説明

ターボチャージャ

【課題】タービン効率の低下抑制と各スクロール通路間におけるガス流量のばらつきの抑制との両立を図ることのできるターボチャージャを提供する。
【解決手段】ターボチャージャは、タービンホイール32が収容されるタービンを備える。タービンにはタービンホイール32の外周において渦巻形状で延びる第1スクロール通路33と第2スクロール通路34とが形成される。タービンに隣接する位置には、タービンホイール32に一体固定されたシャフトが回転可能に支持されるセンターハウジングが設けられる。タービンホイール32の回転軸心L1におけるタービンの断面において各スクロール通路33,34が延びる方向を示す直線LBと上記回転軸心L1とのなす角度のうち同タービンホイール32の先端部を含むほうの角度ωが、スクロール通路33,34の下流側に向かうに連れて(図4[A]→図4[B]→図4[C]→図4[D])大きくなるように設定される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、タービンホイールの外周において渦巻形状で延びるスクロール通路が二本設けられたタービンを備えるターボチャージャに関するものである。
【背景技術】
【0002】
内燃機関にガス(排気)駆動式のターボチャージャを設けることが多用されている。こうしたターボチャージャは、コンプレッサホイールが収容されるコンプレッサと、タービンホイールが収容されるタービンと、コンプレッサおよびタービンの間に設けられてコンプレッサホイールおよびタービンホイールの一体固定されたシャフトが回転可能に支持されるセンターハウジングとを備えている。また、上記タービンにはタービンホイールの外周において渦巻状に延びるスクロール通路が設けられている。そして、このスクロール通路を介してタービン内部にガスが導かれてタービンホイールに吹き付けられるようになっている。
【0003】
従来、例えば特許文献1に記載のターボチャージャのように、タービンに、タービンホイールの回転軸方向において並行して延びる形状の二本のスクロール通路を設けることが提案されている(特許文献1参照)。特許文献1に記載のターボチャージャでは、内燃機関の四つの気筒のうちの二つが一方のスクロール通路に接続されるとともに、残りの二つの気筒が他方のスクロール通路に接続されている。
【0004】
ガス駆動式のターボチャージャでは、タービン内に形成されるスクロール通路が同タービンに隣接するセンターハウジング側に過度に張り出さないように、上記タービンホイールの回転軸心におけるタービンの断面において上記スクロール通路が延びる方向が、同回転軸心と直交する方向ではなく、回転軸心に対して傾いた方向になるように設定されている。
【0005】
スクロール通路が二本設けられたターボチャージャでは、スクロール通路が一本のみ設けられたものと比較して、スクロール通路の配置スペースに関する制限がさらに厳しくなるために各スクロール通路の断面形状を同一にすることが困難であり、各スクロール通路からタービンホールに吹き付けられるガスの量(ガス流量)に差が生じやすいと云える。そして、各スクロール通路間におけるガス流量の差が大きくなると、内燃機関の各気筒の排気ポートの圧力(背圧)のばらつきが大きくなって、気筒間における吸入空気量にばらつきが生じるため、内燃機関の出力トルクの変動が大きくなってしまう。
【0006】
特許文献1のターボチャージャでは、各スクロール通路のタービンホイール側の開口部の開口面積が、各スクロール通路のガス流量、ひいては内燃機関の各気筒の背圧がほぼ等しくなるように設定されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2007−285169号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
特許文献1に記載のターボチャージャでは、内燃機関の出力トルクの変動が抑えられるものの、タービンの構造が内燃機関の運転効率を重視した構造になってしまうためにタービン効率の低下を招く可能性がある。これはターボチャージャの大型化や、これに伴う搭載性の悪化を招く一因になるため好ましくない。
【0009】
本発明は、そうした実情に鑑みてなされたものであり、その目的は、タービン効率の低下抑制と各スクロール通路間におけるガス流量のばらつきの抑制との両立を図ることのできるターボチャージャを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
以下、上記目的を達成するための手段及びその作用効果について説明する。
請求項1に記載のターボチャージャは、タービンホイールの外周において渦巻形状で延びる二本のスクロール通路がタービン内部に形成されて、それらスクロール通路を介してタービンホイールにガスが吹き付けられる。またタービンに隣接してハウジングが設けられ、同ハウジングにはタービンホイールに一体固定されたシャフトが回転可能に支持される。
【0011】
二本のスクロール通路を備えるターボチャージャにおいて、スクロール通路の延設方向の各部からタービンホイールに吹き付けられるガスの量(ガス流量)を各スクロール通路間で等しくするためには、タービンホイールの回転軸心におけるタービンの断面(以下、特定断面)でのスクロール通路の断面積が等しくなるように、各スクロール通路の通路形状を設定すればよい。また、タービンホイールに吹き付けられるガスによるタービンの効率を各スクロール通路間で等しくするためには、上記特定断面におけるスクロール通路の断面の面積中心およびタービンホイールの回転軸心の距離とスクロール通路の断面積との比([断面積]/[距離]、または[距離]/[断面積])が等しくなるように、各スクロール通路の通路形状を設定すればよい。さらに、上記断面積および上記比を各スクロール通路間で共に等しくするためには、上記特定断面における各スクロール通路の断面形状がタービンホイールの回転軸心と直交する直線を対称軸とする線対称の形状になるように、各スクロール通路の通路形状を設定すればよい。
【0012】
スクロール通路は、ガスを圧縮しつつタービンホイールに吹き付けるものであるためにガス流れ方向上流側(以下、単に「上流側」)に向かうほど通路断面積が大きく、スクロール通路のハウジング側への張り出しを抑えるための同スクロール通路の配置スペースについての制約も大きくなる。
【0013】
従来のターボチャージャでは、上流側の部分、すなわち最も配置スペースの制約が大きい部分に合わせて、特定断面においてスクロール通路が延びる方向を示す直線と上記回転軸心とのなす角度のうち上記タービンホイールの先端部を含むほうの角度が比較的小さい一定の角度に設定されている。また従来のターボチャージャは、上記角度が一定に設定された条件のもとで、各スクロール通路についての上記断面積および上記比のいずれか一方のみを互いに等しくするといった設計思想で形成されている。
