説明

タンデム型薄膜太陽電池

【課題】発電効率を高効率化した、CIS太陽電池を用いたタンデム型薄膜太陽電池を提供する。
【解決手段】タンデム型薄膜太陽電池1は、カルコパイライト型化合物の半導体を含んでなるカルコパイライト型化合物の半導体層(CIS半導体層103)を含むボトムセル100と、前記ボトムセル100の上に形成され、前記CIS半導体層103の禁制帯準位よりも大きな禁制帯準位を有する非晶質の半導体を含んでなる混合層111を含んで形成されるトップセル110と、前記ボトムセル100と前記トップセル110を接合するために前記ボトムセル100と前記トップセル110の間に形成された、多孔質構造を有する金属酸化物を含んでなる金属酸化物層105とを有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、CIS太陽電池を用いたタンデム型薄膜太陽電池に関する。
【背景技術】
【0002】
地球温暖化の原因となる二酸化炭素の削減へ向けて、自然エネルギーの一層の普及が望まれている。特に太陽光発電は、住宅向けからメガソーラーと呼ばれる太陽光発電プラントまで幅広い範囲で導入可能であることから注目されている。
【0003】
太陽光発電は、一般的な発電方式である火力発電や原子力発電と比較して発電コストが高いため低コスト化が課題となっている。現状、太陽光発電のほとんどは多結晶若しくは単結晶シリコンといった結晶シリコン系太陽電池であり、そのコストの約40%が結晶シリコンの原材料で占められている。従って、コスト削減の方針として、結晶シリコンを使用しない非シリコン系太陽電池の開発が盛んになっている。
【0004】
非シリコン系太陽電池のひとつに、銅、インジウム、セレンから構成されるカルコパイライト型化合物(I-III-VI族化合物)の半導体層(以下、「CIS半導体層」という。)を下部裏面電極と透明電極で挟んで形成される太陽電池(以下、「CIS太陽電池」という。)が注目されている。
CIS太陽電池は、結晶シリコンを使用しないことと、発電に必要な層厚が結晶シリコン系太陽電池の80分の1から100分の1程度と薄くすることが可能であることから、低コスト化が達成できると期待されている。
【0005】
CIS太陽電池は、前記したようにカルコパイライト型の多結晶薄膜を用いて構成されており、実験レベルの小型セルでは発電効率20%近くに到達している。CIS太陽電池の理論効率は、禁制帯準位(バンドギャップ;Eg)が1.4〜1.5eVのときに30%近くなると考えられている。しかしながら、CIS太陽電池の現状の最高効率は、禁制帯準位が1.03eVで達成されており、これより大きな禁制帯準位を持つCIS太陽電池では理論に反してむしろ発電効率が低下している。
【0006】
CIS太陽電池の発電効率が低下している要因ははっきりしていないが、価電子帯中に電荷捕獲準位が形成されていることや薄膜内で形成される禁制帯準位が最適化できていないことなどが推定されている。
【0007】
そのため、CIS太陽電池の禁制帯準位を1.03eVに固定し、より禁制帯準位の大きな太陽電池と組み合わせるタンデム型薄膜太陽電池が提案されている。
一般的なタンデム型薄膜太陽電池は、禁制帯準位の大きい太陽電池を入射光近くに設置し、より禁制帯準位の小さい太陽電池を前記した禁制帯準位の大きい太陽電池が光吸収した後の低エネルギー側の光を吸収するように設置したものである。このような構造を有することから、タンデム型薄膜太陽電池における禁制帯準位の大きい太陽電池はトップセル(上部セル)と呼ばれ、より禁制帯準位の小さい太陽電池はボトムセル(下部セル)と呼ばれている。
【0008】
従来のタンデム型薄膜太陽電池としては、例えば、非特許文献1に記載のものがある。非特許文献1に記載のタンデム型薄膜太陽電池500は、図5に示すように、下層から、ソーダライムガラス511と、ITOやSnO2:Fなどで形成される裏面電極512と、CuInSe2やCu(InGa)Se2などで形成されるナローギャップ光吸収層513と、CdS、ZnS、ZnMgOなどで形成されるバッファ層514とで形成される下部セル(ボトムセル)510と、ITOやSnO2:Fなどを用いてバッファ層514上に形成される透明電極521と、CuGaSe2、Ag(InGaSe)2などで形成されるワイドギャップ光吸収層522と、CdS、ZnS、ZnMgOなどで形成されるバッファ層523と、ZnO:Al、ZnO:Gaなどで形成される透明導電膜524と、上部電極525とで形成される上部セル(トップセル)520とを有している。つまり、禁制帯準位の小さい下部セル510としてCIS太陽電池を用い、上部セル520として、下部セル510より禁制帯準位の大きいCIS太陽電池を用いる旨が記載されている。
【0009】
また、従来のタンデム型薄膜太陽電池としては、例えば、特許文献1に記載のものもある。特許文献1に記載のタンデム型薄膜太陽電池600は、図6に示すように、下方から、支持基板611と、下部電極612と、禁制帯準位の小さいボトムセル610として、第1の半導体層613と第2の半導体層614を含んで形成されるCIS太陽電池を用い、第1の透明電極615と、トップセル620として、第1のドープ層621と、第1のi層622と、第2のドープ層623を含んで形成されるアモルファスシリコンの薄膜を用い、第2の透明電極624と、集電極625とを備えている。このタンデム型薄膜太陽電池600では、シリコンの薄膜がアモルファス(非晶質)であるため、格子不整合の問題が解決されて効率を改善できた旨が記載されている。
【0010】
なお、特許文献2、3、4には、タンデム構造とは異なるが、図7に示すように、CIS太陽電池の高効率化を狙って、支持基板701上で複数の半導体層702,703を接合させ、その上に透明電極704を形成したヘテロ接合型太陽電池700が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開平11−150282号公報
【特許文献2】特開昭63−41082号公報
【特許文献3】特開昭61−97872号公報
【特許文献4】特開昭63−27067号公報
