説明

タービンの設計手法及びタービンの製造方法

【課題】動翼に作用する非定常力を低減し、かつ、性能の低下やロータ軸長の増大を防ぐことが可能なタービン段落構造を容易に構築することが可能なタービン設計方法を提供する。
【解決手段】粘性解析(21)及び非粘性解析(22)によってそれぞれ動翼に作用する非定常力及びポテンシャル干渉による励振力を複数の静動翼間距離について求め、粘性解析結果と非粘性解析結果の差から動翼に作用するウェイク干渉による励振力を求め、ポテンシャル干渉及びウェイク干渉による励振力をそれぞれ静動翼間距離の関数として数式化(23)し、数式化したポテンシャル干渉及びウェイク干渉による励振力に基づき、静動翼間距離が任意の値のときの、動翼に作用する非定常力を算出(24)し、算出結果に基づき静動翼間距離を決定(30)する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、タービンの設計手法及びタービンの製造方法に係り、特に、蒸気タービンやガスタービン等のターボ機械における静翼及び動翼から構成されるタービン段落の設計方法に関する。
【背景技術】
【0002】
軸流タービンは、ケーシング内に、ロータと複数の動翼及び静翼とを備えている。静翼は、ガスや蒸気などの流体のもつ熱エネルギを運動エネルギに変換し動翼を回転させるものである。ステータに組込まれた静翼と、ロータ溝に植込まれた動翼とは、タービン段落を構成する。
【0003】
タービン段落における静翼は、下流に位置する動翼に対して、圧力場や速度場(ノズルウェイク)の周期的な時間変動を生じさせる。これが非定常力となって動翼に作用する。このとき、動翼は静翼本数に回転数を乗じた振動数で励振される。一般的に、圧力場の変動を励起する干渉はポテンシャル干渉、速度場の変動を励起する干渉はウェイク干渉という。蒸気タービンの高圧段、および中圧段では、動翼に作用する非定常力の主成分は、ポテンシャル干渉とウェイク干渉である。この二つの干渉の相互作用で生じる非定常力をNPF(Nozzle Passing Frequency)励振力という。NPF励振力によって動翼が壊れないように設計することが重要である。
【0004】
動翼に作用するNPF励振力は、静翼と動翼の軸方向距離や、静翼の大きさで変化することが知られている。ポテンシャル干渉とウェイク干渉、それぞれの干渉による励振力は、静翼後縁端部と動翼前縁端部の軸方向距離、すなわち静動翼間距離が短くなると増大する傾向があることは知られている。しかし、ポテンシャル干渉とウェイク干渉の和であるNPF励振力は、ポテンシャル干渉とウェイク干渉の位相の組み合わせによって、静動翼間距離に対して単調な変化とならないことも分かっている。現象が複雑であるため、NPF励振力はCFD(Computational Fluid Dynamics)の非定常計算によって直接求める場合が多い。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第3886584号
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】M. v. Hoyningen-Huene, J. Hermeler, Time-Resolved Numerical Analysis of the 2-D Aerodynamics in the First Stage of an Industrial Gas Turbine for Different Vane-Blade Spacings, ASME, 99-GT-102, pp1-12 (1999)
【非特許文献2】T.Korakianitis, On the Prediction of Unsteady Forces on Gas Turbine Blades:Part 1&2 Description of the Approach:Transactions of the ASME, Vol.114, pp.114-131 (1992)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
NPF励振力はCFDの非定常計算によって直接求める場合が多いが、計算には時間がかかる。また、静動翼間距離とNPF励振力の定量的な関係を得ようとすると、CFDで数多く計算し、その点を結んでプロットする以外に方法はない。しかし、この手法では計算に時間がかかり、規則性が分からないため、計算回数を減らすと、静動翼間距離に対するNPF励振力の変化の傾向を知ることができる程度であり、任意の静動翼間距離におけるNPF励振力を定量的に予測することが難しい。そのため、非定常力を定められた閾値以下としながら、静動翼間距離や静翼の大きさを柔軟に変更することは設計上困難である。
