説明

チタンアルミナイドを主成分とする金属間化合物合金の基材表面を腐食に対して保護する方法

【課題】チタンアルミナイドを主成分とする金属間化合物合金の基材表面を腐食から保護する。
【解決手段】本発明による方法は、a)金属間化合物合金で形成された基材を調製する操作、b)保護する前記基材表面上に金を堆積する操作、c)保護する前記表面への制限された金の拡散を生じさせるために、前記金被膜を備える前記基材に、制御された条件で焼きなましを施す操作を含む。本発明は、特にガスタービンの部品、例えば、航空機エンジンの部品などに好適である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、酸素、硫黄化合物、およびハロゲン化合物による腐食に対してチタンアルミナイドを主成分とする金属間化合物合金の基材表面を保護する方法に関する。また、そのようにして得られた、保護された部品にも関する。
【背景技術】
【0002】
チタンアルミナイドは、その低密度と良好な力学的特性から、高温または中温での用途(例えば、特に航空機エンジンに搭載のガスタービンや、航空機エンジンの別の部品など)の有力候補である。その例として、フリータービン用のブレード(最高使用温度800℃)、およびターボジェットディフューザ(最高使用温度600℃)などが挙げられる。
【0003】
フリータービン用ブレードは、酸化に対して、ならびに酸素、硫酸ナトリウム(NaSO)、および低率の塩化ナトリウム(NaCl)からなる腐食環境に対して、実質的に耐性がなければならない。自動車運転者によってこの用途に使うように意図される合金は、高度な薄膜フラクションおよび内因性の高耐酸化性を有するタイプTiAl G4(本出願人によって開発された)の鋳造合金もしくは鍛造合金、または本出願人によって開発されたニオブを豊富に含む合金である。
【0004】
例えば、燃焼室の前に配置されているがガス流には触れるディフューザ(Tmax:600℃、Taverage:450〜500℃)などのより低温に晒される部品は、例えば海上ヘリコプターにとって重要な問題である塩水の霧などの厳しい環境による腐食の影響に耐えなければならない。この用途に使用される合金は、基本的にγ合金である従来の合金Ti−48Al−2Cr−2Nb(原子比%)(TiAl 48−2−2としても知られている)である。
【0005】
しかしながら、そのような想定される用途のためには、チタンアルミナイドの、酸化および腐食に対する(特にハロゲン化環境における)耐性を改良する必要がある。事実、本出願人によって行われたTiAl合金の腐食の研究は、一方で、硫酸ナトリウムによって腐食が発生することを示しており、他方では、この腐食が塩化ナトリウムの存在によって一層悪化することを示している。この研究から、この腐食は、塩化アルミニウムが形成され、この塩化アルミニウムが酸化反応を起こして塩化水素ガスを形成し、その塩化水素ガスがチタンアルミナイドと反応して塩化アルミニウムを再形成し、それが引き続き酸化反応を起こす、というメカニズムであることが示された。同じ現象はチタンでも生じる。したがって、これは自己永続型の腐食である。このタイプの腐食は、600℃以上で発生し、コンプレッサーまたはディフューザの高圧ブレードなどのような、とりわけ海霧に晒された部品に大きな損傷を与えることがわかっている。
【0006】
さらに、一般的に、700℃以上では、チタンアルミナイドは、酸化に対して耐性がほとんど無い。というのは、このような材料では、酸化において、安定している密封されたアルミナの層が発達しないからである。一般的に、形成された酸化物層は複雑で、多層、すなわち、非化学量論チタン酸化物の表面層、アルミナの中間層、およびアルミナとチタン酸化物との混合物で構成された内部層、で構成される。この後者の複雑な層の下に、アルミニウムが、そして時には窒化チタンの乏しい下層が見受けられる。数時間の酸化の後(300〜500時間)、緻密質アルミナ層の分解が観察され、非連続の小島状の形態で外層に向かって析出し、反応速度論的酸化において増加する。これは、「はく離」として知られている破断相である。少ない量の元素の添加によってTiAl化合物の反応速度論的酸化を減じることを可能にするメカニズムは、まだ議論を呼んでいる。