【非特許文献】
【0012】
【非特許文献1】日本セラミックス協会編、「太陽電池材料」、日刊工業新聞社、2006年1月、p.152-155.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
以上に説明したように、CIS太陽電池の高効率化には、タンデム型薄膜太陽電池とするのが好適であるが、下記に示すとおり、高効率化に至っていないのが実情である。
ここで、タンデム型薄膜太陽電池の高効率化のためには、(1)トップセルとボトムセルの格子不整合を抑制すること、(2)トップセルとボトムセルの熱膨張係数の差分をなるべく小さくすること、(3)トップセルとボトムセルを電気的に接続する電極と太陽電池薄膜との密着性を保持すること、(4)トップセルとボトムセルの禁制帯準位の調整が可能であること、の4つを過不足無く満たすことが必要である。
【0014】
しかしながら、非特許文献1に記載の従来のタンデム型薄膜太陽電池500では、1.03eVより大きな禁制帯準位を持つCIS太陽電池を用いているため、欠陥準位の形成や格子不整合などの影響を受ける結果、タンデム化していないCIS太陽電池よりも発電効率が低下していた。
【0015】
また、特許文献1に記載の従来のタンデム型薄膜太陽電池600では、アモルファスシリコンの薄膜を形成するときの度重なる加熱プロセスの影響によって、ボトムセル610とトップセル620の間に設ける第1の透明電極615に構造的なひずみが生じ、結果として第1の透明電極615とボトムセル610の間、及び第1の透明電極615とトップセル620の間のうちの少なくとも一方の接触が悪くなり、電流及び電圧が小さくなっていた。
【0016】
そして、特許文献2、3、4に記載のヘテロ接合型太陽電池700では、CIS太陽電池を、溶液成長を用いたホモ接合としなければ高効率化が達成できないことがわかっている。そのため、例えば、CIS薄膜をp型半導体層として採用し、n型半導体層としてアモルファスシリコン薄膜を採用したものが開示されているが、高効率化に至っていない。
【0017】
本発明は前記問題に鑑みてなされたものであり、発電効率を高効率化した、CIS太陽電池を用いたタンデム型薄膜太陽電池を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0018】
前記課題を解決した本発明に係るタンデム型薄膜太陽電池は、カルコパイライト型化合物の半導体を含んでなるカルコパイライト型化合物の半導体層を含むボトムセルと、前記ボトムセルの上に形成され、前記カルコパイライト型化合物の半導体層の禁制帯準位よりも大きな禁制帯準位を有する非晶質の半導体を含んでなる混合層を含んで形成されるトップセルと、前記ボトムセルと前記トップセルを接合するために前記ボトムセルと前記トップセルの間に形成された、多孔質構造を有する金属酸化物を含んでなる金属酸化物層とを有することを特徴としている。前記混合層はπ共役高分子、分子量2000以下のπ共役構造を有する有機化合物、又はアモルファスシリコンを含むのが好ましい。また、前記金属酸化物層は、酸化チタン又は酸化亜鉛で形成されているのが好ましい。
【0019】
このように、本発明に係るタンデム型薄膜太陽電池は、ボトムセルとトップセルを、多孔質構造を有する金属酸化物層で接合している。そのため、ボトムセルと金属酸化物層の界面、及びトップセルと金属酸化物層の界面において、ボトムセルの一部及びトップセルの一部が金属酸化物層の孔に入り込むことによりこれらが金属酸化物層に強固に固定されるので、ボトムセルとトップセルの熱膨張係数が異なる場合でも熱膨張を緩和することができ、ボトムセルとトップセルの密着性を確保することが可能となる。また、前記した構成のボトムセルとトップセルは、吸収波長域が異なるので、多くの波長の光子のエネルギーを効率良く利用することができる。そのため、本発明に係るタンデム型薄膜太陽電池は、発電効率を確実に向上させることができる。
【0020】
さらに、前記課題を解決した本発明に係るタンデム型薄膜太陽電池は、吸収波長域の異なる複数のセルを積層して接合したタンデム型薄膜太陽電池であって、前記複数のセルを、多孔質構造を有する金属酸化物を含んでなる金属酸化物層で接合したことを特徴としている。
このように、多孔質構造を有する金属酸化物を含んでなる金属酸化物層で接合すれば、吸収波長域の異なる複数のセル(太陽電池)を強固に固定することができる。そのため、複数のセルの熱膨張係数が異なる場合であっても熱膨張を緩和することができ、複数のセルの密着性を確保することが可能となる。また、複数のセルは吸収波長域が異なるため、多くの波長の光子のエネルギーを効率良く利用することができ、発電効率を確実に向上させることが可能となる。
【発明の効果】
【0021】
本発明に係るタンデム型薄膜太陽電池は、吸収波長域の異なるボトムセルとトップセルを、多孔質構造を有する金属酸化物層で接合しているため、ボトムセルとトップセルの熱膨張係数が異なる場合でも熱膨張を緩和することができ、ボトムセルとトップセルの密着性を確保することができる。その結果、発電効率を高効率化することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本発明の第1実施形態に係るタンデム型薄膜太陽電池の構成を説明する概略断面図である。
【図2】本発明の第2実施形態に係るタンデム型薄膜太陽電池の構成を説明する概略断面図である。
【図3】本発明の第3実施形態に係るタンデム型薄膜太陽電池の構成を説明する概略断面図である。
【図4】CIS太陽電池の構造を説明する概略断面図である。
【図5】従来のタンデム型薄膜太陽電池の一例を説明する概略断面図である。
【図6】従来のタンデム型薄膜太陽電池の他の一例を説明する概略断面図である。
【図7】ヘテロ接合型太陽電池の構造を説明する概略断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
本発明に係るタンデム型薄膜太陽電池の要旨は、吸収波長域の異なる複数のセル(太陽電池)を、多孔質構造を有する金属酸化物を含んでなる金属酸化物層で接合することにある。
