説明

ダイヤモンドの製造方法

【課題】簡易な装置を用いて有機系爆薬からダイヤモンドを容易に効率よく合成する方法を提供する。
【解決手段】耐圧性の容器中で、爆薬を爆発させることによりダイヤモンドを製造する方法であって、前記爆薬を氷で覆った状態で爆発させる工程を有することを特徴とするダイヤモンド製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、簡易な装置を用いて爆薬を爆発させることによって爆薬中の炭素原子から直接ダイヤモンドを容易に効率よく製造することができるダイヤモンドの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、爆薬の爆発により、3000〜5000℃及び数十万気圧程度の高温高圧状態を発生させ、爆発によって得られた生成物を、回収して、異物を分離し、硝酸や硫酸等で化学的に処理し精製することにより、爆薬由来の炭素からダイヤモンドの微粒子を合成する方法が知られている。このダイヤモンドの一次粒子の大きさはナノメータサイズであり、精密研磨剤、減摩剤、潤滑剤、増強剤、コーティング剤等に利用されている。
【0003】
前記ナノサイズダイヤモンドの合成方法としては、(a)圧力容器内を爆薬中の炭素原子に対して不活性なガスで満たし、その中で爆薬を爆発させる合成方法(ドライ法)と、(b)水中で爆薬を爆発させる合成方法(ウエット法)とがある。
【0004】
不活性ガスを用いたドライ法の場合、爆薬の爆発生成物を冷却するために冷却効果を有する不活性ガスを多く用いる必要があることから、必然的に圧力容器を大型にするか、又は爆発時に圧力容器内を高圧にする必要がある。また、爆発によって生成する生成物(炭素質煤)が圧力容器の内壁面に付着し易くなるため、合成時の回収効率が悪くなり、またこれを連続で合成する場合には、生成した炭素質煤が、次の爆発時に容器内で舞い上がり、沈降するまでに時間を要するため作業効率が悪い。さらに、爆発時に発生する熱によって圧力容器内壁の温度が上昇し、特に連続で合成する場合にはさらに温度が上昇するため、圧力容器の劣化(圧力容器本体の歪、Oリングの熱劣化による圧力容器の気密性の低下、耐圧強度の低下等)を促進する等の問題がある。さらに、生成したダイヤモンドの酸化を抑止するために酸素濃度を1.0体積%以下程度にまで減少させなければならない等、合成環境を整えるための操作に手間を要する。
【0005】
水中で有機系爆薬を爆発させるウエット法として、例えば、特開平3-271109号(特許文献1)は、酸素バランスが負に調整された有機系爆薬組成物(10 g)を内側にセットした、一端が開放した鉄製の円筒を、水中(水深1.2 m)に吊した状態で爆発させ、得られた沈澱物を分離し、精製してダイヤモンドを合成する方法を開示しており、この方法では精製後、爆薬の質量に対して1〜5%程度のダイヤモンドが得られると記載している。しかしながら、特許文献1に記載の方法では、鉄製の円筒容器に爆薬をセットして爆発させるので、回収した生成物中に鉄の不純物が多く含まれてしまい、精製に多くの工程を有する。鉄はダイヤモンドの酸化を促進する触媒として働くため、できるだけ鉄の不純物の少ないナノサイズダイヤモンドを製造する方法が望まれている。
【0006】
特開2007-269576号(特許文献2)は、圧力容器内の空間部ほぼ中央に、起爆手段を有する有機系爆薬を、炭化水素系高分子材料からなる袋体に冷却剤を介して収容した状態で配置し、かつ前記袋体の外側空間部を有機系爆薬中の炭素原子に対して不活性なガスで満たした条件下で、前記起爆手段により有機系爆薬を爆発させることによりクラスターダイヤモンドを合成する方法を開示しており、爆薬の周辺に冷却剤と不活性ガスの双方をこの順で配置することによって、比較的小型の圧力容器でもクラスターダイヤモンドを容易に効率よく合成することができると記載している。特許文献2は、前記冷却剤として水、蒸留水又は氷を挙げており、蒸留水を用いた場合、有機系爆薬に対して質量比率で3〜20倍使用するのが好ましいと記載している。しかしながら、特許文献2に記載の合成方法でも、収率は1回の爆発で5%程度であり、更なる収率アップが望まれている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平3-271109号公報
