説明

ターボ分子ポンプ装置

【課題】外乱によって電源装置の自重により発生する慣性トルクをトルク反力構造で受けることにより、締結部のボルト径を細くする。
【解決手段】ターボ分子ポンプ装置10は、ポンプ本体11と、ポンプ本体11を駆動制御する電源装置14と、ポンプ本体11と電源装置14との間に介在して電源装置14を冷却する冷却装置13とを有する。冷却装置13と電源装置14との間の締結部には、外乱により作用するトルクの反力を取るトルク反力構造を設ける。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ターボ分子ポンプ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
ターボ分子ポンプ装置は、回転翼が形成されたロータをモータで回転駆動し、この回転翼を固定翼に対して高速回転させることにより気体分子を排気する。このようなターボ分子ポンプ装置は各種の真空処理装置に接続されて使用される。外乱などによりロータがポンプケーシングに接触すると、ポンプケーシングと真空処理装置とを締結するボルトに大きな剪断力が作用して、ポンプケーシングが真空処理装置に対して相対的に回転する(例えば、特許文献1)。また、ターボ分子ポンプ装置として、ポンプケーシングに水冷ジャケットを介して制御装置を接続しているものが知られている(例えば、特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2007−278163号公報
【特許文献2】特開2006−90251号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記特許文献1のように、ロータがポンプケーシングに接触したときにポンプケーシングが真空処理装置に対して回転して停止するとき、特許文献2に記載したターボ分子ポンプ装置では、ポンプケーシングと水冷ジャケットを締結するボルトや、水冷ジャケットと制御装置とを締結するボルトには、それぞれの自重に起因した慣性力による剪断力が働く。従来のターボ分子ポンプ装置では、かかる剪断力を考慮してボルト径を決定している。そのため、ボルト径が大きくなり、装置の小型化の妨げとなっている。
【課題を解決するための手段】
【0005】
(1)請求項1の発明によるターボ分子ポンプ装置は、ポンプ本体と、前記ポンプ本体を駆動制御する制御装置と、前記ポンプ本体と前記制御装置との間に介在して前記制御装置を冷却する冷却装置と、前記ポンプ本体と冷却装置との間の第1締結部、および前記冷却装置と前記制御装置との間の第2締結部のいずれか一方の締結部に設けられ、外乱により前記第1および第2の締結部に作用するトルクの反力を取るトルク反力構造とを備えたことを特徴とする。
(2)請求項2の発明は、請求項1に記載のターボ分子ポンプ装置において、前記ポンプ本体は、気体排気対象である真空処理装置に支持され、前記冷却装置と前記制御装置は前記ポンプ本体に支持され、前記第2締結部にのみ前記トルク反力構造を設けたことを特徴とする。
(3)請求項3の発明は、請求項1に記載のターボ分子ポンプ装置において、前記ポンプ本体は、気体排気対象である真空処理装置に支持され、前記冷却装置と前記制御装置は前記ポンプ本体とは別の固定部材に支持され、前記第1および第2締結部の双方に前記トルク反力構造を設けたことを特徴とする。
(4)請求項4の発明は、請求項1乃至3のいずれか1項に記載のターボ分子ポンプ装置において、前記ポンプ本体は、吸気側の第1ケーシングと、排気側の第2ケーシングとを有し、前記第1ケーシングおよび前記第2ケーシングとを締結する第3締結部にも前記トルク反力構造を設けたことを特徴とする。
(5)請求項5の発明は、請求項1乃至4項のいずれか1項に記載のターボ分子ポンプ装置において、前記ポンプ本体は、回転翼を含み磁気軸受で浮上する回転体と、前記回転翼と協働して真空排気する固定翼と、前記回転体を駆動するモータとを有し、前記制御装置は、前記モータおよび前記磁気軸受を制御する制御回路を含み、前記冷却装置は前記制御装置を冷却することを特徴とする。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、ポンプケーシングと冷却装置との締結部のボルト径および冷却装置と制御装置との締結部のボルト径のいずれか一方を小さくすることができるので、ターボ分子ポンプ装置の小型化に寄与する。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【図1】ターボ分子ポンプ装置の外観図
