ターゲット回収装置
【課題】中性子発生装置のターゲット部を、容易に回収できるターゲット回収装置を提供する。
【解決手段】中性子減速装置7は、ターゲット6を有するターゲット装置5を収容する収容室8aを有する。ビームダクト11に対して中性子減速装置7を相対移動させ、収容室8a内からターゲット装置5を露出させる。ターゲット装置5の鉛直下方に回収容器43を配置しておき、ターゲット装置とビームダクト11とを着脱自在に接続する主接続手段13の接続を解く。すると、ビームダクト11から離脱したターゲット装置は落下し、回収容器43に収容される。その結果として、ターゲット装置5と一緒にターゲット6をビームダクト11から取り外して容易に回収できる。
【解決手段】中性子減速装置7は、ターゲット6を有するターゲット装置5を収容する収容室8aを有する。ビームダクト11に対して中性子減速装置7を相対移動させ、収容室8a内からターゲット装置5を露出させる。ターゲット装置5の鉛直下方に回収容器43を配置しておき、ターゲット装置とビームダクト11とを着脱自在に接続する主接続手段13の接続を解く。すると、ビームダクト11から離脱したターゲット装置は落下し、回収容器43に収容される。その結果として、ターゲット装置5と一緒にターゲット6をビームダクト11から取り外して容易に回収できる。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、陽子などの加速粒子の照射を受けて中性子を発生するターゲット部を備えた中性子発生装置からターゲット部を回収するターゲット回収装置に関する。
【背景技術】
【0002】
がん治療等において、放射線治療は高い評価を受けている。特に、中性子捕捉療法(NCT:Neutron Capture Therapy)は、原理的に細胞レベルの選択的な治療の可能性があり、注目されている。NCTでは、中性子を照射したときに飛程が短く高LET(LinearEnergy Trasfer)の重荷電粒子などを発生する安定同位元素を、あらかじめ治療すべきがん細胞に取り込ませておく。その後、中性子を照射し、重荷電粒子の飛散によってがん細胞だけを選択的に破壊する。NCTに用いられる安定同位元素は、中性子と反応して高LETの重荷電粒子を発生する10Bや6Liなどであり、中性子はこれらに対して大きな反応断面積を持つ低エネルギー中性子である。現在では、NCTとして、10B及び熱中性子や熱外中性子が用いられており硼素中性子捕捉療法(BNCT:BoronNCT)と呼ばれることもある。
【0003】
特許文献1には、NCTなどに用いられる中性子を発生させる装置が開示されている。この種の装置では、20MeV以上のエネルギーを持つ陽子が照射されて中性子を発生するターゲット部と、ターゲット部から発生した中性子を減速する中性子減速部(通称「モデレータ」)とを備えている。ターゲット部と中性子減速部とは、中性子減速材や中性子遮蔽体内に固定されており、装置から外部に漏れる中性子量を極小にするように構成される。
【特許文献1】特開2006−47115号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ターゲット部は、Be(ベリリウム)などからなり、陽子の照射を受けて放射化して疲弊するため、その寿命は1年程度であり、中性子を安定して発生させるためには、古いターゲット部を回収し、新たなターゲット部に交換する必要がある。しかしながら、従来の装置では、ターゲット部の回収について配慮されておらず、放射線の被曝を防止する必要もあって、ターゲット部を回収することは難しかった。
【0005】
本発明は、以上の課題を解決することを目的としており、中性子発生装置のターゲット部を、容易に回収できるターゲット回収装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、加速粒子が通るダクト管と、ダクト管の終端に接続されると共に、加速粒子の照射を受けて中性子を発生するターゲット部と、ターゲット部で発生した中性子を減速させる中性子減速部と、を備える中性子発生装置からターゲット部を回収するターゲット回収装置であって、ダクト管に対して中性子減速部を相対移動させ、ターゲット部を中性子減速部から離間させる駆動手段と、ダクト管とターゲット部とを着脱自在に接続する接続手段と、を備えることを特徴とする。
【0007】
本発明に係るターゲット回収装置では、駆動手段がダクト管に対して中性子減速部を相対移動させ、中性子減速部からターゲット部を離間させる。ダクト管とターゲット部とは接続手段によって着脱自在に接続されており、手動、遠隔操作または自動制御などによって接続手段による接続を解くことでターゲット部をダクト管から容易に回収できる。特に、本発明によれば、ダクト管からターゲット部を取り外して回収するまでの工程を遠隔操作または自動制御で簡単に実行でき、放射線の被曝の低減にも有効である。
【0008】
さらに、中性子減速部は、ターゲット部を収容する収容室を有し、駆動手段は、ターゲット部を中性子減速部から離間させ、収容室内からターゲット部を露出させると好適である。中性子減速部の収容室内にターゲット部が収容されていたとしても、本発明によれば収容室内からターゲット部を露出させた後で接続手段による接続を解くことができるため、ターゲット部を容易に回収できる。
【0009】
さらに、ターゲット部をダクト管の終端に連結させる管部を更に備え、接続手段は、管部とダクト管の終端とを締結する固定手段と、熱膨張によって固定手段の締結力を緩める熱膨張部と、熱膨張部を加熱するヒータ部と、を有すると好適である。ヒータ部で熱膨張部を加熱することで、固定手段の締結力は弱まるため、ダクト管からターゲット部を容易に回収できる。
【0010】
さらに、ダクト管の終端には固定側フランジが設けられ、管部には、固定側フランジに当接する受け側フランジが形成され、固定手段は、固定側フランジ及び受け側フランジを取り囲むように掛け回されるクランプチェーンと、クランプチェーンの両端同士を締結するボルト部とを有し、熱膨張部は、ボルト部の周囲に装着されると共に、熱膨張してボルト部を軸方向に引っ張ることでボルト部の締結力を緩めると好適である。
【0011】
上記構成では、固定手段のクランプチェーンは、固定側フランジ及び受け側フランジを掛け回すように配置されており、クランプチェーンをボルト部で締結すると、固定側フランジ及び受け側フランジには周方向で均等な押圧がかかる。従って、ダクト管とターゲット部とを精度良く確実に接続できる。また、ヒータ部によって熱膨張部が加熱されると、ボルト部は熱膨張部に引っ張られて締結力が緩められる。すると、固定側フランジ及び受け側フランジの接続は解かれ、ターゲット部をダクト管から簡単に外すことができ、ターゲット部を容易に回収できる。
【0012】
さらに、接続手段による接続を解いた後のターゲット部を回収する回収部と、回収部を移動可能に保持する回収部駆動手段と、を更に備え、中性子減速部は、収容室内でターゲット部を収容している収容位置と、収容室内からターゲット部を露出させた退避位置との間を移動可能であり、回収部駆動手段は、中性子減速部が収容位置にある場合には、中性子減速部から外れた待機位置にて回収部を保持し、中性子減速部が退避位置にある場合には、ターゲット部の鉛直下方である回収位置にて回収部を保持すると好適である。
