説明

チオール化合物の安定な保存方法

【課題】長期間にわたってチオール化合物を安定的に保存することができるチオール化合物の安定な保存方法、より詳しくは、チオール化合物を工業的に安定的に保存、貯蔵、移送又は輸送する方法を提供する。
【解決手段】チオール化合物を安定に保存する方法であって、上記チオール化合物は、ポリアルキレングリコール鎖を有し、上記保存方法は、上記チオール化合物を溶媒との共存下で保存するチオール化合物の安定な保存方法である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、チオール化合物の安定な保存方法に関する。より詳しくは、メルカプト基の反応性が高いために安定して保存することが困難なチオール化合物を安定に保存する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
チオール化合物とは、1個以上のメルカプト基(チオール基、SH基)を有する化合物であり、メルカプト基が持つ特異な反応性を利用して種々様々な用途に使用されている。例えば、ソフトセグメントとして接着剤やシーリング剤、各種重合体への柔軟性付与成分等として有用なポリエーテル化合物に、メルカプト基を導入して得られるような高分子量のチオール化合物が、ポリエーテル化合物の適用分野を拡大し得るものとして注目されている(例えば、特許文献1〜3参照。)。特許文献1には、両末端又は片末端に二重結合を有するポリエーテルに特定のチオカルボン酸を付加させた後、生成するチオエステル基を分解することにより、両末端又は片末端にメルカプト基を含有するポリエーテルを製造する手法が開示されており、また、特許文献2には、メルカプト基を有する化合物をポリエーテル化合物にエステル反応で導入して得られる化合物を用いて得た重合体が、洗剤ビルダーとして有用であることが開示されている。また、特許文献3には、メルカプト基から水素が容易に引き抜かれてラジカルが生成し重合開始点となる性質を生かして、チオール化合物を高分子連鎖移動剤として使用して得られるポリアルキレングリコール鎖を有する重合体が、セメント混和剤等に好適に用いられることが開示されている。
【0003】
これらの文献に開示されているような高分子量のチオール化合物は、種々の用途に有用な化合物であるが、メルカプト基の反応性が高いために安定に保存することが難しく、その後の各種反応等に影響を与える可能性が大きいと予想される。しかしながら、これらの文献には保存形態については何ら記載されていないため、長期間にわたってチオール化合物を安定して保存できるようにするための工夫の余地があった。
【特許文献1】特開平7−13141号公報
【特許文献2】特開平7−109487号公報
【特許文献3】特開2007−119736号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、上記現状に鑑みてなされたものであり、長期間にわたってチオール化合物を安定的に保存することができるチオール化合物の安定な保存方法を提供することを目的とするものである。より詳しくは、チオール化合物を工業的に安定的に保存、貯蔵、移送又は輸送する方法を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者等は、チオール化合物について種々検討したところ、その合成反応後に生成した反応粗生成物の固化物を乾燥したり、この乾燥固化物に更にジエチルエーテル等を用いて洗浄したりして反応粗生成物から該チオール化合物を取得しようとすると、自己多量化して多量化物(多量体)が大量に発生することを見いだし、特に、重量平均分子量1000以上のチオール化合物やポリアルキレングリコール鎖を有するチオール化合物では、その傾向が顕著であることを見いだした。多量化物としては、2以上のチオール化合物がメルカプト基のジスルフィド化により結合され、チオール化合物が残基の繰り返しを持つポリジスルフィド構造を有するものと推測されるが、多量化物の生成が増大すればそれを含むチオール化合物の粘性が高くなるおそれがあり、保存後の取り扱いや各種反応に影響を与える可能性がある。本発明者等は、更に検討の結果、反応経路は不明であるものの、この多量化(多量体化)の原因が反応粗生成物の固化物を乾燥することにあることを見いだした。乾燥状態にあれば、真空状態にあるか否かを問わず、また、脱水反応や中和反応の有無にも関係なく、多量化が進行することを見いだしたものである。そして、このようなチオール化合物を溶媒との共存下で保存することにより、自己多量化を充分に抑制して安定的に保存できることを見いだし、上記課題をみごとに解決することができることに想到した。また、チオール化合物を溶媒溶液として保存したり、酸化防止剤を用いることによって、多量化を抑制するという本発明の作用効果が更に充分に発揮されることを見いだし、本発明に到達したものである。
【0006】
すなわち本発明は、チオール化合物を安定に保存する方法であって、上記チオール化合物は、ポリアルキレングリコール鎖を有し、上記保存方法は、上記チオール化合物を溶媒との共存下で保存するチオール化合物の安定な保存方法である。
以下に本発明を詳述する。
【0007】
本発明の保存方法は、特定のチオール化合物を溶媒との共存下で保存するものであるが、これにより、該チオール化合物の多量化物の生成を効果的に抑制することができ、安定的に該チオール化合物を保存することが可能となる。
なお、本発明において「チオール化合物を安定に保存する」とは、チオール化合物による経時的な分解や反応が充分に抑制された状態となることを意味し、特に、自己多量化が充分に抑制された状態となることを意味する。
【0008】
上記チオール化合物を溶媒との共存下で保存する方法としては、保存対象とするチオール化合物(例えば、後述する製造方法によって生成した反応粗生成物の固化物又は更に精製工程を経て得た固化物)を溶媒に溶解させたり、溶融させたりして保存することが考えられる。より好ましくは、溶媒に溶解させて保存することであり、これにより容易に溶媒と共存させることができる。このように、上記チオール化合物を溶媒溶液として保存するものである形態が好適であり、これによって、簡便かつ容易に、上記チオール化合物を安定して保存することが可能となる。
【0009】
上記溶媒としては、上記チオール化合物を溶解できる溶媒であれば特に限定されないが、より容易に入手可能であることから、水を含むものであることが好適である。すなわち、上記溶媒溶液(上記チオール化合物を溶媒中に溶解した溶液)が水溶液である形態もまた、本発明の好適な形態の1つである。
【0010】
