説明

タルチレリン水和物を含有する製剤

【課題】保存安定性及び服薬コンプライアンスに優れたタルチレリン水和物製剤を提供すること。
【解決手段】タルチレリン水和物と、水と、pH調整剤とを含み、pHが2.5〜4.3である、タルチレリン水和物製剤が上記課題を解決する。上記pH調整剤は、クエン酸系pH調整剤又はリン酸系pH調整剤から選択される。特に、ゲル化剤としてローカストビーンガム及び寒天を含むゼリー状タルチレリン水和物製剤であって、ゼリー剤の硬さが1.0×10〜1.5×10N/mである、ゼリー状タルチレリン水和物製剤が好ましい。ローカストビーンガムの添加量は0.25〜0.60重量%の範囲から選択され、寒天の添加量は0.25〜0.5重量%の範囲から選択される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、タルチレリン水和物を含有する製剤に関し、より詳細には、タルチレリン水和物を含有する液剤及びゼリー状製剤に関する。
【背景技術】
【0002】
タルチレリン水和物((-)-N-[(S)-hexahydro-1-methyl-2,6-dioxo-4-pyrimidinylcarbonyl]-L-histidyl-L-prolinamide
tetrahydrate)は、経口脊髄小脳変性症治療薬である。脊髄小脳変性症は、小脳又は脊髄が変性することによって運動失調等の症状が現れ、症状の進行に伴いえん下機能が低下する。このようなえん下障害のある患者の服薬コンプライアンス改善のためにOD錠(口腔内崩壊錠)が開発された。しかし、高齢者は唾液分泌量が減少するため、崩壊したOD錠が喉や食道に付着することが予想され、更なる改善が求められていた。
【0003】
えん下障害を有する患者でも容易にえん下可能な形態として、ゼリー状の食品(例えば、特許文献1)や薬剤(例えば、特許文献2)などが知られている。
【0004】
しかしながら、タルチレリン水和物は水との接触により分解しやすいことが知られており、長期安定性に優れたゼリー状製剤の調整は困難であった。また、従来のゼリー状製剤では、「えん下困難者用食品の許可基準III」で推奨された3×10〜2×10N/mを満たさない製剤が多く(非特許文献1)、当該基準を満たす、より飲み易いゼリー状製剤が求められていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2010−88422号公報
【特許文献2】特開2010−173993号公報
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】日本薬学会第131年会要旨29P−0502ゼリー剤形医療用医薬品の物性評価に関する研究
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、タルチレリン水和物の分解が抑制され、長期間安定に保存可能な、水を含むタルチレリン水和物製剤を提供することを目的とする。
【0008】
本発明はまた、服薬コンプライアンスに優れたタルチレリン水和物製剤を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは鋭意検討した結果、タルチレリン水和物と、水と、pH調整剤とを含み、pHが2.5〜4.3である、タルチレリン水和物製剤により上記課題を解決しうることを見出し、本発明を完成した。
【0010】
pH調整剤としては、クエン酸系pH調整剤、リン酸系pH調整剤、酒石酸系pH調整剤を好ましく使用することができる。
【0011】
本発明のタルチレリン水和物製剤は、さらに、ローカストビーンガム及び寒天を含み、硬度が1.0×10〜1.5×10N/mのゼリー状製剤とすることができる。
【0012】
ローカストビーンガムの含有量は0.25〜0.6重量%であり、寒天の含有量が0.15〜0.5重量%であるのが好ましい。
【0013】
タルチレリン水和物をゼリー状製剤とする場合は、ローカストビーンガムに加えて、キサンタンガム又はプルランを含むことが好ましい。
【発明の効果】
【0014】
本発明のタルチレリン水和物製剤は、タルチレリン水和物の分解等が抑制され、長期安定性に優れている。さらに、本発明のタルチレリン水和物製剤をゼリー状製剤とした場合は、えん下障害を併合した患者であっても誤嚥のリスクが低減されており、服薬コンプライアンスに優れている。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】図1は、タルチレリン水和物の安定性と、pHとの関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本明細書において、用語『タルチレリン水和物』は、(-)-N-[(S)-hexahydro-1-methyl-2,6-dioxo-4-pyrimidinylcarbonyl]-L-histidyl-L-prolinamide
