説明

タンパク質産生の改善のためのAAV複製機構の使用

本発明は、AAV複製機構を使用した、細胞における対象の遺伝子産物の産生を増強する方法を提供する。本発明はさらに、本発明の方法で使用する細胞及び本発明の細胞を含む非ヒトトランスジェニック動物又はトランスジェニック植物に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、内因性又は異種標的タンパク質の発現の増加を可能にする核酸構築物及び細胞系の分野に関する。
【背景技術】
【0002】
組換えタンパク質の工業生産は、開発及び応用の広域に及ぶ。細胞1個当り又は培地1L当りの組換えタンパク質の収量は、改善された生産システムの開発のための重要な条件である。
【0003】
組換えタンパク質、モノクローナル抗体又はワクチンの工業生産のために、哺乳類細胞又は昆虫細胞において遺伝子を発現させる現在の方法には、安定な細胞系の使用又はアデノウイルス、シンドビスウイルス、若しくはバキュロウイルス由来のベクターなど、ベクターを使用した産生細胞のトランスフェクションが含まれる。哺乳類細胞又は昆虫細胞において外因性遺伝子を導入する他の方法には、DNAの直接注入、リガンド−DNAコンジュゲートの使用、アデノウイルス−リガンド−DNAコンジュゲートの使用、リン酸カルシウム沈殿、及びリポソーム−又はポリカチオン−DNA複合体を利用する方法が含まれる。
【0004】
天然において、バキュロウイルスは、様々な異なる昆虫種に感染する二本鎖DNA含有ウイルスである。バキュロウイルスの科は、2つの属に分けることができ、そのうちの1つが、核多角体病ウイルスである。核多角体病ウイルスは、感染した宿主細胞の核において準結晶の封入体の形成を誘発する。これらの封入体は、非常に高いレベルで発現する、単一のウイルスタンパク質、ポリヘドリンから主に成る。ポリヘドリン遺伝子は、クローニングされ、配列決定され、そのユニークな特徴は、一連のバキュロウイルス発現ベクターの開発の基礎となっている(Summers,M.D.and Smith,G.E.,TAES Bull.1555(1987);Luckow,V.A.and Summers,M.D.,Biotechnology 6:47−55(1988);Miller,L.K.,Ann.Rev.Microbiol.42:177−179(1988);米国特許第4,745,051号,G.E.Smith and M.D.Summers(1983年5月27日出願;1988年5月17日発行))。
【0005】
昆虫細胞とともに使用されるバキュロウイルス発現システムは、多用途性及び速度において有利であるために、タンパク質の産生について確立されたものとなった。バキュロウイルス発現システムでは、組換えバキュロウイルスベクターを使用して、昆虫細胞に対象の遺伝子を導入する。昆虫細胞への感染は、組換えバキュロウイルスベクターゲノムの複製をもたらし、それによって対象の遺伝子をコードする遺伝的な鋳型の数が増加し、組換えタンパク質発現のレベルが上昇する。
【0006】
バキュロウイルス媒介タンパク質発現は、適切な生物活性及び機能を提供する、組換えタンパク質の正確な折り畳み、並びにジスルフィド結合の形成、オリゴマー化及び他の重要な翻訳後修飾を提供する。実際に、昆虫細胞における真核生物タンパク質のタンパク質折り畳み及び翻訳後プロセシングは、哺乳類細胞系にほとんど匹敵する。さらに、昆虫細胞は、無血清培地上で増殖することができ、それはコスト並びにバイオセイフティーの観点での利点である。バキュロウイルス媒介タンパク質発現の別の利点は、バキュロウイルスが、鱗翅目昆虫にのみ感染し、したがって脊椎動物に非感染性であり、比較的安全な遺伝子操作手段であることである。さらに、バキュロウイルス発現システムは、昆虫細胞において高いタンパク質発現レベルをもたらすテクノロジー基盤であることが既知である。バキュロウイルス発現システムの不利点は、産生細胞(昆虫細胞)への感染が、数日以内にその細胞に死をもたらし、対象の組換えタンパク質の連続的な産生を妨害することである。
【0007】
Zengら(2007,Stem Cells 25:1055−1061)は、対象の遺伝子、並びにバキュロウイルス発現構築物をヒト胚性幹細胞のヒトゲノムにおけるAAVS1部位へ組み込むためのAAV rep78/68遺伝子及びAAV ITR配列を含むバキュロウイルス発現構築物を開示している。
【0008】
Sollerbrantら(2001,J.Gen.Virol.82:2051−2060)は、rAAVベクター産生のための、(i)AAV ITR配列が隣接する受容体遺伝子、(ii)AAV rep遺伝子、及び(iii)AAV cap遺伝子をそれぞれ含む、別々のバキュロウイルス構築物をトランスフェクトした哺乳類HEK293細胞を開示している。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、今なお当技術分野において、昆虫細胞などの細胞において対象の遺伝子産物の産生レベルを増加させることが必要とされている。
【課題を解決するための手段】
【0010】
定義
本明細書では、「作動可能に連結している」という用語は、ポリヌクレオチド(又はポリペプチド)エレメント間の機能的な関係の連結を意味する。核酸は、それが別の核酸配列と機能的な関係に配置された場合、「作動可能に連結している」。例えば、転写調節配列は、それがコード配列の転写に影響を及ぼす場合、コード配列に作動可能に連結している。作動可能に連結しているということは、連結されているDNA配列が、典型的に近接しており、2つのタンパク質コード領域を結合することが必要である場合、近接しており、さらに読み枠にあることを意味する。
【0011】
「発現制御配列」は、それが作動可能に連結しているヌクレオチド配列の発現を調節する核酸配列を意味する。発現制御配列は、その発現制御配列が、ヌクレオチド配列の転写及び/又は翻訳を制御及び調節する場合、ヌクレオチド配列に「作動可能に連結している」。したがって、発現制御配列には、プロモーター、エンハンサー、配列内リボソーム進入部位(IRES)、転写ターミネーター、タンパク質コード遺伝子の前の開始コドン、イントロンのスプライシングシグナル、及び終止コドンが含まれる可能性がある。「発現制御配列」という用語には、少なくとも、その存在が発現に影響するように設計されている配列が含まれるものとし、追加の好都合な成分も含まれる可能性がある。例えば、リーダー配列及び融合パートナー配列は、発現制御配列である。その用語には、望ましくない、枠内外の潜在的な開始コドンが配列から除去されるような、核酸配列の設計も含まれる可能性がある。それには、望ましくない潜在的なスプライス部位が除去されるような、核酸配列の設計も含まれる可能性がある。それには、ポリAテイル、すなわち、ポリA配列と称される配列であるmRNAの3’末端にある一連のアデニン残基の付加を指示する配列、すなわちポリアデニル化配列(pA)が含まれる。それは、mRNAの安定性を増強するように設計されている可能性もある。転写及び翻訳の安定性に影響を及ぼす発現制御配列、例えばプロモーター、並びに翻訳を実施する配列、例えばKozak配列は、昆虫細胞において既知である。低発現レベル又は高発現レベルが達成されるように、発現制御配列は、それが作動可能に連結しているヌクレオチド配列を調節するような性質である可能性がある。
【0012】
本明細書では、「プロモーター」又は「転写調節配列」という用語は、1つ又は複数のコード配列の転写を制御するように働き、コード配列の転写開始部位の転写の方向に対して上流に位置し、DNA依存性RNAポリメラーゼの結合部位、転写開始部位、並びに転写因子結合部位、リプレッサー及びアクチベータータンパク質結合部位、及び直接的又は間接的にプロモーターからの転写量を調節するように作用することが当業者に既知のヌクレオチドの他の任意の配列を含むが、それらに限定されない、他の任意のDNA配列の存在によって構造的に識別される核酸断片を意味する。「構成的」プロモーターは、大部分の生理学的及び発達的条件下で大部分の組織において活性があるプロモーターである。「誘導性」プロモーターは、例えば化学誘導物質の適用によって、生理学的又は発達的に調節されたプロモーターである。「組織特異的」プロモーターは、特定のタイプの組織又は細胞においてのみ活性がある。
【0013】