【0007】
最後に、表面上の高温での酸素の影響(酸化)は比較的周知であるが、一方、濃縮性の硫化物相または塩化物相の存在下における腐食の影響については、ほとんど明確に認識されていないことも重要である。
【0008】
この認識から出発して、本出願人は、そのチタンアルミナイドを主成分とする金属間化合物合金を保護するようなことを目的とした。
【0009】
ここでは、本発明がチタンアルミナイドにのみ適用可能であることに注目することが重要である。チタンアルミナイドは、秩序状態でのみ存在すべき中間相を形成するアルミニウムおよびチタンを主成分とする定義された化合物を輸送することが意図される。
【0010】
アルミニウムおよびチタンの2元状態図において想定される3つの相から、2つの化合物(すなわち、γ−TiAlを主成分とする合金および化合物α2−TiAlを主成分とする合金)のみが工業的に有用である。これらの化合物に対し、本発明は適用可能である。
【0011】
実際に、純金属またはそれらの合金と異なり、第三元素の拡散は、秩序相中において多いに減速する。したがって、本発明によるチタンアルミナイドを主成分とする合金は、その特性を改良する目的において、アルミニウムおよびアルミナ以外に他の金属成分(例えば、クロム、ニオブ、レニウム等)を含み得る。
【0012】
本出願人は、拡散によって、薄い金属間化合物合金TiAlの化学組成を変化させることが可能である金属元素を、その表面に堆積させて保護被膜を形成することによって、その金属間化合物合金を保護することを目的とした。
【0013】
事実、出願人の研究は幾多の困難に遭遇した。
【0014】
実際には、どのような環境でも有効であってかつ力学的特性の観点から合金に損傷を与えないような保護的な元素を見出すことが困難であることが、文献の分析全体から示されている。いくつかの元素(例えばNbなど)は、耐酸化性において非常に有用であるが、硫化物および塩化物に対する耐腐食性を著しく低下させる。
【0015】
この分析から出発して、筆者らは、チタンアルミナイドの保護に対する、金(酸素、硫化物、およびハロゲンによる腐食に対して大いに耐性を有する金属)を主成分とする被膜の貢献についての調査を望んだ。
【0016】
出願人の知る限り、金によるチタンアルミナイドの保護は、まだ調査されていなかった。
【0017】
しかしながら、金は、ある特定の金属間化合物合金の組成において見出されるが、それは、主にマクロ構造的な理由(特許文献1)から、濃度0.01〜0.05%(質量比)で、それらに添加されるものである。ミクロ構造に関しては、金が、以下の組成:TiAl+Ti(25〜35重量%)Au(<5重量%)Al(60〜70重量%)である二相合金の形成のために有利に使用され得ることが、特許文献2に教示されている。
【0018】
また、金は鑞付け用金属としても使用される。厚さ0.02〜0.1mmの金の薄片または堆積物を2つの部品の間に挿入して組み立て、その組立部品を約1400℃に加熱すると、融点が1367℃(特許文献3)の化合物Au16Ti84の共晶融解物を得ることができる。
【0019】
しかしながら、金は、TiAl+SiC繊維の、ある特定の合成方式の拡散障壁としても使用される。実際、特許文献4が教示するように、貴金属(銅、銀、または金)は溶融してチタンアルミナイドマトリックス中に拡散し、最終的にこの元素の含有量が少ない合金を形成するため、「拡散障壁」なる用語は不正確である。
【0020】
有用な技術は、特許文献5に記載されている。それにおいて、線維によって強化されているかまたはされていないチタンアルミナイド(α2またはγ)の強化にβ型チタン合金が適用されている。厚さ25〜100μmの延性合金の堆積は、拡散溶接または減圧下でのプラズマ溶射によってなされ得る。次いで、この層を、ルテニウム、ロジウム、パラジウム、オスミウム、イリジウム、金またはプラチナなどの貴金属を堆積させて、あるいはタングステンを堆積させた後にルテニウム、ロジウム、パラジウム、オスミウム、イリジウム、金、またはプラチナを堆積させて被覆する。貴金属の厚さは、0.5〜1.5μmである。好ましい貴金属はロジウム20%を含有するプラチナの合金である。これは主張されるわけではないが、明らかに、貴金属合金は使用中に延性合金層へと拡散する。この被膜(すなわち、チタニウム+貴金属の延性合金)の2つの層の間の膜厚比は、それが特定の保護層を得ることを目指すものではないことを示している。