tetrahydrateを意味する。
【0017】
本発明のタルチレリン水和物製剤は、タルチレリン水和物と、水と、1種又は2種以上のpH調整剤とを含む。当該製剤のpHは、2.5〜4.3の範囲である。本発明のタルチレリン水和物製剤は、タルチレリン水和物を水に溶解して水溶液を調整し、当該水溶液にpH調整剤を添加して、液性をpH2.5〜4.3の範囲にすることにより調整できる。
【0018】
水溶液中のタルチレリン水和物濃度は特に制限されないが、医薬品としての取り扱い性の観点から、通常、0.01〜1重量%、好ましくは0.03〜0.5重量%である。
【0019】
[pH調整剤]
pH調整剤としては、クエン酸系pH調整剤、リン酸系pH調整剤、酒石酸系pH調整剤が例示できる。クエン酸系pH調整剤は、クエン酸、又はクエン酸アルカリ金属塩、若しくはこれらの組み合わせからなる。リン酸系pH調整剤は、リン酸、又はリン酸アルカリ金属塩、若しくはこれらの組み合わせからなる。本発明において、クエン酸系pH調整剤、リン酸系pH調整剤を好ましく使用できる。pHの調整に際しては、さらに、水酸化ナトリウム、炭酸水素ナトリウム等のpHの調整のために通常用いられる塩基性又は酸性化合物を使用してもよい。
【0020】
タルチレリン水和物は水との接触により分解が促進される。しかしながら、タルチレリン水和物水溶液の液性がpH2.5〜pH4.3の範囲内であると、タルチレリン水和物の分解が長期間に渡り顕著に抑制される。pH調整剤としてリン酸系pH調整剤又はクエン酸系pH調整剤を使用した場合は、特に高い分解抑制効果が認められる。
【0021】
クエン酸系pH調整剤を使用した場合は、液性をpH3.2〜pH3.9とするのが特に好ましい。リン酸系pH調整剤を使用した場合は、液性をpH3.2〜pH4.3とするのが好ましい。
【0022】
[ゼリー状製剤]
本発明のタルチレリン水和物製剤は、さらに適宜なゲル化剤を含有させてゼリー状製剤とすることもできる。
【0023】
[ゲル化剤]
一般的に、ゼリー状製剤の調整のためのゲル化剤としては、カラギーナン、寒天、アルギン酸、キサンタンガム等の多糖類が用いられる。しかしながら、多くの多糖類は酸性条件下で経時的に糖鎖が加水分解される。これによりゼリー状製剤の硬度(弾性)が低下し、離水が生じる場合もある。また、保存時の温度変化に起因してゼリー状製剤に物性の変化が生じる。さらに、ゲル化剤の種類によっては、ゲル化剤との相互作用によりタルチレリン水和物の分解が促進される。このような理由により、タルチレリン水和物ゼリー状製剤の調整は困難であった。
【0024】
しかしながら、ゲル化剤としてローカストビーンガムと寒天とを組み合わせて用いると、適当な硬度(以下に詳述)のゼリー状製剤を製造することができ、当該硬度を長期間安定的に維持できる。さらに、ゼリー状製剤中のタルチレリン水和物も安定に保存される。
【0025】
本発明のタルチレリン水和物製剤をゼリー状製剤とする場合は、ローカストビーンガム及び寒天に加えて、他のゲル化剤を添加してもよい。他のゲル化剤としては、キサンタンガム、プルラン、カラギーナン、ペクチン、アルギン酸、アルギン酸ナトリウム、ジェランガム、アラビアガム等を例示できる。これらの中で、キサンタンガム及びプルランを好適に使用することができる。
【0026】
ゲル化剤の添加量(含有量)は、タルチレリン水和物製剤の全重量に対して、通常0.15〜2重量%、好ましくは0.3〜1重量%である。
【0027】
詳細には、ローカストビーンガムの添加量(含有量)は、タルチレリン水和物製剤の全重量に対して、例えば0.1〜0.6重量%、好ましくは0.15〜0.45重量%の範囲から選択することができる。寒天の添加量(含有量は)は、タルチレリン水和物製剤の全重量に対して、例えば0.05〜0.5重量%、好ましくは0.15〜0.50重量%の範囲から選択することができる。その他のゲル化剤の添加量(含有量)は、タルチレリン水和物製剤の全重量に対して、例えば0〜0.15重量%、好ましくは0.01〜0.1重量%の範囲から選択することができる。その他のゲル化剤としてキサンタンガム又はプルランを用いる場合であれば、添加量は0.025〜0.08重量%の範囲から選択される。
【0028】
ゲル化剤の添加量が上記範囲外であると、経時的に離水が生じたり、製剤の硬度が適切な範囲とならない場合があり、好ましくない。
【0029】
その他のゲル化剤としてプルランを用いた場合は、ゼリー剤の離水が特に抑制される。
【0030】
[硬さ]