以下、適宜図面を参照して、本発明に係るタンデム型薄膜太陽電池を実施するための形態について詳細に説明する。
【0024】
<第1実施形態>
まず、図1を参照して本発明の第1実施形態に係るタンデム型薄膜太陽電池1について説明する。
図1に示すように、タンデム型薄膜太陽電池1は、主として、カルコパイライト型化合物の半導体を含んでなるカルコパイライト型化合物の半導体層(以下、「CIS半導体層」という。)103を含むボトムセル100と、このボトムセル100の上に形成され、前記したCIS半導体層103の禁制帯準位よりも大きな禁制帯準位を有する非晶質の半導体を含んでなる混合層111を含んで形成されるトップセル110と、前記したボトムセル100と前記したトップセル110を接合するためにボトムセル100とトップセル110の間に形成された、多孔質構造を有する金属酸化物を含んでなる金属酸化物層105とを有している。
【0025】
より詳細には、ボトムセル100は、下層から、支持基板101と、支持基板101上に形成された下部裏面電極102と、下部裏面電極102上に形成されたCIS半導体層103と、CIS半導体層103上に形成されたn型半導体層104とを有している。このボトムセル100は、いわゆるCIS太陽電池である。
トップセル110は、下層から、混合層111と、混合層111上に形成された正孔輸送層112と、正孔輸送層112上に形成された窓側透明電極113と、窓側透明電極113上に形成された透明支持基板114と、透明支持基板114上に形成された集電極115とを有している。このトップセル110は、いわゆるバルクへテロ接合型太陽電池である。
そして、金属酸化物層105は、ボトムセル100のn型半導体層104とトップセル110の混合層111との間に設けられている。
以下、かかる構成を有する第1実施形態に係るタンデム型薄膜太陽電池1について詳細に説明する。
【0026】
(支持基板101)
支持基板101は、タンデム型薄膜太陽電池1の薄膜支持体として機能する。支持基板101としては、ソーダライムガラス、無アルカリガラスといったガラス基板や、ステンレスホイルなどの金属基板、ポリイミドなどの耐熱性の高い樹脂基板などが適している。支持基板101は、製膜時に必要な加熱処理に対する耐久性とCIS太陽電池となるボトムセル100の熱膨張係数とさほど相違ない熱膨張性が必要であり、これらの条件を満たす支持基板であれば特に制限するものではない。支持基板101の厚みは支持体として機能するので、フレキシブル性を持たせるのであれば、0.05〜0.3mm、固体支持体として機能するならば0.1〜10mm程度が好ましい。
【0027】
(下部裏面電極102)
下部裏面電極102は、タンデム型薄膜太陽電池1から電荷を取り出す電極として機能する。通常、CIS半導体層103との密着性や製膜性を考慮するとモリブデン、金、タングステン、ニッケル又は白金を用いるのが好ましい。特にモリブデンはこの下部裏面電極102に接して設けられるCIS半導体層103との密着性が高く、特に好ましい。下部裏面電極102は支持基板101に対してスパッタリング法や蒸着法を行うことにより形成することができる。
【0028】
(CIS半導体層103)
CIS半導体層103は、いわゆるp型半導体層として機能する。CIS半導体層103は、銅、インジウム、セレンを含んで構成されるカルコパイライト型化合物(I-III-IV族化合物)であり、多結晶型の半導体であって、一般的にCuXY2の化学式で表される。ただし、Xはインジウム(In)又はガリウム(Ga)、Yはセレン(Se)又は硫黄である。つまり、インジウムに代えてガリウム、セレンに代えて硫黄としてもよいが、本発明においては、特にCuInSe2、CuInGaSe2が好ましい。これらを用いると高効率化を図ることが可能だからである。
【0029】
CIS半導体層103は通常、スパッタリング法、共蒸着法、セレン化法、電着法などの方法によって製膜することができる。特に共蒸着法又はセレン化法で良質の薄膜が形成できる。その際、結晶形成のために下部裏面電極102を形成した支持基板101の温度を400℃から800℃程度に加熱することが好ましく、さらに酸素雰囲気で加熱することが好ましい。これはカルコパイライト結晶を形成する際に生じる未結合種を終端する効果があると考えられている。
【0030】
また、CIS半導体層103は、電着や反応インクの塗布、さらに銅、インジウム、ガリウム、セレンの微粉末混合体の塗布など、非真空プロセスでも形成可能である。非真空プロセスは、CIS半導体層103の組成を安定して形成することができ、また製造コストの低減にも有効であるため、好適な製膜方法のひとつとして挙げられる。
【0031】
CIS半導体層103は、CuInGaSe2のうち、Ga/Inの比率を大きくすると禁制帯準位が大きくなることが知られている。ボトムセルとして機能するには、禁制帯準位が1.1eV近傍が最適であると考えられるため、Ga/Inの比率を0以上0.5以下にすることが好ましい。
また、4元系に関しては歩留まり低下やGaの濃度分布むらなどが生じることから、ボトムセルとして3元系CuInGa2を用いることもできる。この場合、禁制帯準位が0.1eV程度CuInGaSe2より低下するが、ボトムセルとしては何ら機能を制限されることはない。
【0032】
CIS半導体層103の層厚については、タンデム型薄膜太陽電池1は電流値の小さい値がセル構造全体の電流となるため、電池の内部抵抗、光吸収を考慮した層厚を設定する必要がある。通常、CIS半導体層103は光吸収係数が1×104から6×104cm-1と大きいため、0.1μmから10μmの範囲で最適な電流が得られる。
【0033】
(n型半導体層104)
n型半導体層104は、p型半導体層として機能するCIS半導体層103と接合界面を形成してこれらをpn接合する。このpn接合によって、ボトムセル100に光照射すると内部に自発電界が発現して、起電力を発生する。
【0034】