【図2】水冷ジャケットを説明する図であり、(a)は平面図、(b)は正面図、(c)は底面図
【図3】電源装置筐体を説明する図であり、(a)は平面図、(b)は正面図
【図4】図3のIV−IV線断面図
【図5】図3のV−V線断面図
【図6】図3のVI−VI線断面図
【図7】ジャケット本体と電源装置筐体との嵌め合わせ構造を説明する図
【図8】排気部ケーシングとジャケット本体との締結部に設けた嵌め合わせ構造を説明する図
【図9】ジャケット本体と電源装置筐体との嵌め合わせ構造の他の例を説明する図
【図10】排気部ケーシングとジャケット本体との嵌め合わせ構造の他の例を説明する図
【発明を実施するための形態】
【0008】
図1〜図7を参照して本発明の一実施形態であるターボ分子ポンプ装置10を説明する。図1は、本発明の一実施形態であるターボ分子ポンプ装置10の外観を示す。ターボ分子ポンプ装置10は、真空排気を行うポンプ本体11と、ベース12と、冷却装置13と、ポンプ本体11を駆動制御する制御装置(以下、電源装置と呼ぶ)14とを備えている。ポンプ本体11は、周知の構造であり詳細説明は省略するが、主に、回転翼を備えたロータと回転軸とから構成される回転体と、回転翼と協働する固定翼と、回転体を回転駆動するモータとを備えている。回転体は、5軸磁気軸受を構成する電磁石によって非接触支持される。磁気軸受によって回転自在に磁気浮上された回転体は、モータにより高速回転駆動され、回転翼を固定翼に対して高速回転させることにより、吸気ポート11Qに接続された真空処理装置(不図示)から気体分子を吸込み、バックポートが接続されている排気ポート12Hから排気している。
【0009】
電源装置14は、主に、モータを駆動制御するモータ駆動回路と、回転体を磁気浮上させる磁気軸受制御回路とを備えている。モータ駆動回路は、商用直流電源を昇圧するDC/DCコンバーターと、直流電力を交流電力に変換するインバータとを備え、モータはPWM制御により回転駆動される。磁気軸受制御回路は、5軸の位置センサからの位置信号を検出し、回転体をラジアル方向およびスラスト方向において位置制御するように5軸の電磁石に制御信号を印加する。5軸磁気軸受は、回転体の上部に設けられた一対のラジアル磁気軸受と、回転体の下部に設けられた一対のラジアル磁気軸受と、回転体の下部に設けられたスラスト磁気軸受とを有し、回転体を磁気浮上させる。
【0010】
冷却装置13は、ポンプ本体11と電源装置14との間に介装され、電源装置14内の発熱部材、特にモータ駆動回路の電子部品を主に冷却する。図2に示すように、冷却装置13は、内部に冷却水通路が形成されたジャケット本体13aと、冷却水通路に図示しないポンプから冷却水を循環するための冷却水入口13bおよび冷却水出口13cとを有する。
【0011】
ポンプ本体11はケーシング110を備え、ケーシング110には、図1において上下に接続用フランジ110UF,110LFが設けられている。ベース12はケーシング120を備え、ケーシング120には、図1において上下に接続用フランジ120UF,120LFが設けられている。ケーシング110と120をポンプケーシングと呼ぶ。ポンプ本体11の上部接続用フランジ110UFは図示しない真空処理装置の排気口にボルト11Bで接続される。ポンプ本体11の下部接続用フランジ110LFはベース12の上部接続用フランジ120UFにボルト12Bで接続される。ベース12の下部接続用フランジ120LFは冷却装置13の上面13USに設置され、冷却装置13はベース12の下面にボルト13Bで締結される。冷却装置13の下面は電源装置14の筐体140の上端面に当接し、電源装置14は筐体140により冷却装置13にボルト14Bで締結される。
【0012】
図2に示すようにジャケット本体13aは略8角形の平板形状であり、底面には、平面形状が略8角形の凸部13eが形成されている。ジャケット本体13aの外周には所定角度毎に突部13fが形成され、この突部13fに電源装置筐体140を締結するための孔13gが穿設されている。凸部13eには、ポンプ回転軸心と同心円状にねじ孔13hが螺設されている。図1に示すように、排気部12のケーシング120の下部接続フランジ120LFにジャケット上面13USを当接し、ボルト13Bをねじ孔13hに螺合することにより、ケーシング120にジャケット本体13aが締結される。ジャケット本体13aの裏面13LSに電源装置筐体140の上端面を当接してボルト14Bを電源装置筐体140のねじ孔に螺合することによりジャケット本体13aに電源装置14が締結される。