【0013】
上記構成では、中性子減速部が退避位置にある場合には、回収部が待機位置から回収位置まで移動するので、中性子減速部の移動に支障をきたすことなくターゲット部を回収できる。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、中性子発生装置のターゲット部を、容易に回収できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、本発明に係るターゲット回収装置の好適な実施形態について図面を参照しながら説明する。図1は、本実施形態に係るターゲット回収装置及びBNCT装置の側面図であり、図2はBNCT装置及びターゲット回収装置の平面図であり、図3はBNCT装置及びターゲット回収装置の背面図である。
【0016】
図1〜図3に示されるように、BNCT装置(中性子発生装置)1は、中性子捕捉療法(NCT:Neutron Capture Therapy)によってがん治療等を行うための装置である。BNCT装置1は、患者が治療を受けるために座る治療台3と、サイクロトロンでつくられる高速の陽子(以下、「陽子線」という)Pを受けて中性子を発生させるターゲット(ターゲット部)6(図4及び図5参照)を保持するターゲット装置5と、ターゲット6で発生した中性子Nを減速させ、低エネルギーの中性子Nとして患者に照射する中性子減速装置(「モデレータ」ともいう)7と、を備えている。陽子線Pは、加速粒子に相当する。なお、以下の説明では、図1における中性子減速装置7の治療台3側を前、逆側を後として説明する。
【0017】
中性子減速装置(中性子減速部)7は、減速材を収容した本体部8を備える。本体部8の後側には、ターゲット装置5を受け入れる円筒状の空洞が形成された収容室8aが形成されており、収容室8aの前方には減速材として鉄(Fe)、アルミニウム(Al)、CaF2が順番に配置されている。また、収容室8a及び減速材の周囲には、中性子Nの漏洩を防止するために、鉛からなる反射材が配置されている。本体部8の前方には、中性子Nの照射方向を整えるコリメータ9が配置されている。
【0018】
中性子減速装置7の下には、前後方向に沿って延在する左右一対のレールR1が敷設されており、中性子減速装置7の下部には、レールR1に沿って前後方向に移動するLMガイド(駆動手段)10が設けられている。LMガイド10の駆動により、中性子減速装置7は、前後に往復動可能である。
【0019】
ターゲット装置5は、サイクロトロンに繋がるように敷設されたビームダクト(ダクト管)11の終端に、着脱自在に取り付けられている。ビームダクト11は、サイクロトロンによって加速された陽子線Pが通る真空ラインを形成する。ターゲット装置5(図4及び図9参照)は、陽子線Pの照射を受けて中性子Nを発生するターゲット6(ターゲット部)と、ターゲット6を保持するターゲットホルダー5aとからなる。ターゲット6はベリリウム(Be)からなる円板状の部材であり、陽子線Pの照射を受けて中性子Nを発生する。
【0020】
ターゲットホルダー5aは、銅(Cu)またはグラファイトによって製作される。ターゲットホルダー5aは、中性子Nを発生するターゲット6を冷却するための冷却水流路が形成された冷却部5bと、ビームダクト11に連通する接続用短管(管部)5cとを備えている。ターゲット6は冷却部5b及び接続用短管5cに挟持されている。
【0021】
図4〜図6に示されるように、接続用短管5cは、主接続手段(接続手段)13によってビームダクト11に着脱自在に接続されている。ビームダクト11の終端には固定側フランジ11aが設けられており、接続用短管5cには、固定側フランジ11aに当接する受け側フランジ5d(図5参照)が設けられている。受け側フランジ5dの外縁径は、固定側フランジ11aの外縁径に一致しており、受け側フランジ5dは、固定側フランジ11aに外縁を合わせた状態で当接される。
【0022】
主接続手段13は、固定側フランジ11a及び受け側フランジ5dの両外縁に沿って掛け回すように装着される一本のクランプチェーン15を備える。クランプチェーン15の両端には、L字状の締結部16,17が設けられている。第1の締結部16(図6参照)にはボルト(ボルト部)19が螺合する雌ねじH1が形成されており、第2の締結部17にはボルト19が挿通する挿通孔H2が形成されている。
【0023】
ボルト19の軸部19aの周囲には、筒状の形状記憶合金部(熱膨張部)21が装着されている。形状記憶合金部21は、第2の締結部17とボルト19の頭部19fとの間に挟まれるように配置され、両端が、それぞれ座金を介して第2の締結部17またはボルト19の頭部19fを押圧する。ボルト19を締め付けることにより、第1の締結部16、第2の締結部17及び形状記憶合金部21は固定される。第1の締結部16と第2の締結部17とを締め付けると、クランプチェーン15が固定側フランジ11a及び受け側フランジ5dを外縁から中心方向に向けて締め付ける。クランプチェーン15は、固定側フランジ11a及び受け側フランジ5dを掛け回すように配置されているため、固定側フランジ11a及び受け側フランジ5dには周方向で均等な押圧がかかり、ビームダクト11とターゲット装置5とを精度良く確実に接続する。
【0024】
形状記憶合金部21の周囲には筒状のヒータ部23が装着されており、ヒータ部23の周囲にはカバー部25が装着されている。ヒータ部23には電源回路26(図2参照)に接続された配線27が接続されており、ヒータ部23に通電すると、ヒータ部23は形状記憶合金部21を加熱する。形状記憶合金部21は、ヒータ部23からの加熱によって主としてボルト19の軸線L方向に熱膨張し、ボルト19を軸線L方向に引っ張る。ボルト19の軸部19aには、ノッチ(切り込み部)19bが形成されている。ノッチ19bは、第1の締結部16と第2の締結部17とが接する境界近傍位置に形成されている。ボルト19は、軸線L方向への引っ張り力を受けると、ノッチ19bで破断する(図7参照)。すると、クランプチェーン15を締め付けていた力が解かれ、ターゲット装置5とビームダクト11との接続が解かれる(図8参照)。クランプチェーン15及びボルト19によって固定手段20が構成され、固定手段20、形状記憶合金部21及びヒータ部23によって主接続手段13が構成される。
【0025】
ターゲット装置5の冷却部5b(図9参照)には、冷却水の導入のための上流側短管31が固定されており、上流側短管31は、副接続手段41によって、冷却水導入のために敷設された上流管33に着脱自在に接続されている。また、冷却部5bには、冷却水の排出のための下流側短管35が固定されており、下流側短管35は、副接続手段41によって、冷却水排出のために敷設された下流管37に着脱自在に接続されている。上流管33と上流側短管31とはフランジ同士が当接しており、同様に、下流管37と下流側短管35とはフランジ同士が当接している。副接続手段41は、主接続手段13と同様な構成によって上流管33と上流側短管31とを接続し、また、下流管37と下流側短管35とを接続している。
【0026】