【0014】
上記特定断面における各スクロール通路の断面積が大きい上流側の部分においては、スクロール通路のハウジング側への張り出しを抑えたり各スクロール通路の干渉を避けたりするために上記角度を小さくせざるを得ない。したがって、上記特定断面における各スクロール通路の断面形状を近似した形状にすることが難しく、上記断面積および上記比の双方を各スクロール通路間で等しくしたり近い値にしたりすることは困難であると云える。
【0015】
これに対して、上記特定断面における各スクロール通路の断面積が小さいガス流れ方向下流側(以下、単に「下流側」)の部分においては、それらスクロール通路の配置スペースの制約が小さいために、上記角度を大きくすることが可能になる。そのため、上記特定断面における各スクロール通路の断面形状を近似した形状にすることが可能であり、それらスクロール通路についての上記通路断面積および上記比の双方を上流側の部分と比較して近い値にしたり、上記通路断面積および上記比の一方を等しく設定しつつ他方を上流側の部分と比較して近い値にしたりすることが可能であると云える。しかも場合によっては、上記特定断面における各スクロール通路の断面形状をそれらスクロール通路間において上記断面積および上記比を共に等しくするうえで最適な形状、すなわちタービンホイールの回転軸心と直交する直線を対称軸とする線対称の形状にすることも可能になる。
【0016】
こうした実情をふまえて、請求項1に記載のターボチャージャでは、上記特定断面において上記スクロール通路が延びる方向を示す直線と前記回転軸心とのなす角度のうち上記タービンホイールの先端部を含むほうの角度が、スクロール通路の下流側に向かうに連れて大きい角度に設定される。そのため、各スクロール通路の各部における断面形状を、その下流側に向かうに連れて、上記通路断面積および上記比を共に等しくするうえで最適な形状、すなわちタービンホイールの回転軸心と直交する直線を対称軸とする線対称の形状に徐々に近づけることができる。したがって各スクロール通路の下流側の部分において、上記断面積の差を小さくすることによって各スクロール通路間におけるガス流量のばらつきを抑制したり、上記比の差を小さくしてタービン効率の低下を抑制したりすることができる。
【0017】
このように請求項1に記載のターボチャージャによれば、タービン効率の低下抑制と各スクロール通路間におけるガス流量のばらつきの抑制との両立を図ることができる。
請求項2に記載のターボチャージャでは、上記特定断面でのスクロール通路の面積中心および該回転軸心の距離とスクロール通路の断面積との比([断面積]/[距離]、または[距離]/[断面積])が二本のスクロール通路の延設方向の各部において互いに等しくなる形状で各スクロール通路が形成される。そのため、スクロール通路の各部において、各スクロール通路の間におけるタービン効率のばらつきを抑えることができる。しかも、特定断面における各スクロール通路の断面積の差が下流側に向かうほど小さくなる形状で各スクロール通路が形成される。これにより、各スクロール通路の配置スペースの制約が小さい下流側の部分において各スクロール通路の通路断面積の差を小さくすることができるために、その分だけガス流量のばらつきを抑えることができる。
【0018】
請求項3に記載のターボチャージャでは、上記特定断面でのスクロール通路の断面積が二本のスクロール通路の延設方向の各部において互いに等しくなる形状で各スクロール通路が形成される。そのため、スクロール通路の各部において、各スクロール通路の間におけるガス流量のばらつきを抑えることができる。しかも、特定断面におけるスクロール通路の面積中心および該回転軸心の距離とスクロール通路の断面積との比([断面積]/[距離]、または[距離]/[断面積])の各スクロール通路間における差が下流側に向かうほど小さくなる形状で各スクロール通路が形成される。これにより、各スクロール通路の配置スペースの制約が小さい下流側の部分において各スクロール通路間における上記比の差を小さくすることができるために、その分だけタービン効率のばらつきを抑えることができる。
【0019】
請求項4に記載のターボチャージャでは、各スクロール通路のガス流れ方向下流側の部分において、上記特定断面における二本のスクロール通路の断面形状が同回転軸心と直交する直線を対称軸とする線対称になる形状で、それらスクロール通路が形成される。これにより、各スクロール通路の下流側の部分を上記通路断面積および上記比を共に等しくするうえで最適な形状にすることができるため、タービン効率の低下抑制と各スクロール通路間におけるガス流量のばらつきの抑制とを好適に両立させることができる。
【0020】
なお、タービンホイールの回転軸心におけるタービンの断面においてスクロール通路が延びる方向を示す直線としては、請求項5によるように、二本のスクロール通路の間を仕切るように延びる直線を採用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本発明を具体化した第1の実施の形態にかかるターボチャージャの断面構造を示す断面図。
【図2】タービン内における各スクロール通路の延設態様を示す略図。
【図3】第1の実施の形態における特定断面でのタービンホイールと各スクロール通路との位置関係を模式的に示す略図。
【図4】[A]〜[D]第1の実施の形態における特定断面での各スクロール通路の断面形状を模式的に示す略図。
【図5】第1の実施の形態における各スクロール通路の延設方向の位置と角度と断面積と比との関係を示すグラフ。
【図6】第1の実施の形態における各スクロール通路のタービン効率と内燃機関の吸入空気量との関係を示すグラフ。
【図7】第1の実施の形態におけるタービンの膨張比と各スクロール通路のタービン容量との関係を示すグラフ。
【図8】[A]〜[D]第2の実施の形態における特定断面での各スクロール通路の断面形状を模式的に示す略図。
【図9】本発明を具体化した第2の実施の形態における各スクロール通路の延設方向の位置と角度と断面積と比との関係を示すグラフ。
【図10】第2の実施の形態におけるタービンの膨張比と各スクロール通路のタービン容量との関係を示すグラフ。
【図11】第2の実施の形態における各スクロール通路のタービン効率と内燃機関の吸入空気量との関係を示すグラフ。
【図12】本発明を具体化した第3の実施の形態における各スクロール通路の延設方向の位置と角度と断面積と比との関係を示すグラフ。
【図13】第3の実施の形態におけるタービンの膨張比と各スクロール通路のタービン容量との関係を示すグラフ。
