説明

タービン翼

【課題】場所に応じた所定の冷却要求に適合されているタービン翼を提供する。
【解決手段】冷却管路14を有する羽根板と、該羽根板に沿って延在する前稜12とを備え、冷却管路14が壁部分24により前稜12に対し境界付けられ、かつ前稜12と平行に延びており、壁部分24を衝撃冷却するための手段が設けられている軸流タービン用のタービン翼10であって、壁部分24から、2個以上の栓状の冷却要素18が冷却管路14内部へ突出して延び、これらの冷却要素の長さが、タービン翼の半径方向Rに沿って異なるように構成され、場所に応じた所定の冷却要求に適合している冷却能を有しているタービン翼に関わる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、請求項1の前文に記載のタービン翼に関するものである。
【背景技術】
【0002】
タービン翼は、特にガスタービン用のタービン翼は、作動中に、材料応力の限界を急速に越えるような高温に曝される。これは、特に、高温の燃焼ガス流がタービン翼の翼形部に最初に衝突する入口縁部の周囲領域に対し当てはまる。高温時でもタービン翼を使用することができるようにするため、タービン翼を適切に冷却して該タービン翼がより高度な耐熱性をもつようにすることがすでに従来より知られている。より高度な耐熱性をもつタービン翼を用いると、特に、より高いエネルギー効率を得ることができる。
【0003】
公知の冷却様式は、とりわけ対流冷却、衝突冷却、膜冷却である。対流冷却の場合、冷却空気を翼内部に設けた通路を通じて案内し、放熱させるために対流効果を利用する。衝突冷却の場合には、冷却空気流は内部から翼の内表面に衝突する。このようにして衝突点において非常に優れた冷却作用が可能になるが、しかしながらこの冷却作用は衝突点の狭い範囲と近傍領域とに限定されている。それ故、この種の冷却は、ほとんどの場合、前稜とも呼ばれるタービン翼の入口縁部の冷却に使用される。膜冷却の場合は、冷却空気はタービン翼に設けた開口部を介してタービン翼の内部から外部へ向けて案内される。この冷却空気はタービン翼の周囲を流れて、熱い燃焼ガスと翼表面との間に絶縁層を形成する。上述の複数の冷却様式は、できるだけ効果的な翼冷却を達成するために、適用例に応じて適切に組み合わされる。
【0004】
特許文献1によれば、衝突冷却される翼前稜を有するタービン翼が知られている。この翼は、衝突冷却流路に向いた複数の内側リブと乱流発生器を備えている。ここでは、背側壁と腹側壁とを結合するブリッジ部に衝突冷却開口が設けられており、この開口を通じて冷却空気を内側壁のリブに導くことができる。
【0005】
上述の冷却様式に加えて、乱流器(ほとんどの場合リブの形状で提供されている)のような冷却手段を使用することが非常に普及している。この冷却手段は、タービン翼の内部に延びている対流冷却のための冷却通路内に配置されている。冷却通路内にリブを取り付けると、境界層内部での冷却空気の流れが分離して渦が生じる。このように流れが強制的に阻害されることにより、冷却通路壁と冷却空気との間に温度差が存在すると、熱伝達を向上させることができる。リブを形成することにより、流れは常に、局所的な熱伝達係数を著しく向上させるような新たな「拡張領域」を形成する。公知のリブの寿命は運転温度が高いために制限されており、これは特に公知のリブの基本的な幾何学的形態の結果である。公知のリブの幾何学的形態と関連している熱応力のために内部亀裂が発生し、この内部亀裂はリブの寿命を縮め、よって結局はタービン翼の使用期間をも縮めることになる。
【0006】
作動中に非常に強い熱応力を受けることの多いタービン翼の入口縁部、すなわち前稜を冷却するため、タービン翼の内部に、入口縁部に対し平行に且つその近傍に延びる複数の冷却通路が形成されることが多い。これらの冷却通路には、翼内部に形成される他の冷却通路を通じて冷却空気が供給される。このようにして実現された入口縁部の冷却は、膜冷却される翼においては、ほとんどの場合、入口縁部近傍に延びている冷却通路の内壁の衝突冷却により補完される。タービン翼の膜冷却を行なわない適用例の場合には、冷却通路の内壁に配置される乱流器によって対流冷却を強化する。
【0007】
