説明

タングステンナノ粒子の製造方法

本教示は、タングステン含有ナノ粒子、具体的には平均粒度が約5ナノメートル未満のタングステンナノ粒子および酸化タングステンナノ粒子の製造方法に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本教示は、平均粒度が約5ナノメートル未満のタングステン含有ナノ粒子を含む、タングステン含有ナノ粒子の製造方法に関する。本方法は、タングステン含有成分を加水分解または沈殿してナノ粒子を逆マイクロエマルション内に形成するステップ、逆マイクロエマルションからタングステン含有ナノ粒子を回収または沈殿するステップ、およびタングステン含有ナノ粒子を焼成して必要とされる原子価状態の所望のタングステンとするステップを含む。
【背景技術】
【0002】
直径約1〜約100ナノメートルの粒子であるナノ粒子は、高い表面積対体積比を有することから、磁気的、電気的、触媒的、および色素としての用途など様々な分野において重要なものとなっている。物理学的および化学的方法を含む多様な調製方法が知られている。
【0003】
マイクロエマルションおよび逆マイクロエマルションを利用して金属または金属酸化物含有ナノ粒子を製造する様々な化学的方法が公知である(例えば米国特許第6,869,584B2号;第5,725,802号;第5,670,088号;および第5,695,901号参照)。これらの文献はいずれも、マイクロエマルションまたは逆マイクロエマルションを用いた、タングステンまたは酸化タングステン含有ナノ粒子の製造方法を教示・示唆していない。
【0004】
内部で所望の生成物を形成する反応を実施することのできる、ナノリアクターまたはナノドメインとしての水性ナノ液滴を供給する手段として、逆マイクロエマルションを利用することが知られている。水性ナノ液滴は、界面活性剤を使用して、非水(または無極性)相中で安定させることができ、ナノ液滴の寸法を制御して内部に製造される生成物の粒度に影響を与えることができる。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
タングステンおよび/または酸化タングステンナノ粒子について、平均粒度が約10ナノメートル未満、好ましくは約5ナノメートル未満のタングステンおよび/または酸化タングステンナノ粒子を製造する方法が求められている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本教示は、粒度が約10ナノメートル未満、好ましくは約5ナノメートル未満のタングステンおよび酸化タングステンナノ粒子を製造する方法の需要を満たすものである。
【0007】
本教示の一実施形態によると、タングステン含有成分と、水性ナノドメイン、非水相および界面活性剤を含むマイクロエマルションとを供給するステップを含むタングステン含有ナノ粒子を製造する方法が提供される。タングステン含有成分をマイクロエマルションと混合し、タングステン含有成分を加水分解してタングステン含有ナノ粒子を形成する。この実施形態において、マイクロエマルションは、タングステン含有成分を加水分解するのに十分な量の水または含水成分を含んでいる。
【0008】
本教示の別の実施形態によると、第1のマイクロエマルションと第2のマイクロエマルションとを供給することによってタングステン含有ナノ粒子を製造する方法が提供される。第1のマイクロエマルションは、第1の非水相と第1の界面活性剤とに分散した第1の水性ナノドメインを含み、第1の水性ナノドメインにはタングステン含有成分が溶解している。第2のマイクロエマルションは、第2の非水相と第2の界面活性剤とに分散した第2の水性ナノドメインを含み、第2の水性ナノドメインには沈殿剤が溶解している。第1のマイクロエマルションと第2のマイクロエマルションとを互いに接触させ、タングステン含有ナノ粒子を沈殿させる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
本教示の更なる理解を助けるためのものであり本明細書の一部を構成する付属の図面は、本教示の様々な実施形態を例証し、詳細な説明と併せて本教示の原理を説明する。
【0010】
タングステン含有ナノ粒子を製造する本方法は、タングステン含有成分と、水性ナノドメイン、非水相および界面活性剤を含むマイクロエマルションとを供給するステップを含む。タングステン含有成分をマイクロエマルションと混合し、タングステン含有成分を加水分解してタングステン含有ナノ粒子を形成する。本方法において、マイクロエマルションは、タングステン含有成分を加水分解するのに十分な量の水または含水成分を含むことができる。