【特許文献2】特開2007-269576号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
従って、本発明の目的は、簡易な装置を用いて有機系爆薬からダイヤモンドを容易に効率よく合成する方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的に鑑み鋭意研究の結果、本発明者らは、爆薬を氷で覆った状態で爆発させることにより、ダイヤモンドの合成に適した高温高圧状態を形成し、かつ高い冷却速度を得ることができるため、ダイヤモンドを容易に収率よく合成することができることを見出し、本発明に想到した。
【0010】
すなわち、本発明のダイヤモンドの製造法は、耐圧性の容器中で、爆薬を爆発させることによりダイヤモンドを製造する方法であって、前記爆薬を氷で覆った状態で爆発させることを特徴とする。
【0011】
前記爆薬は、氷で形成した容器中に充填した状態で爆発させるのが好ましい。
【0012】
前記氷の中に充填した爆薬は、水中で爆発させるのが好ましい。
【0013】
前記爆薬を充填した氷に、水をかけながら爆発させるのが好ましい。
【0014】
前記耐圧性の容器中の内壁面全体に水を流しながら爆発させるのが好ましい。
【0015】
爆発時の水及び氷の合計量は、前記爆薬1 kg当たり25〜50000 kgであるのが好ましい。
【0016】
前記容器内に酸素を含まない状態で爆発を行うのが好ましい。
【0017】
前記水及び/又は氷は、脱酸素したものであるのが好ましい。
【0018】
前記爆薬はトリニトロトルエンとシクロトリメチレントリニトロアミンとの混合物であるのが好ましい。
【0019】
前記耐圧性の容器は、前記爆薬1 kgに対して2〜300 m3の容積を有するのが好ましい。
【0020】
前記耐圧性の容器にリーク弁又はラバルノズルを設け、前記リーク弁又はラバルノズルの下流側にさらに耐圧性の密閉容器を設け、前記爆発によって発生した圧力を、前記リーク弁又はラバルノズルを介して、前記密閉容器に開放するのが好ましい。
【0021】
爆発は2回以上連続して実施するのが好ましい。
【発明の効果】
【0022】
本発明の方法は、爆薬を氷で覆った状態で爆発させることにより、狭い領域で非常に高い圧力及び高い温度を得ることができると同時に、氷による高い冷却効率が得られるため、ダイヤモンドからグラファイトへの相転換を抑止し、高い収率でダイヤモンドを合成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】本発明のダイヤモンドの製造方法で用いる装置の一例を示す模式断面図である。
【図2】本発明のダイヤモンドの製造方法で用いる氷の容器を示す模式図である。
【図3】本発明のダイヤモンドの製造方法で用いる装置の他の一例を示す模式断面図である。
【図4】本発明のダイヤモンドの製造方法で用いる装置のさらに他の一例を示す模式断面図である。
【図5】本発明のダイヤモンドの製造方法で用いる装置のさらに他の一例を示す模式断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
本発明のダイヤモンドの製造方法の好ましい実施の形態について詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0025】
(1)ダイヤモンドの合成
本発明のダイヤモンド製造方法は、爆薬を氷で覆った状態で耐圧性の容器中に設置し、前記爆薬を爆発させることにより行う方法である。前記爆薬は、有機系爆薬を使用する。図1に示すように、耐圧性の容器1の内部に、氷2で覆った状態の爆薬3を、吊材4で吊設して配置する。吊設する位置は、得られるダイヤモンドの収率ができるだけ高くなるように、容器の形状、爆薬の種類・量等によって、適宜調節する。特に、容器のほぼ中央が好ましい。前記吊材4として、銅線等の金属線を使用し、爆薬に取り付けた電気雷管への電流を供給するための導線として使用するのが好ましい。
