ダニ抗原米
【課題】本発明は、複数のT細胞エピトープを含むダニ抗原タンパク質部分ペプチド、または抗原として認識されるための立体構造を形成しないように改変されているダニ抗原ペプチドをイネ種子へ集積させる方法、および該ペプチドを集積させた植物を提供することを課題とする。
【解決手段】本発明者らは、上記の課題を解決するために、ダニ抗原ペプチド改変体を蓄積したイネの種子(コメ)の作製を試みた。その結果、該ダニ抗原ペプチド改変体を発現、蓄積した遺伝子組換えイネを開発し、これをマウスに経口摂取させることにより、免疫寛容を誘導し、特にその喘息における効果を実証し、本発明を完成するに至った。
【解決手段】本発明者らは、上記の課題を解決するために、ダニ抗原ペプチド改変体を蓄積したイネの種子(コメ)の作製を試みた。その結果、該ダニ抗原ペプチド改変体を発現、蓄積した遺伝子組換えイネを開発し、これをマウスに経口摂取させることにより、免疫寛容を誘導し、特にその喘息における効果を実証し、本発明を完成するに至った。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ダニタンパク質におけるヒトの主要なT細胞エピトープを含む部分ペプチド、ダニ抗原特異的なIgE結合活性を低下させた改変ペプチド、またはシステインプロテアーゼ活性を失活するよう改変したペプチドをイネに蓄積させる方法、および該ペプチドを蓄積させたイネに関する。
【背景技術】
【0002】
ハウスダストによるアレルギー患者は世界でも5〜10%程度存在するとされている。特にその主な原因となっているダニの死骸やフンによるアレルギーは、気管支喘息やアトピー性皮膚炎の大きな原因の一つとなっており、成人のみならず、小児においては、致命的な疾病ともなりうる。アレルギーは、通常は抗原として認識されることのない物質が抗原として認識され、Th2 型の免疫反応によって引き起こされる疾患である。
【0003】
近年、アレルギー疾患に対する根治的治療法は、従来注射によりアレルゲンそのものを投与し、長期間にわたり段階的に増加させアレルゲン特異的な免疫反応性を鈍らせる減感作療法であった。しかしこの療法では、アレルギー症状を引き起こす肥満細胞に結合しているIgE抗体との反応性が残っており、アナフィラキシーショック等の副作用が見られる問題があることが指摘されている。
【0004】
アレルゲンに由来するT細胞エピトープペプチドを投与するペプチド免疫療法が注目されている。その作用機構として、アレルゲン特異的なヘルパーII型のT細胞の不応答や欠失が起こると考えられる。T細胞エピトープを利用するペプチド免疫療法は一般にアレルギー反応を起こすB細胞エピトープを含まず、アレルゲン特異的なIgE抗体との結合性もないことから、従来の減感作療法で起きている副作用が起きにくく安全である。
【0005】
一方、経口接種されたタンパク質等に対しては不必要に免疫応答がおこらないよう、免疫系を抑制するメカニズムが知られており、これは経口免疫寛容として知られている。スギ花粉症のアレルゲンに由来するT細胞エピトープペプチドについても、特異的T細胞に対する高い反応性を示すことから、本発明者らは以前に、スギアレルゲン特異的なT細胞エピトープを実際に有用な植物へ集積させ、該植物の経口投与によって免疫寛容を誘導する方法を開発している(特許文献1)。
【0006】
特に日本でも問題になっているのがDermatopagoides farinae(D. farinae、コナヒョウヒダニ)および Dermatopagoides(D. pteronyssinus、ヤケヒョウヒダニ)とよばれる二種類のダニによるアレルギーである。これらのダニによるアレルゲンの解析は多く報告されており、これまでのところ20種類以上のアレルゲンが報告されている(非特許文献1−3)。しかしながら、この中でも、ダニアレルギー患者におけるIgEの結合活性の60-90%程度がグループIアレルゲンおよびグループIIアレルゲンに属するタンパク質群であるとされている。
【0007】
Der p1またはDer f1などのタイプI抗原は主にダニの糞に含まれている。分子量は約25kDaで、システインプロテアーゼと同時にセリンプロテアーゼをもコードすることが知られている。これら二つの酵素の活性中心は同じアミノ酸である(非特許文献4)。このシステインプロテアーゼの活性により、免疫担当細胞表面に存在する分子マーカーの一つであるCD25(IL-2受容体α鎖)を切断することにより生体の免疫応答をTh2型にシフトさせることが報告されている(非特許文献5)。また、CD23(低親和性のIgE受容体)に対しても同様にこれを切断し、IgE産生のネガティブフィードバックのシグナルを阻害することも報告されている(非特許文献6)。また、このタンパク質が生体内に侵入し、ダニ抗原としてその抗原性を発揮するためには自身のもつシステインプロテアーゼ活性が保持されることが重要であることも知られている(非特許文献7)。
【0008】
一方、Der p2またはDer f2などのタイプII抗原は分子量約14kDaのタンパク質であり、主にダニの虫体にあるとされているが、そのタンパク質としての機能、役割についてはこれまでのところ不明である。その分子内にある3組のS-S結合によって立体構造を維持しており(非特許文献8)、その立体構造がNMR解析によって明らかにされている(非特許文献9、10)。さらにこれらのS-S結合を構成するシステインのうち、第8位と第119位のシステインで構成されるS-S結合に変異を入れた場合、ヒトにおいては血清中のIgEの結合能を著しく低下させつつも抗原特異的なT細胞の増殖は野生型とほぼ同等である、という報告がなされている(非特許文献11)。
【0009】
なお、本出願の発明に関連する先行技術文献情報を以下に示す。
【特許文献1】WO2004/094637
【非特許文献1】Thomas, W.R. et al. Int Arch Allergy Immunol 129, 1-18 (2002)
【非特許文献2】Kawamoto, S. et al., J Biosci Bioeng 94, 285-298 (2002)
【非特許文献3】Weber, E. et al., J Allergy Clin Immunol 112, 79-86 (2003)
【非特許文献4】Hewitt C.R. et al., Clin Exp Allergy 27, 201-207 (1997)
【非特許文献5】Schulz, O. et al., J Exp Med 187, 271-275 (1998)
【非特許文献6】Hewitt, C.R.et al., J Exp Med 182, 1537-1544 (1995)
【非特許文献7】Kikuchi Y. et al., J Immunol. 177, 1609-1617 (2006)
【非特許文献8】Nishiyama C. et al., Int Arch Allergy Immunol 101, 159-166 (1993)
【非特許文献9】Ichikawa S. et al., J. Biol Chem 273, 356-360 (1998)
【非特許文献10】Mueller G.A. et al., Biochemistry 37, 12707-12714 (1998)
【非特許文献11】Takai T. et al., Nature Biotechnol 15, 754-758 (1997)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、このような状況に鑑みてなされたものであり、その目的は、ダニ抗原ペプチド改変体をペプチドワクチンとしてダニアレルギーの治療もしくは予防に応用するために、ダニ抗原ペプチド改変体を集積させたイネを開発することにある。
より詳しくは、本発明は、複数のT細胞エピトープを含むダニ抗原タンパク質部分ペプチド、または抗原として認識されるための立体構造を形成しないように改変されているダニ抗原ペプチドをイネ種子へ集積させる方法、および該ペプチドを集積させた植物の提供を目的とする。さらに、本発明は、該イネ種子を含む食品組成物、医薬組成物、該イネ種子を対象に経口投与する工程を含むアレルギー疾患を治療または予防する方法の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、上記の課題を解決するために、イネの種子である米の中にダニ抗原ペプチド改変体を蓄積し、これを経口摂取することにより、経口免疫寛容を誘導し、ダニアレルギーの治療を行うことを試みた。
具体的には、ダニタンパク質におけるヒトの主要なT細胞エピトープを含む部分ペプチド、T細胞エピトープを保持したまま該タンパク質の立体構造を形成しないように改変し、ダニ抗原特異的なIgE結合活性を低下させた改変ペプチド、または、システインプロテアーゼ活性を失活するよう改変したペプチドを、米の可食部である胚乳に蓄積させたイネを開発した。
【0012】
これらのダニ抗原ペプチド改変体を高度にイネの種子胚乳に蓄積させるために、該ダニ抗原ペプチド改変体をコードする遺伝子のコドンをイネの貯蔵タンパク質遺伝子で高頻度に使用されるコドンに改変した。また、N末端にグルテリンシグナルペプチド、C末端に小胞体係留シグナルを結合した。これにより該ダニ抗原ペプチド改変体は、イネ種子1粒(約20mg)中30〜80μgと、高度に蓄積されることを確認した。
【0013】
こうした可食部に集積させたアレルゲンのエピトープペプチドは、高度に集積されている場合、経口で摂取することで、アレルゲンに由来するアレルギー反応を免疫寛容機構で治療することが可能になる。本発明のダニ抗原米をマウスに経口で1週間〜4週間投与して感作したところ、いずれのペプチド改変体を発現させたダニ抗原米についても、コントロールとして非組換え米を経口投与したマウスと比較して、ダニ抗原特異的なIgEやIgG量が低下し、免疫寛容が誘導できることを確認した。また、これらのマウスでは、コントロールマウスと比較して、気道組織中の好酸球およびマクロファージの数が著しく低下したことから、気道における空気中のアレルゲンへの抵抗性についても本発明のダニ抗原米の経口投与により緩和できることが示された。
即ち、本発明者らはダニ抗原ペプチド改変体を発現、蓄積した遺伝子組換えイネを開発し、これをマウスに経口摂取させることにより、免疫寛容を誘導し、特にその喘息における効果を実証し、本発明を完成するに至った。
【0014】
本発明は、より具体的には以下の〔1〕〜〔32〕を提供するものである。
〔1〕 イネ植物体の種子貯蔵タンパク質プロモーターの制御下に以下の(a)から(d)のいずれかのDNAが配置された構造を有するDNA構築物。
(a)5’末端に貯蔵タンパク質シグナル配列をコードするDNA、および/または3’末端に小胞体係留シグナル配列をコードするDNAが付加されていることを特徴とする、ダニ抗原タンパク質由来のペプチドをコードするDNAであって、該ペプチドが複数のT細胞エピトープを含むペプチドであることを特徴とするDNA
(b)N末端に貯蔵タンパク質シグナル配列、および/またはC末端に小胞体係留シグナル配列が付加されていることを特徴とする、ダニ抗原タンパク質由来のペプチドであって、複数のT細胞エピトープを含むペプチドをコードするDNA
(c)5’末端に貯蔵タンパク質シグナル配列をコードするDNA、および/または3’末端に小胞体係留シグナル配列をコードするDNAが付加されていることを特徴とする、ダニ抗原タンパク質をコードするDNAであって、該ダニ抗原タンパク質が抗原として認識されるための立体構造を形成しないように改変されているタンパク質であることを特徴とするDNA
(d)N末端に貯蔵タンパク質シグナル配列、および/またはC末端に小胞体係留シグナル配列が付加されていることを特徴とする、ダニ抗原タンパク質であって、抗原として認識されるための立体構造を形成しないように改変されているタンパク質をコードするDNA
〔2〕 ダニ抗原タンパク質がタイプ1型またはタイプ2型の抗原タンパク質である、〔1〕に記載のDNA構築物。
〔3〕 ダニ抗原タンパク質が、以下の(i)または(ii)に記載のアミノ酸配列からなるタンパク質である、〔1〕に記載のDNA構築物。
(i)配列番号:2、4、6または8のいずれかに記載のアミノ酸配列
(ii)配列番号:2、4、6または8のいずれかに記載のアミノ酸配列において1若しくは複数のアミノ酸が置換、欠失、挿入、および/または付加したアミノ酸配列を含むタンパク質をコードするDNA
〔4〕 複数のT細胞エピトープを含むペプチドが、以下の(i)または(ii)の領域を含むペプチドであることを特徴とする、〔1〕に記載のDNA構築物。
(i)配列番号:2に記載のアミノ酸配列における第45位〜第67位、第94位〜第104位、または第117位〜第143位から選択される2以上の領域
(ii)配列番号:2に記載のアミノ酸配列における第21位〜第49位、第71位〜第100位、第93〜108位、第110位〜第131位または第197位〜第212位から選択される2以上の領域
(iii)配列番号:4に記載のアミノ酸配列における第11位〜第35位、第87位〜第104位、第105位〜129位から選択される2以上の領域
(iv)配列番号:4に記載のアミノ酸配列における第35位〜第50位、第35位〜第60位、第87位〜104位から選択される2以上の領域
〔5〕 前記複数のT細胞エピトープを含むペプチドが、以下の(i)〜(ii)に記載の、ペプチドが抗原として認識されるための立体構造を形成しないように改変された部分ペプチドであることを特徴とする〔1〕に記載のDNA構築物。
(i)配列番号:2に記載のアミノ酸配列における第45位〜第144位までの領域を含むアミノ酸配列からなるペプチド
(ii)配列番号:6に記載のアミノ酸配列における第1位〜第144位までの領域を含むアミノ酸配列からなるペプチド
〔6〕 前記複数のT細胞エピトープを含むペプチドが、システインプロテアーゼ活性を有さないよう改変されたペプチドであることを特徴とする〔1〕に記載のDNA構築物。
〔7〕 配列番号:2に記載のアミノ酸配列における第34位のシステイン残基(Cys)がアラニン残基(Ala)に改変されることを特徴とする、〔6〕に記載のDNA構築物。
〔8〕 前記抗原として認識されるための立体構造を形成しないように改変されているダニ抗原タンパク質が、IgE誘導活性中心を持たないように改変されていることを特徴とする〔1〕に記載のDNA構築物。
〔9〕 前記ダニ抗原タンパク質が、配列番号:4または8に記載のアミノ酸配列における、第8位、第21位、第27位、第73位、第78位または第119位のシステイン残基(Cys)のいずれか1つまたは複数がセリン残基(Ser)に改変されたアミノ酸配列からなるタンパク質であることを特徴とする、〔8〕に記載のDNA構築物。
〔10〕 前記ダニ抗原タンパク質が、配列番号:4における第11位〜第129位までの領域を含む部分ペプチド、または、配列番号:8における第11位〜第129位までの領域を含む部分ペプチドのシステイン残基を改変した部分ペプチドであることを特徴とする、〔9〕に記載のDNA構築物。
〔11〕 前記ダニ抗原タンパク質をコードするDNAが、イネ胚乳で発現可能なようにコドンが改変された塩基配列からなるDNAであることを特徴とする、〔1〕に記載のDNA構築物。
〔12〕 以下の(a)〜(d)のいずれかに記載の塩基配列からなる、〔1〕に記載のDNA構築物。
(a)配列番号:9に記載の塩基配列からなるDNA
(b)配列番号:9に記載の塩基配列からなるDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズするDNA
(c)配列番号:10に記載のアミノ酸配列を含むタンパク質をコードするDNA
(d)配列番号:10に記載のアミノ酸配列において1若しくは複数のアミノ酸が置換、欠失、挿入、および/または付加したアミノ酸配列を含むタンパク質をコードするDNA
〔13〕 〔1〕〜〔12〕のいずれかに記載のDNA構築物によりコードされるポリペプチド。
〔14〕 糖鎖が付加され、かつタンパク質顆粒Iに封入されていることを特徴とする、〔13〕に記載のポリペプチド。
〔15〕 〔1〕〜〔12〕のいずれかに記載のDNA構築物を含む、ベクター。
〔16〕 〔1〕〜〔12〕のいずれかに記載のDNA構築物または、〔15〕に記載のベクターを保持する形質転換イネ細胞。
〔17〕 〔16〕に記載の形質転換イネ細胞を含む、複数のT細胞エピトープを含み、または抗原として認識されるための立体構造を形成しないように改変されているペプチドを集積する、形質転換イネ。
〔18〕 前記ペプチドがイネの種子に集積されることを特徴とする、〔16〕に記載の形質転換イネ。
〔19〕 〔17〕に記載の形質転換イネの子孫またはクローンである、形質転換イネ。
〔20〕 〔17〕または〔18〕に記載の形質転換イネの繁殖材料。
〔21〕 〔15〕または〔18〕に記載の形質転換イネの種子。
〔22〕 〔21〕に記載の形質転換イネの種子を有効成分とする、ダニを抗原とするアレルギー性疾患の治療または予防のための食品組成物。
〔23〕 アレルギー性疾患がI型アレルギーである、〔22〕に記載の食品組成物。
〔24〕 〔21〕に記載の形質転換イネの種子を有効成分とする、ダニを抗原とするアレルギー性疾患の治療または予防のための医薬組成物。
〔25〕 アレルギー性疾患がI型アレルギーである、〔24〕に記載の医薬組成物。
〔26〕 経口投与用であることを特徴とする、〔24〕または〔25〕に記載の医薬組成物。
〔27〕 以下の工程(a)〜(c)を含む、複数のT細胞エピトープを含むダニ抗原タンパク質由来のペプチドをイネに集積させる方法。
(a)複数のT細胞エピトープを含むペプチドをコードするDNAを取得する工程、
(b)前記(a)で取得されたDNAの5’末端に貯蔵タンパク質シグナル配列をコードするDNA、および/または3’末端に小胞体係留シグナル配列をコードするDNAを付加する工程、
(c)前記(b)のDNAを、植物において貯蔵タンパク質プロモーターの制御下で発現させる工程
〔28〕 以下の工程(a)〜(d)を含む、抗原として認識されるための立体構造を形成しないように改変されているダニ抗原タンパク質由来のペプチドをイネに集積させる方法。
(a)ダニ抗原タンパク質をコードするDNAを取得する工程、
(b)前記ペプチドが抗原として認識されるための立体構造を形成しないように、前記(a)で取得されたDNAを改変する工程、
(c)前記(b)で取得されたDNAの5’末端に貯蔵タンパク質シグナル配列をコードするDNA、および/または3’末端に小胞体係留シグナル配列をコードするDNAを付加する工程、
(d)前記(c)のDNAを、植物において貯蔵タンパク質プロモーターの制御下で発現させる工程
〔29〕 前記ペプチドがイネの種子に集積されることを特徴とする、〔27〕または〔28〕に記載の方法。
〔30〕 〔27〕から〔29〕のいずれかに記載の方法により作出される、複数のT細胞エピトープを含み、かつ抗原として認識されるための立体構造を形成しないように改変されているダニ抗原タンパク質由来のペプチドが集積された形質転換イネ。
〔31〕 〔21〕に記載の形質転換イネの種子を対象に経口投与する工程を含む、アレルギー疾患を治療または予防する方法。
〔32〕 〔21〕に記載の形質転換イネの種子を対象に経口投与する工程を含む、アレルギー疾患を有する患者において免疫寛容を誘導する方法。
【発明の効果】
【0015】
本発明により、ダニアレルギー疾患を緩和(治療)する効果を持つダニ抗原ペプチド改変体のイネ種子における生産に成功した。
本発明によれば、従来の大腸菌等の培養によるペプチドタンパク質の生産に比較して、ダニ抗原ペプチド改変体を安価に生産できる。すなわち1種子からイネの場合、100〜200個の種子を作出できる。また種子で生産できることから、精製することなく、そのまま経口摂取できる。種子で生産されたペプチドは極めて安定であり、室温で種子を放置しても1年以上分解、活性が失われることがない。またタンク培養と比較して、生産量をコントロールすることが容易である。播種するタネの数で生産量をコントロールできる。また特別な施設も必要とせず、圃場のみである。
【0016】
さらに、日常の食生活を通じて経口摂取することにより、従来行われてきた皮下注射等による投与に必要な費用、医療費を省くことができ、より低コストでダニ抗原ペプチドを投与することが可能になる。これらの利点を持つイネ種子生産システムを活用することにより、アレルギー疾患に対するワクチンや生活習慣病を緩和するペプチドなど、医学的に有用な成分をより低コストで生産して供給するという、新しい事業の創出も期待される。
【0017】
〔発明の実施の形態〕
本発明者らは、ダニ抗原ペプチド改変体を、米の可食部である胚乳に蓄積させて経口投与することで、ダニ抗原特異的なIgEやIgG量が低下し、免疫寛容が誘導できることを見出した。本発明は、これらの知見に基づくものである。
本発明は、ダニ抗原ペプチド(アレルゲン)改変体をコメの種子に蓄積させる方法に関する。
【0018】
アレルゲンとは一般的に、アレルギー疾患(アレルギー反応)の原因となる抗原物質を言う。本発明におけるアレルゲンには、特に限定されるものではないが、タンパク質、糖タンパク質等の自然界にある物質のみならず、合成されたタンパク質も含まれる。自然界におけるアレルゲンとしては、例えば、花粉(スギ、ヒノキ、ハンノキ、ブタクサ、イネ科のカモガヤ花粉等)アレルゲン、動物(イヌ、ネコ、マウス、ラット、ウマ、ウシ等)由来アレルゲン、昆虫アレルゲン、寄生虫アレルゲン、食物アレルゲン、カビアレルゲン等を挙げることができる。
【0019】
本発明において好適に使用されるアレルゲンは、ダニ抗原タンパク質である。本発明のダニ抗原ペプチド改変体の由来となるダニ抗原タンパク質としては、特に限定されないが、好ましくは、タイプ1型またはタイプ2型であるダニ抗原タンパク質が挙げられる。
また、本発明に用いられるダニの種類としては、特に限定されないが、一例を示せば、ヤケヒョウヒダニあるいはコナヒョウヒダニを挙げることができる。
【0020】
本発明に使用されるダニ抗原タンパク質のより具体的な例としては、ヤケヒョウヒダニ由来のDer p1、Der p2、あるいはコナヒョウヒダニ由来のDer f1、Der f2等が挙げられる。それぞれの塩基配列およびアミノ酸配列は、
Der p1(塩基配列;配列番号:1、GenBank accession No.X65197.1、アミノ酸配列;配列番号:2)、
Der p2(塩基配列;配列番号:3、GenBank accession No.AM263560.1、アミノ酸配列;配列番号:4)、
Der f1(塩基配列;配列番号:5、GenBank accession No.X65196.1、アミノ酸配列;配列番号:6)、
Der f2(塩基配列;配列番号:7、GenBank accession No.AY283288、アミノ酸配列;配列番号:8)
に示す。
【0021】
また本発明に使用されるダニ抗原タンパク質としては、配列番号:2、4、6または8に記載のアミノ酸配列において1若しくは複数のアミノ酸が置換、欠失、挿入、および/または付加したアミノ酸配列からなるタンパク質であって、配列番号:2、4、6または8に記載のアミノ酸配列からなるタンパク質と機能的に同等なタンパク質を挙げることが出来る。また、配列番号:1、3、5または7に記載の塩基配列からなるDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズするDNAよりコードされるタンパク質であって、配列番号:2、4、6または8に記載のアミノ酸配列からなるタンパク質と機能的に同等なタンパク質も、本発明に使用されるダニ抗原タンパク質として挙げることができる。
【0022】
本発明において、変異するアミノ酸数は特に制限されないが、通常、30アミノ酸以内であり、好ましくは15アミノ酸以内であり、さらに好ましくは5アミノ酸以内(例えば、3アミノ酸以内)であると考えられる。変異するアミノ酸残基においては、アミノ酸側鎖の性質が保存されている別のアミノ酸に変異されることが望ましい。例えばアミノ酸側鎖の性質としては、疎水性アミノ酸(A、I、L、M、F、P、W、Y、V)、親水性アミノ酸(R、D、N、C、E、Q、G、H、K、S、T)、脂肪族側鎖を有するアミノ酸(G、A、V、L、I、P)、水酸基含有側鎖を有するアミノ酸(S、T、Y)、硫黄原子含有側鎖を有するアミノ酸(C、M)、カルボン酸及びアミド含有側鎖を有するアミノ酸(D、N、E、Q)、塩基含有側鎖を有するアミノ酸(R、K、H)、芳香族含有側鎖を有するアミノ酸(H、F、Y、W)を挙げることができる(括弧内はいずれもアミノ酸の一文字標記を表す)。あるアミノ酸配列に対する1又は複数個のアミノ酸残基の欠失、付加及び/又は他のアミノ酸による置換により修飾されたアミノ酸配列を有するポリペプチドがその生物学的活性を維持することはすでに知られている。