【0011】
本方法は、タングステン含有ナノ粒子を単離するステップ、単離したタングステン含有ナノ粒子を乾燥するステップ、および乾燥したタングステン含有ナノ粒子を還元して金属タングステンを形成するステップ、 または乾燥したタングステン含有ナノ粒子を空気または酸素下で加熱して酸化タングステンナノ粒子を形成するステップをさらに含むことができる。還元は、タングステン含有ナノ粒子を十分な還元環境に暴露させることで実施することができ、例えば少なくとも約1容量%の水素の存在下でタングステン含有ナノ粒子を約500℃に加熱することで還元を実施することができる。酸化タングステンナノ粒子の調製は、タングステン含有ナノ粒子を酸化環境に暴露させることによって実施することができ、例えばタングステン含有ナノ粒子を空気下で約500℃に加熱することで熱処理を実施することができる。
【0012】
本方法で用いる還元環境は、タングステン含有ナノ粒子を還元して金属タングステンナノ粒子を形成するのに十分な、水素濃度と温度との様々な組合せを含む。好適な組合せが多数存在することが当業者には理解されよう。例えば、所望のタングステン含有ナノ粒子を形成するには、純粋な水素と約500℃の加熱の組合せが十分である。
【0013】
本方法で用いる酸化タングステンナノ粒子調製用の熱処理環境は、酸化タングステンを形成するのに十分な、酸素濃度と温度との様々な組合せを含む。好適な組合せが多数存在することが当業者には理解されよう。例えば、X線回折によって観察可能な結晶酸化タングステンナノ粒子を形成するには、空気下で約400℃に加熱すれば十分である。
【0014】
製造するタングステン含有ナノ粒子は、酸化タングステンであっても金属タングステンであってもよい。上で説明したように、タングステン含有ナノ粒子を還元することで、次いで、金属タングステンナノ粒子を製造することができる。上で説明したように、タングステン含有ナノ粒子を空気または酸素下で熱処理することで、酸化タングステンナノ粒子を製造することができる。還元の前にタングステン含有ナノ粒子を洗浄して溶媒を除去しておくと、タングステン含有ナノ粒子の純度を向上させることができる。
【0015】
タングステン含有成分を加水分解させた後、高表面積担体成分をマイクロエマルションに供することができる。高表面積担体成分の例としては、炭素粉、ゼオライト、およびアルミナが挙げられる。
【0016】
本加水分解法では、逆マイクロエマルションまたは油中水型マイクロエマルションを用いることができる。逆マイクロエマルションは、連続無極性相(例えばシクロヘキサンまたはn−ヘプタン)に分散した極性ナノドメイン(例えば水滴)を有する。分散極性ナノドメインは、界面活性剤で安定化させることができる。イオン性または非イオン性界面活性剤のいずれかを逆マイクロエマルションに用いることができる。一般に、逆ミセルまたはマイクロエマルションは、界面活性剤により形成され安定化される膜または境界内に含まれる分散極性ナノドメインを有している。
【0017】
好適な界面活性剤としては、長鎖炭化水素を有し、鎖の一方の親水性末端がマイクロエマルションの不混和液の水性ナノドメインに親和性があり、鎖の他方の疎水性末端が油相に親和性があるものが挙げられる。イオン性界面活性剤は、対イオンで荷電バランスを取った荷電炭化水素鎖を有する。本方法で用いることのできるイオン性界面活性剤の例としては、ビス(2−エチルヘキシル)スルホコハク酸ナトリウム(AOT)および臭化ヘキサデシルトリメチルアンモニウム(CTAB)が挙げられる。
【0018】
非イオン性界面活性剤は、荷電中性を有しうる。本教示による方法において好適な非イオン性界面活性剤の種類の例としては、ポリエトキシ化アルコール、ポリエトキシ化フェノール、オレイン酸塩、およびラウリン酸塩が挙げられる。本方法に有用な非イオン性界面活性剤としては以下の種類の界面活性剤、例えばソルビタンエステルのポリオキシエチレン誘導体、ポリオキシエチレン脂肪エーテル(fatty ethers)、ソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンイソオクチルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンノニルフェニルエーテル、ポリエトキシ化ヘキサノール、およびペンタエチレングリコールドデシルエーテル(PEDGD)が挙げられるが、これらに限定されるものではない。