【0026】
爆発によって得られた生成物は、前記耐圧性の容器の内壁を水で洗い流して、水分散物として回収する。生成物の回収は、1回の爆発を実施した後で行っても良いが、2回以上の爆発を連続して実施した後でまとめて回収した方が効率的であり、ダイヤモンドの収率も向上する。連続して2回以上爆発を実施した場合、1回目の爆発で耐圧性の容器内の酸素が消費されるので、2回目以降の爆発においてダイヤモンドの酸化が抑止されるという効果も得られる。
【0027】
連続して2回以上の爆発を実施する場合、爆薬を氷で覆った状態で、少なくとも1回の爆発を実施する必要がある。2回目以降の全ての爆発を、爆薬を氷で覆った状態で実施するのが好ましく、全ての爆発を、爆薬を氷で覆った状態で実施するのが最も好ましい。2回目以降の爆発における耐圧性の容器内への爆薬の設置は、耐圧性の容器内へ空気中の酸素ができるだけ流入しないように素早く行うのが好ましい。また、耐圧性容器の上蓋を解放したときに容器内へ空気が流入しないようにするため、耐圧性容器に設けたガス流入口(図示せず。)から容器内に窒素等の不活性ガスを流入させ、耐圧性の容器内を大気圧よりも高圧にした状態で爆薬の設置作業を行うのが好ましい。
【0028】
前記爆薬3を氷で覆う方法については特に限定されないが、例えば、図2(a)に示すような氷で形成した容器5aを準備し、この容器5aに前記爆薬3を充填(図2(b))し、さらに氷で形成した容器5bで蓋をする(図2(c))ことによって、前記爆薬3を氷で覆った状態にすることができる。このように爆薬を氷で覆った状態にすることにより、爆発時に発生する圧力を効果的に高めることができると共に、氷によって急速な冷却が可能であるため、前記有機系爆薬由来の炭素から生成されるダイヤモンドがグラファイトへ相転換するのを抑止できる。
【0029】
前記爆薬3を覆うための氷2は、脱酸素した水によって形成するのが好ましい。脱酸素の方法は特に限定されないが、脱気、沸騰、不活性ガスによる置換等の方法により行うのが簡便である。酸素を含有しない氷を使用することにより、爆発により合成されたダイヤモンドが酸化するのを防止することができる。
【0030】
使用する氷の量は、前記爆薬1 kg当たり2〜100 kgであるのが好ましく、5〜20 kgであるのがより好ましい。
【0031】
前記氷2で覆った爆薬3は、図3に示すように、さらに水6中に浸漬させた状態で爆発させても良い。水6中で爆発させることにより、さらに高い冷却速度を得ることができるため、ダイヤモンドを高い収率で合成することが可能である。使用する水の量は、氷及び水の合計量として、爆薬1 kg当たり25〜50000 kgであるのが好ましく、30〜20000 kgであるのがより好ましく、50〜10000 kgであるのが最も好ましい。25 kg未満では水を使用する効果があまり得られず、50000 kgより多い場合は爆発による生成物を回収するのに手間がかかり収率が低下する。
【0032】
前述の様に爆薬を水6に浸漬させる代わりに、図4に示すように、シャワー状の水7を耐圧性の容器の上部から前記爆薬3を充填した氷2にかけながら爆発させてもよい。またシャワー状の水7を耐圧性の容器の上部からかける代わりに、水をミスト状にして前記爆薬3を充填した氷2に付着させても良い(図示せず。)。また、ノズル等で耐圧性の容器の側壁部から噴出させて前記爆薬3を充填した氷2にかけても良い(図示せず。)。水をかけながら爆発させることにより、さらに高い冷却速度を得ることができるため、ダイヤモンドを高い収率で合成することが可能である。供給する水の量は、爆薬1 kg当たり10〜5000 kg/minであるのが好ましく、20〜2000 kg/minであるのがより好ましく、50〜1000 kg/minであるのが最も好ましい。水をかける方法を採用した場合、水に浸漬する方法に比べて少ない水の量で水に浸漬する方法と同等の冷却効果が得られるので、生成物を回収するときの効率が向上する。
