説明

ダンパー装置

【課題】トルク特性が使用環境に左右されにくいダンパー装置を、低コストで製造可能とする。
【解決手段】円筒状の内部空間2を有する金属製のケース3と、内部空間2内で回転可能であって周方向に延びてケース3の内周面に摺接する羽根4を有するロータ5と、内部空間内を充填する粘性オイル6と、内部空間2を閉じる蓋部材と、内部空間2を周方向に分割する圧力隔壁部8と、を備えたダンパー装置において、内部空間2の内周面からロータ5の回転軸方向に突き出る凸部11と、ロータ5の回転の中心軸と凸部11との間に嵌め込まれる組込み部材12とで、圧力隔壁部8を構成した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、便座や便蓋等が閉じる動きを緩衝するダンパー装置に関する。
【背景技術】
【0002】
便座や便蓋が閉じるときの速度を緩衝するダンパー装置として、特許文献1,2のようなものが広く知られている。これらの文献に開示されたダンパー装置は、ケースと軸の間に形成された内部空間を周方向に2つに仕切る圧力隔壁部を設け、軸には受圧部を設け、ケースの内部空間にオイルを充填している。この構成により、軸が回転するとケース内周と受圧部との間、あるいは圧力隔壁部と軸の間からオイルが移動しつつ、受圧部にオイルの力がかかって軸が緩やかに回転する。
【0003】
しかし、文献1,2に開示された構成のダンパー装置は、成形加工が容易な合成樹脂でケースを形成しているため、使用環境の温度変化によりトルク特性に変化が生じやすいという欠点がある。すなわち、環境温度が高いと合成樹脂製のケースが膨張してオイルが移動しやすくなり、速く回転するようになるし、環境温度が低いとケースが収縮してオイルが移動しにくくなり、遅く回転するようになる。そのため、トイレの便蓋や便座の開閉用として、このダンパー装置を用いた場合、トイレの室温によって便蓋や便座が閉じる速度が変わってしまい、使用者に違和感を感じさせるという問題があった。
【0004】
この問題を解決するためには、文献3に開示されるように、ダンパー装置のケースや回転体を環境温度が変化しても膨張しにくい金属で形成すればよい。しかし、内周に圧力隔壁部を有するケースを金属で製造するには、亜鉛合金やアルミニウム合金などの金属材料を切削加工やダイキャストにより製造する方法をとらざるを得ず、製造コストが高くなってしまう。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2001−54490号公報
【特許文献2】特開平8−233013号公報
【特許文献3】特開2003−206973号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
そこで、本発明は、トルク特性が使用環境に左右されにくいダンパー装置を、低コストで製造可能とすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
請求項1は、円筒状の内部空間を有する金属製のケースと、前記内部空間内で回転可能であると共に回転中心に対して周方向に延びて前記ケースの内周面に接する羽根を有するロータと、前記内部空間内を充填する粘性オイルと、前記内部空間を閉じる蓋部材と、前記内部空間を周方向に分割する圧力隔壁部と、を備えたダンパー装置において、前記内部空間の内周面から前記ロータの回転軸に向けて突き出る凸部と、前記ロータの回転軸と前記凸部との間に嵌め込まれる組込み部材とで、前記圧力隔壁部を構成したことを特徴とする。
これにより、圧力隔壁部を、ケースと一体である凸部と、凸部に嵌め込まれた組込み部材とで構成したので、ケースを金属の冷間鍛造で製造することが可能。よって、製造費用のコストダウンが図れ、また、トルク特性が環境温度に左右されにくいダンパー装置を得ることができる。
【0008】
請求項2では、前記凸部は、前記組込み部材と面接触する第一側面と、前記組込み部材との間に第一の隙間を有する第二側面とを有し、前記第一側面と第二側面とは段差を介して連設されていることを特徴とする。
これにより、段差の位置や高さを調整することでダンパー装置の開閉速度を制御することができる。
【0009】
請求項3では、前記組込み部材は、前記ケースの内部空間の内周面上を摺動する第一立面と、当該内部空間の内周面との間に第二の隙間を有する第二立面とを有し、前記第一立面と第二立面とは段差を介して連設され、前記凸部に対して組込み部材が摺動することにより前記第一の隙間と第二の隙間との連通面積を広狭させることを特徴とする。
ダンパー装置を用いる物品や用いる場所に応じてこの段差を適宜調整することによって、適度な緩衝作用を得ることが可能となる。
【0010】
請求項4では、前記内部空間の一端面側に樹脂製のロータ受け部材を設け、このロータ受け部材から前記組込み部品を延出させて形成したことを特徴とする。
これにより、ロータ(回転軸)の底面とケース内面との磨耗を防ぐことができ、ダンパー性能を維持することができる。
【0011】
請求項5では、前記組込み部材が前記凸部に対して周方向に移動可能として前記組込み部材と凸部の間の隙間の大きさを調整可能であり、前記ロータの回転方向によって前記組込み部材が周方向に移動して前記隙間の大きさを変えて前記オイルの移動量を規制する逆止弁としたことを特徴とする。