「実質的に同一の」、「実質的同一性」又は「本質的に類似の」若しくは「本質的類似性」という用語は、2つのペプチド又は2つのヌクレオチド配列が、例えば、デフォルトパラメーターを使用したGAP又はBESTFITプログラムによって、最適に整列している場合、本明細書の他の場所で定義されるように、少なくともある割合の配列同一性を共有することを意味する。GAPは、ニードルマン−ブンシュグローバル配列アルゴリズムを使用して、それらの全長にわたって2つの配列を整列させ、マッチ数を最大にし、ギャップ数を最小にする。一般に、GAPデフォルトパラメーターは、ギャップ創造ペナルティ=50(ヌクレオチド)/8(タンパク質)及びギャップ伸長ペナルティ=3(ヌクレオチド)/2(タンパク質)で使用する。ヌクレオチドについて使用するデフォルトスコア行列は、nwsgapdnaであり、タンパク質についてのデフォルトスコア行列は、Blosum62である(Henikoff&Henikoff,1992,PNAS 89,915−919)。RNA配列が、DNA配列と本質的に類似している又はある程度の配列同一性を有するといわれる場合、DNA配列におけるチミン(T)は、RNA配列におけるウラシル(U)に相当すると考えられることは明らかである。パーセンテージ配列同一性についての配列アラインメント及びスコアは、Accelrys Inc.,9685 Scranton Road,San Diego,CA 92121−3752 USA から入手可能なGCG Wisconsin Package、10.3版又はオープンソースソフトウェアEmboss for Windows(最新版2.7.1−07)などのコンピュータプログラムを使用して決定することができる。代わりに、類似性又は同一性割合を、FASTA、BLASTなどのデータベースを検索することによって決定することができる。
【0014】
本発明のAAV Repタンパク質をコードするヌクレオチド配列は、中程度の、又は好ましくはストリンジェントなハイブリダイゼーション条件下で、配列番号2のヌクレオチド配列とハイブリダイズするそれらの能力によっても定義することができる。ストリンジェントなハイブリダイゼーション条件は、本明細書では、少なくとも約25、好ましくは約50ヌクレオチド、75又は100、最も好ましくは約200ヌクレオチド以上の核酸配列が、約65℃の温度で、約1Mの塩を含む溶液、好ましくは6×SSC又は匹敵するイオン強度を有するすべての他の溶液中で、ハイブリダイズすること及び65℃で、約0.1M以下の塩を含む溶液、好ましくは0.2×SSC又は匹敵するイオン強度を有するすべての他の溶液中での洗浄を可能にする条件として定義する。好ましくは、ハイブリダイゼーションは、一晩、すなわち、少なくとも10時間行い、好ましくは、洗浄は、洗浄液を少なくとも2回交換し、少なくとも1時間行う。これらの条件は、通常、約90%以上の配列同一性を有する配列の特異的なハイブリダイゼーションを可能にすることになる。
【0015】
中程度の条件は、本明細書では、少なくとも50ヌクレオチド、好ましくは約200ヌクレオチド以上の核酸配列が、約45℃の温度で、約1Mの塩を含む溶液、好ましくは6×SSC又は匹敵するイオン強度を有するすべての他の溶液中で、ハイブリダイズすること及び室温で、約1Mの塩を含む溶液、好ましくは6×SSC又は匹敵するイオン強度を有するすべての他の溶液中で洗浄することを可能にする条件として定義する。好ましくは、ハイブリダイゼーションは、一晩、すなわち、少なくとも10時間行い、好ましくは、洗浄は、洗浄液を少なくとも2回交換し、少なくとも1時間行う。これらの条件は、通常、最大50%の配列同一性を有する配列の特異的なハイブリダイゼーションを可能にすることになる。当業者は、50%から90%まで同一性が異なる配列を特異的に特定するために、これらのハイブリダイゼーション条件を修正することができるであろう。
【0016】
「形質転換された」又は「トランスフェクトされた」という用語は、互換的に使用され、外因性DNA又はRNAが、適切な宿主細胞中へ移入又は導入されるプロセスを意味する。さらに、他の異種タンパク質をコードする核酸を、宿主細胞中に導入することができる。かかるトランスフェクトされた細胞には、挿入されたDNAが宿主細胞において複製できるようになった、安定にトランスフェクトされた細胞が含まれる。典型的に、安定なトランスフェクションには、外因性DNAを、例えば、抗生物質耐性を与える核酸配列などの選択マーカー核酸配列とともに移入し、安定なトランスフェクタントの選択を可能にすることが必要である。このマーカー核酸配列は、外因性DNAに連結されていてもよく、又は外因性DNAとの同時の共トランスフェクションによって独立に提供してもよい。トランスフェクトした細胞には、RNA又はDNAを限られた時間発現する能力がある、一過性に発現する細胞も含まれる。トランスフェクション手順は、トランスフェクトする宿主細胞によって決まる。それには、ポリヌクレオチドをウイルス中にパッケージングすること並びにポリヌクレオチドの直接的な取り込みが含まれる可能性がある。形質転換によって、挿入されたDNAが宿主細胞のゲノム中に組み込まれるか、又は挿入されたDNAがプラスミドの形で宿主細胞内で維持される可能性がある。形質転換/トランスフェクションの方法は、当技術分野ではよく知られており、マイクロインジェクションなどの直接的注入、ウイルス感染、特に複製欠損性アデノウイルス感染、電気穿孔、リポフェクション、リン酸カルシウムを介した直接的取り込みなどが含まれるが、それらに限定されない。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明は、細胞における対象のタンパク質及び/又は核酸配列の産生を増強するためにAAV複製機構を使用する方法に関する。1つ又は複数のAAV Repタンパク質及びAAV−ITRが隣接する核酸配列の同時発現は、対象のタンパク質の発現と、対象の核酸配列の転写コピー数の両方を増加させる。
【0018】
パルボウイルス科のウイルスは、小型DNA動物ウイルスである。パルボウイルス科は、脊椎動物に感染するパルボウイルス亜科、及び昆虫に感染するデンソウイルス亜科の2つの亜科に分けることができる。パルボウイルス亜科のメンバーは、本明細書では、パルボウイルスと称し、ディペンドウイルス属が含まれる。その属名から推定される可能性があるように、ディペンドウイルスのメンバーは、それらが通常、細胞培養における増殖性感染のためにアデノウイルス又はヘルペスウイルスなどのヘルパーウイルスとの同時感染を必要とする点でユニークである。ディペンドウイルス属には、通常ヒト(例えば、血清型1、2、3A、3B、4、5、及び6)又は霊長類(例えば、血清型1及び4)に感染するAAV、及び他の温血動物に感染する関連するウイルス(例えば、ウシ、イヌ、ウマ、及びヒツジのアデノ随伴ウイルス)が含まれる。パルボウイルス及びパルボウイルス科の他のメンバーに関するさらなる情報は、Kenneth I.Berns,「パルボウイルス科:ウイルス及びその複製(Parvoviridae:The Viruses and Their Replication,)」Chapter 69 in Fields Virology(3d Ed.1996)に記載されている。便宜上、本発明を、AAVを参照することにより、本明細書においてさらに例示し説明する。しかしながら、本発明は、AAVに限定されず、同様に他のパルボウイルスに適用することができることが理解されよう。
【0019】
すべての既知のAAV血清型のゲノム構造は、非常に類似している。AAVのゲノムは、長さが約5,000ヌクレオチド(nt)未満である、直線状の一本鎖DNA分子である。逆方向末端反復(ITR)は、非構造複製(Rep)タンパク質及び構造(VP)タンパク質をコードするユニークなヌクレオチド配列に隣接する。VPタンパク質(VP1、VP2及びVP3)は、キャプシドを形成する。末端145ntは、自己相補的であり、T型ヘアピンを形成するエネルギー的に安定な分子内二本鎖を形成することができるように、組織される。これらのヘアピン構造は、ウイルスDNA複製の開始点として働き、細胞性DNAポリメラーゼ複合体のプライマーとしての機能を果たす。哺乳類細胞におけるwtAAV感染に続き、Rep遺伝子(すなわち、Rep78及びRep52)が、それぞれP5プロモーター及びP19プロモーターから発現し、両方のRepタンパク質は、ウイルスゲノムの複製においてある機能を有する。Rep ORFにおけるスプライシング事象は、実際に4つのRepタンパク質(すなわち、Rep78、Rep68、Rep52及びRep40)の発現をもたらす。しかしながら、哺乳類細胞においてRep78及びRep52タンパク質をコードするスプライスされていないmRNAは、AAVベクター産生に十分であることが示された。昆虫細胞においても、Rep78及びRep52タンパク質は、AAVベクター産生に十分である。
【0020】
「組換えパルボウイルス又はAAVベクター」(又は「rAAVベクター」)は、本明細書において、1つ又は複数の対象のポリヌクレオチド配列、対象の遺伝子又はパルボウイルス若しくはAAVの逆方向末端反復配列(ITR)が隣接する「導入遺伝子」を含むベクターを意味する。AAV rep及びcap遺伝子産物(すなわち、AAV Rep及びCapタンパク質)を発現している昆虫宿主細胞に存在する場合、かかるrAAVベクターを、複製し、感染ウイルス粒子中にパッケージングすることができる。rAAVベクターが、より大きい核酸構築物(例えば、染色体又はクローニング若しくはトランスフェクションに使用するプラスミド若しくはバキュロウイルスなどの別のベクターにおける)中に組み込まれた場合、rAAVベクターは、典型的に、AAVパッケージング機能及び必要なヘルパー機能の存在下で複製及びキャプシド形成によって「救済」することができる「プロベクター」と称される。
【0021】
第1の態様においては、本発明は、対象の遺伝子産物を産生する方法に関し、その方法は、