総じて、現在では、翼を膜冷却する場合も、膜冷却しない場合も、冷却に関しては、特に入口縁部の冷却に関しては、まだ明らかに改善の要求が在る。特に、現在の冷却解決手段は、タービン翼の使用中に形成される不均一な温度分布を考慮していない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】欧州特許出願公開第1473439号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の課題は、膜冷却を行なう場合も行なわない場合も、公知の解決手段に比してより効果的に冷却できて、しかもより長い使用期間を有するタービン翼を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
この課題は、本発明によれば、請求項1の特徴を有するタービン翼により解決される。
【0011】
このタービン翼は、該タービン翼の片側に延びる前稜を有し、この場合冷却通路は前稜に対し壁部分によって境界づけられ、且つこの壁部分から冷却通路内部へ突出して延びる少なくとも1個の冷却要素を有している。なお、この冷却要素は従来の意味での乱流器ではない。
【0012】
したがって、通常熱的に強い応力を受ける前稜を非常に効果的に冷却することができる。壁部分から冷却通路内部へ突き出して延び且つ特に冷却媒体の強い渦流を生じさせる本発明による複数の冷却要素により、壁部分と冷却媒体との間に温度差があると、局所的な熱伝達係数の著しい向上に伴い、熱伝達を著しく向上させることができる。総じて、このようにして、前稜の非常に効果的な冷却と共に、前稜周囲の熱を非常に効果的に逃がすことができる。
【0013】
本発明によれば、衝突冷却のように冷却媒体が最初にぶつかる複数の冷却要素は、栓状に形成されている。栓状に形成された複数の冷却要素は、一方では冷却可能な壁面積を増大させ、他方では衝突冷却が行なわれた後に、特に冷却空気の形態の冷却媒体の非常に強い渦流を生じさせる。この場合、冷却通路の壁と冷却媒体との間に温度差があるときに、このようにして流れを強制的に強く阻害することにより、局所的な熱伝達係数の向上と平行して熱伝達を向上させることができる。
【0014】
さらに、本発明にしたがってこれらの複数の冷却要素を栓状に形成することで、タービン翼の運転中に冷却要素内部に形成される熱応力を最小限にすることができ、その結果内部亀裂が生じることがなく、特にこの場合の熱応力は、公知の乱流器において形成される熱応力よりも著しく小さい。すなわち、本発明によれば、応力状況全体が改善され、公知の解決手段に比べて冷却要素の寿命を著しく向上させることができる。この場合、冷却要素の高寿命により、タービン翼の使用期間または寿命も長くなる。
【0015】
本発明によるタービン翼は、公知の解決手段に比べて、膜冷却が行なわれない場合でも、より高いガス温度に曝すことができる。膜冷却が行なわれる場合には、さらにより高いガス温度が可能である。これから、本発明によるタービン翼をより薄い外壁部で形成することができるという可能性が生じる。
【0016】
本発明によれば、栓状に形成された個々の冷却要素の冷却能力は、適切に構成された長さにより、その冷却要素の周りの場所に応じた所定の冷却需要に適合されている。その周辺の冷却需要が大きい冷却要素は、本発明によれば、周辺の冷却需要が小さい冷却要素よりも長い。個々の冷却要素の長さを長くすることにより、「乱流域」ならびに被冷却表面積が大きくなり、これにより局所的な熱伝達係数が大幅に向上する。
【0017】
本発明の実際的な他の構成では、壁部分は冷却通路側の壁面を有し、少なくとも1個の冷却要素が、或いは、2個以上の冷却要素が、壁面に対し直角に、または、湾曲した壁面に対し直角に、冷却通路内部へ突出している。本発明にしたがって冷却通路の壁面に対し直角な方向に延びることにより、特に前稜の非常に効果的な冷却を伴う、冷却媒体の非常に効果的な渦流が生じる。というのは、本発明によれば、冷却要素の長手方向に対しほぼ直角に向いた冷却媒体がこれらの冷却要素にぶつかることができるからである。
【0018】
本発明の他の有利な構成では、冷却通路は、好ましくは、冷却通路側に湾曲した壁面を有する壁部分によって境界づけられている。この場合、2個以上の冷却要素が設けられ、これらの冷却要素は冷却通路内部に突出して延びる縦方向延在部を有し、そして2個以上の冷却要素は、その縦方向延在部が壁面の湾曲中心に向いている。
【0019】
縦方向延在部が壁面の湾曲中心に向いている複数の冷却要素により、これらの冷却要素に向かって流れてくる冷却媒体の非常に効果的な渦流を得ることができる。特に、本発明によるこの構成により、これらの冷却要素により実現される対流冷却を衝突冷却と非常に効果的に組み合わせることができる。すなわち冷却媒体がこれらの冷却要素に衝突するような流れにし、その結果それぞれの衝突点において非常に高い冷却作用を得ることができ、この冷却作用は、提供されている対流冷却と連動して、本発明によるタービン翼の非常に効果的な冷却を生じさせる。
