説明

タッチパネル装置

【課題】終端抵抗を用いない場合でも終端での反射波の影響を抑え、表面弾性波の励振強度のばらつきを低減すること。
【解決手段】励振用のトランスデューサは、2つの電極22,23のうちの少なくとも1つの電極が、複数の櫛電極指24と複数の櫛電極指24のそれぞれの一端側に接続される直線状のバス電極25とを有する櫛形電極23であり、トランスデューサをバス電極25の長さ方向において2等分した場合の2つの領域の一方の領域に、2つの電極22,23のうちの1つの電極に対する少なくとも1つの接続部分SBが設けられ、他方の領域に、2つの電極22,23のうちの他の1つの電極に対する少なくとも1つの接続部分SBが設けられる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、物体の接触による表面弾性波の減衰位置を検知して物体の接触位置を検出するタッチパネル装置に関し、例えばパーソナルコンピュータや携帯情報端末などの入力装置として使用される。
【背景技術】
【0002】
パーソナルコンピュータやモバイルコンピュータまたは携帯情報端末装置(PDA:Personal Digital Assistant)などの入力装置として、表示装置の表示面上に指やペンを接触することにより情報の入力を行うタッチパネル装置がしばしば用いられる。
【0003】
そのようなタッチパネル装置として、抵抗膜を用いたものと表面弾性波(SAW:Surface Acoustic Wave)を利用したものとがある。抵抗膜方式のものは、タッチ領域に複数の層の抵抗膜が形成されるため、これにより光が錯乱して透過率が低い。表面弾性波方式のタッチパネル装置は、表面弾性波を励振しまたは受信するトランスデューサをタッチ領域の左右上下に配置し、タッチ領域に指等が接触したときにその接触位置を表面弾性波の減衰位置に基づいて検出する。表面弾性波方式のものは、抵抗膜のような層がタッチ領域に存在しないので透過率が高く、表示面の視認性が優れ、傷に対して強いという利点がある。
【0004】
表面弾性波方式のタッチパネル装置として、圧電薄膜を櫛形電極と平板電極とで挟み込むことによって1つの面に1つの電極のみを配置する電極構造のトランスデューサ(SPT:Single Phase Transducer)を用い、且つ、くの字形の櫛形電極を連続して配置するシェブロン形電極構成としたタッチパネル装置を、本出願人は先に提案した(特許文献1)。
【0005】
そのタッチパネル装置は、矩形状の透明な基板の上縁部および下縁部に励振用のトランスデューサが、左縁部および右縁部に受信用のトランスデューサが、それぞれ合計4つ配置されて構成される。4つのトランスデューサで囲まれた部分がタッチ領域である。各トランスデューサは、上に述べたSPT電極構造であり、シェブロン形電極構成となっている。
【0006】
それぞれのトランスデューサは、長さ方向の一端部において、配線電極と櫛形電極および平板電極との接続部分が近接して設けられている。この接続部分に対して配線電極から供給される励振電圧が印加され、これによって信号給電が行われ、また接続部分から配線電極に受信信号が取り出され、これによって信号取出しが行われる。各配線電極の他端は基板の一箇所に結線部として引き出されており、結線部に取り付けられるフレキシブルケーブルなどによって信号処理回路に接続される。
【0007】
上下に配置されたトランスデューサに励振電圧を印加して表面弾性波を発生させ、発生した表面弾性波を基板によって対角線の方向に沿って伝播させ、左右に配置されたトランスデューサで受信する。タッチ領域の1ヵ所に指やペンなどを接触させると、接触した部分の表面弾性波が減衰する。したがって、受信信号のレベルが減衰した位置に基づいて信号処理を行うことにより、その接触位置を検出することができる。
【特許文献1】特開2004−171213
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
表面弾性波を利用したタッチパネル装置においては、表面弾性波の励振強度がタッチ領域内で一様であることが望まれる。ところが、トランスデューサに対して接続部分から励振電圧を印加した場合に、接続部分とは反対側の端部において信号の反射が起こる。つまり、励振電圧である信号波が電極の終端で反射し、その反射波が信号波と重なる。そのため、信号波および反射波それぞれの遅延によってトランスデューサの長さ方向に強度分布が生じる。これに起因して、タッチ領域内において表面弾性波の励振強度にかなり大きなばらつきが生じる。
