説明

ダイヤモンド皿型砥石および球面レンズの研削方法

【課題】短時間で所定量の研削加工を行うことができ、次の研削工程における取代が少なくて済むように所定の表面粗さで研削可能なダイヤモンド皿型砥石を提案すること。
【解決手段】球面レンズ加工用のダイヤモンド皿型砥石60は、加工対象のレンズ球面とは相補的な球状表面61を備えた工具皿本体62と、球状表面61に積層されている一定厚さの砥材層63とを有している。砥材層63の表面63aから突出しているダイヤモンド砥粒65には共擦り修正加工が施されて、ダイヤモンド砥粒65の最大突出量H1と最小突出量H2の差ΔHが所定値以下となっている。これにより、ダイヤモンド皿型砥石60の切削速度を低下させることなく、当該ダイヤモンド皿型砥石60による研削面の切削傷を小さくして切削面の面精度を高めることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、デジタルカメラなどに使用される光学球面レンズを研削加工するために用いるダイヤモンド皿型砥石、および、当該ダイヤモンド皿型砥石を用いた球面レンズの研削方法に関する。
【背景技術】
【0002】
光学球面レンズの研削方法としては、球面状の研削面を備えた皿型砥石による球面創成方法が広く知られている。例えば、粗研削工程、精研削工程および研磨工程の三工程を経てレンズ球面が加工される。各工程の必要取代は、一般的に、粗研削では0.5〜2mm、精研削では30〜50μm、研磨では10〜20μmとされている。表面粗さRmaxは、粗研削では6〜10μm、精研削では0.5〜4μm、研磨では0.01〜0.02μmとされている。また、各工程における加工時間の配分に応じて最適なダイヤモンド皿型砥石の粒径が選択される。特に、最初の研削工程である粗研削工程での表面粗さが基準となって、その後の工程の加工時間配分、ダイヤモンド皿型砥石の粒径が決められる。
【0003】
表面粗さを小さくするためにはダイヤモンド皿型砥石による切削傷を小さくすればよく、このためには、ダイヤモンドの砥粒径を細かくすればよい。例えば、本願出願人による特許文献1、2に記載のレンズ研削装置において、粒度が#200(JIS)のダイヤモンド皿型砥石を用いてレンズ素材の粗研削を行う場合には、#200の砥粒の平均粒径が74〜88μmであるので、切削傷の深さは約70μmに設定され、この70μmが次の精研削工程での取代とされる。#200よりも細かな砥粒径のダイヤモンド皿型砥石を用いれば、次の精研削工程での取代を少なくできる。例えば、#1200(平均粒径12μm)または#1500(平均粒径10μm)の砥粒を用いればよい。しかしながら、#1200、#1500の砥粒の切削速度は5μm/秒程度と遅く、例えば、レンズ素材を700μm分だけ粗研削するためには140秒程度の加工時間を要する。
【0004】
このように、ダイヤモンド皿型砥石の砥粒径を細かくすると加工時間が当然に長くなってしまう。そこで、従来においては、精研削工程における表面粗さ、取代、および、加工時間を考慮して、精研削工程を二工程としている。一工程目では、ダイヤモンド皿型砥石としてメタルボンド砥石を用いて例えば50μmの取代の研削を行い、二工程目では、ダイヤモンド皿型砥石として、より細かな砥粒径のレジンボンド砥石を用いて残りの20μmの取代の研削を行い、これによって、取代が70μmで表面粗さが例えば0.5μmの精研削を実現している。
【0005】
ここで、球面レンズの研削加工において、精研削工程における表面粗さを犠牲にすれば、単一の工程で精研削を行うことができ、加工時間も短くできる。しかしながら、前工程での表面粗さが基準となって次の工程の取代が決まるので、精研削工程での表面粗さを犠牲にすると、次工程である研磨工程での取代が多くなり、研磨加工時間が大幅に長くなってしまう。よって、全体としての加工時間の短縮化を達成できない。
