説明

ターボ過給機付きディーゼルエンジンの制御装置

【課題】アクチュエータの操作により過給圧を能動的に制御可能なターボ過給機付きディーゼルエンジンにおいて、過渡運転時に吸気音を発生させないような過給圧制御を行う。
【解決手段】本制御装置は、エンジン回転数と燃料噴射量とに基づいて過給圧の第1の目標値を算出する。そして、過給圧センサの信号から算出した実過給圧を第1の目標値に近づけるようにフィードバック制御によってアクチュエータを操作する。ただし、過給圧変化率の大きさが所定の過給圧変化率基準より大きい場合のみ、実過給圧との差の大きさが第1の目標値と実過給圧との差の大きさよりも小さい第2の目標値を設定する。そして、第2の目標値が設定されている場合は、フィードバック制御の目標値を第1の目標値から第2の目標値に変更する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車用のターボ過給機付きディーゼルエンジンの制御装置に関し、特に、アクチュエータによるタービン回転数の制御によって過給圧を能動的に制御可能なターボ過給機付きディーゼルエンジンの制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
可変ノズルを有する可変容量ターボ過給機付きディーゼルエンジンでは、可変ノズルの開度によるタービン回転数の制御によって過給圧を能動的に制御することができる。そして、このようなターボ過給機付きディーゼルエンジンでは、エンジン回転数と燃料噴射量とから目標過給圧を決定し、過給圧センサの信号から算出される実過給圧が目標過給圧になるようにフィードバック制御によって可変ノズルを操作することができる。
【0003】
ところで、ターボ過給機付きディーゼルエンジンの制御においては、アクチュエータの操作量やエンジンの状態量に関してハード上の或いは制御上の様々な制約が存在している。それらの制約が満たされない場合、ハードの破損や制御性能の低下が生じるおそれがある。そして、それらの制約のうちの少なくとも一部は過給圧制御に関係することから、上記のフィードバック制御において用いられる目標過給圧は、それら制約とエンジンの応答性能とを同時に満たすことのできる値に設定されている。
【0004】
ただし、エンジン回転数ごと及び燃料噴射量ごとに目標過給圧を定める適合作業は、エンジンの定常運転下で行われるのが一般的である。エンジン回転数が上昇しているときのような過渡運転下も含めると適合作業に要する工数が膨大になってしまう。また、全ての過渡運転条件を想定して漏れなく目標過給圧の適合を行うことには無理がある。このため、エンジンが過渡運転下にあるときは、過給圧制御に関連する一部の制約が満たされなくなるおそれがある。そのような制約の1つが吸気音に関する制約である。一般的な車両では、エアクリーナの構造や材質の工夫などによって吸気音が外に漏れないようにされている。乗員が吸気音を耳にして不快感を覚えることのないようにするためである。しかし、過給圧が急変した場合には吸気口から吸気音が発生し、それが乗員の耳まで届く場合がある。このため、フィードバック制御で用いる目標過給圧は、吸気音が発生しない程度に若しくは吸気音の大きさが許容できる範囲に収まるように適合される。ところが、目標過給圧はエンジンの定常運転時で適合されたものであるため、エンジンが過渡運転下にある場合には、過給圧の急変によって大きな吸気音が発生してしまうおそれがある。よって、可変ノズルによって過給圧のフィードバック制御を行う場合には、過渡運転時において吸気音が発生しないような何らかかの対策が必要である。
【0005】
しかし、現在のところ、ターボ過給機付きディーゼルエンジンの過渡運転時に吸気音が発生することについて着目し、それを回避することのできる発明を提案している文献は見つかっていない。
【0006】
なお、過渡運転時の過給圧制御に関する発明を開示する文献としては、特開2010−185415号公報を挙げることができる。この公報には、オープンループ制御によって可変ノズルの開度を制御するものにおいて、加速時に生じうる過給圧のオーバーシュートを回避できるようにした過給圧制御の発明が開示されている。この公報に開示された発明によれば、定常運転時には、エンジン回転速度と燃料噴射量とに基づいて目標吸入空気量が算出され、目標吸入空気量に基づいて可変ノズルの目標開度が決められる。一方、加速時には、目標過給圧と実際の過給圧との偏差に基づいて目標吸入空気量偏差が算出され、目標吸入空気量偏差を吸入空気量に加算したものが過給機制御目標吸入空気量として算出される。そして、過給機制御目標吸入空気量に基づいて可変ノズルの目標開度が決められる。