説明

ダイズにおけるイソフラボン産生レベルを判定するためのDNAマーカー

【課題】高イソフラボン蓄積量を有するダイズ系統を開発すること。
【解決手段】 イソフラボン集積遺伝子と密接に連鎖するDNAマーカーを提供する。これらの配列は、特定の配列を含み、ダイズ染色体中でのこれらの配列の存在は、高イソフラボン蓄積量の指標となり得る。これらのDNAマーカーを用いて、高イソフラボン蓄積量を有するダイズ系統を選択するための方法およびそれに使用するキットもまた提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規のDNAマーカーおよびその利用に関する。より詳細には、本発明は、ダイズにおけるイソフラボン産生レベルを判定するためのDNAマーカー、これらのDNAマーカーを用いて高イソフラボン蓄積量を有するダイズをスクリーニングする方法、およびそれによって得られる高イソフラボンダイズに関する。
【背景技術】
【0002】
イソフラボンは、豆科の植物に含まれるフラボノイド配糖体の一つであり、その生理活性については、一般にエストロジェン作用、抗酸化作用、抗菌作用が知られている。
【0003】
また、日本人の乳癌及び前立腺癌の死亡率が欧米人に比べてかなり低いことは周知の事実であるが、疫学的調査により、日本人女性のダイゼインの尿中排出量が、ボストンやヘルシンキの女性の約10倍であること、及び、日本人男性の血中イソフラボン濃度が、フィンランド人男性の約40倍と非常に高いことが確認され、従って、日本人がイソフラボンを高摂取するために、乳癌や前立腺癌による死亡率が低値に抑えられているとの報告がなされている(非特許文献1、2)。
【0004】
このように日本人の尿中及び血中のイソフラボン濃度が高いことは、日本人が伝統的にダイズ食品を多く食していることに起因していると考えられている。
【0005】
さらにイソフラボンは、カルシウム欠乏下の卵巣摘出ラットにおける骨密度低下を抑制することが確認され、骨粗鬆症を予防する化合物としても大いに注目されている(特許文献1)。
【0006】
上記のようにイソフラボンは多くの有用な作用を持ち、これを食することが健康維持、増進において重要な役割を果たすものと考えられる。
【非特許文献1】H.Adlercreutz,et.al.,Am.J.Clin.Nutr.,54,1093(1991)
【非特許文献2】H.Adlercreutz,et.al.,Lancet,342,1209(1993)
【特許文献1】特願平7−36598号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ダイズイソフラボンの蓄積量には大きな品種間変異があることから、複数の主働遺伝子が関与していると考えられている。しかし、イソフラボン集積に関与する遺伝子の実体はほとんど解明されておらず、現行の高イソフラボンダイズ育種においては、全個体あるいは全系統についてイソフラボン蓄積量を測定しなければならない。
【課題を解決するための手段】
【0008】
(発明の要旨)
本発明は、高イソフラボン蓄積量を有するダイズについて検討した結果、Peking品種とタマホマレ品種をかけ合わせるにより、高イソフラボン蓄積ダイズが得られることを見出した。今日まで、高イソフラボン蓄積量を有するダイズを得る目的で、このような組み合わせを採用することは知られていない。さらに、これらの染色体において、イソフラボン産生レベルに関与する部分を同定するため、イソフラボン蓄積量についてQTL(Quantitative Traits Loci)解析を行った結果、本発明のDNAマーカー部分を同定するに至った。本発明のDNAマーカーを用いれば、より効率的に所望の産生レベルを有する品種を同定・開発することができるようになる。
【0009】
従って、本発明は、以下を提供する。
1.Glycine max.のA1連鎖群の94.9〜98.8cMの位置にある核酸配列、A2連鎖群の17.9〜70.0cMの位置にある核酸配列、A2連鎖群の100.3〜103.8cMの位置にある核酸配列、C1連鎖群の63.4〜71.4cMの位置にある核酸配列、D2連鎖群の55.8〜73.4cMの位置にある核酸配列、D2連鎖群の83.9〜89.3cMの位置にある核酸配列、およびG連鎖群の133.1〜141.1cMの位置にある核酸配列からなる群より選択される少なくとも1つの核酸配列のうちの少なくとも8塩基を含む、ダイズにおけるイソフラボン産生レベルを判定するためのDNAマーカー。
2.Glycine max.のA2連鎖群の48.84〜67.86cMの位置にある核酸配列のうちの少なくとも8塩基を含む、項目1のDNAマーカー。
3.配列番号1で示される核酸配列のうちの少なくとも8塩基を含む、項目2のDNAマーカー。
4.配列番号2で示される核酸配列のうちの少なくとも8塩基を含む、項目1のDNAマーカー。
5.配列番号3で示される核酸配列のうちの少なくとも8塩基を含む、項目1のDNAマーカー。
6.所望のイソフラボン産生レベルを有するダイズをスクリーニングする方法であって:
(a)ダイズからDNAを抽出する工程;および
(b)項目1〜5のDNAマーカーのうちの少なくとも1つを検出する工程、
を包含する、方法。
7.(b)項目2および5のDNAマーカーの存在を検出する工程を包含する、項目6の方法。
8.(c)ダイズ種皮の色が白色のものを選択する工程をさらに包含する、項目7の方法。
9.項目6〜8に記載の方法により得られた、高イソフラボン蓄積量を有するダイズ系統。
10.イソフラボン蓄積量が、タマホマレ品種のイソフラボン蓄積量と比較して少なくとも1.4倍増加している、項目9のダイズ系統。
11.高イソフラボン蓄積量を有するダイズを作製する方法であって:
(a)Peking種とタマホマレ種をかけ合わせて組換え系統を作製する工程;
(a)該組換え系統からDNAを抽出する工程;
(b)項目1〜5のDNAマーカーのうちの少なくとも1つを検出する工程;および
(c)選択された系統を栽培する工程、
を包含する、方法。
12.(b)項目2および5に記載のDNAマーカーの存在を検出する工程を包含する、項目11の方法。
13.(c)ダイズ種皮の色が白色のものを選択する工程をさらに包含する、項目12の方法。
14.項目11〜13の方法により得られた、高イソフラボン蓄積量を有するダイズ系統。
15.イソフラボン蓄積量が、タマホマレ品種のイソフラボン蓄積量と比較して少なくとも1.4倍増加している、項目14のダイズ系統。
16.ダイズであって、ここで、該ダイズ染色体において、タマホマレ品種由来のI遺伝子座を有し、かつ、種子中のイソフラボン蓄積量が6mg/gより高い、ダイズ。
17.前記ダイズ染色体中において、タマホマレ品種由来のI遺伝子座およびPeking品種由来のSatt669遺伝子座を有し、かつ、種子中のイソフラボン蓄積量が7mg/gより高い、項目16のダイズ。
18.所望のイソフラボン産生レベルを有するダイズをスクリーニングするためのキットであって:
(a)項目1〜5のDNAマーカーのうちの少なくとも1つを検出し得る核酸分子;ならびに
(b)指示書、
を含む、キット。
19.(a)項目2のDNAマーカーの存在を検出し得る核酸分子、および項目5に記載のDNAマーカーの存在を検出し得る核酸分子を含む、項目18のキット。
【0010】
本発明の好ましい実施形態およびより詳細な説明は、以下の節に示されている。
【発明の効果】
【0011】
ダイズイソフラボン産生レベルを判定できるDNAマーカーを同定し、より効率的な高イソフラボンダイズの開発を可能にした。従来のスクリーニング法では交雑後代を何世代にも渡って大規模に展開した後に形質を調査する必要があったのに対し、本発明のDNAマーカーによるスクリーニング法を用いれば、世代の非常に早い段階で非常に小さな植物体からスクリーニングを行うことができるため、時間、スペース、労力の飛躍的な縮小が可能であり、近代的な育種において非常に有用なツールであることが期待される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、本発明を説明する。本明細書の全体にわたり、単数形の表現は、特に言及しない限り、その複数形の概念をも含むことが理解されるべきである。また、本明細書において使用される用語は、特に言及しない限り、当該分野で通常用いられる意味で用いられることが理解されるべきである。
【0013】
(用語)
以下に本明細書において特に使用される用語の定義を列挙する。
【0014】
「ダイズ」(Glycine max.)は、直立性のマメ科の一年生植物である。世界中で広く栽培されており糧草として、また種子を収穫して食用として利用される。
【0015】
