説明

タンパク質のカルボニル化の増加の予防およびそれを原因とする病変の治療のためのシトルリンの使用

本発明は、化粧用組成物、食品または栄養学的組成物あるいはタンパク質カルボニル化の増加に関連する疾患を治療するための、特にアルツハイマー病もしくはパーキンソン病のような神経変性疾患を治療するための医薬組成物を製造するための、式(I)のL-シトルリンの使用に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の主題は、シトルリンの新規な使用、すなわち、タンパク質のカルボニル化の増加およびそれを原因とする病変の治療の枠内におけるその使用である。
【背景技術】
【0002】
細胞外および細胞内の媒体中のタンパク質が、インビボにおいて反応性酸素種および反応性窒素種の好適な標的となることが明確に立証されてきた。タンパク質が、細胞により合成されたラジカル種の50〜70%までを捕捉できると推定されてきた。損傷のいくつかのタイプが観察されている:アミノ酸の側鎖の酸化(もしくはニトロ化)、またはポリペプチド鎖の酸化(カルボニル化が特定の場合である)に続いて、鎖間もしくは鎖内の結合の破壊および/または形成を伴う。
【0003】
タンパク質のカルボニル化は、酸化現象とは独立し得る現象である。タンパク質へのこれらの修飾と共に、構造の修飾の原因となり得、その結果タンパク質を不活化でき、カルボニル化は細胞への損傷を生じ得る。さらに、最近の技術水準においては、カルボニル化されたタンパク質を修復する系は存在しないようである。
【0004】
語句「タンパク質のカルボニル化」は、CO基の生成に関連したタンパク質の化学修飾を示す。そして、(タンパク質の酸化の特定の場合であり得る)このカルボニル化は、タンパク質の機能喪失を生じさせる(Nystrom, The EMBO Journal (2005) 24, 1311-1317およびDalle-Donneら, J. Cell. Mol. Med., Vol. 10, no. 2, 2006, pp. 389-406を参照されたい)。生体はある程度の数の防御系(グルタチオン、カタラーゼ、SODなど)を有しているが、ある状況においては、これらは克服され、不十分であることが証明され得る。
【0005】
カルボニル化した化合物は、加齢および多くの病変に伴う有用なマーカーとなる。実際、これらの生理病理学的な状態(神経変性疾患、炎症性疾患など)は、組織中のカルボニル化タンパク質の増加に特徴がある。それゆえ、タンパク質のカルボニル化の減少を目指した方策を開発することは必須である。
【0006】
シトルリン(または2-アミノ-5-(カルバモイルアミノ)ペンタン酸)は、α-アミノ酸であり、スイカから最初に単離された。シトルリンは、生体が他の栄養から生成する非必須アミノ酸である。例えば、シトルリンは、オルニチンおよびアルギニンとともに、尿素回路において特に重要な役割を果たす。最終的に、シトルリンは、アルギニンおよび酸化窒素のホメオスタシスにおいて主な役割を果たす。
シトルリンは、ある医薬的適用の範囲で最近用いられる。例えば、欧州特許出願EP 1 495 755は、腸管機能不全に関連する病変の治療用の医薬品の製造のためのシトルリンの使用に関する。特に、この出願において挙げられた病変は、次のものである:腸管切除後の短腸症候群(short-bowel syndrome)、小児脂肪便症、腸管の慢性炎症性疾患、加齢に関連する腸管機能不全および放射線照射に関連する腸管機能不全。しかしながら、この出願は、タンパク質のカルボニル化には言及していない。
【0007】
国際出願WO 2005/115371には、原発性または続発性アテローム性動脈硬化症の治療、およびアルツハイマー病のような変性疾患の治療に用いられる医薬品を製造するためのシトルリンに結合したスタチン(statin)を含む医薬組成物が記載されている。これらの組成物の使用は、スタチンまたはシトルリン自体を含む組成物と比較して、相乗作用を有する。
フランス特許出願2691359には、慢性閉塞性肺疾患(COPD)に罹患した患者およびライ-ジョンソン症候群(ミトコンドリアミオパシー)に罹患した患者におけるシトルリンマレートの使用が記載されている。このシトルリンマレートの有益な効果は、筋肉内での脂肪の使用が改善され、筋肉のタンパク質分解の減少が導かれることによると推測されている。