【0021】
本発明で考慮にされた従来技術では、フジシロ等による2つの報告が、その力学的特性および高温での酸化特性の両方を改善するために、チタンを主成分とする化合物の表面に、膜厚0.5〜1.5μmで金を堆積させることが可能であることを教示している点において注目されるだろう(特許文献6および特許文献7)。
【0022】
これら3つの最新の特許は、上述のように、秩序相を形成する定義された化合物という意味において、金属間化合物合金ではなくチタンを主成分とする合金の表面に金を堆積させる。
【0023】
金−チタンの二元状態図から読み取れる値は、貴金属が、原子濃度比25%まで(すなわち、60質量%まで)チタンマトリックス中に溶解し得ることを示している。TiAu、TiAu、TiAu及びTiAuなどの定義された化合物は、この限界を超えて形成される。これは、タイプTA6Vの軽合金チタン合金に、金の堆積を適用されたとしても、使用中に基材と被膜との間で相互拡散が生じ、所望する保護効果は得られないであろうということを意味している。
【0024】
一方、銀を豊富に含む合金の環境に対する保護性または耐性を扱った文献は、比較的豊富である。この文献において注目されることは、銀により、高温(800℃まで)での耐酸化性は改善されるが、T イズミ等が非特許文献1において示したように、その腐食特性は、特に硫黄の存在下において、一般的に不十分であるため、普遍的な保護被膜とはなり得ない、ということである。さらに、L Niewolak等が非特許文献2に記したように、銀のTiAl合金中での最大溶解度は、4.8%で最大であり、この溶解度は、金属間化合物合金のアルミニウム含有量に応じて減少する。逆に、延性チタン合金中(6%未満)のように、アルミニウム含有量を大幅に減らせば、この元素の溶解度は増加すると言える。その結果、50倍以上厚いアルミ含有量の少ないチタン合金の堆積物の表面に1〜2μm程度堆積させても、使用中に貴金属元素がほとんど全て溶解してしまう。銀と金は、化学的に非常に近い元素である(元素周期表のIB属)。その結果、アルミ含有量の少ないチタン合金の表面上へ少量の金を堆積させても、使用中に、この元素が消失してしまうだろうと結論付けることができる。
【特許文献1】米国特許第5205876号明細書
【特許文献2】米国特許第5368660号明細書
【特許文献3】米国特許第5318214号明細書
【特許文献4】米国特許第5326525号明細書
【特許文献5】米国特許第5879760号明細書
【特許文献6】米国特許第4137370号明細書
【特許文献7】米国特許第4181590号明細書
【非特許文献1】“Sulfidation properties of TiAl±2 at.% X(X=V, Fe, Co, Cu, Nb, Mo, Ag and W) alloys at 1173 K and 1.3 Pa sulphur pressure in an H2S−H2 gas mixture”(Intermetallics 8(2000)891−901)
【非特許文献2】“Oxidation behaviour of Ag−containing TiAl−based intermetallics”(Intermetallics 12(2004)1387−1396)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0025】
したがって、従来技術においては、金の被覆を使用してチタンアルミナイドを主成分とする金属間化合物合金の基材の腐食から保護することは、当業者に対して教示も提案もされていなかった。
【課題を解決するための手段】
【0026】