【0009】
この問題を解決するためには、理論的には上の特許文献1に記載されているように終端に終端抵抗を挿入すればよい。しかし、トランスデューサの製造プロセスの複雑化やコストの面から、終端抵抗を追加することはできるだけ避けたいところである。
【0010】
本発明は、上述の問題に鑑みてなされたもので、終端抵抗を用いない場合でも終端での反射波の影響を抑え、表面弾性波の励振強度のばらつきを低減することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明に係るタッチパネル装置は、透明な基板の中央部にタッチ領域が設けられ、膜状の圧電体と2つの電極を有して表面弾性波を励振しまたは受信するトランスデューサが前記タッチ領域の周辺部に配置されているタッチパネル装置であって、励振用の前記トランスデューサは、前記2つの電極のうちの少なくとも1つの電極が、複数の櫛電極指と前記複数の櫛電極指のそれぞれの一端側に接続される直線状のバス電極とを有する櫛形電極であり、前記トランスデューサを前記バス電極の長さ方向において2等分した場合の2つの領域の一方の領域に、前記2つの電極のうちの1つの電極に対する少なくとも1つの接続部分が設けられ、他方の領域に、前記2つの電極のうちの他の1つの電極に対する少なくとも1つの接続部分が設けられてなる。
【0012】
好ましくは、前記2つの電極のそれぞれに対する接続部分が2つずつ設けられ、前記2つの電極のそれぞれについて、その接続部分が前記一方の領域と前記他方の領域とに設けられてなる。
【0013】
また、前記トランスデューサは、前記圧電体の一方の表面に形成された前記櫛形電極および前記圧電体の他方の表面において前記櫛形電極と対向するように形成された平板電極を有し、前記櫛形電極および前記平板電極のそれぞれ外方において前記櫛形電極または前記平板電極に平行な配線電極がそれぞれ設けられ、それぞれの前記配線電極が前記2つの接続部分において前記バス電極または前記平板電極に接続されてなる。
【0014】
また、前記トランスデューサは、前記圧電体の一方の表面に形成された前記櫛形電極および前記圧電体の他方の表面において前記櫛形電極と対向するように形成された平板電極を有し、前記バス電極の単位長さ当たりの抵抗値と前記平板電極の単位長さ当たりの抵抗値が互いにほぼ等しく形成される。
【0015】
また、前記一方の領域に設けられた接続部分および前記他方の領域に設けられた接続部分が、前記トランスデューサの長さをほぼ3等分する位置にある。
【発明の効果】
【0016】
本発明によると、終端抵抗を用いない場合でも終端での反射波の影響を抑え、表面弾性波の励振強度のばらつきを低減することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
〔第1の実施形態〕
図1は本発明の第1の実施形態のタッチパネル装置1の正面図、図2はタッチパネル装置1の一部を拡大して示す図、図3はタッチパネル装置1のトランスデューサ20の部分を拡大して示す断面図、図4は接続部分SBの位置を説明する図、図5はトランスデューサ20の電圧分布の例を示す図、図6はトランスデューサ20の等価回路を示す図、図7は励振信号と受信信号のタイミングの例を示す図である。
【0018】
図1において、タッチパネル装置1は、矩形状の透明なガラス基板11の周辺部に4つのトランスデューサ20a〜dが設けられ、さらにその外周に沿って配線電極30a〜d、31a〜dが設けられることによって構成されている。タッチパネル装置1の中央部、つまりトランスデューサ20a〜dで囲まれた矩形状の部分は、タッチ領域TEとなっている。
【0019】
上辺部および下辺部に設けられた2つのトランスデューサ20a,bは励振用であり、左辺部および右辺部に設けられた2つのトランスデューサ20c,dは受信用である。励振用のトランスデューサ20a,bに励振電圧(励振信号、図7参照)を印加して表面弾性波を発生させ、発生した表面弾性波をガラス基板11によって対角線の方向に沿って伝播させ、受信用のトランスデューサ20c,dで受信する。