【0033】
前記耐圧性の容器中の内壁面全体に水を流しながら爆発させるのが好ましい。水は耐圧性の容器の上部から容器の側壁面を伝わせて流しても良いし、ノズル等で耐圧性の容器の壁部から内壁面に向けて水を噴出し内壁面にかける方法でも良い。またミスト状の水を供給することにより、耐圧性の容器中の内壁面全体に水を付着させる方法でもよい。耐圧性の容器中の内壁面全体に水を流しながら、又はミスト等で水を付着させた状態で爆発を行うことにより、爆発によって生成する生成物が圧力容器の内壁面に付着しにくくなり、前記爆発生成物の回収効率が向上する。また連続的に爆発を行う場合、生成した炭素質煤の容器内での舞い上がりを減少させることができ、作業効率が向上する。さらに、爆発時に発生する熱による圧力容器内壁の温度の上昇を減少させることができ、圧力容器の耐久性の向上にも寄与する。
【0034】
本発明の方法において使用する水は、脱酸素したものであるのが好ましい。脱酸素の方法は特に限定しないが、脱気、沸騰、不活性ガスによる置換等の方法により行うのが簡便である。酸素を含有しない水を使用することにより、爆発により合成されたダイヤモンドが酸化するのを防止することができる。
【0035】
前記耐圧性の容器の内部は、酸素を含まない状態にするのが好ましい。すなわち、前記耐圧性の容器の内部を真空にするか、二酸化炭素、窒素、アルゴン等の炭素原子に対して不活性なガスで容器内を充填するのが好ましい。爆発した熱を効率よく放熱するという観点からは、不活性ガスで耐圧性の容器内を充填するのが好ましい。不活性ガスで充填する場合、酸素の含有量が10容量%以下であるのが好ましく、5容量%以下であるのがより好ましく、2容量%以下であるのが最も好ましい。前述したように爆発を複数回連続して行う場合、1回目の爆発で耐圧性の容器内の酸素を減少させることができるので、あらかじめ耐圧性の容器内の酸素を不活性ガスで置換しなくても酸素含有量が少ない状態とすることができる。
【0036】
前記耐圧性の容器は、前記爆薬1 kgに対して2〜300 m3の容積を有するのが好ましい。2 m3より小さい場合、爆発時に高温高圧になりすぎるため、効率よく熱を発散させることが困難な場合があり、300 m3より大きくなると爆発による生成物を回収するのに手間がかかり収率が低下する。
【0037】
前記耐圧性の容器をより効率的に冷却し、かつ爆発生成物を効率よく回収するため、図5に示すように、前記耐圧性の容器1にリーク弁8(又はラバルノズル)を設け、さらに前記リーク弁8(又はラバルノズル)の下流側に耐圧性の密閉容器9を設け、前記爆発によって発生した圧力を、前記リーク弁8(又はラバルノズル)を介して、前記密閉容器9に開放する構成とするのが好ましい。このような構成にして冷却速度を高めることにより、ダイヤモンドの収率が向上する。また、前記耐圧性の密閉容器9中に放出された爆発生成物を回収することができるため、さらにダイヤモンドの収率が向上する。前記耐圧性の密閉容器9は、前記耐圧性の容器1に対して、1〜30倍の容量を有するのが好ましく、2〜20倍の容量を有するのがより好ましく、3〜15倍の容量を有するのが最も好ましい。
【0038】
本発明には、高性能爆薬として知られている公知の有機系爆薬を用いることができる。有機系爆薬としては、トリニトロトルエン(TNT)、トリニトロベンゼン(TNB)、トリメチレントリニトラミン(RDX)、テトラメチレンテトラニトラミン(HMX)、テトラニトロメチルアニリン(テトリル)、トリアミノトリニトロベンゼン(TATB)、ジアミノトリニトロベンゼン(DATB)、ヘキサニトロスチルベン(HNS)、ヘキサニトロアゾベンゼン(HNAB)、ヘキサニトロジフェニルアミン(HNDP)、ピクリン酸、ピクリン酸アンモニウム、ベンゾトリアゾール(TACOT)、エチレンジニトラミン(EDNA)、ニトログアニジン(NQ)、ペンタエリスリトールテトラナイトレート(ペンスリット)、ベンゾトリフルオキサン(BTF)等が挙げられ、これらを単独又は混合して使用する。特に、RDX(60%)とTNT(40%)との混合爆薬として知られているコンポジションB等を使用するのが好ましい。