【0006】
そこで、本願出願人は、特許文献3において、精研削を単一工程にすることができるように粗研削条件が設定された研削方法を提案している。この方法によれば、球面レンズの研削加工の時間短縮化、および工程管理の合理化を達成できる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2003−340702号公報
【特許文献2】特開2007−253279号公報
【特許文献3】特開2007−253280号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の課題は、従来に比べて短時間で所定量の研削を行うことができ、かつ、次の研削工程における取代が少なくて済むように所定の表面粗さで研削を行うことのできるダイヤモンド皿型砥石を提案することにある。
【0009】
また、本発明の課題は、かかる新たなダイヤモンド皿型砥石を用いることにより研削時間を短縮化できる球面レンズの研削方法を提案することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記の課題を解決するために、本発明の球面レンズ加工用のダイヤモンド皿型砥石は、
加工対象のレンズ球面とは相補的な球状表面を備えた工具皿本体と、前記球状表面に積層されている一定厚さの砥材層とを有しており、
前記砥材層は、ボンド材にダイヤモンド砥粒が分散混合されている砥材からなり、
前記砥材層の表面からは多数の前記ダイヤモンド砥粒が突出しており、
前記砥材層の表面から突出している前記ダイヤモンド砥石には共擦り修正加工が施されて、前記ダイヤモンド砥粒の最大突出量と最小突出量の差が所定値以下となっていることを特徴としている。
【0011】
例えば、加工対象のレンズ球面と同一球面の共擦り面を備えた修正皿を用いて、当該ダイヤモンド皿型砥石の球状砥面に共擦り修正加工を施すことにより、ダイヤモンド砥粒の最大突出量と最小突出量の差を小さくすることができる。これにより、ダイヤモンド皿型砥石の切削速度を低下させることなく、当該ダイヤモンド皿型砥石による研削面の切削傷を小さくして切削面の面精度を高めることができる。
【0012】
ここで、前記ダイヤモンド砥粒の前記最大突出量と前記最小突出量の差が、前記ダイヤモンド砥粒の粒径の1/3〜1/6の範囲内となるようにすることが望ましい。
【0013】
また、球面レンズの粗研削に用いる場合には、前記ダイヤモンド砥粒の平均粒径を、149〜37μm(JIS一般砥粒粒度:#100〜#400)とすればよい。
【0014】
さらに、前記砥材層は、前記工具皿本体の前記球状表面に、ボンド材にダイヤモンド砥粒を分散混合させた構成の砥材からなる一定厚さのダイヤモンドペレットを所定間隔で接着固定することにより形成することができる。
【0015】
本発明のダイヤモンド皿型砥石は、球面レンズのレンズ球面を研削するために用いるのに適している。
【0016】
本発明による球面レンズの研削方法は、
加工対象のレンズ素材のレンズ面を、前記ダイヤモンド皿型砥石を用いて粗研削することにより、レンズ球面を粗く創成する粗研削工程と、
創成された粗研削レンズ球面を、精研削工具皿を用いて精研削する精研削工程と、
精研削後の前記レンズ球面を研磨する研磨工程とを含み、
前記粗研削工程では、
前記ダイヤモンド皿型砥石を、前記球状表面の球心を通る回転中心線を中心として回転させると共に、前記ダイヤモンド皿型砥石を、前記回転中心線が前記球心を頂点とする円錘面を描くように球心揺動させ、
前記レンズ素材を、前記ダイヤモンド皿型砥石と同一方向に回転させながら、前記ダイヤモンド皿型砥石に押し付け、
この状態で前記レンズ素材を送り出しながら、当該レンズ素材に球面研削加工を施すことを特徴としている。
【0017】