【0008】
米国特許出願には、神経変性疾患(痴呆、アルツハイマー病、パーキンソン病)、網膜症(加齢に関連する黄斑変性)および筋萎縮性側索硬化症の場合に、栄養補助食品(food supplement)としてのL-シトルリンの経口での使用が記載されている。このシトルリン摂取は、アルギニンの血漿中濃度を増加させ、それゆえ酸化窒素の生成のためのアルギニンの利用能を増加させる。これらの指示において、シトルリンは、ファイテート(phytate)およびカルシウムカルボネートと結合する。
米国特許出願US 2004/0235953には、酸化窒素の形成の減少に関連する病変、特に敗血症(全身性感染症)の予防および治療的処置のための方法が記載および請求されており、前記方法は、シトルリンであり得る酸化窒素の前駆体の投与を含む。
【0009】
米国特許出願US 2001/0056068は、アテローム性動脈硬化症、脳虚血およびアルツハイマー病のような酸化窒素の欠乏に関連する疾患の治療のためのL-シトルリンの使用に関する。
XP 00 24 56 361には、シトルリンを含む眼科用製剤および白内障の治療における漢方薬でのそれらの使用が開示されている。これらの製剤は、毛様血管系および角膜周囲の血管節に作用する。
欧州特許出願EP 1752156には、シトルリンを含む野生のスイカの抽出物を含む酸素除去剤および特にアルツハイマー型痴呆、白内障の問題、および皮膚の傷害におけるその使用が記載されている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
これらの文献には、アルツハイマー病のような神経変性疾患、アテローム性動脈硬化症、白内障の問題または全身性感染症(敗血症)の治療およびミトコンドリアミオパシーの治療に用いられる医薬品の製造のためのシトルリン自体か、または組み合わせでのシトルリンの使用、およびの神経変性疾患(痴呆、アルツハイマー病、パーキンソン病)、網膜症(加齢に関連する黄斑変性)および筋萎縮性側索硬化症の枠内での使用に適した栄養学的組成物(nutraceutical compositions)が記載されているが、これらの文献には、タンパク質のカルボニル化に対するシトルリンの直接の効果については記載されていない。
さらに、本発明の目的の1つは、タンパク質のカルボニル化の増加およびそれを原因とする病変を予防または治療する手段を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、特定の病変において観察される関連タンパク質のカルボニル化の増加を阻害することを意図し、それゆえアルツハイマー病またはパーキンソン病のような神経変性疾患の治療、網膜症、リウマチ性多発関節炎、アテローム性動脈硬化症、筋萎縮性側索硬化症、脳虚血の治療、白内障の問題または全身性感染症(敗血症)の治療、例えば、しわ、色素沈着低下および色素沈着過度の斑、弾力の喪失のような皮膚の老化および目、筋肉および脳のような特に組織の老化に関連する病変の治療、ミトコンドリアの機能異常、すなわちミトコンドリア病(mitochondriopathies)を原因とするミオパシーに関連する病変の治療、栄養不足および哺乳動物、特に家畜の寿命の増加に関連する悪液質の治療を特に意図する組成物の製造のための、次式(I)
【化1】

のL-シトルリンまたは医薬的に許容されるそれらの塩の使用に関する。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】図1は、ラットにおける筋タンパク質のカルボニル化を表す。y軸は、カルボニル化タンパク質の量(μmol/g)に相当する。柱「1」は、健常ラットに相当し;柱「2」は、栄養不良のラットに相当し;柱「3」は、標準的な食餌で栄養を再び与えたラットに相当し、そして柱「4」は、シトルリンに富む食餌で栄養を再び与えたラットに相当する。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明の主題は、特に、例えば、しわ、色素沈着低下および色素沈着過度の斑、弾力の喪失のような皮膚の老化に関連する病態の場合における、関連タンパク質のカルボニル化に関連する不調の化粧処理のための、L-シトルリンまたは化粧料的に(cosmetically)許容されるそれらの塩を含む組成物の使用でもある。