【0008】
また、任意の一つの動翼においても、ポテンシャル干渉とウェイク干渉、それぞれの励振力の大きさは、翼高さ位置によって異なる。そのため、翼先端部、翼中央部、翼根元部で、静動翼間距離に対するNPF励振力の大きさや傾向は異なる。従って、NPF励振力を効果的に低減させるためには、翼高さ位置の傾向の違いを考慮する必要があり、更に、計算時間が増加する。
【0009】
一方、静動翼間距離を短くすると、側壁の摩擦損失が抑制されるため、性能向上が期待できる。また、蒸気タービンのような多段タービンでは、各段落における静動翼間距離はロータの長さに影響するため、静動翼間距離の短縮はロータ長の短縮に寄与し、ロータ剛性を高める効果が期待できる。
【0010】
翼設計における静動翼間距離の決定法については、例えば、ポテンシャル干渉とウェイク干渉の位相を用いて、各干渉の励振力が極力小さくなるような位相、静動翼間距離を選択する手法がある(非特許文献1)。この手法では、ポテンシャル干渉による励振力とウェイク干渉による励振力を極力小さくすることができるが、各干渉の励振力の大きさの違いを考慮することは困難である。そのため、必要以上に長い静動翼間距離を採用する場合があり、これは性能の低下やロータ軸長の増大の原因となる。また、各干渉による励振力の振幅が定量的に把握されていない場合に本手法を用いると、NPF励振力を過小に見積もる可能性もある。
【0011】
ポテンシャル干渉による励振力とウェイク干渉による励振力をCFDで求める手法は、例えば動翼をモデルにして二次元非定常解析をする手法がある(非特許文献2)。この手法では、動翼上流側の条件として、ポテンシャル干渉のみの解析では周方向に周期的な圧力変動場を与え、ウェイク干渉のみの解析では静動翼間距離とともに減衰する速度欠損流れを与えている。両干渉を合成したNPF励振力を評価する場合、各干渉における解析条件を動翼上流に同時に与える。この手法の課題は各干渉における条件が明確になっていなければ利用できないことと、静翼形状を考慮した計算ができないことである。
【0012】
設計上、NPF励振力によって翼が壊れないようにするには、NPFから十分離調した静翼を採用するのが簡便である。この手法は、採用可能な静翼本数に制限を設ける方法であるため、離調結果によっては、性能を劣化させる静翼や軸方向に長い静翼の採用を余儀なくされる場合がある。NPF励振力が過大にならないように、静動翼間距離や静翼の大きさをあらかじめ制限する設計手法もある。例えば特許文献1では静動翼間距離が所定の値以下とならないような静翼構造を規定している。しかし、特許文献1では、静動翼間距離や静翼の大きさをそれぞれ単独で評価するため、他の因子の効果を定量的に考慮できないことから、NPF励振力が過大に評価されやすい。このとき、必要以上に大きい静翼の採用や、必要以上に長い軸方向間距離の採用をせざるをえないことがある。また、特許文献1は翼高さ方向のNPF励振力の傾向の違いを考慮していない。
【0013】
以上をまとめると、CFDによりNPF励振力を直接算出してNPF励振力を定められた閾値以下となるように設計する方法では計算時間がかかり現実的ではなく、また、他の設計手法では、NPF励振力を定められた閾値以下とするとき、必要以上に大きいノズルや静動翼間距離を採用する場合があり、これらは性能低下やロータ軸長の増大を招く可能性がある。
【0014】
また、上述の課題は、下流側のタービン段落の静翼に作用する非定常力、BPF(Bucket Passing Frequency)励振力を定められた閾値以下となるように設計する方法についても同様である。
【0015】
本発明の目的は、動翼または静翼に作用する非定常力(NPF励振力またはBPF励振力)を低減し、かつ、性能の低下やロータ軸長の増大を防ぐことが可能なタービン段落構造を容易に構築することが可能なタービン設計方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明は、上記課題を解決するため、翼基本形状が決定された静翼と動翼のモデルを用いて粘性解析及び非粘性解析によってそれぞれ動翼に作用する非定常力及びポテンシャル干渉による励振力を複数の静動翼間距離について求め、粘性解析結果と非粘性解析結果の差から動翼に作用するウェイク干渉による励振力を複数の静動翼間距離について求め、求められたポテンシャル干渉及びウェイク干渉による励振力に基づきポテンシャル干渉による励振力とウェイク干渉による励振力を静動翼間距離の関数として数式化し、数式化したポテンシャル干渉及びウェイク干渉による励振力に基づき、静動翼間距離が任意の値のときの、動翼に作用する非定常力を予測し、予測した動翼に作用する非定常力に基づき、動翼に作用する非定常力が定められた閾値よりも小さくなるように、静動翼間距離を決定することを特徴とする。