「Peking品種」は、ダイズシストセンチュウに対して高度抵抗性を有する品種として米国農務省および日本の農林水産省での耐性育種の育成にしばしば利用されてきた品種である。もともとは米国が北京周辺で収集した品種だと考えられる。日本の一般ダイズ品種に比較して種皮が黒く種子が小さい特徴を有する。種子はジーンバンク(http://www.gene.affrc.go.jp/index_j.html)より購入可能である。
【0016】
「タマホマレ品種」は、昭和55年に長野県中信農業試験場においてLeeと東山7号との交雑により育成された日本を代表する品種である。種子はジーンバンクより購入可能である。
【0017】
「イソフラボン」は、3−フェニルクロモン骨格を有する化合物を総称して言う。天然では、イソフラボンは、この骨格の一部に種々の官能基やグルコース等が結合したイソフラボン誘導体として存在する。特にダイズには種々のイソフラボン誘導体が含まれる。ダイズに含まれるイソフラボン誘導体としては、3−フェニルクロモンにグルコース1残基がβ結合した化合物が挙げられ、その代表例としてダイジン、ゲニスチンおよび、これらのアグリコン(β結合したグルコース残基がはずれたもの)としてダイゼイン、ゲニステインがある。
【0018】
「イソフラボン蓄積量」は、Kudoらの方法に準拠して測定された量をいう(S. Kudou,Y.Fleury,D.Welti et al,Agric.Biol.Chem.,55,2227−2233(1991))。その測定方法を簡単に述べると、約5gのダイズ種子の種皮をむき、マルチビーズショッカー(安井器械)を用いて1800rpm、15s×4回で粉砕した。得られたダイズ粉末の約2gを50mlチューブに入れ、70%エタノールを25ml分注し、30min振盪した後に冷却遠心機を用いて4℃、3000rpm、5minで遠心分離して上澄みを得た。イソフラボンを抽出する際に加熱を行うと、室温での抽出に比べてマロニル配糖体が脱アシル化され、配糖体が増加する事が報告されている(S.Kudou,Y.Fleury,D.Welti et al:Agric.Biol.Chem.,55,2227−2233(1991))。そのため、本発明においてはマルチビーズショッカーを用いた粉砕で1minを4回に分け、遠心分離に冷却遠心機を用いてマロニル配糖体が脱アシル化されるのを防いだ。上記の抽出作業を3回行い、最終的にメスフラスコで100mlにメスアップして0.45μmのフィルターで濾過した後に濾液を高速液体クロマトグラフィー(HPLC;島津製作所)で分析した。分析条件は、カラムにODSカラムを用い、15%のアセトニトリル溶液(水:アセトニトリル:酢酸=85:15:0.1)と35%のアセトニトリル溶液(水:アセトニトリル:酢酸=65:35:0.1)を移動相に用いて50分間に15%→35%アセトニトリル濃度となる直線濃度グラジエントを行った。流速は1.0ml/min、カラム温度は35℃で、サンプル10μlを254nmのUVで検出した。以上の条件下で分析して得られたクロマトグラムからあらかじめ濃度のわかっているダイズイン標準品を用いて各種ダイズイソフラボン濃度を定量した。定量の際には各種ダイズイソフラボンのダイズイン換算濃度に各種の定量係数を乗じることにより(表1)、各種ダイズイソフラボンの濃度を各々算出した。イソフラボン抽出のために量り取って残ったダイズ粉末は乾熱滅菌機を用いて90℃、24hで乾燥させた後に重量を量って含水率を計算し、乾物重あたりのイソフラボン含量を求めた。
【0019】
【表1】

【0020】
(計算式)
ダイズイソフラボン[X]の濃度(C)[mg/l]
=C×A/A×F
:ダイズイン標準液の濃度[mg/l]
:ダイズイン標準液のピーク面積
:ダイズイソフラボン[X]のピーク面積
:ダイズイソフラボン[X]の定量係数
「イソフラボン蓄積量が高い」、または「高イソフラボン蓄積量」は、現在、食用ダイズ品種の中では高イソフラボン蓄積量を有する既存のタマホマレ品種よりも、イソフラボン蓄積量が高いことを意味する。後述のように、ダイズ種子中のイソフラボン蓄積量は、登熟期間中の気温によって変化するので、比較を行う場合は、同一条件下で行う必要がある。
【0021】
「QTL(Quantitative Traits Loci)解析」は、形質およびDNAマーカーに関して分離している集団を用いることにより、特定の形質を左右する染色体部分を明らかにする手法を総称していう。QTL解析についての総論は、鵜飼保雄「量的形質の遺伝解析」、pp354、医学出版、東京、および鵜飼保雄「ゲノムレベルの遺伝解析」、pp349、東京大学出版、東京などに記載されており、その具体的な手順は、以下のQTL解析の節に詳述されている。QTL解析を行うための多くのソフトフェアが公開されている。代表的なソフトウェアとしては、MAPL(鵜飼,1989)、MAPMAKER(Lander,1987)などが挙げられる。
【0022】
「連鎖」は、複数の独立した遺伝子(非対立遺伝子)が,同一の染色体またはDNA分子上に連なって座位するために,それぞれランダムに子(F)に遺伝すると期待される値よりも高い割合で組になって遺伝する現象をいう。「連鎖群」は、互いに連鎖する複数の遺伝子のグループをいう。ダイズにおいては、現在、20本の連鎖群が知られている。
【0023】
「モルガン(M)」は、染色体上の遺伝子間の距離を相対的に示した単位である。交叉価をパーセントにした値に等しい。「センチモルガン(cM)」は、1Mの100分の1の値を意味する。ダイズ染色体において、1cMは、約400kbに相当する。本発明においては、モルガン(M)またはセンチモルガン(cM)で表す地図距離は、図1および図2に示す本発明者らの組換え自殖系統を用いて算出した値である。各々のダイズにおける実際の染色体上の実際の位置は、図1および図2に示される対応する既知DNAマーカー座およびCregan P.B.,Jarvik,T.,Bush,A.,Shoemaker,R.C.,Lark,K.G.,Kahler,A.,Kaya,N.,VanToai,T.,Lohnes,D.G.,Chung,J.,& Specht,J.E.(1999).An integrated genetic linkage map of the soybean genome.Crop Science,39,1464−1490に記載される連鎖地図を参照することにより特定できる。
【0024】
本明細書において「ポリヌクレオチド」、「オリゴヌクレオチド」および「核酸」は、本明細書において同じ意味で使用され、任意の長さのヌクレオチドのポリマーをいう。この用語はまた、「誘導体オリゴヌクレオチド」または「誘導体ポリヌクレオチド」を含む。「誘導体オリゴヌクレオチド」または「誘導体ポリヌクレオチド」とは、ヌクレオチドの誘導体を含むか、またはヌクレオチド間の結合が通常とは異なるオリゴヌクレオチドまたはポリヌクレオチドをいい、互換的に使用される。そのようなオリゴヌクレオチドとして具体的には、例えば、2’−O−メチル−リボヌクレオチド、オリゴヌクレオチド中のリン酸ジエステル結合がホスホロチオエート結合に変換された誘導体オリゴヌクレオチド、オリゴヌクレオチド中のリン酸ジエステル結合がN3’−P5’ホスホロアミデート結合に変換された誘導体オリゴヌクレオチド、オリゴヌクレオチド中のリボースとリン酸ジエステル結合とがペプチド核酸結合に変換された誘導体オリゴヌクレオチド、オリゴヌクレオチド中のウラシルがC−5プロピニルウラシルで置換された誘導体オリゴヌクレオチド、オリゴヌクレオチド中のウラシルがC−5チアゾールウラシルで置換された誘導体オリゴヌクレオチド、オリゴヌクレオチド中のシトシンがC−5プロピニルシトシンで置換された誘導体オリゴヌクレオチド、オリゴヌクレオチド中のシトシンがフェノキサジン修飾シトシン(phenoxazine−modified cytosine)で置換された誘導体オリゴヌクレオチド、DNA中のリボースが2’−O−プロピルリボースで置換された誘導体オリゴヌクレオチドおよびオリゴヌクレオチド中のリボースが2’−メトキシエトキシリボースで置換された誘導体オリゴヌクレオチドなどが例示される。他にそうではないと示されなければ、特定の核酸配列はまた、明示的に示された配列と同様に、その保存的に改変された改変体(例えば、縮重コドン置換体)および相補配列を包含することが企図される。具体的には、縮重コドン置換体は、1またはそれ以上の選択された(または、すべての)コドンの3番目の位置が混合塩基および/またはデオキシイノシン残基で置換された配列を作成することにより達成され得る(Batzer et al.,Nucleic Acid Res.19:5081(1991);Ohtsuka et al.,J.Biol.Chem.260:2605−2608(1985);Rossolini et al.,Mol.Cell.Probes 8:91−98(1994))。