図2及び図3に示されるように、中性子減速装置7は、レールR1に沿って前後に移動可能であり、最も後方に移動した状態が、ターゲット装置5を収容室8a内に収容した収容位置A1となる。中性子減速装置7は、収容位置A1から前方に移動することで、ターゲット装置5を収容室8a内から露出させることができ、この状態は退避位置A2となる。中性子減速装置7は、収容位置A1と退避位置A2との間を往復動でき、この往復動によって中性子減速装置7が通過する領域は、中性子減速装置7の軌道Cになる。
【0027】
ターゲット回収装置2は、ターゲット装置5を回収する回収容器(回収部)43と、回収容器43を平行移動可能に保持する回収容器駆動手段(回収部駆動手段)45とを備える。回収容器43には、上部開口43aが形成されている。中性子減速装置7が設置されている床面には、中性子減速装置7の軌道Cに沿った前後方向に対して直交するように延在するレールR2が敷設されている。回収容器駆動手段45は、回収容器43が固定されたテーブル45aと、テーブル45aをレールR2に沿って移動させるLMガイド45bを備える。回収容器駆動手段45は、中性子減速装置7の軌道Cから外れた待機位置B2にて回収容器43を保持し、中性子減速装置7が前進して退避位置A2にある場合には、中性子減速装置7の軌道C上に回収容器43を進入させ、ターゲット装置5の鉛直下方である回収位置B1にて回収容器43を保持する。
【0028】
図3に示されるように、ターゲット回収装置2は、待機位置B2の回収容器43の上方に配置された容器封鎖装置47を備える。容器封鎖装置47は、回収容器43の上部開口43aを封鎖する蓋部46を保持する蓋保持部47aと、蓋保持部47aを上下方向に駆動する駆動部47bとを備えている。駆動部47bは、回収容器43の上部開口43aを塞ぐように蓋部46を回収容器43に装着する
【0029】
ターゲット回収装置2は、中性子減速装置7を移動させるLMガイド10、主接続手段13に電力を供給する電源回路26、回収容器駆動手段45及び容器封鎖装置47の駆動部47bに有線または無線によって接続された制御手段48を備える。制御手段48は、CPU、RAM及びROMなどが実装された制御基板、入出力装置及び外部記憶装置などを備えており、CPUやRAMなどのハードウェア上に所定のソフトウェアを読み込ませることにより、CPUの制御のもとで入出力装置が動作して、所定の機能が実現される。
【0030】
すなわち、制御手段48は、収容位置A1と退避位置A2との間での中性子減速装置7の往復動を制御する。また、制御手段48は、回収容器駆動手段45の駆動を制御し、中性子減速装置7が収容位置A1にある場合には、中性子減速装置7の軌道Cから外れた待機位置B2にて回収容器43を待機させ、中性子減速装置7が退避位置A2にある場合には、回収容器43をターゲット装置5の鉛直下方である回収位置B1まで進入させる。また、制御手段48は、電源回路26を制御して主接続手段13のヒータ部23に通電してボルト19を破断させ、ターゲット装置5とビームダクト11との接続を解く。さらに、制御手段48は、落下したターゲット装置5を受け入れた回収容器43を待機位置B2まで移動させ、容器封鎖装置47を駆動して蓋部46で回収容器43の上部開口43aを封鎖する。ターゲット回収装置2は、LMガイド10、主接続手段13、副接続手段41、回収容器43、回収容器駆動手段45、容器封鎖装置47、制御手段48を備えて構成される。
【0031】
次に、図2、図3及び図9〜図11を参照して、ターゲット回収装置2によるターゲット装置5の回収方法について説明する。ターゲット装置5は、陽子線Pが照射されて中性子Nを発生するターゲット6を備えており、放射化して強い放射能を有する物資になるため、通常、寿命は1年程度に過ぎず、適宜に交換を必要とする。本実施形態では、ターゲット6単体ではなく、ターゲット装置5ごと交換している。ターゲット装置5を交換する際には、まず、放射化したターゲット装置5を回収し、新たなターゲット装置5を設置する必要がある。
【0032】
ターゲット装置5を回収する際には、作業員による遠隔操作または所定の動作シーケンスに基づく自動運転により、制御手段48が中性子減速装置7を前進させ、放射化したターゲット装置5を露出させる。さらに、制御手段48は、待機位置B2にある回収容器43をターゲット装置5の下方の回収位置B1に向けて進入させ、回収位置B1で停止させる(図9参照)。
【0033】
次に、副接続手段41により接続を解き、まず、冷却水の流路になっている上流管33及び下流管37をターゲット装置5から切り離す(図10参照)。次に、制御手段48は、主接続手段13に通電して接続を解き、ターゲット装置5をビームダクト11から離脱させる。その結果、ターゲット装置5は、落下し、回収容器43内に収容される(図11参照)。
【0034】
図3に示されるように、制御手段48は、ターゲット装置5を収容した回収容器43を待機位置B2まで移動させ、容器封鎖装置47を駆動して回収容器43の上部開口43aに蓋部46を装着する。その後、制御手段48は、回収容器駆動手段45によって回収容器43を更に移動させ、放射化された物質を格納する格納エリアまで回収容器43を搬送する。
【0035】
BNCT装置1が設置された室内から放射化されたターゲット装置5が搬出されると、その室内では、放射線の被曝の虞がなくなるため、作業員はBNCT装置1が設置されている室内に入り、新たなターゲット装置5をビームダクト11に取り付ける。なお、この取り付け作業を自動化するようにしてもよい。
【0036】
以上のターゲット回収装置2では、LMガイド10がビームダクト11に対して中性子減速装置7を相対移動させてターゲット装置5を収容室8aから露出させ、ターゲット装置5を中性子減速装置7から離間させている。ビームダクト11、冷却水の上流管33及び下流管37とターゲット装置5とは主接続手段13、副接続手段41によって着脱自在に接続されており、主接続手段13及び副接続手段41による接続を解くことで、ターゲット装置5はビームダクト11から外れ、ターゲット装置5を容易に回収できる。特に、ターゲット装置5の鉛直下方には、回収容器43が配置されており、ビームダクト11から外れたターゲット装置5は回収容器43内に自然落下して収まり、ターゲット装置5は回収容器43と一緒に回収される。その結果として、ビームダクト11からターゲット装置5を取り外して回収容器43に治めるまでの工程を容易に自動化でき、放射線の被曝を防止しながらターゲット装置5を容易に回収できる。
【0037】
さらに、主接続手段13は、ヒータ部23による加熱によって熱膨張する形状記憶合金部21を備えており、形状記憶合金部21が加熱されると、ボルト19は形状記憶合金部21に引っ張られる。その結果、ボルト19の締結力は緩められ、ターゲット装置5がビームダクト11から外れ易くなる。特に、本実施形態では、ボルト19にノッチ19bが形成されており、形状記憶合金部21によって軸方向に引っ張られると、ボルト19はノッチ19bで破断する。すると、ボルト19で締結されていたクランプチェーン15は完全に解かれ、ターゲット装置5はビームダクト11から外れて、ターゲット装置5を容易に回収できる。
【0038】
さらに、中性子減速装置7が退避位置A2にある場合には、回収容器43が待機位置B2から回収位置B1まで移動するので、中性子減速装置7の移動に支障をきたすことなくターゲット装置5を回収できる。
【0039】
(第2実施形態)