n型半導体層104は、硫化亜鉛(ZnS)、硫化カドミウム(CdS)、硫化インジウム(InS)などの硫化物で構成されるのが一般的であるが、カドミウムの環境規制などの対策やインジウムの希少性などを考慮して、硫化亜鉛(ZnS)が特に好ましい。n型半導体層104の形成には、スパッタリング法、真空蒸着法、MOCVD法など種々の方法を用いることができるが、金属イオンからなる溶液に浸漬して成長させる溶液成長法が特に好ましい。溶液成長法によって厚さ0.01μmから0.1μm程度のn型半導体層104がCIS半導体層103の内部に浸透する形で良好に形成される。ここで、n型半導体層104はpn接合界面を形成して起電力を発現できる程度の層厚があれば十分であり、できるだけ薄い方が好ましい。
【0035】
溶液成長法は、n型半導体層104を良好に形成できるが、この工程によってpn接合界面、若しくはCIS半導体層103中にカルコパイライト型とは異なる結晶相を形成しないように注意が必要である。
【0036】
(金属酸化物層105)
金属酸化物層105は、トップセル110と電気的に接続する機能、ボトムセル100とトップセル110の熱膨張係数が異なる場合における熱膨張を緩和する機能、短絡を防止する機能、ボトムセル100とトップセル110の半導体層が有する不純物の拡散、例えば、n型半導体層104と混合層111の拡散を抑制する機能を有する。
【0037】
ボトムセル100とトップセル110の半導体層は異なる熱膨張係数を有するため、その熱膨張を緩和する構造的な工夫が必要である。熱膨張係数が異なる半導体層はボトムセル100とトップセル110相互の半導体層が接触する金属酸化物層105で最もひずみが生じるため、n型半導体層104と金属酸化物層105との界面、及び混合層111と金属酸化物層105との界面に、剥離による構造欠陥が生じる。しかしながら、本発明では、この構造欠陥を防ぐために金属酸化物層105に多孔質構造を付与することによって、n型半導体層104と金属酸化物層105との密着性、及び混合層111と金属酸化物層105との密着性を確保することができる。つまり、金属酸化物層105の一面側の多孔質構造にn型半導体層104の表面の一部が入り込み、金属酸化物層105の他面側の多孔質構造に混合層111の表面の一部が入り込むことによって、n型半導体層104と金属酸化物層105と混合層111とが強固に固定される。
【0038】
金属酸化物層105は、酸化亜鉛(ZnO)や酸化チタン(TiO2)で形成することができ、前記したように多孔質構造を持つことが必要である。金属酸化物層105は、多孔質構造を得ることができれば、酸化インジウムスズ(ITO)や酸化スズも使用することができる。
【0039】
金属酸化物層105は通常、スパッタリング法、溶液成長法、電着法(もしくは電析法)、真空蒸着法、MOCVD法、電子線蒸着法などが用いられる。
金属酸化物層105として酸化亜鉛を用いる場合は、電着法(電析法)で電気化学的に形成する方法が最も好ましい。酸化亜鉛は、電着法によって容易に針状結晶(ウィスカ)を形成し、結果として金属酸化物層105が無数の針状結晶からなる多孔質構造を形成できるためである。
【0040】
また、金属酸化物層105として酸化亜鉛を用い、スパッタリング法や真空蒸着法などにより金属酸化物層105を形成する場合は、表面が高い平滑性を有することとなるので、化学エッチング等で表面を粗面化することが好ましい。金属酸化物層105の表面を粗面化することで多孔質構造に類似する表面構造を有することとなるため、金属酸化物層105と混合層111の密着性を向上させることができる。
【0041】
金属酸化物層105として酸化チタンを用いる場合は、テトラエトキシオルトチタネートなどの金属アルコキシドを主成分とするゾルゲル溶液を塗布し、加熱するゾルゲル法によって作製できる。酸化チタンは、微粒子形状を形成し易いため、この微粒子が数珠繋ぎとなり多孔質構造を形成させることができる。酸化亜鉛もゾルゲル法により同様の多孔質構造を形成することができる。
【0042】
金属酸化物層105として酸化チタンを用い、スパッタリング法や真空蒸着法などにより金属酸化物層105を形成する場合は、微粒子形状を形成し易いものの、十分な多孔質構造を得るのは困難であるため、化学エッチング等で空孔を広げる操作を行うとよい。このようにすれば、金属酸化物層105と混合層111の密着性を向上させることができる。
【0043】
金属酸化物層105の層厚は、タンデム型薄膜太陽電池1の電極として機能できればよく、その層厚は0.01μm以上、0.1μm以下が好ましい。
【0044】
(混合層111)
混合層111は、金属酸化物層105に接して形成され、ボトムセル100のp型半導体として機能するCIS半導体層103の禁制帯準位よりも大きい禁制帯準位を有する必要がある。
このような混合層111は、バルクヘテロ接合構造を有するπ共役高分子と電子受容体とを混合して形成することができる。
【0045】
π共役高分子としては、ポリp−フェニレンビニレン誘導体やポリチオフェン誘導体などを用いることができるがこれに制限されるものではなく、当該技術の属する技術分野において公知のπ共役高分子であればどのようなπ共役高分子も用いることができる。前記した公知のπ共役高分子は、CIS半導体よりも禁制帯準位が大きく、トップセル110の機能を妨げない。
【0046】
ポリチオフェンの一部の誘導体は結晶部分を有する高分子である。本発明では、金属酸化物層105と混合層111の密着性を確保するため、混合層111は、非晶質の半導体若しくは非晶質部分と結晶質部分の混晶を有する半導体である必要がある。非晶質部分と結晶質部分の混晶を有するポリチオフェンの一部の誘導体としては、例えば、ポリ3ヘキシルチオフェンを挙げることができる。
【0047】
電子受容体としては、ペリレン誘導体、フラーレン誘導体などを用いることができる。π共役高分子と混合溶液を形成する必要があるため、溶解性を付与する官能基を持った誘導体を用いることが好ましい。電子受容体の持つ最小非占有分子軌道(Lowest Unoccupied Molecular Orbital;LUMO)は、金属酸化物層105の持つ仕事関数より、真空準位に近いことが好ましい。金属酸化物層105の持つ仕事関数が電子受容体のLUMOよりも真空準位に近い場合は、電子受容体が輸送した電荷が金属酸化物層105から取り出される際にエネルギー障壁となり、好ましくない。