【図14】第3の実施の形態における各スクロール通路のタービン効率と内燃機関の吸入空気量との関係を示すグラフ。
【発明を実施するための形態】
【0022】
(第1の実施の形態)
以下、本発明を具体化した第1の実施の形態にかかるターボチャージャについて説明する。
【0023】
図1に示すように、本実施の形態にかかるターボチャージャ10は、内燃機関1の吸気通路2に配設されるコンプレッサ20と、同内燃機関1の排気通路3に配設されるタービン30と、これらコンプレッサ20およびタービン30を連結するセンターハウジング11とを備えている。
【0024】
コンプレッサ20の内部にはコンプレッサ室21が形成されており、同コンプレッサ室21には、コンプレッサホイール22が収容されている。一方、タービン30の内部にはタービン室31が形成されており、同タービン室31にはタービンホイール32が収容されている。他方、センターハウジング11には、シャフト12が回転可能に支持されており、同シャフト12の一端にはコンプレッサホイール22が固定され、他端にはタービンホイール32が固定されている。このターボチャージャ10は、コンプレッサホイール22とタービンホイール32とが一体回転する構造になっている。
【0025】
コンプレッサ20のコンプレッサ室21はコンプレッサホイール22の回転軸心L1に沿って延設されている。また、コンプレッサ20には、上記コンプレッサホイール22の外周において渦巻形状で延びるスクロール通路23が形成されている。このスクロール通路23は上記コンプレッサ室21の内周壁の全周にわたって開口されている。
【0026】
一方、タービン30のタービン室31はタービンホイール32の回転軸心L1に沿って延設されている。また図1および図2に示すように、タービン30には上記タービンホイール32の外周において渦巻形状で延びる二本のスクロール通路(第1スクロール通路33および第2スクロール通路34)が形成されている。
【0027】
図1に示すように、これらスクロール通路33,34は、タービンホイール32の軸線L1方向において互いに並行して延びる形状に形成されている。またスクロール通路33,34はそれぞれ、上記タービン室31の周壁においてその全周にわたる円環形状で開口されている。なお本実施の形態では、上記二本のスクロール通路33,34のうち、上記タービン室31におけるガス(詳しくは、排気)の流れ方向上流側(以下、単に上流側)において開口される通路が第1スクロール通路33とされ、同ガス流れ方向下流側(以下、単に下流側)において開口される通路が第2スクロール通路34とされる。そして、第1スクロール通路33には内燃機関1の四つの気筒のうちの二つの気筒♯1,♯4から延びる排気通路3が接続される一方、第2スクロール通路34には残りの二つの気筒♯2,♯3から延びる排気通路3が接続される。
【0028】
上記ターボチャージャ10では次のようにして内燃機関1への過給が行われる。
ターボチャージャ10では、内燃機関1の排気が各スクロール通路33,34を介してタービンホイール32に吹き付けられると、タービンホイール32が排気流のエネルギを受けることによって回転する。そして、このタービンホイール32の回転がシャフト12を通じてコンプレッサ20のコンプレッサホイール22に伝達されて、同コンプレッサホイール22が回転する。これによりコンプレッサ20内では、コンプレッサホイール22の回転による遠心力の作用により、同コンプレッサ20の入口部20aからコンプレッサ室21に流入する吸気がスクロール通路23、ひいては内燃機関1の各気筒♯1〜♯4へと送られる。内燃機関1では、こうした排気の持つエネルギを利用した過給を行うことで、その出力向上を図っている。
【0029】
通常、二本のスクロール通路を有するターボチャージャでは、タービン内に形成される各スクロール通路が互いに干渉したりタービンに隣接するハウジング側に張り出したりしないように、タービンホイールの回転軸心におけるタービンの断面(以下、特定断面)において各スクロール通路の延びる方向が次のように設定される。すなわち、上記特定断面において各スクロール通路の延びる方向が、タービンホイールの回転軸心と直交する方向ではなく、同回転軸心に対して傾いた方向になるように設定されている。こうした構造を採用することにより、ターボチャージャの回転軸方向における長さを短くすることが可能になり、その搭載性が向上する。
【0030】
本実施の形態のターボチャージャ10は二本のスクロール通路33,34を備えるため、それらスクロール通路33,34の配置スペースに関する制限が厳しい。そのため各スクロール通路33,34の断面形状を同一にすることが困難であり、各スクロール通路33,34からタービンホイール32に吹き付けられるガスの量(ガス流量)に差が生じやすいと云える。そして、各スクロール通路33,34間におけるガス流量の差が大きくなると、内燃機関1の各気筒♯1〜♯4の排気ポートの圧力(背圧)のばらつきが大きくなって、気筒♯1〜♯4間における吸入空気量にばらつきが生じるため、内燃機関1の出力トルクの変動が大きくなってしまう。
【0031】
図3に、上記特定断面におけるタービンホイール32と各スクロール通路33,34との位置関係を模式的に示す。同図3では、第1スクロール通路33の断面積を「At1」、面積中心を「G1」、面積中心G1と回転軸心L1との距離を「Rt1」として示しており、第2スクロール通路34の断面積を「At2」、面積中心を「G2」、面積中心G2と回転軸心L1との距離を「Rt2」として示している。
【0032】
図3に示すように、各スクロール通路33,34の延設方向の各部においてタービンホイール32に吹き付けられるガスの量(ガス流量)を互いに等しくするためには、上記特定断面における各スクロール通路33,34の断面積At1,At2が互いに等しくなるように、各スクロール通路33,34の通路形状を設定すればよい。
【0033】
また、タービンホイール32に吹き付けられるガスによるタービン30の効率を各スクロール通路33,34間で等しくするためには、上記特定断面における各スクロール通路33,34についての上記断面積At1,At2および上記距離Rt1,Rt2の比が互いに等しくなるように、各スクロール通路33,34の通路形状を設定すればよい。詳しくは、比[At1/Rt1]と比[At2/Rt2]とが等しくなるように各スクロール通路33,34の通路形状を設定すればよい。
【0034】
さらには、上記断面積At1,At2および上記比[At1/Rt1],[At2/Rt2]を各スクロール通路33,34間で共に等しくするためには、特定断面における各スクロール通路33,34の断面形状が上記回転軸心L1と直交する直線を対称軸とする線対称の形状になるように、各スクロール通路33,34の通路形状を設定すればよい。
