度の方向に向く軸に沿って縮む。これが圧電逆効果である。逆に、実線31のような変形を外力により生じさせると、シンボル32で示す方向の電場が生じ、圧電シート30の両主面に電極が形成されているとすると、その電極には電圧が発生することとなる。これが圧電効果である。したがって、このような菱形の変形を生じさせるような場合が最も効率良く圧電効果が得られる状態であることがわかる。
【0041】
再び図1に戻って、タッチパネル1では、圧電シート3が矢印11aと11bの方向に束縛されているため、たとえば圧電シート3の中央部を押さえて、これを変形させると、この圧電シート3は、図2の実線31で示したような変形が生じていることになる。
【0042】
図3は、タッチパネル1の所定の箇所を押したときに電極21a〜24aの各々と電極21b〜24bの各々との間に生じる電圧を比較して示したものである。すなわち、図3(A)に示すタッチパネル1の所定の箇所〈1〉,〈2〉,…,〈9〉を押したとき、電極21aと21bとの間のチャンネル1(CH1)で生じる電圧、電極22aと22bとの間のチャンネル2(CH2)で生じる電圧、電極23aと23bとの間のチャンネル3(CH3)で生じる電圧、および電極24aと24bとの間のチャンネル4(CH4)で生じる電圧が、図3(B)に棒グラフで示されている。なお、ここでは、中央の電極25aおよび25bは使用していない。
【0043】
図3(B)に示すように、電圧の発生パターンは多彩であり、このパターンを認識すれば、タッチパネル1上の平面的な位置を認識できることがわかる。
【0044】
ここで、圧電シート3を基体5より大きく構成し、外周縁部に位置する電極21a〜24aをフレーム(図示せず。)で覆ってしまえば、基体5に表示される画像上には、電極25aを除いて、電極が存在しないことになる。よって、電極25aを形成しなければ、あえて透明電極を形成する必要がない。すなわち、電極21a〜24aおよび電極21b〜24bはアルミニウムや銅、銀、金などの蒸着やスパッタリング、もしくはめっきによって形成することが可能であり、タッチパネル1を安価に提供することができる。
【0045】
なお、中央に位置する電極25aおよび25bは、必須ではない。しかし、これら電極25aおよび25bを、酸化インジウム錫、酸化インジウム・酸化亜鉛、酸化亜鉛およびポリチオフェンからなる群から選ばれる1種を主成分とする透明電極材料から構成しながら、圧電シート3の中央に配置すれば、電圧発生パターンがさらに多彩になり、検知分解能をより高くすることができる。
【0046】
以上説明したように、PLLAの圧電逆効果どおりの変形に近い変形をするような機構とすれば、最も効率良く、変化に富む電圧を取り出すことが可能である。すなわち、以上説明した実施の形態は、最良の形態ということになる。
【0047】
なお、図1(A)に示すように、矢印11aおよび11bの方向にのみ、張力をかけるのが難しい場合には、圧電シート3全体に張力をかけ、矢印11aおよび11bの方向のみに、より強い張力をかけることによっても、上記最良の形態に近い結果を出すことができる。
【0048】
図4は、この発明の第2の実施形態によるタッチパネル1aを示す、図1(A)に対応する図である。図4において、図1(A)に示す要素に相当する要素には同様の参照符号を付し、重複する説明は省略する。図4には、延伸軸方向10が斜め45度になっている場合における、電極配置の好ましい例、ならびに張力方向11aおよび11bの好ましい例が示されている。
【0049】
たとえば、圧電シート3の4辺を同じ張力で引っ張って固定すると、押圧操作する箇所が違っても、電極21a〜24aからの電圧のパターンが同じようになり、位置検知が難しくなる場合がある(図11参照)。これに対して、図4に示した張力方向11aおよび11bの下では、電極21a〜24aを各辺の略中央に配置すれば、図1に示した実施形態の場合と同様、図3(B)に示すような電圧の多彩な発生パターンを得ることができ、位置検知を的確に行なうことができる。
【0050】
