説明

チアゾリジン誘導体を有効成分とする薬剤の有効性の予測方法

【課題】本発明は、チアゾリジン誘導体(TZD)を有効成分とする薬剤の有効性の予測方法として、脂肪細胞からのアディポネクチン分泌量を指標とした場合の予測方法を提供することを課題とする。
【解決手段】アディポネクチン分泌量に影響を及ぼすバイオマーカーのうち、被投与予定者の血清HDL、クレアチニンおよびアディポネクチン量から選択される少なくとも1以上の因子量を測定することで、TZDを有効成分とする薬剤の有効性を予測することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、チアゾリジン誘導体を有効成分とする薬剤の有効性の予測方法に関する。詳しくは、投与後の脂肪細胞からのアディポネクチン分泌量を指標として該薬剤の有効性を予測する有効性の予測方法に関する。
【背景技術】
【0002】
アディポネクチンとは、脂肪組織由来生理活性物質(アディポサイトカイン)の一つであり、血清アディポネクチンは5〜10μg/mlという高濃度で存在するが、脂肪組織特異的な発現にも拘わらず肥満者における血清濃度は低下しており、BMI(body mass index)と逆相関を示すという。アディポネクチンは、単球の血管内皮細胞への接着抑制作用や平滑筋細胞の増殖抑制に働くことから、抗動脈硬化作用を有する可能性が示唆される。また、インスリン感受性を高めたり、脂肪を燃焼させたり、血栓予防の作用があると考えられている。一方、脂肪細胞のなかでも肥大化した脂肪細胞からの分泌量が少ないといわれており、肥満時にはアディポネクチンの分泌が減って、インスリン感受性が低くなり、糖尿病やメタボリックシンドロームのリスクが高まると考えられる。
【0003】
チアゾリジン誘導体(以下、単に「TZD」ともいう。)は、核内受容体であるペルオキシソーム増殖活性化受容体γ、すなわちPPARγ(peroxisome proliferator-activated receptor γ)のリガンドであり、PPARγを活性化することにより、前駆脂肪細胞から正常な機能を有する小型脂肪細胞への分化を亢進させ、またインスリン抵抗性を惹起する肥大化脂肪細胞をアポトーシスにより除去する。この作用により、TZDはインスリン抵抗性改善作用を有する薬剤として使用されている。
【0004】
しかしながら、TZDの薬剤反応性については個人差があり、有効なレスポンダーと無効なノンレスポンダーが存在することが知られている。TZDがインスリン抵抗性の病態を有さない2型糖尿病に対し、患者により著効を示す場合もあれば全く効果を示さない例も存在する。薬剤の適正使用のためには、TZDの効果予測に有効な指標が必要である。TZDの有効性については検討されており、有効性評価の指標として、例えばHOMA−IR[インスリン抵抗性指数:空腹時血糖値(mg/ml)/405]が挙げられる。TZDの一種であるピオグリタゾンでは、具体的には、高脂血症(TG≧150mg/dl、高比重リポタンパク質(HDL)<40mg/dl、TC≧220mg/dl)、高血圧、虚血性心疾患の合併症例で、血糖の改善度が高く、また女性において効果が高いという性差が知られている(非特許文献1)。
【0005】
他の報告でも、ピオグリタゾンに対する患者の反応性を体質、病歴、生化学的要因ごとに調査し、投薬が有効な患者群を特定する科学的手法を開発することを目的として、調査を行った結果について、報告がある(非特許文献2)。ここでは、グリコヘモグロビン(HbAlc)の下降度に基づいて182例について有効性の評価を行い、レスポンダーとノンレスポンダーに分類し、83例をレスポンダー、99例をノンレスポンダーとして報告している。HbAlc、BMI、レプチンおよびC反応性タンパク質(CRP)各々の検査結果と、上記レスポンダーとノンレスポンダーについて調べたところ、HbAlc、BMI、レプチンおよびCRPが各々高いほうが、レスポンダーの傾向が認められた。
【0006】
しかしながら、従来のTZDまたはその一種であるピオグリタゾンの有効性については、空腹時血糖値(mg/ml)またはHbAlcの下降度に基づいて行われていたものであり、他の指標に基づくものについては報告がない。
【0007】
血清アディポネクチンの濃度低下とインスリン抵抗性の増大について報告があり、アディポネクチンには直接のインスリン抵抗性改善作用のあることが示されている(非特許文献1)。しかしながら、血清アディポネクチンまたは脂肪細胞からのアディポネクチン分泌量を指標としたTZDの有効性評価については報告がない。また、アディポネクチン分泌能に着目したTZDの用途についても全く報告がない。