a)i)細胞において遺伝子産物の発現を駆動することができるプロモーターに作動可能に連結している、対象の遺伝子産物をコードするヌクレオチド配列を含む第1の発現カセットであって、少なくとも1つのパルボウイルス逆方向末端反復(ITR)ヌクレオチド配列が隣接する第1の発現カセットと、
ii)細胞においてRepタンパク質の発現を駆動することができるプロモーターに作動可能に連結している、少なくとも1つのパルボウイルスRepタンパク質をコードするヌクレオチド配列を含む、少なくとも第2の発現カセットと
を含む細胞を提供するステップと、
b)a)で定義された細胞を、第1及び第2の発現カセットの発現を促す条件下で培養するステップと、
c)任意選択で対象の遺伝子産物を回収するステップとを含む。
【0022】
本発明の対象の遺伝子産物は、対象のポリペプチドでも対象のヌクレオチド(核酸)配列でもよい。ポリペプチドは、ジペプチド、トリペプチド、(オリゴ)ペプチド、ポリペプチド又はタンパク質を含め、どんな長さでのものでもよい。ペプチド、ポリペプチド及びタンパク質という用語は、本明細書において互換的に使用することができることが理解されよう。ポリペプチドは、同種ポリペプチドでもよいが、本発明の好ましい実施形態において、ポリペプチドは、宿主細胞にとって異種のポリペプチドである。
【0023】
本発明によるヌクレオチド(核酸)配列は、RNAの形で存在することもあり、又はゲノムDNAを含めたDNA、すなわち、イントロン、cDNA又は合成DNA及び混合DNA−RNA配列を含めたDNAの形で存在することもある。
【0024】
「同種」という用語は、所与の(組換え)核酸又はポリペプチド分子と所与の宿主生物又は宿主細胞との関係を示すために使用する場合、天然において、核酸又はポリペプチド分子が、同一種の、好ましくは同一の変種又は系統の宿主細胞又は生物によって産生されることを意味することが理解されよう。宿主細胞と同種である場合、ポリペプチドをコードする核酸配列は、典型的に、その天然環境のものとは、別のプロモーター配列又は該当する場合、別の分泌シグナル配列及び/又はターミネーター配列に作動可能に連結していることになる。
【0025】
「異種」という用語は、核酸又はポリペプチド分子に関して使用する場合、それが存在する生物、細胞、ゲノム又はDNA又はRNA配列の一部として天然には生じない、又はそれが天然に見出されるものとは異なる細胞又はゲノム若しくはDNA若しくはRNA配列における1つ又は複数の位置において見出される、外来性細胞由来の核酸又はポリペプチドを意味する。異種核酸配列又はタンパク質は、それらが導入される細胞に内在しないが、別の細胞由来であるか又は合成的に若しくは組換えで産生されている。一般に、必ずしもそうではないが、かかる核酸は、そのDNAが転写される又は発現する細胞によって通常産生されないタンパク質をコードし、同様に、外因性RNAは、その外因性RNAが存在する細胞において通常発現しないタンパク質をコードする。さらに、異種タンパク質又はポリペプチドは、それが移入される宿主生物、その組織又は細胞において通常見出されない順番及び/又は方向で配置された同種のエレメントから構成されていてもよく、すなわち、前述のタンパク質又はポリペプチドをコードするヌクレオチド配列は、同一の種由来であるが、その天然の形から組成及び/又はゲノム遺伝子座が人為的な介入によって実質的に改変されていることは既知である。異種核酸配列及びタンパク質は、外来性の核酸又はタンパク質とも称することができる。当業者が、それが発現する細胞にとって異種の又は外来のものとして認識するであろう、どんな核酸又はタンパク質も、本明細書では、異種核酸又はタンパク質という用語によって包含される。異種という用語は、核酸配列又はアミノ酸配列の非天然の組み合わせ、すなわち、組み合わせられた配列のうち少なくとも2つが互いに外来性である組み合わせにも適用される。
【0026】
対象のポリペプチドは、工業的又は医学的(薬学的)に適用することができる。タンパク質又はポリペプチドの工業的適用例には、例えば、リパーゼ(例えば、洗剤工業で使用される)、プロテアーゼ(特に洗剤工業、醸造などで使用される)、細胞壁分解酵素(例えば、果物加工ワイン醸造など又は飼料で使用されるセルラーゼ、ペクチナーゼ、β−1,3/4−グルカナーゼ及びβ−1,6−グルカナーゼ、ラムノガラクツロナーゼ、マンナナーゼ、キシラナーゼ、プルラナーゼ、ガラクタナーゼ、エステラーゼなど)、フィターゼ、ホスホリパーゼ、グリコシダーゼ(例えば、アミラーゼ、βグルコシダーゼ、アラビノフラノシダーゼ、ラムノシダーゼ、アピオシダーゼなど)、乳製品用酵素(例えば、キモシン)などの酵素が含まれる。治療用、化粧用又は診断用に適用される、哺乳類、好ましくはヒトのポリペプチドには、酵素(酵素補充療法用)、ホルモン、ケモカイン、インターロイキン、(ヒト化)モノクローナル抗体などが含まれるが、これらに限定されない。例には、インスリン、アポリポタンパク質A(好ましくはアポリポタンパク質A1)又はE、血清アルブミン(HSA)、CFTR、第IX因子、ラクトフェリン、リポタンパク質リパーゼ(LPL、好ましくはLPL S447X、01/00220参照)、ヘモグロビンα及びβ、組織プラスミノーゲンアクチベーター(tPA)、エリスロポエチン(EPO)、腫瘍壊死因子(TNF)、BMP(骨形態形成タンパク質)、増殖因子(G−CSF、GM−CSF、M−CSF、PDGF、EGF、IGFなど)、ペプチドホルモン(例えば、カルシトニン、ソマトメジン、ソマトトロピン、成長ホルモン、卵胞刺激ホルモン(FSH))、サイトカイン又はインターロイキン(IL−x)、インターフェロン(IFN−y)、インスリン受容体、EGF受容体、チロシンヒドロキシラーゼ、グルコセレブロシダーゼ、ウリジン二リン酸グルクロノシルトランスフェラーゼ(UGT)、網膜色素変性GTP分解酵素調節因子結合タンパク質(RP−GRIP)、ポルフォビリノーゲン脱アミノ酵素(PBGD)並びにアラニン:グリオキシル酸アミノ基転移酵素が含まれるが、これらに限定されない。さらに、単一鎖可変抗体断片(scFv)が含まれる。例えば、熱不安定性の毒素Bサブユニット、コレラ毒素Bサブユニット、エンベロープ表面タンパク質B型肝炎ウイルス、キャプシドタンパク質ノーウォークウイルス、糖タンパク質Bヒトサイトメガロウイルス、糖タンパク質S、及び伝染性胃腸炎コロナウイルス受容体、ヒトTリンパ球向性ウイルス(HTLV−1)p40、HTLV−1 env、ヒト免疫不全ウイルス(HIV−1)gag、pol、sor、gp4l、及びgp120、アデノウイルスE1a、日本脳炎ウイルスenv(N)、ウシパピローマウイルス1(BPV1)E2、HPV6b E2、BPV1 E6、B型肝炎表面抗原、HIV−1 env、HIV−1 gag、HTLV−1 p40、キイロショウジョウバエKruppel遺伝子産物、ブルータングウイルスVP2及びVP3、ヒトパラインフルエンザウイルス赤血球凝集素(HA)、インフルエンザポリメラーゼPA、PB1、及びPB2、インフルエンザウイルスHA、リンパ球性脈絡髄膜炎ウイルス(LCMV)GPC及びNタンパク質、アカパンカビ活性化タンパク質、ポリオーマウイルスT抗原、サルウイルス40(SV40)スモールT抗原、SV40ラージT抗原、Punta ToroフレボウイルスN及びNsタンパク質、サルロタウイルスVP6、CD4(T4)、ハンタンウイルス構造タンパク質、ヒトBリンパ向性ウイルス130kdタンパク質、A型肝炎ウイルス、ヒトパルボウイルス−B19のVP1、VP1及びVP2、非パルボウイルスキャップタンパク質、ブタコレラウイルスE2−糖タンパク質などを含めた、例えば、ワクチンとしての使用のための、原生動物、細菌、ウイルス抗原も含まれる。前述のポリペプチドの変異体又は類似体もさらに含まれる。
【0027】
異種タンパク質をコードするヌクレオチド配列は、細菌若しくはウイルスゲノム又はエピソーム、真核生物の核若しくはプラスミドDNA、cDNA又は化学的に合成されたDNAを含めた、当技術分野で既知のあらゆる供給源から全体的又は部分的に得ることができる。対象のタンパク質をコードするヌクレオチド配列は、連続したコード領域を構成してもよく、又は適切なスプライスジャンクションが結合する1つ又は複数のイントロンを含んでもよく、さらには、天然に存在する又は合成の、様々な供給源由来のセグメントから構成されていてもよい。本発明の方法による対象のタンパク質をコードする核酸配列は、好ましくは、全長ヌクレオチド配列であるが、前述の全長ヌクレオチド配列の機能的に活性がある部分又は他の部分であってもよい。
【0028】
好ましい実施形態において、対象のヌクレオチド配列は、任意のポリペプチドをコードすることができるが、好ましくは、工業的又は医学的(薬学的)に適用されるポリペプチドをコードすることができる。工業的又は医学的に適用されるポリペプチドの例は、上記で提供されている。
【0029】
先の好ましい実施形態の代わりに、又はそれと組み合わせて、別の好ましい実施形態において、本発明の方法において使用する細胞は、昆虫細胞でも哺乳類細胞でもよい。好ましい実施形態において、本発明の方法による遺伝子産物の発現を可能にし、培養物中で維持することができる、任意の昆虫細胞又は哺乳類細胞を、本発明に従って使用することができる。別の好ましい実施形態において、昆虫細胞又は哺乳類細胞は、バキュロウイルスによる感染に感受性である細胞又はバキュロウイルスの複製を可能にする細胞である。別の好ましい実施形態において、細胞は、昆虫細胞である。例えば、使用する細胞系は、ヨトウガ、ショウジョウバエ細胞系、又は蚊細胞系、例えば、ヒトスジシマカ由来細胞系由来であってもよい。