上記溶媒溶液における溶媒の使用量としては、上記チオール化合物を充分に溶解できる量であれば特に限定されるものではないが、上記チオール化合物を乾燥すると多量化が進行する一方で、ほとんど溶媒のない状態でも、後述するように溶媒を少量含んだウェットな状態であれば多量化を充分に抑制することができるため、溶媒量は、上記溶媒溶液の全量100質量%に対し、多量化の抑制のために0.1質量%以上であることが好ましい。より好ましくは1質量%以上であり、更に好ましくは5質量%以上である。また上記と同様の理由で、上記チオール化合物と溶媒の合計量100質量%に対する上記チオール化合物の上限としては、99.9質量%以下であることが好ましい。より好ましくは99質量%以下であり、更に好ましくは95質量%以下である。ハンドリング向上等のために液化が必要な場合には、更に溶媒濃度を高くしてもよい。
また溶媒量の上限は特に限定されるものではないが、上記チオール化合物を原料として反応に供する場合には、極端に溶媒量が多いと支障を生じることがあるため、上記溶媒溶液の全量100質量%に対し、80質量%以下であることが好ましい。より好ましくは70質量%以下であり、更に好ましくは60質量%以下である。また上記と同様の理由で、上記チオール化合物と溶媒の合計量100質量%に対する上記チオール化合物の下限としては、20質量%以上であることが好ましい。より好ましくは30質量%以上であり、更に好ましくは40質量%以上である。
【0011】
上記溶媒溶液としてはまた、アルカリ性が強くなるとチオール化合物が多量化物を形成し易くなることから、pH9以下であることが好適である。なお、強アルカリ下では、チオール化合物はイオン化反応経由で多量化すると推測される。pH値としては、より好ましくは8以下であり、更に好ましくは7以下であり、特に好ましくは6.5以下であり、最も好ましくは6以下である。また、酸性が強くなり過ぎても多量化するおそれがあることから、2以上であることが好適である。なお、強酸下では、チオール化合物はラジカル反応経由で多量化すると推測される。より好ましくは4以上であり、更に好ましくは5以上である。
なお、pHの調整は、例えば、NaOH水溶液を投入することによって行うことができる。
【0012】
上記保存方法はまた、酸化防止剤を用いるものであることが好適である。これは、多量化の要因の一つとして、チオール化合物の酸化反応が考えられるためであり、酸化防止剤を使用することによって多量化物の発生をより充分に抑制できることとなる。このため、例えば、上記チオール化合物が溶解された溶液を加熱した場合であっても、メルカプト基から発生するラジカルを捕捉できるため、多量化を充分に抑制することが可能となる。
【0013】
上記酸化防止剤を用いる形態としては、上記チオール化合物の製造工程中に酸化防止剤を添加するものであってもよいし、製造後、上述したようにして溶媒と共存させる際に添加するものであってもよい。製造工程中に添加する場合には、例えば、エステル化反応工程時や、脱溶媒工程時や、精製工程時のいずれの段階でなされてもよく、各工程の途中でなされてもよい。製造後に溶媒と共存させる際に添加する場合には、溶媒と共存させる前や、溶媒と共存させるのと同時に、また溶媒と共存させた後に該生成物中に添加するものであってもよい。中でも、製造後、溶媒と共存させるのと同時に、又は、溶媒と共存させた後に該生成物中に酸化防止剤を添加することが好適である。
【0014】
上記酸化防止剤としては特に限定されず、通常使用されているものを用いればよいが、例えば、フェノチアジン及びその誘導体;ハイドロキノン、カテコール、レゾルシノール、メトキノン、ブチルハイドロキノン、ブチルカテコール、ナフトハイドロキノン、ジブチルヒドロキシトルエン、ブチルヒドロキシアニソール、トコフェロール、トコトリエノール、カテキン等のフェノール化合物;トリ−p−ニトロフェニルメチル、ジフェニルピクリルヒドロジン、ピクリン酸等のニトロ化合物;ニトロソベンゼン、クペロン等のニトロソ化合物;ジフェニルアミン、ジ−p−フルオロフェニルアミン、N−(3−N−オキシアニリノ−1,3−ジメチルブチリデン)アニリンオキシド等のアミン系化合物;TEMPOラジカル(2,2,6,6−tetramethyl−1−piperidinyloxyl)、ジフェニルピクリルヒドラジル、ガルビノキシル、フェルダジル等の安定ラジカル;アルコルビン酸やエリソルビン酸及びその塩又はエステル;ジチオベンゾイルジスルフィド;塩化銅(II);メルカプトエタノール、ジチオスレイトール、グルタチオン等のチオール類;Tris(2-carboxyethyl)phosphine塩酸塩等が挙げられ、これらは、単独で用いても2種以上を併用してもよい。中でも、ラジカル捕捉剤や重合禁止剤としての機能をより有効に発揮できる化合物である、フェノチアジン及びその誘導体、フェノール系化合物、アスコルビン酸やエリソルビン酸及びそのエステルが好適であり、フェノチアジン、ハイドロキノン、メトキノンがより好適である。
【0015】
上記酸化防止剤の添加量としては、上記チオール化合物の多量化を効果的に防止できれば特に限定されるものではないが、例えば、上記チオール化合物の質量(固形分)に対し、酸化防止剤の質量で10ppm以上であることが好ましく、また、5000ppm以下であることが好ましい。この範囲内に設定することによって、上記チオール化合物の特性を充分に保持したまま、酸化防止剤の作用効果をより充分に発揮することができるが、5000ppmを超えると、上記チオール化合物の性能をより充分に発揮できなかったり、着色したりするおそれがある。より好ましくは20ppm以上であり、更に好ましくは50ppm以上であり、特に好ましくは100ppm以上である。また、より好ましくは2000ppm以下であり、更に好ましくは1000ppm以下であり、特に好ましくは500ppm以下である。
【0016】
上記保存方法においてはまた、低温で保存することが好適である。保存温度が高すぎると、多量化が進行しやすいからである。これは、高温では上記チオール化合物のチオール基(メルカプト基)が熱によりラジカル化し、別のチオール基と反応してジスルフィド化することにより、多量化すると推測される。具体的には、保存対象とするチオール化合物それぞれによって適宜設定することが好適であるが、60℃以下が好適である。保存条件を容易に維持し得るという観点からは、より好ましくは50℃以下であり、更に好ましくは40℃以下であり、特に好ましくは30℃以下である。保存コストの観点からは、−25℃以上が好適である。より好ましくは0℃以上であり、更に好ましくは10℃以上であり、特に好ましくは20℃以上である。
【0017】
本発明で保存対象とするチオール化合物は、ポリアルキレングリコール鎖を有するものであるが、該ポリアルキレングリコール鎖の含有量は、上記チオール化合物100質量%に対して50質量%以上であることが好適である。これにより、上記チオール化合物におけるポリアルキレングリコール鎖の寄与率が高くなることから、上記チオール化合物の特性を、ポリアルキレングリコール鎖を適宜選択することによって容易に調節することが可能となる。より好ましくは70質量%以上であり、更に好ましくは80質量%以上である。
【0018】
