説明

ダイカストマシン

【課題】粉塵や霧状液に対する耐性が高く、低コストに製造できて良好な生産性を維持することができるダイカストマシンを提供する。
【解決手段】最大トルクが定格トルクの300%以上のビルトインモータ206と、当該モータ206の回転運動を可動部材の直進運動に変換するクランク機構207と、モータ206の駆動を制御する制御装置400とを備える。制御装置400は、モータ206の駆動を制御するために設定されたクランク機構の回転角を記憶しており、当該記憶された角度範囲ではモータ206を最高トルクで駆動し、これを除く角度範囲ではモータ206を定格トルクで駆動する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電動サーボモータにより駆動される型締装置を備えたダイカストマシンに係り、特に、電動サーボモータの回転運動をクロスヘッドの直進運動に変換する運動変換機構に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、油圧式のダイカストマシンのように工場内を作動油で汚さず、また、油圧式ダイカストマシンに比べて高精度の動作制御も容易であることから、可動部である射出装置、押出装置及び型締装置の駆動源として電動サーボモータを用いた電動式ダイカストマシンが普及しつつある(特許文献1,2参照。)。
【0003】
特許文献1に開示の技術は、成形品を金型から取り出すための押出プレートを電動サーボモータにて駆動するもので、電動サーボモータの回転運動をボールネジ機構にて直進運動に変換し、ボールネジ機構の直動部を可動部材である押出プレートに伝達する構成になっている。一方、特許文献2に開示の技術は、可動金型を取り付けた可動ダイプレートを電動サーボモータにて駆動するもので、電動サーボモータの回転運動をボールネジ機構にて直進運動に変換し、ボールネジ機構の直動部を倍力装置であるトグルリンク機構のクロスヘッドに伝達し、このトグルリンク機構の他端に連結された可動ダイプレートを直進運動させる構成になっている。
【0004】
ところで、ボールネジ機構は、ネジ軸と、これに螺合された直動部(ナット体)との噛み合いによって動力を伝達する機構であり、ネジ軸に異物が付着すると必然的に当該異物がネジ軸とナット体の噛み合い部に咬み込まれて噛み合い不良を生じるので、異物の付着に弱いという問題がある。しかるに、ダイカストマシンは、運転中に、アルミニウムなどの金属材料の細かい粉塵や、金型の離型面に吹き付けられる離型材の霧状液が周囲に飛び散るので、これらの粉塵や霧状液が、押出装置や型締装置のボールネジ機構に付着し易く、これらの寿命を短命化させたり、メンテナンスに多大の労力が必要になる。
【0005】
引用文献1,2に係る発明は、このような従来技術の問題点を解決するためになされたものであり、ボールネジ機構を含む必要箇所を密閉構造体の内部に収納することを特徴としている。
【特許文献1】特開2007−136518号公報
【特許文献2】特開2007−136519号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、ボールネジ機構を含む必要箇所を密閉構造体の内部に収納すると、部品点数やマシンの組み立てに要する労力が多くなるため、ダイカストマシンが高コスト化する。また、メンテナンス時に密閉構造体を分解・組立するための作業量が増えるため、ダイカストマシンの生産性が落ちるという問題もある。
【0007】
本発明は、上記の点に鑑みなされたもので、その目的とするところは、粉塵や霧状液に対する耐性が高く、低コストに製造できて良好な生産性を維持することができるダイカストマシンを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、この目的を達成するため、第1に、電動サーボモータと、前記電動サーボモータの回転運動をクロスヘッドの直進運動に変換する運動変換機構と、一端が前記クロスヘッドに連結され、他端が可動ダイプレートに連結されたトグルリンク機構と、前記電動サーボモータの駆動を制御する制御装置とを備えたダイカストマシンにおいて、前記運動変換機構として、前記電動サーボモータにより回転駆動される第1アームと、一端が前記第1アームに回転可能に結合されると共に、他端が前記クロスヘッドに回転可能に結合された第2アームとからなるクランク機構を用いるという構成にした。