本発明において「機能的に同等」とは、対象となるタンパク質が、ダニ抗原タンパク質と同等の生物学的機能や生化学的機能を有することを指す。生物学的な性質には発現する部位の特異性や、発現量等も含まれる。
【0023】
相同遺伝子を単離するための当業者によく知られた方法としては、ハイブリダイゼーション技術(Southern, E. M., Journal of Molecular Biology, Vol. 98, 503, 1975)やポリメラーゼ連鎖反応(PCR)技術(Saiki, R. K., et al. Science, vol. 230, 1350-1354, 1985, Saiki, R. K. et al. Science, vol.239, 487-491,1988)が挙げられる。即ち、当業者にとっては、ダニ抗原タンパク質をコードする塩基配列(例えば、配列番号:1、3、5または7に記載のDNA)もしくはその一部をプローブとして、またダニ抗原遺伝子に特異的にハイブリダイズするオリゴヌクレオチドをプライマーとして、種々の昆虫(好ましくはダニ)からダニ抗原遺伝子の相同遺伝子を単離することは通常行いうることである。
【0024】
このような相同遺伝子をコードするDNAを単離するためには、通常ストリンジェントな条件下でハイブリダイゼーション反応を行なう。ストリンジェントなハイブリダイゼーション条件は当業者であれば、適宜選択することができる。一例を示せば、25%ホルムアミド、より厳しい条件では50%ホルムアミド、4×SSC、50mM Hepes pH7.0、10×デンハルト溶液、20μg/ml変性サケ精子DNAを含むハイブリダイゼーション溶液中、42℃で一晩プレハイブリダイゼーションを行った後、標識したプローブを添加し、42℃で一晩保温することによりハイブリダイゼーションを行う。その後の洗浄における洗浄液および温度条件は、「1xSSC、0.1% SDS、37℃」程度で、より厳しい条件としては「0.5xSSC、0.1% SDS、42℃」程度で、さらに厳しい条件としては「0.2xSSC、0.1% SDS、65℃」程度で実施することができる。このようにハイブリダイゼーションの洗浄の条件が厳しくなるほどプローブ配列と高い相同性を有するDNAの単離を期待しうる。但し、上記SSC、SDSおよび温度の条件の組み合わせは例示であり、当業者であれば、ハイブリダイゼーションのストリンジェンシーを決定する上記若しくは他の要素(例えば、プローブ濃度、プローブの長さ、ハイブリダイゼーション反応時間など)を適宜組み合わせることにより、上記と同様のストリンジェンシーを実現することが可能である。
【0025】
単離されたDNAの相同性は、アミノ酸配列全体で、少なくとも50%以上、さらに好ましくは70%以上、さらに好ましくは90%以上(例えば、95%、96%、97%、98%、99%以上)の配列の同一性を有する。配列の相同性は、BLASTN(核酸レベル)やBLASTX(アミノ酸レベル)のプログラム(Altschul et al. J. Mol. Biol., 215: 403-410, 1990)を利用して、決定することができる。該プログラムは、Karlin及びAltschulによるアルゴリズムBLAST (Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 87:2264-2268, 1990, Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 90: 5873-5877, 1993) に基づいている。BLASTNによって塩基配列を解析する場合には、パラメーターは例えばscore = 100、wordlength =12とする。また、BLASTXによってアミノ酸配列を解析する場合には、パラメーターは例えばscore = 50、wordlength = 3とする。また、Gapped BLASTプログラムを用いて、アミノ酸配列を解析する場合は、Altschulら(Nucleic Acids Res. 25: 3389-3402, 1997)に記載されているように行うことができる。BLASTとGapped BLASTプログラムを用いる場合には、各プログラムのデフォルトパラメーターを用いる。これらの解析方法の具体的な手法は公知である。
本発明のダニ抗原ペプチド改変体の第一の態様としては、T細胞エピトープを含むダニ抗原タンパク質由来のペプチドが挙げられる。
【0026】
T細胞抗原決定基(本明細書においては、「エピトープ」もしくは「エピトープペプチド」と記載する場合あり)は、通常、上記のアレルゲンが抗原提示細胞によって分解され(抗原処理され)、細胞表面に提示される抗原ペプチド、もしくは該ペプチドの部分領域である。即ち、本発明のエピトープは、T細胞レセプターによってアレルゲン由来抗原ペプチドとして認識し得るようなペプチドであれば、そのアミノ酸配列は、特に制限されない。
本発明のダニ抗原ペプチド改変体に含まれるT細胞エピトープは、特に制限されるものではないが、好ましくは、ヒトT細胞エピトープである。
【0027】
本発明のエピトープ(エピトープペプチド)は、アレルゲンの種類等によりそのペプチド長は異なるため、特定することは困難であるが、通常、約10〜25アミノ酸残基からなり、より好ましくは12〜19アミノ酸残基からなる。本発明に使用されるエピトープは、公知のエピトープを含むものであっても良い(Hoyne et al., (1996) Clin.Immunol. Immunopathol. 80, S23-S30)。
エピトープを利用したペプチド免疫の場合、個々人の遺伝子型により認識されるエピトープが異なるため、多くの人に効果を持たせるために、本発明においては複数のエピトープが好適に使用される。
【0028】
本発明のT細胞エピトープを含むペプチドの具体的な例としては、以下の(i)〜(iv)に記載される部分ペプチドが挙げられるが、これに限定されるものではない。
(i)配列番号:2に記載のアミノ酸配列における第45位〜第67位、第94位〜第104位、または第117位〜第143位から選択される領域(図9)
(ii)配列番号:2に記載のアミノ酸配列における第21位〜第49位、第71位〜第100位、第93〜108位、第110位〜第131位または第197位〜第212位から選択され領域(図9)
(iii)配列番号:4に記載のアミノ酸配列における第11位〜第35位、第87位〜第104位、第105位〜129位から選択される領域(図10)
(iv)配列番号:4に記載のアミノ酸配列における第35位〜第50位、第35位〜第60位、第87位〜104位から選択される領域(図10)
【0029】
また、本発明のT細胞エピトープを含むダニ抗原タンパク質由来のペプチドとして好ましくは、ダニ抗原タンパク質の全長の一部である部分ペプチドであり、さらに好ましくはアレルギー症状を引き起こす肥満細胞に結合しているIgE抗体との反応性を残さないように選択された部分からなる部分ペプチドである。
【0030】
このような部分ペプチドの具体的な例としては、以下の(i)〜(ii)に記載される部分ペプチドが挙げられるが、これに限定されるものではない。
(i)配列番号:2に記載のアミノ酸配列における第45位〜第144位までの領域を含むアミノ酸配列からなるペプチド
(ii)配列番号:6に記載のアミノ酸配列における第1位〜第144位までの領域を含むアミノ酸配列からなるペプチド
【0031】
本発明のT細胞エピトープを含むダニ抗原タンパク質由来のペプチドの別の態様としては、該ペプチドをシステインプロテアーゼ活性を有さないようさらに改変した、ペプチド改変体が挙げられる。Der p1およびDer f1はシステインプロテアーゼとしての活性を有する(Der p1;Stewart, G.A. et al. Int. Arch. Allergy Appl. Immunol. 95: 248-256. (1991)、Der f1;Ando, T. et al Int. Arch. Allergy Appl. Immunol. 96: 199-205 (1991))。抗原となるタンパク質を、酵素活性を有したままイネ種子に発現、蓄積させた場合、経口摂取した際にヒトの体内で該酵素活性により悪影響を及ぼす可能性が考えられる。Der p1は、そのシステインプロテアーゼの活性により気道における抗原の透過性を上昇させる(Kalsheker, N.A. et al. Biochem Biophys Res Commun 221, 59-61 (1996).)、α1-アンチトリプシンを不活性化することで(Hewitt, C.R. et al. J Exp Med 182, 1537-1544 (1995).)抗原の通過を容易にして喘息を起こす原因となる、あるいは免疫担当細胞表面に存在するCD25を切断して生体の免疫応答をTh2型に偏向させる(Schulz, O. et al. J Exp Med 187, 271-275 (1998).)、さらに、細胞表面に存在するCD23(低親和性のIgEレセプター)を切断することでIgE合成のネガティブフィードバックのシグナルを阻害する(Hewitt, C.R. et al. J Exp Med 182, 1537-1544 (1995).)、などの作用が知れれている。
本発明は、これらのシステインプロテアーゼ活性を有さないようさらに改変した、T細胞エピトープを含むダニ抗原タンパク質のペプチド改変体を提供する。これによって、該ペプチド改変体を安全に、対象に投与することが可能となる。
【0032】
このようなペプチド改変体は、当業者であれば、文献(例えば、K.Y. Chua, et al. J. Exp. Med. 167 (1988) 175-182)などの情報をもとに、システインプロテアーゼ活性を維持するのに重要なアミノ酸に変異を入れるなどして作製することが可能である。このようなペプチドの具体的な例としては、配列番号:2に記載のアミノ酸配列における第34位のシステイン残基(Cys)がアラニン残基(Ala)に改変されたペプチド改変体が挙げられるが、これに限定されるものではない。
本発明のダニ抗原ペプチド改変体の第二の態様としては、ダニ抗原タンパク質が抗原として認識されるための立体構造を形成しないように改変されているペプチド改変体が挙げられる。
【0033】
タンパク質の立体構造は、疎水性相互作用、水素結合、イオン結合、ジスルフィド結合等の多様な結合様式によって維持されている。一方、ダニ抗原ペプチドがアレルゲンとしての立体構造を維持している場合には、アレルギー症状を引き起こす肥満細胞に結合しているIgE抗体との反応性が残っており、アナフィラキシーショック等の症状を起こす可能性がある。従って、本発明のダニ抗原ペプチド改変体は、アレルゲンとしての立体構造を維持しないように改変されていることが好ましい。言い換えれば、IgE誘導活性中心を持たないように改変されていることが好ましい。
【0034】
立体構造を形成しないダニ抗原タンパク質を作製するために、アミノ酸配列による構造予測の情報などを利用して、立体構造形成に必要な結合を阻害するようダニ抗原タンパク質を改変することは、当業者には通常行ないうることである。例えば、スルフィド結合の形成を阻害するために、システイン残基をセリン残基に改変する(Takai T et al., (1997) Nat Biotechnol vol.15, 754-758)。
【0035】
このような立体構造を形成しないように改変された、本発明のペプチド改変体の具体的な例としては、配列番号:4または8に記載のアミノ酸配列における、第8位、第21位、第27位、第73位、第78位または第119位のシステイン残基(Cys)のいずれか1つまたは複数をセリン残基(Ser)に改変したペプチド改変体が挙げられる。変異を導入するシステイン残基、およびその組み合わせは特に限定されないが、本発明における特に好ましい例としては、第8位および第119位のシステイン残基を改変したペプチド、または、第21位、第27位、第73位および第78位のシステイン残基を改変したペプチドが挙げられる。(配列番号:15、16;図11)
【0036】
本発明においては、上記ペプチド改変体を発現するダニ抗原米は、別々のシステイン残基を改変させたペプチド改変体を形質転換した米を、適宜組み合わせて使用することも可能である。
また、上記改変体は、ダニ抗原タンパク質の部分ペプチドにアミノ酸変異を導入したものでもよい。例えば、配列番号:4における第11位〜第129位までの領域を含む部分ペプチド、または、配列番号:8における第11位〜第129位までの領域を含む部分ペプチドのシステイン残基を改変した部分ペプチド等を挙げることができる。
【0037】
本発明のダニ抗原ペプチド改変体は、イネ種子中で発現させることにより、糖鎖が付加され、かつタンパク質顆粒Iに封入されていることを特徴とする。ここで付加される糖鎖は、哺乳類、特にヒト体内でタンパク質に付加される糖鎖と同様の、構造、組成の糖鎖である。このような糖鎖が付加されたタンパク質は、他の生物種で付加される糖鎖や、糖鎖が付加されていないタンパク質と比較して、糖鎖に対する抗体が産生される可能性が低く、経口投与を行う際に安全性が高いといえる。このような糖鎖の例としては、実施例に記載の糖鎖が挙げられる。また、このような糖鎖の付加するアミノ酸としては、文献(例えは、K.Y. Chua, et al. J. Exp. Med. 167 (1988) 175-182)などの情報を参照することができる。
【0038】
本発明の方法の好ましい態様においては、本発明のダニ抗原ペプチド改変体をイネにおいて貯蔵タンパク質プロモーターの支配下(制御下)で発現させる方法である。より具体的には、まずダニ抗原ペプチド改変体をコードするDNAを取得し(工程(a))、次いで、工程(a)で取得されたDNAの5’末端に貯蔵タンパク質シグナル配列をコードするDNA、および/または3’末端に小胞体係留シグナル配列をコードするDNAを付加する(工程(b))。次いで、前記(b)のDNAを、イネにおいて貯蔵タンパク質プロモーターの制御下で発現させる(工程(c))。
【0039】
本発明における貯蔵タンパク質とは、通常、植物体で主にエネルギー源として種子中に貯わえられるタンパク質を指す。貯蔵タンパク質としては、例えば、単純タンパク質であるグルテリン(glutelin)やプロラミン(prolamin)を挙げることができる。本発明の貯蔵タンパク質としては、好ましくはグルテリンを示すことができる。グルテリンをコードする遺伝子のGenBankのアクセッション番号は、X54314(O.sativa GluB-1 gene for glutelin)であり、該遺伝子のcDNAのアクセッション番号は、XO5664である。
【0040】
本発明におけるプロモーターは、発現させたい遺伝子の種類や導入する細胞の種類に応じて、当業者においては公知のプロモーターを適宜選択、もしくは改変して使用することができる。本発明の好ましい態様においては、貯蔵タンパク質プロモーターが利用することができる。本発明において用いられる貯蔵タンパク質プロモーターの一例を示せば、グルテリンGluB-1プロモーターを挙げることができる。該プロモーターの長さは、通常1.3kb以上であり、好ましくは2.3kb以上であるが、本発明のプロモーターと同等の機能を有する限り、この長さに特に制限されるものではない。好ましくは、2.3k GluB-1プロモーターを挙げることができる。通常、プロモーターを長くすることにより、下流に存在する遺伝子によってコードされるタンパク質の発現・集積効率が高くなる。グルテリンGluB-1プロモーターは強力なプロモーター活性を有するため、イネまたはイネ以外の穀類についても好適に使用することができる。
【0041】
本発明の方法において好適に使用可能なプロモーターとして、上述のグルテリンGluB-1以外には、例えば、グルテリンGluB-4プロモーター、10 kDプロラミンプロモーター、または16 kDプロラミンプロモーター等を挙げることができる。上述のプロモーターの塩基配列に関する情報は、特許文献もしくは学術文献、または、GenBank等の公共のデータベースより適宜、取得することができる。(特開2005-130833 、Plant Biotechnology Journal. 2, 113-125 (2004) L.Q.Qu, and F. Takaiwa, Evaluation of tissue specificity and expression strength of rice seed component gene promoters in transgenic rice.;Glub-4(アクセッション番号:AY427571);10k prolamin(アクセッション番号:AY427572); 16kD prolamin(アクセッション番号:AY427574))。
【0042】
上記工程(a)におけるダニ抗原ペプチド改変体をコードするDNAは、ゲノムDNA、cDNA、および化学合成DNAが含まれる。アレルゲンの由来となるダニからのゲノムDNAおよびcDNAの調製は、当業者にとって常套手段を利用して行うことが可能である。ゲノムDNAは、例えば、アレルゲンの由来となるダニからゲノムDNAを抽出し、ゲノミックライブラリー(ベクターとしては、プラスミド、ファージ、コスミド、BAC、PACなどが利用できる)を作成し、これを展開して、ダニ抗原ペプチド改変体をコードするDNAの塩基配列情報を基に作製したプローブを用いてコロニーハイブリダイゼーションあるいはプラークハイブリダイゼーションを行うことにより調製することが可能である。また、本発明のダニ抗原ペプチド改変体をコードするDNAに特異的なプライマーを作成し、これを利用したPCRを行うことによって調製することも可能である。また、cDNAは、例えば、アレルゲンの由来となるダニから抽出したmRNAを基にcDNAを合成し、これをλZAP等のベクターに挿入してcDNAライブラリーを作成し、これを展開して、上記と同様にコロニーハイブリダイゼーションあるいはプラークハイブリダイゼーションを行うことにより、また、PCRを行うことにより調製することが可能である。
【0043】
本発明のダニ抗原ペプチド改変体をコードするDNAは、好ましくは、該ペプチドのアミノ酸配列情報を基に、適宜、人工的に合成することも可能である。その際、貯蔵タンパク質遺伝子でよく使用されるコドンを参考に、アミノ酸の縮重等を考慮して目的のDNAを合成することができる。また、本発明のダニ抗原ペプチド改変体をイネ種子で効率良く翻訳されるように、該ペプチドをコードするDNA配列は、イネ種子貯蔵タンパク質遺伝子において高頻度に使用されるコドンを使用して作製することができる。
【0044】
本発明において好適に使用されるコドンとしては、特に限定されるものではないが、例えば、表1のコドンを示すことができる。
【表1】
【0045】
また、このようにイネ種子貯蔵タンパク質遺伝子において高頻度に使用されるコドンに改変されたダニ抗原ペプチド改変体をコードするDNAの具体的な例としては、Der p1(図16、配列番号:9)、Der f1(図17、配列番号:10)、Der p2(図18、配列番号:12)、およびDer f2((図19、配列番号:13)を挙げることができる。
DNAの合成は、当業者においては、市販のDNA合成機等を利用して、適宜実施することができる。
【0046】
上記工程(b)における貯蔵タンパク質シグナル(ペプチド)配列としては、公知の種々の貯蔵タンパク質シグナル配列を、適宜、使用することが可能である。本発明の貯蔵タンパク質シグナル配列のアミノ酸配列に関する情報は、当業者においては公知の文献等により容易に入手することが可能である。貯蔵タンパク質シグナルは、本発明のダニ抗原ペプチド改変体を、小胞体へ移行させる働きを有し、該ペプチドが細胞質へ移行し分解を受けたり、あるいは細胞外へ分泌されることを防ぐ役割を担う。
【0047】
本発明の貯蔵タンパク質シグナル配列としては、好ましくは、グルテリン(GluB-1)タンパク質のシグナル配列を用いることができる。具体的には、本発明に使用可能な貯蔵タンパク質シグナル配列として、以下の配列を示すことができる。
MASSVFSRFSIYFCVLLLCHGSMA(配列番号:17)
【0048】
また、他のグルテリン(GluA-2)のシグナル配列である、MASINRPIVFFTVCLFLLCDGSLA(配列番号:18)、あるいは、26kDのグロブリンのシグナル配列である、MASKVVFFAAALMAAMVAISGAQ(配列番号:19)を用いることも可能である。
【0049】
また、本発明の小胞体係留シグナル(ER-retention signal)配列としては、例えば、KDEL配列(配列番号:20)、SEKDEL配列(配列番号:21)、またはHDEL配列(配列番号:22)等を利用することができるが、これらに特に制限されるものではない。また、本発明の小胞体係留シグナル配列をコードするDNAは、例えば、KDEL配列をコードするDNAの下流の3'非翻訳領域を含んでいてもよい。この3'非翻訳領域は、特に制限されるものではないが、通常100〜1000 bp程度の長さである。一例を示せば、本発明の小胞体係留シグナル配列をコードするDNAとして、KDEL配列をコードするDNAと該DNAの下流の約650bp程度のグルテリン3'非翻訳領域を含む領域を合わせたDNAを示すことができる。一般的に、上記3'非翻訳領域として、グルテリン等の貯蔵タンパク質遺伝子の3'非翻訳領域を好適に使用することができる。また、NOSターミネータ、または35SCaMVターミネータを使用することも可能である。上記の配列は、種子等の貯蔵部位において、外来タンパク質の集積量を向上させる機能を有する。
上記貯蔵タンパク質シグナル配列または小胞体係留シグナル配列をコードするDNAは、当業者においては、アミノ酸配列の縮重等を考慮して、適宜、市販のDNA合成機等を利用して取得(合成)することができる。
【0050】
また、工程(a)で取得されるDNAの5'末端への貯蔵タンパク質シグナル配列をコードするDNAの付加、および3'末端に小胞体係留シグナル配列をコードするDNAの付加は、当業者においては、公知の遺伝子工学技術を利用して行うことができる。上記の「5'末端」または「3'末端」とは、通常、プロモーターから転写を受ける方向が、5'末端→3'末端であるような向きを示す末端として定義される。従って、プロモーター側(方向)のDNAの末端部は、「5'末端」として定義される。
【0051】
上記工程(c)において、DNAを植物体内において貯蔵タンパク質プロモーターの制御下で発現させるためには、通常、該DNAの発現が可能なように貯蔵タンパク質プロモーターと該DNAとを結合させたDNAを植物体へ導入することによって実施することができる。プロモーターの制御を受けるように該プロモーターの下流に発現させたい所望のDNAを配置させることは、当業者においては一般的な遺伝子工学技術を用いて容易に行い得ることである。
【0052】
本発明の方法においてダニ抗原ペプチド改変体が集積されるイネにおける部位は、可食部位である種子(コメ)、より具体的には、胚乳中に集積させることが好ましい。この場合には、該ダニ抗原ペプチド改変体が集積されたコメをヒトが食することにより、本発明のダニ抗原ペプチド改変体を容易に体内に取り入れることが可能である。
【0053】
本発明の上記方法において使用される本発明のダニ抗原ペプチド改変体をイネにおいて発現し得るDNAもまた、本発明に含まれる。このようなDNAとしては、例えば、貯蔵タンパク質プロモーターの制御下に以下のいずれかに記載のDNAが配置された構造を有するDNAを示すことができる。
(a)ダニ抗原ペプチド改変体をコードするDNAの5'末端に貯蔵タンパク質シグナル配列をコードするDNA、および/または3'末端に小胞体係留シグナル配列をコードするDNAが付加されたDNA
(b)ダニ抗原ペプチド改変体のN末端に貯蔵タンパク質シグナル配列、および/またはC末端に小胞体係留シグナル配列が付加されたポリペプチドをコードするDNA
【0054】
上記の「貯蔵タンパク質プロモーターの制御下にDNAが配置された」とは、該DNAの発現が可能なように貯蔵タンパク質プロモーターと該DNAとが結合していることを言う。即ち、プロモーターの転写の活性化に伴い、下流のDNAの発現が誘導されるようにプロモーターと下流のDNAが結合していることを指す。
【0055】
また本発明の別の態様においては、ダニ抗原ペプチド改変体を貯蔵タンパク質の中へ挿入し、該エピトープを貯蔵タンパク質の一部として発現・集積させる方法を提供する。