【0014】
本発明の主題は、関連タンパク質のカルボニル化の増加を阻害することにより、それゆえアルツハイマー病またはパーキンソン病のような神経変性疾患の治療、網膜症、リウマチ性多発関節炎、アテローム性動脈硬化症、筋萎縮性側索硬化症、脳虚血の治療、白内障の問題または全身性感染症(敗血症)の治療、例えば、しわ、色素沈着低下および色素沈着過度の斑、弾力の喪失のような皮膚の老化および目、筋肉および脳のような特に組織の老化に関連する病変の治療、ミトコンドリアの機能異常、すなわちミトコンドリア病を原因とするミオパシーに関連する病変の治療、栄養不足および哺乳動物の寿命の増加に関連する悪液質の治療を特に意図するタンパク質のカルボニル化の増加に関連する不調の栄養学的療法のための、L-シトルリンまたは栄養学的に許容されるそれらの塩を含む組成物の使用でもある。
【0015】
栄養学的にとは、健康を求めるいずれの製品も意味する(健康食品、機能性食品、境界線上の製品(borderline products)など)。
本発明の主題は、L-シトルリンを含む組成物の使用でもあり、前記組成物は、アルツハイマー病またはパーキンソン病のような神経変性疾患、網膜症、リウマチ性多発関節炎、アテローム性動脈硬化症、筋萎縮性側索硬化症、脳虚血、白内障の問題または全身性感染症(敗血症)、例えば、しわ、色素沈着低下および色素沈着過度の斑、弾力の喪失のような皮膚の老化および目、筋肉および脳のような特に組織の老化に関連する病変、ミトコンドリアの機能異常、すなわちミトコンドリア病(mitochondriopathies)を原因とするミオパシーに関連する病変の枠内における使用に、栄養不足および哺乳動物、特に家畜の寿命の増加に関連する悪液質の治療に好適な栄養補助食品(dietary supplement)として意図するものである。
【0016】
本発明の範囲内のL-シトルリンとは、市販品、特にSigma、Biocodexもしくは協和発酵により供給されるもの、または特にジュース、果肉もしくは抽出物の形態にある植物、特にスイカ(シトラス ラナタス(Citrullus lanatus))起源の天然品を意味する。
【0017】
「医薬的に許容される塩」、「化粧料的に許容される塩」および「栄養学的に許容される塩」とは、シトルリンマレート、シトルリンα-ケトグルタレート、シトルリンシトレートまたはシトルリンα-ケトイソカプロエートのようなシトルリン塩を意味する。
【0018】
本発明の有利な実施形態においては、上で定義したL-シトルリンは、投与量が約0.1 g/kg/日〜約0.5 g/kg/日、特に約0.25 g/kg/日に対し、1回分の単位L-シトルリン投与量が約2 g〜約20 g、特に約10 gであるような、栄養学的療法を意図したか、医薬組成物、化粧用を意図した組成物、栄養補助食品として意図した組成物または健康食品として意図する組成物の製造に使用される。
本発明の有利な実施形態においては、L-シトルリンは、1日に1〜3回、好ましくは1回摂取される。
【0019】
本発明の別の有利な実施形態によれば、医薬組成物および栄養学的療法用の(または健康食品としての)組成物は、乾燥した形態、水溶液の形態、水性アルコールもしくは油の形態、水中油型もしくは油中水型または多層のエマルジョン、水性もしくは油性ゲルの形態にある。いずれの好適なビヒクル(vehicle)、すなわち、いずれの化粧料的に、特に皮膚外用に許容な賦形剤、ビヒクルまたは担体を、化粧処理用の組成物のために使用し得る。そのような担体は、当業者に公知であり、また一般的に適用される化粧用もしくは皮膚外用組成物から製造される。例えば、混合物、製剤、単層状被包物(ミセル)、二層状被包物(リポソーム)、多層状被包物(球顆)および化粧品において周知のその他の担体を使用し得る。
【0020】
本発明は、経口、経腸または非経口経路により投与し得る形態にある医薬組成物の製造のための、上で定義したL-シトルリンの使用に関する。経腸栄養物または非経口栄養物の場合、医薬組成物は食品と混合し得るか、または好ましくは消化器用プローブもしくは非経口栄養補給のY-チューブにおいてボーラスで投与し得る。
【0021】