図12を参照し、第2実施形態に係るターゲット回収装置について説明する。図12は、第2実施形態に係るターゲット回収装置の接続手段の中心に示す斜視図である。第2実施形態では、第1実施形態に比較してターゲット装置51をビームダクト11に着脱自在に接続する接続手段53が主として相違する。そこで、第2実施形態に係るターゲット回収装置の説明では、相違点を中心に説明し、同等の要素や部材などについては、第1実施形態と同一の符号を付して説明を省略する。
【0040】
ターゲット装置51は、内部にターゲット6が固定されたターゲットホルダー51aを備えている。ターゲットホルダー51aには、ビームダクト11に接続される接続用短管51bが設けられており、接続用短管51bの外周には、冷却水を導入し、また排出する銅管51cが巻き付けられている。接続用短管51bには、ビームダクト11の固定側フランジ11cに当接する受け側フランジ51dが設けられている。受け側フランジ51dには、ねじ孔が形成されており、固定側フランジ11cには、ねじ孔に対応した挿通孔が形成されている。挿通孔に通されてねじ孔に螺合するボルト55は、第1実施形態に係るボルトと同様の構成を備えており、ボルト55の軸部にはノッチが形成されている。さらにボルト55の軸部の周囲には形状記憶合金部が装着され、形状記憶合金部の周囲にはヒータ部が装着され、ヒータ部の周囲にはカバー部57が装着されている。ノッチが形成された複数のボルト55、ボルト55に装着された形状記憶合金部及びヒータ部によって接続手段53が形成される。ヒータ部を通電することにより、形状記憶合金部はボルト55の軸線方向に熱膨張し、ボルト55を軸線方向に引っ張る。その結果、ボルト55はノッチで破断する。すべてのボルト55が破断すると、ターゲット装置51は、ビームダクト11から離脱して自然落下し、回収容器43に収容される。
【0041】
第2実施形態に係るターゲット回収装置も、第1実施形態に係るターゲット回収装置2と同様に、ビームダクト11からターゲット装置51と一緒にターゲット6を取り外して容易に回収で、特にターゲットを回収容器43に治めるまでの工程を容易に自動化でき、放射線の被曝を防止しながらターゲット装置51を容易に回収できる。
【0042】
以上、本発明をその実施形態に基づき具体的に説明したが、本発明は、上記実施形態に限定されるものではない。例えば、ターゲット部は中性子減速部の収容室内に収容された状態で加速粒子の照射を受けて中性子を発生する態様に限定されず、ターゲット部が中性子減速部に近接した状態で加速粒子の照射を受けて中性子を発生させ、ターゲット部を回収する際には、ターゲット部を離間させるように中性子減速部を移動させるような形態であってもよい。また、ターゲット部とダクト管とを着脱自在に接続する接続手段は、ボルトとナットとによって固定側フランジと受け側フランジとを締結する構造であってもよい。また、ターゲット部とダクト管との接続を解く態様は遠隔操作や自動制御に限定されず、手動であってもよく、その都度、作業者が台車に載せた回収容器を所定位置に設置してターゲット部の回収を行うようにしてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0043】
【図1】本発明の第1実施形態に係るターゲット回収装置及びBNCT装置の側面図である。
【図2】BNCT装置及びターゲット回収装置の平面図である。
【図3】BNCT装置及びターゲット回収装置の背面図である。
【図4】第1実施形態に係るターゲット回収装置の接続手段を中心に示す斜視図である。
【図5】ボルトによって締結された状態でのクランプチェーンを示す側面図断面図である。
【図6】ボルトによって締結された状態でのクランプチェーンの両端部を拡大して示す断面図である。
【図7】ボルトが破断した状態でのクランプチェーンの両端部を拡大して示す断面図である。
【図8】ボルトが破断した直後のクランプチェーンを示す側面図である。
【図9】中性子減速装置が前進して退避位置に到達し、ターゲット装置が露出した状態を示す斜視図である。
【図10】副接続手段による接続を解いた状態を示す斜視図である。
【図11】主接続手段による接続を解き、ターゲット装置が回収容器に収容された状態を示す斜視図である。
【図12】第2実施形態に係るターゲット回収装置の接続手段を中心に示す斜視図である。
【符号の説明】
【0044】
1…BNCT装置(中性子発生装置)、2…ターゲット回収装置、5c…接続用短管(管部)、5d…受け側フランジ、6…ターゲット(ターゲット部)、7…中性子減速装置(中性子減速部)、8a…収容室、10…LMガイド(駆動手段)、11…ビームダクト、11a,11c…固定側フランジ、13…主接続手段(接続手段)、15…クランプチェーン、19…ボルト(ボルト部)、21…形状記憶合金部(熱膨張部)、23…ヒータ部、43…回収容器(回収部)、45…回収容器駆動手段(回収部駆動手段)、51d…受け側フランジ、53…接続手段、A1…収容位置、A2…退避位置、B1…回収位置、B2…待機位置、P…陽子線(加速粒子)、N…中性子。
【技術分野】
【0001】
本発明は、陽子などの加速粒子の照射を受けて中性子を発生するターゲット部を備えた中性子発生装置からターゲット部を回収するターゲット回収装置に関する。
【背景技術】
【0002】
がん治療等において、放射線治療は高い評価を受けている。特に、中性子捕捉療法(NCT:Neutron Capture Therapy)は、原理的に細胞レベルの選択的な治療の可能性があり、注目されている。NCTでは、中性子を照射したときに飛程が短く高LET(LinearEnergy Trasfer)の重荷電粒子などを発生する安定同位元素を、あらかじめ治療すべきがん細胞に取り込ませておく。その後、中性子を照射し、重荷電粒子の飛散によってがん細胞だけを選択的に破壊する。NCTに用いられる安定同位元素は、中性子と反応して高LETの重荷電粒子を発生する10Bや6Liなどであり、中性子はこれらに対して大きな反応断面積を持つ低エネルギー中性子である。現在では、NCTとして、10B及び熱中性子や熱外中性子が用いられており硼素中性子捕捉療法(BNCT:BoronNCT)と呼ばれることもある。
【0003】
特許文献1には、NCTなどに用いられる中性子を発生させる装置が開示されている。この種の装置では、20MeV以上のエネルギーを持つ陽子が照射されて中性子を発生するターゲット部と、ターゲット部から発生した中性子を減速する中性子減速部(通称「モデレータ」)とを備えている。ターゲット部と中性子減速部とは、中性子減速材や中性子遮蔽体内に固定されており、装置から外部に漏れる中性子量を極小にするように構成される。
【特許文献1】特開2006−47115号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ターゲット部は、Be(ベリリウム)などからなり、陽子の照射を受けて放射化して疲弊するため、その寿命は1年程度であり、中性子を安定して発生させるためには、古いターゲット部を回収し、新たなターゲット部に交換する必要がある。しかしながら、従来の装置では、ターゲット部の回収について配慮されておらず、放射線の被曝を防止する必要もあって、ターゲット部を回収することは難しかった。
【0005】
