説明

ターボコンプレッサ用再循環構造

環状チャンバを有するターボチャージャ用の再循環構造であるが、その環状チャンバは、羽根輪の羽根自由端部の領域で、その大部分を羽根輪より上流に配置され、主流ダクトに隣接し、複数の案内要素を有し、それらの案内要素は、環状チャンバ内で、その周囲にわたって分布して配置され、再循環の流れに有利な方法で配置され、形作られ、環状チャンバの前方領域および/または後方領域に凹部を有する。
主流ダクトの輪郭に隣接する環状チャンバの側面は、その軸方向長さおよびその周囲全体にわたって開口しており、案内要素の自由端部は、主流ダクトの輪郭上に、またはそれに近接して存在する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、請求項1のプリアンブルによるターボチャージャ用再循環構造と、航空機用エンジンおよび静止ガス・タービンとに関する。
【背景技術】
【0002】
ターボチャージャ用再循環構造が最近知られているが、当該技術分野において、通常「ケーシング・トリートメント(ケーシング加工)」と呼ばれる。その主な働きは、コンプレッサの空気力学的な安定作動領域を拡大することであり、いわゆるサージ限界を、より高いコンプレッサ圧力へ、つまりより高いコンプレッサ負荷へと移行させる。局所的空気流の分離、最終的にコンプレッサのサージングの原因となる障害は、ケーシング側では、コンプレッサの1つまたは複数の段の回転翼羽根の端部で、またハブ側では、径方向内側の案内羽根の端部で発生するが、それは、こうした領域で、空気力学的負荷が最大になるからである。羽根先端同士の間の羽根回転数で循環する、エネルギーの減少した「空気粒子」が、主流へと再循環し、それによって、そのエネルギーが増大すると、羽根端部領域の流れが、再び安定化する。流れの乱れ(擾乱)は、一般的に、段の周囲全体に均一に発生することはないので、実質的に軸方向の再循環に加えて、流れを周囲方向に平衡させることも可能であるはずである。公知のケーシング・トリートメントの主な欠点は、サージ限界を上昇させるものの、同時にコンプレッサの効率を縮小してしまうということである。
【0003】
特許文献1は、一般的なタイプのケーシング・トリートメントを有する軸流送風機を保護するものである。この特許は、案内要素(9)が中に取り付けられた環状チャンバ(8)を開示している。回転翼羽根の終端以降の下流域で、周囲方向に開いた領域があるが、そこには案内要素は延在しない。このタイプのケーシング・トリートメントは、閉じた輪(7)によって特徴づけられるが、これは、主流ダクトの輪郭と概ねぴったりと重なり、再循環構造の後方の入口域を、前方の出口域から隔てて、平坦な閉じた表面域を形成する。
【0004】
特許文献2は、極めて類似したケーシング・トリートメントを開示しているが、そこでは、環状チャンバ(7)の前方域および後方域に、周囲方向に開いた領域が設けられる。径方向内側の輪6を、ここでも注目する。
【0005】
特許文献3は、より最近のケーシング・トリートメントを開示している。これは、環状チャンバ(18、28)および案内要素(24)の流体機構を改良するものである。この文献でも、再循環用の流入と流出が、羽根に対して閉じた平らな表面をもたらす中実の輪によって、隔てられる。羽根領域内のこのような輪は、一般的に、それらが羽根先端と接触する場合に備えて、皮膜または追加コーティングが施されなければならない。
【0006】
軸方向の溝、または軸方向に傾斜した溝を備えた、他のケーシング・トリートメントが、例えば特許文献4に開示されている。そうした種類の溝は、相互連結をしないと、周囲方向の流れを平衡に保つのが不可能であるので、本明細書ではそれらは検討しない。
【0007】
【特許文献1】独国特許発明第3322295号明細書
【特許文献2】独国特許発明第3539604号明細書
【特許文献3】米国特許第5282718号明細書
【特許文献4】米国特許第5137419号明細書
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
従来技術による解決法の欠点に鑑みて、本発明の目的は、コンプレッサの効率が顕著に低下することなく、サージ限界を明確に増大すること、したがって、安定作動領域の確実な拡大を可能にする、ターボチャージャ用再循環構造を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
この目的は、請求項1の前文の一般的な特徴に加え、該請求項の固有の特徴によって達成される。