上記ポリアルキレングリコール鎖としては、炭素数2〜18のアルキレンオキシド基から構成されるものであることが好適であり、アルキレンオキシドとしては、例えば、エチレンオキシド、プロピレンオキシド、1,2−ブチレンオキシド、2,3−ブチレンオキシド、スチレンオキシド、エピクロルヒドリン等が挙げられる。なお、2種以上のアルキレンオキシド基から構成される場合、これらのアルキレンオキシド基は、ブロック状に導入されていてもよいし、ランダム状に導入されていてもよい。
【0019】
上記炭素数2〜18のアルキレンオキシド基としてはまた、本発明のチオール化合物に求められる用途等に応じて適宜選択することが好ましく、例えば、セメント混和剤成分の製造のために用いる場合には、セメント粒子との親和性の観点から、主として炭素数2〜8程度の比較的短鎖のアルキレンオキシド基(オキシアルキレン基)であることが好適である。より好ましくは、主として炭素数2〜4のアルキレンオキシド基であり、更に好ましくは、主としてエチレンオキシド基である。中でも、全アルキレンオキシド基100質量%に対し、エチレンオキシド基を50質量%以上含む態様であることが好適であり、このような構成により、上記チオール化合物がより高い親水性を有することとなる。特に好ましくは、エチレンオキシド基を75質量%以上含む態様である。
【0020】
またアルキレンオキシド基として炭素数3以上のアルキレンオキシド基を含む場合には、上記チオール化合物にある程度の疎水性を付与することが可能となるため、上記チオール化合物をセメント混和剤に使用した場合には、セメント粒子に若干の構造(ネットワーク)をもたらし、セメント組成物の粘性やこわばり感を低減することができる。その一方で、炭素数3以上のアルキレンオキシド基を導入し過ぎると、上記チオール化合物の疎水性が高くなり過ぎることから、かえってセメント粒子を分散させる性能が充分とはならないおそれがある。このため、全アルキレンオキシド基100質量%に対する炭素数3以上のアルキレンオキシド基の含有量は、30質量%以下であることが好ましい。より好ましくは25質量%以下であり、更に好ましくは20質量%以下であり、特に好ましくは5質量%以下である。
なお、上記チオール化合物に求められる用途によっては、炭素数3以上のアルキレンオキシド基を含まない態様が好ましい場合もある。
【0021】
上記ポリアルキレングリコール鎖におけるアルキレングリコール(アルキレンオキシド基)の平均付加モル数としては、20〜500であることが好適である。20以上の数とすることにより、上記チオール化合物にポリアルキレングリコール鎖に基づく性能を充分に発揮させることが可能となり、また、nが500を超える場合には、上記チオール化合物を製造するために使用する原料化合物の粘性が増大したり、反応性が充分とはならない等、作業性の点で好適なものとはならないおそれがある。好ましくは40以上であり、より好ましくは80以上であり、更に好ましくは90以上であり、より更に好ましくは100以上であり、特に好ましくは110以上であり、最も好ましくは120以上である。また、好ましくは400以下であり、より好ましくは350以下であり、更に好ましくは300以下であり、より更に好ましくは280以下であり、特に好ましくは250以下であり、最も好ましくは220以下である。
【0022】
上記チオール化合物としてはまた、本発明では高分子量のチオール化合物であっても上述したように溶媒と共存させれば多量化を充分に抑制することができるため、重量平均分子量の好適な範囲は特に限定されず、上記チオール化合物に求められる性能に応じて適宜設定すればよい。例えば、本発明のチオール化合物をセメント混和剤や洗剤用ビルダー等に使用する場合、重量平均分子量は、500以上であることが好適であり、より好ましくは1000以上、更に好ましくは2000以上である。また、粘性が高くなり過ぎることを考慮すると、20000以下であることが好適である。より好ましくは15000以下、更に好ましくは10000以下である。
【0023】
上記チオール化合物の中でも、重量平均分子量が1000以上であることが好適であり、このように上記チオール化合物が重量平均分子量1000以上である形態は、本発明の好適な形態の1つである。このようなチオール化合物を保存対象とすることにより、長期間にわたってチオール化合物の多量を抑制して安定に保存するという本発明の作用効果を充分に発揮できることとなる。
なお、メルカプト基から水素が容易に引き抜かれてラジカルが生成し重合開始点となるというチオール化合物の性質を生かして上記チオール化合物を各種用途に使用する場合には、上記チオール化合物は、単量体として機能し得るものであることが好適である。すなわち、上記チオール化合物が単量体である形態もまた、本発明の好適な形態の1つである。
【0024】
上記チオール化合物としては更に、下記一般式(1);
【0025】
【化1】

【0026】
(式中、R及びRは、同一又は異なって、炭素数1〜18の炭化水素基を表す。AOは、炭素数2〜18のアルキレンオキシド基を表し、2種以上のアルキレンオキシド基を有していてもよい。p、q、s、t及びuは、同一若しくは異なって、0又は1である。rは、AOで表されるアルキレンオキシド基の平均付加モル数を表し、20〜500の数である。)で表される化合物であることが好適である。
【0027】
上記一般式(1)において、R及びRは、同一又は異なって、炭素数1〜18の炭化水素基を表すが、例えば、炭素数1〜18の直鎖又は分岐鎖アルキレン基、フェニル基、アルキルフェニル基、ピリジニル基、チオフェン、ピロール、フラン、チアゾール等の芳香族基等が挙げられる。
なお、後述するように、ポリオキシアルキレングリコールに、同一分子内にカルボキシル基及びメルカプト基を有する化合物をエステル化して上記チオール化合物を得る場合には、上記R1及びR2は、メルカプトカルボン酸残基(メルカプト基とカルボキシル基を除いた二価の有機残基)となり得る。有機残基は、例えば、水酸基、アミノ基、シアノ基、カルボニル基、カルボキシル基、ハロゲン基、スルホニル基、ニトロ基、ホルミル基等で一部置換されていてもよい。
【0028】
上記一般式(1)において、AOは、同一又は異なって、炭素数2〜18のアルキレンオキシド基を表すが、アルキレンオキシド基1種からなるものであってもよいし、2種以上のアルキレンオキシド基から構成されるものであってもよい。なお、2種以上のアルキレンオキシド基から構成される場合、これらのアルキレンオキシド基は、ブロック状に導入されていてもよいし、ランダム状に導入されていてもよい。
上記アルキレンオキシド基の好適な形態等については、上述したとおりである。
上記一般式(1)でnで表されるアルキレンオキシド基の平均付加モル数についても、上述したとおりである。
本発明において、特に好適なチオール化合物としては、上記一般式(1)において「R1」及び「(R2)t」がそれぞれ炭素数2の置換基を有してもよいアルキレン基であって、「s」及び「u」が1であり、かつAOがエチレンオキシド基である化合物や、上記一般式(1)において「R1」が炭素数2の置換基を有してもよい炭化水素基であって、「(R2)t−(S)u−H」がメチル基(u=0)であり、かつAOがエチレンオキシド基である化合物である。