第一の態様において、本発明は、チタンアルミナイドを主成分とする金属間化合物合金の基材表面を腐食に対して保護するための方法であって、以下の操作:
a)前記金属間化合物合金で形成された前記基材を調製する操作、
b)保護する前記基材表面上に金の被膜を堆積させる操作、
及び
c)保護する前記表面への制限された前記金の拡散を生じさせるために、前記金被膜を備える前記基材に、制御された条件で焼きなまし(annealing)を施す操作、
を含む方法を提案する。
【0027】
そのような金を主成分とする被覆は、従来技術、特に電気分解法によって容易に堆積されるという利点を有する。ただし、堆積させるための他の技術として、気相蒸着法、塗装法、シート接着法などが挙げられる。さらに、拡散アニーリングにより、金を高濃度で含有し、その金属間化合物合金TiAlによってさらなる拡散が制限および制御されるTiAlAu組成の組成物を表面に得ることが可能になる。
【0028】
ここで注目すべきことは、金が様々なタイプの腐食に晒され得るということである。
【0029】
実際に、使用中、この材料は、600℃から3種類の腐食に晒される。最もよく知られている第一の腐食は、I、II、III、およびIVの4つの段階で生じる酸化である。I段階およびII段階中、動力学(反応速度)は一次方程式に従うように観察された。この方程式は、一般的に、酸素が通過する非保護的かつ不連続な酸化物の薄膜の形成によるものと考えられる。III段階中は、酸化物を通過する金属または酸素の拡散メカニズムによって成長が制御される、連続的かつ保護的な酸化物の薄膜の特徴である放物線状の方程式が観察される。形成される酸化物層が増加するに従い、反応速度は低下するが、失活はしない。最後に、「はく離」として知られているIV段階は、連続する薄膜の破損に対応しており、材料の急速な劣化につながる。
【0030】
劣化の第二のタイプは、硫化物による腐食である。上述の航空機エンジンの部品への適用において、このタイプの腐食は燃焼室の下流でのみ生じ、そこでは、大気中の塩化ナトリウムとケロシンに含まれる硫化化合物の酸化によって形成された二酸化硫黄とが一緒になって硫酸ナトリウムを形成する。この腐食は700℃以上で生じ、濃縮相(硫酸ナトリウムおよび硫酸カリウム)が液化する際に非常に有害となる。
【0031】
最後に、既知の劣化の第三の様式は、とりわけ、J R Nicholls等により“Hot salt corrosion of titanium aluminides”(Materials and Corrosion,48,1997,54−64)にて、またはZ Yao等により“NaCl−induced hot corrosion of a titanium aluminide alloy”(Materials Science and Engineering 92/193,1995,994−1000)にて、つい最近研究された。これらの結果は、本発明者の腐食の研究により確認され、補足された。この研究から、この腐食は、塩化アルミニウムが生成し、この塩化アルミニウムが酸化により塩化水素ガスを形成し、それが順にチタンアルミナイドと反応して塩化アルミニウムを再形成し、それが引き続き酸化される、というメカニズムであることが明らかになった。同じ現象はチタンでも生じる。このタイプの腐食は、600℃からで生じ、とりわけ、海霧に晒される部品(例えば、コンプレッサーやディフューザの高圧ブレードなど)にとって非常に有害である。
【0032】
保護被膜が使用され得るためには、これら3つのタイプの劣化が抑制できなければならない。さらに、一度作製された被膜は、基材中に拡散せずに表面上に留まっていなければならず、逆に基材は、被膜中にできるだけ拡散しないようにしなければならない。既に言及したように、元素周期表のIB属の元素は、チタンアルミナイドにそれほど可溶性ではない。そして、銅および銀は、酸素、硫黄、およびハロゲンなどの元素に関してそれほど保護性を示さないが、金はこれらの元素にほとんど反応しないと評価されている。
【0033】