【0025】
本明細書において「核酸分子」もまた、本明細書において、核酸、オリゴヌクレオチド、およびポリヌクレオチドと互換可能に使用され、cDNA、mRNA、ゲノムDNAなどを含む。本明細書では、核酸および核酸分子は、用語「遺伝子」の概念に含まれ得る。ある遺伝子配列をコードする核酸分子はまた、「スプライス変異体(改変体)」を包含する。同様に、核酸によりコードされた特定のタンパク質は、その核酸のスプライス改変体によりコードされる任意のタンパク質を包含する。その名が示唆するように「スプライス変異体」は、遺伝子のオルタナティブスプライシングの産物である。転写後、最初の核酸転写物は、異なる(別の)核酸スプライス産物が異なるポリペプチドをコードするようにスプライスされ得る。スプライス変異体の産生機構は変化するが、エキソンのオルタナティブスプライシングを含む。読み過し転写により同じ核酸に由来する別のポリペプチドもまた、この定義に包含される。スプライシング反応の任意の産物(組換え形態のスプライス産物を含む)がこの定義に含まれる。
【0026】
本明細書において、「遺伝子」とは、遺伝形質を規定する因子をいう。通常染色体上に一定の順序に配列している。タンパク質の一次構造を規定するものを構造遺伝子といい、その発現を左右するものを調節遺伝子(たとえば、プロモーター)という。本明細書では、遺伝子は、特に言及しない限り、構造遺伝子および調節遺伝子を包含する。
【0027】
本明細書において遺伝子(例えば、核酸配列など)の「相同性」とは、2以上の遺伝子配列の、互いに対する同一性の程度をいう。従って、ある2つの遺伝子の相同性が高いほど、それらの配列の同一性または類似性は高い。2種類の遺伝子が相同性を有するか否かは、配列の直接の比較、または核酸の場合ストリンジェントな条件下でのハイブリダイゼーション法によって調べられ得る。2つの遺伝子配列を直接比較する場合、その遺伝子配列間でDNA配列が、代表的には少なくとも50%同一である場合、好ましくは少なくとも70%同一である場合、より好ましくは少なくとも80%、90%、95%、96%、97%、98%または99%同一である場合、それらの遺伝子は相同性を有する。本明細書において、遺伝子(例えば、核酸配列など)の「類似性」とは、上記相同性において、保存的置換をポジティブ(同一)とみなした場合の、2以上の遺伝子配列の、互いに対する同一性の程度をいう。従って、保存的置換がある場合は、その保存的置換の存在に応じて同一性と類似性とは異なる。また、保存的置換がない場合は、同一性と類似性とは同じ数値を示す。
【0028】
本明細書では、塩基配列の類似性、同一性および相同性の比較は、配列分析用ツールであるBLASTを用いてデフォルトパラメータを用いて算出される。同一性の検索は例えば、NCBIのBLAST 2.2.9 (2004.5.12 発行)を用いて行うことができる。本明細書における同一性の値は通常は上記BLASTを用い、デフォルトの条件でアラインした際の値をいう。ただし、パラメーターの変更により、より高い値が出る場合は、最も高い値を同一性の値とする。複数の領域で同一性が評価される場合はそのうちの最も高い値を同一性の値とする。
【0029】
本明細書中では、ヌクレオチドは、一般に認知された1文字コードにより言及され得る。その文字コードは以下のとおりである。
記号 意味
a アデニン
g グアニン
c シトシン
t チミン
u ウラシル
r グアニンまたはアデニンプリン
y チミン/ウラシルまたはシトシンピリミジン
m アデニンまたはシトシンアミノ基
k グアニンまたはチミン/ウラシルケト基
s グアニンまたはシトシン
w アデニンまたはチミン/ウラシル
b グアニンまたはシトシンまたはチミン/ウラシル
d アデニンまたはグアニンまたはチミン/ウラシル
h アデニンまたはシトシンまたはチミン/ウラシル
v アデニンまたはグアニンまたはシトシン
n アデニンまたはグアニンまたはシトシンまたはチミン/ウラシル、不明、または他の塩基。
【0030】
本明細書において、「フラグメント」とは、全長のポリヌクレオチド(長さがn)に対して、1〜n−1までの配列長さを有するポリヌクレオチドをいう。フラグメントの長さは、その目的に応じて、適宜変更することができ、例えば、その長さの下限としては、5、6、7、8、9、10、15、20、25、30、40、50、75、100およびそれ以上のヌクレオチドが挙げられ、ここの具体的に列挙していない整数で表される長さ(例えば、11など)もまた、下限として適切であり得る。本発明でポリヌクレオチドが使用される場合、所望の目的(例えば、イソフラボン産生レベルの判定)が達成される限り、このようなフラグメントもまた、全長のものと同様に使用され得ることが理解される。
【0031】
本明細書において、ポリヌクレオチドの長さは、上述のように核酸の個数で表すことができるが、上述の個数は絶対的なものではなく、同じ機能を有する限り、上限または下限としての上述の個数は、その個数の上下数個(または例えば上下10%)のものも含むことが意図される。そのような意図を表現するために、本明細書では、個数の前に「約」を付けて表現することがある。しかし、本明細書では、「約」のあるなしはその数値の解釈に影響を与えないことが理解されるべきである。
【0032】
本明細書において「改変体」とは、もとのポリヌクレオチドなどの物質に対して、一部が変更されているものをいう。そのような改変体としては、置換改変体、付加改変体、欠失改変体、短縮(truncated)改変体、対立遺伝子変異体などが挙げられる。
【0033】
本明細書において、ポリヌクレオチドの「置換、付加または欠失」とは、もとのポリヌクレオチドに対して、ヌクレオチドもしくはその代替物が、置き換わること、付け加わることまたは取り除かれることをいう。このような置換、付加または欠失の技術は、当該分野において周知であり、そのような技術の例としては、部位特異的変異誘発技術などが挙げられる。置換、付加または欠失は、1つ以上であれば任意の数でよく、そのような数は、その置換、付加または欠失を有する改変体において目的とする機能(例えば、イソフラボン産生レベルの判定など)が保持される限り、多くすることができる。例えば、そのような数は、1または数個であり得、そして好ましくは、全体の長さの20%以内、10%以内、または100個以下、50個以下、25個以下などであり得る。
【0034】
本明細書において「マーカー」とは、特定の生物について目印となる物質をいう。物質がDNAであるときは、DNAマーカーという。
【0035】
本明細書における「プライマー」とは、高分子合成酵素反応において、合成される高分子化合物の反応の開始に必要な物質をいう。核酸分子の合成反応では、合成されるべき高分子化合物の一部の配列に相補的な核酸分子(例えば、DNAまたはRNAなど)が用いられ得る。
【0036】
通常プライマーとして用いられる核酸分子としては、目的とする遺伝子の核酸配列と相補的な、少なくとも8の連続するヌクレオチド長の核酸配列を有するものが挙げられる。そのような核酸配列は、好ましくは、少なくとも9の連続するヌクレオチド長の、より好ましく10の連続するヌクレオチド長の、さらに好ましくは11の連続するヌクレオチド長の、12の連続するヌクレオチド長の、13の連続するヌクレオチド長の、14の連続するヌクレオチド長の、15の連続するヌクレオチド長の、16の連続するヌクレオチド長の、17の連続するヌクレオチド長の、18の連続するヌクレオチド長の、19の連続するヌクレオチド長の、20の連続するヌクレオチド長の、25の連続するヌクレオチド長の、30の連続するヌクレオチド長の、40の連続するヌクレオチド長の、50の連続するヌクレオチド長の、核酸配列であり得る。プローブとして使用される核酸配列には、上述の配列に対して、少なくとも70%相同な、より好ましくは、少なくとも80%相同な、さらに好ましくは、90%相同な、95%相同な核酸配列が含まれる。プライマーとして適切な配列は、合成(増幅)が意図される配列の性質によって変動し得るが、当業者は、意図される配列に応じて適宜プライマーを設計することができる。そのようなプライマーの設計は当該分野において周知であり、手動でおこなってもよくコンピュータプログラム(例えば、LASERGENE,PrimerSelect,DNAStar)を用いて行ってもよい。
【0037】
本明細書において「プローブ」とは、インビトロおよび/またはインビボなどのスクリーニングなどの生物学的実験において用いられる、検索の手段となる物質をいい、例えば、特定の塩基配列を含む核酸分子などが挙げられるがそれに限定されない。