【0010】
本発明の本質は、案内要素を備えた環状チャンバが、主流ダクトに対向して、またその軸方向長さおよびその周囲にわたって、完全に開口しているという事実にある。皮膜コーティング等を施した環状要素は必要ない。前掲の特許文献が示すところは、当業者達は、可能な限り、流れに対して有利で、損失のない、主流ダクトの輪郭への延長を作り出すために、可能な限り広い軸方向領域にわたって、再循環構造を、平坦で、実質的にギャップのない、主流ダクトに対して閉じたものにするように、即ちいわゆる環状間隙にするように、これまで努力をしてきたということである。本発明は、それとは対照的に、ギャップ、亀裂表面等につながり、結果的に不利で、不適切であるように思えるものであるが、実験により、本発明による再循環構造が、サージ限界を高めるということに関しても、また効率の点でも、公知の解決法よりも優れていることが判明している。このことに対する空気力学的説明としては、周方向への、遊離型案内要素、および遊離型の流路連結を備えた、開いた環状チャンバ内において、再循環の流れを、自由で、強制せずに起こすことの方が、主流ダクトの輪郭に、可能な限り平坦な延長を設けることよりも重要であるということである。閉じた輪が必要なければ、案内要素は、皮膜または追加のコーティングを必要とせず、全体の径方向空間および重量の節約が、構造力学に関して有利であるという、さらなる利点が生じる。
【0011】
主請求項による再循環構造の好ましい発展形態は、従属請求項で特徴づけられる。
【0012】
本発明を、実物大ではないが概略図面を参照して、さらに以下に説明する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
図1による再循環構造1は、ターボチャージャのケーシング5に組み込まれるもので、「ケーシング・トリートメント」と称される。羽根の設けられた主流ダクト9の流れの方向を、左側に矢印によって示す。即ち、流れは左から右に流れるということである。ここに示された領域内において、流れはまず案内羽根輪13に当たり、次いで回転翼羽根輪20に当たり、最後に案内羽根輪14に再度当たる。主流ダクト9の径方向外側の輪郭11は、ケーシング5の内側輪郭に一致するが、これを明確に示すために、図1では破点線を左と右に延在して示している。静止再循環構造1は、回転翼羽根輪20と相互作用し、該構造の大部分は、その軸方向前方、即ち羽根輪20より上流に位置する。環状チャンバ29は、複数の案内要素37と共に再循環構造1を形成するが、主流ダクト9の径方向外側に、それに隣接して位置し、ダクト9に対して開口を有している。案内要素37の自由端部41は、主流ダクト9の輪郭11上、または輪郭11付近にあり、即ち、それら自由端部は、ケーシングの内側輪郭に少なくとも概ねぴったりと重なる。案内要素37は、ニッケル系合金などの金属、アルミニウムなどの軽金属、熱可塑性プラスチック、熱硬化性プラスチックなどのプラスチック材料、あるいはエラストマーから構成することができる。環状チャンバ29の前方壁33と後方壁34は、径方向内側の端部35、36から前向きに傾斜しており、これが、再循環の流れ(小さな矢印によって示す)を促進することとなる。
【0014】
前方壁の傾斜角度を、αによって示すが、これは、後方壁34の角度と同一、またはそれとは異なるものとすることができる。前方壁33と、案内要素37と、後方壁34との間には、凹部45、46が形成されるため、主たる軸方向の再循環に加えて、環状チャンバの内側で、流れが周方向に進行することができる。(符号)25は、流れの乱れ(擾乱)が最もよく発生する領域内の、回転翼羽根輪20の羽根自由端部を示すものである。
【0015】
図1に対し、図2は、回転ハブ8内に組み込まれた再循環構造2を示す。回転翼羽根輪21と、径方向内側に羽根自由端部26を備えた案内羽根輪15と、回転翼羽根輪22とを、主流ダクト10の左から右方向へと見ることができる。再循環構造のこのような新たな構成は、極めて論理的に「ハブ・トリートメント」と名付けることができる。再循環構造2は、環状チャンバ30および案内要素38を含み、前方凹部と後方凹部47、48を備えるが、主流ダクトの下流に位置する案内羽根輪15と相互作用する。この場合では、回転するのはハブ・トリートメントであり、案内羽根輪15は静止しているので、回転翼の速度は、完全に差動速度として作用する。動作原理は、ケーシング・トリートメントのものと基本的には異ならない。ケーシング・トリートメントとハブ・トリートメントを、1つのターボチャージャで組み合わせることもでき、多段で使用することができる。主流ダクトの径方向内側の輪郭12は、本明細書では、ハブ8の外側輪郭と一致する。
