説明

ダイカスト品の製造方法

【課題】クランクシャフトを回転自在に支持するための半円状支持面を備えたダイカスト品を高品質で製造する。
【解決手段】内燃機関のクランクシャフトを回転自在に支持するための半円状支持面10を備えたダイカスト品の製造方法において、ダイカストを行う際に、半円状支持面10の頂上部10a付近の溶湯又は半円状支持面10に対して反対側の面における前記頂上部10aに対向した部分付近の溶湯を、加圧ピン21によって局所的に加圧する。また、半円状支持面10に円柱状の加圧用ボス22を突設し、該加圧用ボス22における溶湯に加圧ピン21を半円状支持面10に達しない程度に進入させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、内燃機関のクランクシャフトを回転自在に支持するための半円状支持面を備えたダイカスト品を製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
エンジンのシリンダブロックやロアケース(ラダーフレームやベアリングキャップとも呼ばれる)は、一般的にはダイカスト法によって鋳造される。これらのダイカスト品には、クランクシャフトを回転自在に支持するための半円状支持面が形成されている。この半円状支持面を有する軸受け部には十分な強度が求められるが、肉厚を大きくすると鋳巣が発生する可能性が高くなる。鋳巣が発生すると、シリンダブロックにおいて重要な特性である疲労強度が低下することになる。
【0003】
これに対し下記特許文献1では、ダイカスト時において、半円状支持面の両側に位置するネジ孔形成箇所における溶湯を加圧棒によって局所的に加圧することによって、ネジ孔形成箇所における結晶組織を改善するということが提案されている。しかしながら、半円状支持面を有する軸受け部のうちシリンダ内の爆発によって特に大きな力が作用する部分は、半円状支持面の頂上部から径方向に延長した延長線上の部分であり、この部分からネジ孔形成箇所は大きく離れている。従って、ネジ孔形成箇所を局所的に加圧しても、その加圧による効果は半円状支持面の頂上部付近には及ばない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開昭63−16848号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
それゆえに本発明は上記従来の問題点に鑑みてなされ、クランクシャフトを回転自在に支持するための半円状支持面を備えたダイカスト品を高品質で製造することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は上記課題を解決すべくなされたものであって、本発明に係るダイカスト品の製造方法は、内燃機関のクランクシャフトを回転自在に支持するための半円状支持面を備えたダイカスト品の製造方法において、ダイカストを行う際に、半円状支持面の頂上部付近の溶湯又は半円状支持面に対して反対側の面における前記頂上部に対向した部分付近の溶湯を、加圧ピンによって局所的に加圧することを特徴とする。尚、半円状支持面に対して反対側の面とは、半円状支持面を正面とした場合における背面のことである。
【0007】
該ダイカスト品の製造方法では、ダイカスト時に溶湯を加圧ピンで局所的に加圧する。加圧ピンで加圧する箇所は、半円状支持面の頂上部付近、又は、半円状支持面に対して反対側の面における前記頂上部に対向した部分付近である。半円状支持面の頂上部付近の溶湯を加圧する場合には、半円状支持面側から加圧ピンを頂上部付近に向けて押し出すことになる。また、半円状支持面に対して反対側の面における前記頂上部に対向した部分付近の溶湯を加圧する場合には、半円状支持面とは反対側の面側から加圧ピンを頂上部に対向した部分付近に向けて押し出すことになる。従って、半円状支持面の頂上部から径方向に延長した延長線上の部分に、加圧ピンによる加圧力が直接的に作用することになる。
【0008】
特に、半円状支持面の頂上部付近の溶湯を加圧ピンによって局所的に加圧する場合においては、半円状支持面に円柱状の加圧用ボスを突設し、該加圧用ボスにおける溶湯に加圧ピンを半円状支持面に達しない程度に進入させることにより前記頂上部付近の溶湯を加圧し、ダイカスト後に加圧用ボスを加工により除去することが好ましい。加圧用ボスを突設してその加圧用ボスにおける溶湯に加圧ピンを進入させることにより効率的に加圧することができる。そして、半円状支持面はダイカスト後において切削加工等の加工処理が行われるので、その加工時に、加圧用ボスを同時に除去することができる。
【0009】