【0038】
通常プローブとして用いられる核酸分子としては、目的とする遺伝子の核酸配列と相同なまたは相補的な、少なくとも8の連続するヌクレオチド長の核酸配列を有するものが挙げられる。そのような核酸配列は、好ましくは、少なくとも9の連続するヌクレオチド長の、より好ましく10の連続するヌクレオチド長の、さらに好ましくは11の連続するヌクレオチド長の、12の連続するヌクレオチド長の、13の連続するヌクレオチド長の、14の連続するヌクレオチド長の、15の連続するヌクレオチド長の、20の連続するヌクレオチド長の、25の連続するヌクレオチド長の、30の連続するヌクレオチド長の、40の連続するヌクレオチド長の、50の連続するヌクレオチド長の、核酸配列であり得る。プローブとして使用される核酸配列には、上述の配列に対して、少なくとも70%相同な、より好ましくは、少なくとも80%相同な、さらに好ましくは、90%相同な、95%相同な核酸配列が含まれる。プローブとして用いる場合は、識別対象となる種に特異的な配列は不変であるか、類似の配列と識別可能な程度の相同性を有していることが好ましい。
【0039】
本明細書において、「検索」とは、電子的にまたは生物学的あるいは他の方法により、ある核酸塩基配列を利用して、特定の機能および/または性質を有する他の核酸塩基配列を見出すことをいう。電子的な検索としては、BLAST(Altschul et al.,J.Mol.Biol.215:403−410(1990))、FASTA(Pearson & Lipman, Proc.Natl.Acad.Sci., USA 85:2444−2448(1988))、Smith and Waterman法(Smith and Waterman, J.Mol.Biol.147:195−197(1981))、およびNeedleman and Wunsch法(Needleman and Wunsch,J.Mol.Biol.48:443−453(1970))などが挙げられるがそれらに限定されない。生物学的な検索としては、ストリンジェントハイブリダイゼーション、ゲノムDNAをナイロンメンブレン等に貼り付けたマクロアレイまたはガラス板に貼り付けたマイクロアレイ(マイクロアレイアッセイ)、PCRおよび in situハイブリダイゼーションなどが挙げられるがそれらに限定されない。
【0040】
本明細書において、「ストリンジェントな条件でハイブリダイズするポリヌクレオチド」とは、当該分野で慣用される周知の条件をいう。本発明のポリヌクレオチド中から選択されたポリヌクレオチドをプローブとして、コロニー・ハイブリダイゼーション法、プラーク・ハイブリダイゼーション法あるいはサザンブロットハイブリダイゼーション法等を用いることにより、そのようなポリヌクレオチドを得ることができる。具体的には、コロニーあるいはプラーク由来のDNAを固定化したフィルターを用いて、0.7〜1.0MのNaCl存在下、65℃でハイブリダイゼーションを行った後、0.1〜2倍濃度のSSC(saline−sodium citrate)溶液(1倍濃度のSSC溶液の組成は、150mM 塩化ナトリウム、15mM クエン酸ナトリウムである)を用い、65℃条件下でフィルターを洗浄することにより同定できるポリヌクレオチドを意味する。ハイブリダイゼーションは、Molecular Cloning 2nd ed.,Current Protocols in Molecular Biology,Supplement 1〜38、DNA Cloning 1:Core Techniques,A Practical Approach,Second Edition,Oxford University Press(1995)等の実験書に記載されている方法に準じて行うことができる。ここで、ストリンジェントな条件下でハイブリダイズする配列からは、好ましくは、A配列のみまたはT配列のみを含む配列が除外される。「ハイブリダイズ可能なポリヌクレオチド」とは、上記ハイブリダイズ条件下で別のポリヌクレオチドにハイブリダイズすることができるポリヌクレオチドをいう。ハイブリダイズ可能なポリヌクレオチドとして具体的には、本発明で具体的に示されるアミノ酸配列を有するポリペプチドをコードするDNAの塩基配列と少なくとも60%以上の相同性を有するポリヌクレオチド、好ましくは80%以上の相同性を有するポリヌクレオチド、さらに好ましくは95%以上の相同性を有するポリヌクレオチドを挙げることができる。
【0041】
本明細書において「キット」とは、通常2つ以上の区画に分けて、提供されるべき部分(例えば、試薬、酵素、プライマー、分子量標準など)が提供されるユニットをいう。混合されて提供されるべきでなく、使用直前に混合して使用することが好ましいような組成物の提供を目的とするときに、このキットの形態は好ましい。そのようなキットは、好ましくは、提供される部分(例えば、試薬、酵素、ヌクレオチド、標識されたヌクレオチド、慎重反応を止めるヌクレオチドなど(およびその三リン酸)、プライマー、標準など)をどのように処理すべきかを記載する説明書を備えていることが有利である。本明細書においてキットが試薬キットとして使用される場合、キットには、通常、試薬成分、緩衝液、塩濃縮液、使用するための補助手段、使用方法を記載した指示書などが含まれる。
【0042】
本明細書において「指示書」は、本発明の試薬の使用方法、反応方法などを使用者に対して記載したものである。この指示書は、本発明の酵素反応などの手順を指示する文言が記載されている。この指示書は、必要に応じて本発明が実施される国の監督官庁が規定した様式に従って作成され、その監督官庁により承認を受けた旨が明記される。指示書は、いわゆる添付文書(package insert)であり、通常は紙媒体で提供されるが、それに限定されず、例えば、瓶に貼り付けられたフィルム、電子媒体(例えば、インターネットで提供されるホームページ(ウェブサイト)、電子メール)のような形態でも提供され得る。本発明のキットは、核酸合成酵素の反応のための試薬をさらに含む。このような試薬には、緩衝液、必要なイオン濃縮液、塩濃縮液、pH調整剤などを挙げることができるがそれらに限定されない。
【0043】
本明細書において「スクリーニング」とは、目的とするある特定の性質をもつ生物または物質などの標的を、特定の操作/評価方法で多数を含む集団の中から選抜することをいう。スクリーニングのために、本発明の核酸分子を使用することができる。
【0044】
本明細書において用いられる分子生物学的手法、生化学的手法、微生物学的手法は、当該分野において周知であり慣用されるものであり、例えば、Sambrook J.et al.(1989).Molecular Cloning: A Laboratory Manual,Cold Spring Harborおよびその3rd Ed.(2001);Ausubel,F.M.(1987).Current Protocols in Molecular Biology,Greene Pub.AssociatESand Wiley−Interscience;Ausubel,F.M.(1989).Short Protocols in Molecular Biology: A Compendium of Methods from Current Protocols in Molecular Biology,Greene Pub.Associates and Wiley−Interscience;Innis,M.A.(1990).PCR Protocols: A Guide to Methods and Applications,Academic Press;Ausubel,F.M.(1992).Short Protocols in Molecular Biology: A Compendium of Methods from Current Protocols in Molecular Biology,Greene Pub.Associates;Ausubel,F.M.(1995).Short Protocols in Molecular Biology: A Compendium of Methods from Current Protocols in Molecular Biology,Greene Pub.Associates;Innis,M.A.et al.(1995).PCR Strategies,Academic Press;Ausubel,F.M.(1999).Short Protocols in Molecular Biology: A Compendium of Methods from Current Protocols in Molecular Biology,Wiley,and annual updates;Sninsky,J.J.et al.(1999).PCR Applications: Protocols for Functional Genomics,Academic Press、別冊実験医学「遺伝子導入&発現解析実験法」羊土社、1997などに記載されており、これらは本明細書において関連する部分(全部であり得る)が参考として援用される。