しかし、目標吸入空気量偏差のマップ値は適合によって定められるものであるから、適合作業に膨大な工数を要するという問題はこの公報に開示された発明も無関係ではない。また、適合作業時には想定していなかった過渡運転条件のもとでは、過給圧を適切に制御できずにオーバーシュートさせてしまう可能性がある。つまり、上記公報に開示された発明は過渡運転時に発生する問題の解決策として必ずしも有効であるとは言えない。よって、この発明を前述の吸気音に関する問題の解決策として応用することはできない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2010−185415号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、アクチュエータの操作により過給圧を能動的に制御可能なターボ過給機付きディーゼルエンジンにおいて、過渡運転時に吸気音を発生させないような過給圧制御を行うことを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記の課題を達成するために、本発明に係るターボ過給機付きディーゼルエンジンの制御装置は、以下の動作を行うように構成される。
【0010】
本発明の1つの形態によれば、本制御装置は、過給圧センサの信号からエンジンの実過給圧を算出するとともに、エンジン回転数と燃料噴射量とに基づいて過給圧の第1の目標値を算出する。そして、実過給圧を第1の目標値に近づけるようにフィードバック制御によって過給圧制御用のアクチュエータを操作する。過給圧制御用のアクチュエータには可変容量ターボ過給機の可変ノズルやウエストゲートバルブが含まれる。本制御装置による上記の動作は、定常運転時か過渡運転時かに関係なく行われる動作である。つまり、エンジンの運転状態を積極的に判定し、エンジンの運転状態が定常運転か過渡運転かで目標値を切り替えることはしない。ただし、次に説明する第2の目標値が設定されている場合のみ、本制御装置は、フィードバック制御の目標値を第1の目標値から第2の目標値に変更する。
【0011】
本制御装置は、実過給圧の変化率の大きさが所定の過給圧変化率基準より大きい場合、過給圧の第2の目標値を設定する。過給圧変化率基準は吸気音が発生しないことが保障される過給圧変化率の値である。本制御装置によれば、過給圧の第2の目標値は、実過給圧との差の大きさが第1の目標値と実過給圧との差の大きさよりも小さい値とされる。より好ましくは、過給圧変化率が正の値のときには、第2の目標値は実過給圧に過給圧変化率基準を加えた値とされ、過給圧変化率が負の値のときには、第2の目標値は実過給圧から過給圧変化率基準を差し引いた値とされる。
【発明の効果】
【0012】
本制御装置が以上のように動作することにより、過渡運転時において乗員が不快感を覚えるような吸気音の発生を防ぐことができる。特に、過給圧変化率が正の値となる加速時には実過給圧に過給圧変化率基準を加えた値を第2の目標値とすることで、実過給圧を確実に上昇させながら実過給圧の急激な上昇を抑えることができる。また、過給圧変化率が負の値となる減速時には実過給圧から過給圧変化率基準を差し引いた値を第2の目標値とすることで、実過給圧を確実に低下させながら実過給圧の急激な低下を抑えることができる。また、通常はエンジン回転速度と燃料噴射量とから決まる第1の目標値を使用し、所定の条件が満たされた場合にのみ上記の第2の目標値に変更することによれば、過渡運転条件ごとに膨大な工数の適合作業を行わなくて済み、また、どのような過渡運転条件下でも吸気音の発生を防ぐことができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明の実施の形態としてのエンジンシステムの構成を示す図である。
【図2】本発明の実施の形態の制御装置により実行される過給圧制御のためのルーチンを示すフローチャートである。
【図3】本発明の実施の形態の制御装置により実行される定常目標値の算出のためのルーチンを示すフローチャートである。
【図4】本発明の実施の形態の制御装置により実行される過渡目標値の算出のためのルーチンを示すフローチャートである。
【図5】本発明の実施の形態の制御装置により実行されるフィードバック制御の目標値の決定のためのルーチンを示すフローチャートである。
【図6】本発明の実施の形態の制御装置による制御結果を示す図である。
【図7】本発明の実施の形態の制御装置による制御結果を詳細に示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明の実施の形態について図を参照して説明する。
【0015】