これこそ、本発明者が、酸化および腐食の両方に対する、チタンアルミナイドの保護被膜として、この元素を試験することを決めた理由である。この解決策は、出願人により非常に厳しい試験装置によって試験された。すなわち、まずサンプルを、塩分を含む蒸気室に16時間入れた。そこでは、50g/Lの塩化ナトリウム溶液が霧状に噴霧される。次いで、サンプルを秤量し、炉の中にて600℃で6時間空気に曝露した。腐食のサイクルに対応するこれらの処理全体を、部品がすべて劣化するまで繰り返した(最大10サイクル、テストの厳しさを考慮して)。そこから、それぞれのサイクルで添加された塩の量を除くことによって、腐食曲線をプロットした。この試験を、濃縮相(硫化物、塩化物など)の存在下での高温環境における繰り返し酸化および繰り返し腐食の両方に対する、保護された部品の耐用寿命に関する従来の試験によって補足した。
【0034】
被膜の候補の金属または合金は、酸化の間、周囲温度〜800℃(チタンアルミナイドの使用最高温度)において酸化物を形成してはならないか、または非常に安定な酸化物を形成しなければならない。濃縮相の存在下での熱腐食において、候補の金属または合金は、硫化物または次亜硫酸塩を形成してはならないし、亜硫酸塩または硫酸塩も形成してはならない。最後に、その金属または合金は、塩素またはフッ素などのハロゲン元素の存在下において、揮発性の塩も不安定な塩も形成してはならない。その結果、この定義は、プラチナ、イリジウム、金、そしてより少ない程度で、ロジウムおよびパラジウムなどの貴金属に適用できるだけである。最終的に、候補の金属または合金に対して、1つは力学的特性を弱めないために、もう1つは、被膜の最初の化学組成を保つために、最終的な状態として、基材との相互拡散は可能な限り少ないことが求められるであろう。
【0035】
これらの基準を満たす金属または合金はほとんどない。結局、金だけがこれらの条件に一致するように思われた。実際、金は、周囲温度〜800℃で安定酸化物を形成せず(800℃でのAu形成ΔG=+44kcal/モル(Oガス))、揮発性の硫化物を形成せず(800℃でのAuSガス形成ΔG=+22kcal/モル(HSガス))、揮発性のハロゲン化物を形成しない(AuClガスのみ、+37kcal/モル(HClガス)の形成ΔGで形成可能である)。これらの数値をアルミニウムの場合と比較するべきであり、アルミニウムの場合、AlClガスの形成ΔG=−18kcal/モル(HClガス)と負のエンタルピーであり、したがって、この反応は自発的である。
【0036】
金被膜の堆積前に、まず、保護する表面を事前に処理しておくべきである。調製操作a)は、それ自体公知の技術に従って実施されることが好ましい。そして、有利には、サンドブラストによって保護する表面を事前処理し、次いで、少なくとも1回酸によるエッチング処理を行い、その後、洗浄する操作を含む。
【0037】
好ましくは、堆積操作b)は、メッキ浴での電気分解法によって実施される。このために、メッキ浴は、金属金を含有する亜硫酸ナトリウム溶液を含んで使用されるのが有利である。しかしながら、他のメッキ技術、例えば、気相蒸着法、塗工法、シート接着法なども想定される。
【0038】
この堆積操作b)は、金被覆の膜厚が少なくとも2.5μm、好ましくは20〜40μmとなるような条件において実施される。コスト上の理由を除けば、金被膜の厚さに上限はない。
【0039】
焼きなまし操作c)は、好ましくは、TiAlAu、TiAlAu、およびTiAlAuを形成するために高温かつ減圧下で実施される。
【0040】
焼きなまし操作c)は、850〜1050℃、好ましくは約900℃にて、10-3Pa未満の減圧下で実施される。
【0041】
この焼きなましに続いて、本発明の方法は、d)浸食から保護するために、下層を形成する金被膜上に他の材料のさらなる被膜を堆積させる追加の操作を含んでもよい。
【0042】
この他の材料は、純金などの金属であってもよいし、酸化物も硫化物もハロゲン化物も形成しない他の金属(例えば、プラチナ、パラジウム、オスミウム、ロジウム、イリジウム、およびルテニウムなど)であってもよい。また、この他の材料は、当業者に周知であるような、酸化物、炭化物、または窒化物を主成分とするセラミックであってもよい。