【0035】
各スクロール通路33,34は、ガスを圧縮しつつタービンホイール32に吹き付けるものであるために上流側に向かうほど通路断面積が大きく、第1スクロール通路33のセンターハウジング11側への過度の張り出しや各スクロール通路33,34の干渉を避けるための同スクロール通路33,34の配置スペースについての制約も大きくなる。
【0036】
従来のターボチャージャはいずれも、上流側の部分、すなわち最も配置スペースの制約が大きい部分に合わせて、各スクロール通路の各部の形状が定められている。詳しくは、上記特定断面において各スクロール通路が延びる方向を示す直線(詳しくは、各スクロール通路の間を仕切るように延びる直線)とタービンホイールの回転軸心とのなす角度のうち上記タービンホイールの先端部を含むほうの角度(図3のω参照)が比較的小さい一定の角度に設定される。そして、上記角度が一定に設定された条件のもとで、特定断面における上記断面積および上記比のいずれか一方のみを各スクロール通路間で等しくするといった設計思想で、各スクロール通路の通路形状が設定される。
【0037】
上記特定断面における各スクロール通路33,34の断面積が大きい上流側の部分においては、第1スクロール通路33のセンターハウジング11側への過度の張り出しや各スクロール通路33,34の干渉を避けるべく上記角度ω(図3における直線LBと回転軸心L1とのなす角度ω)を小さくせざるを得ない。したがって、上記特定断面での各スクロール通路33,34の断面形状を近似した形状にすることが難しく、上記断面積At1,At2および上記比[At1/Rt1],[At2/Rt2]の双方をスクロール通路33,34間において等しくしたり近い値にしたりすることは困難であると云える。
【0038】
これに対して、上記特定断面における各スクロール通路33,34の断面積が小さい下流側の部分においては、それらスクロール通路33,34の配置スペースの制約が小さい、すなわち設置スペースの余裕代が大きい。そのため前記角度ωを大きくすることが可能になり、上記特定断面における各スクロール通路33,34の断面形状を近似した形状にすることも可能になる。
【0039】
したがって、各スクロール通路33,34の下流側の部分における上記断面積At1,At2および上記比[At1/Rt1],[At2/Rt2]の双方を、上流側の部分と比較して近い値にすることが可能になる。あるいは、上記断面積At1,At2および上記比[At1/Rt1],[At2/Rt2]の一方を各スクロール通路33,34の延設方向の各部において等しく設定しつつ、他方を各スクロール通路33,34の下流側に向かうに連れて近い値にすることが可能になる。しかも場合によっては、上記特定断面における各スクロール通路33,34の下流側の部分の断面形状をタービンホイール32の回転軸心L1と直交する直線を対称軸とする線対称の形状にすることも可能になる。すなわち、各スクロール通路33,34の下流側の部分の通路形状を、上記断面積At1,At2および上記比[At1/Rt1],[At2/Rt2]の双方を各スクロール通路33,34間で等しくするうえで最適な形状に設定することが可能になる。
【0040】
こうした実情をふまえて、本実施の形態のターボチャージャ10では、上記特定断面において各スクロール通路33,34が延びる方向を示す直線LBとタービンホイール32の回転軸心L1とのなす角度のうち同タービンホイール32の先端部(図3の右側の端部)を含むほうの角度ωが、各スクロール通路33,34の下流側に向かうに連れて大きい角度になるように設定されている。これにより、前記特定断面における各スクロール通路33,34の断面形状を、その配置スペースの制限が小さい下流側の部分に向かうに連れて、上記断面積At1,At2および上記比[At1/Rt1],[At2/Rt2]の双方を各スクロール通路33,34間において等しくするうえで最適な形状に徐々に近づけることが可能になる。なお上記角度ωは、上記回転軸心L1の上記直線LBよりタービンホイール32の先端側の部分と同直線LBとのなす角度や、上記回転軸心L1の上記直線LBよりセンターハウジング11から離間する側の部分と同直線LBとのなす角度、といったように言い換えることができる。また上記角度ωは、上記回転軸心L1の上記直線LBとの交点よりタービンホイール32の先端側の部分と同直線LBとのなす角度などと言い換えることもできる。
【0041】
図4に、前記特定断面における各スクロール通路33,34の断面形状を模式的に示す。同図4において[A]は各スクロール通路33,34の図2中に矢印Aで示す部位における断面形状を示し、[B]は図2中に矢印Bで示す部位における断面形状を示し、[C]は図2中に矢印Cで示す部位における断面形状を示し、[D]は図2中に矢印Dで示す部位における断面形状を示す。また図5に、各スクロール通路33,34の延設方向の位置と前記角度ωと上記断面積Atと上記比[At/Rt]との関係を示す。同図5において、実線は本実施の形態のターボチャージャ10における各値の関係を示し、一点鎖線は各スクロール通路の延設方向の各部における上記角度ωが一定であり且つ上記比[At/Rt]が各スクロール通路間で互いに等しい比較例のターボチャージャにおける各値の関係を示す。
【0042】
図4および図5に示すように、本実施の形態では、各スクロール通路33,34の延設方向の各部における前記角度ωが下流側に向かうに連れて大きい角度になっている(図4[A]→図4[B]→図4[C]→図4[D])。なお図4から明らかなように、本実施の形態では、前記特定断面における第1スクロール通路33の面積中心G1および上記タービンホイール32側の開口部分を繋ぐ直線と前記回転軸心L1とのなす角度のうち同タービンホイール32の先端部を含むほうの角度も、各スクロール通路33,34の下流側に向かうに連れて大きくなる。また、前記特定断面における第2スクロール通路34の面積中心G2および上記タービンホイール32側の開口部分を繋ぐ直線と前記回転軸心L1とのなす角度のうち同タービンホイール32の先端部を含むほうの角度も、各スクロール通路33,34の下流側に向かうに連れて大きくなる。さらに本実施の形態では、第1スクロール通路33の前記特定断面における断面形状が上記面積中心G1とタービンホイール32側の開口とを繋ぐ直線を対称軸とする線対称の形状(具体的には、涙滴形状)になるように、第1スクロール通路33が形成されている。また、第2スクロール通路34の前記特定断面における断面形状が上記面積中心G2とタービンホイール32側の開口とを繋ぐ直線を対称軸とする線対称の形状(具体的には、涙滴形状)になるように、第2スクロール通路34が形成されている。