【0048】
混合層111は、π共役高分子と電子受容体の混合物の溶液をスピンコート、ディップコート、スクリーン印刷、グラビア印刷などの方法で金属酸化物層105上に塗布することによって形成することができる。混合層111の形成方法は前記に限られず、任意の方法で行うことができる。
【0049】
混合層111の層厚は、光吸収量、電荷の拡散距離などによって制約を受け、最適な層厚は0.01μmから0.5μmの間となり、この範囲内で最大の機能を発現する。
【0050】
(正孔輸送層112)
正孔輸送層112は、混合層111で生成した正孔電荷を輸送する機能、混合層111で生成した電子電荷をブロックする機能、後記する透明支持基板114全体の平滑性を付与する機能を有する。
【0051】
正孔輸送層112は、poly-(3, 4-ethylenedioxythiophene)(PEDOT−PSS)などの正孔輸送に優れた材料であれば特に制限されないで使用することができる。正孔輸送層112は、混合層111上にスピンコート、グラビア印刷、ディップコート、スクリーン印刷など種々の方法で塗布することができるが、これらの方法に制限されず、任意の方法で行うことができる。正孔輸送層112の層厚は前記した各機能を発現するための層厚が達成できればよく、0.1μm以下でできるだけ薄い方が好ましい。
【0052】
(窓側透明電極113)
窓側透明電極113は、透明支持基板114に接して設けられるものであって、酸化亜鉛、酸化スズ、ITOなどの可視光線の透過率の大きな金属酸化物を用いることができる。窓側透明電極113は、混合層111の機能を損ねないために低温で形成される必要があり、電着法やイオンプレーティング法など、下地に与える温度が比較的低い方法によって形成されるのが好適である。
【0053】
(透明支持基板114)
透明支持基板114は、トップセル110を形成する支持体であって、光透過性を有していればよく、ソーダライムガラス、無アルカリガラスなどのガラスやポリエチレンテレフタレート(PET)やポリエチレンナフタレート(PEN)などの樹脂フィルムを用いることができる。
【0054】
透明支持基板114は、窓側透明電極113を形成した状態で、混合層111に対してラミネートなどの方法で密着させたり、圧着プレスなどの方法で設置させたりすることで形成することができる。
【0055】
透明支持基板114は、構造上、これが必須であることはなく、あくまで表面の補強やタンデム型薄膜太陽電池1の支持が目的であるため、透明支持基板114を設置しなくともよい。
【0056】
(集電極115)
集電極115は窓側透明電極113から電荷を収集するために設置する。窓側透明電極113は、シート抵抗が10Ω/□(ohm/square)程度と比較的大きく、このため集電極115を形成して見かけ上の抵抗を低減する機能を有する。
集電極115は、アルミペースト、銀ペーストなどの金属ペースト材料を用いるのが工程上も簡便であり、機能も十分保持できる。
【0057】
第1実施形態に係るタンデム型薄膜太陽電池1は、以上に説明したとおりであるが、このほかに屋外での長期安定性や基板大型化、メンテナンス性などの問題に対応するため種々の交換可能な構成単位で形成するモジュール化工程が付与される。モジュール化工程は、本発明のタンデム型薄膜太陽電池の機能とは別の課題を解決するために施すのであって、モジュール化工程は本発明のタンデム型薄膜太陽電池1の機能に何ら影響を与えるものではない。
【0058】
<第2実施形態>
次に、本発明の第2実施形態に係るタンデム型薄膜太陽電池2について説明する。
図2に示すように、タンデム型薄膜太陽電池2は、タンデム型薄膜太陽電池1におけるバルクヘテロ接合型太陽電池であるトップセル110を、有機薄膜太陽電池であるトップセル120としている点でタンデム型薄膜太陽電池1と異なる。タンデム型薄膜太陽電池2のその他の構成要素は、タンデム型薄膜太陽電池1と同様である。そのため、タンデム型薄膜太陽電池2に関する以下の説明において、タンデム型薄膜太陽電池1と同様の構成要素については同一の符号を付し、重複する説明は省略するものとする。
【0059】
(トップセル120)
トップセル120は、金属酸化物層105上に形成され、下層から、n型半導体層121、n型半導体層121上に形成された、n型半導体層121と後記するp型半導体層123との混合層122、混合層122上に形成されたp型半導体層123を含んで形成されている。
【0060】
トップセル120が有機薄膜太陽電池である場合、ボトムセル100のCIS太陽電池と熱膨張係数が異なるために、屋外使用の際における熱ストレスの影響によってボトムセル100とトップセル120の間にひずみが生じ易い。しかしながら、本発明では金属酸化物層105が多孔質構造になっているため、金属酸化物層105の一面側の多孔質構造にn型半導体層104の一部が入り込み、金属酸化物層105の他面側の多孔質構造にn型半導体層121の表面の一部が入り込むことによって、n型半導体層104と金属酸化物層105とn型半導体層121とが強固に固定される。その結果、熱的なひずみを緩和することができる。したがって、CIS太陽電池と有機薄膜太陽電池のタンデム型薄膜太陽電池2であっても高効率な太陽電池を得ることが可能となる。
【0061】
(n型半導体層121)
n型半導体層121は、電子輸送とp型半導体層123からの電子受容の機能を有する。n型半導体層121は、分子量2000以下のπ共役構造を有する有機化合物であるフラーレン誘導体、ペリレン誘導体などの電子受容体分子から構成される。n型半導体層121は、金属酸化物層105上に真空蒸着などの方法によって好適に形成することができるが、これに限定されるものではない。n型半導体層121の層厚の最適値は現状理論的に解明されていないので、明確な限定はできないが、有機薄膜太陽電池の整流性が確保できる最低限の層厚であればよく、一般に0.005μmから0.5μm程度の任意の層厚で前記整流性は達成できる。