【0016】
図3は、図1の詳細部の断面を示す。案内要素37は、半径に対して角度βを傾斜して、それによって回転翼羽根輪20の羽根自由端部25が、大きな損失なく、環状チャンバ29への再循環の流れを促進するようになる;回転方向(矢印参照)に注目されたい。傾斜角度βは、それに対応する湾曲した案内要素によって、径方向内側から外側に向けて「0」値へと減少させることができる。
【0017】
案内要素を半径方向に配置すること、即ちβ=0°は可能であるが、その場合はおそらく流れに対して有利ではなくなる。
【0018】
図3に対して図4は、回転方向(矢印)に対する回転翼羽根輪20の羽根のプロフィールを示しており、さらに案内要素37の流れを促進する輪郭および湾曲がよく分かる。当業者ならば、環状チャンバ29の上流端部35領域内の再循環の流出が、本発明では、回転翼羽根輪20に対抗する渦流を伴って発生するように意図されていることを理解することになろう。(符号)36は、環状チャンバの下流端部を示す。案内要素37は、それらの最も簡単な構成形態として、平らな「板」または湾曲した「板」から構成してもよいことに留意されたい。
【0019】
図5による再循環構造3は、ケーシング6内に組み込まれた環状チャンバ31を有するケーシング・トリートメントである。ここでは案内要素39が環状チャンバ31の前方壁まで延在し、凹部49が後部域に、回転翼羽根輪23の羽根自由端部27の直近に設けられる。案内要素39の自由端部43は、羽根自由端部27の回転領域内へは延在しない。(符号)16および17は、案内羽根輪を示す。
【0020】
図6において、環状チャンバ32および案内要素40を備える再循環構造4も、同様にケーシング・トリートメントであり、ケーシング7に組み込まれ、回転翼羽根輪24と相互作用する。図5とは対照的に、案内翼要素40は、ここでは環状チャンバ32の後方壁に延在する。凹部50は、ここでは前方域に設けられる。案内要素40の自由端部44は、羽根自由端部28の回転領域内に延在するので、羽根との接触を確実に防止するために、後部域で、外向きに径方向に偏位(後退)される。自由端は、当然その全体に亘って適宜に偏位させることもできる。
【0021】
再循環構造の全ての発展形態で、案内要素37〜40の自由端部41〜44は、案内要素が柔軟な軽金属またはプラスチック材料から作られる場合、径方向外向きに偏位する必要はない。なぜなら、羽根自由端部25〜28との接触が、羽根を損傷することなく可能となるからである。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】軸流コンプレッサの、ケーシング側再循環構造領域の、部分縦断面図である。
【図2】図1に対する、ハブ側再循環構造領域の、部分縦断面図である。
【図3】図1による再循環構造の部分断面図である。
【図4】図1および3による再循環構造の、径方向内側から見た部分図である。
【図5】図1の再循環構造に対し一部変更された、ケーシング側再循環構造領域の、部分縦断面図である。
【図6】図1および図5の再循環構造に対し更に一部変更された、ケーシング側再循環構造領域の、部分縦断面図である。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、請求項1のプリアンブルによるターボコンプレッサ用再循環構造と、航空機用エンジンおよび静止ガス・タービンとに関する。
【背景技術】
【0002】
ターボコンプレッサ用再循環構造が最近知られているが、当該技術分野において、通常「ケーシング・トリートメント(ケーシング加工)」と呼ばれる。その主な働きは、コンプレッサの空気力学的な安定作動領域を拡大することであり、いわゆるサージ限界を、より高いコンプレッサ圧力へ、つまりより高いコンプレッサ負荷へと移行させる。局所的空気流の分離、最終的にコンプレッサのサージングの原因となる障害は、ケーシング側では、コンプレッサの1つまたは複数の段の回転翼羽根の端部で、またハブ側では、径方向内側の案内羽根の端部で発生するが、それは、こうした領域で、空気力学的負荷が最大になる