これにより、凸部や組込み部材に形成した段差の位置や高さを適宜調整して製造することにより、ダンパー装置の緩衝機能を制御することができる。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、トルク特性が使用環境に左右されにくく、低コストで製造可能なダンパー装置を提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明の実施形態にかかるダンパー装置の側面図
【図2】図1のダンパー装置のA−A断面模式図
【図3】図2の圧力隔壁部を示す拡大図で、(A)は緩衝作用が作用しているときの状態を示し、(B)は緩衝作用が作用しない状態を示す
【図4】ケースを示す部分断面斜視図
【図5】ロータを示す斜視図
【図6】図5のロータの反対側を示す斜視図
【図7】ロータ受け部材を示す斜視図
【図8】緩衝作用が作用しているときのダンパー装置の内部の粘性オイルの作用を示す、部分断面斜視図
【図9】緩衝作用が作用していないときのダンパー装置の内部の粘性オイルの作用を示す、部分断面斜視図
【図10】緩衝作用が作用していないときのダンパー装置の内部の粘性オイルの作用を示す、部分断面斜視図
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、図に基づいて、本発明の実施形態を説明する。
図1は本発明の実施形態にかかるダンパー装置の側面図、図2は図1のダンパー装置のA−A断面模式図、図3は図2の圧力隔壁部を示す拡大図、図4はケースを示す部分断面斜視図、図5はロータを示す斜視図、図6は図5のロータの反対側を示す斜視図、図7はロータ受け部材を示す斜視図、図8〜10はダンパー装置の内部における粘性オイルの作用を示す部分断面斜視図である。
【0015】
図1,2に示すように、本実施形態のダンパー装置1は、内部に円柱状の内部空間2を有して一端が開口する金属製のケース3と、内部空間2内で回転可能であって回転中心に対して直交する方向(周方向)に延びてケース3の内周面に接する羽根4を有するロータ5と、内部空間2を充填する粘性オイル6と、内部空間2を閉じる蓋部材7と、内部空間2を周方向に分割する圧力隔壁部8と、を備えている。ケース3の内部空間2に粘性オイルを充填し、ロータ5と後述するロータ受け部材15を収めた状態で、ケース3の開口を蓋部材7で閉じている。
【0016】
図1,5,6に示すように、ロータ5には、一端がケース3から露出する支持軸9が一体形成されている。この支持軸9には、便座や便蓋を直接あるいは他の部材を介在させて、回転不能に取付け可能なカット面10が形成されている。
【0017】
図2に示すように、圧力隔壁部8は、ケース3の内部空間2の内周面からロータ5の回転軸5b方向に突き出る凸部11と、ロータ5の回転の中心軸と凸部11との間に嵌め込まれる組込み部材12とで、構成されている。
【0018】
ケース3の内部空間2は、ロータ5の羽根4および圧力隔壁部8によって、4つの空間に区分けされている。
【0019】
図3に示すように、この凸部11は、組込み部材12と面接触する第一側面11aと、組込み部材12との間に第一の隙間13を有する第二側面11bとを有し、第一側面11aと第二側面11bとは段差を介して連設されている。
【0020】
また図7に示すように、組込み部材12は、ケース3の円筒状内周面3a上を摺動する第一立面12aと、円筒状内周面3aとの間に第二の隙間14を有する第二立面12bとを有し、第一立面12aと第二立面12bとは段差を介して連設されている。凸部11に対して組込み部材12が摺動することにより第一の隙間13と第二の隙間14との連通面積を広狭させる。
【0021】
粘性オイル6は、ロータ5が回転するときの動きを緩衝して、ダンパー効果が作用する。具体的には、ロータ5の回転に伴い、ケース3の区分けされた内部空間2を粘性オイル6が移動するが、粘性オイル6を移動させる通路(ケース3と圧力隔壁部8の間の隙間、および、ケース3とロータ5の間の隙間)が狭く形成されているために粘性オイル6の移動速度は制限されているので、移動できない粘性オイル6がロータ5の回転を抑制するように作用することで、ロータ5の回転を緩衝するのである。
なお、この緩衝作用は、正逆どちらの方向に回転する際にも作用させることができるが、便座や便蓋の開閉装置に利用する場合には、便座や便蓋が開くときには緩衝作用を作用させず、閉じるときに緩衝作用が作用するようにすればよい。
【0022】
便座や便蓋が閉じるときのように緩衝作用を作用させる場合には、図3(A)や図8に示すように、ロータ5の回転に伴う粘性オイル6の圧力によって組込み部品12が凸部11に衝突して粘性オイル6の移動を抑制する。
一方、便座や便蓋が開くときのように緩衝作用を作用させない場合には、図3(B)や図9,10に示すように、ロータ5の回転に伴う粘性オイル6の圧力が、閉じるときと反対側に作用するので組込み部品12が凸部11から離れ第一の隙間13による粘性オイルの移動を促進する。
【0023】