【0020】
タービン翼は、運転中通常は非常に不均一な温度分布を有しており、この不均一な温度分布は、タービン翼に作用して特にタービン翼の寿命に悪影響する大きな熱的負荷に関連している。したがって、たとえば軸流タービンに使用されるタービン翼に対しては、半径方向に形成される不均一な温度分布が前稜に発生する。本発明にしたがって、好ましくは前稜近傍に延びている冷却通路内部で複数の冷却要素を使用し、該冷却要素の冷却能がその全長にわたってたとえば該冷却要素の周囲にある前稜に対し所定の冷却要求に適合していることにより、たとえば前稜での温度分布は「均一化」される。というのは、本発明によれば、比較的熱い部位で、適切に構成された冷却要素により相対的に強力な冷却が行なわれるからである。或いは、逆の関係が生じるからである。したがって、本発明によるタービン翼は、不均一な温度分布を阻止するように冷却することができ、このことは特に前稜の効果的な冷却の点で有利である。
【0021】
壁部分を衝突冷却するための手段として、冷却通路を部分的に境界づけ壁部分に対向している後壁が設けられ、該後壁に1つまたは複数個の衝突冷却開口部が設けられていると有利である。これらの衝突冷却開口部は、該衝突冷却開口部を貫流する冷却空気噴流が複数の冷却要素へ誘導され、それによって前稜の特に効率的な冷却を達成できるように後壁に位置決めされ、方向づけられているのが好ましい。特に冷却要素の比較的長い縦方向延在部が冷却通路内部へ突出しているため、冷却要素先端部と衝突冷却開口部との間隔を比較的小さくすることができる。これは、冷却通路の流出口断面積が比較的大きい場合でも適用される。したがって、衝突冷却噴流に対し横方向に流れる冷却空気による、すなわち冷却通路に沿って流れる冷却空気による衝突冷却噴流の妨害を確実に回避させることができる。
【0022】
総じて、本発明は、前稜と、冷却空気を貫流させるようにタービン翼内に形成され、少なくとも部分的に前稜に沿って延びている冷却通路と、この冷却通路の縦方向に該冷却通路内部に位置固定して相前後して配置される複数個の冷却要素とを備え、それぞれの冷却要素が該冷却要素の周囲の前記前稜に対する所定の冷却要求に適合している冷却能を有し、この冷却通路が有利には前記前稜に対し平行にタービン翼を貫通するように延びているタービン翼に関わる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】冷却通路内部に配置される複数個の栓状の冷却要素を備えた本発明によるタービン翼の概略横断面図である。
【図2】前稜に沿って切断したタービン翼の縦断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
次に、本発明によるタービン翼の実施形態を添付の図面を用いてより詳細に説明する。
【0025】
図1は、本発明によるタービン翼10の翼板の前部部位をタービン翼の前稜12に対し直角な平らな断面で示した概略断面図である。前記前稜12は入口縁部とも称される。タービン翼10の内部には、前稜12の近傍に、該前稜12に対し平行に延びる冷却通路14が形成され(すなわち軸流タービンの場合には、半径方向に延びる通路14)、該冷却通路は壁部分24によって前稜12に対し境界付けられている。冷却通路14の湾曲した壁面16から複数の栓状の冷却要素18が冷却通路14内に突出しており、これらの冷却要素18はその縦方向延在部が壁面16の湾曲中心に向いている。
【0026】
タービン翼10の後部領域に形成されている他の冷却通路(図示せず)から冷却通路14に冷却空気を衝突冷却可能に供給するため、冷却通路14の後壁20には複数の開口部22が形成されている。
【0027】
図2は、本発明によるタービン翼10の前部部分を前稜12に対し平行な平らな断面で示した他の断面図である。冷却通路14の湾曲した壁面16に形成されている複数の冷却要素18は、湾曲した壁面16から直角に冷却通路14の内部へ突き出ている。図2からわかるように、冷却要素18の長さは半径方向Rにおいて変化している。これは、本発明により、タービン翼10の使用時に前稜12に沿って形成される不均一な温度分布に対抗するためである。すなわち、タービン翼は、特にタービン翼10の前稜12の中心側では前稜12の縁(ふち)領域よりも高い作動温度を有している。この理由から、切頭円錐状の冷却要素18は、縁領域よりも中央領域においてより大きな長さを有している。というのも、上述したように、冷却要素18の長さを大きくすることにより局所的な熱伝達係数を高くすることができ、よって冷却要素18の冷却能を向上させることができるからである。