本発明は、局所経路により投与し得る形態にある化粧処理用の組成物の製造のための上で定義したL-シトルリンの使用にも関する。本発明は、経口経路により投与し得る形態にある栄養学的療法用の組成物の製造のための上で定義したL-シトルリンの使用にも関する。
【0022】
経腸経路による投与は、鼻から胃に通したか、または鼻から腸に通したプローブによる投与、胃造瘻もしくは空腸造瘻よる投与に特に相当する;非経口経路による投与は、中心、末梢または皮下の静脈潅流に特に相当する。
【0023】
好ましい実施形態によれば、L-シトルリンは、ロイシン、グルタミン、アルギニン、オルニチンおよびα-ケトグルタレートまたはα-ケトイソカプロエートのようなそれらの種々の有用な塩のような、栄養不良に関連する悪液質の治療を意図する1つ以上の他の化合物をさらに含む医薬組成物、化粧処理用の組成物、栄養学的療法のための栄養補助食品または健康食品用の組成物の製造のための本発明の範囲内で用いられる。
栄養学的療法用の組成物の枠内において、該化合物を、それら自体で、または経口栄養補給を意図する栄養混合物中において使用し得る。
【0024】
好ましい実施形態によれば、L-シトルリンは、ロイシン、グルタミン、アルギニン、オルニチンおよびα-ケトグルタレートまたはα-ケトイソカプロエートのようなそれらの種々の有用な塩のような、栄養不良に関連する悪液質の治療を意図する1つ以上の他の化合物を、それら自体で、あるいは経口栄養補給を意図する栄養混合物中にさらに含む医薬組成物、化粧処理を意図する組成物、栄養補助食品または栄養学的療法を意図する組成物(健康食品)の製造のための本発明の範囲内で用いられる。
【0025】
別の実施形態によれば、本発明は:
タンパク質のカルボニル化の増加に関連する病変(前記病変は上で定義されたもの)の治療の枠内において、同時のもしくは別々の使用、または逐次的な使用のための組み合わせ製品として、
- L-シトルリンまたは医薬的もしくは栄養学的に許容されるそれらの塩、
- ロイシン、グルタミン、アルギニン、オルニチンおよびα-ケトグルタレートまたはα-ケトイソカプロエートのようなそれらの種々の有用な塩のような、栄養不良に関連する悪液質の治療を意図する少なくとも1つの他の化合物
をそれら自体で、あるいは非経口栄養補給を意図する栄養混合物中に、または経腸栄養補給を意図する混合物もしくは経口栄養補給を意図する混合物として含む製品に関する。
【0026】
以下の実施例1および2ならびに図1は、本発明を説明する。
【実施例】
【0027】
実施例1:栄養失調-再滋養(malnourished-renourished)ラットにおけるシトルリンの影響
材料および方法
I−材料
用いた全ての化学試薬は、Sigma(サン-カンタ-ファラヴィェ、フランス)から購入した。L-シトルリンは、Laboratoires Biocodex(コンピエーニュ、フランス)より無料で提供された。
【0028】
II−動物の処理
19月齢の雌性スプレーグ−ドーリーラット(Charles River Laboratoires、L'Arbresles、フランス)を、サーモスタット制御された雰囲気(23℃±1℃)下の個々のケージに入れ、12時間の明暗サイクル(暗闇は8時間〜20時間)に置いた。プログラムの管理者は、このタイプの実験を行うための許可を農林省から得ている(no. 75.522)。さらに、実験動物の使用および処理は、法令(D2001-486)を従っており、且つ欧州の法令(Official Journal of the European Community L358 12/18/1986)に従っている。
【0029】
ラットは、2週間順応され、その間自発的な食物消費を測定する。ラットに、タンパク質17%、脂質3%、糖質59%、水分21%、繊維、ビタミンおよびミネラルを含む標準的な食餌(A04、UAR、ヴィルモワッソン-シュル-オルジュ、フランス)を与えた。この期間の平均食餌摂取は、34.4 g/日である。
【0030】
III−実験プロトコール