図1(A)および図4では、電極21a〜24aは対称な位置に同じ大きさで配置されたが、位置および大きさには特に制限はない。電極21a〜24aの大きさについては、電極21a〜24aからの電圧を増幅するために用いられるアンプによって十分な電圧が得られる大きさであれば、任意の大きさとして構わない。それぞれの電圧の大きさを意図して異ならせ、発生電圧の大きさをコントロールしてもよい。
【0051】
また、外周縁部に形成される電極21a〜24aは、必ずしも4個である必要はなく、たとえば、3個でもよいし、6個、9個と数を増やしても構わない。ある閾値を設定して、その閾値以下の電圧は使用しないようにする場合には、電極数が少ないとパターンが認識できなくなるおそれがあるが、十分な数の電極を設けておけば、このような場合にも対処が可能となる。電極の位置を非対称にしたり、電極の大きさを非対称にしたりしておけば、図3(B)に示すような電圧の発生パターンが対称となりにくくなり、判断がより容易になる。
【0052】
同様に、中央に位置する電極25aについても、その数は任意であり、設けなくてもよい。
【0053】
図5は、この発明の第3の実施形態によるタッチパネル1bを示す、図1(A)に対応する図である。図5において、図1(A)に示す要素に相当する要素には同様の参照符号を付し、重複する説明は省略する。
【0054】
図5は、電極構成の変形例を示している。より詳細には、圧電シート3の第1の主面3a上に第1の電極41a〜46aが設けられており、これら電極41a〜46a各々の大きさが互いに異ならされており、また、位置も一定の法則に従っていない。図示しないが、圧電シート3の第2の主面上に形成され、かつ第1の電極41a〜46aにそれぞれ対向する第2の電極についても同様である。
【0055】
張力方向については図示されないが、張力が与えられる点としては、電極42aおよび電極45aが位置する部分、または電極43aおよび電極46aが位置する部分などが考えられる。もちろん、これ以外の点であっても同様の効果を得ることができる。最も好ましくは、延伸軸方向10と略45度の方向をなすように張力を与えることであるが、それ以外の方向としてもよく、図5に示す圧電シート3のように、長方形状の場合には、対角線方向と一致するいずれか一方方向に張力をかけることが望ましい。
【0056】
また、対角線方向が延伸軸方向と45度の方向をなすように、圧電シート3の材料となるフィルムの切り出し方向を変えてもよい。すなわち、延伸軸方向を、図示した延伸軸方向10とは異ならせるということである。
【0057】
いずれにしても、張力方向は、延伸軸方向10と完全に一致しないようにすることが望ましい。
【0058】
また、電極の形状は長方形であるとは限らず、いずれの形でもよい。
【0059】
また、複数の電極の一部を直列に接続してもよい。これについて、以下に具体的に説明する。
【0060】
図6は、この発明の第4の実施形態によるタッチパネル1cに備える圧電シート3を示すもので、(A)は平面図、(B)は(A)の線B−Bに沿う断面図である。図5において、図1に示す要素に相当する要素には同様の参照符号を付し、重複する説明は省略する。
【0061】
図6では、圧電シート3の外周縁部に沿って複数の電極を形成し、これら電極の一部を直列で接続している。すなわち、図6(B)に示されるように、第1の電極51aと第2の電極52bとが接続線57によって互いに接続され、第1の電極52aと第2の電極53bとが接続線58によって互いに接続され、それによって、電極51bから電極53aまでが直列に接続されている。また、第2の電極54bと第1の電極55aとが接続線59によって互いに接続され、第2の電極55bと第1の電極56aとが接続線60によって互いに接続され、それによって、電極54aから電極56bまでが直列に接続されている。
【0062】
第2の電極51bおよび第1の電極53aにそれぞれ接続された接続線61および62、ならびに第1の電極54aおよび第2の電極56bにそれぞれ接続された接続線63および64は、図示しないアンプに接続される。
【0063】
このように、同電位を発生する電極対を直列接続すれば検知電圧がより大きくなり、ノイズに対する誤差をより小さくすることができる。
【0064】
次に、押圧操作によって発生した電圧を用いて、位置および押圧力を検知する方法について説明する。
【0065】