【0039】
これらの有機系爆薬は、炭素原子含有率が15質量%以上、好ましくは20〜35質量%、密度が1.5 g/cc以上、好ましくは1.6 g/cc以上、爆速は7000 m/s以上、好ましくは7500 m/s以上であり、酸素バランスが負、好ましくは-0.2〜-0.6であり、爆轟圧が18 GPa以上、好ましくは20〜30 GPa、爆轟温度が3000 K以上、好ましくは3000〜4000 Kである。そのため、爆薬中の炭素原子を効率よくダイヤモンドに転換することができ、また酸素バランスが負であることから爆発時にダイヤモンドが酸化されて収率を低下させることがない。
【0040】
有機系爆薬として、RDXとTNTとの混合物であるコンポジションBを用いた場合には、溶填により、所望の形状に成型することができる。有機系爆薬として、粉状体の爆薬(例えば、平均粒径が100μm程度のもの)を用いる場合には、高分子等の有機系結合剤と併用することによって、所定形状に成型して用いるのが好ましい。この有機系結合剤としては、コンポジット系推進薬のバインダ成分として知られているポリブタジエン系(ポリブタジエン)、ポリウレタン系(ポリウレタン)、ポリエーテル系(ポリエチレングリコール)等の高分子物質を用いてもよいし、それ自身の燃焼熱が大きなポリマーとして知られているグリシジルアジドポリマー(GAP)、ポリニトラトメチルメチルオキタセン、ポリグリシジルナイトレート等、又はワックスを用いてもよい。この有機系結合剤の割合は1〜40質量%、粉状体の有機系爆薬の割合が60〜99質量%程度であるのが好ましい。
【0041】
(2)爆発生成物の精製
回収した爆発生成物は、ナノサイズのダイヤモンド粒子の表面をグラファイト系炭素が覆ったコア/シェル構造を有しており、黒く着色している。この未精製のナノダイヤモンドは、約2.55 g/cm3の比重を有し、メジアン径(動的光散乱法)は200〜250 nm程度である。この未精製のナノダイヤモンドを以下の方法により酸化処理することにより、グラファイト系炭素のシェル層を除去し、ナノダイヤモンドの粒子を得ることができる。酸化処理により精製したダイヤモンド微粒子は、2〜10 nm程度のダイヤモンドの一次粒子からなるメジアン径150〜250 nm程度の二次粒子である。
【0042】
未精製のナノダイヤモンドの酸化処理方法としては、(a)硝酸等の共存下で高温高圧処理する方法(酸化処理A)、(b)水及び/又はアルコールからなる超臨界流体中で処理する方法(酸化処理B)、(c)水及び/又はアルコールからなる溶媒に酸素を共存させて、前記溶媒の標準沸点以上の温度及び0.1 MPa(ゲージ圧)以上の圧力で処理する方法(酸化処理C)、又は(d)380〜450℃で酸素を含む気体により処理する方法(酸化処理D)が挙げられる。これらの酸化処理は、単独で行ってもよいし、組合せて行っても良い。酸化処理を組合せる場合は、爆射法で得られた未精製のナノダイヤモンドにまず酸化処理Aを施し、さらに酸化処理B〜Cのいずれかを施すのが好ましい。
【0043】
爆射法で得られた未精製のナノダイヤモンドに酸化処理Aを施すことによりグラファイト相の一部が除去されたダイヤモンド粒子(グラファイト-ダイヤモンド粒子)が得られ、このグラファイト-ダイヤモンド粒子に酸化処理B〜Cのいずれかの処理を施すことにより前記グラファイト層をさらに除去することができる。
【0044】
酸化処理したナノダイヤモンドの比重は、ダイヤモンド微粒子中のダイヤモンドとグラファイトとの量によって決まる。すなわち、未精製のナノダイヤモンドに施す酸化処理の程度によって、ダイヤモンド微粒子中のダイヤモンドとグラファイトとの量を変え、ダイヤモンド微粒子の比重を調節することができる。グラファイト系炭素(グラファイトの比重:2.25 g/cm3)の残存量が少なくなればなるほどダイヤモンドの比重(3.50 g/cm3)に近づく。従って、精製度が高くグラファイト系炭素の残存量が少ないほど比重が高くなる。