【0043】
本発明の方法は、ハロゲン化腐食(halogenated corrosion)の場合、金被膜を再生成するために減圧下で繰り返し焼きなましを実施するさらなる操作を含んでもよい。
【0044】
このハロゲン化腐食は、揮発性のハロゲン化物(例えば、AlClまたはAlF、TiClまたはTiFなど)の消失によるそれ自身の減少として現れる。
【0045】
別の態様において、本発明は、上記のような方法によってその表面が腐食に対して保護されている、チタンアルミナイドを主成分とする金属間化合物合金の基材を含む部品に関する。そのような部品は、何よりもガスタービン用(特に、航空機エンジン用)として使うように意図される。
【0046】
以下の詳細な説明において、単なる一例として、添付図を参照して説明する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0047】
図1において、TiAlを主成分とする金属間化合物合金で形成された基材1が、20μmの均一な膜厚で堆積された金の被膜2を、堆積させたままの未処理の状態で、備えていることが確認され得る。この金の堆積は、この金属の溶液の電気分解によって実施された。もっぱら電子顕微鏡によるサンプルの観察を容易にするために、金被膜2上に、電気分解法によりニッケルの被膜3を堆積させた。特にこの場合、そのサンプルには焼きなましを施していない。
【0048】
図2の場合、厚さ40μmの金の被膜2を基材1上に堆積させ、次いで10-3Pa未満の減圧下で炉内において900℃で焼きなましを行った。前述の場合のように、観察を容易にするためにニッケルの被膜3を施した。
【0049】
図2に示されたサンプルは、基材表面からニッケル被膜に向かって、TiAlAu、TiAlAu、およびTiAlAuの連続する3つの相のミクロ構造を有している。このミクロ構造は、仏国特許第2857892号において本出願人によって例示されたように、TiAlAu相がτ4相と、TiAlAu相がτ3相と、そしてTiAlAu相がτ2相と同等であり、したがってチタンアルミナイド中の金の低溶解度が確認される三元状態図TiAl(Ni、Cu)とのある特定の類似性を示しているため、重要である。
【0050】
被膜は、酸化、および硫化物または塩化物による腐食に対して良好な特性を示した。
【0051】
以下の実施例によって本発明を更に説明する。
【実施例】
【0052】
(実施例I)
従来の組成であるTi−48Al−2Cr−2Nb(原子比%、この合金はTiAl 48−2−2としても知られている)のチタンアルミナイドの合金を、以下の方法により金で被覆した:
・3バールでの液体サンドブラスト
・蒸留水による洗浄
・HF(10%)/HNO(30%)によるエッチング
・HCl(30%)によるエッチング
・蒸留水による洗浄
・陰極でのウッド(2分30)によるニッケル処理
・蒸留水による洗浄
・電圧印可下で金メッキ浴中に設置
【0053】
調製操作または堆積操作の前処理は、従来通りである。それらには、メッキのための基材表面の調製という目的がある。砂の除去を容易にするため、そして表面の磨耗を制限するために、多湿の媒体中でサンドブラストを実施した。また、酸エッチングも従来通りである。ウッド浴によるニッケルの適用により、基材の不活性化が回避される。
【0054】
使用した電気分解金メッキ浴はシアン化物をまったく含まない。その構成は以下のとおりである。
金属金の濃度 10g/L
亜硫酸カリウム 35g/L
温度 55℃
pH 9.5
電流密度 J=0.35A/dm2
このメッキ浴(市販名E−55)は、Metalor Technologiesより供給され、その収率はほぼ100%である。
【0055】
約1時間30分の堆積処理後、厚さ20μmの接着性に優れた金堆積物を得た。次いで、被覆基材を、10-3Pa未満の減圧下にて900℃で2時間焼きなましした。このようにして被膜を調製した。そのミクロ構造は、図2に示したものと同じであった。
【0056】