上記方法の好ましい態様においては、まず、ダニ抗原ペプチド改変体をコードするDNAを取得し、次いで、該DNAを、植物の貯蔵タンパク質の可変領域をコードするDNA領域へ挿入し発現させる。
【0056】
上記方法においてダニ抗原ペプチド改変体が挿入される貯蔵タンパク質における部位は、貯蔵タンパク質の可変領域であることが好ましい。「可変領域」とは、進化過程でアミノ酸配列の種類や長さなどで極めて変異に富んだ領域を言う。従って、外来ペプチドを挿入しても立体構造に影響を及ぼさないことから、外来ペプチドを貯蔵タンパク質の一部として集積することが可能であり、また貯蔵タンパク質の一部として挙動するため、導入した貯蔵タンパク質と同じ貯蔵部位に集積させることが可能である。
【0057】
本発明の可変領域としては、例えばイネのグルテリンの場合、酸性サブユニットの3ヶ所(グルテリンGluB-1遺伝子の場合N末端からアミノ酸140,210、270〜310の領域)、および塩基性サブユニットのC末端領域を挙げることができ、これらの領域へ発現させたい所望の外来ペプチドを挿入することができる。また、上記のそれぞれの可変領域に本発明のダニ抗原ペプチド改変体を1個ずつ挿入することも可能である。また、グルテリンは11Sグロブリンファミリー(ダイズのグリシニンやエンバクのグロブリンが仲間)に属し、このファミリーに属するグルテリン以外のタンパク質であっても、上記で例示した可変領域へ、外来ペプチドを挿入することができる。ただし、イネグロブリン(エンバクグロブリンとは異なる仲間)の場合には、N末端から110くらいの可変領域にエピトープを挿入することが可能である。
上記方法において、本発明のエピトープをコードするDNAを、貯蔵タンパク質の可変領域をコードするDNA領域へ挿入することは、当業者においては、一般的な遺伝子工学技術を用いて容易に行い得ることである。
【0058】
上記方法において使用されるダニ抗原ペプチド改変体が貯蔵タンパク質の中へ挿入された構造を有するポリペプチドをコードするDNAもまた、本発明に含まれる。このようなDNAとしては、例えば、貯蔵タンパク質プロモーターの制御下に、(c)貯蔵タンパク質のアミノ酸配列中(好ましくは、可変領域)へ、ダニ抗原ペプチド改変体が挿入された構造を有するポリペプチドをコードするDNA、を挙げることができる。通常、貯蔵タンパク質の上流に本来備わっているプロモーターを、上記のプロモーターとして利用することができる。
【0059】
本発明のイネ種子胚乳で発現できるダニ抗原ペプチド改変体の具体的な例としては、以下の(a)〜(d)のいずれかに記載の塩基配列からなるDNAによってコードされるペプチドが挙げられる。
(a)配列番号:9に記載の塩基配列からなるDNA
(b)配列番号:9に記載の塩基配列からなるDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズするDNA
(c)配列番号:10に記載のアミノ酸配列を含むタンパク質をコードするDNA
(d)配列番号:10に記載のアミノ酸配列において1若しくは複数のアミノ酸が置換、欠失、挿入、および/または付加したアミノ酸配列を含むタンパク質をコードするDNA
【0060】
また本発明は、本発明のDNAを含むベクター、および本発明のDNAもしくは本発明のベクターを保持する宿主細胞を提供する。本発明のベクターとしては、本発明のDNAを安定に保持するものであれば特に制限されない。本発明のベクターは、当業者においては、発現させたい植物の種類を適宜考慮して、公知の種々のベクターへ上記DNAをクローニングすることにより、作製することができる。公知ベクターへの本発明のDNAの挿入は、常法により、例えば、制限酵素サイトを用いたリガーゼ反応により行うことができる(Current protocols in Molecular Biology edit. Ausubel et al. (1987) Publish. John Wiley & Sons.Section 11.4-11.11)。
本発明のベクターの一例として、pGluBsig7CrpKDELを挙げることができる。本発明のベクターは、本発明のエピトープ集積方法に使用可能であり、ダニ抗原ペプチド改変体集積植物作製用ベクターとして有用である。
【0061】
本発明のベクターが導入される宿主細胞としては特に制限はなく、目的に応じて種々の公知の細胞が用いられる。ここでいう「宿主細胞」には、植物体に再生可能なあらゆる種類の形態のイネ細胞が含まれる。例えば、懸濁培養細胞、プロトプラスト、苗条原基、多芽体、毛状根、カルスなどが含まれるが、これらに制限されない。また、本ベクターの保存、複製等が目的の場合には、本発明の宿主細胞は、必ずしも植物由来の細胞である必要はなく、例えば、大腸菌、酵母または動物細胞等であってもよい。
【0062】
宿主細胞へのベクターの導入は、例えば、リン酸カルシウム沈殿法、電気パルス穿孔法(Current protocols in Molecular Biology edit. Ausubel et al. (1987) Publish. John Wiley & Sons.Section 9.1-9.9)、リポフェクタミン法(GIBCO-BRL社製)、マイクロインジェクション法等の公知の方法で行うことができる。
【0063】
また本発明は、本発明の上記DNAもしくはベクターをイネへ導入することを特徴とするダニ抗原ペプチド改変体をイネに集積させる方法、並びに、本発明のDNAもしくはベクターをイネへ導入することを特徴とするダニ抗原ペプチド改変体を集積した植物の製造方法に関する。本発明の好ましい態様においては、本発明の方法を用いた、ダニ抗原ペプチド改変体が集積したトランスジェニックイネの製造方法、および、本発明の方法を用いた、ダニ抗原ペプチド改変体が集積したコメの製造方法を提供する。
【0064】
本発明のDNAを利用して、ダニ抗原ペプチド改変体が集積した形質転換イネを作製する場合には、例えば、本発明のDNAを適当なベクターに挿入して、これをイネ細胞に導入し、これにより得られた形質転換植物イネを生育(再生)させる。植物体の生育(再生)は、当業者に公知の方法で行うことが可能である(Tokiら (1995) Plant Physiol. 100:1503-1507参照)。イネにおいては、形質転換植物体を作出する手法については、ポリエチレングリコールによりプロトプラストへ遺伝子導入し、植物体を生育(再生)させる方法(Datta,S.K. (1995) In Gene Transfer To Plants(Potrykus I and Spangenberg Eds.) pp66-74)、電気パルスによりプロトプラストへ遺伝子導入し、植物体を生育(再生)させる方法(Toki et al (1995) Plant Physiol. 100, 1503-1507)、パーティクルガン法により細胞へ遺伝子を直接導入し、植物体を生育(再生)させる方法(Christou et al. (1991) Bio/technology, 9: 957-962.)およびアグロバクテリウムを介して遺伝子を導入し、植物体を生育(再生)させる方法(Hiei et al. (1994) Plant J. 6: 271-282.)など、いくつかの技術が既に確立し、本願発明の技術分野において広く用いられている。本発明においては、これらの方法を適宜利用することができる。上記アグロバクテリウム法を用いる場合、例えばNagelらの方法(Microbiol. Lett., 1990, 67, 325.)が用いられる。この方法によれば、ベクターをアグロバクテリウム細菌中に形質転換して、次いで形質転換されたアグロバクテリウムを、リーフディスク法等の公知の方法によりイネ細胞へ導入する。
【0065】
また、本発明のDNAまたはベクターを導入する植物は、外植片であってもよく、これらの植物から培養細胞を調製し、得られた培養細胞に導入してもよい。本発明の「植物細胞」は、例えば葉、根、茎、花および種子中の胚盤等の植物細胞、カルス、懸濁培養細胞等が挙げられる。
【0066】
また、本発明のDNAまたは核酸の導入により形質転換された植物細胞を効率的に選択するために、本発明のDNAまたはベクターは、適当な選抜マーカー遺伝子を含む、もしくは選抜マーカー遺伝子を含むプラスミドベクターと共に植物細胞へ導入するのが好ましい。この目的に使用される選抜マーカー遺伝子は、例えば抗生物質ハイグロマイシンに耐性であるハイグロマイシンホスホトランスフェラーゼ遺伝子、カナマイシンまたはゲンタマイシンに耐性であるネオマイシンホスホトランスフェラーゼ遺伝子、および除草剤ホスフィノスリシンに耐性であるアセチルトランスフェラーゼ遺伝子等が挙げられる。
【0067】
組み換えベクターを導入した植物細胞は、導入された選抜マーカー遺伝子の種類に従って適当な選抜用薬剤を含む公知の選抜用培地に置床し培養する。これにより形質転換された植物培養細胞を得ることができる。
形質転換細胞から再生させた植物体は、次いで順化用培地で培養する。その後、順化した再生植物体を、通常の栽培条件で栽培すると、植物体が得られ、成熟して結実して種子を得ることも可能である。
【0068】
なお、このように生育(再生)された形質転換植物体へ導入された本発明のDNAの存在は、公知のPCR法やサザンハイブリダイゼーション法によって確認することができる。この場合、形質転換植物体からのDNAの抽出は、公知のJ.Sambrookらの方法(Molecular Cloning, 第2版, Cold SpringHarbor laboratory Press, 1989)に準じて実施することができる。
【0069】
さらに本発明は、本発明の方法によって作出される、ダニ抗原ペプチド改変体が集積したトランスジェニックイネ(形質転換イネ)、該イネに由来する細胞を提供する。例えば、本発明の方法により、ダニ抗原ペプチド改変体を種子に集積させたイネは、ダニアレルギー緩和作物として有用である。
【0070】
一旦、本発明のダニ抗原ペプチド改変体が集積した形質転換イネが得られれば、該植物体から有性生殖または無性生殖により子孫を得ることが可能である。また、該植物体やその子孫あるいはクローンから繁殖材料(例えば、種子、切穂、株、カルス、プロトプラスト等)を得て、それらを基に該植物体を量産することも可能である。本発明には、本発明の方法により作出されるダニ抗原ペプチド改変体が集積したトランスジェニックイネの子孫またはクローン、該トランスジェニックイネあるいは子孫やクローン由来の細胞、繁殖材料、並びに種子が含まれる。本発明の種子は熱に安定な性質を有するものと期待される。本発明の好ましい態様においては、例えば、ダニ抗原ペプチド改変体が胚乳へ集積したコメ(イネ)を挙げることができる。
【0071】
さらに本発明は、アレルギー性疾患の予防、治療もしくは緩和作用を有することを特徴とする食品組成物もしくは飲食品を提供する。本発明の食品組成物もしくは飲食品は、本発明の方法によって作出されるダニ抗原ペプチド改変体が集積した部位(例えば、種子(コメ))、またはこれらから抽出されるダニ抗原ペプチドを含む抽出物、あるいは、これらの加工物から構成される。より具体的には、本発明の方法によって得られるダニ抗原ペプチド改変体が集積した種子(コメ)、またはこれらから抽出される成分を含む、アレルギー性疾患の治療または予防のための食品組成物もしくは飲食品である。本発明の「組成物」は、必ずしも、種子(コメ)にさらに複数種の物質が添加されている必要はなく、本発明の種子(コメ)のみから構成される食品であってもよい。
【0072】
本発明の食品組成物もしくは飲食品は加熱等の調理法に供することも可能である。また、食品衛生上許容される配合物を混合して、健康食品、機能性食品、特定保健用食品、栄養補助食品等に加工して利用することができる。例えば安定化剤、保存剤、着色料、香料、ビタミン等の配合物を上記食品組成物に適宜添加し、混合し、常法により、錠剤、粒状、顆粒状、粉末状、カプセル状、液状、クリーム状、飲料等の組成物に適した形態とすることができる。
【0073】
本発明の好ましい態様としては、アレルギー性疾患(例えば、ダニアレルギー)の予防、治療もしくは緩和作用を有することを特徴とする、ダニ抗原ペプチド改変体が集積したコメを含有する飲食品を挙げることができる。該飲食品には、本発明のコメを原料とした加工品が含まれ、例えば、餅(だんご、切り餅、上新粉、白玉粉)、せんべい、米粉(ビーフン)、清酒、玄米茶、米ぬか、麺類等を例示することができる。
【0074】
また、本発明の飲食品は、アレルギー性疾患(例えば、ダニアレルギー)の予防、治療もしくは緩和のために用いられるものである旨の表示を付した飲食品であることが好ましい。
また本発明の方法によって作出されるダニ抗原ペプチド改変体が集積した部位(種子(コメ)等)を有効成分とする、アレルギー性疾患の治療または予防のための医薬組成物も、本発明に含まれる。
本発明の組成物が投与される対象は哺乳動物である。哺乳動物は、好ましくはヒトである。
【0075】
本発明において、アレルギー性疾患(allergic disease)とはアレルギー反応の関与する疾患の総称である。また、アレルギー性疾患は、通常、I〜IV型アレルギー反応を示す疾患に区別することができる。本発明のアレルギー性疾患としては、特に限定されるものではないが、好ましくはI型アレルギーである。本発明のアレルギー性疾患として好ましくは、ダニアレルギーを挙げることができる。上記疾患に対応したアレルゲン特異的なエピトープを用いた本発明の方法によって、所謂テーラーメイド医療と呼ばれる治療への応用が期待される。
【実施例】
【0076】
以下、本発明を実施例によりさらに具体的に説明するが本発明はこれら実施例に制限されるものではない。
〔実施例1〕 イネ種子中におけるDer p1ペプチドの発現と蓄積
Der p1タンパク質の一部(アミノ酸Ser45-Asp145)をコードする遺伝子(Der p1 45-145)をイネ種子で使用されるコドンの頻度に合わせ合成した。各塩基配列、アミノ酸配列は図1および配列番号:9、10に示した。後のクローニングのために5’末端にNcoIサイトを、3’ 末端にSacIサイトを付加した。また、アミノ酸配列のC末端側に小胞体へのシグナルであるKDEL(Lys-Asp-Glu-Leu)をコードする配列、その直後に停止コドンを付加した。この遺伝子断片をGluB-1プロモーターとターミネータの間に挿入し、これを植物の形質転換用ベクターであるpGPTVにサブクローニングし、植物形質転換用のコンストラクトを構築した(図2A)。
【0077】
このコンストラクトを、アグロバクテリウムEHA105株を用いてイネ種子由来のカルスに感染させ、イネの形質転換体を作成した。得られた約40個体の形質転換体の種子からタンパク質を抽出し、Der p1ペプチドの最も蓄積量の多いものを選抜した。選抜は、抗Der p1抗体の検出、発色による定量を行い、イネ種子中での蓄積量として比較することにより行った。その結果、No.28の植物体に最も多くDer p1ペプチドが集積しており、種子一粒あたり89.3μgの蓄積があることが判明した (図2B)。この系統の種子のDer p1ペプチドを、SDS-PAGEおよびウェスタンブロッティングによってさらに解析した。SDS-PAGEにおける解析においては、Der p1発現米のレーン、分子量約12kDaの位置に、非形質転換体であるキタアケのレーンでは検出されないバンドが確認された (図2C左図、矢印) 。この分子量はデザインしたDer p1ペプチドのアミノ酸配列より推察される分子量、12.0kDaとほぼ一致していることから、イネ種子内においてCBB染色によって可視化できる程度の量のDer p1ペプチドが蓄積していることが明らかになった。さらに抗Der p1抗体を用いてウェスタンブロッティングによる解析を行った結果、SDS-PAGEによる解析の際にCBBで可視化されたバンドと同じ位置に抗Der p1抗体による単一のシグナルが検出され、このバンドが導入されたDer p1遺伝子産物であることが確認された(図2C右図、矢印)。また、非形質転換体であるキタアケのタンパク質を泳動したレーンにはいかなるシグナルも検出されなかった。
【0078】
アグロバクテリウムによるイネの形質転換によって得られたNo.28の形質転換体のゲノム中に目的の遺伝子がどの程度挿入されたかを調べるために、サザンハイブリダイゼーションによる解析を行った。形質転換体No.28および非形質転換体からゲノムDNA を精製し、これを制限酵素EcoRI および HindIII で消化した後に、0.8%アガロースゲルで泳動してDNA断片を分離した。電気泳動後、DNA断片をアルカリトランスファー法によりHybond-N+膜上に転写した。この膜に対して32PでラベルしたDer p1 (45-145)のDNAプローブを用いてDer p1特異的シグナルを検出した。その結果、EcoRIで形質転換体No.28のゲノムDNAを消化後に泳動したレーンには約7, 9, 1.2k bpの位置にシグナルが検出され、HindIIIで形質転換体No.28のゲノムDNAを消化後に泳動したレーンには約7, 9k bpの位置にシグナルが検出された。また、同様に非形質転換体のキタアケのゲノムDNAを消化、泳動したレーンにはいかなるシグナルも検出されなかった (図2D) 。
【0079】
〔実施例2〕 Der p1米のマウスへの経口投与による効果
コントロール米、実施例1で得られたDer p1形質転換米(以下、Der p1米ともいう)それぞれをフードプロセッサーで粉末にし、市販のマウス用粉末飼料と1:1で混合して、7日間マウスの自然摂食に任せて経口投与した。これらの被験マウスに対し、Der p1タンパク質 5μgをのAlum 0.4mgと懸濁し、一週間間隔で4回腹腔内投与し、免疫した。最終免疫から7日後に血清を回収し、Der p1特異的IgG、IgEの抗体価をELISA法により測定した。投与およびその後の免疫のスケジュールは図3Aに示した。その結果、コントロール米を経口投与したマウスではDer p1 特異的IgG、IgEがナイーブなマウスの血清に比べて高いレベルで検出されたのに対し、Der p1米を経口投与したマウスから得た血清中にはDer p1 特異的IgG、IgEは低いレベルでしか検出されなかった (図3B、C)。また、各実験群のマウスから得られた血清中の総IgE量を測定したところ、Der p1米を投与したマウスではコントロール米を投与したマウスに比べて有意に血中濃度が低下していた (図3D, コントロール米投与群;8.56 ng/mL、 Der p1米投与群;3.42 ng/mL) 。
【0080】
〔実施例3〕 Der p1 特異的 IgG サブクラスの解析
各実験群のマウスより採血した血清中IgGのサブクラスについて解析を行った。前項と同様に測定はELISA法で行った。ナイーブなマウスと比較した場合に、コントロール米を投与したマウスの血清中にはDer p1の免疫によってIgG1 および IgG2b が効率よく誘導されている一方で、Der p1米を投与したマウスの血清中にはこれらのIgGサブクラスの抗体の誘導は検出されなかった (図4A、C) 。また、IgG2a、 IgG3の各サブクラスの抗体価については有意な差は認められなかった(図4B、D) 。
【0081】
〔実施例4〕 抗原特異的T細胞の増殖とサイトカインの放出
それぞれの米を経口投与したマウスより脾臓を摘出し、CD4+ T 細胞を精製した後に抗原特異的T細胞の増殖試験を行った。コントロール米を投与した実験群のマウスより得たCD4+ T 細胞はDer p1抗原の刺激により良好な増殖を示したが、Der p1米を投与した実験群のマウスより得たCD4+ T 細胞では抗原の刺激を与えても増殖はほとんどみられなかった(図5A)。これら細胞の培養上清を回収し、細胞が放出するサイトカインの量を測定した。コントロール米投与マウスのCD4+ T 細胞からはTh2サイトカインであるIL-4, 5, 13が高濃度に放出されていたが、Der p1米投与マウスのCD4+ T 細胞からはこれらのTh2サイトカインはほとんど放出されていなかった (図5B、C、D) 。一方、Th1型のサイトカインであるINF-γの量はどちらの実験群においても低濃度でしか放出されず、有意な差は認められなかった(図5E) 。
【0082】
〔実施例5〕 気管支肺胞洗浄液中の細胞組成の変化
喘息はダニアレルギーの主な症状の一つである。そこで、Der p1米の喘息症状に対する効果を検証した。コントロール米、Der p1米を経口投与したマウスをDer p1で免疫し、その最終免疫から14日後にネンブタールで腹腔より麻酔したマウスに対し、点鼻によりマウス一匹あたり10μgのDer p1抗原を投与した。抗原のチャレンジより24時間後に気管支肺胞洗浄液(BALF, 一匹あたり1ml)を回収した後Diff Quickによる染色を行い、BALF中に含まれる細胞数の測定や、誘導される細胞の組成の違いなどについて調べた。その結果、コントロール米を投与したマウスでは喘息モデルにみられる典型的な症状、マクロファージや好酸球の浸潤が観察され、また、肺や気管支中に浸潤してくる細胞の数も増加していた。一方、Der p1米を投与したマウスにおいては図5Cにも示したようにIL-5の産生量の低下と連動して好酸球数の浸潤がほとんど観察されず、また、抗原の刺激によって誘導されるマクロファージなどの細胞数も劇的に減少していた (図6A、B) 。
【0083】
〔実施例6〕 Der p1米の投与による気道過敏性の亢進
次に各実験群に上述と同様の方法で抗原感作、点鼻による抗原チャレンジを行い、気道の抵抗を測定することによって気道の過敏性の亢進を調べた。コントロール米を投与したマウスでは、抗原のチャレンジによって典型的な喘息の症状として認められる気道抵抗の上昇が観察された。ところが、Der p1米を投与したマウスではこのような気道抵抗の上昇は観察されなかった (図6C) 。
【0084】
〔実施例7〕 Der p1米の投与による肺の組織学的解析
さらにDer p1米の投与による肺の炎症の様子を、凍結切片を調製、観察することで評価した。各実験群のマウスに対し、上述の方法でDer p1抗原を腹腔より感作、点鼻によるチャレンジを行った後、それぞれのマウスから肺を摘出し、OCTコンパウンドに包埋した。これを液体窒素中で凍結し、5μmの厚さの凍結切片を調製した。得られた凍結切片について、ヘマトキシリン/エオシン染色(図7)、あるいはPAS染色(図8)により肺における炎症の様子を観察した。その結果、コントロール米を投与したマウスの実験群では抗原の感作、点鼻によるチャレンジにより、肺が炎症を起こし、マクロファージ、好酸球などの細胞が大量に浸潤していることが観察された。とくに、好酸球は分葉核を持ち、エオシンによって細胞内の顆粒が赤く染色される細胞として認識される (図7B、白矢印) 。また、気道周囲の表皮細胞が肥厚している(図7B、黒矢印)。一方、Der p1米を投与したマウスの実験群では、ナイーブなマウスにチャレンジした状態に近く、これらのマクロファージ、好酸球といった細胞の浸潤、表皮細胞の肥厚はみられなかった(図7C)。同様にして調製した凍結切片をPAS染色した標本では、コントロール米を投与したマウスの肺では、気道周囲の表皮細胞のゴブレット細胞から分泌される多糖粘液がPASによって赤く染色され、炎症を起こしていることが観察される(図8B、矢印)。これに対し、Der p1米を経口投与したマウスの群では、PASにより染色された細胞がいくつか観察されるものの、コントロール米を投与したマウスの状態よりも染色されたゴブレット細胞の数が有意に減少していることが確認された (図8C) 。
【0085】
〔実施例8〕 Der f2ΔC米のマウスへの経口投与による効果
コントロール米、実施例1と同様の方法で得られたDer f2ΔC発現米(以下、Der f2ΔC米ともいう、図11)をそれぞれをフードプロセッサーで粉末にし、これを市販のマウス用の粉末飼料と1:1で混合して、一ヶ月間マウスの自然摂食に任せて経口投与した。これらの被験マウスに対し、野生型Der f2タンパク質 0.5μgを0.4mgのAlumと懸濁し、一週間間隔で4回腹腔内投与し、免疫した。最終免疫から7日後に血清を回収し、野生型Der f2特異的IgG、IgEの抗体価をELISA法により測定した。投与およびその後の免疫のスケジュールは図12Aに示した。その結果、Der f2ΔC米を経口投与したマウスから得た血清中の野生型Der f2 特異的IgG, IgEの産生量はコントロール米をしたマウスから得た血清中の野生型Der f2 特異的IgG, IgEの産生量と比較して有意な差は認められなかった(図12B、C)。また、各実験群のマウスから得られた血清中の総IgE量を測定したところ、Der f2ΔC米を投与したマウスではコントロール米を投与したマウスに比べて若干の減少傾向は見られるものの、有意差は認められなかった(図12D)。
【0086】