図7は、図1に示したタッチパネル1を備えて構成されるタッチ式入力装置100の回路構成を示すブロック図である。タッチ式入力装置100は、タッチパネル1と処理装置101とを備え、処理装置101は、検出部102と演算部103と記憶部104とを備えている。なお、図7を参照しながらの説明では、タッチパネル1に備える第1の電極21a〜24aと第2の電極21b〜24bとの間で区別する必要がないため、これらを「電極21」〜「電極24」と総称するとともに、図7では「21」〜「24」の参照符号を用いる。
【0066】
図7を参照して、電極21〜24の各々に発生した電圧は、それぞれ、接続線105a〜105dを通じて検出部102に送られ、そこで、各電圧が増幅される。増幅された電圧は、演算部103で解析されて、位置および押圧力が求められる。記憶部104には、予め取得された基礎電圧が保存されている。
【0067】
まず、タッチ式入力装置100を実際に使用する前に予め行なっておくべき予備処理について説明する。
【0068】
まず、第1の予備工程として、図8に示すように、タッチパネル1の操作面に対し、格子状のマトリックス座標を設定する。図8では、電極21〜24の図示は省略されている。なお、中央に位置していた電極25aおよび25bについては、存在しないものとして、以下の説明を進める。マトリックス座標の格子点は架空の点であり、たとえば操作面上に描かれるものではない。格子点の数、つまり、縦軸と横軸とによる分割数は任意であり、細かく分割するほど分解能は上昇するが、この予備手順および後の演算処理が複雑になる。
【0069】
この発明によれば、ある程度ラフに格子点を取った状態でも正確に位置検知が可能な方法が提供される。最終的に要求される分解能の10〜100倍程度の間隔で格子点を設定すればよい。たとえば要求分解能が0.2mmであれば、2〜20mm程度の間隔で格子点を設定すればよい。要求分解能の10倍とするか、100倍とするかは、圧電シート3の検知感度による。これは、圧電シート3の厚み、圧電定数および均一性、そして表面保護フィルム2の材料として何を使用するかによるため、設計事項である。
【0070】
次に、第2の予備工程として、すべての格子点に対して、予め決められた所定の押圧力を加え、そのときに、電極21〜24の各々に発生する電圧を測定する。
【0071】
圧電体では、押圧操作における、押圧方向(操作面に向かう方向)の動作時と逆押圧方向(操作面から放す方向)の動作時との双方で電圧が発生するため、この双方の電圧を取得しておくことが望ましい。実際の測定は、ロボットとロボットに連動した自動計測装置を用いて自動で行なわれる。複数回測定を行ない平均化するか、多点のデータを用いて最小二乗近似しておくことが望ましい。
【0072】
次に、第3の予備工程として、上記第2の予備工程によって得られた電圧が、各格子点の座標値とともに、各格子点における基礎電圧として記憶部104に保管される。
【0073】
縦方向と横方向でそれぞれn本のラインが設定されている場合には、格子点の個数はn×nである。縦方向の分割数と横方向の分割数とを必ずしも同じにする必要はない。また、すべての分割を等間隔で行なう必要はなく、分解能の要求が高いエリアと分解能の要求が低いエリアとに分けて、格子間の間隔を異ならせてもよい。
【0074】
また、特に表面保護フィルム2をガラス板から構成した場合には、周辺領域を押圧したときの機械的変化より、中央領域を押圧したときの機械的変化が大きい。したがって、中心付近では「めりはり」のある電圧が検知され、周辺部ではノイズが乗りやすくなる。これに伴って、周辺部の分割数を多くするという場合もある。
【0075】
以上が、タッチ式入力装置100を実際に使用する前に予め行なっておくべき予備工程である。次に、実際の使用時に実施される実践工程について説明する。
【0076】
実際の使用時には、必ず格子点をタッチされるとは限らない。このときの座標の求め方について説明する。図9に、演算部103が実行する座標検知アルゴリズムを示す。図9を参照して、各フローについて説明する。
【0077】
F000:
ここで、プログラムがスタートする。
【0078】
タッチパネル1に電圧が発生したことをトリガとして、検出部102がトリガを引き、このプログラムをスタートさせてもよいし、常に一定間隔で繰り返し実行を行なっていてもよい。
