説明

ダム貯水の水質浄化方法

【課題】
ダム貯水池の水質浄化を効率的に行う方法を提供することを目的とする。
【解決手段】
降雨時に、ダム貯水池に連なる川の瀬や、ダム貯水位低下時に露出した澪筋に凝集剤を添加してなるダム貯水の水質浄化方法。
なし

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ダム貯水の水質の浄化方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ダムへ流入するシルト・粘土・コロイド等の微細濁質は、貯水池末端河岸にも幅広く堆積するため、貯水位低下時に降雨水が露出した澪筋両岸を侵食・洗掘・崩壊し、微細濁質が浮上拡散するため再懸濁による濁水が発生し、濁流水となってダム貯水池に流れていた。これらは渇水濁水と呼ばれる現象であり、特に降雨が伴う場合には流域からの濁質に加えこれらの微細濁質の供給により小規模の出水でも激しく濁水化していた。
この渇水濁水中の比較的大きい粒子は、貯水池上流の末端河岸で沈殿するが、コロイド状の微粒子はマイナスに帯電し、ブラウン運動(粒子間反発)を繰り返し、水中に懸垂安定化して沈降しない。このためにダムサイトの降雨が止んでも長期間濁水状態が続いてしまっていた。さらに微粒子に有機物が付着し、それによってダム貯水池の富栄養化等が生起し、臭気やアオコ・淡水赤潮等が発生し、ダム貯水池の汚濁水と共に問題になっていた。
【0003】
従来これらの問題を解決する手段が種々提案されている。例えば汚濁水域の各水深を網羅するネットに凝集剤を含み水でこの凝集剤が溶出可能の凝集剤充填体を水平方向及び垂直方向に間隔をおいて取り付け、汚濁水をこの凝集剤充填体を取り付けたネットを通過させ、汚濁物質を上記溶出した凝集剤により凝集させることを特徴とする汚濁水域の浄化方法が提案されている(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第2516742号特許公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、従来のようにダム貯水を浄化するにはその処理水量が膨大であることから、莫大な処理時間と処理費用を費やさなければならなかった。
そこで本発明者は、簡単な処理方法で、かつ処理費用も少ないダム貯水池の水質浄化方法について種々研究を重ねた結果本発明を完成するに至った。
【課題を解決するための手段】
【0006】
すなわち、本発明は、ダム貯水池に連なる川において、降雨時に瀬が生ずる個所、或いは貯水位低下時に露出した澪筋等に凝集剤を添加することを特徴とするダム貯水の水質浄化方法である。
【発明の効果】
【0007】
本発明方法によれば、ダム貯水位低下時に降雨水が露出した澪筋両岸を侵食・洗掘・崩壊し、微細濁質が浮上拡散するため再懸濁による濁流水が発生し、濁流水となって渇水濁水がダム貯水池に流れているが、水深が浅い瀬や貯水位低下時には露出した澪筋に凝集剤を添加することによって、砂利や土砂などが触媒作用を有すると共に急速攪拌がなされ、貯水池に流下するに従って緩速攪拌が行われる状態になることから良好なフロックを形成することができる。また凝集剤が添加され、形成されたフロックが流下中に水中に巻き上げられ懸垂して濁水との接触回数が増大すると共に速い流れによって、フロックを長時間水面層近傍に浮遊させることができるので一層フロック化が促進される。
さらに本発明方法は、自然条件を有効に活用することによって攪拌・沈殿・接触・付着・アトラクター引き込み領域・蛇行によるカルマン渦の発生による固形物質の巻とり分離・ろ過等の多機能作用が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1はダム貯水池流入端の横断面図であり、図2は図1のA−A断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
次に本発明を図面を参照しながら説明するが、本発明は以下の説明のみに限定されるものではない。
ダム貯水池1に連なる川は、上流に行くに従って流下する水量が次第に少なくなり、ついには通常の晴天時には川床が露出している部分が多くなるのが一般的である。そして川床が露出している場所は、石や砂利、土砂などが多く存在している。この川床が露出する部分は、ダム貯水池1の水位によっても変化するものではなく、少なくともダム貯水池1の満水位2の標高より高い部分に存在する。