この被覆された合金および被覆されていない基準片を、800℃で酸化し、濃縮相の存在下で腐食させ、最後に、ハロゲン化物質(塩化ナトリウム)の存在下で腐食させた。
【0057】
得られた結果を以下の表に示す。
【0058】
【表1】

腐食にどのような技術を使用しても、高温での酸化および熱腐食における合金の環境特性が被膜によって著しく改善されることがわかった。一方、ハロゲン化腐食での挙動は改善できていないが、悪化してもいない。試験後の金属組織分析は、どのような種類の腐食に晒されても、事実上、被膜が完全に元のまま残っていることを示している。ハロゲン化腐食の場合、被覆外面に高濃度の金があることがわかり、それはすなわち、TiAlAu相中のチタン元素およびアルミニウム元素のみが、揮発性のハロゲン化物の形態で消失していることを示している。
【0059】
この減少は、保護的元素は酸化、硫黄による腐食、およびハロゲン化腐食の処理中に失われることがないということを示しているため、重要である。このことから、例えば、簡単な脱酸/脱硫が当業者によって実施された後、被膜を再生するためには、減圧下で焼きなましを繰り返すことで十分である。明らかに、この再生操作は、完了すると、基材と被膜との相互拡散によりKirkendallタイプの空孔が生成され得るため、時間の制約を受ける。
【0060】
図3は、3つの状態(すなわち、未処理(実線)、非被覆(鎖線)、塩腐食の5つの大きなサイクル後(点線))での700℃、300MPa下でのTiAl 48Al−2CR−2Nbの流動における力学的特性の比較を示す。金被膜により、金属間化合物合金の力学的特性はわずかに減少するが、一方、合金が使用状況に晒された場合でも、最適な状態に保つことが可能となる。さらに、重要なのは、三次流動の持続時間だけが材料の状態に従って変化することである。実際に、この制約下での二次流動の持続時間(約23時間)は、材料の状態(未処理、保護された状態、保護処理済み/腐食処理済み)に関係なく、変わらないままである。
【0061】
(実施例II)
チタンアルミナイド合金α2−TiAlの基材を同じ方法で保護する。被覆手順は、実施例Iに記載したのと同様である。得られた結果を以下の表に示す。
【0062】
【表2】

このタイプの基材におけるこの被覆の寄与は、このタイプの基材にとっては過度に高い試験温度であるにもかかわらず、目覚しいものであった。ここでも、試験後の分析において、被膜が減少しており、その結果、被膜中の金の濃度が高くなっていることがわかった。
【0063】
(実施例III)
実施例Iと同じ手順で行ったが、基材Ti−48Al−2CR−2Nbの微小構造を完全に薄膜化するために、そのミクロ構造を変更する特別な加熱処理を施した。このミクロ構造により、この合金の力学的特性を改良することが可能になる。
【0064】
実施例Iに記載された手順(堆積+減圧下900℃での焼きなまし)により得られる20μmの金の被膜で保護する。得られた結果を、以下の表に示す。
【0065】
【表3】

このタイプの基材に対するこの被膜の貢献が重要であることが明らかになり、ミクロ構造分析により、TiAlAu相が、ハロゲン化腐食を受けて減少により金の濃度が高い部分を除いて、依然として試験体中に存在していることが確認された。
【図面の簡単な説明】
【0066】
【図1】TiAlの基材上に堆積させた20μmの金の被膜を含むサンプル(焼きなましなし)の、電子顕微鏡による観察で得られる顕微鏡写真図である。
【図2】TiAlの基材上に堆積させた40μmの金の被膜を含むサンプル(焼きなましあり)の、同様の顕微鏡写真図である。
【図3】TiAlを主成分とする金属間化合物合金の、3つの異なる状態での時間(時)に対する伸び率の変化を表す図である。
【符号の説明】
【0067】
1 基材
2 金の被膜(金被膜)
3 ニッケルの被膜

【特許請求の範囲】
【請求項1】
チタンアルミナイドを主成分とする金属間化合物合金の基材表面を腐食に対して保護するための方法であって、以下の操作を含むことを特徴とする方法:
a)前記金属間化合物合金で形成された前記基材を調製する操作、
b)保護する前記基材表面上に金の被膜を堆積させる操作、