【0013】
図3を参照して電源装置筐体140を説明する。電源装置筐体140は、底付き(図4参照)の8角筒状に形成され、開放端14aには、図5および6にも拡大して示すように、その全周に略8角形環状凹部14bが設けられている。開放端14aの外周には所定角度毎に突部14cが形成され、この突部14cには、電源装置筐体140とジャケット本体13aとを締結するためのねじ孔14dが螺設されている。環状凹部14bには、図7に示すように、ジャケット本体13aの凸部13eが嵌め合わされる。すなわち、冷却装置13の凸部13eの8角形形状の周縁が、同じく略8角形環状凹部14bに嵌り込む。
【0014】
このように、一実施形態のターボ分子ポンプ装置10では、ジャケット本体13aと電源装置筐体140が、略8角形凸部13eおよび略8角形環状凹部14bで嵌め合わされ、トルク反力構造を形成する。外乱により、ポンプ本体11のロータがポンプケーシング内周面と接触する際の衝撃トルクにより、ポンプケーシング110が真空処理装置に対して相対的に回転して停止するとき、冷却装置13と電源装置14にはその自重に起因した慣性力が働き、排気部ケーシング120と冷却装置13との間の締結部(第1締結部)に慣性力によるトルクが作用する。また、冷却装置13と電源装置筐体140との間の締結部(第2締結部)にも慣性力によるトルクが作用する。電源装置14の自重による慣性トルクは略8角形環状凹部14bから、ジャケット本体13aの8角形凸部13eに伝達される。ジャケット本体13aはボルト13Bにより排気部ケーシング120に締結されているので、慣性力トルクによる剪断力はボルト13Bに作用する。その結果、ジャケット本体13aと電源装置筐体140を締結するボルト14Bには、上記慣性力による大きな剪断力は作用しない。したがって、ボルト14Bの径は、慣性力トルクを考慮する必要が無いので細くすることができる。
【0015】
以上の実施の形態によるターボ分子ポンプ装置を次のように変形することができる。
(1)冷却装置13と電源装置14を一体とみなせば、外乱時にポンプケーシング110が真空処理装置に対して回転して停止するとき、上記一体構造の重量による慣性トルクによって、排気部ケーシング120と冷却装置13との間の締結部のボルト13Bに剪断力が働くので、ボルト13Bの強度はこの剪断力を考慮して設計される。ボルト13Bの径を細くする目的で、図8に示すように、排気部ケーシング120と冷却装置13との間の締結部にも上述したようなトルク反力構造を設けることができる。
【0016】
図8を参照して説明する。ジャケット本体13aと排気部ケーシング120との間の締結部には、ジャケット本体13aと電源装置筐体140との嵌め合わせ構造と同様なトルク反力構造を設ける。トルク反力構造は、ジャケット本体13aの上面側に設けた8角形凹部13iと、排気部ケーシング120の下部フランジ120LFの底面に設けた8角形凸部12aとで構成される。
【0017】
(2)図9に示すように、電源装置筐体140の内周縁部に8角形環状凸部14eを設け、ジャケット本体13aの底面に8角形環状凹部13jを形成し、両者を嵌め合わせてトルク反力構造を形成してもよい。
【0018】
(3)図10は、ジャケット本体13aと排気部ケーシング120との締結部のトルク反力構造を示す。ジャケット本体13aの上面に8角形形状凸部13kを形成し、排気部ケーシング120の下部接続用フランジ120LFの底面に8角形凹部12bを設け、両者を嵌め合わせてトルク反力構造を形成してもよい。
【0019】
(4)ポンプ本体11のケーシング110と排気部12のケーシング120をボルト接続するようにしたが、このボルト接続部にも上述したようなトルク反力構造を設けることができる。
【0020】
(5)ポンプ本体11と排気部12とを一つのケーシングで兼用しても良い。
(6)トルク反力構造は、略八角形の凹部と凸部の嵌め合わせ構造としたが、四角形、五角形等、ロータ破壊時のトルクを吸収する形状であれば、どのような形状でもよい。
【0021】
(7)冷却装置13のジャケット本体13aと電源装置14の筐体140とを別々に鋳物で製作したが、ジャケット本体13aと筐体140とを一体化してもよい。この場合、冷却装置付き電源装置がベース12にボルト締結され、この締結部に上述したトルク反力構造を設ける。