これら好適な界面活性剤で市販されているもととしては、例えば、Brij−30、Brij−35、Brij−52、Brij−56、Brij−58、Brij−76、Brij−95、Triton X−45、Triton X−100、Triton X−405、Igepal CO−210、Igepal CO−520、Igepal CO−630、Igepal CO−720、Tween 20、Tween 40、Tween 60、Tween 80、Tween 85、Span 20、Span 40、Span 60、Span 80およびSpan 85が挙げられる。Brij、TweenおよびSpan界面活性剤はデラウェア州ウィルミントンのUniqema(ICI Americas, Inc.)から、Triton界面活性剤はミシガン州ミッドランドのDow Chemicalから、Igepal界面活性剤はGAF Corporationから入手可能である。
【0019】
本加水分解法に、コサーファクタントを用いることもできる。好適なコサーファクタントの例としては、1−ブタノールおよび2−ヘキサノールが挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0020】
本発明の方法により、平均粒度が約10ナノメートル未満、好ましくは平均粒度が約5ナノメートル未満、より好ましくは平均粒度が約3ナノメートル未満、そして約2ナノメートル未満のタングステン含有ナノ粒子を製造することができる。
【0021】
マイクロエマルションまたは逆マイクロエマルションの極性相は例えば、水であってもよい。
【0022】
マイクロエマルションまたは逆マイクロエマルションの無極性相は、ブタノール、シクロヘキサン、ヘキサノール、ヘプタン、イソブチルベンゼン、n−オクタン、イソオクタン、ミリスチン酸イソプロピルおよびヘキサデカンからなる群より選ばれる1種以上であってもよい。
【0023】
加水分解反応法に用いるタングステン含有成分はタングステンアルコキシドまたはタングステンオキシアルコキシドであってもよく、タングステンエトキシド、タングステンイソプロポキシド、タングステンブトキシド、タングステンオキシエトキシド、およびタングステンオキシブトキシドからなる群より選ばれる1種以上であってもよい。
【0024】
タングステン含有ナノ粒子を製造する別の方法が提供される。この方法は、第1の非水相と第1の界面活性剤とに分散した第1の水性ナノドメインであって、タングステン含有成分が溶解した第1の水性ナノドメインを含む第1のマイクロエマルションを供給するステップ、ならびに第2の非水相と第2の界面活性剤とに分散した第2の水性ナノドメインであって、沈殿剤が溶解した第2の水相を含む第2のマイクロエマルションを供給するステップを含む。第1のマイクロエマルションと第2のマイクロエマルションとを混合するかあるいは接触させ、混合したマイクロエマルションからタングステン含有ナノ粒子を沈殿させる。
【0025】
この沈殿法は、タングステン含有ナノ粒子を回収または単離するステップ、単離したタングステン含有ナノ粒子を乾燥するステップ、および乾燥したタングステン含有ナノ粒子を還元して金属タングステンナノ粒子を形成するステップをさらに含むことができる。還元は、タングステン含有ナノ粒子を十分な還元環境に暴露させることで実施することができ、例えば少なくとも約1容量%の水素の存在下でタングステン含有ナノ粒子を約500℃に加熱することで還元を実施することができる。
【0026】
本方法で用いる還元環境は、タングステン含有ナノ粒子を還元して金属タングステンナノ粒子を形成するのに十分な、水素濃度と温度との様々な組合せを含む。好適な組合せが多数存在することが当業者には理解されよう。例えば、所望のタングステン含有ナノ粒子を形成するには、純粋な水素と約500℃の加熱の組合せが十分である。
【0027】
この方法によって製造するタングステン含有ナノ粒子は、酸化タングステンであっても金属タングステンであってもよい。上で説明したように、タングステン含有ナノ粒子を還元することで、金属タングステンナノ粒子を製造することができる。還元の前にタングステン含有ナノ粒子をさらに洗浄して溶媒を除去しておくと、タングステン金属ナノ粒子の純度を向上させることができる。
【0028】
本沈殿法はさらに、タングステン含有ナノ粒子を沈殿させた後、高表面積担体成分をマイクロエマルションに供給するステップを含んでいてもよい。高表面積担体成分の例としては、炭素粉、ゼオライトおよびアルミナが挙げられる。
【0029】