c)保護する前記表面への制限された前記金の拡散を生じさせるために、前記金被膜を備える前記基材に、制御された条件で焼きなまし(annealing)を施す操作。
【請求項2】
前記金属間化合物合金が、γ−TiAlを主成分とする合金およびα2−TiAlを主成分とする合金から選択されることを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記調製操作a)が、保護する前記表面のサンドブラストによる前処理、それに次いで、少なくとも1つの酸のエッチング段階による処理、およびその後の洗浄による処理を含むことを特徴とする請求項1または2のいずれか1項に記載の方法。
【請求項4】
前記堆積操作b)が、金メッキ浴で電気分解によって行われることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
前記金メッキ浴が、金属金を含有する亜硫酸ナトリウムの溶液を含むことを特徴とする請求項4に記載の方法。
【請求項6】
前記堆積操作b)が、前記金被膜の厚さが少なくとも2.5μm、好ましくは20〜40μmとなるような条件で行われることを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載の方法。
【請求項7】
前記焼きなまし操作c)が、TiAlAu相、TiAlAu相、およびTiAlAu相を形成するために、高温かつ減圧下で行われることを特徴とする請求項1〜6のいずれか1項に記載の方法。
【請求項8】
前記焼きなまし操作c)が、850〜1050℃、好ましくは約900℃にて、かつ10-3Pa未満の減圧下で行われることを特徴とする請求項7に記載の方法。
【請求項9】
前記焼きなまし操作c)が、10-3Pa未満の減圧下で行われることを特徴とする請求項7または8のいずれか1項に記載の方法。
【請求項10】
d)下層を形成する前記金被膜上に、浸食に対する保護の役割を果たす他の材料のさらなる被膜を堆積させる追加の操作を含むことを特徴とする請求項1〜9のいずれか1項に記載の方法。
【請求項11】
前記他の材料が、純金などの金属、あるいは酸化物も硫化物もハロゲン化物も形成しない、プラチナ、パラジウム、オスミウム、ロジウム、イリジウム、およびルテニウムなどの他の金属であることを特徴とする請求項10に記載の方法。
【請求項12】
前記他の材料が、酸化物、炭化物、または窒化物を主成分とするセラミックであることを特徴とする請求項10に記載の方法。
【請求項13】
ハロゲン化腐食(halogenated corrosion)の場合に前記金被膜を再生成するために、減圧下で繰り返し焼きなましを行うことからなる、さらなる操作を含むことを特徴とする請求項1〜12のいずれか1項に記載の方法。
【請求項14】
前記ハロゲン化腐食が、例えばAlCl3またはAlF3、TiCl4またはTiF4などの揮発性ハロゲン化物の消失による減少によって明らかにされることを特徴とする請求項13に記載の方法。
【請求項15】
チタンアルミナイドを主成分とする金属間化合物合金の基材を含む部品であって、該基材の1つの表面が請求項1〜14のいずれか1項に記載の方法によって腐食に対して保護された部品。
【請求項16】
ガスタービン用、特に航空機エンジン用として使うように意図される請求項15に記載の部品。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2009−13500(P2009−13500A)
【公開日】平成21年1月22日(2009.1.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−177712(P2008−177712)
【出願日】平成20年7月8日(2008.7.8)
【出願人】(508006470)オネラ(オフィス・ナショナル・ドゥエチュード・エ・ドゥ・ルシェルチェ・アエロスパシャル) (5)
【氏名又は名称原語表記】ONERA (OFFICE NATIONAL D’ETUDES ET DE RECHERCHES AEROSPATIALES)
【Fターム(参考)】