【非特許文献1】Endocrinology & Diabetology, 23(4):384-393 (2001)
【非特許文献2】薬剤反応性調査試行的事業 解析報告書(平成15年10月22日)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、TZDを有効成分とする薬剤の有効性の予測方法として、脂肪細胞からのアディポネクチン分泌量を指標とした場合の予測方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者等は、前記課題解決のために、TZDの脂肪細胞からのアディポネクチン分泌量に影響を及ぼすバイオマーカーについて鋭意研究を重ねた結果、被投与予定者の血清バイオマーカーのうち、HDL、クレアチニンおよびアディポネクチン量から選択される少なくとも1以上の因子量を測定することで、有効性を予測できることを見出し、本発明を完成した。
【0010】
すなわち本発明は、以下よりなる。
1.チアゾリジン誘導体を有効成分とする薬剤の、投与後の脂肪細胞からのアディポネクチン分泌量を指標として該薬剤の有効性を予測するに際し、該薬剤の投与前に、被投与予定者の血清高比重リポタンパク質(HDL)、クレアチニンおよびアディポネクチン量から選択される少なくとも1以上の因子量を測定することを特徴とする、チアゾリジン誘導体を有効成分とする薬剤の有効性の予測方法。
2.血清HDL量が、40.5mg/dl以下の被投与予定者に、有効であると予測する前項1に記載の予測方法。
3.血清アディポネクチン量が、5.36μg/ml以下の被投与予定者に、有効であると予測する前項1に記載の予測方法。
4.血清クレアチニン量が、0.78〜1.18mg/dlの被投与予定者に、有効であると予測する前項1に記載の予測方法。
5.チアゾリジン誘導体が、PPARγ活性化剤である前項1〜4のいずれか1に記載の予測方法。
6.PPARγ活性化剤が、ピオグリタゾンである前項6に記載の予測方法。
7.薬剤投与前の血清HDL、アディポネクチンおよびクレアチニン量から選択される少なくとも1以上の因子量を測定し、該測定して得られた値が、HDL量が40.5mg/dl以下、アディポネクチン量が5.36μg/ml以下およびクレアチニン量が0.78〜1.18mg/dlの場合より選択されるいずれかの被投与予定者に投与されるチアゾリジン誘導体を有効成分とするアディポネクチン増強剤。
8.チアゾリジン誘導体が、PPARγ活性化剤である前項7に記載のアディポネクチン増強剤。
9.PPARγ活性化剤が、ピオグリタゾンである前項8に記載のアディポネクチン増強剤。
10.チアゾリジン誘導体を有効成分とするアディポネクチン増強剤が、2型糖尿病治療薬である前項7〜9のいずれか1に記載のアディポネクチン増強剤。
【発明の効果】
【0011】
薬剤投与後の脂肪細胞からのアディポネクチン分泌量を指標としてTZDを有効成分とする薬剤の有効性を予測しうることが確認された。これにより、TZDの投与により脂肪細胞からのアディポネクチン分泌量が増加しうる患者に対しては、該チアゾリジン誘導体を有効成分とする薬剤をアディポネクチン増強剤として利用することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下本発明を詳細に説明する。
本発明において、TZDを有効成分とする薬剤とは、TZDを含む薬剤であればよく、特に限定されない。TZDの具体例としてはピオグリタゾン、ロシグリダゾンなどのチアゾリジンジオンが挙げられ、作用メカニズムとしてPPARγ活性化作用を有するものが挙げられる。特に好適には、ピオグリタゾンが挙げられる。
【0013】
本発明において、TZDの有効性評価は、脂肪細胞からのアディポネクチンの分泌量を指標とする。脂肪細胞からのアディポネクチンの分泌量の測定は、特に限定されず、自体公知の測定方法を適用することができ、例えば市販のELISAキットなどを用いることができる。アディポネクチンは、高分子量アディポネクチン、中分子量アディポネクチンおよび低分子量アディポネクチンの3種がある。市販のELISAキット(大塚製薬)を用いて測定した場合に、総アディポネクチンのみを測定することができ、その量が少なくとも49.14ng/ml以上分泌しうる場合に、TZDが有効であると評価することができる。
【0014】