【0079】
F001:
演算部103は、記憶部104から、各格子点の座標と、その点における基準押圧時に電極21〜24の各々に発生する電圧とを読み込む。
【0080】
この処理は、タッチパネル1に対する押圧が発生する度に行なう必要はなく、一旦、CPU上にデータがロードされてしまえば、その後は実行する必要はない。
【0081】
F002:
検出部102から測定電圧(電極21〜24の各々からの電圧値)を読み込む。
【0082】
なお、検出部102には、タッチパネル1の操作面に対する操作者による押圧操作に関連して電極21〜24の各々に発生する実際の測定電圧についてのデータが送られている。
【0083】
F003:
このステップは、繰り返し処理の上端である。
【0084】
すべての格子点に対して繰り返し処理を実行する。
【0085】
F004:
電極21〜24の各々毎に基礎電圧に対する測定電圧の比率を求める。
【0086】
例示すると以下のようになる。測定電圧と基礎電圧とを、格子点A、BおよびCの3点で比較した例を考える。
【0087】
【表1】

【0088】
【表2】

【0089】
【表3】

【0090】
表1および表2に示す格子点Aおよび格子点Bでは、測定電圧を基礎電圧と比較した際、どの電極においても約2倍近い比率が計測されている。一方、表3に示す格子点Cでは、測定電圧と基礎電圧との比率は、電極間でばらばらである。
【0091】
これら表1ないし表3を見れば、格子点Cは実際の押圧点から遠く離れており、格子点Aおよび格子点Bの近傍の点が押圧されたことがわかる。ここでは測定誤差等は無視して考える。
【0092】
比率を求める際には、符号が合致していることが前提である。符号が合致していない場合には、その格子点は、押圧点とは全く違う、すなわち遠く離れた箇所にあると判断し、比率の算出をしない。
【0093】
ある電極の基礎電圧もしくは測定電圧が0に近い場合には、符号が逆転する可能性がある。これに対しては、予め閾値を設定しておき、ある電極の基礎電圧が閾値より低い場合には、その電極のデータのみを以降の処理で用いないようにする。
【0094】
たとえば、通常、次のステップでは4点で標準偏差計算を行なうが、上述のように、閾値より低い基礎電圧がある場合には、この基礎電圧を示した点を除いて、3点で計算を行なうことになる。このようにすることにより、基礎電圧が0近傍にある場合に、算出された比率が極端に大きくなってしまうことを防ぐことができる。
【0095】
F005:
各電極毎の比率の標準偏差を求める。
【0096】
標準偏差の例も表1ないし表3に記載している。表1ないし表3からわかるように、比率のばらつきが小さいほど、押圧点はその格子点に近いことを表しており、標準偏差は小さくなる。
【0097】
もし、標準偏差が0となれば、押圧はその格子点そのものであったことを示す。実際には、誤差の影響で標準偏差が0となる確率は極めて小さいが、もし0となった場合には、以降の座標判断処理は中断し、押圧点の座標は格子点そのものの座標としてもよい。実際のプログラムでは、標準偏差の閾値を設定しておき、閾値よりも小さくなった場合には、以降の座標判断処理は中断し、格子点そのものの座標として押圧点の座標を決定する。
【0098】
F006:
前の処理で得られた標準偏差の順位付けを行なう。
【0099】
繰り返し処理であるので、前の一連の動作で既に順位が付けられている。よって、今回求めた標準偏差が、前回の順位のどこにはいるかを算出し、以降のデータの順位を下にずらす。
【0100】
F007:
このステップは、繰り返し処理の下端である。
【0101】
すべての格子点にわたって計算が完了するまでF003〜F007を繰り返す。
【0102】
F008:
最終のF006の処理で最上位に位置付けられた格子点の基礎電圧データに対する比率の平均値を求め、これを押圧力比率とする。
【0103】
たとえば表1ないし表3に示した格子点A〜Cのうち、格子点Bが第1位の点とされた場合には、その比率の平均を算出すると、1.998となる。したがって、基準押圧力を0.10Nとしている場合であれば、実際の押圧力は約0.20Nと判断される。
【0104】