図7に示すように、このダンパー装置では、ケース3の内部空間2の一端面側に樹脂製のロータ受け部材15を設けている。そして、ロータ受け部材15とケース3内面との摩耗を防ぐために、このロータ受け部材15から組込み部品12を延出させて一体化している。
このロータ受け部材15の中央に形成された円形孔15aに、ロータ5の端部に形成された円環状突部5aが嵌め込まれて、ロータ受け部材15はロータ5の回転を支持する。
【0024】
組込み部材12は、ロータ5の回転方向によって組込み部材12が周方向に移動して隙間の大きさを変えて粘性オイル6の移動量を規制する逆止弁として機能する。この組込み部材12は、凸部11に対して周方向に移動することによって、組込み部材12と凸部11との隙間の大きさを調整することができる。
【0025】
本実施形態のダンパー装置1によれば、圧力隔壁部8を、ケース3と一体である凸部11と、凸部11に嵌め込まれた組込み部材12とで構成した。これにより、圧力隔壁部を一体化していた従来の構造に比べて、圧力隔壁部8の一部を担う凸部11の高さを低くすることができるので、ケース3を金属の冷間鍛造で製造することが可能となる。よって、製造費用のコストダウンが図れ、また、ケース3を金属製としたので、トルク特性が環境温度に左右されにくいダンパー装置1を得ることができる。
【0026】
また、本実施形態のダンパー装置によれば、凸部11や組込み部材12に形成した段差13,14の位置や高さを適宜調整して製造することにより、ダンパー装置1の緩衝機能を制御することができる。これにより、従来、便座や便蓋の大きさや形状に応じて、それぞれ構造の異なるダンパー装置を用いていたが、ダンパー装置の部品間の隙間を調整するだけで、便座や便蓋の開閉速度を適度に調整することができる。
【0027】
また、ダンパー装置1を用いる物品や用いる場所に応じて上記の段差13,14を適宜調整することによって、適度な緩衝作用を得ることが可能となる。
【0028】
さらに、ケース3とロータ5の間にロータ受け部材15を設置することにより、ロータ5の底面とケース2内面との磨耗を防ぐことができ、ダンパー性能を長く維持することができる。
【0029】
なお、さらに、製造コストを低減するために、ケース3の端部をロールカシメすることにより蓋部材7とケース3を一体化させるのが、有効である。
【符号の説明】
【0030】
1…ダンパー装置
3…ケース
4…羽根
5…ロータ
6…粘性オイル
7…蓋部材
8…圧力隔壁部
11…凸部
11a…第一側面
11b…第二側面
12…組込み部材
12a…第一立面
12b…第二立面
13…第一の隙間
14…第二の隙間
15…ロータ受け部材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
円筒状の内部空間を有する金属製のケースと、前記内部空間内で回転可能であると共に回転中心に対して周方向に延びて前記ケースの内周面に接する羽根を有するロータと、前記内部空間内を充填する粘性オイルと、前記内部空間を閉じる蓋部材と、前記内部空間を周方向に分割する圧力隔壁部と、を備えたダンパー装置において、
前記内部空間の内周面から前記ロータの回転軸に向けて突き出る凸部と、前記ロータの回転軸と前記凸部との間に嵌め込まれる組込み部材とで、前記圧力隔壁部を構成したことを特徴とするダンパー装置。
【請求項2】
前記凸部は、前記組込み部材と面接触する第一側面と、前記組込み部材との間に第一の隙間を有する第二側面とを有し、前記第一側面と第二側面とは段差を介して連設されていることを特徴とする請求項1のダンパー装置。
【請求項3】
前記組込み部材は、前記ケースの内部空間の内周面上を摺動する第一立面と、当該内部空間の内周面との間に第二の隙間を有する第二立面とを有し、前記第一立面と第二立面とは段差を介して連設され、前記凸部に対して組込み部材が摺動することにより前記第一の隙間と第二の隙間との連通面積を広狭させることを特徴とする請求項2のダンパー装置。
【請求項4】
前記内部空間の一端面側に樹脂製のロータ受け部材を設け、このロータ受け部材から前記組込み部品を延出させて形成したことを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載のダンパー装置。
【請求項5】
前記組込み部材が前記凸部に対して周方向に移動可能として前記組込み部材と凸部の間の隙間の大きさを調整可能であり、前記ロータの回転方向によって前記組込み部材が周方向に移動して前記隙間の大きさを変えて前記オイルの移動量を規制する逆止弁とした請求項1〜4のいずれか1項に記載のダンパー装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2012−207770(P2012−207770A)
【公開日】平成24年10月25日(2012.10.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−76007(P2011−76007)
【出願日】平成23年3月30日(2011.3.30)
【出願人】(000010087)TOTO株式会社 (3,889)
【Fターム(参考)】