本発明では、TZDを有効成分とする薬剤の有効性を、脂肪細胞からのアディポネクチンの分泌量を指標として予測する際に、薬剤投与前の血清HDL、クレアチニンおよびアディポネクチンをバイオマーカーとすることができる。即ち、TZDを有効成分とする薬剤の投与前に、被投与予定者の血清HDL、クレアチニンおよびアディポネクチン量から選択される少なくとも1以上の因子量を測定することにより、TZDの有効性を予測することができる。血清HDL、クレアチニンおよびアディポネクチン量の測定は、臨床検査の現場や研究目的のために採用されている自体公知の方法を用いることができる。
【0015】
バイオマーカーの一つであるHDLは善玉コレステロールとも呼ばれ、抗動脈硬化作用を有し冠動脈疾患の防御因子でもある。HDLは、LDL(低比重リポタンパク質)と同時に測定して動脈硬化や高脂肪症などの診断や経過観察に用いられている。現在よく用いられている測定方法は、沈殿法と呼ばれる方法である。具体的には、金属イオン(Mg2+、Ca2+など)存在下でヘパリン、デキストラン硫酸などのポリアニオンにより、HDL以外のリポタンパク質を沈殿させて、上清中のHDLのコレステロールを通常のコレステロール測定法で測定する方法である。実質的にHDL量を測定可能であれば、他の方法や、今後開発される方法により測定しても良い。測定法によって多少の差があるが、徳島大学病院におけるHDLの基準値は、男女共に40〜100mg/dlとされる。本発明において、脂肪細胞からのアディポネクチンの分泌量を指標とするTZDの有効性は、血清HDLが、40.5mg/dl以下の場合にTZDが有効であると予測することができる。
【0016】
別のバイオマーカーであるクレアチニンは腎糸球体からろ過され、ほとんど再吸収されることなく、尿中へ排出される。このため、血清クレアチニン濃度は腎機能障害の指標として測定される。現在よく用いられている測定方法では、化学的測定法(Jaffe 法)と酵素的測定法が挙げられる。実質的にクレアチニン量を測定可能であれば、他の方法や、今後開発される方法により測定しても良い。徳島大学病院におけるクレアチニンの基準値は、男性は0.5〜1.1mg/dl、女性は0.4〜0.9mg/dlとされる。本発明において、脂肪細胞からのアディポネクチンの分泌量を指標とするTZDの有効性は、血清クレアチニンが、0.78mg/dl以上1.18mg/dl以下の場合にTZDが有効であると予測することができる。
【0017】
さらに、別のバイオマーカーであるアディポネクチンは、背景技術の欄でも述べたように、アディポサイトカインの一つである。血清アディポネクチンの測定は、研究目的用に市販されているキット等を用いる方法による。実質的にアディポネクチン量を測定可能であれば、他の方法や、今後開発される方法により測定しても良い。血清アディポネクチンは、5〜10μg/mlという高濃度で存在する。本発明において、脂肪細胞からのアディポネクチンの分泌量を指標としてTZDの有効性を予測する場合には、血清アディポネクチンが、5.36μg/ml以下の場合にTZDが有効であると予測することができる。
【0018】
本発明では、脂肪細胞からのアディポネクチンの分泌量を指標としたとき、薬剤投与前の血清HDL、クレアチニンおよびアディポネクチン量から選択される少なくとも1以上の因子量を測定し、該測定して得られた値が、HDL量が40.5mg/dl以下、クレアチニン量が0.78mg/dl以上1.18mg/dl以下および/またはアディポネクチン量が5.36μg/ml以下のいずれかの場合に、TZDを有効成分とする薬剤が有効と予測することができる。このことから、HDL量が40.5mg/dl以下、クレアチニン量が0.78mg/dl以上1.18mg/dl以下および/またはアディポネクチン量が5.36μg/ml以下のいずれかのマーカーを有する患者に対しては、TZDを有効成分とする薬剤をアディポネクチン増強剤として用いることができる。
【0019】
本発明のアディポネクチン増強剤は、経口または注射等による非経口投与とすることができるが、簡便に投与できる点で、経口投与が好ましい。投与する場合、それぞれの投与経路に適した任意の剤型に製剤化することができる。例えば、散剤、顆粒剤、錠剤、コーティング錠剤、カプセル剤、トローチ剤、液剤、シロップ剤などの経口投与に適した剤型;注射剤、点滴剤などの非経口投与に適した剤型にすることもできる。
【0020】
本発明の薬剤をアディポネクチン増強剤として用いる場合は、その作用メカニズムから、血栓予防剤、動脈硬化予防剤および抗メタボリックシンドローム剤などとして用いることができる。さらに、アディポネクチン増強のメカニズムに基づく糖尿病治療薬として用いることができ、特に2型糖尿病治療薬として用いることができる。