【0030】
本発明で使用する好ましい昆虫細胞又は細胞系には、例えば、Se301、SeIZD2109、SeUCR1、Sf9、Sf900+、Sf21、S2、BTI−TN−5B1−4、MG−1、Tn368、HzAm1、Ha2302、Hz2E5、High Five(Invitrogen,CA,USA)及びexpresSF+(登録商標)(US 6,103,526;Protein Sciences Corp.,CT,USA)が含まれる。
【0031】
本発明で使用する好ましい哺乳類細胞又は細胞系には、例えば、HeLa、Vero、Per.C6、Hek293、CHO、MDCK、CEK、ハイブリドーマ、及び非分泌性の(NS0)骨髄腫細胞系が含まれる。一実施形態において、本発明の方法で使用する細胞は、ヒト胚性幹細胞ではない。別の実施形態において、本発明の方法で使用する細胞は、胚性幹細胞ではない。
【0032】
「第1の発現カセット」という用語は、本明細書では、細胞において遺伝子産物の発現を駆動することができるプロモーターに作動可能に連結している、対象の遺伝子産物をコードするヌクレオチド配列を含む核酸構築物と定義し、第1の発現カセットには、少なくとも1つのパルボウイルス逆方向末端反復(ITR)ヌクレオチド配列が隣接している。第1の発現カセットは、対象の遺伝子産物に作動可能に連結している他の発現制御配列を任意選択で含む。
【0033】
先の好ましい実施形態の代わりに、又はそれと組み合わせて、別の好ましい実施形態において、本発明の第1の発現カセットに、少なくとも2つのパルボウイルスITRヌクレオチド配列が隣接している。さらに好ましい実施形態において、第1の発現カセットに、両側、すなわち3’末端及び5’末端の両方でパルボウイルスITRヌクレオチド配列が隣接している。「隣接している」という用語は、本明細書では、ITRが、少なくとも1つのパルボウイルスRepタンパク質による第1の発現カセットの複製、すなわち、コピー数の増加を可能にするのに十分なほど第1の発現カセットに近接していることとして理解される。好ましくは、隣接するITR配列と、発現カセットにおける最も上流又は下流(すなわち、末端)の調節エレメントとの間の距離は、50、20、10、5、2、1、0.5、0.2又は0.1kb未満であり、さらに好ましくは、その距離は、50、20又は10ヌクレオチド未満であり、最も好ましくは、隣接するITRは、発現カセットに直接連結している。
【0034】
「第2の発現カセット」という用語は、本明細書では、細胞においてRepタンパク質の発現を駆動することができるプロモーターに作動可能に連結している、少なくとも1つのパルボウイルス複製(Rep)タンパク質をコードするヌクレオチド配列を含む核酸構築物と定義する。第2の発現カセットは、少なくとも1つのパルボウイルスRepタンパク質に作動可能に連結している他の発現制御配列を任意選択で含む。
【0035】
本発明の方法においては、第2の発現カセットにおいてコードされる少なくとも1つのパルボウイルスRepタンパク質は、好ましくは少なくとも、AAV Rep78及び/若しくはRep68タンパク質、又は他のパルボウイルス由来の対応するRepタンパク質である。第2の発現カセットは、パルボウイルスRepタンパク質をコードするヌクレオチド配列を含む読み枠を含むこともでき、パルボウイルスRep78タンパク質の翻訳のための開始コドンは、細胞において発現されると部分的なエキソンスキッピングを実施する開始コドンである。しかしながら、Rep52及びRep40タンパク質は、ITRを介した複製に必要ではないので、それらの発現及び存在は必要ではない。したがって、細胞が、パルボウイルスRep78又はRep68タンパク質のための第2の発現カセット及びRep52又はRep40パルボウイルスタンパク質のための第3の発現カセットを含む実施形態は、本発明から除外されないが、かかる第3の発現カセットの存在は必要ではなく、それを欠くことが好ましい。
【0036】
好ましくは、本発明の方法においては、パルボウイルスITR配列及びパルボウイルスRepタンパク質は、アデノ随伴ウイルス(AAV)由来である。本発明の文脈で使用する「AAV−ITR」配列又は「AAV Repタンパク質」は、AAV−ITR又はAAV Repタンパク質と「実質的に同一」である。かかる「実質的に同一の」配列には、例えば、AAV1、AAV2、AAV3、AAV4、AAV5、AAV6、AAV7、AAV8若しくはAAV9 ITR配列又は少なくとも1つのRepタンパク質をコードするヌクレオチド配列と少なくとも約70%、少なくとも約75%、少なくとも約80%、少なくとも約85%、少なくとも約90%、少なくとも約95%、若しくはそれ以上のヌクレオチド及び/又はアミノ酸配列同一性(例えば、約75〜99%のヌクレオチド配列同一性を有する配列)を有する配列が含まれる。さらに好ましくは、AAV−ITRは、配列番号1と実質的に同一の配列を含む。さらにより好ましくは、AAV−ITRは、配列番号1と同一の配列を含む。
【0037】
好ましい実施形態において、ヌクレオチド配列は、配列番号3と実質的に同一の少なくとも1つのパルボウイルスRepタンパク質をコードする。さらにより好ましくは、第2の発現カセットのアミノ酸配列によってコードされるパルボウイルスRepタンパク質は、配列番号3と同一である。
【0038】
少なくとも1つのパルボウイルスRepタンパク質をコードするヌクレオチド配列は、本明細書では、1つ又は複数の非構造Repタンパク質をコードするヌクレオチド配列として理解されよう。好ましくは、ヌクレオチド配列は、細胞においてITRが隣接する第1の発現カセットの複製及び対象の遺伝子産物の発現に必要であり十分である、少なくともAAV Rep78、又はRep78及びRep68タンパク質をコードする。核酸配列は、好ましくは、通常ヒト(例えば、血清型1、2、3A、3B、4、5、及び6)又は霊長類(例えば、血清型1及び4)に感染するAAV由来である。AAV Repタンパク質をコードする核酸配列の例を、Repタンパク質をコードするAAV血清型−2配列ゲノムの一部を表す、配列番号2に示す。Rep78コード配列は、ヌクレオチド11〜1876を含み、Rep52コード配列は、ヌクレオチド683〜1876を含む。Rep78及びRep52タンパク質の正確な分子量、並びに翻訳開始コドンの正確な位置は、異なるパルボウイルス間で異なる可能性があることが理解されよう。しかしながら、AAV−2以外のパルボウイルス由来のヌクレオチド配列における対応する位置を特定する方法は当業者に知られている。
【0039】
先の好ましい実施形態の代わりに、又はそれと組み合わせて、別の好ましい実施形態において、本発明の発現カセットの1つ又は複数は、発現ベクターの一部である。別の好ましい実施形態において、第1の発現カセット及び第2の発現カセットは、単一の発現ベクターの一部であり、好ましくは少なくとも1つのパルボウイルスITRヌクレオチド配列が隣接している。さらに別の好ましい実施形態において、第1の発現カセット及び第2の発現カセットは、2つの別々の発現ベクターの一部である。本明細書で使用する「ベクター」という用語は、外因性DNAを宿主細胞中に導入するために使用する核酸化合物を意味する。ベクターは、宿主細胞(本発明の方法で使用する)のゲノム中に組み込むためのベクターであってもよく、又はベクターは、例えば、エピソームベクターなどの、宿主細胞のゲノム中に組み込まれないベクターであってもよい。エピソームベクターの例は、例えば、プラスミドベクターであり、したがってレプリコンと、好ましくはプラスミドの複製能力を妨げることなく組換え技法によって外因性DNAをベクター中に挿入するために使用することができるDNAセグメントとを少なくとも含む。レプリコンは、好ましくは、本発明の方法において使用する細胞における複製のためのレプリコンである。ベクターは、通常、例えば、選択マーカー、多重クローニング部位などの、分子クローニングでのそれらの使用を促進するさらなる遺伝的エレメントを含む(下記参照)。本明細書で使用する「発現ベクター」は、発現ベクターが適切な宿主細胞中に存在する場合、プロモーター及び他の調節エレメントが、挿入された外因性DNAの転写を可能にするために存在する、任意のプラスミドベースのクローニングベクターを意味する。「シャトルベクター」は、少なくとも2つの異なる宿主生物、例えば、異なる種又は異なる属の2つの生物において複製及び安定な維持能力があるプラスミドベクターを意味する。この能力のために、シャトルベクターは、単一の広宿主域レプリコンを利用することができるが、通常、シャトルベクターは、異なる宿主生物又は宿主生物の異なる群のための異なるレプリコンを含むことになる。
【0040】
本発明の一実施形態において、対象の遺伝子及び少なくとも1つのITRを含む第1の発現カセットは、(宿主)細胞のゲノム中に組み込まれない。好ましくは、少なくとも第1の発現カセットは、(宿主)細胞のゲノム中に組み込まれないベクター、例えば、エピソームベクターに存在する。第2の発現カセットは、第1のカセットと同じ非組み込み型ベクター、異なるエピソームベクターに存在してもよく、又は第2の発現カセットは、宿主細胞のゲノム中に組み込まれてもよい。