〔実施例9〕 Der f2米(C8/119米とC21/27, C73/78米の混合米)のマウスへの経口投与による効果
コントロール米、実施例1と同様の方法で得られたDer f2 (C8/119) 形質転換米とDer f2 (C21/27, C73/78) 形質転換米(図11)を等量混合した混合米(以下、Der f2米ともいう)をそれぞれフードプロセッサーで粉末にし、これを市販のマウス用の粉末飼料と1:1で混合して、14日間マウスの自然摂食に任せて経口投与した。これらの被験マウスに対し、野生型Der f2タンパク質 0.5μgを0.4mgのAlumと懸濁し、一週間間隔で4回腹腔内投与し、免疫した。最終免疫から7日後に血清を回収し、野生型Der f2特異的IgG、IgEの抗体価をELISA法により測定した。投与およびその後の免疫のスケジュールは図13Aに示した。その結果、コントロール米を経口投与したマウスでは野生型Der f2 特異的IgG, IgEがナイーブなマウスの血清に比べて高いレベルで検出されたのに対し、Der f2米を経口投与したマウスから得た血清中には野生型Der f2 特異的IgG, IgEは低いレベルでしか検出されなかった (図13B、C)。また、各実験群のマウスから得られた血清中の総IgE量を測定したところ、野生型Der f2米を投与したマウスではコントロール米を投与したマウスに比べて有意に血中濃度が低下していた (図13D) 。
【0087】
〔実施例10〕 イネ種子中におけるDer p1(全長)タンパク質の発現と蓄積
Der p1タンパク質全長をコードする遺伝子をイネ種子で使用されるコドンの頻度に合わせ合成した。各塩基配列、アミノ酸配列は配列番号:9および2に示した(図16)。後のクローニングのために5’末端にNcoIサイトを、3’ 末端にSacIサイトを付加した。また、アミノ酸配列のC末端側に小胞体へのシグナルであるKDEL(Lys-Asp-Glu-Leu)をコードする配列、その直後に停止コドンを付加した。また、Der p1タンパク質が持つシステインプロテアーゼの活性を消去するために第34位のアミノ酸をCysからAlaに置換した(図14A、Ψ)。この遺伝子断片をGluB-1プロモーターとターミネータの間に挿入し、これを植物の形質転換用ベクターであるpGPTVにサブクローニングし、植物形質転換用のコンストラクトを構築した(図14A)。
【0088】
このコンストラクトを、アグロバクテリウムEHA105株を用いてイネ種子由来のカルスに感染させ、イネの形質転換体を作成した。得られた約30個体の形質転換体の種子からタンパク質を抽出し、Der p1タンパク質の蓄積量の最も多いものを選抜した。選抜は、抗Der p1抗体の検出、発色による定量を行い、イネ種子中での蓄積量として比較することにより行った。その結果、No.17の植物体に最も多くDer p1ペプチドが集積しており、種子一粒あたり58μgの蓄積があることが判明した (図14B)。この量は種子タンパク質全体の約4%を占める量と換算される。この系統の種子のDer p1ペプチドを、SDS-PAGEおよびウェスタンブロッティングによってさらに解析した。SDS-PAGEにおける解析においては、Der p1発現米のレーン(3、4)、分子量約25-27kDaの位置に、非形質転換体であるキタアケのレーン(1、2)では検出されないバンドが確認された (図14C左図) 。さらに抗Der p1抗体を用いてウェスタンブロッティングによる解析を行った結果、SDS-PAGEによる解析の際にCBBで可視化されたバンドと同じ位置に抗Der p1抗体によるシグナルが25kDa と27kDaの位置に検出され、このバンドが導入されたDer p1遺伝子産物であることが確認された(図14C右図)。25kDaの分子量の位置に確認されたバンドはデザインしたDer p1ペプチドのアミノ酸配列より推察される分子量、25kDaとほぼ一致している。Der p1は第52位のAsnがN-グリコシル化されることから、27kDa付近に確認されたバンドはN-グリコシレーションされ、糖鎖の付加した形で種子に蓄積しているものと考えられる。また、非形質転換体であるキタアケのタンパク質を泳動したレーンにはいかなるシグナルも検出されなかった。さらに金コロイドを結合したDer p1特異的抗体を用いて細胞内におけるDer p1タンパク質の局在を、電子顕微鏡を用いて調べたところ、イネ種子内で発現蓄積したDer p1タンパク質は小胞体由来のタンパク質顆粒I に蓄積していることが明らかになった(図14D)。
【0089】
〔実施例11〕 イネ種子内に蓄積したDer p1タンパク質の糖鎖の解析とIgEとの反応性
イネ種子中に蓄積したDer p1タンパク質に付加された糖鎖がどのような構造を持つものであるか検討した。まず、マンノース型の糖鎖を切断する酵素、Endo Hによる処理を行ったところ、27kDa付近に検出されたバンドが酵素処理により消失したことがSDS-PAGEやウェスタンブロッティング解析によって確認された。さらにこれらの糖鎖の構造についてMALDI-TOF MSを用いて詳細に解析を行った。その結果、Der p1に付加された糖鎖はMan8GlcNac2(図20、a, b, c), Man9GlcNac2(図20、d, e, f), Glu1Man8GlcNac2(図21、g, h, i, j), Glu1Man9GlcNac2(図21、k, l, m)がほとんどであり、これらの糖鎖で全体の91.4%を占めていた。またこれらの糖鎖はほ乳動物の細胞内で付加される糖鎖と共通のものであった。
【0090】
イネ種子内に蓄積し、糖鎖の付加されたDer p1タンパク質と大腸菌内で生産された糖鎖のないDer p1タンパク質についてダニアレルギー患者の血清中のIgEとの反応性について調べた。解析はウェスタンブロッティング解析によって行い、その発色強度を定量化した。その結果、ほとんどの患者の血清において、糖鎖のないDer p1タンパク質(図15B, レーン1)に比べて、イネ種子内で発現した、糖鎖の付加したDer p1タンパク質(図15B, レーン2)の方がIgEに対する応答が低い、ということが明らかになった。また、このときのIgEの反応性を定量化した結果、糖鎖のないものに比べて糖鎖のついたものでは30%程度に反応性が低下していることが明らかになった(図15C)。
【図面の簡単な説明】
【0091】
【図1】ダニアレルゲン発現米の作出のために合成した遺伝子配列を示す図である。上段;Der p1(45-145)をコードする塩基配列、下段;上段の遺伝子が翻訳されて合成されるアミノ酸配列。遺伝子配列の5’末端にNco Iサイト(5’側下線部)、3’末端に小胞体へのシグナルであるKDELをコードする配列(破線)、および、停止コドン(点線)に続いてSac Iサイト( 3’側下線部)が付加されている。
【図2】ダニアレルゲン発現米の作出についての図および写真である。A:ダニアレルゲン(Der p1)発現米のコンストラクトを示す。B:得られた形質転換イネの種子中のDer p1の蓄積量を示す。各形質転換体の種子中のDer p1を抗Der p1抗体による発色強度で比較し、定量を行った結果、No.28の系統が最も蓄積量が多いことが判明した。C:SDS-PAGEおよびウェスタン解析によるDer p1の検出結果を示す。SDS-PAGE (左)およびウェスタン解析(右)によってDer p1特異的なシグナルが確認された(矢印)。(コントロール:非形質転換体、Der p1:Der p1 発現形質転換米)。D:サザンハイブリダイゼーションによるDer p1遺伝子の検出結果を示す。形質転換体にのみDer p1をコードする遺伝子の挿入が確認された。(E:EcoRI、H:HindIII)
【図3】Der p1発現米による経口免疫寛容の誘導効果を示す図である。A:BALB/cマウスに対するDer p1米の経口投与およびDer p1抗原の免疫スケジュールを示す。B:Der p1特異的IgG、C:Der p1特異的IgE、D:血清中の総IgE量を示す。各種抗体価が低下していることから、Der p1米によって抗原特異的な経口免疫寛容の誘導が確認された。(ナイーブ(未処理):未処理マウス、コントロール:非形質転換イネ投与マウス、Der p1: Der p1発現米投与マウス)
【図4】Der p1発現米の経口投与による抗原特異的IgGサブクラスの産生を示す図である。A:Der p1特異的IgG1、 B: Der p1特異的IgG2a 、 C: Der p1特異的IgG2b 、 D: Der p1特異的IgG3の結果を示す。Der p1米の経口投与によって抗原特異的なIgG1、IgG2bの産生が抑制されている。
【図5】Der p1発現米経口投与の免疫学的解析の結果を示す図である。A:Der p1特異的なT細胞の増殖、B-E:各種サイトカインの分泌、を示す。Der p1米の経口投与によって抗原特異的なT細胞の増殖が抑制された。また、Th2サイトカインであるIL-4, 5, 13は産生が抑制されている一方、Th1サイトカインであるIFN-γには変化はない。
【図6】Der p1発現米経口投与が気道の炎症に与える効果を示す図および写真である。各米を経口投与したマウスに対し、抗原を腹腔に免疫し、その後点鼻によって抗原を投与することで喘息を誘導した。喘息によって引き起こされる各種の症状(肺洗浄液中の細胞数の増加(A)、マクロファージ、好酸球(矢印)等の細胞の浸潤(B)、気道の過敏性(C))がDer p1米の経口投与によって抑制されている。
【図7】Der p1発現米経口投与が肺の炎症に与える効果を示す写真である。各米を経口投与したマウスに対し、抗原を腹腔に免疫し、その後点鼻によって抗原を投与することで喘息を誘導した。各実験群のマウスより肺を摘出し、凍結切片を調製した。切片をH&E染色を行い、各実験群のマウスの肺における状態を観察した。コントロール米を投与したマウスの肺(B)ではマクロファージや好酸球(白矢印)などの細胞の浸潤がみられ、気道周囲の細胞(黒矢印)の肥厚が認められるが、Der p1米を投与したマウスの肺(C)ではこれらの細胞の浸潤が抑えられ、また、表皮の細胞の肥厚が抑制されている。(AW:気道)
【図8】Der p1発現米経口投与が肺の炎症に与える効果を示す写真である。各米を経口投与したマウスに対し、抗原を腹腔に免疫し、その後点鼻によって抗原を投与することで喘息を誘導した。各実験群のマウスより肺を摘出し、凍結切片を調製した。切片をPAS染色を行い、各実験群のマウスの肺における状態を観察した。コントロール米を投与したマウスの肺(B)では気道周囲に粘液を産生する細胞がPAS染色により染色される(矢印)が、Der p1米を投与したマウスの肺(C)ではこれらの細胞は認められない。(AW:気道)
【図9】Der p1のT細胞エピトープ領域を示す図である。それぞれ、ヒトのエピトープ、マウス(C57BL/6J、BALB/c)の各T細胞エピトープを含んだ領域を示す。
【図10】Der p2のT細胞エピトープ領域を示す図である。ヒトのエピトープ、マウス(C57BL/6J、BALB/c, CBA/J)の各T細胞エピトープを含んだ領域を示す。
【図11】Der f2 改変ポリペプチドを示す図である。下線はシステイン残基からセリン残基への変異部位を示す。
【図12】Der f2ΔC発現米による経口免疫寛容の誘導の結果を示す図である。A:CBA/Jマウスに対するDer f2ΔC米の経口投与およびDer f2(野生型)抗原の免疫スケジュール、B:Der f2特異的IgG、C:Der f2特異的IgE、D:血清中の総IgE量、を示す。非形質転換体の米を与えたマウスとDer f2ΔC発現米を与えたマウスにおいて、血清中の抗原特異的なIgGおよびIgE、総IgE量に有意な差は認められず、Der f2ΔCによってDer f2野生型に対する免疫寛容の誘導はできなかった。(コントロール:非形質転換イネ投与マウス、Der f2ΔC: Der f2ΔC発現米投与マウス)。
【図13】Der f2発現米(C8/119米とC21/27, C73/78米の混合米)による経口免疫寛容の誘導の結果を示す図である。A:A/Jマウスに対するDer f2米の経口投与およびDer f2抗原の免疫スケジュール、B:Der f2特異的IgG、C:Der f2特異的IgE、D:血清中の総IgE量を示す。各種抗体価が低下していることから、Der f2米によって抗原特異的な経口免疫寛容の誘導が確認された。(ナイーブ(未処理):未処理マウス、コントロール:非形質転換イネ投与マウス、Der f2: Der f2発現米投与マウス)
【図14】ダニアレルゲン(Der p1 全長)発現米の作出についての図および写真である。A:ダニアレルゲン(Der p1 全長)発現米のコンストラクトを示す図である。B:得られた形質転換イネの種子中のDer p1の蓄積量を示す図である。各形質転換体の種子中のDer p1を抗Der p1抗体による発色強度で比較し、定量を行った結果、No.17の系統が最も蓄積量が多いことが判明した。C:SDS-PAGEおよびウェスタン解析によるDer p1の検出結果を示す写真である。SDS-PAGE (左)およびウェスタン解析(右)によってDer p1特異的なシグナルが確認された。(レーン1, 2:非形質転換体、レーン3, 4:Der p1 発現形質転換米)。D:電子顕微鏡によるイネ種子中のDer p1タンパク質の検出結果を示す写真である。イネ種子中で発現、蓄積したDer p1タンパク質はタンパク質顆粒Iに蓄積していることが判明した。
【図15】ダニアレルゲン発現米の糖鎖の解析結果を示す写真および図である。A:ダニアレルゲン発現米の糖鎖の解析結果を示す写真である。Endo Hによる消化でDer p1タンパク質に付加した糖鎖が切断された。このことからイネ種子内で蓄積したDer p1タンパク質に付加した糖鎖はhigh-mannose 型であることが明らかになった。B, C:イネ種子内で発現したDer p1タンパク質とダニアレルギー患者の血清中のIgEの反応結果を示す。 B: ウェスタンブロッティングによる解析Der p1タンパク質に糖鎖が付加することによってダニアレルギー患者の血清中のIgEの反応性が低下している。(1;糖鎖のないDer p1タンパク質、2;糖鎖の付加したDer p1 タンパク質)C:Bの反応性を定量化したもの。黒バー;糖鎖のないDer p1タンパク質、白バー;糖鎖の付加したDer p1タンパク質。これらのことから糖鎖の付加したDer p1タンパク質はIgEによる過剰な免疫応答を起こしにくいことが推察される。
【図16】Der p1 改変塩基配列を示す図である。下線は、オリジナルのダニ抗原タンパク質をコードする塩基配列を、イネで頻出するコドンに改変した部位を示す。
【図17】Der f1 改変塩基配列を示す図である。下線は、オリジナルのダニ抗原タンパク質をコードする塩基配列を、イネで頻出するコドンに改変した部位を示す。
【図18】Der p2 改変塩基配列を示す図である。下線は、オリジナルのダニ抗原タンパク質をコードする塩基配列を、イネで頻出するコドンに改変した部位を示す。
【図19】Der f2 改変塩基配列を示す図である。下線は、オリジナルのダニ抗原タンパク質をコードする塩基配列を、イネで頻出するコドンに改変した部位を示す。
【図20】イネ種子内に蓄積したDer p1タンパク質の糖鎖の解析結果を示す図である。
【図21】イネ種子内に蓄積したDer p1タンパク質の糖鎖の解析結果を示す図である。
【技術分野】
【0001】
本発明は、ダニタンパク質におけるヒトの主要なT細胞エピトープを含む部分ペプチド、ダニ抗原特異的なIgE結合活性を低下させた改変ペプチド、またはシステインプロテアーゼ活性を失活するよう改変したペプチドをイネに蓄積させる方法、および該ペプチドを蓄積させたイネに関する。
【背景技術】
【0002】
ハウスダストによるアレルギー患者は世界でも5〜10%程度存在するとされている。特にその主な原因となっているダニの死骸やフンによるアレルギーは、気管支喘息やアトピー性皮膚炎の大きな原因の一つとなっており、成人のみならず、小児においては、致命的な疾病ともなりうる。アレルギーは、通常は抗原として認識されることのない物質が抗原として認識され、Th2 型の免疫反応によって引き起こされる疾患である。
【0003】
近年、アレルギー疾患に対する根治的治療法は、従来注射によりアレルゲンそのものを投与し、長期間にわたり段階的に増加させアレルゲン特異的な免疫反応性を鈍らせる減感作療法であった。しかしこの療法では、アレルギー症状を引き起こす肥満細胞に結合しているIgE抗体との反応性が残っており、アナフィラキシーショック等の副作用が見られる問題があることが指摘されている。
【0004】
アレルゲンに由来するT細胞エピトープペプチドを投与するペプチド免疫療法が注目されている。その作用機構として、アレルゲン特異的なヘルパーII型のT細胞の不応答や欠失が起こると考えられる。T細胞エピトープを利用するペプチド免疫療法は一般にアレルギー反応を起こすB細胞エピトープを含まず、アレルゲン特異的なIgE抗体との結合性もないことから、従来の減感作療法で起きている副作用が起きにくく安全である。
【0005】
一方、経口接種されたタンパク質等に対しては不必要に免疫応答がおこらないよう、免疫系を抑制するメカニズムが知られており、これは経口免疫寛容として知られている。スギ花粉症のアレルゲンに由来するT細胞エピトープペプチドについても、特異的T細胞に対する高い反応性を示すことから、本発明者らは以前に、スギアレルゲン特異的なT細胞エピトープを実際に有用な植物へ集積させ、該植物の経口投与によって免疫寛容を誘導する方法を開発している(特許文献1)。
【0006】
特に日本でも問題になっているのがDermatopagoides farinae(D. farinae、コナヒョウヒダニ)および Dermatopagoides(D. pteronyssinus、ヤケヒョウヒダニ)とよばれる二種類のダニによるアレルギーである。これらのダニによるアレルゲンの解析は多く報告されており、これまでのところ20種類以上のアレルゲンが報告されている(非特許文献1−3)。しかしながら、この中でも、ダニアレルギー患者におけるIgEの結合活性の60-90%程度がグループIアレルゲンおよびグループIIアレルゲンに属するタンパク質群であるとされている。
【0007】
Der p1またはDer f1などのタイプI抗原は主にダニの糞に含まれている。分子量は約25kDaで、システインプロテアーゼと同時にセリンプロテアーゼをもコードすることが知られている。これら二つの酵素の活性中心は同じアミノ酸である(非特許文献4)。このシステインプロテアーゼの活性により、免疫担当細胞表面に存在する分子マーカーの一つであるCD25(IL-2受容体α鎖)を切断することにより生体の免疫応答をTh2型にシフトさせることが報告されている(非特許文献5)。また、CD23(低親和性のIgE受容体)に対しても同様にこれを切断し、IgE産生のネガティブフィードバックのシグナルを阻害することも報告されている(非特許文献6)。また、このタンパク質が生体内に侵入し、ダニ抗原としてその抗原性を発揮するためには自身のもつシステインプロテアーゼ活性が保持されることが重要であることも知られている(非特許文献7)。
【0008】
一方、Der p2またはDer f2などのタイプII抗原は分子量約14kDaのタンパク質であり、主にダニの虫体にあるとされているが、そのタンパク質としての機能、役割についてはこれまでのところ不明である。その分子内にある3組のS-S結合によって立体構造を維持しており(非特許文献8)、その立体構造がNMR解析によって明らかにされている(非特許文献9、10)。さらにこれらのS-S結合を構成するシステインのうち、第8位と第119位のシステインで構成されるS-S結合に変異を入れた場合、ヒトにおいては血清中のIgEの結合能を著しく低下させつつも抗原特異的なT細胞の増殖は野生型とほぼ同等である、という報告がなされている(非特許文献11)。
【0009】
なお、本出願の発明に関連する先行技術文献情報を以下に示す。
【特許文献1】WO2004/094637
【非特許文献1】Thomas, W.R. et al. Int Arch Allergy Immunol 129, 1-18 (2002)
【非特許文献2】Kawamoto, S. et al., J Biosci Bioeng 94, 285-298 (2002)
【非特許文献3】Weber, E. et al., J Allergy Clin Immunol 112, 79-86 (2003)
【非特許文献4】Hewitt C.R. et al., Clin Exp Allergy 27, 201-207 (1997)
【非特許文献5】Schulz, O. et al., J Exp Med 187, 271-275 (1998)
【非特許文献6】Hewitt, C.R.et al., J Exp Med 182, 1537-1544 (1995)
【非特許文献7】Kikuchi Y. et al., J Immunol. 177, 1609-1617 (2006)
【非特許文献8】Nishiyama C. et al., Int Arch Allergy Immunol 101, 159-166 (1993)
【非特許文献9】Ichikawa S. et al., J. Biol Chem 273, 356-360 (1998)
【非特許文献10】Mueller G.A. et al., Biochemistry 37, 12707-12714 (1998)
【非特許文献11】Takai T. et al., Nature Biotechnol 15, 754-758 (1997)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、このような状況に鑑みてなされたものであり、その目的は、ダニ抗原ペプチド改変体をペプチドワクチンとしてダニアレルギーの治療もしくは予防に応用するために、ダニ抗原ペプチド改変体を集積させたイネを開発することにある。
より詳しくは、本発明は、複数のT細胞エピトープを含むダニ抗原タンパク質部分ペプチド、または抗原として認識されるための立体構造を形成しないように改変されているダニ抗原ペプチドをイネ種子へ集積させる方法、および該ペプチドを集積させた植物の提供を目的とする。さらに、本発明は、該イネ種子を含む食品組成物、医薬組成物、該イネ種子を対象に経口投与する工程を含むアレルギー疾患を治療または予防する方法の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、上記の課題を解決するために、イネの種子である米の中にダニ抗原ペプチド改変体を蓄積し、これを経口摂取することにより、経口免疫寛容を誘導し、ダニアレルギーの治療を行うことを試みた。
具体的には、ダニタンパク質におけるヒトの主要なT細胞エピトープを含む部分ペプチド、T細胞エピトープを保持したまま該タンパク質の立体構造を形成しないように改変し、ダニ抗原特異的なIgE結合活性を低下させた改変ペプチド、または、システインプロテアーゼ活性を失活するよう改変したペプチドを、米の可食部である胚乳に蓄積させたイネを開発した。
【0012】
これらのダニ抗原ペプチド改変体を高度にイネの種子胚乳に蓄積させるために、該ダニ抗原ペプチド改変体をコードする遺伝子のコドンをイネの貯蔵タンパク質遺伝子で高頻度に使用されるコドンに改変した。また、N末端にグルテリンシグナルペプチド、C末端に小胞体係留シグナルを結合した。これにより該ダニ抗原ペプチド改変体は、イネ種子1粒(約20mg)中30〜80μgと、高度に蓄積されることを確認した。
【0013】
こうした可食部に集積させたアレルゲンのエピトープペプチドは、高度に集積されている場合、経口で摂取することで、アレルゲンに由来するアレルギー反応を免疫寛容機構で治療することが可能になる。本発明のダニ抗原米をマウスに経口で1週間〜4週間投与して感作したところ、いずれのペプチド改変体を発現させたダニ抗原米についても、コントロールとして非組換え米を経口投与したマウスと比較して、ダニ抗原特異的なIgEやIgG量が低下し、免疫寛容が誘導できることを確認した。また、これらのマウスでは、コントロールマウスと比較して、気道組織中の好酸球およびマクロファージの数が著しく低下したことから、気道における空気中のアレルゲンへの抵抗性についても本発明のダニ抗原米の経口投与により緩和できることが示された。
即ち、本発明者らはダニ抗原ペプチド改変体を発現、蓄積した遺伝子組換えイネを開発し、これをマウスに経口摂取させることにより、免疫寛容を誘導し、特にその喘息における効果を実証し、本発明を完成するに至った。
【0014】
本発明は、より具体的には以下の〔1〕〜〔32〕を提供するものである。