ここで、前記ダイヤモンド砥粒の平均粒径を、149〜37μm(JIS一般砥粒粒度:#100〜#400)とすれば、前記精研削工程での取代を20μm以下とすることができる。この結果、精研削を単一研削工程とすることができ、研削時間を短縮でき、工程管理も簡単になる。
【発明の効果】
【0018】
本発明のダイヤモンド皿型砥石では、ダイヤモンド砥粒が分散混合されている砥材層の表面に共擦り修正加工を施して、ダイヤモンド砥粒の最大突出量と最小突出量の差を小さくしている。これにより、ダイヤモンド皿型砥石の切削速度を低下させることなく、当該ダイヤモンド皿型砥石による研削面の切削傷を小さくして切削面の面精度を高めることができる。
【0019】
また、本発明の球面レンズの研削方法によれば、粗研削に用いられる砥粒径のダイヤモンド皿型砥石を使用して従来と同様な研削速度で粗研削を行うことができ、同時に、レンズ研削面の面精度を従来に比べて高めることができる。したがって、次の精研削工程では取代が少なくて済むので、小さな粒径のダイヤモンド皿型砥石を用いた単一の研削工程によって、短時間で精研削を行うことができる。この結果、粗研削、精研削、研磨加工からなる球面レンズ研削加工を短時間で効率良く行うことが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明による球面ガラスレンズの研削加工工程を示す工程図である。
【図2】粗研削に用いるのに適した球心揺動型研削盤を示す概略構成図である。
【図3】(a)は粗研削用のレジンボンド砥石であるダイヤモンド皿型砥石を示す断面図であり、(b)はその部分拡大断面図であり、(c)は共擦り修正加工を施す前のダイヤモンド皿型砥石を示す部分拡大断面図である。
【図4】(a)〜(e)はダイヤモンド皿型砥石の製作方法の一例を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下に、図面を参照して、本発明を適用した球面レンズの研削方法およびダイヤモンド皿型砥石を説明する。
【0022】
図1は本例の光学球面レンズの研削加工方法を示す工程図である。この図に示すように、本例の研削加工方法は、粗研削工程ST1、精研削工程ST2、および研磨工程ST3の三工程からなる。粗研削工程(CG工程)ST1は、加工対象のレンズ素材を、ダイヤモンド皿型砥石(粗研削工具皿)を用いて研削してレンズ球面を粗く創成する工程である。精研削工程ST2は、創成されたレンズ球面を粗研削工具皿よりも細かな粒径のダイヤモンド皿型砥石を用いて精研削する工程であり、単一の研削工程とされている。使用する研削加工機は球心揺動型に限らず一般的なカップ型砥石を用いたものを用いることができる。また、ダイヤモンド皿型砥石としてはレジンボンド砥石を用いればよい。次に、研磨工程ST3は精研削後のレンズ球面を研磨する工程である。この工程では、例えば、ウレタンシートにより、酸化セリウムなどを入れた研磨液を用いて球面の研磨を行う。
【0023】
(粗研削工程)
粗研削工程ST1では次の条件(1)〜(3)によりレンズ素材に球面を創成している。
(1)球心揺動型研削装置を用いてレンズ素材の粗研削を行う。球心揺動研削装置としては、図2に示す構成のものを採用することができる。
(2)粗研削工具皿として、#100〜#400(JIS規格、平均粒径:149〜37μm)の粒径のダイヤモンド皿型砥石を使用する。
(3)粗研削工具皿の回転数を2500rpm〜3500rpm、例えば3000rpmとする。
【0024】
(球心揺動型研削装置)
