説明

ダイオキシンの熱分解方法

【課題】エコセメント製造における焼却灰の使用により懸念されるダイオキシンを完全に分解する方法を提供する。
【解決手段】ダイオキシンを含む材料をダイオキシンの沸点以上の温度に加熱し、揮発したダイオキシンを含むガスを、セメント焼成用のロータリーキルン3に導入し、セメント焼成時の熱によりダイオキシンを加熱分解する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、ダイオキシンを熱分解して無害化する方法に関し、とくに焼却灰中に含有されるダイオキシンをセメントキルン中で効率よく熱分解する方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、都市ごみや一般廃棄物及び産業廃棄物は著しく増加し、これら廃棄物の有効利用、再資源化が各方面で試みられている。その一つの方法として、焼却場においてごみや産業廃棄物を焼却し、その焼却灰をセメント製造の原料にするいわゆるエコセメントとしての利用も鋭意研究されている。しかしながら、これらの焼却灰には通常かなりの量のダイオキシンが含有されており、この焼却灰中のダイオキシンをいかにして除去するか、あるいは分解するかが真剣に求められているところである。
【0003】
ダイオキシンは高温に加熱すると分解することは知られており、たとえば下記特許文献1には、ダイオキシンを窒素ガス中で熱分解する方法が開示されており、特許文献2には、焼却灰をコークス冷却炉の中段に装入してダイオキシンを分解する方法が開示されている。
本願出願人もまた、焼却灰を利用したエコセメントの製造およびその工程でのダイオキシンの除去についての出願をしているところである(特許文献3)。
【0004】
【特許文献1】特開平10−109076号公報
【特許文献2】特開平10−109080号公報
【特許文献3】特願平10−05814号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、これらの方法においてはロータリーキルンから排出されるキルンダストをバグフィルタで捕集し、残留物に吸着しているダイオキシンを別の加熱炉において加熱するものであり、新たな装置と熱源を必要とし、処理量も多く、いきおい処理コストも高くなる。
本発明は、これらの点をさらに解決すべくなされたものであり、ダイオキシンを鉛産物に濃縮させ、これから揮発したダイオキシンをロータリーキルンに導いて分解し、鉛産物は金属資源として再び利用可能とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
すなわち本発明は、ダイオキシンを含む材料をダイオキシンの沸点以上の温度に加熱し、揮発したダイオキシンを含むガスを、セメント焼成用のロータリーキルンに導入し、セメント焼成時の熱によりダイオキシンを加熱分解する方法を提供するものである。
【0007】
さらにまた本発明は、ダイオキシンを含む材料を減容し、ダイオキシンを濃縮することを特徴とする、前項に記載の方法を提供するものである。
【0008】
このように、本発明においては濃縮され、減容化された鉛産物に付着したダイオキシンを揮発させて高温のセメントキルンに導いて、そこで完全に分解させるものであるので、処理装置全体がコンパクトになり、新たな特別の熱源も不要であり、さらにダイオキシンを完全に無害化することができる。
【発明の効果】
【0009】
この発明によれば、都市ごみ焼却灰を原料にセメントを製造することができ、焼却灰の使用により懸念されるダイオキシンも完全に分解することができる。これらの焼却灰に含まれていた鉛成分や銅成分も有用な金属資源として再活用することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
従来の都市ごみ焼却灰を再利用資源として使用したいわゆるエコセメントの製造においては、乾燥、鉄分除去、粉砕等の予備処理をされた焼却灰は、目標とするクリンカ鉱物に応じて、石灰石、塩化カルシウムまたは炭酸ナトリウムとともに調合されロータリーキルンに装入される。キルン内に入った原料は焼成帯で1300〜1350℃以上に加熱され、クリンカとなり、冷却後、石膏とともに粉砕され、これに凝結調整剤を添加して、セメントが製造される。キルンからの排ガスにはロータリーキルン内で揮発した塩素、アルカリ、重金属と微量のセメント原料が含まれる。このうち、セメント原料は粗粒に含まれるため、サイクロンで除去し、キルン内に再度装入される。
【0011】
サイクロンで捕集されなかった細粉(以下、キルンダストという)には、重金属、塩素、アルカリ、焼却灰起源の未分解ダイオキシン等が含まれているので、バグフィルタでこれらを捕集し、回収されたキルンダストを加熱装置でダイオキシンの分解温度以上に加熱して、ダイオキシンを分解させ、残留する重金属等はさらに金属精錬装置に送られ、鉛産物あるいは銅産物として山元に還元されている。
【0012】
これに対し、本発明においては、バグフィルタで捕集、回収されたキルンダストを酸処理法により重金属精錬を行うと、鉛産物のほうにダイオキシンが完全に移行し、濃縮されることを見出したもので、この現象を利用して、コンパクトで、効率の良いダイオキシンの分解を行うものである。
またこのような本発明の思想は、単にキルンダスト中のダイオキシンの分解に止まらずダイオキシンを含有するその他の材料、たとえば一般の焼却灰、産業廃棄物等におけるダイオキシンの分解にも、本発明の思想を逸脱することなく適用できることは勿論である。