〔1〕 イネ植物体の種子貯蔵タンパク質プロモーターの制御下に以下の(a)から(d)のいずれかのDNAが配置された構造を有するDNA構築物。
(a)5’末端に貯蔵タンパク質シグナル配列をコードするDNA、および/または3’末端に小胞体係留シグナル配列をコードするDNAが付加されていることを特徴とする、ダニ抗原タンパク質由来のペプチドをコードするDNAであって、該ペプチドが複数のT細胞エピトープを含むペプチドであることを特徴とするDNA
(b)N末端に貯蔵タンパク質シグナル配列、および/またはC末端に小胞体係留シグナル配列が付加されていることを特徴とする、ダニ抗原タンパク質由来のペプチドであって、複数のT細胞エピトープを含むペプチドをコードするDNA
(c)5’末端に貯蔵タンパク質シグナル配列をコードするDNA、および/または3’末端に小胞体係留シグナル配列をコードするDNAが付加されていることを特徴とする、ダニ抗原タンパク質をコードするDNAであって、該ダニ抗原タンパク質が抗原として認識されるための立体構造を形成しないように改変されているタンパク質であることを特徴とするDNA
(d)N末端に貯蔵タンパク質シグナル配列、および/またはC末端に小胞体係留シグナル配列が付加されていることを特徴とする、ダニ抗原タンパク質であって、抗原として認識されるための立体構造を形成しないように改変されているタンパク質をコードするDNA
〔2〕 ダニ抗原タンパク質がタイプ1型またはタイプ2型の抗原タンパク質である、〔1〕に記載のDNA構築物。
〔3〕 ダニ抗原タンパク質が、以下の(i)または(ii)に記載のアミノ酸配列からなるタンパク質である、〔1〕に記載のDNA構築物。
(i)配列番号:2、4、6または8のいずれかに記載のアミノ酸配列
(ii)配列番号:2、4、6または8のいずれかに記載のアミノ酸配列において1若しくは複数のアミノ酸が置換、欠失、挿入、および/または付加したアミノ酸配列を含むタンパク質をコードするDNA
〔4〕 複数のT細胞エピトープを含むペプチドが、以下の(i)または(ii)の領域を含むペプチドであることを特徴とする、〔1〕に記載のDNA構築物。
(i)配列番号:2に記載のアミノ酸配列における第45位〜第67位、第94位〜第104位、または第117位〜第143位から選択される2以上の領域
(ii)配列番号:2に記載のアミノ酸配列における第21位〜第49位、第71位〜第100位、第93〜108位、第110位〜第131位または第197位〜第212位から選択される2以上の領域
(iii)配列番号:4に記載のアミノ酸配列における第11位〜第35位、第87位〜第104位、第105位〜129位から選択される2以上の領域
(iv)配列番号:4に記載のアミノ酸配列における第35位〜第50位、第35位〜第60位、第87位〜104位から選択される2以上の領域
〔5〕 前記複数のT細胞エピトープを含むペプチドが、以下の(i)〜(ii)に記載の、ペプチドが抗原として認識されるための立体構造を形成しないように改変された部分ペプチドであることを特徴とする〔1〕に記載のDNA構築物。
(i)配列番号:2に記載のアミノ酸配列における第45位〜第144位までの領域を含むアミノ酸配列からなるペプチド
(ii)配列番号:6に記載のアミノ酸配列における第1位〜第144位までの領域を含むアミノ酸配列からなるペプチド
〔6〕 前記複数のT細胞エピトープを含むペプチドが、システインプロテアーゼ活性を有さないよう改変されたペプチドであることを特徴とする〔1〕に記載のDNA構築物。
〔7〕 配列番号:2に記載のアミノ酸配列における第34位のシステイン残基(Cys)がアラニン残基(Ala)に改変されることを特徴とする、〔6〕に記載のDNA構築物。
〔8〕 前記抗原として認識されるための立体構造を形成しないように改変されているダニ抗原タンパク質が、IgE誘導活性中心を持たないように改変されていることを特徴とする〔1〕に記載のDNA構築物。
〔9〕 前記ダニ抗原タンパク質が、配列番号:4または8に記載のアミノ酸配列における、第8位、第21位、第27位、第73位、第78位または第119位のシステイン残基(Cys)のいずれか1つまたは複数がセリン残基(Ser)に改変されたアミノ酸配列からなるタンパク質であることを特徴とする、〔8〕に記載のDNA構築物。
〔10〕 前記ダニ抗原タンパク質が、配列番号:4における第11位〜第129位までの領域を含む部分ペプチド、または、配列番号:8における第11位〜第129位までの領域を含む部分ペプチドのシステイン残基を改変した部分ペプチドであることを特徴とする、〔9〕に記載のDNA構築物。
〔11〕 前記ダニ抗原タンパク質をコードするDNAが、イネ胚乳で発現可能なようにコドンが改変された塩基配列からなるDNAであることを特徴とする、〔1〕に記載のDNA構築物。
〔12〕 以下の(a)〜(d)のいずれかに記載の塩基配列からなる、〔1〕に記載のDNA構築物。
(a)配列番号:9に記載の塩基配列からなるDNA
(b)配列番号:9に記載の塩基配列からなるDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズするDNA
(c)配列番号:10に記載のアミノ酸配列を含むタンパク質をコードするDNA
(d)配列番号:10に記載のアミノ酸配列において1若しくは複数のアミノ酸が置換、欠失、挿入、および/または付加したアミノ酸配列を含むタンパク質をコードするDNA
〔13〕 〔1〕〜〔12〕のいずれかに記載のDNA構築物によりコードされるポリペプチド。
〔14〕 糖鎖が付加され、かつタンパク質顆粒Iに封入されていることを特徴とする、〔13〕に記載のポリペプチド。
〔15〕 〔1〕〜〔12〕のいずれかに記載のDNA構築物を含む、ベクター。
〔16〕 〔1〕〜〔12〕のいずれかに記載のDNA構築物または、〔15〕に記載のベクターを保持する形質転換イネ細胞。
〔17〕 〔16〕に記載の形質転換イネ細胞を含む、複数のT細胞エピトープを含み、または抗原として認識されるための立体構造を形成しないように改変されているペプチドを集積する、形質転換イネ。
〔18〕 前記ペプチドがイネの種子に集積されることを特徴とする、〔16〕に記載の形質転換イネ。
〔19〕 〔17〕に記載の形質転換イネの子孫またはクローンである、形質転換イネ。
〔20〕 〔17〕または〔18〕に記載の形質転換イネの繁殖材料。
〔21〕 〔15〕または〔18〕に記載の形質転換イネの種子。
〔22〕 〔21〕に記載の形質転換イネの種子を有効成分とする、ダニを抗原とするアレルギー性疾患の治療または予防のための食品組成物。
〔23〕 アレルギー性疾患がI型アレルギーである、〔22〕に記載の食品組成物。
〔24〕 〔21〕に記載の形質転換イネの種子を有効成分とする、ダニを抗原とするアレルギー性疾患の治療または予防のための医薬組成物。
〔25〕 アレルギー性疾患がI型アレルギーである、〔24〕に記載の医薬組成物。
〔26〕 経口投与用であることを特徴とする、〔24〕または〔25〕に記載の医薬組成物。
〔27〕 以下の工程(a)〜(c)を含む、複数のT細胞エピトープを含むダニ抗原タンパク質由来のペプチドをイネに集積させる方法。
(a)複数のT細胞エピトープを含むペプチドをコードするDNAを取得する工程、
(b)前記(a)で取得されたDNAの5’末端に貯蔵タンパク質シグナル配列をコードするDNA、および/または3’末端に小胞体係留シグナル配列をコードするDNAを付加する工程、
(c)前記(b)のDNAを、植物において貯蔵タンパク質プロモーターの制御下で発現させる工程
〔28〕 以下の工程(a)〜(d)を含む、抗原として認識されるための立体構造を形成しないように改変されているダニ抗原タンパク質由来のペプチドをイネに集積させる方法。
(a)ダニ抗原タンパク質をコードするDNAを取得する工程、
(b)前記ペプチドが抗原として認識されるための立体構造を形成しないように、前記(a)で取得されたDNAを改変する工程、
(c)前記(b)で取得されたDNAの5’末端に貯蔵タンパク質シグナル配列をコードするDNA、および/または3’末端に小胞体係留シグナル配列をコードするDNAを付加する工程、
(d)前記(c)のDNAを、植物において貯蔵タンパク質プロモーターの制御下で発現させる工程
〔29〕 前記ペプチドがイネの種子に集積されることを特徴とする、〔27〕または〔28〕に記載の方法。
〔30〕 〔27〕から〔29〕のいずれかに記載の方法により作出される、複数のT細胞エピトープを含み、かつ抗原として認識されるための立体構造を形成しないように改変されているダニ抗原タンパク質由来のペプチドが集積された形質転換イネ。
〔31〕 〔21〕に記載の形質転換イネの種子を対象に経口投与する工程を含む、アレルギー疾患を治療または予防する方法。
〔32〕 〔21〕に記載の形質転換イネの種子を対象に経口投与する工程を含む、アレルギー疾患を有する患者において免疫寛容を誘導する方法。
【発明の効果】
【0015】
本発明により、ダニアレルギー疾患を緩和(治療)する効果を持つダニ抗原ペプチド改変体のイネ種子における生産に成功した。
本発明によれば、従来の大腸菌等の培養によるペプチドタンパク質の生産に比較して、ダニ抗原ペプチド改変体を安価に生産できる。すなわち1種子からイネの場合、100〜200個の種子を作出できる。また種子で生産できることから、精製することなく、そのまま経口摂取できる。種子で生産されたペプチドは極めて安定であり、室温で種子を放置しても1年以上分解、活性が失われることがない。またタンク培養と比較して、生産量をコントロールすることが容易である。播種するタネの数で生産量をコントロールできる。また特別な施設も必要とせず、圃場のみである。
【0016】
さらに、日常の食生活を通じて経口摂取することにより、従来行われてきた皮下注射等による投与に必要な費用、医療費を省くことができ、より低コストでダニ抗原ペプチドを投与することが可能になる。これらの利点を持つイネ種子生産システムを活用することにより、アレルギー疾患に対するワクチンや生活習慣病を緩和するペプチドなど、医学的に有用な成分をより低コストで生産して供給するという、新しい事業の創出も期待される。
【0017】
〔発明の実施の形態〕
本発明者らは、ダニ抗原ペプチド改変体を、米の可食部である胚乳に蓄積させて経口投与することで、ダニ抗原特異的なIgEやIgG量が低下し、免疫寛容が誘導できることを見出した。本発明は、これらの知見に基づくものである。
本発明は、ダニ抗原ペプチド(アレルゲン)改変体をコメの種子に蓄積させる方法に関する。
【0018】
アレルゲンとは一般的に、アレルギー疾患(アレルギー反応)の原因となる抗原物質を言う。本発明におけるアレルゲンには、特に限定されるものではないが、タンパク質、糖タンパク質等の自然界にある物質のみならず、合成されたタンパク質も含まれる。自然界におけるアレルゲンとしては、例えば、花粉(スギ、ヒノキ、ハンノキ、ブタクサ、イネ科のカモガヤ花粉等)アレルゲン、動物(イヌ、ネコ、マウス、ラット、ウマ、ウシ等)由来アレルゲン、昆虫アレルゲン、寄生虫アレルゲン、食物アレルゲン、カビアレルゲン等を挙げることができる。
【0019】
本発明において好適に使用されるアレルゲンは、ダニ抗原タンパク質である。本発明のダニ抗原ペプチド改変体の由来となるダニ抗原タンパク質としては、特に限定されないが、好ましくは、タイプ1型またはタイプ2型であるダニ抗原タンパク質が挙げられる。
また、本発明に用いられるダニの種類としては、特に限定されないが、一例を示せば、ヤケヒョウヒダニあるいはコナヒョウヒダニを挙げることができる。
【0020】
本発明に使用されるダニ抗原タンパク質のより具体的な例としては、ヤケヒョウヒダニ由来のDer p1、Der p2、あるいはコナヒョウヒダニ由来のDer f1、Der f2等が挙げられる。それぞれの塩基配列およびアミノ酸配列は、
Der p1(塩基配列;配列番号:1、GenBank accession No.X65197.1、アミノ酸配列;配列番号:2)、
Der p2(塩基配列;配列番号:3、GenBank accession No.AM263560.1、アミノ酸配列;配列番号:4)、
Der f1(塩基配列;配列番号:5、GenBank accession No.X65196.1、アミノ酸配列;配列番号:6)、
Der f2(塩基配列;配列番号:7、GenBank accession No.AY283288、アミノ酸配列;配列番号:8)
に示す。
【0021】
また本発明に使用されるダニ抗原タンパク質としては、配列番号:2、4、6または8に記載のアミノ酸配列において1若しくは複数のアミノ酸が置換、欠失、挿入、および/または付加したアミノ酸配列からなるタンパク質であって、配列番号:2、4、6または8に記載のアミノ酸配列からなるタンパク質と機能的に同等なタンパク質を挙げることが出来る。また、配列番号:1、3、5または7に記載の塩基配列からなるDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズするDNAよりコードされるタンパク質であって、配列番号:2、4、6または8に記載のアミノ酸配列からなるタンパク質と機能的に同等なタンパク質も、本発明に使用されるダニ抗原タンパク質として挙げることができる。
【0022】
本発明において、変異するアミノ酸数は特に制限されないが、通常、30アミノ酸以内であり、好ましくは15アミノ酸以内であり、さらに好ましくは5アミノ酸以内(例えば、3アミノ酸以内)であると考えられる。変異するアミノ酸残基においては、アミノ酸側鎖の性質が保存されている別のアミノ酸に変異されることが望ましい。例えばアミノ酸側鎖の性質としては、疎水性アミノ酸(A、I、L、M、F、P、W、Y、V)、親水性アミノ酸(R、D、N、C、E、Q、G、H、K、S、T)、脂肪族側鎖を有するアミノ酸(G、A、V、L、I、P)、水酸基含有側鎖を有するアミノ酸(S、T、Y)、硫黄原子含有側鎖を有するアミノ酸(C、M)、カルボン酸及びアミド含有側鎖を有するアミノ酸(D、N、E、Q)、塩基含有側鎖を有するアミノ酸(R、K、H)、芳香族含有側鎖を有するアミノ酸(H、F、Y、W)を挙げることができる(括弧内はいずれもアミノ酸の一文字標記を表す)。あるアミノ酸配列に対する1又は複数個のアミノ酸残基の欠失、付加及び/又は他のアミノ酸による置換により修飾されたアミノ酸配列を有するポリペプチドがその生物学的活性を維持することはすでに知られている。
本発明において「機能的に同等」とは、対象となるタンパク質が、ダニ抗原タンパク質と同等の生物学的機能や生化学的機能を有することを指す。生物学的な性質には発現する部位の特異性や、発現量等も含まれる。
【0023】
相同遺伝子を単離するための当業者によく知られた方法としては、ハイブリダイゼーション技術(Southern, E. M., Journal of Molecular Biology, Vol. 98, 503, 1975)やポリメラーゼ連鎖反応(PCR)技術(Saiki, R. K., et al. Science, vol. 230, 1350-1354, 1985, Saiki, R. K. et al. Science, vol.239, 487-491,1988)が挙げられる。即ち、当業者にとっては、ダニ抗原タンパク質をコードする塩基配列(例えば、配列番号:1、3、5または7に記載のDNA)もしくはその一部をプローブとして、またダニ抗原遺伝子に特異的にハイブリダイズするオリゴヌクレオチドをプライマーとして、種々の昆虫(好ましくはダニ)からダニ抗原遺伝子の相同遺伝子を単離することは通常行いうることである。
【0024】
このような相同遺伝子をコードするDNAを単離するためには、通常ストリンジェントな条件下でハイブリダイゼーション反応を行なう。ストリンジェントなハイブリダイゼーション条件は当業者であれば、適宜選択することができる。一例を示せば、25%ホルムアミド、より厳しい条件では50%ホルムアミド、4×SSC、50mM Hepes pH7.0、10×デンハルト溶液、20μg/ml変性サケ精子DNAを含むハイブリダイゼーション溶液中、42℃で一晩プレハイブリダイゼーションを行った後、標識したプローブを添加し、42℃で一晩保温することによりハイブリダイゼーションを行う。その後の洗浄における洗浄液および温度条件は、「1xSSC、0.1% SDS、37℃」程度で、より厳しい条件としては「0.5xSSC、0.1% SDS、42℃」程度で、さらに厳しい条件としては「0.2xSSC、0.1% SDS、65℃」程度で実施することができる。このようにハイブリダイゼーションの洗浄の条件が厳しくなるほどプローブ配列と高い相同性を有するDNAの単離を期待しうる。但し、上記SSC、SDSおよび温度の条件の組み合わせは例示であり、当業者であれば、ハイブリダイゼーションのストリンジェンシーを決定する上記若しくは他の要素(例えば、プローブ濃度、プローブの長さ、ハイブリダイゼーション反応時間など)を適宜組み合わせることにより、上記と同様のストリンジェンシーを実現することが可能である。
【0025】
単離されたDNAの相同性は、アミノ酸配列全体で、少なくとも50%以上、さらに好ましくは70%以上、さらに好ましくは90%以上(例えば、95%、96%、97%、98%、99%以上)の配列の同一性を有する。配列の相同性は、BLASTN(核酸レベル)やBLASTX(アミノ酸レベル)のプログラム(Altschul et al. J. Mol. Biol., 215: 403-410, 1990)を利用して、決定することができる。該プログラムは、Karlin及びAltschulによるアルゴリズムBLAST (Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 87:2264-2268, 1990, Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 90: 5873-5877, 1993) に基づいている。BLASTNによって塩基配列を解析する場合には、パラメーターは例えばscore = 100、wordlength =12とする。また、BLASTXによってアミノ酸配列を解析する場合には、パラメーターは例えばscore = 50、wordlength = 3とする。また、Gapped BLASTプログラムを用いて、アミノ酸配列を解析する場合は、Altschulら(Nucleic Acids Res. 25: 3389-3402, 1997)に記載されているように行うことができる。BLASTとGapped BLASTプログラムを用いる場合には、各プログラムのデフォルトパラメーターを用いる。これらの解析方法の具体的な手法は公知である。
本発明のダニ抗原ペプチド改変体の第一の態様としては、T細胞エピトープを含むダニ抗原タンパク質由来のペプチドが挙げられる。
【0026】
T細胞抗原決定基(本明細書においては、「エピトープ」もしくは「エピトープペプチド」と記載する場合あり)は、通常、上記のアレルゲンが抗原提示細胞によって分解され(抗原処理され)、細胞表面に提示される抗原ペプチド、もしくは該ペプチドの部分領域である。即ち、本発明のエピトープは、T細胞レセプターによってアレルゲン由来抗原ペプチドとして認識し得るようなペプチドであれば、そのアミノ酸配列は、特に制限されない。
本発明のダニ抗原ペプチド改変体に含まれるT細胞エピトープは、特に制限されるものではないが、好ましくは、ヒトT細胞エピトープである。
【0027】
本発明のエピトープ(エピトープペプチド)は、アレルゲンの種類等によりそのペプチド長は異なるため、特定することは困難であるが、通常、約10〜25アミノ酸残基からなり、より好ましくは12〜19アミノ酸残基からなる。本発明に使用されるエピトープは、公知のエピトープを含むものであっても良い(Hoyne et al., (1996) Clin.Immunol. Immunopathol. 80, S23-S30)。
エピトープを利用したペプチド免疫の場合、個々人の遺伝子型により認識されるエピトープが異なるため、多くの人に効果を持たせるために、本発明においては複数のエピトープが好適に使用される。
【0028】
本発明のT細胞エピトープを含むペプチドの具体的な例としては、以下の(i)〜(iv)に記載される部分ペプチドが挙げられるが、これに限定されるものではない。
(i)配列番号:2に記載のアミノ酸配列における第45位〜第67位、第94位〜第104位、または第117位〜第143位から選択される領域(図9)
(ii)配列番号:2に記載のアミノ酸配列における第21位〜第49位、第71位〜第100位、第93〜108位、第110位〜第131位または第197位〜第212位から選択され領域(図9)
(iii)配列番号:4に記載のアミノ酸配列における第11位〜第35位、第87位〜第104位、第105位〜129位から選択される領域(図10)
(iv)配列番号:4に記載のアミノ酸配列における第35位〜第50位、第35位〜第60位、第87位〜104位から選択される領域(図10)
【0029】
また、本発明のT細胞エピトープを含むダニ抗原タンパク質由来のペプチドとして好ましくは、ダニ抗原タンパク質の全長の一部である部分ペプチドであり、さらに好ましくはアレルギー症状を引き起こす肥満細胞に結合しているIgE抗体との反応性を残さないように選択された部分からなる部分ペプチドである。
【0030】
このような部分ペプチドの具体的な例としては、以下の(i)〜(ii)に記載される部分ペプチドが挙げられるが、これに限定されるものではない。
(i)配列番号:2に記載のアミノ酸配列における第45位〜第144位までの領域を含むアミノ酸配列からなるペプチド
(ii)配列番号:6に記載のアミノ酸配列における第1位〜第144位までの領域を含むアミノ酸配列からなるペプチド
【0031】
本発明のT細胞エピトープを含むダニ抗原タンパク質由来のペプチドの別の態様としては、該ペプチドをシステインプロテアーゼ活性を有さないようさらに改変した、ペプチド改変体が挙げられる。Der p1およびDer f1はシステインプロテアーゼとしての活性を有する(Der p1;Stewart, G.A. et al. Int. Arch. Allergy Appl. Immunol. 95: 248-256. (1991)、Der f1;Ando, T. et al Int. Arch. Allergy Appl. Immunol. 96: 199-205 (1991))。抗原となるタンパク質を、酵素活性を有したままイネ種子に発現、蓄積させた場合、経口摂取した際にヒトの体内で該酵素活性により悪影響を及ぼす可能性が考えられる。Der p1は、そのシステインプロテアーゼの活性により気道における抗原の透過性を上昇させる(Kalsheker, N.A. et al. Biochem Biophys Res Commun 221, 59-61 (1996).)、α1-アンチトリプシンを不活性化することで(Hewitt, C.R. et al. J Exp Med 182, 1537-1544 (1995).)抗原の通過を容易にして喘息を起こす原因となる、あるいは免疫担当細胞表面に存在するCD25を切断して生体の免疫応答をTh2型に偏向させる(Schulz, O. et al. J Exp Med 187, 271-275 (1998).)、さらに、細胞表面に存在するCD23(低親和性のIgEレセプター)を切断することでIgE合成のネガティブフィードバックのシグナルを阻害する(Hewitt, C.R. et al. J Exp Med 182, 1537-1544 (1995).)、などの作用が知れれている。
本発明は、これらのシステインプロテアーゼ活性を有さないようさらに改変した、T細胞エピトープを含むダニ抗原タンパク質のペプチド改変体を提供する。これによって、該ペプチド改変体を安全に、対象に投与することが可能となる。
【0032】
このようなペプチド改変体は、当業者であれば、文献(例えば、K.Y. Chua, et al. J. Exp. Med. 167 (1988) 175-182)などの情報をもとに、システインプロテアーゼ活性を維持するのに重要なアミノ酸に変異を入れるなどして作製することが可能である。このようなペプチドの具体的な例としては、配列番号:2に記載のアミノ酸配列における第34位のシステイン残基(Cys)がアラニン残基(Ala)に改変されたペプチド改変体が挙げられるが、これに限定されるものではない。
本発明のダニ抗原ペプチド改変体の第二の態様としては、ダニ抗原タンパク質が抗原として認識されるための立体構造を形成しないように改変されているペプチド改変体が挙げられる。
【0033】