【0043】
また、図4および図5に示すように、本実施の形態では、前記特定断面における前記比[At1/Rt1],[At2/Rt2]が各スクロール通路33,34の延設方向の各部においてそれらスクロール通路33,34間で互いに等しくなる形状で各スクロール通路33,34が形成されている。図6に、各スクロール通路33,34からタービンホイール32へのガスの吹き付けによって得られるタービン効率と内燃機関1の吸入空気量との関係を示す。図6に示すように、第1スクロール通路33および第2スクロール通路34の各部における上記比[At1/Rt1],[At2/Rt2]としてはタービン効率を適正な値にするうえで最適な値が設定されているために、各スクロール通路33,34の間におけるタービン効率のばらつきが抑えられる。
【0044】
さらに、図4および図5に示すように、前記特定断面における第1スクロール通路33の断面積At1と第2スクロール通路34の断面積At2との差が各スクロール通路33,34の下流側に向かうに連れて小さくなる形状で(図4[A]→図4[B]→図4[C]→図4[D])、各スクロール通路33,34が形成される。そのため、各スクロール通路33,34の配置スペースの制約が小さい下流側の部分において、それらスクロール通路33,34の通路断面積、詳しくは上記特定断面における断面積At1,At2の差(=At1−At2)を、比較例のターボチャージャ(一点鎖線参照)と比較して小さくすることができる。
【0045】
図7に、タービン30の入口圧力および出口圧力の比(いわゆる膨張比)と各スクロール通路33,34を介してタービンホイール32に吹き付けられるガスによるタービン容量との関係を示す。なお図7において、実線は本実施の形態のターボチャージャ10における上記関係を示し、一点鎖線は各スクロール通路の延設方向の各部における上記角度ωが一定であり且つ上記比[At/Rt]が各スクロール通路間で互いに等しい比較例のターボチャージャにおける各値の関係を示す。
【0046】
本実施の形態のターボチャージャ10によれば、図7に実線で示すように、同図に一点鎖線で示す比較例のものと比較して、各スクロール通路33,34の下流側の部分において通路断面積の差が小さくなる分だけ、それらスクロール通路33,34間におけるガス流量のばらつき、ひいてはタービン容量のばらつきを抑えることができるようになる。
【0047】
また図4[D]に示すように、本実施の形態では、第1スクロール通路33および第2スクロール通路34の下流側の部分において、上記特定断面における各スクロール通路33,34の断面形状が前記タービンホイール32の回転軸心L1と直交する直線を対称軸とする線対称になる形状に形成されている。すなわち、各スクロール通路33,34の下流側の部分がそれらスクロール通路33,34の各部における上記断面積At1,At2および上記比[At1/Rt1],[At2/Rt2]を共に等しくするうえで最適な形状に形成されている。
【0048】
このように本実施の形態のターボチャージャ10によれば、タービン効率の低下抑制と各スクロール通路33,34間におけるガス流量のばらつきの抑制との両立を図ることができる。
【0049】
以上説明したように、本実施の形態によれば、以下に記載する効果が得られるようになる。
(1)タービンホイール32の回転軸心L1におけるタービン30の断面(特定断面)において各スクロール通路33,34の間を仕切るように延びる直線LBと同回転軸心L1とのなす角度のうち同タービンホイール32の先端部を含むほうの角度ωを、下流側に向かうに連れて大きい角度になるように設定した。これにより、特定断面における各スクロール通路33,34の断面形状を、その配置スペースの制限が小さい下流側の部分に向かうに連れて、上記断面積At1,At2および上記比[At1/Rt1],[At2/Rt2]の双方を各スクロール通路33,34間で等しくするうえで最適な形状に徐々に近づけることができる。そのため、タービン効率の低下抑制と各スクロール通路33,34間におけるガス流量のばらつきの抑制との両立を図ることができる。
【0050】
(2)前記特定断面における前記比[At1/Rt1],[At2/Rt2]を各スクロール通路33,34の延設方向の各部においてそれらスクロール通路33,34間で互いに等しくなる形状で各スクロール通路33,34を形成した。そのため、各スクロール通路33,34の各部における上記比[At1/Rt1],[At2/Rt2]としてタービン効率を適正な値にするうえで最適な値を設定することができ、それらスクロール通路33,34の間におけるタービン効率のばらつきを抑えることができる。しかも、前記特定断面における各スクロール通路33,34の断面積At1,At2の差が下流側に向かうに連れて小さくなる形状で、それらスクロール通路33,34を形成するようにした。そのため、各スクロール通路33,34の下流側の部分において通路断面積の差が小さくなる分だけ、それらスクロール通路33,34間におけるガス流量のばらつきを抑えることができるようになる。
【0051】
(3)各スクロール通路33,34の下流側の部分において、上記特定断面における各スクロール通路33,34の断面形状を前記タービンホイール32の回転軸心L1と直交する直線を対称軸とする線対称になる形状に形成した。そのため、各スクロール通路33,34の下流側の部分を上記断面積At1,At2および上記比[At1/Rt1],[At2/Rt2]を共に等しくするうえで最適な形状にすることができる。したがって、タービン効率の低下抑制と各スクロール通路33,34間におけるガス流量のばらつきの抑制とを好適に両立させることができる。
【0052】
(第2の実施の形態)
以下、本発明を具体化した第2の実施の形態にかかるターボチャージャについて、第1の実施の形態との相違点を中心に説明する。
【0053】
本実施の形態のターボチャージャは、第1スクロール通路および第2スクロール通路の通路形状のみが第1の実施の形態のターボチャージャと異なる。以下、本実施の形態のターボチャージャの各スクロール通路の通路形状について説明する。
【0054】
図8に、本実施の形態のターボチャージャ40の各スクロール通路43,44の断面形状であって、前記タービンホイール32の回転軸心L1におけるタービン30の断面(前記特定断面)における断面形状を模式的に示す。同図8において[A]は各スクロール通路43,44の図2中に矢印Aで示す部位における断面形状を示し、[B]は図2中に矢印Bで示す部位における断面形状を示し、[C]は図2中に矢印Cで示す部位における断面形状を示し、[D]は図2中に矢印Dで示す部位における断面形状を示す。また図9に、各スクロール通路43,44の延設方向の位置と前記角度ωと前記断面積Atと前記比[At/Rt]との関係を示す。同図9において、実線は本実施の形態のターボチャージャ40における各値の関係を示し、一点鎖線は各スクロール通路の延設方向の各部における上記角度ωが一定であり且つ上記断面積Atが各スクロール通路間で互いに等しい比較例のターボチャージャにおける各値の関係を示す。