【0045】
人工的に合成した遺伝子を作製するためのDNA合成技術および核酸化学については、例えば、Gait,M.J.(1985).Oligonucleotide Synthesis:A Practical Approach,IRLPress;Gait,M.J.(1990).Oligonucleotide Synthesis:A Practical Approach,IRL Press;Eckstein,F.(1991).Oligonucleotides and Analogues:A Practical Approac,IRL Press;Adams,R.L.etal.(1992).The Biochemistry of the Nucleic Acids,Chapman&Hall;Shabarova,Z.et al.(1994).Advanced Organic Chemistry of Nucleic Acids,Weinheim;Blackburn,G.M.et al.(1996).Nucleic Acids in Chemistry and Biology,Oxford University Press;Hermanson,G.T.(I996).Bioconjugate Techniques,Academic Pressなどに記載されており、これらは本明細書において関連する部分が参考として援用される。
【0046】
(発明を実施するための好ましい形態)
以下に本発明の好ましい実施形態を説明する。以下に提供される実施形態は、本発明のよりよい理解のために提供されるものであり、本発明の範囲は以下の記載に限定されるべきでないことが理解される。従って、当業者は、本明細書中の記載を参酌して、本発明の範囲内で適宜改変を行うことができることは明らかである。
【0047】
1つの局面において、本発明は、イソフラボン産生レベルを判定できるDNAマーカーを提供する。1つの実施形態において、本発明のDNAマーカーは、Glycine max.のA1連鎖群の94.9〜98.8cMの位置にある核酸配列、A2連鎖群の17.9〜70.0cMの位置にある核酸配列、A2連鎖群の100.3〜103.8cMの位置にある核酸配列、C1連鎖群の63.4〜71.4cMの位置にある核酸配列、D2連鎖群の55.8〜73.4cMの位置にある核酸配列、D2連鎖群の83.9〜89.3cMの位置にある核酸配列、およびG連鎖群の133.1〜141.1cMの位置にある核酸配列からなる群より選択される少なくとも1つの核酸配列のうちの少なくとも8塩基を含む。好ましい実施形態において、本発明のDNAマーカーは、Glycine max.のA1連鎖群の94.9〜98.8cMの位置にある核酸配列、A2連鎖群の17.9〜70.0cMの位置にある核酸配列、A2連鎖群の100.3〜103.8cMの位置にある核酸配列、C1連鎖群の63.4〜71.4cMの位置にある核酸配列、D2連鎖群の55.8〜73.4cMの位置にある核酸配列、D2連鎖群の83.9〜89.3cMの位置にある核酸配列、およびG連鎖群の133.1〜141.1cMの位置にある核酸配列からなる群より選択される少なくとも1つの核酸配列のうちの少なくとも10塩基、15塩基、20塩基、25塩基、30塩基、35塩基、40塩基、45塩基、50塩基、またはそれ以上を含む。
【0048】
本発明のDNAマーカーには、従来から知られているDNAマーカー(以下、既知マーカーと称する)が含まれる。特に、それらの既知DNAマーカーの中でも、Glycine max.のA2連鎖群の17.9〜70.0cMの位置にある核酸配列中のI、AW132402(配列番号1)、C1連鎖群の63.4〜71.4cMの位置にある核酸配列中のSatt139(配列番号2)、D2連鎖群の83.9〜89.3cMの位置にある核酸配列中のSatt669(配列番号3)は、本発明のDNAマーカーとして特に有用であることが実証された。これらの配列は、Genbankから入手可能であり、図2に示されるようなGenBank Accession Numberで登録されている。本発明のDNAマーカーに含まれるその他の既知DNAマーカーは、図1および図2に示されており、これらの既知DNAマーカーを用いることもまた有用である。しかし、本発明のDNAマーカーは、図1および図2に示される既知DNAマーカーに限定されず、本発明により特定された上記染色体部分に基づき、当業者に周知の技術を使用して同定することができる。
【0049】
例えば、そのような本発明のDNAマーカー部分は、(1)ダイズの染色体断片を多数クローニングしたライブラリーを構築し、(2)ライブラリーのクローン群の中から本発明の高イソフラボンDNAマーカー部分を有するクローンを探し出し、(3)クローンの配列情報から反復配列や遺伝子介在配列など変異の生じ易い塩基配列を特定し、(4)イソフラボン蓄積量を高くする染色体部分を持つ系統と、低くする染色体部分を持つ系統との間で、(3)の塩基配列に差異があるものを選択し、(5)QTL解析を行ってイソフラボン蓄積への寄与率が高いものを選択する、ことにより同定することができる。あるいは、本発明のDNAマーカー部分は、(1)ダイズDNA情報のデータベース(例えば、Soybase(http://soybase.agron.iastate.edu/)、DDGJ(http://www.ddbj.nig.ac.jp/searches−j.html)など)から本発明の高イソフラボンDNAマーカー部分の配列情報を入手し、(2)(1)の塩基配列を基にして、イソフラボン蓄積量を高くする染色体部分を持つ系統と、低くする染色体部分を持つ系統との間に差異があるものを探し、(3)QTL解析を行って、イソフラボン蓄積と強く関係するものを選択する、ことによっても同定できる。
【0050】
本発明のDNAマーカー部分は、本発明者らの組換え自殖系統を用いて算出した地図距離を用いて表している(図1および図2)。その地図距離により特定される染色体部分は、別のダイズ系統の遺伝子地図上では異なる地図距離により表される場合がある。しかし、図1および図2に示される既知DNAマーカー座の位置関係は、品種間で保存されている(Bregan P.B.et al.前出)ので、異なる品種における、本発明のDNAマーカー部分に対応する部分は、既知DNAマーカー座を参照することで、特定することができる。例えば、A1連鎖群の94.9cM〜98.8cMの部分は、Satt258とSat_271とにより挟まれる部分としても表すことができる。
【0051】
別の局面において、本発明は、本発明のDNAマーカーを用いて、所望のイソフラボン産生レベルを有するダイズをスクリーニングする方法を提供する。本発明の方法は、ダイズからDNAを抽出し、得られたDNAにおいて本発明のDNAマーカーを検出し、高イソフラボン蓄積量に関与する染色体部分を有すると判定されたダイズを選択する工程を包含する。本発明のDNAマーカーの判定は、種々の方法によって実施できる。例えば、本発明のDNAマーカーは、核酸増幅技術を用いて検出できる。例えば、本発明のDNAマーカーとして、図1および図2に示される既知DNAマーカーを用いる場合、図2に示される対応するプライマー対を用いて核酸を増幅し(例えば、PCRにより)、その増幅産物の多型を調査することでマーカーの有無を検出することができる。図2には、ひとつのDNAマーカーに対して一対のプライマー対が記載されているが、それ以外のプライマーを用いても本発明のDNAマーカーを検出できることは明らかである。当業者は、当該分野で周知の技術を用いて、本発明のDNAマーカーを検出し得るプライマーを作製することができる。
【0052】