【0029】
なお、上記(1)で表されるチオール化合物のように本発明で保存対象とするチオール化合物がエステル結合を有する場合には、該チオール化合物は、水の存在下で加水分解することがある。例えば、上記一般式(1)において、R及びRが炭素数2の炭化水素基、r、s、t及びuが1、AOが炭素数2のアルキレンオキシド基(エチレンオキシド基)を表すものである場合には、該チオール化合物は、水の存在下で下記のように加水分解する。
【0030】
【化2】

【0031】
上記反応式中、「PEG」とは、ポリエチレングリコール鎖を意味し、「MPA」とは、3−メルカプトプロピオン酸を意味する。
【0032】
本発明においては、上記チオール化合物の多量化を抑制することを主な効果とするが、溶媒と共存させたときの液体中のpHを調整することによって加水分解反応についてもある程度抑制することができる。pHの調整は、例えばNaOH水溶液を投入することによって行うことができる。加水分解反応を抑制するためには、溶液のpHとしては、3以上とすることが好ましく、より好ましくは4以上であり、また、7以下とすることが好ましく、より好ましくは6以下であり、更に好ましくは5.5以下である。
【0033】
上記チオール化合物を製造する方法としては特に限定されないが、例えば、アルキレンオキサイド基を含む有機残基を有する化合物に、同一分子内にカルボキシル基又は水酸基とメルカプト基とを有する化合物をエステル化することにより製造することが好適であり、これによって、より高分子量のチオール化合物を得ることが可能となる。より好ましくは、ポリアルキレングリコール鎖を有する化合物に、同一分子内にカルボキシル基とメルカプト基とを有する化合物をエステル化することによって得ることである。なお、反応に使用する各成分は、それぞれ単独で使用してもよいし、2種以上組み合わせて用いてもよい。
以下では、アルキレンオキサイド基を含む有機残基を有する化合物に、カルボキシル基又は水酸基とメルカプト基とを有する化合物をエステル化することにより製造する方法について更に説明する。
【0034】
上記製造方法において、アルキレングリコール基を含む有機残基を持つ化合物(以下、単に「アルキレングリコール基含有化合物」とも称す。)は、例えば、ポリアルキレングリコールや、このポリアルキレングリコールにカルボキシル基を導入した化合物等が挙げられる。ポリアルキレングリコールは市販のものであってもよいし、アルキレンオキシドの1種以上を、水又はアルコールと反応させて合成して得てもよい。
【0035】
上記ポリアルキレングリコールを合成によって得る場合に使用可能なアルキレンオキシドとしては、例えば、エチレンオキシド、プロピレンオキシド、1,2−ブチレンオキシド、2,3−ブチレンオキシド、スチレンオキシド、エピクロルヒドリン等が挙げられる。
上記ポリアルキレングリコールを合成によって得る場合に使用可能なアルコールとしては、例えば、1価アルコールや2価以上の多価アルコールが挙げられ、例えば、1価アルコールとしては、メタノール、エタノール、1−プロパノール、2−プロパノール、1−ブタノール、2−ブタノール、1−ペンタノール、2−ペンタノール、3−ペンタノール、1−ヘキサノール、2−ヘキサノール、3−ヘキサノール、オクタノール、2−エチル−1−ヘキサノール、ノニルアルコール、ラウリルアルコール、セチルアルコール、ステアリルアルコール等の炭素数1〜30の脂肪族アルコール類;シクロヘキサノール等の炭素数3〜30の脂環族アルコール類;(メタ)アリルアルコール、3−ブテン−1−オール、3−メチル−3−ブテン−1−オール等の炭素数3〜30の不飽和アルコール類等が挙げられ、2価以上の多価アルコールとしては、エチレングリコール、1,2−プロピレングリコール、トリメチロールプロパン、1,4−ブタンジオール、1,2,4−ブタントリオール、グリセリン、ソルビトール、ショ糖、ブドウ糖、ペンタエリスリトール等の多価アルコール類が挙げられる。
【0036】
上記アルキレンオキシドと水又はアルコールとの反応は、通常の手法で行えばよく、例えば、特開2002−173593号公報に記載の方法が挙げられる。通常、触媒の存在下、アルキレンオキシドと水又はアルコールとの混合溶液を加圧下で50〜200℃に加熱することによって行われる。この場合、全てのアルキレンオキシドを一時に仕込んだ後に反応を行ってもよいし、予め水又はアルコールとアルキレンオキシドの一部を仕込んだ反応容器に残りのアルキレンオキシドを連続添加又は逐次添加しながら反応を行ってもよい。
なお、ポリアルキレングリコールがカルボキシル基を有するものであることを要する場合には、通常の手法によってポリアルキレングリコールにカルボキシル基を導入すればよい。例えば、ポリアルキレングリコールが有する水酸基を酸化する方法、モノクロル酢酸でエーテル化する方法、多価カルボン酸でエステル化する方法等が挙げられる。
【0037】
上記同一分子内にカルボキシル基又は水酸基とメルカプト基とを有する化合物(以下、単に「チオール基含有化合物」とも称す。)としては、アルキレングリコール基含有化合物中にメルカプト基を導入することができるものであれば特に限定されず、例えば、チオグリコール酸、2−メルカプトプロピオン酸、3−メルカプトプロピオン酸、メルカプトイソブチル酸、チオリンゴ酸、メルカプトステアリン酸、メルカプト酢酸、メルカプト酪酸、メルカプトオクタン酸、メルカプト安息香酸、メルカプトニコチン酸、システイン、N−アセチルシステイン、メルカプトチアゾール酢酸等のメルカプト基含有カルボン酸等が挙げられる。中でも、チオグリコール酸、3−メルカプトプロピオン酸、チオリンゴ酸、メルカプトイソブチル酸が好適である。
【0038】
上記エステル化反応としては、通常の液相中におけるエステル反応の常法に従って行えばよいが、更に、例えば減圧したり、ヘキサン、シクロヘキサン、トルエン、ヘプタン、キシレン等のエントレーナーを用いて行ってもよい。また、必要により、硫酸、パラトルエンスルホン酸等の酸触媒を用いて行ってもよい。
また反応時間としては、用いる酸触媒の種類や量、アルキレングリコール基含有化合物とチオール基含有化合物との混合比、溶液濃度等に応じて適宜設計すればよい。
【0039】
上記アルキレングリコール基含有化合物とチオール基含有化合物との混合比としては、望まれるチオール化合物の純度やコスト、合成法に応じて下記のように選択すればよい。
(1)アルキレングリコール基含有化合物由来の反応に供される水酸基やカルボキシル基等の官能基量に対して、チオール基含有化合物由来の水酸基やカルボキシル基をモル比で大過剰とする。具体的には、反応速度の観点から、モル比としては、2倍以上が好ましく、より好ましくは3倍以上である。また、製造コストの観点から、10倍以下が好ましく、より好ましくは5倍以下である。この方法により、短時間で純度良くチオール化合物を得ることができる。反応後の粗生成物はそのまま本発明の保存方法に用いることができるが、必要に応じて精製し、未反応物を除去してもよい。