からである。羽根先端同士の間の羽根回転数で循環する、エネルギーの減少した「空気粒子」が、主流へと再循環し、それによって、そのエネルギーが増大すると、羽根端部領域の流れが、再び安定化する。流れの乱れ(擾乱)は、一般的に、段の周囲全体に均一に発生することはないので、実質的に軸方向の再循環に加えて、流れを周囲方向に平衡させることも可能であるはずである。公知のケーシング・トリートメントの主な欠点は、サージ限界を上昇させるものの、同時にコンプレッサの効率を縮小してしまうということである。
【0003】
特許文献1は、一般的なタイプのケーシング・トリートメントを有する軸流送風機を保護するものである。この特許は、案内要素(9)が中に取り付けられた環状チャンバ(8)を開示している。回転翼羽根の終端以降の下流域で、周囲方向に開いた領域があるが、そこには案内要素は延在しない。このタイプのケーシング・トリートメントは、閉じた輪(7)によって特徴づけられるが、これは、主流ダクトの輪郭と概ねぴったりと重なり、再循環構造の後方の入口域を、前方の出口域から隔てて、平坦な閉じた表面域を形成する。
【0004】
特許文献2は、極めて類似したケーシング・トリートメントを開示しているが、そこでは、環状チャンバ(7)の前方域および後方域に、周囲方向に開いた領域が設けられる。径方向内側の輪6を、ここでも注目する。
【0005】
特許文献3は、より最近のケーシング・トリートメントを開示している。これは、環状チャンバ(18、28)および案内要素(24)の流体機構を改良するものである。この文献でも、再循環用の流入と流出が、羽根に対して閉じた平らな表面をもたらす中実の輪によって、隔てられる。羽根領域内のこのような輪は、一般的に、それらが羽根先端と接触する場合に備えて、皮膜または追加コーティングが施されなければならない。
【0006】
軸方向の溝、または軸方向に傾斜した溝を備えた、他のケーシング・トリートメントが、例えば特許文献4に開示されている。そうした種類の溝は、相互連結をしないと、周囲方向の流れを平衡に保つのが不可能であるので、本明細書ではそれらは検討しない。
【0007】
【特許文献1】独国特許発明第3322295号明細書
【特許文献2】独国特許発明第3539604号明細書
【特許文献3】米国特許第5282718号明細書
【特許文献4】米国特許第5137419号明細書
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
従来技術による解決法の欠点に鑑みて、本発明の目的は、コンプレッサの効率が顕著に低下することなく、サージ限界を明確に増大すること、したがって、安定作動領域の確実な拡大を可能にする、ターボコンプレッサ用再循環構造を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
この目的は、請求項1の前文の一般的な特徴に加え、該請求項の固有の特徴によって達成される。
【0010】
本発明の本質は、案内要素を備えた環状チャンバが、主流ダクトに対向して、またその軸方向長さおよびその周囲にわたって、完全に開口しているという事実にある。皮膜コーティング等を施した環状要素は必要ない。前掲の特許文献が示すところは、当業者達は、可能な限り、流れに対して有利で、損失のない、主流ダクトの輪郭への延長を作り出すために、可能な限り広い軸方向領域にわたって、再循環構造を、平坦で、実質的にギャップのない、主流ダクトに対して閉じたものにするように、即ちいわゆる環状間隙にするように、これまで努力をしてきたということである。本発明は、それとは対照的に、ギャップ、亀裂表面等につながり、結果的に不利で、不適切であるように思えるものであるが、実験により、本発明による再循環構造が、サージ限界を高めるということに関しても、また効率の点でも、公知の解決法よりも優れていることが判明している。このことに対する空気力学的説明としては、周方向への、遊離型案内要素、および遊離型の流路連結を備えた、開いた環状チャンバ内において、再循環の流れを、自由で、強制せずに起こすことの方が、主流ダクトの輪郭に、可能な限り平坦な延長を設けることよりも重要であるということである。閉じた輪が必要なければ、案内要素は、皮膜または追加のコーティングを必要とせず、全体の径方向空間および重量の節約が、構造力学に関して有利であるという、さらなる利点が生じる。
【0011】
主請求項による再循環構造の好ましい発展形態は、従属請求項で特徴づけられる。
【0012】
本発明を、実物大ではないが概略図面を参照して、さらに以下に説明する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