順応期間後、ラットを4群に無作為化する:12週間無制限に食餌を与えたラット(n=10)からなる対照群および同じ期間食餌を制限された他の3群:自発的な摂取物のちょうど50%(または17.2 g)で標準的な食餌(UAR A04)を与えられる。制限期間の終わりに、1つの群の動物(n=10)を犠牲にし(群R)、2つの残った群のラットに、自発的な栄養物の90%(もしくは30.9 g)、または非必須アミノ酸に富む食餌(群AANE:アラニン、アスパラギン、グリシン、セリン、ヒスチジン、およびプロリンが等モル量で供与された)あるいはシトルリンに富む食餌(5 g/kg/d)(シトルリン群)で1週間栄養を再び与える。該2群の摂取量は、窒素量が等しく(isonitrogenous)、かつ熱量が等しい(isocaloric)。自発的な摂取量の90%への制限は、ラットに与えられた食餌の全てをラットが消費することを確実にする。
【0031】
III.1 タンパク質のカルボニル化レベルの評価
それらを含むアミノ酸の構造に影響するタンパク質の酸化の過程は、複雑であり、全てカルボニル基の形成を生じる。この理由のために、300 mgの前脛骨筋のサンプルからのカルボニル化誘導体の定量による筋タンパク質の酸化の全体的な評価を行うことが決定された。それゆえ、用いられる方法は、ジニトロフェニル-ヒドラジン(DNPH)と呼ばれる化合物がカルボニル基に結合することにより形成される複合体の分光光度計アッセイに基づいた非特異的アミノ酸型技術である。筋タンパク質を単離する。該タンパク質のペレットを取り、600μlのTES緩衝液に入れた。等量のタンパク質(1〜1.5 mg/ml)を含む2つのカップ(cups)を得るために、溶解したタンパク質を2つの等量の画分に分けた。一方のカップをブランクとし、他方のカップをカルボニル基の定量に用いる。500μlの12.5 mM DNPHを測定するカップに加え、500μlの2M HClをブランクのカップに加える。周囲温度において15分間のインキュベートの後、サンプルを500μlの30%TCAおよび15000 rpmで10分間の遠心分離で沈殿させる。ペレットを取り、1 mlの10%TCAに入れ、再び15000 rpmで10分間の遠心分離をする。そして、エタノールエチルアセテートで4回連続の洗浄をする。最終ペレットを、水浴にて50℃で30分間加熱する。もう一度15000 rpmで5分間の遠心分離の後、800μlの上清について、280 nm(タンパク質アッセイ)および380 nm(DNPHアッセイ)にて分光光度測定を行う。カルボニル含有量を、タンパク質のnmol/mgで表す。
【0032】
III.2)結果:
得られた結果を図1に示す。
健常ラットと比較して、栄養不足がタンパク質のカルボニル化を増加させることは明らかである(柱2対柱1)。再び栄養を与えることもまた、この現象を増加させ、栄養不足-再滋養の現象は、筋タンパク質のカルボニル化の顕著な増加を伴っている(柱3対柱2)。他方、食物がシトルリンに富む場合、この現象は完全に消失し(柱4対柱3)、タンパク質のカルボニル化は、健常ラットにおいて観察されるものと同様である。
【0033】
実施例2:老齢ラットに対するシトルリンの効果
材料および方法
I−材料
用いた全ての化学試薬は、Sigma(サン-カンタ-ファラヴィエ、フランス)から購入した。L-シトルリンは、Laboratoires Biocodex(コンピエーニュ、フランス)より無料で提供された。
【0034】
II−動物の処理
25月齢の雌性スプラーグ−ドーリーラット(Charles River Laboratoires、L'Arbresles、フランス)を、サーモスタット制御された雰囲気(23℃±1℃)下の個々のケージに入れ、12時間の明暗サイクル(暗闇は8時間〜20時間)に置いた。プログラムの管理者は、このタイプの実験を行うための許可を農林省から得ている(no. 75.522)。さらに、実験動物の使用および処理は、法令(D2001-486)を従っており、且つ欧州の法令(Official Journal of the European Community L358 12/18/1986)に従っている。
【0035】
ラットは、2週間順応され、その間自発的な食物消費を測定する。ラットに、タンパク質17%、脂質3%、糖質59%、水分21%、繊維、ビタミンおよびミネラルを含む標準的な食餌(A04、UAR、ヴィルモワッソン-シュル-オルジュ、フランス)を与えた。この期間の平均食餌摂取は、34.4 g/日である。
【0036】
III−実験プロトコール