【0020】
具体的には、上辺部のトランスデューサ20aからの表面弾性波は右下斜め方向(チャンネル1)および左下斜め方向(チャンネル2)に伝播されて右辺部および左辺部のトランスデューサ20c,dでそれぞれ受信され、下辺部のトランスデューサ20bからの表面弾性波は右上斜め方向(チャンネル3)および左上斜め方向(チャンネル4)に伝播されて右辺部および左辺部のトランスデューサ20c,dでそれぞれ受信される。なお、励振用の2つのトランスデューサ20a,bへの励振電圧の印加は、互いに時間をずらせて交互に行われる。
【0021】
表面弾性波の伝播に要する時間はその距離に比例するので、表面弾性波が受信用のトランスデューサ20c,dに到達するのに、送信用のトランスデューサ20a,bからそれぞれ遠い方の端部にいく程遅延する。したがって、受信用の各トランスデューサ20c,dでの受信信号は、表面弾性波が最初に到達したときから最後に到達するまでの間において若干減衰しながら持続する(図7参照)。タッチ領域TEの1ヵ所に指やペンなどを接触させると、接触した部分の表面弾性波が減衰する。受信信号のレベルが減衰した位置に基づいて、接触位置を検出する。
【0022】
なお、図7においては、励振信号および受信信号のタイミングのみを示しており、実際の信号の波形は示されていない。つまり、実際の励振信号は、周波数が20MHz程度の方形波が10〜20個程度連続するバースト波である。このバースト波による表面弾性波がレイリー波として伝わる。したがって、受信信号も、このバースト波による表面弾性波を位置に応じて遅延して受信することによって得られる波形となる。なお、このバースト波は、励振用の2つのトランスデューサ20a,bに交互に印加されるように適当な周期で発生される。
【0023】
トランスデューサ20a〜dは、いずれも同じ構造である。したがって、トランスデューサの構造については、1つのトランスデューサ20aについてのみ説明する。本明細書および図面において、全てのトランスデューサ20a〜dまたはその一部を「トランスデューサ20」と記載することがある。
【0024】
なお、図1においては、タッチ領域TEに対してトランスデューサ20および配線電極が拡大されて描かれている。実際の寸法は、例えば、ガラス基板11の一辺の長さが数cm〜数十cm、厚さが10分の数mm〜数mm、各トランスデューサ20の幅が数mm程度である。つまり、ガラス基板11の表面は、その周縁の僅かな部分を除いてほとんどがタッチ領域TEである。また、図3においては、横方向よりも縦方向が大きく拡大されている。
【0025】
図2および図3によく示されるように、トランスデューサ20aは、圧電薄膜21を平板電極22と櫛形電極23で挟み込んだ構造(SPT構造)となっている。櫛形電極23は、平面視がくの字状の複数の櫛電極指24,24,24…と、複数の櫛電極指24のそれぞれの一端側に接続される直線状のバス電極25とからなる。なお、平板電極22は、櫛形電極23の櫛電極指24と圧電薄膜21を介して対向する。
【0026】
圧電薄膜21は、酸化亜鉛(ZnO)からなり、厚さが例えば2μm程度、幅が例えば2mm強程度である。平板電極22は、例えばアルミニウムからなり、厚さが例えば0.4μm程度、幅が例えば2mm程度である。櫛形電極23は、例えばナノ銀ペースト(微細粒径の銀ペースト)を印刷して焼成することにより形成される。櫛電極指24は、厚さが例えば1〜1.5μm、幅が例えば60μm程度、間隔が例えば90μm程度、したがってピッチが例えば150μm程度である。バス電極25は、厚さが例えば2.5μm程度、幅が例えば150μm程度である。
【0027】
なお、圧電薄膜21、平板電極22、および櫛形電極23の寸法は、上に述べた以外の値としてもよい。例えば、圧電薄膜21の幅は例えば1〜3mm程度の範囲から、平板電極22の厚さは例えば0.3〜0.4μm程度の範囲から、幅は例えば1〜2mm程度の範囲から、櫛電極指24の厚さは例えば1〜2μm程度の範囲から、幅は例えば50〜75μm程度の範囲から、間隔は例えば75〜100μm程度の範囲から、バス電極25の厚さは例えば2〜3μm程度の範囲から、幅は例えば100〜250μm程度の範囲から、それぞれ選択してもよい。
【0028】