本沈殿法では、逆マイクロエマルションまたは油中水型マイクロエマルションを用いることができる。逆マイクロエマルションは、連続無極性相(例えばシクロヘキサンまたはn−ヘプタン)に分散した不連続極性ナノドメイン(例えば水滴)を有する。分散極性ナノドメインは、界面活性剤で安定化させることができる。イオン性または非イオン性界面活性剤のいずれかを逆マイクロエマルションに用いることができる。一般に、逆ミセルは、界面活性剤により形成され安定化される膜または境界内に含まれる分散極性ナノドメインを有している。
【0030】
好適な界面活性剤としては、長鎖炭化水素を有し、鎖の一方の親水性末端がマイクロエマルションの不混和液の水性ナノドメインに親和性があり、鎖の他方の疎水性末端が油相に親和性があるものが挙げられる。イオン性界面活性剤は、対イオンで荷電バランスを取った荷電炭化水素鎖を有する。本方法で用いることのできるイオン性界面活性剤の例としては、ビス(2−エチルヘキシル)スルホコハク酸ナトリウム(AOT)および臭化ヘキサデシルトリメチルアンモニウム(CTAB)が挙げられる。
【0031】
非イオン性界面活性剤は、荷電中性を有しうる。本教示による方法において好適な非イオン性界面活性剤の種類の例としては、ポリエトキシ化アルコール、ポリエトキシ化フェノール、オレイン酸塩、およびラウリン酸塩が挙げられる。本方法に有用な非イオン性界面活性剤としては以下の種類の界面活性剤、例えばソルビタンエステルのポリオキシエチレン誘導体、ポリオキシエチレン脂肪エーテル、ソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンイソオクチルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンノニルフェニルエーテル、ポリエトキシ化ヘキサノール、およびペンタエチレングリコールドデシルエーテル(PEDGD)が挙げられるが、これらに限定されるものではない。これら好適な界面活性剤で市販されているもととしては、例えば、Brij−30、Brij−35、Brij−52、Brij−56、Brij−58、Brij−76、Brij−95、Triton X−45、Triton X−100、Triton X−405、Igepal CO−210、Igepal CO−520、Igepal CO−630、Igepal CO−720、Tween 20、Tween 40、Tween 60、Tween 80、Tween 85、Span 20、Span 40、Span 60、Span 80およびSpan 85が挙げられる。Brij、TweenおよびSpan界面活性剤はデラウェア州ウィルミントンのUniqema(ICI Americas, Inc.)から、Triton界面活性剤はミシガン州ミッドランドのDow Chemicalから、Igepal界面活性剤はGAF Corporationから入手可能である。
【0032】
本沈殿法において、第1の界面活性剤および第2の界面活性剤は、それぞれ独立に、ソルビタンエステルのポリオキシエチレン誘導体、ポリオキシエチレン脂肪エーテル、ソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンイソオクチルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンノニルフェニルエーテル、ポリエトキシ化ヘキサノールおよびペンタエチレングリコールドデシルエーテルからなる群より選ばれる1種以上であってもよい。
【0033】
第1の非水相および第2の非水相が同一の非水成分で構成されてもよいし、異なる非水成分で構成されてもよい。本沈殿法において、各マイクロエマルションの第1の非水相および第2の非水相は、それぞれ独立に、ブタノール、シクロヘキサン、ヘキサノール、ヘプタン、イソブチルベンゼン、n−オクタン、イソオクタン、ミリスチン酸イソプロピルおよびヘキサデカンからなる群より選ばれる1種以上であってもよい。第1および第2のマイクロエマルションの両方が同一の界面活性剤を含んでいてもよいし、異なる界面活性剤を含んでいてもよい。
【0034】
本沈殿法によると、第1のマイクロエマルションおよび第2のマイクロエマルションは、逆マイクロエマルションであってもよく、両者が同一の極性ナノドメイン、無極性相および界面活性剤から構成されていてもよい。
【0035】
沈殿剤は、塩酸、硫酸および硝酸などの酸からなる群より選ばれる1種以上であってもよい。好適な沈殿剤は、タングステン含有成分をマイクロエマルションから沈殿させる剤であってもよい。
【0036】
本沈殿法によると、本方法により製造したタングステン含有ナノ粒子は、平均粒度が約10ナノメートル未満、好ましくは平均粒度が約5ナノメートル未満、好ましくは平均粒度が約3ナノメートル未満、そして約2ナノメートル未満とすることができる。