【実施例】
【0021】
本発明の理解を助けるために、以下に実施例を示して具体的に本発明を説明するが、本発明は本実施例に限定されるものでないことはいうまでもない。
【0022】
(実施例1)ヒト脂肪細胞におけるアディポネクチン分泌量の測定
1)ヒト前駆脂肪細胞の単離と培養
ヒト材料を用いた研究は、徳島大学医学部・歯学部附属病院臨床研究倫理審査委員会の承認を受け、ヒト皮下脂肪組織の採取は、徳島大学外科系診療科の全面的協力を得て行われた。同意書が得られた症例より、手術時に余剰の脂肪組織を入手した。
【0023】
脂肪組織を、PBS(−)にて2〜3回洗浄した後、眼科穿刀で細切し、消化溶液(0.2%コラゲナーゼ、0.2%ウシアルブミンを含むMEM培地)を加えて37℃で20分間消化した。その後、洗浄した脂肪細胞を150μmのメッシュで濾過し、160×gで3分間遠心処理し、沈渣した細胞を前駆脂肪細胞とした。次に、前駆脂肪細胞から残存するコラゲナーゼを除去するために10%新生仔ウシ血清(NCS)を含むHam's F12(F-12 Nutrient Mixture)培地を用いて遠心洗浄し、60mmの細胞培養ディッシュで20%NCSを含むHam's F12培地にて、37℃±0.5℃で5%CO下にて培養した。
【0024】
2)ピオグリタゾン刺激と培養上清中の総アディポネクチン濃度の定量
上記培養した前駆脂肪細胞がコンフルエントになった時点で、12ウェルの細胞培養プレートに継代し(8×104cells/well)、5μg/mlヒトインスリン、 0.5mM IBMX(3-isobutyl-1-methyl-xanthine)、0.25μM デキサメタゾンおよび10%NCSを含むDMEMからなる分化誘導培地を用いて14日間分化誘導を行った。前駆脂肪細胞から成熟脂肪細胞へ分化させた後、培養液を除去し、PBS(−)で洗浄し、10μMのピオグリタゾン(アクトス(R)、武田薬品工業販売)含むOpti-MEM培地2mlを加えて21日間培養した。コントロールとして、ピオグリタゾンの代わりに溶媒に用いたDMSOのみを加えた。その後、培養液を回収し、ヒトアディポネクチンELISAキット(大塚製薬)を用いて、培養上清中の総アディポネクチン濃度を定量した。
【0025】
3)総アディポネクチン分泌能の基準値(standard range)と陽性範囲の設定
36名より得られた脂肪細胞の総アディポネクチン分泌能から、基準値を設定した。HDLの基準値は40mg/dl以上なので、40mg/dl以上の場合の総アディポネクチン分泌能の値のみを使用した。
【0026】
基準値=平均値±2SDであるが、ヒストグラムにより対数正規分布であることが確認されたためlog変換を行い、基準値を求めた。
log変換後の平均値と標準偏差はそれぞれ0.619および0.541であった。log変換を行ったので基準値は10(0.619-2×0.541) 〜10(0.619+2×0.541) =−0.656〜49.142
と推定された。そこで、上記方法により得られた脂肪細胞培養上清中の総アディポネクチン分泌量が49.142ng/ml以下を陰性群とし、49.142ng/mlを越えたものは陽性群とした。
【0027】
(実験例1)血清HDLの測定とヒト脂肪細胞におけるアディポネクチン分泌量の測定
実施例1のヒト皮下脂肪組織の採取に同意書が得られた例(36名)について、ピオグリタゾンの投与前に臨床検査としての血清HDLの測定を行った。測定は、化学修飾酵素法によった。
【0028】
これらの例について、実施例1に記載の方法による培養脂肪細胞の培養上清中の総アディポネクチン濃度の定量結果と、血清HDLの臨床検査結果について、統計解析ツールであるSPSSを用いて多変量データ解析を行った。
その結果を図1に示した。図1より、血清HDLと脂肪細胞からのアディポネクチン分泌量の間に逆相関性が認められ、血清HDLが低値であると10μMのピオグリタゾン投与により脂肪細胞からのアディポネクチンの分泌上昇が期待された。血清HDL量と総アディポネクチン濃度の実測値を表1に示した。これらの結果からROC曲線を求め、血清HDLの各濃度をカットオフ値としたときの、総アディポネクチン分泌量の陽性適中度および陰性適中度を調べ、表2に示した。その結果、血清HDL値が40.5mg/dlをカットオフ値としたときの陽性適中度および陰性適中度が高いことが確認された。
【0029】
【表1】