【0013】
焼却灰あるいはキルンダストを酸処理する方法は、鉛成分および銅成分を含有する混合物を精錬する通常の方法であれば、とくに限定されるものではない。一般的には、ダストの酸浸出により銅を主成分とする酸可溶成分を浸出し、残余の固形不溶成分としてダイオキシンを伴った鉛成分をフィルタープレス等により捕集する。
ろ液に含まれる銅成分は、カセイソーダによる中和、水硫化ソーダによる沈降、分離等を経て、固形の銅産物として山元に還元される。
【0014】
フィルタープレスから得られる鉛成分には、キルンダスト中に含まれるダイオキシンが濃縮されたかたちで全て捕捉されているので、この鉛産物を加熱装置でダイオキシンの揮発温度以上(好ましくは600℃以上)に加熱し、ダイオキシンを全て揮発させる。ダイオキシンは、置換塩素の数によりその融点および沸点が異なるが、最も置換塩素の多いものでも沸点は600℃以下である。したがって、揮発したダイオキシンを含むガスを、ロータリーキルンの一次空気とともに吹き込み、ロータリーキルン内で1500℃以上に加熱すれば、ダイオキシンは完全に分解される。
【0015】
このように本発明においては、たとえ新しい焼却灰がセメント原料として使用され、ロータリーキルンからのダストに随伴してダイオキシンがキルン外に出ても、後段で鉛成分とともに捕集され、再びロータリーキルンの燃焼部に送給され、高温で分解されるので、ダイオキシンが蓄積したり、系外に放出されたりすることはない。
加熱装置から排出される鉛産物は、ダイオキシンを全く含まないものとして、山元に還元される。
【0016】
以下に、本発明を都市ごみの焼却灰を利用したエコセメント製造工程に取り込んだ方法を例にとり、図1を参照して説明する。
図1においては、まず、乾燥、鉄分除去、粉砕等の予備処理をされた焼却灰は、石灰石とともに調合装置1に投入し、エアーで混合される。調合済みの原料は貯蔵タンク2に輸送される。ここで原料が計量され、スクリュウコンベヤ(図示せず)を経由してロータリーキルン3に装入される。目標とするクリンカ鉱物に応じて、原料調整剤として、フィーダ(図示せず)から塩化カルシウムまたは炭酸ナトリウムが原料に添加される。ロータリーキルン内に入った原料は焼成帯で1300〜1350℃以上に加熱され、クリンカとなり、クリンカクーラ4で冷却される。冷却後のクリンカ5は石膏とともに粉砕され、これに凝結調整剤を添加して、セメントが製造される。
【0017】
キルンバーナ6からは一次空気と重油が吹き込まれる。クーラファン7より吹き込まれた空気が、クリンカと熱交換し、高温となった空気とキルンバーナから吹き込まれた一次空気と重油とが混合され、燃焼される。燃焼排ガスは原料と熱交換され、キルンインレットフードで約800℃まで低下し、冷却ファン8より吹き込まれた空気でさらに瞬時に約400℃まで冷却され、冷却塔9で散水によって、280℃以下に冷却される。排ガスにはロータリーキルン内で揮発した塩素、アルカリ、重金属と微量のセメント原料が含まれる。このうち、セメント原料は粗粒に含まれるため、サイクロン10で除去し、キルン内に再度装入される。
【0018】
サイクロンで捕集されなかったキルンダストには、重金属、塩素、アルカリ、ダイオキシン等が含まれているので、バグフィルタ11でこれらを捕集する。バグフィルタを通過した排ガスは、排ガス処理装置12でNOxを除去した後、煙突13から大気中に放出される。
【0019】
バグフィルタで捕集されたキルンダスト14は、次の酸処理装置に入る。ダストはまず第1浸出槽15において硫酸酸性下、pH4で浸出され、沈降し、固液分離をし、銅成分を溶解した液と鉛やCa分を含む固形部分に分ける。固形部分は再び第2浸出槽16においてpH1で再度浸出、沈降、分離を繰り返して銅成分を極力分離し、フィルタープレス17により固形残分としての鉛産物を得る。
ろ液18に含まれる銅分は、カセイソーダによる中和、水硫化ソーダによる沈降、分離等を経て(図示せず)、固形の銅産物として山元に還元される。
【0020】
分離機から得られる鉛産物には、キルンダスト中に含まれていたダイオキシンが濃縮されたかたちで全て捕捉されているので、この鉛産物を加熱装置19、たとえば外熱式キルンでダイオキシンの揮発温度以上(好ましくは600℃以上)に加熱し、ダイオキシンを全て揮発させる。このダイオキシンの揮発のための熱源としては、ロータリーキルンの冷却部の熱交換による熱を使用することができる。
揮発したダイオキシンを含むガス20は、ロータリーキルンのバーナの一次空気とともに吹き込み、ロータリーキルン内で1500℃以上に加熱され、ダイオキシンは完全に分解される。
加熱装置から排出されるダイオキシンを含まない鉛産物21は、冷却された後、山元に還元される。
【実施例】
【0021】
図1に示した製造装置により実際に焼却灰を使用してセメントを製造し、そのバグフィルタで捕集したキルンダストを酸処理し、鉛産物に随伴したダイオキシンをロータリーキルンで分解した一例を以下に示す。ただし、単に一例を示すのみであり、この実施例によって本発明を限定するものではない。
【0022】
それぞれ以下の表1に示されるような成分を含む都市ごみ焼却灰43.3重量%、石灰粉54.5重量%、アルミ灰1.3重量%、粘土0.9重量%を原料としてロータリキルンで1250〜1450℃で焼成した。
【0023】
【表1】