【0037】
本沈殿法において、タングステン含有成分はタングステン酸塩であってもよく、タングステン酸ナトリウム、タングステン酸カリウムおよびタングステン酸アンモニウムからなる群より選ばれる1種以上であってもよい。
【0038】
本願において言及した全ての出版物、記事、論文、特許、特許公報およびその他の文献は、ここに参照して全文を開示に含むものとする。
【0039】
本教示の好ましい実施形態を説明したが、当業者には、本教示の精神および範囲内で様々な変形や改変が可能であることは明らかであろう。
【0040】
本教示のさらにより深い理解を助けるために、以下に実施例を記す。本教示の原理を例証するために記載する特定の技術、条件、材料、報告データは例に過ぎず、本教示の範囲を限定するものではない。
【実施例1】
【0041】
40.0mLのn−ヘプタン(99%Acros Organics)と0.849mLの脱イオン水との混合物に、6.0mLのBrij−30界面活性剤を添加し、次いで15分間超音波で混合して、逆マイクロエマルションを調製した。
【0042】
100mgのタングステンイソプロポキシド(Chemat Technology, Inc.)のアリコートを25mLのn−ヘプタンに分散し、上で調製した逆マイクロエマルションに滴下した。反応混合物を室温で4時間攪拌した。攪拌した4時間にわたって、反応混合物は緩やかに透明性を失った。
【0043】
アセトンを添加して、反応混合物を一晩沈殿させた。沈殿物を遠心分離で回収し、アセトンとエタノールで繰り返し洗浄し、さらに脱イオン水に分散してから液体Nを用いて凍結乾燥した。
【0044】
粉末の一部をH下で500℃に加熱した。図2は、500℃で加熱した粉末の走査型透過電子顕微鏡(STEM)写真である。タングステンナノ粒子の粒度は約2〜約3ナノメートルである。図3は500℃で加熱した粉末のXRDスペクトルである。回折ピークはα−W(記号□)およびβ−W(記号○)として識別される。高温、例えば650℃に加熱すると、粒子径が大きくなる。
【0045】
粉末の一部を空気下でそれぞれ200℃、300℃、400℃および500℃に加熱した。図4は、これらの4つの異なる温度で加熱した粉末のXRDスペクトルである。これらの結果は、非晶構造が400℃未満に加熱した場合に存在し、結晶構造が400℃以上に加熱した場合に観察されることを示している。結晶構造の粉末は、6面構造(記号□)と斜方晶系構造(記号○)の2種の構造の混合体を有する酸化タングステンとしてXRDによって識別される。
【実施例2】
【0046】
50.0mLのシクロヘキサン(99%Acros Organics)と1.134mLの脱イオン水との混合物に、2.980mLのTriton X−100界面活性剤と2.576mlの2−ヘキサノール(Acros Organics)とを添加し、次いで15分間超音波で混合して、逆マイクロエマルションを調製した。
【0047】
100mgのタングステンイソプロポキシド(Chemat Technology, Inc.)のアリコートを30mLのシクロヘキサンに分散し、上で調製した逆マイクロエマルションに滴下した。反応混合物を室温で4時間攪拌した。攪拌した4時間にわたって、反応混合物は緩やかに透明性を失った。
【0048】
約20%の担持レベル(loading level)に十分な炭素担体材料(147.2mgのケッチェンブラック)を添加した。混合物を15分間超音波で混合し、1時間攪拌し、次いでアセトンを添加して、反応生成物が沈殿するまでさらに10分間攪拌を続けた。
【0049】
沈殿物を遠心分離で回収し、アセトンで1回洗浄し、エタノールで2回洗浄した。回収した粉末をAr流下で乾燥した。図5は、炭素担持タングステン含有ナノ粒子の高分解能透過電子顕微鏡(HRTEM)写真であり、粒度は約2〜約3ナノメートルである。
【0050】
粉末の一部を還元ガス(HとNの混合物または純粋なHのいずれか)雰囲気下で650℃に加熱した。ナノ粒子は高表面積炭素に担持されているので、粒度の顕著な増加は観察されなかった。
【実施例3】
【0051】
1.012mLの脱イオン水と50mLのシクロヘキサン(Acros Organics)との混合物に5.0gのAOT(AcrosOrganics)を添加し、次いで0.0652gのNaWO(Fisher Scientific)を添加し、10分間超音波で混合して、第1の逆マイクロエマルションを調製した。1.013mLの1N HClと50mLのシクロヘキサン(Acros Organics)との混合物に5.0gのAOTを添加し、10分間超音波で混合して、第2の逆マイクロエマルションを調製した。