【0040】
(2)アルキレングリコール基含有化合物由来の反応に供される水酸基やカルボキシル基等の官能基量に対して、チオール基含有化合物由来の水酸基やカルボキシル基をモル比で2倍以下とする。具体的には、収率の観点から、モル比としては、0.3倍以上が好ましく、より好ましくは0.5倍以上、更に好ましくは0.7倍以上、特に好ましくは0.8倍以上である。また、未反応物の残存量の観点から、1.8倍以下が好ましく、より好ましくは1.5倍以下、更に好ましくは1.3倍以下、特に好ましくは1.2倍以下である。反応後の粗生成物は必要に応じて精製してもよいが、この方法では未反応のチオール基含有化合物が少ないため、これを除去する操作を省略できることが多く、製造工程をより簡略化することができる。
【0041】
上記製造方法においてはまた、エステル化反応後の反応溶液のpHを調整する工程を含んでもよく、これにより、生じたエステルが脱溶媒工程によって加水分解されることを充分に防ぐことができる。pHの調整は、上記エステル化反応によって得られた反応溶液中に、例えばNaOH水溶液を投入することによって行うことができる。加水分解反応を抑制するためには、反応溶液のpHとしては、3以上とすることが好ましく、より好ましくは4以上であり、また、7以下とすることが好ましく、より好ましくは6以下であり、更に好ましくは5.5以下である。
【0042】
上記エステル化反応により得られた反応粗生成物(本発明で保存対象とするチオール化合物を含むもの)は、エステル反応を行った後の反応溶液(すなわち、pH未調整の反応溶液)又はpH調整後の反応溶液を室温まで冷却することによって固化することが好適である。これにより、反応溶液から反応粗生成物を容易に取得することができる。
得られた反応粗生成物の固化物は、精製してもよいが、この場合には、反応粗生成物の固化物を乾燥・粉砕した後、未反応の原料化合物等の不純物は溶解するもののチオール化合物は溶解しない溶剤、例えばジエチルエーテル等を用いて固化物を洗浄してもよい。
なお、作業工程が増えることによる製造コストの高騰、及び、溶剤の使用による環境への負荷を考慮すると、上記溶剤を用いた洗浄作業は避けることが好ましい。このため、上述したように、原料化合物であるアルキレングリコール基含有化合物とチオール基含有化合物との混合比は、アルキレングリコール基含有化合物由来の反応に供される水酸基やカルボキシル基等の官能基量に対して、チオール基含有化合物由来の水酸基やカルボキシル基をモル比で2倍以下となるように行うことが好適である。
本発明の保存方法において、上記製造方法により得られるチオール化合物を保存しようとする場合には、上述のようにして得られた反応粗生成物の固化物又は更に精製工程を経て得た固化物を溶媒共存下で保存することとなる。
【0043】
このように本発明の保存方法によれば、長期間にわたってチオール化合物を安定に保存することができるため、長期間保存後であってもチオール化合物の特性を充分に発揮することができ、種々の用途に好適に用いることが可能となる。例えば、チオール化合物を単量体成分として用いて得られる重合体は、接着剤、シーリング剤、ポリウレタン等の各種重合体への柔軟性付与成分、セメント混和剤、洗剤ビルダー等の用途に特に有用なものであり、中でも、セメント混和剤や洗剤ビルダーに好適に使用することができる。
【発明の効果】
【0044】
本発明のチオール化合物の安定な保存方法は、上述の構成よりなり、長期間にわたってチオール化合物を安定的に保存することができるため、工業的規模での貯蔵や移送や輸送が安定的に安全かつ容易に実施でき、また、長期間保存後のチオール化合物を種々の用途に用いる場合にもチオール化合物の特性を充分に発揮でき、工業的に非常に有用な手法である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0045】
以下に実施例を掲げて本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例のみに限定されるものではない。なお、特に断りのない限り、「部」は「重量部」を、「%」は「質量%」を意味するものとする。
【0046】
本明細書において、チオール化合物の重量平均分子量及びポリアルキレングリコール鎖(PAG)におけるアルキレンオキシド基(AO基)の平均付加モル数としては、下記ゲルパーミーエーションクロマトグラフィー(GPC)分析法により測定することができる。
<GPC分析法>
装置:Waters Alliance(2695)
解析ソフト:Waters社製、Empowerプロフェッショナル+GPCオプション
使用カラム:東ソー(株)製、TSK guard column SWXL+TSKgel G4000SWXL+G3000SWXL+G2000SWXL
検出器:示差屈折率計(RI)検出器(Waters 2414)、多波長可視紫外(PDA)検出器(Waters 2996)
溶離液:水10999g、アセトニトリル6001gの混合溶媒に酢酸ナトリウム三水和物115.6gを溶解し、更に酢酸でpH6.0に調整した溶液を使用。
較正曲線作成用標準物質:ポリエチレングリコール(PEG)[ピークトップ分子量(Mp)272500、219300、107000、50000、24000、12600、7100、4250、1470]
較正曲線:上記ポリエチレングリコールのMp値(ピークトップ分子量)と溶出時間とを基礎にして3次式で作成する。
流量:1.0mL/min
カラム温度:40℃
測定時間:45分
試料液注入量:100μL(PAG及びチオール化合物は試料濃度0.4質量%)
【0047】
<GPC解析条件(チオール化合物の分析)>
RIクロマトグラムにおいて、溶出直前・溶出直後のベースラインにおいて平らに安定している部分を直線で結び、ピークを検出・解析する。多量体や不純物が目的物ピークに一部重なって検出された場合は、ピークの重なり部分の最凹部において垂直分割し、目的物の分子量を測定する。
なお、チオール化合物(単量体)純分量及び多量化物量の計算は、RI検出器によるピーク面積の比より、下記のようにして計算する。
単量体純分量=(単量体面積)/(多量化物ピーク面積+単量体面積)
多量化物量=(多量化物ピーク面積)/(多量化物ピーク面積+単量体面積)
したがって、合成後a日後の多量化物量の増加率は、以下のようにして求められる。
多量化物の増加率=(a日後の多量化物量−合成直後の多量化物量)/(a日後の多量化物量)
【0048】
<GPC解析条件(PAGの分析)>
RIクロマトグラムにおいて、溶出直前・溶出直後のベースラインにおいて平らに安定している部分を直線で結び、ピークを検出・解析する。多量体や不純物が目的ピークに一部重なって測定された場合は、ピークの重なり部分の最凹部において垂直分割し、目的物の分子量を測定する。アルキレンオキシド(AO)の平均付加モル数(n)は、Mn(数平均分子量)の値から計算する。