【0055】
図8および図9に示すように、本実施の形態では、各スクロール通路43,44の延設方向の各部における前記角度ωが下流側に向かうに連れて大きい角度になっている(図8[A]→図8[B]→図8[C]→図8[D])。なお本実施の形態における角度ωは、前記特定断面において各スクロール通路43,44が延びる方向を示す直線LBとタービンホイール32の回転軸心L1とのなす角度のうち同タービンホイール32の先端部(図8の右側の端部)を含むほうの角度である。また図8から明らかなように、本実施の形態では、前記特定断面における第1スクロール通路43の面積中心G1および上記タービンホイール32側の開口部分を繋ぐ直線と前記回転軸心L1とのなす角度のうち同タービンホイール32の先端部を含むほうの角度も、各スクロール通路43,44の下流側に向かうに連れて大きくなる。また、前記特定断面における第2スクロール通路44の面積中心G2および上記タービンホイール32側の開口部分を繋ぐ直線と前記回転軸心L1とのなす角度のうち同タービンホイール32の先端部を含むほうの角度も、各スクロール通路43,44の下流側に向かうに連れて大きくなる。さらに本実施の形態では、第1スクロール通路43の前記特定断面における断面形状が上記面積中心G1とタービンホイール32側の開口とを繋ぐ直線を対称軸とする線対称の形状(具体的には、涙滴形状)になるように、第1スクロール通路43が形成されている。また、第2スクロール通路44の前記特定断面における断面形状が上記面積中心G2とタービンホイール32側の開口とを繋ぐ直線を対称軸とする線対称の形状(具体的には、涙滴形状)になるように、第2スクロール通路44が形成されている。
【0056】
また、図8および図9に示すように、本実施の形態では、前記特定断面における第1スクロール通路43の断面積At1と第2スクロール通路44の断面積At2とがそれらの延設方向の各部において互いに等しくなる形状で各スクロール通路43,44が形成されている。図10に、タービン30の入口圧力および出口圧力の比(いわゆる膨張比)と各スクロール通路43,44を介してタービンホイール32に吹き付けられるガスによるタービン容量との関係を示す。図10に示すように、本実施の形態のターボチャージャ40によれば、第1スクロール通路43および第2スクロール通路44の各部において、それらスクロール通路43,44間におけるガス流量のばらつき、ひいてはタービン容量のばらつきを抑えることができる。
【0057】
さらに、前記特定断面における前記比[At1/Rt1],[At2/Rt2]の各スクロール通路43,44間での差がそれらスクロール通路43,44の下流側に向かうに連れて小さくなる形状で(図8[A]→図8[B]→図8[C]→図8[D])、各スクロール通路43,44が形成される。
【0058】
そのため、各スクロール通路43,44の配置スペースの制約が小さい下流側の部分において、それらスクロール通路43,44の前記比[At1/Rt1],[At2/Rt2]の差を、比較例のターボチャージャ(一点鎖線参照)と比較して小さくすることができる。
【0059】
図11に、タービン30の入口圧力および出口圧力の比(いわゆる膨張比)と各スクロール通路43,44を介してタービンホイール32に吹き付けられるガスによるタービン容量との関係の一例を示す。なお図11において、実線は本実施の形態のターボチャージャ40における上記関係を示し、一点鎖線は各スクロール通路の延設方向の各部における上記角度ωが一定であり且つ上記断面積Atが各スクロール通路間で互いに等しい比較例のターボチャージャにおける各値の関係を示す。
【0060】
本実施の形態のターボチャージャ40によれば、図11に実線で示すように、同図に一点鎖線で示す比較例のものと比較して、各スクロール通路43,44の下流側の部分において前記比[At1/Rt1],[At2/Rt2]の差が小さくなる分だけ、それらスクロール通路43,44間におけるタービン効率のばらつきを抑えることができる。
【0061】
また図8[D]に示すように、本実施の形態のターボチャージャ40では、第1スクロール通路43および第2スクロール通路44の下流側の部分において、上記特定断面における各スクロール通路43,44の断面形状が前記タービンホイール32の回転軸心L1と直交する直線を対称軸とする線対称になる形状に形成されている。すなわち、各スクロール通路43,44の下流側の部分が上記断面積At1,At2および上記比[At1/Rt1],[At2/Rt2]の双方を等しくするうえで最適な形状に形成されている。
【0062】
このように本実施の形態のターボチャージャ40によれば、タービン効率の低下抑制と各スクロール通路43,44間におけるガス流量のばらつきの抑制との両立を図ることができる。
【0063】
以上説明したように、本実施の形態によれば、先の(1)および(3)に準じた効果に加えて、以下の(4)に記載する効果が得られるようになる。
(4)タービンホイール32の回転軸心L1におけるタービン30の断面(特定断面)での第1スクロール通路43の断面積At1と第2スクロール通路44の断面積At2とがそれらの延設方向の各部において互いに等しくなる形状で各スクロール通路43,44を形成した。そのため、第1スクロール通路43および第2スクロール通路44の各部において、それらスクロール通路43,44間におけるガス流量のばらつきを抑えることができる。しかも、前記特定断面における前記比[At1/Rt1],[At2/Rt2]の各スクロール通路43,44間での差がそれらスクロール通路43,44の下流側に向かうに連れて小さくなる形状で、各スクロール通路43,44を形成するようにした。そのため、各スクロール通路43,44の下流側の部分において前記比[At1/Rt1],[At2/Rt2]の差が小さくなる分だけ、それらスクロール通路43,44間におけるタービン効率のばらつきを抑えることができるようになる。
【0064】
(第3の実施の形態)
以下、本発明を具体化した第3の実施の形態にかかるターボチャージャについて、第1の実施の形態および第2の実施の形態との相違点を中心に説明する。
【0065】