F009:
図9に示すとおり、変数に数値を割り当てる。
【0105】
順位付けM番目までのデータについて求めるとすれば、格子点の座標を(GXk,GYk)、標準偏差をSkとしたとき、k=1,2,…,Mとする。ここで、Mは、実用上、3もしくは4とすれば十分である。多くすれば計算量が増えるだけで誤差はかえって大きくなる。
【0106】
F010:
図9に示すとおり計算する。
【0107】
求める座標を(X,Y)とすれば、
X=Σ(GXk/Sk)/Σ(1/Sk) …(1)、および
Y=Σ(GYk/Sk)/Σ(1/Sk) …(2)
(ただし、k=1,2,…,M)
の式により求められる。
【0108】
押圧操作点の座標決定のイメージは以下のとおりである。図10は、M=4としたときの上位の格子点の近傍を抜き出して示したものである。図10において、押圧操作点70の近傍に格子点71〜74が図示されている。なお、タッチパネル1上には、このような格子点は見える形では存在していない。
【0109】
前述した順位付けによって、第1位が格子点74、第2位が格子点71、第3位が格子点73、第4位が格子点72というように決定される。第1位の格子点74、第2位の格子点71、第3位の格子点73および第4位の格子点72の各座標が、それぞれ、(−20,5)、(−20,10)、(−25,5)および(−25,10)であり、また、各々の標準偏差が、それぞれ、0.05、0.08、0.13および0.18であったとすれば、上記(1)および(2)式より、押圧操作点70の座標(X,Y)は、
(X,Y)=(−21.45,6.97)と求まる。
【0110】
以上の説明では、押圧操作における、押圧方向動作時に検出されるデータの処理方式を記載したが、押圧した指またはペンを放す時、すなわち逆押圧方向動作時にも電圧が発生し、この電圧は、押圧方向動作時とは極性が逆転する。検出部102で検知される電圧は、一番大きな電圧が検出された電極に着目すれば、その極性は決まっている。したがって、その極性に着目すれば、押圧方向動作時であるか、逆押圧方向動作時であるかが区別できる。
【0111】
押圧動作時に発生した電圧に対して、逆押圧方向動作時には、すべての電極で逆極性の電圧が発生する、したがって、この極性を逆に読み替えれば、押圧方向動作時のデータをそのまま利用することができる。
【0112】
また、データ取得工程において、逆押圧方向動作時に取ったデータを使えば、そのまま同じアルゴリズムで検知が可能である。
【0113】
位置検出と押圧力検知とを押圧方向動作時のデータで行ない、逆押圧動作時には何もしないということももちろん可能である。あるいは、押圧方向動作時には何もせずに、逆押圧動作時にだけ検知するようにしてもよい。また、位置検出は押圧方向動作時のみで行ない、押圧力検知は逆押圧方向動作時に行なうという方法、もしくはその逆の方法も可能である。
【0114】
さらに、押圧方向動作時と逆押圧方向動作時との双方でフル検知を行ない、それらの平均を用いるという方法でもよい。また、押圧方向動作時と逆押圧方向動作時とで別々の結果としても捉えてもよい。
【0115】
また、押圧操作を行なうにあたって、押す速度または放す速度を変えることにより、検知電圧が変化するため、ゲーム機などに適用される場合、押圧操作において、ゆっくり押す、速く押す、ゆっくり放す、速く放すといった使い分けが可能である。
【0116】
次に、この発明に係るタッチパネルのマルチタッチ対応について説明する。
【0117】
図11は、この発明の比較例となるもので、マルチタッチ対応に関して不備な構成とされたタッチパネル1dを示す、図1(A)に対応する図である。図11において、図1(A)に示す要素に相当する要素には同様の参照符号を付し、重複する説明は省略する。
【0118】
図11に示したタッチパネル1dでは、圧電シート3は、4つの矢印11a〜11dで示すように、その4隅に張力が掛けられるように固定されている。また、延伸軸方向10は、張力方向11bから張力方向11dへと向く方向と一致しており、電極21a〜24aは、圧電シート3の4辺の各中心付近にほぼ対称的な位置関係をもって配置されている。
【0119】