図1は、本発明の実施の形態としてのエンジンシステムの構成を示す図である。本実施の形態のエンジンは、ターボ過給機付きのディーゼルエンジン(以下、単にエンジンという)である。エンジンの本体2には4つの気筒が直列に備えられ、気筒ごとにインジェクタ8が設けられている。エンジン本体2には吸気マニホールド4と排気マニホールド6が取り付けられている。吸気マニホールド4にはエアクリーナ20から取り込まれた新気が流れる吸気通路10が接続されている。吸気通路10にはターボ過給機のコンプレッサ14が取り付けられている。吸気通路10においてコンプレッサ14の下流にはディーゼルスロットル24が設けられている。吸気通路10においてコンプレッサ14とディーゼルスロットル24との間にはインタークーラ22が備えられている。排気マニホールド6にはエンジン本体2から出た排気ガスを大気中に放出するための排気通路12が接続されている。排気通路12にはターボ過給機のタービン16が取り付けられている。本実施の形態のターボ過給機は可変容量型であって、タービン16には可変ノズル18が備えられている。排気通路12においてタービン16の下流には排気ガスを浄化するための触媒装置26が設けられている。
【0016】
本実施の形態のエンジンは、排気系から吸気系へ排気ガスを再循環させるEGR装置を備えている。EGR装置は、吸気通路10におけるディーゼルスロットル24の下流の位置と排気マニホールド6とをEGR通路30によって接続している。EGR通路30にはEGR弁32が設けられている。EGR通路30においてEGR弁32の排気側にはEGRクーラ34が備えられている。EGR通路30にはEGRクーラ34をバイパスするバイパス通路36が設けられている。EGR通路30とバイパス通路36が合流する箇所には、排気ガスが流れる方向を切り替えるバイパス弁38が設けられている。
【0017】
本実施の形態のエンジンシステムはECU(Electronic Control Unit)50を備える。ECU50は、エンジンシステム全体を総合制御する制御装置である。ECU50は、エンジンシステムが備えるセンサの信号を取り込み処理する。センサはエンジンシステムの各所に取り付けられている。例えば、吸気通路10には、エアクリーナ20の下流にエアフローメータ58が取り付けられ、インタークーラ22の出口付近には吸気温センサ60が取り付けられ、ディーゼルスロットルの下流には過給圧センサ54が取り付けられている。また、排気マニホールド6には排気圧センサ56が取り付けられている。さらに、クランク軸の回転を検出する回転数センサ52や、アクセルペダルの開度に応じた信号を出力するアクセル開度センサ62なども取り付けられている。ECU50は、取り込んだ各センサの信号を処理して所定の制御プログラムにしたがって各アクチュエータを操作する。ECU50によって操作されるアクチュエータには、可変ノズル18、インジェクタ8、EGR弁32、ディーゼルスロットル24などが含まれている。なお、ECU50に接続されるアクチュエータやセンサは図中に示す以外にも多数存在するが、本明細書においてはその説明は省略する。
【0018】
ECU50により実行されるエンジン制御には過給圧制御とEGR制御とが含まれる。本実施の形態の過給圧制御では、過給圧センサ54の信号から算出された実過給圧が目標過給圧になるようにフィードバック制御によって可変ノズル18が操作される。EGR制御では、各種センサの信号から算出された実EGR率が目標EGR率になるようにフィードバック制御によってEGR弁32が操作される。これらのエンジン制御のうち、本実施の形態において特に特徴的であるのが過給圧制御である。ただし、本発明の実施にあたっては、過給圧制御におけるフィードバック制御の具体的な方法に関する限定はない。本実施の形態では、過給圧制御とEGR制御の両方において、実際値と目標値との差分に基づくPID制御が行われているものとする。本実施の形態で実行される過給圧制御は、目標過給圧の決定方法に特徴を有している。以下、これについてフローチャートを用いて説明する。
【0019】
図2のフローチャートは、本実施の形態でECU50により実行される過給圧制御のためのルーチンを示している。このルーチンではEGR制御も併せて行われる。過給圧制御のルーチンは、定常目標値を算出するステップS1と、過渡目標値を算出するステップS2と、最終的にフィードバック制御で用いる目標値(FB制御目標値)を決定するステップS3とから構成される。各ステップでは、それぞれ図3、図4及び図5のフローチャートに示すサブルーチンが実行される。
【0020】