球心揺動型研削装置は、研削面が球面となっている粗研削工具皿を、その球面の球心を通る回転中心線を中心に回転させると共に、当該回転中心線が球心を頂点とする円錐面を描くように、球心揺動させる。また、レンズ素材を、粗研削工具皿と同一方向に同一速度で回転させながら、回転および球心揺動している粗研削工具皿の研削面に押し付け、この状態で当該レンズ素材を送り出しながら、当該レンズ素材に球面研削加工を施す。さらに、粗研削工具皿を球心揺動体によって回転自在の状態で支持し、この球心揺動体の外周面を球面とし、この外周面を、粗研削工具皿の研削面の球心を中心とする球面形状の支持面に乗せ、これら外周面と支持面の間に圧縮空気を供給して前記球心揺動体を浮上させ、浮上状態を維持しながら前記球心揺動体を球心揺動させるようになっている。
【0025】
図2を参照して詳細に説明すると、球心揺動型研削装置1は、加工対象のレンズ素材Wを保持するためのレンズホルダ3と、レンズホルダ3に保持されているレンズ素材Wを研削加工する球面研削面4aを備えた工具皿4を有している。
【0026】
レンズホルダ3はその保持面3aが下向きとなるように水平に保持された状態で、垂直なレンズスピンドル5の下端に固定されている。レンズスピンドル5の中心にはその軸線方向に延びる吸引通路5aが形成されており、その下端がレンズホルダ3の保持面3aの中心に開口しており、その上端が回転継ぎ手6およびエアフィルタ7を経由して真空発生器8の吸引側に連通している。真空発生器8によって吸引通路5aを真空吸引することにより、レンズホルダ3の保持面3aにレンズ素材Wが吸着保持される。
【0027】
レンズスピンドル5は、上端が封鎖されている円筒状の垂直保持筒9の内部に同軸状態に配置され、上下一対の軸受10、11を介して回転自在の状態で当該垂直保持筒9によって支持されている。また、レンズスピンドル5は、レンズ軸回転用電動機12によって、その垂直中心線であるレンズ回転中心線5Aを中心に回転駆動されるようになっている。垂直保持筒9の上端にはエアシリンダ13が連結されており、このエアシリンダ13は、上端が封鎖されている支持円筒14の内部に固定されている。エアシリンダ13によって垂直保持筒9が下方に所定の力で押圧されるようになっている。
【0028】
レンズスピンドル5は、ワーク昇降機構20によって昇降されるようになっている。ワーク昇降機構20は、水平アーム21を備えており、この水平アーム21の先端に取り付けた垂直円筒部22に、同軸状態で垂直保持筒9が挿入され、支持円筒14は水平アーム21に上面に固定されている。水平アーム21は送りねじ23、ナット24およびサーボモータ25を備えた昇降機構によって、垂直リニアガイド26に沿って昇降される。
【0029】
ここで、エアシリンダ13を介してレンズスピンドル5を支持している支持円筒14には、その内側に装着されている垂直保持筒9の上端9aを検出するための近接センサ27が取り付けられている。通常は、この近接センサ27はオフ状態にあり、垂直保持筒9が支持円筒14に対して相対的に上昇すると、その上端9aが近接センサ27によって検出され、当該センサ出力がオンに切り替わる。
【0030】
次に、レンズホルダ3の下方に配置されている工具皿4は、その球面研削面4aの球心Oがレンズホルダ3側のレンズ回転中心線5Aの延長上に位置するように配置されている。この工具皿4の背面にはスピンドル4bが一体形成されており、このスピンドル4bは、球心揺動体31によって回転自在の状態で支持されている。ここで、工具皿4の回転中心線4Aが、球心Oにおいて、垂直に延びるレンズ回転中心線5Aに対して鋭角θで交差するように、スピンドル4bが球心揺動体31によって支持されている。
【0031】
球心揺動体31は、半球状のカップ部分31aと、このカップ部分31aの底中心の外周面部分から半径方向の外方に突出している円筒部分31bを備えており、円筒部分31bに同軸状態でスピンドル4bが回転自在の状態で取り付けられている。また、円筒部分31bの下端部からは横方にフランジ31cが延びており、ここに、スピンドル駆動用の電動機32が搭載されている。
【0032】