本発明は、以上の課題を解決することを目的としており、中性子発生装置のターゲット部を、容易に回収できるターゲット回収装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、加速粒子が通るダクト管と、ダクト管の終端に接続されると共に、加速粒子の照射を受けて中性子を発生するターゲット部と、ターゲット部で発生した中性子を減速させる中性子減速部と、を備える中性子発生装置からターゲット部を回収するターゲット回収装置であって、ダクト管に対して中性子減速部を相対移動させ、ターゲット部を中性子減速部から離間させる駆動手段と、ダクト管とターゲット部とを着脱自在に接続する接続手段と、を備えることを特徴とする。
【0007】
本発明に係るターゲット回収装置では、駆動手段がダクト管に対して中性子減速部を相対移動させ、中性子減速部からターゲット部を離間させる。ダクト管とターゲット部とは接続手段によって着脱自在に接続されており、手動、遠隔操作または自動制御などによって接続手段による接続を解くことでターゲット部をダクト管から容易に回収できる。特に、本発明によれば、ダクト管からターゲット部を取り外して回収するまでの工程を遠隔操作または自動制御で簡単に実行でき、放射線の被曝の低減にも有効である。
【0008】
さらに、中性子減速部は、ターゲット部を収容する収容室を有し、駆動手段は、ターゲット部を中性子減速部から離間させ、収容室内からターゲット部を露出させると好適である。中性子減速部の収容室内にターゲット部が収容されていたとしても、本発明によれば収容室内からターゲット部を露出させた後で接続手段による接続を解くことができるため、ターゲット部を容易に回収できる。
【0009】
さらに、ターゲット部をダクト管の終端に連結させる管部を更に備え、接続手段は、管部とダクト管の終端とを締結する固定手段と、熱膨張によって固定手段の締結力を緩める熱膨張部と、熱膨張部を加熱するヒータ部と、を有すると好適である。ヒータ部で熱膨張部を加熱することで、固定手段の締結力は弱まるため、ダクト管からターゲット部を容易に回収できる。
【0010】
さらに、ダクト管の終端には固定側フランジが設けられ、管部には、固定側フランジに当接する受け側フランジが形成され、固定手段は、固定側フランジ及び受け側フランジを取り囲むように掛け回されるクランプチェーンと、クランプチェーンの両端同士を締結するボルト部とを有し、熱膨張部は、ボルト部の周囲に装着されると共に、熱膨張してボルト部を軸方向に引っ張ることでボルト部の締結力を緩めると好適である。
【0011】
上記構成では、固定手段のクランプチェーンは、固定側フランジ及び受け側フランジを掛け回すように配置されており、クランプチェーンをボルト部で締結すると、固定側フランジ及び受け側フランジには周方向で均等な押圧がかかる。従って、ダクト管とターゲット部とを精度良く確実に接続できる。また、ヒータ部によって熱膨張部が加熱されると、ボルト部は熱膨張部に引っ張られて締結力が緩められる。すると、固定側フランジ及び受け側フランジの接続は解かれ、ターゲット部をダクト管から簡単に外すことができ、ターゲット部を容易に回収できる。
【0012】
さらに、接続手段による接続を解いた後のターゲット部を回収する回収部と、回収部を移動可能に保持する回収部駆動手段と、を更に備え、中性子減速部は、収容室内でターゲット部を収容している収容位置と、収容室内からターゲット部を露出させた退避位置との間を移動可能であり、回収部駆動手段は、中性子減速部が収容位置にある場合には、中性子減速部から外れた待機位置にて回収部を保持し、中性子減速部が退避位置にある場合には、ターゲット部の鉛直下方である回収位置にて回収部を保持すると好適である。
【0013】
上記構成では、中性子減速部が退避位置にある場合には、回収部が待機位置から回収位置まで移動するので、中性子減速部の移動に支障をきたすことなくターゲット部を回収できる。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、中性子発生装置のターゲット部を、容易に回収できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、本発明に係るターゲット回収装置の好適な実施形態について図面を参照しながら説明する。図1は、本実施形態に係るターゲット回収装置及びBNCT装置の側面図であり、図2はBNCT装置及びターゲット回収装置の平面図であり、図3はBNCT装置及びターゲット回収装置の背面図である。
【0016】
図1〜図3に示されるように、BNCT装置(中性子発生装置)1は、中性子捕捉療法(NCT:Neutron Capture Therapy)によってがん治療等を行うための装置である。BNCT装置1は、患者が治療を受けるために座る治療台3と、サイクロトロンでつくられる高速の陽子(以下、「陽子線」という)Pを受けて中性子を発生させるターゲット(ターゲット部)6(図4及び図5参照)を保持するターゲット装置5と、ターゲット6で発生した中性子Nを減速させ、低エネルギーの中性子Nとして患者に照射する中性子減速装置(「モデレータ」ともいう)7と、を備えている。陽子線Pは、加速粒子に相当する。なお、以下の説明では、図1における中性子減速装置7の治療台3側を前、逆側を後として説明する。
【0017】
中性子減速装置(中性子減速部)7は、減速材を収容した本体部8を備える。本体部8の後側には、ターゲット装置5を受け入れる円筒状の空洞が形成された収容室8aが形成されており、収容室8aの前方には減速材として鉄(Fe)、アルミニウム(Al)、CaF2が順番に配置されている。また、収容室8a及び減速材の周囲には、中性子Nの漏洩を防止するために、鉛からなる反射材が配置されている。本体部8の前方には、中性子Nの照射方向を整えるコリメータ9が配置されている。
【0018】
中性子減速装置7の下には、前後方向に沿って延在する左右一対のレールR1が敷設されており、中性子減速装置7の下部には、レールR1に沿って前後方向に移動するLMガイド(駆動手段)10が設けられている。LMガイド10の駆動により、中性子減速装置7は、前後に往復動可能である。
【0019】
ターゲット装置5は、サイクロトロンに繋がるように敷設されたビームダクト(ダクト管)11の終端に、着脱自在に取り付けられている。ビームダクト11は、サイクロトロンによって加速された陽子線Pが通る真空ラインを形成する。ターゲット装置5(図4及び図9参照)は、陽子線Pの照射を受けて中性子Nを発生するターゲット6(ターゲット部)と、ターゲット6を保持するターゲットホルダー5aとからなる。ターゲット6はベリリウム(Be)からなる円板状の部材であり、陽子線Pの照射を受けて中性子Nを発生する。
【0020】
ターゲットホルダー5aは、銅(Cu)またはグラファイトによって製作される。ターゲットホルダー5aは、中性子Nを発生するターゲット6を冷却するための冷却水流路が形成された冷却部5bと、ビームダクト11に連通する接続用短管(管部)5cとを備えている。ターゲット6は冷却部5b及び接続用短管5cに挟持されている。
【0021】