このようなタッチパネル1dについて、タッチパネル1dにおける、対角線に沿う2点を同時にタッチ(マルチタッチ)した場合の発生電圧が図12のグラフに示されている。図12に示したグラフは、最も大きな電圧を1として規格化してある。
【0120】
図12において、「CH1」は電極21aと21bとの間のチャンネル1で生じる電圧、「CH2」は電極22aと22bとの間のチャンネル2で生じる電圧、「CH3」は電極23aと23bとの間のチャンネル3で生じる電圧、および「CH4」は電極24aと24bとの間のチャンネル4で生じる電圧を示している。
【0121】
また、図12において丸で囲んだ〈1〉、〈2〉および〈3〉は、押圧操作した位置を表わすものであり、図13において丸で囲んだ〈1〉、〈2〉および〈3〉でそれぞれ示す位置に対応している。図13において、〈1〉、〈2〉および〈3〉で示す位置は、それぞれ、2箇所ずつ存在していることからわかるように、図12に示した電圧は、図13における2箇所の〈1〉の位置、2箇所の〈2〉の位置および2箇所の〈3〉の位置を同時に押圧操作した時の電圧である。
【0122】
図12からわかるように、〈1〉の位置、〈2〉の位置および〈3〉の位置のいずれであっても、CH1〜CH4間での電圧の比率はほぼ同じようなパターンとなっている。このことから、マルチタッチにおいて、〈1〉の位置、〈2〉の位置および〈3〉の位置を相互に分離するのは非常に難しいことがわかる。
【0123】
なお、中央の1点タッチの場合も同じような電圧の比率になり、1点タッチとの分離も難しくなると推測される。よって、中央の電極25aを用いても、上記のような分離は難しいと考えられる。
【0124】
これに対し、最良の形態である前述の図1に示すようなタッチパネル1を構成し、中央の電極25aも作動させた場合の電圧が図14に示されている。図14において、「CH1」は電極21aと21bとの間のチャンネル1で生じる電圧、「CH2」は電極22aと22bとの間のチャンネル2で生じる電圧、「CH3」は電極23aと23bとの間のチャンネル3で生じる電圧、「CH4」は電極24aと24bとの間のチャンネル4で生じる電圧、および「CH5」は電極25aと25bとの間のチャンネル5で生じる電圧を示している。
【0125】
図15には、図14に示した電圧を得るために押圧操作した位置が示されている。すなわち、図14において丸で囲んだ〈1〉,〈2〉,…,〈9〉は、押圧操作した位置を表わすものであり、図15において丸で囲んだ〈1〉,〈2〉,…,〈9〉でそれぞれ示す位置に対応している。図15において、〈1〉,〈2〉,…,〈9〉で示す位置は、それぞれ、2箇所ずつ存在していることからわかるように、図14に示した電圧は、図15における2箇所の〈1〉等の位置を同時に押圧操作した時の電圧である。
【0126】
図14に示すように、2点タッチしたときのCH1〜CH5間での電圧の比率は、〈1〉,〈2〉,…,〈9〉の各所で全く異なり、よって、位置検知および押圧力検知が同時に可能であることがわかる。このことから、電極数を増やせば、さらにバリエーションが多くなると推測される。
【0127】
図16は、この発明の第5の実施形態によるタッチパネル1eを示すもので、(A)は平面図、(B)は平面図中央横断面図である。図16において、図1に示す要素に相当する要素には同様の参照符号を付し、重複する説明は省略する。
【0128】
図16に示すタッチパネル1eでは、圧電シート3は、たとえばガラス板からなる表面保護フィルム2と貼り合わされており、表面保護フィルム2は、枠状のスペーサ81を介して基体5に固定されている。この実施形態では、圧電シート3と基体5との間は、ゴム状弾性体によって充填されるのではなく、空間のままとされている。
【0129】
図16(A)において、表面保護フィルム2は、その下方に位置するものが透視された状態で図示されている。また、図16では電極の図示が省略されている。
【0130】
圧電シート3は、その対角線方向が延伸軸方向10とは一致しておらず、このような対角線方向に延びる領域において、接着剤82を介して表面保護フィルム2と貼り合わされ、それ以外の領域では粘着剤83を介して表面保護フィルム2と貼り合わされている。接着剤82および粘着剤83としては、好ましくは透明性の高いものが用いられる。したがって、透明性の高い接着剤82および粘着剤83が用いられると、それら自体およびそれらの境目は実際には視認できない。