図1による再循環構造1は、ターボコンプレッサのケーシング5に組み込まれるもので、「ケーシング・トリートメント」と称される。羽根の設けられた主流ダクト9の流れの方向を、左側に矢印によって示す。即ち、流れは左から右に流れるということである。ここに示された領域内において、流れはまず案内羽根輪13に当たり、次いで回転翼羽根輪20に当たり、最後に案内羽根輪14に再度当たる。主流ダクト9の径方向外側の輪郭11は、ケーシング5の内側輪郭に一致するが、これを明確に示すために、図1では破点線を左と右に延在して示している。静止再循環構造1は、回転翼羽根輪20と相互作用し、該構造の大部分は、その軸方向前方、即ち羽根輪20より上流に位置する。環状チャンバ29は、複数の案内要素37と共に再循環構造1を形成するが、主流ダクト9の径方向外側に、それに隣接して位置し、ダクト9に対して開口を有している。案内要素37の自由端部41は、主流ダクト9の輪郭11上、または輪郭11付近にあり、即ち、それら自由端部は、ケーシングの内側輪郭に少なくとも概ねぴったりと重なる。案内要素37は、ニッケル系合金などの金属、アルミニウムなどの軽金属、熱可塑性プラスチック、熱硬化性プラスチックなどのプラスチック材料、あるいはエラストマーから構成することができる。環状チャンバ29の前方壁33と後方壁34は、径方向内側の端部35、36から前向きに傾斜しており、これが、再循環の流れ(小さな矢印によって示す)を促進することとなる。
【0014】
前方壁の傾斜角度を、αによって示すが、これは、後方壁34の角度と同一、またはそれとは異なるものとすることができる。前方壁33と、案内要素37と、後方壁34との間には、凹部45、46が形成されるため、主たる軸方向の再循環に加えて、環状チャンバの内側で、流れが周方向に進行することができる。(符号)25は、流れの乱れ(擾乱)が最もよく発生する領域内の、回転翼羽根輪20の羽根自由端部を示すものである。
【0015】
図1に対し、図2は、回転ハブ8内に組み込まれた再循環構造2を示す。回転翼羽根輪21と、径方向内側に羽根自由端部26を備えた案内羽根輪15と、回転翼羽根輪22とを、主流ダクト10の左から右方向へと見ることができる。再循環構造のこのような新たな構成は、極めて論理的に「ハブ・トリートメント」と名付けることができる。再循環構造2は、環状チャンバ30および案内要素38を含み、前方凹部と後方凹部47、48を備えるが、主流ダクトの下流に位置する案内羽根輪15と相互作用する。この場合では、回転するのはハブ・トリートメントであり、案内羽根輪15は静止しているので、回転翼の速度は、完全に差動速度として作用する。動作原理は、ケーシング・トリートメントのものと基本的には異ならない。ケーシング・トリートメントとハブ・トリートメントを、1つのターボコンプレッサで組み合わせることもでき、多段で使用することができる。主流ダクトの径方向内側の輪郭12は、本明細書では、ハブ8の外側輪郭と一致する。
【0016】
図3は、図1の詳細部の断面を示す。案内要素37は、半径に対して角度βを傾斜して、それによって回転翼羽根輪20の羽根自由端部25が、大きな損失なく、環状チャンバ29への再循環の流れを促進するようになる;回転方向(矢印参照)に注目されたい。傾斜角度βは、それに対応する湾曲した案内要素によって、径方向内側から外側に向けて「0」値へと減少させることができる。
【0017】
案内要素を半径方向に配置すること、即ちβ=0°は可能であるが、その場合はおそらく流れに対して有利ではなくなる。
【0018】
図3に対して図4は、回転方向(矢印)に対する回転翼羽根輪20の羽根のプロフィールを示しており、さらに案内要素37の流れを促進する輪郭および湾曲がよく分かる。当業者ならば、環状チャンバ29の上流端部35領域内の再循環の流出が、本発明では、回転翼羽根輪20に対抗する渦流を伴って発生するように意図されていることを理解することになろう。(符号)36は、環状チャンバの下流端部を示す。案内要素37は、それらの最も簡単な構成形態として、平らな「板」または湾曲した「板」から構成してもよいことに留意されたい。
【0019】
図5による再循環構造3は、ケーシング6内に組み込まれた環状チャンバ31を有するケーシング・トリートメントである。ここでは案内要素39が環状チャンバ31の前方壁まで延在し、凹部49が後部域に、回転翼羽根輪23の羽根自由端部27の直近に設けられる。案内要素39の自由端部43は、羽根自由端部27の回転領域内へは延在しない。(符号)16および17は、案内羽根輪を示す。