本実施の形態のターボチャージャは、第1スクロール通路および第2スクロール通路の通路形状のみが第1の実施の形態および第2の実施の形態のターボチャージャと異なる。以下、本実施の形態のターボチャージャの各スクロール通路の通路形状について説明する。
【0066】
図12に、本実施の形態のターボチャージャ50についての各スクロール通路53,54の延設方向の位置と前記角度ω(図3参照)と前記断面積Atと前記比[At/Rt]との関係を示す。なお図12において、実線は本実施の形態のターボチャージャ40における上記関係を示し、一点鎖線は各スクロール通路の延設方向の各部における上記角度ωが一定であり且つ上記断面積Atが各スクロール通路間で互いに等しい第1比較例のターボチャージャにおける上記関係を示している。また、図12の二点鎖線は各スクロール通路の延設方向の各部における上記角度ωが一定であり且つ上記比[At/Rt]が各スクロール通路間で互いに等しい第2比較例のターボチャージャにおける上記関係を示している。
【0067】
図12に実線で示すように、本実施の形態のターボチャージャ50では、各スクロール通路53,54の延設方向の各部における前記角度ωが下流側に向かうに連れて大きい角度になっている。なお本実施の形態における角度ωは、前記特定断面において各スクロール通路53,54が延びる方向を示す直線LBとタービンホイール32の回転軸心L1とのなす角度のうち同タービンホイール32の先端部を含むほうの角度である。また本実施の形態のターボチャージャ50では、前記特定断面における第1スクロール通路53の面積中心G1および上記タービンホイール32側の開口部分を繋ぐ直線と前記回転軸心L1とのなす角度のうち同タービンホイール32の先端部を含むほうの角度も、各スクロール通路53,54の下流側に向かうに連れて大きくなっている。また、前記特定断面における第2スクロール通路54の面積中心G2および上記タービンホイール32側の開口部分を繋ぐ直線と前記回転軸心L1とのなす角度のうち同タービンホイール32の先端部を含むほうの角度も、各スクロール通路53,54の下流側に向かうに連れて大きくなっている。さらに、本実施の形態のターボチャージャ50では、第1スクロール通路53の前記特定断面における断面形状が上記面積中心G1とタービンホイール32側の開口とを繋ぐ直線を対称軸とする線対称の形状(具体的には、涙滴形状)になるように、第1スクロール通路53が形成されている。また、第2スクロール通路54の前記特定断面における断面形状が上記面積中心G2とタービンホイール32側の開口とを繋ぐ直線を対称軸とする線対称の形状(具体的には、涙滴形状)になるように、第2スクロール通路54が形成されている。
【0068】
また、本実施の形態のターボチャージャ50では、前記特定断面における第1スクロール通路53の断面積At1と第2スクロール通路54の断面積At2との差が各スクロール通路53,54の下流側に向かうに連れて小さくなる形状で、各スクロール通路53,54が形成される。これによりターボチャージャ50は、図12に一点鎖線で示す第1比較例のものと比較して、各スクロール通路53,54の配置スペースの制約が小さい上流側の部分において、それらスクロール通路53,54の通路断面積、詳しくは上記特定断面における断面積At1,At2の差(=At1−At2)が若干大きくなる。しかしながら、図12に二点鎖線で示す第2比較例のものと比較した場合には、各スクロール通路53,54の配置スペースの制約が小さい下流側の部分において、それらスクロール通路53,54の上記断面積At1,At2の差(=At1−At2)を小さくすることができる。
【0069】
図13に、タービン30の入口圧力および出口圧力の比(いわゆる膨張比)と各スクロール通路53,54を介してタービンホイール32に吹き付けられるガスによるタービン容量との関係を示す。なお図13において、実線は本実施の形態のターボチャージャ10における上記関係を示し、一点鎖線は第1比較例のターボチャージャにおける上記関係を示し、二点差線は第2比較例のターボチャージャにおける上記関係を示している。
【0070】
図13に実線で示すターボチャージャ50によれば、同図に一点鎖線で示す第1比較例のものと比較して、各スクロール通路33,34の上流側の部分において通路断面積の差が大きくなる分だけ、それらスクロール通路33,34間におけるガス流量のばらつきが若干大きくなってしまう。ただし、図12中に二点鎖線で示す第2比較例のものと比較した場合には、各スクロール通路33,34の下流側の部分において通路断面積の差が小さくなる分だけ、それらスクロール通路33,34間におけるガス流量のばらつきを小さくすることができる。
【0071】
さらに図12に実線で示すように、本実施の形態では、前記特定断面における前記比[At1/Rt1],[At2/Rt2]の各スクロール通路53,54間での差がそれらスクロール通路53,54の下流側に向かうに連れて小さくなる形状で、各スクロール通路43,44が形成される。これによりターボチャージャ50は、図12に一点鎖線で示す第1比較例のターボチャージャと比較して、各スクロール通路53,54の配置スペースの制約が小さい下流側の部分において、それらスクロール通路53,54間の前記比[At1/Rt1],[At2/Rt2]の差を小さくすることができる。なおターボチャージャ50では、図12に二点鎖線で示す第2比較例のターボチャージャと比較した場合に、各スクロール通路53,54の上流側の部分において、それらスクロール通路53,54間の前記比[At1/Rt1],[At2/Rt2]の差が若干大きくなる。
【0072】
図14に、タービン30の入口圧力および出口圧力の比(いわゆる膨張比)と各スクロール通路53,54を介してタービンホイール32に吹き付けられるガスによるタービン容量との関係の一例を示す。なお図14において、実線は本実施の形態のターボチャージャ10における上記関係を示し、一点鎖線は第1比較例のターボチャージャにおける上記関係を示し、二点鎖線は第2比較例のターボチャージャにおける上記関係を示している。
【0073】
図14に実線で示すターボチャージャ50によれば、同図12に一点鎖線で示す第1比較例のものと比較して、各スクロール通路53,54の下流側の部分において前記比[At1/Rt1],[At2/Rt2]の差が小さくなる分だけ、それらスクロール通路53,54間におけるタービン効率のばらつきを抑えることができる。なおターボチャージャ50では、図12に二点鎖線で示す第2比較例のターボチャージャと比較した場合に、各スクロール通路53,54の上流側の部分において、前記比[At1/Rt1],[At2/Rt2]の差が若干大きくなる分だけ、それらスクロール通路53,54間におけるタービン効率のばらつきも若干大きくなる。
【0074】