【実施例】
【0045】
本発明を実施例によりさらに詳細に説明するが、本発明はそれらに限定されるものではない。
【0046】
実施例1
(1)爆薬の準備
図2に示すように、TNT(トリニトロトルエン)とRDX(シクロトリメチレントリニトロアミン)を60/40の比で含む0.65 kgの爆薬3を、脱気した水を凍らせて形成した氷2の容器5aに充填し、同じく脱気した水2を凍らせて形成した氷の容器5bで蓋をした。前記爆薬3には、起爆用爆薬及び電気雷管を取り付けた。氷2の重さは容器5a,5b合わせて15 kgであった。
【0047】
(2)爆薬の設置
この爆薬3を充填した氷2の容器5a,5bを、図1に示すように、3 m3の耐圧性容器1内に吊材4で吊り下げ、耐圧性容器1内の空気を窒素と置換した。前記吊材4として銅線を使用し、爆薬を起爆するための電気雷管への電流はこの銅線を通して供給した。このときの耐圧性容器1内は1気圧であり、酸素濃度は4容量%であった。
【0048】
(3)爆発
図4に示すように、耐圧性容器1の内壁全体、及び爆薬3を充填した氷2の容器5a,5bに、60 kg/minの供給量でシャワー状の水をかけながら氷2の容器5a,5bに充填した爆薬3を爆発させた。爆発時までに供給した水の量の合計は、100 kgであった。
【0049】
(4)爆発生成物の回収
爆発後5分間静置し、耐圧性容器の上蓋10を開け、水で耐圧性容器の内壁面を洗浄しながら黒色液状の爆発生成物(未精製のナノダイヤモンド)を回収した。この未精製のナノダイヤモンドの収率は使用した爆薬量に対して10.5質量%であり、比重は2.55 g/cm3、メジアン径(動的光散乱法)は220 nmであった。この未精製のナノダイヤモンドは、比重から計算して、76体積%のグラファイト系炭素と24体積%のダイヤモンドからなっていると推定された。この未精製のナノダイヤモンドは、ラマンスペクトルにおける1,330±10 cm-1のピーク強度Iaと、1,610±100 cm-1のピーク強度Ibとの比が0.86であった。
【0050】
(5)ナノダイヤモンドの精製
この未精製のナノダイヤモンドを60質量%硝酸水溶液と混合し、160℃、14気圧、20分の条件で酸化性分解処理を行った後、130℃、13気圧、1時間で酸化性エッチング処理を行った。酸化性エッチング処理により、グラファイトが一部除去された粒子が得られた。この粒子を、アンモニアを用いて、210℃、20気圧、20分還流し中和処理した後、自然沈降させデカンテーションにより35質量%硝酸での洗浄を行い、さらにデカンテーションにより3回水洗し、遠心分離により脱水し、120℃で加熱乾燥し、ナノダイヤモンドの粉末を得た。このナノダイヤモンド粉末の収率は使用した爆薬量に対して7.1質量%であり、比重は3.38 g/cm3、メジアン径は130 nm(動的光散乱法)であった。比重から計算して、90体積%のダイヤモンドと10体積%のグラファイト系炭素からなっていると推定された。
【0051】
実施例2
実施例1と同様にして、(1)爆薬の準備〜(3)爆発の操作を2回繰り返した後、(4)爆発生成物の回収作業、及び(5)ナノダイヤモンドの精製を行った以外は実施例1と同様にしてダイヤモンドの合成及び精製を行った。爆発時に供給したシャワー状の水の合計量は、120 kgであった。得られたナノダイヤモンド粉末の収率は7.2%であった。
【0052】
実施例3
実施例1と同様にして、(1)爆薬の準備、(2)爆薬の設置、及び(3)爆発の操作を行った後、さらに、(1)爆薬の準備、(2)爆薬の設置、及び(3)爆発の操作を4回繰り返し、続けて合計で5回の爆発を行った。ただし、2回目以降の爆発においては、爆薬を設置した後に容器内のガスを窒素で置換する操作は省略し、その代わりに、耐圧性容器に設けたガス流入口から不活性ガスを流入させながら、耐圧性容器内への爆薬の設置を素早く行い、空気中の酸素ができるだけ耐圧性容器内へ入らないようにした。5回目の爆発後、実施例1と同様にして、(4)爆発生成物の回収作業、及び(5)ナノダイヤモンドの精製を行った。爆発時に供給したシャワー状の水の合計量は、200 kgであった。得られたナノダイヤモンド粉末の収率は7.5%であった。