図4〜図6に示されるように、接続用短管5cは、主接続手段(接続手段)13によってビームダクト11に着脱自在に接続されている。ビームダクト11の終端には固定側フランジ11aが設けられており、接続用短管5cには、固定側フランジ11aに当接する受け側フランジ5d(図5参照)が設けられている。受け側フランジ5dの外縁径は、固定側フランジ11aの外縁径に一致しており、受け側フランジ5dは、固定側フランジ11aに外縁を合わせた状態で当接される。
【0022】
主接続手段13は、固定側フランジ11a及び受け側フランジ5dの両外縁に沿って掛け回すように装着される一本のクランプチェーン15を備える。クランプチェーン15の両端には、L字状の締結部16,17が設けられている。第1の締結部16(図6参照)にはボルト(ボルト部)19が螺合する雌ねじH1が形成されており、第2の締結部17にはボルト19が挿通する挿通孔H2が形成されている。
【0023】
ボルト19の軸部19aの周囲には、筒状の形状記憶合金部(熱膨張部)21が装着されている。形状記憶合金部21は、第2の締結部17とボルト19の頭部19fとの間に挟まれるように配置され、両端が、それぞれ座金を介して第2の締結部17またはボルト19の頭部19fを押圧する。ボルト19を締め付けることにより、第1の締結部16、第2の締結部17及び形状記憶合金部21は固定される。第1の締結部16と第2の締結部17とを締め付けると、クランプチェーン15が固定側フランジ11a及び受け側フランジ5dを外縁から中心方向に向けて締め付ける。クランプチェーン15は、固定側フランジ11a及び受け側フランジ5dを掛け回すように配置されているため、固定側フランジ11a及び受け側フランジ5dには周方向で均等な押圧がかかり、ビームダクト11とターゲット装置5とを精度良く確実に接続する。
【0024】
形状記憶合金部21の周囲には筒状のヒータ部23が装着されており、ヒータ部23の周囲にはカバー部25が装着されている。ヒータ部23には電源回路26(図2参照)に接続された配線27が接続されており、ヒータ部23に通電すると、ヒータ部23は形状記憶合金部21を加熱する。形状記憶合金部21は、ヒータ部23からの加熱によって主としてボルト19の軸線L方向に熱膨張し、ボルト19を軸線L方向に引っ張る。ボルト19の軸部19aには、ノッチ(切り込み部)19bが形成されている。ノッチ19bは、第1の締結部16と第2の締結部17とが接する境界近傍位置に形成されている。ボルト19は、軸線L方向への引っ張り力を受けると、ノッチ19bで破断する(図7参照)。すると、クランプチェーン15を締め付けていた力が解かれ、ターゲット装置5とビームダクト11との接続が解かれる(図8参照)。クランプチェーン15及びボルト19によって固定手段20が構成され、固定手段20、形状記憶合金部21及びヒータ部23によって主接続手段13が構成される。
【0025】
ターゲット装置5の冷却部5b(図9参照)には、冷却水の導入のための上流側短管31が固定されており、上流側短管31は、副接続手段41によって、冷却水導入のために敷設された上流管33に着脱自在に接続されている。また、冷却部5bには、冷却水の排出のための下流側短管35が固定されており、下流側短管35は、副接続手段41によって、冷却水排出のために敷設された下流管37に着脱自在に接続されている。上流管33と上流側短管31とはフランジ同士が当接しており、同様に、下流管37と下流側短管35とはフランジ同士が当接している。副接続手段41は、主接続手段13と同様な構成によって上流管33と上流側短管31とを接続し、また、下流管37と下流側短管35とを接続している。
【0026】
図2及び図3に示されるように、中性子減速装置7は、レールR1に沿って前後に移動可能であり、最も後方に移動した状態が、ターゲット装置5を収容室8a内に収容した収容位置A1となる。中性子減速装置7は、収容位置A1から前方に移動することで、ターゲット装置5を収容室8a内から露出させることができ、この状態は退避位置A2となる。中性子減速装置7は、収容位置A1と退避位置A2との間を往復動でき、この往復動によって中性子減速装置7が通過する領域は、中性子減速装置7の軌道Cになる。
【0027】
ターゲット回収装置2は、ターゲット装置5を回収する回収容器(回収部)43と、回収容器43を平行移動可能に保持する回収容器駆動手段(回収部駆動手段)45とを備える。回収容器43には、上部開口43aが形成されている。中性子減速装置7が設置されている床面には、中性子減速装置7の軌道Cに沿った前後方向に対して直交するように延在するレールR2が敷設されている。回収容器駆動手段45は、回収容器43が固定されたテーブル45aと、テーブル45aをレールR2に沿って移動させるLMガイド45bを備える。回収容器駆動手段45は、中性子減速装置7の軌道Cから外れた待機位置B2にて回収容器43を保持し、中性子減速装置7が前進して退避位置A2にある場合には、中性子減速装置7の軌道C上に回収容器43を進入させ、ターゲット装置5の鉛直下方である回収位置B1にて回収容器43を保持する。
【0028】
図3に示されるように、ターゲット回収装置2は、待機位置B2の回収容器43の上方に配置された容器封鎖装置47を備える。容器封鎖装置47は、回収容器43の上部開口43aを封鎖する蓋部46を保持する蓋保持部47aと、蓋保持部47aを上下方向に駆動する駆動部47bとを備えている。駆動部47bは、回収容器43の上部開口43aを塞ぐように蓋部46を回収容器43に装着する
【0029】
ターゲット回収装置2は、中性子減速装置7を移動させるLMガイド10、主接続手段13に電力を供給する電源回路26、回収容器駆動手段45及び容器封鎖装置47の駆動部47bに有線または無線によって接続された制御手段48を備える。制御手段48は、CPU、RAM及びROMなどが実装された制御基板、入出力装置及び外部記憶装置などを備えており、CPUやRAMなどのハードウェア上に所定のソフトウェアを読み込ませることにより、CPUの制御のもとで入出力装置が動作して、所定の機能が実現される。
【0030】
すなわち、制御手段48は、収容位置A1と退避位置A2との間での中性子減速装置7の往復動を制御する。また、制御手段48は、回収容器駆動手段45の駆動を制御し、中性子減速装置7が収容位置A1にある場合には、中性子減速装置7の軌道Cから外れた待機位置B2にて回収容器43を待機させ、中性子減速装置7が退避位置A2にある場合には、回収容器43をターゲット装置5の鉛直下方である回収位置B1まで進入させる。また、制御手段48は、電源回路26を制御して主接続手段13のヒータ部23に通電してボルト19を破断させ、ターゲット装置5とビームダクト11との接続を解く。さらに、制御手段48は、落下したターゲット装置5を受け入れた回収容器43を待機位置B2まで移動させ、容器封鎖装置47を駆動して蓋部46で回収容器43の上部開口43aを封鎖する。ターゲット回収装置2は、LMガイド10、主接続手段13、副接続手段41、回収容器43、回収容器駆動手段45、容器封鎖装置47、制御手段48を備えて構成される。
【0031】
次に、図2、図3及び図9〜図11を参照して、ターゲット回収装置2によるターゲット装置5の回収方法について説明する。ターゲット装置5は、陽子線Pが照射されて中性子Nを発生するターゲット6を備えており、放射化して強い放射能を有する物資になるため、通常、寿命は1年程度に過ぎず、適宜に交換を必要とする。本実施形態では、ターゲット6単体ではなく、ターゲット装置5ごと交換している。ターゲット装置5を交換する際には、まず、放射化したターゲット装置5を回収し、新たなターゲット装置5を設置する必要がある。