【0017】
また、静動翼間距離に替えて動翼と静翼の本数比又はコード長比を因子としてポテンシャル干渉による励振力とウェイク干渉による励振力を数式化し、動翼と静翼の本数比又はコード長比を決定する。
【0018】
また、同一タービン段落の静翼と動翼に替えて、上流側のタービン段落の動翼と下流側のタービン段落の静翼との間の関係として、動静翼間距離や動翼と静翼の本数比又はコード長比を決定する。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、タービン設計において、動翼又は静翼に作用する非定常力(NPF励振力又はBPF励振力)を低減し、かつ、性能の低下やロータ軸長の増大を防ぐことが可能なタービン段落構造を容易に構築することができる。
【0020】
例えば、タービン段落における静翼と動翼の軸方向距離である静動翼間距離について、不必要に翼性能を低下させたり、ロータ軸長を増加させることなく、動翼に作用するNPF励振力が定められた閾値以下となる静動翼間距離を容易に決定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本発明の一実施例であるタービン段落の設計手法を説明する図。
【図2】本発明が適用されるタービン段落の概略構成を示す断面図。
【図3(a)】ある翼高さの断面におけるポテンシャル干渉とウェイク干渉における励振力の振幅を数式化したグラフ。
【図3(b)】ある翼高さの断面におけるポテンシャル干渉とウェイク干渉における励振力の位相を数式化したグラフ。
【図4(a)】ポテンシャル干渉による励振力(周方向力)と静動翼間距離の関係の一例を示すグラフ。
【図4(b)】ポテンシャル干渉による励振力(軸方向力)と静動翼間距離の関係の一例を示すグラフ。
【図5(a)】ウェイク干渉による励振力(周方向力)と静動翼間距離の関係の一例を示すグラフ。
【図5(b)】ウェイク干渉による励振力(軸方向力)と静動翼間距離の関係の一例を示すグラフ。
【図6(a)】翼先端部におけるNPF励振力と静動翼間距離の関係の一例を示すグラフ。
【図6(b)】翼中央部におけるNPF励振力と静動翼間距離の関係の一例を示すグラフ。
【図6(c)】翼根元部におけるNPF励振力と静動翼間距離の関係の一例を示すグラフ。
【図7】本発明が適用されるタービン静翼の一例の断面図。
【図8】CFD非定常計算に用いられるタービン静翼の一例の断面図。
【図9】CFD非定常計算に用いられるタービン静翼の他の一例の断面図。
【図10】NPF励振力と動静翼本数比の関係の一例を示すグラフ。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、図面を用いて、本発明の実施例を説明する。本発明は、蒸気タービンやガスタービン等におけるタービン段落(タービン静翼とタービン動翼の対)に適用可能なものであるが、以下の説明では蒸気タービンのタービン段落に適用した場合の実施例について説明する。また、後述のように、本発明は、タービン動翼が次のタービン段落のタービン静翼に作用する非定常力(BPF(Bucket Passing Frequency)励振力)を生じさせる場合(動翼後縁端部と静翼前縁端部の動静翼間距離の設計)にも適用可能である。さらには、静翼-動翼-静翼といった1.5段や、複数段を対象としても良い。
【0023】
図2に本発明が適用されるタービン段落の一例を示す。図2は概略構成を示す断面図である。車室内壁(ステータ)2に固定された静翼Nの後流側に、ロータ3に植込まれた動翼Bが配置される。タービンには、静翼Nと動翼Bから構成されるタービン段落が複数設置されている。静動翼間距離dは、静翼Nの翼部Bnの後縁端aと動翼Bの翼部Bbの前縁端bのロータ軸方向Xの距離である。静動翼間距離dは、従来、翼高さ方向Zに向かって、翼先端部tから翼根元部rまで同値となるように構成されているものや、翼高さ方向Zに向かって、翼根元部rから翼先端部tに向かって増大するように構成されているものなどがある。以下、タービン段落における静動翼間距離dの決定方法を中心に説明する。
【0024】
図1は、本発明の一実施例であるタービン段落の設計手法を説明するフロー図である。翼形状を決定する第一工程10と、NPF励振力を算出する第二工程20、静動翼間距離を決定する第三工程30で構成される。
【0025】