【0041】
好ましい実施形態において、発現ベクターは、当技術分野で既知の、多重クローニング部位を含む。かかる多重クローニング部位は、断片をベクター中へ挿入するために好都合に使用することができるいくつかの異なるユニークな制限酵素部位を含有する。
【0042】
好ましい実施形態において、第1の発現カセット及び/又は第2の発現カセットは、細胞において活性があるプロモーターを少なくとも含む。細胞が昆虫細胞である場合、昆虫宿主細胞において外来性遺伝子を発現させるための当業者に既知の技法を使用して、本発明を実施することができる。分子工学及び昆虫細胞におけるポリペプチドの発現についての方法論は、例えば、Summers and Smith.1986.「バキュロウイルスベクター及び昆虫培養手順に関する方法マニュアル(A Manual of Methods for Baculovirus Vectors and Insect Culture Procedures)」,Texas Agricultural Experimental Station Bull.No.7555,College Station,Tex.、Luckow.1991.In Prokop et al.,「バキュロウイルスベクターの組換えDNAテクノロジー及び応用を用いた昆虫細胞における異種遺伝子のクローニング及び発現(Cloning and Expression of Heterologous Genes in Insect Cells with Baculovirus Vectors’ Recombinant DNA Technology and Applications)」,97−152、King,L.A. and R.D.Possee,1992,The baculovirus expression system,Chapman and Hall,United Kingdom、O’Reilly,D.R.,L.K.Miller,V.A.Luckow,1992,Baculovirus Expression Vectors:A Laboratory Manual,New York、W.H.Freeman and Richardson,C.D.,1995,Baculovirus Expression Protocols,Methods in Molecular Biology,volume39、US4,745,051、US2003148506、及びWO03/074714に記載されている。好ましい実施形態において、発現カセットの少なくとも1つは、バキュロウイルスベクターに含まれている。別の実施形態において、AAV Repタンパク質をコードする本発明のヌクレオチド配列の転写に特に適したプロモーターは、例えば、ポリヘドロンプロモーターである。しかしながら、昆虫細胞において活性がある他のプロモーター、例えば、p10、p35、IE−1又はΔIE−1プロモーター及び上記の参考文献に記載されている別のプロモーターも、当技術分野において既知である。
【0043】
細胞が哺乳類細胞である場合、対象の遺伝子産物をコードするヌクレオチド配列は、好ましくは、哺乳類細胞に適合する発現制御配列、例えば、プロモーターに作動可能に連結している。多くのかかるプロモーターは、当技術分野において既知である(Sambrook and Russel,2001、上記参照)。多くの細胞型において広範に発現する、CMVプロモーターなどの、構成的プロモーターを使用することができる。しかしながら、さらに好ましいのは、誘導性の、組織特異的、細胞型特異的、又は細胞周期特異的なプロモーターである。例えば、肝臓特異的な発現について、プロモーターを、α1−抗トリプシンプロモーター、甲状腺ホルモン結合グロブリンプロモーター、アルブミンプロモーター、LPS(チロキシン結合グロブリン)プロモーター、HCR−ApoCIIハイブリッドプロモーター、HCR−hAATハイブリッドプロモーター及びアポリポタンパク質Eプロモーターから選択することができる。他の例には、腫瘍選択的、特に、神経学的細胞腫瘍選択的発現のためのE2Fプロモーター(Parr et al.,1997,Nat.Med.3:1145−9)又は単核血液細胞に使用するためのIL−2プロモーター(Hagenbaugh et al.,1997,J Exp Med;185:2101−10)が含まれる。哺乳類細胞における発現のための好ましいプロモーターは、CMVie、SV40、RSV、MMTV−LTR及びLTRなどの哺乳類ウイルスプロモーター、βアクチン、伸長因子1、初期増殖応答1、ferritine、HSP70及びGAPDHなどの構成的細胞プロモーター、並びにAAT、αアクチン、CMD1、NSE、クレアチンキナーゼ、MLC−2v及びEAlb/hAATなどの組織特異的プロモーターである。
【0044】
好ましくは、発現ベクターは、本発明が実施される細胞に適合する。適切な発現ベクターを選択する方法は当業者に知られている。
【0045】
「昆虫細胞に適合する発現ベクター」は、昆虫又は昆虫細胞の生産的な形質転換又はトランスフェクション能力がある核酸分子であると理解されよう。例となる生物学的ベクターには、プラスミド、直線状核酸分子、及び組換えウイルスが含まれる。昆虫細胞に適合するものであれば、どんなベクターを使用してもよい。ベクターは、昆虫細胞のゲノム中に組み込まれることがあるが、昆虫細胞中にベクターが恒久的に存在する必要はなく、一過性及び/又はエピソームベクターも含まれる。ベクターを、既知の任意の手段、例えば、細胞の化学的処置、電気穿孔、又は感染によって、導入することができる。好ましい実施形態において、ベクターは、バキュロウイルス、ウイルスベクター、又はプラスミドである。より好ましい実施形態において、ベクターは、バキュロウイルスであり、すなわち、構築物は、バキュロウイルスベクターである。バキュロウイルスベクター及びその使用方法は、昆虫細胞の分子工学についての上記の参考文献に記載されている。
【0046】
哺乳類細胞に適合する様々なベクターを、当業者は入手することができる(例えば、Sambrook and Russel,2001、上記参照)。ベクターは、哺乳類細胞のゲノム中に組み込まれることがあるが、哺乳類細胞中にベクターが恒久的に存在する必要はなく、一過性及び/又はエピソームベクターも含まれる。ベクターを、既知の任意の手段、例えば、CaPO−トランスフェクション、リポフェクション、トランスフェクション又は電気穿孔によって、導入することができる。好ましい実施形態において、ベクターは、アデノウイルス、アデノ随伴ウイルス、又はバキュロウイルスである。より好ましい実施形態において、ベクターは、アデノウイルスであり、すなわち、構築物は、アデノウイルスベクターである。アデノウイルスベクター及びその使用方法は、X Danthinne and M J Imperiale(2000)「第1世代アデノウイルスベクターの産生:総説(Production of first generation adenoviral vectors:a review)」,Gene Therapy7(20):1707−1714に記載されている。
【0047】
先の好ましい実施形態の代わりに、又はそれと組み合わせて、別の好ましい実施形態において、第2の発現カセットは、細胞中にトランスフェクトしても形質転換してよもい。第2の発現カセットのトランスフェクション又は形質転換の好ましい方法は、例えば、CaPO−トランスフェクション、リポフェクション、トランスフェクション及び電気穿孔である。
【0048】
先の好ましい実施形態の代わりに、又はそれと組み合わせて、別の好ましい実施形態において、第1の発現カセット及び/又は第2の発現カセット及び/又は発現ベクターは、トランスフェクション(又は形質転換)によって細胞中に導入される。より好ましい実施形態において、トランスフェクションは、ウイルストランスフェクション、化学的トランスフェクション又は電気穿孔である。より好ましい実施形態において、トランスフェクションは、安定な細胞系を作製するために使用される。さらにより好ましい実施形態において、安定な細胞系の作製のためのトランスフェクションは、CaPOトランスフェクション、リポフェクション又は電気穿孔である。発現ベクター及び核酸構築物のトランスフェクション(又は形質転換)は、順々に又は共トランスフェクションで行うことができる。好ましい実施形態において、第2の発現カセットは、少なくとも1つのパルボウイルスRepタンパク質を発現することができる安定な細胞系を作製するためにトランスフェクトされる。
【0049】
先の好ましい実施形態の代わりに、又はそれと組み合わせて、別の好ましい実施形態において、対象の遺伝子産物の産生は、同様の条件であるが、少なくとも1つのパルボウイルスITRヌクレオチド配列及び/又は少なくとも1つのパルボウイルスRepタンパク質が存在しない条件下での産生と比較した場合、増強される。これは、RT−QPCRアッセイ及び/又はタンパク質定量アッセイ(例えば、ELISAなど)によって測定することができる。これらの又は当技術分野で既知の他の方法を使用して、対象の遺伝子産物の産生量を決定する方法は当業者に知られている。