【0024】
バグフィルタ11で回収されたキルンダストは、クリンカ100重量部に対して5重量部であり、その中のダイオキシン含有量は表2に示すとおり、ダスト1000g当たり100ngであった。
キルンダストは、次いで酸処理装置に入る。ダストはまず第1浸出槽15において硫酸酸性下、pH4で浸出され、沈降し、固液分離をし、銅成分を溶解した液と、鉛やCa成分を含む固形部分とに分けられた。固形部分は再び第2浸出槽16においてpH1で再度浸出、沈降、分離を繰り返して銅分を極力分離し、フィルタープレス17で固形残分としての鉛産物を得た。
ろ液に含まれる銅分は、カセイソーダによる中和、水硫化ソーダによる沈降、分離等を経て、固形の銅産物として山元に還元された。これにはもはやダイオキシンは検出されなかった。
【0025】
酸処理装置から得られた鉛産物および銅産物中のダイオキシンの濃度は、それぞれ以下の表2に示すとおりであり、ダイオキシンは完全に鉛産物側に移行していることが判る。
すなわち、キルンダストの酸処理の前と後における鉛産物、銅産物、およびダイオキシンを中心にした物質収支を測定してみると、次の表2のような結果を得た。
【0026】
【表2】

【0027】
分離機から得られる鉛産物には、キルンダスト中に含まれるダイオキシンが濃縮されたかたちで全て捕捉されているので、この鉛産物を外熱式キルンでダイオキシンの揮発温度以上(は600℃以上)に加熱し、ダイオキシンを全て揮発させた。加熱装置から排出される鉛産物はダイオキシンを全く含有せず、冷却した後、山元に還元された。
揮発したダイオキシンを含むガスは、ロータリーキルンの一次空気として吹き込み、ロータリーキルン内で1500℃以上に加熱され、ダイオキシンは完全に分解された。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】この発明の実施の形態に係るセメント製造工程におけるダイオキシン分解装置の構成を示す図である。
【符号の説明】
【0029】
1 調合装置
2 貯蔵ダンク
3 ロータリーキルン
4 クリンカクーラ
5 クリンカ
6 キルンバーナ
7 クーラファン
8 冷却ファン
9 冷却塔
10 サイクロン
11 バグフィルタ
12 排ガス処理装置
13 煙突
14 キルンダスト
15 第1浸出槽
16 第2浸出槽
17 フィルタプレス
18 銅成分のろ液
19 加熱装置
20 ダイオキシンガス
21 鉛産物

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ダイオキシンを含む材料をダイオキシンの沸点以上の温度に加熱し、揮発したダイオキシンを含むガスを、セメント焼成用のロータリーキルンに導入し、セメント焼成時の熱によりダイオキシンを加熱分解する方法。
【請求項2】
ダイオキシンを含む材料を減容し、ダイオキシンを濃縮することを特徴とする、請求項1に記載の方法。

【図1】
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【公開番号】特開2008−194688(P2008−194688A)
【公開日】平成20年8月28日(2008.8.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−32186(P2008−32186)
【出願日】平成20年2月13日(2008.2.13)
【分割の表示】特願平10−184758の分割
【原出願日】平成10年6月30日(1998.6.30)
【出願人】(000000240)太平洋セメント株式会社 (1,449)
【Fターム(参考)】