第一工程10は仕様の決定11と翼基本形状の決定12で構成される。仕様の決定11では設計対象のタービンの仕様、即ち環境条件を決める。次に、翼基本形状の決定12では定められた環境条件下において、性能を達成し、蒸気の曲げや遠心引張に耐えられる構造となるように、翼の基本形状を決定する。この第一工程10は、基本的には従来と同様であり、詳細な説明を省略する。
【0026】
第一工程10によって決定した静翼と動翼を用いて、第二工程20では静動翼間距離dとNPF励振力の関係を求め、任意の静動翼間距離dにおけるNPF励振力を算出する。NPF励振力は翼高さ方向において異なるので、第二工程20は、必要な翼高さの数だけ、1〜10ケース程度実施する。
【0027】
第一工程10においてモデル化した静翼と動翼を対象に、CFD(Computational Fluid Dynamics)の非定常計算によって任意の静動翼間距離における粘性解析21と非粘性解析22を実施する。これらの粘性解析21と非粘性解析22は、ポテンシャル干渉による励振力とウェイク干渉による励振力の数式化(静動翼間距離の関数で数式化)が可能となるように、静動翼間距離を変化させて数回を行う。各解析で得た力をフーリエ変換すると、各励振次数における励振力の振幅と位相が得られる。
【0028】
粘性解析21から得られた力はNPF励振力である。部分噴射や排気室近くの段落など、特殊な条件で稼動する段落を除けば、NPF励振力F(t)はポテンシャル干渉の力とウェイク干渉の力の和であり、式(1)で表せる。
【0029】
(t)=Asin(ωt+α)
=Asin(ωt+α)+Asin(ωt+α) (1)
ここで、Aは振幅、ωは角速度、tは時間、αは位相を示し、また、振幅Aと位相αの添字は、pはポテンシャル干渉による成分、wはウェイク干渉による成分、NはNPF励振力の成分を示す。
【0030】
非粘性解析22から得られた力はポテンシャル干渉による励振力F(t)(=Asin(ωt+α))であるとみなせるため、ウェイク干渉による励振力F(t)(=Asin(ωt+α))は、粘性解析によって得た力(=Asin(ωt+α)+Asin(ωt+α))から非粘性解析によって得た力(=Asin(ωt+α))を引くことで得られる。これによって任意の静動翼間距離における各干渉の励振力の振幅と位相が得られる。静動翼間距離を変化させて解析を数回行い、図3(a)及び図3(b)のようにグラフ化する。尚、図3(a)及び図3(b)において、横軸(x)は静動翼間距離を静翼コード長で除して無次元化している。励振力の振幅について、図3(a)からも分かるように、ポテンシャル干渉は指数近似することができ、ウェイク干渉は累乗近似することができる。また、図3(b)からも分かるように、位相については、干渉の種類によらず線形近似することができる。このようにグラフ化することによって、ポテンシャル干渉の振幅Aと位相α及びウェイク干渉の振幅Aと位相αについて、静動翼間距離を因子とする関数で数式化する(図3(a)及び図3(b)における数式のh、j、m、n、k、l、k、lの数値を特定する)。以上の作業により、任意の翼高さにおけるポテンシャル干渉による励振力とウェイク干渉による励振力の数式化23が可能となる(静動翼間距離の関数で数式化できる。)。
【0031】
次に、任意の静動翼間距離におけるNPF励振力の算出24を行う。NPF励振力はポテンシャル干渉による励振力とウェイク干渉による励振力の和であることから、数式化23で得た数式若しくは図3(a)及び図3(b)のグラフに基づき任意の静動翼間距離(CFDによる解析をしていない静動翼間距離を含む任意の静動翼間距離)におけるポテンシャル干渉による励振力F(t)とウェイク干渉による励振力F(t)を求め、求められたポテンシャル干渉による励振力F(t)とウェイク干渉による励振力F(t)を加算することにより任意の静動翼間距離におけるNPF励振力の算出24を行う。
【0032】
また、任意の静動翼間距離におけるA、A、α、αを、図3(a)及び図3(b)のグラフ若しくは数式から求め、式(1)におけるAとαを下記式(2)及び(3)から求めて、式(1)に基づき任意の静動翼間距離におけるNPF励振力F(t)を算出することができる。
【0033】
=√{(Acosα+Acosα)+(Asinα+Asinα)} (2)
α=tan−1{(Asinα+Asinα)/(Acosα+Acosα)} (3)
以上の第二工程20を、翼高さを変えて実施する。本実施例では、翼根元部r、翼中央部p、翼先端部tにおける静動翼間距離dとNPF励振力の関係を求めている。
【0034】