タンパク質の立体構造は、疎水性相互作用、水素結合、イオン結合、ジスルフィド結合等の多様な結合様式によって維持されている。一方、ダニ抗原ペプチドがアレルゲンとしての立体構造を維持している場合には、アレルギー症状を引き起こす肥満細胞に結合しているIgE抗体との反応性が残っており、アナフィラキシーショック等の症状を起こす可能性がある。従って、本発明のダニ抗原ペプチド改変体は、アレルゲンとしての立体構造を維持しないように改変されていることが好ましい。言い換えれば、IgE誘導活性中心を持たないように改変されていることが好ましい。
【0034】
立体構造を形成しないダニ抗原タンパク質を作製するために、アミノ酸配列による構造予測の情報などを利用して、立体構造形成に必要な結合を阻害するようダニ抗原タンパク質を改変することは、当業者には通常行ないうることである。例えば、スルフィド結合の形成を阻害するために、システイン残基をセリン残基に改変する(Takai T et al., (1997) Nat Biotechnol vol.15, 754-758)。
【0035】
このような立体構造を形成しないように改変された、本発明のペプチド改変体の具体的な例としては、配列番号:4または8に記載のアミノ酸配列における、第8位、第21位、第27位、第73位、第78位または第119位のシステイン残基(Cys)のいずれか1つまたは複数をセリン残基(Ser)に改変したペプチド改変体が挙げられる。変異を導入するシステイン残基、およびその組み合わせは特に限定されないが、本発明における特に好ましい例としては、第8位および第119位のシステイン残基を改変したペプチド、または、第21位、第27位、第73位および第78位のシステイン残基を改変したペプチドが挙げられる。(配列番号:15、16;図11)
【0036】
本発明においては、上記ペプチド改変体を発現するダニ抗原米は、別々のシステイン残基を改変させたペプチド改変体を形質転換した米を、適宜組み合わせて使用することも可能である。
また、上記改変体は、ダニ抗原タンパク質の部分ペプチドにアミノ酸変異を導入したものでもよい。例えば、配列番号:4における第11位〜第129位までの領域を含む部分ペプチド、または、配列番号:8における第11位〜第129位までの領域を含む部分ペプチドのシステイン残基を改変した部分ペプチド等を挙げることができる。
【0037】
本発明のダニ抗原ペプチド改変体は、イネ種子中で発現させることにより、糖鎖が付加され、かつタンパク質顆粒Iに封入されていることを特徴とする。ここで付加される糖鎖は、哺乳類、特にヒト体内でタンパク質に付加される糖鎖と同様の、構造、組成の糖鎖である。このような糖鎖が付加されたタンパク質は、他の生物種で付加される糖鎖や、糖鎖が付加されていないタンパク質と比較して、糖鎖に対する抗体が産生される可能性が低く、経口投与を行う際に安全性が高いといえる。このような糖鎖の例としては、実施例に記載の糖鎖が挙げられる。また、このような糖鎖の付加するアミノ酸としては、文献(例えは、K.Y. Chua, et al. J. Exp. Med. 167 (1988) 175-182)などの情報を参照することができる。
【0038】
本発明の方法の好ましい態様においては、本発明のダニ抗原ペプチド改変体をイネにおいて貯蔵タンパク質プロモーターの支配下(制御下)で発現させる方法である。より具体的には、まずダニ抗原ペプチド改変体をコードするDNAを取得し(工程(a))、次いで、工程(a)で取得されたDNAの5’末端に貯蔵タンパク質シグナル配列をコードするDNA、および/または3’末端に小胞体係留シグナル配列をコードするDNAを付加する(工程(b))。次いで、前記(b)のDNAを、イネにおいて貯蔵タンパク質プロモーターの制御下で発現させる(工程(c))。
【0039】
本発明における貯蔵タンパク質とは、通常、植物体で主にエネルギー源として種子中に貯わえられるタンパク質を指す。貯蔵タンパク質としては、例えば、単純タンパク質であるグルテリン(glutelin)やプロラミン(prolamin)を挙げることができる。本発明の貯蔵タンパク質としては、好ましくはグルテリンを示すことができる。グルテリンをコードする遺伝子のGenBankのアクセッション番号は、X54314(O.sativa GluB-1 gene for glutelin)であり、該遺伝子のcDNAのアクセッション番号は、XO5664である。
【0040】
本発明におけるプロモーターは、発現させたい遺伝子の種類や導入する細胞の種類に応じて、当業者においては公知のプロモーターを適宜選択、もしくは改変して使用することができる。本発明の好ましい態様においては、貯蔵タンパク質プロモーターが利用することができる。本発明において用いられる貯蔵タンパク質プロモーターの一例を示せば、グルテリンGluB-1プロモーターを挙げることができる。該プロモーターの長さは、通常1.3kb以上であり、好ましくは2.3kb以上であるが、本発明のプロモーターと同等の機能を有する限り、この長さに特に制限されるものではない。好ましくは、2.3k GluB-1プロモーターを挙げることができる。通常、プロモーターを長くすることにより、下流に存在する遺伝子によってコードされるタンパク質の発現・集積効率が高くなる。グルテリンGluB-1プロモーターは強力なプロモーター活性を有するため、イネまたはイネ以外の穀類についても好適に使用することができる。
【0041】
本発明の方法において好適に使用可能なプロモーターとして、上述のグルテリンGluB-1以外には、例えば、グルテリンGluB-4プロモーター、10 kDプロラミンプロモーター、または16 kDプロラミンプロモーター等を挙げることができる。上述のプロモーターの塩基配列に関する情報は、特許文献もしくは学術文献、または、GenBank等の公共のデータベースより適宜、取得することができる。(特開2005-130833 、Plant Biotechnology Journal. 2, 113-125 (2004) L.Q.Qu, and F. Takaiwa, Evaluation of tissue specificity and expression strength of rice seed component gene promoters in transgenic rice.;Glub-4(アクセッション番号:AY427571);10k prolamin(アクセッション番号:AY427572); 16kD prolamin(アクセッション番号:AY427574))。
【0042】
上記工程(a)におけるダニ抗原ペプチド改変体をコードするDNAは、ゲノムDNA、cDNA、および化学合成DNAが含まれる。アレルゲンの由来となるダニからのゲノムDNAおよびcDNAの調製は、当業者にとって常套手段を利用して行うことが可能である。ゲノムDNAは、例えば、アレルゲンの由来となるダニからゲノムDNAを抽出し、ゲノミックライブラリー(ベクターとしては、プラスミド、ファージ、コスミド、BAC、PACなどが利用できる)を作成し、これを展開して、ダニ抗原ペプチド改変体をコードするDNAの塩基配列情報を基に作製したプローブを用いてコロニーハイブリダイゼーションあるいはプラークハイブリダイゼーションを行うことにより調製することが可能である。また、本発明のダニ抗原ペプチド改変体をコードするDNAに特異的なプライマーを作成し、これを利用したPCRを行うことによって調製することも可能である。また、cDNAは、例えば、アレルゲンの由来となるダニから抽出したmRNAを基にcDNAを合成し、これをλZAP等のベクターに挿入してcDNAライブラリーを作成し、これを展開して、上記と同様にコロニーハイブリダイゼーションあるいはプラークハイブリダイゼーションを行うことにより、また、PCRを行うことにより調製することが可能である。
【0043】
本発明のダニ抗原ペプチド改変体をコードするDNAは、好ましくは、該ペプチドのアミノ酸配列情報を基に、適宜、人工的に合成することも可能である。その際、貯蔵タンパク質遺伝子でよく使用されるコドンを参考に、アミノ酸の縮重等を考慮して目的のDNAを合成することができる。また、本発明のダニ抗原ペプチド改変体をイネ種子で効率良く翻訳されるように、該ペプチドをコードするDNA配列は、イネ種子貯蔵タンパク質遺伝子において高頻度に使用されるコドンを使用して作製することができる。
【0044】
本発明において好適に使用されるコドンとしては、特に限定されるものではないが、例えば、表1のコドンを示すことができる。
【表1】
【0045】
また、このようにイネ種子貯蔵タンパク質遺伝子において高頻度に使用されるコドンに改変されたダニ抗原ペプチド改変体をコードするDNAの具体的な例としては、Der p1(図16、配列番号:9)、Der f1(図17、配列番号:10)、Der p2(図18、配列番号:12)、およびDer f2((図19、配列番号:13)を挙げることができる。
DNAの合成は、当業者においては、市販のDNA合成機等を利用して、適宜実施することができる。
【0046】
上記工程(b)における貯蔵タンパク質シグナル(ペプチド)配列としては、公知の種々の貯蔵タンパク質シグナル配列を、適宜、使用することが可能である。本発明の貯蔵タンパク質シグナル配列のアミノ酸配列に関する情報は、当業者においては公知の文献等により容易に入手することが可能である。貯蔵タンパク質シグナルは、本発明のダニ抗原ペプチド改変体を、小胞体へ移行させる働きを有し、該ペプチドが細胞質へ移行し分解を受けたり、あるいは細胞外へ分泌されることを防ぐ役割を担う。
【0047】
本発明の貯蔵タンパク質シグナル配列としては、好ましくは、グルテリン(GluB-1)タンパク質のシグナル配列を用いることができる。具体的には、本発明に使用可能な貯蔵タンパク質シグナル配列として、以下の配列を示すことができる。
MASSVFSRFSIYFCVLLLCHGSMA(配列番号:17)
【0048】
また、他のグルテリン(GluA-2)のシグナル配列である、MASINRPIVFFTVCLFLLCDGSLA(配列番号:18)、あるいは、26kDのグロブリンのシグナル配列である、MASKVVFFAAALMAAMVAISGAQ(配列番号:19)を用いることも可能である。
【0049】
また、本発明の小胞体係留シグナル(ER-retention signal)配列としては、例えば、KDEL配列(配列番号:20)、SEKDEL配列(配列番号:21)、またはHDEL配列(配列番号:22)等を利用することができるが、これらに特に制限されるものではない。また、本発明の小胞体係留シグナル配列をコードするDNAは、例えば、KDEL配列をコードするDNAの下流の3'非翻訳領域を含んでいてもよい。この3'非翻訳領域は、特に制限されるものではないが、通常100〜1000 bp程度の長さである。一例を示せば、本発明の小胞体係留シグナル配列をコードするDNAとして、KDEL配列をコードするDNAと該DNAの下流の約650bp程度のグルテリン3'非翻訳領域を含む領域を合わせたDNAを示すことができる。一般的に、上記3'非翻訳領域として、グルテリン等の貯蔵タンパク質遺伝子の3'非翻訳領域を好適に使用することができる。また、NOSターミネータ、または35SCaMVターミネータを使用することも可能である。上記の配列は、種子等の貯蔵部位において、外来タンパク質の集積量を向上させる機能を有する。
上記貯蔵タンパク質シグナル配列または小胞体係留シグナル配列をコードするDNAは、当業者においては、アミノ酸配列の縮重等を考慮して、適宜、市販のDNA合成機等を利用して取得(合成)することができる。
【0050】
また、工程(a)で取得されるDNAの5'末端への貯蔵タンパク質シグナル配列をコードするDNAの付加、および3'末端に小胞体係留シグナル配列をコードするDNAの付加は、当業者においては、公知の遺伝子工学技術を利用して行うことができる。上記の「5'末端」または「3'末端」とは、通常、プロモーターから転写を受ける方向が、5'末端→3'末端であるような向きを示す末端として定義される。従って、プロモーター側(方向)のDNAの末端部は、「5'末端」として定義される。
【0051】
上記工程(c)において、DNAを植物体内において貯蔵タンパク質プロモーターの制御下で発現させるためには、通常、該DNAの発現が可能なように貯蔵タンパク質プロモーターと該DNAとを結合させたDNAを植物体へ導入することによって実施することができる。プロモーターの制御を受けるように該プロモーターの下流に発現させたい所望のDNAを配置させることは、当業者においては一般的な遺伝子工学技術を用いて容易に行い得ることである。
【0052】
本発明の方法においてダニ抗原ペプチド改変体が集積されるイネにおける部位は、可食部位である種子(コメ)、より具体的には、胚乳中に集積させることが好ましい。この場合には、該ダニ抗原ペプチド改変体が集積されたコメをヒトが食することにより、本発明のダニ抗原ペプチド改変体を容易に体内に取り入れることが可能である。
【0053】
本発明の上記方法において使用される本発明のダニ抗原ペプチド改変体をイネにおいて発現し得るDNAもまた、本発明に含まれる。このようなDNAとしては、例えば、貯蔵タンパク質プロモーターの制御下に以下のいずれかに記載のDNAが配置された構造を有するDNAを示すことができる。
(a)ダニ抗原ペプチド改変体をコードするDNAの5'末端に貯蔵タンパク質シグナル配列をコードするDNA、および/または3'末端に小胞体係留シグナル配列をコードするDNAが付加されたDNA
(b)ダニ抗原ペプチド改変体のN末端に貯蔵タンパク質シグナル配列、および/またはC末端に小胞体係留シグナル配列が付加されたポリペプチドをコードするDNA
【0054】
上記の「貯蔵タンパク質プロモーターの制御下にDNAが配置された」とは、該DNAの発現が可能なように貯蔵タンパク質プロモーターと該DNAとが結合していることを言う。即ち、プロモーターの転写の活性化に伴い、下流のDNAの発現が誘導されるようにプロモーターと下流のDNAが結合していることを指す。
【0055】
また本発明の別の態様においては、ダニ抗原ペプチド改変体を貯蔵タンパク質の中へ挿入し、該エピトープを貯蔵タンパク質の一部として発現・集積させる方法を提供する。
上記方法の好ましい態様においては、まず、ダニ抗原ペプチド改変体をコードするDNAを取得し、次いで、該DNAを、植物の貯蔵タンパク質の可変領域をコードするDNA領域へ挿入し発現させる。
【0056】
上記方法においてダニ抗原ペプチド改変体が挿入される貯蔵タンパク質における部位は、貯蔵タンパク質の可変領域であることが好ましい。「可変領域」とは、進化過程でアミノ酸配列の種類や長さなどで極めて変異に富んだ領域を言う。従って、外来ペプチドを挿入しても立体構造に影響を及ぼさないことから、外来ペプチドを貯蔵タンパク質の一部として集積することが可能であり、また貯蔵タンパク質の一部として挙動するため、導入した貯蔵タンパク質と同じ貯蔵部位に集積させることが可能である。
【0057】
本発明の可変領域としては、例えばイネのグルテリンの場合、酸性サブユニットの3ヶ所(グルテリンGluB-1遺伝子の場合N末端からアミノ酸140,210、270〜310の領域)、および塩基性サブユニットのC末端領域を挙げることができ、これらの領域へ発現させたい所望の外来ペプチドを挿入することができる。また、上記のそれぞれの可変領域に本発明のダニ抗原ペプチド改変体を1個ずつ挿入することも可能である。また、グルテリンは11Sグロブリンファミリー(ダイズのグリシニンやエンバクのグロブリンが仲間)に属し、このファミリーに属するグルテリン以外のタンパク質であっても、上記で例示した可変領域へ、外来ペプチドを挿入することができる。ただし、イネグロブリン(エンバクグロブリンとは異なる仲間)の場合には、N末端から110くらいの可変領域にエピトープを挿入することが可能である。
上記方法において、本発明のエピトープをコードするDNAを、貯蔵タンパク質の可変領域をコードするDNA領域へ挿入することは、当業者においては、一般的な遺伝子工学技術を用いて容易に行い得ることである。
【0058】
上記方法において使用されるダニ抗原ペプチド改変体が貯蔵タンパク質の中へ挿入された構造を有するポリペプチドをコードするDNAもまた、本発明に含まれる。このようなDNAとしては、例えば、貯蔵タンパク質プロモーターの制御下に、(c)貯蔵タンパク質のアミノ酸配列中(好ましくは、可変領域)へ、ダニ抗原ペプチド改変体が挿入された構造を有するポリペプチドをコードするDNA、を挙げることができる。通常、貯蔵タンパク質の上流に本来備わっているプロモーターを、上記のプロモーターとして利用することができる。
【0059】
本発明のイネ種子胚乳で発現できるダニ抗原ペプチド改変体の具体的な例としては、以下の(a)〜(d)のいずれかに記載の塩基配列からなるDNAによってコードされるペプチドが挙げられる。
(a)配列番号:9に記載の塩基配列からなるDNA
(b)配列番号:9に記載の塩基配列からなるDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズするDNA
(c)配列番号:10に記載のアミノ酸配列を含むタンパク質をコードするDNA
(d)配列番号:10に記載のアミノ酸配列において1若しくは複数のアミノ酸が置換、欠失、挿入、および/または付加したアミノ酸配列を含むタンパク質をコードするDNA
【0060】
また本発明は、本発明のDNAを含むベクター、および本発明のDNAもしくは本発明のベクターを保持する宿主細胞を提供する。本発明のベクターとしては、本発明のDNAを安定に保持するものであれば特に制限されない。本発明のベクターは、当業者においては、発現させたい植物の種類を適宜考慮して、公知の種々のベクターへ上記DNAをクローニングすることにより、作製することができる。公知ベクターへの本発明のDNAの挿入は、常法により、例えば、制限酵素サイトを用いたリガーゼ反応により行うことができる(Current protocols in Molecular Biology edit. Ausubel et al. (1987) Publish. John Wiley & Sons.Section 11.4-11.11)。
本発明のベクターの一例として、pGluBsig7CrpKDELを挙げることができる。本発明のベクターは、本発明のエピトープ集積方法に使用可能であり、ダニ抗原ペプチド改変体集積植物作製用ベクターとして有用である。
【0061】
本発明のベクターが導入される宿主細胞としては特に制限はなく、目的に応じて種々の公知の細胞が用いられる。ここでいう「宿主細胞」には、植物体に再生可能なあらゆる種類の形態のイネ細胞が含まれる。例えば、懸濁培養細胞、プロトプラスト、苗条原基、多芽体、毛状根、カルスなどが含まれるが、これらに制限されない。また、本ベクターの保存、複製等が目的の場合には、本発明の宿主細胞は、必ずしも植物由来の細胞である必要はなく、例えば、大腸菌、酵母または動物細胞等であってもよい。
【0062】
宿主細胞へのベクターの導入は、例えば、リン酸カルシウム沈殿法、電気パルス穿孔法(Current protocols in Molecular Biology edit. Ausubel et al. (1987) Publish. John Wiley & Sons.Section 9.1-9.9)、リポフェクタミン法(GIBCO-BRL社製)、マイクロインジェクション法等の公知の方法で行うことができる。
【0063】
また本発明は、本発明の上記DNAもしくはベクターをイネへ導入することを特徴とするダニ抗原ペプチド改変体をイネに集積させる方法、並びに、本発明のDNAもしくはベクターをイネへ導入することを特徴とするダニ抗原ペプチド改変体を集積した植物の製造方法に関する。本発明の好ましい態様においては、本発明の方法を用いた、ダニ抗原ペプチド改変体が集積したトランスジェニックイネの製造方法、および、本発明の方法を用いた、ダニ抗原ペプチド改変体が集積したコメの製造方法を提供する。
【0064】
本発明のDNAを利用して、ダニ抗原ペプチド改変体が集積した形質転換イネを作製する場合には、例えば、本発明のDNAを適当なベクターに挿入して、これをイネ細胞に導入し、これにより得られた形質転換植物イネを生育(再生)させる。植物体の生育(再生)は、当業者に公知の方法で行うことが可能である(Tokiら (1995) Plant Physiol. 100:1503-1507参照)。イネにおいては、形質転換植物体を作出する手法については、ポリエチレングリコールによりプロトプラストへ遺伝子導入し、植物体を生育(再生)させる方法(Datta,S.K. (1995) In Gene Transfer To Plants(Potrykus I and Spangenberg Eds.) pp66-74)、電気パルスによりプロトプラストへ遺伝子導入し、植物体を生育(再生)させる方法(Toki et al (1995) Plant Physiol. 100, 1503-1507)、パーティクルガン法により細胞へ遺伝子を直接導入し、植物体を生育(再生)させる方法(Christou et al. (1991) Bio/technology, 9: 957-962.)およびアグロバクテリウムを介して遺伝子を導入し、植物体を生育(再生)させる方法(Hiei et al. (1994) Plant J. 6: 271-282.)など、いくつかの技術が既に確立し、本願発明の技術分野において広く用いられている。本発明においては、これらの方法を適宜利用することができる。上記アグロバクテリウム法を用いる場合、例えばNagelらの方法(Microbiol. Lett., 1990, 67, 325.)が用いられる。この方法によれば、ベクターをアグロバクテリウム細菌中に形質転換して、次いで形質転換されたアグロバクテリウムを、リーフディスク法等の公知の方法によりイネ細胞へ導入する。
【0065】
また、本発明のDNAまたはベクターを導入する植物は、外植片であってもよく、これらの植物から培養細胞を調製し、得られた培養細胞に導入してもよい。本発明の「植物細胞」は、例えば葉、根、茎、花および種子中の胚盤等の植物細胞、カルス、懸濁培養細胞等が挙げられる。
【0066】
また、本発明のDNAまたは核酸の導入により形質転換された植物細胞を効率的に選択するために、本発明のDNAまたはベクターは、適当な選抜マーカー遺伝子を含む、もしくは選抜マーカー遺伝子を含むプラスミドベクターと共に植物細胞へ導入するのが好ましい。この目的に使用される選抜マーカー遺伝子は、例えば抗生物質ハイグロマイシンに耐性であるハイグロマイシンホスホトランスフェラーゼ遺伝子、カナマイシンまたはゲンタマイシンに耐性であるネオマイシンホスホトランスフェラーゼ遺伝子、および除草剤ホスフィノスリシンに耐性であるアセチルトランスフェラーゼ遺伝子等が挙げられる。
【0067】
組み換えベクターを導入した植物細胞は、導入された選抜マーカー遺伝子の種類に従って適当な選抜用薬剤を含む公知の選抜用培地に置床し培養する。これにより形質転換された植物培養細胞を得ることができる。
形質転換細胞から再生させた植物体は、次いで順化用培地で培養する。その後、順化した再生植物体を、通常の栽培条件で栽培すると、植物体が得られ、成熟して結実して種子を得ることも可能である。
【0068】
なお、このように生育(再生)された形質転換植物体へ導入された本発明のDNAの存在は、公知のPCR法やサザンハイブリダイゼーション法によって確認することができる。この場合、形質転換植物体からのDNAの抽出は、公知のJ.Sambrookらの方法(Molecular Cloning, 第2版, Cold SpringHarbor laboratory Press, 1989)に準じて実施することができる。
【0069】
さらに本発明は、本発明の方法によって作出される、ダニ抗原ペプチド改変体が集積したトランスジェニックイネ(形質転換イネ)、該イネに由来する細胞を提供する。例えば、本発明の方法により、ダニ抗原ペプチド改変体を種子に集積させたイネは、ダニアレルギー緩和作物として有用である。
【0070】
一旦、本発明のダニ抗原ペプチド改変体が集積した形質転換イネが得られれば、該植物体から有性生殖または無性生殖により子孫を得ることが可能である。また、該植物体やその子孫あるいはクローンから繁殖材料(例えば、種子、切穂、株、カルス、プロトプラスト等)を得て、それらを基に該植物体を量産することも可能である。本発明には、本発明の方法により作出されるダニ抗原ペプチド改変体が集積したトランスジェニックイネの子孫またはクローン、該トランスジェニックイネあるいは子孫やクローン由来の細胞、繁殖材料、並びに種子が含まれる。本発明の種子は熱に安定な性質を有するものと期待される。本発明の好ましい態様においては、例えば、ダニ抗原ペプチド改変体が胚乳へ集積したコメ(イネ)を挙げることができる。