各トランスデューサ20a〜dの櫛形電極23および平板電極22は、それぞれ、接続部分SBにおいて配線電極30a〜d、31a〜dと接続されている。各配線電極30a〜d、31a〜dは、トランスデューサ20の外側の周囲に沿ってガラス基板11上を引き回され、ガラス基板11の図1における右下方の一箇所に結線部KSとして引き出されている。結線部KSには、図示しないフレキシブルケーブルなどが取り付けられ、信号処理回路と接続される。なお、配線電極30a〜dまたは31a〜dの全てまたはその一部をそれぞれ「配線電極30」「配線電極31」と記載することがある。
【0029】
図3において、配線電極30、31は、それぞれ、ガラス基板11の表面にナノ銀ペーストの印刷によって形成された電極基部301、311と、電極基部311の上にハイブリッドナノ銀ペースト(大粒微細粒径混合の銀ペースト)の印刷によって形成された電極本体302、312とからなる。バス電極25および平板電極22は、それぞれの接続部分SBから電極基部301、311に繋がっている。
【0030】
電極基部301、311は、厚さが例えば2〜3μm程度、幅が例えば200μm程度である。電極本体302、312は、厚さが例えば20μm程度、幅が例えば200μm程度である。配線電極30と配線電極31との間隔は200μm程度、配線電極31とバス電極25(圧電薄膜21)との間隔は150μm程度である。
【0031】
なお、電極基部301、311の寸法や間隔は上に述べた以外の値としてもよい。例えば、電極基部301、311および電極本体302、312の幅は100〜250μm程度の範囲から、配線電極30と配線電極31との間隔は数十〜250μm程度の範囲から、配線電極31とバス電極25(圧電薄膜21)との間隔は数十〜150μm程度の範囲から、それぞれ選択してもよい。
【0032】
ところで、ナノ銀ペーストには、直径が数nm程度の微細粒径の銀粒子が用いられている。ハイブリッドナノ銀ペーストには、直径が数nm程度の微細粒径の銀粒子と直径が1〜2μm程度の大粒粒径の銀粒子とが混合されている。ナノ銀ペーストを用いた場合には、従来用いられている普通の銀ペースト(直径が1〜2μm程度の大粒粒径の銀粒子が用いられている)を用いた場合と比べて、抵抗率を10分の1程度に低減することができ、且つ、膜厚が1μm程度の薄いものでも形成することができる。ハイブリッドナノ銀ペーストを用いた場合には、従来の普通の銀ペーストを用いた場合と比べて、抵抗率を同じく10分の1程度に低減することができる。これら、ナノ銀ペーストおよびハイブリッドナノ銀ペーストのいずれも、多重印刷が可能であるから、厚膜化することが可能である。その場合に、ハイブリッドナノ銀ペーストであれば、少ない印刷回数で容易に厚膜化することが可能である。例えば、上に述べた20μm程度の厚さであればハイブリッドナノ銀ペーストを1回印刷することによって形成することが可能である。なお、ナノ銀ペーストおよびハイブリッドナノ銀ペーストは、いずれも市販されておりそれ自体は公知である。
【0033】
厚膜の電極本体302、312が存在することによって、配線電極30、31の全体の抵抗値が小さくなる。電極基部301、311が存在することによって、印刷時にガラス基板11ににじんで拡がってしまうことがなく、電極本体302、312との電気的および機械的な結合も良好である。これらの結果、少ない断面積で充分に低い抵抗値の配線電極30、31を形成することができる。
【0034】
さて、本実施形態において、配線電極30、31と櫛形電極23および平板電極22との接続部分SBは、次に説明する位置に設けられている。すなわち、図4によく示されるように、トランスデューサ20をバス電極25の長さ方向M1において2等分した場合の2つの領域EA,EBのうちの一方の領域EAに、バス電極25と配線電極30との接続部分SBが設けられ、他方の領域EBに、平板電極22と配線電極31との接続部分SBが設けられている。
【0035】
しかも、本実施形態においては、これら2つの接続部分SBが、トランスデューサ20の長さ、つまり2つの領域EA,EBを合わせた領域の長さをほぼ3等分する位置にある。
【0036】
励振用のトランスデューサ20は、このような2つの接続部分SBから励振電圧の給電を受ける。つまり、接続部分SBは給電点である。トランスデューサ20に給電した場合の電圧分布は次のとおりである。