図4(a)及び図4(b)は、翼根元部r、翼中央部p、翼先端部tのそれぞれについて、上述の数式化23に基づき得られたポテンシャル干渉による励振力と静動翼間距離dの関係の一例を図示したものである。横軸は静動翼間距離を静翼コード長で除して無次元化している。また、周方向力(図4(a))と軸方向力(図4(b))に分けて図示している(解析によって得られた翼面上の圧力(励振力)は、翼面法線方向にかかる力として周方向力(=FT)と軸方向力(=FA)に分解でき、これらを積分すると翼に作用する合力としての周方向力と軸方向力が求まる。)。図4(a)及び図4(b)から分かるように、静動翼間距離dが小さくなると、ポテンシャル干渉による励振力は、指数関数的に大きくなる特徴がある。
【0035】
図5(a)及び図5(b)は、翼根元部r、翼中央部p、翼先端部tのそれぞれについて、上述の数式化23に基づき得られたウェイク干渉による励振力と静動翼間距離dの関係の一例を図示したものである。静動翼間距離dが小さくなると、ウェイク干渉による励振力は、累乗関数的に大きくなる特徴がある。
【0036】
次に、静動翼間距離の決定30を図6(a)、図6(b)及び図6(c)に基づき説明する。図6(a)、図6(b)及び図6(c)は、それぞれ上述のNPF励振力の算出24に基づき得られたNPF励振力と静動翼間距離dの関係の一例を図示したものである。図6(a)は翼先端部tの翼断面におけるNPF励振力と静動翼間距離dの関係、図6(b)は翼中央部pの翼断面におけるNPF励振力と静動翼間距離dの関係、及び図6(c)は翼根元部rの翼断面におけるNPF励振力と静動翼間距離dの関係をそれぞれ示す。横軸は静動翼間距離を静翼コード長で除して無次元化している。縦軸は閾値Vで無次元化している。閾値Vは動翼破損限界値(許容値)に相当する。また、周方向力FTと軸方向力FAに分けて図示している。NPF励振力は静動翼間距離dに対して数値的に複雑に変化し、その大きさや傾向は翼高さ方向で異なる。
NPF励振力を周方向力FT、軸方向力FAともに閾値V以下とするには、静動翼間距離dを図の矢印で示した範囲に設定する必要がある。翼高さ方向において静動翼間距離dを同じにする場合には、このケースでは、0.3〜0.4の範囲とする必要がある。性能向上等を図るためには、静動翼間距離を短くすることが有効である。このため、翼高さ方向において静動翼間距離dを変えて、それぞれにおいて可能な限り静動翼間距離dを小さくすることが有効である。このケースでは、静動翼間距離dを翼先端部tにおいて最も短くし、翼根元部rで最も長くなるように決定する。これにより、NPF励振力が所定の閾値以下となる最短の静動翼間距離を決定することができる。
【0037】
従来でもCFDの非定常計算によってNPF励振力を算出することができるが、最適な静動翼間距離を決定することは容易ではない。即ち、NPF励振力はポテンシャル干渉による励振力とウェイク干渉による励振力と異なり、図6(a)、図6(b)及び図6(c)のように複雑に変化し、規則性が分からない。静動翼間距離を変化させて多数計算してNPF励振力をプロットすることにより静動翼間距離に対するNPF励振力の変化の傾向を知ることができるが、この手法では計算に時間がかかることと、任意の静動翼間距離におけるNPF励振力を定量的に予測することが難しい。本実施例では、ポテンシャル干渉による励振力とウェイク干渉による励振力を静動翼間距離の関数で数式化し、これらに基づき任意の静動翼間距離におけるNPF励振力を算出することができる。言い換えれば、従来では不可能であったNPF励振力を一般化することができる。従って、本実施例では、各条件におけるNPF励振力を直接計算する手法に比べると、計算時間を大幅に短縮することができる上に、任意の静動翼間距離におけるNPF励振力を定量的に予測することができ、その結果、容易に最適な静動翼間距離を決定することが可能となる。尚、静動翼間距離の決定を、上述の説明では、図6(a)、図6(b)及び図6(c)のように、NPF励振力と静動翼間距離の関係をグラフ化した上で行っているが、任意の静動翼間距離のNPF励振力を求め、それが所定の閾値以下となるかどうかを確認しながら行うようにしても良い。
【0038】
上述の第二工程20と第三工程30は、静動翼間距離を決定する必要がある各段落に対して実施する。
【0039】
本発明の他の実施例を説明する。
【0040】
図7は本発明が適用されるタービン静翼の一例である翼断面を示す。通常、静翼Nの後縁端部aは丸い円弧形状である。ウェイク干渉の効果を無視できないタービン段落を設計対象とするとき、静翼の後縁端部が丸いと、図1の非粘性解析22においてウェイクが生成されるため、ポテンシャル干渉による励振力をCFDによって得ることができない場合がある。そのため、本実施例では、ポテンシャル干渉による励振力をCFD(非粘性解析22)によって得られるように、CFD非定常計算に用いられるタービン静翼を工夫している。