【0052】
第1および第2の逆マイクロエマルションを一緒にして室温で4時間攪拌した。反応の進行は、反応混合物の透明性が失われていくことで認識された。
【0053】
148.8mgのケッチェンブラック炭素を反応混合物に添加し、10分間超音波で混合し、2時間攪拌した。アセトンを添加して反応生成物を沈殿させた。
【0054】
沈殿を遠心分離で回収し、アセトンで洗浄し、遠心分離でアセトンを除去した。この工程をエタノールで繰り返し、次いでメタノールで繰り返し、その後Ar流下で乾燥した。最後に粉末を気流下で500℃に加熱した。
【0055】
500℃で加熱した後の粉末の高分解能透過電子顕微鏡(HRTEM)像を図6に示す。炭素担持酸化タングステン粒子の粒度は約2〜約5ナノメートルである。
【実施例4】
【0056】
50.0mLのシクロヘキサン(99%Acros Organics)と0.561mLの脱イオン水との混合物に、2.980mLのTriton X−100界面活性剤と2.576mlの2−ヘキサノール(Acros Organics)とを添加し、次いで10分間超音波で混合して、逆マイクロエマルションを調製した。
【0057】
100mgのタングステンイソプロポキシド(Chemat Technology, Inc.)のアリコートを30mLのシクロヘキサンに分散し、上で調製した逆マイクロエマルションに溶液を滴下した。反応混合物を室温で4時間攪拌した。攪拌した4時間にわたって、反応混合物は緩やかに透明性を失った。
【0058】
約20%の担持レベルに十分な炭素担体材料(147.2mgのケッチェンブラック炭素)を添加した。混合物を15分間超音波で混合し、15分間攪拌し、次いでアセトンを添加して、さらに10分間攪拌を続けた。反応生成物を一晩静置して沈殿させた。
【0059】
沈殿物を遠心分離で回収し、アセトンで1回洗浄し、エタノールで2回洗浄した。回収した粉末をAr流下で乾燥した。粉末の一部をH下で650℃に加熱した。
【0060】
図7は、上記実施例2で説明した条件下、および明細書に詳述した還元の水濃度で調製した粉末のXRDスペクトルである。
【0061】
観察された回折パターンは概して同じであったが、逆マイクロエマルション内でより低い水濃度で行った反応については、より広い回折ピークが観察された。より広い回折ピークは、粒子がより小さいことを示している。理由としては、粒度と形状は主に、水対界面活性剤モル比によって熱力学的に決定される水滴の寸法に依存しており、その結果より低い水濃度の場合にはより分散したより小さな水滴となり、これによって観察されたようなより小さな粒子が提供される、ということが考えられる(ただしこの理論に拘泥しない)。
【0062】
本教示の様々な実施形態について上記した詳細な説明は、例証および説明を目的とするものである。開示の実施形態のみに本教示が包括されるまたは限定されることを企図していない。当業者には、様々な改変や変形が可能であることが明らかであろう。実施形態は、本教示の原理とその実際の適用を最もよく説明するために選択して記述している。これにより、当業者が様々な実施形態の本教示を理解し、意図する用途に合った様々な改変ができるようになっている。本教示の範囲は、付属の請求の範囲およびその同等物によって定義されるものとする。
【図面の簡単な説明】
【0063】
【図1】逆マイクロエマルションの原理の概略図を示す。
【図2】500℃で還元したタングステンナノ粒子の走査型透過電子顕微鏡(STEM)写真を示す。
【図3】還元タングステンナノ粒子のX線回折パターンを示す。
【図4】空気下で4つの異なる温度で加熱した酸化タングステンナノ粒子のX線回折パターンを示す。
【図5】熱処理前の炭素担持タングステン含有ナノ粒子の高分解能透過電子顕微鏡(HRTEM)像を示す。
【図6】空気下で500℃に加熱した炭素担持酸化タングステンナノ粒子の高分解能透過電子顕微鏡(HRTEM)像を示す。
【図7】2種の異なる水濃度で逆マイクロエマルション中に調製した炭素担持タングステンナノ粒子のX線回折パターンを示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
タングステン含有成分を供給するステップ;
1種の水性液体および1種の非水性液体からなる2種の不混和液と界面活性剤とを含むマイクロエマルションを供給するステップ;
前記タングステン含有成分と前記マイクロエマルションとを混合するステップ;および
前記タングステン含有成分を加水分解させてタングステン含有ナノ粒子を形成するステップ