図3のフローチャートは、過給圧制御ルーチンのステップS1で実行されるサブルーチンを示している。このサブルーチンでは、過給圧とEGR率のそれぞれについて定常目標値が算出される。定常目標値とは、エンジンの定常運転下で適合されたデータを用いて決定される目標値を意味する。
【0021】
このサブルーチンのステップS101では、回転数センサ52の信号からエンジン回転数が計測される。ステップS102では、アクセル開度センサ62の信号から得られたアクセル開度に応じて燃料噴射量が算出される。ステップS103では、過給圧センサ54の信号から実過給圧が算出される。なお、以降の説明では、実過給圧を“pim”と表記する場合がある。ステップS104では、エアフローメータ58の信号から実新気量が算出される。実新気量とは実際に気筒内に吸入される新気の量である。ステップS105では、過給圧センサ54及び吸気温センサ60の各信号並びに実新気量から実EGR率が算出される。以上のステップの処理は、定常目標値の算出に必要なデータを得るための処理である。したがって、各ステップの順番は適宜変更することもできる。
【0022】
定常目標値の算出はステップS106及びステップS107で行われる。ステップS106では、エンジン回転数と燃料噴射量とを引数とするマップより目標の過給圧が算出される。このステップで算出される目標過給圧は、エンジンの定常運転下で適合された目標値、すなわち、過給圧の定常目標値である。また、本発明における過給圧の第1の目標値でもある。定常目標値の算出に用いるマップは、エンジン回転数と燃料噴射量とをそれぞれ一定ずつ変化させながら定常運転下で試験して得られた適合データに基づき作成されている。なお、以降の説明では、過給圧の定常目標値を“pimtrgst”と表記する場合がある。ステップS107では、新気量に基づいて目標のEGR率が算出される。新気量と目標EGR率との関係は、EGR率がスモークを発生させない限界を超えない範囲内で、気筒内に吸入される空気の酸素濃度が狙いの値になるように決定されている。このステップで算出される目標EGR率は、エンジンの定常運転下で適合された目標値、すなわち、EGR率の定常目標値である。なお、狙いの吸入空気酸素濃度を実現する値とスモーク限界となる値との双方が算出され、どちらか小さい値がこの目標EGR率として設定されるようになっていてもよい。
【0023】
図4のフローチャートは、過給圧制御ルーチンのステップS2で実行されるサブルーチンを示している。このサブルーチンでは過給圧の過渡目標値が算出される。過渡目標値とは、エンジンの過渡運転時に満たされる可能性のある所定の条件に関し、その条件が満たされた場合にのみ設定される目標値である。また、本発明における過給圧の第2の目標値でもある。過給圧制御ルーチンのステップS1で算出される過給圧の定常目標値は、エンジンが定常運転下にある場合を前提にしている。このため、加速時や減速時のような過渡運転時には、過給圧制御に関連する何らかの制約が満たされなくなる場合がある。本実施の形態の過給圧制御において特に問題としているのは、吸気音に関する制約である。より詳しくは、過給圧の急変に伴う吸気音の発生を防止するための制約である。このサブルーチンでは、吸気音に関する制約が満たされなくなることを所定の条件が満たされているかどうかで予測する。そして、制約が満たされなくなることが予測される場合にのみ、その制約を確実に満たすことができる過給圧の目標値を過渡目標値として算出する。
【0024】
このサブルーチンのステップS201では、過給圧センサ54によって計測された過給圧の変化率“dpim”が正の値かどうか判定される。ここでいう過給圧の変化率とは、過給圧制御の時間ステップ(例えばエンジンの制御周期)当たりの過給圧の変化量を意味する。過給圧変化率“dpim”が正の値であればエンジンは加速状態にあり、過給圧変化率“dpim”が負の値であればエンジンは減速状態にある。過給圧変化率“dpim”が正の値の場合、ステップS202において過給圧変化率“dpim”が所定の過給圧変化率基準“dpimC”より大きいかどうか判定される。過給圧変化率基準“dpimC”は正の値であって、吸気音が発生する過給圧変化率の限界値よりも小さい値に設定されている。つまり、過給圧変化率基準“dpimC”は吸気音が発生しないことが保障される値に設定されている。したがって、過給圧変化率“dpim”が過給圧変化率基準“dpimC”よりも大きい場合には、近い将来、過給圧変化率が吸気音発生限界を超えてしまうことが予測される。そこで、ステップS202の条件が満たされた場合はステップS203の処理が行われる。ステップS203では、過給圧センサ54の信号から算出された実過給圧の値“pim”に過給圧変化率基準“dpimC”を加えた値が過給圧の過渡目標値“pimtrgk2”として設定される。