【0053】
実施例4
爆薬3を充填した氷2の容器5a,5bにシャワーで水をかける代わりに、爆薬3を充填した氷2の容器5a,5bを、図3に示すように、100 kgの水6に浸漬した状態で爆発を行った以外は実施例1と同様にしてダイヤモンドの合成及び精製を行った。得られたナノダイヤモンド粉末の収率は7.2%であった。
【符号の説明】
【0054】
1・・・耐圧性の容器
2・・・氷
3・・・爆薬
4・・・吊材
5a,5b・・・容器
6・・・水
7・・・シャワー状の水
8・・・リーク弁
9・・・耐圧性の密閉容器
10・・・上蓋

【特許請求の範囲】
【請求項1】
耐圧性の容器中で、爆薬を爆発させることによりダイヤモンドを製造する方法であって、前記爆薬を氷で覆った状態で爆発させることを特徴とするダイヤモンド製造方法。
【請求項2】
請求項1に記載のダイヤモンド製造方法において、前記爆薬を氷で形成した容器中に充填した状態で爆発させることを特徴とするダイヤモンド製造方法。
【請求項3】
請求項1又は2に記載のダイヤモンド製造方法において、前記氷の中に充填した爆薬を、水中で爆発させることを特徴とするダイヤモンド製造方法。
【請求項4】
請求項1又は2に記載のダイヤモンド製造方法において、前記爆薬を充填した氷に、水をかけながら爆発させることを特徴とするダイヤモンド製造方法。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれかに記載のダイヤモンド製造方法において、前記耐圧性の容器中の内壁面全体に水を流しながら爆発させることを特徴とするダイヤモンド製造方法。
【請求項6】
請求項3〜5のいずれかに記載のダイヤモンド製造方法において、爆発時の水及び氷の合計量が前記爆薬1 kg当たり25〜50000 kgであることを特徴とするダイヤモンド製造方法。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれかに記載のダイヤモンド製造方法において、前記容器内に酸素を含まない状態で爆発を行うことを特徴とするダイヤモンド製造方法。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれかに記載のダイヤモンド製造方法において、前記水及び/又は氷は、脱酸素したものであることを特徴とするダイヤモンド製造方法。
【請求項9】
請求項1〜8のいずれかに記載のダイヤモンド製造方法において、前記爆薬がトリニトロトルエンとシクロトリメチレントリニトロアミンとの混合物であることを特徴とするダイヤモンド製造方法。
【請求項10】
請求項1〜9のいずれかに記載のダイヤモンド製造方法において、前記耐圧性の容器が、前記爆薬1 kgに対して2〜300 m3の容積を有することを特徴とするダイヤモンド製造方法。
【請求項11】
請求項1〜10のいずれかに記載のダイヤモンド製造方法において、前記耐圧性の容器にリーク弁又はラバルノズルを設け、前記リーク弁又はラバルノズルの下流側にさらに耐圧性の密閉容器を設け、前記爆発によって発生した圧力を、前記リーク弁又はラバルノズルを介して、前記密閉容器に開放することを特徴とするダイヤモンド製造方法。
【請求項12】
請求項1〜11のいずれかに記載のダイヤモンド製造方法において、爆発を2回以上連続して実施することを特徴とするダイヤモンド製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−135718(P2012−135718A)
【公開日】平成24年7月19日(2012.7.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−289340(P2010−289340)
【出願日】平成22年12月27日(2010.12.27)
【出願人】(500462834)ビジョン開発株式会社 (51)
【Fターム(参考)】