【0020】
図6において、環状チャンバ32および案内要素40を備える再循環構造4も、同様にケーシング・トリートメントであり、ケーシング7に組み込まれ、回転翼羽根輪24と相互作用する。図5とは対照的に、案内翼要素40は、ここでは環状チャンバ32の後方壁に延在する。凹部50は、ここでは前方域に設けられる。案内要素40の自由端部44は、羽根自由端部28の回転領域内に延在するので、羽根との接触を確実に防止するために、後部域で、外向きに径方向に偏位(後退)される。自由端は、当然その全体に亘って適宜に偏位させることもできる。
【0021】
再循環構造の全ての発展形態で、案内要素37〜40の自由端部41〜44は、案内要素が柔軟な軽金属またはプラスチック材料から作られる場合、径方向外向きに偏位する必要はない。なぜなら、羽根自由端部25〜28との接触が、羽根を損傷することなく可能となるからである。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】軸流コンプレッサの、ケーシング側再循環構造領域の、部分縦断面図である。
【図2】図1に対する、ハブ側再循環構造領域の、部分縦断面図である。
【図3】図1による再循環構造の部分断面図である。
【図4】図1および3による再循環構造の、径方向内側から見た部分図である。
【図5】図1の再循環構造に対し一部変更された、ケーシング側再循環構造領域の、部分縦断面図である。
【図6】図1および図5の再循環構造に対し更に一部変更された、ケーシング側再循環構造領域の、部分縦断面図である。
【誤訳訂正書】
【提出日】平成16年9月13日(2004.9.13)
【誤訳訂正1】
【訂正対象書類名】特許請求の範囲
【訂正対象項目名】請求項1
【訂正方法】変更
【訂正の内容】
【請求項1】
ターボコンプレッサ用再循環構造であって、羽根輪の羽根自由端部の領域に、コンプレッサの軸と同軸に配置された環状チャンバを有し、環状チャンバは、主流ダクトの輪郭に径方向に隣接してなる、いわゆる環状間隙であり、即ち主流ダクトの輪郭に隣接する環状チャンバの側部が、主流ダクトに対して、その軸方向、およびその周囲全体にわたって開口しており、さらに複数の案内要素を有し、該複数の案内要素は、環状チャンバ内でその周囲にわたって分布して配置され、また、環状チャンバの軸方向後方領域への再循環流れの流入に対して有利な方法で、また、環状チャンバの軸方向前方領域への再循環流れの流出が下流の羽根輪に対して所定の方向に、必要に応じて所定の渦を伴って生じるような方法で配置され、形成され、環状チャンバの前方領域および/または後方領域において案内要素、周方向の流路のための凹部を有する再循環構造において、案内要素(37〜40)の自由端部(41〜44)が、それらの軸方向長さにわたって、主流ダクト(9、10)の輪郭(11、12)上に、またはそれに近接して存在し、また環状チャンバ(29〜32)の軸中心が、羽根自由端部(25〜28)の軸中心より上流に存在することを特徴とする再循環構造。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ターボチャージャ用再循環構造であって、
羽根輪の羽根自由端部の領域にコンプレッサの軸と同軸に配置された環状チャンバを有し、前記環状チャンバの軸中心は前記羽根自由端部の軸中心上流に位置づけられ、
前記環状チャンバは、環状間隙を主流ダクトの輪郭に径方向に隣接してなると共に複数の案内要素を有し、
前記案内要素は、その周囲全体に亘って配設された環状チャンバ内に配置され、さらに、環状チャンバの軸方向後方領域における再循環流れの流入に対して有利な方法で、かつ、環状チャンバの軸方向前方領域における再循環流れの流出が下流の羽根輪に対して所定の方向に所定の渦を伴って生じるような方法で、配置および形成され、
前記環状チャンバの前方および/または後方領域において、案内要素は、周方向の流路のための凹部を有する再循環構造において、
主流ダクト(9,10)の輪郭(11,12)に隣接してなる環状チャンバ(29〜32)は、その軸方向長さに亘り主流ダクト(9,10)に対して開口し、すなわち、再循環流れの流入から流出に至るまで、その全周に亘り、案内要素(37〜40)の自由端部(41から44)が存在し、または主流ダクト(9,10)の輪郭(11,12)に近接してなることを特徴とする再循環構造。
【請求項2】