順応期間後、ラットを2群に無作為化する:
CIT群(n=5):動物に、シトルリンに富む食餌(1 g/kg/d)を1ヶ月間与える。
AANE群(n=4):動物に、非必須アミノ酸(アラニン、アスパラギン、グリシン、セリン、ヒスチジン、およびプロリンが等モル量である)の添加によりCIT群の食餌と比較して窒素量を等しくした標準的な食餌を1ヶ月間与える。
研究の終わりに、動物を安楽死させ、それらの脳を取り出し、重さを量り、液体窒素で凍結して、解析が行われるまで−80℃で保存した。
【0037】
タンパク質のカルボニル化レベルの評価
それらを含むアミノ酸の構造に影響するタンパク質の酸化の過程は、複雑であり、全てカルボニル基の形成を生じる。この理由のために、1 gの脳のサンプルからのカルボニル化誘導体の定量による筋タンパク質の酸化の全体的な評価を行うことが決定された。それゆえ、用いられる方法は、ジニトロフェニル-ヒドラジン(DNPH)がカルボニル基に結合することにより形成される複合体の分光光度計アッセイに基づいた非特異的アミノ酸型技術である。脳タンパク質を単離する。該タンパク質のペレットを取り、600μlのTES緩衝液に入れた。等量のタンパク質(1〜1.5 mg/ml)を含む2つのカップ(cups)を得るために、溶解したタンパク質を2つの等量の画分に分けた。一方のカップをブランクとし、他方のカップをカルボニル基の定量に用いる。500μlの12.5 mM DNPHを測定するカップに加え、500μlの2M HClをブランクのカップに加える。周囲温度において15分間のインキュベートの後、サンプルを500μlの30%TCAおよび15000 rpmで10分間の遠心分離で沈殿させる。ペレットを取り、1 mlの10%TCAに入れ、再び15000 rpmで10分間の遠心分離をする。そして、エタノールエチルアセテートで4回連続の洗浄をする。最終ペレットを、水浴にて50℃で30分間加熱する。もう一度15000 rpmで5分間の遠心分離の後、800μlの上清について、280 nm(タンパク質アッセイ)および380 nm(DNPHアッセイ)にて分光光度測定を行う。カルボニル含有量を、器官のnmol/mgで表す。
【0038】
IV-結果
【0039】
【表1】

【0040】
得られた結果を上の表に示す。老齢の健常ラットにおいて、CITに富む食餌が10%のオーダーで脳タンパク質のカルボニル化の減少を伴うことは明らかである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
特定の病変において観察される関連タンパク質のカルボニル化の増加を阻害することを意図し、それゆえアルツハイマー病またはパーキンソン病のような神経変性疾患の治療、網膜症、リウマチ性多発関節炎、アテローム性動脈硬化症、筋萎縮性側索硬化症、脳虚血の治療、白内障の問題または全身性感染症(敗血症)の治療、皮膚の老化および目、筋肉および脳のような特に組織の老化に関連する病変の治療、ミトコンドリアの機能異常、すなわちミトコンドリア病を原因とするミオパシーに関連する病変の治療、栄養不足および哺乳動物の寿命の増加に関連する悪液質の治療を特に意図する組成物の製造のための、次式(I)
【化1】

のL-シトルリンまたは医薬的に、化粧料的に、もしくは栄養学的に許容されるそれらの塩の使用。
【請求項2】
組成物が、L-シトルリンまたは医薬的に許容されるその塩の1つを含む医薬組成物であり、L-シトルリンまたは化粧料的に許容されるその塩の1つを含む化粧処理用の組成物であり、L−シトルリンを含む栄養補助食品またはL-シトルリンまたは栄養学的に許容されるその塩の1つを含む栄養学的療法用の組成物であることを特徴とする、請求項1に記載の使用。
【請求項3】
投与量が約0.1 g/kg/日〜約0.5 g/kg/日、特に約0.25 g/kg/日で1日に1〜3回、好ましくは1回の投与頻度に対して、1回分の単位L-シトルリン投与量が約2 g〜約20 g、特に約10 gでL-シトルリンが用いられることを特徴とする、請求項1または2に記載の使用。
【請求項4】
組成物が、乾燥した形態、水溶液の形態、水性アルコールもしくは油の形態、水中油型もしくは油中水型または多層のエマルジョン、水性もしくは油性ゲルの形態にあることを特徴とする、請求項1〜3のいずれか1項に記載の使用。