【0049】
またチオール化合物がエステル化反応を介して得られるものである場合、総エステル化率及び反応生成物中のジエステル化率(ジエステル量)の分析は、下記分析法により行うことができる。
<LC分析法>
装置:Waters Alliance(2695)
解析ソフト:Waters社製 Empowerプロフェッショナル+GPCオプション
カラム:GLサイエンス Inertsil ODS−2 ガードカラム+カラム(内径4.6mm×250mm×3本)
検出器:示差屈折率計(RI)検出器(Waters 2414)、多波長可視紫外(PDA)検出器(Waters 2996)
溶離液:アセトニトリル/100mM酢酸イオン交換水溶液=40/60(質量%)の混合物に30%NaOH水溶液を加えてpH4に調整した溶液を使用する。
流量:0.6mL/min
カラム温度:40℃
測定時間:90分間(サンプルによる)
試料液注入量:100μL(試料濃度1質量%の溶離液溶液)。
【0050】
<LC解析条件>
RI検出器によるピーク面積の比より、下記のようにして計算する。
総エステル化率=(モノエステルピーク面積+ジエステルピーク面積)/(PAG面積+モノエステルピーク面積+ジエステルピーク面積)
ジエステル化率(ジエステル量)=(ジエステルピーク面積)/(PAG面積+モノエステルピーク面積+ジエステルピーク面積)
したがって、合成後a日後のジエステル量の減少率は、以下のようにして求められる。
ジエステル量の減少率=(合成直後のジエステル量−a日後のジエステル量)/(合成直後のジエステル量)
【0051】
調整例1<ポリエチレングリコール(PEG)(3)の調整>
(1)PEG(1)(EOの平均付加モル数=22)の調整
温度計、圧力計、撹拌機、窒素導入口を備えた3.75Lオートクレーブに、トリエチレングリコール(日本触媒製、270g)、粉砕した水酸化ナトリウム(和光純薬製試薬特級、0.3g)を仕込んだ。系内を充分に窒素置換後、150℃に加温し、窒素を導入して系内圧を0.1MPaに調整した。系内温150±5℃、系内圧0.8MPa以下を保ちながら、エチレンオキシド(「EO」ともいう)(日本触媒社製、1530g)を逐次添加した。添加終了後、1時間150℃に保った後、降温し、PEG(1)を得た。
(2)PEG(2)(EOの平均付加モル数=92)の調整
温度計、圧力計、撹拌機、窒素導入口を備えた3.75Lオートクレーブに、PEG(1)(447g)、48%水酸化ナトリウム水溶液(2.3g)を仕込んだ。系内を100Torrに減圧後、100℃に加温し、100Torr100℃で1時間窒素をバブリングして水分を留去した。続いて150℃に加温し、窒素を導入して系内圧を0.1MPaに調整した。系内温150±5℃、系内圧0.8MPa以下を保ちながら、エチレンオキシド(日本触媒社製、1497g)を逐次添加した。添加終了後、1時間150℃に保った後、降温し、PEG(2)を得た。
(3)PEG(3)(EOの平均付加モル数=286)の調整
温度計、圧力計、撹拌機、窒素導入口を備えた3.75Lオートクレーブに、PEG(2)(433.95g)を仕込んだ。系内を100Torrに減圧後、100℃に加温し、100Torr100℃で1時間窒素をバブリングして水分を留去した。続いて150℃に加温し、窒素を導入して系内圧を0.1MPaに調整した。系内温150±5℃、系内圧0.8MPa以下を保ちながら、エチレンオキシド(日本触媒社製、1063.5g)を逐次添加した。添加終了後、1時間150℃に保った後、降温し、PEG(3)を得た。GPC分析結果は、Mw=12923、Mn=12602、単量体純度98.9%であった。
【0052】
調整例2<メトキシポリエチレングリコール(メトキシPEG)の調整>
調整例1と同様の方法で、出発原料をメタノールとしてメトキシポリエチレングリコール(EO付加数100モル)を合成した。EOの付加は、10モル、25モル及び100モルの3段階に分けて行った。
【0053】
実施例1
(1)エステル化工程
ジムロート冷却管付の水分定量受器、テフロン(登録商標)製の撹拌翼と撹拌シール付の撹拌器、ガラス保護管付温度センサーを備えた500mLガラス製反応器内に、PAGとしてポリエチレングリコール(アルドリッチ社製、商品番号373001、Mn=4656、n=105.8、320g)、カルボン酸基含有チオールとして3−メルカプトプロピオン酸(14.59g、PAGのOH基に対して100mol%)、エステル化用酸触媒としてp−トルエンスルホン酸1水和物(6.69g、PAGとチオールとの質量和に対して2質量%)、脱水溶媒としてシクロヘキサン(16.73g、PAGとチオールとの質量和に対して5質量%)を仕込んだ。水分定量受器をシクロヘキサンで満たした後、反応系内を撹拌しながら、還流するまで加温した。反応系内の温度が110±5℃になるように途中でシクロへキサンを加えながら48時間加温した。またこの時、加熱源であるオイルバスの温度は120±5℃であった。
加温終了後のLC分析結果は、総エステル化率は99.7%、ジエステル/総エステル比は82.9%であった。GPC分析結果は、単量体量89.9%、残りは多量体であった。
【0054】
(2)脱溶媒工程
エステル化工程後、固化しないように撹拌しながら60℃以下に放冷した後、30%NaOH水溶液(4.46g、NaOHがp−トルエンスルホン酸に対して95mol%)と水(131.04g、PAGチオール濃度を約50%に調整)との混合物を速やかに反応器内に投入した。約70℃まで昇温し、還流が落ち着いてから徐々に約100℃まで加温してシクロへキサンを留去した。加温を停止し、放冷しながら窒素を30mL/分で90分バブリングして残存シクロヘキサンを除去し、目的化合物水溶液を得た。
LC分析結果は、総エステル化率は99.5%、ジエステル/総エステル比は81%であった。GPC分析結果は、単量体量83.8%、多量体量16.2%であり、脱溶媒前より多量体が6.1%増加した。
【0055】
実施例2
(1)エステル化工程
ジムロート冷却管付の水分定量受器、テフロン(登録商標)製の撹拌翼と撹拌シール付の撹拌器、ガラス保護管付温度センサーを備えた500mLガラス製反応器内に、PAGとしてポリエチレングリコール(アルドリッチ社製、商品番号373001、Mn=4656、n=105.8、320g)、カルボン酸基含有チオールとして3−メルカプトプロピオン酸(16.05g、PAGのOH基に対して110mol%)、エステル化用酸触媒としてp−トルエンスルホン酸1水和物(6.72g、PAGとチオールとの質量和に対して2質量%)、酸化防止剤としてフェノチアジン(0.0672g、PAGとチオールとの質量和に対して200ppm)、脱水溶媒としてシクロヘキサン(16.80g、PAGとチオールの質量和に対して5質量%)を仕込んだ。水分定量受器をシクロへキサンで満たした後、反応系内を撹拌しながら、還流するまで加温した。反応系内の温度が110±5℃になるように途中でシクロへキサンを加えながら48時間加温した。またこの時、加熱源であるオイルバスの温度は120±5℃であった。