【0030】
【表2】

【0031】
(実験例2)血清アディポネクチン(APN)の測定とヒト脂肪細胞におけるアディポネクチン分泌量の測定
実験例1と同様に、ピオグリタゾンの投与前に臨床検査としての血清アディポネクチン(APN)の測定を行った。測定は、ELISA法によった。
【0032】
これらの例について、実施例1に記載の方法による培養脂肪細胞の培養上清中の総アディポネクチン濃度の定量結果と、血清アディポネクチンの臨床検査結果について、統計解析ツールであるSPSSを用いて多変量データ解析を行った。
その結果を図2に示した。図2より、血清アディポネクチンと脂肪細胞からのアディポネクチン分泌量の間に逆相関性が認められ、血清アディポネクチンが低値であると10μMのピオグリタゾン投与により脂肪細胞からのアディポネクチンの分泌上昇が期待された。血清アディポネクチン量と総アディポネクチン濃度の実測値を表3に示した。これらの結果からROC曲線を求め、血清アディポネクチンの各濃度をカットオフ値としたときの、総アディポネクチン分泌量の陽性適中度および陰性適中度を調べ、表4に示した。その結果、血清アディポネクチン値が5.36μg/mlをカットオフ値としたときの陽性適中度および陰性適中度が高いことが確認された。
【0033】
【表3】

【0034】
【表4】

【0035】
(実験例3)血清クレアチニンの測定とヒト脂肪細胞におけるアディポネクチン分泌量の測定
実験例1と同様に、ピオグリタゾンの投与前に臨床検査としての血清クレアチニンの測定を行った。測定は、酵素法によった。
【0036】
これらの例について、実施例1に記載の方法による培養脂肪細胞の培養上清中の総アディポネクチン濃度の定量結果と、血清クレアチニンの臨床検査結果について、統計解析ツールであるSPSSを用いて多変量データ解析を行った。
その結果を図3に示した。図3より、血清クレアチニンと10μMのピオグリタゾン投与により脂肪細胞からのアディポネクチンの分泌上昇に相関関係が認められた。血清クレアチニンと総アディポネクチン濃度の実測値を表5に示した。これらの結果からROC曲線を求め、血清クレアチニンの各濃度をカットオフ値としたときの、総アディポネクチン分泌量の陽性適中度および陰性適中度を調べ、表6に示した。その結果、血清クレアチニンの値が0.78mg/dlをカットオフ値としたときの陽性適中度および陰性適中度が高いことが確認された。
【0037】
【表5】