球心揺動体31のカップ部分31aは、支持板33に形成された円環状内周面33aによって球心揺動可能な状態で支持されている。円環状内周面33aは、球心Oを球心とする球面であり、この円環状内周面33aに載せた外周面31dが球面のカップ部分31aは、球心Oを中心として揺動可能である。本例では、円環状内周面33aには圧縮空気吹き出し孔あるいは溝33bが形成されており、ここに、圧縮空気供給路33cを介して圧縮空気が供給されるようになっている。したがって、カップ部分31aは、円環状内周面33aから浮き上がった状態に保持される。よって、球心揺動体31を、球心Oを中心として円滑に揺動させることができる。
【0033】
球心揺動体31の下端はリンク継ぎ手34および揺動幅調整ユニット35を介して、電動機36の出力軸に連結されている。球心揺動体31とリンク継ぎ手34の連結点34aは工具皿回転中心線4Aの延長線上に位置しており、電動機36の回転中心線36Aは常に球心Oを向く状態に保持されている。揺動幅調整ユニット35の調整つまみ35aを操作すると、連結点34aと電動機36の回転中心線36Aの間隔が変化する。よって、球心揺動体31の揺動運動の揺動幅を調整することができる。
【0034】
次に、電動機36は、揺動角調整ユニット37によって支持されている。揺動角調整ユニット37は、固定した位置に配置された弓形のカム38を備えており、このカム38は球心Oを中心とする円弧形状をしている。このカム38に沿って摺動可能な状態で、支持部材39が取り付けられており、ここに、電動機36が取り付けられている。支持部材39にはナット40が固定されており、ナット40には送りねじ41がねじ込まれている。送りねじ41の端部はハンドル42に連結されている。
【0035】
ハンドル42を回すと支持部材39がカム38に沿って移動する。すなわち、球心揺動体31によって支持されている工具皿スピンドル4bが球心Oを中心として所定量だけ揺動する。よって、揺動角調整ユニット37により、垂直なレンズ回転中心線5Aに対する工具皿4の回転中心線4Aのなす角度θ、すなわち、揺動中心線の角度を変更することができる。
【0036】
ここで、各部分の駆動制御は数値制御用のコントローラ50によって行われる。また、コントローラ50には入力装置51が接続されている。入力装置51を介して、手動操作により、レンズ素材を送り出す動作を行うことができ、また、切削量の設定などを行うことが可能となっている。
【0037】
図3(a)は粗研削用のレジンボンド砥石であるダイヤモンド皿型砥石を示す断面図であり、図3(b)はその部分拡大断面図である。図3(c)は共擦り修正前のダイヤモンド皿型砥石を示す部分拡大断面図である。図3(a)、(b)に示すダイヤモンド皿型砥石は、先に説明した球心揺動型研削盤を用いて粗研削を行う場合における工具皿4として用いられるものである。
【0038】
ダイヤモンド皿型砥石60は、加工対象のレンズ球面とは相補的な球状表面61を備えた工具皿本体62と、球状表面61に積層されている一定厚さの砥材層63とを有している。砥材層63は、ボンド材64に、所定の集中度(コンセントレーション)でダイヤモンド砥粒65が分散混合されている砥材からなる。本例では、一定の大きさのダイヤモンドペレット66が、球状表面61に所定間隔で接着固定された構成となっている。
【0039】
砥材層63の表面63aからは多数のダイヤモンド砥粒65が異なる突出量で突出している。図3(c)に示すように、ダイヤモンドペレット66を接着固定した段階においては、ダイヤモンド砥粒65の最大突出量と最小突出量の差ΔHが大きい。本例では、砥材層63の表面63aから突出しているダイヤモンド砥粒65には共擦り修正加工が施されている。これにより、一部のダイヤモンド砥粒65の突出側の先端部分が研磨されて、ダイヤモンド砥粒65の最大突出量H1と最小突出量H2の差ΔHが所定値以下となっている。例えば、ダイヤモンド砥粒65の最大突出量H1と最小突出量H2の差ΔHが、ダイヤモンド砥粒の平均粒径の1/3〜1/6の範囲内となっている。