【0062】
(混合層122)
混合層122は、n型半導体層121と後記するp型半導体層123を混合することによって構成され、光吸収および電荷生成および電荷輸送の機能を有する。混合層122はn型半導体層121とp型半導体層123の共蒸着などによって形成することができる。混合層122の層厚は、光吸収と電荷輸送および励起子拡散距離などによって最適化されるが、理論的な最適値は明確になっていない。昨今の研究成果より、混合層122の層厚は0.05μmから2μm程度が適切だと考えられている。
【0063】
(p型半導体層123)
p型半導体層123は、光吸収、正孔輸送、電子の輸送ブロックの機能を有する。p型半導体層123は、分子量2000以下のπ共役構造を有する有機化合物であるフタロシアニン系誘導体、ポルフィリン誘導体など光吸収、正孔電荷輸送できるものであればよく、特に制限はない。ただし、ボトムセル100となるCIS太陽電池よりも禁制帯準位が大きいことが好ましいため、禁制帯準位は1.1eV以上、さらに好ましくは1.4eV以上であると最適である。p型半導体層123は真空蒸着などの方法で形成することができ、その層厚は0.005μmから0.1μm程度が最適である。
【0064】
n型半導体層121、混合層122、p型半導体層123を含んで形成される有機薄膜太陽電池は、前記したように、分子量が2000以下である低分子の有機化合物を用いて構成されている。そのため、n型半導体層121、混合層122、及びp型半導体層123は、薄膜として形成された形態はアモルファス(非晶質)性となる。
【0065】
<第3実施形態>
次に、本発明の第3実施形態に係るタンデム型薄膜太陽電池3について説明する。
図3に示すように、タンデム型薄膜太陽電池3は、タンデム型薄膜太陽電池1におけるバルクヘテロ接合型太陽電池であるトップセル110を、アモルファスシリコンを用いたpin接合型太陽電池であるトップセル130としている点でタンデム型薄膜太陽電池1と異なる。タンデム型薄膜太陽電池3のその他の構成要素は、タンデム型薄膜太陽電池1と同様である。そのため、タンデム型薄膜太陽電池3に関する以下の説明において、タンデム型薄膜太陽電池1と同様の構成要素については同一の符号を付し、重複する説明は省略するものとする。
【0066】
(トップセル130)
トップセル130は、金属酸化物層105上に形成され、下層から、第1のドープ層131、第1のドープ層131上に形成された、第1のドープ層131と後記する第2のドープ層133との混合層132、混合層132上に形成された第2のドープ層133を含んで形成されている。
【0067】
トップセル130がアモルファスシリコンを用いたpin接合型太陽電池である場合、ボトムセル100のCIS太陽電池と熱膨張係数が異なるために、屋外使用の際における熱ストレスの影響によってボトムセル100とトップセル130の間にひずみが生じ易い。しかしながら、本発明では金属酸化物層105が多孔質構造になっているため、金属酸化物層105の一面側の多孔質構造にn型半導体層104の一部が入り込み、金属酸化物層105の他面側の多孔質構造に第1のドープ層131の表面の一部が入り込むことによって、n型半導体層104と金属酸化物層105と第1のドープ層131とが強固に固定される。その結果、熱的なひずみを緩和することができる。したがって、CIS太陽電池とアモルファスシリコンを用いたpin接合型太陽電池のタンデム型薄膜太陽電池3であっても高効率な太陽電池を得ることが可能となる。
【0068】
(第1のドープ層131)
第1のドープ層131は、フェルミレベルを伝導帯または価電子帯に近づけた層でpin接合のp層またはn層の機能を有する。
この層は、水素を含有する非単結晶シリコン系材料を用いて形成される。例えば、非晶質シリコン(a−Si:H)、微結晶シリコン(μc−Si:H)の他、a−SiC:H,a−SiO:H,a−SiN:H,μc−SiC:Hなどを用いて形成することができる。これらの半導体材料は禁制帯準位が1.7eV以上の光吸収の少ない材料であることが好ましい。第1のドープ層131がp型の場合には前記の材料にホウ素(B)を、n型の場合にはリン(P)を不純物としてドープするとよい。
【0069】
この層の形成方法はプラズマCVD法、熱CVD法、光CVD法が好ましく、中でもプラズマCVD法が最も好ましい。層厚は、100〜500Åが好ましい。水素は、シリコンの未結合手を補償し欠陥準位密度を低減する。
【0070】
(混合層132)
混合層132は、いわゆる真性半導体層(i層)である。この層は、フェルミレベルを禁制帯準位の中央に近づけた層で、第1のドープ層131と第2のドープ層133との積層によってpin接合を形成し、この層で発生した光励起キャリアを内部の電界によってドリフトさせ、光起電力を発生させる機能を有する。
【0071】
そのため、混合層132は、ほぼイントリンジックな導電性を有し、水素を含有する微結晶シリコン系材料で形成することができ、わずかにp型、わずかにn型の導電性を示すものであってもよい。微結晶シリコン系材料としてはμc−Si:H,μc−SiC:Hなどが挙げられ開放電圧を上げるためにわずかに酸素や窒素を混入させてもよい。またイントリンジック化するためにわずかにホウ素(B)を混入させたり、リン(P)を混入させたりしてもよい。
【0072】
混合層132は、本発明において光起電力素子の性能向上を担う最も重要な層である。また従来、ドープ層に使用されていた微結晶シリコン系材料とは異なり、十分な光電導性を有し、光電導度/暗電導度の比が大きいものである。これは水素が微結晶粒界に多く集まり粒界の欠陥密度を低減しているためであると考えられる。またこの層に含有される微結晶粒は柱状構造をなし、その長手方向が基板に対してほぼ垂直である。そのため光励起キャリアが内部電界によって走行する際、微結晶粒の粒界によってトラップされる機会が少ない。また、非晶質の領域が極めて少ないため光劣化が殆どない。これは混合層132内に光のエネルギー又は光励起キャリアの再結合エネルギーによって切れてしまう弱い結合が極めて少ないことによると考えられる。