ところで、厚生労働省の『えん下困難者用食品たる表示の許可基準』では、えん下困難者用食品たる表示の認可基準の一つとして、当該食品の硬さに係る規格を定めている。当該規格の許可基準Iには硬さが2.5×10〜1×10N/mであること、許可基準IIには硬さが1×10〜1.5×10N/mであることが記載されている。本発明のタルチレリン水和物製剤をゼリー製剤とする場合は、硬さが上記許可基準IIを満たすこと、即ち、硬さが1.0×10〜1.5×10N/mであることが好ましい。医薬品としての取扱性及び保存安定性等を考慮すると、硬さが3×10〜1.2×10N/mであることがより好ましく、4×10〜1×10N/mであることが特に好ましい。
【0031】
[その他の添加剤]
本発明のタルチレリン水和物製剤には、内服製剤に対する医薬品添加物として認められている範囲において、その他の添加剤が添加されていてもよい。このような添加剤としては、例えば、プロピルパラベン、メチルパラベン、エチルパラベン、ブチルパラベン、安息香酸ナトリウム、ソルビン酸カリウム等の保存料、ソーマチン、スクラロース、ソルビトール、デキストリン、還元麦芽糖水あめ、サッカリンナトリウム、アセスルファムカリウム等の甘味料、バニリン、1-メントール等の香料があげられるがこれらに限定されない。
【0032】
[ゼリー状タルチレリン水和物製剤の製造]
ゼリー状タルチレリン水和物製剤は、例えば、以下の手順により製造することができる。
【0033】
80〜95℃に熱した精製水にプロピルパラベンを添加して溶解した後、寒天を入れ、95℃以上に加熱した状態で5〜10分撹拌して溶解する。これにローカストビーンガム等のゲル化剤を加えて溶解する。更に、D-ソルビトール等の甘味剤を溶解した後、液を50〜60℃まで冷却し、pH調整剤及びタルチレリン水和物水和物を溶解する。約25℃に冷却してゼリー状とする。
【実施例】
【0034】
以下に実施例を示し、本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されない。
【0035】
[タルチレリン水和物液剤の調整]
(比較例A1)
タルチレリン水和物を精製水に溶解し、タルチレリン水和物を0.1重量%の濃度で含む、タルチレリン水和物液剤を調製した。
【0036】
(実施例A1)
比較例1で調整したタルチレリン水和物液剤に、リン酸及びリン酸水素ナトリウムを添加してpHを3.0に調整し、本発名のタルチレリン水和物液剤を製造した。
【0037】
(実施例A2)
pHを3.3に調整した以外は、実施例A1と同様の操作を行い、本発明のタルチレリン水和物液剤を製造した。
【0038】
(実施例A3)
pHを3.7に調整した以外は、実施例A1と同様の操作を行い、本発明のタルチレリン水和物液剤を製造した。
【0039】
(実施例A4)
pHを4.0に調整した以外は、実施例A1と同様の操作を行い、本発明のタルチレリン水和物液剤を製造した。
【0040】
(実施例A5)
pHを4.5に調整した以外は、実施例A1と同様の操作を行い、本発明のタルチレリン水和物液剤を製造した。
【0041】
(実施例A6)
比較例1で調整したタルチレリン水和物液剤に、クエン酸一水和物及びクエン酸ナトリウム二水和物を添加してpHを3.0に調整し、本発明のタルチレリン水和物液剤を製造した。
【0042】
(実施例A7)
pHを3.3に調整した以外は、実施例A6と同様の操作を行い、本発明のタルチレリン水和物液剤を製造した。
【0043】
(実施例A8)
pHを3.7に調整した以外は、実施例A6と同様の操作を行い、本発明のタルチレリン水和物液剤を製造した。
【0044】
(実施例A9)
pHを4.0に調整した以外は、実施例A6と同様の操作を行い、本発明のタルチレリン水和物液剤を製造した。
【0045】
(実施例A10)
pHを4.5に調整した以外は、実施例A6と同様の操作を行い、本発明のタルチレリン水和物液剤を製造した。
【0046】
(実施例A11)
比較例1で調整したタルチレリン水和物液剤に、酒石酸及び水酸化ナトリウムを添加してpHを3.0に調整し、本発名のタルチレリン水和物液剤を製造した。
【0047】
(実施例A12)
pHを3.3に調整した以外は、実施例A11と同様の操作を行い、本発明のタルチレリン水和物液剤を製造した。
【0048】
(実施例A13)
pHを3.7に調整した以外は、実施例A11と同様の操作を行い、本発明のタルチレリン水和物液剤を製造した。
【0049】
(実施例A14)
pHを4.0に調整した以外は、実施例A11と同様の操作を行い、本発明のタルチレリン水和物液剤を製造した。
【0050】
(実施例A15)
pHを4.5に調整した以外は、実施例A11と同様の操作を行い、本発明のタルチレリン水和物液剤を製造した。
【0051】
(安定性試験)
比較例A1及び実施例A1〜実施例A15で得られたタルチレリン水和物液剤各約20mLを容量30mLのガラス瓶に入れて密栓し、55℃の恒温器で4週間保存し、分解物の含有量を測定した。測定は調製時、1、2、及び4週間の計4点で行った。測定結果を下表1に示す。
【0052】
【表1】