【0038】
【表6】

【0039】
(実験例4)
実験例1〜3での各マーカーの実測値を基にして、2種以上のマーカーを組み合わせて評価したときの各カットオフ値と総アディポネクチン分泌量の陽性適中度および陰性適中度を調べた結果を表7〜表10示した。
【0040】
【表7】

【0041】
【表8】

【0042】
【表9】

【0043】
【表10】

【産業上の利用可能性】
【0044】
以上詳述したように、薬剤投与後の脂肪細胞からのアディポネクチン分泌量を指標としてTZDを有効成分とする薬剤の有効性を予測しうることが確認された。これにより、TZDの投与により脂肪細胞からのアディポネクチン分泌量が増加しうる患者に対しては、該チアゾリジン誘導体を有効成分とする薬剤をアディポネクチン増強剤として利用することができる。本発明のアディポネクチン増強剤は、2型糖尿病治療薬として使用できることはいうまでもないが、さらに単球の血管内皮細胞への接着抑制作用や平滑筋細胞の増殖抑制に働くことから、抗動脈硬化剤、脂肪燃焼剤、血栓予防剤や抗メタボリックシンドローム剤としての使用の可能性が示唆される。
【図面の簡単な説明】
【0045】
【図1】皮下脂肪細胞からのアディポネクチン分泌量と血清HDLの関係を示す図である。(実験例1)
【図2】皮下脂肪細胞からのアディポネクチン分泌量と血清総アディポネクチン量の関係を示す図である。(実験例2)
【図3】皮下脂肪細胞からのアディポネクチン分泌量と血清クレアチニンの関係を示す図である。(実験例3)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
チアゾリジン誘導体を有効成分とする薬剤の、投与後の脂肪細胞からのアディポネクチン分泌量を指標として該薬剤の有効性を予測するに際し、該薬剤の投与前に、被投与予定者の血清高比重リポタンパク質(HDL)、クレアチニンおよびアディポネクチン量から選択される少なくとも1以上の因子量を測定することを特徴とする、チアゾリジン誘導体を有効成分とする薬剤の有効性の予測方法。
【請求項2】
血清HDL量が、40.5mg/dl以下の被投与予定者に、有効であると予測する請求項1に記載の予測方法。
【請求項3】
血清アディポネクチン量が、5.36μg/ml以下の被投与予定者に、有効であると予測する請求項1に記載の予測方法。
【請求項4】
血清クレアチニン量が、0.78〜1.18mg/dlの被投与予定者に、有効であると予測する請求項1に記載の予測方法。
【請求項5】
チアゾリジン誘導体が、PPARγ活性化剤である請求項1〜4のいずれか1に記載の予測方法。
【請求項6】
PPARγ活性化剤が、ピオグリタゾンである請求項6に記載の予測方法。
【請求項7】
薬剤投与前の血清HDL、アディポネクチンおよびクレアチニン量から選択される少なくとも1以上の因子量を測定し、該測定して得られた値が、HDL量が40.5mg/dl以下、アディポネクチン量が5.36μg/ml以下およびクレアチニン量が0.78〜1.18mg/dlの場合より選択されるいずれかの被投与予定者に投与されるチアゾリジン誘導体を有効成分とするアディポネクチン増強剤。
【請求項8】
チアゾリジン誘導体が、PPARγ活性化剤である請求項7に記載のアディポネクチン増強剤。
【請求項9】
PPARγ活性化剤が、ピオグリタゾンである請求項8に記載のアディポネクチン増強剤。
【請求項10】
チアゾリジン誘導体を有効成分とするアディポネクチン増強剤が、2型糖尿病治療薬である請求項7〜9のいずれか1に記載のアディポネクチン増強剤。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2009−79991(P2009−79991A)
【公開日】平成21年4月16日(2009.4.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−249106(P2007−249106)
【出願日】平成19年9月26日(2007.9.26)
【出願人】(304020292)国立大学法人徳島大学 (307)
【Fターム(参考)】