【0071】
さらに本発明は、アレルギー性疾患の予防、治療もしくは緩和作用を有することを特徴とする食品組成物もしくは飲食品を提供する。本発明の食品組成物もしくは飲食品は、本発明の方法によって作出されるダニ抗原ペプチド改変体が集積した部位(例えば、種子(コメ))、またはこれらから抽出されるダニ抗原ペプチドを含む抽出物、あるいは、これらの加工物から構成される。より具体的には、本発明の方法によって得られるダニ抗原ペプチド改変体が集積した種子(コメ)、またはこれらから抽出される成分を含む、アレルギー性疾患の治療または予防のための食品組成物もしくは飲食品である。本発明の「組成物」は、必ずしも、種子(コメ)にさらに複数種の物質が添加されている必要はなく、本発明の種子(コメ)のみから構成される食品であってもよい。
【0072】
本発明の食品組成物もしくは飲食品は加熱等の調理法に供することも可能である。また、食品衛生上許容される配合物を混合して、健康食品、機能性食品、特定保健用食品、栄養補助食品等に加工して利用することができる。例えば安定化剤、保存剤、着色料、香料、ビタミン等の配合物を上記食品組成物に適宜添加し、混合し、常法により、錠剤、粒状、顆粒状、粉末状、カプセル状、液状、クリーム状、飲料等の組成物に適した形態とすることができる。
【0073】
本発明の好ましい態様としては、アレルギー性疾患(例えば、ダニアレルギー)の予防、治療もしくは緩和作用を有することを特徴とする、ダニ抗原ペプチド改変体が集積したコメを含有する飲食品を挙げることができる。該飲食品には、本発明のコメを原料とした加工品が含まれ、例えば、餅(だんご、切り餅、上新粉、白玉粉)、せんべい、米粉(ビーフン)、清酒、玄米茶、米ぬか、麺類等を例示することができる。
【0074】
また、本発明の飲食品は、アレルギー性疾患(例えば、ダニアレルギー)の予防、治療もしくは緩和のために用いられるものである旨の表示を付した飲食品であることが好ましい。
また本発明の方法によって作出されるダニ抗原ペプチド改変体が集積した部位(種子(コメ)等)を有効成分とする、アレルギー性疾患の治療または予防のための医薬組成物も、本発明に含まれる。
本発明の組成物が投与される対象は哺乳動物である。哺乳動物は、好ましくはヒトである。
【0075】
本発明において、アレルギー性疾患(allergic disease)とはアレルギー反応の関与する疾患の総称である。また、アレルギー性疾患は、通常、I〜IV型アレルギー反応を示す疾患に区別することができる。本発明のアレルギー性疾患としては、特に限定されるものではないが、好ましくはI型アレルギーである。本発明のアレルギー性疾患として好ましくは、ダニアレルギーを挙げることができる。上記疾患に対応したアレルゲン特異的なエピトープを用いた本発明の方法によって、所謂テーラーメイド医療と呼ばれる治療への応用が期待される。
【実施例】
【0076】
以下、本発明を実施例によりさらに具体的に説明するが本発明はこれら実施例に制限されるものではない。
〔実施例1〕 イネ種子中におけるDer p1ペプチドの発現と蓄積
Der p1タンパク質の一部(アミノ酸Ser45-Asp145)をコードする遺伝子(Der p1 45-145)をイネ種子で使用されるコドンの頻度に合わせ合成した。各塩基配列、アミノ酸配列は図1および配列番号:9、10に示した。後のクローニングのために5’末端にNcoIサイトを、3’ 末端にSacIサイトを付加した。また、アミノ酸配列のC末端側に小胞体へのシグナルであるKDEL(Lys-Asp-Glu-Leu)をコードする配列、その直後に停止コドンを付加した。この遺伝子断片をGluB-1プロモーターとターミネータの間に挿入し、これを植物の形質転換用ベクターであるpGPTVにサブクローニングし、植物形質転換用のコンストラクトを構築した(図2A)。
【0077】
このコンストラクトを、アグロバクテリウムEHA105株を用いてイネ種子由来のカルスに感染させ、イネの形質転換体を作成した。得られた約40個体の形質転換体の種子からタンパク質を抽出し、Der p1ペプチドの最も蓄積量の多いものを選抜した。選抜は、抗Der p1抗体の検出、発色による定量を行い、イネ種子中での蓄積量として比較することにより行った。その結果、No.28の植物体に最も多くDer p1ペプチドが集積しており、種子一粒あたり89.3μgの蓄積があることが判明した (図2B)。この系統の種子のDer p1ペプチドを、SDS-PAGEおよびウェスタンブロッティングによってさらに解析した。SDS-PAGEにおける解析においては、Der p1発現米のレーン、分子量約12kDaの位置に、非形質転換体であるキタアケのレーンでは検出されないバンドが確認された (図2C左図、矢印) 。この分子量はデザインしたDer p1ペプチドのアミノ酸配列より推察される分子量、12.0kDaとほぼ一致していることから、イネ種子内においてCBB染色によって可視化できる程度の量のDer p1ペプチドが蓄積していることが明らかになった。さらに抗Der p1抗体を用いてウェスタンブロッティングによる解析を行った結果、SDS-PAGEによる解析の際にCBBで可視化されたバンドと同じ位置に抗Der p1抗体による単一のシグナルが検出され、このバンドが導入されたDer p1遺伝子産物であることが確認された(図2C右図、矢印)。また、非形質転換体であるキタアケのタンパク質を泳動したレーンにはいかなるシグナルも検出されなかった。
【0078】
アグロバクテリウムによるイネの形質転換によって得られたNo.28の形質転換体のゲノム中に目的の遺伝子がどの程度挿入されたかを調べるために、サザンハイブリダイゼーションによる解析を行った。形質転換体No.28および非形質転換体からゲノムDNA を精製し、これを制限酵素EcoRI および HindIII で消化した後に、0.8%アガロースゲルで泳動してDNA断片を分離した。電気泳動後、DNA断片をアルカリトランスファー法によりHybond-N+膜上に転写した。この膜に対して32PでラベルしたDer p1 (45-145)のDNAプローブを用いてDer p1特異的シグナルを検出した。その結果、EcoRIで形質転換体No.28のゲノムDNAを消化後に泳動したレーンには約7, 9, 1.2k bpの位置にシグナルが検出され、HindIIIで形質転換体No.28のゲノムDNAを消化後に泳動したレーンには約7, 9k bpの位置にシグナルが検出された。また、同様に非形質転換体のキタアケのゲノムDNAを消化、泳動したレーンにはいかなるシグナルも検出されなかった (図2D) 。
【0079】
〔実施例2〕 Der p1米のマウスへの経口投与による効果
コントロール米、実施例1で得られたDer p1形質転換米(以下、Der p1米ともいう)それぞれをフードプロセッサーで粉末にし、市販のマウス用粉末飼料と1:1で混合して、7日間マウスの自然摂食に任せて経口投与した。これらの被験マウスに対し、Der p1タンパク質 5μgをのAlum 0.4mgと懸濁し、一週間間隔で4回腹腔内投与し、免疫した。最終免疫から7日後に血清を回収し、Der p1特異的IgG、IgEの抗体価をELISA法により測定した。投与およびその後の免疫のスケジュールは図3Aに示した。その結果、コントロール米を経口投与したマウスではDer p1 特異的IgG、IgEがナイーブなマウスの血清に比べて高いレベルで検出されたのに対し、Der p1米を経口投与したマウスから得た血清中にはDer p1 特異的IgG、IgEは低いレベルでしか検出されなかった (図3B、C)。また、各実験群のマウスから得られた血清中の総IgE量を測定したところ、Der p1米を投与したマウスではコントロール米を投与したマウスに比べて有意に血中濃度が低下していた (図3D, コントロール米投与群;8.56 ng/mL、 Der p1米投与群;3.42 ng/mL) 。
【0080】
〔実施例3〕 Der p1 特異的 IgG サブクラスの解析
各実験群のマウスより採血した血清中IgGのサブクラスについて解析を行った。前項と同様に測定はELISA法で行った。ナイーブなマウスと比較した場合に、コントロール米を投与したマウスの血清中にはDer p1の免疫によってIgG1 および IgG2b が効率よく誘導されている一方で、Der p1米を投与したマウスの血清中にはこれらのIgGサブクラスの抗体の誘導は検出されなかった (図4A、C) 。また、IgG2a、 IgG3の各サブクラスの抗体価については有意な差は認められなかった(図4B、D) 。
【0081】
〔実施例4〕 抗原特異的T細胞の増殖とサイトカインの放出
それぞれの米を経口投与したマウスより脾臓を摘出し、CD4+ T 細胞を精製した後に抗原特異的T細胞の増殖試験を行った。コントロール米を投与した実験群のマウスより得たCD4+ T 細胞はDer p1抗原の刺激により良好な増殖を示したが、Der p1米を投与した実験群のマウスより得たCD4+ T 細胞では抗原の刺激を与えても増殖はほとんどみられなかった(図5A)。これら細胞の培養上清を回収し、細胞が放出するサイトカインの量を測定した。コントロール米投与マウスのCD4+ T 細胞からはTh2サイトカインであるIL-4, 5, 13が高濃度に放出されていたが、Der p1米投与マウスのCD4+ T 細胞からはこれらのTh2サイトカインはほとんど放出されていなかった (図5B、C、D) 。一方、Th1型のサイトカインであるINF-γの量はどちらの実験群においても低濃度でしか放出されず、有意な差は認められなかった(図5E) 。
【0082】
〔実施例5〕 気管支肺胞洗浄液中の細胞組成の変化
喘息はダニアレルギーの主な症状の一つである。そこで、Der p1米の喘息症状に対する効果を検証した。コントロール米、Der p1米を経口投与したマウスをDer p1で免疫し、その最終免疫から14日後にネンブタールで腹腔より麻酔したマウスに対し、点鼻によりマウス一匹あたり10μgのDer p1抗原を投与した。抗原のチャレンジより24時間後に気管支肺胞洗浄液(BALF, 一匹あたり1ml)を回収した後Diff Quickによる染色を行い、BALF中に含まれる細胞数の測定や、誘導される細胞の組成の違いなどについて調べた。その結果、コントロール米を投与したマウスでは喘息モデルにみられる典型的な症状、マクロファージや好酸球の浸潤が観察され、また、肺や気管支中に浸潤してくる細胞の数も増加していた。一方、Der p1米を投与したマウスにおいては図5Cにも示したようにIL-5の産生量の低下と連動して好酸球数の浸潤がほとんど観察されず、また、抗原の刺激によって誘導されるマクロファージなどの細胞数も劇的に減少していた (図6A、B) 。
【0083】
〔実施例6〕 Der p1米の投与による気道過敏性の亢進
次に各実験群に上述と同様の方法で抗原感作、点鼻による抗原チャレンジを行い、気道の抵抗を測定することによって気道の過敏性の亢進を調べた。コントロール米を投与したマウスでは、抗原のチャレンジによって典型的な喘息の症状として認められる気道抵抗の上昇が観察された。ところが、Der p1米を投与したマウスではこのような気道抵抗の上昇は観察されなかった (図6C) 。
【0084】
〔実施例7〕 Der p1米の投与による肺の組織学的解析
さらにDer p1米の投与による肺の炎症の様子を、凍結切片を調製、観察することで評価した。各実験群のマウスに対し、上述の方法でDer p1抗原を腹腔より感作、点鼻によるチャレンジを行った後、それぞれのマウスから肺を摘出し、OCTコンパウンドに包埋した。これを液体窒素中で凍結し、5μmの厚さの凍結切片を調製した。得られた凍結切片について、ヘマトキシリン/エオシン染色(図7)、あるいはPAS染色(図8)により肺における炎症の様子を観察した。その結果、コントロール米を投与したマウスの実験群では抗原の感作、点鼻によるチャレンジにより、肺が炎症を起こし、マクロファージ、好酸球などの細胞が大量に浸潤していることが観察された。とくに、好酸球は分葉核を持ち、エオシンによって細胞内の顆粒が赤く染色される細胞として認識される (図7B、白矢印) 。また、気道周囲の表皮細胞が肥厚している(図7B、黒矢印)。一方、Der p1米を投与したマウスの実験群では、ナイーブなマウスにチャレンジした状態に近く、これらのマクロファージ、好酸球といった細胞の浸潤、表皮細胞の肥厚はみられなかった(図7C)。同様にして調製した凍結切片をPAS染色した標本では、コントロール米を投与したマウスの肺では、気道周囲の表皮細胞のゴブレット細胞から分泌される多糖粘液がPASによって赤く染色され、炎症を起こしていることが観察される(図8B、矢印)。これに対し、Der p1米を経口投与したマウスの群では、PASにより染色された細胞がいくつか観察されるものの、コントロール米を投与したマウスの状態よりも染色されたゴブレット細胞の数が有意に減少していることが確認された (図8C) 。
【0085】
〔実施例8〕 Der f2ΔC米のマウスへの経口投与による効果
コントロール米、実施例1と同様の方法で得られたDer f2ΔC発現米(以下、Der f2ΔC米ともいう、図11)をそれぞれをフードプロセッサーで粉末にし、これを市販のマウス用の粉末飼料と1:1で混合して、一ヶ月間マウスの自然摂食に任せて経口投与した。これらの被験マウスに対し、野生型Der f2タンパク質 0.5μgを0.4mgのAlumと懸濁し、一週間間隔で4回腹腔内投与し、免疫した。最終免疫から7日後に血清を回収し、野生型Der f2特異的IgG、IgEの抗体価をELISA法により測定した。投与およびその後の免疫のスケジュールは図12Aに示した。その結果、Der f2ΔC米を経口投与したマウスから得た血清中の野生型Der f2 特異的IgG, IgEの産生量はコントロール米をしたマウスから得た血清中の野生型Der f2 特異的IgG, IgEの産生量と比較して有意な差は認められなかった(図12B、C)。また、各実験群のマウスから得られた血清中の総IgE量を測定したところ、Der f2ΔC米を投与したマウスではコントロール米を投与したマウスに比べて若干の減少傾向は見られるものの、有意差は認められなかった(図12D)。
【0086】
〔実施例9〕 Der f2米(C8/119米とC21/27, C73/78米の混合米)のマウスへの経口投与による効果
コントロール米、実施例1と同様の方法で得られたDer f2 (C8/119) 形質転換米とDer f2 (C21/27, C73/78) 形質転換米(図11)を等量混合した混合米(以下、Der f2米ともいう)をそれぞれフードプロセッサーで粉末にし、これを市販のマウス用の粉末飼料と1:1で混合して、14日間マウスの自然摂食に任せて経口投与した。これらの被験マウスに対し、野生型Der f2タンパク質 0.5μgを0.4mgのAlumと懸濁し、一週間間隔で4回腹腔内投与し、免疫した。最終免疫から7日後に血清を回収し、野生型Der f2特異的IgG、IgEの抗体価をELISA法により測定した。投与およびその後の免疫のスケジュールは図13Aに示した。その結果、コントロール米を経口投与したマウスでは野生型Der f2 特異的IgG, IgEがナイーブなマウスの血清に比べて高いレベルで検出されたのに対し、Der f2米を経口投与したマウスから得た血清中には野生型Der f2 特異的IgG, IgEは低いレベルでしか検出されなかった (図13B、C)。また、各実験群のマウスから得られた血清中の総IgE量を測定したところ、野生型Der f2米を投与したマウスではコントロール米を投与したマウスに比べて有意に血中濃度が低下していた (図13D) 。
【0087】
〔実施例10〕 イネ種子中におけるDer p1(全長)タンパク質の発現と蓄積
Der p1タンパク質全長をコードする遺伝子をイネ種子で使用されるコドンの頻度に合わせ合成した。各塩基配列、アミノ酸配列は配列番号:9および2に示した(図16)。後のクローニングのために5’末端にNcoIサイトを、3’ 末端にSacIサイトを付加した。また、アミノ酸配列のC末端側に小胞体へのシグナルであるKDEL(Lys-Asp-Glu-Leu)をコードする配列、その直後に停止コドンを付加した。また、Der p1タンパク質が持つシステインプロテアーゼの活性を消去するために第34位のアミノ酸をCysからAlaに置換した(図14A、Ψ)。この遺伝子断片をGluB-1プロモーターとターミネータの間に挿入し、これを植物の形質転換用ベクターであるpGPTVにサブクローニングし、植物形質転換用のコンストラクトを構築した(図14A)。
【0088】
このコンストラクトを、アグロバクテリウムEHA105株を用いてイネ種子由来のカルスに感染させ、イネの形質転換体を作成した。得られた約30個体の形質転換体の種子からタンパク質を抽出し、Der p1タンパク質の蓄積量の最も多いものを選抜した。選抜は、抗Der p1抗体の検出、発色による定量を行い、イネ種子中での蓄積量として比較することにより行った。その結果、No.17の植物体に最も多くDer p1ペプチドが集積しており、種子一粒あたり58μgの蓄積があることが判明した (図14B)。この量は種子タンパク質全体の約4%を占める量と換算される。この系統の種子のDer p1ペプチドを、SDS-PAGEおよびウェスタンブロッティングによってさらに解析した。SDS-PAGEにおける解析においては、Der p1発現米のレーン(3、4)、分子量約25-27kDaの位置に、非形質転換体であるキタアケのレーン(1、2)では検出されないバンドが確認された (図14C左図) 。さらに抗Der p1抗体を用いてウェスタンブロッティングによる解析を行った結果、SDS-PAGEによる解析の際にCBBで可視化されたバンドと同じ位置に抗Der p1抗体によるシグナルが25kDa と27kDaの位置に検出され、このバンドが導入されたDer p1遺伝子産物であることが確認された(図14C右図)。25kDaの分子量の位置に確認されたバンドはデザインしたDer p1ペプチドのアミノ酸配列より推察される分子量、25kDaとほぼ一致している。Der p1は第52位のAsnがN-グリコシル化されることから、27kDa付近に確認されたバンドはN-グリコシレーションされ、糖鎖の付加した形で種子に蓄積しているものと考えられる。また、非形質転換体であるキタアケのタンパク質を泳動したレーンにはいかなるシグナルも検出されなかった。さらに金コロイドを結合したDer p1特異的抗体を用いて細胞内におけるDer p1タンパク質の局在を、電子顕微鏡を用いて調べたところ、イネ種子内で発現蓄積したDer p1タンパク質は小胞体由来のタンパク質顆粒I に蓄積していることが明らかになった(図14D)。
【0089】
〔実施例11〕 イネ種子内に蓄積したDer p1タンパク質の糖鎖の解析とIgEとの反応性
イネ種子中に蓄積したDer p1タンパク質に付加された糖鎖がどのような構造を持つものであるか検討した。まず、マンノース型の糖鎖を切断する酵素、Endo Hによる処理を行ったところ、27kDa付近に検出されたバンドが酵素処理により消失したことがSDS-PAGEやウェスタンブロッティング解析によって確認された。さらにこれらの糖鎖の構造についてMALDI-TOF MSを用いて詳細に解析を行った。その結果、Der p1に付加された糖鎖はMan8GlcNac2(図20、a, b, c), Man9GlcNac2(図20、d, e, f), Glu1Man8GlcNac2(図21、g, h, i, j), Glu1Man9GlcNac2(図21、k, l, m)がほとんどであり、これらの糖鎖で全体の91.4%を占めていた。またこれらの糖鎖はほ乳動物の細胞内で付加される糖鎖と共通のものであった。
【0090】
イネ種子内に蓄積し、糖鎖の付加されたDer p1タンパク質と大腸菌内で生産された糖鎖のないDer p1タンパク質についてダニアレルギー患者の血清中のIgEとの反応性について調べた。解析はウェスタンブロッティング解析によって行い、その発色強度を定量化した。その結果、ほとんどの患者の血清において、糖鎖のないDer p1タンパク質(図15B, レーン1)に比べて、イネ種子内で発現した、糖鎖の付加したDer p1タンパク質(図15B, レーン2)の方がIgEに対する応答が低い、ということが明らかになった。また、このときのIgEの反応性を定量化した結果、糖鎖のないものに比べて糖鎖のついたものでは30%程度に反応性が低下していることが明らかになった(図15C)。
【図面の簡単な説明】
【0091】
【図1】ダニアレルゲン発現米の作出のために合成した遺伝子配列を示す図である。上段;Der p1(45-145)をコードする塩基配列、下段;上段の遺伝子が翻訳されて合成されるアミノ酸配列。遺伝子配列の5’末端にNco Iサイト(5’側下線部)、3’末端に小胞体へのシグナルであるKDELをコードする配列(破線)、および、停止コドン(点線)に続いてSac Iサイト( 3’側下線部)が付加されている。
【図2】ダニアレルゲン発現米の作出についての図および写真である。A:ダニアレルゲン(Der p1)発現米のコンストラクトを示す。B:得られた形質転換イネの種子中のDer p1の蓄積量を示す。各形質転換体の種子中のDer p1を抗Der p1抗体による発色強度で比較し、定量を行った結果、No.28の系統が最も蓄積量が多いことが判明した。C:SDS-PAGEおよびウェスタン解析によるDer p1の検出結果を示す。SDS-PAGE (左)およびウェスタン解析(右)によってDer p1特異的なシグナルが確認された(矢印)。(コントロール:非形質転換体、Der p1:Der p1 発現形質転換米)。D:サザンハイブリダイゼーションによるDer p1遺伝子の検出結果を示す。形質転換体にのみDer p1をコードする遺伝子の挿入が確認された。(E:EcoRI、H:HindIII)
【図3】Der p1発現米による経口免疫寛容の誘導効果を示す図である。A:BALB/cマウスに対するDer p1米の経口投与およびDer p1抗原の免疫スケジュールを示す。B:Der p1特異的IgG、C:Der p1特異的IgE、D:血清中の総IgE量を示す。各種抗体価が低下していることから、Der p1米によって抗原特異的な経口免疫寛容の誘導が確認された。(ナイーブ(未処理):未処理マウス、コントロール:非形質転換イネ投与マウス、Der p1: Der p1発現米投与マウス)
【図4】Der p1発現米の経口投与による抗原特異的IgGサブクラスの産生を示す図である。A:Der p1特異的IgG1、 B: Der p1特異的IgG2a 、 C: Der p1特異的IgG2b 、 D: Der p1特異的IgG3の結果を示す。Der p1米の経口投与によって抗原特異的なIgG1、IgG2bの産生が抑制されている。
【図5】Der p1発現米経口投与の免疫学的解析の結果を示す図である。A:Der p1特異的なT細胞の増殖、B-E:各種サイトカインの分泌、を示す。Der p1米の経口投与によって抗原特異的なT細胞の増殖が抑制された。また、Th2サイトカインであるIL-4, 5, 13は産生が抑制されている一方、Th1サイトカインであるIFN-γには変化はない。
【図6】Der p1発現米経口投与が気道の炎症に与える効果を示す図および写真である。各米を経口投与したマウスに対し、抗原を腹腔に免疫し、その後点鼻によって抗原を投与することで喘息を誘導した。喘息によって引き起こされる各種の症状(肺洗浄液中の細胞数の増加(A)、マクロファージ、好酸球(矢印)等の細胞の浸潤(B)、気道の過敏性(C))がDer p1米の経口投与によって抑制されている。
【図7】Der p1発現米経口投与が肺の炎症に与える効果を示す写真である。各米を経口投与したマウスに対し、抗原を腹腔に免疫し、その後点鼻によって抗原を投与することで喘息を誘導した。各実験群のマウスより肺を摘出し、凍結切片を調製した。切片をH&E染色を行い、各実験群のマウスの肺における状態を観察した。コントロール米を投与したマウスの肺(B)ではマクロファージや好酸球(白矢印)などの細胞の浸潤がみられ、気道周囲の細胞(黒矢印)の肥厚が認められるが、Der p1米を投与したマウスの肺(C)ではこれらの細胞の浸潤が抑えられ、また、表皮の細胞の肥厚が抑制されている。(AW:気道)
【図8】Der p1発現米経口投与が肺の炎症に与える効果を示す写真である。各米を経口投与したマウスに対し、抗原を腹腔に免疫し、その後点鼻によって抗原を投与することで喘息を誘導した。各実験群のマウスより肺を摘出し、凍結切片を調製した。切片をPAS染色を行い、各実験群のマウスの肺における状態を観察した。コントロール米を投与したマウスの肺(B)では気道周囲に粘液を産生する細胞がPAS染色により染色される(矢印)が、Der p1米を投与したマウスの肺(C)ではこれらの細胞は認められない。(AW:気道)