【0009】
電動サーボモータの回転運動を可動部材の直進運動に変換する運動変換機構として、クランク機構を用いると、ボールネジ機構のように可動部が軸体の軸線方向に摺動しないので、ボールネジ機構を用いる場合に比べて、粉塵や霧状液に対する耐性を高めることができる。よって、運動変換機構の周囲全体を密閉構造体で覆う必要がなく、ダイカストマシンの低コスト化とメンテナンスの容易化を図ることができる。
【0010】
本発明は第2に、前記第1のダイカストマシンにおいて、前記制御装置は、前記可動ダイプレートに取り付けられた可動側金型と、該可動側金型と対向に配置された固定側金型との型閉開始から、これらの各金型が型開完了されるまでの所定期間だけ、前記電動サーボモータを定格トルク以上の出力トルクで駆動し、その他の期間では前記電動サーボモータを定格トルク又はそれ以下の出力トルクで駆動するという構成にした。
【0011】
電動サーボモータの出力トルクは、モータドライバ回路から供給されるモータ駆動電流によって変化し、電動サーボモータに定格電流以上のモータ駆動電流を供給した場合には定格トルク以上のトルクを出力させることができ、電動サーボモータに定格電流以下のモータ駆動電流を供給した場合には定格トルク以下のトルクを出力させることができる。但し、電動サーボモータを定格トルク以上の出力トルクで駆動する場合には、発熱による悪影響が発生するため、駆動時間が短時間に制限される。可動側金型と固定側金型が型閉開始されてから型開完了されるまでに最高トルクに近い出力が必要な時間は、短時間であるので、電動サーボモータを定格トルク以上の最高トルクに近い出力トルクで駆動することができる。このように、可動側金型と固定側金型が型閉されてから型開されるまでの期間だけ、電動サーボモータを定格トルク以上の出力トルクで駆動し、その他の期間では電動サーボモータを定格トルクで駆動すると、定格トルクが小さな小型のモータを用いて型締装置の駆動が可能になるので、型締装置、ひいてはダイカストマシンの小型化と低コスト化とを図ることができる。
【0012】
本発明は第3に、前記第1のダイカストマシンにおいて、前記電動サーボモータとして、最大トルクが定格トルクの300%以上の密閉式ビルトインモータを用いるという構成にした。
【0013】
ビルトインモータは、円筒形のモータ固定子内に円筒形のモータ回転子を組み込んだモータで、モータ回転子内に運動変換機構の回転部を挿入することができるので、電動サーボモータ及びその周辺部分を含むモータ設定部を省スペース化することができて、ダイカストマシンの小型化を図ることができる。また、型締装置に備えられる電動サーボモータは、可動側金型と固定側金型との間に所定の型締力を付与する短時間だけ大きな駆動力を出力するように駆動が制御されるので、最大トルクが定格トルクの300%以上のビルトインモータを用いると、定格トルクが小さい小型のビルトインモータを最大トルク又はそれに近い出力トルクで駆動することにより、可動部材であるクロスヘッドに所要の駆動力を付与できるので、電動サーボモータの小型化、ひいてはダイカストマシンのさらなる小型化と低コスト化とを図ることができる。加えて、内部構造物がケーシングにて密閉された密閉式ビルトインモータを用いると、粉塵や霧状液に対するビルトインモータの耐性を高めることができるので、ダイカストマシンの寿命を延長できると共に、そのメンテナンスを容易化することができる。
【0014】
本発明は第4に、前記第1のダイカストマシンにおいて、前記第1アームと前記第2アームの結合部、及び前記第2アームと前記押出プレートの結合部に、シール付ベアリングを備えるという構成にした。
【0015】
これらの各結合部には、回転を円滑にするためのベアリングが備えられるが、そのベアリングとしてシール付ベアリングを備えると、シールによってベアリング内への粉塵や霧状液の侵入をより確実に防止できるので、クランク機構の耐久性をより高めることができる。
【発明の効果】
【0016】