【請求項5】
医薬組成物が経口、局所、経腸または非経口経路により投与し得る形態にあり、化粧用組成物が局所経路により投与し得る形態にあり、栄養学的組成物および栄養補助食品が経口経路により投与し得る形態にあることを特徴とする、請求項1〜4のいずれか1項に記載の使用。
【請求項6】
経腸または非経口経路により投与し得る形態である場合、経腸または非経口用栄養物と混合し得るか、または消化器用プローブもしくは非経口的栄養補給のY-チューブにおいてボーラスで投与し得ることを特徴とする、請求項5に記載の使用。
【請求項7】
組成物が、ロイシン、グルタミン、アルギニン、オルニチンおよびα-ケトグルタレートまたはα-ケトイソカプロエートのようなそれらの種々の有用な塩のような、栄養不良に関連する悪液質の治療を意図する1つ以上の他の化合物をさらに含むことを特徴とする、請求項1〜6のいずれか1項に記載の使用。
【請求項8】
ロイシン、グルタミン、アルギニン、オルニチンおよびα-ケトグルタレートまたはα-ケトイソカプロエートのようなそれらの種々の有用な塩のような、栄養不良に関連する悪液質の治療を意図する1つ以上の他の化合物を、それら自体で、あるいは非経口栄養補給を意図する栄養混合物中、または経腸栄養補給を意図する混合物中もしくは経口栄養補給を意図する混合物中にさらに含む医薬組成物の製造のためにL-シトルリンが用いられることを特徴とする、請求項1〜7のいずれか1項に記載の使用。
【請求項9】
タンパク質のカルボニル化の増加に関連する病変の治療の範囲内において、同時に、別々にまたは逐次的に使用する組み合わせ製品として、
- L-シトルリンまたは医薬的もしくは栄養学的に許容されるそれらの塩と、
- ロイシン、グルタミン、アルギニン、オルニチンおよびα-ケトグルタレートまたはα-ケトイソカプロエートのようなそれらの種々の有用な塩のような、栄養不良に関連する悪液質の治療を意図する少なくとも1つの他の化合物と
をそれら自体で、あるいは非経口栄養補給を意図する栄養混合物中、または経腸栄養補給を意図する混合物中もしくは経口栄養補給を意図する混合物中に含む組成物。

【図1】
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【公表番号】特表2010−522146(P2010−522146A)
【公表日】平成22年7月1日(2010.7.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−554063(P2009−554063)
【出願日】平成20年3月20日(2008.3.20)
【国際出願番号】PCT/FR2008/000379
【国際公開番号】WO2008/135661
【国際公開日】平成20年11月13日(2008.11.13)
【出願人】(500283125)ユニヴェルシテ パリ デカルト (8)
【氏名又は名称原語表記】UNIVERSITE PARIS DESCARTES
【住所又は居所原語表記】12,rue de l’Ecole de Medecine,F−75006 Paris FRANCE
【出願人】(501444280)アンスティテュ ナショナル ド ラ ルシェルシュ アグロノミク(イーエヌエルアー) (1)
【氏名又は名称原語表記】INSTITUT NATIONAL DE LA RECHERCHE AGRONOMIQUE(INRA)
【住所又は居所原語表記】147,rue de L’Universite,F−75338 Paris Cedex 07, France
【出願人】(500257447)
【氏名又は名称原語表記】ASSISTANCE PUBLIQUE−HOPITAUX DE PARIS
【住所又は居所原語表記】3,avenue Victoria,F−75004 Paris,FRANCE
【出願人】(509263607)サントル オスピタリエ ユニヴェルシテール デ クレルモン−フェラン (1)
【氏名又は名称原語表記】CENTRE HOSPITALIER UNIVERSITAIRE DE CLERMONT−FERRAND
【住所又は居所原語表記】Boulevard Leon Malfreyt, F−63058 Clermont−Ferrand Cedex 1, FRANCE
【Fターム(参考)】