【0040】
次に、図4(a)〜(e)は、ダイヤモンド皿型砥石の製作方法の一例を示す説明図である。ダイヤモンド皿型砥石の製作方法は、砥材層形成工程(図4(a)、図4(b))と、共擦り修正工程(図4(c)〜図4(e))とからなる。
【0041】
砥材層形成工程では、加工対象のレンズ球面とは相補的な球状表面を備えた工具皿本体の球状表面に、ボンド材にダイヤモンド砥粒が分散混合されている砥材を一定の厚さで積層して砥材層が形成される。例えば、加工対象のレンズ球面に対して球面精度(Δh)が0.002μm〜0.005μmの球面を備えた定皿71を製作する(図4(a))。次に、定皿71の球面72に、ボンド材にダイヤモンド砥粒を分散混合させた一定厚さのダイヤモンドペレット66を糊等で貼り付ける。貼り付けたダイヤモンドペレット66のそれぞれの表面に接着剤74を塗布する。次に、工具皿本体62の球状表面61に対して、球面72に貼り付けたダイヤモンドペレット66のそれぞれを接着剤74を介して押し付け、接着剤が硬化するまで、この押し付け状態を維持する。接着剤硬化後に、定皿71を外すことにより、球状表面61にダイヤモンドペレット66からなる砥材層63を形成された工具皿本体62が得られる(図4(b))。図3(c)は、形成された砥材層63を拡大して示すものである。
【0042】
次の共擦り修正工程では、工具皿本体の砥材層の表面に、加工対象のレンズ球面に対応する球状共擦り面を備えた共擦り修正皿を用いて共擦り修正加工を施して、砥材層の表面から突出しているダイヤモンド砥粒における最大突出量と最小突出量との差を所定値以下にする。例えば、共擦り修正工程は荒修正工程と仕上げ修正工程からなる。
【0043】
荒修正工程では、砥材層63の表面に、共擦り荒修正皿73を用いて所定粒径の砥粒を掛けながら共擦り修正を施す(図4(c))。例えば、GC#240の砥粒(ケイ素質系研削材)を掛けながら共擦り修正を行う。
【0044】
仕上げ修正工程では、荒修正後の砥材層63の表面に、共擦り仕上げ修正皿75を用いて水のみを掛けながら共擦り仕上げ修正を施す(図4(d)、(e))。例えば、共擦り仕上げ修正皿75をS45Cなどの焼き入れ加工可能な素材を用いて製作して焼き入れを行う。焼き入れを行うと変形するので、焼き入れ後の共擦り仕上げ修正皿75を、加工対象のレンズ球面に対して、球状共擦り面の球面精度(Δh)が0.002μm〜0.005μmとなるように修正を施す。これにより得られた共擦り仕上げ修正皿75を用いる。図3(b)は修正後の砥材層63を拡大して示すものである。
【0045】
(作用効果)
上記のようにして製作したダイヤモンド皿型砥石60を用いて、図2に示す球心揺動研削装置1を用いて球面レンズの粗研削を行った。この結果、#100〜#400のダイヤモンド皿型砥石60を使用しているのにも拘わらず、レンズ研削面の切削傷は10μm近辺であった。また、ホウ素シリカガラスからなるレンズ素材(BK7、φ30)の切削速度は、20μm/秒であり、700μmの切削量を35秒程度で加工することができた。また、粒径が大きいので摩耗が少なく、研削面の面精度の低下も少ないことが確認された。
【0046】
さらに、次の精研削工程では、取代を約10μm程度にすることができ、レジンボンド砥石などを用いた単一の精研削工程のみでよいことが確認された。よって、従来の球面レンズ研削方法に比べて、全体として、短い研削時間で効率良く球面レンズを研削できることが確認された。
【符号の説明】
【0047】
1 球心揺動型研削装置
3 レンズホルダ
4 工具皿
4a 球面研削面
4A 工具皿の回転中心線