更に、加圧用ボスの根元部に余肉部を設け、ダイカスト後に加圧用ボスと余肉部を除去することが好ましい。余肉部を設けることにより加圧用ボスにおける溶湯が凝固しにくくなって加圧ピンを進入させるタイミングを調整しやすくなり、加圧ピンの移動制御が容易になる。
【0010】
特に、加圧用ボスの突出高さの略半分まで余肉部を設けることが好ましい。余肉部の量が多すぎると、加圧用ボスを介して作用させる加圧力が分散しやすい。余肉部を加圧用ボスの突出高さに対して略半分程度とすることにより、効率良く加圧力を作用させることができる。また、加工範囲を少なくすることができ、生産性を向上させることができる。
【発明の効果】
【0011】
以上のように、シリンダ内の爆発によって特に大きな力が作用する部分に加圧ピンによる加圧力を直接的に作用させることができるので、その部分における内部組織を効率良く改善でき、ダイカスト品の疲労強度を向上することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明の一実施形態における製造方法によって製造されるダイカスト品の一例を示す要部正面図。
【図2】図1のI−I線断面図。
【図3】同ダイカスト品の鋳造途中の状態を示す図1のI−I線に対応した断面図。
【図4】同ダイカスト品の鋳造後の状態を示す要部正面図。
【図5】同ダイカスト品の鋳造後の状態を示す要部側面図。
【図6】図4のI−I線断面図。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の一実施形態にかかるダイカスト品の製造方法について図面を参酌しつつ説明するが、まずは本実施形態における製造方法によって製造するダイカスト品について説明する。
【0014】
本実施形態の製造対象であるダイカスト品は、水平対向型エンジンのシリンダブロックである。図1に左右一対のシリンダブロックのうちの一方を、両シリンダブロックの合わせ面側から見た図として示している。このシリンダブロック1は、アルミニウム合金製であり、水平対向型四気筒エンジン用のものであるため、シリンダボア2が二つ形成されている。該シリンダブロック1は、図示しないクランクシャフトのジャーナル部を回転自在に支持するための軸受け壁3(軸受け部)を複数備えている。該軸受け壁3は、クランクシャフトの軸線方向を厚み方向とする板状であって、そのクランクシャフトの軸線方向に沿って間隔をあけて複数配置されている。尚、本実施形態においては軸受け壁3が合計五箇所に形成されているが、五箇所のうち四箇所の軸受け壁3はシリンダボア2に対向する位置に形成され、残る一箇所の軸受け壁3はシリンダボア2から離れた位置に形成されている。これらの軸受け壁3には、図2にも示しているように、クランクシャフトのジャーナル部を回転自在に支持するための半円状支持面10がそれぞれ形成されている。また、軸受け壁3の半円状支持面10の両側には、他方のシリンダブロックと重なり合う重ね合わせ面11が形成され、該重ね合わせ面11にはネジ孔12が形成されている。図2は、シリンダボア2に対向した位置に形成された軸受け壁3の一つを示している。図2に示しているように、シリンダボア2の壁面には鋳鉄製等のシリンダライナー13が鋳込まれている。
【0015】
このシリンダブロック1においては、半円状支持面10の頂上部10aから径方向に延長した延長線上の部分において特に大きな応力が作用することになる。図2に半円状支持面10の頂上部10aから径方向に延長した延長線14を示している。該延長線14上の部分20において大きな応力が作用するため、該部分20における鋳巣の発生を可及的に抑制して内部品質を向上させることが重要となる。
【0016】
次に、シリンダブロック1の製造方法について説明すると、まず、ダイカスト用金型30を用いてシリンダブロック1を鋳造する。その際、図3に示すように、半円状支持面10の頂上部10aに向けて加圧ピン21で加圧するようにする。加圧ピン21は、上述した延長線14に沿って図示せぬ油圧シリンダによって移動させるようにする。詳細には、半円状支持面10の頂上部10aから径方向に沿って円柱状の加圧用ボス22を成形するようにし、その加圧用ボス22における溶湯に加圧ピン21を進入させる。図3においては加圧ピン21は右側から左側へと進入する。尚、加圧用ボス22の突出高さは例えば半円状支持面10の半径程度とする。加圧ピン21は、その先端が半円状支持面10に到達しない程度に進入させる。また、加圧用ボス22の根元部には余肉部23を形成している。該余肉部23は加圧用ボス22の根元部の外周面と半円状支持面10との間を埋めるようにして形成し、加圧用ボス22の突出高さの略半分程度とする。尚、図4及び図5に鋳造後の状態を示しているが、円柱状の加圧用ボス22は軸受け壁3の厚さよりも径が大きく、余肉部23は軸受け壁3の厚さと同じ厚さである。尚、加圧ピン21の径は軸受け壁3の厚さよりも若干小さく設定する。