【0050】
任意選択で、本発明の方法は、ポリペプチドの回収、又は単離及び/又は精製を含むことができる。ポリペプチドは、例えば、それ自体が当技術分野で既知の様々なクロマトグラフィー方法を含めた、標準的なタンパク質精製技法によって培地から回収することができる。対象のポリペプチドの回収は、発現したポリペプチド及び使用する宿主細胞によって決まるが、単離を通してポリペプチドを回収することを含むことができる。ポリペプチドに適用する場合、「単離」という用語は、タンパク質が、その天然環境以外の条件で見出されることを示す。好ましい形態において、単離したポリペプチドは、他のタンパク質/ポリペプチド、特に他の同種ポリペプチドを実質的に含まない。ポリペプチドを、40%を超える純粋な形態で、より好ましくは60%を超える純粋な形態で提供することが好ましい。さらにより好ましくは、ポリペプチドを、SDS−PAGEによって測定したところ、高度に精製した、すなわち、80%を超える純粋な、より好ましくは95%を超える純粋な、さらにより好ましくは99%を超える純粋な形態で提供することが好ましい。ポリペプチドの精製及び、例えばウエスタンブロット及びELISAでのポリペプチドの検出を促進するために、対象のポリペプチドを融合ポリペプチドとして発現させることは、非常に役立つ可能性がある。適切な融合配列には、例えば、グルタチオンS−トランスフェラーゼ、マルトース結合タンパク質、金属結合ポリヒスチジン、緑色蛍光タンパク質、ルシフェラーゼ及びβガラクトシダーゼなどのタンパク質の配列が含まれるが、これらに限定されない。ポリペプチドはまた、in vivoとin vitroの両方で、ポリペプチドの追跡を促進し、ポリペプチドと基質の結合の特定及び定量を可能にする、非ペプチド担体、タグ又は標識に結合させることもできる。かかる標識、タグ又は担体は、当技術分野でよく知られており、ビオチン、放射性標識及び蛍光標識が含まれるが、これらに限定されない。
【0051】
先の好ましい実施形態の代わりに、又はそれと組み合わせて、別の好ましい実施形態において、細胞は、パルボウイルスCapタンパク質及びパルボウイルスCapタンパク質をコードするヌクレオチド配列の少なくとも1つを含まない。
【0052】
先の好ましい実施形態の代わりに、又はそれと組み合わせて、本発明の方法の別の好ましい実施形態において、AAVベクターゲノムコピー数は、細胞に、細胞においてRepタンパク質の発現を駆動することができるプロモーターに作動可能に連結している、少なくとも1つのパルボウイルスRepタンパク質をコードするヌクレオチド配列が提供されない方法と比較して、少なくとも2倍、より好ましくは少なくとも5倍、より好ましくは少なくとも10倍、より好ましくは少なくとも20倍、より好ましくは少なくとも50倍、より好ましくは少なくとも100倍、より好ましくは少なくとも150倍、より好ましくは少なくとも200倍増加する。例えば、Q−PCRによって、コピー数、例えば、AAVベクターゲノムコピー数を測定する方法は当業者に知られている。
【0053】
先の好ましい実施形態の代わりに、又はそれと組み合わせて、本発明の方法の別の好ましい実施形態において、対象の遺伝子産物のタンパク質発現量は、細胞に、細胞においてRepタンパク質の発現を駆動することができるプロモーターに作動可能に連結している、少なくとも1つのパルボウイルスRepタンパク質をコードするヌクレオチド配列が提供されない方法と比較して、少なくとも1.5倍、より好ましくは少なくとも2倍、より好ましくは少なくとも5倍、より好ましくは少なくとも10倍、より好ましくは少なくとも15倍、より好ましくは少なくとも20倍、より好ましくは少なくとも25倍、より好ましくは少なくとも30倍増加する。例えば、ELISA又はウエスタンブロットによって、対象の遺伝子産物のタンパク質発現量を測定する方法は当業者に知られている。
【0054】
先の好ましい実施形態の代わりに、又はそれと組み合わせて、本発明の方法の別の好ましい実施形態において、対象の遺伝子産物によってコードされるタンパク質の活性は、細胞に、細胞においてRepタンパク質の発現を駆動することができるプロモーターに作動可能に連結している、少なくとも1つのパルボウイルスRepタンパク質をコードするヌクレオチド配列が提供されない方法と比較して、少なくとも1.5倍、より好ましくは少なくとも2倍、より好ましくは少なくとも5倍、より好ましくは少なくとも10倍、より好ましくは少なくとも15倍、より好ましくは少なくとも20倍、より好ましくは少なくとも25倍、より好ましくは少なくとも30倍増加する。
【0055】
第2の態様においては、本発明は、パルボウイルスCapタンパク質及びパルボウイルスCapタンパク質をコードするヌクレオチド配列の少なくとも1つを含まない、上記のような細胞に関する。
【0056】
先の好ましい実施形態の代わりに、又はそれと組み合わせて、別の好ましい実施形態において、細胞は、パルボウイルスRep52タンパク質及びRep40タンパク質、例えば、AAV Rep52及びRep40タンパク質、又は対応するパルボウイルス複製タンパク質の少なくとも1つを発現しない。
【0057】
第3の態様においては、本発明は、パルボウイルスRep52タンパク質及びRep40タンパク質、例えば、AAV Rep52及びRep40タンパク質、又は対応するパルボウイルス複製タンパク質の少なくとも1つを発現しない上記のような細胞に関する。
【0058】
好ましい実施形態において、細胞は、細胞系であってもよい。さらに好ましい実施形態において、細胞は、安定な細胞系であってもよい。
【0059】
第4の態様においては、本発明は、上記のような細胞を含む、非ヒトトランスジェニック動物又はトランスジェニック植物に関する。
【0060】
本発明の別の態様は、その体細胞及び生殖細胞に上記のベクターを含むトランスジェニック動物に関する。トランスジェニック動物は、好ましくは、非ヒト動物である。トランスジェニック動物を作製する方法は、例えば、WO01/57079及びそこに引用された参考文献に記載されている。かかるトランスジェニック動物を、対象のポリペプチドを産生する方法で使用することができ、その方法は、ベクターを含むトランスジェニック動物又はその雌の子孫からポリペプチドを含有する体液を回収するステップ、及び任意選択で体液からのポリペプチドを回収するステップを含む。かかる方法も、WO01/57079及びそこに引用された参考文献に記載されている。ポリペプチドを含有する体液は、好ましくは血液、又はより好ましくは乳である。
【0061】
本発明の別の態様は、その細胞に上記のベクターを含むトランスジェニック植物に関する。トランスジェニック植物を作製する方法は、例えば、U.S.6,359,196及びそこに引用された参考文献に記載されている。かかるトランスジェニック植物を、対象のポリペプチドを産生する方法で使用することができ、その方法は、その細胞にベクターを含むトランスジェニック植物の一部又はかかるトランスジェニック植物の子孫の一部を回収するステップであって、その植物の一部がポリペプチドを含有するステップ、及び任意選択でその植物の一部からポリペプチドを回収するステップを含む。かかる方法も、U.S.6,359,196及びそこに引用された参考文献に記載されている。
【0062】
本明細書に記載された方法論には、当業者が本発明を実施するのを可能にするのに十分な詳細が含まれていると考えられるが、プラスミドは、米国保健教育福祉省、国立衛生研究所(NIH)の組換えDNA研究に関するガイドラインに記載された現在の規制下で、T.Maniatis,E.F.Fritsch and J.Sambrook,Molecular Cloning:A Laboratory Manual,Cold Spring Harbor Laboratory(1982)に記載された標準的な組換えDNA技法を使用して、構築及び精製することができる。これらの参考文献には、以下の標準的な方法についての手順が含まれる:大腸菌プラスミドを用いたクローニング手順、大腸菌細胞の形質転換、プラスミドDNA精製、DNAのフェノール抽出、DNAのエタノール沈殿、アガロースゲル電気泳動、アガロースゲルからのDNA断片の精製、並びに制限エンドヌクレアーゼ及び他のDNA修飾酵素反応。
【0063】
本明細書の例3は、本発明の予想外の利点を実証している:(1)対象の導入遺伝子を有するバキュロウイルスと、(2)パルボウイルス(すなわちAAV)Repタンパク質を発現するバキュロウイルスとの昆虫細胞への同時感染は、細胞死を減少させ、同時感染した昆虫細胞の生存可能な寿命を増加させる。したがって、対象の導入遺伝子の産生段階が延長され、その結果として特異的な産生収量が増加する。したがって、別の態様においては、本発明は、細胞死を減少させる並びに/又はバキュロウイルス及び/若しくはバキュロウイルスベクターに感染した昆虫細胞の生存可能な寿命を増加させる方法に関し、その方法は、昆虫細胞において本明細書で上記のパルボウイルスRepタンパク質を(同時)発現させるステップを含む。好ましくは、パルボウイルス複製タンパク質は、Rep78及びRep68タンパク質の少なくとも1つである。好ましくは、昆虫細胞は、AAV Rep52タンパク質及びRep40タンパク質又は対応するパルボウイルス複製タンパク質の少なくとも1つを発現しない。