【0041】
図8は、本実施例においてCFD非定常計算に用いられるタービン静翼の翼断面を示す。本実施例では、図7に示す静翼の後縁端形状(厚み等)を変更せずに翼腹側面及び翼背側面を延長して後縁端部aが鋭く尖った形状となるようにしている。静翼Nの後縁端部aが鋭く尖っているとき、ウェイク干渉の効果を無視できないタービン段落が設計対象となる場合でも、図1の非粘性解析22においてウェイクの生成が抑制されるため、ポテンシャル干渉による励振力をCFDによって得ることができる。尚、この場合、図1の粘性解析21も同様の翼モデルで計算を行い、粘性解析21の結果から非粘性解析22の結果を差し引くことでウェイク干渉の励振力を求める。
【0042】
図9はCFD非定常計算に用いられるタービン静翼の他の例の翼断面を示す。本実施例では、静翼Nのノズルコード長は変えずに、後縁端厚みを図7に比べて小さくしている。ウェイク干渉の効果を無視できないタービン段落が設計対象となる場合でも、静翼Nの後縁端厚みを薄くすることで、図8の実施例と同様に、図1の非粘性解析22においてウェイクが生成されないため、ポテンシャル干渉による励振力をCFDによって得ることができる。計算対象の静翼の後縁端部の厚みを、元の静翼に比べて25%以下に小さくするとウェイクの生成を抑制できる。後縁端部の厚みを小さくするためには、例えば静翼の腹側において、中央部から後縁端部にかけての翼厚みを小さくし、当該部分の流れが基のノズルと同様のものとなるようにするなどの工夫を行っている。
【0043】
本発明の他の実施例を説明する。上述の実施例では、静動翼間距離を因子とする関数でNPF励振力を数式化しているが、他の因子の関数で数式化することも可能である。
【0044】
図10はNPF励振力と動翼・静翼の本数比との関係の一例を図示したものである。横軸が大きくなると、動翼に対して、静翼は相対的に大きい、または翼本数が少なくなる。このとき、ノズル後縁から生じるウェイクが大きくなるため、NPF励振力は大きくなりやすい。しかし、NPF励振力はポテンシャル干渉とウェイク干渉の相互作用で生じるため、図10のように、動翼・静翼の本数比とNPF励振力の関係は単調なものとはならないことが分かっている。本実施例では、動翼・静翼の本数比を因子として、図1に示す実施例と同様な手順で、ポテンシャル干渉による励振力とウェイク干渉による励振力を単独で得て、足し合わせると、任意の動翼・静翼の本数比におけるNPF励振力を予測可能となる。離調すべき各モード(周方向、軸方向、ねじり方向)のNPF離調範囲を考慮し、NPF励振力が閾値V以下となる動翼・静翼の本数比を選択すればよい。尚、静動翼間距離を因子とする場合と異なり、NPF励振力が閾値V以下となる動翼・静翼の本数比は、翼根元部r、翼中央部p、翼先端部tにおいて同値を選択する。
【0045】
上述の実施例において、動翼・静翼の本数比に替えて、動翼・静翼のコード長比を因子として、任意の動翼・静翼のコード長比におけるNPF励振力を予測するようにしても良い。離調すべき各モードのNPF離調範囲を考慮し、NPF励振力が閾値V以下となる動翼・静翼のコード長比を選択する。
【0046】
また、上述の実施例では、静動翼間距離、動翼・静翼の本数比またはコード長比を因子としてNPF励振力を数式化し、静動翼間距離、動翼・静翼の本数比またはコード長比を決定する方法を示したが、その他の因子でもNPF励振力の数式化は可能である。NPF励振力を低減でき、翼設計を素早く効果的に実施可能となるのであれば、その他の因子を対象にして数式化をしてもよい。
【0047】
また、上述の実施例では、動翼に作用する非定常力、NPF励振力を対象とした設計方法を説明したが、下流側のタービン段落の静翼に作用する非定常力、BPF(Bucket Passing Frequency)励振力についても同様の方法で予測でき、上流側のタービン段落の動翼後縁端部と下流側のタービン段落の静翼前縁端部の軸方向距離、動静翼間距離の設計に適用することも可能である。
【0048】
また、本発明を適用する解析モデルは、静翼と動翼が一対のもの(1段落)を考えているが、静翼-動翼-静翼といった1.5段や、複数段でも同様に検討可能である。
【0049】
以上の本発明に基づき、タービン段落における静動翼間距離や動静翼間距離などを設計することにより、不必要に翼性能を低下させたり、ロータ軸長を増加させることなく、動翼に作用するNPF励振力や静翼に作用するBPF励振力を素早く効果的に定められた閾値以下とすることができる。そして、本発明の設計方法により設計したタービン段落に基づきタービンを製造することにより、NPF励振力又はBPF励振力が過大とならず、また、翼性能を向上し、ロータ軸長を短くしたタービンを実現することができる。