別の局面において、本発明は、所望のイソフラボン産生レベルを有するダイズを作製する方法を提供する。本発明においては、Peking品種とタマホマレ品種とが、イソフラボン蓄積量を増加させる染色体部分を有していることを初めて見出した。さらに、これらの品種をかけ合わせることで、従来より高濃度のイソフラボンを含有するダイズ系統を作製することに成功した。例えば、Peking×タマホマレ系統において、ダイズ種子中に平均7mg/gを超えるイソフラボンを蓄積する系統を作製した。これは、従来、イソフラボン蓄積量が高いとされていた品種「ふくいぶき」のイソフラボン蓄積量を超える値である。1つの実施形態において、本発明の方法は、Peking品種とタマホマレ品種をかけ合わせて組み換えダイズ系統を作製する工程、該組み換え系統から染色体DNAを抽出する工程、該染色体DNAにおいて本発明のDNAマーカーを検出する工程、および高イソフラボン蓄積量を有すると判定された系統を選択し、栽培する工程を包含する。ダイズDNA中に本発明のDNAマーカーが存在するか否かを決定する方法は、上記の通りである。この実施形態においては、Peking種とタマホマレ種をかけ合わせて組み換えダイズ系統を作製する例を示したが、本発明は、両品種の組み合わせに限定されるものではなく、本発明のDNAマーカーが存在し得るいかなる組み合わせも含むことが理解されるべきである。従って、Peking種とタマホマレ種の組み合わせ以外からも、本発明のDNAマーカーの存在が確認され得る系統が存在し、それらもまた、上記のような高イソフラボン蓄積量を有し得ること、およびそのようなダイズ系統もまた、本発明の範囲内に含まれることが理解されるべきである。本発明はまた、上記方法によって作製された高イソフラボン蓄積量を有するダイズを提供する。
【0053】
本発明はまた、イソフラボン産生レベルが低いダイズを作製する方法も提供する。本発明の方法は、ダイズ染色体において、本発明のDNAマーカーを検出し、高イソフラボン蓄積量に関与する染色体部分を含まないダイズを選択する工程を包含する。本発明のDNAマーカーの非存在は、イソフラボン産生レベルが抑制されていることの指標となる。
【0054】
別の局面において、本発明は、高イソフラボン蓄積量を有するダイズをスクリーニングするためのキットを提供する。本発明のキットは、本発明のDNAマーカーのうちの少なくとも1つを検出し得る核酸分子、および指示書を含む。このような核酸分子は、例えば、上記のような、本発明のDNAマーカーの一部を増幅することができるプライマーとして利用できる核酸分子である。そのような核酸分子の詳細については、上記を参照されたい。
【0055】
(QTL解析)
この節では、本発明において使用されるQTL解析について説明する。
【0056】
一般に、植物の特性の中で、収量や含有量など品種によって多いものから少ないものまで連続的な変異が観察される特性を量的形質と呼び、品種によってモチとウルチなどのように容易に2群に分けることが可能な形質を質的形質と呼んで互いに区別する。イソフラボン含有量が質的形質ならば、イソフラボンの多い品種と少ない品種との交配後代において多い系統と少ない系統とに容易に分類でき、イソフラボン含量の多少と連動する染色体領域を容易に確認することができる。しかし、実際にはイソフラボン含量は量的形質であり、その変異には多数の遺伝子が関与しているため雑種集団のイソフラボン含量は連続分布をする。したがって、イソフラボン含量の増加に寄与している染色体領域を特定するためには統計的解析を行う必要がある。この手法の総称がQTL(Quantitative Trait Loci:量的形質遺伝子座)解析である。QTL解析では、特性に関して分離が認められる雑種集団(F集団や組換え自殖系統)について遺伝子地図が完成している必要があるため、QTL解析には広い範囲の品種の組み合わせにおいて遺伝子地図作製に用いることができる分子マーカーを利用するのが一般的である。遺伝子地図作製に用いた分子マーカーは同時に雑種集団において染色体の各部分がどちらの両親に由来するものかを判定する道具となる。QTL解析を分散分析に基づいて行う場合には(Wellerr J.L.,M.Soller and T. Brody 1988 Linkage analysis of quantitative traits in an interspecific cross of tamato(Lycopersicon esculentum × L. pimpinellifolium) by means of genetic markers. Genetics 118:329−339.)、染色体の特定部位に関する分子マーカーの遺伝子型に基づいて雑種集団を2もしくは3群(両親型もしくは両親型とヘテロ型)に分類する。このとき、観察される特性値の群間分散が郡内分散より有意に増加していれば、当該染色体部位の近傍に特性値に関与するQTLがある可能性が高いと判定する。ただし、この手法ではQTL近傍マーカーからQTLまでの距離を推定できないので、マーカーから遠くて効果の大きい因子とマーカーに近くて効果の小さい因子の区別ができない。この点を補う別法が区間マッピング法である(Lander E.S. & D.Botstein 1986 Mapping mendelian factors underlying quantitative traits using RFLP linkage maps.Cold Spring Harbor Symp.On Quant.Biol.51:49−62)。この手法では特性値に関与する遺伝因子(Qとする)が近傍の染色体のマーカーAおよびマーカーBの間に存在し、AおよびBとの連鎖価をr1およびr2であると仮定する。このとき、AおよびBの遺伝子型別に算出したQの遺伝子型(Q1Q1、Q1Q2、Q2Q2)の確率頻度と推定遺伝子型値(z1、z2、z3)より、Qの部分に相加効果u、優性効果dの遺伝因子が存在する場合の対数尤度(log10L)を算出する。さらに、Qの部分に遺伝効果が全くない場合(u=0、d=0)の対数尤度(log10L0)を算出してLODスコア=log10L −log10L0を求める。QTL解析ではQの位置を連鎖群の端から少しずつ移動させながら各点でのLODスコアを算出する。LODスコアの値が閾値(一般的には2.5〜3)を超える部分にQが存在する可能性があると判断し、LOD値の最大値の位置をQすなわちQTLが存在する位置であると推定する。
【0057】
以上のように、本発明の好ましい実施形態を用いて本発明を例示してきたが、本発明は、これらの実施形態に限定して解釈されるべきものではない。本発明は、特許請求の範囲によってのみその範囲が解釈されるべきであることが理解される。当業者は、本発明の具体的な好ましい実施形態の記載から、本発明の記載および技術常識に基づいて等価な範囲を実施することができることが理解される。本明細書において引用した特許、特許出願および文献は、その内容自体が具体的に本明細書に記載されているのと同様にその内容が本明細書に対する参考として援用されるべきであることが理解される。
【実施例】
【0058】
以下に、本発明の実施例を記載する。しかし、これらの実施例は、本発明の一実施形態を例示するものであって、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0059】
(実施例1:大阪、京都、長野において栽培したダイズ種子中のイソフラボン蓄積量のQTL解析)
品種Peking(母本)×タマホマレ(父本)の組み換え自殖F系統(以下PTと略)を作製してこれを栽培し、得られた種子中のイソフラボン蓄積量とその関与遺伝子をQTL解析により調査した。ダイズ種子中のイソフラボン蓄積量は様々な環境の影響を受けて変化し、中でも登熟期間中の気温が蓄積量を大きく左右することが知られている(Tsukamoto et al.,1995)。従って、PT系統を登熟期間中の気温が異なる大阪、京都、長野で栽培した。
【0060】
(方法)
ダイズの組換え系統の作製は、Haldane J.B.S.& C.H.Waddington(1931)Inbreeding and Linkage.Genetics 16:357−374に記載される方法に従って、実施した。簡単に言うと、純系である両親品種を交雑して得られたF個体を自殖してF個体を育成した。この後、各F2個体を自殖して得られた種子より1粒を取って次世代F個体を育成した。同様にして、各世代の個体から自殖種子を1粒ずつ採種して次世代を育成することを繰り返した。11〜13世代の自殖を繰り返すことで遺伝子座の9割がどちらかの親型に固定した。
【0061】
各栽培地で得られたPT種子中のイソフラボン蓄積量は、定義の節に記載されるように、HPLCにより測定した。
【0062】
QTL解析については、定義の節およびQTL解析の節に記載されている通りである。
【0063】
(結果)