【0064】
本文書及びその特許請求の範囲においては、「含む」という動詞及びその活用は、その言葉に続く項目が含まれるが、明確に言及されていない項目が除外されないことを意味するようにその非限定的な意味で使用される。さらに、不定冠詞「a」又は「an」によるエレメントへの言及は、文脈上で明らかに、エレメントが1つ、1つのみであることが要求されない限り、エレメントが2つ以上存在する可能性を除外しない。不定冠詞「a」又は「an」は、したがって、通常、「少なくとも1つ」を意味する。
【0065】
本明細書で引用したすべての特許及び参考文献は、参照によりその全体がこれによって組み込まれる。
【0066】
以下の実施例は、単に例示の目的のみで示したものであり、決して本発明の範囲を限定することを意図していない。
【図面の簡単な説明】
【0067】
【図1】SF+細胞にBac.VD142 p0又はBac.VD143 p0を感染させてから3日後のSF900II培地におけるGFP蛍光を示す図である。培地における非感染SF+細胞の同量のバックグラウンド蛍光をデータから引いた。
【図2】SF+細胞にBac.VD142 p3又はBac.VD143 p3を感染させた後の異なる時点(pi)で測定した、PBS中に再懸濁した生細胞におけるGFP蛍光を示す図である。PBSにおける非感染SF+細胞の同量のバックグラウンド蛍光を、データから引いた。
【図3】単独の組換えバキュロウイルスが有するベクターゲノムのバキュロウイルス誘導複製(棒2)と比較した、AAV−ITRが隣接するCMV−LPL導入遺伝子単位のAAV−Rep誘導複製(棒1)によるベクターゲノムコピー数の増加を示す図である。
【図4】Repタンパク質を同時発現しているHeLa細胞におけるSEAP活性の増強を示す図である。トランスフェクション2日又は3日後に、pVD179(−)又はpVD179及びpVD203の組み合わせ(pVD203)をトランスフェクトしたHeLa細胞の培地においてSEAP活性を測定した。実験は、2連で行った。
【実施例】
【0068】
(例1)
AAV Repタンパク質の同時発現による、SF+細胞におけるタンパク質発現の増強
1.1 材料及び方法
1.1.1 バキュロウイルスの作製
プラスミドpVD142及びpVD143を使用して、組換えバキュロウイルスを作製した。pVD142は、ITR間にpCMV−p10−GFP発現カセットを含有し、pVD143は、ITR間にpPolH−AAV2 Rep78/ACG及びpCMV−p10−GFP発現カセットを含有する。flashBACシステムを使用して、組換えBac.VD142及びBac.VD143(p0)を作製した。その後、p0のバキュロウイルスを、対数増殖期の2E+6個細胞/mlの密度のSF+細胞中100倍に希釈することによって増幅させた。感染3日後に、p1の増幅したバキュロウイルスを採取した。次の継代の増幅も同様に行った。
【0069】
1.1.2 SF+細胞における蛍光分析測定
対数増殖期の2E+6個細胞/mlの密度のSF+細胞をバキュロウイルスBac.VD142又はBac.VD143(継代p0又はp3由来)に100倍希釈で感染させた。感染後のいくつかの異なる時点で、GFP蛍光を測定した。最初に、Nucleocounterを使用して各試料中の生細胞の量を測定した。その後、感染した細胞をSF900II培地で0.5E+6個生細胞/mlの密度に希釈した。各試料のうち、100μl(約50,000個細胞)を黒色96ウェルに移し、Fluoroskan Ascentを使用して蛍光を測定した(励起485nm及び励起520nmで)。PBSに再懸濁した細胞における蛍光を測定する場合(図2)、800μlの細胞(0.5E+6個生細胞/mlの密度)を1000rcfで5分間遠心分離した。細胞ペレットを800μlのPBSに再懸濁し、上記のように蛍光を測定した。
【0070】
1.2 結果
図1は、Fluoroskan Ascentを使用して測定した、SF+細胞にBac.VD142 p0又はBac.VD143 p0を感染させてから3日後の、SF900II培地において希釈した生細胞における蛍光を示す。培地における非感染SF+細胞の同量のバックグラウンド蛍光をデータから引いた。図2は、SF+細胞をBac.VD142 p3又はBac.VD143 p3に感染させた後の異なる時点(pi)で2連で測定した、PBSに再懸濁した生細胞における蛍光を示す。Bac.VD143に感染したSF+細胞におけるGFP発現の増強は、明白である。3日後、Bac.VD143に感染した細胞のGFP蛍光は、Bac.VD142に感染した細胞の同量(0.5a.u)と比較して、5倍高い(2.5a.u.)ことが示された。
【0071】
(例2)
AAV Repタンパク質の同時発現による、SF+細胞における導入遺伝子発現の増強
2.1 材料及び方法
2.1.1 バキュロウイルスの作製
プラスミドpVD43及びpVD88を使用して、組換えバキュロウイルスストック(それぞれBac.VD43及びBac.VD88)を調製した。VD43構築物は、2つのAAV2 ITRの間にCMV−LPL−WPRE−ポリA発現ユニットを含有する。VD88構築物は、PolH昆虫細胞プロモーターの制御下にあるAAV2 Rep78/52 ORF(Rep78の開始コドンがATGからACGに改変された)を含有する。
【0072】
2.1.2 AAVベクターゲノムの増幅
第4継代ワーキングシードウイルスを使用して、Bac.VD43及びBac.VD88の第5継代バキュロウイルス接種物を作製した。この接種物を使用して、対数増殖期の2E+6細胞個/mLの細胞密度のSF+昆虫細胞を、Bac.VD43単独か又はBac.VD43とBac.VD88の混合物に感染させた。感染3日後に、溶解緩衝液で細胞培養物を採取し、不純物を除去した粗溶解物を直ちにQ−PCRアッセイに供して、CMVコピー数を測定した。
【0073】
2.1.3 AAVベクターゲノムコピー数の測定
AAVベクターゲノムの産生に続き、CMVプロモーターへ方向付けられたプライマーを使用して溶解した培養物を直ちにQ−PCRアッセイに供した。産生したベクターDNAの分解を避けるために、溶解した培養物の試料は、Benzonaseを処置せず、Q−PCR手順中、デオキシリボヌクレアーゼステップを除いた。
【0074】
2.2 結果
図3は、Bac.VD43+Bac.VD88(棒1)又はBac.VD43単独(棒2)に感染した昆虫細胞におけるベクターコピー数を示す。感染3日後に、細胞を採取し、Q−PCRによってベクターコピー数を測定した。AAV−ITRが隣接するCMV−LPL導入遺伝子単位(Bac.VD43)のAAV Rep誘導複製(Bac.VD88)は、単独の組換えバキュロウイルス(Bac.VD43)が有するベクターゲノムのバキュロウイルス誘導複製と比較して、ベクターゲノム(CMV−LPL−WPRE−plyA)コピー数の200倍を超える増加をもたらした。
【0075】
(例3)
AAV Repタンパク質の同時発現によるSF+細胞の生存率の増加
3.1 材料及び方法
3.1.1 細胞密度測定
バキュロウイルス感染後の昆虫細胞の生細胞密度をNucleocounterで測定した。
【0076】
3.1.2 ウイルス
この実験では、2つの組換えバキュロウイルスを比較した。導入遺伝子LPLのための発現カセットを有するバキュロウイルス及びAAV2 Rep ORFのための発現カセットを有するバキュロウイルス:
Virus WSV bank Bac.VD88 P4 Lot#P.536.C0102.01(AAV Rep−発現カセットを有するバキュロウイルス)
Virus WSV bank Bac.VD43 P4 Lot#P.536.C0100.01(対象の遺伝子、すなわちLPLのための発現カセットを有するバキュロウイルス)
【0077】
3.1.3 細胞
ExpresSF+(登録商標)細胞を、500mlシェーカーフラスコ中に1E6細胞個/mLで播種し、New Brunswick Innova 44Rシェーカーインキュベーター(MF−SIN−2002−s00)中で135rpm、28℃で17時間インキュベートした。これらの培養物を、SF900II培地(Invitrogen)を使用して播種した。
【0078】
3.1.4 感染
この実験では、Bac.VD43又はBac.VD88を単独か又は組み合わせでSF+細胞に感染させた。1:333のウイルス体積対細胞培養物体積を使用して、感染させた。
【0079】
3.2 結果
組換えバキュロウイルスストック(Bac.VD43、Bac.VD88又はBac.VD43+Bac.VD88)の添加前に、細胞計数を行い、GEN−SOP−SNC−8000(03版)に従ってNucleoCounter(ENS:RD−SNC−0001−s00)を使用して生存率を測定した。培地は、2.14E6個生細胞/mLを含有し、99.7%の生存率であった。SF+細胞にバキュロウイルス構築物を感染させてから約70時間後に、細胞計数を行い、生存率を再び測定した。
【0080】