【0037】
図5において、トランスデューサ20の励振領域の長さを約120mmとして横軸にとり、上に述べた2つの接続部分SB(給電点1,2)から給電を行ったときの電圧強度を縦軸にとったときの電圧分布が曲線JR1で示されている。これによると、給電点1,2において電圧強度が最も低く、給電点1,2から離れるにしたがって高くなっている。しかし、全体的に大きなばらつきはなく、励振領域の全体にわたってほぼ一様な電圧分布となっている。
【0038】
なお、図5には、給電を従来のように一方の端部(励振端1)から行った場合の電圧分布の例が曲線JRjで示されている。曲線JR1と曲線JRjとを比較すると、曲線JR1の方が曲線JRjよりも電圧強度のばらつき(振幅の変化)が小さく、電圧分布が一様になっていることが分かる。
【0039】
通常、トランスデューサ20に励振電圧を印加した場合に、励振電圧は、給電点から遠ざかるに連れて漸減する。しかし、終端において反射波が発生すると、終端に反射波による信号が印加された状態と等価となる。反射波による信号も、終端から遠ざかるに連れて漸減する。それらを合成すると、図5の曲線JRjで示すようになる。
【0040】
ところで、図6に示すように、トランスデューサ20の等価回路は分布定数回路で表すことができる。図5に示す電圧分布は、この等価回路を用いてシミュレーションした結果に基づくものである。等価回路には、図1に示されていないマッチング回路の部分、および配線電極30,31による引き回しの部分も含まれている。トランスデューサ20の部分は、複数の単位ユニットの結合によって構成される。各単位ユニットは、励振領域を例えば2000等分して得られるものである。
【0041】
各単位ユニットは、平板電極22およびバス電極25の抵抗R1、櫛形電極23および平板電極22のインダクタンスL1、櫛形電極23と平板電極22との間のキャパシタンスC2、および櫛電極指24の抵抗R2によって表される。これらの定数は例えば、R1=7.5mΩ、L1=71.4pH、C2=0.96pF、R2=72kΩである。
【0042】
上に述べたように、第1の実施形態のタッチパネル装置1によると、トランスデューサ20への給電点を、励振領域の端部ではなく、励振領域の途中とし、しかも平板電極22とバス電極25とでその接続部分SBの位置を互いに異ならせ、端部からの距離を異ならせることによって、終端における反射の効果を低減させることができる。これによって、励振領域において励振電圧が大きくばらつくことがなく、励振領域の全体にわたってほぼ一様な電圧分布を得ることができる。その結果、終端抵抗を用いることなく、終端での反射波の影響を抑え、表面弾性波の励振強度のばらつきを低減することができる。
【0043】
また、受信用のトランスデューサ20においても、終端抵抗を用いることなく、終端での反射波の影響を抑え、受信領域における受信信号のばらつきを抑えることができる。
【0044】
表面弾性波の励振強度のばらつきを低減し、且つ受信領域における受信信号のばらつきを抑えることによって、受信信号からそのレベルが減衰した位置に基づいて接触位置を検出する際に、その検出精度が向上する。つまり、受信領域における受信信号のばらつきが少なくなることによって、その間に生じるレベルの変化の検出が容易となる。また、受信信号をA/D変換するに当たって、同じビット数のA/D変換器を用いた場合に変換精度が向上する。その結果、指やペンがタッチ領域TEに接触したことを高精度で検出することができる。
〔第2の実施形態〕
上に述べた第1の実施形態では、トランスデューサ20の平板電極22および櫛形電極23への給電点はそれぞれ1ヵ所であった。次に、平板電極22および櫛形電極23に対してそれぞれ2ヵ所から給電を行う場合について説明する。
【0045】
図8は本発明の第2の実施形態のタッチパネル装置1Bの正面図、図9は接続部分SBと配線電極30、31との接続の変形例を示す図であるである。図8において、基本的な構成は図1に示す第1の実施形態のタッチパネル装置1と同じであるので、それらの相違点のみについて説明する。
【0046】