を含むタングステン含有ナノ粒子を製造する方法であって、
前記マイクロエマルションは、前記タングステン含有成分を加水分解するのに十分な量の含水成分を含むことを特徴とする方法。
【請求項2】
前記タングステン含有ナノ粒子を回収するステップをさらに含む請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記タングステン含有ナノ粒子を乾燥するステップをさらに含む請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記タングステン含有ナノ粒子を還元して金属タングステンナノ粒子を形成するステップをさらに含む請求項3に記載の方法。
【請求項5】
還元が、少なくとも約1容量%の水素の存在下で前記タングステン含有ナノ粒子を約500℃に加熱することを含むことを特徴とする請求項4に記載の方法。
【請求項6】
前記タングステン含有ナノ粒子を酸化して酸化タングステンナノ粒子を形成するステップをさらに含む請求項3に記載の方法。
【請求項7】
酸化が、酸素含有雰囲気中で前記タングステン含有ナノ粒子を約400℃以上に加熱することを含むことを特徴とする請求項6に記載の方法。
【請求項8】
前記タングステン含有成分を加水分解させた後、高表面積担体成分を前記マイクロエマルションに供給するステップをさらに含む請求項1に記載の方法。
【請求項9】
前記マイクロエマルションは逆マイクロエマルションであることを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項10】
前記タングステン含有ナノ粒子の平均粒度が約10ナノメートル未満であることを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項11】
前記タングステン含有ナノ粒子の平均粒度が約5ナノメートル未満であることを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項12】
前記タングステン含有成分は、タングステンアルコキシドを含むことを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項13】
前記タングステン含有成分は、タングステンエトキシド、タングステンイソプロポキシド、タングステンブトキシド、タングステンオキシエトキシド、タングステンオキシプロポキシド、およびタングステンオキシブトキシドからなる群より選ばれる1種以上を含むことを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項14】
前記非水相は、ブタノール、シクロヘキサン、ヘキサノール、ヘプタン、イソブチルベンゼン、n−オクタン、イソオクタン、ミリスチン酸イソプロピルおよびヘキサデカンからなる群より選ばれる1種以上を含むことを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項15】
前記界面活性剤は、ビス(2−エチルヘキシル)スルホコハク酸ナトリウム、臭化ヘキサデシルトリメチルアンモニウム、ソルビタンエステルのポリオキシエチレン誘導体、ポリオキシエチレン脂肪エーテル、ソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンイソオクチルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンノニルフェニルエーテル、ポリエトキシ化ヘキサノール、およびペンタエチレングリコールドデシルエーテルからなる群より選ばれる1種以上を含むことを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項16】
第1の非水相と第1の界面活性剤とに分散した第1の水性ナノドメインであって、タングステン含有成分が溶解した第1の水性ナノドメインを含む第1のマイクロエマルションを供給するステップ;
第2の非水相と第2の界面活性剤とに分散した第2の水性ナノドメインであって、沈殿剤が溶解した第2の水性ナノドメインを含む第2のマイクロエマルションを供給するステップ;
前記第1のマイクロエマルションと前記第2のマイクロエマルションとを混合するステップ;および
タングステン含有ナノ粒子を沈殿させるステップ
を含むタングステン含有ナノ粒子を製造する方法。
【請求項17】
前記タングステン含有ナノ粒子を回収するステップをさらに含む請求項16に記載の方法。
【請求項18】
前記タングステン含有ナノ粒子を乾燥するステップをさらに含む請求項17に記載の方法。