本発明のダイカストマシンは、電動サーボモータの回転運動を型締装置に備えられるクロスヘッドの直進運動に変換する運動変換機構として、クランク機構を用いるので、ボールネジ機構を用いる場合に比べて粉塵や霧状液に対する耐性を高めることができ、ダイカストマシンの低コスト化とメンテナンスの容易化を図ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下、本発明に係るダイカストマシンの実施形態を、図を用いて説明する。
【0018】
図1は実施形態に係るダイカストマシンの主要部の斜視図、図2は実施形態に係るダイカストマシンの内部構造を示す斜視断面図である。これらの図に示すように、本例のダイカストマシンは、射出装置100と、型締装置200と、押し出し装置300と、これらの各装置に備えられた各電動サーボモータの駆動を制御する制御装置400及び制御装置400から出力される指令信号に基づいて各電動サーボモータを駆動するドライバ回路401とを備えている。
【0019】
まず、実施形態に係るダイカストマシンの射出装置100について説明する。
【0020】
射出装置100は、図1〜図4に示すように、射出ユニットベース101の盤上に所定間隔を隔てて対向に配設されたヘッドストック102及びモータ取付板103と、モータ取付板103に取り付けられた第1射出用サーボモータ104と、ヘッドストック102とモータ取付板103との間に架け渡された4本の連結バー105と、連結バー105に案内されてヘッドストック102とモータ取付板103との間を前後進する直動体106と、軸受107を介してモータ取付板103に回転可能に保持され、第1射出用サーボモータ104によって回転駆動されるネジ軸108及びこのネジ軸108に螺合され、一端が直動体106に固定されたナット体109からなるボールネジ機構110と、直動体106の上面及び下面に取り付けられた第2射出用サーボモータ111及び第3射出用サーボモータ112と、図示しない軸受を介して直動体106に回転可能に保持され、第2及び第3の射出用サーボモータ111,112により回転駆動される第1アーム113と、一端が第1連結軸115(図5〜図7参照)に回転可能にピン結合された第2アーム116と、第2アーム116の先端に連結ピン117を介して回転可能にピン結合されたプランジャ118とから主に構成されている。各ピン結合部の軸受には、塵埃や霧状液の悪影響を回避するため、シール付きベアリングを用いることが特に望ましい。また、第1乃至第3の射出用サーボモータ104,111,112には、回転角検出センサであるロータリエンコーダ121,122,123が備えられる。
【0021】
図4に示すように、第1射出用サーボモータ104は、ケーシング104aと、ケーシング104aの内面に固定された円筒形のモータ固定子104bと、モータ固定子104bの外周に巻回されたモータコイル104cと、モータ固定子104b内に配置された円筒形のモータ回転子104dと、モータ回転子104dの外面に取り付けられたモータ磁石104eとから構成されており、モータ回転子104dの内周に連結部材119を介してネジ軸108が連結されている。したがって、制御装置400の指令信号に基づいてドライバ回路401から出力されるモータ駆動電流を第1射出用サーボモータ104に通電すると、モータ回転子104d及び連結部材119を介してネジ軸108が回転駆動され、これに螺合されたナット体109を介して、直動体106がネジ軸108の軸方向に移動される。
【0022】
同じく図4に示すように、第2射出用サーボモータ111は、ケーシング111aと、ケーシング111aの内面に固定された円筒形のモータ固定子111bと、モータ固定子111bの外周に巻回されたモータコイル111cと、モータ固定子111b内に配置された円筒形のモータ回転子111dと、モータ回転子111dの外面に取り付けられたモータ磁石111eとから構成されており、第3射出用サーボモータ112は、ケーシング112aと、ケーシング112aの内面に固定された円筒形のモータ固定子112bと、モータ固定子112bの外周に巻回されたモータコイル112cと、モータ固定子112b内に配置された円筒形のモータ回転子112dと、モータ回転子112dの外面に取り付けられたモータ磁石112eとから構成されている。これら第2及び第3の射出用サーボモータ111,112のモータ回転子111d,112dは、第1アーム113と連結されている。したがって、制御装置400の指令信号に基づいてドライバ回路401から出力されるモータ駆動電流を第2及び第3の射出用サーボモータ111,112に通電すると、モータ回転子111d,112dにより第1アーム113が回転駆動され、これに連結された第2アーム116を介して、プランジャ118がネジ軸108の軸線方向に移動される。