【0032】
ターゲット装置5を回収する際には、作業員による遠隔操作または所定の動作シーケンスに基づく自動運転により、制御手段48が中性子減速装置7を前進させ、放射化したターゲット装置5を露出させる。さらに、制御手段48は、待機位置B2にある回収容器43をターゲット装置5の下方の回収位置B1に向けて進入させ、回収位置B1で停止させる(図9参照)。
【0033】
次に、副接続手段41により接続を解き、まず、冷却水の流路になっている上流管33及び下流管37をターゲット装置5から切り離す(図10参照)。次に、制御手段48は、主接続手段13に通電して接続を解き、ターゲット装置5をビームダクト11から離脱させる。その結果、ターゲット装置5は、落下し、回収容器43内に収容される(図11参照)。
【0034】
図3に示されるように、制御手段48は、ターゲット装置5を収容した回収容器43を待機位置B2まで移動させ、容器封鎖装置47を駆動して回収容器43の上部開口43aに蓋部46を装着する。その後、制御手段48は、回収容器駆動手段45によって回収容器43を更に移動させ、放射化された物質を格納する格納エリアまで回収容器43を搬送する。
【0035】
BNCT装置1が設置された室内から放射化されたターゲット装置5が搬出されると、その室内では、放射線の被曝の虞がなくなるため、作業員はBNCT装置1が設置されている室内に入り、新たなターゲット装置5をビームダクト11に取り付ける。なお、この取り付け作業を自動化するようにしてもよい。
【0036】
以上のターゲット回収装置2では、LMガイド10がビームダクト11に対して中性子減速装置7を相対移動させてターゲット装置5を収容室8aから露出させ、ターゲット装置5を中性子減速装置7から離間させている。ビームダクト11、冷却水の上流管33及び下流管37とターゲット装置5とは主接続手段13、副接続手段41によって着脱自在に接続されており、主接続手段13及び副接続手段41による接続を解くことで、ターゲット装置5はビームダクト11から外れ、ターゲット装置5を容易に回収できる。特に、ターゲット装置5の鉛直下方には、回収容器43が配置されており、ビームダクト11から外れたターゲット装置5は回収容器43内に自然落下して収まり、ターゲット装置5は回収容器43と一緒に回収される。その結果として、ビームダクト11からターゲット装置5を取り外して回収容器43に治めるまでの工程を容易に自動化でき、放射線の被曝を防止しながらターゲット装置5を容易に回収できる。
【0037】
さらに、主接続手段13は、ヒータ部23による加熱によって熱膨張する形状記憶合金部21を備えており、形状記憶合金部21が加熱されると、ボルト19は形状記憶合金部21に引っ張られる。その結果、ボルト19の締結力は緩められ、ターゲット装置5がビームダクト11から外れ易くなる。特に、本実施形態では、ボルト19にノッチ19bが形成されており、形状記憶合金部21によって軸方向に引っ張られると、ボルト19はノッチ19bで破断する。すると、ボルト19で締結されていたクランプチェーン15は完全に解かれ、ターゲット装置5はビームダクト11から外れて、ターゲット装置5を容易に回収できる。
【0038】
さらに、中性子減速装置7が退避位置A2にある場合には、回収容器43が待機位置B2から回収位置B1まで移動するので、中性子減速装置7の移動に支障をきたすことなくターゲット装置5を回収できる。
【0039】
(第2実施形態)
図12を参照し、第2実施形態に係るターゲット回収装置について説明する。図12は、第2実施形態に係るターゲット回収装置の接続手段の中心に示す斜視図である。第2実施形態では、第1実施形態に比較してターゲット装置51をビームダクト11に着脱自在に接続する接続手段53が主として相違する。そこで、第2実施形態に係るターゲット回収装置の説明では、相違点を中心に説明し、同等の要素や部材などについては、第1実施形態と同一の符号を付して説明を省略する。
【0040】
ターゲット装置51は、内部にターゲット6が固定されたターゲットホルダー51aを備えている。ターゲットホルダー51aには、ビームダクト11に接続される接続用短管51bが設けられており、接続用短管51bの外周には、冷却水を導入し、また排出する銅管51cが巻き付けられている。接続用短管51bには、ビームダクト11の固定側フランジ11cに当接する受け側フランジ51dが設けられている。受け側フランジ51dには、ねじ孔が形成されており、固定側フランジ11cには、ねじ孔に対応した挿通孔が形成されている。挿通孔に通されてねじ孔に螺合するボルト55は、第1実施形態に係るボルトと同様の構成を備えており、ボルト55の軸部にはノッチが形成されている。さらにボルト55の軸部の周囲には形状記憶合金部が装着され、形状記憶合金部の周囲にはヒータ部が装着され、ヒータ部の周囲にはカバー部57が装着されている。ノッチが形成された複数のボルト55、ボルト55に装着された形状記憶合金部及びヒータ部によって接続手段53が形成される。ヒータ部を通電することにより、形状記憶合金部はボルト55の軸線方向に熱膨張し、ボルト55を軸線方向に引っ張る。その結果、ボルト55はノッチで破断する。すべてのボルト55が破断すると、ターゲット装置51は、ビームダクト11から離脱して自然落下し、回収容器43に収容される。
【0041】
第2実施形態に係るターゲット回収装置も、第1実施形態に係るターゲット回収装置2と同様に、ビームダクト11からターゲット装置51と一緒にターゲット6を取り外して容易に回収で、特にターゲットを回収容器43に治めるまでの工程を容易に自動化でき、放射線の被曝を防止しながらターゲット装置51を容易に回収できる。
【0042】
以上、本発明をその実施形態に基づき具体的に説明したが、本発明は、上記実施形態に限定されるものではない。例えば、ターゲット部は中性子減速部の収容室内に収容された状態で加速粒子の照射を受けて中性子を発生する態様に限定されず、ターゲット部が中性子減速部に近接した状態で加速粒子の照射を受けて中性子を発生させ、ターゲット部を回収する際には、ターゲット部を離間させるように中性子減速部を移動させるような形態であってもよい。また、ターゲット部とダクト管とを着脱自在に接続する接続手段は、ボルトとナットとによって固定側フランジと受け側フランジとを締結する構造であってもよい。また、ターゲット部とダクト管との接続を解く態様は遠隔操作や自動制御に限定されず、手動であってもよく、その都度、作業者が台車に載せた回収容器を所定位置に設置してターゲット部の回収を行うようにしてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0043】
【図1】本発明の第1実施形態に係るターゲット回収装置及びBNCT装置の側面図である。
【図2】BNCT装置及びターゲット回収装置の平面図である。
【図3】BNCT装置及びターゲット回収装置の背面図である。
【図4】第1実施形態に係るターゲット回収装置の接続手段を中心に示す斜視図である。
【図5】ボルトによって締結された状態でのクランプチェーンを示す側面図断面図である。