また、過渡目標値が設定されたことを示すフラグk2の値が1にセットされる。一方、ステップS201の判定の結果、過給圧変化率“dpim”が負の値の場合は、ステップS204において過給圧変化率“dpim”が過給圧変化率基準“dpimC”に“−1”を乗じた値より小さいかどうか判定される。ステップS204の条件が満たされた場合はステップS205の処理が行われる。ステップS205では、過給圧センサ54の信号から算出された実過給圧の値“pim”から過給圧変化率基準“dpimC”を差し引いた値が過給圧の過渡目標値“pimtrgk2”として設定される。また、過渡目標値が設定されたことを示すフラグk2の値が1にセットされる。
【0025】
図5のフローチャートは、過給圧制御ルーチンのステップS3で実行されるサブルーチンを示している。このサブルーチンの最初のステップS301では、フラグk2の値が“1”にセットされているかどうか判定される。フラグk2の値が“1”であることは過給圧の過渡目標値が設定されていることを意味し、フラグk2の値が“0”であることは過渡目標値が設定されていないことを意味する。よって、フラグk2の値が“0”であるならば、ステップS303の処理が選択され、ステップS1で算出された過給圧の定常目標値“pimtrgst”がそのままFB制御目標値“pimtrg”として決定される。しかし、フラグk2の値が“1”であるならば、ステップS302の処理が選択され、ステップS2で算出された過給圧の過渡目標値“pimtrgk2”がFB制御目標値“pimtrg”として決定される。つまり、定常目標値から過渡目標値へ一時的なFB制御目標値の変更が行われる。
【0026】
以上説明した過給圧制御ルーチンがECU50により実行されることで、過渡運転時の過給圧の急激な変化は抑えられて乗員が不快感を覚えるような吸気音の発生を防ぐことができる。この効果は図6を用いて説明することができる。図6には加速時の過給圧制御に関して2つの制御結果が示されている。制御結果(A)は、常に定常目標値のみを用いて過給圧制御を行った結果、つまり、過渡目標値の設定を行わなかった場合の制御結果である。一方、制御結果(B)は、本実施の形態の過給圧制御によって過渡目標値が設定された場合の制御結果である。各制御結果の上段には、過給圧のFB制御目標値“pimtrg”と実過給圧“pim”の時間による変化を示すチャートが描かれている。このチャートにおいて白丸で示すデータがFB制御目標値“pimtrg”の時間ステップごとのデータであり、黒丸で示すデータが実過給圧“pim”の時間ステップごとのデータである。下段のチャートには、過給圧変化率“dpim”の時間ステップごとのデータが白丸で示されている。
【0027】
制御結果(A)では、過給圧変化率“dpim”が正方向へ急激に変化し、一時的ではあるが吸気音発生限界を超える状況が生じている。これは、過給圧のフィードバック制御の作用による。加速時には燃料噴射量の増量に応じてFB制御目標値“pimtrg”は増大されていく。このとき、ターボ過給機の過給遅れによってFB制御目標値“pimtrg”と実過給圧“pim”との差は一時的に拡大する。フィードバック制御はこの差を解消するように働き、可変ノズル18の開度を狭めることによってタービン回転数を上昇させ、ひいては、実過給圧“pim”を急激に上昇させる。その結果、過給圧変化率“dpim”が増大し吸気音発生限界を超える状況が生じることになる。
【0028】
これに対して制御結果(B)では、過給圧変化率“dpim”が過給圧変化率基準“dpimC”より大きくなった場合、FB制御目標値“pimtrg”は実過給圧“pim”に過給圧変化率基準“dpimC”を加えた値に変更される。このときのFB制御目標値“pimtrg”と実過給圧“pim”の時間ステップごとの変化と、過給圧変化率“dpim”の時間ステップごとの変化をそれぞれ詳細に示したものが図7である。図7では、時間ステップs2において過給圧変化率“dpim”が過給圧変化率基準“dpimC”を超えている。このため、次の時間ステップs3では、FB制御目標値“pimtrg”は過渡目標値、すなわち、前回の時間ステップs2での実過給圧“pim”に過給圧変化率基準“dpimC”を加えた値に変更される。これにより、時間ステップs3での実過給圧“pim”の上昇は抑えられ、過給圧変化率“dpim”は過給圧変化率基準“dpimC”を下回るようになる。過給圧変化率“dpim”が過給圧変化率基準“dpimC”を下回ったので、次の時間ステップs4でのFB制御目標値“pimtrg”はエンジン回転数と燃料噴射量とから算出される定常目標値へ戻される。