【0023】
プランジャ118の先端部は、図5〜図7に示すように、型締装置200を構成する固定ダイプレート201に固定されたスリーブ201a内に摺動可能に収納されている。また、固定ダイプレート201には、スリーブ201a内に連通する溶湯注入孔201bが開設されている。したがって、プランジャ118を後退させた状態で、溶湯注入孔201bからスリーブ201a内に溶湯を注入した後、プランジャ118を前進させると、スリーブ201a内に注入された溶湯が、固定側金型208に開設されたランナー208aを通って、固定側金型208と可動側金型209とを型締することにより形成される金型キャビティ210内に射出され、所望形状の成形品のダイカストが行われる。
【0024】
この点についてより詳細に説明すると、図5に示す待機位置において、ボールネジ機構110のナット体109は、ネジ軸108の基端側(第1射出用サーボモータ104側)に移動しており、第1アーム113の第1連結軸115は、第1アーム113の回転中心から見て右上45°の方向に停止されている。射出工程が開始されると、制御装置400の指令信号に基づいてドライバ回路401から出力されるモータ駆動電流が第1射出用サーボモータ104に通電され、モータ回転子104dとネジ軸108とが一体的に回転する。これにより、図6に示すように、ナット体109、直動体106、第2及び第3の射出用サーボモータ111,112及びプランジャ118が一体的に先端側(金型側)に移動する。
【0025】
第1射出用サーボモータ104の回転量が予め定められた値に達すると、制御装置400の指令信号に基づいてドライバ回路401から出力されるモータ駆動電流が第2及び第3の射出用サーボモータ111,112に通電され、モータ回転子111d,112dと第1アーム113とが一体的に回転する。これにより、図7に示すように、第2アーム116及びプランジャ118が一体的に先端側に移動する。本実施形態においては、第1連結軸115が、第1アーム113の回転中心から見て左上45°の方向になるまで、第2及び第3の射出用サーボモータ111,112が回転駆動される。このように、第1連結軸115を、第1アーム113の回転中心から見て、右上45°の方向から左上45°の方向になるまで移動させることにより、第2アーム116及びプランジャ118を高速で先端側に移動することができる。
【0026】
したがって、プランジャ118の前進速度は、図8に示すように、第1射出用サーボモータ104の駆動力のみによるときには低速となり、第1乃至第3の射出用サーボモータ104,111,112の合計駆動力によるときには高速となる。
【0027】
このように、本例のダイカストマシンは、第1乃至第3の射出用サーボモータ104,111,112によってプランジャ118の駆動を行うので、従来のようにアキュムレータ及び油圧管路を必要とせず、構造の簡略化が図れると共に、プランジャ118の速度制御を厳密化することができる。また、高速運転時において、第2及び第3の射出用サーボモータ111,112の駆動力を、第1アーム113及び第2アーム116からなるクランク機構を介してプランジャ118に伝達するので、溶湯の射出及び増圧に必要な所定の射出速度(例えば、最高速度6000mm/sec)及び所定の推力(例えば、160KN)を実現することができる。
【0028】
なお、前記実施形態においては、直動体106に2つの射出用サーボモータ111,112を搭載したが、プランジャ118の移動速度や推力に余裕がある場合には、いずれか一方の射出用サーボモータのみを備えれば足りる。
【0029】
また、前記実施形態においては、第1射出用サーボモータ104の回転運動を、直動体106、第2射出用サーボモータ111及び第3射出用サーボモータ112の直進運動に返還する運動変換機構として、ボールネジ機構110を用いたが、かかる構成に代えて、第1射出用サーボモータ104によって回転駆動され得る第1アームと、一端がこの第1アームの第1連結軸と回転可能にピン結合され、他端が直動体106に回転可能にピン結合された第2アームと、各ピン結合部に設けられたシール付きベアリングとからなるクランク機構を用いることもできる。かかる構成によると、運動変換機構の塵埃や霧状液に対する耐性を高めることができるので、ダイカストマシンの低コスト化とメンテナンスの容易化を図ることができる。