図8に示すタッチパネル装置1Bでは、各トランスデューサ20について、櫛形電極23および平板電極22と配線電極30、31との接続部分SBが、それぞれ2ヵ所設けられている。それら接続部分SBは次に説明する位置に設けられている。すなわち、図4に示す2つの領域EA,EBのうちの一方の領域EAに、バス電極25と配線電極30との1つの接続部分SBおよび平板電極22と配線電極31との接続部分SBが設けられ、他方の領域EBに、平板電極22と配線電極31との他の1つの接続部分SBおよびバス電極25と配線電極30との他の1つの接続部分SBが設けられている。しかも、これらの接続部分SBは、トランスデューサ20の長さをほぼ3等分する位置に設けられている。
【0047】
第2の実施形態の給電方法によった場合には、トランスデューサ20の電圧分布のばらつきがより少なくなるように改善され、励振領域の全体にわたってより一様な電圧分布となる。
【0048】
第2の実施形態では平板電極22および櫛形電極23に対するそれぞれの接続部分SBを互いに近接位置に設けたが、互いにずれるように、例えば、合計4つの接続部分SBによって励振領域を5等分するような位置に接続部分SBを設けてもよい。平板電極22および櫛形電極23に対する接続部分SBをそれぞれ3ヵ所以上設けてもよい。
【0049】
また、バス電極25と配線電極30との間の2つの接続部分SB、および平板電極22と配線電極31との2つの接続部分SBのそれぞれについて、2つの接続部分SBに対する電気的なバランスが得られるように、図9に示すように、2つの接続部分SBを互いに接続電極33により接続し、接続電極33の中央部に対して配線電極30または31を接続してもよい。
〔第3の実施形態〕
上に述べた第1の実施形態では、トランスデューサ20の平板電極22とバス電極25とについて、使用する材料や断面積などが互いに異なるため、それぞれの単位長当たりの抵抗値が相違する。第3の実施形態では、使用する材料や断面積などを調整することによって、それぞれの単位長当たりの抵抗値を等しくする。
【0050】
図10は本発明の第3の実施形態のタッチパネル装置1Cの正面図である。図10において、基本的な構成は図1に示す第1の実施形態のタッチパネル装置1と同じであるので、それらの相違点のみについて説明する。
【0051】
図10において、トランスデューサ20の平板電極22Cおよびバス電極25Cは、ともに同じアルミニウムからなる。つまり材料の抵抗率は互いに同一である。平板電極22Cは、厚さが0.4μm程度、幅が1mm程度である。バス電極25Cは、厚さが0.8μm程度、幅が0.5mm程度である。つまり、平板電極22Cおよびバス電極25Cは、断面積が互いに同一である。したがって、平板電極22Cとバス電極25Cとは、単位長当たりの抵抗値が等しい。
【0052】
このように、使用する材料および断面積を旨く選定することによって単位長当たりの抵抗値を等しくすることができる。これによって、トランスデューサの励振領域における電圧分布のばらつきをより少なくし、励振領域の全体にわたってより一様な電圧分布を得ることが可能となる。
【0053】
なお、平板電極22Cとバス電極25Cとで使用する材料が異なる場合には、それぞれの材料の抵抗率に応じて、膜厚および電極幅を選定すればよい。第3の実施形態の内容は、第1または第2の実施形態のいずれに対しても適用することができる。
【0054】
上に述べた各実施形態では、平板電極22,22Cが圧電薄膜21,21Cの下側に、櫛形電極23,23Cが圧電薄膜21,21Cの上側に、それぞれ設けられているが、これらの位置関係が逆であってもよい。各トランスデューサ20a〜dにおける接続部分SBから結線部KSまでの電気的な長さについては特に考慮が払われていないが、それらが互いに等しくなるよう、配線電極30a〜d、31a〜dおよび結線部KSを旨く配置すればなおよい。
【0055】
また、上に述べた各実施形態では、圧電薄膜21を平板電極22と櫛形電極23で挟み込んだ構造の所謂SPT構造のトランスデューサ20を例にとって説明したが、他の構造、例えば対向電極構造のトランスデューサについても適用することができる。対向電極構造については、上に述べた特許文献1の図23に示されているのでこれを参照することができる。この場合に、ガラス基板11と圧電薄膜21との間または圧電薄膜21の上のいずれに対向電極構造を形成してもよい。圧電薄膜21を酸化亜鉛ではなく窒化アルミ、その他の物質を用いて形成してもよい。圧電薄膜21に代えて、薄板状のセラミックス素子を用いてもよい。