【0073】
混合層132の層厚は、0.1〜0.5μm、好ましくは0.2〜0.4μmであることが好ましい。
また、特に混合層132のX線回折スペクトルにおいて、シリコンの111反射ピークの、CuKα線に対する半値幅が0.4〜1.5°であるとき光起電力素子の開放電圧が高く光劣化がほとんどない。半値幅が0.4°未満では短絡電流は大きいが開放電圧が小さくなる傾向がある。また半値幅が1.5°を超えると開放電圧は高いが光劣化現象が現れる傾向がある。
【0074】
本発明で使用される混合層132は、従来の微結晶シリコン薄膜に比べて短波長の光吸収係数が大きく、長波長の光吸収係数が小さいものである。
この層は、周波数が100MHz以上10GHz以下の電磁波により生起したプラズマを使用したプラズマCVD法において圧力が66.7Pa(500mTorr)以下のプラズマ中に負のバイアス電圧を印加して形成することが好ましい。さらにはこの負のバイアス電圧はプラズマを生起した電磁波の周波数よりも低い周波数の電磁波をプラズマ内に設置されたバイアス電極から放射することにより形成することが好ましい。
【0075】
周波数が100MHz以上10GHz以下の電磁波を使用したプラズマCVD法であれば、プラズマ中での高次シランの発生を抑制することが可能である。また、プラズマ中に負のバイアス電圧を印加することによって、高いエネルギーを有するプラスイオンが形成中の混合層132の表面に衝突することによる構造の乱れが誘発されるのを抑制することが可能である。特に、バイアス電圧をプラズマ内に設置されたバイアス電極から、プラズマを生起する電磁波の周波数よりも低い周波数の電磁波として放射することにより発生させれば、高いバイアス電圧を発生した状態においてもスパーク放電を誘発することがなく、混合層132の形成時に、表面に損傷を与えることがない。本発明においては、このような条件で混合層132を形成することが好ましい。
【0076】
(第2のドープ層133)
第2のドープ層133は、基本的には第1のドープ層131と同じであるが、混合層132へ効率的に光を導くために禁制帯準位が1.9eV以上であることが好ましい。また、層厚も良好なpin接合を形成できれば限りなく薄いものが好ましい。
【実施例】
【0077】
(実施例1)図1に示すタンデム型薄膜太陽電池1を作製した。具体的には、支持基板101にソーダライムガラス、下部裏面電極102にモリブデン(Mo)、CIS半導体層103にセレン化法で形成したCuInSe2薄膜、n型半導体層104に硫化亜鉛(ZnS)、透明電極である金属酸化物層105に多孔質酸化チタンを用いた。そして、トップセル110としてバルクへテロ接合型太陽電池を用いた。かかるバルクへテロ接合型太陽電池は、バルクヘテロ接合構造を有するπ共役高分子と電子受容体からなる混合層111にポリ3ヘキシルチオフェンとフラーレン誘導体PCBMからなる混合物、正孔輸送層112にPEDOT−PSS、窓側透明電極113に酸化インジウムスズ(ITO)、透明支持基板114にPETフィルム、集電極115に銀を用いて作製した。
【0078】
(実施例2)金属酸化物層105を多孔質酸化亜鉛に替えた以外は実施例1と同様の条件でタンデム型薄膜太陽電池1を作製した。
【0079】
(実施例3)図2に示すタンデム型薄膜太陽電池2を作製した。具体的には、支持基板101にソーダライムガラス、下部裏面電極102にモリブデン(Mo)、CIS半導体層103にセレン化法で作製したCuInSe2薄膜、n型半導体層104に硫化亜鉛(ZnS)、金属酸化物層105に多孔質酸化チタンを用いた。そして、トップセル120として分子量2000以下のπ共役構造を有する有機化合物を使用した有機薄膜太陽電池を用いた。かかる有機薄膜太陽電池は、n型半導体層121にフラーレン、n型半導体層121とp型半導体層123の混合層122に銅フタロシアニンとフラーレンの共蒸着膜、p型半導体層123に銅フタロシアニン、窓側透明電極113に酸化インジウムスズ(ITO)、透明支持基板114にPETフィルム、集電極115に銀を用いて作製した。
【0080】
(実施例4)金属酸化物層105を多孔質酸化亜鉛に替えた以外は実施例3と同様の条件でタンデム型薄膜太陽電池2を作製した。
【0081】
(実施例5)図3に示すタンデム型薄膜太陽電池3を作製した。支持基板101にソーダライムガラス、下部裏面電極102にモリブデン(Mo)、CIS半導体層103にセレン化法で作製したCuInSe2薄膜、n型半導体層104に硫化亜鉛(ZnS)、金属酸化物層105に多孔質酸化チタンを用いた。そして、トップセル130としてアモルファスシリコンを使用したpin接合型太陽電池を用いた。かかるpin接合型太陽電池は、第1のドープ層131にボロンドープp型微結晶シリコン、第1のドープ層131と第2のドープ層133の混合層132に水素化微結晶シリコン、第2のドープ層133にリンドープ微結晶シリコンカーバイド、窓側透明電極113に酸化インジウムスズ(ITO)、透明支持基板114にPETフィルム、集電極115に銀を用いて作製した。
【0082】
(実施例6)金属酸化物層105を多孔質酸化亜鉛に替えた以外は実施例5と同様の条件でタンデム型薄膜太陽電池3を作製した。
【0083】
(実施例7)CIS半導体層103に蒸着法で作製したCuInSe2薄膜を用いた以外は実施例1と同様の方法でタンデム型薄膜太陽電池1を作製した。
【0084】
(実施例8)CIS半導体層103に蒸着法で作製したCuInSe2薄膜を用いた以外は実施例2と同様の方法でタンデム型薄膜太陽電池1を作製した。
【0085】
(実施例9)CIS半導体層103に蒸着法で作製したCuInSe2薄膜を用いた以外は実施例3と同様の方法でタンデム型薄膜太陽電池2を作製した。
【0086】
(実施例10)CIS半導体層103に蒸着法で作製したCuInSe2薄膜を用いた以外は実施例4と同様の方法でタンデム型薄膜太陽電池2を作製した。
【0087】
(実施例11)CIS半導体層103に蒸着法で作製したCuInSe2薄膜を用いた以外は実施例5と同様の方法でタンデム型薄膜太陽電池3を作製した。