【0030】
次に、実施形態に係るダイカストマシンの型締装置200について説明する。
【0031】
実施形態に係る型締装置200は、図9及び図10に示すように、図示しない成形機のベッド上に固定される固定ダイプレート201及びテールストック202と、両端がこれら固定ダイプレート201及びテールストック202に固定された複数本のタイバー203と、タイバー203に案内されて固定ダイプレート201とテールストック202との間で前後進する可動ダイプレート204と、テールストック202と可動ダイプレート204とを連結するトグルリンク機構205と、テールストック202に搭載された型開閉及び型締用の駆動源である電動サーボモータ(型締用サーボモータ)206と、電動サーボモータ206の回転運動を直進運動に変換してトグルリンク機構205に伝達するクランク機構207とを備えている。固定ダイプレート201には、固定側金型208が搭載され、可動ダイプレート204には、可動側金型209が搭載される。なお、型締用サーボモータ206には、回転角検出センサであるロータリエンコーダが備えられる(図示省略)。
【0032】
トグルリンク機構205は、一端側がテールストック202に回動可能にピン結合されたBリンク211と、一端側が可動ダイプレート204に回動可能にピン結合されると共に、他端側がBリンク211の他端側と相対的に回動するようにピン結合されたAリンク212と、クランク機構207を介して電動サーボモータ206の駆動力を受けるクロスヘッド213と、一端がクロスヘッド213に回動可能にピン結合されると共に、他端側がBリンク211の中間部と相対的に回動するようにピン結合されたCリンク214とからなる。なお、O1はテールストック202に対するBリンク211のピン結合部、O2はBリンク211に対するAリンク212のピン結合部、O3はBリンク211に対するCリンク214のピン結合部、O4は可動ダイプレート204に対するAリンク212のピン結合部、O5はクロスヘッド213に対するCリンク214のピン結合部を示している。これらの各ピン結合部O1〜O5には、塵埃や霧状液の悪影響を回避するため、シール付きベアリングを備えることが望ましい。このように、本例のトグルリンク機構205は、Aリンク212とBリンク211とCリンク214とを有し、5つのピン結合部O1〜O5をもつ5点軸支構造のリンク機構となっているが、本発明の要旨はこれに限定されるものではなく、他の形式のトグルリンク機構を備えることも勿論可能である。
【0033】
型締用サーボモータ206としては、前述の第1〜第3の射出用サーボモータ104,111,112と同様に、ケーシングと、ケーシングの内面に固定された円筒形のモータ固定子と、モータ固定子の外周に巻回されたモータコイルと、モータ固定子内に配置された円筒形のモータ回転子と、モータ回転子の外面に取り付けられたモータ磁石とをもって構成される密閉式のビルトインモータであって、最大トルクが定格トルクの300%以上のものが用いられる。
【0034】
クランク機構207は、回転軸221aが型締用サーボモータ206のモータ回転子に連結された第1アーム221と、一端が第1アーム221に形成された第1連結軸(偏心軸)222に回転可能にピン結合され、他端がクロスヘッド213に形成された第2連結軸224に回転可能にピン結合された第2アーム223とから構成される。これらの各ピン結合部O7,O8には、粉塵等の影響をより小さいものにするため、シール付きベアリングを備えることが望ましい。
【0035】
図9は型開状態におけるクランク機構207の状態を示す図であり、図10は型閉状態におけるクランク機構207の状態を示す図である。図9に示すように、型開状態においては、型締用サーボモータ206(第1アーム221)の回転中心O6を介して、その両側に第1連結軸222と第2アーム223とのピン結合部O7及び第2アーム223とクロスヘッド213とのピン結合部O8が配置されており、クランク機構207は、折り畳まれた状態になっている。これに対して、図10に示すように、型閉状態においては、型締用サーボモータ206(第1アーム221)の回転中心O6と、第1連結軸222と第2アーム223とのピン結合部O7と、第2アーム223とクロスヘッド213とのピン結合部O8とがこの順に配置されており、クランク機構207は、展開した状態になっている。