QTL解析により、3府県で栽培したPT系統においてイソフラボン蓄積量の増加に関与する可能性が高い(LOD2.5以上)と判断されたQTLを、図1および図2に図示した。本実験により、A1連鎖群の94.9〜98.8cMの染色体部分の親型がPeking品種であること、A2連鎖群の17.9〜70.0cMの染色体部分の親型がタマホマレ品種であること、A2連鎖群の100.3〜103.8cMの染色体部分の親型がタマホマレ品種であること、C1連鎖群の63.4〜71.4cMの染色体部分の親型がタマホマレ品種であること、D2連鎖群の55.8〜73.4cMの染色体部分の親型がPeking品種であること、D2連鎖群の83.9〜89.3cMの染色体部分の親型がPeking品種であること、およびG連鎖群の133.1〜141.1cMの染色体部分の親型がPeking品種であることが、高いイソフラボン蓄積量に関与していることが明らかになった(図1および図2を参照のこと)。これらの染色体部分に該当する既知DNAマーカー(図1および2を参照のこと)について検討したところ、特に、京都ではI、Satt139、大阪ではAW132402、Satt139、長野ではI、Satt669が寄与率の高いピークを示した。
【0064】
【表2】

【0065】
(実施例2:検出されたマーカーと実際のイソフラボン蓄積量との関係)
長野で寄与率の高かったI、Satt669において遺伝子型の組み合わせごとにイソフラボン蓄積量の頻度分布をまとめた。
【0066】
(方法)
イソフラボン蓄積量については、実施例1と同様の方法により測定した。
【0067】
IおよびSatt669の遺伝子型の特定は、以下の手順で行った。
【0068】
(ダイズDNAの抽出(CTAB法))
まず、ダイズ植物体から核DNAを以下の手順で抽出した。
1.サンプル(若葉)を3g強、SDSを0.3g、PVPを0.3g、50mlチューブに入れる
2.メタルコーンを入れ、液体窒素で凍結させる
3.マルチビーズショッカー(安井器械)で1400rpm、15s×2回で粉砕
4.CTABを65℃のウォーターバスで加温(1×、2×両方とも)
5.CTAB2×を3ml、1×を適量入れ、内容物を撹拌して1×で最終的に20mlに定量する
6.チューブを65℃のウォーターバスに入れ、1時間加温(30分ごとにチューブを攪拌する)
7.プロテアーゼKを500μl入れる(プロテアーゼK4mg/CTAB(1×)10ml)
8.室温で30分放置
9.CIAで40mlに定量
10.60rpmで30min振盪
11.チューブ1本あたり1mlのTEバッファと1mg/ml RNase10μlを混合したものを58℃のウォーターバスで1時間加温
12.3000rpmで30min遠心分離
13.上澄みを50mlチューブに10ml分注
14.イソプロパノールを10ml入れ、軽く混合する
15.軽く遠心
16.上澄みを捨てる
17.70%エタノール10ml以上で洗う(2回程度)
18.70%エタノールを捨てて、99%エタノールで洗う
19.99%エタノールを捨てて、乾燥させる
20.各チューブに1mlのTEバッファ+Rnase(11.で作成)を入れ、58℃で1時間放置
21.42℃で放置し、DNAを溶かす
22.1.5mlのチューブに移す(移す前にピペッティングして完全にDNAを溶かす)
23.冷蔵庫に入れて保存
(核酸増幅)
公開されているデータベースからSatt669などのSSRマーカーを増幅するために用いるプライマー配列を入手した。配列をもとにオリゴDNA合成受託サービスを手がける民間企業より合成プライマーを購入した。
【0069】
次に、所定のプライマー対を用いて、抽出した核DNAを鋳型にしたPCRを市販のPCR反応装置(アプライドバイオシステム社 GeneAmp9700など)を用いて以下の条件で増幅反応を行った。
【0070】

(DNA増幅(PCR)の反応組成)
tDNA−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−30ng
Primer (Upper)−−−−−−−−−−−−0.2μM
Primer (Lower)−−−−−−−−−−−−0.2μM
Taq ポリメラーゼ−−−−−−−−−−−−−−−−0.25U
10×反応バッファ−−−−−−−−−−−−−−−−−−−1μl
滅菌蒸留水で10μlに調整する。
【0071】

(PCRの反応条件)
1:95℃ 5分間
2:92℃ 1分間
3:47℃ 1分間
4:68℃ 1分間
5:2へ戻る 32回
6:68℃ 3分間

(増幅産物の特定)
増幅されたDNA断片を12%のポリアクリルアミドゲルを用いて分離し、エチジウムブロマイドを用いて染色した後、トランスイルミネーター上で増幅断片の長さを確認した。増幅断片長の長さから(表3を参照のこと)、調査個体のDNA断片が両親のどちらに由来するものであるかを判定した。高いイソフラボン蓄積量を示す個体を選ぶ場合は、イソフラボン含量を増加させるQTLをもつ親と同じDNA断片を示す個体を選抜した。
【0072】
【表3】

【0073】
また、Iの遺伝子型は、Peking種に由来する場合、得られる種皮が黒色になり、タマホマレ種に由来する場合は、白色になることが知られている(Palmer,R.G.& T.C.Kilen 1987 Qualitative genetics and cytogenetics.In J.R.Wilcox(Ed.)Soybeans:Improvement,production,and uses.2nd ed.Agron.Monogr.16.ASA,CSSA,and SSSA.Madison,WI.pp135−209)。従って、本発明においては、Iについての遺伝子型の判別は、得られる種子の色により行った。
【0074】
(結果)
結果を図3に示す。図3に示されるように、I×Satt669の遺伝子型がABからBAに移行するにつれて集団が高イソフラボン側へ遷移する様子が観察された。また、イソフラボン蓄積量毎の各遺伝子型の頻度を調べると、図4に示されるように、BAは最もイソフラボン蓄積量が高い傾向を示した。この結果は、QTL解析で検出されたIおよびSatt669が、実際のイソフラボン蓄積量に関与していることを実証している。今回のQTL解析において検出されたその他のマーカーについても同様に、イソフラボン蓄積量と関与しているものと考えられる。
【0075】
この実施例から、Peking×タマホマレの組換え系統において、BA遺伝子型のダイズのイソフラボン蓄積量が最も高かった。
【0076】
また、BA型ダイズのイソフラボン蓄積量は、平均7.26mg/gであった。従来は、6mg/g程度で高イソフラボン蓄積量であるとされており、本発明によって、従来の蓄積量をはるかに凌ぐ高イソフラボンダイズ系統を開発することが可能であることが実証された。純系のタマホマレ品種の平均イソフラボン蓄積量は、約4〜5mg/gである。本発明により、純系のタマホマレ品種と比較して、種子中のイソフラボン蓄積量が、少なくとも1.4倍以上増加したダイズを作製することができた。
【0077】
(実施例3:栽培温度の寄与率への影響)
QTL解析において各栽培地でピークの集中するI、AW132402(図1および表2を参照のこと)における寄与率を比較すると、共通して非常に高い寄与率が確認された。
【0078】
【表4】

【0079】
各栽培地で共通するピークは、環境の影響を受けずにイソフラボン蓄積に関与していると考えられたため、A2連鎖群におけるI〜AW132402の領域は特に、イソフラボン生合成の遺伝的メカニズムにおいて重要な役割を果たし得ることが実証された。また、栽培地が異なっても高イソフラボン蓄積量を示す系統が確認されたことから(図5)、高温下においても安定して高イソフラボン蓄積量を示す品種育成が可能であることが実証された。
【0080】
(実施例4:高イソフラボン蓄積量を有するダイズ系統の作製)
実施例1に記載される方法を用いて、Peking品種×タマホマレ品種の組み換え自殖系統を作製し、栽培する。得られた各個体から若葉をサンプリングし、上記手順に従ってDNAを抽出する。得られたDNA抽出物をテンプレートとし、上記手順に従って核酸増幅を行い、Iがタマホマレ品種に由来し、かつSatt669がPeking品種に由来する個体を同定する。得られた個体は、イソフラボン蓄積量が高いダイズである。これらを低温環境下で栽培することで、より高イソフラボン蓄積量を有するダイズを得ることができる。
【産業上の利用可能性】
【0081】
高イソフラボン品種の開発効率が容易になれば、さまざまなダイズ加工食品、豆腐、納豆、豆乳、あるいは煮豆、それぞれに特化した品種をすべて高イソフラボン品種に置き換えることが容易になる。イソフラボン摂取量の向上は国民の食生活の改善に繋がると期待される。また、本発明によれば、遺伝子組換えを行わずに高イソフラボン品種を開発することが可能である。日本のように、遺伝子組換え食品に対する消費者の抵抗感が依然として強く残っている地域においては、本発明の産業的価値は、特に高い。