5 レンズスピンドル
5A レンズ回転中心線
20 ワーク昇降機構
21 水平アーム
31 球心揺動体
33 支持板
33a 円環状内周面
33b 圧縮空気吹き出し穴あるいは溝
35 揺動幅調整ユニット
36A 回転中心線
37 揺動角調整ユニット
W レンズ素材
O 球心
60 ダイヤモンド皿型砥石
61 球状表面
62 工具皿本体
63 砥材層
64 ボンド材
65 ダイヤモンド砥粒
66 ダイヤモンドペレット
71 定皿
72 球面
73 共擦り荒修正皿
74 接着剤
75 共擦り仕上げ修正皿
H1 最大突出量
H2 最小突出量
ΔH 差

【特許請求の範囲】
【請求項1】
加工対象のレンズ球面とは相補的な球状表面を備えた工具皿本体と、前記球状表面に積層されている一定厚さの砥材層とを有しており、
前記砥材層は、ボンド材にダイヤモンド砥粒が分散混合されている砥材からなり、
前記砥材層の表面からは多数の前記ダイヤモンド砥粒が突出しており、
前記砥材層の表面から突出している前記ダイヤモンド砥石には共擦り修正加工が施されて、前記ダイヤモンド砥粒の最大突出量と最小突出量の差が所定値以下となっていることを特徴とする球面レンズ加工用のダイヤモンド皿型砥石。
【請求項2】
請求項1において、
前記ダイヤモンド砥粒の前記最大突出量と前記最小突出量の差が、前記ダイヤモンド砥粒の粒径の1/3〜1/6の範囲内であることを特徴とするダイヤモンド皿型砥石。
【請求項3】
請求項1または2において、
前記ダイヤモンド砥粒の平均粒径は、149〜37μm(JIS一般砥粒粒度:#100〜#400)であることを特徴とするダイヤモンド皿型砥石。
【請求項4】
請求項1ないし3のうちのいずれかの項において、
前記砥材層は、前記工具皿本体の前記球状表面に、ボンド材にダイヤモンド砥粒を分散混合させた砥材からなる一定厚さのダイヤモンドペレットを、所定間隔で接着固定することにより形成したものであることを特徴とするダイヤモンド皿型砥石。
【請求項5】
請求項1ないし4のうちのいずれかの項に記載のダイヤモンド皿型砥石を用いて球面レンズのレンズ球面を研削することを特徴とする球面レンズの研削方法。
【請求項6】
請求項5において、
加工対象のレンズ素材のレンズ面を、前記ダイヤモンド皿型砥石を用いて粗研削することにより、レンズ球面を粗く創成する粗研削工程と、
創成された粗研削レンズ球面を、精研削工具皿を用いて精研削する精研削工程と、
精研削後の前記レンズ球面を研磨する研磨工程とを含み、
前記粗研削工程では、
前記ダイヤモンド皿型砥石を、前記球状表面の球心を通る回転中心線を中心として回転させると共に、当該ダイヤモンド皿型砥石を、前記回転中心線が前記球心を頂点とする円錘面を描くように球心揺動させ、
前記レンズ素材を、前記ダイヤモンド皿型砥石と同一方向に回転させながら、前記ダイヤモンド皿型砥石に押し付け、
この状態で前記レンズ素材を送り出しながら、当該レンズ素材に球面研削加工を施すことを特徴とする球面レンズの研削方法。
【請求項7】
請求項6において、
前記ダイヤモンド砥粒の平均粒径を、149〜37μm(JIS一般砥粒粒度:#100〜#400)とし、
前記精研削工程での取代を20μm以下とし、
前記精研削工程を単一研削工程としたことを特徴とする球面レンズの研削方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2011−235424(P2011−235424A)
【公開日】平成23年11月24日(2011.11.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−111075(P2010−111075)
【出願日】平成22年5月13日(2010.5.13)
【出願人】(390000778)株式会社春近精密 (19)
【Fターム(参考)】