表1は、対象の発現カセット(すなわち、CMVプロモーターの制御下にあるLPL)を有するBac.VD43の感染が、70時間にわたって細胞死の増加をもたらすことを示している。70時間後、まだ生存している細胞は実質的に存在しない。しかしながら、細胞が、AAV Repのための発現カセットを有するBac.VD88に感染した場合、細胞死は遅くなり、感染70時間後で86%の生細胞密度をもたらす。これは、昆虫細胞における発現後のAAV Repタンパク質が、抗アポトーシス性の機能を有することを示唆している。さらに、この結果から、細胞にBac.VD43とBac.VD88の両方が感染すると、細胞にBac.VD43単独が感染している場合に通常起こる細胞死が遅れる可能性がある(生存率61%対0%)ことが示される。これは、パルボウイルスRepタンパク質を発現するバキュロウイルス(Bac.VD88)と対象の導入遺伝子を有するバキュロウイルスの同時感染が、対象の導入遺伝子のための産生段階を延長し、続いて産生収量を増加させることを実証している。
【0081】
哺乳類細胞におけるAAV Repタンパク質発現が、今までのところ常に細胞のアポトーシスの誘導と関連づけられていたので、この知見は注目すべきである。昆虫細胞についてのこの現象は、まだ報告されていない。
表1:Bac.VD43、Bac.VD88又はBac.VD43及びBac.VD88を、SF+細胞に感染させ、感染70時間後に生細胞密度をモニターした。
【表1】

【0082】
(例4)
AAV−Repタンパク質の同時発現による、哺乳類細胞におけるタンパク質発現の増強
4.1 材料及び方法
4.1.1 プラスミドの作製
プラスミドpVD179は、CMVプロモーターの制御下にある分泌型アルカリホスファターゼ(SEAP)発現カセットを含有し、ウイルスITRが隣接している。このプラスミドは、pSEAP2−Control(Clontech Laboratories Inc.)のSEAP発現カセットをpVD43中にクローニングすることによって構築した。簡潔に述べると、pSEAP2−ControlをEcoRI及びHpaIで消化し、1694bp断片を平滑末端化し、精製し、RsrII消化によってLPL−WPREカセットが除去された平滑末端化pVD43プラスミド中に連結した。プラスミドpVD203は、AAV2 p5プロモーターの制御下にあるAAV2 Rep発現カセットを含有するものであり、p5E18−VD2/8からEcoNI及びPmeI消化によってAAV8キャプシド発現カセットを除去し、5’オーバーハングを平滑末端化し、プラスミドを再連結することによって構築した。
【0083】
4.1.2 哺乳類細胞のトランスフェクション
HeLa細胞を、10%胎児ウシ血清を補充したダルベッコ変法イーグル培地(DMEM,Invitrogen)中で培養し、5%CO下37°Cで増殖した。細胞を、ポリエチレンイミン(PEI、MW約25000、Polysciences Inc.)を使用してトランスフェクトする前日に、24ウェルプレートのウェル当り2E5個細胞の密度で播種した。各ウェルについて、0.5μgのpVD179及び0.5μgのstuffer DNA又は0.5μgのpVD203を含有する50μlの150mM NaClに3.0μlのPEI(1μg/μl)を添加し、直ちにボルテックスした後、このトランスフェクション混合物を室温で10分間インキュベートした。ウェル中の培地を450μlの新鮮な培地と交換した後、細胞にトランスフェクション混合物を添加し、5%COで37℃でインキュベートした。
【0084】
4.1.3 SEAP活性アッセイ
トランスフェクション2日及び3日後に、75μlの培地をHeLa細胞から取り出し、12000gで10秒間遠心分離して、分離した細胞をペレット化し、60μlの上澄みを−20℃で保管した。製造元のプロトコールに従って、Great Escape Chemiluminescence kit 2.0(Clontech Laboratories Inc.)でSEAP発現を測定した。簡潔に述べると、各試料25μlを75μlの1×希釈用緩衝液中で希釈し、65℃で30分間インキュベートし、氷上で2〜3分間冷却した。試料を室温に平衡化した後、100μlのSEAP基質溶液を各試料に添加し、20分間インキュベートした。化学発光シグナルをルミノメーターを用いて470nmで1秒間検出した。
【0085】
4.2 結果
図4は、pVD179(−)又はpVD179+pVD203(pVD203)に感染したHeLa細胞における、トランスフェクション2日及び3日後のSEAP活性を示す。pVD203(Repタンパク質)の同時発現は、pVD179のみをトランスフェクトした細胞と比較して、それぞれ、培地におけるSEAP活性の1.8倍及び1.5倍の増加をもたらした。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
対象の遺伝子産物を産生する方法であって、
a)i)細胞において遺伝子産物の発現を駆動することができるプロモーターに作動可能に連結している、対象の遺伝子産物をコードするヌクレオチド配列を含む第1の発現カセットであって、少なくとも1つのパルボウイルス逆方向末端反復(ITR)ヌクレオチド配列が隣接する第1の発現カセットと、
ii)細胞においてRepタンパク質の発現を駆動することができるプロモーターに作動可能に連結している、少なくとも1つのパルボウイルスRepタンパク質をコードするヌクレオチド配列を含む、少なくとも第2の発現カセットと
を含む細胞を提供するステップと、
b)a)で定義された細胞を、第1及び第2の発現カセットの発現を促す条件下で培養するステップと、
c)任意選択で対象の遺伝子産物を回収するステップと
を含み、
第1の発現カセットが、細胞のゲノム中へ組み込まれておらず、細胞が、パルボウイルスCapタンパク質及びパルボウイルスCapタンパク質をコードするヌクレオチド配列の少なくとも1つを含まない方法。
【請求項2】
第1の発現カセットに、パルボウイルスITRヌクレオチド配列が両側に隣接している、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
第2の発現カセットが、Rep78及びRep68タンパク質の少なくとも1つをコードするヌクレオチド配列を含む読み枠を含む、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
第1及び第2の発現カセットが単一の構築物に存在し、構築物に少なくとも1つのパルボウイルスITR配列が隣接している、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項5】
遺伝子産物がポリペプチド又は核酸である、請求項1から4までのいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
パルボウイルスITR配列及びパルボウイルスRepタンパク質が、アデノ随伴ウイルス(AAV)由来である、請求項1から5までのいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
細胞が昆虫細胞である、請求項1から6までのいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
発現カセットの少なくとも1つがバキュロウイルスベクターに含まれている、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
細胞が哺乳類細胞である、請求項1から6までのいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
細胞が、パルボウイルスCapタンパク質及びパルボウイルスCapタンパク質をコードするヌクレオチド配列の少なくとも1つを含まない、請求項1から9までのいずれか一項において定義された細胞。
【請求項11】
請求項10に記載の細胞を含む、非ヒトトランスジェニック動物又はトランスジェニック植物。

【図3】
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【図1】
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【図2】
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【図4】
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【公表番号】特表2010−538675(P2010−538675A)
【公表日】平成22年12月16日(2010.12.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−525776(P2010−525776)
【出願日】平成20年9月18日(2008.9.18)
【国際出願番号】PCT/NL2008/050613
【国際公開番号】WO2009/038462
【国際公開日】平成21年3月26日(2009.3.26)
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.WINDOWS
【出願人】(506421611)アムステルダム モレキュラー セラピューティクス ビー.ブイ. (5)
【Fターム(参考)】