【0131】
粘着剤83は比較的大きな弾性または塑性を有するため、表面保護フィルム2が変形したとき、圧電シートは、表面保護フィルム2に対して、ややずれることができる。一方、接着剤82で貼り合わされた部分は、表面保護フィルム2の伸縮に合わせて伸縮が生じる。よって、図1に矢印11aおよび11bで示すように対角線に沿って張力がかけられているのと同じような効果を生じさせることができる。
【0132】
図16に示したタッチパネル1eでは、ゴム状弾性体を備えないため、より薄型化が可能である。また、表面保護フィルム2をガラス板から構成すれば、見た目に美しく、衝撃や引っ掻きに強いタッチパネルとすることができる。なお、この場合、表面保護フィルム2となるガラス板は、圧電シート3の変形を許容する程度に十分薄くされる。
【符号の説明】
【0133】
1,1a,1b,1c,1e タッチパネル
2 表面保護フィルム
3,30 圧電シート
3a,3b 主面
10,33 延伸軸方向
11a,11b 張力方向
21〜25,21a〜25a,21b〜25b,41a〜46a,51a〜56a,51b〜56b 電極
70 押圧操作点
71〜74 格子点
82 接着剤
83 粘着剤
100 タッチ式入力装置
101 処理装置
102 検出部
103 演算部
104 記憶部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
所定の方向に向く延伸軸を有するL型ポリ乳酸からなる圧電シートと、
前記圧電シートの互いに対向する第1および第2の主面上にそれぞれ形成された互いに対向する第1および第2の電極と
を備え、
前記第1および第2の電極は、前記圧電シートの全面を覆わず、離散的に複数箇所に分布するように複数組形成されている、
タッチパネル。
【請求項2】
前記圧電シートは、前記延伸軸の方向とは一致しない方向に張力が付与される状態にある、請求項1に記載のタッチパネル。
【請求項3】
前記圧電シートの主面に沿って配置される表面保護フィルムをさらに備え、前記圧電シートは、前記延伸軸の方向とは一致しない方向に延びる領域では接着剤を介して前記表面保護フィルムと貼り合わされ、それ以外の領域では粘着剤を介して前記表面保護フィルムと貼り合わされている、請求項2に記載のタッチパネル。
【請求項4】
前記第1および第2の電極のうち、前記圧電シートの外周縁部に位置するものは、アルミニウム、銅、金およびニッケルからなる群から選ばれる1種を主成分とする、請求項1ないし3のいずれかに記載のタッチパネル。
【請求項5】
当該タッチパネルは、所定のディスプレイ面に重なるように配置されるものであり、前記第1および第2の電極のうち、前記ディスプレイ面への視界を遮る位置に形成されたものは、酸化インジウム錫、酸化インジウム・酸化亜鉛、酸化亜鉛およびポリチオフェンからなる群から選ばれる1種を主成分とする、請求項1ないし4のいずれかに記載のタッチパネル。
【請求項6】
請求項1ないし5のいずれかに記載のタッチパネルを備え、
前記タッチパネルを押圧操作した際に、各組の前記電極に発生する電圧を比較することによって、押圧操作した位置および押圧力を演算するようにされた、タッチ式入力装置であって、
前記タッチパネルの操作面に対し、格子状のマトリックス座標を設定する工程と、前記格子状のマトリックス座標の各格子点に対する所定の加重による押圧操作に関連して各組の前記電極に発生する電圧をそれぞれ測定する工程とを経て得られた前記電圧を、前記各格子点における基礎電圧として予め保管しておく記憶手段を備え、さらに、
前記タッチパネルの前記操作面に対する操作者による押圧操作に関連して各組の前記電極に発生する実際の測定電圧を求める手段と、
前記格子点の各々について、前記基礎電圧に対する前記測定電圧の比率を各組の前記電極毎に計算する手段と、
前記格子点の各々について、前記比率の平均を各組の前記電極毎に求める手段と、
前記格子点の各々について、前記比率の標準偏差を求める手段と、
前記標準偏差の小さい順に前記格子点を順位付けする手段と、
順位付けされた前記格子点の上位から所定のn個の格子点を選択する手段と、