【図9】Der p1のT細胞エピトープ領域を示す図である。それぞれ、ヒトのエピトープ、マウス(C57BL/6J、BALB/c)の各T細胞エピトープを含んだ領域を示す。
【図10】Der p2のT細胞エピトープ領域を示す図である。ヒトのエピトープ、マウス(C57BL/6J、BALB/c, CBA/J)の各T細胞エピトープを含んだ領域を示す。
【図11】Der f2 改変ポリペプチドを示す図である。下線はシステイン残基からセリン残基への変異部位を示す。
【図12】Der f2ΔC発現米による経口免疫寛容の誘導の結果を示す図である。A:CBA/Jマウスに対するDer f2ΔC米の経口投与およびDer f2(野生型)抗原の免疫スケジュール、B:Der f2特異的IgG、C:Der f2特異的IgE、D:血清中の総IgE量、を示す。非形質転換体の米を与えたマウスとDer f2ΔC発現米を与えたマウスにおいて、血清中の抗原特異的なIgGおよびIgE、総IgE量に有意な差は認められず、Der f2ΔCによってDer f2野生型に対する免疫寛容の誘導はできなかった。(コントロール:非形質転換イネ投与マウス、Der f2ΔC: Der f2ΔC発現米投与マウス)。
【図13】Der f2発現米(C8/119米とC21/27, C73/78米の混合米)による経口免疫寛容の誘導の結果を示す図である。A:A/Jマウスに対するDer f2米の経口投与およびDer f2抗原の免疫スケジュール、B:Der f2特異的IgG、C:Der f2特異的IgE、D:血清中の総IgE量を示す。各種抗体価が低下していることから、Der f2米によって抗原特異的な経口免疫寛容の誘導が確認された。(ナイーブ(未処理):未処理マウス、コントロール:非形質転換イネ投与マウス、Der f2: Der f2発現米投与マウス)
【図14】ダニアレルゲン(Der p1 全長)発現米の作出についての図および写真である。A:ダニアレルゲン(Der p1 全長)発現米のコンストラクトを示す図である。B:得られた形質転換イネの種子中のDer p1の蓄積量を示す図である。各形質転換体の種子中のDer p1を抗Der p1抗体による発色強度で比較し、定量を行った結果、No.17の系統が最も蓄積量が多いことが判明した。C:SDS-PAGEおよびウェスタン解析によるDer p1の検出結果を示す写真である。SDS-PAGE (左)およびウェスタン解析(右)によってDer p1特異的なシグナルが確認された。(レーン1, 2:非形質転換体、レーン3, 4:Der p1 発現形質転換米)。D:電子顕微鏡によるイネ種子中のDer p1タンパク質の検出結果を示す写真である。イネ種子中で発現、蓄積したDer p1タンパク質はタンパク質顆粒Iに蓄積していることが判明した。
【図15】ダニアレルゲン発現米の糖鎖の解析結果を示す写真および図である。A:ダニアレルゲン発現米の糖鎖の解析結果を示す写真である。Endo Hによる消化でDer p1タンパク質に付加した糖鎖が切断された。このことからイネ種子内で蓄積したDer p1タンパク質に付加した糖鎖はhigh-mannose 型であることが明らかになった。B, C:イネ種子内で発現したDer p1タンパク質とダニアレルギー患者の血清中のIgEの反応結果を示す。 B: ウェスタンブロッティングによる解析Der p1タンパク質に糖鎖が付加することによってダニアレルギー患者の血清中のIgEの反応性が低下している。(1;糖鎖のないDer p1タンパク質、2;糖鎖の付加したDer p1 タンパク質)C:Bの反応性を定量化したもの。黒バー;糖鎖のないDer p1タンパク質、白バー;糖鎖の付加したDer p1タンパク質。これらのことから糖鎖の付加したDer p1タンパク質はIgEによる過剰な免疫応答を起こしにくいことが推察される。
【図16】Der p1 改変塩基配列を示す図である。下線は、オリジナルのダニ抗原タンパク質をコードする塩基配列を、イネで頻出するコドンに改変した部位を示す。
【図17】Der f1 改変塩基配列を示す図である。下線は、オリジナルのダニ抗原タンパク質をコードする塩基配列を、イネで頻出するコドンに改変した部位を示す。
【図18】Der p2 改変塩基配列を示す図である。下線は、オリジナルのダニ抗原タンパク質をコードする塩基配列を、イネで頻出するコドンに改変した部位を示す。
【図19】Der f2 改変塩基配列を示す図である。下線は、オリジナルのダニ抗原タンパク質をコードする塩基配列を、イネで頻出するコドンに改変した部位を示す。
【図20】イネ種子内に蓄積したDer p1タンパク質の糖鎖の解析結果を示す図である。
【図21】イネ種子内に蓄積したDer p1タンパク質の糖鎖の解析結果を示す図である。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
イネ植物体の種子貯蔵タンパク質プロモーターの制御下に以下の(a)から(d)のいずれかのDNAが配置された構造を有するDNA構築物。
(a)5’末端に貯蔵タンパク質シグナル配列をコードするDNA、および/または3’末端に小胞体係留シグナル配列をコードするDNAが付加されていることを特徴とする、ダニ抗原タンパク質由来のペプチドをコードするDNAであって、該ペプチドが複数のT細胞エピトープを含むペプチドであることを特徴とするDNA
(b)N末端に貯蔵タンパク質シグナル配列、および/またはC末端に小胞体係留シグナル配列が付加されていることを特徴とする、ダニ抗原タンパク質由来のペプチドであって、複数のT細胞エピトープを含むペプチドをコードするDNA
(c)5’末端に貯蔵タンパク質シグナル配列をコードするDNA、および/または3’末端に小胞体係留シグナル配列をコードするDNAが付加されていることを特徴とする、ダニ抗原タンパク質をコードするDNAであって、該ダニ抗原タンパク質が抗原として認識されるための立体構造を形成しないように改変されているタンパク質であることを特徴とするDNA
(d)N末端に貯蔵タンパク質シグナル配列、および/またはC末端に小胞体係留シグナル配列が付加されていることを特徴とする、ダニ抗原タンパク質であって、抗原として認識されるための立体構造を形成しないように改変されているタンパク質をコードするDNA
【請求項2】
ダニ抗原タンパク質がタイプ1型またはタイプ2型の抗原タンパク質である、請求項1に記載のDNA構築物。
【請求項3】
ダニ抗原タンパク質が、以下の(i)または(ii)に記載のアミノ酸配列からなるタンパク質である、請求項1に記載のDNA構築物。
(i)配列番号:2、4、6または8のいずれかに記載のアミノ酸配列
(ii)配列番号:2、4、6または8のいずれかに記載のアミノ酸配列において1若しくは複数のアミノ酸が置換、欠失、挿入、および/または付加したアミノ酸配列を含むタンパク質をコードするDNA
【請求項4】
複数のT細胞エピトープを含むペプチドが、以下の(i)または(ii)の領域を含むペプチドであることを特徴とする、請求項1に記載のDNA構築物。
(i)配列番号:2に記載のアミノ酸配列における第45位〜第67位、第94位〜第104位、または第117位〜第143位から選択される2以上の領域
(ii)配列番号:2に記載のアミノ酸配列における第21位〜第49位、第71位〜第100位、第93〜108位、第110位〜第131位または第197位〜第212位から選択される2以上の領域
(iii)配列番号:4に記載のアミノ酸配列における第11位〜第35位、第87位〜第104位、第105位〜129位から選択される2以上の領域
(iv)配列番号:4に記載のアミノ酸配列における第35位〜第50位、第35位〜第60位、第87位〜104位から選択される2以上の領域
【請求項5】
前記複数のT細胞エピトープを含むペプチドが、以下の(i)〜(ii)に記載の、ペプチドが抗原として認識されるための立体構造を形成しないように改変された部分ペプチドであることを特徴とする請求項1に記載のDNA構築物。
(i)配列番号:2に記載のアミノ酸配列における第45位〜第144位までの領域を含むアミノ酸配列からなるペプチド
(ii)配列番号:6に記載のアミノ酸配列における第1位〜第144位までの領域を含むアミノ酸配列からなるペプチド
【請求項6】
前記複数のT細胞エピトープを含むペプチドが、システインプロテアーゼ活性を有さないよう改変されたペプチドであることを特徴とする請求項1に記載のDNA構築物。
【請求項7】
配列番号:2に記載のアミノ酸配列における第34位のシステイン残基(Cys)がアラニン残基(Ala)に改変されることを特徴とする、請求項6に記載のDNA構築物。
【請求項8】
前記抗原として認識されるための立体構造を形成しないように改変されているダニ抗原タンパク質が、IgE誘導活性中心を持たないように改変されていることを特徴とする請求項1に記載のDNA構築物。
【請求項9】
前記ダニ抗原タンパク質が、配列番号:4または8に記載のアミノ酸配列における、第8位、第21位、第27位、第73位、第78位または第119位のシステイン残基(Cys)のいずれか1つまたは複数がセリン残基(Ser)に改変されたアミノ酸配列からなるタンパク質であることを特徴とする、請求項8に記載のDNA構築物。
【請求項10】
前記ダニ抗原タンパク質が、配列番号:4における第11位〜第129位までの領域を含む部分ペプチド、または、配列番号:8における第11位〜第129位までの領域を含む部分ペプチドのシステイン残基を改変した部分ペプチドであることを特徴とする、請求項9に記載のDNA構築物。
【請求項11】
前記ダニ抗原タンパク質をコードするDNAが、イネ胚乳で発現可能なようにコドンが改変された塩基配列からなるDNAであることを特徴とする、請求項1に記載のDNA構築物。
【請求項12】
以下の(a)〜(d)のいずれかに記載の塩基配列からなる、請求項1に記載のDNA構築物。
(a)配列番号:9に記載の塩基配列からなるDNA
(b)配列番号:9に記載の塩基配列からなるDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズするDNA
(c)配列番号:10に記載のアミノ酸配列を含むタンパク質をコードするDNA
(d)配列番号:10に記載のアミノ酸配列において1若しくは複数のアミノ酸が置換、欠失、挿入、および/または付加したアミノ酸配列を含むタンパク質をコードするDNA
【請求項13】
請求項1〜12のいずれかに記載のDNA構築物によりコードされるポリペプチド。
【請求項14】
糖鎖が付加され、かつタンパク質顆粒Iに封入されていることを特徴とする、請求項13に記載のポリペプチド。
【請求項15】
請求項1〜12のいずれかに記載のDNA構築物を含む、ベクター。
【請求項16】
請求項1〜12のいずれかに記載のDNA構築物または、請求項15に記載のベクターを保持する形質転換イネ細胞。
【請求項17】
請求項16に記載の形質転換イネ細胞を含む、複数のT細胞エピトープを含み、または抗原として認識されるための立体構造を形成しないように改変されているペプチドを集積する、形質転換イネ。
【請求項18】
前記ペプチドがイネの種子に集積されることを特徴とする、請求項16に記載の形質転換イネ。
【請求項19】
請求項17に記載の形質転換イネの子孫またはクローンである、形質転換イネ。
【請求項20】
請求項17または18に記載の形質転換イネの繁殖材料。
【請求項21】
請求項15または18に記載の形質転換イネの種子。
【請求項22】
請求項21に記載の形質転換イネの種子を有効成分とする、ダニを抗原とするアレルギー性疾患の治療または予防のための食品組成物。
【請求項23】
アレルギー性疾患がI型アレルギーである、請求項22に記載の食品組成物。
【請求項24】
請求項21に記載の形質転換イネの種子を有効成分とする、ダニを抗原とするアレルギー性疾患の治療または予防のための医薬組成物。
【請求項25】
アレルギー性疾患がI型アレルギーである、請求項24に記載の医薬組成物。
【請求項26】
経口投与用であることを特徴とする、請求項24または25に記載の医薬組成物。
【請求項27】
以下の工程(a)〜(c)を含む、複数のT細胞エピトープを含むダニ抗原タンパク質由来のペプチドをイネに集積させる方法。
(a)複数のT細胞エピトープを含むペプチドをコードするDNAを取得する工程、
(b)前記(a)で取得されたDNAの5’末端に貯蔵タンパク質シグナル配列をコードするDNA、および/または3’末端に小胞体係留シグナル配列をコードするDNAを付加する工程、
(c)前記(b)のDNAを、植物において貯蔵タンパク質プロモーターの制御下で発現させる工程
【請求項28】
以下の工程(a)〜(d)を含む、抗原として認識されるための立体構造を形成しないように改変されているダニ抗原タンパク質由来のペプチドをイネに集積させる方法。
(a)ダニ抗原タンパク質をコードするDNAを取得する工程、
(b)前記ペプチドが抗原として認識されるための立体構造を形成しないように、前記(a)で取得されたDNAを改変する工程、
(c)前記(b)で取得されたDNAの5’末端に貯蔵タンパク質シグナル配列をコードするDNA、および/または3’末端に小胞体係留シグナル配列をコードするDNAを付加する工程、
(d)前記(c)のDNAを、植物において貯蔵タンパク質プロモーターの制御下で発現させる工程
【請求項29】
前記ペプチドがイネの種子に集積されることを特徴とする、請求項27または28に記載の方法。
【請求項30】
請求項27から29のいずれかに記載の方法により作出される、複数のT細胞エピトープを含み、かつ抗原として認識されるための立体構造を形成しないように改変されているダニ抗原タンパク質由来のペプチドが集積された形質転換イネ。
【請求項1】
イネ植物体の種子貯蔵タンパク質プロモーターの制御下に以下の(a)から(d)のいずれかのDNAが配置された構造を有するDNA構築物。
(a)5’末端に貯蔵タンパク質シグナル配列をコードするDNA、および/または3’末端に小胞体係留シグナル配列をコードするDNAが付加されていることを特徴とする、ダニ抗原タンパク質由来のペプチドをコードするDNAであって、該ペプチドが複数のT細胞エピトープを含むペプチドであることを特徴とするDNA
(b)N末端に貯蔵タンパク質シグナル配列、および/またはC末端に小胞体係留シグナル配列が付加されていることを特徴とする、ダニ抗原タンパク質由来のペプチドであって、複数のT細胞エピトープを含むペプチドをコードするDNA
(c)5’末端に貯蔵タンパク質シグナル配列をコードするDNA、および/または3’末端に小胞体係留シグナル配列をコードするDNAが付加されていることを特徴とする、ダニ抗原タンパク質をコードするDNAであって、該ダニ抗原タンパク質が抗原として認識されるための立体構造を形成しないように改変されているタンパク質であることを特徴とするDNA
(d)N末端に貯蔵タンパク質シグナル配列、および/またはC末端に小胞体係留シグナル配列が付加されていることを特徴とする、ダニ抗原タンパク質であって、抗原として認識されるための立体構造を形成しないように改変されているタンパク質をコードするDNA
【請求項2】
ダニ抗原タンパク質がタイプ1型またはタイプ2型の抗原タンパク質である、請求項1に記載のDNA構築物。
【請求項3】
ダニ抗原タンパク質が、以下の(i)または(ii)に記載のアミノ酸配列からなるタンパク質である、請求項1に記載のDNA構築物。
(i)配列番号:2、4、6または8のいずれかに記載のアミノ酸配列
(ii)配列番号:2、4、6または8のいずれかに記載のアミノ酸配列において1若しくは複数のアミノ酸が置換、欠失、挿入、および/または付加したアミノ酸配列を含むタンパク質をコードするDNA
【請求項4】
複数のT細胞エピトープを含むペプチドが、以下の(i)または(ii)の領域を含むペプチドであることを特徴とする、請求項1に記載のDNA構築物。
(i)配列番号:2に記載のアミノ酸配列における第45位〜第67位、第94位〜第104位、または第117位〜第143位から選択される2以上の領域
(ii)配列番号:2に記載のアミノ酸配列における第21位〜第49位、第71位〜第100位、第93〜108位、第110位〜第131位または第197位〜第212位から選択される2以上の領域
(iii)配列番号:4に記載のアミノ酸配列における第11位〜第35位、第87位〜第104位、第105位〜129位から選択される2以上の領域
(iv)配列番号:4に記載のアミノ酸配列における第35位〜第50位、第35位〜第60位、第87位〜104位から選択される2以上の領域
【請求項5】
前記複数のT細胞エピトープを含むペプチドが、以下の(i)〜(ii)に記載の、ペプチドが抗原として認識されるための立体構造を形成しないように改変された部分ペプチドであることを特徴とする請求項1に記載のDNA構築物。
(i)配列番号:2に記載のアミノ酸配列における第45位〜第144位までの領域を含むアミノ酸配列からなるペプチド
(ii)配列番号:6に記載のアミノ酸配列における第1位〜第144位までの領域を含むアミノ酸配列からなるペプチド
【請求項6】
前記複数のT細胞エピトープを含むペプチドが、システインプロテアーゼ活性を有さないよう改変されたペプチドであることを特徴とする請求項1に記載のDNA構築物。
【請求項7】
配列番号:2に記載のアミノ酸配列における第34位のシステイン残基(Cys)がアラニン残基(Ala)に改変されることを特徴とする、請求項6に記載のDNA構築物。
【請求項8】
前記抗原として認識されるための立体構造を形成しないように改変されているダニ抗原タンパク質が、IgE誘導活性中心を持たないように改変されていることを特徴とする請求項1に記載のDNA構築物。
【請求項9】
前記ダニ抗原タンパク質が、配列番号:4または8に記載のアミノ酸配列における、第8位、第21位、第27位、第73位、第78位または第119位のシステイン残基(Cys)のいずれか1つまたは複数がセリン残基(Ser)に改変されたアミノ酸配列からなるタンパク質であることを特徴とする、請求項8に記載のDNA構築物。
【請求項10】
前記ダニ抗原タンパク質が、配列番号:4における第11位〜第129位までの領域を含む部分ペプチド、または、配列番号:8における第11位〜第129位までの領域を含む部分ペプチドのシステイン残基を改変した部分ペプチドであることを特徴とする、請求項9に記載のDNA構築物。
【請求項11】
前記ダニ抗原タンパク質をコードするDNAが、イネ胚乳で発現可能なようにコドンが改変された塩基配列からなるDNAであることを特徴とする、請求項1に記載のDNA構築物。
【請求項12】
以下の(a)〜(d)のいずれかに記載の塩基配列からなる、請求項1に記載のDNA構築物。
(a)配列番号:9に記載の塩基配列からなるDNA
(b)配列番号:9に記載の塩基配列からなるDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズするDNA
(c)配列番号:10に記載のアミノ酸配列を含むタンパク質をコードするDNA
(d)配列番号:10に記載のアミノ酸配列において1若しくは複数のアミノ酸が置換、欠失、挿入、および/または付加したアミノ酸配列を含むタンパク質をコードするDNA
【請求項13】
請求項1〜12のいずれかに記載のDNA構築物によりコードされるポリペプチド。
【請求項14】
糖鎖が付加され、かつタンパク質顆粒Iに封入されていることを特徴とする、請求項13に記載のポリペプチド。
【請求項15】
請求項1〜12のいずれかに記載のDNA構築物を含む、ベクター。
【請求項16】
請求項1〜12のいずれかに記載のDNA構築物または、請求項15に記載のベクターを保持する形質転換イネ細胞。
【請求項17】
請求項16に記載の形質転換イネ細胞を含む、複数のT細胞エピトープを含み、または抗原として認識されるための立体構造を形成しないように改変されているペプチドを集積する、形質転換イネ。
【請求項18】
前記ペプチドがイネの種子に集積されることを特徴とする、請求項16に記載の形質転換イネ。
【請求項19】
請求項17に記載の形質転換イネの子孫またはクローンである、形質転換イネ。
【請求項20】
請求項17または18に記載の形質転換イネの繁殖材料。
【請求項21】
請求項15または18に記載の形質転換イネの種子。
【請求項22】
請求項21に記載の形質転換イネの種子を有効成分とする、ダニを抗原とするアレルギー性疾患の治療または予防のための食品組成物。
【請求項23】
アレルギー性疾患がI型アレルギーである、請求項22に記載の食品組成物。
【請求項24】
請求項21に記載の形質転換イネの種子を有効成分とする、ダニを抗原とするアレルギー性疾患の治療または予防のための医薬組成物。
【請求項25】
アレルギー性疾患がI型アレルギーである、請求項24に記載の医薬組成物。
【請求項26】
経口投与用であることを特徴とする、請求項24または25に記載の医薬組成物。
【請求項27】
以下の工程(a)〜(c)を含む、複数のT細胞エピトープを含むダニ抗原タンパク質由来のペプチドをイネに集積させる方法。
(a)複数のT細胞エピトープを含むペプチドをコードするDNAを取得する工程、
(b)前記(a)で取得されたDNAの5’末端に貯蔵タンパク質シグナル配列をコードするDNA、および/または3’末端に小胞体係留シグナル配列をコードするDNAを付加する工程、
(c)前記(b)のDNAを、植物において貯蔵タンパク質プロモーターの制御下で発現させる工程
【請求項28】
以下の工程(a)〜(d)を含む、抗原として認識されるための立体構造を形成しないように改変されているダニ抗原タンパク質由来のペプチドをイネに集積させる方法。
(a)ダニ抗原タンパク質をコードするDNAを取得する工程、
(b)前記ペプチドが抗原として認識されるための立体構造を形成しないように、前記(a)で取得されたDNAを改変する工程、
(c)前記(b)で取得されたDNAの5’末端に貯蔵タンパク質シグナル配列をコードするDNA、および/または3’末端に小胞体係留シグナル配列をコードするDNAを付加する工程、
(d)前記(c)のDNAを、植物において貯蔵タンパク質プロモーターの制御下で発現させる工程
【請求項29】
前記ペプチドがイネの種子に集積されることを特徴とする、請求項27または28に記載の方法。
【請求項30】
請求項27から29のいずれかに記載の方法により作出される、複数のT細胞エピトープを含み、かつ抗原として認識されるための立体構造を形成しないように改変されているダニ抗原タンパク質由来のペプチドが集積された形質転換イネ。
【図1】
【図3】
【図4】
【図5】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図2】
【図6】
【図7】
【図8】
【図14】
【図15】
【図3】
【図4】
【図5】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図2】
【図6】
【図7】
【図8】
【図14】
【図15】
【公開番号】特開2009−95244(P2009−95244A)
【公開日】平成21年5月7日(2009.5.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−266864(P2007−266864)
【出願日】平成19年10月12日(2007.10.12)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成18年度農林水産技術会議事務局「有用遺伝子活用のための植物(イネ)・動物ゲノム研究」委託事業、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
【出願人】(501167644)独立行政法人農業生物資源研究所 (200)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成21年5月7日(2009.5.7)
【国際特許分類】
【出願日】平成19年10月12日(2007.10.12)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成18年度農林水産技術会議事務局「有用遺伝子活用のための植物(イネ)・動物ゲノム研究」委託事業、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
【出願人】(501167644)独立行政法人農業生物資源研究所 (200)
【Fターム(参考)】
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