1つまたは複数の回転翼羽根輪(20、23、24)の領域で、1つまたは複数の点でケーシングに取り付けられ、即ち静止し、および/または、1つまたは複数の案内羽根輪(15)の領域で、1つまたは複数の点でハブに取り付けられ、即ち回転することを特徴とする、請求項1に記載の再循環構造。
【請求項3】
軸流タイプ、混流タイプ、または半径流タイプの、単段式または多段式ターボチャージャに配置されることを特徴とする、請求項1または2に記載の再循環構造。
【請求項4】
主流ダクト(9)の輪郭(11)上の端部(35、36)から、環状チャンバ(29)の軸方向前方壁(33)および軸方向後方壁(34)が、同一または異なった角度αで、上流方向、即ち斜め前方に傾斜することを特徴とする、請求項1ないし3のいずれか一項に記載の再循環構造。
【請求項5】
環状チャンバの軸方向前方壁および軸方向後方壁の、半径方向からの傾斜角度αが、30°から60°の範囲の値を有することを特徴とする、請求項4に記載の再循環構造。
【請求項6】
案内要素(37〜40)が、板状の、一定した厚みを備えた、平らなまたは湾曲した構成であり、または、所定のプロフィールの断面を有する、3次元の曲線を有した、変化する厚みを備えた、羽根状の構成であることを特徴とする、請求項1ないし5のいずれか一項に記載の再循環構造。
【請求項7】
案内要素(37〜40)が、(軸方向から見て)周方向で径方向に対して傾斜し、または周方向に湾曲し、傾斜した場合または湾曲した場合の角度βは、環状チャンバ(29〜32)内への再循環流れの流入を容易に、即ち促進するように選択されることを特徴とする、請求項1ないし6のいずれか一項に記載の再循環構造。
【請求項8】
再循環構造(1〜4)の内部において、案内要素(37〜40)の総体積に対する総流量体積の選択比率が、可能な限り大きく、即ち、案内要素(37〜40)が、可能な限り薄壁であり、または細くプロフィーリングされていることを特徴とする、請求項1ないし7のいずれか一項に記載の再循環構造。
【請求項9】
羽根の自由端部の領域内に案内要素が軸方向に延びており、案内要素(40)の自由端部(44)が、少なくとも羽根自由端部(28)の領域で、半径方向に充分後退して設定され、それによって、ターボチャージャの通常作動時に、羽根自由端部(28)と案内要素(40)の間で接触が起こらないようになることを特徴とする、請求項1ないし8のいずれか一項に記載の再循環構造。
【請求項10】
案内要素(37〜40)が、スチール、ニッケル系合金、またはコバルト系合金などの金属、アルミニウムなどの軽金属、あるいは熱可塑性プラスチック、熱硬化性プラスチック、またはエラストマーなどのプラスチック材料から構成されることを特徴とする、請求項1ないし9のいずれか一項に記載の再循環構造。
【請求項11】
案内要素(37〜40)の自由端部(41〜44)が、軽量金属またはプラスチック材料から成る場合、羽根自由端部(25〜28)の領域内に延在し、接触が可能であることを特徴とする、請求項10に記載の再循環構造。
【請求項12】
請求項1から11のいずれか一項に記載の再循環構造を、少なくとも1つ有するターボチャージャを備える航空機用エンジン。
【請求項13】
請求項1から11のいずれか一項に記載の再循環構造を、少なくとも1つ有するターボチャージャを備える静止ガス・タービン。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ターボコンプレッサ用再循環構造であって、
羽根輪の羽根自由端部の領域にコンプレッサの軸と同軸に配置された環状チャンバを有し、前記環状チャンバの軸中心は前記羽根自由端部の軸中心上流に位置づけられ、 前記環状チャンバは、環状間隙を主流ダクトの輪郭に径方向に隣接してなると共に複数の案内要素を有し、
前記案内要素は、その周囲全体に亘って配設された環状チャンバ内に配置され、さらに、環状チャンバの軸方向後方領域における再循環流れの流入に対して有利な方法で、かつ、環状チャンバの軸方向前方領域における再循環流れの流出が下流の羽根輪に対して所定の方向に所定の渦を伴って生じるような方法で、配置および形成され、
前記環状チャンバの前方および/または後方領域において、案内要素は、周方向の流路
のための凹部を有する再循環構造において、
主流ダクト(9,10)の輪郭(11,12)に隣接してなる環状チャンバ(29〜32)は、その軸方向長さに亘り主流ダクト(9,10)に対して開口し、すなわち、再循環流れの流入から流出に至るまで、その全周に亘り、案内要素(37〜40)の自由端部(41から44)が存在し、または主流ダクト(9,10)の輪郭(11,12)に近接してなることを特徴とする再循環構造。