加温終了後のLC分析結果は、総エステル化率は99.5%、ジエステル/総エステル比は93.1%であった。GPC分析結果は、単量体量92.9%、残りは多量体であった。
【0056】
(2)脱溶媒工程
エステル化工程後、固化しないように撹拌しながら60℃以下に放冷した後、30%NaOH水溶液(4.48g、NaOHがp−トルエンスルホン酸に対して95mol%)と水(131.04g、PAGチオール濃度を約50%に調整)の混合物を速やかに反応器内に投入した。約70℃まで昇温し、還流が落ち着いてから徐々に約100℃まで加温してシクロヘキサンを留去した。加温を停止し、放冷しながら窒素を30mL/分で90分バブリングして残存シクロヘキサンを除去し、目的化合物水溶液を得た。冷却後pH=4.73(25.2℃)であった。
LC分析結果は、総エステル化率は99.2%、ジエステル/総エステル比は90.1%であった。GPC分析結果は、単量体量93.2%、多量体量6.8%で、多量体量は0.3%しか増加しなかった。
【0057】
実施例3
各種化合物の仕込量や使用量及びエステル化工程での反応時間を表1に記載のように変更した他は、実施例2と同様にエステル化工程及び脱溶媒工程を行い、目的化合物水溶液を得た。
エステル化工程後及び脱溶媒工程後の各分析結果を表1に示す。
【0058】
実施例4
エステル化工程においてPAGとして調整例1で得たPEG(3)を使用し、各種化合物の仕込量や使用量及びエステル化工程での反応時間を表1に記載のように変更した他は、実施例2と同様にエステル化工程及び脱溶媒工程を行い、目的化合物水溶液を得た。
エステル化工程後及び脱溶媒工程後の各分析結果を表1に示す。
【0059】
実施例5
(1)エステル化工程
ジムロート冷却管付の水分定量受器、テフロン(登録商標)製の撹拌翼と撹拌シール付の撹拌器、ガラス保護管付温度センサーを備えた500mLガラス製反応器内に、PAGとして調整例2で得たメトキシポリエチレングリコール(n=100、254.8g)、カルボン酸基含有チオールとして3−メルカプトプロピオン酸(30.2g、PAGのOH基に対して500mol%)、エステル化用酸触媒としてp−トルエンスルホン酸1水和物(5.7g、PAGとチオールの質量和に対して2質量%)、脱水溶媒としてシクロへキサン(14.25g、PAGとチオールの質量和に対して5質量%)を仕込んだ。水分定量受器をシクロヘキサンで満たした後、反応系内を撹拌しながら、還流するまで加温した。反応系内の温度が110±5℃になるように途中でシクロへキサンを加えながら14時間加温した。またこの時、加熱源であるオイルバスの温度は120±5℃であった。
加温終了後のLC分析結果は、エステル化率は100%、GPC分析結果は、単量体量はほぼ100%、多量体は痕跡量(trace)であった。
【0060】
(2)脱溶媒工程
エステル化工程後、室温まで放冷後、固化した反応混合物を粉砕し、体積比で約1.5倍のジエチルエーテルを加えて30分撹拌後、吸引ろ過して粉体を得た。この際、完全に乾燥しないように減圧度を調整した。更に、得られたウェットな粉体を同様の手順で2回以上洗浄した。得られたウェットな粉体に水(275g)を加えて溶解させ、40℃100Torrで残存エーテルを留去し、目的化合物水溶液を得た。GPC分析結果は、単量体量98.3%、多量体量1.7%であり、脱溶媒前より多量体量が1.7%増加した。
【0061】
比較例1
(1)エステル化工程
ジムロート冷却管付の水分定量受器、テフロン(登録商標)製の撹拌翼と撹拌シール付の撹拌器、ガラス保護管付温度センサーを備えた2Lガラス製反応器内に、PAGとしてポリエチレングリコール(アルドリッチ社製、商品番号373001、Mn=4656、n=105.8、320g)、カルボン酸基含有チオールとして3−メルカプトプロピオン酸(72.95g、PAGのOH基に対して500mol%)、エステル化用酸触媒としてp−トルエンスルホン酸1水和物(7.86g、PAGとチオールの質量和に対して2質量%)、脱水溶媒としてシクロへキサン(19.65g、PAGとチオールの質量和に対して5質量%)を仕込んだ。水分定量受器をシクロヘキサンで満たした後、反応系内を撹拌しながら、還流するまで加温した。反応系内の温度が110±5℃になるように途中でシクロへキサンを加えながら14時間加温した。またこの時、加熱源であるオイルバスの温度は120±5℃であった。
加温終了後のLC分析結果は、総エステル化率は99.4%、ジエステル/総エステル比は100%であった。GPC分析結果は、単量体量98.0%、残りは多量体であった。
【0062】
(2)脱溶媒工程
エステル化工程後、固化しないように撹拌しながら60℃以下に放冷した後、30%NaOH水溶液(5.51g、NaOHがp−トルエンスルホン酸に対して95mol%)を反応器内に投入した。
室温まで放冷後、固化した反応混合物を粉砕し、体積比で約1.5倍のジエチルエーテルを加えて30分撹拌後、吸引ろ過して粉体を得た。更に、得られた粉体を同様の手順で2回以上洗浄した。得られた粉体を室温100Torrで24時間以上乾燥し、粉体化合物を得た。
GPC分析結果は、単量体量4.8%、多量体量92.3%であり、ほとんど多量体化した。
【0063】
比較例2
エステル化工程においてPAGとして調整例1で得たPEG(3)を使用し、また酸化防止剤としてフェノチアジン(0.5421g)を更に仕込んでエステル化工程を行ったこと、並びに、各種化合物の仕込量や使用量及びエステル化工程での反応時間を表1に記載のように変更したこと以外は、比較例1と同様にエステル化工程及び脱溶媒工程を行い、粉体化合物を得た。
エステル化工程後及び脱溶媒工程後の各分析結果を表1に示す。
【0064】
【表1】

【0065】
表中の記載は、以下のとおりである。
PEG:ポリエチレングリコール
PEG(3):調整例1で得たPEG(3)
PEG(n):ポリエチレングリコール中のエチレンオキシドの平均付加モル数
3−MPA:3−メルカプトプロピオン酸
PTS・1HO:p−トルエンスルホン酸一水和物
PTZ:フェノチアジン
【0066】
表1より以下のことが分かる。
実施例1〜3と比較例1とをそれぞれ比較すると、いずれも反応中は脱水溶媒であるシクロヘキサンと溶融しており、反応中の多量体量は、むしろ比較例1の方が少なくなる(表1中のエステル化後GPC分析値参照。)。これは、反応時間=加温時間が短いため、チオールの熱ラジカル化由来による多量化が少ないためである。
しかし、その後の工程において、実施例1〜3では脱溶媒・水置換を水溶液化して行うため、乾燥工程がなく、この場合、反応後の多量体量は比較的少なかった。
一方、比較例1では、脱溶媒を固化・エーテル洗浄にて行い、最後に乾燥工程を行ったため、反応直後は少なかった多量体が乾燥により一気に増大したことが分かる。