【0036】
制御装置400は、型締用サーボモータ206の駆動トルクを制御するための第1アーム221の回転角を記憶しており、この記憶された回転角の範囲では、型締用サーボモータ206を定格トルク以上、例えば最高トルクで駆動し、その他の角度範囲では、型締用サーボモータ206を定格トルク又はそれ以下の出力トルクで駆動する。これにより、必要なタイミングで、型締装置200に所要の型締力を付与することができる。
【0037】
例えば、第1連結軸222と第2アーム223とのピン結合部O7と、第1アーム221の回転中心O6と、第2アーム223とクロスヘッド213とのピン結合部O8とがこの順に一直線上に並ぶとき(図9参照)の第1アームの回転角θを0°とし、図11に示すように、固定側金型208と可動側金型209とが型閉するときの第1アーム221の回転角θをα1°、固定側金型208と可動側金型209との間に所要の型締力を付与したときの第1アーム221の回転角θをβ1°として設定し、α1°≦θ≦β1°の角度範囲では、曲線Tm1で示すように型締用サーボモータ206を定格トルク以上の例えば最高トルクで駆動し、α1°≦θ≦β1°を除く角度範囲では、曲線Ts1で示すように型締用サーボモータ206を定格トルク又はそれ以下の出力トルクで駆動することにより、固定側金型208と可動側金型209の型閉を静粛に行えると共に、射出工程を実施するに必要な型締力P1を固定側金型208と可動側金型209との間に付与することができる。
【0038】
かかる構成にすると、型締用サーボモータ206の回転運動を可動ダイプレート204の直進運動に変換する運動変換機構として、シール付きベアリングを備えたクランク機構207を用いるので、ボールネジ機構を用いる場合に比べて粉塵や霧状液に対する耐性を高めることができる。よって、クランク機構207の周囲を密閉構造体で覆う必要がなく、かつメンテナンスに要する労力を低減できるので、ダイカストマシンの低コスト化とメンテナンスの容易化を図ることができる。また、型締用サーボモータ206として、最高トルクが定格トルクの300%以上のモータを備えると共に、制御装置400に型締用サーボモータ206の駆動を制御するための第1アーム221の回転角θ=α1°,β1°を設定し、α1°≦θ≦β1°の角度範囲では型締用サーボモータ206を定格トルク以上の出力トルクで駆動し、α1°≦θ≦β1°を除く角度範囲では型締用サーボモータ206を定格トルク又はそれ以下の出力トルクで駆動するので、定格トルクが小さな小型モータを用いて必要な型締力が得られ、ダイカストマシンの小型化と低コスト化とを図ることができる。
【0039】
次に、実施形態に係るダイカストマシンの押出装置300について説明する。
【0040】
実施形態に係る押出装置300は、図12乃至図15に示すように、押出プレート301と、押出プレート301に植設された複数本の押出ピン302と、押出プレート301の駆動源である電動サーボモータ(押出用サーボモータ)303と、押出用サーボモータ303の回転運動を直進運動に変換して押出プレート301に伝達するクランク機構304とからなる。押出プレート301及びクランク機構304は、可動ダイプレート204に形成された押出装置収納空間305内に配置され、押出ピン302は、可動ダイプレート204に開設されたピン挿通孔306内に貫通配置される。なお、押出用サーボモータ303には、回転角検出センサであるロータリエンコーダが備えられる(図示省略)。
【0041】
押出用サーボモータ303としては、型締用サーボモータ206と同様に、ケーシングと、ケーシングの内面に固定された円筒形のモータ固定子と、モータ固定子の外周に巻回されたモータコイルと、モータ固定子内に配置された円筒形のモータ回転子と、モータ回転子の外面に取り付けられたモータ磁石とをもって構成される密閉式のビルトインモータであって、最大トルクが定格トルクの300%以上のものが用いられる。
【0042】