【0022】
(8)ポンプ本体11と、排気部12と、冷却装置13と、電源装置14とを真空処理装置に吊持するようにしたが、電源装置14を真空処理装置とは別の固定部材にボルト締結しても良い。この支持構造のターボ分子ポンプ装置では、ロータがケーシング内周面に接触したときに発生する衝撃回転トルクは、ケーシング110からケーシング120へ伝達され、さらに冷却装置13から電源装置14へ伝達される。電源装置14は固定部材に固定されているので、冷却装置13から電源装置14に衝撃回転トルクが伝達され、このトルクにより、冷却装置13と電源装置14を締結するボルトに剪断力が働く。したがって、冷却装置13と電源装置14を締結する締結部に、トルク反力構造を設けるとよい。これにより、冷却装置13と電源装置14の締結部に用いるボルトの径を小さくすることができる。
【0023】
(9)以上説明した(8)の変形例においては、排気部12と冷却装置13とを締結する締結部に、トルク反力構造を設けてもよい。これにより、排気部12と冷却装置13の締結部に用いるボルトの径を小さくすることができる。
【0024】
(10)冷却装置13は水冷式としたが、空冷式でもよい。
【0025】
上述した各実施形態はそれぞれ単独に、あるいは組み合わせて用いても良い。それぞれの実施形態での効果を単独あるいは相乗して奏することができるからである。また、本発明の特徴を損なわない限り、本発明は上記実施の形態に何ら限定されるものではない。例えば、磁気軸受式でないターボ分子ポンプ装置にも適用可能である。
【符号の説明】
【0026】
10:ターボ分子ポンプ装置 11:ポンプ本体
11B:ボルト 12:排気部
12B:ボルト 13:冷却装置
13B:ボルト 14:電源装置
14B:ボルト 13e:8角形凸部
14b:8角形環状凹部


【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポンプ本体と、
前記ポンプ本体を駆動制御する制御装置と、
前記ポンプ本体と前記制御装置との間に介在して前記制御装置を冷却する冷却装置と、
前記ポンプ本体と冷却装置との間の第1締結部、および前記冷却装置と前記制御装置との間の第2締結部のいずれか一方の締結部に設けられ、外乱により前記第1および第2の締結部に作用するトルクの反力を取るトルク反力構造とを備えたことを特徴とするターボ分子ポンプ装置。
【請求項2】
請求項1に記載のターボ分子ポンプ装置において、
前記ポンプ本体は、気体排気対象である真空処理装置に支持され、
前記冷却装置と前記制御装置は前記ポンプ本体に支持され、
前記第2締結部にのみ前記トルク反力構造を設けたことを特徴とするターボ分子ポンプ装置。
【請求項3】
請求項1に記載のターボ分子ポンプ装置において、
前記ポンプ本体は、気体排気対象である真空処理装置に支持され、
前記冷却装置と前記制御装置は前記ポンプ本体とは別の固定部材に支持され、
前記第1および第2締結部の双方に前記トルク反力構造を設けたことを特徴とするターボ分子ポンプ装置。
【請求項4】
請求項1乃至3のいずれか1項に記載のターボ分子ポンプ装置において、
前記ポンプ本体は、吸気側の第1ケーシングと、排気側の第2ケーシングとを有し、
前記第1ケーシングおよび前記第2ケーシングとを締結する第3締結部にも前記トルク反力構造を設けたことを特徴とするターボ分子ポンプ装置。
【請求項5】
請求項1乃至4項のいずれか1項に記載のターボ分子ポンプ装置において、
前記ポンプ本体は、回転翼を含み磁気軸受で浮上する回転体と、前記回転翼と協働して真空排気する固定翼と、前記回転体を駆動するモータとを有し、
前記制御装置は、前記モータおよび前記磁気軸受を制御する制御回路を含み、
前記冷却装置は前記制御装置を冷却することを特徴とするターボ分子ポンプ装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2010−236469(P2010−236469A)
【公開日】平成22年10月21日(2010.10.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−87037(P2009−87037)
【出願日】平成21年3月31日(2009.3.31)
【出願人】(000001993)株式会社島津製作所 (3,708)
【Fターム(参考)】