【符号の説明】
【0050】
X…軸方向、Z…半径方向、2…車室内壁(ステータ)、3…ロータ、N…静翼、Bn…静翼翼部、a…静翼後縁端、B…動翼、Bb…動翼翼部、b…動翼前縁端、d…静動翼間距離、p…翼中央部、r…翼根元部、t…翼先端部、A…ポテンシャル干渉による励振力の振幅、A…ウェイク干渉による励振力の振幅、α…ポテンシャル干渉による励振力の位相、α…ウェイク干渉による励振力の位相、FT…周方向力、FA…軸方向力、V…閾値。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
静翼と動翼から構成されるタービン段落における前記静翼の後縁端部と前記動翼の前縁単部の軸方向距離である静動翼間距離を決定するタービンの設計方法であって、
翼基本形状が決定された静翼と動翼のモデルを用いて粘性解析によって前記動翼に作用する非定常力を複数の前記静動翼間距離について求め、
前記モデルを用いて非粘性解析によって前記動翼に作用するポテンシャル干渉による励振力を前記複数の静動翼間距離について求め、
前記粘性解析の結果と前記非粘性解析の結果の差から前記動翼に作用するウェイク干渉による励振力を前記複数の静動翼間距離について求め、
求められた前記複数の静動翼間距離についての前記ポテンシャル干渉による励振力及び前記ウェイク干渉による励振力に基づき前記ポテンシャル干渉による励振力と前記ウェイク干渉による励振力を前記静動翼間距離の関数として数式化し、
前記数式化したポテンシャル干渉による励振力及び前記ウェイク干渉による励振力に基づき、前記静動翼間距離が任意の値のときの、前記動翼に作用する非定常力を予測し、
前記予測した動翼に作用する非定常力に基づき、前記動翼に作用する非定常力が定められた閾値よりも小さくなるように、前記静動翼間距離を決定することを特徴とするタービンの設計手法。
【請求項2】
請求項1において、前記モデルにおける前記静翼として後縁端が鋭く尖った静翼を用いて前記粘性解析及び前記非粘性解析を行うことを特徴とするタービンの設計手法。
【請求項3】
請求項1において、前記モデルにおける前記静翼として後縁端出口厚みを前記翼基本形状が決定された静翼に比べて25%以下になるように後縁部分を薄くした静翼を用いて前記粘性解析及び前記非粘性解析を行うことを特徴とするタービンの設計手法。
【請求項4】
静翼と動翼から構成されるタービン段落における前記動翼と前記静翼の本数比又はコード長比を決定するタービンの設計方法であって、
翼基本形状が決定された静翼と動翼のモデルを用いて粘性解析によって前記動翼に作用する非定常力を複数の前記本数比又はコード長比について求め、
前記モデルを用いて非粘性解析によって前記動翼に作用するポテンシャル干渉による励振力を前記複数の本数比又はコード長比について求め、
前記粘性解析の結果と前記非粘性解析の結果の差から前記動翼に作用するウェイク干渉による励振力を前記複数の本数比又はコード長比について求め、
求められた前記複数の本数比又はコード長比についての前記ポテンシャル干渉による励振力及び前記ウェイク干渉による励振力に基づき前記ポテンシャル干渉による励振力と前記ウェイク干渉による励振力を前記本数比又はコード長比の関数として数式化し、
前記数式化したポテンシャル干渉による励振力及び前記ウェイク干渉による励振力に基づき、前記本数比又はコード長比が任意の値のときの、前記動翼に作用する非定常力を予測し、
前記予測した動翼に作用する非定常力に基づき、前記動翼に作用する非定常力が定められた閾値よりも小さくなるように、前記本数比又はコード長比を決定することを特徴とするタービンの設計手法。
【請求項5】
静翼と動翼から構成されるタービン段落を複数有し、上流側のタービン段落の動翼の後縁単部と下流側のタービン段落の静翼の前縁端部との軸方向距離である動静翼間距離を決定するタービンの設計方法であって、
翼基本形状が決定された動翼と静翼のモデルを用いて粘性解析によって前記静翼に作用する非定常力を複数の前記動静翼間距離について求め、
前記モデルを用いて非粘性解析によって前記静翼に作用するポテンシャル干渉による励振力を前記複数の動静翼間距離について求め、
前記粘性解析の結果と前記非粘性解析の結果の差から前記静翼に作用するウェイク干渉による励振力を前記複数の動静翼間距離について求め、