クランク機構304は、図12に示すように、押出用サーボモータ303のモータ回転子に連結された第1アーム311と、一端が第1連結軸312に回転可能にピン結合され、他端が押出プレート301に回転可能にピン結合された第2アーム313と、これらの各ピン結合部O10,O11に設けられた図示しないシール付きベアリングとから構成される。
【0043】
図13は押出開始前のクランク機構304の状態を示す図、図14は押出中のクランク機構304の状態を示す図、図15は押出終了時のクランク機構304の状態を示す図である。図13に示すように、押出開始前においては、押出用サーボモータ303(第1アーム311)の回転中心O9を介して、その両側に第1連結軸312と第2アーム313とのピン結合部O10及び第2アーム313と押出プレート301とのピン結合部O11が配置されており、この状態から、押出用サーボモータ303を駆動して、第1アーム311を回転すると、図14に示すように、押出ピン302の先端部が可動側金型209に開設されたピン挿通孔307に挿入され、図示しない金型の押出プレートを介して、成形品の押し出しが行われる。次いで、図15に示すように、押出用サーボモータ303(第1アーム311)の回転中心O9と、第1連結軸312と第2アーム313とのピン結合部O10と、第2アーム313と押出プレート301とのピン結合部O11がこの順に配置される位置まで押出用サーボモータ303の駆動が継続され、可動側金型209から成形品が取り出される。成形品の押し出しは、可動側金型209から成形品が剥離するまでの期間で大きな押圧力を必要とし、その他の期間では、押出プレート301を単独で押圧するだけの小さな押圧力で足りる。
【0044】
制御装置400は、押出用サーボモータ303の駆動トルクを制御するための第1アーム311の回転角を記憶しており、この記憶された回転角の範囲では、押出用サーボモータ303を定格トルク以上、例えば最高トルクで駆動し、その他の角度範囲では、押出用サーボモータ303を定格トルク又はそれ以下の出力トルクで駆動する。これにより、必要なタイミングで、押出装置300に所要の押出力を付与することができる。
【0045】
例えば、第1連結軸312と第2アーム313とのピン結合部O10と、第1アーム311の回転中心O9と、第2アーム313と押出プレート301とのピン結合部O11がこの順に一直線上に並ぶとき(図13参照)の第1アームの回転角θを0°とし、図16に示すように、金型に備えられた図示しない押出プレートの先端部が成形品の表面に当接するときの第1アーム311の回転角θをα2°、可動側金型209から成形品が剥離するときの第1アーム311の回転角θをβ2°として設定し、α2°≦θ≦β2°の角度範囲では、曲線Tm2で示すように押出用サーボモータ303を定格トルク以上の例えば最高トルクで駆動し、α2°≦θ≦β2°を除く角度範囲では、曲線Ts2で示すように押出用サーボモータ303を定格トルク又はそれ以下の出力トルクで駆動することにより、成形品の剥離に必要な大きな押出力P2を押出プレート301に付与することができる。
【0046】
かかる構成にすると、押出用サーボモータ303の回転運動を押出プレート301の直進運動に変換する運動変換機構として、シール付きベアリングを備えたクランク機構304を用いるので、ボールネジ機構を用いる場合に比べて粉塵や霧状液に対する耐性を高めることができる。よって、クランク機構304の周囲を密閉構造体で覆う必要がなく、かつメンテナンスに要する労力を低減できるので、ダイカストマシンの低コスト化とメンテナンスの容易化を図ることができる。また、押出用サーボモータ303として、最高トルクが定格トルクの300%以上のモータを備えると共に、制御装置400に押出用サーボモータ303の駆動を制御するためのクランクの回転角θ=α2°,β2°を設定し、α2°≦θ≦β2°の角度範囲では押出用サーボモータ303を定格トルク以上の例えば最高トルクで駆動し、α2°≦θ≦β2°を除く角度範囲では押出用サーボモータ303を定格トルク又はそれ以下の出力トルクで駆動するので、定格トルクが小さな小型モータを用いて必要な押出力が得られ、ダイカストマシンの小型化と低コスト化とを図ることができる。
【0047】