【請求項2】
1つまたは複数の回転翼羽根輪(20、23、24)の領域で、1つまたは複数の点でケーシングに取り付けられ、即ち静止し、および/または、1つまたは複数の案内羽根輪(15)の領域で、1つまたは複数の点でハブに取り付けられ、即ち回転することを特徴とする、請求項1に記載の再循環構造。
【請求項3】
軸流タイプ、混流タイプ、または半径流タイプの、単段式または多段式ターボコンプレッサに配置されることを特徴とする、請求項1または2に記載の再循環構造。
【請求項4】
主流ダクト(9)の輪郭(11)上の端部(35、36)から、環状チャンバ(29)の軸方向前方壁(33)および軸方向後方壁(34)が、同一または異なった角度αで、上流方向、即ち斜め前方に傾斜することを特徴とする、請求項1ないし3のいずれか一項に記載の再循環構造。
【請求項5】
環状チャンバの軸方向前方壁および軸方向後方壁の、半径方向からの傾斜角度αが、30°から60°の範囲の値を有することを特徴とする、請求項4に記載の再循環構造。
【請求項6】
案内要素(37〜40)が、板状の、一定した厚みを備えた、平らなまたは湾曲した構成であり、または、所定のプロフィールの断面を有する、3次元の曲線を有した、変化する厚みを備えた、羽根状の構成であることを特徴とする、請求項1ないし5のいずれか一項に記載の再循環構造。
【請求項7】
案内要素(37〜40)が、(軸方向から見て)周方向で径方向に対して傾斜し、または周方向に湾曲し、傾斜した場合または湾曲した場合の角度βは、環状チャンバ(29〜32)内への再循環流れの流入を容易に、即ち促進するように選択されることを特徴とする、請求項1ないし6のいずれか一項に記載の再循環構造。
【請求項8】
再循環構造(1〜4)の内部において、案内要素(37〜40)の総体積に対する総流量体積の選択比率が、可能な限り大きく、即ち、案内要素(37〜40)が、可能な限り薄壁であり、または細くプロフィーリングされていることを特徴とする、請求項1ないし7のいずれか一項に記載の再循環構造。
【請求項9】
羽根の自由端部の領域内に案内要素が軸方向に延びており、案内要素(40)の自由端部(44)が、少なくとも羽根自由端部(28)の領域で、半径方向に充分後退して設定され、それによって、ターボコンプレッサの通常作動時に、羽根自由端部(28)と案内要素(40)の間で接触が起こらないようになることを特徴とする、請求項1ないし8のいずれか一項に記載の再循環構造。
【請求項10】
案内要素(37〜40)が、スチール、ニッケル系合金、またはコバルト系合金などの金属、アルミニウムなどの軽金属、あるいは熱可塑性プラスチック、熱硬化性プラスチック、またはエラストマーなどのプラスチック材料から構成されることを特徴とする、請求項1ないし9のいずれか一項に記載の再循環構造。
【請求項11】
案内要素(37〜40)の自由端部(41〜44)が、軽量金属またはプラスチック材料から成る場合、羽根自由端部(25〜28)の領域内に延在し、接触が可能であることを特徴とする、請求項10に記載の再循環構造。
【請求項12】
請求項1から11のいずれか一項に記載の再循環構造を、少なくとも1つ有するターボコンプレッサを備える航空機用エンジン。
【請求項13】
請求項1から11のいずれか一項に記載の再循環構造を、少なくとも1つ有するターボコンプレッサを備える静止ガス・タービン。
【誤訳訂正2】
【訂正対象書類名】明細書
【訂正対象項目名】全文
【訂正方法】変更
【訂正の内容】

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公表番号】特表2006−505730(P2006−505730A)
【公表日】平成18年2月16日(2006.2.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2003−571571(P2003−571571)
【出願日】平成15年2月26日(2003.2.26)
【国際出願番号】PCT/DE2003/000623
【国際公開番号】WO2003/072910
【国際公開日】平成15年9月4日(2003.9.4)
【出願人】(391028384)エムテーウー・アエロ・エンジンズ・ゲーエムベーハー (26)
【住所又は居所原語表記】DACHAUER STRASSE 665,80995 MUENCHEN,GERMANY
【Fターム(参考)】