【請求項19】
前記タングステン含有ナノ粒子を還元して金属タングステン含有ナノ粒子を形成するステップをさらに含む請求項18に記載の方法。
【請求項20】
還元が、少なくとも約1容量%の水素の存在下で前記タングステン含有ナノ粒子を約500℃に加熱することを含むことを特徴とする請求項19に記載の方法。
【請求項21】
前記タングステン含有ナノ粒子を酸化して酸化タングステンナノ粒子を形成するステップをさらに含む請求項18に記載の方法。
【請求項22】
酸化が、酸素含有雰囲気中で前記タングステン含有ナノ粒子を約400℃以上に加熱することを含むことを特徴とする請求項21に記載の方法。
【請求項23】
前記タングステン含有ナノ粒子を沈殿させた後、高表面積担体成分を供給するステップをさらに含む請求項16に記載の方法。
【請求項24】
前記第1の非水相と前記第2の非水相は、同一の非水成分からなることを特徴とする請求項16に記載の方法。
【請求項25】
前記第1のマイクロエマルションおよび前記第2のマイクロエマルションは、逆マイクロエマルションであることを特徴とする請求項16に記載の方法。
【請求項26】
前記沈殿剤は、塩酸、硫酸および硝酸からなる群より選ばれる1種以上を含むことを特徴とする請求項16に記載の方法。
【請求項27】
前記タングステン含有ナノ粒子の平均粒度が約10ナノメートル未満であることを特徴とする請求項16に記載の方法。
【請求項28】
前記タングステン含有ナノ粒子の平均粒度が約5ナノメートル未満であることを特徴とする請求項16に記載の方法。
【請求項29】
前記タングステン含有成分は、タングステン酸塩を含むことを特徴とする請求項16に記載の方法。
【請求項30】
前記タングステン含有成分は、タングステン酸ナトリウム、タングステン酸カリウム、およびタングステン酸アンモニウムからなる群より選ばれる1種以上を含むことを特徴とする請求項16に記載の方法。
【請求項31】
前記第1の非水相および前記第2の非水相は、それぞれ独立に、ブタノール、シクロヘキサン、ヘキサノール、ヘプタン、イソブチルベンゼン、n−オクタン、イソオクタン、ミリスチン酸イソプロピルおよびヘキサデカンからなる群より選ばれる1種以上を含むことを特徴とする請求項16に記載の方法。
【請求項32】
前記第1の界面活性剤および前記第2の界面活性剤は、それぞれ独立に、ビス(2−エチルヘキシル)スルホコハク酸ナトリウム、臭化ヘキサデシルトリメチルアンモニウム、ソルビタンエステルのポリオキシエチレン誘導体、ポリオキシエチレン脂肪エーテル、ソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンイソオクチルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンノニルフェニルエーテル、ポリエトキシ化ヘキサノール、およびペンタエチレングリコールドデシルエーテルからなる群より選ばれる1種以上を含むことを特徴とする請求項16に記載の方法。

【図1】
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【図3】
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【図4】
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【図7】
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【図2】
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【図5】
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【図6】
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【公表番号】特表2009−508001(P2009−508001A)
【公表日】平成21年2月26日(2009.2.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−529996(P2008−529996)
【出願日】平成18年8月9日(2006.8.9)
【国際出願番号】PCT/US2006/031098
【国際公開番号】WO2007/030254
【国際公開日】平成19年3月15日(2007.3.15)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【Fターム(参考)】