しかし、その時間ステップs4での過給圧変化率“dpim”が再び過給圧変化率基準“dpimC”を超えたため、次の時間ステップs5では、FB制御目標値“pimtrg”は再び過渡目標値、すなわち、前回の時間ステップs4での実過給圧“pim”に過給圧変化率基準“dpimC”を加えた値に変更される。これにより、時間ステップs5での実過給圧“pim”の上昇は抑えられ、過給圧変化率“dpim”は再び過給圧変化率基準“dpimC”を下回るようになる。このように、過給圧変化率“dpim”が過給圧変化率基準“dpimC”を超えるたびにFB制御目標値“pimtrg”が過渡目標値に変更されることで、過給圧変化率“dpim”がさらに増大することは回避される。これにより、過給圧が上昇する加速時であっても乗員が不快感を覚えるような吸気音が発生することは防止される。図を用いた説明は省略するが、減速時においても加速時と同様の効果を得ることができる。
【0029】
ところで、本発明は上述の実施の形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々変形して実施することができる。例えば、第2の目標値である過渡目標値は、実過給圧との差の大きさが第1の目標値である定常目標値と実過給圧との差の大きさよりも小さい値であればよい。ある時間ステップにおいて過給圧変化率が過給圧変化率基準を超えた場合、少なくとも次の時間ステップでのFB制御目標値と実過給圧との差を今時間ステップでの差よりも小さくすることができれば、過給圧変化率のさらなる増大を抑えることができる。ただし、より好ましいのは、上述の実施の形態のように、過給圧変化率が正の値の場合には実過給圧に過給圧変化率基準を加えた値を第2の目標値として設定し、過給圧変化率が負の値の場合には実過給圧から過給圧変化率基準を差し引いた値を第2の目標値として設定することである。これによれば、実過給圧を確実に上昇或いは低下させながら実過給圧の急激な上昇或いは低下を抑えることができる。
【0030】
また、過給圧制御用アクチュエータとしては、可変ノズルの他にもウエストゲートバルブを用いることができる。ただし、その場合のウエストゲートバルブは、開度を連続的に或いは多段階に変化させることができるものが望ましい。
【符号の説明】
【0031】
2 エンジン本体
4 吸気マニホールド
6 排気マニホールド
8 インジェクタ
10 吸気通路
12 排気通路
14 コンプレッサ
16 タービン
18 可変ノズル
30 EGR通路
32 EGR弁
50 ECU
52 回転数センサ
54 過給圧センサ
56 排気圧センサ
58 エアフローメータ
60 吸気温センサ
62 アクセル開度センサ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アクチュエータの操作により過給圧を能動的に制御可能なターボ過給機付きディーゼルエンジンの制御装置において、
過給圧センサの信号から前記エンジンの実過給圧及び過給圧変化率を算出する手段と、
エンジン回転数と燃料噴射量とに基づいて過給圧の第1の目標値を算出する手段と、
前記実過給圧を前記第1の目標値に近づけるようにフィードバック制御によって前記アクチュエータを操作する手段と、
前記過給圧変化率の大きさが所定の過給圧変化率基準より大きい場合、前記実過給圧との差の大きさが前記前記第1の目標値と前記実過給圧との差の大きさよりも小さい第2の目標値を設定する手段と、
前記第2の目標値が設定されている場合、前記フィードバック制御の目標値を前記第1の目標値から前記第2の目標値に変更する手段と、
を備えることを特徴とするターボ過給機付きディーゼルエンジンの制御装置。
【請求項2】
前記第2の目標値を設定する手段は、前記過給圧変化率が正の値の場合には前記実過給圧に前記過給圧変化率基準を加えた値を前記第2の目標値として設定し、前記過給圧変化率が負の値の場合には前記実過給圧から前記過給圧変化率基準を差し引いた値を前記第2の目標値として設定することを特徴とする請求項1に記載のターボ過給機付きディーゼルエンジンの制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2013−92068(P2013−92068A)
【公開日】平成25年5月16日(2013.5.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−233099(P2011−233099)
【出願日】平成23年10月24日(2011.10.24)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】