【0017】
このような加圧用ボス22と余肉部23を形成するようにダイカスト金型30でキャビティを画成しそのキャビティに溶湯を充填した後に、所定のタイミングで加圧ピン21を加圧用ボス22に進入させて、加圧用ボス22における溶湯を局所的に加圧する。従って、加圧ピン21による加圧力は、半円状支持面10の頂上部10aから延長線14上の部分20に直接的に作用することになり、その延長線14上の部分20において鋳巣の発生が抑制され、延長線14上の部分20の強度が確保されることになる。尚、仮に鋳巣が発生したとしてもその鋳巣は加圧力によって押しつぶされるので、鋳巣が疲労強度に与える影響を最小限に抑えることができる。また、仮にシリンダボア2の軸線方向(即ち延長線14の方向)と直交する方向から軸受け壁3における溶湯を加圧ピン等によって加圧したとすれば、イヌキピンが邪魔になりやすく加圧ピンの配置が困難になるが、本実施形態のようにシリンダボア2の軸線方向に沿って加圧ピン21を移動させて加圧することにより、イヌキピン等が邪魔にならないという利点もある。
【0018】
このようにして鋳造したシリンダブロック1を切削加工等の機械加工処理を行って、加圧用ボス22並びに余肉部23を除去する。半円状支持面10は鋳造後において切削加工等される箇所であるため、加圧用ボス22や余肉部23を形成しても切削加工等を行う際に同時に除去することができる。
【0019】
尚、本実施形態では、水平対向型のシリンダブロックについて説明したが、直列レイアウトやV型等のような各タイプのシリンダブロックにおいても適用可能である。また、シリンダブロックには限られず、シリンダブロックに取り付けられるロアケース(ラダーフレームやベアリングキャップなどとも称される)にも適用可能である。
【0020】
更に、半円状支持面10側から加圧する構成について説明したが、半円状支持面10とは反対側の面24側から加圧するようにしてもよい。半円状支持面10とは反対側の面24側から加圧する場合には、その反対側の面24において、半円状支持面10の頂上部10aと対向する部分25を加圧することが好ましい。また、その場合においても上記延長線14に沿って加圧するようにすることが好ましい。ロアケースにおいても同様に半円状支持面とは反対側の面側から加圧してもよい。
【0021】
また、複数の軸受け壁3のうち一箇所のみを加圧ピン21で加圧するようにしたが、複数箇所の軸受け壁3を加圧してもよく、全ての軸受け壁3を加圧してもよい。
【0022】
尚、加圧する箇所によっては、加圧用ボス22や余肉部23をダイカスト後において除去せずにそのまま残してもよく、また、加圧用ボス22や余肉部23を設けなくてもよい。
【符号の説明】
【0023】
1 シリンダブロック(ダイカスト品)
2 シリンダボア
3 軸受け壁
10 半円状支持面
10a 頂上部
11 重ね合わせ面
12 ネジ孔
13 シリンダライナー
14 延長線
20 延長線上の部分
21 加圧ピン
22 加圧用ボス
23 余肉部
24 反対側の面
25 頂上部と対向する部分
30 金型

【特許請求の範囲】
【請求項1】
内燃機関のクランクシャフトを回転自在に支持するための半円状支持面を備えたダイカスト品の製造方法において、
ダイカストを行う際に、半円状支持面の頂上部付近の溶湯又は半円状支持面に対して反対側の面における前記頂上部に対向した部分付近の溶湯を、加圧ピンによって局所的に加圧することを特徴とするダイカスト品の製造方法。
【請求項2】
半円状支持面の頂上部付近の溶湯を加圧ピンによって局所的に加圧する場合において、半円状支持面に円柱状の加圧用ボスを突設し、該加圧用ボスにおける溶湯に加圧ピンを半円状支持面に達しない程度に進入させることにより前記頂上部付近の溶湯を加圧し、ダイカスト後に加圧用ボスを加工により除去する請求項1記載のダイカスト品の製造方法。
【請求項3】
加圧用ボスの根元部に余肉部を設け、ダイカスト後に加圧用ボスと余肉部を除去する請求項2記載のダイカスト品の製造方法。
【請求項4】
加圧用ボスの突出高さの略半分まで余肉部を設ける請求項3記載のダイカスト品の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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