【図面の簡単な説明】
【0082】
【図1−1】図1−1は、長野・大阪・京都で栽培したPT系統のイソフラボン蓄積量についてのQTL解析により、イソフラボン蓄積に関与すると判断された染色体部分を図示した図である。図中、右側の、大阪等と書かれた線を付された部分がイソフラボン蓄積に関与すると判断された染色体部分である。そのうち、特に寄与率の高い部分に三角印を付している。図には、既知DNAマーカー部位およびその位置(cM)も示されている。
【図1−2】図1−2は、長野・大阪・京都で栽培したPT系統のイソフラボン蓄積量についてのQTL解析により、イソフラボン蓄積に関与すると判断された染色体部分を図示した図である。図中の各部の説明は、図1−1の説明を参照のこと。
【図1−3】図1−3は、長野・大阪・京都で栽培したPT系統のイソフラボン蓄積量についてのQTL解析により、イソフラボン蓄積に関与すると判断された染色体部分を図示した図である。図中の各部の説明は、図1−1の説明を参照のこと。
【図1−4】図1−4は、長野・大阪・京都で栽培したPT系統のイソフラボン蓄積量についてのQTL解析により、イソフラボン蓄積に関与すると判断された染色体部分を図示した図である。図中の各部の説明は、図1−1の説明を参照のこと。
【図1−5】図1−5は、長野・大阪・京都で栽培したPT系統のイソフラボン蓄積量についてのQTL解析により、イソフラボン蓄積に関与すると判断された染色体部分を図示した図である。図中の各部の説明は、図1−1の説明を参照のこと。
【図2−1】図2−1は、QTL解析により同定された本発明のDNAマーカー領域に含まれる既知マーカーおよびそれらの既知マーカーを検出するためのプライマー対を示す。
【図2−2】図2−2は、QTL解析により同定された本発明のDNAマーカー領域に含まれる既知マーカーおよびそれらの既知マーカーを検出するためのプライマー対を示す。図2−2は、図2−1の続きである。
【図3】図3は、I×Satt669の各々の遺伝子型についてのイソフラボン蓄積量の傾向を示す。
【図4】図4は、長野で栽培したPT系統におけるBA遺伝子型の頻度分布を示す。BA遺伝子型を有するダイズは、高イソフラボン蓄積量を有する傾向が高いことが示されている。矢印は、Peking:6.95mg/g、タマホマレ:4.85mg/g、全体平均:5.86mg/gを示す。
【図5】図5は、大阪および長野におけるPT系統のイソフラボン蓄積量の相関図である。破線は、既存の高イソフラボン品種「ふくいぶき」のイソフラボン含量を示している。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
Glycine max.のA1連鎖群の94.9〜98.8cMの位置にある核酸配列、A2連鎖群の17.9〜70.0cMの位置にある核酸配列、A2連鎖群の100.3〜103.8cMの位置にある核酸配列、C1連鎖群の63.4〜71.4cMの位置にある核酸配列、D2連鎖群の55.8〜73.4cMの位置にある核酸配列、D2連鎖群の83.9〜89.3cMの位置にある核酸配列、およびG連鎖群の133.1〜141.1cMの位置にある核酸配列からなる群より選択される少なくとも1つの核酸配列のうちの少なくとも8塩基を含む、ダイズにおけるイソフラボン産生レベルを判定するためのDNAマーカー。
【請求項2】
Glycine max.のA2連鎖群の48.84〜67.86cMの位置にある核酸配列のうちの少なくとも8塩基を含む、請求項1に記載のDNAマーカー。
【請求項3】
配列番号1で示される核酸配列のうちの少なくとも8塩基を含む、請求項2に記載のDNAマーカー。
【請求項4】
配列番号2で示される核酸配列のうちの少なくとも8塩基を含む、請求項1に記載のDNAマーカー。
【請求項5】
配列番号3で示される核酸配列のうちの少なくとも8塩基を含む、請求項1に記載のDNAマーカー。
【請求項6】
所望のイソフラボン産生レベルを有するダイズをスクリーニングする方法であって:
(a)ダイズからDNAを抽出する工程;および
(b)請求項1〜5に記載のDNAマーカーのうちの少なくとも1つを検出する工程、
を包含する、方法。
【請求項7】
(b)請求項2および請求項5に記載のDNAマーカーの存在を検出する工程を包含する、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
(c)ダイズ種皮の色が白色のものを選択する工程をさらに包含する、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
請求項6〜8に記載の方法により得られた、高イソフラボン蓄積量を有するダイズ系統。
【請求項10】
イソフラボン蓄積量が、タマホマレ品種のイソフラボン蓄積量と比較して少なくとも1.4倍増加している、請求項9に記載のダイズ系統。
【請求項11】
高イソフラボン蓄積量を有するダイズを作製する方法であって:
(a)Peking種とタマホマレ種をかけ合わせて組換え系統を作製する工程;
(a)該組換え系統からDNAを抽出する工程;
(b)請求項1〜5に記載のDNAマーカーのうちの少なくとも1つを検出する工程;および
(c)選択された系統を栽培する工程、
を包含する、方法。
【請求項12】
(b)請求項2および請求項5に記載のDNAマーカーの存在を検出する工程を包含する、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
(c)ダイズ種皮の色が白色のものを選択する工程をさらに包含する、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
請求項11〜13に記載の方法により得られた、高イソフラボン蓄積量を有するダイズ系統。
【請求項15】
イソフラボン蓄積量が、タマホマレ品種のイソフラボン蓄積量と比較して少なくとも1.4倍増加している、請求項14に記載のダイズ系統。
【請求項16】
ダイズであって、ここで、該ダイズ染色体において、タマホマレ品種由来のI遺伝子座を有し、かつ、種子中のイソフラボン蓄積量が6mg/gより高い、ダイズ。
【請求項17】
前記ダイズ染色体中において、タマホマレ品種由来のI遺伝子座およびPeking品種由来のSatt669遺伝子座を有し、かつ、種子中のイソフラボン蓄積量が7mg/gより高い、請求項16に記載のダイズ。
【請求項18】
所望のイソフラボン産生レベルを有するダイズをスクリーニングするためのキットであって:
(a)請求項1〜5に記載のDNAマーカーのうちの少なくとも1つを検出し得る核酸分子;ならびに
(b)指示書、
を含む、キット。
【請求項19】
(a)請求項2に記載のDNAマーカーの存在を検出し得る核酸分子、および請求項5に記載のDNAマーカーの存在を検出し得る核酸分子を含む、請求項18に記載のキット。

【図1−1】
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【図1−2】
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【図1−3】
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【図1−4】
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【図1−5】
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【図2−1】
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【図2−2】
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【図4】
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【図5】
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【図3】
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【公開番号】特開2006−81511(P2006−81511A)
【公開日】平成18年3月30日(2006.3.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−272398(P2004−272398)
【出願日】平成16年9月17日(2004.9.17)
【出願人】(504132272)国立大学法人京都大学 (1,269)
【出願人】(591183625)フジッコ株式会社 (15)
【Fターム(参考)】