【0028】
本発明においては、衝突冷却には、開口部22から流出する冷却空気が湾曲した壁面16または冷却要素18に衝突して、そこで局所的に非常に優れた冷却作用を可能にすることが含まれている。本発明によれば、冷却要素18はその縦方向延在部が壁面16の湾曲中心に向けて方向づけられているため、非常に効果的な衝突冷却を提供でき、この衝突冷却と対応する対流冷却との連動で全体的にタービン翼10の非常に効果的な冷却を提供することができる。冷却通路14はタービン翼10の両側で開口しており、冷却空気を2つの方向で冷却通路14から流出させるようになっている。これにより、冷却空気を必要とする箇所に冷却空気が提供され、衝突冷却の作用が横方向流れによって低下することがないので、タービン翼10の温度均一化が促進される。
【0029】
冷却要素18を切頭円錐状の形成物として構成する代わりに、冷却通路14に沿って延びる、すなわち冷却空気の流れ方向に沿って延びるリブ状に構成してもよい。その際、好ましくは対流冷却されるタービン翼10の冷却を改善するために、壁面16の表面積を著しく大きくする。この場合、前述したように前稜12での温度が場所的に異なっているために、リブの高さをこれに対応して適合することができる。
【符号の説明】
【0030】
10 タービン翼
12 前稜
14 冷却通路
16 壁面
18 冷却要素
20 後壁
22 衝突冷却開口部
24 壁部分

【特許請求の範囲】
【請求項1】
冷却管路(14)を有する羽根板と、該羽根板に沿って延在する前稜(12)とを備え、冷却管路(14)が壁部分(24)により前稜(12)に対し境界付けられ、かつ前稜(12)と平行に延びており、壁部分(24)を衝撃冷却するための手段が設けられている軸流タービン用のタービン翼(10)であって、
壁部分(24)から、2個以上の栓状の冷却要素(18)が冷却管路(14)内部へ突出して延び、これらの冷却要素の長さが、タービン翼の半径方向(R)に沿って異なるように構成され、場所に応じた所定の冷却要求に適合されているタービン翼。
【請求項2】
壁部分(24)が冷却管路(14)側に壁面(16)を有し、少なくとも1個の冷却要素(18)が壁面(16)に対し直角に冷却管路(14)内部へ突出して延びている、請求項1に記載のタービン翼。
【請求項3】
壁部分(24)が冷却管路(14)側に湾曲した壁面(16)を有し、この壁面に2個以上の冷却要素(18)が設けられ、これらの冷却要素(18)が冷却管路(14)内部へ突出して延びている縦方向延在部を有し、2個以上の冷却要素(18)はその縦方向延在部が壁面(16)の湾曲中心に向いている、請求項1または2に記載のタービン翼。
【請求項4】
少なくとも1個の冷却要素(18)が、或いは、2個以上の冷却要素(18)が、壁部分(24)と一体に形成されている、請求項1から3の一つに記載のタービン翼。
【請求項5】
壁部分(24)を衝撃冷却するための前記手段が、冷却管路(14)を境界付け壁部分(24)に対向している後壁(20)であり、該後壁に複数個の衝撃冷却開口部(22)が設けられている、請求項1から4の一つに記載のタービン翼。
【請求項6】
衝撃冷却開口部(22)は、該衝撃冷却開口部を貫流する冷却空気噴流が冷却要素(18)へ誘導されるように配置されている、請求項5に記載のタービン翼。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2012−137089(P2012−137089A)
【公開日】平成24年7月19日(2012.7.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−46594(P2012−46594)
【出願日】平成24年3月2日(2012.3.2)
【分割の表示】特願2009−535648(P2009−535648)の分割
【原出願日】平成19年9月20日(2007.9.20)
【出願人】(390039413)シーメンス アクチエンゲゼルシヤフト (2,104)
【氏名又は名称原語表記】Siemens Aktiengesellschaft
【住所又は居所原語表記】Wittelsbacherplatz 2, D−80333 Muenchen, Germany
【Fターム(参考)】