なお、前記実施形態においては、押出装置300を備え、この押出装置300にて成形品を可動側金型209から押し出す構成にしたが、本発明の要旨はこれに限定されるものではなく、射出装置100に備えられたプランジャ118によって成形品を押圧し、成形品を固定側金型208から取り出す構成にすることもできる。
【図面の簡単な説明】
【0048】
【図1】実施形態に係るダイカストマシンの主要部の斜視図である。
【図2】実施形態に係るダイカストマシンの内部構造を示す斜視断面図である。
【図3】実施形態に係る射出装置の内部構造を示す斜視断面図である。
【図4】実施形態に係る射出装置の内部構造を示す断面図である。
【図5】実施形態に係る射出装置の待機時の状態を示す断面図である。
【図6】実施形態に係る射出装置の射出時の状態を示す断面図である。
【図7】実施形態に係る射出装置の射出終了時の状態を示す断面図である。
【図8】実施形態に係る射出装置に備えられたプランジャの1成形サイクル内の速度変化を示すグラフ図である。
【図9】実施形態に係る型締装置の型開状態を示す説明図である。
【図10】実施形態に係る型締装置の型閉状態を示す説明図である。
【図11】型締工程におけるクランク角とクランク機構の出力との関係、及びクランク角と型締力との関係を示すグラフ図である。
【図12】実施形態に係る押出装置の構成を示す断面図である。
【図13】押出開始前のクランク機構の状態を示す図である。
【図14】押出中のクランク機構の状態を示す図である。
【図15】押出終了時のクランク機構の状態を示す図である。
【図16】押出工程におけるクランク角とクランク機構の出力との関係、及びクランク角と押出力との関係を示すグラフ図である。
【符号の説明】
【0049】
100 射出装置
104 第1射出用サーボモータ
111 第2射出用サーボモータ
112 第3射出用サーボモータ
113 第1アーム
115 第1連結軸
116 第2アーム
118 プランジャ
200 型締装置
204 可動ダイプレート
205 トグルリンク機構
206 型締用サーボモータ
207 クランク機構
300 押出装置
301 押出プレート
302 押出ピン
303 押出用サーボモータ
304 クランク機構
400 制御装置
401 モータドライバ回路

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電動サーボモータと、前記電動サーボモータの回転運動をクロスヘッドの直進運動に変換する運動変換機構と、一端が前記クロスヘッドに連結され、他端が可動ダイプレートに連結されたトグルリンク機構と、前記電動サーボモータの駆動を制御する制御装置とを備えたダイカストマシンにおいて、
前記運動変換機構として、前記電動サーボモータにより回転駆動される第1アームと、一端が前記第1アームに回転可能に結合されると共に、他端が前記クロスヘッドに回転可能に結合された第2アームとからなるクランク機構を用いたことを特徴とするダイカストマシン。
【請求項2】
前記制御装置は、前記可動ダイプレートに取り付けられた可動側金型と、該可動側金型と対向に配置された固定側金型との型閉開始から、これらの各金型が型開完了されるまでの所定期間だけ、前記電動サーボモータを定格トルク以上の出力トルクで駆動し、その他の期間では前記電動サーボモータを定格トルク又はそれ以下の出力トルクで駆動することを特徴とする請求項1に記載のダイカストマシン。
【請求項3】
前記電動サーボモータとして、最大トルクが定格トルクの300%以上の密閉式ビルトインモータを用いたことを特徴とする請求項1に記載のダイカストマシン。
【請求項4】
前記第1アームと前記第2アームの結合部、及び前記第2アームと前記押出プレートの結合部に、シール付ベアリングを備えたことを特徴とする請求項1に記載のダイカストマシン。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【公開番号】特開2010−12500(P2010−12500A)
【公開日】平成22年1月21日(2010.1.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−175878(P2008−175878)
【出願日】平成20年7月4日(2008.7.4)
【出願人】(000222587)東洋機械金属株式会社 (299)
【Fターム(参考)】