【図6】ボルトによって締結された状態でのクランプチェーンの両端部を拡大して示す断面図である。
【図7】ボルトが破断した状態でのクランプチェーンの両端部を拡大して示す断面図である。
【図8】ボルトが破断した直後のクランプチェーンを示す側面図である。
【図9】中性子減速装置が前進して退避位置に到達し、ターゲット装置が露出した状態を示す斜視図である。
【図10】副接続手段による接続を解いた状態を示す斜視図である。
【図11】主接続手段による接続を解き、ターゲット装置が回収容器に収容された状態を示す斜視図である。
【図12】第2実施形態に係るターゲット回収装置の接続手段を中心に示す斜視図である。
【符号の説明】
【0044】
1…BNCT装置(中性子発生装置)、2…ターゲット回収装置、5c…接続用短管(管部)、5d…受け側フランジ、6…ターゲット(ターゲット部)、7…中性子減速装置(中性子減速部)、8a…収容室、10…LMガイド(駆動手段)、11…ビームダクト、11a,11c…固定側フランジ、13…主接続手段(接続手段)、15…クランプチェーン、19…ボルト(ボルト部)、21…形状記憶合金部(熱膨張部)、23…ヒータ部、43…回収容器(回収部)、45…回収容器駆動手段(回収部駆動手段)、51d…受け側フランジ、53…接続手段、A1…収容位置、A2…退避位置、B1…回収位置、B2…待機位置、P…陽子線(加速粒子)、N…中性子。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
加速粒子が通るダクト管と、ダクト管の終端に接続されると共に、前記加速粒子の照射を受けて中性子を発生するターゲット部と、前記ターゲット部で発生した中性子を減速させる中性子減速部と、を備える中性子発生装置から前記ターゲット部を回収するターゲット回収装置であって、
前記ダクト管に対して前記中性子減速部を相対移動させ、前記ターゲット部を前記中性子減速部から離間させる駆動手段と、
前記ダクト管と前記ターゲット部とを着脱自在に接続する接続手段と、
を備えることを特徴とするターゲット回収装置。
【請求項2】
前記中性子減速部は、前記ターゲット部を収容する収容室を有し、
前記駆動手段は、前記ターゲット部を前記中性子減速部から離間させ、前記収容室内から前記ターゲット部を露出させることを特徴とする請求項1記載のターゲット回収装置。
【請求項3】
前記ターゲット部を前記ダクト管の終端に連結させる管部を更に備え、
前記接続手段は、
前記管部と前記ダクト管の終端とを締結する固定手段と、
熱膨張によって前記固定手段の締結力を緩める熱膨張部と、
前記熱膨張部を加熱するヒータ部と、を有することを特徴とする請求項1または2記載のターゲット回収装置。
【請求項4】
前記ダクト管の終端には固定側フランジが設けられ、
前記管部には、前記固定側フランジに当接する受け側フランジが形成され、
前記固定手段は、前記固定側フランジ及び前記受け側フランジを取り囲むように掛け回されるクランプチェーンと、前記クランプチェーンの両端同士を締結するボルト部とを有し、
前記熱膨張部は、前記ボルト部の周囲に装着されると共に、熱膨張して前記ボルト部を軸方向に引っ張ることで前記ボルト部の締結力を緩めることを特徴とする請求項3記載のターゲット回収装置。
【請求項5】
前記接続手段による接続を解いた後の前記ターゲット部を回収する回収部と、
前記回収部を移動可能に保持する回収部駆動手段と、を更に備え、
前記中性子減速部は、前記収容室内で前記ターゲット部を収容している収容位置と、前記収容室内から前記ターゲット部を露出させた退避位置との間を移動可能であり、
前記回収部駆動手段は、前記中性子減速部が前記収容位置にある場合には、前記中性子減速部から外れた待機位置にて前記回収部を保持し、前記中性子減速部が前記退避位置にある場合には、前記ターゲット部の鉛直下方である回収位置にて前記回収部を保持することを特徴とする請求項2記載のターゲット回収装置。
【請求項1】
加速粒子が通るダクト管と、ダクト管の終端に接続されると共に、前記加速粒子の照射を受けて中性子を発生するターゲット部と、前記ターゲット部で発生した中性子を減速させる中性子減速部と、を備える中性子発生装置から前記ターゲット部を回収するターゲット回収装置であって、
前記ダクト管に対して前記中性子減速部を相対移動させ、前記ターゲット部を前記中性子減速部から離間させる駆動手段と、
前記ダクト管と前記ターゲット部とを着脱自在に接続する接続手段と、
を備えることを特徴とするターゲット回収装置。
【請求項2】
前記中性子減速部は、前記ターゲット部を収容する収容室を有し、
前記駆動手段は、前記ターゲット部を前記中性子減速部から離間させ、前記収容室内から前記ターゲット部を露出させることを特徴とする請求項1記載のターゲット回収装置。
【請求項3】
前記ターゲット部を前記ダクト管の終端に連結させる管部を更に備え、
前記接続手段は、
前記管部と前記ダクト管の終端とを締結する固定手段と、
熱膨張によって前記固定手段の締結力を緩める熱膨張部と、
前記熱膨張部を加熱するヒータ部と、を有することを特徴とする請求項1または2記載のターゲット回収装置。
【請求項4】
前記ダクト管の終端には固定側フランジが設けられ、
前記管部には、前記固定側フランジに当接する受け側フランジが形成され、
前記固定手段は、前記固定側フランジ及び前記受け側フランジを取り囲むように掛け回されるクランプチェーンと、前記クランプチェーンの両端同士を締結するボルト部とを有し、
前記熱膨張部は、前記ボルト部の周囲に装着されると共に、熱膨張して前記ボルト部を軸方向に引っ張ることで前記ボルト部の締結力を緩めることを特徴とする請求項3記載のターゲット回収装置。
【請求項5】
前記接続手段による接続を解いた後の前記ターゲット部を回収する回収部と、
前記回収部を移動可能に保持する回収部駆動手段と、を更に備え、
前記中性子減速部は、前記収容室内で前記ターゲット部を収容している収容位置と、前記収容室内から前記ターゲット部を露出させた退避位置との間を移動可能であり、
前記回収部駆動手段は、前記中性子減速部が前記収容位置にある場合には、前記中性子減速部から外れた待機位置にて前記回収部を保持し、前記中性子減速部が前記退避位置にある場合には、前記ターゲット部の鉛直下方である回収位置にて前記回収部を保持することを特徴とする請求項2記載のターゲット回収装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【公開番号】特開2009−204428(P2009−204428A)
【公開日】平成21年9月10日(2009.9.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−46633(P2008−46633)
【出願日】平成20年2月27日(2008.2.27)
【出願人】(000002107)住友重機械工業株式会社 (2,241)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成21年9月10日(2009.9.10)
【国際特許分類】
【出願日】平成20年2月27日(2008.2.27)
【出願人】(000002107)住友重機械工業株式会社 (2,241)
【Fターム(参考)】
[ Back to top ]