【0088】
(実施例12)CIS半導体層103に蒸着法で作製したCuInSe2薄膜を用いた以外は実施例6と同様の方法でタンデム型薄膜太陽電池3を作製した。
【0089】
(比較例1)図4に示す太陽電池を作製した。トップセルを作製せず、下層から、支持基板201、下部裏面電極202、CIS半導体層203、n型半導体層204、金属酸化物層205を順次形成したCIS太陽電池200を作製した。なお、CIS半導体層203はセレン化法で作製した。
【0090】
(比較例2)CIS半導体層203を蒸着法で作製した以外は比較例1と同様の方法でCIS太陽電池200を作製した。
【0091】
(比較例3)透明電極である金属酸化物層を平滑な酸化チタンで作製した以外は実施例1と同様の方法でタンデム型薄膜太陽電池を作製した。
【0092】
(比較例4)透明電極である金属酸化物層を平滑な酸化亜鉛で作製した以外は実施例2と同様の方法でタンデム型薄膜太陽電池を作製した。
【0093】
(比較例5)透明電極である金属酸化物層を平滑な酸化チタンで作製した以外は実施例3と同様の方法でタンデム型薄膜太陽電池を作製した。
【0094】
(比較例6)透明電極である金属酸化物層を平滑な酸化亜鉛で作製した以外は実施例4と同様の方法でタンデム型薄膜太陽電池を作製した。
【0095】
(比較例7)透明電極である金属酸化物層を平滑な酸化チタンで作製した以外は実施例5と同様の方法でタンデム型薄膜太陽電池を作製した。
【0096】
(比較例8)透明電極である金属酸化物層を平滑な酸化亜鉛で作製した以外は実施例6と同様の方法でタンデム型薄膜太陽電池を作製した。
【0097】
前記した実施例1〜12及び比較例1〜8の太陽電池におけるボトムセルと、金属酸化物層と、トップセル以外の共通する構成要素の製造条件、つまり、下部裏面電極102、n型半導体層104、窓側透明電極113、透明支持基板114、及び集電極115の製造条件を下記表1に示す。
また、前記した実施例1〜12及び比較例1〜8の太陽電池におけるCIS半導体層103と、金属酸化物層105と、トップセルの各半導体層の製造条件、及び実施例1〜12及び比較例1〜8の太陽電池の発電効率を下記表2及び表3に示す。なお、発電効率は、ソーラーシミュレーター(セリック社製)から照射されるエアマス1.5の擬似太陽光を照射しながら、電流電圧制御装置(BAS100型電気化学アナライザ)を用いて電圧をスキャンした際の電流を測定し、この測定結果を基に、電流密度及び曲線因子を算出し、発電効率を求めた。
【0098】
【表1】

【0099】
【表2】

【0100】
【表3】

【0101】
(太陽電池の評価)
表2及び表3に示すとおり、実施例1〜12のタンデム型薄膜太陽電池は、金属酸化物層105が多孔質構造を有しているため、タンデム型薄膜太陽電池の作製の際にボトムセルとトップセルの熱膨張係数の差分によるひずみを緩和することができた。その結果、実施例1〜12のタンデム型薄膜太陽電池は、比較例1〜8の太陽電池と比較して発電効率を高効率化することができた。
【0102】
また、実施例1〜12のタンデム型薄膜太陽電池は、ボトムセルとトップセルの2つの太陽電池を用いているが、これよりも多くの複数のセル(太陽電池)を積層し、複数のセル同士を金属酸化物層105を用いて接合した場合にも発電効率を高効率化できることは容易に推測することができる。
【符号の説明】
【0103】
1,2,3 タンデム型薄膜太陽電池
100 ボトムセル
101 支持基板
102 下部裏面電極
103 CIS半導体層
104 n型半導体層
105 金属酸化物層
110 トップセル
111 混合層
112 正孔輸送層
113 窓側透明電極
114 透明支持基板
115 集電極
120 トップセル
121 n型半導体層
122 混合層
123 p型半導体層
130 トップセル
131 第1のドープ層
132 混合層
133 第2のドープ層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
カルコパイライト型化合物の半導体を含んでなるカルコパイライト型化合物の半導体層を含むボトムセルと、
前記ボトムセルの上に形成され、前記カルコパイライト型化合物の半導体層の禁制帯準位よりも大きな禁制帯準位を有する非晶質の半導体を含んでなる混合層を含むトップセルと、
前記ボトムセルと前記トップセルを接合するために前記ボトムセルと前記トップセルの間に形成された、多孔質構造を有する金属酸化物を含んでなる金属酸化物層と、
を有することを特徴とするタンデム型薄膜太陽電池。
【請求項2】
前記混合層がπ共役高分子を含むことを特徴とする請求項1に記載のタンデム型薄膜太陽電池。
【請求項3】
前記混合層が分子量2000以下のπ共役構造を有する有機化合物を含むことを特徴とする請求項1に記載のタンデム型薄膜太陽電池。
【請求項4】
前記混合層がアモルファスシリコンを含むことを特徴とする請求項1に記載のタンデム型薄膜太陽電池。
【請求項5】
前記金属酸化物層が酸化チタンで形成されていることを特徴とする請求項1から請求項4のいずれか1項に記載のタンデム型薄膜太陽電池。
【請求項6】
前記金属酸化物層が酸化亜鉛で形成されていることを特徴とする請求項1から請求項4のいずれか1項に記載のタンデム型薄膜太陽電池。
【請求項7】
吸収波長域の異なる複数のセルを積層して接合したタンデム型薄膜太陽電池であって、
前記複数のセルを、多孔質構造を有する金属酸化物を含んでなる金属酸化物層で接合したことを特徴とするタンデム型薄膜太陽電池。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2010−287607(P2010−287607A)
【公開日】平成22年12月24日(2010.12.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−138128(P2009−138128)
【出願日】平成21年6月9日(2009.6.9)
【出願人】(000005108)株式会社日立製作所 (27,607)
【Fターム(参考)】