また、本実施の形態のターボチャージャ50では、第1スクロール通路53および第2スクロール通路54の下流側の部分において、上記特定断面における各スクロール通路53,54の断面形状が前記タービンホイール32の回転軸心L1と直交する直線を対称軸とする線対称になる形状に形成されている。すなわち、各スクロール通路53,54の下流側の部分がそれらスクロール通路53,54の各部における上記断面積At1,At2および上記比[At1/Rt1],[At2/Rt2]を共に等しくするうえで最適な形状に形成されている。
【0075】
このようにターボチャージャ50によれば、各スクロール通路の延設方向の各部における上記角度ωが一定であり且つ上記比[At/Rt]が各スクロール通路間で互いに等しい第1比較例のターボチャージャと比較して、各スクロール通路53,54間におけるタービン効率のばらつきを抑えることができる。しかもターボチャージャ50によれば、各スクロール通路の延設方向の各部における上記角度ωが一定であり且つ上記断面積Atが各スクロール通路間で互いに等しい第2比較例のターボチャージャと比較して、各スクロール通路53,54間におけるガス流量のばらつきを抑えることができる。したがって、タービン効率の低下抑制と各スクロール通路53,54間におけるガス流量のばらつきの抑制との両立を図ることができる。
【0076】
以上説明したように、本実施の形態によれば、先の(1)および(3)に準じた効果に加えて、以下の(5)に記載する効果が得られるようになる。
(5)第1比較例のターボチャージャと比較して各スクロール通路53,54間におけるタービン効率のばらつきを抑えることができ、第2比較例のターボチャージャと比較して各スクロール通路53,54間におけるガス流量のばらつきを抑えることができる。
【0077】
(他の実施の形態)
なお、上記各実施の形態は、以下のように変更して実施してもよい。
・各実施の形態において、前記特定断面における各スクロール通路の下流側の部分での断面形状を、タービンホイール32の回転軸心L1と直交する直線を対称軸とする線対称の形状以外の形状に設定してもよい。
【0078】
・各実施の形態において、各スクロール通路を、前記特定断面における断面形状がほぼ涙滴形状になる形状以外の形状で延設するようにしてもよい。この場合、各スクロール通路の下流側に向かうに連れて大きい角度に設定する設定対象としては、前記特定断面において各スクロール通路の間を仕切るように延びる直線とタービンホイール32の回転軸心L1とのなす角度に限らず、任意の角度を採用することができる。要は、上記特定断面において各スクロール通路の延びる方向とタービンホイール32の回転軸心L1とのなす角度を示す角度であればよい。具体的には、例えば以下の[角度ω1]や[角度ω2]、[角度ω3]などを採用することができる。
[角度ω1]第1スクロール通路の面積中心G1とタービンホイール32側の開口とを繋ぐ直線とタービンホイール32の回転軸心L1とのなす角度ω1。
[角度ω2]第2スクロール通路の面積中心G2とタービンホイール32側の開口とを繋ぐ直線とタービンホイール32の回転軸心L1とのなす角度ω2。
[角度ω3]上記角度ω1と角度ω2との平均になる角度ω3。
【0079】
・本発明は、各スクロール通路にそれぞれ二つの気筒が接続されるターボチャージャに限らず、それぞれ一つの気筒のみが接続されるターボチャージャや、それぞれ三つ以上の気筒が接続されるターボチャージャにも適用することができる。
【符号の説明】
【0080】
1…内燃機関、2…吸気通路、3…排気通路、10…ターボチャージャ、11…センターハウジング、12…シャフト、20…コンプレッサ、20a…入口部、21…コンプレッサ室、22…コンプレッサホイール、23…スクロール通路、30…タービン、31…タービン室、32…タービンホイール、33…第1スクロール通路、34…第2スクロール通路、40…ターボチャージャ、43…第1スクロール通路、44…第2スクロール通路、50…ターボチャージャ、53…第1スクロール通路、54…第2スクロール通路。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
タービンホイールの外周において渦巻形状で延びる二本のスクロール通路を介して前記タービンホイールにガスが吹き付けられるタービンと、同タービンに隣接して設けられて前記タービンホイールに一体固定されたシャフトが回転可能に支持されるハウジングとを備えるターボチャージャにおいて、
前記タービンホイールの回転軸心における前記タービンの断面において前記スクロール通路が延びる方向を示す直線と前記回転軸心とのなす角度のうち前記タービンホイールの先端部を含むほうの角度が前記スクロール通路のガス流れ方向下流側に向かうに連れて大きく設定されてなる
ことを特徴とするターボチャージャ。
【請求項2】
請求項1に記載のターボチャージャにおいて、
前記二本のスクロール通路は、前記断面における前記スクロール通路の面積中心および前記回転軸心の距離と前記スクロール通路の通路断面積との比が前記二本のスクロール通路の延設方向の各部において互いに等しくなる形状であり、且つ前記断面における前記二本のスクロール通路の断面積の差がガス流れ方向下流側に向かうほど小さくなる形状に形成されてなる
ことを特徴とするターボチャージャ。
【請求項3】
請求項1に記載のターボチャージャにおいて、
前記二本のスクロール通路は、前記断面における断面積がそれらスクロール通路の延設方向の各部において互いに等しくなる形状であり、且つ前記断面における前記スクロール通路の面積中心および前記回転軸心の距離と前記スクロール通路の通路断面積との比の差がガス流れ方向下流側に向かうほど小さくなる形状に形成されてなる
ことを特徴とするターボチャージャ。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか一項に記載のターボチャージャにおいて、
前記二本のスクロール通路は、そのガス流れ方向下流側の部分において前記断面における前記二本のスクロール通路の断面形状が前記回転軸心と直交する直線を対称軸とする線対称になる形状に形成されてなる
ことを特徴とするターボチャージャ。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか一項に記載のターボチャージャにおいて、
前記直線は、前記二本のスクロール通路の間を仕切るように延びる直線である
ことを特徴とするターボチャージャ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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