求められた前記複数の動静翼間距離についての前記ポテンシャル干渉による励振力及び前記ウェイク干渉による励振力に基づき前記ポテンシャル干渉による励振力と前記ウェイク干渉による励振力を前記動静翼間距離の関数として数式化し、
前記数式化したポテンシャル干渉による励振力及び前記ウェイク干渉による励振力に基づき、前記動静翼間距離が任意の値のときの、前記静翼に作用する非定常力を予測し、
前記予測した静翼に作用する非定常力に基づき、前記静翼に作用する非定常力が定められた閾値よりも小さくなるように、前記動静翼間距離を決定することを特徴とするタービンの設計手法。
【請求項6】
静翼と動翼から構成されるタービン段落を複数有し、上流側のタービン段落の動翼と下流側のタービン段落の静翼の本数比又はコード長比を決定するタービンの設計方法であって、
翼基本形状が決定された動翼と静翼のモデルを用いて粘性解析によって前記静翼に作用する非定常力を複数の前記本数比又はコード長比について求め、
前記モデルを用いて非粘性解析によって前記静翼に作用するポテンシャル干渉による励振力を前記複数の本数比又はコード長比について求め、
前記粘性解析の結果と前記非粘性解析の結果の差から前記静翼に作用するウェイク干渉による励振力を前記複数の本数比又はコード長比について求め、
求められた前記複数の本数比又はコード長比についての前記ポテンシャル干渉による励振力及び前記ウェイク干渉による励振力に基づき前記ポテンシャル干渉による励振力と前記ウェイク干渉による励振力を前記本数比又はコード長比の関数として数式化し、
前記数式化したポテンシャル干渉による励振力及び前記ウェイク干渉による励振力に基づき、前記本数比又はコード長比が任意の値のときの、前記静翼に作用する非定常力を予測し、
前記予測した静翼に作用する非定常力に基づき、前記静翼に作用する非定常力が定められた閾値よりも小さくなるように、前記本数比又はコード長比を決定することを特徴とするタービンの設計手法。
【請求項7】
請求項1〜6の何れか1項に記載の設計方法を用いて製造することを特徴とするタービンの製造方法。
【請求項8】
静翼と動翼から構成されるタービン段落における前記動翼又は静翼に作用する非定常力の計算方法であって、
翼基本形状が決定された静翼と動翼のモデルを用いて粘性解析によって前記動翼又は静翼に作用する非定常力を因子の値を変えて複数の値について求め、
前記モデルを用いて非粘性解析によって前記動翼又は静翼に作用するポテンシャル干渉による励振力を前記複数の値について求め、
前記粘性解析の結果と前記非粘性解析の結果の差から前記動翼又は静翼に作用するウェイク干渉による励振力を前記複数の値について求め、
求められた前記複数の値についての前記ポテンシャル干渉による励振力及び前記ウェイク干渉による励振力に基づき前記ポテンシャル干渉による励振力と前記ウェイク干渉による励振力を前記因数の関数として数式化し、
前記数式化したポテンシャル干渉による励振力及び前記ウェイク干渉による励振力に基づき、前記因数が任意の値のときの、前記動翼又は静翼に作用する非定常力を予測することを特徴とする動翼又は静翼に作用する非定常力の計算方法。

【図1】
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【図2】
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【図3(a)】
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【図3(b)】
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【図4(a)】
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【図4(b)】
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【図5(a)】
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【図5(b)】
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【図6(a)】
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【図6(b)】
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【図6(c)】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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