【0053】
分解物の定量はHPLC(高速液体クロマトグラフィー)グラジェント法により行った。測定条件を表2に示す。
【0054】
【表2】

【0055】
移動相A及びBの混合比を表3に示すように変えて濃度勾配制御し、タルチレリン水和物の保持時間が約20分となるようにした。
【0056】
【表3】

【0057】
pH調整剤を使用していないタルチレリン水和物水溶液では、タルチレリン水和物の分解が認められたが、pH調整剤を使用して溶液のpHを2.5〜4.3に調整したタルチレリン水和物製剤ではタルチレリン水和物の分解が顕著に抑制されていた。特に、リン酸系pH調整剤又はクエン酸系pH調整剤を用いた系では分解抑制効果が高かった。
【0058】
[ゼリー状タルチレリン水和物製剤の製造]
(実施例B1)
80〜95℃に熱した精製水にプロピルパラベン(和光純薬株式会社製)を添加して溶解した後、寒天(局方寒天PS−7;伊那食品工業株式会社製)を入れ、95℃以上に加熱した状態で5〜10分撹拌して溶解した。これにローカストビーンガム(商品名『ビストップD−2050』;三栄源エフ・エフ・アイ株式会社製)、キサンタンガム(商品名『サンエースC』;三栄源エフ・エフ・アイ株式会社製)を加えて溶解した。更に、D−ソルビトール(商品名『ソルビトールSP』;物産フードサイエンス株式会社製)、ソーマチン(商品名『サンスイートT』;三栄源エフ・エフ・アイ株式会社製)、スクラロース(三栄源エフ・エフ・アイ株式会社製)を溶解した後、液を50〜60℃まで冷却し、クエン酸一水和物及びクエン酸水素ナトリウム二水和物(和光純薬製)及びタルチレリン水和物水和物(大阪合成有機化学研究所製)を溶解し、ゼリー溶液を調製した。ゼリー溶液をポリプロピレン容器(容量100mL)に入れて冷却(約25℃)し、本発明のタルチレリン水和物ゼリー状製剤を得た。処方を表4に示す。
【0059】
(実施例B2〜B3)
表4に示す処方に変更した以外は、実施例1と同様の操作を行い、本発明のタルチレリン水和物ゼリー状製剤を得た。
【0060】
(比較例B1〜B3)
処方を表4に示すとおりに変更した以外は、実施例B1と同様の操作を行い、タルチレリン水和物ゼリー状製剤を得た。
【0061】
【表4】

【0062】
(実施例B4〜B8)
処方を表5に示すとおりに変更した以外は、実施例B1と同様の操作を行い、本発明のタルチレリン水和物ゼリー状製剤を得た。
【0063】
(比較例B4)
処方を表5に示すとおりに変更した以外は、実施例B1と同様の操作を行い、タルチレリン水和物ゼリー状製剤を得た。
【0064】
【表5】

【0065】
(実施例B9〜B12)
処方を表6に示すとおりに変更した以外は、実施例B1と同様の操作を行い、本発明のゼリー状タルチレリン水和物製剤を得た。
【0066】
(比較例B5)
処方を表6に示すとおりに変更した以外は、実施例B1と同様の操作を行い、ゼリー状タルチレリン水和物製剤を得た。
【0067】
【表6】

【0068】
(安定性試験)
実施例B1〜B12及び比較例B1〜B5で得られたタルチレリン水和物ゼリー状製剤について安定性試験を行った。ゼリー状製剤は、ポリエチレン容器に入れて密栓し、25℃、40℃、及び55℃の恒温器で保管した。開始時から6箇月までの各時点において、離水の有無の確認(目視)、pHの測定、タルチレリン分解物の定量を行った。タルチレリン分解物の測定は、上述の液剤の安定性試験と同じ条件により、HPLCグラジェント法により行った。ゼリー状製剤をHPLC試験に供するに際しては、ゼリー状製剤約2gを正確に秤取り、精製水5mLを加えて15分間振とうした後、精製水を加えて正確に10mLとした後、遠心分離機で3000rpmの条件で15分間遠心し、測定サンプルを調製した。実施例B1〜B3及び比較例B1のゼリー状製剤の離水の有無を表7に示す。
【0069】
【表7】