【0056】
上に述べた各実施形態において、トランスデューサ20およびタッチパネル装置1,1B,1Cの全体または各部の構造、形状、寸法、個数、材質、形成方法などは、本発明の趣旨に沿って適宜変更することができる。
【産業上の利用可能性】
【0057】
本発明は、パーソナルコンピュータ、モバイルコンピュータ、または携帯情報端末装置などの入力装置として利用される。
【図面の簡単な説明】
【0058】
【図1】本発明の第1の実施形態のタッチパネル装置の正面図である。
【図2】タッチパネル装置の一部を拡大して示す図である。
【図3】トランスデューサの部分を拡大して示す断面図である。
【図4】接続部分の位置を説明する図である。
【図5】トランスデューサの電圧分布の例を示す図である。
【図6】トランスデューサの等価回路を示す図である。
【図7】励振信号と受信信号の波形の例を示す図である。
【図8】本発明の第2の実施形態のタッチパネル装置の正面図である。
【図9】接続部分と配線電極との接続の変形例を示す図である。
【図10】本発明の第3の実施形態のタッチパネル装置の正面図である。
【符号の説明】
【0059】
1,1B,1C タッチパネル装置
11 ガラス基板(基板)
20 トランスデューサ
21,21C 圧電薄膜(圧電体)
22,22C 平板電極(電極)
23,23C 櫛形電極(電極)
24,24C 櫛電極指
25,25C バス電極
30,31 配線電極
TE タッチ領域
SB 接続部分
EA,EB 領域

【特許請求の範囲】
【請求項1】
透明な基板の中央部にタッチ領域が設けられ、膜状の圧電体と2つの電極を有して表面弾性波を励振しまたは受信するトランスデューサが前記タッチ領域の周辺部に配置されているタッチパネル装置であって、
励振用の前記トランスデューサは、前記2つの電極のうちの少なくとも1つの電極が、複数の櫛電極指と前記複数の櫛電極指のそれぞれの一端側に接続される直線状のバス電極とを有する櫛形電極であり、
前記トランスデューサを前記バス電極の長さ方向において2等分した場合の2つの領域の一方の領域に、前記2つの電極のうちの1つの電極に対する少なくとも1つの接続部分が設けられ、他方の領域に、前記2つの電極のうちの他の1つの電極に対する少なくとも1つの接続部分が設けられてなる、
ことを特徴とするタッチパネル装置。
【請求項2】
前記2つの電極のそれぞれに対する接続部分が2つずつ設けられ、前記2つの電極のそれぞれについて、その接続部分が前記一方の領域と前記他方の領域とに設けられてなる、
請求項1記載のタッチパネル装置。
【請求項3】
前記トランスデューサは、前記圧電体の一方の表面に形成された前記櫛形電極および前記圧電体の他方の表面において前記櫛形電極と対向するように形成された平板電極を有し、
前記櫛形電極および前記平板電極のそれぞれ外方において前記櫛形電極または前記平板電極に平行な配線電極がそれぞれ設けられ、
それぞれの前記配線電極が前記2つの接続部分において前記バス電極または前記平板電極に接続されてなる、
請求項1または2記載のタッチパネル装置。
【請求項4】
前記トランスデューサは、前記圧電体の一方の表面に形成された前記櫛形電極および前記圧電体の他方の表面において前記櫛形電極と対向するように形成された平板電極を有し、
前記バス電極の単位長さ当たりの抵抗値と前記平板電極の単位長さ当たりの抵抗値が互いにほぼ等しく形成されている、
請求項1ないし3のいずれかに記載のタッチパネル装置。
【請求項5】
前記一方の領域に設けられた接続部分および前記他方の領域に設けられた接続部分が、前記トランスデューサの長さをほぼ3等分する位置にある、
請求項1ないし4のいずれかに記載のタッチパネル装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2006−59168(P2006−59168A)
【公開日】平成18年3月2日(2006.3.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−241064(P2004−241064)
【出願日】平成16年8月20日(2004.8.20)
【出願人】(000005223)富士通株式会社 (25,993)
【Fターム(参考)】