前記選択された格子点の座標を(Xk,Yk)(k=1,2,…,n)、前記標準偏差をSk(k=1,2,…,n)としたとき、操作者による押圧操作の押圧位置の座標(X,Y)を、
X=Σ(Xk/Sk)/Σ(1/Sk)、Y=Σ(Yk/Sk)/Σ(1/Sk)
として決定する手段と、
前記順位付けの最上位の格子点の前記比率の平均を前記加重に乗じて、操作者による押圧操作の押圧力を求める手段と
を備える、タッチ式入力装置。
【請求項7】
請求項1ないし5のいずれかに記載のタッチパネルを備え、
前記タッチパネルを押圧操作した際に、各組の前記電極に発生する電圧を比較することによって、押圧操作した位置および押圧力を演算するようにされた、タッチ式入力装置の制御方法であって、
前記タッチパネルの操作面に対し、格子状のマトリックス座標を設定する第1の予備工程と、
前記格子状のマトリックス座標の各格子点に対する所定の加重による押圧操作に関連して各組の前記電極に発生する電圧をそれぞれ測定する第2の予備工程と、
前記第2の予備工程によって得られた前記電圧を、前記各格子点における基礎電圧としてメモリに保管しておく第3の予備工程と
を備え、さらに、実際の使用時において、
前記タッチパネルの前記操作面に対する操作者による押圧操作に関連して各組の前記電極に発生する実際の測定電圧を求める第1の実践工程と、
前記格子点の各々について、前記基礎電圧に対する前記測定電圧の比率を各組の前記電極毎に計算する第2の実践工程と、
前記格子点の各々について、前記比率の平均を各組の前記電極毎に求める第3の実践工程と、
前記格子点の各々について、前記比率の標準偏差を求める第4の実践工程と、
前記標準偏差の小さい順に前記格子点を順位付けする第5の実践工程と、
順位付けされた前記格子点の上位から所定のn個の格子点を選択する第6の実践工程と、
前記選択された格子点の座標を(Xk,Yk)(k=1,2,…,n)、前記標準偏差をSk(k=1,2,…,n)としたとき、操作者による押圧操作の押圧位置の座標(X,Y)を、
X=Σ(Xk/Sk)/Σ(1/Sk)、Y=Σ(Yk/Sk)/Σ(1/Sk)
として決定する第7の実践工程と、
前記順位付けの最上位の格子点の前記比率の平均を前記加重に乗じて、操作者による押圧操作の押圧力を求める第8の実践工程と
を備える、タッチ式入力装置の制御方法。
【請求項8】
前記第2の予備工程および前記第1の実践工程において、各組の前記電極に発生する電圧は、前記タッチパネルの前記操作面に対する押圧操作における、押圧方向動作時に検出される、請求項7に記載のタッチ式入力装置の制御方法。
【請求項9】
前記第2の予備工程および前記第1の実践工程において、各組の前記電極に発生する電圧は、前記タッチパネルの前記操作面に対する押圧操作における、逆押圧方向動作時に検出される、請求項7に記載のタッチ式入力装置の制御方法。
【請求項10】
前記第2の予備工程および前記第1の実践工程において、各組の前記電極に発生する電圧のうち最も絶対値の大きい電圧の極性に基づいて、各組の前記電極に発生する電圧が、前記タッチパネルの前記操作面に対する押圧操作における、押圧方向動作時に検出されたものか、逆押圧方向動作時に検出されたものかを判断する工程をさらに備える、請求項8または9に記載のタッチ式入力装置の制御方法。
【請求項11】
前記第2の実践工程において、前記基礎電圧のうち、所定の閾値より小さい電圧値を示す前記電極での基礎電圧を使用しないようにする、請求項7ないし10のいずれかに記載のタッチ式入力装置の制御方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【公開番号】特開2011−253517(P2011−253517A)
【公開日】平成23年12月15日(2011.12.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−178304(P2010−178304)
【出願日】平成22年8月9日(2010.8.9)
【出願人】(000006231)株式会社村田製作所 (3,635)
【出願人】(399030060)学校法人 関西大学 (208)
【出願人】(000005887)三井化学株式会社 (2,318)
【Fターム(参考)】