このような通常川床が露出している場所に降雨があると川床に雨水等が流れ、水深が小さく水面が波立って流れる「瀬」が生じるようになる。そして川床が露出している場所は、雨水の流入によって同時に大量の土砂も運ばれて来て川床に多量に蓄積されている。一旦このような川に雨水が流れ込むと、土砂が含まれた雨水と共に川床に蓄積された土砂も洗掘され、高濁度の濁水として下流に向かって流下し、ダム貯水池1に流入する。
図1は、ダム貯水池1において、貯水池末端河岸3に土砂5や微細濁質6等の固形物が多量に蓄積され貯水池底に段丘4が出来ている。図2は、貯水位低下時に露出した段丘4は、流水によって貯水池末端河床に蓄積された土砂5や微細濁質6等が洗掘され、局部的に溝を造りながら流れる「澪筋7」が生じるようになる。
更に、澪筋7はダム貯水池1の最低水位10で露出した段丘4まで伸び、曲がりくねり、澪筋両岸8が侵食・洗掘・崩壊し微細濁質が浮上拡散するため再懸濁による濁水化が発生し、渇水濁水となってダム貯水池1内域に拡散し蓄積されていた。特に降雨が伴う場合には、流域からの土砂に加え、渇水濁水による微細濁質の供給により小規模の出水でも激しく濁水化している。
【0010】
本発明は、通常この川床の露出した場所において降雨時に凝集剤を添加すると、濁水中の土砂等の固体物質が川床の石等によって凹凸状を呈していることから、激しく攪拌された状態になり、フロック化が進行する。
フロック化された粒子は下流に流れながら川床に沈降し、未だ微粒子状の土砂等は、下流に向かって流下している間にフロックが成長し、ある程度の粒子になったら川床に沈降し分離される。また最終的にダム貯水池に到達したフロック化された土砂類は、ここでゆっくりと大きなフロックに成長し、やがて貯水池底に沈殿するようになる。
更に、貯水位低下時の澪筋7において降雨時に凝集剤を添加すると、高濁質中で凝集反応を起こし、澪筋の蛇行によって激しく攪拌された状態になり、フロック化が進行する。
フロック化されて成長した粒子は、ダム貯水池の降雨流入部である流入端9の水深や川幅が大きくなる事で通水断面積が広がり、流速が遅くなる事で、フロックの塊(スラッジブランケットゾーン)を造り、フロックの接触・肥大化・ろ過によってフロックは貯水池の降雨流入部に沈降するようになる。
【0011】
このように川の上流部において降雨時に瀬が生ずる箇所や、貯水位低下時の澪筋7に凝集剤を添加することによって自然条件を巧みに利用し、効率的に濁水の清澄化を行うことができるので、作業時間と共に処理に要する費用も削減することができる。
【0012】
本発明方法に使用する凝集剤としては、硫酸バンド、ポリ塩化アルミニウム(無機系アルミニウム塩系凝集剤)や第一鉄塩、硫酸第一鉄塩、硫酸第二鉄塩、ポリ硫酸鉄、塩化第二鉄(無機系鉄塩系凝集剤)、廃酸、石灰石、表面焼成石灰石、炭酸カルシウム、硫酸、苛性ソーダ、消石灰、硫黄(無機系酸アルカリ系凝集剤)、活性ケイ酸、ポリシリカ鉄(無機高分子系凝集剤)、アルギン酸ソーダ、キチン、キトサン(天然有機系高分子凝集剤)、カチオン系凝集剤、アニオン系凝集剤、ノニオン系凝集剤、ポリアクリルアマイド系凝集剤(合成有機高分子凝集剤)等の他、CMC凝集剤、N/Tフロック、ソリッドエースNCC(調合型凝集剤)(日本ソリッド社製商品名)、調合型粉末凝集剤等が挙げられるが、好ましくは無機系凝集剤が長時間活性効果が得られる。これらは、単独でも併用でも使用することができる。
【0013】
この凝集剤の添加量は、凝集剤の種類、濁水の濁度によって異なるがN/Tフロックの場合通常10mg/L〜100mg/Lの量が適している。
【0014】
凝集剤の添加する箇所もダム貯水池の水位によって澪筋7の場所が異なるので、凝集剤の添加装置も固定的な装置より凝集剤を積んだ移動可能なタンクローリー車が好ましい。タンクローリー車からホースの先端に多数の小孔を有するパイプから凝集剤溶液を川の瀬や澪筋7に添加する方法が好ましい。
【符号の説明】
【0015】
1・・・ダム貯水池
3・・・貯水池末端河岸
4・・・段丘
7・・・澪筋

【図1】

【図2】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
降雨時に、ダム貯水池に連なる川の瀬が生ずる個所や、貯水位低下時の澪筋に凝集剤を添加することを特徴とするダム貯水の水質浄化方法。


【公開番号】特開2012−61427(P2012−61427A)
【公開日】平成24年3月29日(2012.3.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−208331(P2010−208331)
【出願日】平成22年9月16日(2010.9.16)
【出願人】(000229162)日本ソリッド株式会社 (39)
【Fターム(参考)】