すなわち、比較例1では生成物が脱溶媒・乾燥によりほとんど多量体化するのに対し、溶媒として水が存在する実施例1ではそれほど多量体化が進行せず、多量体化の抑制には溶媒の存在が効果的であることが分かった。
実施例4と比較例2との比較においても同様のことが分かる。
【0067】
また実施例5は、脱溶媒工程において比較例1とほぼ同様にエステル化工程を行った後、エーテル洗浄を行った例であるが、途中で乾燥していない点において比較例1と主に相違する(なお、エステル化工程で使用したPAGも異なる。)。
このような実施例5と比較例1との比較からも、多量体化の抑制には溶媒の存在が効果的であることが分かる。
【0068】
また実施例1(酸化防止剤不使用)、実施例2(酸化防止剤200ppm使用)及び実施例3(酸化防止剤500ppm使用)を比較すると、酸化防止剤が多いほど、エステル化後、脱溶媒後の多量体量が少なくなることから、酸化防止剤の存在により110℃の高温下でも多量体化が抑制できることが分かった。すなわち、合成反応中、高温(反応時110℃、脱溶媒時110℃)に数十時間おいても多量体生成を充分に抑制できるため、より低温である使用温度での長期保存中にも同様の効果が推測される。
【0069】
更に実施例1〜4と比較例1〜2とでは、最終的に前者が溶液として回収され、後者が固体として回収されるという相違があり、固体化(固化)が多量体化を促進するという可能性が考えられる。そのため、比較例1〜2における多量体の増大が、「乾燥」によるのか、又は、「固化」によるのかについて以下の検証を行った。なお、下記検証実験(実施例6〜9)では、実施例1〜4で得た水溶液を固化するため冷却しており、比較例1〜2とは環境温度が異なるため、厳密には条件が異なるものの、多量体増大の主要因が「乾燥」か又は「固化」かについては推測できるものと考えられる。
【0070】
実施例6〜9
実施例1〜4で得た水溶液をそれぞれ用い、水溶液のまま−20℃に冷却して固化した後、表2に記載の保存期間(単位:月)保存し、LC及びGPCにて分析を行った。結果を表2に示す。
表2の結果より、実施例1〜4で得た水溶液を−20℃に冷却して固化させて長期間保存しても、多量体の増加程度は比較例1〜2に比べて少ないため、多量体の増大は、「固化」が主原因ではなく、「乾燥」が主原因であると推測される。よって、多量体化は乾燥によって促進され、溶媒と共存させることで抑制できることが明らかとなった。
【0071】
【表2】

【0072】
実施例10
また実施例2で得た水溶液について、水溶液のまま40℃で保存した他は、実施例7と同様に保存して分析を行い、−20℃で保存した場合(実施例7)と比較検証を行った。
その結果、−20℃で保存する方(実施例7)が、エステルの減少率(=加水分解率)及び多量体増加率ともに非常に小さくなったことから、低温で保存する方が安定ということが分かった。
【0073】
実施例11〜15
実施例1で得た目的化合物水溶液のpH値を6〜9の5段階に設定した溶液を用意した。この5種類の溶液について、窒素雰囲気下、液温40℃で204日間にわたって保存し、0日後(合成直後)〜204日経過時点でのジエステル量及び多量化物量を上述したようにして測定し、0日後(合成直後)を基準とする1〜204日経過時におけるジエステル量の減少率及び多量化物量の増加率を算出した。表3にpHの経時変化、表4にジエステル量の経時減少率、表5に多量化物量の経時増加率を示す。また、これら表3〜5をグラフにしたものをそれぞれ図1〜3に示す。
なお、保存条件は、窒素雰囲気下、液温40℃を維持した。
【0074】
【表3】

【0075】
【表4】

【0076】
【表5】

【0077】
表3〜5及び図1〜3より以下のことが分かる。
表3及び図1より、pHは経時的に低下し、ある程度で一定になることが分かる。これは、ポリアルキレングリコールと3−MPAとのエステルが加水分解し、カルボン酸が生成していることを示唆している。
また表4及び図2より、pH6〜9の範囲において経時的にジエステル量が低下しており、徐々に加水分解が進行していることが分かる。加水分解の速度は遅く、40℃で5%/90日程度であり、pH依存性は少ない。
更に表5及び図3より、pH6〜9の範囲において経時的に多量体量が増加していることが分かる。また、多量体量の増加速度はpH=7〜9では大差ないが、それ以下ではpHが低いほど遅いことが明らかであり、pH=6ではpH=7〜9の半分程度まで抑制できることが分かった。
【図面の簡単な説明】
【0078】
【図1】図1は、pHの経時変化を示す表3をグラフ化したものである。
【図2】図2は、ジエステルの経時減少率を示す表4をグラフ化したものである。
【図3】図3は、多量化物の経時増加率を示す表5をグラフ化したものである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
チオール化合物を安定に保存する方法であって、
該チオール化合物は、ポリアルキレングリコール鎖を有し、
該保存方法は、該チオール化合物を溶媒との共存下で保存することを特徴とするチオール化合物の安定な保存方法。
【請求項2】
前記チオール化合物は、重量平均分子量1000以上であることを特徴とする請求項1に記載のチオール化合物の安定な保存方法。
【請求項3】
前記保存方法は、酸化防止剤を用いるものであることを特徴とする請求項1又は2に記載のチオール化合物の安定な保存方法。
【請求項4】
前記ポリアルキレングリコール鎖の含有量は、前記チオール化合物100質量%に対して50質量%以上であることを特徴とする請求項1〜3に記載のチオール化合物の安定な保存方法。
【請求項5】
前記チオール化合物は、下記一般式(1);
【化1】

(式中、R及びRは、同一又は異なって、炭素数1〜18の炭化水素基を表す。AOは、炭素数2〜18のアルキレンオキシド基を表し、2種以上のアルキレンオキシド基を有していてもよい。p、q、s、t及びuは、同一若しくは異なって、0又は1である。rは、AOで表されるアルキレンオキシド基の平均付加モル数を表し、20〜500の数である。)で表される化合物であることを特徴とする請求項1〜4に記載のチオール化合物の安定な保存方法。
【請求項6】
前記溶媒溶液は、水溶液であることを特徴とする請求項1〜5に記載のチオール化合物の安定な保存方法。
【請求項7】
前記溶媒溶液は、pH9以下であることを特徴とする請求項1〜6に記載のチオール化合物の安定な保存方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2009−185097(P2009−185097A)
【公開日】平成21年8月20日(2009.8.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−23235(P2008−23235)
【出願日】平成20年2月1日(2008.2.1)
【出願人】(000004628)株式会社日本触媒 (2,292)
【Fターム(参考)】