【0070】
実施例B1及びB2並びに比較例B1〜B4のゼリー状製剤のpH結果を表8に示す。ゼリー状製剤のpH測定は、堀場製作所製F−52型pHメーターを用い、電極を直接ゼリー状中に差し込むことで測定した。
【0071】
【表8】

【0072】
実施例B1〜B3及び比較例B1〜B3のゼリー状製剤中の、タルチレリン分解物の定量結果を表9に示す。測定値は、ゼリー状製剤中のタルチレリン分解物の含有量(%)として示す。
【0073】
【表9】

【0074】
実施例B4〜B8及び比較例B4のゼリー状タルチレリン製剤のpH測定結果を表10に示す。
【0075】
【表10】

【0076】
実施例B9〜実施例B12及び比較例B5のゼリー状製剤のpH測定結果、及びタルチレリン分解物の定量結果を表11に示す。
【0077】
【表11】

【0078】
pHが4.3以下である実施例のゼリー状製剤では、離水、pH変化、及びタルチレリン水和物分解物の生成のいずれも観測されず、保存安定性に優れている。一方、pHが4.3より上である比較例のゼリー状製剤では、離水、pH変化、及びタルチレリン分解物の生成が観測され、保存安定性に劣る。
【0079】
図1は、実施例及び比較例で製造したタルチレリン水和物ゼリー状製剤を55℃で4週間保存後の、タルチレリン分解物の含有量とpHとの関係を示すグラフである。いずれのpH調整剤を用いた場合も、pH2.5〜4.3の範囲内では、分解物の生成が顕著に抑制されていることがわかる。リン酸系のpH調整剤を用いた場合は、分解物の生成がとりわけ抑制されている。
【0080】
(ゼリー硬度)
実施例B1〜B3及び比較例B1〜B3のゼリー状製剤について、ゼリー硬度を測定した。
測定機器:RHEONER IIシリーズクリープメータ(RE2−3305B)
プランジャー:φ8
測定結果を表12に示す
【0081】
【表12】

【0082】
「えん下困難者用食品の許可基準III」で推奨された3×10〜2×10N/mの範囲で調製されたゼリー状製剤は、口の中で容易に細かく崩すことができ、喉に詰まることはなかった。
【0083】
(官能試験)
安定性試験の結果が至摘であったリン酸系pH調整剤を使用したゼリー状製剤について官能試験を行った。官能試験に用いたゼリー状製剤(実施例B13〜B16)の処方、及びpHを表13に示す。
【0084】
【表13】

【0085】
各ゼリー状製剤の苦味、後味及び硬さについて評価した。評価は、評価者がゼリー状製剤を口に含んで5秒間経過後、口から排出して行った。試験結果及び各ゼリー状製剤の硬度を表14に示す。
【0086】
【表14】

【0087】
味及び後味については、評価した全てのゼリー状製剤で「普通〜良い」の評価であった。硬さについては、1×10N/m2を超えるゼリーでは「普通〜悪い」の評価となり、「えん下困難者用食品の許可基準I、II」の硬度とすることが望ましいと判断された。
【産業上の利用可能性】
【0088】
本発明は、保存安定性及び服薬コンプライアンスに優れたタルチレリン水和物製剤を提供する。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
タルチレリン水和物と、水と、pH調整剤とを含み、pHが2.5〜4.3である、タルチレリン水和物製剤。
【請求項2】
前期pH調整剤が、クエン酸系pH調整剤、リン酸系pH調整剤、酒石酸系pH調整剤からなる群より選択される、請求項1に記載のタルチレリン水和物製剤。
【請求項3】
さらに、ローカストビーンガム及び寒天を含み、硬度が1.0×10〜1.5×10N/mである請求項2に記載のタルチレリン水和物製剤。
【請求項4】
ローカストビーンガムの含有量が0.25〜0.6重量%であり、寒天の含有量が0.15〜0.5重量%である、請求項4に記載のタルチレリン水和物製剤。
【請求項5】
さらに、キサンタンガム又はプルランを含む、請求項3又は4に記載のタルチレリン水和物製剤。

【図1】
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【公開番号】特開2013−23473(P2013−23473A)
【公開日】平成25年2月4日(2013.2.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−159942(P2011−159942)
【出願日】平成23年7月21日(2011.7.21)
【出願人】(593077308)共和薬品工業株式会社 (11)
【Fターム(参考)】